説明

内燃機関の制御装置

【課題】オイルジェットからの噴射量と可変動弁機構への供給量を独立して制御し、かつノッキング防止と可変動弁機構の応答性を両立する。
【解決手段】内燃機関の駆動軸により駆動されるオイルポンプ2と、メインギャラリ5を流れる潤滑油の一部をピストンに向けて噴射するオイルジェット11と、オイルジェット11から噴射する潤滑油量を調整するオイルジェット用バルブ9と、潤滑油を作動油として油圧駆動される可変動弁機構7と、可変動弁機構7に供給される潤滑油量を調整する可変動弁機構用バルブ6と、内燃機関の運転状態を検知する運転状態検知手段30−35と、内燃機関の運転状態に基づいてオイルジェット用バルブ9又は可変動弁機構用バルブ6のいずれを優先するか決定し、当該決定に応じてオイルジェット用バルブ9及び可変動弁機構用バルブ6の開閉制御を実行するコントローラ20と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧により駆動される可変動弁機構とピストン冷却用に潤滑油を噴射するオイルジェット機構とを備える内燃機関における油圧の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に用いられる内燃機関において、潤滑油の一部をピストンに噴射することによってピストンの温度上昇を抑制し、ノッキングの発生を防止する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、油圧式の可変バルブタイミング機構と、メインギャラリから分岐した可変バルブタイミング機構用油通路と、メインギャラリと可変バルブタイミング用油通路の分岐部に設けられ、一定圧力以上で開弁するチェックバルブと、を備える内燃機関が開示されている。この内燃機関は、チェックバルブより可変バルブタイミング機構側で可変バルブタイミング機構用油通路からさらに分岐してピストン冷却用のオイルジェットに潤滑油を供給する油通路を備えている。したがって、可変バルブタイミング機構用油通路へ分岐した潤滑油のうち、可変バルブタイミング機構を作動するのに用いられない余剰の潤滑油がオイルジェットからピストンに向けて噴射されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−13720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構成では、可変バルブタイミング機構を作動させる必要が無い場合には、ピストン冷却要求の有無にかかわらず、メインギャラリから分岐した潤滑油はすべてオイルジェットから噴射される。そして、オイルジェットの噴射条件や噴射量は、オイルパンからメインギャラリへ潤滑油を圧送するオイルポンプにより供給される圧力に左右される。ところが、オイルポンプにより供給される圧力は、オイルポンプの回転速度に応じて変化し、オイルポンプの回転速度はエンジン回転速度に依存する。すなわち、特許文献1の構成では、オイルジェットの噴射量等を任意にコントロールすることができないという問題がある。オイルジェットの噴射量を任意にコントロールできないと、例えば内燃機関が冷機運転であっても、可変バルブタイミング機構が非作動の状態では、オイルジェットから潤滑油が噴射されてピストン冠面温度が上昇しにくくなり、排気性能の悪化を招くといった弊害がある。
【0006】
そこで、本発明ではオイルジェットからの噴射量を、可変動弁機構への供給量とは独立して制御し得る潤滑システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の制御装置は、オイルパンと、メインギャラリと、内燃機関の駆動軸により駆動されるオイルポンプと、潤滑油をピストンに向けて噴射するオイルジェットと、オイルジェットからの噴射量を調整するオイルジェット用バルブと、を備える内燃機関に関する。内燃機関は、さらに、油圧駆動される可変動弁機構と、可変動弁機構に供給される潤滑油量を調整する可変動弁機構用バルブと、を備える。そして、本発明の制御装置は、運転状態検知手段と、運転状態に基づいてオイルジェット用バルブ又は可変動弁機構用バルブのいずれを優先するか決定し、当該決定に応じてオイルジェット用バルブ及び可変動弁機構用バルブの開閉制御を実行するコントローラと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、可変動弁機構用バルブとは別にオイルジェット用バルブを備え、運転状態に応じていずれかのバルブを優先して作動させるので、オイルジェットからの噴射量と可変動弁機構への供給量を独立して制御することができる。また、運転状態に応じていずれかのバルブを優先して作動させるので、油圧不足を回避してノッキング防止と可変動弁機構の応答性を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る潤滑システムの説明図である。
【図2】可変動弁機構に供給される油圧とエンジン回転速度との関係を示す図である。
【図3】可変動弁機構の応答性と耐エンジンストール性との関係を示す図である。
【図4】内燃機関の運転領域を示す図である。
【図5】コントローラが実行する可変動弁用ソレノイドバルブ及びオイルジェット用ソレノイドバルブの制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】本発明を適用し得る潤滑システムの他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、本発明の第1実施形態に係る潤滑システムの説明図である。
【0012】
潤滑油は、内燃機関の下部または内燃機関とは別体に設けられたオイルパン1から、オイルポンプ2によってサブギャラリ3に圧送され、オイルフィルタ4で混入物等をろ過されてからメインギャラリ5に流入する。
【0013】
メインギャラリ5に流入した潤滑油は、クランクシャフト、コネクティングロッド、カムシャフト等の各潤滑部に潤滑油を供給するための潤滑用供給ライン13と、可変動弁機構7に作動油として潤滑油を供給する可変動弁用供給ライン14と、ピストン冷却用のオイルジェット11に潤滑油を供給するオイルジェット用供給ライン15に分岐する。
【0014】
潤滑用供給ライン13からクランクシャフト等の潤滑部に供給された潤滑油は、オイルパン1に戻る。オイルパン1が内燃機関の下部に設けられている場合は、クランクシャフト及びコネクティングロッドに供給された潤滑油は、そこから落下してオイルパン1に回収される。カムシャフトのようにシリンダヘッドに設けられた部品に供給された潤滑油は、ドレン配管16を通ってオイルパン1に回収される。
【0015】
可変動弁用供給ライン14には、可変動弁機構7への潤滑油供給量を調整する可変動弁用ソレノイドバルブ(以下、VTCソレノイドバルブという)6が介装されている。本実施形態で用いる可変動弁機構7は、機関弁の位相をクランクシャフトの回転に対して進角又は遅角させ得るもので、公知の可変動弁機構と同様の構成である。例えば、カムシャフトに固定したベーンと、ベーンの一方に設けた進角用油室と、ベーンの他方に設けた遅角用油室とを備える。そして、位相を進角させる場合には、進角用油室に潤滑油を供給し、遅角用油室から潤滑油を排出することでベーンを回転させる。遅角する場合にはこれとは逆の動作を行う。VTCソレノイドバルブ6は、進角用油室及び遅角用油室への潤滑油供給量と、排出量を制御する。
【0016】
すなわち、可変動弁用供給ライン14を通る潤滑油量はVTCソレノイドバルブ6により調整される。可変動弁機構7から排出された潤滑油は、ドレン配管16を通ってオイルパン1に回収される。なお、可変動弁機構7は、最進角状態を初期状態とし、そこから変換角を大きくするほど遅角する構成になっている。
【0017】
オイルジェット用供給ライン15には、各気筒のオイルジェット11に供給される潤滑油量を調整するオイルジェットソレノイドバルブ(以下、O/Jソレノイドバルブという)9が介装されている。O/Jソレノイドバルブ9を通過した潤滑油は、サブギャラリ10を通り、各気筒のオイルジェット11からピストンに向けた噴射され、そこから落下してオイルパン1に回収される。
【0018】
上記のVTCソレノイドバルブ6及びO/Jソレノイドバルブ9の制御は、コントローラ20により実行される。コントローラ20は、水温センサ30、油圧センサ31、アクセル開度センサ32、クランク角センサ33、ノックセンサ34及びブレーキスイッチ35の各検出信号を読み込み、これらに基づいて種々の制御を実行する。なお、コントローラ20は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。また、コントローラ20を複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0019】
次に、コントローラ20が実行するVTCソレノイドバルブ6及びO/Jソレノイドバルブ9の制御について説明する。
【0020】
可変動弁機構7は、進角用油室または遅角用油室に潤滑油が速やかに供給されるほど、つまり供給される潤滑油の油圧が高いほど応答性が高まる。一方、オイルジェット11から供給される油量が多いほど、つまりオイルジェットに供給される潤滑油の油圧が高いほど、ピストンを冷却する性能は向上する。また、クランクシャフト等の潤滑部8に供給される潤滑油の油圧が低下すると潤滑油量が不足して、潤滑不足による部品の摩耗や、摩耗に伴う部品及び潤滑油の温度上昇等といった不具合が生じる。
【0021】
しかし、図1に示したシステムでは、クランクシャフトの潤滑部8、可変動弁機構7、及びオイルジェット11への潤滑油の供給は、オイルポンプ2のみにより行われるので、これらすべてについて潤滑油供給の要求を満たすことができない場合もある。
【0022】
ここで、O/Jソレノイドバルブ9のオン、オフによる油圧の変化、及び可変動弁機構7の応答性とエンジンストールとの関係について説明する。
【0023】
図2は、オイルポンプ2が可変動弁機構7に供給する潤滑油の油圧とエンジン回転速度との関係を示す図であり、縦軸は油圧、横軸はエンジン回転速度である。図2中の実線P1OJOFFは油温80度でO/Jソレノイドバルブ9がオフの場合、破線P1OJONは油温80度でO/Jソレノイドバルブ9がオンの場合について表している。また、実線P2OJOFFは油温140度でO/Jソレノイドバルブ9がオフの場合、破線P2OJONは油温140度でO/Jソレノイドバルブ9がオンの場合、についてそれぞれ表している。
【0024】
図2中のVTC応答要求油圧とは、可変動弁機構7を駆動する際に、所望の変換速度を実現するのに必要な油圧の下限値である。また、図2中の中間ロック解除要求油圧とは可変動弁機構7を所定の変換角度に固定するロックピンの固定を解除するのに必要な油圧である。
【0025】
油温が80度、140度のいずれの場合も、エンジン回転速度が高まるほど油圧も上昇するが、O/Jソレノイドバルブ9をオンにすると油圧が一定量、例えば40[kPa]程度低下する。これにより、VTC応答要求や中間ロック解除要求を満たす油圧になるエンジン回転速度が、O/Jソレノイドバルブ9がオフの場合に比べて高くなる。すなわち、O/Jソレノイドバルブ9をオンにすることで、可変動弁機構7の応答要求を確保できない領域が高回転速度側に拡がる。
【0026】
図3は、可変動弁機構7の応答性が耐エンジンストール性に与える影響についての説明図であり、エンジン回転速度一定で走行している状態から、エンジン回転速度がアイドル回転速度まで低下する状況について示している。
【0027】
図3の左縦軸はエンジン回転速度、右縦軸は残留ガス率、横軸は時間であり、実線R1は可変動弁機構7の応答性が相対的に速い場合の残留ガス率、実線R2は可変動弁機構7の応答性が相対的に遅い場合の残留ガス率を示している。また、図3のNG領域は、アイドル回転速度を維持できずにエンジンストールしてしまう残留ガス率領域である。
【0028】
一定速度で走行中は、内部EGR導入によって燃費性能向上を図るため、可変動弁機構7は変換角が大きくなっているが、アクセルがオフになると、低回転速度での燃焼安定性確保のため、変換角は低減される。
【0029】
図3において、時刻t2でアクセルオフとなり減速し始めると、可変動弁機構7の変換角の変化に伴って残留ガス率も低下し始める。このとき、応答性が相対的に高い実線R1の方が、応答性が相対的に低い実線R2よりも速やかに残留ガス率が低下している。そして、実線R1はNG領域にかかることなく低下しているが、実線R2は低下の途中でNG領域に突入している。すなわち、実線R2では可変動弁機構7の変換角が変化している途中でエンジンストールしてしまう。
【0030】
上述したように、O/Jソレノイドバルブ9のオン、オフは可変動弁機構7の応答性に影響を与え、応答性が低下するとエンジンストールの可能性が高まることになる。
【0031】
しかし、可変動弁機構7の応答性を重視すると、オイルジェット11への油圧が低下してピストン冷却性能が悪化するおそれがある。また、可変動弁機構7の応答性またはピストン冷却性能のいずれを重視する場合でも、潤滑部8の潤滑不足を防止しなければならない。
【0032】
なお、上記各部へ供給する油圧を確保するために、より容量の大きなオイルポンプ2を用いることも考えられるが、容量を大きくするとポンプ駆動時のフリクションも大きくなるので、燃費性能の悪化を招くおそれがある。
【0033】
そこで、本実施形態ではオイルポンプ2の大容量化をすることなく、可変動弁機構7の応答性、ピストン冷却性能及び各部品の潤滑性能を満足するために、運転状態に応じてVTCソレノイドバルブ6とO/Jソレノイドバルブ9を制御する。
【0034】
図4は、内燃機関の運転領域を示す図であり、縦軸はアクセル開度、横軸はエンジン回転速度である。
【0035】
領域Iのようなアイドル回転速度付近の低回転低負荷領域では、燃焼安定性確保等のため、可変動弁機構7は作動させない。領域IIのような低回転低中負荷領域では、燃費性能向上が求められるので、内部EGR量を増大させるために可変動弁機構7の変換角を大きくする。領域IIIのような低回転高負荷領域では、ノッキング発生の可能性が高くなるので、ピストン冷却のためにオイルジェット11からの噴射量を増量する。また、内燃機関の出力確保のために可変動弁機構7の変換角は小さくする。
【0036】
また、領域IVのような高回転高負荷領域では、ノッキング発生の可能性が高く、内燃機関の各部品の信頼性確保のために潤滑部8の潤滑性能も重要となる。このため、可変動弁機構7の応答性よりもオイルジェット11からの噴射量を優先させる。
【0037】
すなわち、ノッキング発生のおそれがある場合は可変動弁機構7の応答性よりピストン冷却性能を優先し、エンジンストールのおそれがある場合にはピストン冷却性能より可変動弁機構7の応答性を優先する。
【0038】
なお、本制御ルーチンを実行するのは、アクセルが踏み込まれている場合のみである。アクセルが踏みこまれていない場合には、ノッキング発生のおそれが無いからである。
【0039】
図5は、コントローラ20が機関運転中に一定の間隔、例えば10ミリ秒、で実行する、VTCソレノイドバルブ6及びO/Jソレノイドバルブ9の制御ルーチンを示すフローチャートである。以下、ステップにしたがって説明する。
【0040】
ステップS10で、コントローラ20は水温センサ30及びクランク角センサ33の検出値を読み込む。
【0041】
ステップS20で、コントローラ20は水温Twが予め設定した閾値より高いか否かを判定する。高いと判定した場合はステップS30の処理を実行し、低いと判定した場合はステップS120の処理を実行する。
【0042】
ここで用いる閾値は、ノッキング発生の可能性が低い水温である。水温が低い場合には、機関負荷が高くてもノッキング発生の可能性が低くなるので、まず、水温によりノッキング発生の可能性を判断する。具体的には内燃機関のシリンダ内径や燃焼室形状等の諸条件により異なるため、本制御を適用する内燃機関毎に設定する。
【0043】
すなわち、コントローラ20は、水温が閾値より高い場合はノッキング発生のおそれ有りと判断し、閾値より低い場合はノッキング発生のおそれ無し、と判断する。
【0044】
ステップS30で、コントローラ20はクランク角センサ33の検出値から算出したエンジン回転速度と、閾値1及び閾値2の大小関係を判定する。エンジン回転速度が閾値1より低い場合、または閾値2より高い場合には、ステップS40の処理を実行し、そうでない場合はステップS120の処理を実行する。
【0045】
閾値1は、可変動弁機構7の応答性が低いと、減速時にはエンジンストールするおそれがあり、加速時にはノッキング発生のおそれがあるようなエンジン回転速度である。例えば、図4ではNe1が閾値1にあたる。
【0046】
閾値2はアクセル開度が大きい場合にはノッキング発生のおそれが生じるようなエンジン回転速度である。例えば、図4ではNe2が閾値2にあたる。
【0047】
これらの閾値1、閾値2も本制御を適用する内燃機関毎に設定する。
【0048】
上記ステップS20及びステップS30の判定結果がいずれも肯定的な場合、つまりステップS20で水温Twが閾値より高いと判定され、ステップS30でエンジン回転速度が閾値1より低い、または閾値2より高いと判定された場合は、ノッキング発生のおそれがあると判定されたことになる。一方、ステップS20またはステップS30のいずれかの判定結果が否定的な場合は、ノッキング発生の可能性が無いと判定されたことになる。
【0049】
すなわち、ステップS40以降はノッキング発生のおそれがある場合に実行される。
【0050】
ステップS40で、コントローラ20はアクセル開度センサの検出値であるアクセル開度APO、及びブレーキスイッチ35の検出信号を読み込む。
【0051】
ステップS50で、コントローラ20はアクセル開度APOがゼロで、かつブレーキスイッチ35の信号に基づいてブレーキペダルが踏みこまれている状態か否かを判定する。判定結果が肯定的な場合には、ステップS60の処理を実行し、否定的な場合にはステップS70の処理を実行する。
【0052】
ステップS60で、コントローラ20はO/Jソレノイドバルブ9をオフにして本ルーチンを終了する。アクセル開度APOがゼロでブレーキペダルが踏みこまれている状況ではノッキングは発生し得ないので、オイルジェット11から潤滑油を噴射する必要はないからである。
【0053】
ステップS70で、コントローラ20はアクセル開度APO及びエンジン回転速度に基づいて、可変動弁機構7の目標変換角及びオイルジェット11からの目標噴射量を算出する。例えば、上述した図4のように運転領域を分割し、領域毎に目標変換角及び目標噴射量を設定したマップを予め作成してコントローラ20に格納しておき、これを参照する。
【0054】
ステップS80で、コントローラ20はステップS70で算出した目標値に基づいてVTCソレノイドバルブ6及びO/Jソレノイドバルブ9のデューティ比を算出する。
【0055】
ステップS90で、コントローラ20はO/Jソレノイドバルブ9をステップS80で算出したデューティ比で駆動する。すなわち、VTCソレノイドバルブ6よりO/Jソレノイドバルブ9を優先して作動させる。これにより、運転領域に応じたピストン冷却性能が得られる。
【0056】
ステップS100で、コントローラ20は油圧センサ31の検出値を読み込み、現在の油圧が閾値より高いか否かを判定する。ここで用いる閾値は、O/Jソレノイドバルブ9を駆動したうえで、VTCソレノイドバルブ6をステップS80で算出したデューティ比で駆動し得る油圧である。なお、この閾値は予め定数を設定してもよいし、本制御ルーチン実行毎にエンジン回転速度に応じて算出してもよい。
【0057】
判定の結果が肯定的な場合は、コントローラ20はステップS110で、VTCソレノイドバルブ6をステップS80で算出したデューティ比で駆動し、否定的な場合はそのまま制御ルーチンを終了する。すなわち、油圧にO/Jソレノイドバルブ9を駆動してもなおVTCソレノイドバルブ6を駆動する余裕がある場合には、VTCソレノイドバルブ6をステップS80で算出したデューティ比で駆動する。
【0058】
一方、ステップS20またはステップS30で、ノッキング発生のおそれが無いと判定された場合には、ステップS120でノッキングの有無を判定する。これは、ステップS20及びステップS30の判定によりノッキング発生のおそれは無いと判定されたものの、燃焼室内に付着したカーボン等がヒートスポットとなってノッキングが発生し得ることを考慮して、実際にノッキングが発生していないかを判定するものである。ここでは、ノックセンサ34の検出信号を直接読み込んでもよいし、本制御ルーチンと並行して行っている点火時期制御ルーチンで点火時期の遅角が要求されたらノック有りと判定するようにしてもよい。いずれの場合も、本制御のために新たなセンサ等を増設する必要がなく、既存のセンサ等を用いて判定することができる。
【0059】
ノック有りと判定した場合は、コントローラ20はステップS130でVTCソレノイドバルブ6をオフにしてステップS40の処理を実行する。つまり、ステップS40−S110のノック発生の可能性がある場合の処理を実行する。
【0060】
ステップS140で、コントローラ20はステップS40と同様にアクセル開度APOを読み込む。
【0061】
ステップS150及びステップS160で、コントローラ20はステップS70及びステップS80と同様の処理を行う。
【0062】
ステップS170で、コントローラ20はVTCソレノイドバルブ6をステップS160で算出したデューティ比で駆動する。すなわち、O/Jソレノイドバルブ9よりVTCソレノイドバルブ6を優先して作動させる。これにより、可変動弁機構7の応答性を確保することができる。
【0063】
ステップS180で、コントローラ20は可変動弁機構7がステップS150で算出した目標変換角になっているか否かを判定する。判定結果が肯定的な場合にはステップS190でO/Jソレノイドバルブ9をステップS150で算出したデューティ比で駆動し、否定的な場合にはそのまま本制御ルーチンを終了する。すなわち、可変動弁機構7が目標変換角になっていれば、可変動弁機構7に潤滑油を供給する必要は無く、可変動弁機構7の応答性が問題となることもないので、O/Jソレノイドバルブ9を駆動する。
【0064】
上述した制御ルーチンによれば、ノッキング発生のおそれがある場合や部品の信頼性確保が重要になる場合はO/Jソレノイドバルブ9を優先して作動させ、エンジンストールのおそれがある場合はVTCソレノイドバルブ6を優先して作動させる。
【0065】
例えば、図4の領域I中にある運転点Aから領域III中にある運転点Bへ変化する場合、つまりアイドル回転速度付近の低回転低負荷領域から急加速するような場合を考える。この場合、加速要求を満足するためには可変動弁機構7の応答速度は高い方が望ましいが、負荷増大に伴ってノッキング発生の可能性が高まる。そこで、オイルジェット11から多量の潤滑油を噴射し、かつ高い応答性で可変動弁機構7を駆動しようとすると、オイルポンプ2では油圧が不足するおそれがある。しかし、本制御ルーチンによれば、ノッキング発生のおそれがない領域ではVTCソレノイドバルブ6を優先し、ノッキング発生のおそれがある領域ではO/Jソレノイドバルブ9を優先して作動させるので、オイルポンプ2の容量のままで、ノッキング回避と可変動弁機構7の応答性確保が可能となる。
【0066】
また、減速時のようにノッキング発生のおそれが無く、エンジンストールのおそれがある場合にはVTCソレノイドバルブ6を優先して作動させるので、減速時の可変動弁機構7の応答性が向上し、その結果、耐エンジンストール性能が向上する。これにより、図4の領域IIにおいてより大きな変換角を設定して内部EGR量を増加させ、燃費性能を向上させることができる。
【0067】
なお、図1では、O/Jソレノイドバルブ9が一つで、O/Jソレノイドバルブ9通過後の潤滑油を、サブギャラリ10を介して各気筒のオイルジェット11に供給する構成となっているが、これに限られるわけではない。例えば、図6に示すように、気筒毎にオイルジェット用供給ライン15を設け、各オイルジェット用供給ライン15にO/Jソレノイドバルブ9を備えるようにしてもよい。このような構成によれば、気筒毎にオイルジェット噴射量を調整可能となる。例えば、多気筒内燃機関の場合には、気筒列中央側にある気筒は気筒列端部にある気筒に比べて温度が上昇しがちであるが、このような気筒間の温度差に応じた噴射量調整が容易になる。
【0068】
以上のように、本実施形態によれば次のような効果が得られる。
【0069】
(1)可変動弁機構7の油圧を調整するVTCソレノイドバルブ6とは別に、メインギャラリ5からピストン冷却用のオイルジェット11へ油圧を供給するオイルジェット用供給ライン15にO/Jソレノイドバルブ9を備える。そして、VTCソレノイドバルブ6とO/Jソレノイドバルブ9のいずれを優先するかを運転状態に基づいて決定し、これらの開閉制御を行う。これにより、オイルポンプ2を大型化することなく、ピストン冷却によるノッキング防止と可変動弁機構7の応答性確保を両立できる。また、オイルポンプ2を大型化する必要がないので、オイルポンプ2のフリクション増大による燃費悪化を防止できる。
【0070】
(2)コントローラ20は、ノッキングが発生し得る運転状態であると判断した場合には、VTCソレノイドバルブ6よりO/Jソレノイドバルブ9を優先して開くので、確実にノッキングを防止できる。
【0071】
(3)コントローラ20は、点火時期遅角要求に基づいてノッキングが発生し得る運転状態か否かを判断するので、新たにセンサ等を追加することなく、容易にノッキング発生の可能性を検知できる。
【0072】
(4)コントローラ20は、冷却水温が閾値より低い場合にはノッキングが発生し得ない運転領域であると判断するので、判断が容易になる。
【0073】
(5)コントローラ20は、高回転高負荷領域ではVTCソレノイドバルブ6よりO/Jソレノイドバルブ9を優先して開くので、ピストン温度の上昇を抑制して出力向上を図ることができる。
【0074】
(6)コントローラ20は、高回転高負荷領域であっても、冷却水温が予め設定した閾値より低い場合にはO/Jソレノイドバルブ9よりVTCソレノイドバルブ6を優先して開く。つまり、ノッキング発生のおそれがない場合には高回転高負荷領域であってもVTCソレノイドバルブ6を優先するので、高出力化を図ることができる。
【0075】
(7)コントローラ20は、エンジンストールし得る状況ではO/Jソレノイドバルブ9よりVTCソレノイドバルブ6を優先して開くので、可変動弁機構7の応答性が確保され、エンジンストールを回避できる。
【0076】
(8)ブレーキペダルが踏みこまれている状態を、エンジンストールし得る状態と判断するので、判断が容易になる。
【0077】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0078】
1 オイルパン
2 オイルポンプ
3 サブギャラリ
4 オイルフィルタ
5 メインギャラリ
6 可変動弁用ソレノイドバルブ(VTCソレノイドバルブ)
7 可変動弁機構
8 潤滑部
9 オイルジェットソレノイドバルブ(O/Jソレノイドバルブ)
10 サブギャラリ
11 オイルジェット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルパンと、
潤滑油が流れるメインギャラリと、
内燃機関の駆動軸により駆動され前記オイルパン内の潤滑油を前記メインギャラリに圧送するオイルポンプと、
前記メインギャラリを流れる前記潤滑油の一部をピストンに向けて噴射するオイルジェットと、
前記オイルジェットから噴射する潤滑油量を調整するオイルジェット用バルブと、
前記潤滑油を作動油として油圧駆動される可変動弁機構と、
前記可変動弁機構に供給される潤滑油量を調整する可変動弁機構用バルブと、
前記内燃機関の運転状態を検知する運転状態検知手段と、
前記内燃機関の運転状態に基づいて前記オイルジェット用バルブ又は前記可変動弁機構用バルブのいずれを優先するか決定し、当該決定に応じて前記オイルジェット用バルブ及び前記可変動弁機構用バルブの開閉制御を実行するコントローラと、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記コントローラは、ノッキングが発生し得る運転状態であると判断した場合には、前記可変動弁機構用バルブより前記オイルジェット用バルブを優先して開く請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
点火時期遅角要求の有無を検知する手段を備え、
前記コントローラは、点火時期遅角要求が有る場合にはノッキングが発生し得る運転状態であると判断する請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
冷却水温を検知するセンサを備え、
前記コントローラは、冷却水温が予め設定した閾値より低い場合にはノッキングが発生し得ない運転領域であると判断する請求項2または3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記コントローラは、運転状態が高回転高負荷の場合には前記可変動弁機構用バルブより前記オイルジェット用バルブを優先して開く請求項1から4のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記コントローラは、運転状態が高回転高負荷であっても、冷却水温が予め設定した閾値より低い場合には前記オイルジェット用バルブより前記可変動弁機構用バルブを優先して開く請求項5に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
エンジンストールし得る状況を検知する手段を備え、
前記コントローラは、エンジンストールし得る状況では前記オイルジェット用バルブより前記可変動弁機構用バルブを優先して開く請求項1から6のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記エンジンストールし得る状況を検知する手段は、ブレーキペダルの踏み込み量を検知するセンサであり、前記エンジンストールし得る状況とはブレーキペダルが踏みこまれた状況である請求項7に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−145003(P2012−145003A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2396(P2011−2396)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】