内燃機関の排気回収装置
【課題】排気回収状態から回収停止状態への移行時に排気制御弁に先行してEGR弁を開いた場合の内燃機関の運転状態の不所望な変化を抑える。
【解決手段】排気通路5を開閉する排気制御弁21と、EGR弁12及び排気制御弁21よりも上流域から排気を取り込むための排気回収タンク23と、排気回収タンク23を開閉するタンク弁24とを具備し、ECU25によりEGR弁12及び排気制御弁21を閉じかつタンク弁24を開いた回収状態と、EGR弁12及び排気制御弁21を開きタンク弁24を閉じた回収停止状態との間で各弁を切り替え制御し、回収状態から回収停止状態への移行時にはEGR弁12が開動作を開始し、その後に排気制御弁21が開動作を開始するように各弁12、21の開動作を制御する排気回収装置20において、ECU25により吸気圧の一時的な上昇の影響が抑えられるように移行時の燃料噴射量を制限する。
【解決手段】排気通路5を開閉する排気制御弁21と、EGR弁12及び排気制御弁21よりも上流域から排気を取り込むための排気回収タンク23と、排気回収タンク23を開閉するタンク弁24とを具備し、ECU25によりEGR弁12及び排気制御弁21を閉じかつタンク弁24を開いた回収状態と、EGR弁12及び排気制御弁21を開きタンク弁24を閉じた回収停止状態との間で各弁を切り替え制御し、回収状態から回収停止状態への移行時にはEGR弁12が開動作を開始し、その後に排気制御弁21が開動作を開始するように各弁12、21の開動作を制御する排気回収装置20において、ECU25により吸気圧の一時的な上昇の影響が抑えられるように移行時の燃料噴射量を制限する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気通路の排気制御弁を閉じて排気をタンクに回収することが可能な内燃機関の排気回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路を排気制御弁で閉じてその排気制御弁よりも上流側の排気をタンクに回収する装置においては、排気の回収中に排気制御弁の前後差圧が増大し、回収状態からの復帰時、すなわちタンク弁を閉じて排気制御弁を開くときにその排気制御弁の開弁に要する力が大きくなる。その解決策として、排気制御弁の開動作に先行してEGR弁を開いて排気圧を吸気側に逃がすことにより、排気制御弁の上流側の圧力を低下させる排気回収装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。その他に、本願発明に関連する先行技術文献として特許文献2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−315194号公報
【特許文献2】特開2008−2276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
排気圧が上昇している状態で排気制御弁に先行してEGR弁を開いた場合、吸気通路の圧力が一時的に上昇する。そのため、吸気圧に基づく燃料噴射量の制御が乱れてトルク変動が生じるといった、運転状態の不所望な変化が生じるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、排気回収状態から回収停止状態への移行時に、排気制御弁に先行してEGR弁を開いたときの運転状態の不所望な変化を抑えることが可能な内燃機関の排気回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の排気回収装置は、排気通路と吸気通路とを接続するEGR通路及び該EGR通路を開閉するEGR弁を備えた内燃機関に適用される排気回収装置であって、前記排気通路を開閉する排気制御弁と、前記EGR弁及び前記排気制御弁よりも上流域から排気を取り込むことができるように設けられた排気回収タンクと、前記排気回収タンクを開閉するタンク弁と、前記EGR弁及び前記排気制御弁を閉じかつ前記タンク弁を開いた回収状態と、前記EGR弁及び前記排気制御弁を開きかつ前記タンク弁を閉じた回収停止状態との間で各弁を切り替え制御し、かつ前記回収状態から前記回収停止状態への移行時には、前記EGR弁が開動作を開始し、その後に前記排気制御弁が開動作を開始するように前記EGR弁及び前記排気制御弁の開動作を制御する弁制御手段と、前記移行時の前記EGR弁の開動作に応じた吸気圧の一時的な上昇が前記内燃機関の燃料噴射量に与える影響を抑えるように、当該移行時における前記内燃機関の燃料噴射量を制限する噴射量制限手段と、を備えるものである(請求項1)。
【0007】
本発明の排気回収装置によれば、回収状態から回収停止状態への移行時において、燃料噴射量が制限されることにより、その移行時に吸気圧が一時的に上昇してもその影響が燃料噴射量に与える影響が抑制される。これにより、排気制御弁の開動作に先行してEGR弁を開いても、トルク変動といった不所望な運転状態の変化を抑えることが可能となる。なお、噴射量の制限は、移行時の全期間に亘って実行されてもよいし、移行時において特に吸気圧の一時的な上昇が問題となる特定期間に限って実行されてもよい。
【0008】
本発明の一形態において、前記噴射量制限手段は、前記移行時に燃料噴射を禁止することにより、前記燃料噴射量を制限してもよい(請求項2)。移行時に燃料噴射を禁止すれば、EGR弁の開動作に伴って吸気圧が一時的に上昇しても、その上昇に合わせて燃料が過剰に噴射されるおそれがなくなる。
【0009】
本発明の一形態において、前記噴射量制限手段は、前記移行時に、燃料噴射量の上限値を当該移行前又は移行後の燃料噴射量の上限値と同程度に制限してもよい(請求項3)。移行時に燃料噴射量の上限値を上記の通り制限すれば、移行時とその前又は後との間での燃料噴射量の急激な変化を防止して、トルク変動といった不所望な運転状態の変化を抑えることができる。
【0010】
さらに、燃料噴射量の上限値を制限する場合、前記噴射量制限手段は、前記排気回収タンクの内圧に応じて前記移行時の燃料噴射量の上限値を変化させてもよい(請求項4)。移行時に排気回収タンクの内圧が高いほどEGR弁を開いたときに吸気圧が上昇し易く、その影響もより顕著に現れる。そのため、排気回収タンクの内圧が高いときは上限値を厳しく制限し、反対に内圧が低いときは上限値の制限を緩和するといったように、排気回収タンクの内圧に応じた上限値の制御を実行することにより、燃料噴射量の上限値を過不足なく制限することが可能となる。そのため、移行時の運転状態の変化をより適切に抑えることができる。
【0011】
あるいは、前記噴射量制限手段は、前記移行時の前記吸気通路と前記排気通路との圧力差に応じて、前記移行時の燃料噴射量の上限値を変化させてもよい(請求項5)。吸気通路の圧力と排気通路の圧力との差(差圧)が高いほど内燃機関のポンプ損失が大きくなり、特に排気回収状態からの移行時には排気通路の圧力が通常の運転状態よりも高い状態であるためにポンプ損失が大きい。このため、圧力差に応じて燃料噴射量の上限値を変化させることにより、ポンプ損失の増大を補うように燃料噴射量の上限値の制限を緩和して内燃機関のトルクを適切に制御することが可能となる。
【0012】
本発明の一形態において、前記噴射量制限手段は、前記移行時に、前記EGR弁が開動作を開始するよりも早い時期から前記排気制御弁が目標開度に開くまでの期間、前記燃料噴射量を制限してもよい(請求項6)。これによれば、吸気圧が一時的に上昇する間において、燃料噴射量を確実に制限することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上に説明したように、本発明の排気回収装置によれば、排気の回収状態から回収停止状態への移行時に燃料噴射量を制限するようにしたので、排気制御弁に先行してEGR弁を開いて吸気圧が一時的に上昇しても、その影響が燃料噴射量に与える影響が抑制され、その結果、吸気圧の一時的な上昇に起因するトルク変動といった不所望な運転状態の変化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の形態に係る排気回収装置が適用された内燃機関の概略構成を示す図。
【図2】排気回収条件が成立している状態から不成立へと転じた場合の各弁の切り替え動作を排気圧及び吸気圧を対応付けて示したタイミングチャート。
【図3】本発明の制御を実施しない場合における燃料噴射量の上限値と最終的に決定される燃料噴射量とを時系列に沿って示した図。
【図4】図1のECUが実行する排気回収管理ルーチンを示すフローチャート。
【図5】図4のルーチンが実行された場合の燃料噴射量を時系列に沿って示した図。
【図6】第2の形態においてECUが実行する排気回収管理ルーチンを示すフローチャート。
【図7】第2の形態における燃料噴射量の上限値と最終的に決定される燃料噴射量とを時系列に沿って示した図。
【図8】第3の形態においてECUが実行する排気回収管理ルーチンを示すフローチャート。
【図9】図8のルーチンで参照されるマップの一例を示した図。
【図10】第3の形態における燃料噴射量の上限値と最終的に決定される燃料噴射量とを時系列に沿って示した図。
【図11】第4の形態においてECUが実行する排気回収管理ルーチンを示すフローチャート。
【図12】図11のルーチンで参照されるマップの一例を示した図。
【図13】第4の形態における燃料噴射量の上限値と最終的に決定される燃料噴射量とを時系列に沿って示した図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の形態]
以下、図1〜図5を参照して、本発明の第1の形態に係る排気回収装置を説明する。本形態の排気回収装置は、車両に動力源として搭載される内燃機関(以下、エンジンと呼ぶ。)に適用されるものである。図1に示すように、エンジン1は、エンジン本体2に複数(図では4つ)のシリンダ3が直列的に設けられ、それらのシリンダ3に通じる吸気通路4と排気通路5との間にターボチャージャ6が設けられた過給機付きエンジンとして構成されている。吸気通路4に取り込まれた吸気はターボチャージャ6のコンプレッサ6a及びインタークーラ7を順次通過し、さらに吸気絞り弁8の開度に応じて吸気通路4の一部であるインテークマニホールド4aに導入されて各シリンダ3に分配される。一方、シリンダ3からの排気は、排気通路5の一部であるエキゾーストマニホールド5aからターボチャージャ6のタービン6b及び排気浄化触媒9を順次通過する。エキゾーストマニホールド5aと吸気絞り弁8の下流域との間はEGR通路10にて接続されている。EGR通路10には、EGRクーラ11及びEGR弁12が設けられている。EGR弁12はEGR通路10の開度を調整して排気通路5から吸気通路4に導入されるEGRガスの流量を制御するための制御弁であり、その駆動源にはステッピングモータが使用されている。なお、シリンダ3を開閉するための吸気弁、排気弁といった周知の構成要素については図示を省略した。
【0016】
エンジン1の排気回収装置20は、排気通路5の排気浄化触媒9よりも下流域に設置された排気制御弁21と、EGR通路10のEGRクーラ11とEGR弁12との間に接続路22を介して接続された排気回収タンク(以下、タンクと略称することがある。)23と、接続路22を開閉するタンク弁24とを備えている。排気制御弁21は、排気通路5の中心部に設置された弁軸21aの回りに板状の弁体21bを回転させて排気通路5を開閉するバタフライ式の制御弁である。排気回収タンク23は排気ガス回収時の圧力に耐え得る剛性を備えた圧力容器であり、その容量はエンジン1の排気量等に応じて適宜に定められる。タンク弁24は接続路22を開閉できるものであればよいが、一例としては、開度調整可能な電磁比例制御弁がタンク弁24として使用される。
【0017】
排気回収装置20においては、EGR弁12及び排気制御弁21をいずれも閉じ、タンク弁24を開くことにより、排気制御弁21の上流域に閉じ込められた排気をEGR通路10及び接続路22を介してタンク23に回収することができる。また、タンク弁24を閉じることにより、回収した排気をタンク23内に保持し、そのタンク弁24を開きかつEGR弁12を閉じることにより、排気を排気通路5へと戻すことができる。
【0018】
EGR弁12、排気制御弁21及びタンク弁24の動作は電子制御装置(以下、ECUと呼ぶ。)25により制御される。ECU25はマイクロプロセッサを備えたコンピュータユニットとして構成され、エンジン1を目標とする運転状態に制御するために必要な各種の演算及び制御要素の動作制御を実行する。但し、図1では排気回収装置20の制御に必要な部分以外のECU25に対する入出力機器は図示を省略している。
【0019】
ECU25は所定の排気回収条件が成立すると、EGR弁12及び排気制御弁21を閉じ、タンク弁24を開いて排気をタンク23に回収させる。また、排気回収中にその排気回収条件が不成立となった場合、ECU25はタンク弁24を閉じてタンク23内に排気を閉じ込めるとともに、排気制御弁21を開いて排気通路5の下流域への排気の通過を可能とし、かつEGR弁12の開弁動作を許可してEGR通路10を介したEGRガスの還流を可能とする。さらに、ECU25は、所定の排気補給条件が成立すると、排気制御弁21を開状態に保持しつつEGR弁12を閉じタンク弁24を開いてタンク23内の排気を排気通路5へと導入させる。排気回収条件は、例えばエンジン1が減速中でかつエンジン1に対する燃料噴射が禁止、つまりフューエルカットが実行されている場合に成立するよう設定される。排気補給条件は、例えばエンジン1の回転数が上昇してターボチャージャ6の過給が開始される段階に成立するよう設定される。
【0020】
次に、排気回収条件が成立している状態から不成立へと転じた場合におけるECU25のタンク弁24、EGR弁12及び排気制御弁21の動作制御を図2により説明する。なお、図中の下部には、排気圧及び吸気圧を対応付けて示している。この場合の排気圧は排気制御弁21の弁体21bの上流域の圧力、吸気圧は吸気絞り弁8の下流域の圧力である。
【0021】
図2において、時刻T0までは排気回収条件が成立し、タンク弁24は全開状態(最大限に開いた状態)に、EGR弁12及び排気制御弁21はそれぞれ全閉状態(最大限に閉じた状態)にある。時刻T0にて排気回収条件が不成立になると、タンク弁24が閉動作を開始し、時刻T1にてタンク弁24が全閉状態となる。また、時刻T0からT2の間に車両のアクセルペダルが踏込み操作されて燃料噴射状態への復帰が要求されると(以下、この要求を減速復帰要求と呼ぶことがある。)、時刻T2にてEGR弁12が開動作を開始し、時刻T3にてEGR弁12が所定の目標開度まで開かれる。なお、時刻T2はT1と同時か又はそれよりも遅い時刻であることが望ましい。さらに、排気制御弁21はEGR弁12の開動作開始時刻T2よりも遅くかつEGR弁12の全閉時刻T3よりも早い時刻T4に開動作を開始する。そして、時刻T5にて排気制御弁21が所定の目標開度まで開かれる。時刻T0までが排気の回収状態、時刻T5以降が回収停止状態、時刻T0〜T5の間が回収状態から回収停止状態への移行時にそれぞれ相当する。
【0022】
以上の動作手順によれば、減速復帰要求があった場合に排気制御弁21に先立ってEGR弁12が開かれるため、排気制御弁21の開動作開始(時刻T4)に先行して排気制御弁21の上流側の圧力がEGR通路10を介して吸気通路4に逃がされる。すなわち、図2から明らかなように、排気圧(排気制御弁21よりも上流域の圧力)はEGR弁12が開動作を開始する時刻T2とほぼ同時に低下を開始し、排気制御弁21が開動作を開始する時刻T4には排気制御弁21の上流域の排気圧が十分に低下して、弁体21bの前後差圧が回収中のそれと比して十分に小さくなる。そのため、排気制御弁21を開くために要する力を軽減し、排気制御弁21を迅速に開いて減速復帰要求に対する応答遅れを改善することができる。なお、EGR弁12はステッピングモータを駆動源とするため、その前後差圧が大きくても容易にこれを開弁させることができる。
【0023】
図2から明らかなように、排気制御弁21に先立ってEGR弁12が開かれた場合、排気圧の低下と引き換えに吸気圧が一時的に上昇する。これがエンジン1の燃料噴射量の制御に影響を与えることがある。その一例を図3により説明する。エンジン1の燃料噴射量は、エンジン1の要求トルクに対応して演算される基本噴射量に対して、吸気量に基づいて設定される上限値Q1、吸気圧に基づいて設定される上限値Q2、アクセルペダルの踏込み量に基づいて設定される上限値Q3等のうち、いずれか最小の値を上限値として、その上限値を超えないように最終的な燃料噴射量が決定される。上限値Q1は定常運転時のスモーク限界を表現する値であり、上限値Q2は過渡運転時のスモーク限界を表現する値であり、上限値Q3は吸気の遅れがないと仮定したときの要求トルクを表現する値である。その他にも、タービン6bの回転限界を表現する上限値等も存在するが、図3の減速復帰要求時には、上限値Q1〜Q3よりも十分に大きいので図示を省略している。
【0024】
図3の下段は最終的な噴射量を太線で示しており、これを見れば明らかなように、エンジン1が通常の部分負荷運転をしている場合には、吸気圧に基づく上限値Q2が最終的な燃料噴射量を支配することが多い。しかしながら、EGR弁12の開弁によって吸気圧が一時的に上昇すると、図3の領域Aから明らかなように、吸気圧に基づく上限値Q2が一時的に上昇して最終的な噴射量も一時的に増加する。領域Aでは、上限値Q3から明らかなようにアクセルペダルの踏込み量がほぼ一定に維持されており、それにも拘わらず、燃料噴射量が一時的に増加すればエンジン1の出力トルクが車両のドライバの意思に反して一時的に増加し、トルクショックが生じてドライバビリティが悪化する。そこで、本形態では、ECU25が図4に示す排気回収管理ルーチンを一定の周期で繰り返し実行することにより、吸気圧の一時的な上昇に伴うトルクショックの発生等を抑えている。以下、図4のルーチンを説明する。
【0025】
図4のルーチンが開始されると、ECU25はまずステップS1で排気回収条件が成立しているか否か判断し、成立していればステップS2へ進む。ステップS2において、ECU25はタイマTに初期値0をセットする。続くステップS3においてECU25はEGR弁12、排気制御弁21及びタンク弁24の開閉状態(以下、これを弁開閉状態と呼ぶ。)をモード1に設定する。モード1では、EGR弁12及び排気制御弁21が全閉状態、タンク弁24が全開状態にそれぞれ制御される。つまり、モード1は図2において時刻T0以前の状態に相当する。ステップS3の処理後、ECU25は今回のルーチンを終了する。
【0026】
一方、ステップS1で回収条件が成立していないと判断された場合、ECU25はステップS4へ進む。ステップS4において、ECU25はタイマTの値がT5(図2参照)未満であり、かつ各弁の状態がモード3ではないか否かを判断する。この条件は、要するに弁開閉状態が減速復帰要求に対応した切り替え制御中(図2のT0〜T5の間に相当)であるか否かを判別するものである。ステップS4が肯定判断された場合、ECU25はステップS5へ進み、タイマTの値を所定の単位時間進める。続くステップS6にて、ECU25は弁開閉状態をモード2に設定する。モード2が設定された場合、ECU25は図4とは別のルーチンに従って図2に示した通りにタンク弁24、EGR弁12及び排気制御弁21の開閉状態を順次切り替え制御する。続くステップS7にてECU25はエンジン1に対する燃料噴射を禁止させる。ステップS7の処理後、ECU25は今回のルーチンを終了する。
【0027】
ステップS4の条件が否定された場合、ECU25はステップS8に進む。ステップS8にて、ECU25はタイマTの値にT5をセットする。続くステップS9において、ECU25は弁開閉状態をモード3に設定する。モード3では、タンク弁24が全閉状態に、EGR弁12及び排気制御弁21はそれぞれの目標開度にそれぞれ維持される。つまり、モード3は図2において時刻T5以降の状態に相当する。ステップS9の処理後、ECU25は今回のルーチンを終了する。
【0028】
以上の処理によれば、図2の時刻T0からT5の間に燃料噴射が禁止されるので、図5に太線で示したように、燃料噴射量は排気制御弁21が目標開度まで開く時刻T5まで継続して0に維持される。そして、排気制御弁21が目標開度に達してから燃料噴射が再開される。よって、吸気圧の一時的な上昇に伴う不所望なトルク変動を防止し、ドライバビリティの悪化を抑えることができる。
【0029】
第1の形態においては、ECU25が図4のステップS1〜9を実行しかつ図2に従って各弁12、21、24の開閉状態を切り替えることにより弁制御手段として機能し、ECU25が図4のステップS7を実行することにより噴射量制限手段として機能する。
【0030】
[第2の形態]
次に、図6及び図7を参照して本発明の第2の形態を説明する。なお、本形態は、上述した第1の形態と比較してECU25による排気回収管理ルーチンの一部を変更したものである。よって、図1及び図2に関しては第1の形態の説明をそのまま流用し、以下では排気回収管理ルーチンを中心として説明する。
【0031】
図6に示したように、本形態の排気回収管理ルーチンでは、図4の排気回収管理ルーチンに対してステップS7の処理が省略され、これに代えてステップS11〜S14の処理が追加されている。ステップS1〜S9の処理については図4の場合と同様であり、説明を省略する。本形態のルーチンでは、ステップS3の処理後にECU25がステップS11の処理を実行し、ステップS6の処理後にECU25がステップS12の処理を実行し、ステップS9の処理後にECU25がステップS13の処理を実行する。ステップS11及びS13においてECU25は燃料噴射量の上限値の候補値Qmaxに第1の値QM0を設定し、ステップS12においてECU25は候補値Qmaxに第2の値QM1を設定する。図7に示したように、第1の値QM0は、上述した上限値Q1〜Q3のいずれよりも大きい値である。一方、第2の値QM1は、モード1又はモード3の時の吸気圧に基づく上限値Q2とほぼ同程度に設定される。
【0032】
図6のルーチンにおいて、ステップS11〜S13のいずれかの処理が実行されると、ECU25はステップS14に進む。ステップS14において、ECU25は噴射量の上限値として、図3に示した上限値Q1、Q2、Q3、及びステップS11〜S13のいずれかで設定した候補値Qmaxから最小値を上限値として選択する。ここで選択された上限値は、ECU25が別途実行する燃料噴射量の制御ルーチンに反映され、最終的な燃料噴射量はその上限値以内に抑えられる。ステップS14の処理後、ECU25は今回のルーチンを終了する。なお、図6のステップS14においては、上限値Q1〜Q3及び候補値Qmaxに加えて、異なる観点からの上限値も選択候補に含まれてもよい。
【0033】
以上の処理によれば、図2の時刻T0からT5の間において、燃料噴射の上限値が第2の値QM1又はそれよりも小さい値に制限される。すなわち、図7の下段に太線で示したように、タンク弁24の閉動作から排気制御弁21の開動作に至るまでの一連の切り替え制御が実行される時刻T0〜T5の間、燃料噴射量の上限値が第2の値QM1より大きな値に設定されることがない。第2の値QM1は、各弁の切り替え動作実行前及び実行後における吸気圧に基づく上限値Q2と同等に設定されている。よって、吸気圧の一時的な上昇に伴う不所望なトルク変動を防止し、ドライバビリティの悪化を抑えることができる。
【0034】
第2の形態においては、ECU25が図6のステップS1〜9を実行しかつ図2に従って各弁12、21、24の開閉状態を切り替えることにより弁制御手段として機能し、ECU25が図6のステップS12及びステップS13を実行することにより噴射量制限手段として機能する。
【0035】
[第3の形態]
次に、図8〜図10を参照して本発明の第3の形態を説明する。なお、本形態は、上述した第1の形態と比較してECU25による排気回収管理ルーチンの一部を変更したものである。よって、図1及び図2に関しては第1の形態の説明をそのまま流用し、以下では排気回収管理ルーチンを中心として説明する。
【0036】
図8に示したように、本形態の排気回収管理ルーチンでは、図4の排気回収管理ルーチンに対してステップS7の処理が省略され、これに代えてステップS21及びS22の処理が追加されている。ステップS1〜S9の処理については図4の場合と同様であり、説明を省略する。本形態のルーチンでは、ステップS3、S6又はS8にて弁開閉状態が設定されると、ECU25がステップS21に進む。ステップS21において、ECU25は上限値の候補値Qmaxを図9のマップに基づいて設定する。図9のマップは、タイマTの値及びタンク圧、すなわち排気回収タンク23に蓄えられた排気の圧力を引数として、Qmaxの値を決定するためのマップである。そのマップにおいては、時刻T0から暫くの間は候補値Qmaxがほぼ一定の値に維持され、時刻T5に達する幾らか前の時刻から候補値Qmaxが上昇するように設定される。さらに、候補値Qmaxの上昇率はタンク圧が小さいほど大きくなるように設定される。また、図10の上段に太線で示したように、Qmaxは時刻T0の前後では、時刻T0以前の吸気圧に基づく上限値Q2と同程度に設定されている。この種のマップは予め適合試験等によって作成されてECU25の内部メモリに保存されている。タンク圧は、圧力センサによる実測値でもよいし、タンク圧に相関する物理量、あるいはエンジン1の運転状態等から演算した推定値でもよい。
【0037】
図8に戻って、ステップS21で候補値Qmaxを設定した後、ECU25はステップS22に進む。ステップS22において、ECU25は噴射量の上限値として、図3に示した上限値Q1、Q2、Q3、及びステップS21で設定した候補値Qmaxから最小値を上限値として選択する。ここで選択された上限値は、ECU25が別途実行する燃料噴射量の制御ルーチンに反映され、最終的な燃料噴射量はその上限値以内に抑えられる。ステップS22の処理後、ECU25は今回のルーチンを終了する。なお、図8のステップS22においては、上限値Q1〜Q3及び候補値Qmaxに加えて、異なる観点からの上限値も選択候補に含まれてもよい。
【0038】
以上の処理によれば、図2の時刻T0からT5の間において、燃料噴射の上限値が制限値Qmax又はそれよりも小さい値に制限される。すなわち、図10の下段に太線で示したように、タンク弁24の閉動作から排気制御弁21の開動作に至るまでの一連の切り替え制御が実行される時刻T0〜T5の間、燃料噴射量の上限値が制限値Qmaxより大きな値に設定されることがない。制限値Qmaxは上記のように時刻T0から暫くの間、モード1、すなわち排気回収中における吸気圧に基づく上限値Q2と同程度に維持され、モード2の後半で上昇を開始するように設定されている。よって、吸気圧の一時的な上昇に伴う不所望なトルク変動を防止し、ドライバビリティの悪化を抑えることができる。しかも、タンク圧を考慮して制限値Qmaxを設定することにより、EGR弁12の開動作に伴う吸気圧の一時的な上昇の程度に応じて燃料噴射量の上限値を変化させることができる。すなわち、EGR弁12を開いた時のタンク圧が小さいほど、吸気圧の一時的な上昇の程度は小さくなる。これに対して、制限値Qmaxはタンク圧が小さいほど上昇率が大きくなるように設定されるので、吸気圧の上昇が緩やかなときには燃料噴射量の制限を早期に緩和し、吸気圧の上昇が急激あるいは大きいときは燃料噴射量の制限を厳しくして、燃料噴射の過剰な制限を抑制することができる。
【0039】
第3の形態においては、ECU25が図8のステップS1〜9を実行しかつ図2に従って各弁12、21、24の開閉状態を切り替えることにより弁制御手段として機能し、ECU25が図8のステップS21及びステップS22を実行することにより噴射量制限手段として機能する。
【0040】
[第4の形態]
次に、図11〜図13を参照して本発明の第4の形態を説明する。なお、本形態は、上述した第1の形態と比較してECU25による排気回収管理ルーチンの一部を変更したものである。よって、図1及び図2に関しては第1の形態の説明をそのまま流用し、以下では排気回収管理ルーチンを中心として説明する。
【0041】
図11に示したように、本形態の排気回収管理ルーチンでは、図4の排気回収管理ルーチンに対してステップS7の処理が省略され、これに代えてステップS31及びS32の処理が追加されている。ステップS1〜S9の処理については図4の場合と同様であり、説明を省略する。本形態のルーチンでは、ステップS3、S6又はS8にて弁開閉状態が設定されると、ECU25がステップS31に進む。ステップS31において、ECU25は上限値の候補値Qmaxを、図7に示した第2の値QM1に、図12のマップから決定した増分を加えた値に設定する。図12のマップは、吸気圧と排気圧との差圧を引数として上限値の増分(補正量)を設定するものである。ここでいう差圧は、吸気圧と排気圧との差の絶対値である。図12のマップでは、差圧が大きいほど増分も増加する。増分は負の値、つまり減少する場合も含む概念である。また、図12のマップで取得される増分は、第2の値QM1に対して十分に小さい値である。そのため、図13の上段に太線で示したように、制限値Qmaxは、各弁の一連の切り替え制御の前後における上限値Q2とほぼ同程度に維持される。図12のマップは予め適合試験等によって作成されてECU25の内部メモリに保存されている。
【0042】
図11に戻って、ステップS31で候補値Qmaxを設定した後、ECU25はステップS32に進む。ステップS32において、ECU25は噴射量の上限値として、図3に示した上限値Q1、Q2、Q3、及びステップS31で設定した候補値Qmaxから最小値を上限値として選択する。ここで選択された上限値は、ECU25が別途実行する燃料噴射量の制御ルーチンに反映され、最終的な燃料噴射量はその上限値以内に抑えられる。ステップS32の処理後、ECU25は今回のルーチンを終了する。なお、図11のステップS32においては、上限値Q1〜Q3及び候補値Qmaxに加えて、異なる観点からの上限値も選択候補に含まれてもよい。
【0043】
以上の処理によれば、図2の時刻T0からT5の間において、燃料噴射の上限値が、切り替え動作実行前及び実行後の吸気圧に基づく上限値Q2と同等に設定された第2の値QM1又はそれよりも小さい値に制限される。すなわち、図13の下段に太線で示したように、タンク弁24の閉動作から排気制御弁21の開動作に至るまでの一連の切り替え制御が実行される時刻T0〜T5の間、燃料噴射量の上限値が制限値Qmaxより大きな値に設定されることがない。制限値Qmaxは上記のように上限値Q2と同程度であるため、吸気圧の一時的な上昇に伴う不所望なトルク変動を防止し、ドライバビリティの悪化を抑えることができる。しかも、吸気圧と排気圧の差圧が大きいほど制限値Qmaxも大きな値に補正されるので、排気回収時の排気圧の上昇に伴ってエンジン1のポンプ損失が増大するほど燃料噴射量の上限の制限を緩和し、それによりポンプ損失の増大に伴うトルク低下を補ってドライバビリティをさらに改善することができる。
【0044】
第4の形態においては、ECU25が図11のステップS1〜9を実行しかつ図2に従って各弁12、21、24の開閉状態を切り替えることにより弁制御手段として機能し、ECU25が図11のステップS31及びステップS32を実行することにより噴射量制限手段として機能する。
【0045】
本発明は上述した形態に限ることなく、種々の形態にて実施することが可能である。例えば、上記の形態では排気回収タンク23をEGR通路10のEGR弁12よりも上流域に接続しているが、EGR弁12及び排気制御弁21のそれぞれの上流域から排気を取り込むことができる限り、排気回収タンク23は適宜の位置に設けてよい。例えば、エキゾーストマニホールド5aに排気回収タンク23を接続するといった変形が可能である。
【0046】
上記の形態では、吸気圧の一時的な上昇の影響を抑えるための燃料噴射の禁止又は噴射量の上限値の変更を、タンク弁24の閉動作開始時刻T0から排気制御弁21の開動作終了時刻T5までの全期間又は一部において実行したが、燃料噴射の制限(禁止又は上限値の減少)は吸気圧が一時的に上昇する期間を含む限りにおいて、適宜の期間内に実行すればよい。上記の形態では、排気回収タンク23に排気圧を蓄え、その圧力をタービン6bに供給して応答性の改善等を図っているが、排気圧の回収はその目的に限らず、適宜に実行してよい。例えば、排気浄化触媒の暖機完了前に排気をタンクに回収し、暖機完了後にタンクから排気を排気浄化触媒へと供給する場合であっても、回収状態から回収停止状態への移行時に排気圧が上昇しており、排気制御弁の開弁に先行してEGR弁を開く必要が生じる可能性がある。そのような場合でも本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 内燃機関
4 吸気通路
5 排気通路
6 ターボチャージャ
8 吸気絞り弁
9 排気浄化触媒
10 EGR通路
12 EGR弁
20 排気回収装置
21 排気制御弁
23 排気回収タンク
24 タンク弁
25 電子制御装置(弁制御手段、噴射量制限手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気通路の排気制御弁を閉じて排気をタンクに回収することが可能な内燃機関の排気回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路を排気制御弁で閉じてその排気制御弁よりも上流側の排気をタンクに回収する装置においては、排気の回収中に排気制御弁の前後差圧が増大し、回収状態からの復帰時、すなわちタンク弁を閉じて排気制御弁を開くときにその排気制御弁の開弁に要する力が大きくなる。その解決策として、排気制御弁の開動作に先行してEGR弁を開いて排気圧を吸気側に逃がすことにより、排気制御弁の上流側の圧力を低下させる排気回収装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。その他に、本願発明に関連する先行技術文献として特許文献2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−315194号公報
【特許文献2】特開2008−2276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
排気圧が上昇している状態で排気制御弁に先行してEGR弁を開いた場合、吸気通路の圧力が一時的に上昇する。そのため、吸気圧に基づく燃料噴射量の制御が乱れてトルク変動が生じるといった、運転状態の不所望な変化が生じるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、排気回収状態から回収停止状態への移行時に、排気制御弁に先行してEGR弁を開いたときの運転状態の不所望な変化を抑えることが可能な内燃機関の排気回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の排気回収装置は、排気通路と吸気通路とを接続するEGR通路及び該EGR通路を開閉するEGR弁を備えた内燃機関に適用される排気回収装置であって、前記排気通路を開閉する排気制御弁と、前記EGR弁及び前記排気制御弁よりも上流域から排気を取り込むことができるように設けられた排気回収タンクと、前記排気回収タンクを開閉するタンク弁と、前記EGR弁及び前記排気制御弁を閉じかつ前記タンク弁を開いた回収状態と、前記EGR弁及び前記排気制御弁を開きかつ前記タンク弁を閉じた回収停止状態との間で各弁を切り替え制御し、かつ前記回収状態から前記回収停止状態への移行時には、前記EGR弁が開動作を開始し、その後に前記排気制御弁が開動作を開始するように前記EGR弁及び前記排気制御弁の開動作を制御する弁制御手段と、前記移行時の前記EGR弁の開動作に応じた吸気圧の一時的な上昇が前記内燃機関の燃料噴射量に与える影響を抑えるように、当該移行時における前記内燃機関の燃料噴射量を制限する噴射量制限手段と、を備えるものである(請求項1)。
【0007】
本発明の排気回収装置によれば、回収状態から回収停止状態への移行時において、燃料噴射量が制限されることにより、その移行時に吸気圧が一時的に上昇してもその影響が燃料噴射量に与える影響が抑制される。これにより、排気制御弁の開動作に先行してEGR弁を開いても、トルク変動といった不所望な運転状態の変化を抑えることが可能となる。なお、噴射量の制限は、移行時の全期間に亘って実行されてもよいし、移行時において特に吸気圧の一時的な上昇が問題となる特定期間に限って実行されてもよい。
【0008】
本発明の一形態において、前記噴射量制限手段は、前記移行時に燃料噴射を禁止することにより、前記燃料噴射量を制限してもよい(請求項2)。移行時に燃料噴射を禁止すれば、EGR弁の開動作に伴って吸気圧が一時的に上昇しても、その上昇に合わせて燃料が過剰に噴射されるおそれがなくなる。
【0009】
本発明の一形態において、前記噴射量制限手段は、前記移行時に、燃料噴射量の上限値を当該移行前又は移行後の燃料噴射量の上限値と同程度に制限してもよい(請求項3)。移行時に燃料噴射量の上限値を上記の通り制限すれば、移行時とその前又は後との間での燃料噴射量の急激な変化を防止して、トルク変動といった不所望な運転状態の変化を抑えることができる。
【0010】
さらに、燃料噴射量の上限値を制限する場合、前記噴射量制限手段は、前記排気回収タンクの内圧に応じて前記移行時の燃料噴射量の上限値を変化させてもよい(請求項4)。移行時に排気回収タンクの内圧が高いほどEGR弁を開いたときに吸気圧が上昇し易く、その影響もより顕著に現れる。そのため、排気回収タンクの内圧が高いときは上限値を厳しく制限し、反対に内圧が低いときは上限値の制限を緩和するといったように、排気回収タンクの内圧に応じた上限値の制御を実行することにより、燃料噴射量の上限値を過不足なく制限することが可能となる。そのため、移行時の運転状態の変化をより適切に抑えることができる。
【0011】
あるいは、前記噴射量制限手段は、前記移行時の前記吸気通路と前記排気通路との圧力差に応じて、前記移行時の燃料噴射量の上限値を変化させてもよい(請求項5)。吸気通路の圧力と排気通路の圧力との差(差圧)が高いほど内燃機関のポンプ損失が大きくなり、特に排気回収状態からの移行時には排気通路の圧力が通常の運転状態よりも高い状態であるためにポンプ損失が大きい。このため、圧力差に応じて燃料噴射量の上限値を変化させることにより、ポンプ損失の増大を補うように燃料噴射量の上限値の制限を緩和して内燃機関のトルクを適切に制御することが可能となる。
【0012】
本発明の一形態において、前記噴射量制限手段は、前記移行時に、前記EGR弁が開動作を開始するよりも早い時期から前記排気制御弁が目標開度に開くまでの期間、前記燃料噴射量を制限してもよい(請求項6)。これによれば、吸気圧が一時的に上昇する間において、燃料噴射量を確実に制限することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上に説明したように、本発明の排気回収装置によれば、排気の回収状態から回収停止状態への移行時に燃料噴射量を制限するようにしたので、排気制御弁に先行してEGR弁を開いて吸気圧が一時的に上昇しても、その影響が燃料噴射量に与える影響が抑制され、その結果、吸気圧の一時的な上昇に起因するトルク変動といった不所望な運転状態の変化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の形態に係る排気回収装置が適用された内燃機関の概略構成を示す図。
【図2】排気回収条件が成立している状態から不成立へと転じた場合の各弁の切り替え動作を排気圧及び吸気圧を対応付けて示したタイミングチャート。
【図3】本発明の制御を実施しない場合における燃料噴射量の上限値と最終的に決定される燃料噴射量とを時系列に沿って示した図。
【図4】図1のECUが実行する排気回収管理ルーチンを示すフローチャート。
【図5】図4のルーチンが実行された場合の燃料噴射量を時系列に沿って示した図。
【図6】第2の形態においてECUが実行する排気回収管理ルーチンを示すフローチャート。
【図7】第2の形態における燃料噴射量の上限値と最終的に決定される燃料噴射量とを時系列に沿って示した図。
【図8】第3の形態においてECUが実行する排気回収管理ルーチンを示すフローチャート。
【図9】図8のルーチンで参照されるマップの一例を示した図。
【図10】第3の形態における燃料噴射量の上限値と最終的に決定される燃料噴射量とを時系列に沿って示した図。
【図11】第4の形態においてECUが実行する排気回収管理ルーチンを示すフローチャート。
【図12】図11のルーチンで参照されるマップの一例を示した図。
【図13】第4の形態における燃料噴射量の上限値と最終的に決定される燃料噴射量とを時系列に沿って示した図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の形態]
以下、図1〜図5を参照して、本発明の第1の形態に係る排気回収装置を説明する。本形態の排気回収装置は、車両に動力源として搭載される内燃機関(以下、エンジンと呼ぶ。)に適用されるものである。図1に示すように、エンジン1は、エンジン本体2に複数(図では4つ)のシリンダ3が直列的に設けられ、それらのシリンダ3に通じる吸気通路4と排気通路5との間にターボチャージャ6が設けられた過給機付きエンジンとして構成されている。吸気通路4に取り込まれた吸気はターボチャージャ6のコンプレッサ6a及びインタークーラ7を順次通過し、さらに吸気絞り弁8の開度に応じて吸気通路4の一部であるインテークマニホールド4aに導入されて各シリンダ3に分配される。一方、シリンダ3からの排気は、排気通路5の一部であるエキゾーストマニホールド5aからターボチャージャ6のタービン6b及び排気浄化触媒9を順次通過する。エキゾーストマニホールド5aと吸気絞り弁8の下流域との間はEGR通路10にて接続されている。EGR通路10には、EGRクーラ11及びEGR弁12が設けられている。EGR弁12はEGR通路10の開度を調整して排気通路5から吸気通路4に導入されるEGRガスの流量を制御するための制御弁であり、その駆動源にはステッピングモータが使用されている。なお、シリンダ3を開閉するための吸気弁、排気弁といった周知の構成要素については図示を省略した。
【0016】
エンジン1の排気回収装置20は、排気通路5の排気浄化触媒9よりも下流域に設置された排気制御弁21と、EGR通路10のEGRクーラ11とEGR弁12との間に接続路22を介して接続された排気回収タンク(以下、タンクと略称することがある。)23と、接続路22を開閉するタンク弁24とを備えている。排気制御弁21は、排気通路5の中心部に設置された弁軸21aの回りに板状の弁体21bを回転させて排気通路5を開閉するバタフライ式の制御弁である。排気回収タンク23は排気ガス回収時の圧力に耐え得る剛性を備えた圧力容器であり、その容量はエンジン1の排気量等に応じて適宜に定められる。タンク弁24は接続路22を開閉できるものであればよいが、一例としては、開度調整可能な電磁比例制御弁がタンク弁24として使用される。
【0017】
排気回収装置20においては、EGR弁12及び排気制御弁21をいずれも閉じ、タンク弁24を開くことにより、排気制御弁21の上流域に閉じ込められた排気をEGR通路10及び接続路22を介してタンク23に回収することができる。また、タンク弁24を閉じることにより、回収した排気をタンク23内に保持し、そのタンク弁24を開きかつEGR弁12を閉じることにより、排気を排気通路5へと戻すことができる。
【0018】
EGR弁12、排気制御弁21及びタンク弁24の動作は電子制御装置(以下、ECUと呼ぶ。)25により制御される。ECU25はマイクロプロセッサを備えたコンピュータユニットとして構成され、エンジン1を目標とする運転状態に制御するために必要な各種の演算及び制御要素の動作制御を実行する。但し、図1では排気回収装置20の制御に必要な部分以外のECU25に対する入出力機器は図示を省略している。
【0019】
ECU25は所定の排気回収条件が成立すると、EGR弁12及び排気制御弁21を閉じ、タンク弁24を開いて排気をタンク23に回収させる。また、排気回収中にその排気回収条件が不成立となった場合、ECU25はタンク弁24を閉じてタンク23内に排気を閉じ込めるとともに、排気制御弁21を開いて排気通路5の下流域への排気の通過を可能とし、かつEGR弁12の開弁動作を許可してEGR通路10を介したEGRガスの還流を可能とする。さらに、ECU25は、所定の排気補給条件が成立すると、排気制御弁21を開状態に保持しつつEGR弁12を閉じタンク弁24を開いてタンク23内の排気を排気通路5へと導入させる。排気回収条件は、例えばエンジン1が減速中でかつエンジン1に対する燃料噴射が禁止、つまりフューエルカットが実行されている場合に成立するよう設定される。排気補給条件は、例えばエンジン1の回転数が上昇してターボチャージャ6の過給が開始される段階に成立するよう設定される。
【0020】
次に、排気回収条件が成立している状態から不成立へと転じた場合におけるECU25のタンク弁24、EGR弁12及び排気制御弁21の動作制御を図2により説明する。なお、図中の下部には、排気圧及び吸気圧を対応付けて示している。この場合の排気圧は排気制御弁21の弁体21bの上流域の圧力、吸気圧は吸気絞り弁8の下流域の圧力である。
【0021】
図2において、時刻T0までは排気回収条件が成立し、タンク弁24は全開状態(最大限に開いた状態)に、EGR弁12及び排気制御弁21はそれぞれ全閉状態(最大限に閉じた状態)にある。時刻T0にて排気回収条件が不成立になると、タンク弁24が閉動作を開始し、時刻T1にてタンク弁24が全閉状態となる。また、時刻T0からT2の間に車両のアクセルペダルが踏込み操作されて燃料噴射状態への復帰が要求されると(以下、この要求を減速復帰要求と呼ぶことがある。)、時刻T2にてEGR弁12が開動作を開始し、時刻T3にてEGR弁12が所定の目標開度まで開かれる。なお、時刻T2はT1と同時か又はそれよりも遅い時刻であることが望ましい。さらに、排気制御弁21はEGR弁12の開動作開始時刻T2よりも遅くかつEGR弁12の全閉時刻T3よりも早い時刻T4に開動作を開始する。そして、時刻T5にて排気制御弁21が所定の目標開度まで開かれる。時刻T0までが排気の回収状態、時刻T5以降が回収停止状態、時刻T0〜T5の間が回収状態から回収停止状態への移行時にそれぞれ相当する。
【0022】
以上の動作手順によれば、減速復帰要求があった場合に排気制御弁21に先立ってEGR弁12が開かれるため、排気制御弁21の開動作開始(時刻T4)に先行して排気制御弁21の上流側の圧力がEGR通路10を介して吸気通路4に逃がされる。すなわち、図2から明らかなように、排気圧(排気制御弁21よりも上流域の圧力)はEGR弁12が開動作を開始する時刻T2とほぼ同時に低下を開始し、排気制御弁21が開動作を開始する時刻T4には排気制御弁21の上流域の排気圧が十分に低下して、弁体21bの前後差圧が回収中のそれと比して十分に小さくなる。そのため、排気制御弁21を開くために要する力を軽減し、排気制御弁21を迅速に開いて減速復帰要求に対する応答遅れを改善することができる。なお、EGR弁12はステッピングモータを駆動源とするため、その前後差圧が大きくても容易にこれを開弁させることができる。
【0023】
図2から明らかなように、排気制御弁21に先立ってEGR弁12が開かれた場合、排気圧の低下と引き換えに吸気圧が一時的に上昇する。これがエンジン1の燃料噴射量の制御に影響を与えることがある。その一例を図3により説明する。エンジン1の燃料噴射量は、エンジン1の要求トルクに対応して演算される基本噴射量に対して、吸気量に基づいて設定される上限値Q1、吸気圧に基づいて設定される上限値Q2、アクセルペダルの踏込み量に基づいて設定される上限値Q3等のうち、いずれか最小の値を上限値として、その上限値を超えないように最終的な燃料噴射量が決定される。上限値Q1は定常運転時のスモーク限界を表現する値であり、上限値Q2は過渡運転時のスモーク限界を表現する値であり、上限値Q3は吸気の遅れがないと仮定したときの要求トルクを表現する値である。その他にも、タービン6bの回転限界を表現する上限値等も存在するが、図3の減速復帰要求時には、上限値Q1〜Q3よりも十分に大きいので図示を省略している。
【0024】
図3の下段は最終的な噴射量を太線で示しており、これを見れば明らかなように、エンジン1が通常の部分負荷運転をしている場合には、吸気圧に基づく上限値Q2が最終的な燃料噴射量を支配することが多い。しかしながら、EGR弁12の開弁によって吸気圧が一時的に上昇すると、図3の領域Aから明らかなように、吸気圧に基づく上限値Q2が一時的に上昇して最終的な噴射量も一時的に増加する。領域Aでは、上限値Q3から明らかなようにアクセルペダルの踏込み量がほぼ一定に維持されており、それにも拘わらず、燃料噴射量が一時的に増加すればエンジン1の出力トルクが車両のドライバの意思に反して一時的に増加し、トルクショックが生じてドライバビリティが悪化する。そこで、本形態では、ECU25が図4に示す排気回収管理ルーチンを一定の周期で繰り返し実行することにより、吸気圧の一時的な上昇に伴うトルクショックの発生等を抑えている。以下、図4のルーチンを説明する。
【0025】
図4のルーチンが開始されると、ECU25はまずステップS1で排気回収条件が成立しているか否か判断し、成立していればステップS2へ進む。ステップS2において、ECU25はタイマTに初期値0をセットする。続くステップS3においてECU25はEGR弁12、排気制御弁21及びタンク弁24の開閉状態(以下、これを弁開閉状態と呼ぶ。)をモード1に設定する。モード1では、EGR弁12及び排気制御弁21が全閉状態、タンク弁24が全開状態にそれぞれ制御される。つまり、モード1は図2において時刻T0以前の状態に相当する。ステップS3の処理後、ECU25は今回のルーチンを終了する。
【0026】
一方、ステップS1で回収条件が成立していないと判断された場合、ECU25はステップS4へ進む。ステップS4において、ECU25はタイマTの値がT5(図2参照)未満であり、かつ各弁の状態がモード3ではないか否かを判断する。この条件は、要するに弁開閉状態が減速復帰要求に対応した切り替え制御中(図2のT0〜T5の間に相当)であるか否かを判別するものである。ステップS4が肯定判断された場合、ECU25はステップS5へ進み、タイマTの値を所定の単位時間進める。続くステップS6にて、ECU25は弁開閉状態をモード2に設定する。モード2が設定された場合、ECU25は図4とは別のルーチンに従って図2に示した通りにタンク弁24、EGR弁12及び排気制御弁21の開閉状態を順次切り替え制御する。続くステップS7にてECU25はエンジン1に対する燃料噴射を禁止させる。ステップS7の処理後、ECU25は今回のルーチンを終了する。
【0027】
ステップS4の条件が否定された場合、ECU25はステップS8に進む。ステップS8にて、ECU25はタイマTの値にT5をセットする。続くステップS9において、ECU25は弁開閉状態をモード3に設定する。モード3では、タンク弁24が全閉状態に、EGR弁12及び排気制御弁21はそれぞれの目標開度にそれぞれ維持される。つまり、モード3は図2において時刻T5以降の状態に相当する。ステップS9の処理後、ECU25は今回のルーチンを終了する。
【0028】
以上の処理によれば、図2の時刻T0からT5の間に燃料噴射が禁止されるので、図5に太線で示したように、燃料噴射量は排気制御弁21が目標開度まで開く時刻T5まで継続して0に維持される。そして、排気制御弁21が目標開度に達してから燃料噴射が再開される。よって、吸気圧の一時的な上昇に伴う不所望なトルク変動を防止し、ドライバビリティの悪化を抑えることができる。
【0029】
第1の形態においては、ECU25が図4のステップS1〜9を実行しかつ図2に従って各弁12、21、24の開閉状態を切り替えることにより弁制御手段として機能し、ECU25が図4のステップS7を実行することにより噴射量制限手段として機能する。
【0030】
[第2の形態]
次に、図6及び図7を参照して本発明の第2の形態を説明する。なお、本形態は、上述した第1の形態と比較してECU25による排気回収管理ルーチンの一部を変更したものである。よって、図1及び図2に関しては第1の形態の説明をそのまま流用し、以下では排気回収管理ルーチンを中心として説明する。
【0031】
図6に示したように、本形態の排気回収管理ルーチンでは、図4の排気回収管理ルーチンに対してステップS7の処理が省略され、これに代えてステップS11〜S14の処理が追加されている。ステップS1〜S9の処理については図4の場合と同様であり、説明を省略する。本形態のルーチンでは、ステップS3の処理後にECU25がステップS11の処理を実行し、ステップS6の処理後にECU25がステップS12の処理を実行し、ステップS9の処理後にECU25がステップS13の処理を実行する。ステップS11及びS13においてECU25は燃料噴射量の上限値の候補値Qmaxに第1の値QM0を設定し、ステップS12においてECU25は候補値Qmaxに第2の値QM1を設定する。図7に示したように、第1の値QM0は、上述した上限値Q1〜Q3のいずれよりも大きい値である。一方、第2の値QM1は、モード1又はモード3の時の吸気圧に基づく上限値Q2とほぼ同程度に設定される。
【0032】
図6のルーチンにおいて、ステップS11〜S13のいずれかの処理が実行されると、ECU25はステップS14に進む。ステップS14において、ECU25は噴射量の上限値として、図3に示した上限値Q1、Q2、Q3、及びステップS11〜S13のいずれかで設定した候補値Qmaxから最小値を上限値として選択する。ここで選択された上限値は、ECU25が別途実行する燃料噴射量の制御ルーチンに反映され、最終的な燃料噴射量はその上限値以内に抑えられる。ステップS14の処理後、ECU25は今回のルーチンを終了する。なお、図6のステップS14においては、上限値Q1〜Q3及び候補値Qmaxに加えて、異なる観点からの上限値も選択候補に含まれてもよい。
【0033】
以上の処理によれば、図2の時刻T0からT5の間において、燃料噴射の上限値が第2の値QM1又はそれよりも小さい値に制限される。すなわち、図7の下段に太線で示したように、タンク弁24の閉動作から排気制御弁21の開動作に至るまでの一連の切り替え制御が実行される時刻T0〜T5の間、燃料噴射量の上限値が第2の値QM1より大きな値に設定されることがない。第2の値QM1は、各弁の切り替え動作実行前及び実行後における吸気圧に基づく上限値Q2と同等に設定されている。よって、吸気圧の一時的な上昇に伴う不所望なトルク変動を防止し、ドライバビリティの悪化を抑えることができる。
【0034】
第2の形態においては、ECU25が図6のステップS1〜9を実行しかつ図2に従って各弁12、21、24の開閉状態を切り替えることにより弁制御手段として機能し、ECU25が図6のステップS12及びステップS13を実行することにより噴射量制限手段として機能する。
【0035】
[第3の形態]
次に、図8〜図10を参照して本発明の第3の形態を説明する。なお、本形態は、上述した第1の形態と比較してECU25による排気回収管理ルーチンの一部を変更したものである。よって、図1及び図2に関しては第1の形態の説明をそのまま流用し、以下では排気回収管理ルーチンを中心として説明する。
【0036】
図8に示したように、本形態の排気回収管理ルーチンでは、図4の排気回収管理ルーチンに対してステップS7の処理が省略され、これに代えてステップS21及びS22の処理が追加されている。ステップS1〜S9の処理については図4の場合と同様であり、説明を省略する。本形態のルーチンでは、ステップS3、S6又はS8にて弁開閉状態が設定されると、ECU25がステップS21に進む。ステップS21において、ECU25は上限値の候補値Qmaxを図9のマップに基づいて設定する。図9のマップは、タイマTの値及びタンク圧、すなわち排気回収タンク23に蓄えられた排気の圧力を引数として、Qmaxの値を決定するためのマップである。そのマップにおいては、時刻T0から暫くの間は候補値Qmaxがほぼ一定の値に維持され、時刻T5に達する幾らか前の時刻から候補値Qmaxが上昇するように設定される。さらに、候補値Qmaxの上昇率はタンク圧が小さいほど大きくなるように設定される。また、図10の上段に太線で示したように、Qmaxは時刻T0の前後では、時刻T0以前の吸気圧に基づく上限値Q2と同程度に設定されている。この種のマップは予め適合試験等によって作成されてECU25の内部メモリに保存されている。タンク圧は、圧力センサによる実測値でもよいし、タンク圧に相関する物理量、あるいはエンジン1の運転状態等から演算した推定値でもよい。
【0037】
図8に戻って、ステップS21で候補値Qmaxを設定した後、ECU25はステップS22に進む。ステップS22において、ECU25は噴射量の上限値として、図3に示した上限値Q1、Q2、Q3、及びステップS21で設定した候補値Qmaxから最小値を上限値として選択する。ここで選択された上限値は、ECU25が別途実行する燃料噴射量の制御ルーチンに反映され、最終的な燃料噴射量はその上限値以内に抑えられる。ステップS22の処理後、ECU25は今回のルーチンを終了する。なお、図8のステップS22においては、上限値Q1〜Q3及び候補値Qmaxに加えて、異なる観点からの上限値も選択候補に含まれてもよい。
【0038】
以上の処理によれば、図2の時刻T0からT5の間において、燃料噴射の上限値が制限値Qmax又はそれよりも小さい値に制限される。すなわち、図10の下段に太線で示したように、タンク弁24の閉動作から排気制御弁21の開動作に至るまでの一連の切り替え制御が実行される時刻T0〜T5の間、燃料噴射量の上限値が制限値Qmaxより大きな値に設定されることがない。制限値Qmaxは上記のように時刻T0から暫くの間、モード1、すなわち排気回収中における吸気圧に基づく上限値Q2と同程度に維持され、モード2の後半で上昇を開始するように設定されている。よって、吸気圧の一時的な上昇に伴う不所望なトルク変動を防止し、ドライバビリティの悪化を抑えることができる。しかも、タンク圧を考慮して制限値Qmaxを設定することにより、EGR弁12の開動作に伴う吸気圧の一時的な上昇の程度に応じて燃料噴射量の上限値を変化させることができる。すなわち、EGR弁12を開いた時のタンク圧が小さいほど、吸気圧の一時的な上昇の程度は小さくなる。これに対して、制限値Qmaxはタンク圧が小さいほど上昇率が大きくなるように設定されるので、吸気圧の上昇が緩やかなときには燃料噴射量の制限を早期に緩和し、吸気圧の上昇が急激あるいは大きいときは燃料噴射量の制限を厳しくして、燃料噴射の過剰な制限を抑制することができる。
【0039】
第3の形態においては、ECU25が図8のステップS1〜9を実行しかつ図2に従って各弁12、21、24の開閉状態を切り替えることにより弁制御手段として機能し、ECU25が図8のステップS21及びステップS22を実行することにより噴射量制限手段として機能する。
【0040】
[第4の形態]
次に、図11〜図13を参照して本発明の第4の形態を説明する。なお、本形態は、上述した第1の形態と比較してECU25による排気回収管理ルーチンの一部を変更したものである。よって、図1及び図2に関しては第1の形態の説明をそのまま流用し、以下では排気回収管理ルーチンを中心として説明する。
【0041】
図11に示したように、本形態の排気回収管理ルーチンでは、図4の排気回収管理ルーチンに対してステップS7の処理が省略され、これに代えてステップS31及びS32の処理が追加されている。ステップS1〜S9の処理については図4の場合と同様であり、説明を省略する。本形態のルーチンでは、ステップS3、S6又はS8にて弁開閉状態が設定されると、ECU25がステップS31に進む。ステップS31において、ECU25は上限値の候補値Qmaxを、図7に示した第2の値QM1に、図12のマップから決定した増分を加えた値に設定する。図12のマップは、吸気圧と排気圧との差圧を引数として上限値の増分(補正量)を設定するものである。ここでいう差圧は、吸気圧と排気圧との差の絶対値である。図12のマップでは、差圧が大きいほど増分も増加する。増分は負の値、つまり減少する場合も含む概念である。また、図12のマップで取得される増分は、第2の値QM1に対して十分に小さい値である。そのため、図13の上段に太線で示したように、制限値Qmaxは、各弁の一連の切り替え制御の前後における上限値Q2とほぼ同程度に維持される。図12のマップは予め適合試験等によって作成されてECU25の内部メモリに保存されている。
【0042】
図11に戻って、ステップS31で候補値Qmaxを設定した後、ECU25はステップS32に進む。ステップS32において、ECU25は噴射量の上限値として、図3に示した上限値Q1、Q2、Q3、及びステップS31で設定した候補値Qmaxから最小値を上限値として選択する。ここで選択された上限値は、ECU25が別途実行する燃料噴射量の制御ルーチンに反映され、最終的な燃料噴射量はその上限値以内に抑えられる。ステップS32の処理後、ECU25は今回のルーチンを終了する。なお、図11のステップS32においては、上限値Q1〜Q3及び候補値Qmaxに加えて、異なる観点からの上限値も選択候補に含まれてもよい。
【0043】
以上の処理によれば、図2の時刻T0からT5の間において、燃料噴射の上限値が、切り替え動作実行前及び実行後の吸気圧に基づく上限値Q2と同等に設定された第2の値QM1又はそれよりも小さい値に制限される。すなわち、図13の下段に太線で示したように、タンク弁24の閉動作から排気制御弁21の開動作に至るまでの一連の切り替え制御が実行される時刻T0〜T5の間、燃料噴射量の上限値が制限値Qmaxより大きな値に設定されることがない。制限値Qmaxは上記のように上限値Q2と同程度であるため、吸気圧の一時的な上昇に伴う不所望なトルク変動を防止し、ドライバビリティの悪化を抑えることができる。しかも、吸気圧と排気圧の差圧が大きいほど制限値Qmaxも大きな値に補正されるので、排気回収時の排気圧の上昇に伴ってエンジン1のポンプ損失が増大するほど燃料噴射量の上限の制限を緩和し、それによりポンプ損失の増大に伴うトルク低下を補ってドライバビリティをさらに改善することができる。
【0044】
第4の形態においては、ECU25が図11のステップS1〜9を実行しかつ図2に従って各弁12、21、24の開閉状態を切り替えることにより弁制御手段として機能し、ECU25が図11のステップS31及びステップS32を実行することにより噴射量制限手段として機能する。
【0045】
本発明は上述した形態に限ることなく、種々の形態にて実施することが可能である。例えば、上記の形態では排気回収タンク23をEGR通路10のEGR弁12よりも上流域に接続しているが、EGR弁12及び排気制御弁21のそれぞれの上流域から排気を取り込むことができる限り、排気回収タンク23は適宜の位置に設けてよい。例えば、エキゾーストマニホールド5aに排気回収タンク23を接続するといった変形が可能である。
【0046】
上記の形態では、吸気圧の一時的な上昇の影響を抑えるための燃料噴射の禁止又は噴射量の上限値の変更を、タンク弁24の閉動作開始時刻T0から排気制御弁21の開動作終了時刻T5までの全期間又は一部において実行したが、燃料噴射の制限(禁止又は上限値の減少)は吸気圧が一時的に上昇する期間を含む限りにおいて、適宜の期間内に実行すればよい。上記の形態では、排気回収タンク23に排気圧を蓄え、その圧力をタービン6bに供給して応答性の改善等を図っているが、排気圧の回収はその目的に限らず、適宜に実行してよい。例えば、排気浄化触媒の暖機完了前に排気をタンクに回収し、暖機完了後にタンクから排気を排気浄化触媒へと供給する場合であっても、回収状態から回収停止状態への移行時に排気圧が上昇しており、排気制御弁の開弁に先行してEGR弁を開く必要が生じる可能性がある。そのような場合でも本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 内燃機関
4 吸気通路
5 排気通路
6 ターボチャージャ
8 吸気絞り弁
9 排気浄化触媒
10 EGR通路
12 EGR弁
20 排気回収装置
21 排気制御弁
23 排気回収タンク
24 タンク弁
25 電子制御装置(弁制御手段、噴射量制限手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路と吸気通路とを接続するEGR通路及び該EGR通路を開閉するEGR弁を備えた内燃機関に適用される排気回収装置であって、
前記排気通路を開閉する排気制御弁と、
前記EGR弁及び前記排気制御弁よりも上流域から排気を取り込むことができるように設けられた排気回収タンクと、
前記排気回収タンクを開閉するタンク弁と、
前記EGR弁及び前記排気制御弁を閉じかつ前記タンク弁を開いた回収状態と、前記EGR弁及び前記排気制御弁を開きかつ前記タンク弁を閉じた回収停止状態との間で各弁を切り替え制御し、かつ前記回収状態から前記回収停止状態への移行時には、前記EGR弁が開動作を開始し、その後に前記排気制御弁が開動作を開始するように前記EGR弁及び前記排気制御弁の開動作を制御する弁制御手段と、
前記移行時の前記EGR弁の開動作に応じた吸気圧の一時的な上昇が前記内燃機関の燃料噴射量に与える影響を抑えるように、当該移行時における前記内燃機関の燃料噴射量を制限する噴射量制限手段と、
を備えた内燃機関の排気回収装置。
【請求項2】
前記噴射量制限手段は、前記移行時に燃料噴射を禁止することにより、前記燃料噴射量を制限する請求項1に記載の排気回収装置。
【請求項3】
前記噴射量制限手段は、前記移行時に、燃料噴射量の上限値を当該移行前又は移行後の燃料噴射量の上限値と同程度に制限する請求項1に記載の排気回収装置。
【請求項4】
前記噴射量制限手段は、前記排気回収タンクの内圧に応じて前記移行時の燃料噴射量の上限値を変化させる請求項3に記載の排気回収装置。
【請求項5】
前記噴射量制限手段は、前記移行時の前記吸気通路と前記排気通路との圧力差に応じて、前記移行時の燃料噴射量の上限値を変化させる請求項3に記載の排気回収装置。
【請求項6】
前記噴射量制限手段は、前記移行時に、前記EGR弁が開動作を開始するよりも早い時期から前記排気制御弁が目標開度に開くまでの期間、前記燃料噴射量を制限する請求項1〜5のいずれか一項に記載の排気回収装置。
【請求項1】
排気通路と吸気通路とを接続するEGR通路及び該EGR通路を開閉するEGR弁を備えた内燃機関に適用される排気回収装置であって、
前記排気通路を開閉する排気制御弁と、
前記EGR弁及び前記排気制御弁よりも上流域から排気を取り込むことができるように設けられた排気回収タンクと、
前記排気回収タンクを開閉するタンク弁と、
前記EGR弁及び前記排気制御弁を閉じかつ前記タンク弁を開いた回収状態と、前記EGR弁及び前記排気制御弁を開きかつ前記タンク弁を閉じた回収停止状態との間で各弁を切り替え制御し、かつ前記回収状態から前記回収停止状態への移行時には、前記EGR弁が開動作を開始し、その後に前記排気制御弁が開動作を開始するように前記EGR弁及び前記排気制御弁の開動作を制御する弁制御手段と、
前記移行時の前記EGR弁の開動作に応じた吸気圧の一時的な上昇が前記内燃機関の燃料噴射量に与える影響を抑えるように、当該移行時における前記内燃機関の燃料噴射量を制限する噴射量制限手段と、
を備えた内燃機関の排気回収装置。
【請求項2】
前記噴射量制限手段は、前記移行時に燃料噴射を禁止することにより、前記燃料噴射量を制限する請求項1に記載の排気回収装置。
【請求項3】
前記噴射量制限手段は、前記移行時に、燃料噴射量の上限値を当該移行前又は移行後の燃料噴射量の上限値と同程度に制限する請求項1に記載の排気回収装置。
【請求項4】
前記噴射量制限手段は、前記排気回収タンクの内圧に応じて前記移行時の燃料噴射量の上限値を変化させる請求項3に記載の排気回収装置。
【請求項5】
前記噴射量制限手段は、前記移行時の前記吸気通路と前記排気通路との圧力差に応じて、前記移行時の燃料噴射量の上限値を変化させる請求項3に記載の排気回収装置。
【請求項6】
前記噴射量制限手段は、前記移行時に、前記EGR弁が開動作を開始するよりも早い時期から前記排気制御弁が目標開度に開くまでの期間、前記燃料噴射量を制限する請求項1〜5のいずれか一項に記載の排気回収装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−223003(P2010−223003A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68530(P2009−68530)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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