説明

内燃機関の触媒劣化診断装置及び触媒劣化診断方法

【課題】上流側と下流側のOセンサ出力特性にずれが生じた場合でも、触媒の劣化状態を正確に診断できる内燃機関の触媒劣化診断装置を提供する。
【解決手段】上流側Oセンサ8及び下流側Oセンサ9の出力信号に対して、出力レベルに応じた重み付け補正処理をする手段17と、重み付け補正処理後の上流側Oセンサ8及び下流側Oセンサ9の出力信号の振幅量と、重み付け補正処理後の上流側Oセンサ8及び下流側Oセンサ9の出力信号と所定信号の差の時間積分値を演算する手段と、該演算手段で演算される前記振幅量と時間積分値に基づいて劣化判定用パラメータを演算する手段と、演算された劣化診断用パラメータと所定の劣化判定閾値との比較結果に基づいて触媒コンバータ7の劣化を判定する手段と、触媒劣化が判定された際に警報を発生する警告手段19とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の排気ガス浄化のために設けられた触媒コンバータの劣化状態を診断し、運転者に警告する触媒劣化診断装置及び触媒劣化診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気ガスを浄化する装置として、排気系にCO、HCの酸化と、NOxの還元を同時に行う三元触媒コンバータ(以下、触媒コンバータあるいは単に触媒と称す)を設けると共に、該触媒の上流側及び下流側にそれぞれO2センサを設け、これらO2センサの検出信号に応じて空燃比フィードバック制御を行うことによって、空燃比を理論空燃比付近の非常に狭い範囲に制御することができ、排気系に設けられた触媒の浄化能力を高く保持することが出来るものが広く実用化されている。
【0003】
触媒が排気ガスの熱又は硫黄被毒などにより浄化効率が次第に低下もしくは破壊された場合、有害成分を排出しながら走行することとなるため触媒を交換するなどの処置をとることが望ましいが、運転者が触媒の劣化もしくは破壊を検知することは困難である。
そこで、このような触媒の劣化状態を判定(診断)するための装置として、例えば、特開平5−98949号公報(特許文献1)に提案されている内燃機関の触媒劣化検出装置や特開平7−305623号公報(特許文献2)に提案されている触媒劣化診断装置が知られている。
【0004】
これらの特許文献で提案されている装置は、内燃機関の排気通路に介装した触媒の上流側及び下流側に設けられたO2センサの出力信号応じて空燃比フィードバック制御を実行すると共に、両O2センサの出力信号の比較から触媒の劣化状態を診断するものである。
図13は、従来の内燃機関における「空燃比フィードバック制御中の上流側O2センサ及び下流側O2センサの出力波形」を示す図である。
空燃比フィードバック制御の実行中には、主に上流側O2センサの出力信号に基づいて、例えば、図13(a)のような比例積分制御により燃料供給量が制御(即ち、フィードバック補正)される。
従って、上流側O2センサの出力信号は、図13(b)に示すように、リッチ/リーン判定電圧を中心に周期的にリッチ、リーンの反転を繰り返す。
【0005】
これに対し、触媒の下流側では、触媒のO2ストレージ能力により残存酸素濃度の変動が非常に緩やかなものとなるので、下流側O2センサの出力信号としては、図13(c)に示すように、上流側O2センサの出力信号に比べて変動幅が小さく、かつ、変動周期が長くなる。
しかし、触媒が劣化してくると、O2ストレージ能力の低下によって、触媒の上流側と下流側とで酸素濃度がそれ程変わらなくなる。
その結果、下流側O2センサの出力信号は、図13(d)及び図13(e)に示すように、触媒の劣化度合いに応じて上流側O2センサの出力信号に近似した周期で反転を繰り返すようになり、かつその変動幅も大きくなってくる。
【0006】
そこで、特開平5−98949号公報に開示された内燃機関の触媒劣化検出装置では、触媒の上流側及び下流側に設けられたO2センサ出力信号と所定信号により囲まれた図形の面積(即ち、上流側及び下流側に設けられたO2センサ出力信号と所定信号の差の時間積分値)を演算する手段と、上流側及び下流側のO2センサ出力が前記所定信号に対して反転する周期を演算する手段と、これらの演算された(時間積分値)、反転周期あるいは両者の組み合わせにより触媒の劣化判定パラメータを演算する手段と、この劣化判定パラメータを所定値と比較し、劣化を判定する劣化判定手段と、劣化と判定された際に警報を発生する警告手段を設けている。
【0007】
また、特開平7−305623号公報に開示された内燃機関の触媒劣化診断装置には、上流側及び下流側のO2センサの出力信号周波数をそれぞれ演算する周波数演算手段と、下流側O2センサ出力信号を上流側O2センサ出力信号の周波数に基づいてフィルタ処理する手段とを有し、このフィルタ処理された下流側O2センサの出力信号とフィルタ処理以前の上流側O2センサの出力信号による振幅比もしくは反転回数比を用いることによって、内燃機関の運転条件に応じて変動する目標空燃比と理論空燃比とのずれに伴う低周波数の変動の影響を抑制し、触媒劣化診断する際の誤診断を防止することが示されている。
【特許文献1】特開平5−98949号公報(図1、段落0007)
【特許文献2】特開平7−305623号公報(図1、図2、段落0013、段落0014)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、触媒の浄化能力を高く保持するためには、空燃比を理論空燃比付近の非常に狭い範囲に制御する必要がある。
特に、上流側O2センサは、排気ガスの熱又は硫黄被毒の影響を直接受けるため、劣化により応答速度の低下や出力電圧の低下を生じやすい。
そこで、下流側O2センサの出力信号は、触媒劣化診断の他に、上流側O2センサの出力信号に基づく空燃比フィードバック制御に対して全体的な空燃比の片寄りの補正等にも用いられるのが一般的である。
つまり、下流側O2センサの出力と下流側目標電圧との偏差に応じて上流側のリッチ/リーン判定電圧を補正することにより上流側O2センサの劣化による影響を補償し、触媒の浄化能力を高く保持することが出来る空燃比状態に制御されている。
【0009】
図14は、従来の一般的なO2センサの出力特性と、空燃比フィードバック制御中のO2センサ出力波形を示す図である。
図14に示すとおり、O2センサの出力特性は、空燃比(酸素濃度)に対して非線形な特性となっている。
そのため、理論空燃比を中心としたある範囲(a)で空燃比フィードバック制御が行われている場合の出力電圧波形(センター特性)に対して、制御範囲がリッチ(即ち、酸素濃度が希薄)方向へシフトされた場合(b)およびリーン(即ち、酸素濃度が過剰)方向へシフトされた場合(c)では、同じ空燃比(酸素濃度)の変動幅であっても出力電圧波形が歪んで振幅が小さくなってしまうことがわかる。
【0010】
図15は、従来の内燃機関の触媒劣化診断における問題点を説明するための図である。
2センサの劣化の影響や出力特性のばらつきによって、上流側と下流側のO2センサの出力特性にずれが生じた場合には、例えば、図15に示すように、上流側の空燃比制御範囲がリッチ(即ち、出力電圧:高)方向へシフトした場合の上流側O2センサの出力信号振幅“ΔV_F2”及び面積相当値“S_F2”は、理論空燃比近傍で制御されている場合の上流側O2センサの出力信号振幅“ΔV_F1”及び面積相当値“S_F1”と比べて小さくなってしまう。
そのため、上流側と下流側のO2センサ出力信号の振幅比(ΔV_R1/ΔV_F2)及び面積相当値比(S_R1/S_F2)は、理論空燃比近傍で制御されている場合の振幅比(ΔV_R1/ΔV_F1)及び面積相当値比(S_R1/S_F1)と比べて大きくなってしまうことがわかる。
よって、これら上流側と下流側のO2センサ出力信号の振幅比もしくは面積相当値比もしくはこれらを組み合わせた値を用いて触媒の劣化状態を診断する装置において、最悪の場合、劣化状態を検出できない、もしくは劣化誤診断することがある。
【0011】
なお、上述の説明において、面積相当値とは、「O2センサ出力信号と所定信号とで囲まれた面積に相当する値」のことであり、面積相当値は、「O2センサ出力信号と所定信号との差の時間積分値」である。
また、所定信号とは、例えば、図15において一点鎖線で示したような「O2センサの出力信号の振幅中心近傍の電圧レベル」のことを言う。
また、図15において、“S_F1”及び“S_F2”は、上流側O2センサ出力における
面積相当値を示しており、“S_F1”はO2センサ出力特性の中心近傍で振幅している際の面積相当値であり、“S_F2”はO2センサ出力特性の中心近傍から高電圧側にシフトした位置で振幅している際の面積相当値である。
【0012】
一般的に下流側O2センサ出力信号に対する目標電圧は、内燃機関の運転条件に応じて触媒の浄化能力を高く保持できる空燃比状態となるように設定されるが、理論空燃比に対してわずかにリッチもしくはリーン方向にシフトされた領域で制御される場合がある。
その結果、O2センサの出力特性に対して出力電圧の振幅が小さくなってしまう範囲で空燃比フィードバック制御された場合は、理論空燃比を中心とした範囲で空燃比フィードバック制御が行われている場合に比べて、得られるO2センサ出力の振幅もしくは面積相当値の絶対値が小さくなってしまう。
そのため、上流側と下流側のO2センサ出力特性の僅かなずれによって上流側と下流側のO2センサ出力信号の振幅比もしくは面積相当値比もしくはこれらを組み合わせた値が大きく変動することとなり、そのような運転条件下では誤診断に対するロバスト性が十分に確保できないことがある。
なお、ロバスト(robust)とは、制御工学の分野では、「制御対象の特徴がどのように変動しても、常に制御仕様を満足する」という意味で使われている。
ここでは、内燃機関の運転状態や目標空燃比(O2センサ出力の目標電圧)の変化等の外乱を受けた場合にも、誤診断をしない“耐性、強さ”を意味する。
【0013】
この発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、上流側と下流側のO2センサの出力特性にずれが生じた場合でも、触媒の劣化状態に応じた適切な振幅比もしくは面積相当値比もしくはこれらを組み合わせた値を得ることができ、ロバスト性を十分に確保し、触媒の劣化状態を正確に診断することができる内燃機関の触媒劣化診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る内燃機関の触媒劣化診断装置は、内燃機関の排気通路に介装された触媒コンバータと、前記触媒コンバータの上流に設けられた上流側O2センサと、前記触媒コンバータの下流に設けられた下流側O2センサと、エンジン回転数と負荷情報を含む内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出手段と、前記運転状態検出手段からの運転状態情報に応じて基本燃料噴射量を設定する基本噴射量設定手段と、前記上流側O2センサの信号に基づいてフィードバック制御を実行すると共に前記下流側O2センサの信号に基づいてフィードバック制御を補正するフィードバック制御手段と、このフィードバック制御による制御量に応じて前記基本燃料噴射量を補正する燃料噴射量補正手段を有した内燃機関の触媒劣化診断装置であって、前記運転状態情報に基づいて、予め設定された触媒劣化診断実施領域であると判定すると、前記上流側O2センサの出力信号及び下流側O2センサの出力信号に対して出力レベルに応じた重み付け補正処理をする重み付け補正処理手段と、重み付け補正処理後の前記上流側O2センサの出力信号及び前記下流側O2センサの出力信号の振幅量と、重み付け補正処理後の前記上流側O2センサの出力信号及び前記下流側O2センサの出力信号と所定信号の差の時間積分値の両方もしくは一方を演算する演算手段と、前記演算手段で演算される前記振幅量と時間積分値の組み合わせもしくはこれらの内の一方に基づいて、劣化判定用パラメータを演算する劣化診断用パラメータ演算手段と、劣化診断用パラメータ演算手段で演算される劣化診断用パラメータと所定の劣化判定閾値との比較結果に基づいて前記触媒コンバータの劣化を判定する劣化判定手段と、前記劣化判定手段によって前記触媒コンバータが劣化していると判定された際に警報を発生する警告手段とを備えたものである。
【0015】
また、本発明に係る内燃機関の触媒劣化診断方法は、内燃機関の排気通路に介装された触媒コンバータと、前記触媒コンバータの上流に設けられた上流側O2センサと、前記触媒コンバータの下流に設けられた下流側O2センサと、エンジン回転数と負荷情報を含む内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出手段と、前記運転状態検出手段からの運転状態情報に応じて基本燃料噴射量を設定する基本噴射量設定手段と、前記上流側O2センサの信号に基づいてフィードバック制御を実行すると共に前記下流側O2センサの信号に基づいてフィードバック制御を補正するフィードバック制御手段と、このフィードバック制御による制御量に応じて前記基本燃料噴射量を補正する燃料噴射量補正手段を有した内燃機関の触媒劣化診断方法であって、前記運転状態情報に基づいて、予め設定された触媒劣化診断実施領域であると判定すると、前記上流側O2センサの出力信号及び下流側O2センサの出力信号に対して出力レベルに応じた重み付け補正処理をする重み付け補正処理ステップと、重み付け補正処理後の前記上流側O2センサの出力信号及び前記下流側O2センサの出力信号の振幅量と、重み付け補正処理後の前記上流側O2センサの出力信号及び前記下流側O2センサの出力信号と所定信号の差の時間積分値の両方もしくは一方を演算する演算ステップと、前記演算ステップで演算される前記振幅量と時間積分値の組み合わせもしくはこれらの内の一方に基づいて、劣化判定用パラメータを演算する劣化診断用パラメータ演算ステップと、劣化診断用パラメータ演算ステップで演算される劣化診断用パラメータと所定の劣化判定閾値との比較結果に基づいて前記触媒コンバータの劣化を判定する劣化判定ステップと、前記劣化判定ステップによって前記触媒コンバータが劣化していると判定された際に警報を発生する警告ステップとを有したものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、上流側と下流側のO2センサの出力特性にずれが生じた場合でも、触媒の劣化状態に応じた適切な振幅比もしくは面積相当値(時間積分値)比もしくはこれらを組み合わせた値を得ることが可能であり、ロバスト性を十分に確保し、触媒コンバータの劣化状態を正確に診断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について、図面に基づいて説明する。
なお、動作を説明するための各フローチャート間において、同一処理ステップ番号を付したものは、同一または相当の処理を行うステップであることを表す。
実施の形態1.
図1は、この発明による内燃機関の触媒劣化診断装置の構成を概念的に示すブロック図である。
図に示すように、本実施の形態に係わる内燃機関の触媒劣化診断装置においては、エンジン1の排気管6には三元触媒で構成された触媒コンバータ(単に触媒と称す)7が介装されている。
そして、この触媒7の上流には上流側O2センサ8が、同じく触媒7の下流には下流側O2センサ9がそれぞれ配設される。
【0018】
これら上流側O2センサ8および下流側O2センサ9は、共に排気ガス中の残存酸素濃度に応じた起電力(以下、出力電圧と称す)を発生する。
図14に示したように、上流側O2センサ8および下流側O2センサ9は、特に理論空燃比を境にして出力電圧が急変し、理論空燃比よりリッチ(即ち、酸素濃度が希薄)側で出力電圧は高レベル(約1V程度)になる。
一方、リーン(即ち、酸素濃度が過濃)側で出力電圧は低レベル(約100mV程度)となるる。
このように、上流側O2センサ8は触媒7の上流側の残存酸素濃度に応じたセンサ出力“V_F”を出力し、下流側O2センサ9は触媒7の下流側の残存酸素濃度に応じたセンサ出力“V_R”を出力する。
【0019】
一方、エンジン1の吸気管2に配設されたスロットル弁4を操作することによって吸入空気量Qaを調整すると共に、エアフローセンサ10にてその吸入空気量Qaが検出され、インテークマニホールド3には燃料を供給するインジェクタ5が配設されている。
【0020】
コンピュータシステムからなる電子式制御ユニット12は、少なくともエアフローセンサ10で検出された吸入空気量Qa及び角度センサ11により検出されるエンジン回転数Neに基づいて算出される基本燃料噴射量を算出する基本噴射量設定手段13と、上流側O2センサ8の出力“V_F”に基づいて算出されるフィードバック制御量に対して、下流側O2センサ9の出力“V_R”に基づいて補正を施すフィードバック制御手段14とを備えている。
なお、“V”はセンサ出力の電圧値、“_F”はFront(上流側)、“_R”はRear(下流側)を表している。
そして、これら基本噴射量設定手段13で算出された基本燃料噴射量とフィードバック制御手段14で算出された制御量を基に算出される燃料噴射量τに応じてインジェクタ5より供給される燃料量を調整することにより、空燃比を理論空燃比付近の非常に狭い範囲に制御している。
【0021】
次に、重み付け補正処理手段17を含む触媒劣化検出手段18及び警告手段19で実行される触媒劣化診断動作について、図2及び図3のフローチャートを参照しながら説明する。
まず、ステップS100において、少なくともエンジン回転数Ne及び吸入空気量Qaに基づく負荷情報を含む内燃機関の運転状態を検出し、次にステップS101において、それらの運転状態情報に基づいて、予め設定された所定の触媒劣化診断実施領域であるか否かを判定する。
なお、触媒劣化診断実施領域は、少なくともエンジン回転数Ne及び吸入空気量Qaに基づく負荷情報によって定義(設定)される。
【0022】
もし、ステップS101において所定の診断領域にない(即ち、NO)と判定されれば、劣化診断処理を終了してリターンする。
一方、所定の診断領域にある(即ち、YES)と判定されれば、ステップS102以下の処理に進む。
ステップS102において、上流側O2センサ出力V_F及び下流側O2センサ出力V_Rを読み込み、続いてステップS103において、読み込んだ“V_F”及び“V_R”に対して重み付け補正処理手段17(図1参照)による重み付け補正処理を実施する。
【0023】
重み付け補正処理手段17における重み付け補正処理動作について図3のフローチャートを参照しながら説明する。
まず、ステップS200において、ステップS102で読み込んだO2センサ出力Vが予め設定された高出力側判定レベルVthより大きいか否かを判定する。
もし、ステップS200の判定結果がYESであれば、高出力であるとみなし、ステップS203において、重み付け補正後出力VCを算出してリターンする。
一方、ステップS200の判定結果がNOであれば、ステップS201へ進み、ステップS102で読み込んだO2センサ出力Vが予め設定された低出力側判定レベルVtlより小さいか否かを判定する。
【0024】
もし、ステップS201の判定結果がYESであれば、低出力であるとみなし、ステップS204において、重み付け補正後出力VCを算出してリターンする。
一方、ステップS201の判定結果がNOであれば、O2センサ出力Vは、高電圧、低電圧のいずれの状態でもないとみなして、ステップS202へ進み、「重み付け補正後出力VC=O2センサ出力V」としてリターンする。
また、ステップS103においては、これらステップS200〜ステップS204の処理を、上流側O2センサ出力V_F及び下流側O2センサ出力V_Rに対してそれぞれ実施し、補正後上流側O2センサ出力VC_F及び補正後下流側O2センサ出力VC_Rとして記憶する。
【0025】
図4は、実施の形態1における重み付け補正処理と補正後O2センサ出力の関係を示す図である。
図4に示すように、高出力側判定レベルVth及び低電圧側判定レベルVtlは、O2センサの出力特性に基づいて、酸素濃度に対する出力電圧の変化量が大きい理論空燃比近傍の領域と、酸素濃度に対する出力電圧の変化量が小さくなるリッチ(即ち、高出力)領域及びリーン(即ち、低出力)領域とに分割するように予め設定されている。
また、それぞれの領域毎に重み付け補正係数KH(高出力側)、KL(低出力側)を有しており、例えば、“Vth”及び“Vtl”によって分割されたそれぞれの領域毎での酸素濃度に対する出力特性の傾きを用いて、以下の(1)式、(2)式より算出し、予め設定される。
このとき、理論空燃比近傍の領域における重み付け補正係数は1とする。
KH=1/(SLh/SLm) ・・・ (1)
KL=1/(SLl/SLm) ・・・ (2)
【0026】
このように、高電圧側/低電圧側判定レベルに応じて、重み付け補正係数KH及びKLを用いた補正を行うことにより、図4に示すように、空燃比(酸素濃度)制御領域がリッチ側(b)もしくはリーン側(c)にシフトされている場合においても、補正前のO2センサ出力Vは振幅が歪んで小さくなっているのに対して、補正後出力VCは、センター特性(a)と同等の出力振幅を得ることができる。
【0027】
図2のステップS102〜ステップS103の処理(図3のステップS200〜ステップS204の処理を含む)は、ステップS104において予め設定された所定期間が終了したと判定されるまで繰り返し実施され、ステップS104において、所定期間が終了(即ち、YES)と判定されれば、ステップS105に進む。
また、ここでは図示しないが、ステップS104において「所定期間が終了」と判定される前に、内燃機関運転状態がステップS101にて定義される所定の診断領域を外れた場合は、図2の劣化診断処理を終了してリターンする。
【0028】
ステップS105では、補正後出力VCの振幅量ΔVC及び補正後出力VCと所定信号により囲まれた図形の面積相当値SCもしくはこれらの内の少なくとも一方を算出する。
なお、所定信号とは、前述したように、「O2センサ出力信号の振幅中心近傍の電圧レベル」のことであり、面積相当値を算出するために予め定義(設定)されるものである。
また、補正後出力VCの振幅量ΔVC及び補正後出力VCと所定信号により囲まれた図形の面積相当値SCとは、補正後出力VCの振幅量ΔVC及び補正後出力VCと所定信号との差の時間積分値のことである。
ここで、振幅量ΔVC及び面積相当値SCは、所定期間中の積算値もしくは所定期間中のリッチ/リーン反転毎の平均値でもよい。
また、補正後出力VCの振幅量ΔVC及び補正後出力VCと所定信号により囲まれた図形の面積相当値SCは、上流側補正後出力VC_F及び下流側補正後出力VC_Rに対してそれぞれ算出され、振幅量ΔVC_F、ΔVC_R及び面積相当値SC_F、SC_Rとしてそれぞれ記憶される。
【0029】
次に、ステップS106において、ステップS105にて記憶された振幅量ΔVC_F、ΔVC_R及び面積相当値SC_F、SC_Rを用いて、図示しない処理ルーチンにより劣化診断用パラメータCを演算する。
ここで、劣化診断用パラメータCは上流側と下流側のO2センサ出力信号の振幅比(ΔVC_R/ΔVC_F)もしくは面積相当値比(SC_R/SC_F)もしくはこれらを組み合わせた値として求められる。
【0030】
ステップS107では、ステップS106で演算された劣化診断用パラメータCと予め設定された劣化判定閾値Climとを比較し、劣化診断用パラメータCが劣化判定閾値Clim以下である(即ち、YES)と判定されれば、ステップS108にて触媒正常と判定し、図2の劣化診断処理を終了してリターンする。
一方、劣化診断用パラメータCが劣化判定閾値Climより大きい(即ち、NO)と判定されれば、ステップS109にて触媒劣化と判定し、ステップS110に進み警報を発するように警告手段19へ信号を送る。
【0031】
以上のように、重み付け補正処理手段17において、上流側O2センサ出力V_F及び下流側O2センサ出力V_Rに対して、図3のステップS200及びステップS201における出力レベル判定結果に応じて補正された補正後出力VC_F及びVC_Rを基に、図2のステップS105において振幅量(ΔVC_F、ΔVC_R)及び面積相当値(SC_F、SC_R)を算出する。
これにより、O2センサの出力特性のどの領域で空燃比フィードバック制御が行われている場合においても、制御量に対してほぼ一定の値として、振幅量(ΔVC_F、ΔVC_R)及び面積相当値(SC_F、SC_R)を得ることができる。
【0032】
従って、ステップS106において算出される上流側と下流側のO2センサ出力信号の振幅比(ΔVC_R/ΔVC_F)もしくは面積相当値比(SC_R/SC_F)もしくはこれらを組み合わせた値として求められる劣化診断用パラメータCは、O2センサの劣化の影響や出力特性のばらつきによって上流側と下流側のO2センサ出力特性にずれが生じた場合においても触媒の劣化状態に応じた正確な値を得ることが可能となり、触媒の劣化状態を正確に診断することができる。
また、理論空燃比に対してリッチもしくはリーン状態で制御されるような運転領域においても理論空燃比相当で制御されている場合と同等の振幅量(ΔVC_F、ΔVC_R)及び面積相当値(SC_F、SC_R)を得ることができるため、診断領域を限定することなく誤診断に対するロバスト性を十分に確保し、触媒劣化診断の精度を向上させることができる。
なお、図3のステップS203及びステップS204において、重み付け補正係数KH及びKLは定数として設定したが、例えば、O2センサ出力(V_F、V_R)に応じたマップデータとして設定してもよい。
【0033】
以上説明したように、本実施の形態による内燃機関の触媒劣化診断装置は、内燃機関の排気通路6に介装された触媒コンバータ7と、触媒コンバータ7の上流に設けられた上流側O2センサ8と、触媒コンバータ7の下流に設けられた下流側O2センサ9と、エンジン回転数と負荷情報を含む内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出手段と、該運転状態検出手段からの運転状態情報に応じて基本燃料噴射量を設定する基本噴射量設定手段13と、上流側O2センサ8の信号に基づいてフィードバック制御を実行すると共に下流側O2センサ9の信号に基づいてフィードバック制御を補正するフィードバック制御手段14と、このフィードバック制御14による制御量に応じて基本燃料噴射量を補正する燃料噴射量補正手段を有した内燃機関の触媒劣化診断装置であって、運転状態情報に基づいて、予め設定された触媒劣化診断実施領域であると判定すると、上流側O2センサ8の出力信号及び下流側O2センサ9の出力信号に対して出力レベルに応じた重み付け補正処理をする重み付け補正処理手段17と、重み付け補正処理後の上流側O2センサ8の出力信号及び下流側O2センサ9の出力信号の振幅量と、重み付け補正処理後の上流側O2センサ8の出力信号及び下流側O2センサ9の出力信号と所定信号の差の時間時間積分値の両方もしくは一方を演算する演算手段と、該演算手段で演算される振幅量と時間時間積分値の組み合わせもしくはこれらの内の一方に基づいて、劣化判定用パラメータを演算する劣化診断用パラメータ演算手段と、劣化診断用パラメータ演算手段で演算される劣化診断用パラメータと所定の劣化判定閾値との比較結果に基づいて、触媒コンバータ7の劣化を判定する劣化判定手段と、該劣化判定手段によって前記触媒コンバータが劣化していると判定された際に警報を発生する警告手段19とを備えている。
【0034】
そのため、本実施の形態によれば、上流側と下流側のO2センサの出力特性にずれが生じた場合でも、触媒の劣化状態に応じた適切な振幅比もしくは時間積分値比もしくはこれらを組み合わせた値を得ることが可能であり、ロバスト性を十分に確保し、触媒の劣化状態を正確に診断することが可能な内燃機関の触媒劣化診断装置を提供できる。
【0035】
また、本実施の形態による内燃機関の触媒劣化診断方法は、内燃機関の排気通路6に介装された触媒コンバータ7と、触媒コンバータ7の上流に設けられた上流側O2センサ8と、触媒コンバータ7の下流に設けられた下流側O2センサ9と、エンジン回転数と負荷情報を含む内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出手段と、該運転状態検出手段からの運転状態情報に応じて基本燃料噴射量を設定する基本噴射量設定手段13と、上流側O2センサ8の信号に基づいてフィードバック制御を実行すると共に下流側O2センサ9の信号に基づいてフィードバック制御を補正するフィードバック制御手段14と、このフィードバック制御14による制御量に応じて前記基本燃料噴射量を補正する燃料噴射量補正手段を有した内燃機関の触媒劣化診断方法であって、前記運転状態情報に基づいて、予め設定された触媒劣化診断実施領域であると判定すると、上流側O2センサ8の出力信号及び下流側O2センサ9の出力信号に対して出力レベルに応じた重み付け補正処理をする重み付け補正処理ステップと、重み付け補正処理後の上流側O2センサ8の出力信号及び下流側O2センサ9の出力信号の振幅量と、重み付け補正処理後の上流側O2センサ8の出力信号及び下流側O2センサ9の出力信号と所定信号の差の時間積分値の両方もしくは一方を演算する演算ステップと、該演算ステップで演算される前記振幅量と時間積分値の組み合わせもしくはこれらの内の一方に基づいて、劣化判定用パラメータを演算する劣化診断用パラメータ演算ステップと、該劣化診断用パラメータ演算ステップで演算される劣化診断用パラメータと所定の劣化判定閾値との比較結果に基づいて、触媒コンバータ7の劣化を判定する劣化判定ステップと、該劣化判定ステップによって触媒コンバータが劣化していると判定された際に警報を発生する警告ステップとを有している。
【0036】
そのため、本実施の形態によれば、上流側と下流側のO2センサの出力特性にずれが生じた場合でも、触媒の劣化状態に応じた適切な振幅比もしくは時間積分値比もしくはこれらを組み合わせた値を得ることが可能であり、ロバスト性を十分に確保し、触媒コンバータの劣化状態を正確に診断することが可能な内燃機関の触媒劣化診断方法を提供できる。
【0037】
実施の形態2.
図5は、この発明の実施の形態2に係わる内燃機関の触媒劣化診断装置における重み付け補正処理ルーチンを示すフローチャートである。
実施の形態2について、図2及び図5のフローチャートを参照しながら説明する。
本実施の形態では、図1に示した重み付け補正処理手段17において、図5のフローチャートに示す処理ルーチンによって重み付け補正処理が実施される。
図5のフローチャートでは、図3のフローチャートに対して、ステップS300〜ステップS302の処理が追加されており、まず、ステップS300においてO2センサ素子温度検出手段15(図1参照)により得られる上流側及び下流側のO2センサ素子温度を読み込む。
なお、ここでは詳述しないが、O2センサ素子温度検出手段15にて検出されるO2センサ素子温度は実測値もしくは排気温度等による推定温度とし、排気温度は実測値もしくは機関運転状態や吸入空気量Qaの積算値に基づく推定温度でもよい。
また、O2センサがヒーター機能を有する場合は、ヒーター駆動積算時間を加味したO2センサ素子温度推定温度でもよい。
【0038】
図6は、O2センサの素子温度に対する出力特性と温度補正値(Kth、Ktl)の関係を示す図である。
図6(a)に示すように、素子温度によってO2センサの出力特性の変曲点がシフトすることが知られている。
そこで、ある基準温度における高出力判定レベルをVth0、及び低出力判定レベルをVtl0として設定すると共に、素子温度と高出力判定レベル及び低出力判定レベルとの関係をそれぞれ図6(b)に示す関数Fh(素子温度)及びFl(素子温度)として予め記憶しておく。
そして、ステップS301において、ステップS300で読み込んだ上流側及び下流側のO2センサ素子温度に応じて温度補正値Kth_F、Ktl_F及びKth_R、Ktl_Rを算出し、次に、ステップS302において、温度補正後高出力判定レベルVth_F、Vth_R及び温度補正後低出力判定レベルVtl_F、Vtl_Rを算出する。
【0039】
以降、実施の形態1と同様に、ステップS200〜ステップS204の処理ルーチンによって重み付け補正処理を実施し、図2に示したステップS104〜ステップS110の処理ルーチンによって触媒劣化診断処理が実施される。
本実施の形態においては、重み付け補正処理手段17によって、O2センサの素子温度に応じてO2センサ出力の出力レベルを判定するための高電圧判定レベル及び低電圧側判定レベルを補正する(即ち、O2センサ素子温度に基づいて上流側O2センサの信号及び下流側O2センサの信号の出力レベル判定ゾーンを補正する)ことにより、O2センサの素子温度による出力特性の変化を補償し、より正確な補正後出力を得ることができる。従って、触媒劣化診断の精度を向上させることができる。
【0040】
即ち、本実施の形態による内燃機関の触媒劣化診断装置の重み付け補正処理手段17は、O2センサ素子温度を検出あるいは推定するO2センサ素子温度検出手段15を含み、検出あるいは推定されるO2センサ素子温度を基にして上流側O2センサ8の信号及び下流側O2センサ9の信号の出力レベル判定ゾーンを補正して重み付け補正処理をする。
これにより、触媒劣化診断の精度をさらに向上させることができる。
【0041】
実施の形態3.
図7は、実施の形態3による内燃機関の触媒劣化診断装置におけるオフセット補正値算出処理ルーチンを示すフローチャートである。
また、図8は、実施の形態3による内燃機関の触媒劣化診断装置における劣化診断動作を示すフローチャートである。
また、図9は、実施の形態3による内燃機関の触媒劣化診断装置における重み付け補正処理ルーチンを示すフローチャートである。
以下、本実施の形態について、図7、図8及び図9のフローチャートを参照しながら説明する。
【0042】
本実施の形態では、まず、オフセット補正値算出手段16(図1参照)の動作を示す図7のフローチャートの処理ルーチンによってオフセット補正値の算出処理が実行される。
ステップS400において、オフセット補正値算出処理実施が許可される所定の運転状態(例えば、アイドル運転状態)であるか否かを判定する。
もし、ステップS400において所定の運転状態にない(即ち、NO)と判定されれば、図7のオフセット補正値算出処理を終了してリターンする。
一方、所定の運転状態にある(即ち、YES)と判定されれば、ステップS401以下の処理に進む。
【0043】
ステップS401においては、図示しない処理ルーチンによって予め設定された所定の振幅量で空燃比の加振制御が実行される。
加振制御とは、図14に示したように、所定の振幅/周期でリッチ/リーンの両方向に
2センサ出力を変動させることである。
空燃比の加振制御は、例えば、空燃比フィードバック制御における比例ゲイン及び積分ゲインを予め設定した所定値に切り替えることによって行われる。
次にステップS402において、上流側O2センサ出力電圧V_Fを読み込み、ステップS403において予め設定された所定期間が終了したと判定されるまで繰り返し実施され、ステップS403において、所定期間が終了(即ち、YES)と判定されれば、ステップS404にて加振制御を終了し、通常の空燃比フィードバック制御に戻してステップS405に進む。
また、ここでは図示しないが、加振制御の実行中に機関運転状態がステップS400にて定義される所定の運転状態を外れた場合は、加振制御を終了し、通常の空燃比フィードバック制御に戻して、図7のオフセット補正値算出処理を終了してリターンする。
【0044】
ステップS405では、図示しない処理ルーチンによって加振制御中に読み込んだ上流側O2センサ出力電圧V_Fよりリッチ/リーン反転毎の最大値平均値及び最小値平均値を算出しそれぞれV_Fmax、V_Fminとして記憶する。
次に、ステップS406において、予め設定しておいた最大値平均値初期値Vmax0及び最小値平均値初期値Vmin0とステップS405で記憶した最大値平均値V_Fmax及び最小値平均値V_Fminとの偏差を算出し、高電圧側判定レベル初期値Vth0に対するオフセット補正値Ksh及び低電圧側判定レベル初期値Vtl0に対するオフセット補正値Kslとして記憶し、ステップS407において、オフセット補正値算出処理完了フラグFlagKsを1にセットしてリターンする。
【0045】
次に、図8に示す触媒劣化診断動作について説明する。
図8では、実施の形態1及び実施の形態2における触媒劣化診断処理ルーチンを示す図2に対してステップS500の処理が追加されており、ここでオフセット補正値算出処理完了フラグFlagKsが1か否かによって、オフセット補正値算出処理が完了しているか否かを判定する。
もし、ステップS500においてFlagKsが1でない(即ち、NO)と判定されれば、図8に示した劣化診断処理を終了してリターンする。
一方、FlagKs=1(即ち、YES)と判定されれば、ステップS102以下の処理に進み、触媒劣化診断処理を継続する。
【0046】
また、重み付け補正処理手段17では、図9のフローチャートに示す処理ルーチンによって重み付け補正処理が実施される。
ここでは、実施の形態1における重み付け補正処理ルーチンを示す図3に対してステップS501及びステップS502の処理が追加されており、まず、ステップS501において、オフセット補正値算出処理にて記憶された高電圧側判定レベル初期値Vth0に対するオフセット補正値Ksh及び低電圧側判定レベル初期値Vtl0に対するオフセット補正値Kslを読み込み、ステップS502において、上流側用の高出力/低出力判定レベルのみ補正後値Vth_F及びVtl_Fを算出し、下流側用の高出力/低出力判定レベルVth_R及びVtl_Rに関しては初期値Vth0及びVtl0のままとする。
以降、実施の形態1、実施の形態2と同様に、ステップS200〜ステップS204の処理ルーチンによって重み付け補正処理を実施し、図8のステップS104〜ステップS110の処理ルーチンによって触媒劣化診断処理が実施される。
【0047】
図10は、O2センサ出力特性がシフトした場合の出力波形とオフセット補正値(Ksh、Ksl)の関係を示すグラフである。
オフセット補正値による高電圧側/低電圧側判定レベルの補正動作について、図10を用いて詳述する。
図10(a)における実線波形は、加振制御実施中の基準となる上流側O2センサの出力であり、この加振制御実施中の基準となる上流側O2センサの出力におけるリッチ/リーン反転毎の最大電圧の平均値Vmax0及び最小電圧の平均値Vmin0を、それぞれ最大電圧平均値及び最小電圧平均値の基準値として予め設定しておく。
図10(a)における破線または一点鎖線の波形は、実測された加振制御実施中の上流側O2センサ出力であり、この実測された加振制御実施中の上流側O2センサ出力におけるリッチ/リーン反転毎の最大電圧の平均値V_Fmax(もしくはV_Fmax’)、最小電圧の平均値V_Fmin(もしくはV_Fmin’)を用いて、最大電圧側、最小電圧側それぞれの基準値との偏差として、オフセット補正値Ksh、Ksl(もしくはKsh’、Ksl’)が算出される。
【0048】
このKsh、Ksl(もしくはKsh’、Ksl’)を、基準となる上流側O2センサ出力(図10(b)の実線)に対する実測状態での上流側O2センサ出力(図10(b)の破線もしくは一点鎖線)のオフセット分であるとみなし、基準となる上流側O2センサ出力特性に対して予め設定されていた高電圧側判定レベルVth0及び低電圧側判定レベルVtl0に対して、Ksh、Ksl(もしくはKsh’、Ksl’)を加算することにより、高電圧側判定レベルVth0及び低電圧側判定レベルVtl0の補正を実施する。
【0049】
これによって、直接排気ガスが当たることで熱や硫黄被毒による影響を受けやすい上流側O2センサ8に対して、劣化による出力特性のオフセットの影響を補償し、より正確な補正後出力VCを得ることが可能となるため、触媒劣化診断の精度を向上させることができる。
なお、図9のステップS502において、高電圧/低電圧側判定レベルを、それぞれオフセット補正値Ksh、Kslによって補正を実施して高電圧側判定レベルVth_F及び低電圧側判定レベルVtl_Fを算出したが、オフセット補正値Ksh、Kslの平均値Ksを用いて、Vth_F=Vth0+Ks、Vtl_F=Vtl0+Ks として算出してもよい。
【0050】
以上説明したように、本実施の形態による内燃機関の触媒劣化診断装置は、O2センサ出力特性のオフセット補正値算出手段16と、オフセット補正値算出手段16によるオフセット補正値の算出処理が未完了時には触媒の劣化診断を中断する手段を備え、重み付け補正処理手段17は、オフセット補正値算出手段16により算出されるオフセット補正値を基にして上流側O2センサ8の信号の出力レベル判定ゾーンを補正して重み付け補正処理をする。
これにより、熱や硫黄被毒による影響を受けやすい上流側O2センサ8に対して劣化による出力特性のオフセットの影響を補償し、より正確な補正後出力VCを得ることができるので、触媒劣化診断の精度をなお一層向上させることができる。
【0051】
実施の形態4.
図11は、実施の形態4による内燃機関の触媒劣化診断装置における触媒の劣化診断動作を示すフローチャートである。
また、図12は、実施の形態4による内燃機関の触媒劣化診断装置における重み付け補正処理ルーチンを示すフローチャートである。
以下、実施の形態4について、図11及び図12のフローチャートを参照しながら説明する。
【0052】
本実施の形態における触媒劣化診断動作を示す図11では、実施の形態3の触媒劣化診断処理ルーチンを示す図8に対して、ステップS600の処理が追加されている。
なお、オフセット補正値算出手段16(図1参照)の動作は、実施の形態3と同様に、
図7に示す処理ルーチンによって完了しているものとする。
即ち、オフセット補正値算出処理完了フラグFlagKsを“1”にセットしてリターンしている。
【0053】
ステップS600においては、事前にオフセット補正値算出手段16よって算出されたオフセット補正値Ksh、Kslの絶対値が共に所定値以下であるか否かを判定する。
もし、ステップS600においてオフセット補正値Ksh、Kslの絶対値のいずれかが所定値以上である(即ち、NO)と判定されれば、上流側O2センサ出力特性が異常にオフセットしているものとみなして、図11の劣化診断処理を終了してリターンする。
一方、オフセット補正値Ksh、Kslの絶対値が共に所定値以下である(即ち、YES)と判定されれば、ステップS102以下の処理に進み、触媒劣化診断処理を継続する。
ここで、ステップS600における判定は、オフセット補正値Ksh、Kslのどちらか一方のみで判定を実施するか、オフセット補正値Ksh、Kslの平均値Ksを用いて判定を実施してもよい。
【0054】
次に、重み付け補正処理手段17では、図12のフローチャートに示す処理ルーチンによって重み付け補正処理が実施される。
ここでは、実施の形態3における重み付け補正処理ルーチンを示す図9に対して、実施の形態2と同様に温度補正値を算出するステップS300及びステップS301の処理が追加されている。
そして、ステップS601において、温度補正値(Kth_F、Kth_R、Ktl_F、Ktl_R)及びオフセット補正値(Ksh、Ksl)に基づいて、補正後値として上流側用、下流側用にそれぞれ高出力判定レベルVth_F、Vth_R及び低出力判定レベルVtl_F、Vtl_Rを算出する。
以降、実施の形態1〜実施の形態3と同様に、ステップS200〜ステップS204の処理ルーチンによって重み付け補正処理を実施し、図11のステップS104〜ステップS110の処理ルーチンによって触媒劣化診断処理が実施される。
【0055】
以上説明したように、本実施の形態では、オフセット補正値が所定値以上であった場合に触媒劣化診断処理を中断するので、上流側O2センサ出力特性が劣化の影響等により大きくオフセットしたことで下流側O2センサ出力特性とのずれが極端に大きくなった場合の誤診断の危険を回避することができる。
また、実施の形態2におけるO2センサ素子温度に基づく温度補正処理及び実施の形態3におけるオフセット補正値算出処理を含むオフセット補正処理を組合すことで、さらに精度よく触媒の劣化診断を行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、上流側と下流側のO2センサの出力特性にずれが生じた場合でも、触媒の劣化状態を正確に診断することができる内燃機関の触媒劣化診断装置の実現に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】この発明に係わる内燃機関の触媒劣化診断装置の構成を概念的に示すブロック図である。
【図2】実施の形態1における触媒の劣化診断動作を示すフローチャートである。
【図3】実施の形態1における重み付け補正処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】実施の形態1における重み付け補正処理と補正後O2センサ出力の関係を示す図である。
【図5】実施の形態2における重み付け補正処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】O2センサの素子温度に対する出力特性と温度補正値の関係を示す図である。
【図7】実施の形態3におけるオフセット補正値算出処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図8】実施の形態3における劣化診断動作を示すフローチャートである。
【図9】実施の形態3における重み付け補正処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図10】実施の形態3において、O2センサ出力特性がシフトした場合の出力波形とオフセット補正値の関係を示すグラフである。
【図11】実施の形態4における触媒の劣化診断動作を示すフローチャートである。
【図12】実施の形態4における重み付け補正処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図13】従来の内燃機関における空燃比フィードバック制御中の上流側O2センサ及び下流側O2センサの出力波形を示す図である。
【図14】従来の一般的なO2センサの出力特性と空燃比フィードバック制御中のO2センサ出力波形を示す図である。
【図15】従来の内燃機関の触媒劣化診断における問題点を説明するための図である。
【符号の説明】
【0058】
1 エンジン 6 排気
7 触媒コンバータ 8 上流側O2センサ
9 下流側O2センサ
10 エアフローセンサ 11 角度センサ
12 電子式制御ユニット 13 基本噴射量設定手段
14 フィードバック制御手段 15 O2センサ素子温度検出手段
16 オフセット補正値算出手段 17 重み付け補正処理手段
18 触媒劣化検出手段 19 警告手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に介装された触媒コンバータと、前記触媒コンバータの上流に設けられた上流側Oセンサと、前記触媒コンバータの下流に設けられた下流側Oセンサと、エンジン回転数と負荷情報を含む内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出手段と、前記運転状態検出手段からの運転状態情報に応じて基本燃料噴射量を設定する基本噴射量設定手段と、前記上流側Oセンサの信号に基づいてフィードバック制御を実行すると共に前記下流側Oセンサの信号に基づいてフィードバック制御を補正するフィードバック制御手段と、このフィードバック制御による制御量に応じて前記基本燃料噴射量を補正する燃料噴射量補正手段を有した内燃機関の触媒劣化診断装置であって、
前記運転状態情報に基づいて、予め設定された触媒劣化診断実施領域であると判定すると、前記上流側Oセンサの出力信号及び下流側Oセンサの出力信号に対して出力レベルに応じた重み付け補正処理をする重み付け補正処理手段と、
重み付け補正処理後の前記上流側Oセンサの出力信号及び前記下流側Oセンサの出力信号の振幅量と、重み付け補正処理後の前記上流側Oセンサの出力信号及び前記下流側Oセンサの出力信号と所定信号の差の時間積分値の両方もしくは一方を演算する演算手段と、
前記演算手段で演算される前記振幅量と時間積分値の組み合わせもしくはこれらの内の一方に基づいて、劣化判定用パラメータを演算する劣化診断用パラメータ演算手段と、
劣化診断用パラメータ演算手段で演算される劣化診断用パラメータと所定の劣化判定閾値との比較結果に基づいて、前記触媒コンバータの劣化を判定する劣化判定手段と、
前記劣化判定手段によって前記触媒コンバータが劣化していると判定された際に警報を発生する警告手段とを備えたことを特徴とする内燃機関の触媒劣化診断装置。
【請求項2】
前記重み付け補正処理手段はOセンサ素子温度を検出あるいは推定するOセンサ素子温度検出手段を含み、検出あるいは推定されるOセンサ素子温度を基にして上流側Oセンサの信号及び下流側Oセンサの信号の出力レベル判定ゾーンを補正して重み付け補正処理をすることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の触媒劣化診断装置。
【請求項3】
センサ出力特性のオフセット補正値算出手段と、前記オフセット補正値算出手段によるオフセット補正値の算出処理が未完了時には触媒コンバータの劣化診断を中断する手段を備え、
前記重み付け補正処理手段は、前記オフセット補正値算出手段により算出されるオフセット補正値を基にして上流側Oセンサの信号の出力レベル判定ゾーンを補正して重み付け補正処理をすることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の触媒劣化診断装置。
【請求項4】
前記オフセット補正値算出手段により算出されるオフセット補正値が所定値以上の場合、触媒コンバータの劣化診断を中断することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の触媒劣化診断装置。
【請求項5】
内燃機関の排気通路に介装された触媒コンバータと、前記触媒コンバータの上流に設けられた上流側Oセンサと、前記触媒コンバータの下流に設けられた下流側Oセンサと、エンジン回転数と負荷情報を含む内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出手段と、前記運転状態検出手段からの運転状態情報に応じて基本燃料噴射量を設定する基本噴射量設定手段と、前記上流側Oセンサの信号に基づいてフィードバック制御を実行すると共に前記下流側Oセンサの信号に基づいてフィードバック制御を補正するフィードバック制御手段と、このフィードバック制御による制御量に応じて前記基本燃料噴射量を補正する燃料噴射量補正手段を有した内燃機関の触媒劣化診断方法であって、
前記運転状態情報に基づいて、予め設定された触媒劣化診断実施領域であると判定すると、前記上流側Oセンサの出力信号及び下流側Oセンサの出力信号に対して出力レベルに応じた重み付け補正処理をする重み付け補正処理ステップと、
重み付け補正処理後の前記上流側Oセンサの出力信号及び前記下流側Oセンサの出力信号の振幅量と、重み付け補正処理後の前記上流側Oセンサの出力信号及び前記下流側Oセンサの出力信号と所定信号の差の時間積分値の両方もしくは一方を演算する演算ステップと、
前記演算ステップで演算される前記振幅量と時間積分値の組み合わせもしくはこれらの内の一方に基づいて、劣化判定用パラメータを演算する劣化診断用パラメータ演算ステップと、
劣化診断用パラメータ演算ステップで演算される劣化診断用パラメータと所定の劣化判定閾値との比較結果に基づいて、前記触媒コンバータの劣化を判定する劣化判定ステップと、
前記劣化判定ステップによって前記触媒コンバータが劣化していると判定された際に警報を発生する警告ステップとを有したことを特徴とする内燃機関の触媒劣化診断方法。
【請求項6】
前記重み付け補正処理ステップはOセンサ素子温度を検出あるいは推定するOセンサ素子温度検出ステップを含み、検出あるいは推定されるOセンサ素子温度を基にして上流側Oセンサの信号及び下流側Oセンサの信号の出力レベル判定ゾーンを補正して重み付け補正処理をすることを特徴とする請求項5に記載の内燃機関の触媒劣化診断方法。
【請求項7】
センサ出力特性のオフセット補正値算出ステップと、前記オフセット補正値算出ステップにおけるオフセット補正値の算出処理が未完了時には、触媒コンバータの劣化診断を中断するステップを有し、
前記重み付け補正処理ステップは、前記オフセット補正値算出ステップにより算出されるオフセット補正値を基にして上流側Oセンサの信号の出力レベル判定ゾーンを補正して重み付け補正処理をすることを特徴とする請求項5または6に記載の内燃機関の触媒劣化診断方法。
【請求項8】
前記オフセット補正値算出ステップにおいて算出されるオフセット補正値が所定値以上の場合、触媒コンバータの劣化診断を中断することを特徴とする請求項7に記載の内燃機関の触媒劣化診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−285218(P2007−285218A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114560(P2006−114560)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】