説明

内燃機関

【課題】全運転領域における予混合自着火式運転領域を拡大して燃費性能を向上させるとともに、燃焼温度を下げて排ガス成分の悪化を抑制し、しかも急速な燃焼やノッキングおよびそれに伴う燃焼騒音の発生を防止できる内燃機関を提供すること。
【解決手段】インジェクタ19と、吸気ポート15から燃焼室14内に新気を導入可能とする2つの吸気バルブ16A,16Bと、これら吸気バルブ16A,16Bと対向する位置に配置され、燃焼室14内の排気を排気ポート17へ排出可能とする2つの排気バルブ18A,18Bと、これら吸気バルブ16A,16Bと排気バルブ18A,18Bを所定のタイミングで開弁させる動弁機構と、吸気マニホールド(吸気通路)41と排気マニホールド42とを繋いで、排気を冷却して吸気マニホールド41へ環流する排気冷却環流装置50と、を備え、吸気バルブ16A側の吸気通路に冷却された排気を導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関に関し、さらに詳しくは、機関運転領域に応じて火花点火と予混合圧縮自着火とに切り替え可能な内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関としては、燃焼室内の混合気を火花点火により燃焼させる火花点火式燃焼に加えて、燃焼室内の混合気を圧縮して自着火させる予混合圧縮自着火式燃焼(HCCI:Homogeneous-Charge Compression Ignition)を利用したエンジンが提案されている。一般に、予混合圧縮自着火式燃焼は火花点火式燃焼に比べて低温燃焼形態をとるため、窒素酸化物(NO)がほとんど発生しない。また、このような予混合圧縮自着火式燃焼は、高い熱効率ポテンシャルを有するため大幅な二酸化炭素(CO)削減効果が見込める。しかし、予混合圧縮自着火式燃焼では点火プラグのような外的な着火時期制御手段を用いないため、機関性能に大きな影響を及ぼす着火時期が、複雑なメカニズムからなる自着火過程により決定される。したがって、予混合圧縮自着火式燃焼では、燃料の着火時期の制御が困難であった。特に、高負荷の運転領域においては、ノッキングや急速な燃焼による燃焼室内の急激な圧力上昇により燃焼騒音が発生するため自着火運転が行えず、自着火運転の可能な運転領域が制限される。
【0003】
従来の自着火燃焼機能を備えた内燃機関としては、吸気タイミングに排気タイミングの一部を重ねることにより、排気ポートから戻る温度の高い内部EGR(Exhaust Gas Recirculation)や、吸気ポートに排気ポートに接続された外部流路を介して比較的温度の高い排気である外部EGRを筒内に導入してEGR領域と導入空気(新気)領域との成層化を図ったものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような内燃機関では、燃焼室内の導入気の成層化を図ることで燃焼速度の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−214741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の内部EGRや外部EGRを用いて予混合圧縮自着火式燃焼を行わせる内燃機関では、燃焼室内の導入気の成層化を用いて燃焼速度の抑制を図っているものの、高い温度のEGR領域での着火性が高く、導入空気領域(新気領域)でも酸素の多いガス組成であるため着火性が高い。したがって、このような自着火燃焼においては、燃焼を十分に緩慢にさせることが困難であった。加えて、このような内燃機関では、高い温度のEGRが導入されるため、燃料の濃い領域で燃焼温度が高くなり、窒素酸化物(NO)の生成、排出が生じてしまい、予混合圧縮自着火式燃焼での最大の利点の一つであるNOの排出が殆ど無いという利点も得られないものであった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、全運転領域における予混合圧縮自着火式燃焼運転領域を拡大して燃費性能を向上させるとともに、燃焼温度を下げて窒素酸化物(NO)の生成、排出を抑制し、しかも急速な燃焼やノッキングおよびそれに伴う燃焼騒音の発生を防止できる内燃機関を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る内燃機関の態様は、燃焼室内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁と、吸気通路から気筒内に新気を導入可能とする吸気弁と、燃焼室内の排気を排気通路へ排出可能とする排気弁と、吸気弁と排気弁とを同時に開弁可能な動弁機構と、燃焼室の外側に設けられて排気通路と吸気通路とを連通可能となし、排気通路内の排気を冷却して吸気通路へ環流させる排気冷却環流装置と、を備え、ピストンの圧縮作用により燃焼室内の混合気を自着火させる予混合圧縮自着火式燃焼運転を行う内燃機関であって、吸気行程で、排気通路から高温の排気を引き戻して燃焼室内に導入し、かつ、新気に排気冷却環流装置で冷却された排気を合流させて吸気弁から燃焼室内に導入して、燃焼室内で新気の混じった低温の排気と、新気の混じった高温の排気と、により成層化された温度分布を形成させることを特徴とする。
【0008】
上記態様としては、吸気弁と排気弁がそれぞれ2つずつ備えられ、燃焼室の上部に、それぞれ吸気弁と排気弁の1つずつが互いに対向して対をなす第1の対と第2の対とが配置され、上記排気冷却環流装置が、冷却された排気を第1の対の吸気弁へ導入し得る位置の吸気通路に接続され、排気通路から燃焼室内へ引き戻される高温の排気が、第2の対の排気弁を通過するように設定されている構成とすることができる。
【0009】
上記態様としては、予混合圧縮自着火式燃焼運転における少なくとも高負荷側の運転時に、排気冷却環流装置から排気を冷却して吸気通路へ導入させるようにしてもよい。
【0010】
上記態様としては、燃料噴射弁が、予混合圧縮自着火式燃焼運転における吸気行程中に燃料を噴射することが好ましい。
【0011】
上記態様としては、2つの吸気弁に連通する前記吸気通路が、少なくとも、排気冷却環流装置から冷却された排気が導入される位置よりも下流側が隔壁で互いに分離されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、全運転領域における予混合圧縮自着火式燃焼運転領域を拡大して燃費性能を向上させるとともに、燃焼温度を下げて窒素酸化物(NO)の生成、排出を抑制し、しかも急速な燃焼やノッキングおよびそれに伴う燃焼騒音の発生を防止できる内燃機関を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る内燃機関の説明図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態に係る内燃機関における吸気バルブ、排気バルブ、および動弁機構の配置を示す側面図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態に係る内燃機関における燃料噴射弁、吸気バルブ、および動弁機構の配置を示す斜視図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態に係る内燃機関におけるシリンダヘッドに対する吸気バルブおよび排気バルブ、および排気冷却環流装置の配置を示す平面説明図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態に係る内燃機関の予混合圧縮自着火式燃焼運転における吸気バルブおよび排気バルブのリフト量(クランクアングル−バルブリフト量)を示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態に係る内燃機関のエンジン回転数とエンジン負荷との関係における運転領域を示した図であり、領域Iと領域IIIが火花点火式燃焼運転を行う領域を示し、領域IIと領域IVが予混合圧縮自着火式燃焼運転を行う領域を示す。
【図7】図7は、本発明の実施の形態に係る内燃機関における予混合圧縮自着火式燃焼運転時に燃焼室内が成層化される作用およびその状態を示す説明図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態に係る内燃機関のクランクアングルと筒内圧力との関係を示す図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態に係る内燃機関の変形例を示す平面説明図である。
【図10】図10は、本発明のその他の実施の形態に係る内燃機関の予混合圧縮自着火式燃焼運転における吸気バルブおよび排気バルブのリフト量(クランクアングル−バルブリフト量)を示す図である。
【図11】図11は、本発明のその他の実施の形態に係る内燃機関の予混合圧縮自着火式燃焼運転における吸気バルブおよび排気バルブのリフト量(クランクアングル−バルブリフト量)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態に係る内燃機関の詳細を図面に基づいて説明する。但し、図面は模式的なものであり、各部材の寸法や寸法の比率や形状などは現実のものと異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率や形状が異なる部分が含まれている。
【0015】
(内燃機関の構成)
本実施の形態に係る内燃機関10は、運転領域において、火花点火燃焼運転領域と、ピストンによる圧縮作用により混合気を自着火させて燃焼を行う予混合圧縮自着火式燃焼運転の領域と、を有し、火花点火燃焼と予混合圧縮自着火式(以下、自着火とも云う。)燃焼と、を切り替えて運転できるようになっている。
【0016】
図1に示すように、本実施の形態に係る内燃機関10は、燃焼室14内に燃料を直接噴射するインジェクタ(燃料噴射弁)19と、吸気ポート15から燃焼室14内に新気を導入可能とする2つの吸気バルブ(吸気弁)16A,16Bと、これら吸気バルブ16A,16Bと対向する位置に配置され、燃焼室14内の排気を排気ポート17へ排出可能とする2つの排気バルブ(排気弁)18A,18Bと、これら吸気バルブ16A,16Bと排気バルブ18A,18Bを所定のタイミングで開弁させる動弁機構40A,40B(図2および図3参照)と、吸気マニホールド(吸気通路)41と排気マニホールド(排気通路)42とを繋いで、排気を冷却して吸気マニホールド41へ環流する排気冷却環流装置50と、を備えて概略構成されている。
【0017】
特に、本実施の形態の内燃機関10では、自着火燃焼運転領域における吸気行程で、吸気バルブ16A,16Bと排気バルブ18Bを開弁して排気ポート17から高温の排気を引き戻して燃焼室14内に導入するようになっている。加えて、この内燃機関10では、吸気行程において、一方の吸気バルブ16Aから燃焼室14内に導入する新気に排気冷却環流装置50から低温の排気を導入するようになっている。
【0018】
したがって、燃焼室14内では、新気の混じった低温の排気と高温の排気とにより成層化された温度分布が形成されるようになっている。本実施の形態では、排気冷却環流装置50が、シリンダヘッド11Bの吸気ポート(吸気通路)15に接続される吸気マニホールド(吸気通路)41と、排気ポート(排気通路)17に接続される排気マニホールド(排気通路)42と、を繋ぐように設けられている。
【0019】
以下に、本実施の形態の具体的な構成について説明する。図1に示すように、内燃機関10は、シリンダ(気筒)11内を上下動するピストン12を図示しないクランクシャフトにコンロッド13を介して連結することにより、ピストン12の往復運動を回転運動に変換して伝達するようになっている。
【0020】
この内燃機関10は、例えば4つのシリンダ11が形成されたシリンダブロック11Aを備えている(図4参照)。このシリンダブロック11Aの上には、各シリンダ11の位置に対応するシリンダ内面(上面)11aが形成されたシリンダヘッド11Bが設けられている。シリンダブロック11Aおよびシリンダヘッド11Bにおいて、それぞれのピストン12の上面12aとシリンダ内面11aとの間の空間が燃焼室14を構成している。また、シリンダヘッド11Bのシリンダ内面の中央には、火花点火燃焼運転のときに用いられるプラグ20が設けられている。
【0021】
内燃機関10は、ピストン12の上下動と、吸気バルブ16A,16Bおよび排気バルブ18A,18Bを所定のタイミングで開閉させつつ、燃焼室14内にインジェクタ19から燃料を直接噴射させて、プラグ20による火花点火燃焼または自着火燃焼によって燃焼させたときの爆発力でピストン12を上下動させることができる。そして、内燃機関10では、燃焼室14内での燃焼用空気の吸入、混合気の圧縮・燃焼、この燃焼による膨張、燃焼ガスの排気を繰り返すようになっている。
【0022】
次に、吸気バルブ16A,16Bおよび排気バルブ18A,18Bについて説明する。図1に示すように、燃焼室14の上面を構成するシリンダヘッド11Bの内面11aに、吸気ポート15と排気ポート17の開口15a,17aがそれぞれ2つずつを並列に形成されている。2つの開口15aには、吸気バルブ16A,16Bが配置され、2つの開口17aには、排気バルブ18A,18Bが配置されており、各開口15a,17aの開閉を行っている。吸気バルブ16A,16Bと排気バルブ18A,18Bは、バルブシャフト21の先端部側に円板状の弁部16a、18aが形成されている。そして、図1に示すように、吸気バルブ16A,16Bと排気バルブ18A,Bの弁部16a、18aが燃焼室14内の上面11aに対してリフトされる状態に変位することにより隙間を形成して燃焼用空気の流通を許容するようになっている。
【0023】
なお、図4は、シリンダ11における2つの吸気バルブ16A,16Bと2つの排気バルブ18A,18Bの位置関係を示す説明図である。図4に示すように、吸気バルブ16A,16Bは、4つのシリンダ11が列をなす方向A(図4中矢印で示す。)に沿って配置されている。排気バルブ18A,18Bは、吸気バルブ16A,16Bと対向するように方向Aに沿って配置されている。したがって、吸気バルブ16Aと排気バルブ18Aが対向して第1の対をなし、吸気バルブ16Bと排気バルブ18Bとが対向して第2の対をなすように配置されている。
【0024】
次に、図2および図3を用いて動弁機構40A,40Bについて説明する。図2に示すように、吸気バルブ16A,16Bと排気バルブ18A,18Bは、スプリング22によりバルブシャフト21を引き上げ方向(リフト解消方向)に付勢されている。これら吸気バルブ16A,16Bと排気バルブ18A,18Bは、動弁機構40A,40Bにより所定のタイミングで開閉動作するように設定されている。これら動弁機構40A,40Bは、共に、ピボット23と、ロッカアーム24と、制御軸25と、ローラ26と、規制部材(揺動カム)27と、揺動ローラ(カムフォロア)28と、カム軸29と、駆動カム30と、を備えて構成されている。
【0025】
ピボット23は、先端部にロッカアーム24の一端側を突き当てた状態でロッカアーム24を揺動自在に支持している。このロッカアーム24は、他端側に、バルブシャフト21の後端部(上端部)がスプリング22の付勢力により突き当てられている。また、このロッカアーム24には、中間部に支持ピン26aにより回転自在に軸支されているローラ26が設けられている。このロッカアーム24は、ローラ26が規制部材27に当接した状態で規制部材27の揺動に追従できるように揺動自在に取り付けられている。
【0026】
制御軸25には、上記規制部材27が後述するバルブリフトのタイミングに応じた回転位置にネジ止め固定されている。また、この制御軸25には、揺動部材25Aの一端部が固定されている。そして、揺動部材25Aの他端部には、揺動ローラ28が支持ピン28aで回転自在に軸支されている。規制部材27は、ロッカアーム24の中間部のローラ26との圧接位置に応じてバルブシャフト21先端部の弁部16a、18aのリフト量(開口量)を規制する。
【0027】
図2に示すように、揺動ローラ28は、制御軸25を中心にする図中時計回り方向に図示しない付勢部材により付勢されている。カム軸29は、図示しないクランクシャフトに同期するように回転駆動されていている。カム軸29には、外周にカム面30aを有する駆動カム30が固設されている。このカム面30aには、制御軸25を中心にする時計回り方向に付勢される揺動ローラ28の外周面が圧接されている。
【0028】
このような構成により、駆動カム30は、カム面30aに圧接する揺動ローラ28を揺動させることができる。ロッカアーム24は、揺動ローラ28が軸支された揺動部材25Aと一体の規制部材27に圧接しているローラ26を介して揺動する。このため、吸気バルブ16A,16Bと排気バルブ18A,18Bは、ロッカアーム24の揺動に追従してスプリング22の付勢力に抗して引き下げられる(軸方向に変移させる)。したがって、バルブシャフト21の先端部の弁部16a、18aを吸気ポート15、排気ポート17の開口15a,17aからリフトさせて吸排気が可能となる。また、吸気バルブ16A,16Bと排気バルブ18A,18Bは、バルブシャフト21をスプリング22の付勢力により軸方向に変移させて先端部の弁部16a、18aを開口15a、17aに密接させて閉塞することができる。
【0029】
図3に示すように、規制部材27は、揺動ローラ28が設けられた揺動部材25Aの左右(制御軸25の軸方向の両側)に隣接して、ロッカアーム24のローラ26が圧接する圧接面27aを備えている。この圧接面27aの形状としては、制御軸25への位置決め固定位置に応じてその中心軸からの距離が変化する形状となっている。この規制部材27は、圧接面27aのロッカアーム24のローラ26との圧接位置(相対回転位置)に応じて、そのロッカアーム24の揺動量を調整することができる。したがって、規制部材27が固定された制御軸25の回転角度を調整することにより、規制部材27の位相を変化させ、バルブリフト量を変化させることができる。
【0030】
図5に示すように、本実施の形態では、排気行程においては、第1の対側の排気バルブ18Aのみを大リフト量で開弁するように、動弁機構40Bを設定している。また、吸気行程においては、両方の吸気バルブ16A,16Bを大リフト量で開弁すると同時に、第2の対側の排気バルブ18Bを小リフト量で開弁するように動弁機構40A,40Bを設定している。
【0031】
上述のような設定に動弁機構40A,40Bを調整するには、吸気バルブ16A,16Bおよび排気バルブ18A,18Bに対応する規制部材27の位相を設定すればよい。なお、本実施の形態では、4つのシリンダ11における排気バルブ18A,18Bのそれぞれの開弁(時期、量、開期間)の設定は同様にしている。
【0032】
図3に示すように、インジェクタ19は、一対の吸気バルブ16A,16Bの間に配置されている。このインジェクタ19は、吸気バルブ16A,16Bがピストン12の上下運動(クランクシャフトの回転角)に同期させつつ吸気ポート15の開口15aを開閉するようにリフト動作する際に、燃焼室14内に直接燃料を噴射するようになっている。特に、本実施の形態では、インジェクタ19の燃料噴射方向が、上死点付近の高い位置にあるピストン12の上面12aの中心に向けて設定されている。
【0033】
次に、排気冷却環流装置50について説明する。図1および図4に示すように、排気冷却環流装置50は、吸気マニホールド41と排気マニホールド42とを連通可能に繋ぐ循環用配管51と、循環用配管51における排気マニホールド42側の位置に設けられ、排気マニホールド42から導入した排気ガスを冷却させて吸気マニホールド41側へ冷却された排気ガスを送出可能する機能を有するEGR冷却循環部52と、循環用配管51における吸気マニホールド41側に設けられたEGRバルブ53と、を備えている。なお、EGR冷却循環部52は、水冷式または空冷式の冷却手段を用いてもよいし、配管長を長く設定して排気を冷却させる構成としてもよい。
【0034】
図4に示すように、本実施の形態では、循環用配管51を接続部51Aが吸気マニホールド41に対して接続部51Aで接続されている。なお、この接続部51Aは、吸気マニホールド41において、第1の対の吸気バルブ16Aが配置された側に冷却された排気ガス(外部EGR)が導入されるように、吸気バルブ16Aへ向けて流れる燃焼用空気(新気)が流れる流路の上流位置に配置している。すなわち、接続部51Aは、冷却された排気が吸気バルブ16Bに向かわずに吸気バルブ16Aへ向かうように、吸気バルブ16Aに近い側に配置されている。なお、EGRバルブ53は、自着火燃焼運転を行う場合に所定の吸気タイミングに合わせて所定の開動作を行うように制御される。
【0035】
また、本実施の形態では、自着火燃焼運転をさせる場合に、吸気行程中に図5に示したタイミングで第2の対側の排気バルブ18Bが開弁して、排気ポート17側の高温の排気が燃焼室14に引き戻されるように排気バルブ18Bが制御されるようになっている。
【0036】
(内燃機関の作用・動作)
図6に示すように、本実施の形態に係る内燃機関10は、エンジン回転数に対応する走行条件に応じたエンジン負荷の低負荷(領域I)と高負荷(領域III)では安定した燃焼のために、プラグ20による火花点火燃焼制御を行う。これに対して、走行時に最も利用機会の多い中負荷の領域IIおよび領域IVでは、自着火燃焼制御を行なう。このように自着火燃焼制御を行うことにより、プラグ20による点火を省いてエネルギー消費を抑えるともに、燃焼温度を下げて窒素酸化物(NO)の生成、排出を抑制し、しかも急速な燃焼やノッキングおよびそれに伴う燃焼騒音の発生を防止することができる。
【0037】
本実施の形態では、その中負荷領域における燃焼室14内のEGRの流れが自着火燃焼に最適になるようになされている。なお、図6に示す領域IIは、排気冷却環流装置50を備えない場合の自着火燃焼運転が可能な領域である。領域IIと領域IVとを合わせた領域は、排気冷却環流装置50を備えて内部EGRと外部EGRとが成層化された本実施の形態に係る内燃機関10における自着火燃焼運転の可能な領域を示している。
【0038】
図5に示すように、この内燃機関10では、吸気行程にて、両方の吸気バルブ16A,16Bを大リフト量で開弁させるとともに、第2の対側の排気バルブ18Bを小リフト量で開弁させて排気ポート17の開口17aを開いて排出した排気(内部EGR)を再度燃焼室14内に導入(吸気)する。この吸気行程中に開く排気バルブ18Bの斜向かい方向に位置する第1の対側の吸気バルブ16A側に排気冷却環流装置50で冷却された排気(外部EGR)を導入する。すなわち、接続部51Aから冷却された排気吸気バルブ16Aの上流の吸気マニホールド41に導入する。なお、このような場合は、吸気タイミングに対応してEGRバルブ53を開く制御を行う。また、インジェクタ19は、吸気行程中に燃焼室14内に燃料を噴射させる。このような吸気行程中に燃料を噴射させることにより燃料を均一に拡散させることができる。
【0039】
図7に示すように、上述のような吸気行程での動作により、燃焼室14内の第2の対をなす吸気バルブ16Bと排気バルブ18Bとが配置された領域(燃焼室14の図中右半分の領域)には、排気バルブ18Bから導入した高温の排気(内部EGR)とこの排気バルブ18Bに対向する位置の吸気バルブ16Bから導入した新気aとでなる高温の気層が形成される。同時に、燃焼室14内の他方側の半分には、第1の対側の吸気バルブ16Aから新気aと冷却された排気(外部EGR)が導入されて低温の気層が形成される。このように、燃焼室14内に高温の気層と低温の気層と形成されて成層化することで、非常に温度成層性が大きくなり、緩慢な燃焼を実現することができる。この結果、本実施の形態では、図6に示す領域IIに加えて、この領域IIにおける高負荷側の領域IVを新たに運転可能領域として広げることができた。
【0040】
特に、本実施の形態に係る内燃機関10では、排気冷却環流装置50を外部に設けて冷却された排気を吸気バルブ16A側へ循環させたことにより、従来の自着火燃焼を用いた内燃機関よりも大幅な温度差を有する温度の成層化を達成できる。つまり、本実施の形態に係る内燃機関10は、従来の自着火燃焼を用いた内燃機関よりも、燃焼を十分に緩慢にさせることができる。また、本実施の形態では、燃焼室14内で排気を完全燃焼させることが可能となり、排気ガスの浄化性能を向上させることができる。
【0041】
本実施の形態に係る内燃機関10では、冷却された排気と温度の低い新気とが比較的長い混合時間をとって均一混合状態となり、酸素の密度を適度に希薄にする。また、この冷却された混合気は、燃焼室14内で、他方の対の排気バルブ18Bから引き戻された高温の排気(内部EGR)との温度勾配を有する成層化により、相対的に小さな体積にまとまることで、圧縮自着火燃焼を可能としつつ、その燃焼を十分に緩慢にさせることができる。特に、本実施の形態に係る内燃機関10では、高温の排気と冷却された排気とを合わせると燃焼室14内の排気の割合が大きくなり、局所的に燃焼速度が上がることを抑制でき、振動、騒音等を低減させることができる。また、高温の排気を導入するため、燃焼開始時の筒内温度を上げ、燃焼中の燃焼温度のピーク温度や燃焼圧力のピーク圧を下げることができる。さらに、本実施の形態では、冷却された排気が導入されない側の吸気ポート15は、排気を引き戻す排気バルブ18Bと対向する位置にあり、燃焼室14内に新気導入する量が微少に下がるが、吸気ポート15内の負圧が増大することを抑制することができる。
【0042】
図8は、自着火燃焼による本実施の形態に係る内燃機関10と排気冷却環流装置50を有しない従来の内燃機関の作用効果を説明する図である。燃焼室14内では、従来の自着火燃焼制御を採用すると、噴射燃料の雰囲気中における複数箇所で同時に自着火燃焼を生じさせるように調整制御することにより短時間で噴射燃料の燃焼を完了することになり、その燃焼室14内での噴射燃料の爆発が重なって、図8に示すように筒内圧力P2は瞬間的に最大値にまで達する。一方、本実施の形態における燃焼室14内では、プラグ20付近を中心とする濃度分布にして、噴射燃料の混合気を大きな温度成層化させるので、その中心から自着火燃焼を開始させて徐々に周囲に広がる緩慢な燃焼を実現することができ、その燃焼室14内での噴射燃料の爆発が集中することなく、その筒内圧力P1は緩やかに鈍らせて、先の筒内圧力P2よりも低くすることができる。
【0043】
したがって、本実施の形態に係る内燃機関10では、自着火燃焼において燃焼温度が高温にならず、NOの生成、排出が殆ど無いという自着火燃焼の利点を損なうことがない。加えて、本実施の形態の内燃機関10では、急速な燃焼やノッキングおよびそれに伴う燃焼騒音の発生を防止できる。
【0044】
また、本実施の形態に係る内燃機関10では、燃焼室14の混合気が成層化されて、混合気の温度分布が不均一になることで、燃焼速度を抑制することができる。特に、本実施の形態では、排気冷却環流装置50により冷却された低温の排気(外部EGR)を混ぜることにより、高純度の新気部分が少なくなるので、燃焼室14内において局所的に燃焼速度が上がることを抑制できる。したがって、燃焼速度を抑制できる観点からも急速な燃焼やノッキングおよびそれに伴う振動、騒音の発生を低減できる。このような作用によって、機関の全体的な運転領域の予混合圧縮自着火式燃焼運転が可能な負荷領域を中負荷領域から高負荷領域側へ拡大することができる。すなわち、図6に示すように、従来の予混合圧縮自着火式燃焼運転が可能な領域IIに加えてさらに高負荷領域側の領域IVまでも、予混合圧縮自着火式燃焼運転が可能な領域として拡大することができる。
【0045】
さらに、本実施の形態に係る内燃機関10では、動弁機構40A,40Bにおいてプロフィールの同じ規制部材27を用いてその位相だけを変えることで、少ない数の構成要素でバルブリフトタイミングを制御することができ、設定を簡略化できるという効果がある。
【0046】
(変形例)
図9は、本発明の実施の形態に係る内燃機関10の変形例に係る内燃機関10Aを示す平面説明図である。図9に示すように、この内燃機関10Aは、2つの吸気バルブ16A,16Bに連通する吸気ポート(吸気通路)15および吸気マニホールド(吸気通路)41に亘って、吸気バルブ16Aに至る流路と、吸気バルブ16Bに至る流路とを隔壁15Aで分離した構成である。なお、隔壁15Aは、少なくとも、排気冷却環流装置50から冷却された排気が導入される接続部51Aよりも下流側の吸気通路に形成する。このような内燃機関10Aでは、吸気バルブ16Aに至る新気のみに排気冷却環流装置50側からの冷却された排気を導入できる。したがって、冷却された排気を吸気バルブ16B側へ流すことなく燃焼室14に低温の混合気を導入させることが可能となる。したがって、この内燃機関10Aでは、燃焼室14内での混合気の温度の成層化をより高めることができ、燃焼を十分に緩慢にさせることができる。
【0047】
(その他の実施の形態)
以上、実施の形態について説明したが、この実施の形態の開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0048】
例えば、上記実施の形態では、図5に示したように、排気行程において第2の対側の排気バルブ18Bを閉弁して排気バルブ18Aのみを大リフト量で開弁し、吸気行程において排気バルブ18Bも小リフト量で開弁するように設定したが、図10に示すようなリフトタイミングを行う構成としてもよい。すなわち、図10に示すように、排気行程において両方の排気バルブ18A,18Bを大リフト量で開弁し、吸気行程において両方の吸気バルブ16A,16Bが大リフト量で開弁するとともに、動弁機構40Bに付加した、図示しない減圧手段(Decompression means)、所謂デコンプ機構または加圧手段(force means)により、例えば第2の対側の排気バルブ18Bを小リフト量で開弁させる構成としてもよい。なお、減圧手段や加圧手段は、例えば油圧によりロッカアーム24の他端部側を下方へ押圧する作用を及ぼす機構であればよい。
【0049】
また、上記実施の形態では、吸気行程において、吸気バルブ16A,16Bを同じリフト量で開弁したが、図11に示すように、第2の対側の吸気バルブ16Bのリフト量をやや小さくすることより、排気バルブ18Bを通って排気ポート17側から燃焼室14へ戻る排気(内部EGR)の量を大きい配分とする設定を行ってもよい。
【0050】
さらに、上記実施の形態では、吸気バルブ16A,16Bおよび排気バルブ18A,18Bの開弁(時期、量、開期間)を、同じプロフィールの規制部材27を用いてこれら規制部材27の制御軸25に対する位相を異ならせる構成としたが、それぞれプロフィールの異なる規制部材27を用意して互いに位相が異なるような構成としてもよい。
【0051】
また、上記実施の形態では、図2および図3に示すような動弁機構40A,40Bを本発明に適用して説明したが、動弁機構としてはこれらに限定されるものではなく、各種の動弁機構を適用できることは云うまでもない。
【0052】
さらに、上記実施の形態では、排気冷却環流装置50を1つのシリンダ11の排気マニホールド42に接続した構成であるが、他の複数の排気マニホールド42に排気冷却環流装置50を接続した構成としても勿論よい。また、本発明に係る内燃機関では、上記実施の形態のような4気筒のものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0053】
10,10A 内燃機関
11 シリンダ
11B シリンダヘッド
12 ピストン
12a 上面
14 燃焼室
15 吸気ポート(吸気通路)
15A 隔壁
16A 吸気バルブ(一方の対側)
16B 吸気バルブ(他方の対側)
17 排気ポート(排気通路)
18A 排気バルブ(一方の対側)
18B 排気バルブ(他方の対側)
19 インジェクタ
20 プラグ
25 制御軸
25A 揺動部材
27 規制部材
27a 圧接面
28 揺動ローラ
29 カム軸
30 駆動カム
30a カム面
40A,40B 動弁機構
41 吸気マニホールド(吸気通路)
42 排気マニホールド(排気通路)
50 排気冷却環流装置
51 循環用配管
51A 接続部
52 EGR冷却循環部
53 EGRバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁と、
吸気通路から気筒内に新気を導入可能とする吸気弁と、
前記燃焼室内の排気を排気通路へ排出可能とする排気弁と、
前記吸気弁と前記排気弁とを同時に開弁可能な動弁機構と、
前記燃焼室の外側に設けられて排気通路と吸気通路とを連通可能となし、前記排気通路内の排気を冷却して前記吸気通路へ環流させる排気冷却環流装置と、
を備え、
ピストンの圧縮作用により前記燃焼室内の混合気を自着火させる予混合圧縮自着火式燃焼運転を行う内燃機関であって、
吸気行程で、前記排気通路から高温の排気を引き戻して前記燃焼室内に導入し、かつ新気に前記排気冷却環流装置で冷却された排気を合流させて前記吸気弁から前記燃焼室内に導入して、前記燃焼室内で新気の混じった低温の排気と新気の混じった高温の排気とにより成層化された温度分布を形成させる
ことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記吸気弁と前記排気弁は、それぞれ2つずつ備えられ、前記燃焼室の上部に、それぞれ前記吸気弁と前記排気弁の1つずつが互いに対向して対をなす第1の対と第2の対とが配置され、
前記排気冷却環流装置は、冷却された排気を前記第1の対の前記吸気弁へ導入し得る位置の前記吸気通路に接続され、前記排気通路から前記燃焼室内へ引き戻される高温の排気は、前記第2の対の前記排気弁を通過するように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記予混合圧縮自着火運転における少なくとも高負荷側の運転時に、前記排気冷却環流装置から排気を冷却して前記吸気通路へ導入させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記燃料噴射弁は、前記予混合圧縮自着火運転における吸気行程中に燃料を噴射することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の内燃機関。
【請求項5】
前記2つの吸気弁に連通する前記吸気通路は、少なくとも、前記排気冷却環流装置から冷却された排気が導入される位置よりも下流側が隔壁で互いに分離されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−96302(P2013−96302A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239475(P2011−239475)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】