説明

制御システム及びこの制御システムに用いる位置推定方法

【課題】サンプリング周期を細かくすることなく、モータの速度変動等に精度よく対応することが可能な制御システム及びこの制御システムに用いる位置推定方法を提供する。
【解決手段】第2モータ43と、第2モータ43の回転角度に基づくウェハのノッチの位置データを所定の周期で検出する第2エンコーダ44と、第2モータ43をサーボ制御するサーボ制御器32と、サーボ制御器32に対して動作指令を発する位置制御部2と、を有する制御システム1において、位置制御部2は、サーボ制御器32の動作指令を生成するとともに、所定周期で第2エンコーダ44から取得した位置データを取得時刻と共に記憶し、時刻tにおける被制御体の位置f(t)を位置データに基づいてn次の多項式で表し、n次の多項式補間により任意の時刻におけるウェハ(ノッチ)の位置を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばロボットや数値制御装置などの駆動系、回転系に適用できる制御システム及びこの制御システムに用いる位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ロボットや数値制御装置等の分野では、これらを駆動するための制御システムが適用されている。例えば、ロボットにワークの搬送や溶接などの各種作業を行わせる場合、制御システムは、ロボットの関節を回動させるモータをサーボ制御するサーボ制御器に対して動作指令(位置指令)を行う。一方で、ロボットの関節は、モータの回転角を測定するエンコーダを有しており、ホスト制御器は、サーボ制御器を介して、このエンコーダから送られてくるフィードバックされる位置データ(回転角測定値など)を参照してサンプリングしつつ、目標値と実測値との偏差を認識してサーボ制御を行う。
【0003】
ここで、上述したフィードバックされる位置データは、所定のサンプリング周期でサンプリングされるため、サンプリング周期以外の時刻での位置を知ることができず、サンプリング周期が位置分解能の限界となる。しかし、高速・高精度の位置制御を行う場合、位置分解能の高さは重要な要素となるため、位置分解能の限界を高めるために位置の推定を行う必要がある。
【0004】
特許文献1に記載のロボット制御装置では、絶対値エンコーダの測定周期とサーボサイクルが非同期であっても、外挿演算によりサーボサイクルに同期した位置パルスを推定し、位置分解能を高めている。
【0005】
より具体的に説明すると、特許文献1に開示されたロボット制御装置では、まず、フィードバック位置Xをサンプリングする。そして、直近のサンプリング時刻との関係で、サンプリング時間間隔を計算し、フィードバック位置の差分を計算するとともに、フィードバック位置の差分をサンプリング時間間隔で割って、フィードバック位置の変化率(変化率A)を求める。一方で、サンプリング時刻からサーボ指令時刻までの時間差(時間差B)を計算する。そして、最後に、変化率Aに時間差Bを乗じて得られた値を、上記フィードバック位置Xに加算することによって、サーボ指令時刻の位置を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−333931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のロボット制御装置は、フィードバック位置の差分をサンプリング時間間隔で割って変化率Aを求め、単純な外挿演算のみで位置推定を行っているため、モータの速度変動に弱いという問題がある。この場合、エンコーダの測定周期を細かくすることにより、位置の推定制度を向上させることもできるが、通信周期やCPUの処理速度を速める必要があるために、コスト増となる課題がある。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、その目的は、サンプリング周期を細かくすることなく、モータの速度変動等に精度よく対応することが可能な制御システム及びこの制御システムに用いる位置推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上のような課題を解決するために、本発明は、以下のものを提供する。
【0010】
(1) 被制御体を駆動するモータと、前記モータの回転角度に基づく前記被制御体の位置データを所定の周期で検出するセンサと、前記モータをサーボ制御するサーボ制御部と、前記サーボ制御部に対して動作指令(位置指令)を発する位置制御部と、を有する制御システムであって、前記位置制御部は、前記サーボ制御部の動作指令を生成する指令生成手段と、前記センサから取得した前記位置データを取得時刻と共に記憶する位置データ記憶手段と、所定周期の前記位置データに基づいて任意の時刻における前記被制御体の位置を推定する位置推定手段と、を備え、前記位置推定手段は、時刻tにおける前記被制御体の位置f(t)を前記位置データに基づいて多項式で表し、多項式補間により任意の時刻における前記被制御体の位置を推定することを特徴とする制御システム。
【0011】
本発明によれば、位置推定手段は、時刻tにおける被制御体の位置f(t)を位置データに基づいて多項式で表し、多項式補間により任意の時刻における位置を推定するから、サンプリング周期を細かくすることなくモータの負荷変動や速度変動等にも精度よく対応することができる。
【0012】
すなわち、位置推定手段は、位置データ記憶手段に時刻とともに記憶された位置データに基づいて、時刻tにおける被制御体の位置f(t)を多項式で表すから、モータの速度が変動する場合でも位置をtの関数として忠実に表現することができ、サンプリング周期を細かくすることなく任意の時刻における位置を精度よく推定することができる。また、位置推定手段は、フィードバックされた位置データを用いて被制御体の位置を推定するから、モータの負荷変動にも影響され難く、任意の時刻における位置を精度よく推定することができる。
【0013】
(2) 前記位置推定手段は、時刻tにおける前記被制御体の位置f(t)を下記数1式の多項式で表し、該多項式の係数aを前記位置データ記憶手段に記憶された前記位置データyと取得時刻tに基づいて下記数2式によって求め、任意の時刻における前記被制御体の位置を推定することを特徴とするロボット制御システム。
【数1】

【数2】

【0014】
本発明によれば、位置データ記憶手段に記憶された位置データyと取得時刻tに基づいて、任意の時刻tにおける被制御体の位置f(t)を多項式で表すことができ、モータの速度が変動する場合でも被制御体の位置を精度よく推定することができる。
【0015】
(3) 前記位置推定手段は、3次の多項式を用いて任意の時刻における前記被制御体の位置を推定することを特徴とするロボット制御システム。
【0016】
本発明によれば、被制御体の位置を3次の多項式を用いて表すから、モータの加速時又は減速時などの速度が変動する場合でも、被制御体の位置をtの関数として正確に表現することができるから、被制御体の位置を精度よく推定することができる。また、3次の多項式を求める計算は大きな演算負荷とはならず、位置推定のための演算負荷を小さくすることができる。
【0017】
(4) 前記位置推定手段は、前記被制御体の位置を推定する任意の時刻の近傍の前記位置データに基づいて該時刻における前記被制御体の位置を推定することを特徴とする制御システム。
【0018】
本発明によれば、位置推定を行いたい任意の時刻の近傍の位置データを用いるから、位置データ記憶手段に記憶された位置データの中から位置推定を行うのに適切な位置データを選択して被制御体の位置を3次の多項式で表すことができ、モータの速度が変動する場合でも被制御体の位置を精度よく推定することができると共に、演算負荷を軽減することができる。
【0019】
(5) 前記被制御体に設けられる位置合わせマークを検出するマークセンサを備え、前記位置推定手段は、前記マークセンサが前記位置合わせマークを検出した時刻における前記被制御体の位置を推定することを特徴とする制御システム。
【0020】
本発明によれば、このセンサが位置合わせマークを検出した時刻における被制御体の位置を推定することができるから、被制御体の位置を精度よく合わせることができる。
【0021】
(6) 被制御体を駆動するモータと、前記モータの回転角度に基づく前記被制御体の位置デ
ータを所定の周期で検出するセンサと、前記モータをサーボ制御するサーボ制御部と、前記サーボ制御部に対して動作指令を発する位置制御部と、を有する制御システムにおいて、前記位置制御部は、前記サーボ制御部の動作指令を生成するとともに、前記センサから取得した前記位置データを取得時刻と共に記憶し、時刻tにおける前記被制御体の位置f(t)を前記位置データに基づいて多項式で表し、多項式補間により任意の時刻における前記被制御体の位置を推定することを特徴とする位置推定方法。
【0022】
本発明によれば、位置制御部は、前記サーボ制御部の動作指令を生成するとともに、前記センサから取得した前記位置データを取得時刻と共に記憶し、時刻tにおける前記被制御体の位置f(t)を前記位置データに基づいて多項式で表し、多項式補間により任意の時刻における前記被制御体の位置を推定するから、サンプリング周期を細かくすることなくモータの負荷変動や速度変動にも精度よく対応することができる。
【0023】
すなわち、位置制御部は、時刻とともに記憶された位置データに基づいて、時刻tにおける被制御体の位置f(t)を多項式で表すから、モータの速度が変動する場合でも位置をtの関数として忠実に表現することができ、サンプリング周期を細かくすることなく任意の時刻における位置を精度よく推定することができる。また、位置制御部は、フィードバックされた位置データを用いて被制御体の位置を推定するから、モータの負荷変動にも影響され難く、任意の時刻における位置を精度よく推定することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る制御システム及びこの制御システムに適用する位置推定方法は、以上説明したように、サンプリング周期を細かくすることなく、モータの速度変動等にも精度よく対応して、モータの速度を落とすことなく精度の高い位置推定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係るロボット制御システムのシステム構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るロボット制御システムに適用が可能なロボットを示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るアライナとチャックで保持されているウェハを示す平面図である。
【図4】本発明の実施形態に係るアライナ駆動制御の流れを示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係る位置推定手段により求めた多項式補間による推定演算を説明する図である。
【図6】そのアライナの精度試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0027】
[ロボットシステム] 図1は、本発明の実施形態に係るロボット制御システムのシステム構成を示すブロック図である。図2は、本発明の実施形態に係るロボット制御システムに適用が可能なロボットを示す図である。図3は、本発明の実施形態に係るアライナとチャックで保持されているウェハを示す平面図である。
【0028】
まず、本発明に係る制御システムの一実施形態を示すロボット制御システムを説明する前に、ロボットついての説明を行う。
【0029】
[ロボット] 図2に示すロボット6は、例えば、カセットに載置された半導体ウェハ(以下、「ウェハ」という)等のワークを成膜装置内に移動させる搬送ロボット(以下、「ロボット」という)である。また、本実施形態では、ウェハ9は被制御体となっている。
【0030】
ロボット6は、図2に示すように、関節部61、62、63により回転可能に連結された基台側アーム64、ハンド側アーム65、ハンド66を複数連結すると共に、図示しない基台に設けられた第1モータ41による回転力を基台側アーム64、ハンド側アーム65に伝達して所望の動作をさせるものである。このような構造のロボット6は、ウェハ9を載置するハンド66を常時一定方向に向けながら直線上を移動する。なお、ロボット6の構造および動作は公知なので、ここでの詳細な説明は省略する。また、ロボット6は、基台側アーム64、ハンド側アーム65、ハンド66を駆動する第1モータ41と、第1モータ41の回転角度に基づくアームの位置データを所定の周期で検出するセンサとしての第1エンコーダ42と、を備えている。なお、第1エンコーダは、第1モータ41の回転軸に固定されている。
【0031】
[アライナ] ウェハ9は移載されたカセット8に収納されている状態では、ランダムに配置されていることから、ロボット6によってカセット8からウェハ9を取り出し、ウェハ9に各種の加工を施す際には、ノッチ91の位置が正規の位置で位置決めされた状態で行なわれなければならない。そのため、カセット8から取り出されたウェハ9をウェハ9のアライナ7に搬入し、このウェハ9のアライナ7によってノッチの位置を正規の位置に一致させた後、ウェハ9を処理ステージにセットする方法が取られている。
【0032】
ロボット6が、ウェハ9をカセット8から取り出して成膜装置に搬送する際に、一般に、ウェハ9のエッジ部には位置を検出するためのノッチ91が一か所に形成されている。このウェハ9は移載されたカセット8に収納されている状態では、ランダムに配置されていることから、ウェハ9に各種の加工を施す際には、ノッチ91の位置が正規の位置で位置決めされた状態で行なわれなければならない。このウェハ9の位置合わせ、つまり、ウェハ9の角度合わせを行なう装置を、一般的にアライナ7と呼び、ウェハ9を保持軸で保持した後、半回転又は1回転させてノッチ91の位置を検出し、その検出結果に基づいて、保持軸を所定の角度回転させてウェハ9を正規の位置で角度合わせを行なっている。本実施形態では、図2及び図3に示すように、アライナ7はウェハ9のノッチ91を検出してウェハ9の向きを合わせる装置である。本実施形態では、ウェハ9を回転させ所定の方向を向くように調整するアライナ7は、ロボット6がウェハ9を搬送し得る範囲内に設置される。
【0033】
アライナ7は、載置されたウェハ9を回転させその縁部に設けられているノッチ91を検出することにより、載置された全てのウェハ9(のノッチ91)の向き・保持角度を合わせるというオリエンテーション機能を有している。本実施形態では、アライナ7は、ウェハ9を載置すると共に一体的に回転するターンテーブル71と、ウェハ9を載置したターンテーブル71を駆動する第2モータ43と、第2モータ43の回転角度データに基づく位置データを検出するセンサとしての第2エンコーダ44と、ノッチ91を検出するノッチセンサ73と、を有している。また、本実施形態には、図2及び図3に示すように、ターンテーブル71は、複数のチャック72(図2及び図3では6箇所に)を有し、ウェハ9の周囲をクランプしてターンテーブル71との偏心がなく同心上にターンテーブル71に載置される。
【0034】
[ノッチセンサの構成] ウェハ9には、図2及び図3に示すように、ウェハ9の円周方向における正規な位置を表す目印、位置決め部位として、V字状またはU字状に切り欠かれたノッチ91が外周部に形成されている。本実施形態では、ウェハ9に形成されたノッチ91を検出するノッチセンサ73は、図2において、ターンテーブル71の左側の位置に設けられている(図3では左上側)。このノッチセンサ73は、発光素子と受光素子とからなるフォトセンサであり、具体的には、検出光を照射するLEDと、その照射光の反射光を検知するフォトダイオードと、これらLED及びフォトダイオードに出入りする光線をウェハ9に対して案内する光路筒とを備えている。このため、ハンド66が保持したウェハ9の縁部に対しLEDの検出光が照射し、縁部により反射した場合は反射光がフォトダイオードに入射し、ノッチ91を通過して反射しない場合はフォトダイオードでの入射がなされない。これにより、ノッチ91の位置を検出する。
【0035】
[ロボット制御システムの構成] 本発明に係るロボット制御システム1は、半導体製造工程において(半導体)ウェハ等をカセットから取り出して成膜装置に搬送するロボットの動作を制御する。図1は、本発明の実施形態に係るロボット制御システムのシステム構成を示すブロック図である。
【0036】
ロボット制御システム1は、ウェハ9を搬送するロボット6(のアーム)の駆動及びウェハ9の向きを合わせるためのアライナ7の駆動を制御している。 本実施形態では、図1に示すように、ロボット制御システム1は、主として、位置制御部2と、サーボ制御部3と、被制御体を駆動する駆動部4(第1モータ41、第1エンコーダ42、第2モータ43、第2エンコーダ44)と、通信回線5とを有している。
【0037】
このロボット制御システム1は、ロボットの関節を回動させる第1モータ41やアライナ7を回動させる第2モータ43をサーボ制御するサーボ制御器31、32に対して動作指令(位置指令)を行う。一方で、ロボットの関節やアライナ7は、第1、第2モータ41、43の回転角を測定する第1、第2エンコーダ42、44を有しており、位置制御部2は、サーボ制御部3(サーボ制御器31、32)を介して、この第1、第2エンコーダ42、44から送られてくるフィードバックされる位置データ(回転角測定値など)を参照してサンプリングしつつ、目標値と実測値との偏差を認識してサーボ制御を行う。
【0038】
[位置制御部の構成] 位置制御部2は、第1、第2サーボ制御器31、32への動作指令を生成するとともに、各サーボ制御器31、32に動作指令を送信する指令生成手段21と、各サーボ制御器31等から送られてくるフィードバックされた位置データ(フィードバックデータ)を所定周期で受信し、受信した位置データ(フィードバックデータ)を取得時刻と共に記憶する位置データ記憶手段22とを有している。 さらに、位置制御部2は、位置データ記録手段22が受信し、記憶した所定周期の位置データ(フィードバックデータ)に基づいて任意の時刻における駆動部4の位置を推定する位置推定手段23を備えている。
【0039】
[位置推定手段の構成] 本実施形態では、位置推定手段23は、図1に示すように、位置データ抽出手段24と、多項式算出手段25と、推定位置算出手段26と、を有している。
【0040】
位置データ抽出手段24は、駆動部4の位置推定を行う時刻tkの近傍時刻の位置データを抽出する。抽出する位置データ数は、補間する多項式の次数nに対応し、少なくとも、多項式の次数nに対して、位置データの個数は、(n+1)必要となる。なお、本実施形態では、ウェハ9のノッチ91の位置を推定するので、駆動部4は、アライナ7のターンテーブル71を回転する第2モータ43及び第2エンコーダ44となっている。
【0041】
多項式算出手段25は、時刻tにおけるウェハ9のノッチ91(アライナ7の第2モータ43)の位置f(t)を数3式に示すようにn次の多項式で表す。多項式の次数nは、位置データ抽出手段24が抽出した位置データの個数−1であり、例えば4個の位置データを抽出した場合にはn=3となる。
【数3】

【0042】
多項式算出手段25は、数3式に示す多項式の係数aを位置データ抽出手段24で抽出したn+1個の位置データyとそれぞれの位置データyに対応する取得時刻tに基づいて数4式によって求め、ノッチ91(第2モータ43)の位置f(t)を表す多項式を算出する。
【数4】

【0043】
推定位置算出手段26は、多項式算出手段25が算出した多項式に基づいて、位置推定を行う時刻tkにおけるノッチ91(第2モータ43)の位置f(tk)を算出する。ノッチ91(第2モータ43)の位置推定を行う時刻tkは、推定を行う時点より前の任意の時刻を設定することが可能である。
【0044】
[サーボ制御部の構成] サーボ制御部3は、指令生成手段21からの動作指令を基に駆動部4を駆動制御する。本実施形態では、サーボ制御部3は、
ロボット6のアームなどを駆動させる第1モータ41を駆動制御する第1サーボ制御器31と、アライナ7に設けられたターンテーブル71を駆動させる第2モータ43を駆動制御する第2サーボ制御器32と、を有している。
【0045】
[モータ及びエンコーダ] 駆動部4は、サーボ制御部3からの制御信号に基づいて、所定動作を駆動する。本実施形態では、駆動部4は、図2に示すように、第1モータ41及び第1エンコーダ42、第2モータ43及び第2エンコーダ44である。第1モータ41はロボット6の基台側アーム64の関節部61に連結している。また、第1モータ41には、その回転軸に第1エンコーダ42が配置され、第1モータ41の回転角度データに基づく位置データを検出している。 また、第2モータ43は、アライナ7に設けられたターンテーブル71に連結されている。この第2モータ43には、その回転軸に第2エンコーダ44が配置され、第2モータ43の回転角度データに基づく位置データを検出している。
【0046】
[通信回線] 符号5は、通信回線である。本実施形態では、図1に示すように、位置制御部2から、サーブ制御部3、駆動部4等への各種指令は、シリアル伝送によって送られる。すなわち、本実施形態では、位置制御部2とサーボ制御部3とが構成するサーボ制御器31とが(有線又は無線によって)電気的に接続されている。次に、サーボ制御器31はサーボ制御器32とが(有線又は無線によって)電気的に接続されている。これにより、位置制御部2からサーボ制御器32への指令は、サーボ制御器31を介して送られることになる。このようなシリアル伝送とすることで、ロボット制御システム1において、信号の入出力が1系統で足りることから、配線の複雑化を防ぐことができるようになっている。本実施形態では、通信回線5の通信周期4[msec]となっている。
【0047】
また、第1、第2エンコーダ42、44は、それぞれ第1、第2モータ41、43と(有線又は無線によって)電気的に接続されている。第1、第2エンコーダ42、44によって測定された位置データ(回転角測定値など)は、通信回線5で接続されるサーボ制御部3(サーボ制御器31、32)を介して位置制御部2へ送られる。
【0048】
[ロボットの動作] 次に、ロボット6によりウェハ9をカセット8から取り出してアライナ7でウェハ9の向き・保持角度を合わせるいわゆるオリエンテーション作業を行い、オリエンテーション作業後、第2の位置であるプロセス装置(図示せず)に載置する動作を説明する。
【0049】
カセット8からプロセス装置(図示せず)にウェハ9を移載する際、カセット8に、ロボット6のハンド66を差し入れてウェハ9を引き出す。次いで、ロボット6の基台側アーム64及びハンド側アーム65を回転させてウェハ9の中心をアライナ7のターンテーブル71に載置する。アライナ7は、ウェハ9が載置された場合、原点位置(基準位置)にいる状態となっている。具体的には、この原点位置(基準位置)は、第2モータ43の位置検出する第2エンコーダ44が、この位置(角度)にあるときを0°としている。ターンテーブル71は、図3に示すように、ウェハ9の外周をチャック72を用いて保持し、保持完了後、そのまま回転する。そして、アライナ7のノッチセンサ73がウェハ9の縁に形成されたノッチ91をノッチセンサ73(フォトセンサ)で検出する。ウェハ9のノッチ91がノッチセンサ73を通過した位置を位置データ記憶手段22に記憶してウェハ3の位置合わせに使用する。この検出結果に基づいて、ウェハ9をアライナ7に対して所定の向きで支持させる。その後、チャック72が離間し、ハンド66がアライナ7のウェハ9を持ち上げて、プロセス装置に載置する。ここで、予めウェハ9をアライナ7に対して所定の向きにして支持させておくことにより、ウェハ9をプロセス装置に対して所定の向きにして載置する。ロボット6が作業している間にアライナ7は原点位置(基準位置)に戻って待機する。なお、これらの動作をウェハ9ごとに繰り返す。
【0050】
[位置推定方法] 次に、本発明の実施形態に係るロボット制御システムを使用した位置推定方法について、図4及び図5に示すアライナ7の駆動制御を用いて説明する。図4は、本発明の実施形態に係るアライナ駆動制御の流れを示すフローチャートである。図5は、本発明の実施形態に係る位置推定手段により求めた多項式補間による推定演算を説明する図である。図5において、縦軸は第2エンコーダ44の位置(角度)であり、0は原点位置(基準位置)を示し、横軸は時刻を示す。
【0051】
図4に示すフローチャートにおいて、スタートは、ロボット6のハンド66がウェハ9をターンテーブル71に載置し、アライナ7のチャック72がウェハ9の外周を保持した状態である。このとき、第2モータ43及び第2エンコーダ44は原点位置(基準位置)で停止している。
【0052】
第2モータ43が位置制御部2の指令生成手段21の動作指令に基づき、第2サーボ制御器32の制御信号により回転する。これにより、ターンテーブル71に載置されたウェハ9が回転する。アライナ7に設置されたノッチセンサ73が、ウェハ9のノッチ91を検出すると(図3参照)、検出した時刻tk(図5参照)を、位置制御部2に送信され、時刻tkを位置データ記憶手段22で記憶する(S1)。このとき、図5に示すように、第2モータ43の回転位置は、第2エンコーダ44で検出されるが、4msの周期でサンプリングされている。このため、ノッチセンサ73が検出した時刻tkの位置は、サンプリングの周期と一致していないので、正確な位置は検出されていない状態である。
【0053】
アライナ7は、ウェハ9を約1回転させて、4msの周期で位置データをサンプリングする。例えば、図4に示すように、(時刻、回転位置)=(t0、y0)、(t1、y1)、(t2、y2)、(t3、y3)、・・・・・と4ms毎にその回転位置を第2エンコーダ44の出力信号を位置制御部2に送信し、位置データ記憶手段22が時刻と位置データを記憶する。約1回転後、第2モータ43を停止する。
【0054】
位置推定手段23は、位置制御部2を介してノッチ31の検出信号(時刻tk)を受信すると、位置データ抽出手段24が、時刻tkの前後2周期ずつの4個の位置データを位置データ記憶手段22から抽出する(S2)。すなわち、図4に示すように、時刻tkの前後2周期ずつの位置データとしての(時刻、回転位置)=(t0、y0)、(t1、y1)、(t2、y2)、(t3、y3)を抽出する。
【0055】
多項式算出手段25は、時刻tにおけるウェハ9の位置f(t)を上述の数3式に示すようにn次の多項式で表す。本実施形態では、第2モータ43の位置を、第2モータ43の加速又は減速に対応するために、3次の多項式で補間するようにしている。この場合、多項式の次数n=3であるので、位置データ抽出手段24が抽出した位置データの個数は、次数n+1=4個としている。
【0056】
位置データ抽出手段24は、多項式算出手段25の演算負荷を少なくするとともに、第2モータ43の速度変動に精度よく対応できるように、4個の位置データを抽出している。さらに、抽出する位置データは、時刻tkの前後2周期ずつの位置データを抽出している。なお、抽出する位置データは、位置推定を行う時刻tkの近傍時刻のものであればよく、位置データ抽出手段24は、任意の位置データを抽出してもよい。
【0057】
多項式算出手段25は、数3式に示す多項式の係数aを位置データ抽出手段24で抽出した4個の位置データyとそれぞれの位置データyに対応する取得時刻tに基づいて上述の数4式によって求め、第2モータ43の回転位置f(t)を表す3次の多項式を算出する(S3)。図4において、4つの位置(y0、y1、y2、y3)を通過する線が3次の多項式となる。
【0058】
推定位置算出手段26は、多項式算出手段25が算出した3次多項式に基づいて、ノッチセンサ73がノッチ91を検出した時刻tkにおける第2モータ43(ウェハ9)の位置f(tk)を算出する(S4)。すなわち、算出された位置f(tk)が、ターンテーブル71に載置されたウェハ9のノッチ91の位置と推定する。
【0059】
(実施形態の主な効果) 本実施形態では、ロボット制御システム1は、アライナ7を駆動する第2モータ43の加速又は減速に対応するために、回転位置と時刻との関係を3次の多項式で補間して、ノッチセンサ73で検出した時刻tkにおけるウェハ9(ノッチ91)の位置を推定したので、ウェハ9の位置合わせを精度よく行うことができる。 また、3次の多項式を求めるために、時刻tkの前後2周期ずつの位置データを抽出し、これら位置データを用いて、位置を推定したので、第2モータ43の速度のブレにも精度よく対応できる。
【0060】
さらに、位置推定手段23は、第2モータ43の加減速時や負荷変動時でも、ウェハ9のノッチ91の位置を精度よく推定することができ、ウェハ9を載置するターンテーブル71を高速制御することができる。すなわち、ロボット制御システム1は、位置の精度と高速さの両立が要求されるロボット6においても、コストを低く抑えつつ、位置合わせの精度と速度を向上させることができる。
【0061】
本実施形態では、ロボット制御システム1は、通信回線5の通信周期4[msec]で位置情報を得ることにしたので、第2モータ43が高速で動作すればするほど、位置の精度が悪化する。このようにある位置でノッチセンサ73の入力があった場合に、その位置は直前に取得した位置と同じになってしまうため、このセンサ入力位置を正確に知るには、第2エンコーダ44のサンプリング周期を従来よりもさらに細かくし、ノッチセンサ73の入力時刻から位置を推定する必要があった。
【0062】
そこで、本実施形態では、第2モータ43(ウェハ9)の位置を時間の多項式とみなすことにより、4[msec]周期で取得した位置データとその時刻から多項式の係数を導き出すことができ、任意の時刻における位置を推定することができる。この多項式補間による推定演算によって、位置分解能の向上につながり、第二モータ43の移動が高速であっても高精度で位置決めを行うことが可能である。
【0063】
本実施形態に示すロボット6は、ロボット6によりウェハ9がアライナ7のターンテーブル71に載置されると、ロボット6は待機しているのではなく、他の仕事をしているように設定されており、この間に、アライナ7は、ウェハ9の位置合わせを行うようにしている。このため、アライナ7の位置合わせ精度は、スループット向上の面から重要なファクタとなっている。具体的には、アライナ7には、僅か3秒の位置決め時間において、0.02度の位置合わせ精度が要求されている。この位置決め要求時間(3秒)内に、ウェハ9の位置決めを完了させるために、アライナ7は、ウェハ9を100[rpm]で回転させる必要がある。しかし、通信周期4[msec]の通信回線5を用いた廉価なシステム構成では、最大誤差が0.02度を超えてしまう。アライナ7が半導体ウェハ9を100[rpm]で回転させた場合に、最大誤差を0.02度以内に抑えるには、500[us]の分解能でセンサ入力をモニタして推定制御する必要がある。
【0064】
以下、本実施形態の効果を実験データに基づいて説明する。アライナ7は、通信周期4[msec]の通信回線5を用いている。ロボット制御システム1では、位置決め時間3秒以内を満たすために、第二モータ43(ウェハ9)を100[rpm]で回転させ、アライナ7に画像処理用のカメラを設置して繰り返し試験を行った。図6は、この精度試験結果を示す図である。図6に示すように、ロボット制御システム1を使用したアライナ7は、要求精度0.02度に対して、誤差を±3σ=0.0082度に抑えることができた。このように、ロボット制御システム1によれば、アライナ7は、通信周期4[msec]の廉価な通信回
線5を用いた構成でも、多項式補間を用いて位置推定制御を行うことで、高速・高精度の位置決めが可能となり、スループットの短縮に貢献することができると判断できる。
【0065】
また、ロボット制御システム1は、汎用品である廉価な通信手段やCPUを用いて構成することができ、安価な制御システムによって精度のよい位置推定を行うことができる。 一般に、ロボット制御システム1に対する要求は、価格の安さと高速・高精度であり、特に、高速・高精度が重要な性能となる。一方、システムの価格を抑えるために安価なハードウェア構成を用いると、その性能(高速・高精度)には限界が生じる。例えば、液晶や半導体製造工程において用いられるロボット制御システム1には、あまり高速ではない通信回線5を使用している。このため、通信回線5を使用したロボット制御システム1は、通信周期の制限によって、位置の分解能に限界が生じてしまうという問題がある。
【0066】
本実施形態に示す位置推定手段23を用いて、ノッチ91の位置と時刻との関係を3次の多項式で補間することで、システム制御に用いられる安価なハードウェアによる性能限界を、ソフト的に位置推定を行うことにより性能(高速・高精度)を高めたものである。
【0067】
(他の実施形態について) 図1に示すロボット制御システム1では、説明の便宜上、第1モータ41及び第2モータ43で説明したが、これに限定されるものではない。 また、本実施形態では、アライナ7の第2モータ43の位置を推定することで、ターンテーブル71に搭載されたウェハ9のノッチ91の位置を推定しているがこれに限定されるものではない。例えば、本実施形態に示すロボット6のアームがウェハ9を搭載してターンテーブル71に搭載する位置、またはカセット8に搭載または取り出す位置を、アームを駆動する第1モータ41の位置を推定してもよい。
【0068】
本実施形態に示す位置推定手段23では、位置推定を行う時刻tkは、推定を行う時点より前の任意の時刻を設定しているが、これに限定されるものではない。例えば、位置推定手段23は、位置データ(フィードバックデータ)に基づいて外挿演算を行う外挿演算手段を備えていてもよく、外挿演算手段によりモータの現在又は将来の位置を推定するようにしてもよい。これにより、モータの負荷変動や速度変動にも精度よく対応することができると共に、外挿演算により被制御体の現在又は将来の位置も推定することができる。
【0069】
駆動部を構成する第1モータ及び第1エンコーダまたは第2モータ及び第2エンコーダは、物理的に1ユニットになっていることを要求するものではない。本実施形態では、モータの回転角度に基づく位置データを検出する「センサ」として、エンコーダを採用しているが、その他、位置データを検出し得るものであれば、如何なる装置・機器であってもよい。
【0070】
本実施形態では、ウェハ9には、ウェハ9の円周方向における正規な位置を表すマークとして、V字状またはU字状に切り欠かれたノッチ等が外周部に形成されている。ウェハのエッジ部には位置を検出するため、弦状に切り欠かれたオリフラでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る制御システム及びこの制御システムに用いる位置推定方法は、サンプリング位置データから任意の時刻の位置を推定する推定器の演算負荷を小さくすることができると共に、モータの負荷変動や速度変動にも精度よく対応することが可能なものとして有用である。
【符号の説明】
【0072】
1 制御システム 2 位置制御部 21 指令生成手段 22 位置データ記憶手段 23 位置推定手段 24 位置データ抽出手段 25 多項式算出手段 26 推定位置算出手段 3 サーブ制御部 31 第1サーボ制御器 32 第2サーボ制御器 4 駆動部 41:第1モータ 42:第1エンコーダ(センサ) 43:第2モータ 44:第2エンコーダ(センサ) 5 通信回線 6 ロボット 61、62、63 関節部 64 基台側アーム部 65 ハンド側アーム部 66 ハンド 7 アライナ 71 ターンテーブル 72 チャック 73 ノッチセンサ(位置決めマークを検出するセンサ) 8 カセット 9 (半導体)ウェハ(ワーク) 91 ノッチ(位置決めマーク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被制御体を駆動するモータと、前記モータの回転角度に基づく前記被制御体の位置データを所定の周期で検出するセンサと、前記モータをサーボ制御するサーボ制御部と、前記サーボ制御部に対して動作指令(位置指令)を発する位置制御部と、を有する制御システムであって、 前記位置制御部は、前記サーボ制御部の動作指令を生成する指令生成手段と、前記センサから取得した前記位置データを取得時刻と共に記憶する位置データ記憶手段と、所定周期の前記位置データに基づいて任意の時刻における前記被制御体の位置を推定する位置推定手段と、を備え、 前記位置推定手段は、時刻tにおける前記被制御体の位置f(t)を前記位置データに基づいて多項式で表し、多項式補間により任意の時刻における前記被制御体の位置を推定することを特徴とする制御システム。
【請求項2】
前記位置推定手段は、時刻tにおける前記被制御体の位置f(t)を下記数1式の多項式で表し、該多項式の係数aを前記位置データ記憶手段に記憶された前記位置データyと取得時刻tに基づいて下記数2式によって求め、任意の時刻における前記被制御体の位置を推定することを特徴とする請求項1記載の制御システム。
【数1】

【数2】

【請求項3】
前記位置推定手段は、3次の多項式を用いて任意の時刻における前記被制御体の位置を推定することを特徴とする請求項1又は2記載の制御システム。
【請求項4】
前記位置推定手段は、前記被制御体の位置を推定する任意の時刻の近傍の前記位置データに基づいて該時刻における前記被制御体の位置を推定することを特徴とする請求項3記載の制御システム。
【請求項5】
前記被制御体に設けられる位置合わせマークを検出するマークセンサを備え、 前記位置推定手段は、前記マークセンサが前記位置合わせマークを検出した時刻における前記被制御体の位置を推定することを特徴とする請求項1から4記載の制御システム。
【請求項6】
被制御体を駆動するモータと、前記モータの回転角度に基づく前記被制御体の位置データを所定の周期で検出するセンサと、前記モータをサーボ制御するサーボ制御部と、前記サーボ制御部に対して動作指令を発する位置制御部と、を有する制御システムにおいて、 前記位置制御部は、前記サーボ制御部の動作指令を生成するとともに、前記センサから取得した前記位置データを取得時刻と共に記憶し、時刻tにおける前記被制御体の位置f(t)を前記位置データに基づいて多項式で表し、多項式補間により任意の時刻における前記被制御体の位置を推定することを特徴とする位置推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−38312(P2012−38312A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171488(P2011−171488)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】