説明

動力伝達装置

【課題】動力伝達装置に用いられる複数の係合機構の構成および配置を改良することにより、装置の小型化を図ることができる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】係合・解放状態を選択的に設定可能な複数の係合機構102,103と、それら複数の係合装置102,103の係合・解放状態をそれぞれ制御することにより入力軸11の回転状態に対する出力軸25の回転状態を選択的に設定する回転伝動機構101とを備えた動力伝達装置8において、前記複数の係合機構102,103が、いずれも前記回転伝動機構101の径方向に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、係合機構の係合・解放状態を切り換えて、入力側から出力側への動力伝達状態を選択的に設定する動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の走行状態に応じた最適の条件でエンジンを運転することを目的として、変速比を無段階(連続的)に制御することのできる無段変速機がある。そのような無段変速機として、ベルト式無段変速機、あるいはトロイダル式無段変速機などが知られている。このうち、ベルト式無段変速機は、平行に配置された2つの回転部材と、各回転部材に別々に取り付けたプライマリプーリおよびセカンダリプーリとを有している。このプライマリプーリおよびセカンダリプーリは、共に、固定シーブと可動シーブとを組み合わせて構成されており、固定シーブと可動シーブとの間にV字形状の溝が形成されている。
【0003】
また、プライマリプーリの溝およびセカンダリプーリの溝にベルトが巻き掛けられているとともに、プライマリプーリのベルト支持部材およびセカンダリプーリのベルト支持部材に軸線方向の押圧力を作用させる油圧室が別個に設けられている。そして、各油圧室の油圧をそれぞれ独立して制御することにより各プーリの溝幅が調整されると、各プーリの溝幅が変化することで、各プーリに対するベルトの巻き掛け半径が変化する。すなわち、プライマリシャフトとセカンダリシャフトとの回転速度の比、すなわち変速比が制御される。また、このベルトの巻き掛け半径の制御により、ベルトの張力が変化し、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間で伝達されるトルクが調整される。
【0004】
ところで、上記のようなベルト式無段変速機においては、エンジンの回転方向が一方向に限られているため、前後進切換機構が設けられている。すなわち、エンジンの回転方向を、車両を前進させる方向の回転方向と車両を後進させる方向の回転方向とに選択的に切り換えて、エンジン側すなわち入力側からの動力を駆動輪側すなわち出力側へ伝達する動力伝達装置である前後進切換機構が設けられている。その前後進切換機構の一例として、シングルピニオン形式の遊星歯車機構およびフォワードクラッチならびにリバースブレーキによって構成されている前後進切換機構を備えた「ベルト式無段変速機」に関する発明が、特許文献1に記載されている。
【0005】
この特許文献1に記載されている前後進切換機構は、内燃機関(エンジン)からの出力トルクをベルト式無段変速機のプライマリプーリに伝達するように構成されていて、遊星歯車機構のリングギヤと内燃機関のクランク軸とがトルクコンバータを介して連結されていて、遊星歯車機構のサンギヤとベルト式無段変速機のプライマリシャフトとがスプライン嵌合により連結されている。また、リングギヤとサンギヤとの間の動力伝達経路を接続・遮断するフォワードクラッチが設けられている。そして、遊星歯車機構のキャリアの回転を許容・固定するリバースブレーキがトランスアクスルケースに固定されるように設けられている。
【0006】
また、特許文献2には、無段変速機の従動軸上に回転自在に配置された前進用ギヤおよび後進用ギヤと、それら前進用ギヤと後進用ギヤとの中間に配置されたハブと、前進用ギヤおよび後進用ギヤの一方をハブと選択的に連結する前後進切換スリーブとが備えられていて、前後進切換スリーブをシフトさせて、スリーブと前進用ギヤあるいは後進用ギヤのギヤスプラインとを噛み合わせることで、前進段あるいは後進段を設定するように構成された「前後進切換装置」に関する発明が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2005−320996号公報
【特許文献2】特開2005−240858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1に記載されているベルト式無段変速機の前後進切換機構は、フォワードクラッチおよびリバースブレーキの2組の油圧式係合機構が、遊星歯車機構の各回転要素を係合(もしくは固定)・解放することによって、エンジンの回転方向を切り換えて、車両の前後進の切り換えを行うように構成されている。すなわち、前進の場合には、遊星歯車機構のサンギヤとリングギヤとが一体回転するように、フォワードクラッチが係合され、後進の場合には、遊星歯車機構のキャリアの回転が固定されるように、リバースブレーキが係合される。
【0009】
このように、特許文献1に記載されている前後進切換機構では、前後進の切り換えを行うために、2組の油圧式係合機構を、それぞれ異なった遊星歯車機構の回転要素の係合・解放ができるように、別々に設ける必要があるため、遊星歯車機構の軸方向に大きなスペースを確保しなければならなくなる。その結果、フォワードクラッチやリバースブレーキなどの複数の係合機構と前後進切換機構などの回転伝動機構とにより構成される動力伝達装置の体格が大きくなってしまい、動力伝達装置の小型化を阻害する要因となっていた。
【0010】
また、特許文献2に記載されている前後進切換機構では、前進用ギヤと後進用ギヤとハブと前後進切換スリーブとによるかみ合い式係合機構、および無段変速機の従動軸と車輪に連結された出力軸との間の動力伝達経路を伝達・遮断する発進クラッチなどが、無段変速機の従動軸上に、直列に配置されている。そのため、無段変速機の軸方向に大きなスペースを確保しなければならず、この特許文献2に記載されている前後進切換機構においても、かみ合い式係合機構や発進クラッチなどの複数の係合機構と前後進切換機構などの回転伝動機構とにより構成される動力伝達装置の体格が大きくなってしまい、動力伝達装置の小型化を阻害する要因となっていた。
【0011】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、動力伝達装置に用いられる複数の係合機構の構成および配置を改良することにより、装置の小型化を図ることができる動力伝達装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、係合・解放状態を選択的に設定可能な複数の係合機構と、それら複数の係合機構の係合・解放状態をそれぞれ制御することにより入力軸の回転状態に対する出力軸の回転状態を選択的に設定する回転伝動機構とを備えた動力伝達装置において、前記複数の係合機構は、いずれも前記回転伝動機構の回転軸の径方向に並んで配置されていることを特徴とする動力伝達装置である。
【0013】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記回転伝動機構が、同じ回転方向で前記入力軸のトルクを前記出力軸へ伝達する正転状態と、回転方向を反転させて前記入力軸のトルクを前記出力軸へ伝達する反転状態とを選択的に設定する機能を備えていることを特徴とする動力伝達装置である。
【0014】
また、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記複数の係合機構が、第1摩擦部材と第2摩擦部材とを互いに摩擦接触させることにより係合する摩擦クラッチと、第1嵌合部材と第2嵌合部材もしくは第3嵌合部材とを互いに嵌合させることにより係合するかみ合いクラッチとにより構成されていること特徴とする動力伝達装置である。
【0015】
また、請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記かみ合いクラッチが、前記摩擦クラッチの外径側に配置されていることを特徴とする動力伝達装置である。
【0016】
また、請求項5の発明は、請求項3または4の発明において、前記摩擦クラッチが、複数の第1摩擦部材および第2摩擦部材により構成される多板クラッチであり、前記複数の第1摩擦部材を保持する保持部材と、前記第1嵌合部材とが一体に形成されていることを特徴とする動力伝達装置である。
【0017】
また、請求項6の発明は、請求項3ないし5のいずれかの発明において、前記回転伝動機構が、第1回転要素が前記入力軸および前記第2嵌合部材に連結され、第2回転要素が前記出力軸に連結され、第3回転要素が前記第2摩擦部材に連結された遊星歯車機構により構成されていて、前記複数の係合機構が、前記第1嵌合部材と前記第2嵌合部材とを嵌合させて前記かみ合いクラッチを選択的に係合することにより前記第1回転要素と前記第3回転要素とを連結し、前記第1嵌合部材と前記第3嵌合部材とを嵌合させて前記かみ合いクラッチを選択的に係合することにより前記第3回転要素の回転を規制するとともに、前記摩擦クラッチを選択的に係合することにより前記第3回転要素と前記第1嵌合部材とを連結する機能を備えていることを特徴とする動力伝達装置である。
【0018】
また、請求項7の発明は、請求項6の発明において、前記複数の係合機構が、前記かみ合いクラッチを解放する場合に、前記摩擦クラッチを解放する機能を備えていることを特徴とする動力伝達装置である。
【0019】
また、請求項8の発明は、請求項6または7の発明において、前記複数の係合機構が、前記第1嵌合部材と前記第2嵌合部材とを嵌合させて前記かみ合いクラッチを係合する場合に、前記摩擦クラッチを予め係合して前記第1嵌合部材と前記第2嵌合部材との回転を同期させる機能を備えていることを特徴とする動力伝達装置である。
【0020】
また、請求項9の発明は、請求項6ないし8のいずれかの発明において、前記回転伝動機構が、前記第1回転要素がサンギヤであり、前記第2回転要素がリングギヤであり、前記第3回転要素がキャリアであるシングルピニオン形式の遊星歯車機構により構成されていることを特徴とする動力伝達装置である。
【0021】
また、請求項10の発明は、請求項6ないし8のいずれかの発明において、前記回転伝動機構が、前記第1回転要素がリングギヤであり、前記第2回転要素がサンギヤであり、前記第3回転要素がキャリアであるシングルピニオン形式の遊星歯車機構により構成されていることを特徴とする動力伝達装置である。
【0022】
そして、請求項11の発明は、請求項6ないし8の発明において、前記回転伝動機構が、前記第1回転要素がサンギヤであり、前記第2回転要素がキャリアであり、前記第3回転要素がリングギヤであるダブルピニオン形式の遊星歯車機構により構成されていることを特徴とする動力伝達装置である。
【発明の効果】
【0023】
したがって、請求項1の発明によれば、回転伝動機構の回転状態を設定するために係合解放・状態がそれぞれ制御される複数の係合機構が、回転伝動機構の回転軸の径方向に並べられて配置される。言い換えると、回転伝動機構と複数の係合機構とが、回転伝動機構の回転軸に垂直な平面上に並べられて配置される。そのため、複数の係合機構を、回転伝動機構すなわち動力伝達装置の軸方向においてほぼ同じ位置に配置することができ、その結果、動力伝達装置の軸方向の長さを短縮し、動力伝達装置の小型化を図ることができる。
【0024】
また、請求項2の発明によれば、回転伝動機構が、正転状態と反転状態とを選択的に設定してトルクを伝達する機能を有している。そのため、例えば、正転・逆転切換機構、あるいは車両用の変速機に用いられる前後進切換機構などの動力伝達装置の小型化を図ることができる。
【0025】
また、請求項3の発明によれば、回転伝動機構の回転軸の径方向に並べられて配置される複数の係合機構として、摩擦クラッチとかみ合いクラッチとが用いられる。このうち、かみ合いクラッチは、例えばスプラインなどで構成することにより摩擦クラッチと比較して径方向の長さを短縮することができるため、そのようなかみ合いクラッチを用いることで、複数の係合機構を径方向に並べて配置しても、径方向の大型化を抑制し、動力伝達装置の小型化を図ることができる。
【0026】
また、請求項4の発明によれば、複数の係合機構として、回転伝動機構の回転軸の径方向でその回転伝動機構の外径側に、摩擦クラッチが配置され、その摩擦クラッチの外径側に、かみ合いクラッチが配置される。そのため、摩擦クラッチとかみ合いクラッチとを、回転伝動機構(動力伝達装置)の軸方向においてほぼ同じ位置に配置することができ、その結果、動力伝達装置の軸方向の長さを短縮し、動力伝達装置の小型化を図ることができる。
【0027】
また、請求項5の発明によれば、複数の係合機構のうち、一方の摩擦クラッチが、複数の第1摩擦部材と第2摩擦部材とを交互に対向させて配置した多板クラッチにより構成され、その多板クラッチの複数の第1摩擦部材を保持する保持部材が、他方のかみ合いクラッチの第1嵌合部材と一体化されて、言い換えると、多板クラッチの保持部材とかみ合いクラッチの第1嵌合部材とが一つの部材で共用化されて形成されている。そのため、摩擦クラッチおよびかみ合いクラッチを構成する部品点数を削減することができるとともに、動力伝達装置の小型化を図ることができる。
【0028】
また、請求項6の発明によれば、回転伝動機構が、入力軸とかみ合いクラッチの第2嵌合部材とに連結された第1回転要素、および出力軸に連結された第2回転要素、および摩擦クラッチの第2摩擦部材に連結された第3回転要素を有する遊星歯車機構によって構成される。そして、かみ合いクラッチを選択的に係合することで、第1回転要素と前記第3回転要素とが連結され、もしくは第3回転要素の回転が規制される。そのため、摩擦クラッチおよびかみ合いクラッチの係合・解放状態をそれぞれ制御することにより、遊星歯車機構の第1ないし第3の各回転要素の回転状態を選択的に設定すること、すなわち、動力伝達装置の入力軸の回転状態に対する出力軸の回転状態を選択的に設定することができる。
【0029】
また、請求項7の発明によれば、かみ合いクラッチが解放される場合、すなわち、かみ合いクラッチの第1嵌合部材が、第2嵌合部材および第3嵌合部材のいずれにも嵌合しない状態にされる場合に、摩擦クラッチが解放される。そのため、かみ合いクラッチの解放時に、例えば外乱などの影響により、意図しないかみ合いクラッチの係合や、第1嵌合部材と第2嵌合部材もしくは第3嵌合部材との干渉を防止もしくは抑制することができる。
【0030】
また、請求項8の発明によれば、第1嵌合部材と、入力軸と一体回転する第2嵌合部部材とを嵌合してかみ合いクラッチが係合される場合に、摩擦クラッチを予備的に係合することにより、第1嵌合部材と入力軸との回転、すなわち第1嵌合部材と第2嵌合部材との回転が同期される。そのため、第1嵌合部材と第2嵌合部材との嵌合によるかみ合いクラッチの係合をスムーズに行うことができ、係合ショックの発生を回避することができる。
【0031】
また、請求項9の発明によれば、回転伝機構を構成する遊星歯車機構として、サンギヤ、リングギヤ、キャリアが、それぞれ第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素であるシングルピニオン形式の遊星歯車機構が用いられる。その場合、例えば第1嵌合部材と第3嵌合部材とを嵌合させてかみ合いクラッチを係合し、第3回転要素すなわちキャリアの回転を規制することによって、入力軸と一体回転するサンギヤに入力されるトルクが、回転方向が反転され、かつ減速されて、リングギヤから出力されて出力軸へ伝達される。そのため、入力軸の回転状態を反転させて前記出力軸へ伝達する反転状態を設定する場合に、入力軸のトルクを増幅させて出力軸へ伝達することができる。
【0032】
また、請求項10の発明によれば、回転伝機構を構成する遊星歯車機構として、リングギヤ、サンギヤ、キャリアが、それぞれ第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素であるシングルピニオン形式の遊星歯車機構が用いられる。その場合、例えば第1嵌合部材と第3嵌合部材とを嵌合させてかみ合いクラッチを係合し、第3回転要素すなわちキャリアの回転を規制することによって、入力軸と一体回転するリングギヤに入力されるトルクが、回転方向が反転され、かつ増速されて、サンギヤから出力されて出力軸へ伝達される。そのため、入力軸の回転状態を反転させて前記出力軸へ伝達する反転状態を設定する場合に、入力軸のトルクを低下させて出力軸へ伝達することができる。
【0033】
そして、請求項11の発明によれば、回転伝機構を構成する遊星歯車機構として、サンギヤ、キャリア、リングギヤが、それぞれ第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素であるダブルピニオン形式の遊星歯車機構が用いられる。その場合、例えば第1嵌合部材と第3嵌合部材とを嵌合させてかみ合いクラッチを係合し、第3回転要素すなわちリングギヤの回転を規制することによって、入力軸と一体回転するサンギヤに入力されるトルクが、回転方向が反転され、かつ減速されて、キャリアから出力されて出力軸へ伝達される。そのため、入力軸の回転状態を反転させて前記出力軸へ伝達する反転状態を設定する場合に、入力軸のトルクを増幅して出力軸へ伝達することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
つぎに、この発明を図面を参照しながら具体的に説明する。図7は、この発明の動力伝達装置を、ベルト式無段変速機の前後進切換機構に適用した車両のスケルトン図である。図7において、1は車両の動力源であり、この動力源1としては、例えばガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどのエンジン(内燃機関)、あるいは電動機(モータ)、あるいはエンジンと力行・回生制御が可能な電動機(モータ・ジェネレータ)とを組み合わせたハイブリッドシステムなどが用いられる。ここでは、便宜上、動力源1として、クランクシャフト2が車両の幅方向に配置されたエンジン1を用いた例について説明する。
【0035】
エンジン1の出力側には、トランスアクスル3が設けられている。このトランスアクスル3は、エンジン1の後端側に取り付けられたトランスアクスルハウジング4と、トランスアクスルハウジング4におけるエンジン1とは反対側の開口端に取り付けられたトランスアクスルケース5と、トランスアクスルケース5におけるトランスアクスルハウジング4とは反対側の開口端に取り付けられたトランスアクスルリヤカバー6とを有している。
【0036】
トランスアクスルハウジング4の内部には、トルクコンバータ7が設けられており、トランスアクスルケース5およびトランスアクスルリヤカバー6の内部には、前後進切換機構8およびベルト式無段変速機9および最終減速機10が設けられている。
【0037】
トルクコンバータ7は、クランクシャフト2と同一の軸線を中心として回転可能なインプットシャフト11が設けられており、インプットシャフト11におけるエンジン1側の端部にはタービンランナ12が取り付けられている。一方、クランクシャフト2の後端にはドライブプレート13を介してフロントカバー14が連結されており、フロントカバー14にはポンプインペラ15が接続されている。このタービンランナ12とポンプインペラ15とは対向して配置され、タービンランナ12およびポンプインペラ15の内側にはステータ16が設けられている。このステータ16には、一方向クラッチ17を介して中空軸18が接続されている。中空軸18はトランスアクスルケース5側に回転不能に固定されていて、その中空軸18の内部に前記のインプットシャフト11が配置されている。また、インプットシャフト11におけるフロントカバー14側の端部には、ダンパ機構19を介してロックアップクラッチ20が設けられている。上記のように構成されたフロントカバー14およびポンプインペラ15などにより形成されたケーシング(図示せず)内に、作動流体としてのオイルが供給されている。
【0038】
上記構成により、エンジン1の動力(トルク)がクランクシャフト2からフロントカバー14に伝達される。この時、ロックアップクラッチ20が解放されている場合は、ポンプインペラ15のトルクが流体によりタービンランナ12に伝達され、ついでインプットシャフト11に伝達される。なお、ポンプインペラ15からタービンランナ12に伝達されるトルクを、ステータ16により増幅することもできる。一方、ロックアップクラッチ20が係合されている場合は、フロントカバー14のトルクが機械的にインプットシャフト11に伝達される。
【0039】
トルクコンバータ7と前後進切換機構8との間には、オイルポンプ21が設けられている。このオイルポンプ21のロータ22と、前記ポンプインペラ15とが円筒形状のハブ23により接続されている。また、オイルポンプ21のボデー24は、トランスアクスルケース5側に固定されている。この構成により、エンジン1の動力がポンプインペラ15を介してロータ22に伝達され、オイルポンプ21を駆動することができる。
【0040】
前後進切換機構8は、インプットシャフト11とベルト式無段変速機9との間の動力伝達経路に設けられている。この前後進切換機構8は、エンジン1の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、入力されたトルクをそのまま出力する、もしくは反転して出力するように構成されている。この発明では、このような前後進切換機構8としての動力伝達装置を構成しているクラッチ機構(係合機構)等の構成、あるいはそれらの配置を改良することによって、動力伝達装置の小型化を実現できるように構成されている。それらに関しての詳細な説明は後述する。
【0041】
ベルト式無段変速機9は、インプットシャフト11と同心状に配置されたプライマリシャフト25と、プライマリシャフト25と相互に平行に配置されたセカンダリシャフト26とを有している。このプライマリシャフト25側にはプライマリプーリ27が設けられており、セカンダリシャフト26側にはセカンダリプーリ28が設けられている。プライマリプーリ27は、プライマリシャフト25の外周に一体的に形成された固定シーブ29と、プライマリシャフト25の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ30とを有している。そして、固定シーブ29と可動シーブ30との対向面間にV字形状の溝すなわちベルト巻き掛け溝31が形成されている。
【0042】
また、この可動シーブ30をプライマリシャフト25の軸線方向に動作させ、可動シーブ30と固定シーブ29とを接近・離隔させる油圧アクチュエータ32が設けられている。一方、セカンダリプーリ28は、セカンダリシャフト26の外周に一体的に形成された固定シーブ33と、セカンダリシャフト26の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ34とを有している。そして、固定シーブ33と可動シーブ34との対向面間にV字形状の溝(ベルト巻き掛け溝)35が形成されている。また、この可動シーブ34をセカンダリシャフト26の軸線方向に動作させ、可動シーブ34と固定シーブ33とを接近・離隔させる油圧アクチュエータ36が設けられている。さらに、上記構成のプライマリプーリ27のベルト巻き掛け溝31およびセカンダリプーリ28のベルト巻き掛け溝35に対して、伝動ベルト37が巻き掛けられている。
【0043】
このように、ベルト式無段変速機9は、互いに平行に配置された入力部材としてのプライマリプーリ27と出力部材としてのセカンダリプーリ28とのそれぞれが、固定シーブ29,33と、油圧アクチュエータ32,36によって軸線方向に前後動させられる可動シーブ30,34とによって構成されている。したがって各プーリ27,28の溝幅が、可動シーブ30,34を軸線方向に移動させることにより変化し、それに伴って各プーリ27,28に巻掛けた伝動ベルト37の巻掛け半径(各プーリ27,28の有効径)が連続的に変化し、変速比が無段階に変化するようになっている。
【0044】
なお、セカンダリプーリ28における油圧アクチュエータ36には、ベルト式無段変速機9に入力されるトルクに応じた油圧(ライン圧もしくはその補正圧)が供給されている。したがって、セカンダリプーリ28における各シーブ33,34が伝動ベルト37を挟み付けることにより、伝動ベルト37に張力が付与され、各プーリ27,28と伝動ベルト37との挟圧力(接触圧力)が確保されるようになっている。言い換えれば、挟圧力に応じたトルク容量が設定される。これに対してプライマリプーリ27における油圧アクチュエータ32には、設定するべき変速比に応じた圧油が供給され、目標とする変速比に応じた溝幅(有効径)に設定するようになっている。
【0045】
そして、ベルト式無段変速機9の入力部材であるプライマリプーリ27が、前後進切換機構8における出力要素であるリングギヤもしくはサンギヤもしくはキャリア(いずれも後述する)に連結され、ベルト式無段変速機9の出力部材であるセカンダリプーリ28が、ギヤ対38および最終減速機10に連結され、さらにその最終減速機10が駆動輪39に連結されている。
【0046】
前述したように、この発明に係る動力伝達装置は、その動力伝達装置として、例えば上記のベルト式無段変速機に備えられた前後進切換機構8、および前後進切換機構8を構成する遊星歯車機構の各回転要素の作動を制御するためのクラッチ機構(係合機構)の構成、あるいは配置を改良することによって、装置の小型化を図ることができるように構成されている。そのように構成されたこの発明を適用した動力伝達装置としての前後進切換機構8の例を、以下に順次説明する。
【0047】
(第1の実施例)
この発明の第1の実施例を、図1に基づいて説明する。図1は、図7の前後進切換機構8の概略構成を示すスケルトン図である。この第1の実施例における前後進切換機構8は、シングルピニオン形式の遊星歯車機構101と、多板クラッチにより形成された摩擦クラッチ102と、スプラインにより形成されたかみ合いクラッチ103とにより構成されている。
【0048】
遊星歯車機構101は、サンギヤ104と、このサンギヤ104の外周側にサンギヤ104と同心状に配置されたリングギヤ105と、これらサンギヤ104およびリングギヤ105に噛み合わされたピニオンギヤ106と、そのピニオンギヤ106を自転可能に保持し、かつ、ピニオンギヤ106をサンギヤ104の周囲で一体的に公転可能に保持するキャリア107とを有している。そして、サンギヤ104と、インプットシャフト11すなわち前後進切換機構8の入力軸とが連結され、リングギヤ105と、ベルト式無段変速機9のプライマリシャフト25すなわち前後進切換機構8の出力軸とが連結されている。
【0049】
摩擦クラッチ102は、複数の摩擦部材により形成された多板クラッチ、具体的には、複数の第1摩擦部材108と複数の第2摩擦部材109とを互い違いに重ねて相対回転可能に配置した多板クラッチ102であって、遊星歯車機構101の回転軸101aの径方向で、その遊星歯車機構101の外径側に配置されている。
【0050】
多板クラッチ102の各摩擦部材108,109のうち、複数の第1摩擦部材108は、保持部材110によって一体に保持されている。一方、複数の第2摩擦部材109は、一体に保持されるとともにキャリア107に連結されている。そして、第1摩擦部材108と第2摩擦部材109とに圧力を加え、第1摩擦部材108と第2摩擦部材109とを摩擦接触させるためのピストン111およびドラム112が設けられている。
【0051】
ピストン111は、ピストン111の外周面とドラム112のシリンダ部の内周面とがシールリング113によりシールされ、ドラム112内に保持されていて、ドラム112内に圧油を供給し、ピストン111の外周面とドラム112のシリンダ部の内周面とにより形成される油室の油圧を制御することによって、ピストン111を軸線方向(図1での左右方向)に前後動させることができるように構成されている。そして、これらピストン111およびドラム112は、ピストン111の先端部111aが、多板クラッチ102の摩擦部材108,109の側面(板面)部102aに対向し、ピストン111をドラム112から進出させた際に、先端部111aと側面部102aとが当接して、第1摩擦部材108と第2摩擦部材109とに圧力を加えることができる位置に配置されている。
【0052】
したがって、ドラム112内に供給する油圧を制御し、ピストン111を前後動させることにより、第1摩擦部材108と第2摩擦部材109とを摩擦接触させた状態と、第1摩擦部材108と第2摩擦部材109と接触させない状態とを、選択的に設定することができる。言い換えると、第1摩擦部材108と第2摩擦部材109とに加える圧力を制御することにより、多板クラッチ102の係合状態と解放状態とを、選択的に設定することができる。
【0053】
ドラム112は、インプットシャフト11と一体回転するようにインプットシャフト11に固定されていて、ドラム112の外縁部には、かみ合いクラッチ103の第1スプライン部材113に対して選択的に嵌合する第2スプライン部材114が、ドラム112と一体に形成されている。また、第1スプライン部材113は、トランスアクスルケース5に固定されたかみ合いクラッチ103の第3スプライン部材115とも選択的に嵌合するように、前述の第1摩擦部材108を一体に保持する保持部材110と一体に形成されている。すなわち、第1スプライン部材113と保持部材110とが、一つの部材で共用化されている。
【0054】
保持部材110は、遊星歯車機構101の回転軸101aの軸線方向(図1での左右方向)に前後動させることができるように構成されていて、保持部材110を図1での右方向に移動させることにより、第1スプライン部材113と第2スプライン部材114とを嵌合することができる。一方、保持部材110を図1での左方向に移動させることにより、第1スプライン部材113と第3スプライン部材115とを嵌合することができる。また、保持部材110を第2スプライン部材114と第3スプライン部材115との間で固定し、第1スプライン部材113が第2スプライン部材114および第3スプライン部材115のいずれにも嵌合しない中立の状態を設定することも可能である。
【0055】
すなわち、第1スプライン部材113と第2スプライン部材114とを互いに嵌合させること、あるいは第1スプライン部材113と第3スプライン部材115とを互いに嵌合させることにより、それら各スプライン部材113,114,115によって構成されるかみ合いクラッチ103を係合状態に設定することができる。また、第1スプライン部材113を第2スプライン部材114および第3スプライン部材115のいずれとも嵌合させないことにより、かみ合いクラッチ103を解放状態(中立、ニュートラル状態)に設定することができる。言い換えると、第1スプライン部材113が一体形成された保持部材110の回転軸101aの軸線方向における位置を制御することにより、かみ合いクラッチ103の係合状態と解放状態とを選択的に設定することができる。
【0056】
したがって、摩擦クラッチ102およびかみ合いクラッチ103の係合・解放状態を選択的に設定するように、摩擦クラッチ102とかみ合いクラッチ103とをそれぞれ制御することにより、それら摩擦クラッチ102およびかみ合いクラッチ103の各摩擦部材108,109、および各スプライン部材113,114,115に連結あるいは一体固定された遊星歯車機構101の各回転要素およびインプットシャフト11の間の連結・遮断状態を設定することができる。
【0057】
すなわち、第1スプライン部材113と第2スプライン部材114とを嵌合させてかみ合いクラッチ103を係合し、その状態で、摩擦クラッチ102を係合することにより、キャリア107と保持部材110すなわち第1スプライン部材113とが連結される。その結果、キャリア107とサンギヤ104およびインプットシャフト11とが連結される。一方、第1スプライン部材113と第3スプライン部材115とを嵌合させてかみ合いクラッチ103を係合し、その状態で、摩擦クラッチ102を係合することにより、キャリア107と保持部材110すなわち第1スプライン部材113とが連結される。その結果、キャリア107とトランスアクスルケース5とが連結され、キャリア107の回転が規制される。
【0058】
また、保持部材110すなわち第1スプライン部材113は、遊星歯車機構101の回転軸101aの径方向で、多板クラッチ102の外径側に配置されていて、それに伴って、第2スプライン部材114および第3スプライン部材115も、遊星歯車機構101の回転軸101aの径方向で、多板クラッチ102の外径側に配置されている。したがって、それら各スプライン部材113,114,115により構成されるかみ合いクラッチ103は、遊星歯車機構101の回転軸101aの径方向で、多板クラッチ102の外径側に配置されている。そのため、多板クラッチ102とかみ合いクラッチ103とが、遊星歯車機構101の回転軸101aの径方向で、遊星歯車機構101の外径側に並べられて配置されることになり、それら多板クラッチ102とかみ合いクラッチ103とを、例えば回転軸101aの軸線方向に並べて配置した場合と比較して、前後進切換機構8の回転軸101aの軸線方向の体格を小型化することができる。
【0059】
上記のように構成された前後進切換機構8の動作および前後進の切り換え機能について説明する。先ず、前進ポジションが選択された場合は、第1スプライン部材113と第2スプライン部材114とを嵌合させることによりかみ合いクラッチ103が係合され、かつ、摩擦クラッチ102が係合される。この場合、キャリア107と、サンギヤ104すなわちインプットシャフト11とが一体回転する。サンギヤ104とキャリア107とが一体回転することによって、リングギヤ105すなわちプライマリシャフト25も、それらサンギヤ104およびキャリア107と一体回転する。すなわち、図4の共線図において直線L1で示すように、インプットシャフト11とプライマリシャフト25とが直結状態になる。
【0060】
この状態においては、エンジン1のトルク(言い換えれば動力)が、トルクコンバータ7を経由してインプットシャフト11に伝達されると、インプットシャフト11、サンギヤ104、キャリア107、リングギヤ105、ならびにプライマリシャフト25が一体回転する。プライマリシャフト25のトルクは、前述の図7に示すように、プライマリプーリ27およびベルト37ならびにセカンダリプーリ28を経由してセカンダリシャフト26に伝達される。そして、セカンダリシャフト26に伝達されたトルクは、ギヤ対38および最終減速機10を経由して駆動輪39に伝達され、車両が前進する。
【0061】
これに対して、後進ポジションが選択された場合は、第1スプライン部材113と第3スプライン部材115とを嵌合させることによりかみ合いクラッチ103が係合され、かつ、摩擦クラッチ102が係合される。この場合、キャリア107が固定され、そのキャリア107の回転が規制される。すると、インプットシャフト11の回転にともなって、キャリア107を反力要素としてサンギヤ104が回転し、リングギヤ105がインプットシャフト11の回転方向とは逆の方向に回転する。すなわち、図4の共線図において直線L2で示すように、キャリア107の回転が規制されることによって、サンギヤ104すなわちインプットシャフト11の回転に対して、リングギヤ105すなわちプライマリシャフト25の回転が反転され、かつ減速された状態となる。その結果、プライマリシャフト25、セカンダリシャフト26などの回転部材が、前進ポジションの場合とは逆方向に回転して車両が後退する。
【0062】
このように、後進ポジションが選択された場合に、インプットシャフト11の回転を反転し、かつ減速して、すなわちエンジン1の出力トルクを増幅してプライマリシャフト25へ伝達することができるため、例えばエンジン1が低出力のものであっても、後進時に必要な駆動トルクを確保し、発進性や登坂性などの後進時における走行性能を確保することができる。
【0063】
(第2の実施例)
つぎに、この発明の第2の実施例を、図2に基づいて説明する。この第2の実施例は、上述の第1の実施例における前後進切換機構8が、サンギヤ104を入力要素とし、リングギヤ105を出力要素としたシングルピニオン形式の遊星歯車機構101により構成されているのに対して、リングギヤを入力要素とし、サンギヤを出力要素としたシングルピニオン形式の遊星歯車機構により前後進切換機構を構成した例である。したがって、図1の第1の実施例と同じ構成部分については、図1と同様の参照符号を付してその詳細な説明を一部省略する。
【0064】
この第2の実施例における前後進切換機構8は、第1の実施例と同様に、シングルピニオン形式の遊星歯車機構201と、多板クラッチにより形成された摩擦クラッチ202と、スプラインにより形成されたかみ合いクラッチ203とにより構成されている。
【0065】
遊星歯車機構201は、サンギヤ204と、このサンギヤ204の外周側にサンギヤ204と同心状に配置されたリングギヤ205と、これらサンギヤ204およびリングギヤ205に噛み合わされたピニオンギヤ206と、そのピニオンギヤ206を自転可能に保持し、かつ、ピニオンギヤ206をサンギヤ204の周囲で一体的に公転可能に保持するキャリア207とを有している。そして、リングギヤ205と、インプットシャフト11すなわち前後進切換機構8の入力軸とが連結され、サンギヤ204と、ベルト式無段変速機9のプライマリシャフト25すなわち前後進切換機構8の出力軸とが連結されている。
【0066】
摩擦クラッチ202は、第1の実施例と同様に、複数の第1摩擦部材208と複数の第2摩擦部材209とを互い違いに重ねて相対回転可能に配置した多板クラッチ202であって、遊星歯車機構201の回転軸201aの径方向で、その遊星歯車機構201の外径側に配置されている。
【0067】
多板クラッチ202の摩擦部材208,209のうち、複数の第1摩擦部材208は、保持部材210によって一体に保持されている。一方、複数の第2摩擦部材209は、一体に保持されるとともにキャリア207に連結されている。そして、第1摩擦部材208と第2摩擦部材209とに圧力を加え、第1摩擦部材208と第2摩擦部材209とを摩擦接触させるためのピストン111およびドラム112が設けられている。
【0068】
したがって、ドラム112内に供給する油圧を制御し、ピストン111を前後動させることにより、第1摩擦部材208と第2摩擦部材209とを摩擦接触させた状態と、第1摩擦部材208と第2摩擦部材209とを接触させない状態とを、選択的に設定することができる。言い換えると、第1摩擦部材208と第2摩擦部材209とに加える圧力を制御することにより、多板クラッチ202の係合状態と解放状態とを選択的に設定することができる。
【0069】
ドラム112の外縁部には、かみ合いクラッチ203の第1スプライン部材213に対して選択的に嵌合する第2スプライン部材214が、ドラム112と一体に形成されている。また、第1スプライン部材213は、トランスアクスルケース5に固定されたかみ合いクラッチ203の第3スプライン部材215とも選択的に嵌合するように、前述の第1摩擦部材208を一体に保持する保持部材210と一体に形成されている。すなわち、第1スプライン部材213と保持部材210とが、一つの部材で共用化されている。
【0070】
保持部材210は、遊星歯車機構201の回転軸201aの軸線方向(図2での左右方向)に前後動させることができるように構成されていて、保持部材210を図2での右方向に移動させることにより、第1スプライン部材213と第2スプライン部材214とを嵌合することができる。一方、保持部材210を図2での左方向に移動させることにより、第1スプライン部材213と第3スプライン部材215とを嵌合することができる。また、保持部材210を第2スプライン部材214と第3スプライン部材215との間で固定し、第1スプライン部材213が第2スプライン部材214および第3スプライン部材215のいずれにも嵌合しない中立の状態を設定することも可能である。
【0071】
すなわち、第1スプライン部材213と第2スプライン部材214とを互いに嵌合させること、あるいは第1スプライン部材213と第3スプライン部材215とを互いに嵌合させることにより、それら各スプライン部材213,214,215によって構成されるかみ合いクラッチ203を係合状態に設定することができる。また、第1スプライン部材213を第2スプライン部材214および第3スプライン部材215のいずれとも嵌合させないことにより、かみ合いクラッチ203を解放状態(中立、ニュートラル状態)に設定することができる。言い換えると、第1スプライン部材213が一体形成された保持部材210の回転軸201aの軸線方向における位置を制御することにより、かみ合いクラッチ203の係合状態と解放状態とを選択的に設定することができる。
【0072】
したがって、摩擦クラッチ202およびかみ合いクラッチ203の係合・解放状態を選択的に設定するように、摩擦クラッチ202とかみ合いクラッチ203とをそれぞれ制御することにより、それら摩擦クラッチ202およびかみ合いクラッチ203の各摩擦部材208,209、および各スプライン部材213,214,215に連結あるいは一体固定された遊星歯車機構201の各回転要素およびインプットシャフト11の間の連結・遮断状態を設定することができる。
【0073】
すなわち、第1スプライン部材213と第2スプライン部材214とを嵌合させてかみ合いクラッチ203を係合し、その状態で、摩擦クラッチ202を係合することにより、キャリア207と保持部材210すなわち第1スプライン部材213とが連結される。その結果、キャリア207とリングギヤ205およびインプットシャフト11とが連結される。一方、第1スプライン部材213と第3スプライン部材215とを嵌合させてかみ合いクラッチ203を係合し、その状態で、摩擦クラッチ202を係合することにより、キャリア207と保持部材210すなわち第1スプライン部材213とが連結される。その結果、キャリア207とトランスアクスルケース5とが連結され、キャリア207の回転が規制される。
【0074】
また、保持部材210すなわち第1スプライン部材213は、遊星歯車機構201の回転軸201aの径方向で、多板クラッチ202の外径側に配置されていて、それに伴って、第2スプライン部材214および第3スプライン部材215も、遊星歯車機構201の回転軸201aの径方向で、多板クラッチ202の外径側に配置されている。したがって、それら各スプライン部材213,214,215により構成されるかみ合いクラッチ203は、遊星歯車機構201の回転軸201aの径方向で、多板クラッチ202の外径側に配置されている。そのため、多板クラッチ202とかみ合いクラッチ203とが、遊星歯車機構201の回転軸201aの径方向で、遊星歯車機構201の外径側に並べられて配置されることになり、それら多板クラッチ202とかみ合いクラッチ203とを、例えば回転軸201aの軸線方向に並べて配置した場合と比較して、前後進切換機構8の回転軸201aの軸線方向の体格を小型化することができる。
【0075】
上記のように構成された前後進切換機構8の動作および前後進の切り換え機能について説明する。先ず、前進ポジションが選択された場合は、第1スプライン部材213と第2スプライン部材214とを嵌合させることによりかみ合いクラッチ203が係合され、かつ、摩擦クラッチ202が係合される。この場合、キャリア207と、リングギヤ205すなわちインプットシャフト11とが一体回転する。リングギヤ205とキャリア207とが一体回転することによって、サンギヤ204すなわちプライマリシャフト25も、それらリングギヤ205およびキャリア207と一体回転する。すなわち、図5の共線図において直線L3で示すように、インプットシャフト11とプライマリシャフト25とが直結状態になり、プライマリシャフト25のトルクは、同じ回転方向のまま、セカンダリシャフト26に伝達される。そして、セカンダリシャフト26に伝達されたトルクは、ギヤ対38および最終減速機10を経由して駆動輪39に伝達され、車両が前進する。
【0076】
これに対して、後進ポジションが選択された場合は、第1スプライン部材213と第3スプライン部材215とを嵌合させることによりかみ合いクラッチ203が係合され、かつ、摩擦クラッチ202が係合される。この場合、キャリア207が固定され、そのキャリア207の回転が規制される。すると、インプットシャフト11の回転にともなって、キャリア207を反力要素としてリングギヤ205が回転し、サンギヤ204がインプットシャフト11の回転方向とは逆の方向に回転する。すなわち、図5の共線図において直線L4で示すように、キャリア207の回転が規制されることによって、リングギヤ205すなわちインプットシャフト11の回転に対して、サンギヤ204すなわちプライマリシャフト25の回転が反転され、かつ増速された状態となる。その結果、プライマリシャフト25、セカンダリシャフト26などの回転部材が、前進ポジションの場合とは逆方向に回転して車両が後退する。
【0077】
このように、後進ポジションが選択された場合に、インプットシャフト11の回転を反転し、かつ増速して、すなわちエンジン1の出力トルクを低下してプライマリシャフト25へ伝達することができるため、例えばエンジン1が高出力のものであって、後進時に必要以上に大きな駆動トルクが作用する場合であっても、エンジン1の出力トルクを低下して、後進時の駆動トルクを適当な大きさに設定することができ、ドライバビリティなどの後進時における走行性能を確保することができる。
【0078】
(第3の実施例)
つぎに、この発明の第3の実施例を、図3に基づいて説明する。この第3の実施例は、上述の第1,第2の実施例における前後進切換機構8が、キャリア107,207を固定要素としたシングルピニオン形式の遊星歯車機構101,202により構成されているのに対して、リングギヤを固定要素としたダブルピニオン形式の遊星歯車機構により前後進切換機構を構成した例である。したがって、図1,図2の第1,第2の実施例と同じ構成部分については、図1,図2と同様の参照符号を付してその詳細な説明を一部省略する。
【0079】
この第3の実施例における前後進切換機構8は、ダブルピニオン形式の遊星歯車機構301と、多板クラッチにより形成された摩擦クラッチ302と、スプラインにより形成されたかみ合いクラッチ303とにより構成されている。
【0080】
遊星歯車機構301は、サンギヤ304と、このサンギヤ304の外周側にサンギヤ304と同心状に配置されたリングギヤ305と、サンギヤ304に噛み合わされたピニオンギヤ306aと、このピニオンギヤ306およびリングギヤ305に噛み合わされたピニオンギヤ306bと、これらピニオンギヤ306a,306bを自転可能に保持し、かつ、ピニオンギヤ306a,306bを、サンギヤ304の周囲で一体的に公転可能な状態で保持したキャリア307とを有している。そして、サンギヤ304と、インプットシャフト11すなわち前後進切換機構8の入力軸とが連結され、キャリア307と、ベルト式無段変速機9のプライマリシャフト25すなわち前後進切換機構8の出力軸とが連結されている。
【0081】
摩擦クラッチ302は、第1,第2の実施例と同様に、複数の第1摩擦部材308と複数の第2摩擦部材309とを互い違いに重ねて相対回転可能に配置した多板クラッチ302であって、遊星歯車機構301の回転軸301aの径方向で、その遊星歯車機構301の外径側に配置されている。
【0082】
多板クラッチ302の各摩擦部材308,309のうち、複数の第1摩擦部材308は、保持部材310によって一体に保持されている。一方、複数の第2摩擦部材309は、一体に保持されるとともにリングギヤ305に連結されている。そして、第1摩擦部材308と第2摩擦部材309とに圧力を加え、第1摩擦部材308と第2摩擦部材309とを摩擦接触させるためのピストン111およびドラム112が設けられている。
【0083】
したがって、ドラム112内に供給する油圧を制御し、ピストン111を前後動させることにより、第1摩擦部材308と第2摩擦部材309とを摩擦接触させた状態と、第1摩擦部材308と第2摩擦部材309とを接触させない状態とを、選択的に設定することができる。言い換えると、第1摩擦部材308と第2摩擦部材309とに加える圧力を制御することにより、多板クラッチ302の係合状態と解放状態とを選択的に設定することができる。
【0084】
ドラム112の外縁部には、かみ合いクラッチ303の第1スプライン部材313に対して選択的に嵌合する第2スプライン部材314が、ドラム112と一体に形成されている。また、第1スプライン部材313は、トランスアクスルケース5に固定されたかみ合いクラッチ303の第3スプライン部材315とも選択的に嵌合するように、前述の第1摩擦部材308を一体に保持する保持部材310と一体に形成されている。すなわち、第1スプライン部材313と保持部材310とが、一つの部材で共用化されている。
【0085】
保持部材310は、遊星歯車機構301の回転軸301aの軸線方向(図3での左右方向)に前後動させることができるように構成されていて、保持部材310を図3での右方向に移動させることにより、第1スプライン部材313と第2スプライン部材314とを嵌合することができる。一方、保持部材310を図3での左方向に移動させることにより、第1スプライン部材313と第3スプライン部材315とを嵌合することができる。また、保持部材210を第2スプライン部材314と第3スプライン部材315との間で固定し、第1スプライン部材313が第2スプライン部材314および第3スプライン部材315のいずれにも嵌合しない中立の状態を設定することも可能である。
【0086】
すなわち、第1スプライン部材313と第2スプライン部材314とを互いに嵌合させること、あるいは第1スプライン部材313と第3スプライン部材315とを互いに嵌合させることにより、それら各スプライン部材313,314,315によって構成されるかみ合いクラッチ303を係合状態に設定することができる。また、第1スプライン部材313を第2スプライン部材314および第3スプライン部材315のいずれとも嵌合させないことにより、かみ合いクラッチ303を解放状態(中立、ニュートラル状態)に設定することができる。言い換えると、第1スプライン部材313が一体形成された保持部材310の回転軸301aの軸線方向における位置を制御することにより、かみ合いクラッチ303の係合状態と解放状態とを選択的に設定することができる。
【0087】
したがって、摩擦クラッチ302およびかみ合いクラッチ303の係合・解放状態を選択的に設定するように、摩擦クラッチ302とかみ合いクラッチ303とをそれぞれ制御することにより、それら摩擦クラッチ302およびかみ合いクラッチ303の各摩擦部材308,309、および各スプライン部材313,314,315に連結あるいは一体固定された遊星歯車機構301の各回転要素およびインプットシャフト11の間の連結・遮断状態を設定することができる。
【0088】
すなわち、第1スプライン部材313と第2スプライン部材314とを嵌合させてかみ合いクラッチ303を係合し、その状態で、摩擦クラッチ302を係合することにより、リングギヤ305と保持部材310すなわち第1スプライン部材313とが連結される。その結果、リングギヤ305とサンギヤ304およびインプットシャフト11とが連結される。一方、第1スプライン部材313と第3スプライン部材315とを嵌合させてかみ合いクラッチ303を係合し、その状態で、摩擦クラッチ302を係合することにより、リングギヤ305と保持部材310すなわち第1スプライン部材313とが連結される。その結果、リングギヤ305とトランスアクスルケース5とが連結され、リングギヤ305の回転が規制される。
【0089】
また、保持部材310すなわち第1スプライン部材313は、遊星歯車機構301の回転軸301aの径方向で、多板クラッチ302の外径側に配置されていて、それに伴って、第2スプライン部材314および第3スプライン部材315も、遊星歯車機構301の回転軸301aの径方向で、多板クラッチ302の外径側に配置されている。したがって、それら各スプライン部材313,314,315により構成されるかみ合いクラッチ303は、遊星歯車機構301の回転軸301aの径方向で、多板クラッチ302の外径側に配置されている。そのため、多板クラッチ302とかみ合いクラッチ303とが、遊星歯車機構301の回転軸301aの径方向で、遊星歯車機構301の外径側に並べられて配置されることになり、それら多板クラッチ302とかみ合いクラッチ303とを、例えば回転軸301aの軸線方向に並べて配置した場合と比較して、前後進切換機構8の回転軸301aの軸線方向の体格を小型化することができる。
【0090】
上記のように構成された前後進切換機構8の動作および前後進の切り換え機能について説明する。先ず、前進ポジションが選択された場合は、第1スプライン部材313と第2スプライン部材314とを嵌合させることによりかみ合いクラッチ303が係合され、かつ、摩擦クラッチ302が係合される。この場合、リングギヤ305と、サンギヤ304すなわちインプットシャフト11とが一体回転する。サンギヤ304とリングギヤ305とが一体回転することによって、キャリア307すなわちプライマリシャフト25も、それらサンギヤ304およびリングギヤ305と一体回転する。すなわち、図6の共線図において直線L5で示すように、インプットシャフト11とプライマリシャフト25とが直結状態になり、プライマリシャフト25のトルクは、同じ回転方向のまま、セカンダリシャフト26に伝達される。そして、セカンダリシャフト26に伝達されたトルクは、ギヤ対38および最終減速機10を経由して駆動輪39に伝達され、車両が前進する。
【0091】
これに対して、後進ポジションが選択された場合は、第1スプライン部材313と第3スプライン部材315とを嵌合させることによりかみ合いクラッチ303が係合され、かつ、摩擦クラッチ302が係合される。この場合、リングギヤ305が固定され、そのリングギヤ305の回転が規制される。すると、インプットシャフト11の回転にともなって、リングギヤ305を反力要素としてサンギヤ304が回転し、キャリア307がインプットシャフト11の回転方向とは逆の方向に回転する。すなわち、図6の共線図において直線L6で示すように、リングギヤ305の回転が規制されることによって、サンギヤ304すなわちインプットシャフト11の回転に対して、キャリア307すなわちプライマリシャフト25の回転が反転され、かつ減速された状態となる。その結果、プライマリシャフト25、セカンダリシャフト26などの回転部材が、前進ポジションの場合とは逆方向に回転して車両が後退する。
【0092】
このように、後進ポジションが選択された場合に、インプットシャフト11の回転を反転し、かつ減速して、すなわちエンジン1の出力トルクを増幅してプライマリシャフト25へ伝達することができるため、例えばエンジン1が低出力のものであっても、後進時に必要な駆動トルクを確保し、発進性や登坂性などの後進時における走行性能を確保することができる。
【0093】
(第4の実施例)
つぎに、この発明の第4の実施例を説明する。この第4の実施例は、上述の第1,第2,第3の実施例として説明した前後進切換機構8において、摩擦クラッチ102,202,302およびかみ合いクラッチ103,203,303の複数のクラッチ機構の係合・解放状態を設定する場合に、かみ合いクラッチ103,203,303の係合・解放状態を考慮して、摩擦クラッチ102,202,302の係合・解放状態を設定するようにした例である。
【0094】
すなわち、この発明を適用した前後進切換機構8においては、かみ合いクラッチ103,203,303が解放状態に設定される場合、摩擦クラッチ102,202,302が解放状態に設定されるように構成されている。上記のような前後進切換機構8においては、かみ合いクラッチ103,203,303が解放された状態、前後進切換機構8が外乱などの影響を受けた際に、摩擦クラッチ103,203,303が係合されていると、その外乱による振動や衝撃力などが摩擦クラッチ103,203,303を介して保持部材110,210,310すなわちかみ合いクラッチ103,203,303の第1スプライン部材113,213,313へ伝わり、第1スプライン部材113,213,313が揺動して、第2スプライン部材114,214,314あるいは第3スプライン部材115,215,315と干渉したり、嵌合してしまったりする場合がある。そこで、かみ合いクラッチ103,203,303を解放する場合に、摩擦クラッチ102,202,302も解放することによって、外乱などの影響による意図しないかみ合いクラッチ103,203,303の係合や干渉を防止もしくは抑制することができる。
【0095】
また、この発明を適用した前後進切換機構8においては、第1スプライン部材113,213,313と第2スプライン部材114,214,314とを嵌合させて、かみ合いクラッチ103,203,303を係合する場合、予め、摩擦クラッチ102,202,302が係合もしくは半係合状態にされて、第1スプライン部材113,213,313の回転と、第2スプライン部材114,214,314の回転とが同期させられる。その後、摩擦クラッチ102,202,302が一旦解放状態にされた後に、かみ合いクラッチ103,203,303が係合される。そしてその後、摩擦クラッチ102,202,302が係合状態にされて、前後進切換機構8の入力軸すなわちプライマリシャフト25と、出力軸すなわちインプットシャフト11とが動力伝達状態にされる。そのため、第1スプライン部材113,213,313と第2スプライン部材114,214,314との嵌合によるかみ合いクラッチ103,203,303の係合時における係合ショックの発生を回避して、前後進切換機構8による動力伝達状態の切り換え動作をスムーズに行うことができる。
【0096】
以上のように構成されたこの発明に係る動力伝達装置(すなわち上記の実施例では前後進切換機構8)によれば、遊星歯車機構101,201,301の回転状態を設定するために係合解放・状態がそれぞれ制御される複数のクラッチ機構(係合機構)、すなわち摩擦クラッチ102,202,302およびかみ合いクラッチ103,203,303が、遊星歯車機構101,201,301の回転軸101a,201a,301aの径方向に並べられて配置される。具体的には、遊星歯車機構101,201,301の回転軸101a,201a,3013aの径方向で、その遊星歯車機構101,201,301の外径側に、摩擦クラッチ102,202,302が配置され、その摩擦クラッチ102,202,302の外径側に、かみ合いクラッチ103,203,303が配置される。そのため、摩擦クラッチ102,202,302とかみ合いクラッチ103,203,303とを、前後進切換機構8(動力伝達装置)の軸方向においてほぼ同じ位置に配置することができ、その結果、前後進切換機構8(動力伝達装置)の軸方向の長さを短縮し、装置の小型化を図ることができる。
【0097】
また、複数のクラッチ機構(係合機構)のうち、一方の摩擦クラッチ102,202,302が、複数の第1摩擦部材108,208,308と第2摩擦部材109,209,309とを交互に対向させて配置した多板クラッチ102,202,302により構成され、その多板クラッチ102,202,302の複数の第1摩擦部材108,208,308を保持する保持部材110,210,310が、他方のかみ合いクラッチ103,203,303の第1スプライン部材113,213,313と一体化されて、言い換えると、多板クラッチ102,202,302の保持部材110,210,310とかみ合いクラッチの第1嵌合部材とが一つの部材で共用化されて形成されている。そのため、摩擦クラッチ102,202,302およびかみ合いクラッチ103,203,303を構成する部品点数を削減することができるとともに、前後進切換機構8(動力伝達装置)の小型化を図ることができる。
【0098】
また、この発明に係る前後進切換機構8(動力伝達装置)は、例えば、前述の特許文献1に記載されている前後進切換機構におけるリバースブレーキのような、前進時に解放される油圧式の多板ブレーキ(クラッチ)などを使用しない構成となっている。そのため、前進時に解放されているリバースブレーキにおいて、オイルの粘性抵抗の影響などによる引き摺り損失の発生を回避することができ、動力伝達装置としての動力伝達効率の低下を防止もしくは抑制することができる。
【0099】
なお、この発明は、上記の具体例に限定されないのであって、上記の具体例では、この発明を、車両用のベルト式無段変速機の前後進切換機構に適用した例を示しているが、他の方式の変速機における前後進切換機構、あるいは車両以外の他の産業機械・装置における例えば正転・逆転切換機構などの動力伝達装置に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】この発明の第1の実施例による動力伝達装置(前後進切換機構)の概略構成を示す模式図(スケルトン図)である。
【図2】この発明の第2の実施例による動力伝達装置(前後進切換機構)の概略構成を示す模式図(スケルトン図)である。
【図3】この発明の第3の実施例による動力伝達装置(前後進切換機構)の概略構成を示す模式図(スケルトン図)である。
【図4】この発明の第1の実施例による動力伝達装置(前後進切換機構)の動作を説明するための共線図(速度線図)である。
【図5】この発明の第2の実施例による動力伝達装置(前後進切換機構)の動作を説明するための共線図(速度線図)である。
【図6】この発明の第3の実施例による動力伝達装置(前後進切換機構)の動作を説明するための共線図(速度線図)である。
【図7】この発明の動力伝達装置(前後進切換機構)を備えたベルト式無段変速機を搭載した車両の駆動系統の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0101】
1…エンジン、 8…前後進切換機構(動力伝達装置)、 11…インプットシャフト(入力軸)、 25…プライマリシャフト(出力軸)、 101,201,301…遊星歯車機構(回転伝動機構)、 102,102,102…摩擦クラッチ(多板クラッチ)、 103,203,303…かみ合いクラッチ、 104,204,304…サンギヤ、 105,205,305…リングギヤ、 107,207,307…キャリア、 108,208,308…第1摩擦部材、 109,209,309…第2摩擦部材、 110,210,310…保持部材、 113,213,313…第1スプライン部材(第1嵌合部材)、 114,214,314…第2スプライン部材(第2嵌合部材)、 115,215,315…第3スプライン部材(第3嵌合部材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
係合・解放状態を選択的に設定可能な複数の係合機構と、それら複数の係合機構の係合・解放状態をそれぞれ制御することにより入力軸の回転状態に対する出力軸の回転状態を選択的に設定する回転伝動機構とを備えた動力伝達装置において、
前記複数の係合機構は、いずれも前記回転伝動機構の回転軸の径方向に並んで配置されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記回転伝動機構は、同じ回転方向で前記入力軸のトルクを前記出力軸へ伝達する正転状態と、回転方向を反転させて前記入力軸のトルクを前記出力軸へ伝達する反転状態とを選択的に設定する機能を備えていることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記複数の係合機構は、第1摩擦部材と第2摩擦部材とを互いに摩擦接触させることにより係合する摩擦クラッチと、第1嵌合部材と第2嵌合部材もしくは第3嵌合部材とを互いに嵌合させることにより係合するかみ合いクラッチとにより構成されていること特徴とする請求項1または2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記かみ合いクラッチは、前記摩擦クラッチの外径側に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記摩擦クラッチは、複数の第1摩擦部材および第2摩擦部材により構成される多板クラッチであり、
前記複数の第1摩擦部材を保持する保持部材と、前記第1嵌合部材とが一体に形成されていることを特徴とする請求項3または4に記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記回転伝動機構は、第1回転要素が前記入力軸および前記第2嵌合部材に連結され、第2回転要素が前記出力軸に連結され、第3回転要素が前記第2摩擦部材に連結された遊星歯車機構により構成されていて、
前記複数の係合機構は、前記第1嵌合部材と前記第2嵌合部材とを嵌合させて前記かみ合いクラッチを選択的に係合することにより前記第1回転要素と前記第3回転要素とを連結し、前記第1嵌合部材と前記第3嵌合部材とを嵌合させて前記かみ合いクラッチを選択的に係合することにより前記第3回転要素の回転を規制するとともに、前記摩擦クラッチを選択的に係合することにより前記第3回転要素と前記第1嵌合部材とを連結する機能を備えていることを特徴とする請求項3ないし5のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記複数の係合機構は、前記かみ合いクラッチを解放する場合に、前記摩擦クラッチを解放する機能を備えていることを特徴とする請求項6に記載の動力伝達装置。
【請求項8】
前記複数の係合機構は、前記第1嵌合部材と前記第2嵌合部材とを嵌合させて前記かみ合いクラッチを係合する場合に、前記摩擦クラッチを予め係合して前記第1嵌合部材と前記第2嵌合部材との回転を同期させる機能を備えていることを特徴とする請求項6に記載の動力伝達装置。
【請求項9】
前記回転伝動機構は、前記第1回転要素がサンギヤであり、前記第2回転要素がリングギヤであり、前記第3回転要素がキャリアであるシングルピニオン形式の遊星歯車機構により構成されていることを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項10】
前記回転伝動機構は、前記第1回転要素がリングギヤであり、前記第2回転要素がサンギヤであり、前記第3回転要素がキャリアであるシングルピニオン形式の遊星歯車機構により構成されていることを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項11】
前記回転伝動機構は、前記第1回転要素がサンギヤであり、前記第2回転要素がキャリアであり、前記第3回転要素がリングギヤであるダブルピニオン形式の遊星歯車機構により構成されていることを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−2550(P2008−2550A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171839(P2006−171839)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】