動力伝達装置
【課題】エンジンの燃料カットを実行する場合や有段変速機の変速段を変更する場合において、エンジンの回転速度の制御性を向上させる。
【解決手段】ステップS101で駆動軸37の回転速度ωdが所定の高回転速度ωh以上であり、ステップS103で駆動軸37の要求トルクTreqが0である場合は、ステップS104でエンジン36のフューエルカットが実行される。そして、ステップS107では、エンジン36の回転速度ωinが出力側ロータ18の回転速度ωoutより低く且つフューエルカットからの復帰時にエンジントルクを発生可能な所定の低回転速度ω1に制御されるように、インバータ41のスイッチング動作により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクが制御される。
【解決手段】ステップS101で駆動軸37の回転速度ωdが所定の高回転速度ωh以上であり、ステップS103で駆動軸37の要求トルクTreqが0である場合は、ステップS104でエンジン36のフューエルカットが実行される。そして、ステップS107では、エンジン36の回転速度ωinが出力側ロータ18の回転速度ωoutより低く且つフューエルカットからの復帰時にエンジントルクを発生可能な所定の低回転速度ω1に制御されるように、インバータ41のスイッチング動作により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクが制御される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関し、特に、回転子同士の電磁気結合を利用して動力伝達を行うことが可能な動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の動力伝達装置の関連技術が下記特許文献1に開示されている。特許文献1による動力伝達装置は、巻線が配設されエンジンに機械的に連結された第1ロータと、第1ロータの巻線と電磁気的に結合する磁石が配設され駆動軸に機械的に連結された第2ロータと、第2ロータの磁石と電磁気的に結合する巻線が配設されたステータと、第1ロータの巻線と電気的に接続されたスリップリングと、スリップリングと電気的に接触するブラシと、バッテリーとステータの巻線との間で電力を授受可能に制御する第1インバータと、スリップリング及びブラシを介してバッテリーと第1ロータの巻線との間で電力を授受可能に制御する第2インバータと、を備える。特許文献1においては、第1ロータに伝達されたエンジンからの動力は、第1ロータの巻線と第2ロータの磁石との電磁気結合によって第2ロータに伝達されるため、エンジンの動力により駆動軸を駆動することができる。さらに、第2インバータを介してバッテリーと第1ロータの巻線との間で電力の授受が可能になるため、第2インバータにより第1ロータの巻線の電力を制御することで、駆動軸の回転速度を制御することができる。その場合において、第1ロータの回転速度が第2ロータの回転速度よりも高いときは、第1ロータの巻線の発電電力が第2インバータを介してバッテリー側へ供給され、第1ロータの回転速度が第2ロータの回転速度よりも低いときは、バッテリーの電力が第2インバータを介して第1ロータの巻線に供給される。さらに、ステータの巻線と第2ロータの磁石との電磁気結合によって、バッテリー側から第1インバータを介してステータの巻線に供給された電力を用いて第2ロータに動力を発生させて駆動軸を駆動することができるため、第1インバータによりステータの巻線への電力供給を制御することで、駆動軸に伝達されるトルクを制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3543500号公報
【特許文献2】特開2009−73472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、エンジンの動力により駆動軸を駆動する場合に、駆動軸にトルクが要求されていないときは、エンジンのフューエルカット(燃料カット)を実行することで、エンジンの燃費を向上させることが可能となる。ただし、エンジンのフューエルカットを実行する場合に、エンジン摩擦やスリップリング摩擦等によりエンジンの回転速度が低下し、エンジンの回転速度がアイドリング回転速度より低くなると、フューエルカットからの復帰時にエンジントルクを発生させることが困難となる。そこで、エンジンのフューエルカットを実行する場合に、エンジンの回転速度の制御性を向上できることが望ましい。
【0005】
また、特許文献1においては、第2ロータと駆動軸との間に有段変速機を設けることで、エンジンの動力により駆動軸を駆動する場合に、駆動軸の回転速度が高くなっても、有段変速機の変速段を変速比が小さくなる方向に変更することで、エンジンの回転速度の上昇を抑えることが可能となる。有段変速機の変速段を現変速段から次変速段に変更する変速動作を行う際には、エンジンの回転速度を有段変速機の次変速段の入力軸回転速度へ制御する必要があるが、エンジンの回転速度を摩擦クラッチにより制御すると、摩擦クラッチの滑りにより回転エネルギーが熱となって消費されることで損失が生じる。さらに、摩擦クラッチでは、伝達トルクの推定予測が困難であり、変速動作時の制御性が低下して変速ショックが生じやすくなる。そこで、有段変速機の変速段を変更する場合に、エンジンの回転速度の制御性を向上できることが望ましい。
【0006】
本発明は、エンジンの燃料カットを実行する場合や有段変速機の変速段を変更する場合において、エンジンの回転速度の制御性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る動力伝達装置は、上述した目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明に係る動力伝達装置は、エンジンからの動力が伝達され、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な回転子導体が配設された第1回転子と、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な固定子導体が配設された固定子と、第1回転子に対し相対回転可能であり、駆動軸へ動力を伝達する第2回転子であって、回転子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて第1回転子との間にトルクが作用し、固定子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて固定子との間にトルクが作用する第2回転子と、固定子導体に流れる交流電流を制御することで固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御し、回転子導体に流れる交流電流を制御することで第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する制御装置と、を備える動力伝達装置であって、制御装置は、駆動軸が回転している状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、エンジンの回転速度が燃料カットからの復帰時にエンジントルクを発生可能な所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御することを要旨とする。
【0009】
本発明によれば、駆動軸が回転している状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、エンジンの回転速度が燃料カットからの復帰時にエンジントルクを発生可能な所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御することで、エンジンの回転速度の制御性を向上させることができる。その結果、燃料カット領域を拡大させて燃費を向上させることができるとともに、燃料カットからの復帰時にエンジントルクを速やかに発生させて駆動軸の要求トルクの急激な変化に即応することができる。
【0010】
本発明の一態様では、制御装置は、駆動軸の回転速度が所定の高回転速度以上である状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、エンジンの回転速度が第2回転子の回転速度より低い前記所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御することが好適である。
【0011】
本発明の一態様では、制御装置は、駆動軸の回転速度が所定の低回転速度以下である状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、エンジンの回転速度が第2回転子の回転速度より高い前記所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御することが好適である。
【0012】
本発明の一態様では、制御装置は、駆動軸が回転している状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、エンジンの回転速度が前記所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御しつつ、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクと、駆動軸の回転速度とのいずれかに基づいて、固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御することが好適である。
【0013】
本発明の一態様では、第1回転子と第2回転子とを機械的に係合させることが可能な回転子係合機構をさらに備え、制御装置は、駆動軸が回転している状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、回転子係合機構による第1回転子と第2回転子との機械的な係合を解除した状態で、エンジンの回転速度が前記所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御することが好適である。
【0014】
また、本発明に係る動力伝達装置は、エンジンからの動力が伝達され、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な回転子導体が配設された第1回転子と、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な固定子導体が配設された固定子と、第1回転子に対し相対回転可能な第2回転子であって、回転子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて第1回転子との間にトルクが作用し、固定子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて固定子との間にトルクが作用する第2回転子と、第2回転子からの動力を変速段に応じた変速比で変速して駆動軸へ伝達する有段変速機であって、現変速段に対応する係合装置を解放して次変速段に対応する係合装置を係合させることで変速段を現変速段から次変速段に変更することが可能な有段変速機と、固定子導体に流れる交流電流を制御することで固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御し、回転子導体に流れる交流電流を制御することで第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する制御装置と、を備える動力伝達装置であって、制御装置は、有段変速機の変速段を現変速段から次変速段に変更する場合に、次変速段に対応する係合装置を係合させたら、エンジンの回転速度が第2回転子の回転速度に近づくように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御することを要旨とする。
【0015】
本発明によれば、有段変速機の変速段を現変速段から次変速段に変更する場合に、次変速段に対応する係合装置を係合させたら、エンジンの回転速度が第2回転子の回転速度に近づくように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御することで、エンジンの回転速度の制御性を向上させることができる。その結果、変速動作時の損失が減り燃費を向上させることができるとともに、変速ショックが緩和される。
【0016】
本発明の一態様では、第1回転子と第2回転子とを機械的に係合させることが可能な回転子係合機構をさらに備え、制御装置は、有段変速機の変速段を現変速段から次変速段に変更する場合に、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御して第1回転子の回転速度と第2回転子の回転速度との差が所定値以下になったら、回転子係合機構により第1回転子と第2回転子とを機械的に係合させることが好適である。
【0017】
本発明の一態様では、制御装置は、有段変速機の変速段を現変速段から次変速段に変更する場合に、現変速段に対応する係合装置を解放したら、有段変速機の入力軸回転速度が次変速段に対応する目標入力軸回転速度に近づくように、固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御することが好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エンジンの燃料カットを実行する場合や有段変速機の変速段を変更する場合において、エンジンの回転速度の制御性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る動力伝達装置を備えるハイブリッド駆動装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の概略構成を示す図である。
【図4】入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16の構成例を示す図である。
【図5】エンジンのフューエルカットを実行する場合に電子制御ユニットにより実行される処理の一例を説明するフローチャートである。
【図6】図5のフローチャートの処理を実行する場合におけるパワーフローを示す図である。
【図7】エンジンのフューエルカットを実行する場合に電子制御ユニットにより実行される処理の他の例を説明するフローチャートである。
【図8】図7のフローチャートの処理を実行する場合におけるパワーフローを示す図である。
【図9】変速機の変速段を変更する場合に電子制御ユニットにより実行される処理の他の例を説明するフローチャートである。
【図10】図9のフローチャートの処理を実行する場合におけるアップシフト時の動作を説明する図である。
【図11】図9のフローチャートの処理を実行する場合におけるダウンシフト時の動作を説明する図である。
【図12】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の他の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0021】
図1〜3は、本発明の実施形態に係る動力伝達装置を備えるハイブリッド駆動装置の構成の概略を示す図であり、図1は全体構成の概略を示し、図2,3は回転電機10の構成の概略を示す。本実施形態に係るハイブリッド駆動装置は、動力(機械的動力)を発生可能な原動機として設けられたエンジン(内燃機関)36と、エンジン36と駆動軸37(車輪38)との間に設けられ、変速比の変更が可能な変速機(機械式変速機)44と、エンジン36と変速機44との間に設けられた回転電機10と、を備える。なお、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置については、例えば車両を駆動するための動力出力装置として用いることができる。
【0022】
回転電機10は、図示しないステータケースに固定されたステータ16と、ステータ16に対し相対回転可能な第1ロータ28と、ロータ回転軸と直交する径方向においてステータ16及び第1ロータ28と所定の空隙を空けて対向し、ステータ16及び第1ロータ28に対し相対回転可能な第2ロータ18と、を有する。ステータ16は、第1ロータ28より径方向外側の位置に第1ロータ28と間隔を空けて配置されており、第2ロータ18は、径方向においてステータ16と第1ロータ28との間の位置に配置されている。つまり、第1ロータ28は第2ロータ18より径方向内側の位置で第2ロータ18と対向配置されており、ステータ16は第2ロータ18より径方向外側の位置で第2ロータ18と対向配置されている。第1ロータ28はエンジン36と機械的に連結されていることで、第1ロータ28にはエンジン36からの動力が伝達される。一方、第2ロータ18は変速機44を介して駆動軸37に機械的に連結されていることで、駆動軸37(車輪38)には第2ロータ18からの動力が変速機44で変速されてから伝達される。なお、以下の説明では、第1ロータ28を入力側ロータとし、第2ロータ18を出力側ロータとする。
【0023】
入力側ロータ28は、ロータコア(第1回転子鉄心)52と、ロータコア52にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のロータ巻線30と、を含む。複数相のロータ巻線30に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ロータ巻線30は、ロータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。
【0024】
ステータ16は、ステータコア(固定子鉄心)51と、ステータコア51にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のステータ巻線20と、を含む。複数相のステータ巻線20に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線20は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。
【0025】
出力側ロータ18は、ロータコア(第2回転子鉄心)53と、ロータコア53にその周方向に沿って配設され界磁束を発生する永久磁石32,33と、を含む。永久磁石32は、ロータコア53の外周部にステータ16(ステータコア51)と対向して配設されており、永久磁石33は、ロータコア53の内周部に入力側ロータ28(ロータコア52)と対向して配設されている。ここでは、永久磁石32,33を一体化することも可能である。
【0026】
入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16のより詳細な構成例を図4に示す。図4に示す例では、入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16が同心円状に配置されている。ステータ16のステータコア51には、径方向内側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース51aがステータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ステータ巻線20がこれらのティース51aに巻回されていることで、磁極が構成される。入力側ロータ28のロータコア52には、径方向外側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース52aがロータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ロータ巻線30がこれらのティース52aに巻回されていることで、磁極が構成される。ステータ16のティース51aと出力側ロータ18の永久磁石32とが出力側ロータ18の回転中心軸(入力側ロータ28の回転中心軸と一致する)に直交する径方向に対向配置されており、入力側ロータ28のティース52aと出力側ロータ18の永久磁石33とがこの径方向に対向配置されている。ステータ巻線20の巻回軸及びロータ巻線30の巻回軸は、この径方向(入力側ロータ28と出力側ロータ18が対向する方向)に一致している。永久磁石32,33はロータ周方向に間隔をおいて配列されており、さらに、永久磁石32はロータコア53内にV字状に埋設されている。ただし、永久磁石32,33については、出力側ロータ18の表面(外周面または内周面)に露出していてもよいし、出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されていてもよい。
【0027】
回転子係合機構としてのクラッチ48は、エンジン36と変速機44との間に、回転電機10(入力側ロータ28及び出力側ロータ18)に対し並列に設けられている。クラッチ48は、エンジン36(入力側ロータ28)に機械的に連結されたクラッチ板48aと変速機44(出力側ロータ18)に機械的に連結されたクラッチ板48bとの係合/解放により、入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合/その解除を選択的に行うことが可能であり、動力伝達の許容/遮断を選択的に行うことが可能である。クラッチ板48aとクラッチ板48bとを係合させて、入力側ロータ28と出力側ロータ18とを機械的に係合させることで、クラッチ48を介したエンジン36と変速機44(駆動軸37)との間の動力伝達が許容される。クラッチ48の係合時は、入力側ロータ28と出力側ロータ18とが一体となって等しい回転速度で回転する。一方、クラッチ板48aとクラッチ板48bとを解放して、入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合を解除することで、クラッチ48を介したエンジン36と変速機44(駆動軸37)との間の動力伝達が遮断される。クラッチ48の解放時は、入力側ロータ28と出力側ロータ18との回転速度差が許容される。ここでのクラッチ48は、例えば油圧や電磁力を利用してクラッチ板48aとクラッチ板48bとの係合/解放を切り替えることが可能であり、さらに、クラッチ48に供給する油圧力や電磁力を調整することで、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの締結力を調整することもできる。クラッチ板48aとクラッチ板48bとの締結力を調整することで、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの回転速度差を許容しながら、クラッチ48を介したエンジン36と変速機44(駆動軸37)との間の動力伝達を許容することが可能となる。
【0028】
直流電源として設けられた充放電可能な蓄電装置42は、例えば二次電池により構成することができ、電気エネルギーを蓄える。インバータ40は、スイッチング素子と、スイッチング素子に対し逆並列接続されたダイオード(整流素子)とを備える公知の構成により実現可能であり、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ステータ巻線20の各相に供給することが可能である。さらに、インバータ40は、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を直流に変換して、電気エネルギーを蓄電装置42に回収する方向の電力変換も可能である。このように、インバータ40は、蓄電装置42とステータ巻線20との間で双方向の電力変換を行うことが可能である。
【0029】
スリップリング95は、入力側ロータ28と機械的に連結されており、さらに、ロータ巻線30の各相と電気的に接続されている。回転が固定されたブラシ96は、スリップリング95に押し付けられて電気的に接触する。スリップリング95は、ブラシ96に対し摺動しながら(ブラシ96との電気的接触を維持しながら)、入力側ロータ28とともに回転する。ブラシ96は、インバータ41と電気的に接続されている。インバータ41は、スイッチング素子と、スイッチング素子に対し逆並列接続されたダイオード(整流素子)とを備える公知の構成により実現可能であり、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ブラシ96及びスリップリング95を介してロータ巻線30の各相に供給することが可能である。さらに、インバータ41は、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を直流に変換する方向の電力変換も可能である。その際には、ロータ巻線30の交流電力がスリップリング95及びブラシ96により取り出され、この取り出された交流電力がインバータ41で直流に変換される。インバータ41で直流に変換された電力は、インバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20の各相へ供給可能である。つまり、インバータ40は、インバータ41からの直流電力と蓄電装置42からの直流電力とのいずれか(少なくとも一方)を交流に変換してステータ巻線20の各相へ供給することが可能である。また、インバータ41で直流に変換された電力を蓄電装置42に回収することも可能である。このように、インバータ41は、蓄電装置42とロータ巻線30との間で双方向の電力変換を行うことが可能である。そして、インバータ40,41を含んで、スリップリング95及びブラシ96により取り出されたロータ巻線30からの交流電力を電力変換してステータ巻線20の各相へ供給することが可能な電力変換部を構成することができる。また、スリップリング95及びブラシ96により、ロータ巻線30の電力(交流電力)を取り出すための電力伝達部を構成することができる。
【0030】
電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング素子のスイッチング動作を制御することで、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を制御する。そして、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング素子のスイッチング動作を制御することで、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を制御する。そして、電子制御ユニット50は、クラッチ48の係合/解放を切り替えることで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合/その解除を切り替える制御も行う。さらに、電子制御ユニット50は、エンジン36の運転状態の制御、及び変速機44の変速比の制御も行う。
【0031】
インバータ40のスイッチング動作により複数相のステータ巻線20に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線20は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生する。そして、ステータ巻線20で発生した回転磁界と永久磁石32で発生した界磁束との電磁気相互作用(吸引及び反発作用)により、出力側ロータ18にトルク(磁石トルク)を作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。つまり、蓄電装置42からステータ巻線20に供給された電力を出力側ロータ18の動力(機械的動力)に変換することができ、ステータ16及び出力側ロータ18を同期電動機(PMモータ部)として機能させることができる。さらに、インバータ40は、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を直流に変換して、電気エネルギーを蓄電装置42に回収する方向の変換も可能である。その場合は、出力側ロータ18の動力がステータ巻線20の電力に変換されて蓄電装置42に回収される。このように、ステータ16のステータ巻線20と出力側ロータ18の永久磁石32とが電磁気的に結合されていることで、ステータ巻線20で発生する回転磁界を出力側ロータ18に作用させて、ステータ16と出力側ロータ18との間にトルク(磁石トルク)を作用させることができる。さらに、例えば図4に示すように、永久磁石32間に突極部として磁性体(強磁性体)がステータ16(ティース51a)と対向して配置されている例や、永久磁石32が出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されている例では、ステータ16の発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、磁石トルクに加えてリラクタンストルクもステータ16と出力側ロータ18との間に作用する。電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作により例えばステータ巻線20に流す交流電流の振幅や位相角を制御することで、ステータ16と出力側ロータ18との間に作用するトルクを制御することができる。
【0032】
また、入力側ロータ28が出力側ロータ18に対し相対回転して入力側ロータ28(ロータ巻線30)と出力側ロータ18(永久磁石33)との間に回転差が生じるのに伴ってロータ巻線30に誘導起電力が発生し、この誘導起電力に起因してロータ巻線30に誘導電流(交流電流)が流れることで回転磁界が生じる。そして、ロータ巻線30の誘導電流により生じる回転磁界と永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用によっても、出力側ロータ18にトルクを作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。このように、入力側ロータ28のロータ巻線30と出力側ロータ18の永久磁石33とが電磁気的に結合されていることで、ロータ巻線30で発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルク(磁石トルク)が作用する。そのため、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間で動力(機械的動力)を伝達することができ、入力側ロータ28及び出力側ロータ18を誘導電磁カップリング部として機能させることができる。
【0033】
ロータ巻線30の誘導電流により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルク(電磁カップリングトルク)を発生させる際には、電子制御ユニット50は、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するように、インバータ41のスイッチング動作を行う。その際には、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング動作によりロータ巻線30に流れる交流電流を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクを制御することができる。一方、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング素子をオフ状態に維持してスイッチング動作を停止させることで、ロータ巻線30に誘導電流が流れなくなり、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクは作用しなくなる。
【0034】
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置の動作について説明する。
【0035】
エンジン36が動力を発生している場合は、エンジン36の動力が入力側ロータ28に伝達され、入力側ロータ28がエンジン回転方向に回転駆動する。クラッチ48が解放されている状態で、入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度より高くなると、ロータ巻線30に誘導起電力が発生する。電子制御ユニット50は、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するように、インバータ41のスイッチング動作を行う。これによって、ロータ巻線30の誘導電流と永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用により入力側ロータ28から出力側ロータ18にエンジン回転方向の電磁カップリングトルクが作用して出力側ロータ18がエンジン回転方向に回転駆動する。このように、入力側ロータ28に伝達されたエンジン36からの動力は、入力側ロータ28のロータ巻線30と出力側ロータ18の永久磁石33との電磁気結合によって、出力側ロータ18へ伝達される。出力側ロータ18に伝達された動力は、変速機44で変速されてから駆動軸37(車輪38)へ伝達されることで、車両の前進駆動等、負荷の正転駆動に用いられる。したがって、エンジン36の動力を用いて車輪38を正転方向に回転駆動することができ、車両を前進方向に駆動することができる。さらに、入力側ロータ28と出力側ロータ18との回転差を許容することができるため、車輪38の回転が停止してもエンジン36がストールすることはない。そのため、回転電機10を発進装置として機能させることができ、摩擦クラッチやトルクコンバータ等の発進装置を別に設ける必要がなくなる。
【0036】
さらに、ロータ巻線30に発生した交流電力は、スリップリング95及びブラシ96を介して取り出される。取り出された交流電力はインバータ41で直流に変換される。そして、インバータ40のスイッチング動作により、インバータ41からの直流電力がインバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20に供給されることで、ステータ巻線20に交流電流が流れ、ステータ16に回転磁界が形成される。このステータ16の回転磁界と出力側ロータ18の永久磁石32の界磁束との電磁気相互作用によっても、出力側ロータ18にエンジン回転方向のトルクを作用させることができる。これによって、出力側ロータ18のエンジン回転方向のトルクを増幅させるトルク増幅機能を実現することができる。また、インバータ41からの直流電力を蓄電装置42に回収することも可能である。
【0037】
さらに、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、エンジン36の動力を用いて車輪38を正転方向に回転駆動するとともに、ステータ巻線20への供給電力を用いて発生させた出力側ロータ18の動力により車輪38の正転方向の回転駆動をアシストすることができる。また、負荷の減速運転時には、電子制御ユニット50は、ステータ巻線20から蓄電装置42へ電力回収するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、負荷の動力をステータ巻線20と永久磁石32との電磁気結合によってステータ巻線20の電力に変換して蓄電装置42に回収することができる。
【0038】
また、エンジン36の動力を用いずに回転電機10の動力を用いて負荷を駆動する(車輪38を回転駆動する)EV(Electric Vehicle)走行を行う場合は、電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作を制御することで、負荷の駆動制御を行う。例えば、電子制御ユニット50は、蓄電装置42からの直流電力を交流に変換してステータ巻線20へ供給するように、インバータ40のスイッチング動作を制御することで、ステータ巻線20への供給電力をステータ巻線20と永久磁石32との電磁気結合によって出力側ロータ18の動力に変換し、駆動軸37(車輪38)を回転駆動する。このように、エンジン36が動力を発生していなくても、ステータ巻線20への電力供給により車輪38を回転駆動することができる。なお、EV走行を行う場合は、クラッチ48を解放状態に制御する。
【0039】
また、エンジン36を始動する場合は、電子制御ユニット50は、蓄電装置42からの直流電力をインバータ41で交流に変換してスリップリング95及びブラシ96を介してロータ巻線30へ供給するように、インバータ41のスイッチング動作を制御することで、ロータ巻線30への供給電力を用いてエンジン36のクランキングを行うことができる。このように、ロータ巻線30には、エンジン36を始動するための交流電力が供給される。エンジン36のクランキングの際には、入力側ロータ28の回転磁界と出力側ロータ18の永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用によりエンジン36に繋がる入力側ロータ28にトルクを作用させるが、出力側ロータ18もその反力トルクを受けることになる。そのため、EV走行時にエンジン36を始動する場合は、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給して出力側ロータ18にこの反力トルクを打ち消すトルクを作用させるようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、ステータ巻線20への供給電力を用いて出力側ロータ18を回転駆動することができる。なお、エンジン36を始動する場合は、クラッチ48を解放状態に制御する。
【0040】
また、エンジン36の動力を用いて車両を前進方向に駆動する場合には、クラッチ48を係合して入力側ロータ28と出力側ロータ18とを機械的に連結することで、ロータ巻線30に交流電流が流れず入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクが作用しなくても、エンジン36からの動力をクラッチ48を介して駆動軸37(車輪38)へ伝達することができる。これによって、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間のすべりに伴ってロータ巻線30に誘導電流が流れることで生じるジュール損失を抑えることが可能となる。このように、本実施形態では、回転電機10の入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクによりエンジン36からの動力を駆動軸37へ伝達することが可能な第1の動力伝達経路の他に、エンジン36からの動力を回転電機10に対し並列に設けられたクラッチ48を介して駆動軸37へ伝達することが可能な第2の動力伝達経路が設けられている。そして、変速機44は、第1の動力伝達経路と第2の動力伝達経路のいずれかからの動力を変速して駆動軸37へ伝達することが可能である。
【0041】
また、駆動軸37が回転している(車両が走行している)状態で、駆動軸37にトルク(車両の駆動力)が要求されていないときは、電子制御ユニット50は、エンジン36のフューエルカット(燃料カット)を実行することで、エンジン36の燃費を向上させることが可能となる。以下、駆動軸37が回転している状態でエンジン36のフューエルカットを実行する場合に、電子制御ユニット50が実行する処理について、図5のフローチャートを用いて説明する。図5のフローチャートは、所定時間おきに繰り返して実行される。
【0042】
まずステップS101では、駆動軸37の回転速度ωdが所定の高回転速度ωh以上であるか否か(車速Vが所定の高車速Vh以上であるか否か)が判定される。ωd<ωh(V<Vh)の場合、すなわちステップS101の判定結果がNOの場合は、ステップS102において、エンジン36の燃料噴射を実行する。つまり、エンジン36のフューエルカットを行わない。一方、ωd≧ωh(V≧Vh)の場合、すなわちステップS101の判定結果がYESの場合は、ステップS103に進む。
【0043】
ステップS103では、駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)が0であるか否かが判定される。駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)については、例えばアクセル開度から設定することが可能である。駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)が0でない場合、すなわちステップS103の判定結果がNOの場合は、ステップS102において、エンジン36の燃料噴射を実行する(エンジン36のフューエルカットを行わない)。一方、駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)が0である場合、すなわちステップS103の判定結果がYESの場合は、ステップS104において、エンジン36のフューエルカットを実行し、ステップS105に進む。
【0044】
ステップS105では、クラッチ48が係合状態にあるか否かが判定される。クラッチ48が係合状態にある場合(ステップS105の判定結果がYESの場合)は、ステップS106において、クラッチ48を解放することで入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的な係合を解除してから、ステップS107に進む。一方、クラッチ48が解放状態にある場合(ステップS105の判定結果がNOの場合)は、ステップS107に進む。
【0045】
ステップS107では、エンジン36の回転速度(入力側ロータ28の回転速度)ωinが出力側ロータ18の回転速度ωoutより低い所定の低回転速度ω1に制御されるように、インバータ41のスイッチング動作により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクが制御される。ここでの所定の低回転速度ω1は、フューエルカットからの復帰時にエンジントルクを発生可能な低回転速度に設定され、例えばエンジン36のアイドリング回転速度より若干高い回転速度(例えば1000rpm程度)に設定される。なお、駆動軸37の回転速度ωdが所定の高回転速度ωh以上であり、駆動軸37の要求トルクTreqが0である場合は、変速機44の変速比は最小変速比γminに制御されており、ω1<ωh×γminが成立する。
【0046】
エンジン36の回転速度ωinは、その時間微分をdωin/dt、エンジン36及び入力側ロータ28を含む入力軸側の回転慣性をJin、出力側ロータ18から入力側ロータ28に作用する電磁カップリングトルクをTcoup、エンジン摩擦、スリップリング摩擦等による入力軸側の摩擦トルクをTfricとすると、以下の(1)式で表される。(1)式において、摩擦トルクTfricの値は、エンジン36の回転速度ωinに応じて変化する。エンジン36の回転速度ωinを所定の低回転速度ω1に制御するためには、センサにより検出したエンジン36の回転速度ωinをフィードバックして電磁カップリングトルクTcoupを補正する制御系を組めばよい。このように、出力側ロータ18から入力側ロータ28に作用する電磁カップリングトルクTcoupを制御することで、エンジン36の回転速度ωinを制御することが可能である。
【0047】
Jin×dωin/dt=Tcoup−Tfric (1)
【0048】
ステップS108では、インバータ40のスイッチング動作によりステータ16と出力側ロータ18との間に作用するトルク(MGトルク)が制御される。出力側ロータ18の回転速度ωoutの時間微分をdωout/dt、出力側ロータ18を含む出力軸側の回転慣性をJout、ステータ16から出力側ロータ18に作用するMGトルクをTmg、出力軸側の走行負荷トルクをTRLとすると、以下の(2)式が成立する。(2)式から、MGトルクTmgは、走行負荷トルクTRLの他に電磁カップリングトルクTcoupを反力として受け持つことがわかる。
【0049】
Jout×dωout/dt=Tmg−Tcoup−TRL (2)
【0050】
エンジン36の回転速度ωinを所定の低回転速度ω1に制御するために、出力側ロータ18から入力側ロータ28にエンジン回転方向の電磁カップリングトルクTcoupを作用させることの反作用として、入力側ロータ28から出力側ロータ18にエンジン回転方向と逆方向の電磁カップリングトルクTcoupが作用し、駆動軸37には、その回転方向と逆方向である減速方向のトルクが作用する。駆動軸37に作用する減速方向のトルクを補償するためには、入力側ロータ28から出力側ロータ18にエンジン回転方向と逆方向(減速方向)の電磁カップリングトルクTcoupが作用する分、ステータ16から出力側ロータ18にエンジン回転方向のMGトルクTmgを発生させるように、電磁カップリングトルクTcoupに基づいてMGトルクTmgを制御すればよい。また、駆動軸37の回転速度ωdが一定速度になるように、センサにより検出した駆動軸37の回転速度ωdをフィードバックしてステータ16から出力側ロータ18に作用するMGトルクTmgを制御することも可能である。
【0051】
ここで、入力側ロータ28及び出力側ロータ18の回転速度変動の無い定常状態を仮定すると、入力軸側では、(1)式からTcoup=Tfricとなる。よって、Tcoup×ωin=Tfric×ωinであり、入力軸側では、電磁カップリングトルクTcoupによる伝達パワーTcoup×ωinにより摩擦損失パワーPowfric=Tfric×ωinが賄われる。また、ロータ巻線30では、入力側ロータ28と出力側ロータ18の差動回転から電力が生じ、発電パワーPowgeneは、
Powgene=Tcoup×(ωout−ωin)>0
となり、インバータ41での電力変換により、電力がロータ巻線30側からインバータ41を介してインバータ40側(蓄電装置42側)に流れ込む。
【0052】
一方、出力軸側では、(2)式からTmg=Tcoup+TRLであり、MGトルクTmgによる伝達パワーPowmgoutは、
Powmgout=Tmg×ωout=Tcoup×ωout+TRL×ωout
で表され、電磁カップリングトルクTcoupによる伝達パワーPowcoup=Tcoup×ωoutと走行負荷トルクTRLによるパワーPowRL=TRL×ωoutを賄う。MGトルクTmgによる伝達パワーPowmgoutは、ロータ巻線30の発電パワーPowgeneと蓄電装置42のパワーPowBTにより供給され、インバータ40等における損失を無視すると、
Powmgout=Powgene+PowBT
で表され、
PowBT=Tcoup×ωin+TRL×ωout
が導かれる。
【0053】
以上のことから、図5のフローチャートの処理を実行する場合におけるパワーフローを図示すると、図6に示すようになる。図6において、Cは、入力側ロータ28及び出力側ロータ18における電磁カップリングトルクTcoupが作用する部分(誘導電磁カップリング部)を表し、MGは、ステータ16及び出力側ロータ18におけるMGトルクTmgが作用する部分(PMモータ部)を表す。
【0054】
クラッチ48を係合させた状態でエンジン36のフューエルカットを実行する場合は、車速V(駆動軸37の回転速度ωd)が高くなるほどエンジン36の回転速度ωinが増加し、エンジン36の回転速度ωinが高くなるほどエンジン36の摩擦損失が増加する。一方、クラッチ48を解放し且つ入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に電磁カップリングトルクTcoupを作用させない状態でエンジン36のフューエルカットを実行する場合は、エンジン摩擦やスリップリング摩擦等によりエンジン36の回転速度ωinが低下し、エンジン36の回転速度ωinがアイドリング回転速度より低くなると、フューエルカットからの復帰時にエンジントルクを発生させることが困難となる。これに対して図5のフローチャートの処理によれば、駆動軸37の回転速度ωdが所定の高回転速度ωh以上である状態でエンジン36のフューエルカットを実行する場合に、クラッチ48による入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的な係合を解除した状態で、ロータ巻線30側からインバータ40側(蓄電装置42側)へ電力回収するようインバータ41での電力変換を制御して、出力側ロータ18から入力側ロータ28に作用するエンジン回転方向の電磁カップリングトルクTcoupを制御することで、エンジン36の回転速度ωinを出力側ロータ18の回転速度ωoutより低い所定の低回転速度ω1に制御する。これによって、エンジン36の回転速度ωinの制御性を向上させることができ、フューエルカット実行時におけるエンジン36の摩擦損失を低減することができるとともに、フューエルカットからの復帰時にエンジントルクを速やかに発生させることができる。その結果、燃費を向上させることができるとともに、駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)の急激な変化に即応することができる。さらに、図5のフローチャートの処理によれば、ステータ16から出力側ロータ18にエンジン回転方向のMGトルクTmgを作用させることで、電磁カップリングトルクTcoupにより駆動軸37に作用する減速方向のトルクを補償することができ、駆動軸37の回転速度ωdの低下を抑えることができる。
【0055】
次に、駆動軸37が回転している状態でエンジン36のフューエルカットを実行する場合に、電子制御ユニット50が実行する他の処理について、図7のフローチャートを用いて説明する。図7のフローチャートは、所定時間おきに繰り返して実行される。
【0056】
まずステップS201では、駆動軸37の回転速度ωdが所定の低回転速度ωl以下であるか否か(車速Vが所定の低車速Vl以下であるか否か)が判定される。ωd>ωl(V>Vl)の場合、すなわちステップS201の判定結果がNOの場合は、ステップS202において、エンジン36の燃料噴射を実行する。つまり、エンジン36のフューエルカットを行わない。一方、ωd≦ωl(V≦Vl)の場合、すなわちステップS201の判定結果がYESの場合は、ステップS203に進む。
【0057】
ステップS203では、駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)が0であるか否かが判定される。駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)が0でない場合、すなわちステップS203の判定結果がNOの場合は、ステップS202において、エンジン36の燃料噴射を実行する(エンジン36のフューエルカットを行わない)。一方、駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)が0である場合、すなわちステップS203の判定結果がYESの場合は、ステップS204において、エンジン36のフューエルカットを実行し、ステップS205に進む。
【0058】
ステップS205では、クラッチ48が係合状態にあるか否かが判定される。クラッチ48が係合状態にある場合(ステップS205の判定結果がYESの場合)は、ステップS206において、クラッチ48を解放することで入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的な係合を解除してから、ステップS207に進む。一方、クラッチ48が解放状態にある場合(ステップS205の判定結果がNOの場合)は、ステップS207に進む。
【0059】
ステップS207では、エンジン36の回転速度(入力側ロータ28の回転速度)ωinが出力側ロータ18の回転速度ωoutより高い所定の回転速度ω2に制御されるように、インバータ41のスイッチング動作により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクTcoupが制御される。ここでの所定の回転速度ω2は、フューエルカットからの復帰時にエンジントルクを発生可能な回転速度に設定され、例えばエンジン36のアイドリング回転速度より若干高い回転速度(例えば1000rpm程度)に設定される。エンジン36の回転速度ωinを所定の回転速度ω2に制御するためには、センサにより検出したエンジン36の回転速度ωinをフィードバックして電磁カップリングトルクTcoupを補正する制御系を組めばよい。なお、駆動軸37の回転速度ωdが所定の低回転速度ωl以下であり、駆動軸37の要求トルクTreqが0である場合は、変速機44の変速比は最大変速比γmaxに制御されており、ω2>ωl×γmaxが成立する。
【0060】
ステップS208では、インバータ40のスイッチング動作によりステータ16と出力側ロータ18との間に作用するMGトルクTmgが制御される。エンジン36の回転速度ωinを所定の回転速度ω2に制御するために、出力側ロータ18から入力側ロータ28にエンジン回転方向の電磁カップリングトルクTcoupを作用させる分、駆動軸37には、その回転方向と逆方向である減速方向のトルクが作用する。駆動軸37に作用する減速方向のトルクを補償するためには、入力側ロータ28から出力側ロータ18に減速方向(エンジン回転方向と逆方向)の電磁カップリングトルクTcoupが作用する分、ステータ16から出力側ロータ18にエンジン回転方向のMGトルクTmgを発生させるように、電磁カップリングトルクTcoupに基づいてMGトルクTmgを制御すればよい。また、駆動軸37の回転速度ωdが一定速度になるように、センサにより検出した駆動軸37の回転速度ωdをフィードバックしてステータ16から出力側ロータ18に作用するMGトルクTmgを制御することも可能である。
【0061】
ここで、入力側ロータ28及び出力側ロータ18の回転速度変動の無い定常状態を仮定すると、入力軸側では、電磁カップリングトルクTcoupによる伝達パワーTcoup×ωinにより摩擦損失パワーPowfric=Tfric×ωinが賄われる。また、ロータ巻線30の電力Powgeneは、
Powgene=Tcoup×(ωout−ωin)<0
となり、インバータ41での電力変換により、電力が蓄電装置42側からインバータ41を介してロータ巻線30に流れ込む。一方、出力軸側では、MGトルクTmgによる伝達パワーPowmgoutが、電磁カップリングトルクTcoupによる伝達パワーPowcoup=Tcoup×ωoutと走行負荷トルクTRLによるパワーPowRL=TRL×ωoutを賄う。そして、蓄電装置42のパワーPowBTが、MGトルクTmgによる伝達パワーPowmgoutとロータ巻線30の電力Powgeneを賄う。以上のことから、図7のフローチャートの処理を実行する場合におけるパワーフローを図示すると、図8に示すようになる。
【0062】
以上説明した図7のフローチャートの処理によれば、駆動軸37の回転速度ωdが所定の低回転速度ωl以下である状態でエンジン36のフューエルカットを実行する場合に、クラッチ48による入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的な係合を解除した状態で、蓄電装置42側からロータ巻線30側へ電力供給するようインバータ41での電力変換を制御して、出力側ロータ18から入力側ロータ28に作用するエンジン回転方向の電磁カップリングトルクTcoupを制御することで、エンジン36の回転速度ωinを出力側ロータ18の回転速度ωoutより高い所定の回転速度ω2に制御する。これによって、エンジン36の回転速度ωinの制御性を向上させることができ、より低い駆動軸37の回転速度ωd(車速V)までフューエルカット状態を持続させることができるとともに、フューエルカットからの復帰時にエンジントルクを速やかに発生させることができる。その結果、フューエルカット領域を拡大させて燃費を向上させることができるとともに、駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)の急激な変化に即応することができる。さらに、図7のフローチャートの処理によれば、ステータ16から出力側ロータ18にエンジン回転方向のMGトルクTmgを作用させることで、電磁カップリングトルクTcoupにより駆動軸37に作用する減速方向のトルクを補償することができ、駆動軸37の回転速度ωdの低下を抑えることができる。
【0063】
次に、変速機44の変速段を現変速段から次変速段に変更する変速動作を行う場合に、電子制御ユニット50が実行する処理について、図9のフローチャートを用いて説明する。ここでの変速機44は、複数の変速段の中から変速段を選択可能な有段変速機であり、複数自由度の回転自由度を有する遊星歯車機構と、遊星歯車機構の回転自由度を制限するための複数の摩擦係合装置と、各摩擦係合装置への供給油圧をそれぞれ制御することで各摩擦係合装置の係合/解放をそれぞれ制御する油圧制御装置とを含む公知の構成により実現することが可能である。各摩擦係合装置については、例えばクラッチまたはブレーキにより構成することが可能である。有段変速機44では、遊星歯車機構の回転自由度が1自由度になるように、油圧制御装置での油圧を利用して変速段に対応する摩擦係合装置を選択的に係合させることで、出力側ロータ18からの動力を変速段に応じた変速比で変速して駆動軸37へ伝達することが可能である。さらに、有段変速機44では、現変速段に対応する係合状態の摩擦係合装置を解放して次変速段に対応する解放状態の摩擦係合装置を係合させることで、変速段を現変速段から次変速段に変更することが可能である。なお、有段変速機44では、変速段を選択、変更するための係合装置として、クラッチやブレーキ等の摩擦係合装置以外に、例えばドグクラッチ等の噛み合い式の係合装置を用いることも可能である。
【0064】
まずステップS301では、現変速段から次変速段への変速指令が出力される。ステップS302では、エンジントルク、及びステータ16と出力側ロータ18との間に作用するMGトルクTmgが0に制御されることで、有段変速機44への入力トルクが0に制御される。ステップS303では、クラッチ48が解放状態に制御されることで、クラッチ48による入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合が解除される。ステップS304では、有段変速機44の現変速段に対応する係合状態の係合装置が解放される。
【0065】
ステップS305では、有段変速機44の入力軸回転速度ωmg(=出力側ロータ18の回転速度ωout)が次変速段に対応する目標入力軸回転速度ωrefに近づくように、インバータ40のスイッチング動作によりステータ16と出力側ロータ18との間に作用するMGトルクTmgが制御される。次変速段に対応する目標入力軸回転速度ωrefは、駆動軸37の回転速度ωd(車速V)と次変速段の変速比から算出される。N速(Nは1以上の整数)の現変速段から(N+1)速の次変速段へのアップシフトを行う場合は、図10に示すように、有段変速機44の入力軸回転速度ωmg(出力側ロータ18の回転速度ωout)が次変速段に対応する目標入力軸回転速度ωrefへ向けて低下するようステータ16から出力側ロータ18に減速方向(エンジン回転方向と逆方向)のMGトルクTmgを作用させる。その際には、ステータ巻線20側から蓄電装置42側へ電力回収するようインバータ40での電力変換が制御される。一方、(N+1)速の現変速段からN速の次変速段へのダウンシフトを行う場合は、図11に示すように、有段変速機44の入力軸回転速度ωmg(出力側ロータ18の回転速度ωout)が次変速段に対応する目標入力軸回転速度ωrefへ向けて増加するようステータ16から出力側ロータ18に増速方向(エンジン回転方向)のMGトルクTmgを作用させる。その際には、蓄電装置42側からステータ巻線20側へ電力供給するようインバータ40での電力変換が制御される。
【0066】
ステップS306では、有段変速機44の入力軸回転速度ωmgと次変速段に対応する目標入力軸回転速度ωrefとの差の絶対値|ωmg−ωref|が設定値δω1以下であるか否かが判定される。回転速度差|ωmg−ωref|が設定値δω1より大きい場合(ステップS306の判定結果がNOの場合)は、ステップS305に戻る。一方、回転速度差|ωmg−ωref|が設定値δω1以下の場合(ステップS306の判定結果がYESの場合)は、ステップS307において、有段変速機44の次変速段に対応する解放状態の係合装置を係合させ、ステップS308において、エンジントルク及びMGトルクTmgを発生させる。
【0067】
ステップS309では、エンジン36の回転速度ωeng(=入力側ロータ28の回転速度ωin)が出力側ロータ18の回転速度ωout(=有段変速機44の入力軸回転速度ωmg)に近づくように、インバータ41のスイッチング動作により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクTcoupが制御される。さらに、ここでは、駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)と電磁カップリングトルクTcoupとに基づいて、インバータ40のスイッチング動作によりステータ16と出力側ロータ18との間に作用するMGトルクTmgを制御することもできる。N速の現変速段から(N+1)速の次変速段へのアップシフトを行う場合は、図10に示すように、エンジン36の回転速度ωengが有段変速機44の入力軸回転速度ωmgへ向けて低下するよう出力側ロータ18から入力側ロータ28に減速方向(エンジン回転方向と逆方向)の電磁カップリングトルクTcoupを作用させる。その際には、ロータ巻線30側から蓄電装置42側へ電力回収するようインバータ41での電力変換が制御される。一方、(N+1)速の現変速段からN速の次変速段へのダウンシフトを行う場合は、図11に示すように、エンジン36の回転速度ωengが有段変速機44の入力軸回転速度ωmgへ向けて増加するよう出力側ロータ18から入力側ロータ28に増速方向(エンジン回転方向)の電磁カップリングトルクTcoupを作用させる。その際には、蓄電装置42側からロータ巻線30側へ電力供給するようインバータ41での電力変換が制御される。
【0068】
ステップS310では、エンジン36の回転速度ωeng(入力側ロータ28の回転速度ωin)と有段変速機44の入力軸回転速度ωmg(出力側ロータ18の回転速度ωout)との差の絶対値|ωeng−ωmg|が所定値δω2以下であるか否かが判定される。回転速度差|ωeng−ωmg|が所定値δω2より大きい場合(ステップS310の判定結果がNOの場合)は、ステップS309に戻る。一方、回転速度差|ωeng−ωmg|が所定値δω2以下の場合(ステップS310の判定結果がYESの場合)は、ステップS311において、クラッチ48が係合状態に制御されることで、入力側ロータ28と出力側ロータ18とを機械的に係合させる。以上の処理によって、有段変速機44の変速段が現変速段から次変速段に変更される。
【0069】
なお、図10,11に示す例では、ステップS301〜S304による処理が、時刻t1にてほぼ同タイミングで実行される。そして、ステップS305による処理が、時刻t1からステップS306の判定結果がYESになる時刻t2まで実行され、ステップS307による処理が、時刻t2にて実行される。そして、ステップS308,S309による処理が、時刻t2からステップS310の判定結果がYESになる時刻t3まで実行され、ステップS311による処理が、時刻t3にて実行される。
【0070】
従来の有段変速機においては、変速段を変更する変速動作時の回転速度制御は摩擦クラッチにより行われ、摩擦クラッチの滑りにより回転エネルギーが熱となって消費されることで損失が生じ、さらに、変速動作に要する時間が長くなる。これに対して図9のフローチャートの処理によれば、変速動作時に電磁カップリングトルクTcoup制御により動力伝達させながらエンジン36の回転速度ωengを滑らかに有段変速機44の次変速段の入力軸回転速度ωmgに制御することで、エンジン36の回転速度ωengの制御性を向上させることができ、変速動作時の損失が減り燃費を向上させることができるとともに、変速動作に要する時間を短縮することができる。さらに、摩擦クラッチでは、伝達トルクの推定予測が困難であり、変速動作時の制御性が低下して変速ショックが生じやすくなるのに対して、入力側ロータ28及び出力側ロータ18による誘導電磁カップリング部では、ロータ巻線30の電流等から伝達トルク(電磁カップリングトルクTcoup)の推定予測が容易であり、変速動作時の制御性が向上して変速ショックが緩和される。さらに、変速動作時にMGトルクTmg制御により有段変速機44の入力軸回転速度ωmgを滑らかに次変速段の目標入力軸回転速度ωrefに制御することで、変速動作に要する時間をさらに短縮することができる。
【0071】
本実施形態では、例えば図12に示すように、整流器93及び昇圧コンバータ(DC−DCコンバータ)94を設けることもできる。整流器93は、ブラシ96と電気的に接続されており、スリップリング95及びブラシ96により取り出されたロータ巻線30からの交流電力を整流して直流に変換する。昇圧コンバータ94は、スイッチング素子及びダイオード(整流素子)を備える公知の構成により実現可能であり、スイッチング素子のスイッチング動作により整流器93で整流された直流電力を昇圧(電圧変換)して出力する。昇圧コンバータ94で昇圧(電圧変換)された直流電力は、インバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20の各相へ供給可能である。つまり、インバータ40は、昇圧コンバータ94で昇圧された直流電力と蓄電装置42からの直流電力とのいずれか(少なくとも一方)を交流に変換してステータ巻線20の各相へ供給することが可能である。また、昇圧コンバータ94で昇圧された直流電力を蓄電装置42に回収することも可能である。ここでの整流器93は、スリップリング95側から昇圧コンバータ94側への一方向のみの電力変換を行い、昇圧コンバータ94は、整流器93側から蓄電装置42側(あるいはインバータ40側)への一方向のみの電力変換を行う。なお、昇圧コンバータ94の代わりに、DC−DCコンバータとして降圧コンバータや昇降圧コンバータを設けることも可能である。
【0072】
図12に示す構成例において、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に回転差が生じているときに、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容して、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルク(電磁カップリングトルクTcoup)を発生させるためには、電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94の出力電圧が蓄電装置42の電圧よりも高くなるように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御する。これによって、昇圧コンバータ94から蓄電装置42とインバータ40間の配線へ電流が流れ、ロータ巻線30に誘導電流が流れるため、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に電磁カップリングトルクTcoupが作用する。さらに、電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94における昇圧比(電圧変換比)を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクTcoupを制御することができる。一方、電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作を行わない状態で昇圧コンバータ94の出力電圧が蓄電装置42の電圧よりも低くなるように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に回転差が生じてもロータ巻線30に誘導電流が流れなくなり、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクは作用しなくなる。また、昇圧コンバータ94内のスイッチング素子をオフ状態に維持して昇圧コンバータ94による昇圧(電圧変換)を停止させることによっても、ロータ巻線30に誘導電流が流れなくなり、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクは作用しなくなる。
【0073】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0074】
10 回転電機、16 ステータ、18 第2ロータ(出力側ロータ)、20 ステータ巻線、28 第1ロータ(入力側ロータ)、30 ロータ巻線、32,33 永久磁石、36 エンジン、37 駆動軸、38 車輪、40,41 インバータ、42 蓄電装置、44 変速機(有段変速機)、48 クラッチ、50 電子制御ユニット、93 整流器、94 昇圧コンバータ(DC−DCコンバータ)、95 スリップリング、96 ブラシ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関し、特に、回転子同士の電磁気結合を利用して動力伝達を行うことが可能な動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の動力伝達装置の関連技術が下記特許文献1に開示されている。特許文献1による動力伝達装置は、巻線が配設されエンジンに機械的に連結された第1ロータと、第1ロータの巻線と電磁気的に結合する磁石が配設され駆動軸に機械的に連結された第2ロータと、第2ロータの磁石と電磁気的に結合する巻線が配設されたステータと、第1ロータの巻線と電気的に接続されたスリップリングと、スリップリングと電気的に接触するブラシと、バッテリーとステータの巻線との間で電力を授受可能に制御する第1インバータと、スリップリング及びブラシを介してバッテリーと第1ロータの巻線との間で電力を授受可能に制御する第2インバータと、を備える。特許文献1においては、第1ロータに伝達されたエンジンからの動力は、第1ロータの巻線と第2ロータの磁石との電磁気結合によって第2ロータに伝達されるため、エンジンの動力により駆動軸を駆動することができる。さらに、第2インバータを介してバッテリーと第1ロータの巻線との間で電力の授受が可能になるため、第2インバータにより第1ロータの巻線の電力を制御することで、駆動軸の回転速度を制御することができる。その場合において、第1ロータの回転速度が第2ロータの回転速度よりも高いときは、第1ロータの巻線の発電電力が第2インバータを介してバッテリー側へ供給され、第1ロータの回転速度が第2ロータの回転速度よりも低いときは、バッテリーの電力が第2インバータを介して第1ロータの巻線に供給される。さらに、ステータの巻線と第2ロータの磁石との電磁気結合によって、バッテリー側から第1インバータを介してステータの巻線に供給された電力を用いて第2ロータに動力を発生させて駆動軸を駆動することができるため、第1インバータによりステータの巻線への電力供給を制御することで、駆動軸に伝達されるトルクを制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3543500号公報
【特許文献2】特開2009−73472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、エンジンの動力により駆動軸を駆動する場合に、駆動軸にトルクが要求されていないときは、エンジンのフューエルカット(燃料カット)を実行することで、エンジンの燃費を向上させることが可能となる。ただし、エンジンのフューエルカットを実行する場合に、エンジン摩擦やスリップリング摩擦等によりエンジンの回転速度が低下し、エンジンの回転速度がアイドリング回転速度より低くなると、フューエルカットからの復帰時にエンジントルクを発生させることが困難となる。そこで、エンジンのフューエルカットを実行する場合に、エンジンの回転速度の制御性を向上できることが望ましい。
【0005】
また、特許文献1においては、第2ロータと駆動軸との間に有段変速機を設けることで、エンジンの動力により駆動軸を駆動する場合に、駆動軸の回転速度が高くなっても、有段変速機の変速段を変速比が小さくなる方向に変更することで、エンジンの回転速度の上昇を抑えることが可能となる。有段変速機の変速段を現変速段から次変速段に変更する変速動作を行う際には、エンジンの回転速度を有段変速機の次変速段の入力軸回転速度へ制御する必要があるが、エンジンの回転速度を摩擦クラッチにより制御すると、摩擦クラッチの滑りにより回転エネルギーが熱となって消費されることで損失が生じる。さらに、摩擦クラッチでは、伝達トルクの推定予測が困難であり、変速動作時の制御性が低下して変速ショックが生じやすくなる。そこで、有段変速機の変速段を変更する場合に、エンジンの回転速度の制御性を向上できることが望ましい。
【0006】
本発明は、エンジンの燃料カットを実行する場合や有段変速機の変速段を変更する場合において、エンジンの回転速度の制御性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る動力伝達装置は、上述した目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明に係る動力伝達装置は、エンジンからの動力が伝達され、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な回転子導体が配設された第1回転子と、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な固定子導体が配設された固定子と、第1回転子に対し相対回転可能であり、駆動軸へ動力を伝達する第2回転子であって、回転子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて第1回転子との間にトルクが作用し、固定子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて固定子との間にトルクが作用する第2回転子と、固定子導体に流れる交流電流を制御することで固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御し、回転子導体に流れる交流電流を制御することで第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する制御装置と、を備える動力伝達装置であって、制御装置は、駆動軸が回転している状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、エンジンの回転速度が燃料カットからの復帰時にエンジントルクを発生可能な所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御することを要旨とする。
【0009】
本発明によれば、駆動軸が回転している状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、エンジンの回転速度が燃料カットからの復帰時にエンジントルクを発生可能な所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御することで、エンジンの回転速度の制御性を向上させることができる。その結果、燃料カット領域を拡大させて燃費を向上させることができるとともに、燃料カットからの復帰時にエンジントルクを速やかに発生させて駆動軸の要求トルクの急激な変化に即応することができる。
【0010】
本発明の一態様では、制御装置は、駆動軸の回転速度が所定の高回転速度以上である状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、エンジンの回転速度が第2回転子の回転速度より低い前記所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御することが好適である。
【0011】
本発明の一態様では、制御装置は、駆動軸の回転速度が所定の低回転速度以下である状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、エンジンの回転速度が第2回転子の回転速度より高い前記所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御することが好適である。
【0012】
本発明の一態様では、制御装置は、駆動軸が回転している状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、エンジンの回転速度が前記所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御しつつ、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクと、駆動軸の回転速度とのいずれかに基づいて、固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御することが好適である。
【0013】
本発明の一態様では、第1回転子と第2回転子とを機械的に係合させることが可能な回転子係合機構をさらに備え、制御装置は、駆動軸が回転している状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、回転子係合機構による第1回転子と第2回転子との機械的な係合を解除した状態で、エンジンの回転速度が前記所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御することが好適である。
【0014】
また、本発明に係る動力伝達装置は、エンジンからの動力が伝達され、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な回転子導体が配設された第1回転子と、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な固定子導体が配設された固定子と、第1回転子に対し相対回転可能な第2回転子であって、回転子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて第1回転子との間にトルクが作用し、固定子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて固定子との間にトルクが作用する第2回転子と、第2回転子からの動力を変速段に応じた変速比で変速して駆動軸へ伝達する有段変速機であって、現変速段に対応する係合装置を解放して次変速段に対応する係合装置を係合させることで変速段を現変速段から次変速段に変更することが可能な有段変速機と、固定子導体に流れる交流電流を制御することで固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御し、回転子導体に流れる交流電流を制御することで第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する制御装置と、を備える動力伝達装置であって、制御装置は、有段変速機の変速段を現変速段から次変速段に変更する場合に、次変速段に対応する係合装置を係合させたら、エンジンの回転速度が第2回転子の回転速度に近づくように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御することを要旨とする。
【0015】
本発明によれば、有段変速機の変速段を現変速段から次変速段に変更する場合に、次変速段に対応する係合装置を係合させたら、エンジンの回転速度が第2回転子の回転速度に近づくように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御することで、エンジンの回転速度の制御性を向上させることができる。その結果、変速動作時の損失が減り燃費を向上させることができるとともに、変速ショックが緩和される。
【0016】
本発明の一態様では、第1回転子と第2回転子とを機械的に係合させることが可能な回転子係合機構をさらに備え、制御装置は、有段変速機の変速段を現変速段から次変速段に変更する場合に、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御して第1回転子の回転速度と第2回転子の回転速度との差が所定値以下になったら、回転子係合機構により第1回転子と第2回転子とを機械的に係合させることが好適である。
【0017】
本発明の一態様では、制御装置は、有段変速機の変速段を現変速段から次変速段に変更する場合に、現変速段に対応する係合装置を解放したら、有段変速機の入力軸回転速度が次変速段に対応する目標入力軸回転速度に近づくように、固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御することが好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エンジンの燃料カットを実行する場合や有段変速機の変速段を変更する場合において、エンジンの回転速度の制御性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る動力伝達装置を備えるハイブリッド駆動装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の概略構成を示す図である。
【図4】入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16の構成例を示す図である。
【図5】エンジンのフューエルカットを実行する場合に電子制御ユニットにより実行される処理の一例を説明するフローチャートである。
【図6】図5のフローチャートの処理を実行する場合におけるパワーフローを示す図である。
【図7】エンジンのフューエルカットを実行する場合に電子制御ユニットにより実行される処理の他の例を説明するフローチャートである。
【図8】図7のフローチャートの処理を実行する場合におけるパワーフローを示す図である。
【図9】変速機の変速段を変更する場合に電子制御ユニットにより実行される処理の他の例を説明するフローチャートである。
【図10】図9のフローチャートの処理を実行する場合におけるアップシフト時の動作を説明する図である。
【図11】図9のフローチャートの処理を実行する場合におけるダウンシフト時の動作を説明する図である。
【図12】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の他の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0021】
図1〜3は、本発明の実施形態に係る動力伝達装置を備えるハイブリッド駆動装置の構成の概略を示す図であり、図1は全体構成の概略を示し、図2,3は回転電機10の構成の概略を示す。本実施形態に係るハイブリッド駆動装置は、動力(機械的動力)を発生可能な原動機として設けられたエンジン(内燃機関)36と、エンジン36と駆動軸37(車輪38)との間に設けられ、変速比の変更が可能な変速機(機械式変速機)44と、エンジン36と変速機44との間に設けられた回転電機10と、を備える。なお、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置については、例えば車両を駆動するための動力出力装置として用いることができる。
【0022】
回転電機10は、図示しないステータケースに固定されたステータ16と、ステータ16に対し相対回転可能な第1ロータ28と、ロータ回転軸と直交する径方向においてステータ16及び第1ロータ28と所定の空隙を空けて対向し、ステータ16及び第1ロータ28に対し相対回転可能な第2ロータ18と、を有する。ステータ16は、第1ロータ28より径方向外側の位置に第1ロータ28と間隔を空けて配置されており、第2ロータ18は、径方向においてステータ16と第1ロータ28との間の位置に配置されている。つまり、第1ロータ28は第2ロータ18より径方向内側の位置で第2ロータ18と対向配置されており、ステータ16は第2ロータ18より径方向外側の位置で第2ロータ18と対向配置されている。第1ロータ28はエンジン36と機械的に連結されていることで、第1ロータ28にはエンジン36からの動力が伝達される。一方、第2ロータ18は変速機44を介して駆動軸37に機械的に連結されていることで、駆動軸37(車輪38)には第2ロータ18からの動力が変速機44で変速されてから伝達される。なお、以下の説明では、第1ロータ28を入力側ロータとし、第2ロータ18を出力側ロータとする。
【0023】
入力側ロータ28は、ロータコア(第1回転子鉄心)52と、ロータコア52にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のロータ巻線30と、を含む。複数相のロータ巻線30に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ロータ巻線30は、ロータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。
【0024】
ステータ16は、ステータコア(固定子鉄心)51と、ステータコア51にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のステータ巻線20と、を含む。複数相のステータ巻線20に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線20は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。
【0025】
出力側ロータ18は、ロータコア(第2回転子鉄心)53と、ロータコア53にその周方向に沿って配設され界磁束を発生する永久磁石32,33と、を含む。永久磁石32は、ロータコア53の外周部にステータ16(ステータコア51)と対向して配設されており、永久磁石33は、ロータコア53の内周部に入力側ロータ28(ロータコア52)と対向して配設されている。ここでは、永久磁石32,33を一体化することも可能である。
【0026】
入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16のより詳細な構成例を図4に示す。図4に示す例では、入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16が同心円状に配置されている。ステータ16のステータコア51には、径方向内側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース51aがステータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ステータ巻線20がこれらのティース51aに巻回されていることで、磁極が構成される。入力側ロータ28のロータコア52には、径方向外側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース52aがロータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ロータ巻線30がこれらのティース52aに巻回されていることで、磁極が構成される。ステータ16のティース51aと出力側ロータ18の永久磁石32とが出力側ロータ18の回転中心軸(入力側ロータ28の回転中心軸と一致する)に直交する径方向に対向配置されており、入力側ロータ28のティース52aと出力側ロータ18の永久磁石33とがこの径方向に対向配置されている。ステータ巻線20の巻回軸及びロータ巻線30の巻回軸は、この径方向(入力側ロータ28と出力側ロータ18が対向する方向)に一致している。永久磁石32,33はロータ周方向に間隔をおいて配列されており、さらに、永久磁石32はロータコア53内にV字状に埋設されている。ただし、永久磁石32,33については、出力側ロータ18の表面(外周面または内周面)に露出していてもよいし、出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されていてもよい。
【0027】
回転子係合機構としてのクラッチ48は、エンジン36と変速機44との間に、回転電機10(入力側ロータ28及び出力側ロータ18)に対し並列に設けられている。クラッチ48は、エンジン36(入力側ロータ28)に機械的に連結されたクラッチ板48aと変速機44(出力側ロータ18)に機械的に連結されたクラッチ板48bとの係合/解放により、入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合/その解除を選択的に行うことが可能であり、動力伝達の許容/遮断を選択的に行うことが可能である。クラッチ板48aとクラッチ板48bとを係合させて、入力側ロータ28と出力側ロータ18とを機械的に係合させることで、クラッチ48を介したエンジン36と変速機44(駆動軸37)との間の動力伝達が許容される。クラッチ48の係合時は、入力側ロータ28と出力側ロータ18とが一体となって等しい回転速度で回転する。一方、クラッチ板48aとクラッチ板48bとを解放して、入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合を解除することで、クラッチ48を介したエンジン36と変速機44(駆動軸37)との間の動力伝達が遮断される。クラッチ48の解放時は、入力側ロータ28と出力側ロータ18との回転速度差が許容される。ここでのクラッチ48は、例えば油圧や電磁力を利用してクラッチ板48aとクラッチ板48bとの係合/解放を切り替えることが可能であり、さらに、クラッチ48に供給する油圧力や電磁力を調整することで、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの締結力を調整することもできる。クラッチ板48aとクラッチ板48bとの締結力を調整することで、クラッチ板48aとクラッチ板48bとの回転速度差を許容しながら、クラッチ48を介したエンジン36と変速機44(駆動軸37)との間の動力伝達を許容することが可能となる。
【0028】
直流電源として設けられた充放電可能な蓄電装置42は、例えば二次電池により構成することができ、電気エネルギーを蓄える。インバータ40は、スイッチング素子と、スイッチング素子に対し逆並列接続されたダイオード(整流素子)とを備える公知の構成により実現可能であり、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ステータ巻線20の各相に供給することが可能である。さらに、インバータ40は、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を直流に変換して、電気エネルギーを蓄電装置42に回収する方向の電力変換も可能である。このように、インバータ40は、蓄電装置42とステータ巻線20との間で双方向の電力変換を行うことが可能である。
【0029】
スリップリング95は、入力側ロータ28と機械的に連結されており、さらに、ロータ巻線30の各相と電気的に接続されている。回転が固定されたブラシ96は、スリップリング95に押し付けられて電気的に接触する。スリップリング95は、ブラシ96に対し摺動しながら(ブラシ96との電気的接触を維持しながら)、入力側ロータ28とともに回転する。ブラシ96は、インバータ41と電気的に接続されている。インバータ41は、スイッチング素子と、スイッチング素子に対し逆並列接続されたダイオード(整流素子)とを備える公知の構成により実現可能であり、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ブラシ96及びスリップリング95を介してロータ巻線30の各相に供給することが可能である。さらに、インバータ41は、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を直流に変換する方向の電力変換も可能である。その際には、ロータ巻線30の交流電力がスリップリング95及びブラシ96により取り出され、この取り出された交流電力がインバータ41で直流に変換される。インバータ41で直流に変換された電力は、インバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20の各相へ供給可能である。つまり、インバータ40は、インバータ41からの直流電力と蓄電装置42からの直流電力とのいずれか(少なくとも一方)を交流に変換してステータ巻線20の各相へ供給することが可能である。また、インバータ41で直流に変換された電力を蓄電装置42に回収することも可能である。このように、インバータ41は、蓄電装置42とロータ巻線30との間で双方向の電力変換を行うことが可能である。そして、インバータ40,41を含んで、スリップリング95及びブラシ96により取り出されたロータ巻線30からの交流電力を電力変換してステータ巻線20の各相へ供給することが可能な電力変換部を構成することができる。また、スリップリング95及びブラシ96により、ロータ巻線30の電力(交流電力)を取り出すための電力伝達部を構成することができる。
【0030】
電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング素子のスイッチング動作を制御することで、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を制御する。そして、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング素子のスイッチング動作を制御することで、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を制御する。そして、電子制御ユニット50は、クラッチ48の係合/解放を切り替えることで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合/その解除を切り替える制御も行う。さらに、電子制御ユニット50は、エンジン36の運転状態の制御、及び変速機44の変速比の制御も行う。
【0031】
インバータ40のスイッチング動作により複数相のステータ巻線20に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線20は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生する。そして、ステータ巻線20で発生した回転磁界と永久磁石32で発生した界磁束との電磁気相互作用(吸引及び反発作用)により、出力側ロータ18にトルク(磁石トルク)を作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。つまり、蓄電装置42からステータ巻線20に供給された電力を出力側ロータ18の動力(機械的動力)に変換することができ、ステータ16及び出力側ロータ18を同期電動機(PMモータ部)として機能させることができる。さらに、インバータ40は、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を直流に変換して、電気エネルギーを蓄電装置42に回収する方向の変換も可能である。その場合は、出力側ロータ18の動力がステータ巻線20の電力に変換されて蓄電装置42に回収される。このように、ステータ16のステータ巻線20と出力側ロータ18の永久磁石32とが電磁気的に結合されていることで、ステータ巻線20で発生する回転磁界を出力側ロータ18に作用させて、ステータ16と出力側ロータ18との間にトルク(磁石トルク)を作用させることができる。さらに、例えば図4に示すように、永久磁石32間に突極部として磁性体(強磁性体)がステータ16(ティース51a)と対向して配置されている例や、永久磁石32が出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されている例では、ステータ16の発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、磁石トルクに加えてリラクタンストルクもステータ16と出力側ロータ18との間に作用する。電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作により例えばステータ巻線20に流す交流電流の振幅や位相角を制御することで、ステータ16と出力側ロータ18との間に作用するトルクを制御することができる。
【0032】
また、入力側ロータ28が出力側ロータ18に対し相対回転して入力側ロータ28(ロータ巻線30)と出力側ロータ18(永久磁石33)との間に回転差が生じるのに伴ってロータ巻線30に誘導起電力が発生し、この誘導起電力に起因してロータ巻線30に誘導電流(交流電流)が流れることで回転磁界が生じる。そして、ロータ巻線30の誘導電流により生じる回転磁界と永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用によっても、出力側ロータ18にトルクを作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。このように、入力側ロータ28のロータ巻線30と出力側ロータ18の永久磁石33とが電磁気的に結合されていることで、ロータ巻線30で発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルク(磁石トルク)が作用する。そのため、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間で動力(機械的動力)を伝達することができ、入力側ロータ28及び出力側ロータ18を誘導電磁カップリング部として機能させることができる。
【0033】
ロータ巻線30の誘導電流により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルク(電磁カップリングトルク)を発生させる際には、電子制御ユニット50は、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するように、インバータ41のスイッチング動作を行う。その際には、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング動作によりロータ巻線30に流れる交流電流を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクを制御することができる。一方、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング素子をオフ状態に維持してスイッチング動作を停止させることで、ロータ巻線30に誘導電流が流れなくなり、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクは作用しなくなる。
【0034】
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置の動作について説明する。
【0035】
エンジン36が動力を発生している場合は、エンジン36の動力が入力側ロータ28に伝達され、入力側ロータ28がエンジン回転方向に回転駆動する。クラッチ48が解放されている状態で、入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度より高くなると、ロータ巻線30に誘導起電力が発生する。電子制御ユニット50は、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するように、インバータ41のスイッチング動作を行う。これによって、ロータ巻線30の誘導電流と永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用により入力側ロータ28から出力側ロータ18にエンジン回転方向の電磁カップリングトルクが作用して出力側ロータ18がエンジン回転方向に回転駆動する。このように、入力側ロータ28に伝達されたエンジン36からの動力は、入力側ロータ28のロータ巻線30と出力側ロータ18の永久磁石33との電磁気結合によって、出力側ロータ18へ伝達される。出力側ロータ18に伝達された動力は、変速機44で変速されてから駆動軸37(車輪38)へ伝達されることで、車両の前進駆動等、負荷の正転駆動に用いられる。したがって、エンジン36の動力を用いて車輪38を正転方向に回転駆動することができ、車両を前進方向に駆動することができる。さらに、入力側ロータ28と出力側ロータ18との回転差を許容することができるため、車輪38の回転が停止してもエンジン36がストールすることはない。そのため、回転電機10を発進装置として機能させることができ、摩擦クラッチやトルクコンバータ等の発進装置を別に設ける必要がなくなる。
【0036】
さらに、ロータ巻線30に発生した交流電力は、スリップリング95及びブラシ96を介して取り出される。取り出された交流電力はインバータ41で直流に変換される。そして、インバータ40のスイッチング動作により、インバータ41からの直流電力がインバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20に供給されることで、ステータ巻線20に交流電流が流れ、ステータ16に回転磁界が形成される。このステータ16の回転磁界と出力側ロータ18の永久磁石32の界磁束との電磁気相互作用によっても、出力側ロータ18にエンジン回転方向のトルクを作用させることができる。これによって、出力側ロータ18のエンジン回転方向のトルクを増幅させるトルク増幅機能を実現することができる。また、インバータ41からの直流電力を蓄電装置42に回収することも可能である。
【0037】
さらに、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、エンジン36の動力を用いて車輪38を正転方向に回転駆動するとともに、ステータ巻線20への供給電力を用いて発生させた出力側ロータ18の動力により車輪38の正転方向の回転駆動をアシストすることができる。また、負荷の減速運転時には、電子制御ユニット50は、ステータ巻線20から蓄電装置42へ電力回収するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、負荷の動力をステータ巻線20と永久磁石32との電磁気結合によってステータ巻線20の電力に変換して蓄電装置42に回収することができる。
【0038】
また、エンジン36の動力を用いずに回転電機10の動力を用いて負荷を駆動する(車輪38を回転駆動する)EV(Electric Vehicle)走行を行う場合は、電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作を制御することで、負荷の駆動制御を行う。例えば、電子制御ユニット50は、蓄電装置42からの直流電力を交流に変換してステータ巻線20へ供給するように、インバータ40のスイッチング動作を制御することで、ステータ巻線20への供給電力をステータ巻線20と永久磁石32との電磁気結合によって出力側ロータ18の動力に変換し、駆動軸37(車輪38)を回転駆動する。このように、エンジン36が動力を発生していなくても、ステータ巻線20への電力供給により車輪38を回転駆動することができる。なお、EV走行を行う場合は、クラッチ48を解放状態に制御する。
【0039】
また、エンジン36を始動する場合は、電子制御ユニット50は、蓄電装置42からの直流電力をインバータ41で交流に変換してスリップリング95及びブラシ96を介してロータ巻線30へ供給するように、インバータ41のスイッチング動作を制御することで、ロータ巻線30への供給電力を用いてエンジン36のクランキングを行うことができる。このように、ロータ巻線30には、エンジン36を始動するための交流電力が供給される。エンジン36のクランキングの際には、入力側ロータ28の回転磁界と出力側ロータ18の永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用によりエンジン36に繋がる入力側ロータ28にトルクを作用させるが、出力側ロータ18もその反力トルクを受けることになる。そのため、EV走行時にエンジン36を始動する場合は、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給して出力側ロータ18にこの反力トルクを打ち消すトルクを作用させるようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、ステータ巻線20への供給電力を用いて出力側ロータ18を回転駆動することができる。なお、エンジン36を始動する場合は、クラッチ48を解放状態に制御する。
【0040】
また、エンジン36の動力を用いて車両を前進方向に駆動する場合には、クラッチ48を係合して入力側ロータ28と出力側ロータ18とを機械的に連結することで、ロータ巻線30に交流電流が流れず入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクが作用しなくても、エンジン36からの動力をクラッチ48を介して駆動軸37(車輪38)へ伝達することができる。これによって、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間のすべりに伴ってロータ巻線30に誘導電流が流れることで生じるジュール損失を抑えることが可能となる。このように、本実施形態では、回転電機10の入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクによりエンジン36からの動力を駆動軸37へ伝達することが可能な第1の動力伝達経路の他に、エンジン36からの動力を回転電機10に対し並列に設けられたクラッチ48を介して駆動軸37へ伝達することが可能な第2の動力伝達経路が設けられている。そして、変速機44は、第1の動力伝達経路と第2の動力伝達経路のいずれかからの動力を変速して駆動軸37へ伝達することが可能である。
【0041】
また、駆動軸37が回転している(車両が走行している)状態で、駆動軸37にトルク(車両の駆動力)が要求されていないときは、電子制御ユニット50は、エンジン36のフューエルカット(燃料カット)を実行することで、エンジン36の燃費を向上させることが可能となる。以下、駆動軸37が回転している状態でエンジン36のフューエルカットを実行する場合に、電子制御ユニット50が実行する処理について、図5のフローチャートを用いて説明する。図5のフローチャートは、所定時間おきに繰り返して実行される。
【0042】
まずステップS101では、駆動軸37の回転速度ωdが所定の高回転速度ωh以上であるか否か(車速Vが所定の高車速Vh以上であるか否か)が判定される。ωd<ωh(V<Vh)の場合、すなわちステップS101の判定結果がNOの場合は、ステップS102において、エンジン36の燃料噴射を実行する。つまり、エンジン36のフューエルカットを行わない。一方、ωd≧ωh(V≧Vh)の場合、すなわちステップS101の判定結果がYESの場合は、ステップS103に進む。
【0043】
ステップS103では、駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)が0であるか否かが判定される。駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)については、例えばアクセル開度から設定することが可能である。駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)が0でない場合、すなわちステップS103の判定結果がNOの場合は、ステップS102において、エンジン36の燃料噴射を実行する(エンジン36のフューエルカットを行わない)。一方、駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)が0である場合、すなわちステップS103の判定結果がYESの場合は、ステップS104において、エンジン36のフューエルカットを実行し、ステップS105に進む。
【0044】
ステップS105では、クラッチ48が係合状態にあるか否かが判定される。クラッチ48が係合状態にある場合(ステップS105の判定結果がYESの場合)は、ステップS106において、クラッチ48を解放することで入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的な係合を解除してから、ステップS107に進む。一方、クラッチ48が解放状態にある場合(ステップS105の判定結果がNOの場合)は、ステップS107に進む。
【0045】
ステップS107では、エンジン36の回転速度(入力側ロータ28の回転速度)ωinが出力側ロータ18の回転速度ωoutより低い所定の低回転速度ω1に制御されるように、インバータ41のスイッチング動作により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクが制御される。ここでの所定の低回転速度ω1は、フューエルカットからの復帰時にエンジントルクを発生可能な低回転速度に設定され、例えばエンジン36のアイドリング回転速度より若干高い回転速度(例えば1000rpm程度)に設定される。なお、駆動軸37の回転速度ωdが所定の高回転速度ωh以上であり、駆動軸37の要求トルクTreqが0である場合は、変速機44の変速比は最小変速比γminに制御されており、ω1<ωh×γminが成立する。
【0046】
エンジン36の回転速度ωinは、その時間微分をdωin/dt、エンジン36及び入力側ロータ28を含む入力軸側の回転慣性をJin、出力側ロータ18から入力側ロータ28に作用する電磁カップリングトルクをTcoup、エンジン摩擦、スリップリング摩擦等による入力軸側の摩擦トルクをTfricとすると、以下の(1)式で表される。(1)式において、摩擦トルクTfricの値は、エンジン36の回転速度ωinに応じて変化する。エンジン36の回転速度ωinを所定の低回転速度ω1に制御するためには、センサにより検出したエンジン36の回転速度ωinをフィードバックして電磁カップリングトルクTcoupを補正する制御系を組めばよい。このように、出力側ロータ18から入力側ロータ28に作用する電磁カップリングトルクTcoupを制御することで、エンジン36の回転速度ωinを制御することが可能である。
【0047】
Jin×dωin/dt=Tcoup−Tfric (1)
【0048】
ステップS108では、インバータ40のスイッチング動作によりステータ16と出力側ロータ18との間に作用するトルク(MGトルク)が制御される。出力側ロータ18の回転速度ωoutの時間微分をdωout/dt、出力側ロータ18を含む出力軸側の回転慣性をJout、ステータ16から出力側ロータ18に作用するMGトルクをTmg、出力軸側の走行負荷トルクをTRLとすると、以下の(2)式が成立する。(2)式から、MGトルクTmgは、走行負荷トルクTRLの他に電磁カップリングトルクTcoupを反力として受け持つことがわかる。
【0049】
Jout×dωout/dt=Tmg−Tcoup−TRL (2)
【0050】
エンジン36の回転速度ωinを所定の低回転速度ω1に制御するために、出力側ロータ18から入力側ロータ28にエンジン回転方向の電磁カップリングトルクTcoupを作用させることの反作用として、入力側ロータ28から出力側ロータ18にエンジン回転方向と逆方向の電磁カップリングトルクTcoupが作用し、駆動軸37には、その回転方向と逆方向である減速方向のトルクが作用する。駆動軸37に作用する減速方向のトルクを補償するためには、入力側ロータ28から出力側ロータ18にエンジン回転方向と逆方向(減速方向)の電磁カップリングトルクTcoupが作用する分、ステータ16から出力側ロータ18にエンジン回転方向のMGトルクTmgを発生させるように、電磁カップリングトルクTcoupに基づいてMGトルクTmgを制御すればよい。また、駆動軸37の回転速度ωdが一定速度になるように、センサにより検出した駆動軸37の回転速度ωdをフィードバックしてステータ16から出力側ロータ18に作用するMGトルクTmgを制御することも可能である。
【0051】
ここで、入力側ロータ28及び出力側ロータ18の回転速度変動の無い定常状態を仮定すると、入力軸側では、(1)式からTcoup=Tfricとなる。よって、Tcoup×ωin=Tfric×ωinであり、入力軸側では、電磁カップリングトルクTcoupによる伝達パワーTcoup×ωinにより摩擦損失パワーPowfric=Tfric×ωinが賄われる。また、ロータ巻線30では、入力側ロータ28と出力側ロータ18の差動回転から電力が生じ、発電パワーPowgeneは、
Powgene=Tcoup×(ωout−ωin)>0
となり、インバータ41での電力変換により、電力がロータ巻線30側からインバータ41を介してインバータ40側(蓄電装置42側)に流れ込む。
【0052】
一方、出力軸側では、(2)式からTmg=Tcoup+TRLであり、MGトルクTmgによる伝達パワーPowmgoutは、
Powmgout=Tmg×ωout=Tcoup×ωout+TRL×ωout
で表され、電磁カップリングトルクTcoupによる伝達パワーPowcoup=Tcoup×ωoutと走行負荷トルクTRLによるパワーPowRL=TRL×ωoutを賄う。MGトルクTmgによる伝達パワーPowmgoutは、ロータ巻線30の発電パワーPowgeneと蓄電装置42のパワーPowBTにより供給され、インバータ40等における損失を無視すると、
Powmgout=Powgene+PowBT
で表され、
PowBT=Tcoup×ωin+TRL×ωout
が導かれる。
【0053】
以上のことから、図5のフローチャートの処理を実行する場合におけるパワーフローを図示すると、図6に示すようになる。図6において、Cは、入力側ロータ28及び出力側ロータ18における電磁カップリングトルクTcoupが作用する部分(誘導電磁カップリング部)を表し、MGは、ステータ16及び出力側ロータ18におけるMGトルクTmgが作用する部分(PMモータ部)を表す。
【0054】
クラッチ48を係合させた状態でエンジン36のフューエルカットを実行する場合は、車速V(駆動軸37の回転速度ωd)が高くなるほどエンジン36の回転速度ωinが増加し、エンジン36の回転速度ωinが高くなるほどエンジン36の摩擦損失が増加する。一方、クラッチ48を解放し且つ入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に電磁カップリングトルクTcoupを作用させない状態でエンジン36のフューエルカットを実行する場合は、エンジン摩擦やスリップリング摩擦等によりエンジン36の回転速度ωinが低下し、エンジン36の回転速度ωinがアイドリング回転速度より低くなると、フューエルカットからの復帰時にエンジントルクを発生させることが困難となる。これに対して図5のフローチャートの処理によれば、駆動軸37の回転速度ωdが所定の高回転速度ωh以上である状態でエンジン36のフューエルカットを実行する場合に、クラッチ48による入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的な係合を解除した状態で、ロータ巻線30側からインバータ40側(蓄電装置42側)へ電力回収するようインバータ41での電力変換を制御して、出力側ロータ18から入力側ロータ28に作用するエンジン回転方向の電磁カップリングトルクTcoupを制御することで、エンジン36の回転速度ωinを出力側ロータ18の回転速度ωoutより低い所定の低回転速度ω1に制御する。これによって、エンジン36の回転速度ωinの制御性を向上させることができ、フューエルカット実行時におけるエンジン36の摩擦損失を低減することができるとともに、フューエルカットからの復帰時にエンジントルクを速やかに発生させることができる。その結果、燃費を向上させることができるとともに、駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)の急激な変化に即応することができる。さらに、図5のフローチャートの処理によれば、ステータ16から出力側ロータ18にエンジン回転方向のMGトルクTmgを作用させることで、電磁カップリングトルクTcoupにより駆動軸37に作用する減速方向のトルクを補償することができ、駆動軸37の回転速度ωdの低下を抑えることができる。
【0055】
次に、駆動軸37が回転している状態でエンジン36のフューエルカットを実行する場合に、電子制御ユニット50が実行する他の処理について、図7のフローチャートを用いて説明する。図7のフローチャートは、所定時間おきに繰り返して実行される。
【0056】
まずステップS201では、駆動軸37の回転速度ωdが所定の低回転速度ωl以下であるか否か(車速Vが所定の低車速Vl以下であるか否か)が判定される。ωd>ωl(V>Vl)の場合、すなわちステップS201の判定結果がNOの場合は、ステップS202において、エンジン36の燃料噴射を実行する。つまり、エンジン36のフューエルカットを行わない。一方、ωd≦ωl(V≦Vl)の場合、すなわちステップS201の判定結果がYESの場合は、ステップS203に進む。
【0057】
ステップS203では、駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)が0であるか否かが判定される。駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)が0でない場合、すなわちステップS203の判定結果がNOの場合は、ステップS202において、エンジン36の燃料噴射を実行する(エンジン36のフューエルカットを行わない)。一方、駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)が0である場合、すなわちステップS203の判定結果がYESの場合は、ステップS204において、エンジン36のフューエルカットを実行し、ステップS205に進む。
【0058】
ステップS205では、クラッチ48が係合状態にあるか否かが判定される。クラッチ48が係合状態にある場合(ステップS205の判定結果がYESの場合)は、ステップS206において、クラッチ48を解放することで入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的な係合を解除してから、ステップS207に進む。一方、クラッチ48が解放状態にある場合(ステップS205の判定結果がNOの場合)は、ステップS207に進む。
【0059】
ステップS207では、エンジン36の回転速度(入力側ロータ28の回転速度)ωinが出力側ロータ18の回転速度ωoutより高い所定の回転速度ω2に制御されるように、インバータ41のスイッチング動作により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクTcoupが制御される。ここでの所定の回転速度ω2は、フューエルカットからの復帰時にエンジントルクを発生可能な回転速度に設定され、例えばエンジン36のアイドリング回転速度より若干高い回転速度(例えば1000rpm程度)に設定される。エンジン36の回転速度ωinを所定の回転速度ω2に制御するためには、センサにより検出したエンジン36の回転速度ωinをフィードバックして電磁カップリングトルクTcoupを補正する制御系を組めばよい。なお、駆動軸37の回転速度ωdが所定の低回転速度ωl以下であり、駆動軸37の要求トルクTreqが0である場合は、変速機44の変速比は最大変速比γmaxに制御されており、ω2>ωl×γmaxが成立する。
【0060】
ステップS208では、インバータ40のスイッチング動作によりステータ16と出力側ロータ18との間に作用するMGトルクTmgが制御される。エンジン36の回転速度ωinを所定の回転速度ω2に制御するために、出力側ロータ18から入力側ロータ28にエンジン回転方向の電磁カップリングトルクTcoupを作用させる分、駆動軸37には、その回転方向と逆方向である減速方向のトルクが作用する。駆動軸37に作用する減速方向のトルクを補償するためには、入力側ロータ28から出力側ロータ18に減速方向(エンジン回転方向と逆方向)の電磁カップリングトルクTcoupが作用する分、ステータ16から出力側ロータ18にエンジン回転方向のMGトルクTmgを発生させるように、電磁カップリングトルクTcoupに基づいてMGトルクTmgを制御すればよい。また、駆動軸37の回転速度ωdが一定速度になるように、センサにより検出した駆動軸37の回転速度ωdをフィードバックしてステータ16から出力側ロータ18に作用するMGトルクTmgを制御することも可能である。
【0061】
ここで、入力側ロータ28及び出力側ロータ18の回転速度変動の無い定常状態を仮定すると、入力軸側では、電磁カップリングトルクTcoupによる伝達パワーTcoup×ωinにより摩擦損失パワーPowfric=Tfric×ωinが賄われる。また、ロータ巻線30の電力Powgeneは、
Powgene=Tcoup×(ωout−ωin)<0
となり、インバータ41での電力変換により、電力が蓄電装置42側からインバータ41を介してロータ巻線30に流れ込む。一方、出力軸側では、MGトルクTmgによる伝達パワーPowmgoutが、電磁カップリングトルクTcoupによる伝達パワーPowcoup=Tcoup×ωoutと走行負荷トルクTRLによるパワーPowRL=TRL×ωoutを賄う。そして、蓄電装置42のパワーPowBTが、MGトルクTmgによる伝達パワーPowmgoutとロータ巻線30の電力Powgeneを賄う。以上のことから、図7のフローチャートの処理を実行する場合におけるパワーフローを図示すると、図8に示すようになる。
【0062】
以上説明した図7のフローチャートの処理によれば、駆動軸37の回転速度ωdが所定の低回転速度ωl以下である状態でエンジン36のフューエルカットを実行する場合に、クラッチ48による入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的な係合を解除した状態で、蓄電装置42側からロータ巻線30側へ電力供給するようインバータ41での電力変換を制御して、出力側ロータ18から入力側ロータ28に作用するエンジン回転方向の電磁カップリングトルクTcoupを制御することで、エンジン36の回転速度ωinを出力側ロータ18の回転速度ωoutより高い所定の回転速度ω2に制御する。これによって、エンジン36の回転速度ωinの制御性を向上させることができ、より低い駆動軸37の回転速度ωd(車速V)までフューエルカット状態を持続させることができるとともに、フューエルカットからの復帰時にエンジントルクを速やかに発生させることができる。その結果、フューエルカット領域を拡大させて燃費を向上させることができるとともに、駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)の急激な変化に即応することができる。さらに、図7のフローチャートの処理によれば、ステータ16から出力側ロータ18にエンジン回転方向のMGトルクTmgを作用させることで、電磁カップリングトルクTcoupにより駆動軸37に作用する減速方向のトルクを補償することができ、駆動軸37の回転速度ωdの低下を抑えることができる。
【0063】
次に、変速機44の変速段を現変速段から次変速段に変更する変速動作を行う場合に、電子制御ユニット50が実行する処理について、図9のフローチャートを用いて説明する。ここでの変速機44は、複数の変速段の中から変速段を選択可能な有段変速機であり、複数自由度の回転自由度を有する遊星歯車機構と、遊星歯車機構の回転自由度を制限するための複数の摩擦係合装置と、各摩擦係合装置への供給油圧をそれぞれ制御することで各摩擦係合装置の係合/解放をそれぞれ制御する油圧制御装置とを含む公知の構成により実現することが可能である。各摩擦係合装置については、例えばクラッチまたはブレーキにより構成することが可能である。有段変速機44では、遊星歯車機構の回転自由度が1自由度になるように、油圧制御装置での油圧を利用して変速段に対応する摩擦係合装置を選択的に係合させることで、出力側ロータ18からの動力を変速段に応じた変速比で変速して駆動軸37へ伝達することが可能である。さらに、有段変速機44では、現変速段に対応する係合状態の摩擦係合装置を解放して次変速段に対応する解放状態の摩擦係合装置を係合させることで、変速段を現変速段から次変速段に変更することが可能である。なお、有段変速機44では、変速段を選択、変更するための係合装置として、クラッチやブレーキ等の摩擦係合装置以外に、例えばドグクラッチ等の噛み合い式の係合装置を用いることも可能である。
【0064】
まずステップS301では、現変速段から次変速段への変速指令が出力される。ステップS302では、エンジントルク、及びステータ16と出力側ロータ18との間に作用するMGトルクTmgが0に制御されることで、有段変速機44への入力トルクが0に制御される。ステップS303では、クラッチ48が解放状態に制御されることで、クラッチ48による入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合が解除される。ステップS304では、有段変速機44の現変速段に対応する係合状態の係合装置が解放される。
【0065】
ステップS305では、有段変速機44の入力軸回転速度ωmg(=出力側ロータ18の回転速度ωout)が次変速段に対応する目標入力軸回転速度ωrefに近づくように、インバータ40のスイッチング動作によりステータ16と出力側ロータ18との間に作用するMGトルクTmgが制御される。次変速段に対応する目標入力軸回転速度ωrefは、駆動軸37の回転速度ωd(車速V)と次変速段の変速比から算出される。N速(Nは1以上の整数)の現変速段から(N+1)速の次変速段へのアップシフトを行う場合は、図10に示すように、有段変速機44の入力軸回転速度ωmg(出力側ロータ18の回転速度ωout)が次変速段に対応する目標入力軸回転速度ωrefへ向けて低下するようステータ16から出力側ロータ18に減速方向(エンジン回転方向と逆方向)のMGトルクTmgを作用させる。その際には、ステータ巻線20側から蓄電装置42側へ電力回収するようインバータ40での電力変換が制御される。一方、(N+1)速の現変速段からN速の次変速段へのダウンシフトを行う場合は、図11に示すように、有段変速機44の入力軸回転速度ωmg(出力側ロータ18の回転速度ωout)が次変速段に対応する目標入力軸回転速度ωrefへ向けて増加するようステータ16から出力側ロータ18に増速方向(エンジン回転方向)のMGトルクTmgを作用させる。その際には、蓄電装置42側からステータ巻線20側へ電力供給するようインバータ40での電力変換が制御される。
【0066】
ステップS306では、有段変速機44の入力軸回転速度ωmgと次変速段に対応する目標入力軸回転速度ωrefとの差の絶対値|ωmg−ωref|が設定値δω1以下であるか否かが判定される。回転速度差|ωmg−ωref|が設定値δω1より大きい場合(ステップS306の判定結果がNOの場合)は、ステップS305に戻る。一方、回転速度差|ωmg−ωref|が設定値δω1以下の場合(ステップS306の判定結果がYESの場合)は、ステップS307において、有段変速機44の次変速段に対応する解放状態の係合装置を係合させ、ステップS308において、エンジントルク及びMGトルクTmgを発生させる。
【0067】
ステップS309では、エンジン36の回転速度ωeng(=入力側ロータ28の回転速度ωin)が出力側ロータ18の回転速度ωout(=有段変速機44の入力軸回転速度ωmg)に近づくように、インバータ41のスイッチング動作により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクTcoupが制御される。さらに、ここでは、駆動軸37の要求トルクTreq(車両の要求駆動力)と電磁カップリングトルクTcoupとに基づいて、インバータ40のスイッチング動作によりステータ16と出力側ロータ18との間に作用するMGトルクTmgを制御することもできる。N速の現変速段から(N+1)速の次変速段へのアップシフトを行う場合は、図10に示すように、エンジン36の回転速度ωengが有段変速機44の入力軸回転速度ωmgへ向けて低下するよう出力側ロータ18から入力側ロータ28に減速方向(エンジン回転方向と逆方向)の電磁カップリングトルクTcoupを作用させる。その際には、ロータ巻線30側から蓄電装置42側へ電力回収するようインバータ41での電力変換が制御される。一方、(N+1)速の現変速段からN速の次変速段へのダウンシフトを行う場合は、図11に示すように、エンジン36の回転速度ωengが有段変速機44の入力軸回転速度ωmgへ向けて増加するよう出力側ロータ18から入力側ロータ28に増速方向(エンジン回転方向)の電磁カップリングトルクTcoupを作用させる。その際には、蓄電装置42側からロータ巻線30側へ電力供給するようインバータ41での電力変換が制御される。
【0068】
ステップS310では、エンジン36の回転速度ωeng(入力側ロータ28の回転速度ωin)と有段変速機44の入力軸回転速度ωmg(出力側ロータ18の回転速度ωout)との差の絶対値|ωeng−ωmg|が所定値δω2以下であるか否かが判定される。回転速度差|ωeng−ωmg|が所定値δω2より大きい場合(ステップS310の判定結果がNOの場合)は、ステップS309に戻る。一方、回転速度差|ωeng−ωmg|が所定値δω2以下の場合(ステップS310の判定結果がYESの場合)は、ステップS311において、クラッチ48が係合状態に制御されることで、入力側ロータ28と出力側ロータ18とを機械的に係合させる。以上の処理によって、有段変速機44の変速段が現変速段から次変速段に変更される。
【0069】
なお、図10,11に示す例では、ステップS301〜S304による処理が、時刻t1にてほぼ同タイミングで実行される。そして、ステップS305による処理が、時刻t1からステップS306の判定結果がYESになる時刻t2まで実行され、ステップS307による処理が、時刻t2にて実行される。そして、ステップS308,S309による処理が、時刻t2からステップS310の判定結果がYESになる時刻t3まで実行され、ステップS311による処理が、時刻t3にて実行される。
【0070】
従来の有段変速機においては、変速段を変更する変速動作時の回転速度制御は摩擦クラッチにより行われ、摩擦クラッチの滑りにより回転エネルギーが熱となって消費されることで損失が生じ、さらに、変速動作に要する時間が長くなる。これに対して図9のフローチャートの処理によれば、変速動作時に電磁カップリングトルクTcoup制御により動力伝達させながらエンジン36の回転速度ωengを滑らかに有段変速機44の次変速段の入力軸回転速度ωmgに制御することで、エンジン36の回転速度ωengの制御性を向上させることができ、変速動作時の損失が減り燃費を向上させることができるとともに、変速動作に要する時間を短縮することができる。さらに、摩擦クラッチでは、伝達トルクの推定予測が困難であり、変速動作時の制御性が低下して変速ショックが生じやすくなるのに対して、入力側ロータ28及び出力側ロータ18による誘導電磁カップリング部では、ロータ巻線30の電流等から伝達トルク(電磁カップリングトルクTcoup)の推定予測が容易であり、変速動作時の制御性が向上して変速ショックが緩和される。さらに、変速動作時にMGトルクTmg制御により有段変速機44の入力軸回転速度ωmgを滑らかに次変速段の目標入力軸回転速度ωrefに制御することで、変速動作に要する時間をさらに短縮することができる。
【0071】
本実施形態では、例えば図12に示すように、整流器93及び昇圧コンバータ(DC−DCコンバータ)94を設けることもできる。整流器93は、ブラシ96と電気的に接続されており、スリップリング95及びブラシ96により取り出されたロータ巻線30からの交流電力を整流して直流に変換する。昇圧コンバータ94は、スイッチング素子及びダイオード(整流素子)を備える公知の構成により実現可能であり、スイッチング素子のスイッチング動作により整流器93で整流された直流電力を昇圧(電圧変換)して出力する。昇圧コンバータ94で昇圧(電圧変換)された直流電力は、インバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20の各相へ供給可能である。つまり、インバータ40は、昇圧コンバータ94で昇圧された直流電力と蓄電装置42からの直流電力とのいずれか(少なくとも一方)を交流に変換してステータ巻線20の各相へ供給することが可能である。また、昇圧コンバータ94で昇圧された直流電力を蓄電装置42に回収することも可能である。ここでの整流器93は、スリップリング95側から昇圧コンバータ94側への一方向のみの電力変換を行い、昇圧コンバータ94は、整流器93側から蓄電装置42側(あるいはインバータ40側)への一方向のみの電力変換を行う。なお、昇圧コンバータ94の代わりに、DC−DCコンバータとして降圧コンバータや昇降圧コンバータを設けることも可能である。
【0072】
図12に示す構成例において、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に回転差が生じているときに、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容して、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルク(電磁カップリングトルクTcoup)を発生させるためには、電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94の出力電圧が蓄電装置42の電圧よりも高くなるように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御する。これによって、昇圧コンバータ94から蓄電装置42とインバータ40間の配線へ電流が流れ、ロータ巻線30に誘導電流が流れるため、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に電磁カップリングトルクTcoupが作用する。さらに、電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94における昇圧比(電圧変換比)を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクTcoupを制御することができる。一方、電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作を行わない状態で昇圧コンバータ94の出力電圧が蓄電装置42の電圧よりも低くなるように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に回転差が生じてもロータ巻線30に誘導電流が流れなくなり、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクは作用しなくなる。また、昇圧コンバータ94内のスイッチング素子をオフ状態に維持して昇圧コンバータ94による昇圧(電圧変換)を停止させることによっても、ロータ巻線30に誘導電流が流れなくなり、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクは作用しなくなる。
【0073】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0074】
10 回転電機、16 ステータ、18 第2ロータ(出力側ロータ)、20 ステータ巻線、28 第1ロータ(入力側ロータ)、30 ロータ巻線、32,33 永久磁石、36 エンジン、37 駆動軸、38 車輪、40,41 インバータ、42 蓄電装置、44 変速機(有段変速機)、48 クラッチ、50 電子制御ユニット、93 整流器、94 昇圧コンバータ(DC−DCコンバータ)、95 スリップリング、96 ブラシ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力が伝達され、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な回転子導体が配設された第1回転子と、
交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な固定子導体が配設された固定子と、
第1回転子に対し相対回転可能であり、駆動軸へ動力を伝達する第2回転子であって、回転子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて第1回転子との間にトルクが作用し、固定子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて固定子との間にトルクが作用する第2回転子と、
固定子導体に流れる交流電流を制御することで固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御し、回転子導体に流れる交流電流を制御することで第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する制御装置と、
を備える動力伝達装置であって、
制御装置は、駆動軸が回転している状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、エンジンの回転速度が燃料カットからの復帰時にエンジントルクを発生可能な所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する、動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達装置であって、
制御装置は、駆動軸の回転速度が所定の高回転速度以上である状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、エンジンの回転速度が第2回転子の回転速度より低い前記所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する、動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1に記載の動力伝達装置であって、
制御装置は、駆動軸の回転速度が所定の低回転速度以下である状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、エンジンの回転速度が第2回転子の回転速度より高い前記所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する、動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
制御装置は、駆動軸が回転している状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、エンジンの回転速度が前記所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御しつつ、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクと、駆動軸の回転速度とのいずれかに基づいて、固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する、動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
第1回転子と第2回転子とを機械的に係合させることが可能な回転子係合機構をさらに備え、
制御装置は、駆動軸が回転している状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、回転子係合機構による第1回転子と第2回転子との機械的な係合を解除した状態で、エンジンの回転速度が前記所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する、動力伝達装置。
【請求項6】
エンジンからの動力が伝達され、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な回転子導体が配設された第1回転子と、
交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な固定子導体が配設された固定子と、
第1回転子に対し相対回転可能な第2回転子であって、回転子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて第1回転子との間にトルクが作用し、固定子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて固定子との間にトルクが作用する第2回転子と、
第2回転子からの動力を変速段に応じた変速比で変速して駆動軸へ伝達する有段変速機であって、現変速段に対応する係合装置を解放して次変速段に対応する係合装置を係合させることで変速段を現変速段から次変速段に変更することが可能な有段変速機と、
固定子導体に流れる交流電流を制御することで固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御し、回転子導体に流れる交流電流を制御することで第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する制御装置と、
を備える動力伝達装置であって、
制御装置は、有段変速機の変速段を現変速段から次変速段に変更する場合に、次変速段に対応する係合装置を係合させたら、エンジンの回転速度が第2回転子の回転速度に近づくように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する、動力伝達装置。
【請求項7】
請求項6に記載の動力伝達装置であって、
第1回転子と第2回転子とを機械的に係合させることが可能な回転子係合機構をさらに備え、
制御装置は、有段変速機の変速段を現変速段から次変速段に変更する場合に、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御して第1回転子の回転速度と第2回転子の回転速度との差が所定値以下になったら、回転子係合機構により第1回転子と第2回転子とを機械的に係合させる、動力伝達装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の動力伝達装置であって、
制御装置は、有段変速機の変速段を現変速段から次変速段に変更する場合に、現変速段に対応する係合装置を解放したら、有段変速機の入力軸回転速度が次変速段に対応する目標入力軸回転速度に近づくように、固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する、動力伝達装置。
【請求項1】
エンジンからの動力が伝達され、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な回転子導体が配設された第1回転子と、
交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な固定子導体が配設された固定子と、
第1回転子に対し相対回転可能であり、駆動軸へ動力を伝達する第2回転子であって、回転子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて第1回転子との間にトルクが作用し、固定子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて固定子との間にトルクが作用する第2回転子と、
固定子導体に流れる交流電流を制御することで固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御し、回転子導体に流れる交流電流を制御することで第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する制御装置と、
を備える動力伝達装置であって、
制御装置は、駆動軸が回転している状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、エンジンの回転速度が燃料カットからの復帰時にエンジントルクを発生可能な所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する、動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達装置であって、
制御装置は、駆動軸の回転速度が所定の高回転速度以上である状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、エンジンの回転速度が第2回転子の回転速度より低い前記所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する、動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1に記載の動力伝達装置であって、
制御装置は、駆動軸の回転速度が所定の低回転速度以下である状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、エンジンの回転速度が第2回転子の回転速度より高い前記所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する、動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
制御装置は、駆動軸が回転している状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、エンジンの回転速度が前記所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御しつつ、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクと、駆動軸の回転速度とのいずれかに基づいて、固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する、動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
第1回転子と第2回転子とを機械的に係合させることが可能な回転子係合機構をさらに備え、
制御装置は、駆動軸が回転している状態でエンジンの燃料カットを実行する場合に、回転子係合機構による第1回転子と第2回転子との機械的な係合を解除した状態で、エンジンの回転速度が前記所定回転速度に制御されるように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する、動力伝達装置。
【請求項6】
エンジンからの動力が伝達され、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な回転子導体が配設された第1回転子と、
交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な固定子導体が配設された固定子と、
第1回転子に対し相対回転可能な第2回転子であって、回転子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて第1回転子との間にトルクが作用し、固定子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて固定子との間にトルクが作用する第2回転子と、
第2回転子からの動力を変速段に応じた変速比で変速して駆動軸へ伝達する有段変速機であって、現変速段に対応する係合装置を解放して次変速段に対応する係合装置を係合させることで変速段を現変速段から次変速段に変更することが可能な有段変速機と、
固定子導体に流れる交流電流を制御することで固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御し、回転子導体に流れる交流電流を制御することで第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する制御装置と、
を備える動力伝達装置であって、
制御装置は、有段変速機の変速段を現変速段から次変速段に変更する場合に、次変速段に対応する係合装置を係合させたら、エンジンの回転速度が第2回転子の回転速度に近づくように、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する、動力伝達装置。
【請求項7】
請求項6に記載の動力伝達装置であって、
第1回転子と第2回転子とを機械的に係合させることが可能な回転子係合機構をさらに備え、
制御装置は、有段変速機の変速段を現変速段から次変速段に変更する場合に、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルクを制御して第1回転子の回転速度と第2回転子の回転速度との差が所定値以下になったら、回転子係合機構により第1回転子と第2回転子とを機械的に係合させる、動力伝達装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の動力伝達装置であって、
制御装置は、有段変速機の変速段を現変速段から次変速段に変更する場合に、現変速段に対応する係合装置を解放したら、有段変速機の入力軸回転速度が次変速段に対応する目標入力軸回転速度に近づくように、固定子と第2回転子との間に作用するトルクを制御する、動力伝達装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−131759(P2011−131759A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293671(P2009−293671)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]