説明

化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法、化合物半導体エピタキシャルウェーハ及び発光素子

【課題】 ハイドライド気相成長法を用いてGaP電流拡散層を厚く形成する際にGaP電流拡散層にピットが形成されることを抑制し、反りを生じた状態で研磨やダイシングなどの素子化加工を行った際に該ピットを基点とした割れ等を生じにくくする。
【解決手段】 GaAs単結晶基板1上に、2種以上のIII族元素を含む(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0<y≦1)にて構成される発光層部24と、第一GaP層7aとをこの順序にて有機金属気相成長法により形成する。そして、第一GaP7a層上に第二GaP層7をハイドライド気相成長法により形成する。第二GaP層7は、発光層部に近い側に位置するGaP高速成長層7bと該GaP高速成長層7bに続くGaP低速成長層7cとを有するものとして、GaP高速成長層7bを第一成長速度により、GaP低速成長層7cを第一成長速度よりも低い第二成長速度により、それぞれ成長する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法、化合物半導体エピタキシャルウェーハ及び発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】米国特許5,008,718号公報
【特許文献2】特開2004−128452号公報
【0003】
(AlGa1−xIn1−yP混晶(ただし、0≦x≦1,0<y≦1;以下、AlGaInP混晶、あるいは単にAlGaInPとも記載する)により発光層部が形成された発光素子は、薄いAlGaInP活性層を、それよりもバンドギャップの大きいn型AlGaInPクラッド層とp型AlGaInPクラッド層とによりサンドイッチ状に挟んだダブルへテロ構造を採用することにより、高輝度の素子を実現できる。
【0004】
具体的には、n型GaAs単結晶基板上へのヘテロエピタキシーにより、n型GaAsバッファ層、n型AlGaInPクラッド層、AlGaInP活性層、p型AlGaInPクラッド層をこの順序にて積層し、ダブルへテロ構造をなす発光層部を形成する。発光層部への通電は、素子表面に形成された金属電極を介して行なわれる。ここで、金属電極は遮光体として作用するため、例えば発光層部主表面の中央部のみを覆う形で形成され、その周囲の電極非形成領域から光を取り出すようにする。
【0005】
この場合、金属電極の面積をなるべく小さくしたほうが、電極の周囲に形成される光漏出領域の面積を大きくできるので、光取出し効率を向上させる観点において有利である。従来、電極形状の工夫により、素子内に効果的に電流を拡げて光取出量を増加させる試みがなされているが、この場合も電極面積の増大はいずれにしろ避けがたく、光漏出面積の減少により却って光取出量が制限されるジレンマに陥っている。また、クラッド層のドーパントのキャリア濃度ひいては導電率は、活性層内でのキャリアの発光再結合を最適化するために多少低めに抑えられており、面内方向には電流が広がりにくい傾向がある。これは、電極被覆領域に電流密度が集中し、光漏出領域における実質的な光取出量が低下してしまうことにつながる。
【0006】
そこで、発光層部と電極との間に、厚くて導電性の透明窓層(電流拡散層)を設けることにより、電流密度が最小限となるようにする方法が知られている(特許文献1)。
また、電流拡散層を効率よく形成するために、薄い発光層部を有機金属気相成長法(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy:以下、MOVPE法ともいう)により形成する一方、厚い電流拡散層をハイドライド気相成長法(Hydride Vapor Phase Epitaxial Growth Method:以下、HVPE法ともいう)により形成する方法が知られている(特許文献2)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
GaAs単結晶基板上にヘテロ成長したAlGaInP発光層部上に、ハイドライド気相成長法を用いてGaP電流拡散層を厚く成長すると、AlGaInP発光層部(ひいてはGaAs単結晶基板)とGaP電流拡散層との格子不整合による歪及び線膨張率の相違により、成長後の高温(例えば、750℃)から冷却する過程において得られたエピタキシャルウェーハには、GaAs単結晶基板側が凹面となりGaP電流拡散層側が凸面となる形で反りを生ずる。この反り量は、GaP電流拡散層の厚さによっても異なるが、例えば外径が50mm(約2インチ)程度のウェーハで500〜700μmとなり、研磨やダイシングなどの素子化加工を行った際に割れが生じやすい問題がある。特に、ハイドライド気相成長容器内にて原料ガスの供給が不足しやすい位置に配置されたウェーハ(例えば、ガス流通方向下流側、特に、該側にて容器下方に配置されたウェーハ)は、GaP電流拡散層にピットと称される孔状の欠陥が形成されやすく、これを基点とした割れ等を生じやすい。
【0008】
本発明は、ハイドライド気相成長法を用いてGaP電流拡散層を厚く形成する際にGaP電流拡散層にピットが形成されることを抑制し、反りを生じた状態で研磨やダイシングなどの素子化加工を行った際に該ピットを基点とした割れ等が生じにくい化合物半導体エピタキシャルウェーハとその製造方法、ならびに該化合物半導体エピタキシャルウェーハを用いて製造される発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法は、
<100>方向を基準方向として、該基準方向からのオフアングルが10゜以上20゜以下の主軸を有するGaAs単結晶基板上に、2種以上のIII族元素を含む(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0<y≦1)にて構成される発光層部と、第一GaP層とをこの順序にて形成する有機金属気相成長工程と、第一GaP層上に第二GaP層を形成するハイドライド気相成長工程とを有し、
第二GaP層を、発光層部に近い側に位置するGaP高速成長層と該GaP高速成長層に続くGaP低速成長層とを有するものとして、GaP高速成長層を第一成長速度により、GaP低速成長層を第一成長速度よりも低い第二成長速度により、それぞれ成長することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の化合物半導体エピタキシャルウェーハは、
<100>方向を基準方向として、該基準方向からのオフアングルが10゜以上20゜以下の主軸を有するGaAs単結晶基板上に、2種以上のIII族元素を含む(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0<y≦1)にて構成される発光層部と、第一GaP層とがこの順序にて有機金属気相成長法により形成され、第一GaP層上に第二GaP層がハイドライド気相成長法により形成され、さらに、第二GaP層が、発光層部に近い側に位置するGaP高速成長層と該GaP高速成長層に続くGaP低速成長層とからなることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の発光素子は、上記本発明の化合物半導体エピタキシャルウェーハに電極形成しダイシングすることにより製造され、GaAs単結晶基板上に、2種以上のIII族元素を含む(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0<y≦1)にて構成される有機金属気相成長法により形成された発光層部と、有機金属気相成長法により形成された第一GaP層と、ハイドライド気相成長法により形成された第二GaP層とがこの順に積層され、さらに、第二GaP層が、発光層部に近い側に位置するGaP高速成長層と該GaP高速成長層に続くGaP低速成長層とからなることを特徴とする。
【0012】
本発明の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法においては、例えば2種以上のIII族元素を含む(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0<y≦1)にて構成される発光層部を、単結晶基板上に有機金属気相成長法(MOVPE法)を用いて成長する(有機金属気相成長工程)。一方、面内方向に電流を十分に拡げるために層厚をある程度大きく設定することが必要な電流拡散層は、ハイドライド気相成長法を用いて形成することが効率的である(ハイドライド気相成長工程)。HVPE法は、水素ガスで置換された石英製の反応炉内で蒸気圧の低いGa(ガリウム)を塩化水素との反応により気化しやすいGaClに転換し、該GaClを媒介とする形でV族元素源ガスとGaとを反応させることにより、III−V族化合物半導体層の気相成長を行なう方法である。MOVPE法による層成長速度が約1μm/hrであるのに対しHVPE法では約20μm/hrであり、HVPE法によると層成長速度をMOVPE法よりも大きくでき、ある程度厚さを要する電流拡散層も非常に高能率にて形成できるので、原材料費をMOVPE法よりもはるかに低く抑えることができる。また、HVPE法では、III族元素源として高価な有機金属を使用せず、III族元素源に対するV族元素源(AsH、PHなど)の配合比率もはるかに少なくて済む(例えば1/3倍程度)ので、コスト的に有利である。
【0013】
そして、本発明では、ハイドライド気相成長法により第二GaP層を成長する際に、成長開始時の予め定められた期間を第一成長速度に設定してGaP高速成長層を形成し、その後、第一成長速度よりも低い第二成長速度に設定してGaP低速成長層を形成する。つまり、第二GaP層の成長第一段階は、原料供給量を増加させた高速成長モードとすることで、原料不足傾向時に形成されやすいピットを抑制することができる。他方、高速成長モードでは、発光層部との界面での格子緩和が促進される結果、ヒロックと称される突起状の欠陥が形成されやすい傾向となる。そこで、成長第二段階として、原料供給量を低下させた低速成長モードにより、GaP高速成長層上にGaP低速成長層を形成することで、最終的に得られる第二GaP層表面のヒロック欠陥の大きさ及び量が過剰となることを防止できる。これにより、第二GaP層が形成するエピタキシャルウェーハ主表面の研磨加工の簡略化を図ることができる。
【0014】
前述のごとく、GaAs単結晶基板上にヘテロ成長したAlGaInP発光層部上に、ハイドライド気相成長法を用いて第二GaP層を厚く成長すると、得られるエピタキシャルウェーハには、GaAs単結晶基板側が凹面となり第二GaP層側が凸面となる形で反りを生ずる。そして、第二GaP層にピットが多数形成されていると、研磨やダイシングなどの素子化加工を行った際に、このピットを基点としてウェーハに割れが生じやすくなる。しかし、上記のごとく、本発明の採用により、GaP電流拡散層の主体をなす第二GaP層へのピットの形成が抑制されるので、上記素子化加工の際にウェーハが割れにくくなる。
【0015】
第一GaP層と第二GaP層とは、GaP電流拡散層としての光取出効率向上に有効に寄与するためには、両者の合計厚さが100μm以上となっていることが望ましい。また、生産性等を考慮すれば、該合計厚さは250μm以下となっていることが望ましい。他方、GaAs単結晶基板の厚さは、製造時のハンドリング等に耐える基板強度等を考慮すれば250μm以上350μm以下であるのが妥当である。
【0016】
このうち、第一GaP層は、発光層部との格子整合を保ちつつ、その後に成長される第二GaP層の成長基面として安定に寄与させるために、1μm以上に形成することが望ましい。ただし、成長速度の小さい有機金属成長法が採用されることを考慮すれば、製造能率上の観点から第一GaP層の厚さは5μm以下であることが望ましい。
【0017】
第二GaP層は、成長速度の大きいハイドライド気相成長法によりGaP電流拡散層の主要部をなすものとして形成されるので、その厚さは99μm以上であることが望ましい。このうち、GaP高速成長層を50μm以上の厚さに成長することで、層へのピット形成を十分抑制しつつ、第二GaP層全体の形成能率向上にも寄与できる。また、GaP低速成長層の厚さは5μm以上49μm以下であることが望ましい。
【0018】
GaP高速成長層を形成するための第一成長速度は、該GaP高速成長層の表面にピットが発生しない程度の高速に設定することが望ましい。ピットが形成されないためには、GaP低速成長層をさらに成長したとき、その表面に高さ5μm以上20μm以下にてヒロックが残留する程度の高速に設定すること、より具体的には、25μm/hr以上40μm/hr以下に設定することが望ましい。
【0019】
一方、GaP低速成長層を形成するための第二成長速度は、第一成長速度の1/5以上1/2以下に設定するのがよい。低速成長層を高速成長層の1/2以下の成長速度で成長すると、GaP低速成長層の表面にヒロックが過剰に残留する不具合を防止できる。ただし、第二成長速度が第一成長速度の1/5より小さい場合は、成長速度の制御が困難になりやすいので、第二成長速度を第一成長速度の1/5以上とすることが望ましい。
【0020】
GaP低速成長層の表面に形成されたヒロックは、研磨加工により除去することができる。GaP低速成長層の表面にヒロックが高さ5μm以上20μm以下にて残留する場合、第二GaP層の厚さを目標厚さより10μm以上30μm以下の範囲で厚く成長し、研磨加工により目標厚さとする工程を採用できる。この場合、得られる化合物半導体エピタキシャルウェーハのGaP低速成長層の表面は研磨面となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の化合物半導体エピタキシャルウェーハ100の一例を示す概念図である。化合物半導体エピタキシャルウェーハ100は、成長用単結晶基板としてのn型GaAs単結晶基板(以下、単に基板ともいう)1の第一主表面上に発光層部24が形成されている。該基板1は、<100>方向を基準方向として、該基準方向に対するオフアングルが10゜以上20゜以下の主軸Aを有するものである。この基板1の第一主表面と接するようにn型GaAsバッファ層2が形成され、該バッファ層2上に発光層部24が形成される。そして、その発光層部24の上に、第一GaP層7aと第二GaP層7とが形成されている。
【0022】
発光層部24は、ノンドープ(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦0.55,0.45≦y≦0.55)混晶からなる活性層5を、p型(AlGa1−zIn1−yP(ただしx<z≦1)からなるp型クラッド層6とn型(AlGa1−zIn1−yP(ただしx<z≦1)からなるn型クラッド層4とにより挟んだ構造を有する。図1の化合物半導体エピタキシャルウェーハ100では、第一GaP層7a及び第二GaP層7側にp型AlGaInPクラッド層6が配置され、n型GaAs単結晶基板1側にn型AlGaInPクラッド層4が配置されている。従って、発光素子となったときの通電極性は第一GaP層7a及び第二GaP層7側が正である。なお、ここでいう「ノンドープ」とは、「ドーパントの積極添加を行なわない」との意味であり、通常の製造工程上、不可避的に混入するドーパント成分の含有(例えば1013〜1016/cm程度を上限とする)をも排除するものではない。
【0023】
第二GaP層7は、ドーパントをZnとしたp型GaP層として形成されている。第一GaP層7aと第二GaP層7との合計厚さは、例えば100μm以上250μm以下である。第二GaP層7は、ハイドライド気相成長法による、GaP高速成長層7bとGaP低速成長層7cとがこの順に積層されてなる。GaP高速成長層7bの厚さは例えば50μm以上(上限は、例えば200μm)であり、GaP低速成長層7cの厚さは、例えば5μm以上49μm以下である。GaP高速成長層7bにはピットが形成されておらず、GaP低速成長層7cの表面は鏡面研磨面とされている。
【0024】
第一GaP層7aと、GaP高速成長層7bとGaP低速成長層7cとには、いずれもp型ドーパントが添加される。p型ドーパントとして、本実施形態のように7a,7a,7bの全てにZnを採用することもできるが、MOVPEにて形成される第一層7aのドーパントは、p型クラッド層6側への拡散を生じにくいMg及び/又はCとし、HVPEにて形成されるGaP高速成長層7bとGaP低速成長層7cとのドーパントをZnとしてもよい。
【0025】
以下、図1の化合物半導体エピタキシャルウェーハ100の製造方法について説明する。まず、図2の工程1に示すように、<100>方向を基準方向として、オフアングルが10゜以上20゜以下の主軸を有するGaAs単結晶基板1を用意する。そして、工程2に示すように、その基板1の第一主表面に、n型GaAsバッファ層2を例えば0.5μm、次いで、発光層部24として、各々(AlGa1−xIn1−yPよりなる、1μmのn型クラッド層4(n型ドーパントはSi)、0.6μmの活性層(ノンドープ)5、及び1μmのp型クラッド層6、p型第一GaP層7a(p型ドーパントはMg:有機金属分子からのCもp型ドーパントとして寄与しうる)を、この順序にてエピタキシャル成長させる(有機金属気相成長工程)。これら各層のエピタキシャル成長は、公知のMOVPE法により行なわれる。Al、Ga、In(インジウム)、P(リン)の各成分源となる原料ガスとしては以下のようなものを使用できる;
・Al源ガス;トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリエチルアルミニウム(TEAl)など;
・Ga源ガス;トリメチルガリウム(TMGa)、トリエチルガリウム(TEGa)など;
・In源ガス;トリメチルインジウム(TMIn)、トリエチルインジウム(TEIn)など;
・P源ガス:トリメチルリン(TMP)、トリエチルリン(TEP)、ホスフィン(PH)など。
【0026】
次に、図3に進み、p型のGaP高速成長層7b(工程3)とGaP低速成長層7c(工程4)とを、第一GaP層7aの直上にHVPE法により成長させる(ハイドライド気相成長工程)。MOVPE法により第一GaP層7aを成長した後、HVPE法により第二GaP層7を成長するには、図2の工程2に示す、第一GaP層7aまでを形成した中間基板211を、MOVPE用の装置からHVPE用の装置に移し替える必要がある。
【0027】
図7は、HVPE装置の一例を示す模式図であり、該装置201は、Ga融液209を収容する坩堝208が配置される第一室204と、中間基板211を保持するサセプタ210(例えば石英製であるが、これに限定されない)が収容される第二室205とを有する成長容器を有する。第一室204と第二室205とは、坩堝208とともに石英にて構成され、それぞれ個別のヒータ202,203により昇温されるようになっている。つまり、サセプタ210の収容空間(第二室205)と、第二GaP層7の原料金属融液を収容する坩堝208の収容空間(第一室204)との双方が、個別のヒータ202,203により独立に温度調整が可能に構成されている。
【0028】
第一室204と第二室205の内部は、いずれも前記のHVPE反応が十分に進むよう、700℃以上の適正な処理温度に昇温される。Ga融液209が収容される石英製坩堝208が配置される第一室204には、導入口206より、HClガスと、キャリアガスとしてのHガスと、P(V族元素)源ガスとしてのPHと、ドーパントガスとしてのDM(ジメチル)ZnあるいはDMMgとが導入される。
【0029】
Ga上にHClを導入することにより、下記(1)式の反応によりGaClが生成する。
Ga(液体)+HCl(気体) → GaCl(気体)+1/2H‥‥(1)
GaClはPHとの反応性に優れ、下記(2)式の反応により、第二GaP層7を効率よく成長させることができる:
GaCl(気体)+PH(気体)
→GaP(固体)+HCl(気体)+H(気体)‥‥(2)
【0030】
GaP低速成長層7cの成長速度は、GaP高速成長層7bの成長速度よりも低くする。より具体的には、GaP高速成長層7bの成長速度を25μm/hr以上で40μm/hr以下の原料ガスが過多の高速成長とする。GaP高速成長層7bは、これをかなり高速で形成するため原料ガス供給量が通常よりも高く設定されており、成長後の層表面7mにはピットがほとんど観察されない。他方、該層表面7mには微小なヒロックHKが形成される。通常、GaP高速成長層7bとGaP低速成長層7cとの間では基板1をハイドライド気相成長装置から取り出さないが、基板1をハイドライド気相成長装置から一旦取り出すと、GaP高速成長層7bの表面にほとんどピットが見られず、微小なヒロックは散在する様子を観察できる。
【0031】
図7のサセプタ210上にはガス流通方向に複数枚の中間基板211が載置され、特に、その下流側に位置する中間基板211は原料ガスが不足傾向となりやすく、ピットがより形成されやすいが、上記のように原料ガス供給量を高く設定することにより、このような下流側の中間基板211についてもピットの形成を顕著に抑制できる。また、サセプタ210を上下に複数段設け、上下方向にも中間基板211を複数配置することが可能である。この場合は、下段側に位置する中間基板211にて原料ガスの欠乏が生じやすいが、この場合も上記のように原料ガス供給量を高く設定することによりピットの形成を顕著に抑制できる。
【0032】
GaP高速成長層7bを成長する際の原料供給のタイミングは、図7の装置にてHClガスの供給を停止することにより成長開始時にIII族成分の供給を停止しつつ、V族原料(PH)のみを流しておき、その状態でIII族ガスを瞬時に急峻に流すことにより、発光層部との界面での格子緩和をさらに促進することができる。これにより、微量のヒロックが形成される層成長を再現性よく実施できる。
【0033】
その後、GaP低速成長層7cを、GaP高速成長層7bの1/5以上1/2以下の成長速度で形成する。ヒロックHKは、高さが多少減じられるものの、5μm以上20μm以下のレベルにてGaP低速成長層7c上にも残留した状態となる。第二GaP層7(=GaP高速成長層7b+GaP低速成長層7c)の厚さは、該ヒロックHKの研磨による除去を見越して、目標厚さより10μm以上30μm以下の範囲で厚く成長しておく。
【0034】
なお、GaP低速成長層7cは、700℃以上800℃以下の温度にて成長する。他方、GaP高速成長層7bはGaP低速成長層7cよりも高温で成長することにより、より高い成長速度を確保しやすくなる。このようにして、第一GaP層7aからGaP低速成長層7cまでの厚さ(GaP電流拡散層の厚さ)が100μm以上250μm以下、GaP低速成長層7cの厚さが5μm以上50μm以下、GaP高速成長層7bの厚さが100μm以上であって、ピットの発生の抑制され、かつ、微小なヒロックが残留した表面状態を有する化合物半導体ウェーハ100を得ることができる。
【0035】
以上の工程が終了すれば、図4の工程5に進み、第二GaP層7の表層部7gを、目標の厚さまで研磨加工(ラッピング+ポリッシング)してヒロックHKを除去する。これにより、GaP低速成長層7cの主表面は研磨面となる。次いで、工程6に示すように該、研磨面に真空蒸着法により第一電極9及び第二電極20を形成し、適当な温度で電極定着用のベーキングを施す。その後、ウェーハをダイシングして個別の素子に分離する。そして、第二電極20をAgペースト等の導電性ペーストを用いて支持体を兼ねた図示しない端子電極に固着する一方、第一電極9及に通電用のワイヤをボンディングし、さらに樹脂モールドを形成することにより、発光素子200が得られる。
【0036】
図5に示すように、GaAs単結晶基板1上にヘテロ成長したAlGaInP発光層部24に、ハイドライド気相成長法を用いて第二GaP層7を厚く成長すると、AlGaInP発光層部24(ひいてはGaAs単結晶基板1)と第二GaP層7との格子不整合による歪及び線膨張率の相違により、得られたエピタキシャルウェーハには、成長後の高温から冷却する過程においてGaAs単結晶基板1側が凹面となり第二GaP層7側が凸面となる形で反りを生ずる。この反り量は、第二GaP層7の厚さによっても異なるが、例えば外径が50mm(約2インチ)程度のウェーハで500〜700μmとなる。
【0037】
図6左に示すように、第二GaP層7内にピットPTが形成されていると、加圧によりウェーハの反りを矯正しつつ研磨やダイシングを行った際に、該ピットPTを基点として割れCKを生じやすい。しかし、本発明の採用により第二GaP層7内にピットPTが形成されていなければ、ウェーハの反りを矯正しつつ研磨やダイシングを行っても割れを生じにくくなる。
【実施例1】
【0038】
図3に示す化合物半導体ウェーハ200を、各層が以下の厚さとなるように形成する。なお、GaAs単結晶基板は、<100>方向を基準方向として、該基準方向に対するオフアングルが約15°に設定された、厚さ280μmのものを用いる。n型AlGaInPクラッド層4、AlGaInP活性層5、p型AlGaInPクラッド層6、第一GaP層7aはMOVPE装置を用いて形成し(有機金属気相成長工程)、GaP低速成長層7cとGaP高速成長層7bとは、ハイドライド気相成長装置を用いて約760℃の水素雰囲気中にて形成し(ハイドライド気相成長工程)、化合物半導体ウェーハ200を得る。GaP高速成長層7bの成長速度は、比較例も含めて10μm/hr〜40μm/hrの種々の値に設定した。他方、GaP低速成長層7cの成長速度は約6μm/hrに固定した。なお、各層の厚さは以下の通りである。
・n型AlGaInPクラッド層4=1μm;
・AlGaInP活性層5=0.6μm(発光波長650nm);
・p型AlGaInPクラッド層6=1μm;
・第一GaP層7a=3μm;
・GaP高速成長層7b=90μm;
・GaP低速成長層7c=40μm;
【0039】
各化合物半導体ウェーハは、GaP高速成長層7bを成長し終わった段階で、GaP高速成長層7bの主表面を蛍光灯下で目視観察し、ピットとヒロックの存在状況を確認した。いずれも、視野面積1cmあたりのピット形成数が0個のものを「無し」、1個以上100個未満のものを「小」、100個以上1000個未満のものを「中」、1000個以上のものを「多」として、図7のサセプタ210上の各位置(上流、中流、下流)について個別に評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
GaP高速成長層7bの成長速度を25μm/hr以上40μm/hr以下とすることにより、ピットはほとんど形成されなくなり、逆にヒロックは増加していることがわかる。成長速度が低い場合のピット形成は、特に下流側の基板において著しいが、成長速度を25μm/hr以上に設定すれば、下流側の基板についてもピット形成が顕著に抑制されていることがわかる。
【0043】
また、各ウェーハは、GaP低速成長層7cを形成後、ラッピング研磨により表層部を約15μm研磨するとともに、研磨中にウェーハに割れが生じたかどうかを目視確認した。なお、各成長速度についてウェーハを120枚ずつ研磨試験に供し、割れていないウェーハの比率を健全率として算出した。その結果を図8に示す。これによると、GaP高速成長層7bの成長速度を25μm/hr以上40μm/hr以下とすることにより、ウェーハの健全率が顕著に上昇し、成長速度を30μm/hrに設定すれば、ピット形成されやすい下流側のウェーハについても、割れが極めて顕著に抑制されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の化合物半導体エピタキシャルウェーハの一例を積層構造にて示す模式図。
【図2】本発明の化合物半導体ウェーハの製造工程を示す説明図。
【図3】図2に続く説明図。
【図4】図3に続く説明図。
【図5】化合物半導体エピタキシャルウェーハにそりが発生する様子を示す模式図。
【図6】ピットがウェーハの割れ発生要因となる様子を説明する図。
【図7】HVPE装置の一例を示す模式図。
【図8】GaP高速成長層の成長速度とウェーハ割れとの関係を調べた実験結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0045】
1 GaAs単結晶基板(成長用基板)
4 n型クラッド層
5 活性層
6 p型クラッド層
7a 第一GaP層
7 第二GaP層
7b GaP高速成長層
7c GaP低速成長層
100 化合物半導体エピタキシャルウェーハ
200 発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
<100>方向を基準方向として、該基準方向からのオフアングルが10゜以上20゜以下の主軸を有するGaAs単結晶基板上に、2種以上のIII族元素を含む(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0<y≦1)にて構成される発光層部と、第一GaP層とをこの順序にて形成する有機金属気相成長工程と、前記第一GaP層上に第二GaP層を形成するハイドライド気相成長工程とを有し、
前記第二GaP層を、前記発光層部に近い側に位置するGaP高速成長層と該GaP高速成長層に続くGaP低速成長層とを有するものとして、前記GaP高速成長層を第一成長速度により、前記GaP低速成長層を前記第一成長速度よりも低い第二成長速度により、それぞれ成長することを特徴とする化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記GaAs単結晶基板の厚さが250μm以上350μm以下であり、前記第一GaP層と前記第二GaP層との合計厚さが100μm以上250μm以下である請求項1記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記GaP高速成長層を50μm以上の厚さに成長することを特徴とする請求項2に記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記GaP低速成長層の厚さが5μm以上49μm以下である請求項2又は請求項3に記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記第一成長速度が、前記GaP高速成長層の表面にピットが発生しない程度の高速に設定されている請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記第一成長速度が、前記GaP低速成長層の表面に高さ5μm以上20μm以下にてヒロックが残留する程度の高速に設定されている請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項7】
前記第一成長速度が25μm/hr以上40μm/hr以下に設定される請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項8】
前記第二成長速度が、前記第一成長速度の1/5以上1/2以下に設定される請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項9】
前記GaP低速成長層の表面に形成されたヒロックを研磨加工により除去する請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項10】
前記第二GaP層の厚さを目標厚さより10μm以上30μm以下の範囲で厚く成長し、前記研磨加工により前記目標厚さとする請求項9記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項11】
<100>方向を基準方向として、該基準方向からのオフアングルが10゜以上20゜以下の主軸を有するGaAs単結晶基板上に、2種以上のIII族元素を含む(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0<y≦1)にて構成される発光層部と、第一GaP層とがこの順序にて有機金属気相成長法により形成され、前記第一GaP層上に第二GaP層がハイドライド気相成長法により形成され、さらに、前記第二GaP層が、前記発光層部に近い側に位置するGaP高速成長層と該GaP高速成長層に続くGaP低速成長層とからなることを特徴とする化合物半導体エピタキシャルウェーハ。
【請求項12】
前記GaAs単結晶基板の厚さが250μm以上350μm以下であり、前記第一GaP層と前記第二GaP層との合計厚さが100μm以上250μm以下である請求項11記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハ。
【請求項13】
前記GaP高速成長層の厚さが50μm以上であることを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハ。
【請求項14】
前記GaP低速成長層の厚さが5μm以上49μm以下であることを特徴とする請求項13に記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハ。
【請求項15】
前記GaP高速成長層にピットが形成されていない請求項11ないし請求項14のいずれか1項に記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハ。
【請求項16】
前記GaP低速成長層の表面が研磨面とされている請求項11ないし請求項15のいずれか1項に記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハ。
【請求項17】
請求項11ないし請求項16のいずれか1項に記載の化合物半導体エピタキシャルウェーハに電極形成しダイシングすることにより製造され、GaAs単結晶基板上に、2種以上のIII族元素を含む(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0<y≦1)にて構成される有機金属気相成長法により形成された発光層部と、有機金属気相成長法により形成された第一GaP層と、ハイドライド気相成長法により形成された第二GaP層とがこの順に積層され、さらに、前記第二GaP層が、前記発光層部に近い側に位置するGaP高速成長層と該GaP高速成長層に続くGaP低速成長層とからなることを特徴とする発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−109283(P2010−109283A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282126(P2008−282126)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】