説明

半導体材料、半導体材料の製造方法及び半導体素子

【課題】クラック及びピットの発生が少なく、結晶性に優れた窒化物半導体層を有する半導体材料及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】Si基板10上又はこの上に形成した中間層20上に、AlXGa1-XNの組成からなり、該組成中のAl含有比が結晶成長方向に連続又は不連続に減少するように組成を傾斜させた組成傾斜層30を形成し、該組成傾斜層30の上に、AlYGa1-YNの組成からなるからなる高Al含有層41とAlZGa1-ZNの組成からなる低Al含有層42とを交互に積層してなる超格子複合層40を形成し、該超格子複合層40の上に、窒化物半導体層50を形成してなる半導体材料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、発光ダイオード(LED)、電界効果トランジスタ(FET)等の半導体素子に用いられる半導体材料であって、特にクラック及びピットの発生を抑制でき、結晶品質の優れた半導体材料及びその製造方法、並びに半導体素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体は、電界効果トランジスタ等の電子デバイス、または、可視光領域から紫外光領域の短波長帯における発光デバイスの活性材料として、近年盛んに研究および技術開発が行われている。
【0003】
一般的に、前記窒化物半導体は、サファイア、SiC又はSi等からなる基板上に形成される。特に、Si基板は、大面積が低価格で入手でき、結晶性及び放熱性に優れ、さらに、へき開やエッチングが容易で、プロセス技術が成熟しているといった多くの利点を具えている。
【0004】
しかし、前記窒化物半導体と、Si基板とでは、格子定数や熱膨張係数が大きく異なるため、Si基板上に窒化物半導体を成長させた場合、成長した窒化物半導体には、クラックやピット(点状欠陥)が発生するという問題があった。クラックやピットは、リーク電流の原因となり、デバイス特性に大きな悪影響を及ぼすことから、これらの発生を抑制することは、重要な課題となっている。
【0005】
上記問題を解決するための手段としては、前記Si基板と窒化物半導体層との間にバッファ層を形成することで、クラックを抑制する技術が知られている。例えば、特許文献1に開示されているように、Si基板の上に、窒化物半導体からなる中間層を設け、組成的に勾配を付けたAlXGa1-XN等からなるバッファ層を形成し、該転移層の上に窒化ガリウムを形成してなる半導体材料が挙げられる。
【0006】
また、上記問題を解決する別の方法として、特許文献2に開示されているように、Si基板上に、高Al含有層と、低Al含有層とを交互に複数層積層してなるAlN系超格子複合層を形成し、該AlN系超格子複合バッファ層上に窒化物半導体層を形成してなる窒化物半導体素子が挙げられる。
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の半導体材料のみでは、いずれも前記窒化物半導体層に発生するクラックの抑制については効果を有するものの、ピットの発生を抑制する効果は十分ではなく、ピットの発生に起因したデバイス特性の劣化を防ぐことはできなかった。また、半導体材料をパワーデバイス用途として用いる場合、高い耐圧性が要求されることから、前記窒化物半導体層の膜厚を厚くする必要があり、そのためには前記窒化物半導体の結晶性の向上が望まれるが、引用文献2の半導体材料は、結晶性の向上についての効果を有していない。
【特許文献1】特開2004−524250号公報
【特許文献2】特開2007−67077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、Si基板又はこの上に形成した中間層と窒化物半導体層との間に、所定のバッファ層を形成することにより、クラック及びピットの発生が共に少なく、結晶性に優れた窒化物半導体層を有する半導体材料及びその製造方法、並びに窒化物半導体素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)Si基板上又はこの上に形成した中間層上に、AlXGa1-XNの組成からなり、該組成中のAl含有比が結晶成長方向に連続又は不連続に減少するように組成を傾斜させた組成傾斜層を形成し、該組成傾斜層の上に、AlYGa1-YN(ただし、0.5≦Y≦1とする。)の組成からなる高Al含有層と、AlZGa1-ZN(ただし、0≦Z≦0.5とする。)の組成からなる低Al含有層とを交互に積層してなる超格子複合層を形成し、該超格子複合層の上に、窒化物半導体層を形成してなることを特徴とする半導体材料。
【0010】
(2)前記超格子複合層は、前記高Al含有層がAlN層(Y=1)であり、前記低Al含有層がAlZGa1-ZN層(ただし、0≦Z≦0.3とする。)であることを特徴とする上記(1)記載の半導体材料。
【0011】
(3)前記超格子複合層は、前記高Al含有層と前記低Al含有層との合計数が、2〜100層であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の半導体材料。
【0012】
(4)前記超格子複合層は、それを構成する最下層が高Al含有層であり、最上層が低Al含有層であることを特徴とする上記(1)、(2)又は(3)記載の半導体材料。
【0013】
(5)前記傾斜層は、前記AlXGa1-XNのXの値が、前記Si基板又は前記中間層と接する下面で0.5〜1の範囲であり、前記超格子複合層と接する上面で0〜0.5の範囲であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1項記載の半導体材料。
【0014】
(6)前記窒化物半導体層は、GaN層であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか1項記載の半導体材料。
【0015】
(7)前記GaN層のピット密度は1000個/cm2以下であることを特徴とする上記(6)記載の半導体材料。
【0016】
(8)上記(1)〜(7)のいずれか1項記載の半導体材料を用い、該半導体材料に電極を設けてなる半導体素子。
【0017】
(9)Si基板上又はこの上に形成した中間層上に、AlXGa1-XNの組成からなり、該組成中のAl含有比が結晶成長方向に連続又は不連続に減少するように組成を傾斜させた組成傾斜層を形成し、該組成傾斜層の上に、AlYGa1-YN(ただし、0.5≦Y≦1とする。)の組成からなる高Al含有層と、AlZGa1-ZN(ただし、0≦Z≦0.5とする。)の組成からなる低Al含有層とを交互に積層させて超格子複合層を形成し、該超格子複合層の上に、窒化物半導体層を形成することを特徴とする半導体材料の製造方法。
【0018】
(10)前記超格子複合層を形成する工程は、前記高Al含有層としてAlN層を形成し、前記低Al含有層としてAlZGa1-ZN層(0≦Z≦0.3)を形成することを特徴とする上記(9)記載の半導体材料の製造方法。
【0019】
(11)前記超格子複合層を形成する工程は、前記高Al含有層と前記低Al含有層とを、合計で2〜100層積層させることを特徴とする上記(9)又は(10)記載の半導体材料の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、クラック等の発生を抑制するためのバッファ層として、AlXGa1-XNの組成からなり、該組成中のAl含有比が結晶成長方向に連続又は不連続に漸減するように組成を傾斜させた組成傾斜層を形成し、該組成傾斜層の上に、AlYGa1-YN(ただし、0.5≦Y≦1とする。)の組成からなる高Al含有層と、AlZGa1-ZN(ただし、0≦Z≦0.5とする。)の組成からなる低Al含有層とを交互に積層してなる超格子複合層を形成することにより、従来の半導体材料に比べて、クラック及びピットの発生が共に少なく、結晶性に優れた窒化物半導体層を有する半導体材料及びその製造方法、並びに半導体素子を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に従う半導体材料1を側方から見た状態を模式的に示した図である。
【0022】
本発明による半導体材料1は、図1に示すように、Si基板10上又はこの上に形成した中間層20上に、AlXGa1-XNの組成からなり、該組成中のAl含有比が結晶成長方向に連続又は不連続に漸減するように組成を傾斜させた組成傾斜層30を形成し、該組成傾斜層30の上に、AlYGa1-YNの組成からなるからなる高Al含有層41とAlZGa1-ZNの組成からなる低Al含有層42とを交互に積層してなる超格子複合層40を形成し、該超格子複合層40の上に、窒化物半導体層50を形成してなる。
【0023】
本発明者らは、クラック及びピットの発生が少なく、結晶性に優れた窒化物半導体層を有する半導体材料について鋭意研究を行った結果、従来のように、前記組成傾斜層30や、前記超格子複合層40をそれぞれ単独で用いた層構成では、上記性能の全てを満足することができず、前記組成傾斜層30の上に、前記超格子複合層40を形成することによって、初めて、従来技術と同様にクラックの発生を抑制しつつ、それぞれの層30、40が異なる欠陥を遮断することにより、ピットの原因となる欠陥を遮断することができ、ピットの発生を抑制できることを見出した。さらに、それぞれの層30、40が異なる欠陥を遮断することと、前記Si基板10と、前記窒化物半導体層50との格子定数の差を、より緩和できるようになる結果、結晶性に優れた前記窒化物半導体層50を得られることも見出した。
【0024】
なお、本発明の半導体材料1は、前記組成傾斜層30の上に、前記超格子複合層40を形成しているが、逆に、前記超格子複合層40の上に、前記組成傾斜層30を形成した場合には同様の効果を得ることはできない。これは傾斜組成層内でピットの発生源となる転位が再発生し、前記窒化物半導体層50へ伝搬するためと考えられる。
【0025】
(Si基板及び中間層)
本発明のSi基板10としては、特に限定はされないが、通常使用される高品質の単結晶シリコンからなる基板を用いることができる。
【0026】
また、前記Si基板10の厚さについても、特に限定はされないが、基板の剛性を確保し且つデバイスの放熱効果の点から、0.2〜1mmとすることが好ましい。
【0027】
さらに、本発明では、必要に応じて、図1に示すように、前記Si基板の上に中間層20を形成することができる。この中間層20を形成することで、さらに前記窒化物半導体層50の応力を低減させることができる点で有効であり、また、バッファ層としての前記組成傾斜層30や、前記超格子複合層40の膜厚を薄くすることができる効果も有する。
【0028】
前記中間層20は、前記Si基板10と前記窒化物半導体層50との緩衝作用を有していれば、その組成については特に限定はされず、AlN、GaN、AlXInYN、InXGa1-XN又はAlXInYGa1-X-YN等を用いることができるが、SiとGaは反応しやすく良質の結晶を得ることが困難の点から、AlNからなる層を用いることが好ましい。
【0029】
(組成傾斜層)
本発明の組成傾斜層30は、図1に示すように、AlXGa1-XNの組成からなり、該組成中のAl含有比が結晶成長方向Lに連続又は不連続に減少(漸減)するように組成を傾斜させた層である。前記Al含有比を結晶成長方向Lに漸減するように組成を傾斜させることで、前記AlXGa1-XNの熱膨張率が、前記組成傾斜層30中の前記基板10と接する下面21ではSiに近づき、前記超格子複合層40と接する上面22ではその窒化物半導体層の熱膨張率に近づくため、前記窒化物半導体層50内の内部応力を低減させる結果、クラックの発生を抑制することができる。
【0030】
また、前記傾斜層30は、前記AlXGa1-XNのXの値が、前記下面21で0.5〜1の範囲であり、前記上面22で0〜0.5の範囲であることが好ましい。下面21及び上面22でのXの値を上記範囲とすれば、前記Si基板10と、組成傾斜層30との格子定数の差を緩和する結果、前記窒化物半導体層50の結晶性を向上させることができるからである。さらに、前記下面21の組成がAlNとなり、前記上面22の組成がGaNとなることがより好適である。
【0031】
さらに、前記組成傾斜層30の前記AlXGa1-XNのAl含有比(X)は、結晶成長方向Lに漸減すれば、連続的でも不連続的でもよく、また、含有比が漸減する割合は、一定であっても、不規則であっても構わない。
【0032】
さらに、前記組成傾斜層30の膜厚は、1〜10μmであることが好ましい。1μm未満では、十分に前記窒化物半導体層50内の内部応力を低減させることができず、10μm超えでは、組成傾斜層とSi基板の熱膨張係数の差から、ウエハの反りが大きくなりデバイスの加工面で不具合が生じるためである。
【0033】
(超格子複合層)
本発明の超格子複合層40は、図1に示すように、前記組成傾斜層30の上に形成され、AlYGa1-YN(ただし、0.5≦Y≦1とする。)の組成からなる高Al含有層41と、AlZGa1-ZN(ただし、0≦Z≦0.5とする。)の組成からなる低Al含有層42とを交互に積層してなる複合層である。この超格子複合層40を形成すれば、前記Si基板10と前記窒化物半導体層50との、格子定数や熱膨張率差を緩和することができる結果、前記窒化物半導体層50に発生するクラックを抑制することができる。さらに、上述したように、前記組成傾斜層30の上に形成することで、前記窒化物半導体層50に発生するピットについても抑制できるという効果を奏する。
【0034】
また、前記超格子複合層40は、前記高Al含有層41がAlN層であり、前記低Al含有層42がAlZGa1-ZN層(ただし、0≦Z≦0.3とする。)であることが好ましい。前記高Al含有層41をAlNとすれば、前記Si基板10の熱膨張率及び格子定数に近づくため、緩衝層としての効果を有効に発揮できるからであり、また、前記低Al含有層42のZの値が0.3を超えた場合は、組成傾斜層30の終点および窒化物半導体層50と、超格子複合層全体でのみなしの格子定数との差が大きくなるため、前記窒化物半導体層50にピットが増加し、クラックが発生する恐れがあるからである。さらに、Zの値を0.1〜2.0の範囲、最適には0.15とすれば、より優れた効果を得ることができる。
【0035】
ここで図2(a)、(b)は、図1に示すように、Si基板10上に中間層20として、膜厚100nmのAlN層を形成し、該AlN層上に、AlXGa1-XNのXの値がX=1からX=0となるように連続的に変化する膜厚3.5μmの組成傾斜層30を形成し、該組成傾斜層30の上に、前記高Al含有層41としての膜厚5.0nmのAlN層と、前記低Al含有層42として膜厚20nmの4種類のAlZGa1-ZN層(Z=0、0.15、0.3、0.4)のいずれかのAlZGa1-ZN層とを、交互に50層ずつ積層させた超格子複合層40を形成し、該超格子複合層40の上に、窒化物半導体層50として膜厚1.0μmのGaN層を形成してなる4種類の半導体材料1について、前記低AlN含有層42のZの値に対するGaN層の結晶性(X線回折の半値幅)の関係を表したグラフ(図2(a))、及び前記低AlN含有層42のZの値に対するGaN層の単位面積(1cm2)当たりのピット数の関係を表したグラフ(図2(b))である。図2(a)及び(b)からもわかるように、超格子複合層40の低Al含有層42を構成するAlZGa1-ZNのZの値が0.3を超えた場合、結晶性が劣化するとともに(半値幅が大きくなる)(図2(a))、ピット数が大幅に増加している(図2(b))。
【0036】
さらに、前記超格子複合層40は、前記高Al含有層41と前記低Al含有層42との合計が、2〜100層であることが好ましい。本発明の効果を得るためには、前記高Al含有層41と前記低Al含有層42を、少なくとも1層ずつ積層させる必要があり、合計が100層を超える場合、前記窒化物半導体層50にクラックが発生しやすくなるからである。
さらにまた、前記超格子複合層40は、図1に示すように、それを構成する最下層が高Al含有層41であり、最上層が低Al含有層42であることが、前記窒化物半導体層50のクラック及びピットの発生を抑制する効果がより発揮される点で好ましい。
【0037】
ここで図3(a)、(b)は、図1に示すように、Si基板10上に中間層20として、膜厚100nmのAlN層を形成し、該AlN層上に、AlXGa1-XNのXの値がX=1からX=0となるように連続的に変化する膜厚3.5μmの組成傾斜層30を形成し、該組成傾斜層30の上に、前記高Al含有層41としての膜厚5nmのAlN層と、前記低Al含有層42としての膜厚20nmのAl0.15Ga0.85N層を交互に積層させて、5種類の異なる合計積層数(0層、2層、20層、40層、100層、200層)の超格子複合層40をそれぞれ形成し、該超格子複合層40の上に、窒化物半導体層50として膜厚1μmのGaN層を形成してなる半導体材料1について、前記超格子複合層40を構成するAlN層とAl0.15Ga0.85N層との合計積層数に対するGaN層の結晶性(X線回折の半値幅)の関係を表したグラフ(図3(a))、前記超格子複合層40を構成するAlN層とAl0.15Ga0.85N層との合計積層数に対するGaN層の単位面積(1cm2)当たりのピット数の関係を表したグラフ(図3(b))である。図3(a)及び(b)からもわかるように、合計積層数が2以上の場合には、結晶性が顕著に向上し(半値幅が大きくなる)(図3(a))、ピット数が大幅に抑制されている(図3(b))。合計積層数が200層の場合でも、結晶性がよくピット数が抑制されているが、クラックが発生した。従って、前記超格子複合層40は、前記高Al含有層41と前記低Al含有層42との合計層数が、2〜100層であることが好ましい。
【0038】
また、前記高Al含有層41及び前記低Al含有層42の膜厚は、特に限定はしないが、薄すぎる場合には、前記Si基板10との熱膨張率差に起因する応力を有効に緩和することができず、一方、厚すぎる場合には、前記高Al含有層41又は前記低Al含有層42の成長中に格子緩和が起こり、ピットが増える原因となってしまう恐れがあることから、前記高Al含有層41の膜厚は、1〜30nm、前記低Al含有層42の膜厚は5〜80nmの範囲であることが好ましい。なお、図1では、前記超格子複合層40の構成をわかりやすくするため、実際の割合に比べて、前記高Al含有層41及び前記低Al含有層42の膜厚が厚く示してある。
【0039】
(窒化物半導体層)
本発明の窒化物半導体層50は、図1に示すように、前記超格子複合層50の上に形成される層である。窒化物半導体の種類としては、例えば、GaN、AlXGa1-XN、InXGa1-XN又はAlXInYGa1-X-YN等が挙げられる。
【0040】
また、前記窒化物半導体層50は、高濃度のGaを含有し、Al及びInの含有量が少ないほうが、例えばHEMTに用いた場合、動作速度が高くなる点で好ましく、GaN層であることが好ましい。
【0041】
さらに、本発明の効果により、クラック及びピットの発生を抑制することができるため、前記窒化物半導体層50のピット密度が1000個/cm2以下(より好ましくは200個/cm2以下)の高品質の半導体材料1を得ることができる。
【0042】
さらにまた、必要に応じて、コンタクト層、チャネル層、パッシベーション層等としての役目を果たす、カバー層60を設けることができる。前記カバー層60の種類としては、例えば、GaN、AlXGa1-XN、InXGa1-XN又はAlXInYGa1-X-YN等が挙げられる。
【0043】
なお、本発明による半導体材料を用い、該半導体材料に電極等を設けることにより、リーク電流によるデバイス特性の劣化がない、優れた半導体素子を得ることができる。
【0044】
次に、本発明による半導体材料の製造方法について説明する。
本発明による半導体材料の製造方法は、Si基板上又はこの上に形成した中間層上に、AlXGa1-XNの組成からなり、該組成中のAl含有比が結晶成長方向に連続又は不連続に漸減するように組成を傾斜させた組成傾斜層を形成し、該組成傾斜層の上に、AlYGa1-YN(ただし、0.5≦Y≦1、好ましくはY=1とする。)の組成からなる高Al含有層と、AlZGa1-ZN(ただし、0≦Z≦0.5、好ましくは0≦Z≦0.3とする。)の組成からなる低Al含有層とを交互に積層、好ましくは合計で2〜100層積層させて超格子複合層を形成し、該超格子複合層の上に、窒化物半導体層を形成する。
【0045】
本発明の製造を用いて半導体材料を製造すれば、前記組成傾斜層の上に、前記超格子複合層を形成したものが、クラック等の発生を抑制するためのバッファ層としての機能を果たすため、従来の半導体材料に比べて、クラック及びピットの発生が少なく、結晶性に優れた窒化物半導体層を有する半導体材料を提供することができる。
【0046】
なお、上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
また、組成傾斜層、超格子複合層ともに、AlGaN系の窒化物であるが、AlGaInN系の窒化物としても同様の効果が期待できる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明に従う半導体材料を試作し、性能を評価した。
(実施例1)
実施例1は、図1に示すように、直径4インチで結晶面が(111)、膜厚525umのSi基板10を用意し、MOCVD法を用い、水素及び窒素雰囲気中で、前記Si基板10を1100℃に加熱した後、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、NH3の供給量を調整することにより、前記Si基板10上に、膜厚100nmの中間層20であるAlN層を形成し、該AlN層上に、AlXGa1-XNの組成からなり、該組成中のAl含有比Xが結晶成長方向にX=1からX=0となるように連続的に変化する組成傾斜層30(膜厚3.5μm)を形成した。その後、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、NH3の供給量を調整することにより、前記組成傾斜層30の上に、AlNからなる高Al含有層41(膜厚5nm)とAl0.15Ga0.85Nからなる低Al含有層42(膜厚20nm)を交互に50層ずつ、計100層積層させた超格子複合層40を形成し、更にその上に厚さ1μmのGaN層50と薄いAl0.26Ga0.74N層60を順次形成することで、サンプルとなる半導体材料を作製した。
【0048】
(実施例2)
実施例2は、超格子複合層40を、AlNからなる高Al含有層41(膜厚5nm)とGaNからなる低Al含有層42(膜厚20nm)を交互に20層ずつ、計40層積層させて形成したこと以外は、実施例1と同様の方法により、サンプルとなる半導体材料を作製した。
【0049】
(実施例3)
実施例3は、超格子複合層40を、AlNからなる高Al含有層41(膜厚5nm)とAl0.15Ga0.85Nからなる低Al含有層42(膜厚20nm)を交互に1層ずつ、計2層積層させて形成したこと以外は、実施例1と同様の方法により、サンプルとなる半導体材料を作製した。
【0050】
(比較例1)
比較例1は、図4に示すように、図1の半導体材料と同様の条件により、前記Si基板10上に、AlNからなる第一中間層20を形成し、その上にAlGaNからなる第二中間層21を形成し、その上に前記組成傾斜層30を形成することなく、AlNからなる高Al含有層41(膜厚5nm)とAl0.15Ga0.85Nからなる低Al含有層42(膜厚20nm)を交互に160層ずつ、計320層積層させた超格子複合層40を形成し、その上に厚さ1μmのGaN層と、Al0.26Ga0.74N層60とを順次形成することで、サンプルとなる半導体材料を作製した。
【0051】
(比較例2)
比較例2は、図5に示すように、図1の半導体材料と同様の条件により、前記Si基板10上に、AlNからなる中間層20を形成し、該中間層20上に、組成傾斜層30を形成した。その後、前記組成傾斜層30上に、超格子複合層40を形成することなく、厚さ1μmのGaN層と、Al0.26Ga0.74N層60とを順次形成することで、サンプルとなる半導体材料を作製した。
【0052】
上記実施例及び比較例で作製した各半導体材料について評価を行った。評価方法を以下に示す。
【0053】
(評価方法)
(1)ピット数
上記実施例及び比較例で作製した半導体材料の、GaN層50の表面を光学顕微鏡(倍率100倍)を用いて観察し、4インチウエハの任意の5点の視野範囲のピット数を計測し視野面積よりピット密度(個/cm)に換算、以下の基準に従って評価した。
○:1000個/cm以下
×:1000個/cm超え
【0054】
(2)クラックの有無
上記実施例及び比較例で作製した半導体材料の、GaN層50の表面を光学顕微鏡(倍率100倍)を用いて観察し、クラックの有無を観察し、以下の基準に従って評価した。
○:4インチウエハ外周5mm以内にクラック無し
×:4インチウエハ外周5mm以内にクラック有り
【0055】
(3)結晶性
上記実施例及び比較例で作製した半導体材料の、GaN層50の結晶面(2024)面を、X線回折装置を用いて、回折線の半値幅を測定し、以下の基準に従って評価した。
○:1200arcsec以下
△:1200arcsec以上、1300arcsec以下
×:1300arcsec超え
【0056】
上記の評価(1)〜(3)の結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1の結果から、実施例1、2及び3のサンプルは、比較例1及び2のサンプルと比較して、クラックの数については、大きな差はないものの、ピットの数は大きく減少し、同じAl含有量の超格子複合層を持つ実施例1、3および比較例1とを比較すると、実施例で半値幅が小さくなっていることから、ピットの発生を大幅に抑制することができ、結晶性に優れている半導体材料が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、従来の半導体材料に比べて、クラック及びピットの発生が少なく、結晶性に優れた窒化物半導体層を有する半導体材料及びその製造方法を提供することが可能となり、その半導体材料を用いた、高品質の半導体素子の提供についても可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明による半導体材料の断面図である。
【図2】本発明の半導体材料について、低Al含有層(AlZGa1-ZN層)のAl含有比(Z=0、0.15、0.3、0.5)と、GaN層の品質との関係を示したグラフであり、(a)は、低Al含有層のAl含有比と、GaN層のX線回折の半値幅との関係を示し、(b)は、低Al含有層のAl含有比と、GaN層の単位面積当たりに発生するピット数との関係を示している。
【図3】本発明の半導体材料について、超格子複合層を構成するAlN層とAl0.15Ga0.85N層との合計積層数(0、2、40、100、200)と、GaN層の品質との関係を示したグラフであり、(a)は、超格子複合を構成するAlN層とAl0.15Ga0.85N層との合計積層数と、GaN層のX線回折の半値幅との関係を示し、(b)は、超格子複合を構成するAlN層とAl0.15Ga0.85N層との合計積層数と、GaN層の単位面積当たりに発生するピット数との関係を示している。
【図4】比較例1で作製した半導体材料の断面図である。
【図5】比較例2で作製した半導体材料の断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 半導体材料
10 Si基板
20 中間層
21 第二中間層
30 組成傾斜層
31 下面
32 上面
40 超格子複合層
41 高Al含有層
42 低Al含有層
50 窒化物半導体層
60 カバー層
L 結晶の成長方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si基板上又はこの上に形成した中間層上に、AlXGa1-XNの組成からなり、該組成中のAl含有比が結晶成長方向に連続又は不連続に減少するように組成を傾斜させた組成傾斜層を形成し、該組成傾斜層の上に、AlYGa1-YN(ただし、0.5≦Y≦1とする。)の組成からなる高Al含有層と、AlZGa1-ZN(ただし、0≦Z≦0.5とする。)の組成からなる低Al含有層とを交互に積層してなる超格子複合層を形成し、該超格子複合層の上に、窒化物半導体層を形成してなることを特徴とする半導体材料。
【請求項2】
前記超格子複合層は、前記高Al含有層がAlN層(Y=1)であり、前記低Al含有層がAlZGa1-ZN層(ただし、0≦Z≦0.3とする。)であることを特徴とする請求項1記載の半導体材料。
【請求項3】
前記超格子複合層は、前記高Al含有層と前記低Al含有層との合計数が、2〜100層であることを特徴とする請求項1又は2記載の半導体材料。
【請求項4】
前記超格子複合層は、それを構成する最下層が高Al含有層であり、最上層が低Al含有層であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の半導体材料。
【請求項5】
前記傾斜層は、前記AlXGa1-XNのXの値が、前記Si基板又は前記中間層と接する下面で0.5〜1の範囲であり、前記超格子複合層と接する上面で0〜0.5の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の半導体材料。
【請求項6】
前記窒化物半導体層は、GaN層であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の半導体材料。
【請求項7】
前記GaN層のピット密度は1000個/cm2以下であることを特徴とする請求項6記載の半導体材料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の半導体材料を用い、該半導体材料に電極を設けてなる半導体素子。
【請求項9】
Si基板上又はこの上に形成した中間層上に、AlXGa1-XNの組成からなり、該組成中のAl含有比が結晶成長方向に連続又は不連続に減少するように組成を傾斜させた組成傾斜層を形成し、該組成傾斜層の上に、AlYGa1-YN(ただし、0.5≦Y≦1とする。)の組成からなる高Al含有層と、AlZGa1-ZN(ただし、0≦Z≦0.5とする。)の組成からなる低Al含有層とを交互に積層させて超格子複合層を形成し、該超格子複合層の上に、窒化物半導体層を形成することを特徴とする半導体材料の製造方法。
【請求項10】
前記超格子複合層を形成する工程は、前記高Al含有層としてAlN層を形成し、前記低Al含有層としてAlZGa1-ZN層(0≦Z≦0.3)を形成することを特徴とする請求項9記載の半導体材料の製造方法。
【請求項11】
前記超格子複合層を形成する工程は、前記高Al含有層と前記低Al含有層とを、合計で2〜100層積層させることを特徴とする請求項9又は10記載の半導体材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−158804(P2009−158804A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337167(P2007−337167)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、委託研究(知的クラスター創成事業(第二期):A1鋳造システム部材の開発)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】