説明

半導体装置

【課題】遷移金属のエネルギー準位を安定にすることが可能な半導体装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、SiC基板10上に設けられ、遷移金属であるFeとFeよりも深い準位を有する不純物であるCとをそれぞれ一定の濃度で含有する第1のGaN層20と、第1のGaN層20上に設けられ、Feの濃度の変化に従いCの濃度が変化する第2のGaN層22と、第2のGaN層22上に設けられ、GaNよりもバンドギャップが大きい電子供給層18と、を有する半導体装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、特に、遷移金属を含有するGaN層が設けられた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いた半導体装置は、高周波かつ高出力で動作するパワー素子等に用いられている。特に、マイクロ波、準ミリ波、ミリ波等の高周波帯域において増幅を行うのに適した半導体装置として、例えば高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transisor:HEMT)等のFETが知られている。
【0003】
窒化物半導体を用いた半導体装置として、Si基板上に、AlN層、AlGaN層、GaN層、電子供給層が順次積層された半導体装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、窒化物半導体を用いた半導体装置の基板として、Si基板以外に、GaNと格子定数が比較的近いSiC基板が用いられることも知られている。さらに、窒化物半導体を用いた半導体装置において、GaN層に遷移金属を添加することで、高抵抗化を図る技術が知られている。これにより、リーク電流の防止、ピンチオフ特性の改善等、デバイスの特性向上の効果が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−166349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
GaN層に遷移金属を添加した半導体装置において、遷移金属のエネルギー準位が不安定となる場合がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、遷移金属のエネルギー準位を安定にすることが可能な半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基板上に設けられ、遷移金属と前記遷移金属よりも深い準位を有する不純物とをそれぞれ一定の濃度で含有する第1のGaN層と、前記第1のGaN層上に設けられ、前記遷移金属の濃度の変化に従い前記不純物の濃度が変化する第2のGaN層と、前記第2のGaN層上に設けられた電子供給層と、を有することを特徴とする半導体装置である。本発明によれば、遷移金属のエネルギー準位よりも深いエネルギー準位が不純物により形成されるので、遷移金属のエネルギー準位を安定させることができる。また、第2のGaN層では、遷移金属の濃度変化に従い不純物の濃度を変化させているため、不純物を過剰に多く存在させることを抑制できる。
【0008】
上記構成において、前記不純物の濃度は、前記遷移金属の濃度よりも低い構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記第2のGaN層において、前記遷移金属の濃度の変化率と前記不純物の濃度の変化率とは同じである構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記第2のGaN層と前記電子供給層との間に、一定の濃度の前記不純物を含有する第3のGaN層を有する構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記遷移金属は、二つの準位を形成する構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記不純物は、前記二つの準位の間に準位を有する構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記遷移金属は、Feである構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記不純物は、Cである構成とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、遷移金属のエネルギー準位よりも深いエネルギー準位が不純物により形成されるので、遷移金属のエネルギー準位を安定させることができる。また、第2のGaN層では、遷移金属の濃度変化に従い不純物の濃度を変化させているため、不純物を過剰に多く存在させることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、比較例1に係る半導体装置におけるエピ層を示す断面模式図の例である。
【図2】図2は、AlGaN電子供給層18の上面からの深さに対するFe濃度の変化を示す模式図である
【図3】図3は、Fe−GaN層に添加されたFeのエネルギー準位を示す模式図である。
【図4】図4は、Cの添加についての課題を説明するための模式図である。
【図5】図5は、実施例1に係る半導体装置におけるエピ層を示す断面模式図の例である。
【図6】図6は、AlGaN電子供給層の上面からの深さに対するFe濃度とC濃度の変化を示す模式図である。
【図7】図7は、第1のGaN層に添加されたFeのエネルギー準位とCのエネルギー準位とを示す模式図である。
【図8】図8は、実施例1に係る半導体装置の断面模式図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず初めに、比較例1に係る半導体装置について説明する。図1は、比較例1に係る半導体装置におけるエピ層を示す断面模式図の例である。図1のように、SiC基板10上に、例えばMOCVD法(有機金属気相成長法)を用い、AlN(窒化アルミニウム)からなるシード層12を成長させる。成長条件は以下である。
原料ガス:TMA(トリメチルアルミニウム)、NH(アンモニア)
成長温度:1100℃
圧力 :13.3kPa
膜厚 :25nm
【0018】
シード層12上に、Fe−GaN層14を成長させる。成長条件は以下である。
原料ガス :TMG(トリメチルガリウム)、NH
成長温度 :1050℃
圧力 :13.3kPa
V/III比:1000
成長速度 :0.3nm/sec
ドープ :Feを1.0×1016cm−3ドープ
膜厚 :200nm
【0019】
Fe−GaN層14上に、GaN層16を成長させる。成長条件は以下である。
原料ガス :TMG、NH
成長温度 :1100℃
圧力 :13.3kPa
V/III比:5000
成長速度 :0.2nm/sec
膜厚 :1500nm
【0020】
GaN層16上に、AlGaN電子供給層18を成長させる。成長条件は以下である。
原料ガス :TMA、TMG、NH
Al組成比:20%
膜厚 :25nm
【0021】
図2は、AlGaN電子供給層18の上面からの深さに対するFe濃度の変化を示す模式図である。図2のように、Feは、Fe−GaN層14に添加されているのみならず、GaN層16にまで裾を引くように含まれていることが分かる。このように、GaN層16にまでFeが含まれる理由は以下のように考えられる。Feなどの遷移金属は、フェリシアン化合物の形でドーパントとして用いられるが、この場合、MOCVD炉内へのフェリシアン化合物の供給を中断しても、Fe−GaN層14の成長表面にフェリシアン化合物が長時間残り、これが裾を引く形でGaN層16に取り込まれたものと考えられる。
【0022】
図3は、Fe−GaN層14に添加されたFeのエネルギー準位を示す模式図である。図3のように、Feは2つの準位を形成し、2つの準位はGaNのEc(伝導帯のエネルギー準位)とEv(価電子帯のエネルギー準位)から近いエネルギー準位である。このため、Feのエネルギー準位は不安定となり易い。Feのエネルギー準位を安定化させるには、Feのエネルギー準位よりも深い準位を形成する不純物をさらに添加すればよいと考えられる。
【0023】
Feのエネルギー準位よりも深い準位を形成する不純物として、例えばC(炭素)がある。したがって、Fe−GaN層14にCを添加することが考えられる。しかしながら、図2に示すように、Feは、GaN層16にまで裾を引くように含まれることから、Fe−GaN層14にのみCを添加しても、エネルギー準位の安定化の点では効果が小さい。そこで、図4に示すように、CをFe−GaN層14のみならずGaN層16にまで一定量添加することが考えられる。しかしながら、Cは、それ自身がトラップとして働き、トラップが多くなると、電流コラプスに代表される電流電圧特性の過度特性が悪化することになる。このため、図4のように、Cを過剰に添加することは好ましくない。
【0024】
そこで、このような課題を解決すべく、トラップを過剰に多くすることなく、Feのエネルギー準位を安定にすることが可能な実施例を以下に示す。
【実施例1】
【0025】
図5は、実施例1に係る半導体装置におけるエピ層を示す断面模式図の例である。図5のように、酸洗浄したSiC基板10を、成長温度よりも高温のH雰囲気中で基板表面をクリーニングした後、SiC基板10上に、例えばMOCVD法を用いて、AlNからなるシード層12を成長させる。成長条件は以下である。
原料ガス:TMA、NH
成長温度:1100℃
圧力 :13.3kPa
膜厚 :25nm
【0026】
シード層12上に、Feを含有する第1のGaN層20を成長させる。成長条件は以下である。
原料ガス :TMG、NH
成長温度 :1050℃
圧力 :13.3kPa
V/III比:1000
成長速度 :0.3nm/sec
ドープ :Feを1.0×1016cm−3ドープ
膜厚 :200nm
【0027】
第1のGaN層20上に、第2のGaN層22を成長させる。成長条件は以下である。
原料ガス :TMG、NH
成長温度 :1050℃から1100℃に徐々に上昇
圧力 :13.3kPa
V/III比:1000
成長速度 :0.3nm/sec
膜厚 :600nm
【0028】
第2のGaN層22上に、第3のGaN層24を成長させる。成長条件は以下である。
原料ガス :TMG、NH
成長温度 :1100℃
圧力 :13.3kPa
V/III比:5000
成長速度 :0.2nm/sec
膜厚 :600nm
【0029】
第3のGaN層24上に、AlGaN電子供給層18を成長させる。成長条件は以下である。
原料ガス :TMA、TMG、NH
Al組成比:20%
膜厚 :25nm
【0030】
図6は、AlGaN電子供給層18の上面からの深さに対するFe濃度とC濃度の変化を示す模式図である。図6のように、Feは、第1のGaN層20に一定の濃度で含まれているのみならず、第2のGaN層22にも裾を引くように含まれている。これは、図2で説明した理由によるためである。一方、Cについては、第1のGaN層20に、Fe濃度よりも低く且つ一定の高濃度で含まれている。また、第2のGaN層22に、Fe濃度の変化に従い変化した濃度で含まれている。
【0031】
第1のGaN層20に、C濃度が一定の高濃度で含まれるのは、成長温度を1050℃と低めの温度で成長させ、V/III比を1000と低めにし、成長速度を0.3nm/secと速めにしたためである。TMGとNHを原料としたMOCVD法によるGaNの成長では、原料に含まれるCが、成長したGaNに少なからず取り込まれることとなるが、成長温度およびV/III比を低く、成長速度を速くすることで、GaNに取り込まれるCの量が多くなることを利用したものである。
【0032】
同様に、第2のGaN層22では、C濃度が変化しているが、これは、成長温度を1050℃から1100℃に徐々に上昇させて成長させたためである。この成長温度の上昇率を適切に制御することで、図6のように、Fe濃度の変化に合わせてC濃度を変化させることができる。つまり、C濃度の変化率をFe濃度の変化率に合わせることができる。
【0033】
図7は、第1のGaN層20および第2のGaN層22に含まれるFeのエネルギー準位とCのエネルギー準位とを示す模式図である。図7のように、Feは、GaNのEcから0.4eVとEvから0.3eVの所にエネルギー準位が形成されるのに対し、Cは、GaNのEcから0.8eVの所にエネルギー準位が形成される。このように、Feのエネルギー準位よりも深いエネルギー準位がCにより形成されることで、Feのエネルギー準位を安定させることができる。
【0034】
以上説明してきたように、実施例1によれば、遷移金属であるFeとFeよりも深いエネルギー準位を有するCとをそれぞれ一定の濃度で含有する第1のGaN層20と、第1のGaN層20上に、Feの濃度変化に従いCの濃度が変化する第2のGaN層22と、を有する。これにより、図7で説明したように、Feのエネルギー準位よりも深いエネルギー準位がCにより形成されるので、Feのエネルギー準位を安定させることができる。また、第2のGaN層22では、Feの濃度変化に従いCの濃度を変化させているため、Cを過剰に多く存在させることはなく、トラップに起因した電流コラプス等の電流電圧特性の過度応答の悪化を抑制できる。
【0035】
図6に示すように、Cの濃度はFeの濃度よりも低い場合が好ましい。C濃度が高くなると、Cが多く存在することとなり、過度特性に悪影響を及ぼすことになるためである。一方、C濃度が低すぎるとFeのエネルギー準位を安定化させる効果が弱まる。したがって、第1のGaN層20のC濃度は、1.0×1014/cmから1.0×1016/cmである場合が好ましく、1.0×1015/cmから5.0×1015/cmである場合がより好ましい。
【0036】
また、図6に示すように、第2のGaN層22において、Feの濃度とCの濃度との差は一定である場合が好ましいため、Feの濃度の変化率とCの濃度の変化率とは同じである場合が好ましい。これにより、Feのエネルギー準位の安定化をより促進できる。
【0037】
図5のように、Feが裾を引くように含有するのは、第1のGaN層20の上面から600nm程度までである。したがって、Feの濃度変化に従いCの濃度を変化させている第2のGaN層22は、第1のGaN層20から600nm程度の厚さ部分であり、第2のGaN層22とAlGaN電子供給層18との間には、Cの濃度が低濃度で一定に含有する第3のGaN層24を有する。C濃度が低い第3のGaN層24があることにより、500nm〜700nmの波長帯でのブロードな発光(Yellow BAND:イエローバンド)を低減させることができる。
【0038】
実施例1では、第1のGaN層20に含まれる遷移金属としてFeの場合を例に示したが、これに限られない。例えばTi(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)の場合でもよく、特に、Feのように二つの準位を形成する遷移金属の場合が好ましい。また、基板はSiC基板の場合を例に示したが、これに限らず、Si基板、サファイア基板等、その他の基板の場合でもよい。
【0039】
また、遷移金属よりも深い準位を有する不純物としてCの場合を例に示したが、その他の不純物である場合でもよく、特に、遷移金属が二つの準位を形成する場合に、その二つの準位の間にエネルギー準位を有する不純物の場合が好ましい。また、図5で説明したように、第1のGaN層20および第2のGaN層22に含まれるC濃度は、成長条件を制御することで調整できる。つまり、濃度調整を容易に行うことができる。よって、遷移金属よりも深い準位を有する不純物はCである場合が好ましい。第1のGaN層20および第2のGaN層22に含まれるC濃度は、成長温度、V/III比、および成長速度の少なくとも1つを変えることで調整できる。
【0040】
図8は、実施例1に係る半導体装置の断面模式図の例である。図8のように、図5で説明したエピ層上に、オーミック電極としてのソース電極26とドレイン電極28とが設けられている。ソース電極26およびドレイン電極28は、例えばAlGaN電子供給層18側からTi(チタン)、Al(アルミニウム)が順次積層された2層構造をしている。ソース電極26とドレイン電極28との間のAlGaN電子供給層18上には、ゲート電極30が設けられている。ゲート電極30は、例えばAlGaN電子供給層18側からNi(ニッケル)、Au(金)が順次積層された2層構造をしている。
【0041】
実施例1では、電子供給層は、AlGaN電子供給層の場合を例に示したが、GaNよりもバンドギャップが大きければ、AlGaN以外の場合でもよい。
【0042】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0043】
10 SiC基板
12 シード層
14 Fe−GaN層
16 GaN層
18 AlGaN電子供給層
20 第1のGaN層
22 第2のGaN層
24 第3のGaN層
26 ソース電極
28 ドレイン電極
30 ゲート電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられ、遷移金属と前記遷移金属よりも深い準位を有する不純物とをそれぞれ一定の濃度で含有する第1のGaN層と、
前記第1のGaN層上に設けられ、前記遷移金属の濃度の変化に従い前記不純物の濃度が変化する第2のGaN層と、
前記第2のGaN層上に設けられ、GaNよりもバンドギャップが大きい電子供給層と、を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記不純物の濃度は、前記遷移金属の濃度よりも低いことを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第2のGaN層において、前記遷移金属の濃度の変化率と前記不純物の濃度の変化率とは同じであることを特徴とする請求項1または2記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第2のGaN層と前記電子供給層との間に、一定の濃度の前記不純物を含有する第3のGaN層を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の半導体装置。
【請求項5】
前記遷移金属は、二つの準位を形成することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の半導体装置。
【請求項6】
前記不純物は、前記二つの準位の間に準位を有することを特徴とする請求項5記載の半導体装置。
【請求項7】
前記遷移金属は、Feであることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載の半導体装置。
【請求項8】
前記不純物は、Cであることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−33646(P2012−33646A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171067(P2010−171067)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】