説明

半導体電子デバイス

【課題】耐圧性が高く反りが小さい半導体電子デバイスを提供すること。
【解決手段】基板と、前記基板上に形成された、前記基板よりも格子定数が小さく熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる第一半導体層と該第一半導体層よりも格子定数が小さく前記基板よりも熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる第二半導体層とが交互に積層した2層以上の複合層を有するバッファ層と、前記基板と前記バッファ層との間に形成された、前記第一半導体層よりも格子定数が小さく前記基板よりも熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる介在層と、前記バッファ層上に形成された、窒化物系化合物半導体からなる半導体動作層と、を備え、前記バッファ層は、前記各第一半導体層または前記各第二半導体層の厚さが積層方向に向かって減少するように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物系化合物半導体を用いた半導体電子デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学式AlxInyGa1-x-yAsuv1-u-v(ただし、0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1、0≦u≦1、0≦v≦1、u+v<1)で表される窒化物系化合物半導体、たとえばGaN系化合物半導体を用いた電界効果トランジスタ等の電子デバイスは、400℃近い高温環境下においても動作する固体デバイスとして注目されている。GaN系化合物半導体は、SiやGaAsとは異なり、大口径の単結晶基板を作製することが困難である。そのため、GaN系化合物半導体を用いた電子デバイスは、たとえばシリコンカーバイト(SiC)、サファイア、ZnOまたはSiからなる基板を用いて作製されている。特に、Siからなる基板は大口径のものが安価で入手できるため、電子デバイス用の基板としては非常に有効である。
【0003】
しかしながら、SiとGaNとでは格子定数および熱膨張率に非常に大きな差があるため、Si基板上にGaN層を直接エピタキシャル成長させると、GaN層に大きな引っ張り歪みが内在することとなり、GaN層をエピタキシャル成長させたエピタキシャル基板全体に凹形状の反りが発生したり結晶性が悪化したりする原因となる。さらに、内在する歪みが大きいとGaN層にクラックが発生する。そこで、通常はSi基板とGaN層との間に歪緩和層としてのバッファ層を設ける。このようなバッファ層としてはGaN層とAlN層との積層構造が効果的である(特許文献1、2参照)。
【0004】
特許文献1に記載のGaN系電界効果トランジスタの作製方法については、たとえば直径4インチ(101.6mm)のSi単結晶からなる基板上に、MOCVD法などのエピタキシャル結晶成長法で、まず1000〜1100℃程度の基板温度でAlN層を形成し、ついで同程度の温度でGaN層とAlN層とが積層された複合層を形成してバッファ層とする。その後、バッファ層上に電子走行層、電子供給層およびコンタクト層を順次積層して半導体動作層を形成し、さらにソース電極、ドレイン電極およびゲート電極を形成した後に、各デバイスに分離する。このように、GaN層とAlN層との複合層を形成してバッファ層とすることにより、Si基板上にクラックがなく結晶性が良好なGaN層をエピタキシャル成長させることができる。さらに、エピタキシャル基板全体の反りも改善される。なお、バッファ層はGaN層とAlN層との複合層にかぎらず、互いに組成の異なるAlGaN層の複合層としても、両者に適切な量の歪みがあれば同様な効果を得られる。
【0005】
【特許文献1】特開2003−59948号公報
【特許文献2】特開2007−88426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、GaN系化合物半導体のエピタキシャル層を有する電子デバイスを利用して電源デバイスを実現するためには、電子デバイスの高耐圧化が重要である。Si基板はたとえばサファイア基板などに比べて比較的抵抗が低いため、Si基板を用いた電子デバイスを高耐圧化するためには、Si基板上に形成するエピタキシャル層の総層厚を厚くする必要がある。しかしながら、このようにエピタキシャル層の総層厚を厚くすると、内在する歪みも増加する。したがって、内在する歪みの悪影響を防止するため、エピタキシャル層の総層厚の増加に応じて、バッファ層における複合層の層数を増加する必要がある。
【0007】
しかしながら、複合層の層数を増加させると、それにしたがってエピタキシャル基板全体が凸方向に大きく反るようになる。したがって、エピタキシャル基板全体の反りを小さくしつつ耐圧性を高めることは困難であるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、耐圧性が高く反りが小さい半導体電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る半導体電子デバイスは、基板と、前記基板上に形成された、前記基板よりも格子定数が小さく熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる第一半導体層と該第一半導体層よりも格子定数が小さく前記基板よりも熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる第二半導体層とが交互に積層した2層以上の複合層を有するバッファ層と、前記基板と前記バッファ層との間に形成された、前記第一半導体層よりも格子定数が小さく前記基板よりも熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる介在層と、前記バッファ層上に形成された、窒化物系化合物半導体からなる半導体動作層と、を備え、前記バッファ層は、前記各第一半導体層または前記各第二半導体層の厚さが積層方向に向かって減少するように形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る半導体電子デバイスは、基板と、前記基板上に形成された、前記基板よりも格子定数が小さく熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる第一半導体層と該第一半導体層よりも格子定数が小さく前記基板よりも熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる第二半導体層とが交互に積層した2層以上の複合層を有するバッファ層と、前記基板と前記バッファ層との間に形成された、前記第一半導体層よりも格子定数が小さく前記基板よりも熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる介在層と、前記バッファ層上に形成された、窒化物系化合物半導体からなる半導体動作層と、を備え、前記バッファ層は、前記各第二半導体層の格子定数が積層方向に向かって増加するように形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る半導体電子デバイスは、上記の発明において、前記各第二半導体層は、AlxGa1-xN(ただし、0<x≦1)からなり、Alの組成比が積層方向に向かって減少するように形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る半導体電子デバイスは、上記の発明において、前記第一半導体層のうち最も厚いものの厚さが400nm以上、2000nm以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る半導体電子デバイスは、基板と、前記基板上に形成された、前記基板よりも格子定数が小さく熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる第一半導体層と該第一半導体層よりも格子定数が小さく前記基板よりも熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる第二半導体層とが交互に積層した4層以上の複合層を有するバッファ層と、前記基板と前記バッファ層との間に形成された、前記第一半導体層よりも格子定数が小さく前記基板よりも熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる介在層と、前記バッファ層上に形成された、窒化物系化合物半導体からなる半導体動作層と、を備え、前記バッファ層は、前記基板から第1〜4層目のいずれかの前記第一半導体層が、400nm以上2000nm以下の厚さであるとともに他の前記第一半導体層の厚さよりも厚く形成されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る半導体電子デバイスは、上記の発明において、前記基板は、Si、SiC、ZnOのいずれかからなることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る半導体電子デバイスは、上記の発明において、前記第二半導体層は、厚さが0.5nm以上、200nm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、反りを抑制しつつバッファ層における複合層の層数を増加できるので、耐圧性が高く反りが小さい半導体電子デバイスを実現できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、図面を参照して本発明に係る半導体電子デバイスの実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る電界効果トランジスタの模式的な断面図である。この電界効果トランジスタ100は、高電子移動度トランジスタ(HEMT)であって、主表面が(111)面のSi単結晶からなる基板10と、基板10上に形成されたバッファ層20と、基板10とバッファ層20との間に形成された介在層30と、バッファ層20上に形成された半導体動作層40と、半導体動作層40上に形成されたソース電極51とドレイン電極52とゲート電極53とを備えている。
【0019】
介在層30は、アンドープのAlNからなる。半導体動作層40は、アンドープのGaNからなる電子走行層41と、Siドープのn型AlGaNからなる電子供給層42と、n型のGaNからなるコンタクト層43とが順次積層したものである。また、ソース電極51とドレイン電極52とはいずれもTi/Alの積層構造を有し、コンタクト層43上に形成されている。また、ゲート電極53は、Pt/Auの積層構造を有し、コンタクト層43に形成された開口部43aを介して電子供給層42上に形成されている。
【0020】
また、バッファ層20は、アンドープのGaNからなる第一半導体層211、・・・、218と、アンドープのAlNからなる第二半導体層22、・・・、22とが交互に積層している。隣接する第一半導体層と第二半導体層との組を複合層とすると、バッファ層20は複合層を8層有している。なお、GaNからなる第一半導体層211をSiからなる基板10上に直接形成すると、GaとSiが合金を形成してしまうが、介在層30の存在により合金形成が防止されている。
【0021】
Siからなる基板10は、格子定数が0.384nmであり、熱膨張係数が3.59×10−6/Kである。一方、GaNからなる第一半導体層211、・・・、218は、格子定数が0.3189nmであって基板10よりも小さく、膨張係数が5.59×10−6/Kであって基板10よりも大きい。一方、AlNからなる介在層30および第二半導体層22、・・・、22は、格子定数が0.3112nmであって第一半導体層211、・・・、218よりも小さく、熱膨張係数が4.2×10−6/Kであって基板10よりも大きい。
【0022】
この電界効果トランジスタ100は、上述したように、たとえば直径4インチの基板10上に、MOCVD法などのエピタキシャル結晶成長法で、まず1000〜1100℃程度の基板温度で介在層30、バッファ層20、半導体動作層40を順次形成し、さらにソース電極51、ドレイン電極52およびゲート電極53を形成した後に、各デバイスに分離して作製される。
【0023】
ここで、介在層30の厚さはたとえば40nmである。また、第一半導体層211、・・・、218は、積層方向に向かって厚さが減少するように形成されている。すなわち、第一半導体層211は厚さが440nmであり、積層方向に向かって厚さが30nmずつ薄くなり、第一半導体層218は230nmになっている。一方、第二半導体層22、・・・、22は、厚さがいずれも同一の30nmである。したがって、バッファ層20の厚さは、2.92μmとなる。また、半導体動作層40の厚さは1.02μmであり、バッファ層20と合わせたエピタキシャル層の総層厚は3.98μmである。
【0024】
この電界効果トランジスタ100は、バッファ層20において、第一半導体層211、・・・、218が、積層方向に向かって厚さが減少するように形成されていることによって、耐圧性が高く、反りが小さいデバイスとなっている。
【0025】
以下、具体的に説明する。図2は、図1に示す基板10上に各層を形成する場合におけるエピタキシャル基板の反りの方向と反り量とを説明する説明図である。図2において、横軸は積層方向を示し、縦軸は凸方向の反りをプラス、凹方向の反りをマイナスとした反り量を示す。また、線L1は実施の形態1におけるエピタキシャル成長中の反り量を示し、線L2は、実施の形態1と同様の構造であるが各第一半導体層の厚さを同一とした場合のエピタキシャル成長中の反り量を示している。なお、各層の形成は、上述したように1000〜1100℃程度の基板温度で行なわれる。
【0026】
はじめに、基板10上に介在層30を形成すると、介在層30は基板10よりも格子定数が小さいので、線L1が示すように、反りはマイナスの方向に発生する。つぎに、介在層30上に第1層目の第一半導体層211を形成すると、第一半導体層211は介在層30よりも格子定数が大きいので、第一半導体層211の厚さが薄いうちは反りがプラスの方向に発生する。しかし、第一半導体層211の厚さがある厚さ以上となると、第一半導体層211が基板1よりも格子定数が小さいことによって、反りがマイナスの方向に発生するようになる。以下では、半導体層がエピタキシャル基板に対して発生させる反りの方向が変化する際の、その半導体層の厚さを臨界厚さと呼ぶ。なお、本実施の形態1においては、第一半導体層211における臨界厚さは約200nmである。
【0027】
つぎに、第一半導体層211上に第二半導体層22を形成すると、第二半導体層22は第一半導体層211よりも格子定数が小さいので、反りはマイナスの方向に発生する。
【0028】
つぎに、第二半導体層22上に第一半導体層212を形成すると、第一半導体層211の場合と同様に、第一半導体層212の厚さが薄いうちは反りがプラスの方向に発生し、ある臨界厚さ以上となると、反りがマイナスの方向に発生するようになる。しかしながら、第一半導体層212の臨界厚さは、第一半導体層211の臨界厚さよりも厚くなる。この理由は、第一半導体層212の場合は、その下方に形成されている介在層30と第二半導体層22との両方の影響を受けるためであると考えられる。この結果、第一半導体層212において発生するマイナスの方向への反りは小さくなる。
【0029】
同様に、第二半導体層22を挟んで第一半導体層213、214、・・・と形成していくにしたがって、影響をうける第二半導体層22の総厚さが厚くなるので、臨界厚さは厚くなっていく。ここで、各第一半導体層の厚さが同一であると、やがて臨界厚さが第一半導体層の厚さを超えてしまうため、反りはプラスの方向にだけ大きく蓄積することになる。
【0030】
しかし、本実施の形態1では、第一半導体層211、・・・、218が、積層方向に向かって厚さが減少するように形成されている。たとえば第一半導体層218では、厚さが臨界厚さよりも十分に小さくなっており、反りはプラスの方向に発生するものの、その量は小さくなっている。
【0031】
すなわち、本実施の形態1では、臨界厚さが薄い第一半導体層211等の厚さを厚くして反りをマイナス方向にできるだけ発生させ、臨界厚さが厚く反りをマイナス方向に発生しにくい第一半導体層218等の厚さを薄くして反りのプラス方向への発生量を抑制するようにしている。その結果、バッファ層20の複合層の層数を大きくしながらプラス方向への反り量が小さくなる。
【0032】
最後に、半導体動作層40を形成し、エピタキシャル成長を終了するが、半導体動作層40においても反りはプラスの方向に発生する。その後、基板温度を1000〜1100℃から常温に戻すが、バッファ層20、介在層30、半導体動作層40のいずれも、基板10よりも熱膨張係数が大きいので、基板温度の低下につれて反りがマイナスの方向に発生し、最終的な反り量は点P1が示すように小さい値となる。
【0033】
一方、従来のように各第一半導体層の厚さを同一の値、たとえば300nmとした場合は、線L2が示すように、基板に近い第一半導体層においてはマイナス方向への反りを十分に発生させることができず、基板から遠い第一半導体においては反りのプラス方向への発生量を抑制できないので、最終的な反り量は点P2が示すように大きい値となる。ちなみに、基板から8層目の第一半導体層を500nmまで成長させても、反りのマイナスの方向への発生は確認できないので、臨界厚さは500nmよりも大きいものと考えられる。
【0034】
また、各第一半導体層の厚さを同一にした場合でも、それらの厚さを薄くすれば、エピタキシャル基板の反りを抑制できる。しかし、この場合は、エピタキシャル層の総層厚が薄くなってしまうため、デバイスの耐圧性を高くすることができない。
【0035】
一方、各第二半導体層の厚さを厚くすれば、各第二半導体層において発生するマイナス方向の反り量を大きくでき、エピタキシャル基板の反りを抑制できるが、AlNの成長速度は非常に遅いため、生産性が低下するおそれがある。
【0036】
以上説明したように、実施の形態1によれば、耐圧性が高く、反りが小さい電界効果トランジスタ100を実現できる。
【0037】
ここで、本発明の実施例1として、本実施の形態1に従い、直径4インチのSi基板を用い、エピタキシャル層の総層厚を3.98μmとして電界効果トランジスタを作製したところ、各デバイスに分離する前のエピタキシャル基板の反り量(BOW)は約30μmと良好であった。その結果、各デバイスに分離した後に反りが小さい電界効果トランジスタが得られた。また、得られた電界効果トランジスタの耐圧を測定したところ、1200Vと優れた特性であることが確認された。
【0038】
一方、本発明の比較例1として、実施例1と同様の構造であるが、各第一半導体層の厚さを同一の300nmとし、エピタキシャル層の総層厚を3.7μmとして電界効果トランジスタを作製したところ、各デバイスに分離する前のエピタキシャル基板の反り量(BOW)は約100μmと大きかった。また、比較例2として、実施例1と同様の構造であるが、各第一半導体層の厚さを同一の250nmとして電界効果トランジスタを作製したところ、エピタキシャル基板の反り量は約30μmと良好であったが、エピタキシャル層の総層厚が3.3mと薄くなったため、各デバイスに分離して得られた電界効果トランジスタの耐圧を測定したところ、1000Vと低くなっていた。
【0039】
なお、上記実施の形態1において、最も厚い第一半導体層211の厚さは、400nm以上であれば、エピタキシャル成長中に発生するマイナス方向の反りの量を十分に大きくすることができるので好ましく、2000nm以下であれば、成長時間が十分に短いので、生産性が高く好ましい。
【0040】
また、第二半導体層22の厚さは、0.5nm以上200nm以下であれば、第一半導体層211、・・・、218に内在する歪みを十分に抑制できるので好ましい。
【0041】
また、第一半導体層211、・・・、218、第二半導体層22、・・・、22、介在層30の厚さは、上記実施の形態1の値に限られず、これらの組成、基板10との格子定数および熱膨張率差、デバイスに要求される耐圧、許容される反り量などに応じて適宜設定することができる。
【0042】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2について説明する。実施の形態1では、第一半導体層が、積層方向に向かって厚さが減少するように形成されていたが、本実施の形態2では、第二半導体層が、積層方向に向かって厚さが減少するように形成されている。
【0043】
図3は、本実施の形態2に係る電界効果トランジスタの模式的な断面図である。この電界効果トランジスタ200は、実施の形態1に係る電界効果トランジスタ100と同様の基板10と、介在層30と、電子走行層41と電子供給層42とコンタクト層43とが順次積層した半導体動作層40と、ソース電極51とドレイン電極52とゲート電極53とを備え、バッファ層20のかわりにバッファ層60を備えている。
【0044】
バッファ層60は、アンドープのGaNからなる第一半導体層61、・・・、61と、アンドープのAlNからなる第二半導体層621、・・・、628とが交互に積層している。隣接する第一半導体層と第二半導体層との組を複合層とすると、バッファ層60は複合層を8層有している。
【0045】
また、第一半導体層61、・・・、61は、厚さがいずれも同一の300nmである。一方、第二半導体層621、・・・、628は、積層方向に向かって厚さが減少するように形成されている。すなわち、第二半導体層621は厚さが40nmであり、積層方向に向かって厚さが3nmずつ薄くなり、第二半導体層628は19nmになっている。したがって、バッファ層60の厚さは、2.676μmとなり、半導体動作層40とバッファ層20とを合わせた厚さは3.696μmである。
【0046】
この電界効果トランジスタ200は、バッファ層60において、第二半導体層621、・・・、628が、積層方向に向かって厚さが減少するように形成されていることによって、耐圧性が高く、反りが小さいデバイスとなっている。
【0047】
すなわち、上述したように、電界効果トランジスタ100では、第二半導体層22、・・・、22の厚さがいずれも同一であるため、第二半導体層22を挟んで第一半導体層213、214、・・・と形成していくにしたがって、影響をうける第二半導体層22の総厚さが比例的に厚くなるので、エピタキシャル成長時の臨界厚さは厚くなっていた。
【0048】
しかしながら、この電界効果トランジスタ200は、第二半導体層621、・・・を挟んで第一半導体層61、・・・を形成しても、第一半導体層61が影響をうける第二半導体層621、・・・の総厚さが厚くなるのが抑制されるので、臨界厚さが厚くなっていくことが抑制される。その結果、基板10から遠い第一半導体層61においても、厚さをそれほど厚くしなくても臨界厚さ以上の厚さとできるので、エピタキシャル成長中におけるプラスの方向への反りの発生が抑制される。
【0049】
なお、本実施の形態2では、基板10から8層目の第一半導体層61において、最も臨界厚さが厚くなるが、その臨界厚さは250nm程度である。したがって、エピタキシャル成長中に、いずれの第一半導体層61においてもプラスの方向への反りが抑制される。その結果、本実施の形態2においても、エピタキシャル基板の反りを抑制しつつバッファ層60における複合層の層数を増加できるので、電界効果トランジスタ200は、耐圧性が高く、反りが小さいものとなる。
【0050】
(実施の形態3)
つぎに、本発明の実施の形態3について説明する。実施の形態2では、第二半導体層が、積層方向に向かって厚さが減少するように形成されていたが、本実施の形態3では、第二半導体層が、積層方向に向かって格子定数が増加するように形成されている。
【0051】
図4は、本実施の形態3に係る電界効果トランジスタの模式的な断面図である。この電界効果トランジスタ300は、実施の形態1に係る電界効果トランジスタ100と同様の基板10と、介在層30と、電子走行層41と電子供給層42とコンタクト層43とが順次積層した半導体動作層40と、ソース電極51とドレイン電極52とゲート電極53とを備え、バッファ層20のかわりにバッファ層70を備えている。
【0052】
バッファ層70は、アンドープのGaNからなる第一半導体層71、・・・、71と、アンドープのAlGa1−xN(ただし、0<x≦1)からなる第二半導体層721、・・・、728とが交互に積層している。隣接する第一半導体層と第二半導体層との組を複合層とすると、バッファ層70は複合層を8層有している。
【0053】
また、第一半導体層71、・・・、71は、厚さがいずれも同一の300nmである。一方、第二半導体層721、・・・、728は、厚さがいずれも同一の30nmである。したがって、バッファ層70の厚さは、2.68μmとなる。ここで、第二半導体層721、・・・、728は、積層方向に向かってAlの組成比xが小さくなる、すなわち格子定数が増加するように形成されている。すなわち、第二半導体層721はAlの組成比xが1.0であり、格子定数が0.3112nmであるが、積層方向に向かって組成比xが0.07ずつ小さくなり、第二半導体層728では組成比xが0.51、格子定数が0.315nmになっている。なお、このような混晶相の格子定数は、AlNとGaNとの格子定数から、ベガード(Vegard)の式を用いて見積もることができる。
【0054】
この電界効果トランジスタ300は、バッファ層70において、第二半導体層721、・・・、728が、積層方向に向かって格子定数が増加するように形成されていることによって、耐圧性が高く、反りが小さいデバイスとなっている。
【0055】
すなわち、この電界効果トランジスタ300は、第二半導体層721、・・・の格子定数が増加するため、第一半導体層71との格子定数差がだんだん小さくなる。その結果、第二半導体層721、・・・を挟んで第一半導体層71、・・・を形成しても、第一半導体層71が影響をうける第二半導体層721、・・・の総厚さが厚くなるのが抑制されるのと同様な効果を生じ、臨界厚さが厚くなっていくことが抑制される。その結果、基板10から遠い第一半導体層71においても、厚さをそれほど厚くしなくても臨界厚さ以上の厚さとできるので、エピタキシャル成長中におけるプラスの方向への反りの発生が抑制される。
【0056】
なお、本実施の形態3では、基板10から8層目の第一半導体層71においても、臨界厚さは250nm程度である。したがって、エピタキシャル成長中に、いずれの第一半導体層71においてもプラスの方向への反りが抑制される。その結果、本実施の形態3においても、エピタキシャル基板の反りを抑制しつつバッファ層70における複合層の層数を増加できるので、電界効果トランジスタ300は、耐圧性が高く、反りが小さいものとなる。
【0057】
(実施の形態4)
つぎに、本発明の実施の形態4について説明する。実施の形態1、2では、第一または第二半導体層が、積層方向に向かって厚さが減少するように形成されていたが、本実施の形態4では、基板から第1〜4層目のいずれかの第一半導体層の厚さが400nm以上2000nm以下であるとともに他の第一半導体層の厚さよりも厚く形成されている。
【0058】
図5は、本実施の形態4に係る電界効果トランジスタの模式的な断面図である。この電界効果トランジスタ400は、実施の形態1に係る電界効果トランジスタ100と同様の基板10と、介在層30と、電子走行層41と電子供給層42とコンタクト層43とが順次積層した半導体動作層40と、ソース電極51とドレイン電極52とゲート電極53とを備え、バッファ層20のかわりにバッファ層80を備えている。
【0059】
バッファ層80は、アンドープのGaNからなる第一半導体層811、811、812、811、・・・、811と、アンドープのAlNからなる第二半導体層82、・・・、82とが交互に積層している。隣接する第一半導体層と第二半導体層との組を複合層とすると、バッファ層80は複合層を8層有している。
【0060】
ここで、第二半導体層82、・・・、82は、厚さがいずれも同一の30nmである。一方、基板10から第3層目の第一半導体層812は、厚さが800nmであり、他の第一半導体層811、・・・、811は、厚さがいずれも300nmである。したがって、第一半導体層812は、他の第一半導体層811、・・・、811よりも厚く形成されている。なお、バッファ層80の厚さは、3.180μmであり、エピタキシャル層の総層厚は4.2μmである。
【0061】
この電界効果トランジスタ400は、バッファ層80において、基板10から第3層目の第一半導体層811が、厚さが800nmであり、他の第一半導体層811、・・・、811の厚さよりも厚く形成されていることによって、耐圧性が高く、反りが小さいデバイスとなっている。
【0062】
以下、具体的に説明する。図6は、図5に示す基板10上に各層を形成する場合におけるエピタキシャル基板の反りの方向と反り量とを説明する説明図である。図6において、横軸は積層方向を示し、縦軸は凸方向の反りをプラス、凹方向の反りをマイナスとした反り量を示す。また、線L3は実施の形態3におけるエピタキシャル成長中の反り量を示す。なお、線L2は、図2に示したものと同じである。
【0063】
図6に示すように、本実施の形態4においては、第一半導体層812が厚く形成されているので、第一半導体層812において発生するマイナス方向の反り量が大きくなる。その結果、他の第一半導体層811、・・・、811の厚さが同じであっても、線L3で示す場合と異なり、全体的な反りの蓄積を抑制できるので、半導体動作層40を形成した後の最終的な反り量は点P3が示すようになり、点P2が示す反り量よりも小さい値となる。
【0064】
ここで、本発明の実施例2として、本実施の形態4に従い、直径4インチのSi基板を用い、エピタキシャル層の総層厚を3.82μmとして電界効果トランジスタを作製したところ、各デバイスに分離する前のエピタキシャル基板の反り量(BOW)は約60μmと良好であった。その結果、各デバイスに分離した後に反りが小さい電界効果トランジスタが得られた。また、得られた電界効果トランジスタの耐圧を測定したところ、1300Vと優れた特性であることが確認された。
【0065】
なお、厚さを厚くする第一半導体層812の位置は、基板10から第3層目に限らず、第1〜4層目のいずれかであればよい。基板10から第1〜4層目の第一半導体層であれば、臨界厚さが400nm以下程度になるので、いずれかの第一半導体層の厚さが400nm以上であれば、エピタキシャル成長中に発生するマイナス方向の反りの量を十分に大きくすることができる。また、形成する第一半導体層812は1層に限らず、複数でもよい。
【0066】
また、上記各実施の形態においては、Siからなる基板を用いたが、SiC、ZnOからなる基板を用いてもよい。また、介在層、第一および第二半導体層の材質についても、窒化物系化合物半導体であり、格子定数および熱膨張率が基板も含めて所定の関係を満たすものであれば特に限定されない。
【0067】
また、上記各実施の形態においては、半導体電子デバイスがHEMT型の電界効果トランジスタであったが、本発明はこれに限定されず、絶縁ゲート型(MIS型、MOS型)、ショットキーゲート型(MES型)等、種々の電界効果トランジスタに対して適用可能である。また、本発明は、電界効果トランジスタ以外にも、ショットキーダイオード等、各種ダイオードに対しては適用可能である。たとえば、実施の形態1の電界効果トランジスタ100において、ソース電極51、ドレイン電極52およびゲート電極53のかわりにカソード電極およびアノード電極を形成した構造とすれば、本発明を適用したダイオードを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の形態1に係る電界効果トランジスタの模式的な断面図である。
【図2】図1に示す基板上に各層を形成する場合におけるエピタキシャル基板の反りの方向と反り量とを説明する説明図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る電界効果トランジスタの模式的な断面図である。
【図4】本発明の実施の形態3に係る電界効果トランジスタの模式的な断面図である。
【図5】本発明の実施の形態4に係る電界効果トランジスタの模式的な断面図である。
【図6】図5に示す基板上に各層を形成する場合におけるエピタキシャル基板の反りの方向と反り量とを説明する説明図である。
【符号の説明】
【0069】
10 基板
20、60〜80 バッファ層
22、82、621〜628、721〜728 第二半導体層
30 介在層
40 半導体動作層
41 電子走行層
42 電子供給層
43 コンタクト層
43a 開口部
51 ソース電極
52 ドレイン電極
53 ゲート電極
61、71、211〜218、811、812 第一半導体層
100〜400 電界効果トランジスタ
L1〜L3 線
P1〜P3 点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された、前記基板よりも格子定数が小さく熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる第一半導体層と該第一半導体層よりも格子定数が小さく前記基板よりも熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる第二半導体層とが交互に積層した2層以上の複合層を有するバッファ層と、
前記基板と前記バッファ層との間に形成された、前記第一半導体層よりも格子定数が小さく前記基板よりも熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる介在層と、
前記バッファ層上に形成された、窒化物系化合物半導体からなる半導体動作層と、
を備え、前記バッファ層は、前記各第一半導体層または前記各第二半導体層の厚さが積層方向に向かって減少するように形成されていることを特徴とする半導体電子デバイス。
【請求項2】
基板と、
前記基板上に形成された、前記基板よりも格子定数が小さく熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる第一半導体層と該第一半導体層よりも格子定数が小さく前記基板よりも熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる第二半導体層とが交互に積層した2層以上の複合層を有するバッファ層と、
前記基板と前記バッファ層との間に形成された、前記第一半導体層よりも格子定数が小さく前記基板よりも熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる介在層と、
前記バッファ層上に形成された、窒化物系化合物半導体からなる半導体動作層と、
を備え、前記バッファ層は、前記各第二半導体層の格子定数が積層方向に向かって増加するように形成されていることを特徴とする半導体電子デバイス。
【請求項3】
前記各第二半導体層は、AlxGa1-xN(ただし、0<x≦1)からなり、Alの組成比が積層方向に向かって減少するように形成されていることを特徴とする請求項2に記載の半導体電子デバイス。
【請求項4】
前記第一半導体層のうち最も厚いものの厚さが400nm以上、2000nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の半導体電子デバイス。
【請求項5】
基板と、
前記基板上に形成された、前記基板よりも格子定数が小さく熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる第一半導体層と該第一半導体層よりも格子定数が小さく前記基板よりも熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる第二半導体層とが交互に積層した4層以上の複合層を有するバッファ層と、
前記基板と前記バッファ層との間に形成された、前記第一半導体層よりも格子定数が小さく前記基板よりも熱膨張係数が大きい窒化物系化合物半導体からなる介在層と、
前記バッファ層上に形成された、窒化物系化合物半導体からなる半導体動作層と、
を備え、前記バッファ層は、前記基板から第1〜4層目のいずれかの前記第一半導体層が、400nm以上2000nm以下の厚さであるとともに他の前記第一半導体層の厚さよりも厚く形成されていることを特徴とする半導体電子デバイス。
【請求項6】
前記基板は、Si、SiC、ZnOのいずれかからなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の半導体電子デバイス。
【請求項7】
前記第二半導体層は、厚さが0.5nm以上、200nm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の半導体電子デバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−188252(P2009−188252A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27765(P2008−27765)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】