説明

可変光減衰器を内蔵した光受信器

【課題】小型化が可能で高速な光減衰量の調整が可能な可変光減衰器を内蔵した光受信器を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態による可変減衰器102を内蔵した光受信器100は、光ファイバ120からの入射光を集光する集光レンズ104と、集光レンズ104からの入射光を受光する受光素子106とを備える。集光レンズ104は、MSAパッケージ110内で収束光学系を形成するように配置され、可変減衰器102は、光ファイバ120からの入射光の光路を変えて受光素子106で受光する光の減衰量を調整するように構成される。これにより、収束光学系を用いることにより、従来のコリメート系と比較して、光受信器の小型化が可能となり、高速に光減衰量を調整できる磁気光学素子やMEMS素子などの可変光減衰器を光受信器のデファクト化されたMSAパッケージに内蔵することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変光減衰器を内蔵した光受信器に関する。本発明は、特に、小型化が可能で高速な光減衰量の調整が可能な可変光減衰器を内蔵した光受信器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の光通信ネットワークで用いられる光受信器では、伝送距離の長遠化を実現するために、受信感度の向上を主題として、その開発が行われてきた。特に、微小信号光を光電変換して増幅受信するアバランシェフォトダイオード(APD)と呼ばれる受光素子は、微小信号光の受信に適している。しかしながら、APDは、比較的強い信号光が入射すると、受信信号の雑音が増大し、場合によっては受信器が壊れてしまう、すなわち、オーバーロード耐性が低いという問題があった。
【0003】
実際に、APDの絶縁破壊を避けるために、APD受信器内に可変光減衰器(VOA)を搭載し、強い信号光が入射したときに、VOAが信号光の強度を適度に減衰させて、良好な受信状態を実現するVOA内蔵APD受信器も開発されている(非特許文献1)。このVOAは、サーモスタットに用いられるバイメタルを利用して、板が光路を遮るようにしたものである。しかし、現在調達可能なVOA内蔵APD受信器では、内蔵されたVOA素子の光減衰量の高速調整ができず、その調節に50msec程度の時間を要するという問題があった。
【0004】
一方、減衰量を1〜数msec程度で高速調節できるVOA素子には、マイクロマシン(MEMS)を使用したものや(非特許文献2および3)、磁気光学素子を使用したもの(非特許文献4)がある。しかし、これらのVOAは大型であり、図1に一例を示す、10Gigabit−Per−Second Surface−Mount Receiverマルチソースアグリーメント(MSA)と呼ばれるデファクト化された光受信器のパッケージ内に収容できないという問題があった。そのため、APD受信器とVOA素子を外部で光ファイバを用いて接続する必要があり、高速に光減衰量を調節しなければならない光受信器や光送受信器の大型化とコスト増大の要因となっていた。なお、図1に示すMSAパッケージの大きさは、幅(W)8.0mm、長さ(L)8.75mm、高さ(H)最大5.0mmである。
【0005】
【非特許文献1】Eudyna, “10 Gbit/s Receivers with VOA,” [online],[平成20年2月21日検索]、インターネット<URL:http://www.us.eudyna.com/j/products/newproducts/10gbits_receiver_with_voa.html>
【非特許文献2】諫本、他3名,「MEMS光可変減衰器のためのデバイス実装技術」,エレクトロニクス実装学会誌,Vol.9,No.4,2006,pp.235−239
【非特許文献3】森本、他3名,「MEMS型可変光減衰器の開発」,古河電工時報,第111号,pp.25−30
【非特許文献4】古河電工,「可変光アッテネータ」,[online],[平成20年2月21日検索]、インターネット<URL:http://www.fdk.co.jp/cyber-j/pi_opt_voa.htm>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、波長多重伝送システムと波長ルーティング機構を採用することで光通信ネットワークの大容量化が進められており、次世代光ネットワークでは受信器に入射する信号光の経路(ルート)の高速切り替え(数msec程度)が行われる。そのため、次世代光ネットワーク向けの光受信器には、1msec程度の高速な信号光強度調整機能を内蔵することが求められている。
【0007】
本発明は、このような状況の中、上記の問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、小型化が可能で高速な光減衰量の調整が可能な可変光減衰器を内蔵した光受信器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、可変減衰器を内蔵した光受信器であって、光ファイバからの入射光を集光する集光レンズと、前記集光レンズからの入射光を受光する受光素子とを備え、前記集光レンズは、収束光学系を形成するように配置され、前記可変減衰器は、前記入射光の光路を変えて前記受光素子で受光する光の減衰量を調整するように構成されたことを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光受信器であって、前記集光レンズと、前記受光素子との間に光学絞りをさらに備えたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の光受信器であって、前記可変減衰器は、前記集光レンズの入射側に位置することを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の光受信器であって、前記可変減衰器は、前記集光レンズの出射側に位置することを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれかに記載の光受信器であって、前記可変減衰器は、磁気光学素子から構成されることを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1から4のいずれかに記載の光受信器であって、前記可変減衰器は、透過型MEMS素子から構成されることを特徴とする。
【0014】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれかに記載の光受信器であって、前記受光素子は、アバランシェフォトダイオードであることを特徴とする。
【0015】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1から7のいずれかに記載の光受信器であって、前記集光レンズおよび前記受光素子は、結像倍率が1から5の範囲内となるように構成されたことを特徴とする。
【0016】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1から8のいずれかに記載の光受信器であって、温度調整手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0017】
また、請求項10に記載の発明は、請求項1から9のいずれかに記載の光受信器であって、MSAパッケージに収容されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、可変光減衰器(VOA)の小型化が可能となる。また、高速の可変光減衰器が利用できるので、光減衰量の高速調節と小型化が両立できる。これにより、当該可変光減衰器を内蔵した光受信器の性能向上と低コスト化が実現できる。
【0019】
具体的には、収束光学系を用いることにより、減衰に必要な光ビームのシフト量が低減され、VOAの小型化が可能になる。また、収束光学系では、コリメート光学系と異なり、コリメートレンズが必要なくなる。さらに、光学絞りを用いて光ビームのシフト量を減らすことができるので、VOAのさらなる小型化だけでなく、VOAに供給する電力の削減にも寄与し、省エネルギー化の観点からも有効である。
【0020】
また、本発明によれば、可変光減衰器を内蔵した光受信器を、従来の光受信器と同じサイズのパッケージに収容できるので、従来の光受信器と互換性を維持したまま光送受信器の小型化と低コスト化が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
減衰量を高速で調節できるVOA素子には、シリコン製のMEMS(Si−MEMS)や磁気光学素子を用いたものがあるが、これらの素子は、サイズが大きく、MSAの光受信器パッケージには収容できない。サイズが大きくなる理由の1つは、コリメート光学系を用いているためである。コリメート光学系の場合、信号光が平行光ビームとなるため、光路長を任意に設計できるというメリットがある。しかしながら、コリメート光学系では、光ファイバから出射された信号光をコリメートレンズを通して、平行光ビームであるコリメート光にした後、コリメート光を集光レンズを通して集光し、受光素子に入射しなければならなない。したがって、コリメート光学系では、VOAとして必要なスペースだけでなく、光ファイバの出射光をコリメート光に変換するためのコリメートレンズの設置スペースやVOAを透過したコリメート光を集光し、受光素子に入射するための集光レンズの設置スペースが必要になる。
【0022】
また、磁気光学素子や透過型MEMS素子のように信号光の進行方向を変えずに信号光ビームを平行にシフトさせて信号光を減衰するタイプのVOAをコリメート光学系で用いた場合、図2に示すように、集光レンズ10の開口数NA(〜1mm)の外側までビームをシフトしなければ受光素子12で受光する信号光の減衰が得られない。そのため、信号光のビーム径(通常数百μm)程度のシフト量ΔXが必要であり、VOA素子14の大型化は避けられない。したがって、コリメート光学系では、高速に減衰量が調節できるVOAとして有力な磁気光学素子および透過型Si−MEMS素子を用いて小型の可変光減衰器内蔵光受信器を実現することは困難である。
【0023】
一方、図3に示すように、収束光学系を用いると、光学系の結像倍率nにより、集光レンズ20の開口数NA内の小さな平行シフト量(ΔX)をn×ΔXに拡大できる。そのため、信号光の減衰に必要な平行シフト量は、受光素子22の受光径の1/nでよい。ここで、光学系の結像倍率nは、集光レンズの焦点距離、レンズの光学系における位置(VOA24と集光レンズ20との間の距離、集光レンズ20と受光素子22との間の距離)などによって決定される。
【0024】
10G級の光通信で一般的なAPDの受光径は25μmである。光学系の結像倍率をn=2.5とすると、信号光の減衰に必要な光ビームのシフト量は、25/2.5=10μmとなり、コリメート光学系に比べて1/10以下のシフト量でよいことがわかる。また、収束光学系では、コリメート光学系と異なり、コリメートレンズが必要なくなるので、小型化に有利となる。
【0025】
図4は、収束光学系において、信号光のシフトにより、信号光が減衰される様子を示している。図4(a)では、信号光30の全部が受光素子32の受光面34に入射しており、信号光のほぼ100%が受光されている。一方、図4(b)では、信号光30の一部が受光素子32の受光面34からはみ出し、信号光が減衰されている。このように、信号光のビームをシフトすることにより、収束光学系で信号光を減衰させることができる。
【0026】
また、図3において、VOA24と受光素子22の間に受光素子の受光径と同等程度の光学絞りを挿入することで、さらに光ビームのシフト量を減らすことができる。すなわち、光学絞りにより、VOA24からみて受光素子22の受光径が小さく見えるようにすることによって、実効的に受光径を小さくすることで、所定の減衰量を得るために必要となる光ビームのシフト量を削減することができる。このシフト量の削減は、VOAとして用いる磁気光学素子および透過型Si−MEMS素子の小型化だけでなく、VOA素子に供給する電力の削減にも寄与し、省エネルギー化の観点からも有効である。
【0027】
本発明では、高速な減衰量調節が可能な磁気光学素子および透過型Si−MEMS素子を収束光学系で用いることにより、高速のVOA機能と小型化を同時に実現することができる。さらに、VOAと受光素子の間に光学絞りを挿入し、さらなる小型化および省エネルギー化を実現することができる。また、開発した小型VOAをMSA光受信器パッケージ内に搭載し、通常のMSA光受信器と互換性のあるVOA内蔵光受信器を実現することができる。
【0028】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、これらの実施形態においては、受光素子としてAPDを例として説明するが、pinフォトダイオード(PD)素子やMSM素子などその他の受光素子を使用してもよい。
【0029】
(第1の実施形態)
図5は、本発明の第1の実施形態に係るVOA内蔵APD受信器を一部破断して示す側面図である。この受信器100は、磁気光学素子を用いたVOA102と、V溝に固定された集光レンズ104と、サブキャリアに搭載された受光素子106とをMSAパッケージ110内に収容している。受信器100は、さらに、トランスインピーダンス増幅器(TIA)、チップ抵抗およびチップ容量などの電気回路部品108もMSAパッケージ110内に収容している。
【0030】
本実施形態では、収束光学系を用い、その結像倍率が2.2倍となるように設計されている。また、VOA102として磁気光学素子を用い、受光素子106として受光径25μmのAPD素子を用いた。この磁気光学素子のサイズは、縦3mm、横4mm、厚さ3mmである。
【0031】
この受信器を組み立てるには、まず上記の部品をパッケージ内に搭載し、導通の必要な端子間をワイヤボンディングで接続する。次に、窒素雰囲気中でパッケージのリッドを溶接し、気密封止する。その後、気密封止のリークチェックを行う。
【0032】
受信器の組み立て後、調芯工程を行う。図6において、受信器のパッケージ110を、光ファイバ120、筐体130および筐体140とともに調芯装置(図示せず)に取り付ける。次に、光ファイバ120の光コネクタ150をレーザモジュール160に接続し、所定の強度の光を光ファイバ120に入射する。APDと接続されたパッケージのリード112に電流計170を接続し、APDの受光電流が最大になるように、光ファイバ120、筐体130および筐体140の位置を調整する。そして、YAGレーザを用いて、その位置で光ファイバ120、筐体130および筐体140を溶接し、固定する。
【0033】
磁気光学素子102に無通電の状態では、APD106の受光部のほぼ中心に直径22μmに拡大された信号光が入射しており、信号光のほぼ100%が受信されている。磁気光学素子102に電流を流すと、その電流量に応じて集光レンズ104に入射する光ビームが平行シフトし、APD106上では、その平行シフト量の約2.3倍だけシフトした位置に信号光が入射する。そのため、シフト量が1μmを超えると、信号光ビームがAPD106の受光部からはみ出し、受信信号の減衰が起こる。この減衰量(すなわち、シフト量)は、磁気光学素子の電流値により高速かつ精密に制御することができ、磁気光学素子は高速に応答する可変光減衰器として機能する。
【0034】
VOAによる受光素子での光ビームのシフト量は、受光素子の受光径を考慮すると50μm以内が有効である。このシフト量は、APD素子の受光径を結像倍率で割った値に等しい。したがって、APD素子の受光径が10〜50μm程度であることを考慮すると、結像倍率は1以上5以下となる。さらに、通常用いられるAPD素子の受光径が20〜30μm程度であることを考慮すると、結像倍率は1.5以上2.5以下となる。
【0035】
次に、作製したVOA内蔵APD受信器におけるVOA部の光減衰特性について説明する。作製したVOA内蔵APD受信器に0.2mWのCW光(直流光もしくは無変調光)を入射し、APD素子の受光電流を測定した。この時、APD素子には増倍率(M値)が1となるよう10Vの電圧を印加している。M値=1では、APD素子の光電気変換効率がおよそ0.9A/Wであるため、測定される受光電流値はおよそ180μAである。続いて、入射光強度を減衰させるため、VOA部に電圧を印加しながら、受光電流値の変化を測定した。各印加電圧で測定した受光電流値と無電圧時の受光電流値(180μA)との比を減衰量としてデシベル表示でプロットした結果を図7に示す。VOA部への印加電圧の増加とともに、受光電流値は減少し、1V印加時には無電圧時の1/10である18μAまで現象(図7:−10dB)している。さらに、VOAの印加電圧を1.4Vまで増加すると受光電流は、0.57μAまで減少(図7:−25dB)している、この減衰量は、APD素子を保護し良好な受信状態を得るために必要とされる−20dBの減衰量を上回っており、実用上充分な減衰量が得られた。また、1.4V印加時(−25dB時)にVOA素子に流れる電流値は44mAであり、消費電力も60mWと極めて小さい。この消費電力の削減は、本発明の収束光学系による光路シフト量の低減によりもたらされており、低消費電力化における本発明の有効性を示している。
【0036】
次に、作製したVOA内蔵APD受信器100の性能について説明する。受信器の光コネクタ150をレーザモジュール160に接続し、10.7Gbit/sのNRZ−PRBS23−1の変調信号で消光比10dBに変調して、符号誤り率の特性(BER特性)を測定した。図8に、その結果を示す。図中、実線(a)は、VOAが無通電状態(最大透過率)でのBER特性であり、点線(b)は、VOAに1.0V印加(減衰量10dB時)した状態でのBER特性である。実線(a)では、通常のAPD受信器と同様に平均受信光強度−5dBm近辺で、オーバーロードによる符号誤りが発生している。一方、点線(b)ではVOAによる受信光強度の減衰により、オーバーロードによる符号誤りの発生が+5dBm付近まで高光強度側にシフトしている。この結果は、VOAによる0〜10dBの可変光減衰により、APD素子の受信ダイナミックレンジ:22dB(−27dBm〜−5dBm)が32dB(−27dBm〜+5dBm)まで10dB拡大できることを示している。
【0037】
ここでは、図8を基にVOAの印加電圧範囲0〜1.0Vの場合を例に受信ダイナミックレンジの10dB拡大を説明したが、印加電圧の可変範囲を0〜1.4Vまで拡大することで受信ダイナミックレンジの拡大幅を25dBにできることは、図7の結果より明らかである。
【0038】
次に、VOAの光減衰量の電気信号への応答速度を評価した。この評価では、トランスインピーダンス増幅器(TIA)の応答速度の影響を排除するために、TIAを搭載せず、APDからの光電流信号を直接取り出せるようにワイヤボンディングしたサンプルを用いた。
【0039】
図9は、VOAへの入力電気信号(1)と、APDからの光電流信号(2)を同時にオシロスコープで観察した結果を示している。図中の電気信号(1)は10kHzの方形波であり、オシロスコープの横軸1マスは、50μsecに相当する。図9より、光電流強度(2)の変化は、電気信号(1)の変化に充分追随していることが判る。光電流強度(2)の立ち上がり(振幅の20→80%)および立ち下がり(振幅の80→20%)から読み取ったVOAの応答時間は7μsecであり、従来のVOAの応答時間である数msecの1/1000近い高速応答が実現されている。
【0040】
さらに、このVOA内蔵APD受信器のVOAの下部に温度調節器(ヒータもしくはサーモエレクトリッククーラ)を搭載した受信器を作製した。この温度調節機能付きの受信器と、従来の受信器とVOAの組み合わせとの比較を行った。具体的には、VOAの印加電流を40mAで一定に保ち、雰囲気温度を変えて光減衰量と雰囲気温度の関係を測定した。図10に、その結果を示す。図中、白丸は、温度調節機能付きの受信器でVOA部の温度を45℃に保った場合であり、黒丸は、従来の受信器とVOAの組み合わせの場合(温度調節なし)である。白丸では、減衰量は雰囲気温度によらず安定しているが、黒丸では、高温時に減衰量の低下が起きている。このように、温度調節機能の追加により、さらなる性能向上が可能になる。
【0041】
(第2の実施形態)
図11に、本発明の第2の実施形態に係るVOA内蔵APD受信器を一部破断して示す側面図である。この受信器200は、Si−MEMS素子を用いたVOA202と、V溝に固定された集光レンズ204と、シリコン製の板(Si板)にピンホールの付いた光学絞り205と、サブキャリアに搭載された受光素子206とをMSAパッケージ210内に収容している。受信器200は、さらに、トランスインピーダンス増幅器(TIA)、チップ抵抗およびチップ容量などの電気回路部品208もMSAパッケージ210内に収容している。
【0042】
本実施形態では、収束光学系を用い、その結像倍率は2.0倍となるように設計されている。また、VOA202として透過型のSi−MEMS素子を用い、受光素子206として受光径25μmのAPD素子を用いた。このSi−MEMS素子のサイズは、縦3mm、横4mm、厚さ1mmである。また、光学絞り205として、直径50μmのピンホール付きのSi板を用いた。
【0043】
この受信器を組み立てるには、まず上記の部品をパッケージ内に搭載する。具体的には、この光学系の結像倍率は2.0倍で設計されているので、光ファイバから出射されたビーム径10μmの出射光が約2倍のビーム径20μmでAPD受光面に入射するように、集光レンズ204、VOA202、光学絞り205およびAPD206の位置を決める。このとき、光学絞り205でのビーム径は約40μmとなるようにする。
【0044】
部品の搭載後、導通の必要な端子間をワイヤボンディングで接続する。次に、窒素雰囲気中でパッケージのリッドを溶接し、気密封止する。その後、気密封止のリークチェックを行う。受信器の組み立て後、第1の実施形態の場合と同様に、調芯工程を行う。
【0045】
本実施形態において用いたSi−MEMS素子は透過型であり、以下の機構によりVOAとして機能する。Si−MEMS素子は、電圧が印加されると静電気力で傾斜するSi板を有している。このSi板には反射防止膜がコートされ、電圧が印加されていない無通電状態ではSi板が信号光の光軸に対して垂直になるように設置されている。そのため、無通電状態では、信号光ビームはシフトせず、APD素子の受光部のほぼ中心に信号光が入射する。Si−MEMS素子に電圧を印加して通電状態にすると、Si板が傾き、信号光がSi板の傾きに応じた角度をもって入射する。このとき、空気とSiの屈折率差により、信号光は空気/Si界面で屈折し、光路が曲がる。さらに、信号光がSi板から空気中に出射するときには、Si/空気界面で入射時とは逆の屈折が生じ、光路はもとの角度に戻る。しかし、Si板の中を空気とは異なる角度で伝搬したため、信号光は入射光路と垂直な方向にシフトしている。このシフト量に応じて信号光のAPDへの入射位置もシフトし、APDの受光量が可変できる。このシフト量は、Si−MEMS素子に印加する電圧でSi板の傾斜角を制御することにより制御できるので、これによりVOA機能が実現できる。
【0046】
次に、作製したVOA内蔵APD受信器の性能について説明する。第1の実施形態の場合と同様に、受信器200の光コネクタをレーザモジュールに接続し、10.7Gbit/sのNRZ−PRBS231−1の変調信号で消光比10dBに変調して、符号誤り率の特性(BER特性)を測定した。図11に、その結果を示す。図中、実線(a)は、VOAが無通電状態(最大透過率)でのBER特性であり、点線(b)は、VOAが15Vの通電状態(最小透過率)でのBER特性である。点線(b)は、実線(a)に比較して、20dBm高光強度側にシフトしている。すなわち、VOAの減衰量が最大20dBであり、従来の光受信器と可変光減衰器を組み合わせた場合と同等の減衰性能を有することがわかる。
【0047】
また、第1の実施形態の図9と同様の手法でVOAの応答速度を評価し、その結果、0.5msec程度の高速応答が得られることを確認した。この応答速度は、従来のSi−MEMS型VOA素子の応答速度5〜10msecの1/10程度であり、実用上充分な応答速度となっている。この高速化は、光学絞り205により、光減衰に必要なSi−MEMS素子のSi板の傾斜角を小さくした効果であり、本発明の有効性を示している。
【0048】
以上、本発明について、具体的にいくつかの実施形態について説明したが、本発明の原理を適用できる多くの実施可能な形態に鑑みて、ここに記載した実施形態は、単に例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。例えば、第2の実施形態で使用した光学絞りを、第1の実施形態で使用してもよい。また、第1の実施形態では、VOA102の後方に集光レンズ102を配置しているが、第2の実施形態と同様に、集光レンズ102をVOA102の前方に配置するようにしてもよい。逆に、第2の実施形態では、VOA202の前方に集光レンズ204を配置しているが、第1の実施形態と同様に、集光レンズ204をVOA202の後方に配置するようにしてもよい。このように、ここに例示した実施形態は、本発明の趣旨から逸脱することなくその構成と詳細を変更することができる。さらに、説明のための構成要素および手順は、本発明の趣旨から逸脱することなく変更、補足、またはその順序を変えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】従来の光受信器に使用されるMSAパッケージの斜視図である。
【図2】コリメート光学系における可変光減衰器の原理を説明する図である。
【図3】収束光学系における可変光減衰器の原理を説明する図である。
【図4】収束光学系において信号光が受光素子の受光面からシフトする様子を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る可変減衰器内蔵光受信器を一部破断して示す側面図である。
【図6】可変減衰器内蔵光受信器の調芯工程を説明するための図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る可変減衰器内蔵光受信器の光減衰量と可変光減衰器に印加した電圧との関係を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る可変減衰器内蔵光受信器の符号誤り率の特性を示す図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係る可変減衰器内蔵光受信器の応答特性を示す図である。
【図10】本発明の第1の実施形態に係る可変減衰器内蔵光受信器の温度特性を示す図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る可変減衰器内蔵光受信器を一部破断して示す側面図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る可変減衰器内蔵光受信器の符号誤り率の特性を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
10,20 集光レンズ
12,22 受光素子
14,24 VOA素子
30 信号光
32 受光素子
34 受光面
100,200 受信器
102,202 VOA
104,204 集光レンズ
106,206 受光素子
108,208 電気回路部品
110,210 MSAパッケージ
112 リード
120,220 光ファイバ
130,230 筐体
140,240 筐体
150 光コネクタ
160 レーザモジュール
170 電流計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変減衰器を内蔵した光受信器であって、
光ファイバからの入射光を集光する集光レンズと、
前記集光レンズからの入射光を受光する受光素子と
を備え、
前記集光レンズは、収束光学系を形成するように配置され、
前記可変減衰器は、前記入射光の光路を変えて前記受光素子で受光する光の減衰量を調整するように構成されたことを特徴とする光受信器。
【請求項2】
請求項1に記載の光受信器であって、
前記集光レンズと、前記受光素子との間に光学絞りをさらに備えたことを特徴とする光受信器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光受信器であって、
前記可変減衰器は、前記集光レンズの入射側に位置することを特徴とする光受信器。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の光受信器であって、
前記可変減衰器は、前記集光レンズの出射側に位置することを特徴とする光受信器。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の光受信器であって、
前記可変減衰器は、磁気光学素子から構成されることを特徴とする光受信器。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の光受信器であって、
前記可変減衰器は、透過型MEMS素子から構成されることを特徴とする光受信器。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の光受信器であって、
前記受光素子は、アバランシェフォトダイオードであることを特徴とする光受信器。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の光受信器であって、
前記集光レンズおよび前記受光素子は、結像倍率が1から5の範囲内となるように構成されたことを特徴とする光受信器。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の光受信器であって、
温度調整手段をさらに備えたことを特徴とする光受信器。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の光受信器であって、
MSAパッケージに収容されたことを特徴とする光受信器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−244833(P2009−244833A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208630(P2008−208630)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】