説明

哺乳動物のS−ニトロソグルタチオンレダクターゼを阻害するための材料および方法

アルコールデヒドロゲナーゼのうちのGSNORを特異的に阻害するs−ニトロソグルタチオンレダクターゼ(GSNOR)の新規な阻害剤を開示する。また、これらおよび関連の分子を使用する方法も開示する。これらの阻害剤は、GSNO結合部位と相互作用し、その動態経路中の複数の場所においてGSNORを阻害することができる。これらの分子は、用量依存的にGSNORを阻害し、GSNORが、生じる低い分子量のニトロソチオールに対してタンパク質のs−ニトロシル化を積極的に調節することを実証する。これらの化合物は、これらに限定されないが、心血管疾患、肺疾患、泌尿生殖器疾患、神経性疾患、炎症性疾患および腫瘍疾患を含めた、種々の状態および疾患、ならびに種々の遺伝的状態を治療、診断および研究する方法において有用である。これらの化合物についての革新的な使用には、それらを使用して、タンパク質のs−ニトロシル化に関与する酵素、およびこれらの酵素の活性が関与するまたは関与すると考えられる種々の細胞プロセスを研究することがある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の権利についての記載
本発明の開発の間の一部の研究は、NIH Grant No.R21 HL087816の下、米国政府から提供を受けた政府の支援によってなされた。米国政府は、本発明の特定の権利を有する。
【0002】
優先権の主張
本出願は、2007年12月13日出願の米国仮特許出願第61/013,522号および2008年1月17日出願の米国仮特許出願第61/021,781号の利益を主張し、これらの仮特許出願はどちらも、それぞれ個々にその全体が参照により本明細書に組み込まれているかのごとく、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0003】
種々の態様および実施形態は一般に、酵素S−ニトロソグルタチオンレダクターゼ(GSNOR)を阻害し、この酵素の活性に関係する種々の状態および疾患を診断、研究および治療するための材料および方法に関する。
【背景技術】
【0004】
内在性のS−ニトロソチオール(SNO)は天然に存在するタンパク質であり、この中では、システインまたはホモシステイン由来の硫黄原子がNOと反応して、S−NO結合を形成している。哺乳動物細胞内では、SNO濃度は、nMからμM濃度に及ぶ。チオールのS−ニトロシル化反応およびNOのトランスフェラーゼ反応は、事実上全てのクラスの細胞シグナル伝達に関与し、これらは、イオンチャネルの制御およびGタンパク質共役反応から、受容刺激および核の調節タンパク質の活性化に及ぶ。調節性のシグナル伝達が、SNOの合成、輸送、活性化および代謝のために存在する(Gaston BM、Carver J、Doctor A、Palmer LA.S−nitrosylation signaling in cell biology.Mol Interv 2003;3:253〜63)。S−ニトロソグルタチオン(GSNO)は、内因性に形成される主たる形態のSNOのうちの1つであり、酵素S−ニトロソグルタチオンレダクターゼ(GSNOR)によって異化される。GSNOR活性の調節は、細胞性NOが調節される機構のうちの1つであると考えられている。GSNORは、S−ニトロソグルタチオン(GSNO)を還元することによって、細胞内タンパク質の脱ニトロシル化を触媒する。GSNORは、細胞内タンパク質のs−ニトロシル化の調節におけるその役割から、この酵素を標的にする新しい治療剤の開発のための重要な標的となっている。これは、GSNOR活性の阻害によって、NO濃度が増加するはずであり、これは続いて、終末器官の機能に臨床的に顕著な変化をもたらすはずであるからである。
【0005】
細胞性タンパク質のs−ニトロシル化は、NOが体内でその多数の効果を発揮する主要な反応であることが明らかにされている。活性がs−ニトロシル化によって調節されるタンパク質のリストが増加しつつあり、それらには、イオンチャネルタンパク質、キナーゼ、タンパク質分解酵素、転写因子、およびエネルギー変換に関与するタンパク質が含まれる(Gewaltig MT、Kojda G.Vasoprotection by nitric oxide:mechanisms and therapeutic potential.Cardiovasc Res 2002;55:250〜60)。タンパク質のs−ニトロシル化に関連して、NOは、アポトーシス、Gタンパク質共役受容体に基づいたシグナル伝達、血管緊張、および炎症反応に関与するプロセスおよびタンパク質を調節することが示されている。
【0006】
GSNO濃度を調整し、続いて、NOの細胞濃度を変化させるGSNORの役割を考えると、GSNOR活性を阻害する治療用化合物には、共通の病態生理が異常に低いNO濃度である多種多様な疾患を治療する可能性がある。GSNOR阻害剤は、GSNOおよびNOの濃度を増加させることができる場合があり、これらの疾患に影響を及ぼす可能性を有する。
【0007】
一酸化窒素、およびs−ニトロシル化/脱ニトロシル化のサイクルは、内皮細胞の機能不全に主として起因する多くの病的な疾患状態において必須の役割を果たす。心臓疾患、心不全、心臓発作、高血圧、アテローム動脈硬化および再狭窄等の種々の血管障害を、異常なNOの活性および/または濃度、ならびにそれらの結果生じる標的タンパク質のs−ニトロシル化の変化に直接結び付けることができる。また、喘息および性交不能等のその他の状態も、NOの生理活性の異常なレベルに結び付けられている(Gaston BM、Carver J、Doctor A、Palmer LA.S−nitrosylation signaling in cell biology.Mol Interv 2003;3:253〜63;Gewaltig MT、Kojda G.Vasoprotection by nitric oxide:mechanisms and therapeutic potential.Cardiovasc Res 2002;55:250〜60;Gerard C.Biomedicine.Asthmatics breathe easier when it’s SNO−ing.Science 2005;308:1560〜1)。
【0008】
GSNORの阻害を介してs−ニトロソチオールの分解を阻止することの治療的潜在性が、喘息についてのマウスモデルにおいて実証されている。GSNOR遺伝子を欠くノックアウトマウスによって、気管支液中のより高いGSNO濃度に起因して、気道の過剰応答性に抵抗することが見い出され、Gタンパク質共役受容体キナーゼのs−ニトロシル化に起因して、β−アゴニストに対するタキフィラキシーが減少することが実証された(Que LG、Liu L、Yan Yら、Protection from experimental asthma by an endogenous bronchodilator.Science 2005;308:1618〜21)。また、嚢胞性線維症患者が、この疾患の病態生理において役割を果たしていると考えられる異常に低いレベルのGSNOを有することも示されている。GSNORを阻害する療法は、これらの患者に新しい療法の選択肢を提供することができる(Zeitlin PL.Is it go or NO go for S−nitrosylation modification−based therapies of cystic fibrosis transmembrane regulator trafficking? Mol Pharmacol 2006;70:1155〜8;Childers M、Eckel G、Himmel A、Caldwell J.A new model of cystic fibrosis pathology:lack of transport of glutathione and its thiocyanate conjugates.Med Hypotheses 2007;68:101〜12)。
【0009】
また、異常なNO濃度および異常なGSNO活性は、その他の疾患においても役割を果たす場合があり、それらには、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、脳卒中、敗血症性ショック、心原性ショック、内毒素ショック、毒素ショック症候群、全身性炎症反応症候群、およびその他の炎症性疾患がある(Zeitlin PL.Is it go or NO go for S−nitrosylation modification−based therapies of cystic fibrosis transmembrane regulator trafficking? Mol Pharmacol 2006;70:1155〜8;Heiss C、Lauer T、Dejam Aら、Plasma nitroso compounds are decreased in patients with endothelial dysfunction.J Am Coll Cardiol 2006;47:573〜9;Murad F.Shattuck Lecture.Nitric oxide and cyclic GMP in cell signaling and drug development.N Engl J Med 2006;355:2003〜11;Kroncke KD、Fehsel K、Kolb−Bachofen V.Inducible nitric oxide synthase in human diseases.Clin Exp Immunol 1998;113:147〜56)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの態様は、酵素活性を変化させるための化合物、および/または酵素活性を変化させるための化合物を使用するための方法であり、この方法は、
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【0013】
【化3】


および
【0014】
【化4】


からなる群から選択される少なくとも1つの化合物またはその生理学的に許容できる塩を提供するステップ、および前記化合物をs−ニトロソグルタチオンレダクターゼと接触させるステップ、を含む。
【0015】
1つの実施形態は、疾患または状態を治療するための方法であり、この方法は、上記で言及した化合物を含めて、本明細書に提供する化合物のうちのいずれかによる少なくとも1つの化合物を提供するステップ、および治療有効用量の前記化合物を、それを必要とする患者に投与するステップ、を含む。さらに別の実施形態は、上記で概説した疾患を治療するための方法であり、それらの疾患または状態は、心血管疾患、例として、全身性高血圧、肺動脈性肺高血圧、冠状動脈アテローム動脈硬化、全身性アテローム動脈硬化、冠状動脈再狭窄、心不全、うっ血性心不全、心原性ショック、心筋症、敗血症性ショック、毒素ショック症候群、脳血管発作(CVA)、塞栓性疾患;肺疾患、これらに限定されないが、例として、喘息、運動誘発喘息、気管支拡張、特発性肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、および嚢胞性線維症に起因する肺疾患;泌尿生殖器疾患、これらに限定されないが、例として、性交不能および射精異常からなる群から選択される。遺伝性疾患、これらに限定されないが、例として、嚢胞性線維症および鎌状赤血球貧血;神経性疾患、これらに限定されないが、例として、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS);炎症性疾患、これらに限定されないが、例として、全身性炎症反応症候群、関節リウマチ、シェーグレン症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、糸球体腎炎、乾癬、皮膚エリテマトーデス、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、皮膚炎、およびその他の炎症性疾患;腫瘍疾患、例として、血液腫瘍および固形腫瘍の両方。1つの実施形態では、前記化合物の治療有効量は、約0.01mg/kg体重/日〜1000mg/kg体重/日の範囲である。
【0016】
さらに別の実施形態は、疾患または状態を診断または研究するための方法であり、この方法は、上記に開示した少なくとも1つの化合物を提供(providing)し、当該化合物をs−ニトロソグルタチオンレダクターゼと接触させるステップ、およびs−ニトロシル化の変化に基づく変化を観察するステップ、を含む。1つの実施形態では、診断される疾患または状態は、心血管疾患、例として、全身性高血圧、肺動脈性肺高血圧、冠状動脈アテローム動脈硬化、全身性アテローム動脈硬化、冠状動脈再狭窄、心不全、うっ血性心不全、心原性ショック、心筋症、敗血症性ショック、毒素ショック症候群、脳血管発作(CVA)、塞栓性疾患;肺疾患、これらに限定されないが、例として、喘息、運動誘発喘息、気管支拡張、特発性肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、および嚢胞性線維症に起因する肺疾患;泌尿生殖器疾患、これらに限定されないが、例として、性交不能および射精異常からなる群から選択される。遺伝性疾患、これらに限定されないが、例として、嚢胞性線維症および鎌状赤血球貧血;神経性疾患、これらに限定されないが、例として、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS);炎症性疾患、これらに限定されないが、例として、全身性炎症反応症候群、関節リウマチ、シェーグレン症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、糸球体腎炎、乾癬、皮膚エリテマトーデス、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、皮膚炎、およびその他の炎症性疾患;腫瘍疾患、例として、血液腫瘍および固形腫瘍の両方。さらに別の実施形態は、タンパク質のニトロシル化を研究する方法であり、この方法は、上記で言及した化合物を含めて、本明細書に開示するものによる少なくとも1つの化合物を提供し、前記化合物をs−ニトロソグルタチオンレダクターゼと接触させるステップ、およびs−ニトロシル化の変化を観察するステップ、を含む。別の実施形態は、少なくとも1つの上記で言及した化合物を含む、s−ニトロソグルタチオンレダクターゼの活性を変化させるためのキットを提供する。
【0017】
さらに別の実施形態は、疾患または状態を治療するための方法を提供し、この方法は、
【0018】
【化5】


からなる群から選択される少なくとも1つの化合物またはその薬学的に許容できる塩もしくはエステルを提供するステップ、および治療有効用量の前記化合物を、それを必要とする患者に投与するステップ、を含む。1つの実施形態では、その疾患または状態は、心血管疾患、例として、全身性高血圧、肺動脈性肺高血圧、冠状動脈アテローム動脈硬化、全身性アテローム動脈硬化、冠状動脈再狭窄、心不全、うっ血性心不全、心原性ショック、心筋症、敗血症性ショック、毒素ショック症候群、脳血管発作(CVA)、塞栓性疾患;肺疾患、これらに限定されないが、例として、喘息、運動誘発喘息、気管支拡張、特発性肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、および嚢胞性線維症に起因する肺疾患;泌尿生殖器疾患、これらに限定されないが、例として、性交不能および射精異常;遺伝性疾患、これらに限定されないが、例として、嚢胞性線維症および鎌状赤血球貧血;神経性疾患、これらに限定されないが、例として、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS);炎症性疾患、これらに限定されないが、例として、全身性炎症反応症候群、関節リウマチ、シェーグレン症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、糸球体腎炎、乾癬、皮膚エリテマトーデス、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、皮膚炎、およびその他の炎症性疾患;腫瘍疾患、例として、血液腫瘍および固形腫瘍の両方からなる群から選択される。1つの実施形態では、疾患または状態を治療するために使用する化合物の治療有効量は、約0.01mg/kg体重/日〜1000mg/kg体重/日の範囲である。
【0019】
さらに別の実施形態は、疾患、状態または化学反応および/もしくは酵素反応を診断または研究するための方法を提供し、この方法は、
【0020】
【化6】


からなる群から選択される少なくとも1つの化合物またはその薬学的に許容できる塩もしくはエステルを提供するステップ、前記化合物をs−ニトロソグルタチオンレダクターゼと接触させるステップ、およびs−ニトロシル化の変化に基づく変化を観察するステップ、を含む。1つの実施形態では、診断および/または研究される疾患および/または状態は、心血管疾患、例として、全身性高血圧、肺動脈性肺高血圧、冠状動脈アテローム動脈硬化、全身性アテローム動脈硬化、冠状動脈再狭窄、心不全、うっ血性心不全、心原性ショック、心筋症、敗血症性ショック、毒素ショック症候群、脳血管発作(CVA)、塞栓性疾患;肺疾患、これらに限定されないが、例として、喘息、運動誘発喘息、気管支拡張、特発性肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、および嚢胞性線維症に起因する肺疾患;泌尿生殖器疾患、これらに限定されないが、例として、性交不能および射精異常からなる群から選択される。遺伝性疾患、これらに限定されないが、例として、嚢胞性線維症および鎌状赤血球貧血;神経性疾患、これらに限定されないが、例として、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS);炎症性疾患、これらに限定されないが、例として、全身性炎症反応症候群、関節リウマチ、シェーグレン症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、糸球体腎炎、乾癬、皮膚エリテマトーデス、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、皮膚炎、およびその他の炎症性疾患;腫瘍疾患、例として、血液腫瘍および固形腫瘍の両方。さらに別の実施形態は、少なくとも1つの上記で記載した化合物を含む、s−ニトロソグルタチオンレダクターゼの活性を変化させるためのキットである。
【0021】
本発明の1つの態様は、酵素S−ニトロソグルタチオンレダクターゼ(GSNOR)を阻害するために使用することができる化合物を提供する。これらの化合物は、以下に定義する化合物A、化合物B、化合物Cおよび化合物D、ならびにそれらの生理学的に許容できる塩全てを含む。
【0022】
1つの実施形態は、ヒトまたは動物の患者を治療する方法であり、この方法は、化合物A、化合物B、化合物Cおよび化合物Dを含む群から選択される少なくとも1つの化合物、またはその生理学的塩を提供するステップ、および治療有効用量の当該化合物をヒトまたは動物の患者に投与するステップ、を含む。
【0023】
さらに別の実施形態は、ヒトまたは動物の疾患を診断する方法であり、この方法は、化合物A、化合物B、化合物Cおよび化合物Dを含む群から選択される少なくとも1つの化合物、またはその生理学的塩を提供するステップ、および前記化合物をヒトまたは動物中の少なくとも1つの酵素と接触させるステップ、を含む。
【0024】
さらに別の実施形態は、酵素s−ニトロソグルタチオンレダクターゼ(GSNOR)の生理機能における機構、化学または役割を、in vitroまたはin vivoのいずれかにおいて研究する方法であり、この方法は、化合物A、化合物B、化合物Cおよび化合物Dを含む群から選択される少なくとも1つの化合物、またはその生理学的塩を提供するステップ、および前記化合物を酵素s−ニトロソグルタチオンレダクターゼ(GSNOR)と接触させるステップ、を含む。
【0025】
1つの実施形態は、化合物A、化合物B、化合物Cおよび化合物Dを含む群から選択される化合物のうちの少なくとも1つ、またはそれらの生理学的塩の治療有効用量を投与することによって、疾患、欠陥または治療されるその他の医学的状態を、治療する、診断する、治癒させる、制御する、またはそれ以外の様式でそれらに影響を及ぼす方法である。1つの実施形態では、影響を受ける状態は、免疫系の要素の活性化、これらに限定されないが、例として、マクロファージ、胸腺細胞、リンパ球の活性化、またはNOシグナル伝達ネットワークが関与する細胞間ネットワーク、アポトーシス等の細胞プロセス、内皮細胞の活性、心血管障害、例として、全身性高血圧、肺動脈性肺高血圧、冠状動脈アテローム動脈硬化、全身性アテローム動脈硬化、冠状動脈再狭窄、心不全、うっ血性心不全、心原性ショック、心筋症、敗血症性ショック、毒素ショック症候群、脳血管発作(CVA)、塞栓性疾患を含む群から選択される。
【0026】
本発明の別の実施形態では、影響を受ける状態は、肺疾患、これらに限定されないが、例として、喘息、運動誘発喘息、気管支拡張、特発性肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、および嚢胞性線維症に起因する肺疾患から選択される。
【0027】
本発明の別の実施形態では、影響を受ける状態は、泌尿生殖器系の疾患、これらに限定されないが、例として、性交不能および射精異常から選択される。本発明の別の実施形態では、影響を受ける状態は、遺伝性疾患、これらに限定されないが、例として、嚢胞性線維症および鎌状赤血球貧血から選択される。
【0028】
本発明の別の実施形態では、影響を受ける状態は、神経性疾患、これらに限定されないが、例として、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)から選択される。
【0029】
本発明の別の実施形態では、影響を受ける状態は、炎症性疾患、これらに限定されないが、例として、全身性炎症反応症候群、関節リウマチ、シェーグレン症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、糸球体腎炎、乾癬、皮膚エリテマトーデス、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、皮膚炎、およびその他の炎症性疾患から選択される。本発明の別の実施形態では、影響を受ける状態は、腫瘍疾患、例として、血液腫瘍および固形腫瘍の両方から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、GSNORの動態機構、およびGSNO部位に結合する阻害剤がGSNORの動態経路に沿って形成することができる複合体の型を示す略図である。
【図2】図2は、12−HDDAの存在下または非存在下において、NADHに結合しているGSNORの蛍光に対する化合物8の効果を示すグラフである。
【図3】図3は、RAW264.7細胞中における、GSNOR阻害剤の存在下でのニトロソ種の蓄積の増加と一致するデータを示すグラフである。
【図4】図4は、細胞性タンパク質のニトロシル化に対する化合物8の効果を示す図である。
【図5】図5は、化合物8およびニトロプルシドナトリウムの用量応答関係を示すグラフである。
【図6】図6は、GSNORの阻害がcGMPの産生を増加させることを示すグラフである。
【図7】表1は、いくつかのGSNOR阻害剤の構造を示す表である。
【図8】表2は、酵素GSNORを阻害する化合物による、種々のアルコールデヒドロゲナーゼのアイソザイムの阻害を示すデータの表である。
【図9】表3は、種々の化合物によるGSNOR阻害機構と一致する動態データの概要を示す表である。
【図10−1】表4は、GSNORを阻害すると考えられた種々の例示的な化合物について測定した動態学的対比の概要を示すデータの表である。
【図10−2】表4は、GSNORを阻害すると考えられた種々の例示的な化合物について測定した動態学的対比の概要を示すデータの表である。
【図10−3】表4は、GSNORを阻害すると考えられた種々の例示的な化合物について測定した動態学的対比の概要を示すデータの表である。
【図10−4】表4は、GSNORを阻害すると考えられた種々の例示的な化合物について測定した動態学的対比の概要を示すデータの表である。
【図10−5】表4は、GSNORを阻害すると考えられた種々の例示的な化合物について測定した動態学的対比の概要を示すデータの表である。
【図11】
【図12】
【図13】
【発明を実施するための形態】
【0031】
本新規技術の原理の理解を促進する目的で、以降、その好ましい実施形態を参照し、特異的な言葉を使用して、それらの実施形態を説明する。しかしながら、それらによって、本新規技術の範囲が限定されることはなく、本新規技術が関連する分野の当業者であれば通常思いつく本新規技術の変更形態、改変形態、および本新規技術の原理のさらなる適用例も企図されることを理解されたい。
【0032】
酵素S−ニトロソグルタチオンレダクターゼ(GSNOR)は、ニトロシル化されているタンパク質からのニトロ基の除去を触媒する。GSNORは一般に、アルコールデヒドロゲナーゼファミリー酵素のメンバーとして分類される。その生理的な基質は、ニトロシル化されているタンパク質、S−ニトロソグルタチオン(GSNO)およびNADHであると考えられている。ニトロシル化されている細胞間タンパク質がしばしば、NOの生理活性の結果生じ、これらのタンパク質は、NOの生理学的作用のうちの多くを担う。したがって、GSNORが触媒する脱ニトロシル化反応は、NOの作用およびそれらの結果として伴う作用を調整するサイクルのなくてならない部分として、健常で正常な細胞が、タンパク質のニトロシル化状態と脱ニトロシル化状態との間のバランス、および機能を維持するのに役立つ。
【0033】
本発明者らは、GSNORの活性に影響を及ぼし、したがって、NOの、細胞間タンパク質および生理機能に対する効果を調整するために使用することができる、置換されているピロール、インドール、チオフェンおよび芳香族環を含めた、いくつかの化合物を同定するに至った。1つの態様は、一般に化合物Aと呼ばれる、以下の構造を有する分子、ならびに種々の疾患および/もしくは状態を治療および/もしくは診断するため、または種々の、酵素が触媒する反応を研究するための当該分子の使用を含む。これらの分子は、以下の一般的な構造を有し、それらの薬学的に許容できる塩および/またはエステルを含む。
【0034】
化合物A
【化7】

【0035】
別の態様は、一般に化合物Bと呼ばれる構造を有する分子、ならびに種々の疾患および/もしくは状態を治療および/もしくは診断するため、または種々の、酵素が触媒する反応を研究するための当該分子の使用を含む。これらの分子は、以下の一般的な構造を有し、それらの薬学的に許容できる塩および/またはエステルを含む。
【0036】
化合物B
【化8】

【0037】
さらに別の態様は、一般に化合物Cと呼ばれる構造を有する分子、ならびに種々の疾患および/もしくは状態を治療および/もしくは診断するため、または種々の、酵素が触媒する反応を研究するための当該分子の使用を含む。これらの分子は、以下の一般的な構造を有し、それらの薬学的に許容できる塩および/またはエステルを含む。
【0038】
化合物C
【化9】

【0039】
さらに別の態様は、一般に化合物Dと呼ばれる構造を有する分子、ならびに種々の疾患および/もしくは状態を治療および/もしくは診断するため、または種々の、酵素が触媒する反応を研究するための当該分子の使用を含む。これらの分子は、以下の一般的な構造を有し、それらの薬学的に許容できる塩および/またはエステルを含む。
【0040】
化合物D
【化10】

【0041】
表1の化合物6等の化合物の骨格の合成を、スキームIに、一般的な形態として示す。この分子および関連分子の合成に関する追加の詳細を、刊行物中に見い出すことができる(Journal of Medicinal Chemistry、1997、vol.40、No.11)。
【0042】
本発明において有用な化合物は、特定の疾患を治療するために、単一の薬剤として経口、吸入または非経口の経路によって送達することができるのみならず、また、その他の適切な化合物の混合物であるカクテルの形態としても送達することができる。喘息、心血管疾患および本発明により治療されるその他の疾患の治療におけるカクテルの使用は日常的に行われる。この実施形態では、通常の投与ビヒクル(例えば、丸剤、錠剤、インプラント、注射用液剤等)が、本発明の化合物と、少なくとも1つの追加の治療薬および/または補助的な増強物質との両方を含有するであろう。
【0043】
本明細書に記載する化合物は、単独でまたはカクテルとして使用される場合、治療有効量で投与される。治療有効量は、以下に論じるパラメータによって決定されるが、これは、治療しようとする血流または組織の領域、例として、肺または血管平滑筋において、(1つまたは複数の)薬物のレベルを確立する量であり、こうした量は、治療の利益をもたらすのに有効である。
【0044】
投与にあたっては、本発明の製剤(formulations)は、薬学的に許容できる量で、薬学的に許容できる組成物中に適用される。そのような調製物は日常的に、塩、緩衝剤、保存剤、適合性の担体、および場合によりその他の治療効果を示す成分を含有することができる。医薬品中で使用する場合、塩は、薬学的に許容できなければならないが、好都合なことに、薬学的に許容できない塩を使用して、それらの薬学的に許容できる塩を調製することができ、そうした塩は、本発明の範囲から排除されない。そのような薬理学的および薬学的に許容できる塩として、これらに限定されないが、以下の酸から調製される塩が挙げられる:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、p−トルエンスルホン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸、ナフタレン−2−スルホン酸およびベンゼンスルホン酸。また、薬学的に許容できる塩は、アルカリ金属またはアルカリ土類の塩、例として、ナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩として調製することもできる。さらに、化合物A、B、CおよびDに加えて、塩基付加塩を含めた、それらの薬学的に許容できる塩も含まれる。薬学的に許容できる塩という用語は、アルカリ金属塩および遊離塩基の付加塩を形成するために通常使用される塩を含む。塩が薬学的に許容できるのであれば、その性質はそれほど重大ではない。
【0045】
本発明の化合物の適切な薬学的に許容できる塩基付加塩は、無機塩基または有機塩基から調製することができる。適切な薬学的に許容できる塩基付加塩には、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムおよび亜鉛から作製される金属塩、またはN,N’−ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、N−メチルグルカミンおよびプロカインから作製される有機塩がある。これらの塩は全て、従来の手段により、対応する本発明の化合物から、例えば、適切な塩基を本発明の化合物のうちの1つと反応させることよって調製することができる。
【0046】
また、本発明には、本発明の化合物の薬学的に許容できるエステルも含まれる。これらのエステルは、本発明の化合物と、アルコール、例として、メタノール、エタノール、イソプロピル、ブタノールならびにその他のアルキルアルコールおよびアリールアルコールとの間の酸触媒反応によって調製することができる。
【0047】
適切な緩衝剤として、例えば、酢酸および塩(1〜2%W/V)、クエン酸および塩(1〜3%W/V)、ホウ酸および塩(0.5〜2.5%W/V)、ならびにリン酸および塩(0.8〜2%W/V)が挙げられる。
【0048】
適切な保存剤として、塩化ベンザルコニウム(0.003〜0.03%W/V)、クロロブタノール(0.3〜0.9%W/V)、パラベン(0.01〜0.25%W/V)、およびチメロサール(0.004〜0.02%W/V)が挙げられる。
【0049】
また、本発明は、医薬組成物および/または製剤、ならびに当該医薬組成物および/または製剤の使用も対象とし、これらは、例えば、以下の化合物6、7または8(表1)等ならびにそれらの薬学的に許容できる塩および/またはエステルのうちの少なくとも1つと、少なくとも1つの薬学的に許容できる担体または希釈剤とを含む。さらに、本発明は、当該医薬組成物および/または製剤を使用して、状態の種々の疾患を治療または診断するための方法、ならびに種々の化学的および生物学的なプロセスを研究するための方法も対象とする。
【0050】
本発明の製剤は、液剤、懸濁剤、シロップ剤、錠剤、カプセル剤等であってよい。この組成物は、適切な担体、希釈剤または賦形剤、例として、中鎖トリグリセリド油またはステアリン酸マグネシウムを含有することができる。好ましい製剤では、中鎖トリグリセリド油とステアリン酸マグネシウムとが、およそ1:1の比で存在する。参照により本明細書に組み込まれているRemington’s Pharmaceutical Science、18版、1990編等の標準的な文献を参考にして、過度の実験をせずとも、適切な調製物を調製することができる。
【0051】
1つの好ましい担体が、ポリエチレングリコール(PEG)である。1つのさらに好ましい担体は、例えば、900超(最も好ましくは、約1,000)の高い分子量を有するポリエチレングリコールと、例えば、500未満(好ましくは、約400)の低い分子量を有するポリエチレングリコールとの混合物である。1つの特に好ましい担体は、約1:2の比で、100のMWをもつPEGと約400のMWをもつPEGとを有するPEGである。
【0052】
好ましい乳化剤として、ホスファチジルコリン乳化剤、例として、ジラウロイルホスファチジルコリンが挙げられる。
【0053】
この製剤は、ラクトース、スクロース、マンニトール、デンプン、セルロース誘導体、キサンタンガム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸等の粉末状の担体を含むことができる。また、この組成物は、浸透促進剤も含むことができる。適切な浸透促進剤として、グリセロール、モノラウリン酸グリセロール、ジメチルスルホキシド、または油、例として、鉱油もしくは中鎖トリグリセリド油が挙げられる。
【0054】
抗酸化剤、例えば、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、重硫酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、EDTAナトリウム、アスコルビン酸等を、単独で、または医薬組成物中で典型に利用される、その他の適切な抗酸化剤もしくは安定化剤と組み合わせてかのいずれかで使用することができる。
【0055】
また、この製剤は、通常使用される崩壊剤、滑沢剤、可塑剤、着色剤および投与ビヒクルのうちのいずれかを含むこともできる。適切な薬学的担体が、当技術分野の標準的な参照文献であるRemington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。適切な製剤は典型的には、1投与単位当たり約1〜約1000mgの活性成分を含有する。これらの医薬組成物中では、活性成分は通例、組成物の総重量に基づいて、約0.5〜約95重量%の量で存在する。
【0056】
本発明の化合物の治療用量の程度は、治療しようとする状態の性質および重症度、ならびに特定の投与経路によって変動する。いかなる場合であっても、最も適切な経路は主として、治療される状態の性質および重症度、ならびに活性成分の性質に依存するが、本発明の組成物は、好都合なことに、単位投与剤型として提供することも、薬剤学の分野でよく知られている方法のうちのいずれかによって調製することもできる。
【0057】
本発明の活性化合物は、場合により薬学的に許容できる担体中に含まれる治療有効量の本発明のコンジュゲートを有する医薬組成物であってよい。本明細書で使用する場合、「薬学的に許容できる担体」という用語は、ヒトまたはその他の動物に投与するために適している、1つまたは複数の適合性の固体または液体の充填剤、希釈剤または被包物質を意味する。「担体」という用語は、天然または合成の有機または無機の成分を意味し、適用を促進するために、これと活性成分とを組み合わせる。医薬組成物の構成成分は、本発明の分子とも、かつ相互にも、所望の薬学的効能を実質的に損なう相互作用を伴わないようにして混ざり合うことが可能である。
【0058】
非経口投与のために適している組成物は、好都合には、本発明の化合物の無菌の調製物を含む。この調製物は、既知の方法に従って製剤化することができる。したがって、この無菌の調製物は、無毒性の非経口的に許容できる希釈剤または溶媒中の無菌の液剤または懸濁剤であってよい。さらに、無菌の不揮発性油(fixed oils)も従来から、溶媒または懸濁媒体として利用されている。この目的では、合成のモノまたはジ−グリセリドを含めて、任意の無刺激性固定油を利用することができる。さらに、オレイン酸等の脂肪酸も、注射剤を調製する場合に有用である。経口、皮下、静脈内、筋肉内等のために適している担体の処方を、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton,Pa.に見い出すことができる。
【0059】
本明細書で使用する場合、対象または患者は、ヒト、霊長類、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、げっ歯類等を意味することができる。数で示される値または範囲と併せて使用される「約(about)」という用語は一般に、±20パーセントを意味し、例えば、「約1.0」は、0.8〜1.2の値を含む。
【0060】
本発明の化合物は、有効量で投与される。有効量は、治療される特定の状態の発症を遅らせる、その進行を阻害する、またはその発症もしくは進行を完全に止める、あるいは治療される特定の状態を診断するために必要な量である。例えば、一般に、喘息を治療するための有効量は、気道を開き、気道の炎症を減少させ、その結果として、治療の利益を得るために必要な量である。対象に投与する場合、もちろん、有効量は、治療される特定の状態;状態の重症度;年齢、健康状態、サイズおよび体重を含めた、個々の患者のパラメータ;併用する治療;治療頻度;ならびに投与の様式に依存する。これらの要因は、当業者にはよく知られており、日常的な実験だけで対処することができる。一般に、最大用量、すなわち、信頼できる医学的判断による最も高い、安全な用量を使用することが好ましい。
【0061】
投与量を適切に加減して、所望の薬物レベルを、局所的または全身的に達成することができる。一般に、活性化合物の1日当たりの経口用量は、約0.01mg/kg/日〜1000mg/kg/日である。約1〜1000mg/m/日の範囲のIV用量が有効であることが予想される。そのような用量における対象の応答が不十分である場合には、患者が許容する程度において、より高い用量(または異なる、より局所的な送達経路による、より高い有効用量)を利用することさえできる。また、化合物の、適切な全身性のレベルを達成することが必要な場合には、例えば、24時間にわたる連続的なIV投与または1日当たりの複数回投与も企図される。同様に、濃度、投与の長さ等を含めた、好ましい投与スケジュールも本明細書に記載する。
【0062】
多様な投与経路が利用可能である。もちろん、選択される特定の様式は、選択される特定の薬物、治療される疾患状態の重症度、および治療が効能を示すために必要な投与量に依存する。本発明の方法は一般的にいえば、医学的に許容できる任意の投与様式、すなわち、臨床上許容できない有害作用を引き起こすことなく、有効なレベルの活性化合物をもたらす任意の様式を使用して実行することができる。そのような投与様式として、例えば、経口、直腸、舌下、外用、経鼻、経皮、皮内または非経口の経路が挙げられる。「非経口」という用語は、皮下、静脈内、筋肉内または注入を含む。場合によっては、静脈内経路が好ましい場合がある。
【0063】
この組成物は、好都合なことに、単位投与剤型として提供することも、薬剤学の分野でよく知られている方法のうちのいずれかによって調製することもできる。全ての方法が、本発明のコンジュゲートを、1つまたは複数の補助的成分で構成される場合がある担体と混ぜ合わせるステップを含む。一般に、この組成物は、この化合物を液体の担体、微粉化した固体の担体または両方と一様かつ密接に混ぜ合わせ、次いで、必要であれば、この生成物を成型することによって調製することができる。
【0064】
経口投与のために適している組成物を、カプセル剤、カシェ剤、錠剤またはドロップ剤等の個別の単位として提供することができ、それぞれが、あらかじめ決定された量の活性化合物を含有する。その他の組成物は、例えば、水溶液中または非水性の液体中の懸濁剤、例として、シロップ剤、エリキシル剤または乳剤を含むことができる。
【0065】
その他の送達システムは、時間放出性、遅延放出性または持続放出性の送達システムを含むことができる。そのようなシステムは、本発明の活性化合物の反復投与を回避し、対象および医師の利便性を高めることができる。多くの型の放出送達システムが利用可能であり、当業者に知られている。それらには、ポリ乳酸とポリグリコール酸、ポリ酸無水物とポリカプロラクトン等、ポリマーに基づいたシステム;ポリマーではなく、コレステロール、コレステロールエステル等のステロールと、脂肪酸またはモノ、ジおよびトリグリセリド等の中性脂肪とを含む脂質に基づいたシステム;ヒドロゲル放出システム;シラスティックシステム;ペプチドに基づいたシステム;ろう被覆、従来の結合剤および賦形剤を使用する圧縮錠剤、部分的に融合させたインプラント等がある。さらに、ポンプに基づいたハードウエア送達システムも使用することができ、それらの中には、埋込みに適合しているものもある。
【0066】
また、長期の持続放出性インプラントも使用することができる。本明細書で使用する場合、「長期」放出は、治療レベルの活性成分を少なくとも30日、場合によっては60日以上にわたり送達するために、インプラントを構築し、配置することを意味することができる。長期の持続放出性インプラントは、当業者にはよく知られており、上記の放出システムのうちのいくつかを含む。そのようなインプラントは、慢性の医学的状態を治療する場合に特に有用である場合がある。
【0067】
また、本発明の化合物は一般に、これらに限定されないが、心血管疾患、例として、全身性高血圧、肺動脈性肺高血圧、冠状動脈アテローム動脈硬化、全身性アテローム動脈硬化、冠状動脈再狭窄、心不全、うっ血性心不全、心原性ショック、心筋症、敗血症性ショック、毒素ショック症候群、脳血管発作(CVA)、塞栓性疾患;肺疾患、これらに限定されないが、例として、喘息、運動誘発喘息、気管支拡張、特発性肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、および嚢胞性線維症に起因する肺疾患;泌尿生殖器疾患、これらに限定されないが、例として、性交不能および射精異常;遺伝性疾患、これらに限定されないが、例として、嚢胞性線維症および鎌状赤血球貧血;神経性疾患、これらに限定されないが、例として、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS);炎症性疾患、これらに限定されないが、例として、全身性炎症反応症候群、関節リウマチ、シェーグレン症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、糸球体腎炎、乾癬、皮膚エリテマトーデス、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、皮膚炎、およびその他の炎症性疾患;腫瘍疾患、例として、血液腫瘍および固形腫瘍の両方を含めた、疾患または状態を治療するために有用である。当業者であれば、日常的な実験を超えるものを行うことなく、上記の特異的な生成物およびプロセスの多数の均等物を認識することができるであろう。そのような均等物は、添付の特許請求の範囲に含まれるものとする。本明細書に開示する参照文献は全て、それぞれが個々に組み込まれているかのごとく、参照により組み込まれている。
【0068】
結果および議論
生理的pHにおいてGSNORを阻害する化合物の同定:
GSNORは、アルコールデヒドロゲナーゼであり、ADHファミリーのその他のメンバーと同様、第一級アルコールおよびアルデヒドを、NAD(H)分子の助けを借りて酸化および還元することができる。オクタノールを、最初のスクリーニングアッセイにおける基質として選んだ。これは、オクタノールは、GSNOと同様にかさ高いが、GSNOよりも200倍高いK値(1mM)および2桁超低いkcat値(200/分)を有するからである。これによって、最初の速度条件が最長10分までの期間にわたり有効となり(データ示さず)、384ウエルプレートフォーマットにおいて、多数のアッセイを同時に実施することが可能となる。化合物の非存在下でオクタノールの顕著な酸化速度を得るために、アッセイのpHを加減してpH10とした。GSNOR阻害剤についてのスクリーニングを、飽和濃度のNADおよび不飽和濃度のオクタノールの存在下で実施し、それによって、GSNORのGSNO結合部位中に限ってまたは主として結合する化合物を同定する確率を増加させた。こうすることが、望ましいとみなされた。これは、細胞の内部には多くのデヒドロゲナーゼがあり、補酵素結合部位中に結合する化合物は、GSNOに結合するGSNOR形態に主として結合する化合物よりも、GSNORの非特異的な阻害剤である可能性がより高いからである。
【0069】
最初のスクリーニングアッセイにおいてオクタノールの酸化速度を40%以上阻害した化合物を選択して、その後の解析に供した。最初に同定した化合物のGSNOR阻害活性を、pH10およびpH7.5において、12−ヒドロキシドデカン酸およびs−ニトロソグルタチオンをそれぞれ基質として確認した。表1に、最初のスクリーニング実験において同定した8つの異なるクラスの化合物のそれぞれからの代表的な化合物を列挙する。表1中の同定した化合物のそれぞれは、pH10におけるGSNORの阻害に関しては、現存するGSNOR阻害剤であるドデカン酸よりも良好なGSNOR阻害剤であった。表1をさらに参照すると、化合物6〜8は、GSNORを、pH7.5(1.7〜35%阻害)においてよりも、pH10(53〜97%阻害)においてより有効に阻害した。これらの化合物のpH7.5における親和性の減少は、それらの、より低いpHにおいてイオン化可能な基のイオン化状態の変化に起因する可能性が高い。化合物1中のイミドアミド基および化合物2中のピリジニル窒素の両方が、pH10においてよりも、pH7.5においてプロトン化される度合いが高く、GSNORの活性部位中の同様に荷電している残基から反発を受けるであろう。また、化合物8も、pH7.5においてよりも、pH10においてより高いGSNORの阻害を示す。しかし、この化合物は、イオン化状態がpH7.5において顕著に抑制されるであろうフェノール性ヒドロキシル基を有する。理論に縛られる意図はないが、イオン化したフェノール性ヒドロキシル基は、GSNORの活性部位内部の反対に荷電している残基との重要な相互作用に関与することが可能である。化合物6〜8は、それらのイオン化可能な基上の電荷が逆転されるか、またはそれらのpKa値が顕著に乱されるかして初めて、生理的pHにおいて、有効なGSNOR阻害剤として役立つことができる可能性が高い。したがって、化合物6〜8のさらなる特徴付けは進めなかった。
【0070】
化合物4〜8は、とりわけ見込みのあるGSNOR阻害剤であると思われる。これは、これらの化合物は、GSNORの活性部位に対するそれらの親和性を、アッセイしたpHの両方において維持するように見えたからである。また、これらの化合物は、生理的pHにおいて測定した場合、ドデカン酸よりも100倍低いIC50値を示した。ここで、化合物5(表1)を参照すると、エステル基の除去によって、阻害剤のGSNORに対する親和性が顕著に改善した。これは、3倍高まった、化合物の加水分解された形態によるGSNOR阻害(表1)によって証明されている。化合物4〜8は、小型分子についてのLipinskiの5ポイント則を満たし、薬物様の特性を示しており、GSNOR阻害剤としての、さらなる調査のための良好な候補であると思われた。
【0071】
GSNOR阻害の選択性
その他のアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)とは対照的な、化合物4〜8の、GSNORを選択的に阻害する能力は重要であるとみなされた。これは、大部分のADHは、類似の全体構造を有し、広い基質特異性を示すからである。GSNORの阻害と併せて、ADHファミリーの3つの追加のアイソザイム、具体的には、ββ−ADH、π−ADH、σ−ADHの、化合物4〜8の同じ濃度による阻害を調べた。いずれの場合も、阻害アッセイを、飽和濃度またはK濃度の補酵素およびアルコール基質の存在下で実施した。ここで、表2を参照すると、化合物6〜8は、特異性の高いGSNOR阻害剤である。化合物6〜8を用いて試験した場合には、70%超のGSNOR活性を阻害する濃度においては、その他のADHアイソザイムはいずれも顕著には阻害されない。化合物4は、GSNORよりもπ−ADHを強く阻害し、この化合物についてはその後の研究は進めなかった。化合物5は、GSNOR阻害剤としてある程度は良好であるが、また、σ−ADHの顕著な阻害も示した。したがって、その他のADHアイソザイムよりもGSNORに対するその選択性を高めるためには、化合物5をさらに修飾する必要があり得る。化合物6〜8は、GSNORの極めて有効かつ選択的な阻害剤として有望であり、これらを、その後の調査のためのリード化合物として選択した。
【0072】
化合物6〜8等によるGSNORの阻害機構の決定
デッドエンド阻害研究および蛍光研究を実施して、化合物6〜8の結合部位を同定した。これは、これらの化合物は、既知のGSNORの基質または阻害剤のうちのいずれにもほとんど類似しないように見えたからである。ここで、表3を参照すると、試験した阻害剤は、GSNOまたはNADHのいずれかの変化させた濃度に対して、非競合的および不競合的な阻害を示した。このことは、これらの基質はいずれも、化合物6〜8がGSNORに結合するのを完全には阻止することができないことを示している可能性がある。これは、例えば、化合物6〜8が、(図1に示す)動態経路中で生じる複数の酵素複合体に結合する場合に起こるであろう。これらの化合物によるNADHおよびGSNORに対する阻害の型が類似しているので、GSNOR中の活性部位の外側の部位に結合することによる阻害の可能性は低い。ドデカン酸が阻害剤として関与する追加のデッドエンド阻害研究を、変化させたGSNOに対して実施して、基質結合部位中の阻害剤の結合が、GSNO還元の動態経路中で形成する複合体の型を決定した。
【0073】
ここで、図1を参照すると、GSNORは、アルデヒドの還元の間に、そのランダム機構においてGSNOR・NADHの複合体(EA)を介する好ましいキネティック パスウェイ(kinetic pathway)を通ることができる(太線によって示す)。この提案する機構では、アルデヒド(B)は、GSNOR(E)の遊離型、または優先的にGSNOR・NADHの複合体(EA)に結合して、能力のある三元複合体(EAB)を形成することができる。EAB複合体は、触媒作用を受けて、生成物のNAD(Q)およびアルコール(P)を形成する。触媒作用の後、生成物のうちのいずれかが、酵素から外れることができる。GSNO阻害剤は、GSNORの遊離型(ステップ1)、GSNOR・NADH(ステップ2)の二元複合体、およびGSNOR・NAD(ステップ3)の二元複合体に結合して、EI複合体、EAI三元複合体およびEQI三元複合体をそれぞれ形成することができる。
【0074】
表3を参照すると、ドデカン酸は、GSNO結合部位において結合するにもかかわらず、変化させたGSNO濃度に対する非競合的な阻害剤であることが見い出された。ドデカン酸によるGSNORの非競合的な阻害は、アルデヒドである12−オキソドデカン酸(12−ODDA)の還元の間のGSNORの動態機構(図1に示す)に基づいて説明することができる。GSNORは、12−ODDAの還元の間に、E・NADHの複合体を介する好ましい動態経路を有する。この機構に従って、ドデカン酸が、GSNORに、動態経路中の2つ以上の場所において結合するならば、非競合的な阻害剤として、変化させたGSNOレベルに対して作用するであろう。これらの場所は、例えば、1つは、ドデカン酸がGSNOと競合して、酵素に結合する場所であり(図1のステップ1および2)、1つは、動態経路中の、GSNOが通常であれば結合しない場所(図1のステップ3)である。GSNORへの結合についての、GSNOとの競合には、E・NADHの複合体(ステップ1)に対する、および若干は遊離の酵素(ステップ2)に対する阻害剤の結合が関与し、二重逆数プロット中に閉包されている傾きの効果が生じるであろう。GSNOが通常であれば結合しない、動態経路中のGSNORへの結合には、E・NADの複合体に対する阻害剤の結合が関与し、二重逆数プロット中の切片の効果が生じるであろう。また、GSNOの変化させた濃度に対する、化合物6〜8によるGSNORの非競合的な阻害は、それらがE・NADH・IおよびE・NAD・Iと形成する複合体によっても説明することができる。変化させたNADHに対する、化合物6および8による不競合的な阻害ならびに化合物7によるほとんど不競合的な阻害(化合物7による阻害は統計学的には、非競合的な機構により良好に適合するが、Kis値が、Kii値よりも5倍大きく、大きいな標準誤差を示す)は、アルデヒドの還元の間のGSNORのほぼ順序付けられた動態機構中のE・NADHの複合体に結合する化合物、およびNADHのGSNORに対する高い親和性(K=0.05μM)によって説明することができる。これらの要因の両方によって、実験的条件下ではE・Iの、酵素阻害における寄与が非常に小さなものとなり、阻害が不競合的となるであろう。化合物6〜8が動態経路中の2つ以上の場所において酵素に結合することによって引き起こされるGSNORの阻害は、ウマ肝臓アルコールデヒドロゲナーゼの、スルホキシド阻害剤およびアミド阻害剤によって示される阻害に類似する。
【0075】
平衡結合研究(equilibrium binding studies)を実施して、デッドエンド阻害研究、すなわち、化合物6〜8(表I)が基質(GSNOまたは任意のアルコールおよびアルデヒド)結合部位中に結合することを説明するために組み立てられた仮説を試験した。化合物6〜8が、基質結合部位中に結合するならば、これらの化合物は、GSNOR活性部位から、基質のみを排除し、補酵素は排除しないはずである。
【0076】
ここで、図2を参照する。(A)GSNOR(曲線b)および化合物8(曲線c)の逐次添加時のNADH(曲線a)の蛍光変化。1.7μM NADH溶液に、2μM GSNORおよび50μM化合物8を順に添加し、溶液の蛍光をその都度測定した(λexc=350nm;λemm=375〜550nm);(B)GSNOR(曲線b)、12−HDDA(曲線c)および化合物8(曲線d)の逐次添加時のNADH(曲線a)の蛍光変化。1.7μM NADH溶液に、2μM GSNOR、810μM 12−HDDAおよび50μM化合物8を順に添加し、溶液の蛍光をその都度測定した(λexc=350nm;λemm=375〜550nm);(C)化合物8のGSNOR・NADHの複合体への結合。化合物8の濃度を増加させた場合の、1.7μM NADHと2μM GSNORとの混合物の蛍光変化(λexc=350nm;λemm=455nm)を、単一部位結合モデル(式1;材料および方法を参照されたい)に、Graphpad Prim4を使用して適合させた。蛍光研究は全て、50mMリン酸カリウム、pH7.5中、室温で実施した。
【0077】
さらに図2aを参照すると、NADHが溶媒中の極性環境から、GSNOR活性部位内部の極性が低下した環境へ移動するにつれて、NADHの蛍光が増加し、より短い波長にシフトしている。化合物8の添加によって、NADHの蛍光が減少したが、興味深いことには発光ピークが青色シフトしており、これは、NADHが依然として、活性部位の非極性環境中にあることを示している(図2a中の曲線aおよびcを比較されたい)。そのようなジヒドロピリジン環の蛍光の消光が、アミド阻害剤がウマ肝臓ADH・NADHの複合体に結合した場合に観察されている。また、化合物6および7も、NADHの蛍光を消光し、かつ発光最大をより短い波長へ動かした(データ示さず)。このことから、化合物6〜8は、その結合部位からNADHを排除せず、E・NADH・阻害剤の複合体を形成していることが示唆される。
【0078】
化合物6〜8の基質結合に対する効果を決定するために、結合研究をアルコール基質である12−ヒドロキシドデカン酸(12−HDDA)の存在下で実施した。GSNOR・NADH・12−HDDAの三元複合体の形成が失敗に終わったことが以前に報告されている。図2bの曲線cを参照すると、図に示すように、12−HDDAがGSNOR・NADHの複合体に170μMの解離定数で結合し、この三元複合体中のNADHの蛍光が増加している。図2aで報告したアッセイ中で使用したのと同じ量の化合物8を添加すると、NADHの蛍光が消光し、スペクトルが生じた(図2bの曲線d)。図2bの曲線dに示すように、これは、E・NADH・化合物8の複合体の形成について記載した結果と類似し、このことから、化合物8が活性部位から12−HDDAを追い出し、GSNOR・NADH・化合物8の複合体を形成していること(すなわち、曲線cは、図2aの曲線cにおいて観察された蛍光よりも強い蛍光を有する。これは、酵素に結合している12−HDDAの全てが化合物8によって追い出されてしまったわけではないからである)が示唆される。また、化合物6および7も、GSNOR・NADH・12−HDDAの複合体の蛍光に対して類似の効果を示している。これらの結合実験は、化合物6〜8が、アルコール/アルデヒドの基質のみを、活性部位中への結合から排除することを実証している。
【0079】
ここで、図2aを参照すると、GSNOR・NADH・阻害剤の複合体の形成時に観察された蛍光変化を使用して、GSNOR・NADHの複合体について、阻害剤の平衡解離定数を決定した。化合物6〜8の平衡解離定数は、10μM未満であり、このことから、これらの化合物は、GSNOR・NADHの複合体に対して高い親和性を示すことが示唆される。GSNOR・NADHの複合体に対して、化合物6および8は、化合物7よりも顕著に高い親和性を示し、これは、それらの平衡解離定数が、3〜5倍小さいことによって証明されている。
【0080】
細胞の内部におけるGSNORの阻害
化合物6〜8(表1)の、細胞の内部においてGSNORを阻害する能力を、ラットマクロファージ(RAW264.7細胞)中で試験した。RAW細胞は、NOおよびs−ニトロソチオールの生化学を調べるためのモデル系として広範に使用されている。手短に述べると、RAW細胞を、阻害剤単独を用いてかまたはGSNOと組み合わせて処理し、細胞内のニトロシル化されている種(species)を、三ヨウ化物に基づいた化学発光法を使用して定量化した。ここで、図3Aを参照すると、顕著な量のニトロソ種は、未処理の細胞中にも、化合物のみに、これらのアッセイにおいて使用した濃度に暴露した細胞中にも検出されなかった。500μM GSNOを用いて処理した細胞中では、ニトロシル化されている化合物の顕著な蓄積が明らかに認められた。ニトロシル化されている化合物は、GSNOへの暴露の1時間以内に平衡レベルに達するように見え、6時間の期間にわたりほとんど一定に維持された。対照的に、GSNOと、33μM濃度の、化合物6または化合物8のいずれかとを用いて処理した細胞中には、ニトロシル化されている化合物が蓄積し続けた。6時間目においては、GSNOと化合物6または8とを用いて処理した細胞の内部のニトロシル化されている種のレベルは、GSNO単独を用いて処理した細胞中に見い出されるニトロシル化されている種のレベルよりも3〜4倍高かった。細胞を化合物6または8にさらにより長く(最長24時間まで)暴露すると、ニトロシル化されている種の量が、4時間目において測定した場合には80%減少した(データ示さず)。(これらの結果は、GSNORの持続的な阻害ではなく、この酵素の一時的な阻害と一致する。)化合物7(表1)は、化合物6または8ほどには、細胞の内部のGSNORを有効に阻害しなかった。このことは、ニトロシル化されている種のレベルのわずか1.3〜1.7倍の増加、および6時間目において測定した場合のニトロシル化されている種のレベルの顕著な差から判断した、その効果のより短い持続期間によって証明されている。処理した細胞の内部のニトロシル化されている種の分子サイズの解析によって、ニトロシル化されている種の95%超が、5kDa超のサイズであることが示された。さらに、処理した細胞中のニトロシル化されている種の21〜28%が、水銀による前処理に対して耐性を示し、このことから、N−ニトロソチオール化されているタンパク質もまた、細胞の内部で形成されていることが示唆される。これらの観察は、化合物6〜8が、細胞の内部においてGSNORを阻害することを示している。また、GSNORは、細胞内タンパク質のニトロシル化の程度を、外因的に誘発されたニトロシル化を行う種によって調節することも明らかである。
【0081】
化合物の様々な濃度の、ニトロシル化されている化合物の蓄積に対する効果を調べて、細胞内のGSNORの阻害に関して、化合物6〜8の有効性を比較した。細胞内のニトロシル化のレベルは、媒体中の化合物の濃度が増加すると共に増加した。細胞の内部のGSNORの阻害に関しては、化合物6および8は、化合物7よりも有効である。これは、33μMの最初の濃度において観察された、3倍高まったニトロシル化から明らかである。細胞の内部のGSNORの阻害に関しては、化合物7は、化合物6または8のいずれよりも有効性が低いが、にもかかわらず、ニトロソ化合物のレベルを、その他の化合物と同じ程度まで上げることが可能である。
【0082】
また、GSNOR阻害の、細胞性タンパク質のニトロシル化に対する効果も、Jaffreyら、Nat.Cell Biol.3、193〜197によって開発され、Wangら、Free Radic.Biol.Med 44、1362〜1372(2008)によって改変されたビオチンスイッチアッセイの技法を使用して調べた。ここで図4を参照すると、化合物3は、RAW細胞中で、細胞性タンパク質のニトロシル化を時間と共に増加させた。GSNOR阻害の、細胞性タンパク質のニトロシル化に対する効果は、8時間目付近でピークに達するように見え、その後、24時間以内に正常レベルまで減少した。細胞を、化合物8とNOシンターゼ阻害剤であるL−NAMEとを用いて同時に処理した場合には、SNOの蓄積が減少した(図4)。限定するのではなく、説明するために述べると、これらの結果から、GSNORが阻害されている細胞中のSNOの蓄積が、(NOSによって)構成的に産生されるNOと、細胞性タンパク質との反応から生じることが示唆される。
【0083】
化合物cGMPは、血管の生物学において重要な役割を果たす。GSNORの阻害が、cGMPの産生を増加させるかどうかを試験するために、RAW264.7細胞を、50μM GSNO±を用いて、本発明の対象であるGSNOR阻害剤のうちの1つである化合物8の存在下および非存在下の両方においてインキュベートした。次に、cGMPの蓄積量を、10分後に測定した。ここで、図6を参照すると、以前に記載されている(Mayerら、l J Biol Chem、Vol.273、Issue 6、3264〜3270、February 6、1998)ように、GSNOは、可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化する。化合物8は、GSNOの効果を2.5倍増強する(図中のGSNORi)。いずれの特定の説明にも仮説にも限定されないが、これらの結果から、化合物8がその生化学的効果を発揮することができる1つの機構が、化合物8がGSNORを阻害することによって引き起こされ、次いで、これが、GSNOのcGMP産生に対する効果を増強し、その結果、cGMPレベルが高まることが示唆される。これらのデータによって、本明細書の他の箇所で実証するように、GSNORを阻害するこれらの化合物のうちの少なくともいくつかの、生化学的レベルにおける、単離した大動脈輪(aortic rings)を弛緩させる能力を説明することができる。
【0084】
GSNOR阻害時のタンパク質のニトロシル化の増加から、GSNOR阻害は、臓器中および組織培養細胞中で、細胞性タンパク質のs−ニトロシル化に由来するNOの生理活性を増加させるはずであることを示唆することができる。この仮説を、化合物8の、マウス大動脈臓器培養物の血管緊張に対する効果を決定することによって試験した。化合物8(50μM)は、15分以内に血管を完全に弛緩させた。化合物8については、完全な濃度応答曲線から、5μMのEC50が明らかになり(図5A)、わずか300nMで約10%の弛緩をもたらした。ニトロプルシドナトリウム(SNP)と直接比較することによって、血管平滑筋の弛緩に関しては、化合物8は、SNPほどには強力ではなく(図5A)、弛緩は、SNPよりもはるかに緩慢に生じることが明らかになったが、効果の持続期間は、SNPを用いた場合よりもはるかに長かった。SNPの血管効果は即時性であり、これによって、高血圧緊急症のためのその臨床上の有用性が説明される。GSNORi媒介性弛緩は、弛緩が始まるまでに約3分を要するが、50μMの濃度においては、血管の弛緩を最長2時間まで持続させ、その後、血管調製物の完全性(integrity)が低下し始めた。
【0085】
大動脈輪を500μM L−NAMEと共に30分間プレインキュベートすると、化合物8に対する血管弛緩が約58%阻害された(図5B)。化合物8によって引き起こされた大動脈の弛緩がL−NAMEによって部分的に阻害されることから、NOSによって産生されたNOが、GSNOR阻害の間に観察される平滑筋弛緩を媒介することが示唆される。したがって、GSNORは、NOの生理活性を、細胞性タンパク質のニトロシル化を調節することによって積極的に調節し、このことから、RSNOが、単離臓器における血管弛緩に関与するという概念が確認される。
【0086】
したがって、これらの3つの化合物は、GSNORを阻害する、細胞の効果を定義するのに役立ち、これらの化合物には、GSNORの活性を完全には無効にせずに、GSNOR阻害の有益な効果を生かす可能性がある。
【0087】
GSNOR阻害によるニトロソチオールの蓄積は、GSNORが、細胞の内部のs−ニトロシル化されているタンパク質レベルの調節に関与する主要な酵素であることを示すStamlerらの研究と一致する。ニトロソチオールの三ヨウ化物に基づいた定量化の感受性に関する議論に照らして、少なくともNOシンターゼの刺激がないと、GSNOR阻害それ自体では細胞性タンパク質のニトロシル化レベルの大きな増加をもたらさないことが結論付けられた。いずれの特定の理論にも説明にも縛られる意図はないが、これらの結果から、GSNOR活性の抑止ではなく、むしろ部分的な下方調整が、最も効能を示すことが判明し得ることが示唆される。要約すると、これらの教示から、おそらくGSNO結合部位内に結合することによって、GSNORを阻害するであろうs−ニトロソグルタチオンレダクターゼの新規な阻害剤および多くの関連化合物が明らかとなっている。これらの化合物のうちの少なくともいくつかは、動態経路中の複数の場所においてGSNORに結合し、それによって、GSNOおよびNADHの上方調節によっては容易に克服されない型の阻害をもたらす。これらの化合物を使用して収集したデータは、GSNORが細胞内タンパク質のニトロシル化の調節に関与する主要な酵素のうちの1つであるという主張を支持している。
【0088】
構造的に多種多様であることに加え、化合物6〜8のそれぞれは、GSNOおよび12−ヒドロキシドデカン酸を含めた、GSNORの優れた基質のうちの多くと同様に、遊離のカルボキシル基を有する。GSNOおよびHMGSHの結合におけるGSNOR活性部位の基部となるArg115の重要性を考えると、化合物6〜8中の遊離のカルボキシル基は、Arg115と相互作用している可能性が非常に高い。補酵素結合部位中に結合しないことによって、化合物6〜8は、NAD(H)に結合するデヒドロゲナーゼのうちでも、GSNORを特異的に阻害する高い確率を有するであろう。また、これらの化合物は、その他の非常に強力な細胞透過性のGSNOR阻害剤を得るための良好なリード化合物としても役立つ。
【0089】
GSNORを阻害し、診断の研究にあたってまたは療法としての有用性を有する可能性のある追加の化合物を同定するために、元々のアッセイにおいて同定した特定の化合物の類似体を試験した。それらの化合物を、表4に開示する。手短に述べると、化合物12〜14、43〜53、72、84、86および72〜83は、表3の化合物6に関連し;表4の化合物24、56、58、59、62、60〜62、64、66、67、69、70は、表1の化合物7に関連する。
【0090】
いくつかの説明および実験を、説明のために提供するが、これらは限定するためのものではない。どのように本新規技術が働くかという理論が、記載、比較、説明または実施例によって提示されるいずれの場合であっても、これを限定的なものであるとはみなしてはならない。したがって、以下の実施例および論述は、限定するためではなく、案内および説明として提示される。
【実施例】
【0091】
材料および方法:
実験に使用した化学薬品は全て、Sigma−Aldrich Chemical Companyから購入した。RAW264.7細胞、DMEM培地およびウシ胎仔血清は、American Tissue and Cell Cultureから購入した。組換えヒトGSNOR、ββ−ADH、π−ADHおよびσ−ADHは、大腸菌中で発現させ、以前に記載したように精製した。
【0092】
化合物6の合成
置換パターンに応じて、本明細書に開示する1,2−ジアリールピロールを、スキームIに開示する一般的な方法を使用して合成することができる。一般的な合成戦略では、適切な1,4−ケトンを調製する必要があり、続いて、適切なアミンと共に加熱し、パール−クノール縮合により環化して標的を得た。ピロール環の5位にアルキル基(R)、MeまたはEtを有する類似体を、スキーム1に従って合成した。チアゾリウム塩触媒を使用する、置換されているベンズアルデヒドのR,a−不飽和ケトンとのステッター反応16は、非常に用途が広くかつ高収率であることが判明した(NEt、EtOH、還流、60〜90%)。VIIのアリールアミンとの縮合(スキームI)は円滑に進行し、所望のピロールを良好な収率(50〜80%)で得た。追加の情報については、例えば、Journal of Medical Chemistry、1997、Vol.40.40、No.11を参照することを読者に案内する。
【0093】
化合物7の合成
置換パターンに応じて、化合物7を、スキームIIに記載する一般的な合成アプローチによって合成することができる。追加の情報については、例えば、Trofimov,F.A.ら、Khimiya Geterotsiklichoskikh Soedinenii、(10)1343〜6;1975を参照することを読者に案内する。
【0094】
化合物8の合成
置換パターンに応じて、化合物8を、スキームIIIに記載する一般的な合成アプローチによって合成することができる。追加の情報については、例えば、J Comb.Chem.2004、6、573〜583を参照することを読者に案内する。
【0095】
ハイスループットスクリーニング:
ここで、図3を参照し、手短に述べると、RAW264.7細胞を、500μM GSNO単独と共に(γ)か、または33μMの化合物6(○)もしくは化合物7(△)もしくは化合物8(■)の存在下でインキュベートした。表示した時間または4時間目(Bの場合)において、細胞を溶解させ、可溶化液を、タンパク質およびニトロソ種の濃度について、それぞれブラッドフォードアッセイおよび化学発光アッセイによって解析した。詳細は、材料および方法を参照されたい。データは、平均±SE(n=3〜12)で表す。
【0096】
ここで、図4を参照すると、RAW264.7細胞を、10%熱不活性化血清を含有するDMEM中で培養した。細胞を、33μM化合物8単独を用いて、0、2、4、8もしくは24時間処理するか、または1mM NAMEと組み合わせて、4時間処理した(レーン4+N)。表示した時間において、細胞を消光させ、可溶化液を、s−ニトロソチオール含有量について、ビオチンスイッチアッセイによって解析した。各レーン中に、等しい量のタンパク質を添加し、ビオチン化(したがって、s−ニトロシル化)の程度を、抗ビオチン抗体を使用して決定した。
【0097】
ここで、図5を参照すると、マウスの大動脈セグメントを、酸素化PSS(95%Oおよび5%CO)中、37℃で平衡化させた。平衡化に続いて、1μMフェニレフリンを、各環に、準最大に収縮させるために添加した。安定化した後、化合物8またはニトロプルシドナトリウム(SNP)のいずれかを、濃度を(10−9Mから10−4Mまで)増加させて環に添加し、環の緊張を決定した。(B)NOシンターゼ阻害剤L−NAMEによる、化合物8によって引き起こされた大動脈環の弛緩の阻害。あらかじめ平衡化させ、フェニレフリン(1マイクロモル)を用いて準最大に収縮させた大動脈輪に、L−NAME(500マイクロモル)を浴に添加し、30分間インキュベートした。30分後、化合物8(50マイクロモル)を添加し、環の緊張を、上記の記載に従って決定した。各実験を、3匹の異なるマウス由来の2つの環を使用して実施し、それぞれの応答について、平均(±SEM)を決定した。
【0098】
ここで、図6を参照すると、RAW264.7細胞を、50μM GSNO±本発明の対象であるGSNOR阻害剤の化合物8と共にインキュベートし、次いで、10分後に、cGMPの蓄積量を測定した。以前に記載されている(Mayerら、J Biol Chem、Vol.273、Issue 6、3264〜3270、February 6、1998)ごとく、図に示すように、GSNOは、可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化する。化合物8がその生化学的効果を発揮する1つの機構が、化合物8がGSNORを阻害することによって引き起こされ、次いで、これが、GSNOのcGMP産生に対する効果を増強し、その結果、cGMPレベルが高まる。これらのデータは、GSNORを阻害するこれらの化合物全ての、生化学レベルにおける、単離した大動脈輪を弛緩させる能力を説明する可能性が高い。
【0099】
ここで、表1を参照すると、阻害を、pH10において研究した。これらのアッセイを、1mMオクタノール、1mM NAD、0.1mM EDTAおよび50μM阻害剤を含有する0.1Mグリシンナトリウム中で実施した。pH7.5における阻害研究を、15μM NADH、10μM GSNO、0.1mM EDTAおよび50μM阻害剤を含む50mMリン酸カリウム、pH7.5中で実施した。データは、部分的な阻害と一致する阻害曲線に適合し、このモデルに対するデータの適合から、2.4のヒル係数が出た。
【0100】
ここで、表2を参照すると、阻害研究を、5μM阻害剤の存在下および非存在下で実施した。これらの研究を、0.1mM EDTAを含む50mMリン酸カリウム、pH7.5中、25℃で実施した。酵素の活性を、340nmにおける吸光度の変化に従って測定した。値は、阻害剤によって引き起こされた(2つの測定値のうちの最小値からの)酵素活性のパーセント低下を示す。このデータについての標準誤差は、阻害が20%未満であった場合を除いて、表示した平均の15%未満である。ββ−ADH、σσ−ADH、π−ADHを用い、化合物5〜8が関与する研究を、0.05%DMSO中で実施した。GSNORを用いる研究を、化合物4が阻害剤である場合を除いて、1%DMSOの存在下で実施した。化合物4を用いる研究は、0.36%DMSO中で実施した。DMSOは、0.36%においては、ββ−ADH、σσ−ADH、π−ADHをそれぞれ、24、18および9%阻害した。ββ−ADHを用いる研究では、3.5μgの酵素を、2mM NAD、1mMエタノールおよび阻害剤を含むアッセイ混合物に添加した。
【0101】
σ−ADHを用いる研究では、0.5μgの酵素を、2mM NAD、30mMエタノールおよび阻害剤を含有するアッセイ混合物に添加した。π−ADHを用いる研究では、19.5μgの酵素を、1mM NAD、35mMエタノールおよび阻害剤を含むアッセイ混合物に添加した。GSNORを用いる研究には、0.1μgの酵素を、15μM NADH、5μM GSNOおよび阻害剤を含むアッセイ混合物に添加した。
【0102】
ここで、表3を参照すると、阻害実験を、0.1mM EDTAを含む50mMリン酸カリウム(pH7.5)中、25℃で実施した。変化させる基質の最低でも5つの濃度および3つの阻害剤濃度を、各実験について使用した。NADHおよびGSNOの濃度をそれぞれ、アッセイ中に一定の基質として存在させる場合には、15μMまたは10μMに保った。Kis値およびKii値はそれぞれ、阻害定数の傾きおよび切片(slope and intercept inhibition constants)であり、それらを、それらに付随する標準誤差と共に列挙する。全てのデータが、競合的(competitive)(C)、非競合的(noncompetitive)(NC)または不競合的(UC)(uncompetitive)な阻害モデルに適合した。表に示す阻害の型は、F統計量の解析から判断した場合に所与のモデルに対するデータの最良の適合を示す。K値は、阻害剤の添加に伴う、NADHが結合したGSNORの蛍光変化を測定する(λexe=350nm;λemm=455nm)ことによって得た、GSNOR・NADHの複合体への結合についての、阻害剤の平衡解離定数である。解離定数を、50mMリン酸カリウム、pH7.5中、25℃で測定した。それぞれのK値は、3つの独立した実験の平均であり、それに伴う標準誤差と共に示す。
【0103】
GSNOR阻害剤についてのスクリーニングを、Indiana UniversityのChemistry Genomics Core facilityのChemDiv Incからの60,000個の化合物のライブラリーを使用して実施した。スクリーニングを、384ウエルプレート中で実施し、0.1Mグリシンナトリウム、pH10中で、GSNORを12.5μM化合物、NADおよびオクタノールのそれぞれ1mMと共にインキュベートした。酵素活性を、NADHの産生速度を分光光学的に340nmにおいて測定することによって決定した。GSNORの阻害を、化合物の存在下における酵素活性の、同じアッセイプレート上で実施した化合物が存在しない対照中の酵素活性に対する比から計算した。高スループットスクリーニングからそれらを同定した後、最初のヒットのGSNOR阻害特性を、pH10においては12−ヒドロキシドデカン酸を基質として使用し、およびpH7.5においてはGSNOを基質として使用して確認した。(どのようにアッセイを実施したかについての詳細については、表1の簡潔な記載を参照されたい。)
【0104】
種々の化合物によるADHアイソザイムの阻害:
ββ−ADH、π−ADH、σ−ADHの阻害を、これらADHアイソザイムのそれぞれによるエタノールの酸化速度に対するGSNOR阻害剤の阻害効果を決定することによって評価した。アッセイ混合物は、それぞれの酵素のそれぞれについて、飽和量のNAD(1〜2mM)およびそのK濃度のエタノールを含んでいた。全てのアッセイを、0.1mM EDTAを含む50mMリン酸カリウム、pH7.5中、25℃で実施し、このアッセイでは、NADHの形成速度を分光光学的に340nmにおいて決定した。それぞれのアイソザイムについての特定のアッセイ条件を、表2の説明文に記載する。
【0105】
デッドエンド(dead-end)阻害研究:
GSNOR阻害剤を用いる阻害実験を、0.1mM EDTAを含有する3mlの50mMリン酸カリウム(pH7.5)中、25℃で実施した。GSNOまたはNADHの5つの異なる濃度を、それらが、変化させる基質である場合に使用し、一定の基質として存在させる場合にはそれぞれ、10μMおよび15μMに維持した。最低でも3つの阻害剤濃度を、これらのアッセイにおいて使用し、NADHおよびGSNOの消費速度を、分光光学的に340nmにおける吸光度変化を追跡することによって決定した。データは、競合的、非競合的および不競合的な阻害モデルに適合し、それらのデータについてのモデルは、Graphpad Prizm4.0プログラムを使用して実施したF統計量に基づいて選ばれた。
【0106】
蛍光研究:
蛍光研究を、50mMリン酸カリウム、pH7.5中、室温で、Fluoromax−2蛍光分光計(Instruments S.A.,Inc.、Edison,NJ)を使用して実施した。GSNOR阻害剤の平衡解離定数を、阻害剤添加時のNADHに結合しているGSNORの蛍光変化を測定する(λexe=350nm;λemm=455nm)ことによって決定した。実験の間、阻害剤の量を増加させて、2μM GSNORおよび1.7μM NADHを含む溶液に添加した。阻害剤を添加する毎に生じる455nmにおける蛍光の減少を、阻害剤の最終濃度に対してプロットし、データを、式1に、非線形回帰を使用して適合させて、GSNOR−NADHの複合体についての阻害剤の解離定数を得た。
【0107】
【数1】


式1中、ΔFは、阻害剤添加時の455nmにおける蛍光変化である。ΔFは、曲線への適合から得た最大蛍光変化である。EおよびLはそれぞれ、GSNORおよび阻害剤の濃度である。Kは、GSNOR・NADH・阻害剤の複合体の形成についての平衡解離定数である。データを、Graphpad Prizm4.0を使用して適合させた。
【0108】
細胞培養研究:
RAW264.7細胞を、10%FBS、200U/mlペニシリンおよび200μg/mLストレプトマイシンを補ったDMEM培地中で培養した。細胞を、5%COおよび95%空気を含有する大気中、37℃でインキュベートした。実験のために、実験の前日に、1〜2×10細胞を、6ウエルプレート中に蒔いた。アッセイの当日、培地を、3mlの新鮮な培地で交換し、細胞を、化合物を用いて、あらかじめ決定した長さの時間にわたり処理した。インキュベーション期間後、細胞を、PBSを用いて3回洗浄し、プレートから250μlの溶解用緩衝液(50mM NEMおよび1mM EDTAを含有する50mMリン酸カリウム、pH7.0)中にかき集めた。細胞を、超音波処理により微小先端プローブ(30%デューティサイクルの3パルス;Fisher Sonicator上の出力制御2)を使用して溶解させた。細胞デブリを、遠心分離(16,000gにおいて10分間)によってペレット化し、細胞可溶化液を、タンパク質濃度についてBio−Rad色素結合タンパク質アッセイを使用して解析した。細胞可溶化液中のニトロソ化合物の濃度を、三ヨウ化物に基づいた化学発光法を使用し、Sievers280 NO解析装置を使用して決定した。細胞可溶化液を、15%v/vのスルファニルアミド溶液(0.2M HCl中の5%w/v)を用いて処理し、室温に5分間置いて、亜硝酸塩を除去した。三ヨウ化物の混合物は、以前に記載したように、新たに毎日調製し、反応槽中に60℃で保管した。ニトロソ種の濃度を、GSNOを使用して作成した標準曲線から求めた。細胞可溶化液中の小型サイズのニトロソ化合物の量を決定するために、5kDaのカットオフのAmicon限外ろ過ユニットを、供給元の指示に従って使用した。細胞可溶化液中のs−ニトロソチオールの量を、細胞可溶化液をマイクロスピンカラムに最初に通し、溶出液を5mM HgClを用いて処理してから、ニトロソ化合物濃度を、化学発光を使用して決定することによって決定した。一部の実験のためには、実験日に先立って、細胞を、化合物を用いて16時間あらかじめ処理した。その後の実験によって、この前処理は、細胞の内部におけるニトロソ種の蓄積速度に対しては効果を示さないことが示された。
【0109】
ビオチンスイッチアッセイ法を使用する、RAW264.7細胞中でのs−ニトロソチオールの蓄積の決定:
RAW264.7細胞を、DMEMを含有する10%熱不活性化血清中で培養した。細胞を、33マイクロモルの化合物8単独を用いて、様々な長さの時間処理するか、または1mM NAMEと組み合わせて、4時間処理した(4+N)。表示した時間において、細胞を消光させ、可溶化液を、s−ニトロソチオール含有量について、Jaffreyら、Methods Enzymol.396、105〜118(2005)によって記載され、Wangら、Free Radic.Biol.Med.44、1362〜1372(2008)およびZhangら、Free Radic.Biol.Med.38、874〜881(2005)によって提案されている改変を加えたビオチンスイッチアッセイによって解析した。手短に述べると、約200μgの細胞可溶化液中の遊離のスルフィドリル(sulfydriys)を、2%SDSを含有する、1mlのHEN緩衝液(1mM EDTAおよび0.1mMネオキュプロニン(Neocupronine)を含有する250mM HEPES、pH7.7)中の20mM MMTSを用いて50℃で20分間ブロックした。遊離のMMTSを、ゲルろ過スピンカラムによって除去し、ブロックしたタンパク質を、1mMビオチン−HPDP(Pierce)を用いて、30mMアスコルビン酸および2μM CuClの存在下または非存在下で2.5時間標識した。各レーン中に、等しい量のタンパク質を添加し、ビオチン化(したがって、s−ニトロシル化)の程度を、抗ビオチン抗体(SIGMA)を使用して決定した。
【0110】
ワイヤーミオグラフィー(wire myography):
マウスに、ジエチルエーテルを用いて麻酔を施した。開胸術を実施して、胸部大動脈および腹部大動脈を露出した。25ゲージのシリンジを、左心室の心尖部中に挿入し、酸素化クレブス−ヘンセレイト緩衝液を用いて灌流して血液を除去した。右心房を切断して、血液の出口を設けた。大動脈を取り出し、脂肪および外膜を清浄除去した。大動脈を2mm長のセグメントに切断し、4チャネルのワイヤーミオグラフ(AD Instruments)上に載せた。血管輪(vessel rings)を、酸素化PSS(95%Oおよび5%CO)を有する10m1の臓器浴中に、37℃でC維持した。輪(rings)を、各臓器浴中の緩衝液を20分毎に交換し、80分間平衡化させた。1グラムの前張力(以前の実験において決定された、最適な血管運動機能のための適切な出発張力)を、それぞれの大動脈輪上にかけた。8チャネル8進法ブリッジ(Powerlab)およびデータ収集ソフトウエア(Chart5.2.2版)を使用して、全ての力の測定値を記録した。80分間の平衡化後、各輪に、1μM27フェニレフリンを準最大に収縮させるために添加した。安定化した後、化合物8またはニトロプルシドナトリウム(SNP)のいずれかを輪に添加し、環の緊張(tone)を決定した。SNPおよびAChの用量応答関係を決定するために、大動脈輪を、10−6M PEを用いてあらかじめ収縮させ、次いで、SNPまたは化合物8を、10−9Mから10−4Mまで濃度を増加させて添加した。実験のサブセットにおいては、L−NAMEを、浴に添加し(最終的に500μM)、30分間インキュベートした。30分後、化合物8を添加して、上記の記載に従って環の緊張を決定した。
【0111】
本新規技術を、図および前述の説明において詳細に例証し記載してきたが、これらは、例示のためのものであって、特徴を限定するとみなされるべきではなく、好ましい実施形態のみを示し、説明してきたに過ぎず、本新規技術の趣旨に属する変化形態および改変形態は全て、望ましくは保護されるべきであることを理解されたい。同様に、本新規技術を、特定の実施例、理論的な議論、説明および図面を使用して例証してきたが、これらの例証および付随する論述が、いかなる場合であっても、本新規技術を限定するものであるとみなされてはならない。本明細書において参照する全ての特許、特許出願および文献、科学論文、刊行物等の参照文献は、それらの全体が、参照により本明細書に組み込まれている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素活性を変化させる方法であって、
【化11】


【化12】


【化13】


および
【化14】



からなる群から選択される少なくとも1つの化合物またはその生理学的に許容できる塩を提供するステップ、および
前記化合物をs−ニトロソグルタチオンレダクターゼと接触させるステップ、
を含む方法。
【請求項2】
疾患または状態を治療する方法であって、
請求項1に記載の少なくとも1つの化合物を提供するステップ、
治療有効用量の前記化合物を、それを必要とする患者に投与するステップ、および
を含む方法。
【請求項3】
前記疾患または状態が、全身性高血圧、肺動脈性肺高血圧、冠状動脈アテローム動脈硬化、全身性アテローム動脈硬化、冠状動脈再狭窄、心不全、うっ血性心不全、心原性ショック、心筋症、敗血症性ショック、毒素ショック症候群、脳血管発作(CVA)、塞栓性疾患、運動誘発喘息、気管支拡張、特発性肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、および嚢胞性線維症に起因する肺疾患、性交不能および射精異常、嚢胞性線維症および鎌状赤血球貧血、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、全身性炎症反応症候群、関節リウマチ、シェーグレン症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、糸球体腎炎、乾癬、皮膚エリテマトーデス、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、皮膚炎、およびその他の炎症性疾患、血液腫瘍および固形腫瘍からなる群から選択される、請求項1に記載の疾患または状態を治療する方法。
【請求項4】
前記化合物の治療有効量が、約0.01mg/kg体重/日〜約1000mg/kg体重/日の範囲である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
疾患または状態を診断する方法であって、
請求項1に記載の少なくとも1つの化合物を提供するステップ、
前記化合物を、s−ニトロソグルタチオンレダクターゼと接触させるステップ、および
s−ニトロシル化の変化に基づく変化を観察するステップ、
を含む方法。
【請求項6】
診断される疾患または状態が、全身性高血圧、肺動脈性肺高血圧、冠状動脈アテローム動脈硬化、全身性アテローム動脈硬化、冠状動脈再狭窄、心不全、うっ血性心不全、心原性ショック、心筋症、敗血症性ショック、毒素ショック症候群、脳血管発作(CVA)、塞栓性疾患、運動誘発喘息、気管支拡張、特発性肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、および嚢胞性線維症に起因する肺疾患、性交不能および射精異常、嚢胞性線維症および鎌状赤血球貧血、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、全身性炎症反応症候群、関節リウマチ、シェーグレン症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、糸球体腎炎、乾癬、皮膚エリテマトーデス、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、皮膚炎、およびその他の炎症性疾患、血液腫瘍および固形腫瘍からなる群から選択される、請求項5に記載の診断方法。
【請求項7】
タンパク質ニトロシル化を研究する方法であって、
請求項1に記載の少なくとも1つの化合物を提供するステップ、
前記化合物を、s−ニトロソグルタチオンレダクターゼと接触させるステップ、および
s−ニトロシル化の変化を観察するステップ、
を含む方法。
【請求項8】
s−ニトロソグルタチオンレダクターゼの活性を変化させるためのキットであって、請求項1に記載の少なくとも1つの化合物を含むキット。
【請求項9】
疾患または状態を治療する方法であって、
【化15】


からなる群から選択される少なくとも1つの化合物またはその薬学的に許容できる塩もしくはエステルを提供するステップ、および
治療有効用量の前記化合物を、それを必要とする患者に投与するステップ、
を含む方法。
【請求項10】
前記疾患または状態が、全身性高血圧、肺動脈性肺高血圧、冠状動脈アテローム動脈硬化、全身性アテローム動脈硬化、冠状動脈再狭窄、心不全、うっ血性心不全、心原性ショック、心筋症、敗血症性ショック、毒素ショック症候群、脳血管発作(CVA)、塞栓性疾患、運動誘発喘息、気管支拡張、特発性肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、および嚢胞性線維症に起因する肺疾患、性交不能および射精異常、嚢胞性線維症および鎌状赤血球貧血、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、全身性炎症反応症候群、関節リウマチ、シェーグレン症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、糸球体腎炎、乾癬、皮膚エリテマトーデス、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、皮膚炎、およびその他の炎症性疾患、血液腫瘍および固形腫瘍からなる群から選択される、請求項9に記載の疾患または状態を治療する方法。
【請求項11】
前記化合物の治療有効量が、約0.01mg/kg体重/日〜約1000mg/kg体重/日の範囲である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
疾患または状態を診断する方法であって、
請求項9に記載の少なくとも1つの化合物を提供するステップ、
前記化合物を、s−ニトロソグルタチオンレダクターゼと接触させるステップ、および
s−ニトロシル化の変化に基づく変化を観察するステップ、
を含む方法。
【請求項13】
診断される疾患または状態が、全身性高血圧、肺動脈性肺高血圧、冠状動脈アテローム動脈硬化、全身性アテローム動脈硬化、冠状動脈再狭窄、心不全、うっ血性心不全、心原性ショック、心筋症、敗血症性ショック、毒素ショック症候群、脳血管発作(CVA)、塞栓性疾患、運動誘発喘息、気管支拡張、特発性肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、および嚢胞性線維症に起因する肺疾患、性交不能および射精異常、嚢胞性線維症および鎌状赤血球貧血、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、全身性炎症反応症候群、関節リウマチ、シェーグレン症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、糸球体腎炎、乾癬、皮膚エリテマトーデス、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、皮膚炎、およびその他の炎症性疾患、血液腫瘍および固形腫瘍からなる群から選択される、請求項12に記載の診断方法。
【請求項14】
タンパク質のニトロシル化を研究する方法であって、
請求項9に記載の少なくとも1つの化合物を提供するステップ、
前記化合物を、s−ニトロソグルタチオンレダクターゼと接触させるステップ、および
s−ニトロシル化の変化に基づく変化を観察するステップ、
を含む方法。
【請求項15】
タンパク質のニトロシル化を研究する方法であって、
請求項9に記載の少なくとも1つの化合物を提供するステップ、
前記化合物を、s−ニトロソグルタチオンレダクターゼと接触させるステップ、および
s−ニトロシル化の変化に基づく変化を観察するステップ、
を含む方法。
【請求項16】
s−ニトロソグルタチオンレダクターゼの活性を変化させるためのキットであって、請求項9に記載の少なくとも1つの化合物を含むキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図10−3】
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【図10−4】
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【図10−5】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2011−507811(P2011−507811A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538218(P2010−538218)
【出願日】平成20年12月13日(2008.12.13)
【国際出願番号】PCT/US2008/086738
【国際公開番号】WO2009/076665
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(301046787)インディアナ・ユニバーシティ・リサーチ・アンド・テクノロジー・コーポレーション (24)
【Fターム(参考)】