説明

均質な混合気の圧縮によって点火するエンジンの制御方法

均質な混合気の圧縮による点火によって動作するピストンエンジンは、シリンダ(12)内における燃焼に関連するイオン化信号(I(t))を供給するイオン化プローブ(5)と、エンジンの動作パラメータに作用を及ぼす少なくとも1つのアクチュエータ(7、21、10、10’)を有する。本発明のエンジンの制御方法によれば:イオン化信号(I(t))を処理して、最大圧力の瞬間(αPmax)を決め;最大圧力の瞬間(αPmax)を最大圧力の瞬間の設定値(αPmaxC)と比較し;最大圧力の瞬間(αPmax)と最大圧力の瞬間の設定値(αPmaxC)とが一致するように、上記エンジンの少なくとも1つの動作パラメータに作用を及ぼす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、均質な混合気の圧縮によって点火するピストン熱エンジンの制御方法に関し、特に燃焼制御に関する。
【背景技術】
【0002】
このタイプのエンジンにおいては、空気と燃料の混合気は、シリンダの中を滑動するピストンが上死点に達する充分前にシリンダ内に導入される。混合気の着火は、混合気の圧縮と、その結果である温度上昇によって得られる。これらのエンジンは、粒子状物質と窒素酸化物の排出が少ないことによって特徴付けられる。これらは、英語の略語HCCI(Homogenous Charge Compression Ignition=均質充填圧縮点火)として知られている。
【0003】
しかしながら、混合気の燃焼周期、すなわち燃焼の開始と燃焼速度とを同時に制御することに関する問題が課せられる。文献WO 02/48552には、シリンダ内の圧力センサが圧力の測定信号を発生し、コンピュータがこの測定値を微分して燃焼の第1段階を検出する、HCCIエンジンの制御方法が提案されている。コンピュータは、燃焼の第2段階の開始を遅らせるために、シリンダ内への水の噴射を指令する。このようにして、燃焼の第2段階が、燃焼の最適効率を得ることを可能にするように選ばれた周期をもたらす。
【0004】
このようなエンジンのシリンダ内の圧力センサは、高価である。
【0005】
【特許文献1】WO 02/48552
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、他のタイプのセンサを使用して燃焼を調節するための、HCCIエンジンの他の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、エンジンが、シリンダ内における燃焼に関連する、燃焼の情報を供給するセンサを有し、上記燃焼の情報を処理して、燃焼の瞬間を決め、上記燃焼の瞬間を燃焼の瞬間の設定値と比較し、上記燃焼の瞬間と上記燃焼の瞬間の設定値とが一致するように、上記エンジンの動作パラメータに作用を及ぼす、均質な混合気の圧縮による点火によって動作するピストンエンジンの制御方法を提供することを目的とする。本発明によれば、上記センサは、上記シリンダ内に配置され、燃焼の情報としてイオン化電流を発生するイオン化プローブであり、上記燃焼の瞬間は上記シリンダ内の最大圧力の瞬間に対応する。
【0008】
実際、本発明者は、シリンダ内に配置されたイオン化プローブの信号は、シリンダ内における燃焼の際に変化し、燃焼の発生に関する情報を推定することが可能であるということを確認した。この情報の処理に基づいて、シリンダ内の圧力が最大である瞬間を推定することができる。最大圧力の瞬間の設定値を確定し、測定値が設定値に従うように、少なくとも1つの動作パラメータに作用を及ぼして、エンジンを操作する。
【0009】
上記動作パラメータは、排気ガスの再循環率を含むことが望ましい。本発明者は、この再循環率の調整は、シリンダ内における燃焼の開始と発展、従って、シリンダ内の圧力が最大圧力に到達する瞬間に対して、有効に作用を及ぼすことを可能にすることを確認した。
【0010】
これらの動作パラメータは、更に、吸入空気の乱流発生装置によって引き起こされる乱流と、吸気または排気サイクルの変化を含む。これらの全てのパラメータは、シリンダ内における燃焼の展開に影響を及ぼす。
【0011】
第1の実施の形態によれば、上記再循環率を定めるアクチュエータを制御するための再循環信号を決定し、再循環信号の設定値が上記エンジンの動作点に応じて決定され、上記燃焼の瞬間と上記燃焼の瞬間の設定値との間の比較に応じて再循環信号の修正値を決定し、上記再循環信号の修正値を再循環信号の設定値に付加して、上記再循環信号を決定する。このようにして、最初に、エンジンの動作点に応じてエンジンの動作パラメータの設定値が決定され、次いで、その設定値の修正を導入する調節を介して設定値を調整して、動作パラメータに作用を及ぼす。
【0012】
複数の動作パラメータに同時に作用を及ぼすことが有利である。このようにして、そのときにおける燃焼の進展に加えて、シリンダ内において達せられる最大圧力と温度に作用を及ぼすことができ、このことは、燃焼効率、騒音の発生、及び汚染物質の生成に影響を及ぼす。
【0013】
第2の実施の形態によれば、複数の上記動作パラメータを定める複数のアクチュエータを制御するための複数の操作信号の設定値を決定し、上記操作信号の設定値は上記エンジンの動作点に応じてあらかじめ定められ、上記燃焼の瞬間と上記燃焼の瞬間の設定値との間の比較に応じて上記操作信号の設定値の修正信号を決定し、上記修正信号を上記操作信号の設定値に付加して、各操作信号を決定する。
【0014】
また、本発明は、
−シリンダ内における燃焼に関連する、燃焼の情報を供給するセンサと、
−エンジンの動作パラメータに作用を及ぼす少なくとも1つのアクチュエータと、
−上記燃焼の情報を受けて、燃焼の瞬間を決め、燃焼の瞬間の設定値を決め、上記燃焼の瞬間と上記燃焼の瞬間の設定値を比較し、上記燃焼の瞬間と上記燃焼の瞬間の設定値とが一致するように、上記エンジンの動作パラメータに作用を及ぼすために上記アクチュエータを操作するコンピュータと、
を有する、均質な混合気の圧縮による点火によって動作するピストンエンジンにおいて、
上記センサは、上記シリンダ内に配置され、燃焼の情報としてイオン化電流を発生するイオン化プローブであり、上記燃焼の瞬間は上記シリンダ内の最大圧力の瞬間に対応することを特徴とする、
均質な混合気の圧縮による点火によって動作するピストンエンジンを提供することを目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下の説明を読むことによって本発明はよりよく理解され、その他の特徴及び利点が明らかとなるであろう。本説明においては、本発明によるエンジンのシリンダの軸方向断面図である図1を参照する。
【0016】
図1において、参照符号1は、空気と軽油のような燃料から構成される均質な混合気の圧縮によって点火する、HCCIと呼ばれる内燃エンジンを示す。シリンダヘッド11とシリンダ12の一部のみが示されている。ピストン13がシリンダ12の中を滑動し、ピストン13とシリンダヘッド11とによって燃焼室14の範囲を定める。燃焼室14は、燃料噴射装置15とイオン化プローブ5も有する。ピストンは、周知のように、コネクティングロッドを介して図示しないクランクシャフトを回転させる。図示しないセンサが、クランクシャフトの瞬間的な角度位置αを時間の関数として表わす。
【0017】
シリンダヘッド11は、燃焼室14に通じる吸気導管17を有し、吸気導管17の開口は、吸気弁9’によって制御される。また、シリンダヘッド11は、燃焼室14に通じる排気導管18も有し、排気導管18の開口は、排気弁9によって制御される。分配作動装置は、それぞれ吸気弁9’と排気弁9を駆動する、吸気アクチュエータ10’と排気アクチュエータ10を有する。吸気導管17は、アクチュエータ8によって駆動される乱流発生装置7を有する。
【0018】
また、エンジン1は、排気ガス再循環回路20を有する。排気ガス再循環回路20は、排気ガス再循環回路20を開閉するための再循環アクチュエータ21によって操作される再循環弁2を有する。このようにして、排気ガス再循環回路は、排気導管18から吸気導管17へ排気ガスを移送することができる。
【0019】
エンジン1は、例えばマイクロプロセッサであるエンジンコンピュータ3によって操作される。エンジンコンピュータはエンジンから発生される情報を受けて、エンジンを制御するアクチュエータを操作する。エンジンコンピュータ3が受ける情報の中には、イオン化プローブ5から発生される時間の関数としての燃焼の情報であるイオン化信号I(t)と、クランクシャフトの角度位置αがある。エンジンコンピュータ3は、排気アクチュエータ10、吸気アクチュエータ10’、乱流発生装置のアクチュエータ8、燃料噴射装置15及び再循環アクチュエータ21を操作する。
【0020】
エンジン1は、4サイクル、すなわち周知のように、吸気、圧縮、膨張、排気の相次ぐ行程を有する。エンジン1へ向けて、空気は吸入行程中に吸入され、燃料は圧縮行程中、すなわちピストンが燃焼室の容積を減少させながら下死点から上死点へ向けて移行する際に燃焼室内へ噴射される。均質な混合気を得るために、燃料は、ピストンがまだ下死点の近傍にあるときに噴射される。このようにして、燃料は、圧縮行程の間に大部分気化し、圧縮行程の終わりには概ね均質な混合気を形成する。
【0021】
この圧縮の際に、燃焼室内に含まれる空気と燃料の混合気は、ピストンが上死点の近傍にあるときに、少なくとも部分的に自然着火温度に達するまで圧縮によって温度上昇する。燃焼は混合気全体へ漸進的に伝播し、燃焼室内の圧力は最大値まで上昇する。ピストンが上死点を越えると燃焼室の容積は増加し、膨張行程が開始する。一般に、最大圧力はこの時期に達せられる。ガスは、引き続く燃焼中に、ピストンに作用を及ぼしながら膨張する。次いで、排気行程が行われ、新しいサイクルが繰り返される。
【0022】
イオン化プローブから供給されるイオン化信号I(t)は、クランクシャフトの位置の形で表される最大圧力の瞬間αPmaxを決めるために、エンジンコンピュータによって処理される。本特許出願の出願人は、イオン化プローブから供給されるイオン化信号I(t)から、最大圧力の瞬間を決定する方法を既に開発した。この方法は、公報FR 2 813 920に開示されており、ここでは再度記載しない。この方法は、ここに同様に適用することができる。
【0023】
エンジンコンピュータは、メモリ内に、分配作動装置の排気アクチュエータ10、吸気アクチュエータ10’、乱流発生装置のアクチュエータ、燃料噴射装置のアクチュエータまたは再循環アクチュエータ等の、エンジンのアクチュエータのための操作信号の設定値の表を有する。操作信号の設定値は、エンジンの動作点に応じて決定される。それらは、燃料消費と、窒素酸化物、不完全燃焼炭化水素、煤等の汚染性生物の排出と、騒音発生との間の妥協に対応する。操作信号の設定値の表は、エンジンの開発の際に決定される。
【0024】
また、エンジンコンピュータは、メモリ内に、最大圧力の瞬間の設定値αPmaxCの表を有する。最大圧力の瞬間の設定値αPmaxCは、エンジンコンピュータが受けた情報に基づいて、エンジンの動作点に応じて決定される。最大圧力の瞬間の設定値αPmaxCは、クランクシャフトの位置の形で表されるが、クランクシャフトの位置をクランクシャフトの回転速度に関連付けしたときには、時間で表すことと同等である。最大圧力の瞬間の設定値αPmaxCと最大圧力の瞬間αPmaxは、比較アルゴリズムに入力され、比較アルゴリズムは、エンジンのアクチュエータの操作の修正信号を発生する。これらの修正信号は操作信号に付加され、このようにして、最大圧縮の瞬間を、閉ループで調整することを可能にする。
【0025】
第1の実施の形態においては、比較アルゴリズムは、再循環信号Tegrを発生することによって、排気ガスの再循環に対してのみ作用することができる。これは、例えばエンジンが可変分配装置と乱流発生装置を有しない場合である。再循環弁位置操作の修正信号CorrTegrを、再循環弁操作の設定信号TegrCに付加して、再循環弁操作の操作信号Tegrを決定する。この修正信号CorrTegrは、例えば最大圧縮の瞬間の設定値αPmaxCと最大圧縮の瞬間αPmaxとの差に比例する。このようにして、再循環弁操作の設定値は、最大圧縮の瞬間が、最大圧縮の瞬間の設定値αPmaxCによって定義された最適値に合致するように修正される。
【0026】
第2の実施の形態においては、比較アルゴリズムは、様々なアクチュエータへ送られる複数の修正信号を発生する。このようにして、複数のパラメータが同時に作用して、最大圧縮の瞬間を修正する。修正値の分布が同じく表の中にメモリされ、エンジンの動作点に応じて決定される。この表は、エンジンの開発の際に設定され、各動作点について設定された妥協を混乱させないことを目的とする。
【0027】
本発明は、例としてのみ記載された実施の形態に限定されるものではない。エンジンは、例えばターボコンプレッサや複数の燃料噴射装置を有することができ、本発明はこれらのものにも適用することができる。燃料は、天然ガスまたはガソリンのような任意の性質のものであり得る。修正信号は、他の制御アルゴリズムによって決定することができる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(1)が、シリンダ(12)内における燃焼に関連する、燃焼の情報(I(t))を供給するセンサ(5)を有し:
−上記燃焼の情報(I(t))を処理して、燃焼の瞬間(αPmax)を決め、
−上記燃焼の瞬間(αPmax)を燃焼の瞬間の設定値(αPmaxC)と比較し、
−上記燃焼の瞬間(αPmax)と上記燃焼の瞬間の設定値(αPmaxC)とが一致するように、上記エンジンの少なくとも1つの動作パラメータに作用を及ぼす、
均質な混合気の圧縮による点火によって動作するピストンエンジンの制御方法において、上記センサは、上記シリンダ(12)内に配置され、燃焼の情報としてイオン化電流(I(t))を発生するイオン化プローブ(5)であり、上記燃焼の瞬間は上記シリンダ内の最大圧力の瞬間(αPmax)に対応することを特徴とする、均質な混合気の圧縮による点火によって動作するピストンエンジンの制御方法。
【請求項2】
上記動作パラメータは、排気ガスの再循環率を含むことを特徴とする、請求項1に記載の均質な混合気の圧縮による点火によって動作するピストンエンジンの制御方法。
【請求項3】
上記再循環率を定めるアクチュエータ(21)を制御するための再循環信号Tegrを決定し、再循環信号の設定値TegrCが上記エンジンの動作点に応じて決定され、上記燃焼の瞬間(αPmax)と上記燃焼の瞬間の設定値(αPmaxC)との間の比較に応じて再循環信号の修正値CorrTegrを決定し、上記再循環信号の修正値CorrTegrを再循環信号の設定値TegrCに付加して、上記再循環信号Tegrを決定することを特徴とする、請求項2に記載の均質な混合気の圧縮による点火によって動作するピストンエンジンの制御方法。
【請求項4】
上記動作パラメータは、更に、吸入空気の乱流発生装置(7)によって引き起こされる乱流と、吸気または排気サイクルの変化を含むことを特徴とする、請求項2に記載の均質な混合気の圧縮による点火によって動作するピストンエンジンの制御方法。
【請求項5】
複数の動作パラメータに同時に作用を及ぼすことを特徴とする、請求項1に記載の均質な混合気の圧縮による点火によって動作するピストンエンジンの制御方法。
【請求項6】
上記動作パラメータを定めるアクチュエータを制御するための操作信号の設定値を決定し、上記操作信号の設定値は上記エンジンの動作点に応じてあらかじめ定められ、上記燃焼の瞬間と上記燃焼の瞬間の設定値との間の比較に応じて上記操作信号の設定値の修正信号を決定し、上記修正信号を上記操作信号の設定値に付加して、各操作信号を決定することを特徴とする、請求項5に記載の均質な混合気の圧縮による点火によって動作するピストンエンジンの制御方法。
【請求項7】
−シリンダ(12)内における燃焼に関連する、燃焼の情報(I(t))を供給するセンサ(5)と、
−エンジンの動作パラメータに作用を及ぼす少なくとも1つのアクチュエータ(7、21、10、10’)と、
−上記燃焼の情報(I(t))を受けて、燃焼の瞬間(αPmax)を決め、燃焼の瞬間の設定値(αPmaxC)を決め、上記燃焼の瞬間(αPmax)と上記燃焼の瞬間の設定値(αPmaxC)を比較し、上記燃焼の瞬間(αPmax)と上記燃焼の瞬間の設定値(αPmaxC)とが一致するように、上記エンジンの動作パラメータに作用を及ぼすために上記アクチュエータ(7、21、10、10’)を操作するコンピュータ(3)と、
を有する、均質な混合気の圧縮による点火によって動作するピストンエンジンにおいて、上記センサ(5)は、上記シリンダ(12)内に配置され、燃焼の情報としてイオン化電流(I(t))を発生するイオン化プローブ(5)であり、上記燃焼の瞬間は上記シリンダ内の最大圧力の瞬間(αPmax)に対応することを特徴とする、均質な混合気の圧縮による点火によって動作するピストンエンジン。

【公表番号】特表2006−519955(P2006−519955A)
【公表日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505725(P2006−505725)
【出願日】平成16年3月12日(2004.3.12)
【国際出願番号】PCT/FR2004/000615
【国際公開番号】WO2004/083612
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【Fターム(参考)】