多相モータ駆動装置
【課題】インバータ回路における下側のスイッチング素子のオン故障を検出することが可能な多相モータ駆動装置を提供する。
【解決手段】U相のシャント抵抗に流れる電流の検出タイミングを、U相における上側のスイッチング素子Q1のオフ期間からオン期間へシフトさせて、このオン期間にU相のシャント抵抗に流れる電流に基づき、下側のスイッチング素子Q2がオン故障か否かを判定する。また、単に検出タイミングをシフトさせただけでは、下側のスイッチング素子Q2のオン期間において本来必要なU相電流を検出できなくなるため、他の2相のシャント抵抗に流れる電流に基づいて、U相電流の電流値を推定する。
【解決手段】U相のシャント抵抗に流れる電流の検出タイミングを、U相における上側のスイッチング素子Q1のオフ期間からオン期間へシフトさせて、このオン期間にU相のシャント抵抗に流れる電流に基づき、下側のスイッチング素子Q2がオン故障か否かを判定する。また、単に検出タイミングをシフトさせただけでは、下側のスイッチング素子Q2のオン期間において本来必要なU相電流を検出できなくなるため、他の2相のシャント抵抗に流れる電流に基づいて、U相電流の電流値を推定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両の電動パワーステアリング装置に用いられる多相モータ駆動装置に関し、特に、スイッチング素子の故障を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の電動パワーステアリング装置においては、ハンドルの操舵トルクに応じた操舵補助力をステアリング機構に与えるために、3相ブラシレスモータなどの多相モータが設けられる。この多相モータを駆動する装置は、制御部と、PWM(Pulse Width Modulation)回路と、インバータ回路とを備える。制御部は、トルクセンサで検出された操舵トルクに応じてモータに流すべき電流の目標値を算出し、この目標値とモータに実際に流れる電流の値との偏差に基づいて、PWM回路へ与える指令値を算出する。PWM回路は、指令値に応じたデューティ比を持つPWM信号を生成して、インバータ回路へ与える。インバータ回路は、PWM信号のデューティ比に応じてオン・オフする上下一対のスイッチング素子を各相ごとに有しており、これらのスイッチング素子のオン・オフ動作に基づき、デューティ比に応じた各相の電圧を出力し、この電圧によりモータを駆動する。モータの各相の電流は、スイッチング素子と直列に接続された相電流検出用のシャント抵抗の両端電圧を測定することにより検出され、この検出値がモータに実際に流れる電流の値となる。
【0003】
上記のような多相モータ駆動装置において、短絡等の故障が生じるとモータ駆動が正常に行えなくなることから、故障検出を行うための回路が設けられる。下記の特許文献1、2には、このような故障検出回路が示されている。特許文献1では、インバータ回路の各相の下側のFETのドレイン電圧とゲート電圧とに基づく異常判断用電圧を検出する検出回路を設け、この検出回路で検出された電圧の電圧値と所定値とを比較し、電圧値が所定値よりも大きい場合に、FETに出力されている制御信号を停止させるようにしている。特許文献2では、インバータ回路の各相に流れる実電流値と推定電流値のような、実測あるいは推定によって求めた2つの電流値を比較することにより、各相に流れる電流値の異常を検出するようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−357463号公報
【特許文献2】特開2005−143153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような上下一対のスイッチング素子を各相に有するインバータ回路において、ある相のスイッチング素子が、素子自体の異常によりオンした状態のままとなり、オフ状態に戻らなくなることがある。また、素子自体は正常であっても、素子に制御信号を与える制御回路が異常でオン信号を出力し続けることにより、スイッチング素子がオン状態のままとなり、オフ状態に戻らなくなることがある。このようにスイッチング素子がオン状態のままとなる故障を、以下では「オン故障」と呼ぶことにする。
【0006】
ところで、各相の下側のスイッチング素子にそれぞれモータの相電流を検出するためのシャント抵抗が接続されたインバータ回路においては、上側のスイッチング素子のオン故障は検出できるが、下側のスイッチング素子のオン故障は検出できない。その理由は、以下のとおりである。下側のスイッチング素子のオン故障を検出するには、上側のスイッチング素子がオン(下側のスイッチング素子がオフ)となる期間において、下側のスイッチング素子に流れる電流を検出する必要がある。しかし、下側のスイッチング素子にシャント抵抗が接続されたインバータ回路の場合、上側のスイッチング素子がオフ(下側のスイッチング素子がオン)となる期間でサンプリングを行って、シャント抵抗の両端電圧をサンプルホールドすることで、モータの相電流を検出する。そのため、上側のスイッチング素子がオンとなる期間では、サンプリングが行われず、下側のスイッチング素子に流れる電流を検出できないからである。
【0007】
そこで、本発明の課題は、インバータ回路における下側のスイッチング素子のオン故障を検出することが可能な多相モータ駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る多相モータ駆動装置は、複数の相のそれぞれに対応して上下一対のスイッチング素子が設けられ、各相の下側のスイッチング素子にそれぞれ相電流検出用のシャント抵抗が接続され、各相における一対のスイッチング素子の接続点から多相モータ駆動用の電圧が取り出されるように構成されたインバータ回路と、このインバータ回路の各スイッチング素子のオン・オフ動作を制御する制御手段とを備え、上側のスイッチング素子のオフ期間にシャント抵抗に流れる電流を検出する多相モータ駆動装置であって、ある相のシャント抵抗に流れる電流の検出タイミングを、当該相における上側のスイッチング素子のオフ期間からオン期間へシフトさせて、オン期間にその相のシャント抵抗に流れる電流に基づき、当該相における下側のスイッチング素子がオン状態のままとなるオン故障か否かを判定する判定手段と、検出タイミングをシフトさせたときの当該相の電流値を、他の相のシャント抵抗に流れる電流に基づいて推定する電流値推定手段とを設けたものである。
【0009】
このように、シャント抵抗に流れる電流の検出タイミングを、上側のスイッチング素子がオンとなる期間へシフトさせることにより、下側のスイッチング素子がオフとなる期間において当該素子に流れる電流を検出することができる。そして、この期間において下側のスイッチング素子にオン故障が発生した場合は、上下のスイッチング素子が共にオンとなってシャント抵抗に異常電流が流れるので、この異常電流を検出することで、下側のスイッチング素子がオン故障であると判定することができる。また、単に検出タイミングをシフトさせただけでは、上側のスイッチング素子のオフ期間(下側のスイッチング素子のオン期間)において本来必要な相電流の検出ができなくなるが、本発明では、検出タイミングをシフトさせたときの当該相の電流値を、他の相のシャント抵抗に流れる電流に基づいて推定することにより、この問題を解決することができる。
【0010】
本発明において、故障判定の手順としてはいくつかのものが考えられる。例えば、検出タイミングのシフトに基づくオン故障有無の判定を各相について順次行い、全ての相についてオン故障有無の判定が終了すると、続いて、検出タイミングをシフトさせずに、上側のスイッチング素子のオフ期間において各相のシャント抵抗に流れる相電流をそれぞれ検出し、検出された相電流に基づいて他の故障の有無を判定する方法が考えられる。
【0011】
これによると、検出タイミングをシフトさせて各相ごとにオン故障有無の判定を行った後に、検出タイミングをシフトさせない通常の相電流検出に基づく故障判定が行われるので、各相における下側のスイッチング素子のオン故障だけでなく、上側のスイッチング素子のオン故障や相電流検出回路の故障などの他の故障も診断することができる。この結果、より精度の高い故障判定を行うことができる。
【0012】
また、他の手順として、ある相について検出タイミングのシフトに基づくオン故障有無の判定を行った後、次の相について同様の判定を行う前に、検出タイミングをシフトさせずに、上側のスイッチング素子のオフ期間において各相のシャント抵抗に流れる相電流をそれぞれ検出し、検出された相電流に基づいて他の故障の有無を判定する方法が考えられる。
【0013】
これによると、上記と同様に、各相における下側のスイッチング素子のオン故障だけでなく、他の故障も診断できるので、より精度の高い故障判定を行うことができる。また、相電流検出回路の応答性によっては、ある相について検出タイミングをシフトさせてオン故障判定を行った後、直ちに、その相について検出タイミングを元に戻し、次の相について検出タイミングをシフトさせてオン故障判定へ移行することが困難な場合があるが、ある相のオン故障判定から次の相のオン故障判定へ移る前に、通常の相電流検出に基づく故障判定を行うステップを介在させることで、相電流検出回路の応答性に問題がある場合でも円滑な故障判定を行うことができる。
【0014】
本発明では、1つの相についてのオン故障有無の判定を所定回数繰り返すようにしてもよい。これにより、オン故障の判定精度を高めることができる。
【0015】
また、本発明では、検出タイミングをシフトさせたときの当該相の電流値を、他の相のシャント抵抗に流れる電流に基づいて推定する電流値推定手段に代えて、当該相における上側のスイッチング素子のオフ期間においてシャント抵抗に流れる電流に基づき電流値を算出する電流値算出手段を用いてもよい。
【0016】
この場合は、上側のスイッチング素子のオン期間とオフ期間の両方においてサンプリングを実施すればよい。これにより、検出タイミングをシフトさせたときの当該相の電流値を、推定値ではなく実測値として得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シャント抵抗に流れる電流の検出タイミングをシフトさせることによって、インバータ回路における下側のスイッチング素子のオン故障を検出することが可能な多相モータ駆動装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る多相モータ駆動装置の電気的構成を示す図である。1はCPUやメモリから構成される制御部、2は制御部1からの電圧指令信号に基づいて所定のデューティ比を持ったPWM信号を出力する公知のPWM回路、3はPWM回路2からのPWM信号に基づいてモータ駆動用の3相電圧(U相電圧、V相電圧、W相電圧)を出力するインバータ回路、4はインバータ回路3から出力される3相電圧により駆動されるモータ、4u、4v、4wはモータ4の巻線、5u、5v、5wは相電流検出用の電圧を所定区間にわたってサンプリングし、サンプルホールドするサンプルホールド回路、6u、6v、6wはサンプルホールド回路5u、5v、5wの出力を増幅する直流増幅回路である。制御部1、PWM回路2、インバータ回路3、サンプルホールド回路5u、5v、5wおよび直流増幅回路6u、6v、6wによって、多相モータ駆動装置が構成される。また、制御部1は、本発明における判定手段、電流値推定手段、電流値算出手段の一実施形態であり、制御部1およびPWM回路2は、本発明における制御手段の一実施形態である。
【0019】
インバータ回路3は、バッテリEの正極と負極(グランド)との間に接続されており、バッテリEの直流電圧を交流電圧に変換する。このインバータ回路3は公知の回路であって、U相、V相、W相のそれぞれに対応して設けられた上下一対のスイッチング素子Q1〜Q6を備えており、これらのスイッチング素子Q1〜Q6には、それぞれ還流用のダイオードD1〜D6が並列に接続されている。スイッチング素子Q1〜Q6はMOS型FET(電界効果トランジスタ)から構成されるが、これに代えてIGBT(絶縁ゲート型バイポーラモードトランジスタ)などの素子を用いてもよい。各スイッチング素子Q1〜Q6のゲートには、PWM回路2から6種類(U相上、U相下、V相上、V相下、W相上、W相下)のPWM信号が個別に与えられる。PWM信号のオン(High)の区間では、スイッチング素子Q1〜Q6はオン(導通状態)となり、PWM信号のオフ(Low)の区間では、スイッチング素子Q1〜Q6はオフ(遮断状態)となる。
【0020】
このようなスイッチング素子Q1〜Q6のオン・オフ動作によって、各相における一対のスイッチング素子の接続点a、c、eから、多相モータ駆動用のU相電圧、V相電圧、W相電圧が取り出され、モータ4に供給される。すなわち、スイッチング素子Q1、Q2の接続点aからは、U相電圧が取り出され、モータ4のU相巻線4uに与えられる。スイッチング素子Q3、Q4の接続点cからは、V相電圧が取り出され、モータ4のV相巻線4vに与えられる。スイッチング素子Q5、Q6の接続点eからは、W相電圧が取り出され、モータ4のW相巻線4wに与えられる。モータ4は、例えば3相ブラシレスモータからなる。
【0021】
インバータ回路3における各相の下側のスイッチング素子Q2、Q4、Q6には、それぞれ、モータ4の相電流を検出するためのシャント抵抗Ru、Rv、Rwが接続されている。シャント抵抗Ruの両端に生じる電圧(b点の電位)はサンプルホールド回路5uに入力される。シャント抵抗Rvの両端に生じる電圧(d点の電位)はサンプルホールド回路5vに入力される。シャント抵抗Rwの両端に生じる電圧(f点の電位)はサンプルホールド回路5wに入力される。
【0022】
サンプルホールド回路5u、5v、5wは、それぞれ、スイッチSu、Sv、Swと、コンデンサCu、Cv、Cwと、差動アンプAu、Av、Awとを備えている。制御部1からのサンプリング信号SPu、SPv、SPwによって、スイッチSu、Sv、Swが所定のタイミングでオンになると、シャント抵抗Ru、Rv、Rwの両端の電圧がサンプルホールド回路5u、5v、5wに取り込まれ、コンデンサCu、Cv、Cwに充電される。その後、スイッチSu、Sv、Swがオフになると、コンデンサCu、Cv、Cwに充電された電圧が保持される。このようにしてサンプルホールドされた電圧は、直流増幅回路6u、6v、6wで増幅されて、相電流検出信号Iu、Iv、Iwとして出力される。これらの相電流検出信号Iu、Iv、Iwは、モータ4の各相に流れる実際の電流の値を表しており、相電流検出値として制御部1に与えられる。
【0023】
制御部1では、トルクセンサ(図示省略)で検出されたトルク値と、車速センサ(図示省略)で検出された車速値とに基づいて、モータ4の各相に流すべき電流、すなわち必要な操舵補助力を得るためのモータ電流の目標値を算出し、当該目標値と相電流検出値Iu、Iv、Iwとを比較して、それらの偏差を求める。そして、得られた偏差に基づいて、PWM回路2に与える各相の指令電圧Vu、Vv、Vwを演算する。この指令電圧は、モータ4の各相巻線4u、4v、4wに目標値の電流が流れるようにフィードバック制御を行うためのパラメータである。PWM回路2は、指令電圧Vu、Vv、Vwに応じたU相電圧、V相電圧、W相電圧がモータ4へ供給されるように、指令電圧に基づいて所定のデューティ比を持った前述の6種類のPWM信号を生成し、それらをインバータ回路3のスイッチング素子Q1〜Q6へそれぞれ供給する。
【0024】
図2は、制御部1からPWM回路2へ与えられる指令電圧Vu、Vv、Vwの信号波形を示した図である。ここでは、PWM信号のデューティ比が50%となるときの指令電圧値を0ボルトとしてある。したがって、指令電圧値が+の値をとる場合は、PWM信号のデューティ比は50%を超え、指令電圧値が−の値をとる場合は、PWM信号のデューティ比は50%を下回る。
【0025】
例えば、図2のタイミングtにおけるU相指令電圧VuとV相指令電圧Vvについて考えると(説明を簡単にするためW相指令電圧Vwについては省略)、タイミングtでのU相指令電圧Vuは+の値、V相指令電圧Vvは−の値となっている。したがって、各指令電圧Vu、Vvと同じ電圧がインバータ回路3のa点、c点からそれぞれ出力される場合、図1のa点の電位(U相電圧)は+、c点の電位(V相電圧)は−となるから、U相からV相へ電流が流れる。このとき、U相上のスイッチング素子Q1に与えられるPWM信号のデューティ比は50%を超える値となる。例えばデューティ比=70%とすると、素子Q1がオンしている期間とオフしている期間との比率は7:3となる。一方、V相上のスイッチング素子Q3に与えられるPWM信号のデューティ比は50%を下回る値となる。例えばデューティ比=30%とすると、素子Q3がオンしている期間とオフしている期間との比率は3:7となる。
【0026】
インバータ回路3とモータ4間の通電状態には、スイッチング素子Q1〜Q6のオン・オフの態様に応じて、図3〜図5のような3つのパターンがある。各図は図1の一部を抽出した回路であって、ここでは故障の発生していない正常状態での電流経路が示されている。
【0027】
図3は、パターンAを示しており、スイッチング素子Q1〜Q4のオン・オフ状態を実線と破線で表している(図4、図5においても同様)。実線で描かれているスイッチング素子Q1、Q4はオン状態にあり、破線で描かれているスイッチング素子Q2、Q3はオフ状態にある。パターンAは、1つの相(U相)における上側のスイッチング素子(Q1)がオン、下側のスイッチング素子(Q2)がオフであり、他の相(V相)における上側のスイッチング素子(Q3)がオフ、下側のスイッチング素子(Q4)がオンとなるパターンである。なお、図3では簡単のためにW相を省略してあるが、U相とW相、およびV相とW相についても、U相とV相と同様の関係が成立する。後述する他のパターンについても同様である。図3では、U相上のスイッチング素子Q1がオンで、V相下のスイッチング素子Q4がオンとなるので、電源Eの直流電圧に基づき、太矢印で示すように、スイッチング素子Q1→モータ4のU相巻線4u→V相巻線4v→スイッチング素子Q4→シャント抵抗Rvの経路で相電流Iが流れる。
【0028】
図4は、パターンBを示している。パターンBは、1つの相(U相)における上側のスイッチング素子(Q1)がオフ、下側のスイッチング素子(Q2)がオンであり、他の相(V相)においても上側のスイッチング素子(Q3)がオフ、下側のスイッチング素子(Q4)がオンとなるパターンである。図4では、U相下のスイッチング素子Q2がオンで、V相下のスイッチング素子Q4がオンとなるので、モータ4の巻線4u、4vに蓄えられた電気エネルギーに基づき、太矢印で示すように、U相巻線4u→V相巻線4v→スイッチング素子Q4→シャント抵抗Rv→シャント抵抗Ru→スイッチング素子Q2の経路で相電流Iが流れる。
【0029】
図5は、パターンCを示している。パターンCは、1つの相(U相)における上側のスイッチング素子(Q1)がオン、下側のスイッチング素子(Q2)がオフであり、他の相(V相)においても上側のスイッチング素子(Q3)がオン、下側のスイッチング素子(Q4)がオフとなるパターンである。図5では、U相上のスイッチング素子Q1がオンで、V相上のスイッチング素子Q3がオンとなるので、モータ4の巻線4u、4vに蓄えられた電気エネルギーに基づき、太矢印で示すように、U相巻線4u→V相巻線4v→スイッチング素子Q3→スイッチング素子Q1の経路で相電流Iが流れる。このパターンCの場合は、シャント抵抗Ru、Rvに相電流Iは流れない。
【0030】
次に、図1の多相モータ駆動装置における相電流の検出について説明する。なお、以下では、U相電流を検出する場合を例に挙げるが、他の相の電流も同様の原理に従って検出することができる。図3〜図5で説明した各パターンのうち、U相電流検出用のシャント抵抗Ruに相電流が流れるのは、パターンB(図4)の場合である。パターンBにおいては、a点の電位が+、c点の電位が−であって、U相からV相に相電流Iが流れる。このとき、U相上のスイッチング素子Q1に与えられるPWM信号のデューティ比は50%を超え、U相下のスイッチング素子Q2に与えられるPWM信号のデューティ比は50%を下回ることについては、前述のとおりである。
【0031】
図6は、U相電流の検出方法を説明するためのタイムチャートであって、図2のタイミングt(厳密にはt近傍の微小区間)における各信号の波形を表したものである。図6において、(a)〜(d)は、それぞれU相上、U相下、V相上、V相下の各スイッチング素子Q1〜Q4にPWM回路2から与えられるPWM信号を示している。(e)はシャント抵抗Ruに流れる電流によって当該抵抗Ruの両端に生じる電圧を示している。(f)はシャント抵抗Rvに流れる電流によって当該抵抗Rvの両端に生じる電圧を示している。(g)は各区間に該当する図3〜図5のパターンを示している。(h)はU相電流を検出するために制御部1から出力されるサンプリング信号SPuを示している。(i)はV相電流を検出するために制御部1から出力されるサンプリング信号SPvを示している。また、TはPWM信号の1周期を表しており、t1〜t14は各タイミングを表している。
【0032】
図6のように、U相電流を検出する場合は、U相上のスイッチング素子Q1がオフ(U相下のスイッチング素子Q2がオン)となる期間(t2〜t4、t8〜t10)において、サンプリング信号SPuによりシャント抵抗Ruの電圧を検出する(t3、t9)。しかし、この方法では、U相下のスイッチング素子Q2のオン故障を検出するために必要な、U相上のスイッチング素子Q1のオン期間(t4〜t8、t10〜t14)におけるサンプリングが行われないので、U相下のスイッチング素子Q2のオン故障を検出することができない。
【0033】
図7は、本発明におけるオン故障の検出方法を説明するためのタイムチャートである。図7の各符号は、図6の各符号に対応している。図7においては、(h)に示すU相電流検出サンプリング信号SPuを、破線のようにU相上のスイッチング素子Q1のオフ期間(t2〜t4、t8〜t10)では発生させずに、実線のようにオン期間(t4〜t8、t10〜t14)において発生させている(t6、t12)。すなわち、U相のシャント抵抗Ruに流れる電流の検出タイミングを、U相上のスイッチング素子Q1のオフ期間からオン期間へシフトさせている。
【0034】
U相下のスイッチング素子Q2にオン故障が発生すると、このスイッチング素子Q2は、PWM回路2からの信号に関係なく、図7(b)のようにオン状態のままとなる。そして、U相上のスイッチング素子Q1がオンとなる期間では、上下のスイッチング素子Q1、Q2が共にオン状態となって、両素子を通じてシャント抵抗Ruに異常電流(大電流)が流れるため、図7(e)のクロスハッチングで示すように、シャント抵抗Ruの両端に大きな電圧が発生する。そこで、図7(h)のように、U相上のスイッチング素子Q1のオン期間におけるt6、t12のタイミングでサンプリングを行えば、この大きな電圧が検出されるので、これによってU相下のスイッチング素子Q2がオン故障であると判定することができる。
【0035】
一方、U相下のスイッチング素子Q2にオン故障が発生していない場合は、U相上のスイッチング素子Q1のオン期間に、スイッチング素子Q2はオフ状態にあって電流が流れないため、t6、t12のタイミングでサンプリングを行ってもシャント抵抗Ruの電圧は検出されない。これによって、U相下のスイッチング素子Q2がオン故障ではないと判定することができる。
【0036】
以上述べたような処理、すなわち、シャント抵抗に流れる電流の検出タイミングを、上側のスイッチング素子のオフ期間からオン期間へシフトさせてサンプリングを行う処理を、各相について順番に行うことによって、オン故障判定のための特別な回路を付加しなくても、既存のシャント抵抗を利用して、各相における下側のスイッチング素子のオン故障の有無を判定することができる。
【0037】
図8は、本発明による故障判定手順の概略を示したフローチャート、図9〜図12は、図8の各ステップの詳細を示したフローチャートである。各フローチャートの手順は、制御部1に備わるCPUにより実行される。
【0038】
図8において、ステップS1では、U相のシャント抵抗Ruに流れる電流の検出タイミングをシフトさせて、U相下のスイッチング素子Q2のオン故障を検出する処理を行う。それが終わると、ステップS2に移り、次はV相のシャント抵抗Rvに流れる電流の検出タイミングをシフトさせて、V相下のスイッチング素子Q4のオン故障を検出する処理を行う。それが終わると、ステップS3に移り、次はW相のシャント抵抗Rwに流れる電流の検出タイミングをシフトさせて、W相下のスイッチング素子Q6のオン故障を検出する処理を行う。
【0039】
このようにして、全ての相について検出タイミングのシフト(図7)に基づくオン故障の検出が終了すると、ステップS4に移り、今度は検出タイミングをシフトさせずに(図6)、U相、V相、W相のそれぞれにつき、上側のスイッチング素子Q1、Q3、Q5のオフ期間において、各相のシャント抵抗Ru、Rv、Rwに流れる相電流をそれぞれ検出し、この相電流に基づいて各相の故障や相電流検出回路の故障を検出する処理を行う。
【0040】
図9は、図8のステップS1の詳細な手順を示したフローチャートである。ステップS11では、U相のサンプリング点を移動させる処理を行う。すなわち、U相のシャント抵抗Ruに流れる電流(U相電流)の検出タイミングを、U相上のスイッチング素子Q1のオフ期間からオン期間へシフトさせる(図7(h))。次に、ステップS12へ進んで、V相のシャント抵抗Rvに流れる電流(V相電流)の電流値を測定する。このときの電流検出は、V相上のスイッチング素子Q3のオフ期間に行われる。すなわち、V相電流の検出タイミングはシフトしない(図7(i))。次に、ステップS13へ進んで、W相のシャント抵抗Rwに流れる電流(W相電流)の電流値を測定する。このときの電流検出は、W相上のスイッチング素子Q5のオフ期間に行われる。すなわち、W相電流の検出タイミングもシフトしない。
【0041】
続いてステップS14へ移り、ステップS12およびS13で得られたV相電流とW相電流の電流値から、U相電流の電流値を推定する。周知のように、U相電流値をIu、V相電流値をIv、W相電流値をIwとしたとき、Iu+Iv+Iw=0であるから、この関係を用いてU相電流値Iuを推定することができる。本来、U相電流は、U相上のスイッチング素子Q1のオフ期間(U相下のスイッチング素子Q2のオン期間)において検出されるものであるが、U相のサンプリング点を移動したことにより、これができなくなるため、上述のように電流値を推定することで、モータ4の制御に必要なU相電流の電流値を得るようにしている。
【0042】
次に、ステップS15において、ステップS11で移動させたサンプリング点において検出されたシャント抵抗Ruの両端電圧に基づいて、U相下のスイッチング素子Q2のオン故障の有無を判定する。前述のように、スイッチング素子Q2がオン故障しておれば、シャント抵抗Ruの両端に大きな電圧が発生し、オン故障していなければ、シャント抵抗Ruの両端に電圧は発生しないので、これによりオン故障の有無を判定することができる。
【0043】
次に、ステップS16において、ステップS12で得られたV相電流値に基づいて、V相に故障が発生しているか否かを判定する。さらに、ステップS17において、ステップS13で得られたW相電流値に基づいて、W相に故障が発生しているか否かを判定する。これらの故障判定は、従来と同じ方法で行われる。
【0044】
ステップS18では、ステップS15での判定の結果、U相下のスイッチング素子Q2がオン故障しておれば(ステップS18:YES)、ステップS22へ移って異常時処理を行う。具体的には、インバータ回路3からモータ4への電源供給を停止して、モータ4を停止させる処理を行う。また、必要に応じて警報を出力する。一方、スイッチング素子Q2がオン故障していなければ(ステップS18:NO)、ステップS19へ移る。
【0045】
ステップS19では、ステップS16での判定の結果、V相に故障が発生しておれば(ステップS19:YES)、ステップS22へ移って上述した異常時処理を行う。一方、V相に故障が発生していなければ(ステップS19:NO)、ステップS20へ移る。
【0046】
ステップS20では、ステップS17での判定の結果、W相に故障が発生しておれば(ステップS20:YES)、ステップS22へ移って上述した異常時処理を行う。一方、W相に故障が発生していなければ(ステップS20:NO)、ステップS21へ移る。
【0047】
ステップS21では、ステップS11〜S20の処理を所定回数繰り返したか否かを判定し、所定回数繰り返していなければ(ステップS21:NO)、ステップS11へ戻って、所定回数になるまでステップS11〜S20を反復実行する。そして、ステップS11〜S20の処理が所定回数繰り返されると(ステップS21:YES)、U相についてのオン故障検出処理が終了する。このとき、ステップS11でスイッチング素子Q1のオン期間へシフトされたサンプリング点は、元の位置(スイッチング素子Q1のオフ期間)に戻される。
【0048】
図10は、図8のステップS2の詳細な手順を示したフローチャートである。ステップS31では、V相のサンプリング点を移動させる処理を行う。すなわち、V相のシャント抵抗Rvに流れる電流(V相電流)の検出タイミングを、V相上のスイッチング素子Q3のオフ期間からオン期間へシフトさせる。次に、ステップS32へ進んで、U相のシャント抵抗Ruに流れる電流(U相電流)の電流値を測定する。このときの電流検出は、U相上のスイッチング素子Q1のオフ期間に行われる。すなわち、U相電流の検出タイミングはシフトしない。次に、ステップS33へ進んで、W相のシャント抵抗Rwに流れる電流(W相電流)の電流値を測定する。このときの電流検出は、W相上のスイッチング素子Q5のオフ期間に行われる。すなわち、W相電流の検出タイミングもシフトしない。
【0049】
続いてステップS34へ移り、ステップS32およびS33で得られたU相電流とW相電流の電流値から、前述のIu+Iv+Iw=0の関係を用いてV相電流の電流値を推定する。本来、V相電流は、V相上のスイッチング素子Q3のオフ期間(V相下のスイッチング素子Q4のオン期間)において検出されるものであるが、V相のサンプリング点を移動したことにより、これができなくなるため、上述のように電流値を推定することで、モータ4の制御に必要なV相電流の電流値を得るようにしている。
【0050】
次に、ステップS35において、ステップS31で移動させたサンプリング点において検出されたシャント抵抗Rvの両端電圧に基づいて、V相下のスイッチング素子Q4のオン故障の有無を判定する。U相の場合と同様に、スイッチング素子Q4がオン故障しておれば、シャント抵抗Rvの両端に大きな電圧が発生し、オン故障していなければ、シャント抵抗Rvの両端に電圧は発生しないので、これによりオン故障の有無を判定することができる。
【0051】
次に、ステップS36において、ステップS32で得られたU相電流値に基づいて、U相に故障が発生しているか否かを判定する。さらに、ステップS37において、ステップS33で得られたW相電流値に基づいて、W相に故障が発生しているか否かを判定する。これらの故障判定は、従来と同じ方法で行われる。
【0052】
ステップS38では、ステップS35での判定の結果、V相下のスイッチング素子Q4がオン故障しておれば(ステップS38:YES)、ステップS42へ移って、前述のステップS22と同様の異常時処理を行う。一方、スイッチング素子Q4がオン故障していなければ(ステップS38:NO)、ステップS39へ移る。
【0053】
ステップS39では、ステップS36での判定の結果、U相に故障が発生しておれば(ステップS39:YES)、ステップS42へ移って上述した異常時処理を行う。一方、U相に故障が発生していなければ(ステップS39:NO)、ステップS40へ移る。
【0054】
ステップS40では、ステップS37での判定の結果、W相に故障が発生しておれば(ステップS40:YES)、ステップS42へ移って上述した異常時処理を行う。一方、W相に故障が発生していなければ(ステップS40:NO)、ステップS41へ移る。
【0055】
ステップS41では、ステップS31〜S40の処理を所定回数繰り返したか否かを判定し、所定回数繰り返していなければ(ステップS41:NO)、ステップS31へ戻って、所定回数になるまでステップS31〜S40を反復実行する。そして、ステップS31〜S40の処理が所定回数繰り返されると(ステップS41:YES)、V相についてのオン故障検出処理が終了する。このとき、ステップS31でスイッチング素子Q3のオン期間へシフトされたサンプリング点は、元の位置(スイッチング素子Q3のオフ期間)に戻される。
【0056】
図11は、図8のステップS3の詳細な手順を示したフローチャートである。ステップS51では、W相のサンプリング点を移動させる処理を行う。すなわち、W相のシャント抵抗Rwに流れる電流(W相電流)の検出タイミングを、W相上のスイッチング素子Q5のオフ期間からオン期間へシフトさせる。次に、ステップS52へ進んで、U相のシャント抵抗Ruに流れる電流(U相電流)の電流値を測定する。このときの電流検出は、U相上のスイッチング素子Q1のオフ期間に行われる。すなわち、U相電流の検出タイミングはシフトしない。次に、ステップS53へ進んで、V相のシャント抵抗Rvに流れる電流(V相電流)の電流値を測定する。このときの電流検出は、V相上のスイッチング素子Q3のオフ期間に行われる。すなわち、V相電流の検出タイミングもシフトしない。
【0057】
続いてステップS54へ移り、ステップS52およびS53で得られたU相電流とV相電流の電流値から、前述のIu+Iv+Iw=0の関係を用いてW相電流の電流値を推定する。本来、W相電流は、W相上のスイッチング素子Q5のオフ期間(W相下のスイッチング素子Q6のオン期間)において検出されるものであるが、W相のサンプリング点を移動したことにより、これができなくなるため、上述のように電流値を推定することで、モータ4の制御に必要なW相電流の電流値を得るようにしている。
【0058】
次に、ステップS55において、ステップS51で移動させたサンプリング点において検出されたシャント抵抗Rwの両端電圧に基づいて、W相下のスイッチング素子Q6のオン故障の有無を判定する。U相、V相の場合と同様に、スイッチング素子Q6がオン故障しておれば、シャント抵抗Rwの両端に大きな電圧が発生し、オン故障していなければ、シャント抵抗Rwの両端に電圧は発生しないので、これによりオン故障の有無を判定することができる。
【0059】
次に、ステップS56において、ステップS52で得られたU相電流値に基づいて、U相に故障が発生しているか否かを判定する。さらに、ステップS57において、ステップS53で得られたV相電流値に基づいて、V相に故障が発生しているか否かを判定する。これらの故障判定は、従来と同じ方法で行われる。
【0060】
ステップS58では、ステップS55での判定の結果、W相下のスイッチング素子Q6がオン故障しておれば(ステップS58:YES)、ステップS62へ移って、前述のステップS22と同様の異常時処理を行う。一方、スイッチング素子Q6がオン故障していなければ(ステップS58:NO)、ステップS59へ移る。
【0061】
ステップS59では、ステップS56での判定の結果、U相に故障が発生しておれば(ステップS59:YES)、ステップS62へ移って上述した異常時処理を行う。一方、U相に故障が発生していなければ(ステップS59:NO)、ステップS60へ移る。
【0062】
ステップS60では、ステップS57での判定の結果、V相に故障が発生しておれば(ステップS60:YES)、ステップS62へ移って上述した異常時処理を行う。一方、V相に故障が発生していなければ(ステップS60:NO)、ステップS61へ移る。
【0063】
ステップS61では、ステップS51〜S60の処理を所定回数繰り返したか否かを判定し、所定回数繰り返していなければ(ステップS61:NO)、ステップS51へ戻って、所定回数になるまでステップS51〜S60を反復実行する。そして、ステップS51〜S60の処理が所定回数繰り返されると(ステップS61:YES)、W相についてのオン故障検出処理が終了する。このとき、ステップS51でスイッチング素子Q5のオン期間へシフトされたサンプリング点は、元の位置(スイッチング素子Q5のオフ期間)に戻される。
【0064】
図12は、図8のステップS4の詳細な手順を示したフローチャートである。ステップS71では、U相、V相、W相のサンプリング点(相電流検出タイミング)を、通常の位置に設定する。すなわち、U相については、U相上のスイッチング素子Q1のオフ期間にサンプリング点を設定し(図6(h))、V相については、V相上のスイッチング素子Q3のオフ期間にサンプリング点を設定し(図6(i))、W相については、W相上のスイッチング素子Q5のオフ期間にサンプリング点を設定する(図示省略)。
【0065】
次に、ステップS72において、ステップS71で設定したU相のサンプリング点でサンプリングを行い、U相のシャント抵抗Ruに流れるU相電流の電流値を測定する。次のステップS73では、ステップS71で設定したV相のサンプリング点でサンプリングを行い、V相のシャント抵抗Rvに流れるV相電流の電流値を測定する。次のステップS74では、ステップS71で設定したW相のサンプリング点でサンプリングを行い、W相のシャント抵抗Rwに流れるW相電流の電流値を測定する。
【0066】
次に、ステップS75において、ステップS72で得られたU相電流値に基づいて、U相に故障が発生しているか否かを判定する。また、ステップS76において、ステップS73で得られたV相電流値に基づいて、V相に故障が発生しているか否かを判定する。さらに、ステップS77において、ステップS74で得られたW相電流値に基づいて、W相に故障が発生しているか否かを判定する。これらの故障判定は、従来と同じ方法で行われる。
【0067】
次に、ステップS78において、相電流検出回路に故障が発生しているか否かを判定する。ここでいう相電流検出回路は、サンプルホールド回路5u、5v、5wのことである。正常状態では、U相、V相、W相の各相電流値の和はゼロになるはずであるから、ステップS78では、ステップS72〜S74で測定したU相電流値Iu、V相電流値Iv、W相電流値Iwを用いて、Iu+Iv+Iw=0が成立するか否かを判定する。この関係が成立しない場合、つまり各相電流値の和がゼロでない場合は、相電流検出機能に異常があり、サンプルホールド回路5u、5v、5wのいずれか(または全部)が故障していることになる。
【0068】
ステップS79では、ステップS75での判定の結果、U相に故障が発生しておれば(ステップS79:YES)、ステップS84へ移って前述のステップS22と同様の異常時処理を行い、U相に故障が発生していなければ(ステップS79:NO)、ステップS80へ移る。
【0069】
ステップS80では、ステップS76での判定の結果、V相に故障が発生しておれば(ステップS80:YES)、ステップS84へ移って異常時処理を行い、V相に故障が発生していなければ(ステップS80:NO)、ステップS81へ移る。
【0070】
ステップS81では、ステップS77での判定の結果、W相に故障が発生しておれば(ステップS81:YES)、ステップS84へ移って異常時処理を行い、W相に故障が発生していなければ(ステップS81:NO)、ステップS82へ移る。
【0071】
ステップS82では、ステップS78での判定の結果、相電流検出回路に故障が発生しておれば(ステップS82:YES)、ステップS84へ移って異常時処理を行い、相電流検出回路に故障が発生していなければ(ステップS82:NO)、ステップS83へ移る。
【0072】
ステップS83では、ステップS71〜S82の処理を所定回数繰り返したか否かを判定し、所定回数繰り返していなければ(ステップS83:NO)、ステップS71へ戻って、所定回数になるまでステップS71〜S82を反復実行する。そして、ステップS71〜S82の処理が所定回数繰り返されると(ステップS83:YES)、故障検出処理が終了する。
【0073】
このように、上述した実施形態においては、検出タイミングのシフトに基づくオン故障有無の判定をU相、V相、W相について順次行い(図8のステップS1〜S3)、全ての相についてオン故障有無の判定が終了すると、続いて、検出タイミングをシフトさせずに、上側のスイッチング素子のオフ期間において各相のシャント抵抗に流れる相電流をそれぞれ検出し、検出された相電流に基づいて、U相、V相、W相の故障有無や相電流検出回路の故障有無を判定している(図8のステップS4)。このため、各相における下側のスイッチング素子Q2、Q4、Q6のオン故障だけでなく、上側のスイッチング素子Q1、Q3、Q5のオン故障や、サンプルホールド回路5u、5v、5wの故障などの他の故障も判定することができる。この結果、より精度の高い故障判定を行うことができる。
【0074】
図13は、本発明の他の実施形態による故障判定手順の概略を示したフローチャートである。本手順は、制御部1に備わるCPUにより実行される。図13において、ステップS101では、U相のシャント抵抗Ruに流れる電流の検出タイミングをシフトさせて、U相下のスイッチング素子Q2のオン故障を検出する処理を行う。この処理は、図8のステップS1の処理と同じである。それが終わると、ステップS102に移り、検出タイミングをシフトさせずに、U相、V相、W相のそれぞれにつき、上側のスイッチング素子Q1、Q3、Q5のオフ期間において、各相のシャント抵抗Ru、Rv、Rwに流れる相電流をそれぞれ検出し、この相電流に基づいて各相の故障や相電流検出回路の故障を検出する処理を行う。この処理は、図8のステップS4の処理と同じである。
【0075】
次に、ステップS103に移り、V相のシャント抵抗Rvに流れる電流の検出タイミングをシフトさせて、V相下のスイッチング素子Q4のオン故障を検出する処理を行う。この処理は、図8のステップS2の処理と同じである。それが終わると、ステップS104に移って、ステップS102と同じ処理、すなわち各相の相電流に基づく故障検出処理を行う。
【0076】
次に、ステップS105に移り、W相のシャント抵抗Rwに流れる電流の検出タイミングをシフトさせて、W相下のスイッチング素子Q6のオン故障を検出する処理を行う。この処理は、図8のステップS3の処理と同じである。それが終わると、ステップS106に移って、ステップS102と同じ各相の相電流に基づく故障検出処理を行い、それが終わると一連の処理を終了する。
【0077】
図13において、ステップS101、S103、S105の詳細手順は、それぞれ図9、図10、図11と同じであるので、ここでは説明を省略する。また、ステップS102、S104、S106の詳細手順は、図12と同じであるので、ここでは説明を省略する。
【0078】
このように、図13の実施形態においては、ある相について検出タイミングのシフトに基づくオン故障有無の判定を行った後、次の相について同様の判定を行う前に、検出タイミングをシフトさせずに、上側のスイッチング素子Q1、Q3、Q5のオフ期間において各相のシャント抵抗Ru、Rv、Rwに流れる相電流をそれぞれ検出し、検出された相電流に基づいて、U相、V相、W相の故障有無および相電流検出回路の故障有無を判定している。このため、図8の場合と同様に、各相における下側のスイッチング素子Q2、Q4、Q6のオン故障だけでなく、他の故障も診断できるので、より精度の高い故障判定を行うことができる。
【0079】
ところで、サンプルホールド回路5u、5v、5wの時定数が大きい(応答性が悪い)と、前回のサンプリング値の影響が残って正確な電流検出値が得られなくなるため、サンプルホールド回路の応答性によっては、図8の実施形態のように、ある相について検出タイミングをシフトさせてオン故障判定を行った後、直ちに、その相について検出タイミングを元に戻し、次の相について検出タイミングをシフトさせてオン故障判定へ移行することが困難な場合がある。しかるに、図13のように、ある相のオン故障判定から次の相のオン故障判定へ移る前に、通常の相電流検出に基づく故障判定を行うステップ(S102、S104)を介在させることで、サンプルホールド回路の応答性に問題がある場合でも円滑な故障判定を行うことができる。
【0080】
図14は、本発明の他の実施形態によるオン故障の検出方法を説明するためのタイムチャートである。図14の各符号は、図6および図7の各符号に対応している。
【0081】
先の実施形態(図7)においては、検出タイミングをシフトさせたときの当該相の電流値を、他の相のシャント抵抗に流れる電流に基づいて推定するようにしたが、図14の実施形態においては、検出タイミングをシフトさせたときの当該相の電流値を、当該相における上側のスイッチング素子のオフ期間においてシャント抵抗に流れる電流に基づき算出するようにしている。
【0082】
例えば、U相についてみると、図14の場合は、U相上のスイッチング素子Q1のオン期間とオフ期間の両方において、U相電流検出サンプリング信号SPuが出力され、シャント抵抗Ruに流れる電流が検出される(図14(h))。t6とt12のタイミングでは、異常電流に基づくオン故障が検出され、t3とt9のタイミングでは、本来の相電流が検出される。これにより、検出タイミングをシフトさせたときのU相の電流値を、推定値ではなく実測値として得ることができる。他の相についても同様である。
【0083】
本発明では、以上述べた以外にも種々の実施形態を採用することができる。例えば、図9〜図11の手順においては、1つの相についてのオン故障有無の判定を所定回数繰り返しており(ステップS21、S41、S61)、これによってオン故障の判定精度を高めることができるが、オン故障有無の判定は、繰り返さずに1つの相につき1回だけ実行してもよい。同様に、図12の手順においては、相電流検出に基づく故障判定を所定回数繰り返しているが(ステップS83)、この判定は繰り返さずに1回だけ実行してもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、モータ4としてブラシレスモータを例に挙げたが、本発明は誘導電動機や同期電動機のような複数の相を有するモータを駆動するための多相モータ駆動装置全般に適用することができる。
【0085】
また、上記実施形態では、本発明を車両の電動パワーステアリング装置に適用した例を挙げたが、本発明はこれ以外の装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施形態に係る多相モータ駆動装置の電気的構成を示す図である。
【図2】指令電圧の信号波形を示した図である。
【図3】インバータ回路とモータ間の通電パターンを説明する図である。
【図4】インバータ回路とモータ間の通電パターンを説明する図である。
【図5】インバータ回路とモータ間の通電パターンを説明する図である。
【図6】U相電流の検出方法を説明するためのタイムチャートである。
【図7】本発明におけるオン故障の検出方法を説明するためのタイムチャートである。
【図8】本発明による故障判定手順の概略を示したフローチャートである。
【図9】図8のステップS1の詳細な手順を示したフローチャートである。
【図10】図8のステップS2の詳細な手順を示したフローチャートである。
【図11】図8のステップS3の詳細な手順を示したフローチャートである。
【図12】図8のステップS4の詳細な手順を示したフローチャートである。
【図13】本発明の他の実施形態による故障判定手順の概略を示したフローチャートである。
【図14】本発明の他の実施形態によるオン故障の検出方法を説明するためのタイムチャートである。
【符号の説明】
【0087】
1 制御部
2 PWM回路
3 インバータ回路
4 モータ
5u、5v、5w サンプルホールド回路(相電流検出回路)
6u、6v、6w 直流増幅回路
Q1〜Q6 スイッチング素子
D1〜D6 ダイオード
Ru、Rv、Rw シャント抵抗
E バッテリ
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両の電動パワーステアリング装置に用いられる多相モータ駆動装置に関し、特に、スイッチング素子の故障を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の電動パワーステアリング装置においては、ハンドルの操舵トルクに応じた操舵補助力をステアリング機構に与えるために、3相ブラシレスモータなどの多相モータが設けられる。この多相モータを駆動する装置は、制御部と、PWM(Pulse Width Modulation)回路と、インバータ回路とを備える。制御部は、トルクセンサで検出された操舵トルクに応じてモータに流すべき電流の目標値を算出し、この目標値とモータに実際に流れる電流の値との偏差に基づいて、PWM回路へ与える指令値を算出する。PWM回路は、指令値に応じたデューティ比を持つPWM信号を生成して、インバータ回路へ与える。インバータ回路は、PWM信号のデューティ比に応じてオン・オフする上下一対のスイッチング素子を各相ごとに有しており、これらのスイッチング素子のオン・オフ動作に基づき、デューティ比に応じた各相の電圧を出力し、この電圧によりモータを駆動する。モータの各相の電流は、スイッチング素子と直列に接続された相電流検出用のシャント抵抗の両端電圧を測定することにより検出され、この検出値がモータに実際に流れる電流の値となる。
【0003】
上記のような多相モータ駆動装置において、短絡等の故障が生じるとモータ駆動が正常に行えなくなることから、故障検出を行うための回路が設けられる。下記の特許文献1、2には、このような故障検出回路が示されている。特許文献1では、インバータ回路の各相の下側のFETのドレイン電圧とゲート電圧とに基づく異常判断用電圧を検出する検出回路を設け、この検出回路で検出された電圧の電圧値と所定値とを比較し、電圧値が所定値よりも大きい場合に、FETに出力されている制御信号を停止させるようにしている。特許文献2では、インバータ回路の各相に流れる実電流値と推定電流値のような、実測あるいは推定によって求めた2つの電流値を比較することにより、各相に流れる電流値の異常を検出するようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−357463号公報
【特許文献2】特開2005−143153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような上下一対のスイッチング素子を各相に有するインバータ回路において、ある相のスイッチング素子が、素子自体の異常によりオンした状態のままとなり、オフ状態に戻らなくなることがある。また、素子自体は正常であっても、素子に制御信号を与える制御回路が異常でオン信号を出力し続けることにより、スイッチング素子がオン状態のままとなり、オフ状態に戻らなくなることがある。このようにスイッチング素子がオン状態のままとなる故障を、以下では「オン故障」と呼ぶことにする。
【0006】
ところで、各相の下側のスイッチング素子にそれぞれモータの相電流を検出するためのシャント抵抗が接続されたインバータ回路においては、上側のスイッチング素子のオン故障は検出できるが、下側のスイッチング素子のオン故障は検出できない。その理由は、以下のとおりである。下側のスイッチング素子のオン故障を検出するには、上側のスイッチング素子がオン(下側のスイッチング素子がオフ)となる期間において、下側のスイッチング素子に流れる電流を検出する必要がある。しかし、下側のスイッチング素子にシャント抵抗が接続されたインバータ回路の場合、上側のスイッチング素子がオフ(下側のスイッチング素子がオン)となる期間でサンプリングを行って、シャント抵抗の両端電圧をサンプルホールドすることで、モータの相電流を検出する。そのため、上側のスイッチング素子がオンとなる期間では、サンプリングが行われず、下側のスイッチング素子に流れる電流を検出できないからである。
【0007】
そこで、本発明の課題は、インバータ回路における下側のスイッチング素子のオン故障を検出することが可能な多相モータ駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る多相モータ駆動装置は、複数の相のそれぞれに対応して上下一対のスイッチング素子が設けられ、各相の下側のスイッチング素子にそれぞれ相電流検出用のシャント抵抗が接続され、各相における一対のスイッチング素子の接続点から多相モータ駆動用の電圧が取り出されるように構成されたインバータ回路と、このインバータ回路の各スイッチング素子のオン・オフ動作を制御する制御手段とを備え、上側のスイッチング素子のオフ期間にシャント抵抗に流れる電流を検出する多相モータ駆動装置であって、ある相のシャント抵抗に流れる電流の検出タイミングを、当該相における上側のスイッチング素子のオフ期間からオン期間へシフトさせて、オン期間にその相のシャント抵抗に流れる電流に基づき、当該相における下側のスイッチング素子がオン状態のままとなるオン故障か否かを判定する判定手段と、検出タイミングをシフトさせたときの当該相の電流値を、他の相のシャント抵抗に流れる電流に基づいて推定する電流値推定手段とを設けたものである。
【0009】
このように、シャント抵抗に流れる電流の検出タイミングを、上側のスイッチング素子がオンとなる期間へシフトさせることにより、下側のスイッチング素子がオフとなる期間において当該素子に流れる電流を検出することができる。そして、この期間において下側のスイッチング素子にオン故障が発生した場合は、上下のスイッチング素子が共にオンとなってシャント抵抗に異常電流が流れるので、この異常電流を検出することで、下側のスイッチング素子がオン故障であると判定することができる。また、単に検出タイミングをシフトさせただけでは、上側のスイッチング素子のオフ期間(下側のスイッチング素子のオン期間)において本来必要な相電流の検出ができなくなるが、本発明では、検出タイミングをシフトさせたときの当該相の電流値を、他の相のシャント抵抗に流れる電流に基づいて推定することにより、この問題を解決することができる。
【0010】
本発明において、故障判定の手順としてはいくつかのものが考えられる。例えば、検出タイミングのシフトに基づくオン故障有無の判定を各相について順次行い、全ての相についてオン故障有無の判定が終了すると、続いて、検出タイミングをシフトさせずに、上側のスイッチング素子のオフ期間において各相のシャント抵抗に流れる相電流をそれぞれ検出し、検出された相電流に基づいて他の故障の有無を判定する方法が考えられる。
【0011】
これによると、検出タイミングをシフトさせて各相ごとにオン故障有無の判定を行った後に、検出タイミングをシフトさせない通常の相電流検出に基づく故障判定が行われるので、各相における下側のスイッチング素子のオン故障だけでなく、上側のスイッチング素子のオン故障や相電流検出回路の故障などの他の故障も診断することができる。この結果、より精度の高い故障判定を行うことができる。
【0012】
また、他の手順として、ある相について検出タイミングのシフトに基づくオン故障有無の判定を行った後、次の相について同様の判定を行う前に、検出タイミングをシフトさせずに、上側のスイッチング素子のオフ期間において各相のシャント抵抗に流れる相電流をそれぞれ検出し、検出された相電流に基づいて他の故障の有無を判定する方法が考えられる。
【0013】
これによると、上記と同様に、各相における下側のスイッチング素子のオン故障だけでなく、他の故障も診断できるので、より精度の高い故障判定を行うことができる。また、相電流検出回路の応答性によっては、ある相について検出タイミングをシフトさせてオン故障判定を行った後、直ちに、その相について検出タイミングを元に戻し、次の相について検出タイミングをシフトさせてオン故障判定へ移行することが困難な場合があるが、ある相のオン故障判定から次の相のオン故障判定へ移る前に、通常の相電流検出に基づく故障判定を行うステップを介在させることで、相電流検出回路の応答性に問題がある場合でも円滑な故障判定を行うことができる。
【0014】
本発明では、1つの相についてのオン故障有無の判定を所定回数繰り返すようにしてもよい。これにより、オン故障の判定精度を高めることができる。
【0015】
また、本発明では、検出タイミングをシフトさせたときの当該相の電流値を、他の相のシャント抵抗に流れる電流に基づいて推定する電流値推定手段に代えて、当該相における上側のスイッチング素子のオフ期間においてシャント抵抗に流れる電流に基づき電流値を算出する電流値算出手段を用いてもよい。
【0016】
この場合は、上側のスイッチング素子のオン期間とオフ期間の両方においてサンプリングを実施すればよい。これにより、検出タイミングをシフトさせたときの当該相の電流値を、推定値ではなく実測値として得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シャント抵抗に流れる電流の検出タイミングをシフトさせることによって、インバータ回路における下側のスイッチング素子のオン故障を検出することが可能な多相モータ駆動装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る多相モータ駆動装置の電気的構成を示す図である。1はCPUやメモリから構成される制御部、2は制御部1からの電圧指令信号に基づいて所定のデューティ比を持ったPWM信号を出力する公知のPWM回路、3はPWM回路2からのPWM信号に基づいてモータ駆動用の3相電圧(U相電圧、V相電圧、W相電圧)を出力するインバータ回路、4はインバータ回路3から出力される3相電圧により駆動されるモータ、4u、4v、4wはモータ4の巻線、5u、5v、5wは相電流検出用の電圧を所定区間にわたってサンプリングし、サンプルホールドするサンプルホールド回路、6u、6v、6wはサンプルホールド回路5u、5v、5wの出力を増幅する直流増幅回路である。制御部1、PWM回路2、インバータ回路3、サンプルホールド回路5u、5v、5wおよび直流増幅回路6u、6v、6wによって、多相モータ駆動装置が構成される。また、制御部1は、本発明における判定手段、電流値推定手段、電流値算出手段の一実施形態であり、制御部1およびPWM回路2は、本発明における制御手段の一実施形態である。
【0019】
インバータ回路3は、バッテリEの正極と負極(グランド)との間に接続されており、バッテリEの直流電圧を交流電圧に変換する。このインバータ回路3は公知の回路であって、U相、V相、W相のそれぞれに対応して設けられた上下一対のスイッチング素子Q1〜Q6を備えており、これらのスイッチング素子Q1〜Q6には、それぞれ還流用のダイオードD1〜D6が並列に接続されている。スイッチング素子Q1〜Q6はMOS型FET(電界効果トランジスタ)から構成されるが、これに代えてIGBT(絶縁ゲート型バイポーラモードトランジスタ)などの素子を用いてもよい。各スイッチング素子Q1〜Q6のゲートには、PWM回路2から6種類(U相上、U相下、V相上、V相下、W相上、W相下)のPWM信号が個別に与えられる。PWM信号のオン(High)の区間では、スイッチング素子Q1〜Q6はオン(導通状態)となり、PWM信号のオフ(Low)の区間では、スイッチング素子Q1〜Q6はオフ(遮断状態)となる。
【0020】
このようなスイッチング素子Q1〜Q6のオン・オフ動作によって、各相における一対のスイッチング素子の接続点a、c、eから、多相モータ駆動用のU相電圧、V相電圧、W相電圧が取り出され、モータ4に供給される。すなわち、スイッチング素子Q1、Q2の接続点aからは、U相電圧が取り出され、モータ4のU相巻線4uに与えられる。スイッチング素子Q3、Q4の接続点cからは、V相電圧が取り出され、モータ4のV相巻線4vに与えられる。スイッチング素子Q5、Q6の接続点eからは、W相電圧が取り出され、モータ4のW相巻線4wに与えられる。モータ4は、例えば3相ブラシレスモータからなる。
【0021】
インバータ回路3における各相の下側のスイッチング素子Q2、Q4、Q6には、それぞれ、モータ4の相電流を検出するためのシャント抵抗Ru、Rv、Rwが接続されている。シャント抵抗Ruの両端に生じる電圧(b点の電位)はサンプルホールド回路5uに入力される。シャント抵抗Rvの両端に生じる電圧(d点の電位)はサンプルホールド回路5vに入力される。シャント抵抗Rwの両端に生じる電圧(f点の電位)はサンプルホールド回路5wに入力される。
【0022】
サンプルホールド回路5u、5v、5wは、それぞれ、スイッチSu、Sv、Swと、コンデンサCu、Cv、Cwと、差動アンプAu、Av、Awとを備えている。制御部1からのサンプリング信号SPu、SPv、SPwによって、スイッチSu、Sv、Swが所定のタイミングでオンになると、シャント抵抗Ru、Rv、Rwの両端の電圧がサンプルホールド回路5u、5v、5wに取り込まれ、コンデンサCu、Cv、Cwに充電される。その後、スイッチSu、Sv、Swがオフになると、コンデンサCu、Cv、Cwに充電された電圧が保持される。このようにしてサンプルホールドされた電圧は、直流増幅回路6u、6v、6wで増幅されて、相電流検出信号Iu、Iv、Iwとして出力される。これらの相電流検出信号Iu、Iv、Iwは、モータ4の各相に流れる実際の電流の値を表しており、相電流検出値として制御部1に与えられる。
【0023】
制御部1では、トルクセンサ(図示省略)で検出されたトルク値と、車速センサ(図示省略)で検出された車速値とに基づいて、モータ4の各相に流すべき電流、すなわち必要な操舵補助力を得るためのモータ電流の目標値を算出し、当該目標値と相電流検出値Iu、Iv、Iwとを比較して、それらの偏差を求める。そして、得られた偏差に基づいて、PWM回路2に与える各相の指令電圧Vu、Vv、Vwを演算する。この指令電圧は、モータ4の各相巻線4u、4v、4wに目標値の電流が流れるようにフィードバック制御を行うためのパラメータである。PWM回路2は、指令電圧Vu、Vv、Vwに応じたU相電圧、V相電圧、W相電圧がモータ4へ供給されるように、指令電圧に基づいて所定のデューティ比を持った前述の6種類のPWM信号を生成し、それらをインバータ回路3のスイッチング素子Q1〜Q6へそれぞれ供給する。
【0024】
図2は、制御部1からPWM回路2へ与えられる指令電圧Vu、Vv、Vwの信号波形を示した図である。ここでは、PWM信号のデューティ比が50%となるときの指令電圧値を0ボルトとしてある。したがって、指令電圧値が+の値をとる場合は、PWM信号のデューティ比は50%を超え、指令電圧値が−の値をとる場合は、PWM信号のデューティ比は50%を下回る。
【0025】
例えば、図2のタイミングtにおけるU相指令電圧VuとV相指令電圧Vvについて考えると(説明を簡単にするためW相指令電圧Vwについては省略)、タイミングtでのU相指令電圧Vuは+の値、V相指令電圧Vvは−の値となっている。したがって、各指令電圧Vu、Vvと同じ電圧がインバータ回路3のa点、c点からそれぞれ出力される場合、図1のa点の電位(U相電圧)は+、c点の電位(V相電圧)は−となるから、U相からV相へ電流が流れる。このとき、U相上のスイッチング素子Q1に与えられるPWM信号のデューティ比は50%を超える値となる。例えばデューティ比=70%とすると、素子Q1がオンしている期間とオフしている期間との比率は7:3となる。一方、V相上のスイッチング素子Q3に与えられるPWM信号のデューティ比は50%を下回る値となる。例えばデューティ比=30%とすると、素子Q3がオンしている期間とオフしている期間との比率は3:7となる。
【0026】
インバータ回路3とモータ4間の通電状態には、スイッチング素子Q1〜Q6のオン・オフの態様に応じて、図3〜図5のような3つのパターンがある。各図は図1の一部を抽出した回路であって、ここでは故障の発生していない正常状態での電流経路が示されている。
【0027】
図3は、パターンAを示しており、スイッチング素子Q1〜Q4のオン・オフ状態を実線と破線で表している(図4、図5においても同様)。実線で描かれているスイッチング素子Q1、Q4はオン状態にあり、破線で描かれているスイッチング素子Q2、Q3はオフ状態にある。パターンAは、1つの相(U相)における上側のスイッチング素子(Q1)がオン、下側のスイッチング素子(Q2)がオフであり、他の相(V相)における上側のスイッチング素子(Q3)がオフ、下側のスイッチング素子(Q4)がオンとなるパターンである。なお、図3では簡単のためにW相を省略してあるが、U相とW相、およびV相とW相についても、U相とV相と同様の関係が成立する。後述する他のパターンについても同様である。図3では、U相上のスイッチング素子Q1がオンで、V相下のスイッチング素子Q4がオンとなるので、電源Eの直流電圧に基づき、太矢印で示すように、スイッチング素子Q1→モータ4のU相巻線4u→V相巻線4v→スイッチング素子Q4→シャント抵抗Rvの経路で相電流Iが流れる。
【0028】
図4は、パターンBを示している。パターンBは、1つの相(U相)における上側のスイッチング素子(Q1)がオフ、下側のスイッチング素子(Q2)がオンであり、他の相(V相)においても上側のスイッチング素子(Q3)がオフ、下側のスイッチング素子(Q4)がオンとなるパターンである。図4では、U相下のスイッチング素子Q2がオンで、V相下のスイッチング素子Q4がオンとなるので、モータ4の巻線4u、4vに蓄えられた電気エネルギーに基づき、太矢印で示すように、U相巻線4u→V相巻線4v→スイッチング素子Q4→シャント抵抗Rv→シャント抵抗Ru→スイッチング素子Q2の経路で相電流Iが流れる。
【0029】
図5は、パターンCを示している。パターンCは、1つの相(U相)における上側のスイッチング素子(Q1)がオン、下側のスイッチング素子(Q2)がオフであり、他の相(V相)においても上側のスイッチング素子(Q3)がオン、下側のスイッチング素子(Q4)がオフとなるパターンである。図5では、U相上のスイッチング素子Q1がオンで、V相上のスイッチング素子Q3がオンとなるので、モータ4の巻線4u、4vに蓄えられた電気エネルギーに基づき、太矢印で示すように、U相巻線4u→V相巻線4v→スイッチング素子Q3→スイッチング素子Q1の経路で相電流Iが流れる。このパターンCの場合は、シャント抵抗Ru、Rvに相電流Iは流れない。
【0030】
次に、図1の多相モータ駆動装置における相電流の検出について説明する。なお、以下では、U相電流を検出する場合を例に挙げるが、他の相の電流も同様の原理に従って検出することができる。図3〜図5で説明した各パターンのうち、U相電流検出用のシャント抵抗Ruに相電流が流れるのは、パターンB(図4)の場合である。パターンBにおいては、a点の電位が+、c点の電位が−であって、U相からV相に相電流Iが流れる。このとき、U相上のスイッチング素子Q1に与えられるPWM信号のデューティ比は50%を超え、U相下のスイッチング素子Q2に与えられるPWM信号のデューティ比は50%を下回ることについては、前述のとおりである。
【0031】
図6は、U相電流の検出方法を説明するためのタイムチャートであって、図2のタイミングt(厳密にはt近傍の微小区間)における各信号の波形を表したものである。図6において、(a)〜(d)は、それぞれU相上、U相下、V相上、V相下の各スイッチング素子Q1〜Q4にPWM回路2から与えられるPWM信号を示している。(e)はシャント抵抗Ruに流れる電流によって当該抵抗Ruの両端に生じる電圧を示している。(f)はシャント抵抗Rvに流れる電流によって当該抵抗Rvの両端に生じる電圧を示している。(g)は各区間に該当する図3〜図5のパターンを示している。(h)はU相電流を検出するために制御部1から出力されるサンプリング信号SPuを示している。(i)はV相電流を検出するために制御部1から出力されるサンプリング信号SPvを示している。また、TはPWM信号の1周期を表しており、t1〜t14は各タイミングを表している。
【0032】
図6のように、U相電流を検出する場合は、U相上のスイッチング素子Q1がオフ(U相下のスイッチング素子Q2がオン)となる期間(t2〜t4、t8〜t10)において、サンプリング信号SPuによりシャント抵抗Ruの電圧を検出する(t3、t9)。しかし、この方法では、U相下のスイッチング素子Q2のオン故障を検出するために必要な、U相上のスイッチング素子Q1のオン期間(t4〜t8、t10〜t14)におけるサンプリングが行われないので、U相下のスイッチング素子Q2のオン故障を検出することができない。
【0033】
図7は、本発明におけるオン故障の検出方法を説明するためのタイムチャートである。図7の各符号は、図6の各符号に対応している。図7においては、(h)に示すU相電流検出サンプリング信号SPuを、破線のようにU相上のスイッチング素子Q1のオフ期間(t2〜t4、t8〜t10)では発生させずに、実線のようにオン期間(t4〜t8、t10〜t14)において発生させている(t6、t12)。すなわち、U相のシャント抵抗Ruに流れる電流の検出タイミングを、U相上のスイッチング素子Q1のオフ期間からオン期間へシフトさせている。
【0034】
U相下のスイッチング素子Q2にオン故障が発生すると、このスイッチング素子Q2は、PWM回路2からの信号に関係なく、図7(b)のようにオン状態のままとなる。そして、U相上のスイッチング素子Q1がオンとなる期間では、上下のスイッチング素子Q1、Q2が共にオン状態となって、両素子を通じてシャント抵抗Ruに異常電流(大電流)が流れるため、図7(e)のクロスハッチングで示すように、シャント抵抗Ruの両端に大きな電圧が発生する。そこで、図7(h)のように、U相上のスイッチング素子Q1のオン期間におけるt6、t12のタイミングでサンプリングを行えば、この大きな電圧が検出されるので、これによってU相下のスイッチング素子Q2がオン故障であると判定することができる。
【0035】
一方、U相下のスイッチング素子Q2にオン故障が発生していない場合は、U相上のスイッチング素子Q1のオン期間に、スイッチング素子Q2はオフ状態にあって電流が流れないため、t6、t12のタイミングでサンプリングを行ってもシャント抵抗Ruの電圧は検出されない。これによって、U相下のスイッチング素子Q2がオン故障ではないと判定することができる。
【0036】
以上述べたような処理、すなわち、シャント抵抗に流れる電流の検出タイミングを、上側のスイッチング素子のオフ期間からオン期間へシフトさせてサンプリングを行う処理を、各相について順番に行うことによって、オン故障判定のための特別な回路を付加しなくても、既存のシャント抵抗を利用して、各相における下側のスイッチング素子のオン故障の有無を判定することができる。
【0037】
図8は、本発明による故障判定手順の概略を示したフローチャート、図9〜図12は、図8の各ステップの詳細を示したフローチャートである。各フローチャートの手順は、制御部1に備わるCPUにより実行される。
【0038】
図8において、ステップS1では、U相のシャント抵抗Ruに流れる電流の検出タイミングをシフトさせて、U相下のスイッチング素子Q2のオン故障を検出する処理を行う。それが終わると、ステップS2に移り、次はV相のシャント抵抗Rvに流れる電流の検出タイミングをシフトさせて、V相下のスイッチング素子Q4のオン故障を検出する処理を行う。それが終わると、ステップS3に移り、次はW相のシャント抵抗Rwに流れる電流の検出タイミングをシフトさせて、W相下のスイッチング素子Q6のオン故障を検出する処理を行う。
【0039】
このようにして、全ての相について検出タイミングのシフト(図7)に基づくオン故障の検出が終了すると、ステップS4に移り、今度は検出タイミングをシフトさせずに(図6)、U相、V相、W相のそれぞれにつき、上側のスイッチング素子Q1、Q3、Q5のオフ期間において、各相のシャント抵抗Ru、Rv、Rwに流れる相電流をそれぞれ検出し、この相電流に基づいて各相の故障や相電流検出回路の故障を検出する処理を行う。
【0040】
図9は、図8のステップS1の詳細な手順を示したフローチャートである。ステップS11では、U相のサンプリング点を移動させる処理を行う。すなわち、U相のシャント抵抗Ruに流れる電流(U相電流)の検出タイミングを、U相上のスイッチング素子Q1のオフ期間からオン期間へシフトさせる(図7(h))。次に、ステップS12へ進んで、V相のシャント抵抗Rvに流れる電流(V相電流)の電流値を測定する。このときの電流検出は、V相上のスイッチング素子Q3のオフ期間に行われる。すなわち、V相電流の検出タイミングはシフトしない(図7(i))。次に、ステップS13へ進んで、W相のシャント抵抗Rwに流れる電流(W相電流)の電流値を測定する。このときの電流検出は、W相上のスイッチング素子Q5のオフ期間に行われる。すなわち、W相電流の検出タイミングもシフトしない。
【0041】
続いてステップS14へ移り、ステップS12およびS13で得られたV相電流とW相電流の電流値から、U相電流の電流値を推定する。周知のように、U相電流値をIu、V相電流値をIv、W相電流値をIwとしたとき、Iu+Iv+Iw=0であるから、この関係を用いてU相電流値Iuを推定することができる。本来、U相電流は、U相上のスイッチング素子Q1のオフ期間(U相下のスイッチング素子Q2のオン期間)において検出されるものであるが、U相のサンプリング点を移動したことにより、これができなくなるため、上述のように電流値を推定することで、モータ4の制御に必要なU相電流の電流値を得るようにしている。
【0042】
次に、ステップS15において、ステップS11で移動させたサンプリング点において検出されたシャント抵抗Ruの両端電圧に基づいて、U相下のスイッチング素子Q2のオン故障の有無を判定する。前述のように、スイッチング素子Q2がオン故障しておれば、シャント抵抗Ruの両端に大きな電圧が発生し、オン故障していなければ、シャント抵抗Ruの両端に電圧は発生しないので、これによりオン故障の有無を判定することができる。
【0043】
次に、ステップS16において、ステップS12で得られたV相電流値に基づいて、V相に故障が発生しているか否かを判定する。さらに、ステップS17において、ステップS13で得られたW相電流値に基づいて、W相に故障が発生しているか否かを判定する。これらの故障判定は、従来と同じ方法で行われる。
【0044】
ステップS18では、ステップS15での判定の結果、U相下のスイッチング素子Q2がオン故障しておれば(ステップS18:YES)、ステップS22へ移って異常時処理を行う。具体的には、インバータ回路3からモータ4への電源供給を停止して、モータ4を停止させる処理を行う。また、必要に応じて警報を出力する。一方、スイッチング素子Q2がオン故障していなければ(ステップS18:NO)、ステップS19へ移る。
【0045】
ステップS19では、ステップS16での判定の結果、V相に故障が発生しておれば(ステップS19:YES)、ステップS22へ移って上述した異常時処理を行う。一方、V相に故障が発生していなければ(ステップS19:NO)、ステップS20へ移る。
【0046】
ステップS20では、ステップS17での判定の結果、W相に故障が発生しておれば(ステップS20:YES)、ステップS22へ移って上述した異常時処理を行う。一方、W相に故障が発生していなければ(ステップS20:NO)、ステップS21へ移る。
【0047】
ステップS21では、ステップS11〜S20の処理を所定回数繰り返したか否かを判定し、所定回数繰り返していなければ(ステップS21:NO)、ステップS11へ戻って、所定回数になるまでステップS11〜S20を反復実行する。そして、ステップS11〜S20の処理が所定回数繰り返されると(ステップS21:YES)、U相についてのオン故障検出処理が終了する。このとき、ステップS11でスイッチング素子Q1のオン期間へシフトされたサンプリング点は、元の位置(スイッチング素子Q1のオフ期間)に戻される。
【0048】
図10は、図8のステップS2の詳細な手順を示したフローチャートである。ステップS31では、V相のサンプリング点を移動させる処理を行う。すなわち、V相のシャント抵抗Rvに流れる電流(V相電流)の検出タイミングを、V相上のスイッチング素子Q3のオフ期間からオン期間へシフトさせる。次に、ステップS32へ進んで、U相のシャント抵抗Ruに流れる電流(U相電流)の電流値を測定する。このときの電流検出は、U相上のスイッチング素子Q1のオフ期間に行われる。すなわち、U相電流の検出タイミングはシフトしない。次に、ステップS33へ進んで、W相のシャント抵抗Rwに流れる電流(W相電流)の電流値を測定する。このときの電流検出は、W相上のスイッチング素子Q5のオフ期間に行われる。すなわち、W相電流の検出タイミングもシフトしない。
【0049】
続いてステップS34へ移り、ステップS32およびS33で得られたU相電流とW相電流の電流値から、前述のIu+Iv+Iw=0の関係を用いてV相電流の電流値を推定する。本来、V相電流は、V相上のスイッチング素子Q3のオフ期間(V相下のスイッチング素子Q4のオン期間)において検出されるものであるが、V相のサンプリング点を移動したことにより、これができなくなるため、上述のように電流値を推定することで、モータ4の制御に必要なV相電流の電流値を得るようにしている。
【0050】
次に、ステップS35において、ステップS31で移動させたサンプリング点において検出されたシャント抵抗Rvの両端電圧に基づいて、V相下のスイッチング素子Q4のオン故障の有無を判定する。U相の場合と同様に、スイッチング素子Q4がオン故障しておれば、シャント抵抗Rvの両端に大きな電圧が発生し、オン故障していなければ、シャント抵抗Rvの両端に電圧は発生しないので、これによりオン故障の有無を判定することができる。
【0051】
次に、ステップS36において、ステップS32で得られたU相電流値に基づいて、U相に故障が発生しているか否かを判定する。さらに、ステップS37において、ステップS33で得られたW相電流値に基づいて、W相に故障が発生しているか否かを判定する。これらの故障判定は、従来と同じ方法で行われる。
【0052】
ステップS38では、ステップS35での判定の結果、V相下のスイッチング素子Q4がオン故障しておれば(ステップS38:YES)、ステップS42へ移って、前述のステップS22と同様の異常時処理を行う。一方、スイッチング素子Q4がオン故障していなければ(ステップS38:NO)、ステップS39へ移る。
【0053】
ステップS39では、ステップS36での判定の結果、U相に故障が発生しておれば(ステップS39:YES)、ステップS42へ移って上述した異常時処理を行う。一方、U相に故障が発生していなければ(ステップS39:NO)、ステップS40へ移る。
【0054】
ステップS40では、ステップS37での判定の結果、W相に故障が発生しておれば(ステップS40:YES)、ステップS42へ移って上述した異常時処理を行う。一方、W相に故障が発生していなければ(ステップS40:NO)、ステップS41へ移る。
【0055】
ステップS41では、ステップS31〜S40の処理を所定回数繰り返したか否かを判定し、所定回数繰り返していなければ(ステップS41:NO)、ステップS31へ戻って、所定回数になるまでステップS31〜S40を反復実行する。そして、ステップS31〜S40の処理が所定回数繰り返されると(ステップS41:YES)、V相についてのオン故障検出処理が終了する。このとき、ステップS31でスイッチング素子Q3のオン期間へシフトされたサンプリング点は、元の位置(スイッチング素子Q3のオフ期間)に戻される。
【0056】
図11は、図8のステップS3の詳細な手順を示したフローチャートである。ステップS51では、W相のサンプリング点を移動させる処理を行う。すなわち、W相のシャント抵抗Rwに流れる電流(W相電流)の検出タイミングを、W相上のスイッチング素子Q5のオフ期間からオン期間へシフトさせる。次に、ステップS52へ進んで、U相のシャント抵抗Ruに流れる電流(U相電流)の電流値を測定する。このときの電流検出は、U相上のスイッチング素子Q1のオフ期間に行われる。すなわち、U相電流の検出タイミングはシフトしない。次に、ステップS53へ進んで、V相のシャント抵抗Rvに流れる電流(V相電流)の電流値を測定する。このときの電流検出は、V相上のスイッチング素子Q3のオフ期間に行われる。すなわち、V相電流の検出タイミングもシフトしない。
【0057】
続いてステップS54へ移り、ステップS52およびS53で得られたU相電流とV相電流の電流値から、前述のIu+Iv+Iw=0の関係を用いてW相電流の電流値を推定する。本来、W相電流は、W相上のスイッチング素子Q5のオフ期間(W相下のスイッチング素子Q6のオン期間)において検出されるものであるが、W相のサンプリング点を移動したことにより、これができなくなるため、上述のように電流値を推定することで、モータ4の制御に必要なW相電流の電流値を得るようにしている。
【0058】
次に、ステップS55において、ステップS51で移動させたサンプリング点において検出されたシャント抵抗Rwの両端電圧に基づいて、W相下のスイッチング素子Q6のオン故障の有無を判定する。U相、V相の場合と同様に、スイッチング素子Q6がオン故障しておれば、シャント抵抗Rwの両端に大きな電圧が発生し、オン故障していなければ、シャント抵抗Rwの両端に電圧は発生しないので、これによりオン故障の有無を判定することができる。
【0059】
次に、ステップS56において、ステップS52で得られたU相電流値に基づいて、U相に故障が発生しているか否かを判定する。さらに、ステップS57において、ステップS53で得られたV相電流値に基づいて、V相に故障が発生しているか否かを判定する。これらの故障判定は、従来と同じ方法で行われる。
【0060】
ステップS58では、ステップS55での判定の結果、W相下のスイッチング素子Q6がオン故障しておれば(ステップS58:YES)、ステップS62へ移って、前述のステップS22と同様の異常時処理を行う。一方、スイッチング素子Q6がオン故障していなければ(ステップS58:NO)、ステップS59へ移る。
【0061】
ステップS59では、ステップS56での判定の結果、U相に故障が発生しておれば(ステップS59:YES)、ステップS62へ移って上述した異常時処理を行う。一方、U相に故障が発生していなければ(ステップS59:NO)、ステップS60へ移る。
【0062】
ステップS60では、ステップS57での判定の結果、V相に故障が発生しておれば(ステップS60:YES)、ステップS62へ移って上述した異常時処理を行う。一方、V相に故障が発生していなければ(ステップS60:NO)、ステップS61へ移る。
【0063】
ステップS61では、ステップS51〜S60の処理を所定回数繰り返したか否かを判定し、所定回数繰り返していなければ(ステップS61:NO)、ステップS51へ戻って、所定回数になるまでステップS51〜S60を反復実行する。そして、ステップS51〜S60の処理が所定回数繰り返されると(ステップS61:YES)、W相についてのオン故障検出処理が終了する。このとき、ステップS51でスイッチング素子Q5のオン期間へシフトされたサンプリング点は、元の位置(スイッチング素子Q5のオフ期間)に戻される。
【0064】
図12は、図8のステップS4の詳細な手順を示したフローチャートである。ステップS71では、U相、V相、W相のサンプリング点(相電流検出タイミング)を、通常の位置に設定する。すなわち、U相については、U相上のスイッチング素子Q1のオフ期間にサンプリング点を設定し(図6(h))、V相については、V相上のスイッチング素子Q3のオフ期間にサンプリング点を設定し(図6(i))、W相については、W相上のスイッチング素子Q5のオフ期間にサンプリング点を設定する(図示省略)。
【0065】
次に、ステップS72において、ステップS71で設定したU相のサンプリング点でサンプリングを行い、U相のシャント抵抗Ruに流れるU相電流の電流値を測定する。次のステップS73では、ステップS71で設定したV相のサンプリング点でサンプリングを行い、V相のシャント抵抗Rvに流れるV相電流の電流値を測定する。次のステップS74では、ステップS71で設定したW相のサンプリング点でサンプリングを行い、W相のシャント抵抗Rwに流れるW相電流の電流値を測定する。
【0066】
次に、ステップS75において、ステップS72で得られたU相電流値に基づいて、U相に故障が発生しているか否かを判定する。また、ステップS76において、ステップS73で得られたV相電流値に基づいて、V相に故障が発生しているか否かを判定する。さらに、ステップS77において、ステップS74で得られたW相電流値に基づいて、W相に故障が発生しているか否かを判定する。これらの故障判定は、従来と同じ方法で行われる。
【0067】
次に、ステップS78において、相電流検出回路に故障が発生しているか否かを判定する。ここでいう相電流検出回路は、サンプルホールド回路5u、5v、5wのことである。正常状態では、U相、V相、W相の各相電流値の和はゼロになるはずであるから、ステップS78では、ステップS72〜S74で測定したU相電流値Iu、V相電流値Iv、W相電流値Iwを用いて、Iu+Iv+Iw=0が成立するか否かを判定する。この関係が成立しない場合、つまり各相電流値の和がゼロでない場合は、相電流検出機能に異常があり、サンプルホールド回路5u、5v、5wのいずれか(または全部)が故障していることになる。
【0068】
ステップS79では、ステップS75での判定の結果、U相に故障が発生しておれば(ステップS79:YES)、ステップS84へ移って前述のステップS22と同様の異常時処理を行い、U相に故障が発生していなければ(ステップS79:NO)、ステップS80へ移る。
【0069】
ステップS80では、ステップS76での判定の結果、V相に故障が発生しておれば(ステップS80:YES)、ステップS84へ移って異常時処理を行い、V相に故障が発生していなければ(ステップS80:NO)、ステップS81へ移る。
【0070】
ステップS81では、ステップS77での判定の結果、W相に故障が発生しておれば(ステップS81:YES)、ステップS84へ移って異常時処理を行い、W相に故障が発生していなければ(ステップS81:NO)、ステップS82へ移る。
【0071】
ステップS82では、ステップS78での判定の結果、相電流検出回路に故障が発生しておれば(ステップS82:YES)、ステップS84へ移って異常時処理を行い、相電流検出回路に故障が発生していなければ(ステップS82:NO)、ステップS83へ移る。
【0072】
ステップS83では、ステップS71〜S82の処理を所定回数繰り返したか否かを判定し、所定回数繰り返していなければ(ステップS83:NO)、ステップS71へ戻って、所定回数になるまでステップS71〜S82を反復実行する。そして、ステップS71〜S82の処理が所定回数繰り返されると(ステップS83:YES)、故障検出処理が終了する。
【0073】
このように、上述した実施形態においては、検出タイミングのシフトに基づくオン故障有無の判定をU相、V相、W相について順次行い(図8のステップS1〜S3)、全ての相についてオン故障有無の判定が終了すると、続いて、検出タイミングをシフトさせずに、上側のスイッチング素子のオフ期間において各相のシャント抵抗に流れる相電流をそれぞれ検出し、検出された相電流に基づいて、U相、V相、W相の故障有無や相電流検出回路の故障有無を判定している(図8のステップS4)。このため、各相における下側のスイッチング素子Q2、Q4、Q6のオン故障だけでなく、上側のスイッチング素子Q1、Q3、Q5のオン故障や、サンプルホールド回路5u、5v、5wの故障などの他の故障も判定することができる。この結果、より精度の高い故障判定を行うことができる。
【0074】
図13は、本発明の他の実施形態による故障判定手順の概略を示したフローチャートである。本手順は、制御部1に備わるCPUにより実行される。図13において、ステップS101では、U相のシャント抵抗Ruに流れる電流の検出タイミングをシフトさせて、U相下のスイッチング素子Q2のオン故障を検出する処理を行う。この処理は、図8のステップS1の処理と同じである。それが終わると、ステップS102に移り、検出タイミングをシフトさせずに、U相、V相、W相のそれぞれにつき、上側のスイッチング素子Q1、Q3、Q5のオフ期間において、各相のシャント抵抗Ru、Rv、Rwに流れる相電流をそれぞれ検出し、この相電流に基づいて各相の故障や相電流検出回路の故障を検出する処理を行う。この処理は、図8のステップS4の処理と同じである。
【0075】
次に、ステップS103に移り、V相のシャント抵抗Rvに流れる電流の検出タイミングをシフトさせて、V相下のスイッチング素子Q4のオン故障を検出する処理を行う。この処理は、図8のステップS2の処理と同じである。それが終わると、ステップS104に移って、ステップS102と同じ処理、すなわち各相の相電流に基づく故障検出処理を行う。
【0076】
次に、ステップS105に移り、W相のシャント抵抗Rwに流れる電流の検出タイミングをシフトさせて、W相下のスイッチング素子Q6のオン故障を検出する処理を行う。この処理は、図8のステップS3の処理と同じである。それが終わると、ステップS106に移って、ステップS102と同じ各相の相電流に基づく故障検出処理を行い、それが終わると一連の処理を終了する。
【0077】
図13において、ステップS101、S103、S105の詳細手順は、それぞれ図9、図10、図11と同じであるので、ここでは説明を省略する。また、ステップS102、S104、S106の詳細手順は、図12と同じであるので、ここでは説明を省略する。
【0078】
このように、図13の実施形態においては、ある相について検出タイミングのシフトに基づくオン故障有無の判定を行った後、次の相について同様の判定を行う前に、検出タイミングをシフトさせずに、上側のスイッチング素子Q1、Q3、Q5のオフ期間において各相のシャント抵抗Ru、Rv、Rwに流れる相電流をそれぞれ検出し、検出された相電流に基づいて、U相、V相、W相の故障有無および相電流検出回路の故障有無を判定している。このため、図8の場合と同様に、各相における下側のスイッチング素子Q2、Q4、Q6のオン故障だけでなく、他の故障も診断できるので、より精度の高い故障判定を行うことができる。
【0079】
ところで、サンプルホールド回路5u、5v、5wの時定数が大きい(応答性が悪い)と、前回のサンプリング値の影響が残って正確な電流検出値が得られなくなるため、サンプルホールド回路の応答性によっては、図8の実施形態のように、ある相について検出タイミングをシフトさせてオン故障判定を行った後、直ちに、その相について検出タイミングを元に戻し、次の相について検出タイミングをシフトさせてオン故障判定へ移行することが困難な場合がある。しかるに、図13のように、ある相のオン故障判定から次の相のオン故障判定へ移る前に、通常の相電流検出に基づく故障判定を行うステップ(S102、S104)を介在させることで、サンプルホールド回路の応答性に問題がある場合でも円滑な故障判定を行うことができる。
【0080】
図14は、本発明の他の実施形態によるオン故障の検出方法を説明するためのタイムチャートである。図14の各符号は、図6および図7の各符号に対応している。
【0081】
先の実施形態(図7)においては、検出タイミングをシフトさせたときの当該相の電流値を、他の相のシャント抵抗に流れる電流に基づいて推定するようにしたが、図14の実施形態においては、検出タイミングをシフトさせたときの当該相の電流値を、当該相における上側のスイッチング素子のオフ期間においてシャント抵抗に流れる電流に基づき算出するようにしている。
【0082】
例えば、U相についてみると、図14の場合は、U相上のスイッチング素子Q1のオン期間とオフ期間の両方において、U相電流検出サンプリング信号SPuが出力され、シャント抵抗Ruに流れる電流が検出される(図14(h))。t6とt12のタイミングでは、異常電流に基づくオン故障が検出され、t3とt9のタイミングでは、本来の相電流が検出される。これにより、検出タイミングをシフトさせたときのU相の電流値を、推定値ではなく実測値として得ることができる。他の相についても同様である。
【0083】
本発明では、以上述べた以外にも種々の実施形態を採用することができる。例えば、図9〜図11の手順においては、1つの相についてのオン故障有無の判定を所定回数繰り返しており(ステップS21、S41、S61)、これによってオン故障の判定精度を高めることができるが、オン故障有無の判定は、繰り返さずに1つの相につき1回だけ実行してもよい。同様に、図12の手順においては、相電流検出に基づく故障判定を所定回数繰り返しているが(ステップS83)、この判定は繰り返さずに1回だけ実行してもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、モータ4としてブラシレスモータを例に挙げたが、本発明は誘導電動機や同期電動機のような複数の相を有するモータを駆動するための多相モータ駆動装置全般に適用することができる。
【0085】
また、上記実施形態では、本発明を車両の電動パワーステアリング装置に適用した例を挙げたが、本発明はこれ以外の装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施形態に係る多相モータ駆動装置の電気的構成を示す図である。
【図2】指令電圧の信号波形を示した図である。
【図3】インバータ回路とモータ間の通電パターンを説明する図である。
【図4】インバータ回路とモータ間の通電パターンを説明する図である。
【図5】インバータ回路とモータ間の通電パターンを説明する図である。
【図6】U相電流の検出方法を説明するためのタイムチャートである。
【図7】本発明におけるオン故障の検出方法を説明するためのタイムチャートである。
【図8】本発明による故障判定手順の概略を示したフローチャートである。
【図9】図8のステップS1の詳細な手順を示したフローチャートである。
【図10】図8のステップS2の詳細な手順を示したフローチャートである。
【図11】図8のステップS3の詳細な手順を示したフローチャートである。
【図12】図8のステップS4の詳細な手順を示したフローチャートである。
【図13】本発明の他の実施形態による故障判定手順の概略を示したフローチャートである。
【図14】本発明の他の実施形態によるオン故障の検出方法を説明するためのタイムチャートである。
【符号の説明】
【0087】
1 制御部
2 PWM回路
3 インバータ回路
4 モータ
5u、5v、5w サンプルホールド回路(相電流検出回路)
6u、6v、6w 直流増幅回路
Q1〜Q6 スイッチング素子
D1〜D6 ダイオード
Ru、Rv、Rw シャント抵抗
E バッテリ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の相のそれぞれに対応して上下一対のスイッチング素子が設けられ、各相の下側のスイッチング素子にそれぞれ相電流検出用のシャント抵抗が接続され、各相における一対のスイッチング素子の接続点から多相モータ駆動用の電圧が取り出されるように構成されたインバータ回路と、
前記インバータ回路の各スイッチング素子のオン・オフ動作を制御する制御手段と、を備え、
上側のスイッチング素子のオフ期間にシャント抵抗に流れる電流を検出する多相モータ駆動装置において、
ある相のシャント抵抗に流れる電流の検出タイミングを、当該相における上側のスイッチング素子のオフ期間からオン期間へシフトさせて、前記オン期間にその相のシャント抵抗に流れる電流に基づき、当該相における下側のスイッチング素子がオン状態のままとなるオン故障か否かを判定する判定手段と、
前記検出タイミングをシフトさせたときの当該相の電流値を、他の相のシャント抵抗に流れる電流に基づいて推定する電流値推定手段と、
を設けたことを特徴とする多相モータ駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の多相モータ駆動装置において、
前記判定手段は、
前記検出タイミングのシフトに基づくオン故障有無の判定を、各相について順次行い、
全ての相についてオン故障有無の判定が終了すると、続いて、前記検出タイミングをシフトさせずに、上側のスイッチング素子のオフ期間において各相のシャント抵抗に流れる相電流をそれぞれ検出し、検出された相電流に基づいて他の故障の有無を判定することを特徴とする多相モータ駆動装置。
【請求項3】
請求項1に記載の多相モータ駆動装置において、
前記判定手段は、
ある相について前記検出タイミングのシフトに基づくオン故障有無の判定を行った後、次の相について同様の判定を行う前に、前記検出タイミングをシフトさせずに、上側のスイッチング素子のオフ期間において各相のシャント抵抗に流れる相電流をそれぞれ検出し、検出された相電流に基づいて他の故障の有無を判定することを特徴とする多相モータ駆動装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の多相モータ駆動装置において、
前記判定手段は、1つの相についてのオン故障有無の判定を所定回数繰り返すことを特徴とする多相モータ駆動装置。
【請求項5】
複数の相のそれぞれに対応して上下一対のスイッチング素子が設けられ、各相の下側のスイッチング素子に相電流検出用のシャント抵抗が接続され、各相のスイッチング素子の接続点から多相モータ駆動用の電圧が取り出されるように構成されたインバータ回路と、
前記インバータ回路の各スイッチング素子のオン・オフ動作を制御する制御手段と、を備え、
上側のスイッチング素子のオフ期間にシャント抵抗に流れる電流を検出する多相モータ駆動装置において、
ある相のシャント抵抗に流れる電流の検出タイミングを、当該相における上側のスイッチング素子のオフ期間からオン期間へシフトさせて、前記オン期間にその相のシャント抵抗に流れる電流に基づき、当該相における下側のスイッチング素子がオン状態のままとなるオン故障か否かを判定する判定手段と、
前記検出タイミングをシフトさせたときの当該相の電流値を、当該相における上側のスイッチング素子のオフ期間においてシャント抵抗に流れる電流に基づき算出する電流値算出手段と、
を設けたことを特徴とする多相モータ駆動装置。
【請求項1】
複数の相のそれぞれに対応して上下一対のスイッチング素子が設けられ、各相の下側のスイッチング素子にそれぞれ相電流検出用のシャント抵抗が接続され、各相における一対のスイッチング素子の接続点から多相モータ駆動用の電圧が取り出されるように構成されたインバータ回路と、
前記インバータ回路の各スイッチング素子のオン・オフ動作を制御する制御手段と、を備え、
上側のスイッチング素子のオフ期間にシャント抵抗に流れる電流を検出する多相モータ駆動装置において、
ある相のシャント抵抗に流れる電流の検出タイミングを、当該相における上側のスイッチング素子のオフ期間からオン期間へシフトさせて、前記オン期間にその相のシャント抵抗に流れる電流に基づき、当該相における下側のスイッチング素子がオン状態のままとなるオン故障か否かを判定する判定手段と、
前記検出タイミングをシフトさせたときの当該相の電流値を、他の相のシャント抵抗に流れる電流に基づいて推定する電流値推定手段と、
を設けたことを特徴とする多相モータ駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の多相モータ駆動装置において、
前記判定手段は、
前記検出タイミングのシフトに基づくオン故障有無の判定を、各相について順次行い、
全ての相についてオン故障有無の判定が終了すると、続いて、前記検出タイミングをシフトさせずに、上側のスイッチング素子のオフ期間において各相のシャント抵抗に流れる相電流をそれぞれ検出し、検出された相電流に基づいて他の故障の有無を判定することを特徴とする多相モータ駆動装置。
【請求項3】
請求項1に記載の多相モータ駆動装置において、
前記判定手段は、
ある相について前記検出タイミングのシフトに基づくオン故障有無の判定を行った後、次の相について同様の判定を行う前に、前記検出タイミングをシフトさせずに、上側のスイッチング素子のオフ期間において各相のシャント抵抗に流れる相電流をそれぞれ検出し、検出された相電流に基づいて他の故障の有無を判定することを特徴とする多相モータ駆動装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の多相モータ駆動装置において、
前記判定手段は、1つの相についてのオン故障有無の判定を所定回数繰り返すことを特徴とする多相モータ駆動装置。
【請求項5】
複数の相のそれぞれに対応して上下一対のスイッチング素子が設けられ、各相の下側のスイッチング素子に相電流検出用のシャント抵抗が接続され、各相のスイッチング素子の接続点から多相モータ駆動用の電圧が取り出されるように構成されたインバータ回路と、
前記インバータ回路の各スイッチング素子のオン・オフ動作を制御する制御手段と、を備え、
上側のスイッチング素子のオフ期間にシャント抵抗に流れる電流を検出する多相モータ駆動装置において、
ある相のシャント抵抗に流れる電流の検出タイミングを、当該相における上側のスイッチング素子のオフ期間からオン期間へシフトさせて、前記オン期間にその相のシャント抵抗に流れる電流に基づき、当該相における下側のスイッチング素子がオン状態のままとなるオン故障か否かを判定する判定手段と、
前記検出タイミングをシフトさせたときの当該相の電流値を、当該相における上側のスイッチング素子のオフ期間においてシャント抵抗に流れる電流に基づき算出する電流値算出手段と、
を設けたことを特徴とする多相モータ駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−81739(P2010−81739A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247751(P2008−247751)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
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