説明

容量型電気機械変換装置の製造方法

【課題】キャビティ形成用の犠牲層の除去を比較的高速に且つ残渣を低減させて行うことができる容量型電気機械変換装置の製造方法を提供する。
【解決手段】基板4と所定の間隔を保って可動に保持される振動膜3により形成されるキャビティ9と、キャビティに面する表面が露出する電極8と、キャビティに面する表面が絶縁膜で覆われる電極1を有する容量型電気機械変換装置の製造方法である。基板上に犠牲層6を形成し、犠牲層の上に振動膜3を含む層を形成し、外部から犠牲層に通じるエッチング孔10を形成する。その後、キャビティに面する表面が露出する電極8を電解エッチング用の一方の電極として、外部に設けた電解エッチング液に接している他方の電極12との間で通電し、犠牲層を電解エッチングしてキャビティ9を形成する。エッチング孔10から犠牲層除去剤を導入し、電解エッチングによる犠牲層の残渣17を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波トランスデューサなどとして用いられる容量型電気機械変換装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロマシンニング工程を用いて作製される容量型電気機械変換装置が研究されている。通常の容量型電気機械変換装置は、下部電極と間隔を保って可動に支持された振動膜と、該振動膜に配設される上部電極を有する。これは、例えば、容量型超音波トランスデューサ(Capacitive-Micromachined-Ultrasound-Transducer:CMUT)などとして用いられる。容量型超音波トランスデューサは、軽量の振動膜を用いて超音波を送信、受信し、液中及び空気中でも優れた広帯域特性を持つものが容易に得られる。このCMUTを利用すると、従来の医療診断より高精度な診断が可能となる為、有望な技術として注目されつつある。
【0003】
容量型超音波トランスデューサの動作原理について説明する。超音波を送信する際には、下部電極と上部電極間に、DC電圧に微小なAC電圧を重畳して印加する。これにより、振動膜が振動し超音波が発生する。超音波を受信する際には、振動膜が超音波により変形するので、変形に伴う下部電極と上部電極間の容量変化により信号を検出する。デバイスの理論的な感度は、その電極間の間隔(ギャップ)の平方に反比例する。高感度なデバイスを作製するには、100nm以下のギャップが好ましく、近年、CMUTのギャップは、大きいもので2μm、小さいもので100nm以下の構成が検討されている。
【0004】
一方、容量型電気機械変換装置のギャップの形成方法としては、目標の電極間隔と同等の厚さの犠牲層を設けて該犠牲層の上に振動膜を形成し、犠牲層を除去する方法が、一般に採用されている。こうした技術の一例が、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,426,582号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した様に、前記感度即ち電気機械変換効率を高める為には、電極間隔を狭くすることが望ましい。その為の方法についても、特許文献1に提案がある。しかし、電極間ギャップを狭くできたとしても、ギャップが狭いほど、前記犠牲層(例えば、Si、SiO2、金属からなる)のエッチングによる除去は難しくなる。これは、ギャップが一定の値以上狭くなるとエッチャントの浸透速度が遅くなるため、エッチングに必要な十分な量のエッチャントが、エッチング部分に供給され難くなるからである。例えば、低温では、エッチング工程が数日から一週間程度かかるとも言われている。こうした場合、長時間エッチング液に浸漬すると、デバイスの振動膜が損傷して歩留まりが低くなってしまう。これに対して、エッチング速度を高くする為に温度を高める手法があるが、柔らかい振動膜は高温エッチング反応に伴って発生する泡で壊されて、歩留まりが低下する可能性がある。この様に、大面積且つ狭電極間隔の構造における犠牲層エッチングは、エッチング液の拡散律速により生産性が低く抑えられたり振動膜損傷の恐れがあったりする。従って、振動膜損傷の可能性が低い高速エッチングの実現が望まれていて、犠牲層エッチングの時間を短縮できれば、デバイス生産のスループットが向上する。
【0007】
他方、犠牲層をエッチングする為には、エッチング液の入口を設ける必要があり、エッチング液の入口が大きく、数が多いほど、即ち犠牲層の露出面積が大きいほど、エッチング速度が速くなる。しかし、微小電気機械変換装置において、機械構造に大きな孔若しくは多数の孔をエッチング液の入口として設けると、デバイスの本来の性能に悪影響を与え、デバイスの設計性能、寿命、安定性、信頼性が損なわれる可能性がある。例えば、振動膜に大きな孔若しくは多数の孔を設けることは、振動質量、振動部の応力、振動周波数、振動節点、振動変位などに大きな影響を与える。この為、できるだけ、エッチング液の入口の大きさ及び数量を下げることが望ましい。
【0008】
以上に述べた如く、容量型電気機械変換装置において、比較的大面積且つ薄い犠牲層の除去効率とデバイス性能の向上との間のトレードオフの関係を解決することは重要な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題に鑑み、基板と所定の間隔を保って可動に保持される振動膜により形成されるキャビティ、キャビティに面する表面が露出する電極、キャビティに面する表面が絶縁膜で覆われる電極を有する容量型電気機械変換装置の本発明の製造方法は次の工程を有する。基板上に犠牲層を形成する工程。前記犠牲層の上に振動膜を含む層を形成する工程。外部から前記犠牲層に通じるエッチング液導入用エッチング孔を形成する工程。前記エッチング孔を電解エッチング液に浸しながら 前記キャビティに面する表面が露出する電極を電解エッチング用の一方の電極として、外部に設けた前記電解エッチング液に接している他方の電極との間で通電し、前記犠牲層を電解エッチングして前記キャビティを形成する工程。前記エッチング孔から犠牲層除去剤を導入し、前記電解エッチングによる犠牲層の残渣を低減する工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、電解エッチング工程を実行すると共に、犠牲層除去剤をキャビティ内部に導入する工程も実行するので、比較的狭ギャップの犠牲層でも比較的高速にエッチングでき、更にキャビティ内の犠牲層の残渣を除去ないし低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の製造方法による容量型電気機械変換装置の実施形態を示す図。
【図2−1】本発明の製造方法の実施例の作製プロセスを説明する流れ図。
【図2−2】本発明の製造方法の実施例の作製プロセスを説明する流れ図。
【図3】キャビティ内の犠牲層の残渣について説明する図。
【図4】キャビティ内の犠牲層の残渣の除去について説明する図。
【図5−1】本発明の製造方法の実施例の作製プロセスを説明する流れ図。
【図5−2】本発明の製造方法の実施例の作製プロセスを説明する流れ図。
【図5−3】エッチング孔の位置を説明する図。
【図6−1】本発明の製造方法の実施例の作製プロセスを説明する流れ図。
【図6−2】本発明の製造方法の実施例の作製プロセスを説明する流れ図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の特徴及び原理を説明する。本発明者らの知見によれば、電解エッチングにより、比較的狭ギャップ中の犠牲層でも比較的高速にエッチングすることができ、且つそのウェットエッチング過程で気泡が発生しない。電解エッチングにおいては、必要な電荷を犠牲層に供給する為、電解反応の陽極に犠牲層を電気的に接触させる。典型的には、犠牲層の下に、エッチング選択性を有する導電性金属層を前記陽極として配置して、電解エッチングを行う。この際、陽極層に接触する犠牲層の領域はエッチングが進むが、電解エッチング途中で陽極に接触しなくなる犠牲層領域が生じると、その領域への電荷の供給が中断することになる場合がある。こうした場合、その領域では、電解エッチングが停止して犠牲層が溶解せずに残ってしまうことも生じる。この犠牲層の残渣は、キャビティのギャップを狭めたり埋めたりしてしまい、振動膜の振動を不安定にしたり、振動をできなくしたりする恐れがある。この様に、犠牲層の残渣は、デバイスの動作不良の原因となる。更に、残渣によって電極や振動膜裏面の表面粗さが増大することは、デバイスの性能を低下させる原因となる。こうした点に対処する為に、本発明を成すに至った。ただし、本発明は、犠牲層の下ではなく上に、エッチング選択性を有する導電性金属層を前記陽極として配置する場合も含む。この場合には、振動膜と対向する部分に犠牲層の残渣が残る可能性があり、この場合も、犠牲層の下(振動膜と対向する側)に導電性金属層を配置する場合ほどではないとしても、振動膜の振動に何らかの影響を与えると考えられる。
【0013】
以上の知見に基づき、本発明の製造方法は、キャビティを電解エッチングで形成する際に、エッチング残渣が残存する場合がある為、犠牲層除去剤をキャビティ内に導入し、電解エッチングによる犠牲層の残渣を除去ないし低減することを特徴とする。エッチング液と犠牲層除去剤は同じであってもよいし、異なっていてもよい。この考え方に従って、本発明の基本的な製造方法は、上記課題を解決するための手段のところで述べた様な工程を有する。
【0014】
典型的には、後述する実施例で説明する様に、キャビティに面する表面が露出する電極を、基板に設けられる第1の電極とし、キャビティに面する表面が絶縁膜で覆われる電極を、振動膜に設けられる第2の電極とするが、この逆としてもよい。即ち、キャビティに面する表面が露出する電極を、振動膜に設けられる第2の電極とし、キャビティに面する表面が絶縁膜で覆われる電極を、基板に設けられる第1の電極としてもよい。
【0015】
エッチング孔形成工程において、エッチング孔は、後述する実施例で説明する様に、支持部に形成されてキャビティ間を連通する通路上の材料部又は振動膜の辺縁部に形成することができる。ただし、エッチング孔は、通路上の材料部と振動膜と基板のうちの少なくとも1つに形成することもできる。基板にエッチング孔を設ける場合、犠牲層を除去する前に、例えば、基板の裏面から深堀RIE(Reactive Ion Etching)でエッチング孔を設ける。その際、例えば、基板(例えば、Siウエハ)をSF6ガスのプラズマでエッチングして、絶縁膜(例えば、熱酸化膜)をエッチストップ層として利用しエッチングを終了する。そして、絶縁膜、第1の電極である下部電極(例えば、高濃度不純物ドープSi)などをCHF3、CF4などのガスを用いるプラズマエッチングにより、犠牲層までエッチングする。また、エッチング孔を塞ぐ封止部を形成して前記キャビティを封止する工程を更に実行してもよい。
【0016】
本発明の製造方法によれば、電解エッチングにより比較的高速に犠牲層の大部分をエッチングできる。そして、電解エッチング工程に続いて、犠牲層除去剤をキャビティ内部に導入することで、電解エッチング工程におけるキャビティ内部の犠牲層の残渣を低減できる。電解エッチング工程により、キャビティ内部の犠牲層の大部分はエッチングされ、犠牲層の残渣は表面積が大きな状態となっている為、犠牲層除去剤により残渣は比較的高速に低減される。こうして、電解エッチング工程と犠牲層除去剤での残渣除去工程の組み合わせによる相乗効果により、次の様な効果が得られる。即ち、電解エッチング工程を用いずに犠牲層除去剤のみで犠牲層を除去する場合と比較し、より高速に犠牲層及び残渣を除去ないし低減でき、生産性(例えば、製造時間短縮、歩留まり)が向上する。更に、残渣を除去する工程を設けることで、振動膜裏面及び下部電極の表面粗さが低減され、デバイスの性能(例えば、性能の均一性、高感度化)が向上する。
【0017】
以下、本発明の実施形態を説明する。図1に示す実施形態では、基板4の上に、第1の電極である低抵抗の下部電極8が設けられる。下部電極8の上の支持部2は、基板4に固定され、基板4と間隔を保って振動膜3を可動に支持する。基板4と振動膜3と支持部2に囲まれてキャビティ9が形成される。下部電極8の一部は、キャビティ9に露出する。振動膜3の上面には、第2の電極である上部電極1が設けられ、上部電極1のキャビティ9に面する表面は絶縁膜(振動膜3)で覆われ、これを介して下部電極8と対向している。基板4が絶縁性材料(例えばガラス)である場合、図1(b)に示す様に、貫通配線15を絶縁性基板4内に設け、基板裏面に電極18を設置すれば、上下電極を基板4の裏面に取り出すことが可能である。上下電極は、基板表面から取り出すこともできる。また、後述する様に、振動膜3或いは支持部2の部分には、エッチング孔10を塞ぐ封止部14が形成され、接続配線部(電極パッド)7が設けられている。
【0018】
通常、容量型電気機械変換装置の電気機械変換係数を高くする為に、動作中は、上部電極1と下部電極8の間にDCバイアス電圧をかける必要がある。このDCバイアス電圧の働きにより、静電引力が上部電極1を引っ張って、振動膜3の中央部には下向きの変位が発生する。ただし、一旦DCバイアス電圧が一定の電圧を超えると、振動膜3が降伏して下部電極8に接触(コラプス)し、電気機械変換係数がかえって低下する恐れがある。よって、コラプス電圧と言われるこうした一定の電圧が発生しない様に、バイアス電圧を調整する。こうしたことから、上部電極1が振動膜3の下表面に設置される場合は、下部電極8上に絶縁膜を設ける必要がある。要するに、上下電極の短絡を防ぐ為に、上下電極間には何らかの絶縁膜を設ける必要がある。
【0019】
以上に述べた様に、本実施形態は次の様な構成を有する。基板と、該基板上に配置された支持部で基板と所定の間隔を保って可動に保持される振動膜と、これらで囲まれたキャビティと、キャビティに露出する第1の電極と、絶縁膜を介してキャビティに面する第2の電極とを有する。典型的には、エッチング孔10及びそれを封止した封止部14は、支持部2に形成されてキャビティ間を連通する通路上の材料部の箇所に設けられる。こうした構成の容量型電気機械変換装置は、次の製造方法で製造することができる。基板4に第1の電極8を形成し、第1の電極上に犠牲層を形成し、犠牲層上に、第2の電極1を持つ振動膜3を形成し、振動膜3又は前記通路上の材料部に、外部から犠牲層へ通ずるエッチング孔を設ける。そして、エッチング液で犠牲層をエッチングしてキャビティ9を形成し、更に、犠牲層除去剤をキャビティ内に導入し、エッチングによる犠牲層の残渣を除去ないし低減する。その後、エッチング孔としての開口を塞ぐ。エッチングとしては、犠牲層とエッチング孔を介して、第1の電極8と外部に設けた対向電極との間で通電する電解エッチングを実行する。犠牲層の領域は、前記通電される第1の電極の領域に完全に含まれることが好ましい。また、上記振動膜と基板との所定の間隔とは、本発明者らの知見によれば、2μm以下、好ましくは100nm以下である。当該間隔の下限値については、振動膜として信号の入出力値に悪影響(コラプスによる電気機械変換係数の悪化も含む)を与えない限り特に制約はないが、ハンドリングや製造の容易性の観点から70nm以上が好ましい。
【0020】
図1で示す1つのキャビティを持つセルを複数含むエレメントで構成された容量型電気機械変換装置は、次の製造方法で製造され得る。第1の電極と、複数のセルのキャビティとその間を連絡ないし連通する前記通路とに形成された犠牲層と、エッチング孔を介して、電解エッチングを行う。この電解エッチングは、第1の電極と外部対向電極との間で通電して行い、犠牲層をエッチングして複数のキャビティと通路を一括的に形成する。ここでも、犠牲層の領域は、前記通電される第1の電極の領域に完全に含まれることが好ましい。そして、電解エッチング工程に引き続き、エッチング孔から犠牲層除去剤を導入することで、犠牲層を除去ないし低減する工程を実行する。
【0021】
以上の本実施形態の製造方法によれば、比較的大面積かつ薄いキャビティを有するデバイスの形成においても、電解エッチング工程により、エッチング孔の大きさや数をあまり増やさなくても、比較的高速に犠牲層をエッチングしキャビティ9を形成できる。更に、電解エッチング工程に引き続き、エッチング孔から犠牲層除去剤をキャビティ内に導入する工程を設けることで、電解エッチングでキャビティ内にエッチングされずに残った犠牲層の残渣を低減できる。その為、電解エッチングの工程と犠牲層除去剤による残渣除去の工程の相乗効果で、比較的大面積かつ薄いキャビティを有する容量型電気機械変換装置やアレイ状容量型電気機械変換装置でも、製造時間の短縮化、性能の向上、歩留まりの向上などを実現できる。
【0022】
以下、図を用いてより具体的な実施例を説明するが、本発明の範囲は以下の構成には限定されず種々の変形が可能である。以下の実施例の説明において、上記実施形態と同様な部分には同一の符号を付して説明する。
(実施例1)
本発明に係る容量型電気機械変換装置の製造方法の実施例1の工程を説明する断面図である図2-1(a)乃至図2-2(k)を用いて、実施例1を説明する。説明を簡潔にする為、“パターニング工程”は、基板上のフォトレジストの塗布、乾燥、露光、現像などのフォトリソグラフィ工程から、エッチング工程、フォトレジストの除去、基板の洗浄、乾燥工程の順に行なわれる全工程を意味するものとする。また、本実施例の基板4はドープSi基板を例として説明するが、他の材料の基板を使用することもできる。例えば、SiO2、サファイアなどの基板も使用可能である。本実施例では、裏面から下部電極に電位を印加し、電解エッチングを行う為、基板4は、Si基板に不純物をドーピングしたドープSi基板が好ましい。この基板の表面不純物濃度は、1014cm-3以上が望ましく、1016cm-3以上がより望ましく、1018cm-3以上が更に望ましい。裏面から電解エッチングを行わず、表面から直接下部電極に電圧を印加して電解エッチングを行う場合は、不純物をドーピングしていないSi基板でも差し支えない。
【0023】
本実施例の製造方法において、まず、図2-1(a)に示す様に、Si基板4を準備し、洗浄する。次に、図2-1(b)に示す様に、Si基板4の表面にスパッタリングで下部電極8とするTi層を成膜する。後の工程で、犠牲層を電解エッチングする際、均一、安定且つ高速なエッチングを行う為に、下部電極8による電圧降下は低減させることが望ましい。次に、図2-1(c)に示す様に、フッ酸を含有する溶液などを用いて、下部電極8(Ti膜)をパターニングする。次に、図2-1(d)に示す様に、犠牲層6を成膜し、パターニングする。この後の電解エッチングの工程にて、均一、安定且つ高速に犠牲層6をエッチングする為、犠牲層6内の電圧降下を減らすことが望ましい。従って、犠牲層6の材料には金属を利用すると良い。本実施例では、犠牲層6の材料として、EB(Electron
Beam)蒸着法により成膜したCr膜を使用する。このCr膜は、硝酸第二セリウムアンモニウムを含有する溶液などを用いてパターニングすることができる。次に、図2-1(e)に示す様に、振動膜3を成膜する。振動膜3の材料には、PECVD(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)法で形成するSi3N4膜などを使用することができる。このとき、振動膜支持部2も同時に成膜、形成される。
【0024】
次に、図2-1(f)に示す様に、CF4ガスによるプラズマのドライエッチング法などで、振動膜3のSi3N4膜をパターニングし、外部から犠牲層6へと通じるエッチング液導入用エッチング孔10を設ける。エッチング液の入口である孔10は、犠牲層6をエッチングストップ層として、CF4ガスプラズマによるドライエッチング法で形成することができる。CF4ガスプラズマによるドライエッチングでは、精密なエッチングが可能である為、この工程で同時に、下部電極8に損傷をあまり与えずに下部電極8の電極取り出し口である電極パッド7が形成できる。
【0025】
次に、図2-2(g)に示す様に、基板4裏面との接触抵抗を減らす為、基板4の裏面に、一層の金属の裏面電極18、例えばTi(膜厚20nm〜1000nm)などを設けることが好ましい。次に、図2-2(h)に示す様に、電解エッチング液に浸漬した状態で、基板裏面から下部電極(電解エッチング用の一方の電極)8へ電圧を印加することで電解エッチングを実行する。このとき、電解エッチング用の他方の電極である対向電極12及び参照電極11を設置する。このときの電解エッチング液には、例えば濃度2mol/lの食塩水を利用することができる。この様にして、電解エッチング液に浸漬した状態で、下部電極8に電圧を印加し、犠牲層6にホールを供給することで、エッチング液の入口となる孔10から電解エッチングが開始され、犠牲層6を比較的短時間でエッチングできる。電解エッチング液は食塩水(NaCl液)に限らず、他の電解液、例えば、KClなどを含む、犠牲層以外の構成材料に対して十分に遅い溶解速度を有する物質を使用することも可能である。
【0026】
このときの電解エッチングにかける電圧は、犠牲層6の溶解電圧より大きく、かつ下部電極8の溶解電圧より小さい電圧で実施する。即ち、犠牲層6の材料としてCr、下部電極8の材料としてTiを使用した場合では、犠牲層6のCrの溶解電圧0.75Vより大きく、下部電極8のTiの溶解電圧4V以下に電解電圧を設定する。例えば、19mm角のチップ内に40μmの犠牲層Crパターン(膜厚200nm)が多数配置されたデバイスを用いて電解エッチングを実施した場合、印加電圧を約2.7Vに設定する。この結果、約240秒で電流値が0に漸近し、光学顕微鏡で観察した結果によって、電解エッチングによる犠牲層のエッチングが完了したことが判った。
【0027】
しかし、電解エッチングのみでは、犠牲層6及び下部電極8の材料の選択、印加電圧及び印加時間を適切に設定した場合でも、キャビティ9内に犠牲層の残渣17が残ってしまうことがある。図3に電解エッチング後に、洗浄、乾燥工程を行った後にFIB(Focus Ion Beam)にてキャビティ9を開口し、断面形状をSEM(Scanning Electron Microscopy)にて観察した写真を示す。キャビティ9内に氷柱状の物質が多数残り、キャビティ9内部を塞いでしまっている。また、キャビティ9内部を構成する元素成分をEDS(Energy Dispersive Spectroscopy)にて分析した結果より、キャビティ9内部に犠牲層であるCrが残渣17として残っていることが判った。
【0028】
次に、電解エッチング工程に引き続き、純水に浸漬して十分に洗浄した後、図2-2(i)に示す様に、犠牲層除去剤に浸漬する。このことで、孔10からキャビティ9内に犠牲層除去剤を導入し、電解エッチングによりキャビティ9内に残った犠牲層の残渣17を除去できる。犠牲層除去剤には、犠牲層を溶解し、その他の構成材料に対しては、犠牲層の溶解速度に対して十分に遅い溶解速度を有する物質を用いることができる。例えば、下部電極8にTi、犠牲層6にCrを用い、振動膜3にSi3N4を用いた場合では、犠牲層除去剤には、硝酸第二セリウムアンモニウムを含有する溶液などを使用することができる。電解エッチング後に純水に浸漬洗浄することで、キャビティ9内には純水が充填している。その為、その状態を保ったまま犠牲層除去剤に浸漬すれば、純水と犠牲層除去剤の間で濃度勾配による溶液の拡散が起こり、大面積且つ薄いキャビティ9内にも比較的容易に犠牲層除去剤を導入でき、犠牲層の残渣17を除去できる。
【0029】
図4に犠牲層除去剤に浸漬し、洗浄、乾燥工程を実施した後にFIBにてキャビティ9を開口し、断面形状をSEMにて観察した写真を示す。電解エッチング後に残っていた犠牲層の残渣17が犠牲層除去剤により低減され、キャビティ9が有効に形成されていることが判る。また、キャビティ9内部を構成する元素成分をEDSにて分析した結果より、犠牲層除去工程により、キャビティ9内部には、犠牲層の成分であるCrの残渣がほぼ除去されたことが判った。
【0030】
更に、次の表1に電解エッチングのみの場合と、電解エッチングと犠牲層除去剤浸漬を組み合わせた場合における、キャビティ9内部の床部分(即ち下部電極表面)、天井部分(即ち振動膜裏面)のAFM(Atomic Force Microscope)測定結果を示す。犠牲層除去剤浸漬工程により、キャビティ9内部の犠牲層の残渣17が低減され、床(下部電極表面)及び天井(振動膜裏面)での表面粗さが浸漬前と比較して低減される。即ち、床が約12nmから約2.5nmに、天井が約9.2nmから約1.9nmにと、約1/5に低減されていることを確認した。
【0031】
【表1】

【0032】
前記犠牲層残渣の除去の工程完了後、純水で洗浄して乾燥する。次に、図2-2(j)に示す様に、EB蒸着によるAlなどを成膜して孔10を封止し、パターニングを行い、封止部20を形成する。この封止工程には、CVD、PVDなどによる窒化膜、酸化膜、窒化酸化膜、高分子樹脂膜、金属膜の中の少なくとも一種を選択することも可能である。次に、図3(k)に示す様に、振動膜3の表面に上部電極1を成膜し、パターニングする。本実施例では、上部電極1の材料としては、EB蒸着によるAlなどの金属を使用することができる。
【0033】
以上から、本実施例での容量型電気機械変換装置の製造方法により、電解エッチングのみを使用して製造したデバイスにおいて問題となる場合があるキャビティ9内の残渣を低減できる。また、犠牲層除去剤に浸漬のみで製造する際に課題となる生産性を改善した容量型電気機械変換装置の製造方法を提供できる。
【0034】
(実施例2)
図5-1(a)から図5-2(k)及び図5-3は、本発明に係る容量型電気機械変換装置の製造方法の実施例2を説明する断面図である。図5-1(a)から図5-2(k)に表すプロセスは、図5-3の1-1’線について断面形状を示した図である。図5-1(a)から5-2(k)に示すプロセスは、実施例1とほぼ同様である。特に、本実施例での容量型電気機械変換装置は、複数のキャビティ9が流路13により相互に接続されており、図5-3に示す様に複数のキャビティ9を接続する流路13の交点にエッチング孔10を設けている。流路13は、キャビティ9を形成する犠牲層成膜工程でキャビティ9部と一括的に形成できる。本実施例では、電解エッチング工程及び犠牲層の残渣除去の工程において、電解エッチング工程では、1つのキャビティ9に対して複数の孔10からエッチング反応が進む。その為、実施例1の場合と比較して、より高速に電解エッチングを完了できる。犠牲層の残渣17の除去工程においても、複数の孔10から犠牲層除去剤が導入される為、実施例1の場合と比較して、より高速にキャビティ9内に犠牲層除去剤が拡散され、より高速に残渣17を低減できる。以上から、本実施例の容量型電気機械変換装置の製造方法により、より高速にキャビティ9内部の犠牲層の残渣を低減した容量型電気機械変換装置が提供できる。
【0035】
(実施例3)
図6-1(a)から図6-2(k)は、本発明に係る容量型電気機械変換装置の製造方法の実施例3を説明する断面図である。本実施例での容量型電気機械変換装置は、実施例1、2とほぼ同様であるが、基板内部に貫通配線15を有する絶縁性基板4を用いている。この様な貫通配線15を有する絶縁性基板は、市販品を使用することも可能である。例えば、感光性ガラス(HOYA社製、PEG3C)を利用して、基板に貫通孔を開け、貫通孔内部にCuなどの金属を鍍金で充填し、基板表面をCMP(Chemical Mechanical Polishing)研磨することで作製できる。本実施例では、上記ガラス基板を例として説明する。
【0036】
図6-1(a)から6-2(h)に示すプロセスは、実施例1、2と同様である。次に、図6-2(i)に示す様に、犠牲層除去剤に浸漬し、電解エッチング時にキャビティ9内部に残った残渣を低減する工程を実施する。この工程において、犠牲層除去剤には、犠牲層6を溶解し、基板5、下部電極8、振動膜3及び貫通配線15に対して、犠牲層の溶解速度より十分に遅い溶解速度を有する材料を用いると良い。また、貫通配線15に関しては、基板裏面を犠牲層の溶解速度に対して十分に遅い材料で保護した状態で、犠牲層除去剤に浸漬すればよく、犠牲層除去剤の貫通配線15に対する選択性は必ずしも必要でない。基板裏面を保護する材料としては、Ti膜、レジスト膜で覆う方法がある。また、図6-2(g)の工程で裏面に成膜した裏面電極18に兼用させてもよい。また、基板裏面が犠牲層除去剤に対して物理的に触れない様に、ジグなどで機械的に覆う方法も有効である。その他の工程に関しては、実施例1、2と同様である。
【符号の説明】
【0037】
1…上部電極(第1の電極、一方の電極)、2…支持部、3…振動膜、4…基板、6…犠牲層、8…下部電極(第2の電極)、9…キャビティ、10…エッチング孔、12…対向電極(他方の電極)、13…流路、14…封止部、17…残渣

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に配置された支持部によって基板と所定の間隔を保って可動に保持される振動膜により形成されるキャビティと、対向して設けられ一方は前記キャビティに面する表面が露出し他方は前記キャビティに面する表面が絶縁膜で覆われる2つの電極とを有する容量型電気機械変換装置の製造方法であって、
基板上に犠牲層を形成する工程と、
前記犠牲層の上に振動膜を含む層を形成する工程と、
外部から前記犠牲層に通じるエッチング液導入用エッチング孔を形成する工程と、
前記エッチング孔を電解エッチング液に浸しながら 前記キャビティに面する表面が露出する電極を電解エッチング用の一方の電極として、外部に設けた前記電解エッチング液に接している他方の電極との間で通電し、前記犠牲層を電解エッチングして前記キャビティを形成する工程と、
前記エッチング孔から犠牲層除去剤を導入し、前記電解エッチングによる犠牲層の残渣を低減する工程と、
を有することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記犠牲層は前記犠牲層除去剤に溶解される材料で構成され、前記キャビティに面する表面が露出する電極及び前記振動膜は前記犠牲層の溶解速度より遅い材料で構成されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記複数のエッチング孔を塞ぐ封止部を形成して前記キャビティを封止する工程を更に有することを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記エッチング孔形成工程において、前記エッチング孔は、前記支持部に形成されてキャビティ間を連通する通路上の材料部と前記振動膜と前記基板のうちの少なくとも1つに形成されることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記キャビティに面する表面が露出する電極は、前記基板に設けられる第1の電極であり、前記キャビティに面する表面が絶縁膜で覆われる電極は、前記振動膜に設けられる第2の電極であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の容量型電気機械変換装置の製造方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−259371(P2011−259371A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134162(P2010−134162)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】