説明

封止用エポキシ樹脂組成物及び電子部品装置

【課題】ダイパッドとインナーリードとが銀メッキされた銅製リードフレームに対する接着性が良好で、耐半田性に優れた封止用エポキシ樹脂組成物、及びこれにより封止した素子を備えた電子部品装置を提供すること。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)無機充填材、及び、(D)酸無水物基を持つシランカップリング剤が分子間縮合することなく酸無水物基、アルコキシ基が共に完全に加水分解された化合物を含有することを特徴とする封止用エポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止用エポキシ樹脂組成物、及び電子部品装置に関する。より具体的には、ダイパッド及びインナーリードが銀メッキされた銅製リードフレームを使用する場合において、耐半田性に優れた封止用エポキシ樹脂組成物、及びその封止用エポキシ樹脂組成物を使用した電子部品装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型化、軽量化、高性能化の市場動向において、パッケージ薄型化傾向が進み、パッケージが吸水しやすくなっている。また半導体チップの多層化により、リードフレームダイパッド部分をより深くオフセットする必要が出てきている。つりピン部分のオフセットが大きくなった結果、応力が集中しやすくなり、つりピンの銀メッキ部分での剥離が顕著になる問題が発生してきている。かかるつりピン部の剥離が起点となり、ダイパッドの剥離や内部クラックが発生しやすくなる。一般に銅に対する封止樹脂の接着力は銀に対するものと比較して劣るため、特に銀メッキ部分に対して優れた耐半田クラック性を持つ半導体パッケージ材料が求められている。
従来からのエポキシ樹脂組成物では解決できない問題点としては、表面実装の採用により半導体装置が半田浸漬、あるいは半田リフロー工程で急激に200℃以上の高温にさらされ、吸湿でパッケージ内に入り込んだ水分が爆発的に気化する際の応力により、半導体装置にクラックが発生したり、半導体素子、リードフレーム、インナーリード上の各種メッキされた各接合部分とエポキシ樹脂組成物の硬化物の界面で剥離が生じ、信頼性が著しく低下する現象が挙げられる。
【0003】
半田処理による信頼性低下を改善するために、エポキシ樹脂組成物中の無機充填材の充填量を増加させることで低吸湿化、高強度化、低熱膨張化を達成し耐半田性を向上させるとともに、低溶融粘度の樹脂成分を使用して、成形時に低粘度で高流動性を維持させる手法が一般的となりつつある。一方、半田処理後の信頼性において、エポキシ樹脂組成物の硬化物と半導体装置内部に存在する半導体素子やリードフレーム等の基材との界面の接着性は非常に重要になってきている。この界面の接着力が弱いと、半田処理後の基材との界面で剥離が生じ、更にはこの剥離に起因し半導体装置にクラックが発生する。
【0004】
従来から耐半田性の向上を目的として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランや3―アミノプロピルトリエトキシシラン等、種々のカップリング剤がエポキシ樹脂組成物中に添加されてきた。
例えば特許文献1では、Ni−Pd、Ni−Pd−Au等のプリプレーティングフレームへの密着向上を目的として、ビフェニル型エポキシ樹脂とキシリレン型フェノール樹脂硬化剤に3−トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物またはその加水分解物を添加した封止材を用いているが、特許文献1に記載された方法では加水分解が十分でなく、銅製リードフレームの特に銀メッキ部分に対する耐半田性が劣っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−293885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる状況に鑑みなされたもので、吸湿後の半田処理においても半導体装置などの電子部品装置にクラックや基材との剥離が発生しない耐半田性、特にリードフレーム
の銀メッキ部分との接着性に優れた封止用エポキシ樹脂組成物、及びこれにより素子を封止してなる電子部品装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、封止用エポキシ樹脂組成物に、酸無水物基を持つシランカップリング剤が分子間縮合することなく酸無水物基、アルコキシ基が共に完全に加水分解した化合物を使用することにより上記の目的を達成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
このような目的は、下記の本発明[1]〜[9]により達成される。
[1](A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)無機充填材、及び、(D)酸無水物基を持つシランカップリング剤が分子間縮合することなく酸無水物基、アルコキシ基が共に完全に加水分解された化合物を含有することを特徴とする封止用エポキシ樹脂組成物。
【0009】
[2]上記封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物は、260℃における曲げ弾性率が520MPa以下である、上記[1]に記載の封止用エポキシ樹脂組成物。
【0010】
[3]上記(D)成分が、下記一般式(1)で示される化合物を含む、上記[1]又は[2]に記載の封止用エポキシ樹脂組成物。
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜5のアルキル基である。mは1〜6の整数である。nは平均値で1〜3の正数。)
【0011】
[4]上記(A)成分が、下記一般式(2)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂、下記一般式(3)で示されるフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、及び下記一般式(4)で示されるビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種以上のエポキシ樹脂を含む、上記[1]ないし[3]のいずれかに記載の封止用エポキシ樹脂組成物。

【化2】

(上記一般式(2)において、R〜Rは水素原子及び炭素数1〜10の置換もしくは
無置換の炭化水素基から選ばれ、全てが同一でも互いに異なっていてもよい。nは0〜3の整数を示す。)
【化3】

(上記一般式(3)において、R〜Rは水素原子及び炭素数1〜10の置換もしくは無置換の炭化水素基から選ばれ、全てが同一でも互いに異なっていてもよい。nは0〜20の整数を示す。)
【化4】

(上記一般式(4)において、R〜R17は水素原子及び炭素数1〜10の置換もしくは無置換の炭化水素基から選ばれ、全てが同一でも互いに異なっていてもよい。nは0〜3の整数を示す。)
【0012】
[5]上記(B)成分が、下記一般式(5)で示されるビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種以上のフェノール樹脂を含む、上記[1]ないし[4]のいずれかに記載の封止用エポキシ樹脂組成物。
【化5】

(上記一般式(5)において、R18〜R26は水素原子及び炭素数1〜10の置換もしくは無置換の炭化水素基から選ばれ、全てが同一でも互いに異なっていてもよい。nは0〜3の整数を示す。)
【0013】
[6]上記[1]ないし[5]のいずれかに記載の封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物で、素子が封止されていることを特徴とする電子部品装置。
【0014】
[7]銅製リードフレームのダイパッド上に上記素子が搭載され、上記素子の電極パッドと上記銅製リードフレームのインナーリードとがボンディングワイヤによって接続されている上記[6]に記載の電子部品装置。
【0015】
[8]上記銅製リードフレームのダイパッドとインナーリードとが銀メッキされたものである、上記[7]に記載の電子部品装置。
【0016】
[9]上記銅製リードフレームのダイパッド上に2以上の上記素子が積層して搭載されている上記[7]または[8]に記載の電子部品装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ダイパッドとインナーリードとが銀メッキされた銅製リードフレームに対する接着性、耐半田性に優れた封止用エポキシ樹脂組成物を得ることができる。
また、この封止用エポキシ樹脂組成物を用いてIC、LSI等の電子部品を封止すれば信頼性に優れた電子部品装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る封止用エポキシ樹脂組成物を用いた電子部品装置の一例について、断面構造を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の封止用エポキシ樹脂組成物(以下、単に「エポキシ樹脂組成物」ということがある)は、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)無機充填材、及び、(D)酸無水物基を持つシランカップリング剤が分子間縮合することなく酸無水物基、アルコキシ基が共に完全に加水分解された化合物を含有することを特徴とする。これにより、ダイパッドとインナーリードとが銀メッキされた銅製リードフレームに対する接着性、及び耐半田性に優れたエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
本発明の電子部品装置は、上述のエポキシ樹脂組成物の硬化物で、素子が封止されていることを特徴とする。これにより、信頼性に優れた電子部品装置を得ることができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
先ず、本発明のエポキシ樹脂組成物について説明する。
本発明のエポキシ樹脂組成物において用いられる(A)成分のエポキシ樹脂は、エポキシ樹脂組成物に一般に使用されているもので特に制限はないが、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類及び/又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したもの、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールA/D等のジグリシジルエーテル、アルキル置換又は無置換のビフェノールのジグリシジルエーテルであるビフェニル型エポキシ樹脂、フェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノールアラルキル樹脂のエポキシ化物、スチルベン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、フタル酸、ダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルエステル
型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンとフェノ−ル類の共縮合樹脂のエポキシ化物であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン環を有するエポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、テルペン変性エポキシ樹脂、1−アルケン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、及びこれらのエポキシ樹脂をシリコーン、アクリロニトリル、ブタジエン、イソプレン系ゴム、ポリアミド系樹脂等により変性したエポキシ樹脂などが挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
中でも、ダイパッドとインナーリードとが銀メッキされた銅製リードフレームに対する接着性の観点から下記一般式(2)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂、下記一般式(3)で示されるフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、及び下記一般式(4)で示されるビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂が好ましい。
【0022】
【化2】

(上記一般式(2)において、R〜Rは水素原子及び炭素数1〜10の置換もしくは無置換の炭化水素基から選ばれ、全てが同一でも互いに異なっていてもよい。nは0〜3の整数を示す。)
【化3】

(上記一般式(3)において、R〜Rは水素原子及び炭素数1〜10の置換もしくは無置換の炭化水素基から選ばれ、全てが同一でも互いに異なっていてもよい。nは0〜20の整数を示す。)
【化4】

(上記一般式(4)において、R〜R17は水素原子及び炭素数1〜10の置換もしくは無置換の炭化水素基から選ばれ、全てが同一でも互いに異なっていてもよい。nは0〜3の整数を示す。)
【0023】
上記一般式(2)中のR〜Rは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基等の炭素数1〜10のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、トリル基、キシリル基等の炭素数6〜10のアリール基、及び、ベンジル基、フェネチル基等の炭素数6〜10のアラルキル基等から選ばれるが、中でも水素原子又はメチル基が好ましい。上記一般式(2)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂としては、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ビフェニル又は4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルを主成分とするエポキシ樹脂、エピクロルヒドリンと4,4’−ビフェノール又は4,4’−(3,3’,5,5’−テトラメチル)ビフェノールとを反応させて得られるエポキシ樹脂等が挙げられ、中でも、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルを主成分とするエポキシ樹脂がより好ましく、例えば、YX−4000K、YX−4000H(いずれも三菱化学株式会社製商品名)等が市販品として入手可能である。このビフェニル型エポキシ樹脂を使用する場合、ダイパッドとインナーリードとが銀メッキされた銅製リードフレームに対する接着性が向上する。その配合量は、その性能を発揮するためにエポキシ樹脂全量に対して20質量%以上とすることが好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。
【0024】
上記一般式(3)中のR〜Rは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基等の炭素数1〜10のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、トリル基、キシリル基等の炭素数6〜10のアリール基、及び、ベンジル基、フェネチル基等の炭素数6〜10のアラルキル基等から選ばれるが、中でも水素原子又はメチル基が好ましい。上記一般式(3)で示されるフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂としては、n=0を主成分とするエポキシ樹脂がより好ましく、例えば、NC−2000(日本化薬株式会社製商品名)等が市販品として入手可能である。このフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂を使用する場合、架橋点間距離が広がるため、硬化物の弾性率を低減できる。その配合量は、その性能を発揮するためにエポキシ樹脂全量に対して10質量%以上とすることが好ましく、20質量%以上がより好ましい。
【0025】
上記一般式(4)中のR〜R17は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基等の炭素数1〜10のアルキル基、メトキシ基
、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、トリル基、キシリル基等の炭素数6〜10のアリール基、及び、ベンジル基、フェネチル基等の炭素数6〜10のアラルキル基等から選ばれるが、中でも水素原子又はメチル基が好ましい。上記一般式(4)で示されるビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂としては、n=0を主成分とするエポキシ樹脂がより好ましく、例えば、NC−3000L(日本化薬株式会社製商品名)等が市販品として入手可能である。このビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂を使用する場合、架橋点間距離が広がるため、硬化物の弾性率を低減できる。その配合量は、その性能を発揮するためにエポキシ樹脂全量に対して10質量%以上とすることが好ましく、20質量%以上がより好ましい。
【0026】
上記一般式(2)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂、上記一般式(3)で示されるフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、及び上記一般式(4)で示されるビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂は、それぞれ単独で用いても2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合には、それらの配合量はエポキシ樹脂全量に対して合計で50質量%以上とすることが好ましく、70質量%以上とすることがより好ましい。
【0027】
本発明のエポキシ樹脂組成物で用いられる(A)成分のエポキシ樹脂全体の配合割合としては、特に限定されないが、全エポキシ樹脂組成物中に、1質量%以上、15質量%以下であることが好ましく、2質量%以上、10質量%以下であることがより好ましい。
(A)成分のエポキシ樹脂全体の配合割合が上記下限値以上であると、エポキシ樹脂組成物の溶融時の流動性を良好なものとすることができる。また、上記上限値以下であると、成形品の耐半田性を良好なものとすることができる。
【0028】
本発明のエポキシ樹脂組成物において用いられる(B)成分のフェノール樹脂硬化剤は、エポキシ樹脂組成物に一般に使用されているもので特に制限はないが、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール類及び/又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られる樹脂、フェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノールアラルキル樹脂などが挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
中でも、流動性、低吸湿性の観点から、下記一般式(5)で示されるビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂が好ましい。
【化5】

(上記一般式(5)において、R18〜R26は水素原子及び炭素数1〜10の置換もし
くは無置換の炭化水素基から選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよい。nは0〜3の整数を示す。)
【0030】
上記式(5)中のR18〜R26は全てが同一でも異なっていてもよく、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基等の炭素数1〜10のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、トリル基、キシリル基等の炭素数6〜10のアリール基、及び、ベンジル基、フェネチル基等の炭素数6〜10のアラルキル基などの炭素数1〜10の置換又は無置換の炭化水素基から選ばれるが、中でも水素原子及びメチル基が好ましい。上記一般式(5)で示されるビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂としては、例えば、R18〜R26が全て水素原子である化合物等が挙げられ、中でも溶融粘度の観点から、nが0の成分を50質量%以上含む縮合体の混合物が好ましい。このような化合物としては、MEH−7851SS(明和化成株式会社製商品名)が市販品として入手可能である。このビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂を使用する場合、その配合量は、その性能を発揮するためにフェノール樹脂硬化剤全量に対して50質量%以上とすることが好ましく、70質量%以上がより好ましい。
【0031】
本発明のエポキシ樹脂組成物で用いられる(B)成分のフェノール硬化剤の配合割合は、特に限定されないが、全エポキシ樹脂組成物中に、0.5質量%以上、12質量%以下であることが好ましく、1質量%以上、9質量%以下であることがより好ましい。
(B)成分のフェノール樹脂硬化剤の配合割合が上記下限値以上であると、エポキシ樹脂組成物の溶融時の流動性を良好なものとすることができる。また、上記上限値以下であると、成形品の耐半田性を良好なものとすることができる。
【0032】
(A)成分のエポキシ樹脂と(B)成分のフェノール樹脂硬化剤との当量比、すなわち、エポキシ樹脂中のエポキシ基数/フェノール樹脂硬化剤中の水酸基数の比は、特に制限はないが、それぞれの未反応分を少なく抑えるために0.5〜2の範囲に設定されることが好ましく、0.6〜1.5の範囲に設定されることがより好ましい。また、成形性、耐リフロー性に優れるエポキシ樹脂組成物を得るためには0.8〜1.2の範囲に設定されることがさらに好ましい。
【0033】
本発明のエポキシ樹脂組成物において用いられる(C)成分の無機充填材は、吸湿性低減、線膨張係数低減、熱伝導性向上及び強度向上のためにエポキシ樹脂組成物に配合されるものであり、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミ、窒化ホウ素、ベリリア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア等の粉体、又はこれらを球形化したビーズ、ガラス繊維などが挙げられる。さらに、難燃効果のある無機充填材としては水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硼酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛等が挙げられる。これらの無機充填材は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の無機充填材の中で、線膨張係数低減の観点からは溶融シリカが、高熱伝導性の観点からはアルミナが好ましく、充填材形状は成形時の流動性及び金型摩耗性の点から球形が好ましい。
【0034】
無機充填材(C)の配合量は、成形性、吸湿性、線膨張係数の低減及び強度向上の観点から、エポキシ樹脂組成物に対して80質量%以上、96質量%以下の範囲が好ましく、82質量%以上、92質量%以下の範囲がより好ましく、86質量%以上、90質量%以下の範囲がさらに好ましい。
無機充填材(C)の配合量を上記下限値以上とすることにより、吸湿要因である樹脂成分の配合量を少なくし、エポキシ樹脂組成物の硬化物の吸湿量を低く抑えることができる。また、上記上限値以下とすることにより、成形性を良好なものとすることができる。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物において用いられる(D)成分は、酸無水物基を持つシランカップリング剤が分子間縮合することなく酸無水物基、アルコキシ基が共に完全に加水分解された化合物であれば特に制限はないが、例えば、コハク酸無水物、マレイン酸無水物、グルタル酸無水物、フタル酸無水物等のカルボン酸無水物と炭素数が1から5のアルコキシ基や炭素数が1から5のアルキル基が結合したシリル基とを炭素数1から6のアルキレン基でつないだ化合物が挙げられ、これらを単独で用いても2種類以上を組み合わせてもよい。
本発明で用いられる(D)成分は、酸無水物基を持つシランカップリング剤が分子間で縮合することなく酸無水物基、アルコキシ基が共に完全に加水分解されていることを特徴とする。分子間で縮合がないため、エポキシ樹脂組成物中での分散性に優れ、予め酸無水物基やアルコキシ基が加水分解されているため、容易に無機充填材や各種基材表面の水酸基と水素結合あるいは共有結合を形成し、耐半田性を向上させることが可能になる。特にこの化合物を用いたエポキシ樹脂組成物は、ダイパッドやインナーリードが銀メッキされた銅リードフレームにおいて耐半田性が改善される。
なお、本発明のエポキシ樹脂組成物に用いられる上記(D)成分において、酸無水物基、アルコキシ基が共に完全に加水分解されたとは、この化合物のIRスペクトルを測定した場合に、1850〜1750cm−1の酸無水物のピークと、800cm−1のアルコキシシランのピークとが、ともに実質的に検出されないことをいう。
上記(D)成分としては、中でも、下記一般式(1)で示される化合物を含むことが好ましい。
【0036】
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜5のアルキル基である。mは1〜6の整数である。nは平均値で1〜3の正数。)
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、上記(D)成分の配合量としては、全エポキシ樹脂組成物中に0.05〜2質量%が好ましく、特に0.1〜0.4質量%が好ましい。
上記(D)成分の配合量を上記下限値以上とすることにより、成形品の耐半田性を向上させることができる。また、上記上限値以下とすることにより、成形性を良好なものとすることができる。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、上記(D)成分を得るためにシランカップリング剤を加水分解する方法としては、特に限定するものではないが、例えば純水にシランカップリング剤を攪拌しながらゆっくりと滴下し、混合物が2層に分離しなくなるまで十分に攪拌混合する方法が挙げられる。
このとき、シランカップリング剤と純水との当量比(モル比)は、シランカップリング剤:純水=1:6〜1:10であることが好ましい。純水の当量比を上記上限値以下とすることにより、成形品にボイドが発生するのを防止することができる。また、上記下限値以上とすることにより、シランカップリング剤の加水分解を充分に行うとともに、シランカップリング剤の分子間縮合を防止することができる。これにより、エポキシ樹脂組成物の銀メッキ部分に対する接着性や耐半田性を良好なものとすることができる。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂組成物において用いられる上記(D)成分は、その特性が損なわれない範囲で他のシランカップリング剤と併用できる。併用できるシランカップリング剤としては、1分子中にアルコキシ基と、エポキシ基などの有機官能基を有するシラン化合物全般を指し、例えばエポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン等の各種シラン系化合物が挙げられる。これらを例示すると、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(β−アミノエチル)アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N−(ジメトキシメチルシリルイソプロピル)エチレンジアミン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメトキシシラン等のシラン系カップリング剤などが挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
通常、カップリング剤はインテグラルブレンドによりエポキシ樹脂組成物中に混合されるが、本発明のエポキシ樹脂組成物において上記(D)成分は、予めエポキシ樹脂あるいはやフェノール樹脂の全部又は一部に加熱混合しても良い。
【0041】
又、本発明のエポキシ樹脂組成物においては、上記(D)成分で無機充填材表面を処理してもよい。上記(D)成分は、無機充填材表面に存在することにより、無機充填材とエポキシ樹脂組成物中の有機成分とを化学的に結合させ、界面の接着性の向上に有効であると考えられる。そのため、上記(D)成分が無機充填材表面に存在すること、より好ましくは吸着又は固定化していることが有効である。無機充填材表面を上記(D)成分で処理する方法としては、例えば攪拌している無機充填材に上記(D)成分或いはそれらのアルコール等の溶液を噴霧し、更に攪拌を行った後室温に放置したり、加熱することにより表面処理無機充填材を得る等を挙げることができる。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、硬化性と流動性の良好なエポキシ樹脂組成物を得る目的で、硬化促進剤を用いることができる。
本発明で用いることができる硬化促進剤は、封止用エポキシ樹脂組成物に一般に使用されているもので特に制限はないが、例えば、1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、1,5−ジアザ−ビシクロ(4,3,0)ノネン、5,6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等のシクロアミジン化合物及び、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン化合物及びこれらの誘導体、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物及びこれらの誘導体、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(4−メチルフェニル)ホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等の有機ホスフィン、及びこれらの有機ホスフィンに1,4−ベンゾキノン、2,5−トルキノン、1,4−ナフトキノン、2,3−ジメチルベンゾキノン、2,6−ジメチルベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノン、フェニル−1,4−ベンゾキノン等のキノン化合物、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェ
ノールS、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物等の有機リン化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩及びこれらの誘導体などが挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも成形性の観点から、有機リン化合物が好ましく、有機ホスフィン及び有機ホスフィンとキノン化合物との付加物がより好ましく、トリフェニルホスフィン、及び、トリフェニルホスフィン、トリス(4−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン等の第三ホスフィンとp−ベンゾキノン、1,4−ナフトキノン等のキノン化合物との付加物がさらに好ましい。
【0043】
硬化促進剤の配合量は、硬化促進効果が達成される量であれば特に制限されるものではないが、エポキシ樹脂(A)に対して0.1〜10質量%が好ましく、より好ましくは1〜5質量%である。
硬化促進剤の配合量を上記下限値以上とすることにより、短時間での硬化性を良好なものとすることができる。また、上記上限値以下とすることにより、硬化速度を適正なものとし、充填性の良好な成形品を得ることができる。
【0044】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、耐半田ストレス性と、流動性の良好なエポキシ樹脂組成物を得る目的で、シロキサン付加重合体を添加することができる。シロキサン付加重合体しては特に制限はなく、従来公知のものを用いることができるが、例えば、ジメチルシロキサンのメチル置換基の一部を、アルキル基、エポキシ基、カルボキシル基、及びアミノ基等の置換基で置換した変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0045】
シロキサン付加重合体は1種又は2種以上混合して、エポキシ樹脂組成物全体に対し0.1質量%以上、2質量%以下の割合で使用することができる。
配合量を上記下限値以上とすることにより、成形品に十分な低弾性率を発現させることができるとともに、離型剤の分散性も良好なものとすることができる。また、上記上限値以下とすることにより、表面汚染を抑え、レジンブリードが長くなるのを抑制することができる。
【0046】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、IC等の素子の耐湿性、高温放置特性を向上させる観点から、陰イオン交換体を添加することもできる。陰イオン交換体としては特に制限はなく、従来公知のものを用いることができるが、例えば、ハイドロタルサイトや、アンチモン、ビスマス、ジルコニウム、チタン、スズ、マグネシウム、アルミニウムから選ばれる元素の含水酸化物等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、下記一般式(6)で示されるハイドロタルサイト及びビスマスの含水酸化物が好ましい。
Mg1−XAl(OH)(COX/2・mHO (6)
(上記一般式(6)において、0<X≦0.5、mは正の整数。)
【0047】
陰イオン交換体の配合量は、ハロゲンイオン等のイオン性不純物を捕捉できる十分な量であれば特に制限はないが、(A)成分のエポキシ樹脂100質量部に対して0.1質量部以上、30質量部以下が好ましく、1質量部以上、10質量部以下がより好ましく、2質量部以上、5質量部以下がさらに好ましい。
配合量を上記下限値以上とすることにより、イオン性不純物の十分な捕捉ができる。また、上記上限値以下とすることにより、経済的とすることができる。
【0048】
さらに、本発明のエポキシ樹脂組成物には、その他の添加剤として、臭素化エポキシ樹脂、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のハロゲン原子、アンチモン原子、窒素原子又はリン原子を含む公知の有機又は無機の化合物、金属水酸化物など
の難燃剤、カーボンブラック、有機染料、有機顔料、酸化チタン、鉛丹、ベンガラ等の着色剤、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、トリアジン等及びこれらの誘導体、アントラニル酸、没食子酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アミノフェノール、キノリン等及びこれらの誘導体、脂肪族酸アミド化合物、ジチオカルバミン酸塩、チアジアゾール誘導体等の接着促進剤などを必要に応じて配合することができる。
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、各種原材料を均一に分散混合できるのであれば、いかなる手法を用いても調製できるが、一般的な手法として、所定の配合量の原材料をミキサー等によって十分混合した後、ミキシングロール、ニーダ、押出機等によって溶融混練した後、冷却、粉砕する方法を挙げることができる。成形条件に合うような寸法及び質量でタブレット化すると使いやすい。
【0050】
本発明の封止用エポキシ樹脂組成物は、硬化物の260℃における曲げ弾性率が700MPa以下であることが好ましく、520MPa以下であることがさらに好ましい。硬化物の260℃における曲げ弾性率が上記範囲内であると、耐半田性試験における熱応力を小さくすることができ、耐半田性試験における不良数を低減することができる。
本発明において、硬化物の260℃における曲げ弾性率は、JIS K 6911に準じて、例えば、株式会社オリエンテック製、テンシロンUCT−5T型を用いて測定することができる。
【0051】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、各種有機溶剤に溶かして液状封止用エポキシ樹脂組成物として使用することもでき、この液状封止用エポキシ樹脂組成物を板又はフィルム上に薄く塗布し、樹脂の硬化反応が余り進まないような条件で有機溶剤を飛散させることによって得られるシートあるいはフィルム状のエポキシ樹脂組成物として使用することもできる。
【0052】
次に、本発明の電子部品装置について説明する。
本発明の電子部品装置は、以上に説明した本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物で素子が封止されていることを特徴とする。
本発明で得られるエポキシ樹脂組成物により素子を封止して得られる電子部品装置としては、銅製リードフレームの支持部材に、半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の能動素子、コンデンサ、抵抗体、コイル等の受動素子等の素子を搭載し、必要な部分を本発明のエポキシ樹脂組成物で封止した、電子部品装置などが挙げられる。
このような電子部品装置としては、例えば、銅製リードフレーム上に素子を固定し、ボンディングパッド等の素子の端子部とリード部をワイヤーボンディングやバンプで接続した後、本発明のエポキシ樹脂組成物を用いてトランスファー成形などにより封止してなる、DIP(Dual Inline Package)、PLCC(Plastic Leaded Chip Carrier)、QFP(Quad Flat Package)、SOP(Small Outline Package)、SOJ(Small Outline J−lead package)、TSOP(Thin Small Outline Package)、TQFP(Thin Quad Flat Package)等の一般的な樹脂封止型ICが挙げられる。また、MCP(Multi Chip Stacked Package)等のチップが多段に積層されたパッケージも挙げられる。
【0053】
本発明のエポキシ樹脂組成物で封止されるリードフレームの材料は特に限定されず、銅、銅合金、42アロイ(Fe−42%Ni合金)等用いることができる。
リードフレームの表面は、例えば、純銅のストライクメッキ、銀メッキ(主にインナーリード先端のワイヤ接合部やダイパッド部)、又はニッケル/パラジウム/金多層メッキ(PPF(Palladium Pre−Plated Frame))等のメッキが施
されていてもよい。
本発明のエポキシ樹脂組成物は銀に対する接着力に優れるため、インナーリードとダイパッドが銀メッキされた銅製リードフレームを封止すると、耐半田性試験における銀メッキ部分の剥離抑制効果がより顕著になる。
最近のパッケージ薄型化傾向により、パッケージが吸水しやすいが、本発明のエポキシ樹脂組成物は吸水率を低下させる効果があるため、耐半田性の向上に有効である。
また半導体チップの多層化により、リードフレームダイパッド部分をより深くオフセットする必要がある。つりピン部分のオフセットが大きくなった結果、つりピン部分に応力が集中しやすくなり、つりピンの銀メッキ部分での剥離が顕著になってきている。かかるつりピン部の剥離が起点となり、ダイパッドの剥離や内部クラックが発生する原因になる。一般に銅に対する封止樹脂の接着力は銀に対するものと比較して劣るため、特に銀メッキ部分の剥離を抑制する封止樹脂が求められている。本発明のエポキシ樹脂組成物は低弾性率であるため、応力を逃がしながら、銀メッキ部分との接着力を向上させることが可能である。
【0054】
図1は、本発明に係るエポキシ樹脂組成物を用いた電子部品装置の一例について、断面構造を示した図である。ダイパッド3上に、ダイボンド材硬化体2を介して素子1が2段に積層されて固定されている。素子1の電極パッドと銅製リードフレーム5との間はボンディングワイヤ4によって接続されている。素子1は、エポキシ樹脂組成物の硬化体6によって封止されている。
【0055】
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて素子を封止する方法としては、低圧トランスファー成形法が最も一般的であるが、インジェクション成形法、圧縮成形法等を用いてもよい。エポキシ樹脂組成物が常温で液状又はペースト状の場合は、ディスペンス方式、注型方式、印刷方式等が挙げられる。
【0056】
また、素子を直接樹脂封止する一般的な封止方法ばかりではなく、素子に直接封止用エポキシ樹脂組成物が接触しない形態である中空パッケージの方式もあり、中空パッケージ用のエポキシ樹脂組成物としても好適に使用できる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されない。
【0058】
実施例1〜5及び比較例1〜5で用いた成分について、以下に示す。
(A)成分のエポキシ樹脂:
エポキシ樹脂1:エポキシ当量185g/eq、融点108℃のビフェニル型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製商品名YX−4000K)
エポキシ樹脂2:エポキシ当量238g/eq、軟化点52℃のフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製商品名NC‐2000)
エポキシ樹脂3:エポキシ当量276g/eq、軟化点52℃のビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製商品名NC‐3000L)
【0059】
(B)成分のフェノール樹脂硬化剤:
フェノール樹脂硬化剤1:水酸基当量198g/eq、軟化点64℃のビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂(明和化成株式会社製商品名MEH−7851SS)
【0060】
(C)成分の無機充填材:
無機充填材1:平均粒径10.8μm、比表面積5.1m/gの球状溶融シリカ
【0061】
(D)成分:
加水分解物1の調製法
純水14.4g(0.8mol)に3−(トリメトキシシリルプロピル)コハク酸無水物(信越化学工業株式会社製商品名X12−967C)26.2g(0.1mol)を1mL/分の滴下速度で攪拌しながら添加し、この混合物が2層に分離しなくなるまで十分に攪拌混合し、加水分解物1を得た。IRスペクトルを測定したところ、加水分解前のスペクトルと比較して1850〜1750cm−1の酸無水物のピークと800cm−1のアルコキシシランのピークが完全に消滅し、3500cm−1に水酸基のピーク、1700cm−1にカルボキシル基のピークが観測された。
【0062】
加水分解物2の調製法
純水14.4g(0.8mol)に3−(トリエトキシシリルプロピル)コハク酸無水物(アヅマックス株式会社製商品名3−(triethoxysilyl)propylsuccinic anhydride)30.4g(0.1mol)を1mL/分の滴下速度で攪拌しながら添加し、この混合物が2層に分離しなくなるまで十分に攪拌混合し、加水分解物2を得た。IRスペクトルを測定したところ、加水分解前のスペクトルと比較して1850〜1750cm−1の酸無水物のピークと800cm−1のアルコキシシランのピークが完全に消滅し、3500cm−1に水酸基のピーク、1700cm−1にカルボキシル基のピークが観測された。
【0063】
加水分解物3の調製法
純水7.2g(0.4mol)に3−(トリメトキシシリルプロピル)コハク酸無水物(信越化学工業株式会社製商品名X12−967C)26.2g(0.1mol)を1mL/分の滴下速度で攪拌しながら添加し、この混合物が2層に分離しなくなるまで十分に攪拌混合し、加水分解物3を得た。IRスペクトルを測定したところ、加水分解前のスペクトルと比較して1850〜1750cm−1の酸無水物のピークと800cm−1のアルコキシシランのピーク強度が20%程度に低減し、3500cm−1に水酸基のピーク、1700cm−1にカルボキシル基のピークが観測されたが、1400cm−1に分子間縮合と思われるエステル基由来ピークが検出された。
【0064】
加水分解物4の調製法
純水3.6g(0.2mol)に3−(トリメトキシシリルプロピル)コハク酸無水物(信越化学工業株式会社製商品名X12−967C)26.2g(0.1mol)を1mL/分の滴下速度で攪拌しながら添加し、この混合物が2層に分離しなくなるまで十分に攪拌混合し、加水分解物4を得た。IRスペクトルを測定したところ、加水分解前のスペクトルと比較して800cm−1のアルコキシシランのピーク強度が30%程度に低減し、3500cm−1に水酸基のピークが観られたものの、1850〜1750cm−1の酸無水物のピークがそのまま検出され、カルボキシル基由来の1700cm−1のピークは検出されなかった。
【0065】
カップリング剤1(CA1):3−(トリメトキシシリルプロピル)コハク酸無水物(信越化学工業株式会社製商品名X12−967C)
カップリング剤2(CA2):フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製商品名KBM−573)
【0066】
硬化促進剤:
硬化促進剤1:トリフェニルホスフィンとp−ベンゾキノンとの付加物
【0067】
その他の添加剤:
離型剤1:酸化ポリエチレンワックス(クラリアントジャパン株式会社製商品名PED191)
着色剤1:カーボンブラック(三菱化学株式会社製商品名カーボン#5)
【0068】
上記成分をそれぞれ表1及び表2に示す質量部で配合し、混練温度100℃、混練時間30分間の条件で二軸混練して冷却後粉砕し、封止用エポキシ樹脂組成物を作製した。
【0069】
作製した実施例及び比較例の封止用エポキシ樹脂組成物を、次の各試験により評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0070】
耐半田性:
低圧トランスファー成形機(第一精工株式会社製、GP−ELF)を用いて、金型温度180℃、注入圧力7.4MPa、硬化時間120秒間の条件で、エポキシ樹脂組成物を注入して半導体素子(シリコンチップ)が搭載されたリードフレーム等を封止成形し、80pQFP(銅製リードフレーム、サイズは14×20mm×厚さ2.00mm、半導体素子は7×7mm×厚さ0.35mm、ダイパッドとインナーリードとに銀メッキが施され、半導体素子とリードフレームのインナーリードとは25μm径の金線でボンディングされている。)なる半導体装置を作製した。ポストキュアとして175℃で4時間加熱処理した半導体装置12個を、60℃、相対湿度60%で120時間加湿処理した後、IRリフロー処理(260℃、JEDEC・Level3条件に従う)を行った。これらの半導体装置内部の剥離及びクラックの有無を超音波探傷装置(日立建機ファインテック株式会社製、mi−scope10)で観察し、剥離又はクラックのいずれか一方でも発生したものを不良とした。n=12中の不良半導体装置の個数を表示した。不良個数が1以下であれば実用可能範囲である。
【0071】
銀との接着性:
銀基材と、タブレット化したエポキシ樹脂組成物とを175℃、6.9MPa、2分間の条件で一体成形して銀基材(直径3.6mm、厚さ0.5mm)上に円錐台状の成形品(上径3mm×下径3.6mm×厚さ3mm、銀基材と樹脂硬化物の接触面積10mm)を得た後、得られた各成形品の基材を固定し、エポキシ樹脂組成物の硬化部位を横方向から押し、そのトルク(N)を測定した。本評価は、半導体装置における耐半田リフロー性とある程度の相関を有するものである。
【0072】
熱時強度
260℃での曲げ弾性率をJIS K 6911に準じて測定した。
【0073】
吸水率
煮沸吸水率をJIS K 7209に準じて測定した。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
実施例1〜5は、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)無機充填材、及び、(D)酸無水物基を持つシランカップリング剤が分子間縮合することなく酸無水物基、アルコキシ基が共に完全に加水分解された化合物を含む本発明のエポキシ樹脂組
成物であり、(A)成分の種類、(D)成分の種類と配合量を変えたものを含むものであるが、いずれも、吸水率と弾性率が低く、銀との接着強度も高く、ダイパッドとインナーリード部分とが銀メッキされた銅製リードフレームを用いた、加湿処理後のIRリフロー処理による耐半田性に優れる結果が得られた。
【0077】
一方、(D)成分の代わりに、加水分解が不充分な加水分解物3、4及びカップリング剤1を用いた比較例1〜3は、吸水率と熱時弾性率が比較的高く、銀に対する接着力がやや低く、耐半田性が劣る結果となった。
また事前に加水分解を行う(D)成分の代わりにカップリング剤1と純水を別々に仕込みに用いた比較例4は吸水率と熱時弾性率が比較的高く、銀に対する接着力もやや低く、耐半田性が劣る結果となった。
また(D)成分の代わりに酸無水物以外の構造を持つカップリング剤2を用いた比較例5は吸水率は低いものの、銀に対する接着力が低く、熱時弾性率も上昇し、耐半田性が劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、実施例で示したようにダイパッドとインナーリードとが銀メッキされた銅製リードフレームに対する接着性、耐半田性等に優れた封止用エポキシ樹脂組成物を得ることができるため、この封止用エポキシ樹脂組成物を用いてIC、LSI等の電子部品等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0079】
1 素子
2 ダイボンド材硬化体
3 ダイパッド
4 ボンディングワイヤ
5 銅製リードフレーム
6 封止用エポキシ樹脂組成物の硬化体
7 銀メッキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)無機充填材、及び、(D)酸無水物基を持つシランカップリング剤が分子間縮合することなく酸無水物基、アルコキシ基が共に完全に加水分解された化合物を含有することを特徴とする封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物は、260℃における曲げ弾性率が520MPa以下である、請求項1に記載の封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】

前記(D)成分が、下記一般式(1)で示される化合物を含む、請求項1又は2に記載の封止用エポキシ樹脂組成物。
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜5のアルキル基である。mは1〜6の整数である。nは平均値で1〜3の正数。)
【請求項4】
前記(A)成分が、下記一般式(2)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂、下記一般式(3)で示されるフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、及び下記一般式(4)で示されるビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種以上のエポキシ樹脂を含む、請求項1ないし3のいずれかに記載の封止用エポキシ樹脂組成物。

【化2】

(上記一般式(2)において、R〜Rは水素原子及び炭素数1〜10の置換もしくは無置換の炭化水素基から選ばれ、全てが同一でも互いに異なっていてもよい。nは0〜3の整数を示す。)
【化3】

(上記一般式(3)において、R〜Rは水素原子及び炭素数1〜10の置換もしくは無置換の炭化水素基から選ばれ、全てが同一でも互いに異なっていてもよい。nは0〜20の整数を示す。)
【化4】

(上記一般式(4)において、R〜R17は水素原子及び炭素数1〜10の置換もしくは無置換の炭化水素基から選ばれ、全てが同一でも互いに異なっていてもよい。nは0〜3の整数を示す。)
【請求項5】
前記(B)成分が、下記一般式(5)で示されるビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種以上のフェノール樹脂を含む、請求項1ないし4のいずれかに記載の封止用エポキシ樹脂組成物。
【化5】

(上記一般式(5)において、R18〜R26は水素原子及び炭素数1〜10の置換もしくは無置換の炭化水素基から選ばれ、全てが同一でも互いに異なっていてもよい。nは0〜3の整数を示す。)
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物で、素子が封
止されていることを特徴とする電子部品装置。
【請求項7】
銅製リードフレームのダイパッド上に前記素子が搭載され、前記素子の電極パッドと前記銅製リードフレームのインナーリードとがボンディングワイヤによって接続されている請求項6に記載の電子部品装置。
【請求項8】
前記銅製リードフレームのダイパッドとインナーリードとが銀メッキされたものである、請求項7に記載の電子部品装置。
【請求項9】
前記銅製リードフレームのダイパッド上に2以上の前記素子が積層して搭載されている請求項7又は8に記載の電子部品装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−46576(P2012−46576A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187802(P2010−187802)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】