説明

導電膜用エッチング液組成物

【課題】導電膜を効率よくエッチングすることが可能で、しかも、エッチング後に残渣を生じることがなく、かつ、エッチング時の発泡を抑制することが可能で、さらには、シュウ酸インジウムの溶解性が高く、操業安定性、経済性にも優れた導電膜用エッチング液組成物を提供する。
【解決手段】シュウ酸と、塩酸と、界面活性剤とを含有する水溶液をエッチング液(導電膜用エッチング液組成物)として用いる。
界面活性剤は陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤の少なくとも1種を用いる。
本発明の導電膜用エッチング液組成物を用いて、酸化インジウム錫または酸化インジウム亜鉛を主たる成分とする透明導電膜のエッチングを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング液組成物に関し、詳しくは、例えば、液晶表示装置やエレクトロルミネッセンス表示装置(以下、「EL表示装置」という)などの表示素子に使用される透明導電膜などをエッチングするために用いられる導電膜用エッチング液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置やEL表示装置などの表示素子に用いられる透明導電膜としては、酸化インジウム錫、酸化インジウム亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛などからなる透明導電膜が用いられている。
【0003】
そして、これらの透明導電膜をエッチングして所望のパターンを形成するためのエッチング液としては、従来より、(1)塩化鉄水溶液、(2)ヨウ素酸水溶液、(3)リン酸水溶液、(4)塩酸/硝酸混合液(王水)、(5)シュウ酸水溶液などが使用されている。
【0004】
ところで、近年は、液晶ディスプレイなどの表示素子の大型化や、高精細、高性能化に伴い、透明導電膜の加工性、プロセス温度の低温化、生産性の向上などが求められるに至っている。
【0005】
そして、このような要求に応えることが可能な優れた特性を有する透明導電膜として、非晶質酸化インジウム錫(以下、「a−ITO」ともいう)や、酸化インジウム亜鉛(以下、「IZO」ともいう)を用いた透明導電膜が使用されるに至っている。
【0006】
この非晶質酸化インジウム錫(a−ITO)や酸化インジウム亜鉛(IZO)などを用いた透明導電膜は、
(a)低温成膜が可能で、耐熱性の低い基板に成膜することが可能であり、成膜時の加熱、冷却工程が不要になることから、生産性を向上させることができる、 (b)非晶質酸化インジウム錫(a−ITO)や酸化インジウム亜鉛(IZO)は完全に非晶質であるため、緻密で表面平滑性に優れた透明導電膜を得ることが可能で、上下電極および導通による電流リークを抑えることができる
というような優れた特性を有している。
【0007】
ところで、上述のような、透明導電膜のエッチングに関しては、
(1)被処理基板上に形成された非晶質酸化インジウム錫(a−ITO)からなる透明導電膜を、シュウ酸の飽和水溶液をエッチング液として使用し、写真蝕刻技術を用いてパターン形成を行う方法(特許文献1参照)、
(2)非晶質酸化インジウム亜鉛(IZO)からなる透明導電膜を、濃度が2.5〜30重量%のシュウ酸水溶液であるエッチング液でパターン化して画素電極を形成する方法(特許文献2参照)、
(3)非晶質酸化インジウム錫(a−ITO)よりなる透明導電膜を、ドデシルベンゼンスルホン酸とシュウ酸と水よりなるエッチング液でエッチングして、パターン形成を行う方法(特許文献3参照)、
(4)非晶質酸化インジウム錫(a−ITO)よりなる透明導電膜を、シュウ酸とポリスルホン酸化合物およびポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーからなる群より選択される1種または2種以上の化合物と水よりなるエッチング液でエッチングして、パターン形成を行う方法(特許文献4参照)、
(5)非晶質酸化インジウム錫(a−ITO)よりなる透明導電膜を、シュウ酸とポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルとを含有する水溶液からなるエッチング液でエッチングして、パターン形成を行う方法(特許文献5参照)、
(6)非晶質酸化インジウム錫(a−ITO)よりなる透明導電膜を、シュウ酸とパーフルオロアルキルカルボン酸とを含有する水溶液からなるエッチング液でエッチングして、パターン形成を行う方法(特許文献6参照)、
(7)非晶質酸化インジウム錫(a−ITO)よりなる透明導電膜を、シュウ酸とパーフルオロアルキル基含有リン酸エステル塩とを含有する水溶液からなるエッチング液でエッチングして、パターン形成を行う方法(特許文献7参照)、
(8)非晶質酸化インジウム錫(a−ITO)よりなる透明導電膜を、シュウ酸とフッ化アルキル基含有リン酸系化合物とポリエチレンオキサイドアルキルエーテル型非イオン系界面活性剤とを含有する水溶液からなるエッチング液でエッチングして、パターン形成を行う方法(特許文献8参照)
などが提案されている。
【0008】
上述の従来のエッチング方法に用いられるシュウ酸を含む水溶液は、安定性に優れ、安価であり、しかもAlなどの配線金属をエッチングしない、などの優れた面を有している。
【0009】
しかしながら、上述の特許文献1および特許文献2の、シュウ酸を含む水溶液をエッチング液として用いた場合、エッチング後に残渣が残るという問題点がある。
【0010】
また、上記特許文献3には、シュウ酸水溶液にドデシルベンゼンスルホン酸を添加することにより、エッチング後に残渣が残らないようにしたエッチング液が記載されているが、この特許文献3のエッチング液には発泡性があり、リンス処理の工程に時間がかかるという効率上の問題点があり、また 残渣の除去性も必ずしも十分ではないという問題点がある。
【0011】
また、上述の特許文献4〜8の方法にも、エッチング後におけるエッチング残渣の残存の問題や、エッチング工程における発泡の問題などがある。
【0012】
また、上述のシュウ酸系エッチング液を用いてエッチングを行った場合、a−ITO中に含まれる酸化インジウムとシュウ酸が反応し、シュウ酸インジウムが生成する。この反応生成物であるシュウ酸インジウムの、シュウ酸系エッチング液に対する溶解度はきわめて低く、エッチング液を使用中にシュウ酸インジウムがエッチング液中に析出し、種々のトラブルの原因となる。そのため、シュウ酸系エッチング液を用いる場合には、エッチング液の交換頻度が極めて高くなり、経済的に問題となるばかりでなく、安定操業の点からも問題となっているのが実情である。
【特許文献1】特開平5−62966号公報
【特許文献2】特開平11−264995号公報
【特許文献3】特開平7−141932号公報
【特許文献4】特開2002−164332号公報
【特許文献5】特開2002−363776号公報
【特許文献6】特開2003−273091号公報
【特許文献7】特開2005−116542号公報
【特許文献8】特開2007−214190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、導電膜を効率よくエッチングすることが可能で、しかも、エッチング後に残渣を生じることがなく、かつ、例えば、a−ITOをエッチングした場合の反応生成物であるシュウ酸インジウムの溶解性が高く、エッチング工程の操業安定性にも優れた導電膜用エッチング液組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本願の発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、導電膜をエッチングするためのエッチング液として、シュウ酸と塩酸と、界面活性剤、とを含有する水溶液であるエッチング液を用いることにより、エッチング後に残渣を生じることなく、導電膜を効率よくエッチングすることが可能になること、さらに、a−ITOをエッチングした場合の反応生成物であるシュウ酸インジウムに対して高い溶解性を有し、エッチング作業性に優れたエッチング液であることを見いだし、さらに検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明(請求項1)の導電膜用エッチング液組成物は、
導電膜をエッチングするために用いられるエッチング液組成物であって、
(a)シュウ酸と、(b)塩酸と、(c)界面活性剤、とを含有する水溶液であることを特徴としている。
【0016】
また、請求項2の導電膜用エッチング液組成物は、請求項1の発明の構成において、前記界面活性剤が、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴としている。
【0017】
また、請求項3の導電膜用エッチング液組成物は、請求項2の発明の構成において、前記陰イオン性界面活性剤が、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびその塩、フェノールスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびその塩、フェニルフェノールスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびその塩、ポリスチレンスルホン酸およびその塩、リグニンスルホン酸およびその塩、ポリエチレンスルホン酸およびその塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホン酸およびその塩、ポリオキシアルキレンアリルエーテルスルホン酸およびその塩、およびポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴としている。
【0018】
また、請求項4の導電膜用エッチング液組成物は、請求項2の発明の構成において、前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、およびポリオキシアルキレン脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴としている。
【0019】
また、請求項5の導電膜用エッチング液組成物は、請求項1または2の発明の構成において、前記フッ素系界面活性剤が、パーフルオロアルキルカルボン酸およびその塩、パーフルオロアルケニルカルボン酸およびその塩、パーフルオロアルキルスルホン酸およびその塩、パーフルオロアルケニルスルホン酸およびその塩、パーフルオロアルキル基含有リン酸エステルおよびその塩、フッ化アルキル基含有リン酸およびその塩、フッ化アルキル基含有亜リン酸およびその塩、フッ化アルキル含有リン酸エステルおよびその塩、フッ化アルキル含有亜リン酸エステルおよびその塩からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴としている。
【0020】
また、請求項6の導電膜用エッチング液組成物は、請求項1〜5のいずれかに記載の導電膜用エッチング液組成物であって、酸化インジウム錫または酸化インジウム亜鉛を主たる成分とする透明導電膜をエッチングするものであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明の導電膜用エッチング液組成物は、シュウ酸と、塩酸と、界面活性剤とを含有する水溶液であり、主たる成分であるシュウ酸は、安定性に優れ、安価で、エッチング液として用いた場合に、Alなどの配線金属をエッチングしないという特徴を有している。
【0022】
また、シュウ酸とともに含有される塩酸は、a−ITOをエッチングする場合において、シュウ酸との反応生成物であるシュウ酸インジウムの溶解性を向上させるという特徴を有している。
また、シュウ酸、塩酸とともに界面活性剤が配合されていることから、エッチング後の残渣の発生を抑制、防止することが可能になる。
【0023】
さらに、a−ITOをエッチングする場合の反応生成物であるシュウ酸インジウムを析出させることなく、かつエッチング液の交換頻度が少なくなることによって作業性に優れたエッチングを行うことができる。
【0024】
また、請求項2の導電膜用エッチング液組成物のように、界面活性剤として、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を用いることにより、上述の効果に加えて、好ましくない発泡を抑制しつつ、エッチング後の残渣の発生を効率よく防止することができるという効果を得ることが可能になり、本発明をより実効あらしめることができる。
【0025】
また、界面活性剤として、請求項3、4、または5に規定されているような陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種を用いることにより、さらに確実に、好ましくない発泡を抑制しつつ、エッチング後の残渣の発生を効率よく防止することが可能になり、本発明をさらに実効あらしめることができる。
【0026】
また、請求項6のように、本発明の導電膜用エッチング液組成物を、酸化インジウム錫または酸化インジウム亜鉛を主たる成分とする透明導電膜のエッチングに用いた場合、エッチングの反応生成物であるシュウ酸インジウムの析出を抑制し、エッチング液の交換頻度を少なくして、効率のよいエッチングを安定的に行うことができる。
また、上述のように、エッチング時に大きな発泡を招いたり、エッチング後に残渣を残したりすることを抑制して、酸化インジウム錫または酸化インジウム亜鉛を主たる成分とする透明導電膜を効率よく、しかも高精度にエッチングすることが可能で、所望のパターンを有する透明導電膜パターンを確実に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の導電膜用エッチング液組成物を用いて導電膜をエッチングするにあたっては、シュウ酸の濃度を0.1〜10重量%の範囲とすることが望ましい。
これは、シュウ酸濃度が0.1重量%未満になると、エッチング速度が低下して実用性が低下し、また、シュウ酸濃度が10重量%を超えると、シュウ酸の結晶が析出し、保存性や取扱性などに問題が生じることによる。なお、シュウ酸濃度の特に好ましい範囲は1〜6重量%の範囲である。
【0028】
本発明に用いられる塩酸の濃度は0.1〜10重量%の範囲とすることが望ましい。
これは、塩酸の濃度が0.1重量%未満になると、シュウ酸インジウムの溶解度が低下し、また塩酸の濃度が10重量%を超えると、Alやa−Si(非晶質シリコン)などの金属配線材料や基板の構成材料への腐食が発生するなどの問題点が認められることによる。
【0029】
本発明においては、界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが望ましい。
【0030】
本発明に使用される上記陰イオン性界面活性剤としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびその塩、フェノールスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびその塩、フェニルフェノールスルホン酸ホルアルデヒド縮合物およびその塩、ポリスチレンスルホン酸およびその塩、リグニンスルホン酸およびその塩、ポリエチレンスルホン酸およびその塩、ポリオキシアルキルエーテルスルホン酸およびその塩、ポリオキシアリルエーテルスルホン酸およびその塩、およびポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル等が挙げられる。
本発明に使用される非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、およびポリオキシアルキレン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0031】
本発明に使用されるフッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキルカルボン酸およびその塩、パーフルオロアルケニルカルボン酸およびその塩、パーフルオロアルキルスルホン酸およびその塩、パーフルオロアルケニルスルホン酸およびその塩、パーフルオロアルキル基含有リン酸エステルおよびその塩、フッ化アルキル基含有リン酸およびその塩、フッ化アルキル基含有亜リン酸およびその塩、フッ化アルキル含有リン酸エステルおよびその塩、フッ化アルキル含有亜リン酸エステルおよびその塩等が挙げられる。
【0032】
本発明に使用される界面活性剤の濃度は、0.0001〜5重量%の範囲とすることが望ましい。これは界面活性剤の濃度が5重量%を超えると発泡性が激しくなり、リンス工程において不都合が生じ、また0.0001重量%未満になるとエッチング残渣が多くなるなどの問題を発生することによる。
【0033】
また、本発明の導電膜用エッチング液組成物は、酸化インジウム錫(a−ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)などからなる透明導電膜をエッチングするのに適している。
【0034】
本発明の導電膜用エッチング液組成物を用いてエッチングを行うにあたっては、例えば、ガラス基板の表面に形成された酸化インジウム錫膜や、酸化インジウム亜鉛膜などの導電膜の表面に所定のパターンとなるようにレジストを塗布した後、ガラス基板を本発明の導電膜用エッチング液組成物(エッチング液)中にディッピングするか、エッチング液をシャワーあるいはスプレーすることによりエッチング処理し、その後、水洗、乾燥を行う。これにより、所望のパターンの導電膜が得られる。
【0035】
本発明を実施するにあたり、エッチングの温度および時間に特別の制約はないが、エッチング温度は20〜60℃、好ましくは30〜50℃の温度範囲とすることが望ましい。これは、20℃未満ではエッチング速度が遅く、実用的ではないこと、60℃を超えると水の蒸発が大きくエッチング液の組成変化が生じ、シュウ酸およびシュウ酸インジウムの析出が生じるなどの問題が発生しやすくなることによる。
【0036】
また、エッチング時間は通常約1〜30分の範囲とすることが望ましい。これは、1分未満では、エッチングが十分に進行せず、実用的ではないこと、30分を超えると、エッチングが進行しすぎて、導電膜がダメージを受けたりする場合があることによる。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明の実施例を比較例とともに示して、発明の内容を詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
まず、表1および表2に示すような組成を有する、本発明の実施例にかかるエッチング液組成物(実施例1〜5の試料)と、表3および表4に示すような組成を有する、比較例としてのエッチング液組成物(比較例1〜5の試料)を調製した。なお、表3および表4の比較例1〜5のエッチング液組成物は塩酸を含まないものである。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
そして、表1〜表4に示した各エッチング液組成物について、以下の項目について特性を調べ、評価、検討した。
【0043】
<発泡性−泡高さ>
110mlの比色管に試料(表1および2に示した各エッチング液組成物)30mlを入れ、15sec振盪した。振盪停止直後と、振盪停止から5分経過後の泡高さを測定し、発泡性の評価を行った。
その結果を表1〜表4に併せて示す。
【0044】
表1および表2に示すように、本発明の要件を備えた、実施例1〜5のエッチング液組成物の場合、振盪停止直後の泡高さと、振盪停止から5分経過後の泡高さが何れも1mm以下で、発泡が十分に抑制されていることが確認された。
【0045】
一方、表3および表4に示すように、比較例1〜5のエッチング液組成物の場合も、界面活性剤を適切に選択されていることから、発泡が抑えられていることが確認された。
【0046】
<エッチング後の残渣除去性>
表1および2に示した各エッチング液組成物を用いて、以下に説明する方法により導電膜をエッチングし、エッチング後の残渣除去性について評価を行った。
【0047】
なお、図1はガラス基板上1に成膜した絶縁膜(SiN膜)2の表面に、非晶質酸化インジウム錫(以下「a−ITO」と表記する)3を成膜し、a−ITO膜3の上にレジスト4を塗布した状態を示す断面図である。また、図2は、図1のレジスト4を現像してレジストパターン4aを形成した状態を示す断面図、図3は、図2のレジストの現像を行った後のガラス基板を、本発明の導電膜用エッチング液組成物(エッチング液)を用いてエッチングを行った状態を示す図、図4は、図3のa−ITO膜(110nm)をエッチングした後、レジストパターンを剥離した状態を示す断面図である。
【0048】
まず、図1に示すように、ガラス基板1上に、絶縁膜であるSiN膜2を成膜し、その上にa−ITO膜3を膜厚が110nmとなるように成膜した後、a−ITO膜3の表面全体にレジスト4を塗布した。
次に、レジスト4を露光、現像することにより、図2に示すように所望のパターンを有するレジストパターン4aを形成した。
【0049】
それから、上述のように、SiN膜(絶縁膜)2、a−ITO膜3(110nm)、およびレジストパターンが形成されたガラス基板1を、表1で記載されたエッチング液組成物を用いて、40 ℃、145秒間の条件でエッチングを行った後、水洗した(図3参照)。
【0050】
その後、アミン系レジスト剥離液を用いてレジストパターン4aを剥離した後、水洗、乾燥することにより、図4に示すように、ガラス基板1上に成膜されたSiN膜(絶縁膜)2上に、所望のパターンを有するa−ITO膜3を得た。
【0051】
そして、このガラス基板1の表面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、エッチング後の残渣の残留状態を観察した。
その結果を表1および2に併せて示す。
なお、表1および2における評価の基準は下記の通りである。
◎ :残渣が全く認められなかったもの。
○ :残渣がわずかに認められたもの。
× :全面に残渣が認められたもの。
【0052】
表1および2に示すように、塩酸を添加した実施例1〜5のエッチング液組成物の場合、残渣除去性が良好(◎)であることが確認された。
【0053】
一方、表3および4に示す界面活性剤とシュウ酸を含み、塩酸を添加していない比較例1〜5のエッチング液組成物の場合も、良好な残渣除去性を示すことが確認された。
【0054】
<シュウ酸インジウムの溶解性>
各導電膜用エッチング液組成物(エッチング液)中にシュウ酸インジウムの結晶を投入し、40℃、24時間攪拌を行った。
それから、エッチング液を濾過した後、ICP発光分析装置を用いてエッチング液中のインジウム濃度を測定し、シュウ酸インジウムの濃度を求めた。そして、その結果からシュウ酸インジウムの溶解性を評価した。
表1および2にシュウ酸インジウムの溶解性(シュウ酸インジウムの濃度:ppm)を併せて示す。
【0055】
表3および4に示すように、塩酸を添加していない比較例1〜5のエッチング液組成物の場合、シュウ酸インジウムの溶解性が380〜440ppmと低いことが確認された。
なお、比較例1,4,5では、シュウ酸の濃度を3.4重量%、比較例2ではシュウ酸の濃度を5.0重量%、比較例3ではシュウ酸の濃度を6.0重量%としているが、シュウ酸インジウムの溶解性は上述のように、380〜440ppmの範囲にあり、ほとんど変化しないことが確認された。
このように、シュウ酸インジウムの溶解性が低いと、その析出を避けるため、エッチング液の交換頻度を高くすることが必要になり、経済性や操業安定性が問題になる。
【0056】
これに対し、表1および2に示すように、塩酸を添加した本発明の要件を満たす実施例1〜5のエッチング液組成物の場合、シュウ酸インジウムの溶解性がもっとも低い実施例1の場合でも2450ppmと、上述の比較例1〜5の場合に比べて大幅に向上していることがわかる。
また、実施例2では、シュウ酸インジウムの溶解性は9500ppm、実施例3,4,5では24000ppm以上にまで達し、シュウ酸インジウムの溶解性が著しく向上していることが確認された。
【0057】
この結果から、本発明の要件を備えたエッチング液組成物を用いることにより、エッチングの反応生成物であるシュウ酸インジウムの析出を大幅に減少させることが可能になり、エッチング液の交換頻度を極めて少なくして、経済性を著しく改善できることが確認された。
なお、上記実施例では、a−ITO膜をエッチングする場合を例にとって示したが、本発明は、酸化インジウム亜鉛を主たる成分とする透明導電膜をはじめ、種々の導電膜をエッチングする場合に広く適用することが可能である。
なお、本発明はさらにその他の点でも上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の応用、変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
上述のように、本発明の導電膜用エッチング液組成物を用いることにより、導電膜、特に、酸化インジウム錫または酸化インジウム亜鉛を主たる成分とする透明導電膜を、残渣を残留させることなく、良好にエッチングすることが可能になる。さらにエッチング後の反応生成物であるシュウ酸インジウムの溶解性の高いことからエッチング液の交換頻度を大幅に減少させることが可能になり、高い経済性を実現することができる。
したがって、本発明は、液晶ディスプレイやエレクトロルミネッセンス素子などの表示素子に使用される透明導電膜などをエッチングする分野に広く用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】ガラス基板上に形成した絶縁膜(SiN膜)上に、非晶質酸化インジウム錫膜(a−ITO膜)を成膜し、その上にレジストを塗布した状態を示す断面図である。
【図2】図1のレジストを現像した状態を示す断面図である。
【図3】図2のレジストの現像を行った後のガラス基板を、本発明の導電膜用エッチング液組成物(エッチング液)を用いてエッチングを行った状態を示す図である。
【図4】非晶質酸化インジウム錫膜(a−ITO膜)をエッチングした後、レジストパターンを剥離した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 ガラス基板
2 絶縁膜(SiN膜)
3 非晶質酸化インジウム錫膜(a−ITO膜)
4 レジスト
4a レジストパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電膜をエッチングするために用いられるエッチング液組成物であって、
(a)シュウ酸と、(b)塩酸と、(c)界面活性剤、とを含有する水溶液であることを特徴とする導電膜用エッチング液組成物。
【請求項2】
前記(c)界面活性剤が、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1記載の導電膜用エッチング液組成物。
【請求項3】
前記(c)界面活性剤である陰イオン性界面活性剤が、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびその塩、フェノールスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびその塩、フェニルフェノールスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびその塩、ポリスチレンスルホン酸およびその塩、リグニンスルホン酸およびその塩、ポリエチレンスルホン酸およびその塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホン酸およびその塩、ポリオキシアルキレンアリルエーテルスルホン酸およびその塩、およびポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項2記載の導電膜用エッチング液組成物。
【請求項4】
前記(c)界面活性剤である非イオン性界面活性剤が、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、およびポリオキシアルキレン脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項2記載の導電膜用エッチング液組成物。
【請求項5】
前記(c)界面活性剤であるフッ素系界面活性剤が、パーフルオロアルキルカルボン酸およびその塩、パーフルオロアルケニルカルボン酸およびその塩、パーフルオロアルキルスルホン酸およびその塩、パーフルオロアルケニルスルホン酸およびその塩、パーフルオロアルキル基含有リン酸エステルおよびその塩、フッ化アルキル基含有リン酸およびその塩、フッ化アルキル基含有亜リン酸およびその塩、フッ化アルキル基含有リン酸エステルおよびその塩、およびフッ化アルキル含有亜リン酸エステルおよびその塩からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項2記載の導電膜用エッチング液組成物。
【請求項6】
酸化インジウム錫または酸化インジウム亜鉛を主たる成分とする透明導電膜をエッチングするものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の導電膜用エッチング液組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−103214(P2010−103214A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271772(P2008−271772)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(596151168)林純薬工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】