説明

建設機械

【課題】電子制御系の異常判定に係る誤判定及び検出漏れの発生を抑制できる建設機械を提供すること。
【解決手段】旋回体と、旋回体を駆動する電動モータと、操作信号を操作量及び操作方向に応じて出力する操作装置と、操作信号に基づいて生成された制御信号に基づいて電動モータを制御するインバータ装置と、電動モータの速度を検出するための位置センサと、制御信号が規定する電動モータの速度指令V*から速度Vを減じた値の符号と、電動モータの加速度の符号とが異なる状態を第1条件とし、速度指令と速度の偏差が基準値Vthより大きく、かつ、加速度が基準値βthより大きい状態を第2条件としたとき、第1条件及び第2条件のうち少なくとも一方が成立するか否かを判定する第2コントローラとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
旋回体を駆動する電動モータを備える建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建設機械においては、油圧ショベルの技術を基盤として、エンジンの燃費向上や排気ガス量の低減等を目的とした電動化が進展している。このような建設機械としては、機械各部の駆動アクチュエータとして油圧アクチュエータと電動モータを併用すると共に、油圧ポンプの原動機としてエンジンと電動モータ(発電電動機)を併用したハイブリッド建設機械がある。ハイブリッド建設機械では、油圧アクチュエータ(油圧シリンダ及び油圧モータ)を駆動して作業装置による作業動作と走行体による走行動作を行い、電動モータを駆動して旋回体(例えば、油圧ショベル等における上部旋回体)の旋回動作を行うものがある。
【0003】
この種のハイブリッド建設機械の旋回制御としては、オペレータが旋回操作レバーを操作したときの操作量を電気信号に変換してコントローラ(例えば、インバータ装置)に入力し、このコントローラにより電動モータを制御するものがある。しかし、この一連の制御過程において、電動モータの状態を検出するセンサ(例えば、電動モータの磁極位置センサ)、コントローラ及び電動モータ等の電子制御系に異常が発生した場合には、正常な旋回制御ができず、オペレータの意図しない旋回動作が行われる可能性がある。
【0004】
このような事態を回避するための技術としては、旋回操作レバーの操作量に基づいて生成された電動モータの速度指令(目標速度)と当該電動モータの実速度との偏差をコントローラで監視し、当該偏差が許容範囲から逸脱した場合を異常動作と判定するものがある(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−228721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、旋回体の慣性が大きい建設機械では、速度指令と実速度が大きく乖離する場合があるため、上記技術のように速度指令と実速度の偏差の大きさのみで異常動作が発生したか否かを判定すると、不都合が生じることがある。すなわち、当該偏差の許容範囲を過小に設定すると、正常動作であるにも関わらず異常動作として誤判定されて作業効率が低下する可能性がある。一方、当該許容範囲を過大に設定すると、異常動作の検出漏れが発生して信頼性が低下する可能性がある。
【0007】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は電子制御系の異常判定に係る誤判定及び検出漏れの発生を抑制できる建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、旋回体と、前記旋回体を駆動する電動モータと、前記電動モータを操作するための操作信号を操作量及び操作方向に応じて出力する操作装置と、前記操作信号に基づいて生成された制御信号に基づいて前記電動モータを制御する第1制御手段と、前記電動モータの実速度を検出する検出手段と、前記制御信号が規定する前記電動モータの目標速度から前記実速度を減じた値の符号と、前記電動モータの加速度の符号とが異なる状態を第1条件とし、前記目標速度と前記実速度の偏差が第1基準値より大きく、かつ、前記加速度が第2基準値より大きい状態を第2条件としたとき、前記第1条件及び前記第2条件のうち少なくとも一方が成立するか否かを判定する第2制御手段とを備えるものとする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子制御系の異常判定に係る誤判定及び検出漏れの発生を抑制できるので、作業効率及び信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係る建設機械制御システムを備えたハイブリッド油圧ショベルの外観図。
【図2】本発明の実施の形態に係る建設機械制御システムの構成図。
【図3】本発明の実施の形態に係る建設機械制御システムの具体的な建設機械への応用例を示す図。
【図4】本発明の実施の形態に係るインバータ装置13及びその周辺のハードウェア構成の概略図。
【図5】本発明の実施の形態におけるメインマイコン31の機能ブロック図。
【図6】本発明の実施の形態に係る異常検出部65のブロック図。
【図7】速度指令V*と実速度Vの関係の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。なお、各図では、以下に説明する第1コントローラ、第2コントローラ、第1油圧センサ及び第2油圧センサは、それぞれ、コントローラ1、コントローラ2、油圧センサ1及び油圧センサ2と表記することがある。
【0012】
図1は本発明の実施の形態に係る建設機械制御システムを備えたハイブリッド油圧ショベルの外観図である。この図に示す油圧ショベルは、ブーム1a、アーム1b及びバケット1cを有する多関節型の作業装置1Aと、上部旋回体1d及び下部走行体1eを有する車体1Bを備えている。
【0013】
ブーム1aは、上部旋回体1dに回動可能に支持されており、油圧シリンダ(ブームシリンダ)3aにより駆動される。アーム1bは、ブーム1aに回動可能に支持されており、油圧シリンダ(アームシリンダ)3bにより駆動される。バケット1cは、アーム1bに回動可能に支持されており、油圧シリンダ(バケットシリンダ)3cにより駆動される。上部旋回体1dは電動モータ(旋回モータ)16(図3参照)により旋回駆動され、下部走行体1eは左右の走行モータ(油圧モータ)3e,3f(図3参照)により駆動される。油圧シリンダ3a、油圧シリンダ3b、油圧シリンダ3c及び電動モータ16の駆動は、上部旋回体1dの運転室(キャブ)内に設置され油圧操作信号を出力する操作装置4a,4b(図3参照)によって制御される。
【0014】
図2は本発明の実施の形態に係る建設機械制御システムの構成図である。この図に示すシステムは、上部旋回体1dを駆動する電動モータ16と、電動モータ16の回転位置を検出するための位置センサ(例えば、磁極位置センサ)24と、上部旋回体1dの旋回動作を操作するため油圧操作信号(パイロット圧)をその操作量及び操作方向に応じて出力する操作装置(旋回操作レバー)4bと、操作装置4bから出力される油圧操作信号の圧力を検出し、その圧力に応じた電気操作信号を出力する第1油圧センサ20及び第2油圧センサ21と、第1油圧センサ20から出力される電気操作信号及び電動モータ16の実速度V(例えば、位置センサ24で検出される回転位置から算出できる)に基づいて電動モータ16の目標速度V*を算出し、当該目標速度V*に応じた制御信号(速度指令)を出力する第1コントローラ11と、第1コントローラから出力される制御信号(速度指令)に基づいて電動モータ16を制御するインバータ装置(電力変換装置)13と、第1コントローラ11又はインバータ装置13から出力される制動信号に基づいて上部旋回体1dを制動する旋回非常ブレーキ25を備えている。
【0015】
インバータ装置(電力変換装置)13は、バッテリ等の蓄電装置15(図3参照)に接続されており、蓄電装置15に充電された直流電力をスイッチングにより交流電力(三相交流)に変換して電動モータ16に供給することで電動モータ16を制御している。また、インバータ装置13は、スイッチング素子(例えば、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ))を有するインバータ回路と、当該インバータ回路の駆動制御を行うドライバ回路と、当該ドライバ回路に制御信号(トルク指令)を出力してインバータ回路におけるスイッチング素子のオン・オフを制御する第2コントローラ(制御回路)22を備えている。なお、各図では、インバータ装置13におけるインバータ回路及びドライバ回路をスイッチング素子の一例である「IGBT」と表示しており、以下においてIGBT23と表記する場合にはインバータ回路及びドライバ回路を示すものとする。
【0016】
第1油圧センサ20及び第2油圧センサ21は、後述のように、上部旋回体1dの左旋回と右旋回を個別に検出するように2つの油圧センサを1組にしたものとすることもできるが、図2では簡略して1つの油圧センサとして表記している。なお、本実施の形態では、操作装置4bから出力されるパイロット圧(油圧操作信号)を油圧センサ20,21で検出して電気信号に変換しているが、操作装置4bの操作方向及び操作量に応じた電気操作信号を直接出力する構成を採用しても良い。この場合には、操作装置4bにおける操作レバーの回転変位を検出する位置センサ(例えば、ロータリーエンコーダ)を利用することができる。また、本実施の形態では、操作装置4bに2つの油圧センサ20,21を備えているが、例えば、油圧センサと上記位置センサの組合せ等、検出方式の異なるセンサを組み合わせて用いることもできる。このようにすればシステムの信頼性を向上できる。
【0017】
第1油圧センサ20から出力される電気操作信号は第1コントローラ11に入力されており、第2油圧センサ21から出力される電気操作信号はインバータ装置13に設けられた第2コントローラ22に入力されている。
【0018】
第1コントローラ11は、第1油圧センサ20から出力される電気操作信号と、第2コントローラ22を介して入力される電動モータ16の実際の回転速度(実速度V)とに基づいて電動モータ16の目標速度V*を算出し、当該目標速度V*に応じた制御信号(速度指令)を第2コントローラ22に出力する。
【0019】
第2コントローラ22は、第1コントローラ11から入力される速度指令(制御信号)と、機器性能の制約等(例えば、押付、電力、直流ライン電圧)で規定されるトルク制限と、位置センサ24で検出される電動モータ16の回転位置(実速度V)と、3相モータ電流センサ30で検出される電流値(実電流)とを考慮して生成したトルク指令(制御信号)を出力し、当該トルク指令に基づいてIGBT23のオン・オフをすることで電動モータ16を制御する(後の図5参照)。また、第2コントローラ22は、位置センサ24によって検出される電動モータ16の回転位置から電動モータ16の実速度Vを算出して第1コントローラ11に出力(フィードバック)する。
【0020】
なお、本実施の形態では、第1コントローラ11からの指令値として、速度指令を出力しているが、これに代えて旋回トルク指令を用いることもできる。この場合、第2コントローラ22は、第1コントローラ11に電動モータ16の実トルク値をフィードバックすることになる。
【0021】
旋回非常ブレーキ(制動装置)25としては、例えば、油圧ブレーキを利用することができる。油圧ブレーキは、複数の円盤と制輪子ばねにより押し付けられており、ブレーキを解除するための油圧をかけることにより、ばねの力に打ち勝ってブレーキが開放される機構となっている。
【0022】
図3は本発明の実施の形態に係る建設機械制御システムの具体的な建設機械への応用例を示す図である。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略することがある(後の各図においても同様とする)。
【0023】
この図において、操作装置4a,4bは、操作レバーを備えており、当該操作レバーをオペレータが操作することにより、その操作方向及び操作量に応じたパイロット圧を発生する。パイロット圧は、パイロットポンプ(図示せず)で発生した1次圧を操作装置4a,4bの操作量に応じた2次圧に減圧することにより生成される。操作装置4aの操作量によって規定されたパイロット圧は、スプール型の方向切換弁5a〜5fの受圧部に送られ、方向切換弁5a〜5fを図示の中立位置から切換操作する。方向切換弁5a〜5fは、エンジン7を動力とする油圧ポンプ6から発生される圧油の流れを切り換え制御し、油圧アクチュエータ3a〜3fの駆動を制御する。油圧配管内の圧力が過度に上昇した場合は、リリーフ弁8を介して圧油をタンク9に逃がす構造としている。油圧アクチュエータ3a〜3cは、それぞれ、ブーム1a、アーム1b、バケット1cを駆動する油圧シリンダであり、油圧アクチュエータ3e,3fは、下部走行体1eに取り付けられた左右の走行装置を駆動する油圧モータである。
【0024】
油圧ポンプ6とエンジン7の間には動力変換機(発電電動機)10が連結されている。この動力変換機10は、エンジン7の動力を電気エネルギーに変換してインバータ装置12,13に電気エネルギーを出力する発電機としての機能に加え、蓄電装置15から供給される電気エネルギーを利用して、油圧ポンプ6をアシスト駆動する電動機としての機能を有する。インバータ装置12は、蓄電装置15の電気エネルギーを交流電力に変換して動力変換機10に供給し、油圧ポンプ6をアシスト駆動する。
【0025】
インバータ装置13は、動力変換機10又は蓄電装置15から出力される電力を電動モータ16に供給するもので、図2のインバータ装置13に相当する。したがって、インバータ装置13は、図2に記載の第2コントローラ22を有しており、第1コントローラ11からの速度指令(制御信号)を入力して、電動モータ16の駆動制御を行う。また、インバータ装置13は、第1コントローラ11から出力される速度指令によって規定される目標速度V*と、位置センサ24の検出値から算出される電動モータ16の実速度Vと、電動モータ16の実速度Vの時間変化である加速度dV/dtに基づいて、電動モータ16に係る電子制御系(電動モータ16、位置センサ24及びインバータ装置13)の異常の有無を判定する。なお、操作装置4a,4bと方向切換弁5a〜5fとを繋ぐパイロット管路のうち、上部旋回体1dの左右方向の旋回操作を制御する2つのパイロット管路には、それぞれ第2油圧センサ21(21a,21b)が設置されている。
【0026】
チョッパ14は、直流電力ラインL1の電圧を制御する。蓄電装置15は、チョッパ14を介してインバータ装置12,13に電力を供給したり、動力変換機10が発生した電気エネルギーや電動モータ16から回生される電気エネルギーを蓄える。蓄電装置15としては、キャパシタ、バッテリ、又はその両方を用いることができる。
【0027】
第1コントローラ11は、操作装置4a,4bと方向切換弁5a〜5fとを繋ぐパイロット管路のうち、上部旋回体1dの左右方向の旋回操作を制御する2つのパイロット管路にそれぞれ接続された第1油圧センサ20(20a,20b)から入力される電気操作信号に基づいて電動モータ16の目標速度V*を算出し、当該目標速度V*に応じた制御信号(旋回操作指令)をインバータ装置13に出力する。また、旋回制動時には、電動モータ16から電気エネルギーを回収する動力回生制御も行う。さらに、第1コントローラ11は、動力回生制御時や、油圧負荷が軽くて余剰電力が発生するような場合に当該回収電力や余剰電力を蓄電装置15に蓄える制御も行う。
【0028】
インバータ装置12,13、チョッパ14及び第1コントローラ11は、通信線L2を介して制御に必要な信号のやり取りを行う。
【0029】
図4は本発明の実施の形態に係るインバータ装置13及びその周辺のハードウェア構成の概略図である。この図に示すように、第2コントローラ22は、制御手段として、メインマイコン(第1マイクロコンピュータ)31と監視マイコン(第2マイクロコンピュータ)32を備えている。メインマイコン31と監視マイコン32は、互いに独立した制御装置であり、各マイコン31,32には、各マイコン31,32と通信線L2とのインターフェースとなる通信ドライバ33a,33bが接続されている。
【0030】
メインマイコン31には、第1コントローラ11から通信ドライバ33aを介して入力される速度指令と、第2油圧センサ21から出力される電気操作信号と、位置センサ24から出力される電動モータ16の回転位置情報と、電流センサ30から出力される実電流情報が入力されている。メインマイコン31は、位置センサ24と電流センサ30の情報を利用して、通信線L2経由で第1コントローラ11から入力した速度指令を満たすようにIGBT23に対してゲート制御信号を出力する。
【0031】
監視マイコン32には、第1コントローラ11から通信ドライバ33bを介して入力される速度指令と、第2油圧センサ21から出力される電気操作信号と、位置センサ24から出力される電動モータ16の回転位置情報と、電流センサ30から出力される電流情報が入力されている。監視マイコン32は、速度指令が規定する電動モータ16の目標速度V*と、位置センサ24からの回転位置情報から算出される電動モータ16の実速度Vと、電動モータ16の実速度Vの時間変化である加速度dV/dtに基づいて、電動モータ16に係る電子制御系の異常の有無を判定をする処理を実行する。
【0032】
図5は本発明の実施の形態におけるメインマイコン31の機能ブロック図である。この図に示すように、メインマイコン31は、速度制御部60と、トルク制御部61と、PWM制御部62と、速度演算部64と、異常判定部65を備えており、フィードバック制御により電動モータ16の速度を制御している。
【0033】
速度制御部60は、速度演算部64で演算される実速度Vが速度指令(目標速度V*)に追従するように、トルク制御部61に対するトルク指令を生成する処理を実行する部分である。
【0034】
トルク制御部61は、速度制御部60で生成されたトルク指令に実トルクが追従するよう電圧指令を生成する処理を実行する部分である。トルク制御部61は、さらに、油圧ショベルに係る機器性能の制約等に起因して、速度制御部60から出力されるトルク指令に電動モータ16を追従させることができない場合には、当該トルク指令に制限をかける処理(すなわち、速度制御部60から出力されるトルク指令を必要に応じて低減する処理)を実行する。
【0035】
PWM制御部62は、パルス幅変調方式(Pulse Width Modulation)により、ゲート制御信号を生成する処理を実行する部分である。
【0036】
速度制御部60で生成されたトルク指令は、トルク制御部61による補正を受けて電圧指令に変換される。トルク制御部61で生成された電圧指令は、PWM制御部62に出力されてゲート制御信号に変換される。PWM制御部62で生成されたゲート制御信号は、IGBT23に出力される。なお、本実施の形態では、電流センサ30の実電流がトルク指令に相当する電流指令に追従するようにフィードバック制御することで、電動モータ16のトルク制御を行っている。
【0037】
速度演算部64は、上部旋回体1dの実速度Vを演算する部分である。速度演算部64には、位置センサ24から出力される電動モータ16の回転位置情報(レゾルバ信号)が入力されており、速度演算部64は当該回転位置情報から実速度Vを算出している。
【0038】
異常判定部65は、第1コントローラ11から通信ドライバ33aを介して受信した速度指令V*、速度演算部64で算出した実速度Vを用いて、電子制御系に異常が発生したか否かの判定する処理(異常判定処理)を実行する部分である。次に、異常判定部65で行われる異常判定処理について、図を用いて詳述する。
【0039】
図6は本発明の実施の形態に係る異常検出部65のブロック図である。この図に示すように、異常判定部65は、加速度演算部82と、逆転検出部80と、速度超過検出部81を備えている。
【0040】
加速度演算部82には速度演算部64で算出される実速度Vが入力されている。加速度演算部82は、入力された当該実速度Vを用いて加速度dV/dtを算出し、逆転検出部80および速度超過検出部81に出力する。なお、本実施の形態では、電動モータ16の加速度を算出するに際して実速度Vから加速度dV/dtを算出する構成を採用したが、電動モータ16に出力されるトルク指令(目標トルク)や、電動モータ16が発生する実トルク(電流センサ30の出力から算出する)から加速度dV/dtを算出してもよい。また、これらに代えて、加速度センサ又はジャイロセンサ等の加速度検出手段を設置し、当該検出手段からの出力を利用しても良い。
【0041】
逆転検出部80には、第1コントローラ11から出力される速度指令(目標速度V*)と、速度演算部64で算出される実速度Vと、加速度演算部82で算出される加速度dV/dtが入力されている。逆転検出部80では、目標速度V*から実速度Vを減じた値(速度偏差の値)の符号と、加速度dV/dtの符号とが異なる状態(第1条件)が成立しているか否かを判定しており、これによりオペレータの指示に対して電動モータ16が逆回転しているか否かを判定する。図に示した例では、目標速度V*から実速度Vを減じた値の符号が「正」で、加速度dV/dtの符号が「負」の場合を検出する場合を示している。
【0042】
速度超過検出部81には、第1コントローラ11から出力される速度指令(目標速度V*)と、速度演算部64で算出される実速度Vと、加速度演算部82で算出される加速度dV/dtが入力されている。速度超過検出部81では、目標速度V*と実速度Vの偏差が基準値Vth(第1基準値)より大きく、かつ、加速度が基準値βth(第2基準値)より大きい状態(第2条件)が成立しているか否かを判定しており、これによりオペレータの指示に反して電動モータ16の回転速度が超過しているか否かを判定する。このように速度偏差の大きさに加えて加速度の大きさを考慮すると、速度偏差が第1基準値Vthを超える程に大きく乖離しても、加速度が基準値βth未満のときには、当該速度偏差の乖離は上部旋回体1dの慣性に起因するものであり、正常な状態であると判定することができる。したがって、上部旋回体1dの慣性を考慮することができるので、速度偏差のみに着目した場合と比較して誤判定及び検出漏れの発生を抑制することができる。
【0043】
異常判定部65は、逆転検出部80と速度超過検出部81において、第1条件及び第2条件のうち少なくとも一方が成立する場合に、電動モータ16に係る電子制御系に異常(例えば、IGBT23又は電動モータ16の故障や、旋回制御システム以外の異常)が発生したと判断する。本実施の形態に係る異常判定部65は、このように異常が発生したと判断した場合には、IGBT23のゲートオフ信号を出力して電動モータ16をフリーラン状態にした後、制動信号を旋回非常ブレーキ25に出力して電動モータ16を制動する。このように非常ブレーキ25を作動させると、インバータ装置13にゼロ速度指令を出力して制御的にブレーキをかけること(すなわち、電動モータ16が減速トルクを発生するような電圧をインバータ装置13により印加すること)ができない場合でも、電動モータ16を制動することができる。
【0044】
なお、報知信号に基づいて油圧ショベルに異常が発生したことを報知する報知装置を異常判定部65と接続し、上記と同様に第1条件及び第2条件のうち少なくとも一方が成立した場合には、上記の制動信号に代えて又は制動信号とともに当該報知装置に対して報知信号を出力し、異常が発生した旨をオペレータ又は管理者等に報知するように構成しても良い。報知装置の具体例としては、油圧ショベルにおける運転室内の運転席付近に搭載された表示装置26(図2参照)、警告灯、警報器等がある。その際、異常が発生した旨とともに、機器の点検や修理を促すメッセージを表示装置26上に表示しても良い。
【0045】
ここで、上記のように構成される油圧ショベルにおいて実行される異常判定処理について、一例を挙げて説明する。図7は速度指令V*と実速度Vの関係の一例を示す図である。この図において、(a)と(b)は停止から旋回に至る動作を表している。(a)は正常に電動モータ16が加速しており、第1条件及び第2条件のいずれも成立せず、異常判定部65では異常とは判定されない。一方、(b)はオペレータの意図とは逆に回転している場合である。この場合には、目標速度V*から実速度Vを減じた値の符号は「正」であり、加速度dV/dtの符号は「負」となる。したがって、少なくとも第1条件が成立し、異常が発生したと判定されるので、異常判定部65は旋回非常ブレーキ25に制動信号を出力する。
【0046】
次に、図7における(c)と(d)は旋回から停止に至る動作を表している。(c)では、オペレータが操作装置4dの操作レバーを中立位置に戻すことにより速度指令をゼロとして、上部旋回体1dを停止させている。この場合には電動モータ16は正常に減速しており、第1条件及び第2条件のいずれも成立せず、異常とは判定されない。一方、(d)は、オペレータが逆転方向にレバーを操作することにより停止させた動作を表している。この場合は、速度指令と実速度の極性が反転し、速度偏差も過大な状態が継続するが、あくまでも正常な動作である。この場合には、目標速度V*から実速度Vを減じた値の符号は「負」であり、加速度dV/dtの符号も「負」となるため、第1条件は成立しない。また、目標速度V*と実速度Vの偏差は基準値Vthより大きいが、加速度dV/dtは正常な(c)の場合と同じで基準値βthより小さいため、第2条件も成立しない。したがって、本実施の形態によれば、このような場合を誤判定することなく正常な動作であると判定することができる。
【0047】
上記のように構成した油圧ショベルによれば、電子制御系の異常判定に係る誤判定が抑制できるので、油圧ショベルの可用性が向上し作業効率を向上できる。また、異常判定についての検出漏れが抑制できるので信頼性を向上することができる。
【0048】
なお、上記の実施の形態では、電動モータ16の速度(速度指令V*と実速度V)を利用することで異常判定処理を行ったが、電動モータ16のトルク(速度制御部60から出力されるトルク指令と、電流センサ30から算出される実トルク)を利用しても上記と同様の処理を実行することができる。速度指令V*と実速度Vの乖離が大きい場合には判定精度が低下する傾向があるが、このようにトルクに基づいて異常判定処理を実行すると判定精度の低下を抑制することができる。
【0049】
ところで、上記の実施の形態では、メインマイコン31において異常判定処理を実行する場合について説明したが、監視マイコン32に速度演算部64及び異常判定部65を設置することでメインマイコン31と同様の異常判定処理機能を監視マイコン32に実装しても良い。監視マイコン32はメインマイコン31と同様に、通信線L2から速度指令V*を受信し、位置センサ24と電流センサ30からの信号を入力している。したがって、これら各情報と速度演算部64及び異常判定部65を用いて図6で説明した異常判定処理を実行すればよい。そして、異常検出時には、監視マイコン32からIGBT32にゲートオフ信号を出力するとともに旋回非常ブレーキに制動信号を出力する。これにより、例えば、メインマイコン31に異常が発生して不正なモータ制御が行われた場合であっても、監視マイコン32によって上部旋回体1dの旋回動作を停止させることができる。なお、監視マイコン32ではモータ制御を行う必要はないため、監視マイコン32にメインマイコン31のような高い演算性能は必要なく、安価なマイコンを使うことができる。なお、上記の実施の形態のようにメインマイコン31のみでモータ制御及び異常判定処理を実行する場合には、監視マイコン32を省略しても良いことは言うまでもない。
【0050】
また、監視マイコン32とメインマイコン31を通信可能に接続し、監視マイコン32に上記処理を実行させることに加え、監視マイコン31からメインマイコン31に適当な問題を出題し、その解答結果に基づいてメインマイコンの診断を行う例題演算方式などを組み合わせてメインマイコン31の状態を監視するようにしても良い。例えば、この種の方法として、適当な間隔でメインマイコン31に演算をさせ、その演算結果の当否を監視マイコン32で判定し、メインマイコン31の状態を診断する方法がある。
【0051】
さらに、上記の実施の形態では、通信ドライバ33bを設置して監視マイコン32に通信機能を実装させ、速度指令V*を第1コントローラ11から直接受信する場合について説明したが、速度指令V*をメインマイコン31経由で受信するようにすれば、通信ドライバ33bを省略することができ、より低コストにシステムを構成できる。なお、このように構成する場合は、メインマイコン31の異常時に監視マイコン32が誤った指令値を受信し、メインマイコン31の異常を検出できないことを防止するために、第1コントローラ11はあらかじめ速度指令V*にチェックコードや通番を付加して送信するようにすることが好ましい。メインマイコン31はこれらを加工せずにそのまま監視マイコン32に送信することで、監視マイコン32は、メインマイコン31の異常により指令値が改ざんされていないかを判定することができる。
【0052】
第1コントローラ11および第2コントローラ22の異常検出は、ここまで述べてきた実施の形態の他にも、第1コントローラ11と第2コントローラ22の両者で相互監視を行うことによっても実現できる。第1コントローラ11と第2コントローラ22の両者で相互監視を行う具体的としては、前述の例題演算や、アライブカウンタ(通信周期毎にカウントアップし、所定値に達したらクリアされるカウンタ)が更新されていることをチェックする方法等がある。
【0053】
上記のように油圧ショベルを構成すれば、個々のコントローラを冗長化することなく、位置センサ24、コントローラ11,12、インバータ装置13、電動モータ16のいずれの故障時においても、上部旋回体1dに係る電子制御系の安全性を低コストで確保することが可能となる。さらに、冗長化した一方の油圧センサ21の出力をインバータ装置13に入力しているため、旋回指令を演算する第1コントローラ11や当該コントローラ11とインバータ装置13間の通信線L2の異常時においても旋回を継続させることができ、油圧ショベルの可用性を向上できることも本発明の効果である。
【0054】
なお、上記では、建設機械としてクローラ式の油圧ショベルを例に挙げて説明してきたが、電動モータによって旋回駆動される上部旋回体を有する建設機械(例えば、ホイール式油圧ショベルや、クローラ式及びホイール式クレーン等)であれば、本発明は同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1A…フロント装置、1B…車体、1a…ブーム、1b…アーム、1c…バケット、1d…上部旋回体、1e…下部走行体、3a…ブームシリンダ、3b…アームシリンダ、3c…バケットシリンダ、3e…左側走行モータ、3f…右側走行モータ、4a、4b…操作装置、5a〜5f…スプール型方向切換弁、6…油圧ポンプ、7…エンジン、8…リリーフ弁、9…圧油タンク、10…動力変換機、11…第1コントローラ、12、13…インバータ装置、14…チョッパ、15…蓄電装置、16…電動モータ(旋回モータ)、20…第1油圧センサ、20a…第1油圧センサ(左側)、20b…第1油圧センサ(右側)、21…第2油圧センサ、21a…第2油圧センサ(左側)、21b…第2油圧センサ(右側)、22…第2コントローラ、23…IGBT(インバータ回路)、24…位置センサ、25…旋回非常ブレーキ、26…表示装置、30…電流センサ、31…メインマイコン、32…監視マイコン、33a,33b…通信ドライバ、60…速度制御部、61…トルク制限部、64…速度演算部、65…異常判定部、80…逆転検出部、81…速度超過検出部、82…加速度演算部、L1…直流電力ライン、L2…通信線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回体と、
前記旋回体を駆動する電動モータと、
前記電動モータを操作するための操作信号を操作量及び操作方向に応じて出力する操作装置と、
前記操作信号に基づいて生成された制御信号に基づいて前記電動モータを制御する第1制御手段と、
前記電動モータの実速度を検出する検出手段と、
前記制御信号が規定する前記電動モータの目標速度から前記実速度を減じた値の符号と、前記電動モータの加速度の符号とが異なる状態を第1条件とし、前記目標速度と前記実速度の偏差が第1基準値より大きく、かつ、前記加速度が第2基準値より大きい状態を第2条件としたとき、前記第1条件及び前記第2条件のうち少なくとも一方が成立するか否かを判定する第2制御手段とを備えることを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械において、
制動信号に基づいて前記電動モータを制動する制動装置をさらに備え、
前記第2制御手段は、前記第1条件及び前記第2条件のうち少なくとも一方が成立したとき、前記制動装置に前記制動信号を出力することを特徴とする建設機械。
【請求項3】
請求項1に記載の建設機械において、
報知信号に基づいて前記建設機械に異常が発生したことを報知する報知装置をさらに備え、
前記第2制御手段は、前記第1条件及び前記第2条件のうち少なくとも一方が成立したとき、前記報知装置に前記報知信号を出力することを特徴とする建設機械。
【請求項4】
請求項1に記載の建設機械において、
前記電動モータの加速度を検出する加速度検出手段をさらに備えることを特徴とする建設機械。
【請求項5】
請求項1に記載の建設機械において、
前記電動モータの加速度は、前記制御信号が規定する前記電動モータの目標トルク、又は前記電動モータが発生する実トルクに基づいて算出されることを特徴とする建設機械。
【請求項6】
請求項1に記載の建設機械において、
前記第1制御手段と前記第2制御手段は異なる制御装置であることを特徴とする建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−5469(P2013−5469A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130630(P2011−130630)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】