説明

成膜装置

【課題】アモルファスシリコン層に含まれるSiHの濃度を低減させ、電子移動度や光電変換特性に優れたアモルファスシリコン層を成膜することが可能な成膜装置を提供する。
【解決手段】アモルファスシリコン層の成膜中に、検出手段31によってSiHの割合を検出し、周波数制御手段32によってSiHの割合が最も低くなる周波数になるように交流電源30から出力される交流電圧の周波数を調整しつつ、ガラス基板10にアモルファスシリコン層を成膜していく。そして、所定の膜厚になるまでアモルファスシリコン層を積層させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に関するものであって、詳しくは、基板にアモルファスシリコン層を成膜する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液晶ディスプレイなどに使用される薄膜トランジスタや、シリコン型の太陽電池などでは、ガラスなどの基板上にアモルファスシリコン層をなど成膜して製造される。このアモルファスシリコン層を成膜する際には、例えば、LPCVD(Low Pressure CVD)を用いる方法が挙げられる。しかしながら、LPCVDは成膜温度を500〜600℃程度まで上げる必要があり、基板をガラス基板である場合には、ガラスが軟化、溶融する懸念があるために適用することが困難である。
【0003】
一方、軟化点の低いガラス基板にアモルファスシリコン層を成膜するために、例えば、PECVD(Plasma Enhanced CVD)を用いる方法が挙げられる。このPECVDでは、成膜温度を比較的低くすることが可能なため、ガラス基板であってもアモルファスシリコン層を成膜することが可能である。
【0004】
PECVDでアモルファスシリコン層を形成した場合、反応ガスとしてモノシラン(SiH)ガスを用いた時に、成膜されたアモルファスシリコン層にシラン化合物(SiH)が含有される。このSiHのうち、SiHは、例えば、薄膜トランジスタにあっては、アモルファスシリコン層の電子移動度を低減させ、太陽電池にあっては、光電変換効率を下げるなど、製品の特性に悪影響を及ぼすことが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開平4−354326号公報
【特許文献2】特開2006−19593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のPECVD装置では、カソードに印加する電力として商用電源である13.56MHzの周波数の交流電圧が使用されいる。この周波数帯では、カソードに印加する電力の周波数と、アモルファスシリコン層に含まれるSiHに占めるSiHの濃度とが略平坦な相関であるため、カソードに印加する電力の周波数を調整してSiHの濃度を最も低くし、電子移動度や光電変換特性に優れたアモルファスシリコン層を得ることが困難であった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、アモルファスシリコン層に含まれるSiHの濃度を低減させ、電子移動度や光電変換特性に優れたアモルファスシリコン層を成膜することが可能な成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は次のような成膜装置を提供した。すなわち、本発明の成膜装置では、基板にアモルファスシリコン層を成膜する成膜装置であって、
真空槽と、前記真空槽内に配置され、複数の孔を有するシャワープレートと、前記シャワープレートが一面に配置され、前記孔によって前記真空槽の内部と連通する空洞を有するシャワーヘッドと、前記シャワーヘッドに接続され、前記空洞に原料ガスを供給する原料ガス供給系と、前記真空槽内の前記シャワープレートと対向する位置に平行に設けられ、前記基板を載置するための電極板と、前記電極板に接続され、前記電極板に100kHz以上2MHz以下の周波数の交流電圧を印加する交流電源と、前記アモルファスシリコン層に含まれるSiH濃度を検出する検出手段と、前記検出手段で検出されたSiH濃度に応じて前記交流電源から出力される交流電圧の周波数を制御する周波数制御手段とを備え、
前記周波数制御手段は、前記検出手段で検出されたSiH濃度に応じて、SiH濃度が最も低くなるように交流電圧の周波数を制御することを特徴とする。
【0008】
前記周波数制御手段は、前記基板の温度に応じて変化する、前記交流電圧の周波数と前記SiH濃度との関係を示した参照テーブルを備えていればよい。また、前記基板はガラス基板であり、前記基板の成膜温度は、200℃以上350℃以下であればよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の成膜装置によれば、アモルファスシリコン層の成膜中に、検出手段によってSiHの割合を検出し、周波数制御手段によってSiHの割合が最も低くなる周波数になるように交流電源から出力される交流電圧の周波数を調整しつつ、基板にアモルファスシリコン層を成膜していくことができる。
【0010】
これによって、周波数によるSiHの割合の変動が少ない従来の13.56MHz帯の交流電圧に代えて、周波数によってSiHの割合を大きく下げることが可能な100kHz以上2MHz以下の周波数帯の交流電圧を用い、かつ、SiHの割合を検出してSiHの割合が最小になる周波数の交流電圧を印加することにより、SiHの割合が極めて低いアモルファスシリコン層を成膜することが可能になる。
【0011】
このようなSiHの割合が極めて低いアモルファスシリコン層を成膜したガラス基板を、例えば薄膜トランジスタの製造に用いれば、電子移動度の高い高性能な薄膜トランジスタを得ることができる。また、シリコン型の太陽電池の製造に用いれば、光電変換効率に優れた高性能な太陽電池を得ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る成膜装置の最良の形態について、図面に基づき説明する。なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0013】
図1は、本発明の成膜装置の一例を示す断面図である。成膜装置1は真空槽2を有している。真空槽2には真空排気系20が接続されている。この真空排気系20は、真空槽2の内部空間Sを、例えば、10Pa以上500Pa以下の圧力範囲の減圧雰囲気に保つ。
【0014】
真空槽2の内部空間Sには、加熱装置7が設けられている。加熱装置7の上には、例えば板状の絶縁物8が配置されている。この絶縁物8の上には電極板9が重ねて配置されている。絶縁物8は、加熱装置7や真空槽2に対して電極板9を電気的に絶縁させる。電極板9の上には、被成膜物である基板10が載置されればよい。
【0015】
真空槽2には、検出手段31を構成するセンサ部31aが形成されている。この検出手段31は、原料ガスのプラズマPに含まれるSiHの含まれる割合、または、電極板9に載置される基板に成膜されたアモルファスシリコン層のSiHの割合を検出するものである。この検出手段31は、例えば、フーリエ変換型赤外分光装置(FT−IR)であればよい。そして、検出手段31は、測定されたSiHの割合を示す信号を、後述する周波数制御手段32に向けて出力する
【0016】
真空槽2の内部空間Sの上部には、シャワーヘッド3が配置されている。このシャワーヘッド3が電極板9の上面に対向する側にはシャワープレート4が取り付けられている。シャワーヘッド3の内部は、空洞3aとなっており、シャワープレート4には、この空洞3aと連通する多数の孔4aが形成されている。電極板9とシャワープレート4は、例えば30mm以上の離間距離を保って互いに平行に配置されている。
【0017】
シャワーヘッド3の空洞3aには、原料ガス供給系11が接続されており、シャワーヘッド3に向けて原料ガスが供給すると、シャワープレート4の孔4aから、供給された原料ガスが真空槽2の内部空間Sに導入される。
【0018】
電極板9は交流電源30に電気的に接続される。交流電源30は、電極板9に対して100kHz以上2MHz以下の範囲の周波数の交流電圧を印加する。一方、シャワープレート4と真空槽2とは電気的に接地され、接地電位に保たれている。
【0019】
交流電源30は、周波数制御手段32に電気的に接続されている。この周波数制御手段32は、検出手段31で検出されたSiHの割合を示す信号に基づいて、成膜温度ごとに予め記録された周波数とSiHの割合との関係を示す参照テーブルを参照する。そして、SiHの生成される割合が最も低くなる周波数の交流電圧が出力されるように、交流電源30を制御する。
【0020】
このような構成の成膜装置の作用を説明する。図1に示した成膜装置1を用いて、太陽電池や液晶ディスプレイの薄膜トランジスタの製造に用いられるガラス基板に、アモルファスシリコン層を成膜する場合を例示する。また、図2は、SiHの割合を制御する流れを簡単に示したフローチャートである。まず、成膜装置1の真空排気系20によって真空槽2内を排気し減圧雰囲気にする。そして、この減圧雰囲気を維持したまま真空槽2内にガラス基板10を搬入し、電極板9に載置する。
【0021】
加熱装置7を動作させ発熱させ、熱伝導によって絶縁物8および電極板9を介して、ガラス基板10を昇温させる。ガラス基板10は、ガラスが軟化することのない200℃以上300℃以下の範囲に加熱する。そして、原料ガス供給系11からアモルファスシリコン層を形成するための原料ガスG、例えば、モノシラン(SiH)ガスをシャワープレート4に向けて供給し、内部空間Sの圧力を10〜500Paにする。原料ガスGはシャワープレート4の孔4aから真空槽2内に向けて噴射される。
【0022】
このように、真空槽2に原料ガスGが導入され、真空槽2内が10Pa以上500Pa以下の減圧環境に保たれ、ガラス基板10が200℃以上350℃以下の範囲に加熱された状態で、交流電源30を動作させ、電極板9に交流電圧を印加する。電極板9に印加する交流電圧は、100kHz以上2MHz以下の範囲の周波数、例えば800kHzとされる。
【0023】
シャワープレート4は接地電位であり、シャワープレート4をアノード電極(接地電位)、電極板9をカソード電極とする容量結合によってグロー放電が発生し、アノード電極とカソード電極の間に原料ガスであるモノシランのプラズマPが発生する。
【0024】
印加電圧の周波数は、従来は一般的に商用電源の周波数である13.56MHzであるが、本発明においては、100kHz以上2MHz以下の範囲の低い周波数を用いることによって、ガラス基板10の近傍に偏在するようにプラズマPが発生する。活性化した水素化シリコンのプラズマPがガラス基板10の表面に到達すると、モノシランの反応が進行し、ガラス基板10の表面で分解されたラジカルが反応生成物であるアモルファスシリコンとして堆積する。プラズマPはシャワープレート4からから離れた位置に偏在して発生しているので、シャワープレート4にはアモルファスシリコンは堆積せず、ガラス基板10の表面に多く堆積し、成膜速度が速くなる。
【0025】
このアモルファスシリコン層の成膜中に、検出手段31例えばFT−IRは、プラズマPのSiHの割合を検出する(図2のF1)。センサ31aから得られたプラズマPの観測光が入力された検出手段31は、赤外光の強度分布に基づいてSiHの割合を示す信号を周波数制御手段32に送る。
【0026】
周波数制御手段32は、検出手段31からSiHの割合を示す信号が入力されると、成膜温度ごとに予め作成されている周波数とSiHの割合との関係を示すテーブルを参照し、入力された信号とテーブルとを比較する(図2のF2)。そして、現在の成膜温度において、SiHの割合が最も低くなるように、交流電源30から出力されている交流電圧の周波数を調整する(図2のF3)。
【0027】
この時、周波数制御手段32が参照する周波数とSiHの割合との関係を示すテーブルの一例を図3に示す。図3(a)は、成膜温度(基板温度)230℃における、印加する交流電圧の周波数とSiHの割合との関係を示したものである。また、図3(b)は、成膜温度(基板温度)320℃の時の、印加する交流電圧の周波数とSiHの割合との関係を示したものである。
【0028】
これらのグラフによれば、成膜温度(基板温度)230℃では、電極板9に印加する交流電圧の周波数を450kHzにすることによって、成膜されるアモルファスシリコン層のSiHの割合を最も減らすことができることがわかる。また、成膜温度(基板温度)320℃では、電極板9に印加する交流電圧の周波数を800kHzにすることによって、成膜されるアモルファスシリコン層のSiHの割合を最も減らすことができることがわかる。
【0029】
アモルファスシリコン層の成膜中に、検出手段31によってSiHの割合をリアルタイムで検出し、周波数制御手段32によってSiHの割合が最も低くなる周波数になるように交流電源30から出力される交流電圧の周波数を調整しつつ、ガラス基板10にアモルファスシリコン層を成膜していく。そして、所定の膜厚になるまでアモルファスシリコン層15を積層させる(図2のF4)。
【0030】
このように、周波数によるSiHの割合の変動が少ない従来の13.56MHz帯の交流電圧に代えて、周波数によってSiHの割合を大きく下げることが可能な100kHz以上2MHz以下の周波数帯の交流電圧を用い、かつ、SiHの割合を検出してSiHの割合が最小になる周波数の交流電圧を印加することにより、SiHの割合が極めて低いアモルファスシリコン層15を成膜することが可能になる。
【0031】
このようなSiHの割合が極めて低いアモルファスシリコン層15を成膜したガラス基板10を、例えば薄膜トランジスタの製造に用いれば、電子移動度の高い高性能な薄膜トランジスタを得ることができる。また、シリコン型の太陽電池の製造に用いれば、光電変換効率に優れた高性能な太陽電池を得ることが可能になる。
【0032】
なお、上述した本発明の成膜装置は、連続成膜処理による成膜装置に用いても効果的である。即ち、連続して供給される基板のうち、最初の基板で上述したような工程で最適な(SiHの割合が最も低い状態の周波数)状態に調整してから、連続成膜することによって、成膜の都度、最適な条件が変動しやすいCVD装置などで、SiHの割合が極めて低いアモルファスシリコン層を連続して容易に成膜することが可能になる。
【実施例】
【0033】
100kHz以上1MHz以下の周波数帯において、印加する交流電圧の周波数とSiH/SiHの割合との関係、およびそれぞれの周波数で成膜したアモルファスシリコン層の電子移動度、光電変換効率を測定した。基板温度(成膜温度)230℃における、周波数とSiH/SiHの割合との関係、およびそれぞれの周波数で成膜したアモルファスシリコン層の電子移動度を図4(a)、光電変換効率を図4(b)に示す。また、基板温度(成膜温度)320℃における、周波数とSiH/SiHの割合との関係、およびそれぞれの周波数で成膜したアモルファスシリコン層の電子移動度を図5(a)、光電変換効率を図5(b)に示す。
【0034】
図4、および図5に示す結果によれば、100kHz以上2MHz以下の周波数帯においては、いずれの成膜温度においても、周波数を変えることによって、SiH/SiHの割合を大きく変えることが可能であることがわかる。そして、SiHの割合を低くできる周波数で成膜したアモルファスシリコン層は、いずれの成膜温度においても、電子移動度、光電変換効率を良好にできることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態の成膜装置を示す断面図である。
【図2】本発明の成膜装置における成膜工程の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の成膜装置における参照テーブルの一例を示すグラフである。
【図4】本発明の検証結果を示すグラフである。
【図5】本発明の検証結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0036】
2 真空槽
4 シャワープレート
9 電極板
10 ガラス基板
30 交流電源
31 検出手段
32 周波数制御手段




【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にアモルファスシリコン層を成膜する成膜装置であって、
真空槽と、前記真空槽内に配置され、複数の孔を有するシャワープレートと、前記シャワープレートが一面に配置され、前記孔によって前記真空槽の内部と連通する空洞を有するシャワーヘッドと、前記シャワーヘッドに接続され、前記空洞に原料ガスを供給する原料ガス供給系と、前記真空槽内の前記シャワープレートと対向する位置に平行に設けられ、前記基板を載置するための電極板と、前記電極板に接続され、前記電極板に100kHz以上2MHz以下の周波数の交流電圧を印加する交流電源と、前記アモルファスシリコン層に含まれるSiH濃度を検出する検出手段と、前記検出手段で検出されたSiH濃度に応じて前記交流電源から出力される交流電圧の周波数を制御する周波数制御手段とを備え、
前記周波数制御手段は、前記検出手段で検出されたSiH濃度に応じて、SiH濃度が最も低くなるように交流電圧の周波数を制御することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記周波数制御手段は、前記基板の温度に応じて変化する、前記交流電圧の周波数と前記SiH濃度との関係を示した参照テーブルを備えていることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記基板はガラス基板であり、前記基板の成膜温度は、200℃以上350℃以下であることを特徴とする請求項1または2記載の成膜装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−277321(P2008−277321A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115495(P2007−115495)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】