説明

撮像装置の製造方法

【課題】プラズマ酸化によりシリコン基板上に形成される酸化膜の金属汚染量を低減すること。
【解決手段】酸化膜の形成方法は、不活性ガスと、前記不活性ガスに対する混合割合が0よりも大きく且つ0.007以下である酸化ガスと、を含む混合ガスからプラズマを生成する工程と、前記プラズマを用いてシリコン基板の表面に酸化膜を形成する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化膜の形成方法及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造プロセスでは、シリコン基板上に絶縁膜を形成するために、シリコン基板を高温の酸化雰囲気にさらし、その表面に酸化膜を形成する(以下「熱酸化」という。)方法が用いられている。しかしながら、このような熱酸化は、約1000℃で行われるため、不純物の拡散や基板の歪みなどが生じてしまう。そこで、熱酸化に代わるシリコン酸化膜の形成方法の開発が行われている。
【0003】
特許文献1は、不活性ガスと酸素等の酸化ガスとの混合ガスを流し、高周波電力(RFパワー)を印加することにより生成されたプラズマを利用して、シリコン酸化膜を形成する(以下「プラズマ酸化」という。)方法を開示している。
【0004】
特許文献1の方法では、励起された不活性ガスが基底状態に遷移することにより放出されるエネルギーを酸素分子に放出することによって、酸素原子及び酸素ラジカルを効率よく生成する。そして、これらの酸素原子や酸素ラジカルがシリコンと反応することによって、シリコン基板上に酸化膜を低温で形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−286259号公報
【特許文献2】特開平6−338507号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ULSI製造コンタミネーションコントロール技術、サイエンスフォーラム(株)、1992年3月30日、p.89−97
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らは、特許文献1の方法では、通常の熱酸化膜よりも金属汚染量が大きくなるという問題を見出した。酸化膜の金属汚染量が大きくなると、MOSキャパシタの酸化膜耐圧が低下したりするという問題がある(非特許文献1を参照)。また、金属汚染によって光電変換装置に白傷欠陥が生じるという問題がある(特許文献2を参照)。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、プラズマ酸化によりシリコン基板上に形成される酸化膜の金属汚染量を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の側面は、酸化膜の形成方法に係り、不活性ガスと、前記不活性ガスに対する混合割合が0よりも大きく且つ0.007以下である酸化ガスと、を含む混合ガスからプラズマを生成する工程と、前記プラズマを用いてシリコン基板の表面に酸化膜を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の側面は、撮像装置に係り、光電変換により発生した電荷を蓄積する蓄積領域を含むシリコン基板と、上記の酸化膜の形成方法により前記シリコン基板の表面上に形成された酸化膜とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プラズマ酸化によりシリコン基板上に形成される酸化膜の金属汚染量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】シリコン酸化膜のFe汚染量を示す図である。
【図2】シリコン酸化膜のTDDB特性を示す図である。
【図3】本発明の好適な実施の形態に係る酸化膜の形成方法で形成されたシリコン酸化膜を用いた撮像装置の断面図である。
【図4】プラズマ酸化によりシリコン基板の表面に酸化膜を形成する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において記載された各部の構成、配置、不純物タイプ、処理室内の圧力などの条件等は、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ものではない。本明細書において、複数のガスを混合する割合とは、混合される複数のガスの流量比(単位;sccm: standard cc/min)を表している。
【0014】
まず、図4を用いてプラズマ酸化によりシリコン基板の表面に酸化膜を形成する方法及びその方法を実現するためのプラズマ装置について説明する。プラズマ酸化が行われるシリコン基板401は、真空ポンプ408によって真空状態まで排気された処理室400内に導入される。次いで、処理室400内に不活性ガス及び酸化ガスを導入し、その混合ガスに高周波電力RFを電極(例えば、スロットアンテナ)402から印加することによってプラズマを生成し、シリコン基板の表面に酸化膜を形成する。不活性ガスとしては、例えば、Ar、Xe、Krなどの希ガスを用いることができる。また、酸化ガスとしては、O、HO、NOなどの酸化種を用いることができる。各ガスボンベ404a,404bから供給された各ガスは、ガスバルブ405a,405bとマスフローコントローラー406a,406bによって所定の割合で混合され、混合ガスとして供給口407から処理室400へ供給される。なお、混合ガスは、予め混合したガスを処理室400内に供給してもよいし、別の供給ラインから各ガスを供給して処理室内で混合してもよい。処理室400内には、シリコン基板401を保持する基板ホルダ403と、基板ホルダ403の温度を調整するヒータ409とが設けられている。高周波電力としては、マイクロ波電力を用いることが好適であるが、本発明はこれに限定されない。また、本発明に適用されるプラズマ装置は、図4に示したものに限定されず、他のプラズマプロセス装置を用いてもよい。
【0015】
本発明者は、プラズマ酸化において、各種条件を変化させる実験を行い、新たな知見を得た。具体的には、不活性ガスに対する酸化ガスの混合割合を0.003から0.01まで変化させたところ、酸化ガスの混合割合を0.007以下にしたときに、シリコン基板の表面に形成した酸化膜における金属汚染が大幅に低減することを見出した。なお、特許文献1に記載されたような従来の酸化ガスの混合割合は、0.01〜0.015である。更に、高周波電力を7.0[W/cm]から8.2[W/cm]まで変化させた。高周波電力としては、プラズマポテンシャルを低く抑えるために、2.45GHzのマイクロ波電力を用いた。処理室内の圧力は、1Torrに保ち、シリコン基板を保持する基板ホルダへの温度設定は、400℃に設定した。
【0016】
図1は、上記の条件においてシリコン基板上に形成した酸化膜中のFe汚染量を示す図である。縦軸は、マイクロ波電力が8.2[W/cm]であって水素ガスの添加無し且つ酸化ガスの混合割合が0.01であるときのFeの汚染量を1に規格化したときのFe汚染量を示している。横軸は、不活性ガスに対する酸化ガスの混合割合を示している。図1には、比較例として従来から使用されている熱酸化膜におけるFe汚染量も示している。
【0017】
図1に示すように、不活性ガスに対するOの混合割合が0.007以下になると、Fe汚染量が低減していることが分かる。特に、Oの混合割合が0.004以下になると、Oの混合割合が0.01以上である従来の場合よりも、Fe汚染量が大幅に減少していることが分かる。また、混合ガスに水素ガス(H)を添加した場合と、水素ガスを添加しない場合とでは、水素ガスを添加しない場合に、Fe汚染量が更に低減していることが分かる。印加するマイクロ波電力についても、マイクロ波電力が下がるにつれて、Fe汚染量が低減していることが分かる。特に、水素ガスを添加せず、マイクロ波電力を7.6[W/cm]以下にすると、Fe汚染量が低減していることが分かる。例えば、マイクロ波電力が7.6[W/cm]のときに、水素ガスを添加しない場合と水素ガスを添加した場合とにおいて、Oの混合割合が0.01の場合と0.004の場合とを比較する。この場合、Fe汚染量が半分程度も低減していることが分かる。
【0018】
以上のように、不活性ガスに対する酸化ガスの混合割合が0.007以下になると、Feの汚染量が低減し、特に0.004以下になると、Feの汚染量が大幅に低減することが分かった。従って、不活性ガスに対する酸化ガスの混合割合は、0よりも大きく且つ0.007以下、より好適には、0よりも大きく且つ0.004以下にすることが好ましい。しかしながら、不活性ガスに対する酸化ガスの混合割合を下げると、酸化速度が低下してしまう。そのため、実際には、不活性ガスに対する酸化ガスの混合割合の下限値は、酸化速度の許容範囲内に設定されうる。
【0019】
図2は、図1のようにFe汚染量が大きく低減されたプラズマ酸化条件において、シリコン基板上に形成したシリコン酸化膜のTDDB特性(Time Dependent Dielectric Breakdown)を示す図である。これは、ワイブルプロットと呼ばれる。横軸は、酸化膜に注入された電荷量を示す。縦軸は、1つのウエハから取れるチップの全個数に対する、その注入された電荷量で酸化膜が破壊されたチップの個数の割合を示している。ここでは、不活性ガスであるArに対するOの混合割合を0.003、マイクロ波電力を7.0[W/cm]としたものを例示的に示している。図2に示されるように、Fe汚染量が大きく低減されたシリコン酸化膜は、累積破壊電荷量Qbd[C/cm]の95%が20[C/cm]となり、従来の熱酸化膜のTDDB特性と同等の良好な特性(酸化膜耐圧)が得られていることが分かる。
【0020】
図3は、上記のようにFe汚染量が大きく低減されたプラズマ酸化条件に基づいて、シリコン基板SB上に形成したシリコン酸化膜をゲート絶縁膜として撮像装置に適用したときの断面構造の一例を示す図である。図3は、光電変換部及び周辺回路部を示している。101はフォトダイオード等を含む光電変換部、102は周辺回路部を示す。n型半導体等の第1の導電型の半導体で形成された光電変換部101の蓄積領域103は、p型半導体等の第2の導電型半導体で形成されたウェル104に囲まれるように形成されている。蓄積領域103の上面は、第2の導電型半導体で形成された表面層105で覆われている。表面層105は、シリコン基板SBの表面の一部を形成している。表面層105の上には光の反射を防止する反射防止層106が形成されている。シリコン酸化膜120は、図4に示したプラズマ装置を用いて、Fe汚染量が大きく低減されるようなプラズマ酸化条件で(図1参照)、シリコン基板SBの表面上に形成されている。光電変換により発生し蓄積領域103に蓄積された電荷は、シリコン酸化膜120上にある転送ゲート電極107により電圧変換部108に転送され、電圧変換部108で電圧信号に変換される。電圧信号は、光電変換部101に形成されたMOSトランジスタ109により構成された読み出し回路、及び、周辺回路部102に形成されたMOSトランジスタ110により構成された読み出し回路によって、撮像装置の外部に読み出される。
【0021】
次に、図3の撮像装置の製造方法について簡単に説明する。
【0022】
シリコン基板SB内にウェル104を形成する。
【0023】
シリコン基板SBの表面上に、図4に示したプラズマ装置を用いて、Fe汚染量が大きく低減されるようなプラズマ酸化条件で(図1参照)、シリコン酸化膜を形成する。
【0024】
そのシリコン酸化膜の上に、ポリシリコン等にてトランジスタのゲート電極(転送ゲート電極107など)となるべき膜を形成し、形成した膜をフォトリソグラフィ法によりパターニングすることにより、ゲート電極を形成する。
【0025】
その後、ゲート電極に対して自己整合的に(セルフアラインで)第1導電型(例えば、N型)の不純物イオンを注入することにより、第1導電型の半導体領域114を形成する。
【0026】
更に、第1導電型(例えば、N型)の不純物イオンを注入するにより、蓄積領域103を形成した後、第2導電型(例えば、P型)の不純物イオンを注入することにより、表面層105を形成する。
【0027】
そして、反射防止層106となるべき膜を(例えば、シリコン酸窒化物で)形成したのち、その膜をリソグラフィ法により所望の形状にパターニングする。これにより、光電変換部101における反射防止層106と周辺回路部102におけるサイドスペーサ113とを形成する。
【0028】
サイドスペーサ113に対して自己整合的に第1導電型(例えば、N型)の不純物イオンを注入することにより、第1導電型の半導体領域111を形成する。
【0029】
その後、層間絶縁膜112やコンタクトを形成し、撮像装置が作られる。ここで、シリコン酸化膜を形成する前に、半導体領域114等の拡散領域を形成することも可能である。このように撮像装置を形成することによって、シリコン酸化膜120や蓄積領域103における重金属汚染などによる白傷欠陥を低減でき、撮像装置から出力された画像信号により得られた画像における白傷を低減することが可能となる。また、図4に示されたプラズマ装置を用いてゲート絶縁膜などシリコン基板SBの表面上にシリコン酸化膜を形成するので、そのシリコン酸化膜を低温にて形成することが可能となる。このため、拡散領域への熱の影響が小さく不純物の拡散が抑制される結果、トランジスタ等のデバイスを制御よく形成することが可能となる。
【0030】
ここで、撮像装置における白傷(ホワイトスポット)欠陥について説明する。撮像装置における白傷欠陥は重金属(銅、ニッケル、タングステン、コバルト、鉄など)が蓄積領域103中に拡散した際に生じる蓄積領域103から出力される信号の異常である。少しの出力される信号の異常も白傷となって画像に大きな影響を与えるため、撮像装置において金属汚染は大きな問題である。しかし、このように形成された撮像装置では、撮像装置の白傷(ホワイトスポット)欠陥が減少した。撮像装置の白傷の減少は、図1に示したFeを含む各金属に対して全体的に起こっており、金属全般において汚染量が減少した。
【0031】
従って、上記のシリコン酸化膜を撮像装置に適用することによって、撮像装置の白傷(ホワイトスポット)欠陥を低減することが可能となり、撮像装置の特性を向上させることが可能となる。また、上記のシリコン酸化膜を撮像装置に適用することによって、熱酸化によって形成する場合、例えば800℃に比べて低温でゲート絶縁膜を形成することが可能となり、拡散領域への熱の影響が低減されるため拡散領域を制御よく形成することが可能となる。
【0032】
このように、本発明の好適な実施の形態に係る酸化膜の形成方法を用いることによって、金属汚染量の少ないシリコン酸化膜を低温で形成することができる。その結果、酸化膜耐圧が向上するとともに、シリコン酸化膜から蓄積領域へ熱拡散する重金属の量も低減することにより蓄積領域における金属汚染も低減するので、撮像装置の特性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0033】
400 処理室
401 シリコン基板
402 電極
403 基板ホルダ
404a,404b ボンベ
405a,405b ガスバルブ
406a,406b マスフローコントローラ
407 供給口
408 真空ポンプ
409 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガスと、前記不活性ガスに対する混合割合が0よりも大きく且つ0.007以下である酸化ガスと、を含む混合ガスからプラズマを生成する工程と、
前記プラズマを用いてシリコン基板の表面に酸化膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とする酸化膜の形成方法。
【請求項2】
前記不活性ガスに対する前記酸化ガスの混合割合が、0.004以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の酸化膜の形成方法。
【請求項3】
前記プラズマは、前記混合ガスに7.0[W/cm]以上、且つ7.6[W/cm]以下の高周波電力を印加することによって生成される
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の酸化膜の形成方法。
【請求項4】
前記酸化ガスは、水素ガスを含まない
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の酸化膜の形成方法。
【請求項5】
光電変換により発生した電荷を蓄積する蓄積領域を含むシリコン基板と、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の酸化膜の形成方法により前記シリコン基板の表面上に形成された酸化膜と、
を有することを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−8999(P2013−8999A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−198888(P2012−198888)
【出願日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【分割の表示】特願2008−242221(P2008−242221)の分割
【原出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】