説明

支障物検知装置及びこれを備えたプラットホームドアシステム並びに支障物検知方法

【課題】単一の光学センサにより三次元の所定の検知空間を検知可能とすると共に、屋外環境における外乱に対しても安定して支障物を検知する。
【解決手段】対象物までの距離及び対象物からの反射光量を測定する三次元距離画像センサ10Sと、三次元距離画像センサ10Sの測定結果に基づいて、検知空間DSにおける対象物の位置及び大きさを特定すると共に、当該対象物を位置及び大きさの閾値に基づいて支障物として検知するか否かを判断する検知制御部DCとを備え、検知制御部DCは、所定の検知空間DSを、三次元距離画像センサ10Sからの距離に応じた複数の検知エリアDS0〜DS4に区分すると共に、当該検知エリアDS0〜DS4ごとに支障物を検知する閾値を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道等のプラットホームに設置されるプラットホームドア用の支障物検知装置及びこれを備えたプラットホームドアシステム並びに支障物検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道等の車両の乗降場所であるプラットホームには、車両軌道に沿ってプラットホーム上に所定間隔で立設されたプラットホームドアを設けたものが知られており、プラットホームドア近傍の乗降客や障害物等をセンサにより検知し、この検知結果に基づいてプラットホームドアの動作や車両の運行を制御して、乗降客の安全等を確保する安全システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、特許文献1には、測距センサからの照射光を回転ミラーにより走査して、所定の検知空間内の人や物等の支障物を検知するように構成したプラットホームドアの安全装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−204003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術は、次のような問題点を有していた。すなわち、上記特許文献1に開示された先行技術では、単一の支障物センサから発射される照射光を回転ミラーで走査することにより、必要なセンサ数の削減を可能としているが、かかる支障物センサは屋外に設置されるため、外部環境の変化等による外乱の影響を受け易いといった問題を有していた。
【0006】
例えば、所定の検知空間内に存在する人や物等の支障物を確実に検知するために、センサの検知範囲を広く取り、検知感度を極力増大させた場合には、センサのレンズ面に付着した粉塵、水滴等を支障物として誤検知したり、雨、雪、霧、虫等を支障物として誤検知する可能性が増大し、車両の円滑な運行に支障を来すといった問題が生じていた。
【0007】
一方、このような粉塵や降雨等を支障物として検知させないために検知感度を落とすと、車両ドア間に挟まれた状態で車両ドアからプラットホーム側に飛び出した傘やカバン等の手荷物(支障物)、あるいは、車両とプラットホーム間に転落してプラットホーム上に僅か乗り出した中吊り状態の乗降客や子供等の検知が場所によっては困難となる虞が生じていた。
【0008】
このような問題に対処するためには、当然に、乗降客等の安全確保が最優先となるため、センサの感度を極力高く設定する必要が生じ、結果として、かかる支障物センサは、外部環境の変化に伴う外乱の影響を受け易くなって支障物の検知が不安定となってしまうという不可避的な問題を有していた。このため、屋外環境においても安定して支障物を検知する検知技術の確立が望まれていた。
【0009】
そこで、本発明は、上述のような従来技術の問題点に鑑みて、単一の光学センサにより三次元の所定の検知空間を検知可能とすると共に、屋外環境における外乱に対しても安定して支障物を検知することができる支障物検知装置及びこれを備えたプラットホームドアシステム並びに支障物検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る支障物検知装置は、対象物までの距離及び対象物からの反射光量を測定する三次元距離画像センサと、前記三次元距離画像センサの測定結果に基づいて、検知空間における対象物の位置及び大きさを特定すると共に、当該対象物を位置及び大きさの閾値に基づいて支障物として検知するか否かを判断する検知制御部とを備え、前記検知制御部は、前記検知空間を、三次元距離画像センサからの距離に応じた複数の検知エリアに区分すると共に、当該検知エリアごとに支障物を検知する閾値を変更することを特徴とするものである。
【0011】
このように構成した場合には、所定の検知空間を単一の光学センサにより三次元的に検知可能とすると共に、検知エリアに応じた外乱データの特性に基づき屋外環境に伴う外乱を除去して、降雨等の環境変化に対しても安定して支障物を検知することができる。
【0012】
また、上記構成において、前記検知制御部は、前記三次元距離画像センサによる複数サイクルの測定において、同一座標に連続して対象物が存在する場合に、当該対象物を支障物として検知することができる。
【0013】
このように構成した場合には、降雨や虫等の移動体を的確に判別して、支障物の検知精度を一層向上させることができる。
【0014】
また、上記構成において、水滴等の乱反射データを検知し得るような三次元距離画像センサに近接した検知エリアにて、前記検知制御部は、さらに、反射光量に基づいて、屋外環境に伴う降雨等の外乱を除去してもよい。
【0015】
このように構成した場合には、水滴等の乱反射(多重反射)による誤検知を効果的に抑制して、環境変化に対してより安定して支障物を検知することができる。
【0016】
また、上記構成において、水滴等の乱反射データを検知し得るような三次元距離画像センサに近接した検知エリアにて、前記検知制御部は、三次元距離画像センサから得られた距離データを書き換えることにより、屋外環境に伴う降雨等の外乱を除去してもよい。
【0017】
このように構成した場合には、反射光量のデータが得られない場合でも、距離データの簡易な書き換え処理により水滴等の乱反射(多重反射)による誤検知を効果的に抑制して、環境変化に対してより安定して支障物を検知することができる。
【0018】
さらに、上記構成において、前記検知制御部は、前記三次元距離画像センサに近い検知エリアほど、支障物として検知する対象物の大きさの閾値を増大させてもよい。
【0019】
このように構成した場合には、所定の検知空間内における所定の大きさの支障物を、三次元距離画像センサからの距離に応じて精度良く検知することができる。
【0020】
さらにまた、前記検知制御部は、検知空間を前記三次元距離画像センサの座標系と同一の座標系に変換することができる。
【0021】
このように構成した場合には、三次元距離画像センサにより得られた測定データを、その都度座標変換することなしに、対象物の検知空間内における位置を特定することができ、検知処理の高速化に寄与することができる。
【0022】
本発明に係るプラットホームドアシステムは、車両の停止位置において、車両乗車口と対向するように、プラットホーム側に立設されたプラットホームドアシステムであって、所定の間隔でプラットホームに立設された戸袋パネルと、隣接する戸袋パネル間を開閉するように、水平方向に移動自在に形成されたドアパネルと、前記戸袋パネルと車両との間に配設され、隣接する一対の戸袋パネルの一方に取り付けられた上記いずれかに記載の支障物検知装置とを備え、前記検知制御部は、車両が所定の位置に停止した状態を、基準状態として前記検知空間に反映させることを特徴とするものである。
【0023】
このように構成した場合には、所定の検知空間をより実際の状態に即して設定することができ、プラットホームドアシステムとしての支障物の検知精度を向上させることができる。
【0024】
また、上記構成において、前記支障物検知装置は、前記一対の戸袋パネルのうち、車両進行方向上流側の戸袋パネルに取り付けられていてもよい。
【0025】
このように構成した場合には、屋外設置された支障物検知装置の筐体内部に、車両の進行に伴う粉塵等が進入することを効果的に抑制することができる。
【0026】
本発明に係る支障物検知方法は、三次元検知空間内に照射光を投受光して、検知空間内における支障物の位置及び大きさを特定する三次元距離画像センサを用い、前記検知空間を、三次元距離画像センサからの距離に応じた複数の検知エリアに区分した後、当該検知エリアごとに位置及び大きさの閾値を変更して支障物を検知することを特徴とするものである。
【0027】
このように構成した場合には、所定の検知空間を単一の光学センサにより三次元的に検知可能とすると共に、検知エリアに応じた外乱データの特性に基づき屋外環境に伴う外乱を除去して、降雨等の環境変化に対しても安定して支障物を検知することができる。
【0028】
また、上記構成において、水滴等の乱反射データを検知し得るような三次元距離画像センサに近接した検知エリアにて、前記三次元距離画像センサから得られる光量値データを用いて、環境変化に伴う外乱を除去した後に、前記三次元距離画像センサから得られる距離データ及び大きさに基づいて支障物の検知判定を行ってもよい。
【0029】
このように構成した場合には、水滴等の乱反射(多重反射)による誤検知を効果的に抑制して、環境変化に対してより安定して支障物を検知することができる。
【0030】
また、上記構成において、水滴等の乱反射データを検知し得るような三次元距離画像センサに近接した検知エリアにて、前記三次元距離画像センサから得られる距離データを用いて、対象画素に対応する距離データ及びその周囲の画素に対応する距離データのうち、最小値又は最大値を当該対象画素の距離データに書き換え、その後、書き換えられた距離データ及び大きさに基づいて支障物の検知判定を行ってもよい。
【0031】
このように構成した場合には、反射光量のデータが得られない場合でも、距離データの簡易な書き換え処理により水滴等の乱反射(多重反射)による誤検知を効果的に抑制して、環境変化に対してより安定して支障物を検知することができる。
【0032】
さらに、上記構成において、前記対象物の大きさの判定を行う前に、三次元距離画像センサによる複数サイクルの測定において、当該対象物が同一座標に連続して存在するか否かを判定してもよい。
【0033】
このように構成した場合には、大きさの判定を先に行う場合に比し、検知の際の揺らぎを防止して支障物の検知精度をより一層向上させることができる。
【0034】
さらに、上記構成において、前記三次元検知空間の範囲を設定した後、前記三次元距離画像センサによる測定を開始する前に、前記三次元検知空間の座標系を前記三次元距離画像センサと同一の座標系に変換することができる。
【0035】
このように構成した場合には、三次元距離画像センサにより得られた測定データを、その都度座標変換することなしに、対象物の検知空間内における位置を特定することができ、検知処理の高速化に寄与することができる。
【0036】
さらに、上記構成において、前記検知空間を座標変換した後、前記三次元距離画像センサによる測定を開始する前に、さらに、前記三次元距離画像センサの走査歪みに基づいて、前記検知空間を補正することができる。
【0037】
このように構成した場合には、レーザー光の走査に伴う歪みを補正して支障物の検知精度を向上させることができる。
【0038】
さらにまた、上記構成において、前記レーザー光を走査する際の短軸方向をX軸、長軸方向をY軸とし、前記三次元距離画像センサの照射角度のX軸成分、Y軸成分をXd,Ydとし、X軸方向に発生する走査歪みを補正する補正角をXcとしたとき、Xc=Yd2×(aXd+b)×c(ここで、a,b,cは、角度データの測定値から求められる所定の定数)の関係を満たすように補正角Xcを設定してもよい。
【0039】
このように構成した場合には、三次元距離画像センサの走査歪みと同様な形状に検知空間を変形させて、歪みの影響を相対的にキャンセルすることができるので、検知精度の向上に寄与することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、センサ数を増大させることなく、所定の検知空間を三次元的に検知可能とすると共に、屋外環境における外乱に対しても安定して支障物を検知することができ、乗降客の安全を確実に確保すると共に、車両の円滑な運行に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係るプラットホームドアシステムの構成を示す展開図である。
【図2】プラットホームドアシステムにおける立体的な支障物検知空間を示す模式図である。
【図3】実施の形態1に係る支障物検知装置10の機能ブロック図である。
【図4】実施の形態1に係る支障物の検知エリアの区分及び検知エリアごとの検知内容を説明するための模式図である。
【図5】水滴内での多重反射による散乱光に関する距離データの誤測定を説明するための模式図である。
【図6】実施の形態1に係る支障物検知装置における検知手順を説明するためのフローチャートである。
【図7】実施の形態1に係る支障物検知装置における検知手順を説明するためのフローチャートである。
【図8】実施の形態1に係る支障物検知装置における検知手順を説明するためのフローチャートである。
【図9】実施の形態2に係る支障物の検知エリアの区分及び検知エリアごとの検知内容を説明するための模式図である。
【図10】実施の形態2に係る近距離データへの書き換え処理を説明するための模式図である。
【図11】実施の形態2に係る遠距離データへの書き換え処理を説明するための模式図である。
【図12】実施の形態2に係る支障物検知装置における検知手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
<実施の形態1>
以下に、本発明に係るプラットホームドアシステムの一実施形態について、図面を参照して説明する。まず、本実施の形態に係るプラットホームドアシステムの構成について図1及び図2を参照して参照して説明する。ここで、図1は、本発明に係るプラットホームドアシステムの構成を示す展開図であり、図2は、プラットホームドアシステムにおける立体的な支障物検知空間を示す模式図である。
【0043】
図1及び図2に示すように、本実施の形態に係るプラットホームドアシステム1は、鉄道等の車両の乗降場所であるプラットホームに立設されており、車両の軌道に沿って、プラットホームの車両側端部に所定間隔で立設された戸袋パネル2と、該戸袋パネル2に収容され、隣接する戸袋パネル2‐2間を開閉するドアパネル3‐3とを備えている。そして、隣接する戸袋パネル2‐2の一方には、乗降エリアを区画形成する略直方体状の防護支柱5が車両側に突出するように立設されている。同様に、隣接する戸袋パネル2‐2の他方には、略直方体支柱形状の支障物検知装置10が車両側に突出するように立設されている。
【0044】
ドアパネル3は、外形が正面視で略矩形状のパネル部材であり、所定の厚さを有して水平方向に移動自在に形成されている。また、一対のドアパネル3‐3が接触する側面には、双方のドアパネル3‐3が接触する際の衝撃を緩和するための弾性部材が配設されている。
【0045】
戸袋パネル2は、外形が正面視で略矩形状のパネル部材であると共に、上記ドアパネル3を収容可能な中空構造を有しており、その一側面にドアパネル3を水平方向に進退可能とする開口部が形成されている。
【0046】
上記支障物検知装置10は、所定の検知空間に存在する人や物等の支障物(障害物)を検知するものであり、略直方体状(支柱状)の装置筺体100の内部に三次元距離画像センサ10Sや、処理部、検知制御部等が配設されている。
【0047】
本実施の形態に係る三次元距離画像センサ10Sは、近赤外線パルスレーザー光を所定の三次元検知空間内に照射して、複数の走査軸(例えば、X軸,Y軸)に沿って振動する微小ミラー(MEMS共振ミラー)により、当該空間内をリサジュー軌跡を描きながら上下左右に走査するものであり、パルス発信したレーザー光が対象物に反射して戻るまでの往復時間により当該対象物までの距離を測定すると共に、当該座標における反射光の強さ(反射光量)を測定するものである。そして、この距離データとレーザー光の照射角度とから三次元空間内における対象物の位置座標を特定すると共に、対象物を走査して上記測定データを連続的に取り込むことにより、対象物の大きさ(画像ピクセル数)を特定するものである。
【0048】
すなわち、本実施の形態に係る支障物検知装置10では、上記三次元距離画像センサ10Sから照射されたレーザー光を、MEMS共振ミラーにて三次元空間内を走査することにより、所定の検知空間内における対象物の位置、反射光量、及び大きさを測定することが可能となる。
【0049】
なお、本実施の形態では、具体的な三次元距離画像センサ10Sとして、日本信号株式会社製のMEMS共振ミラー(ECO SCAN)を用いた三次元走査型の距離画像センサ(FX−6)を採用している。
【0050】
このような三次元走査型の距離画像センサ10Sを用いることにより、単一のレーザー光源(発光素子)により三次元の検知空間における支障物の検知が可能となり、従来の固定型の光電センサ方式に比し、センサ数の大幅な削減や装置の小型化が可能となる。また、任意の複雑な形状の検知空間がソフトウェア上で容易に設定可能となり、現場でのセンサ取付位置のネジ等による機械的な調整作業等を省略可能として、据え付け作業性の大幅な向上を実現することができる。
【0051】
本実施の形態に係る支障物検知装置10では、上記三次元距離画像センサ10Sを装置筺体100の下部に設けられた開口部101内にて、所定の画角(走査角度)に応じた水平方向(車両進行方向)の位置(所定の検知空間を包含するように所定の画角に基づいて開口部101から水平方向に離隔を設けた位置)に傾斜配置することにより、図2に示すような、立体的に広がる所定の三次元検知空間をレーザー光により測定可能とし、併せてプラットホームと車両との隙間から転落した乗降客や子供等、緊急度の高い危険領域(プラットホームと車両との間であってプラットホーム表面近傍の領域)を確実に検知可能としている。また、装置筺体100の上部には、緊急時に手動でドアパネル3‐3の開閉を可能とする非常解錠ボタン6が取り付けられている。
【0052】
なお、本実施の形態において、上記支障物検知装置10は、一対の戸袋パネル2‐2のうち、車両進行方向上流側の戸袋パネル2に取り付けられている。これにより、下流側の戸袋パネル2に支障物検知装置10を取り付けた構成に比し、三次元距離画像センサ10Sが収容される開口部101が、車両進行方向に沿って(車両進行方向と対向せずに)開口されるので、車両の進行に伴う粉塵等の開口部内への侵入を抑制することができる。
【0053】
図3は、本実施の形態に係る支障物検知装置10の機能ブロック図を示すものであり、装置筺体100の内部には、赤外線レーザー投受光部E/Rやレーザー光の投光タイミングと測定対象物からの反射光の受光タイミングとの時間差から距離に換算する処理部PSを含んだ上記三次元距離画像センサから構成されるセンサ部10S、自己診断、検知空間の設定、閾値の設定等の機能を備え、センサ部10Sからの出力に基づいて所定の検知空間内における対象物の位置及び大きさを特定する検知制御部DC、フィールドバスやハードワイヤ等を介して他機器と連携するインターフェース部I/F、及び内部電源等が配設されている。そして、センサ部10Sから出力された測定データを検知制御部DCで読み込み、当該検知制御部DCにより対象物の位置、大きさ、光量等に基づいて所定の検知空間内における支障物の検知判定を行うようになっている。
【0054】
次に、本実施の形態に係る支障物検知装置10による支障物の検知内容及び検知方法について、図面を参照してさらに説明する。
【0055】
まず、検知内容の概要について、図4を参照して説明する。ここで、図4は、本実施の形態に係る支障物の検知エリアの区分及び検知エリアごとの検知内容を説明するための模式図である。
【0056】
一般に、プラットホームドアシステム1における支障物検知センサ10Sは、屋外に設置されるため外部環境の変化に伴う外乱(例えば、降雨、粉塵等)に曝され易い。一方、車両ドアからはみ出した傘やカバン等を確実に検知するためには、支障物検知センサ10Sの検知感度を十分高く設定する必要があるが、検知感度を過度に増大させた場合には、雨、雪、霧、虫、センサレンズ面に付着した粉塵、水滴などを支障物センサ10Sが検知して、車両の円滑な運行に支障を来すといった虞が生じる。
【0057】
そこで、本実施の形態に係る支障物検知装置10では、検知エリアごとに支障物を検知するための閾値を変更することにより、プラットホームドアシステム1と車両との間に取り残された乗降客を確実に検知するのみならず、車両ドアからはみ出した傘やカバン等の支障物を検知可能とする一方、雨、雪、霧、付着水滴等の支障物検知に影響を及ぼす外乱を未然に排除可能としている。
【0058】
具体的には、図4に集約して示すように、所定の検知空間DS内において、三次元距離画像センサ10Sからの距離(水平方向の距離)に応じて、上記検知空間DSをさらに複数の検知エリアに区分(本例では、不検知エリアDS0及び検知エリアDS1〜検知エリアDS4の5分割)し、かかる検知エリアDS0〜DS4ごとに支障物検知の条件を異ならせている。
【0059】
詳細には、三次元距離画像センサ10Sから筐体100の外壁面までの距離に相当する領域(本例では、センサ10Sからの水平距離が0〜200mmの領域)では、支障物を検知しない不検知エリアDS0が設定されている。また、この不検知エリアDS0に併設して4つの検知エリアDS1(本例では、センサ10Sからの水平距離が200〜560mmの領域)、検知エリアDS2(本例では、センサ10Sからの水平距離が560〜950mmの領域)、検知エリアDS3(本例では、センサ10Sからの水平距離が950〜1350mmの領域)、検知エリアDS4(本例では、センサ10Sからの水平距離が1350〜2000mm程度の領域)が順次設定されている。
【0060】
ここで、本実施の形態に係る検知エリアDS0〜DS4は、降雨、付着水滴等の環境変化に伴う外乱に対して、対策が必要なエリア(本例では、検知エリアDS1及びDS2)と、上記対策が不要なエリア(本例では、検知エリアDS3及びDS4)とに大別されている。
【0061】
一般に、降雨等の水滴にレーザー光を照射すると、図5に模式的に示すように、水滴内での多重反射により散乱光が発生し、かかる散乱光により当該水滴までの距離が誤測定されることが本発明者らの研究により判明した。
【0062】
上記散乱光の具体的な特性としては、光量値が小さく(250digit未満)、かつ、所定の範囲の距離データ(約400〜1000mm)として測定されることが判明した。一方、検知対象とする支障物(例えば、車両ドア間に挟まれた傘等)からの反射光量は、350digit以上であり、両者(水滴等の外乱と支障物)において反射光量の有意差が存在することが認められた。
【0063】
ただし、反射光量だけでフィルタリングすると、光量値が小さくなるセンサ10Sから遠距離の物体や、反射率が低い物体を誤処理する可能性が生じるので、測定対象物の位置(センサ10Sからの距離)及び反射光量にてフィルタリングすることにより、水滴等の外乱と支障物とを識別できることが本発明者らの研究により判明した。
【0064】
そこで、本実施の形態では、まず、所定の検知エリアDS0〜DS4を、測定対象物の距離データと反射光量値とが所定の値(閾値)を満たすか否かにより、降雨、付着水滴等の環境変化に伴う外乱に対して対策が必要なエリア(水滴等の乱反射データを検知し得るようなセンサ10Sから近距離のエリアであり、本例では、検知エリアDS0〜検知エリアDS2)と、散乱光が減衰して支障物として検知不能となるため上記対策が不要なエリア(センサ10Sから遠距離のエリアであり、本例では、検知エリアDS3及びDS4)とに大別し、さらに、センサ10Sから近距離のエリアであり反射光量値が所定の値(閾値)未満である場合には、測定データを降雨、付着水滴等の散乱光による外乱データとして除去するようにしている。このように散乱光の特性に基づいて、外乱データを予め除去することにより、その後の支障物の検知処理を簡易化すると共に、支障物の検知精度を向上させることができる。
【0065】
次に、本実施の形態に係る検知エリアDS0〜DS4ごとの処理内容についてさらに説明する。
【0066】
まず、上記不検知エリアDS0(本例では、センサ10Sからの水平距離が0〜200mmの領域)では、かかる領域に対応する距離データが測定された場合に、装置筐体100内やレンズ面等に付着した汚れと判断し、支障物として検知しないように処理する。すなわち、この領域DS0に対応する距離データは、三次元距離画像センサ10Sから筐体外壁面までの距離に相当するので、装置筐体100内部の汚れと判断し、所定の検知空間DS内に存在する支障物の検知から除外する処理を行う(以下、この不検知エリアDS0を汚れ処理エリアとも称する)。
【0067】
なお、本実施の形態では、かかる汚れ処理を施した対象物の画素数が検知空間に対応する全画素数(本例では、29×59=1711画素)に対して一定の割合を超えた場合には、自己診断機能によりセンサの保守・交換等のアラームを表示するようになっている。
【0068】
次に、不検知エリアDS0に隣接する検知エリアDS1(本例では、センサ10Sからの水平距離が200〜560mmの領域)は、所定の車両停止位置から離れているため、車両ドアに挟まれた傘等の支障物(以下、車両扉挟持物とも称する)が存在しない領域であるが、プラットホームドアシステム1と車両との間に取り残された乗降客等の検知が必要な領域であり、かつ、センサ10Sのレンズ面や装置筐体100に付着した水滴等や降雨、降雪、虫等といった外部環境の変化に伴う外乱を支障物の検知から除外する領域として設定されている(以下、この検知エリアDS1を付着水滴等対策エリアとも称する)。
【0069】
ここで、付着水滴の距離データの傾向としては、当該付着水滴にレーザー光が反射すると、200mm程度の測定値と560mm程度の測定値とが計測されることが本発明者らの研究により判明した。これは、センサ10Sのレンズ面近傍の装置筐体100等に付着した水滴の距離データ(200mm程度)とレーザー光が付着水滴に乱反射した際の距離データ(560mm程度)とが混在することによるものと考えられ、このうち乱反射による距離データは、誤検知の要因となってしまう。
【0070】
そして、基本的には、通常の降雨、降雪等は、前述した所定の光量値によるフィルタリング処理により支障物としての検知から除外することが可能であるが、多量の雨(例えば、60〜200mm/h)や虫等では、構成粒子が密集して反射光量値が見掛け上増大し、誤検知が生じ得ることが判明した。
【0071】
そこで、かかる付着水滴等対策エリアDS1では、前述した所定の光量値(本例では、250digit)によるフィルタリングにより、通常の降雨等を支障物としての検知から除外した後、さらに、所定の大きさ(本例では、画素数300ピクセル)以上を有する対象物のみを支障物として検知することにより、付着水滴や通常の雨、雪、虫等(センサ10Sから約1000mmの距離で1ピクセル程度)のみならず多量(大粒)の雨等についても支障物としての検知から除外することを可能としている。
【0072】
次に、上記検知エリアDS1に隣接する検知エリアDS2(本例では、センサ10Sからの水平距離が560〜950mmの領域)は、検知エリアDS1と同様に、車両扉挟持物(車両扉に挟まれた傘等の支障物)が存在しない領域であるが、プラットホームドアシステム1と車両との間に取り残された乗降客等の検知が必要な領域であり、かつ、降雨、降雪、虫等といった外部環境の変化に伴う外乱を支障物の検知から除外する領域として設定されている(以下、この検知エリアDS2を降雨等対策エリアとも称する)。
【0073】
この降雨等対策エリアDS2では、検知エリアDS1と同様な処理により、降雨等を支障物の検知から除外することが可能となるが、センサ10Sからの距離が検知エリアDS1より遠いため、大きさ(画素数)の閾値を検知エリアDS1に比し、小さな値(本例では、200ピクセル)に設定している。
【0074】
なお、上記検知エリアDS1及び検知エリアDS2において、例えば、ホームから転落してプラットホーム上に乗り上げた状態(中吊り状態)の乗降客や子供等の対象物(検知が必要な対象物)は、反射光量値及び大きさ(画素数)ともに、所定の規定値(閾値)よりも十分大きいので確実に検知することができ、上述した付着水滴や降雨等の誤検知防止処理(付着水滴や降雨等の支障物検知からの除外処理)と相俟って、乗降客の安全と車両運行の安定を同時に確保可能としている。
【0075】
次に、上記検知エリアDS2に隣接する検知エリアDS3(本例では、センサ10Sからの水平距離が950〜1350mmの領域)及び検知エリアDS4(本例では、センサ10Sからの水平距離が1350〜2000mm程度の領域)は、所定の車両停止位置(例えば、センサ10Sからの水平距離が1350mmの位置)から許容範囲内(±350mm)で実際の停止位置がずれた場合でも、車両扉挟持物(車両扉に挟まれた傘等の支障物)を検知可能とすると共に、プラットホームドアシステム1と車両との間に取り残された乗降客等を検知する領域として設定されている(以下、検知エリアDS3及び検知エリアDS4を扉挟持物等検知エリアとも称する)。なお、当該検知エリアDS3,DS4においても、雨や雪等は支障物として検知しないが、前述したように、この領域では、水滴等からの散乱光が減衰して支障物として検知されないため、特に、降雨等の対策を設ける必要はない。ただし、本実施の形態では、当該検知エリアDS3,DS4においても、降雨等をより確実に支障物としての検知から除外するために、後述する連続フィルタによる処理(同一照射座標上に連続して対象物が存在しているか否かの判定処理)を行っている。
【0076】
なお、三次元距離画像センサ10Sからの距離が遠くなるほど対象物の見かけの大きさが小さくなるため、上記扉挟持物等検知エリアDS3,DS4のうち、検知エリアDS3の大きさの閾値を5ピクセルに設定(5ピクセル以上で検知)する一方、検知エリアDS4の大きさの閾値を、検知エリアDS3よりも小さい1ピクセルに設定(1ピクセル以上で検知)している。これにより、両検知エリアDS3,DS4において、車両ドアに挟まった直径10mm程度の傘等の細物を確実に検知可能としている。
【0077】
このような傘等の車両扉挟持物を支障物として検知することにより、傘等が車両扉からはみ出した状態で車両が出発し、当該支障物と装置筺体100等とが接触して破損するといった事態を未然に防止することができ、車両運行の際の安全性や安定性の一層の向上に寄与することができる。
【0078】
また、本実施の形態では、大きさの閾値を三次元距離画像センサ10Sからの距離に応じて、検知エリアDS1〜DS4に渡って、段階的に変更(センサ10Sに近いほど大きな閾地を設定)しているが、センサ10Sからの距離に応じて比例的に変化(センサ10Sに近づくにつれて直線的に増大)するように大きさの閾値を設定してもよい。
【0079】
さらに、本実施の形態では、移動物体等に対する検知信頼性を向上させるという観点から、検知エリアDS1〜DS4ごとのエリア検知に加えて、同一照射座標(同一照射角度)上に連続して対象物が存在する場合に、支障物として判断するようにしている。なお、本実施の形態では、レーザー光を照射する際の角度座標として、1711ドット(29×59)の照射座標を設定している。
【0080】
具体的には、赤外線レーザー光を照射座標に基づいて1点(1座標)ずつ照射する際に、同一照射角度(同一照射座標)での照射を所定の回数(以下、スキャン回数とも称し、例えば、1秒間に8〜16回)繰り返す。そして、測定対象物が同一照射座標上の一定距離内(例えば、±100mm)で複数サイクル(例えば、4スキャン回数)に渡って連続して検知された場合に支障物として判断するようにしている。これにより、万一、距離や光量によるフィルタリングを抜けて、降雨、降雪、虫等の移動物体が検知された場合でも、当該雨、雪等は、同一位置に留まらないため、支障物として誤検知することをより確実に防止することができる。
【0081】
次に、上述した支障物検知の具体的な手順(検知方法)について、図6〜図8のフローチャートを参照して説明する。
【0082】
図6〜図8に示すように、まず、支障物の検知を開始する前に、支障物検知装置10のインターフェース部とパソコン等を接続して、検知対象とする空間の輪郭(境界)座標(x,y,z)を入力し、所定の検知空間DSを設定する(ステップST1)。
【0083】
なおこの際、設定した検知空間DS内の実際の状態(以下、基準状態とも称する)を所定のタイミングで読み込んで検知空間DSに反映させることが好ましい。例えば、トランスポンダを介して車両停止信号を読み込んで、車両が所定の停止位置に停止したタイミングで、かつ、プラットホームドアシステム1のドアパネル3‐3が閉状態のときに、上記検知空間DSの状態を基準状態として取り込んで検知空間DSに反映させることにより、より実際の状態に即した検知空間DSに基づいて、支障物の検知を行うことができる。
【0084】
次に、三次元距離画像センサ10Sにより、レーザー光を照射して、1フレーム分(本例では、29×59=1711ドット)の照射座標に対応する距離データ、光量データを取得する(ステップST2)。
【0085】
以下、取得した1フレーム分の照射座標に対応する距離データ、光量データについて座標ごとにループ処理する(ステップLPs)。
【0086】
まず、取得した距離データが950mm以内であるか否かを判断し(ステップST3)、950mm以内である場合(不検知エリアDS0及び検知エリアDS1,DS2に相当)には、光量値が所定の値(例えば、250digit)未満であるか否かを判断する(ステップST4)。ここで、取得データの光量値が所定の値未満である場合には、取得した測定データを除去する。すなわち、センサ10Sから近距離であり、反射光量値も小さいので乱反射光による外乱データであると判断し、当該データを支障物としての検知対象から除外する(ステップST5)。
【0087】
ステップST4にて、取得した光量データが250digit以上の場合には、取得した距離データが200mm以下であるか否かを判断(ステップST6)し、200mm以下の場合には、前述した汚れ処理として、当該測定データを支障物の検知対象から除外すると共に、汚れカウントをカウントアップする(ステップST7)。さらに、汚れカウントが一定数に到達している場合(ステップST8)には、センサ10Sが汚れていることを通知するフラグを設定する(ステップST9)。
【0088】
一方、ステップST3にて、距離データが950mmを超える場合、又は、ステップST6にて、距離データが200mmを超える場合には、当該座標の距離データが所定の検知空間DSの設定範囲内か否かを判断する(ステップST10)。所定の検知空間DSの設定範囲外の場合には、当該測定データを除去し(ステップST11)、次の座標データの処理を行うためにステップST3に戻る。
【0089】
次に、測定対象が一定の位置に連続して存在するか否かを判断する。具体的には、測定対象の位置(座標)に対応する過去フレームの検知結果及び距離データを取得し(ステップST12)、測定対象の過去フレームの検知結果が検知有りで、かつ、現在フレームと過去フレームの測定対象の位置の差(距離データの差)が100mm以内であるか否かを判定する(ステップST13)。
【0090】
ステップST13にて、NOの場合には、測定対象が所定の位置に連続して存在していない(雨等の移動体)と判断し、当該座標のデータは検知無しとし(ステップST14)、次の座標データの処理を行うためにステップST3に戻る。
【0091】
以上のような過去フレームの検知結果と現在フレームの測定結果との比較を過去に遡って所定のサイクル(本例では、4回)繰り返し(ステップST15)、連続して検知有りとならない場合には、降雨、虫等の外乱として当該座標のデータを検知無しとし(ステップST16)、次の座標データの処理を行うためにステップST3に戻る。一方、連続して検知有りの場合には、当該座標のデータを検知有りとする(ステップST17)。以上の処理を1フレーム(本例では、1711座標)分の距離データ、光量データについて繰り返した後、ループ処理を終える(ステップLPe)。
【0092】
このように測定対象の大きさの判定を行う前に、測定対象が連続して存在するか否かを判定することにより、所定の位置に存在することが確定した測定対象物(静止対象物)に対して大きさの判定を行うことができるので、検知の際の揺らぎを防止して検知精度をより一層向上させることができる。
【0093】
次に、それぞれの検知エリアDS1〜DS4ごとの大きさ(画素数)の閾値に基づいて、測定対象が支障物であるか否かを判断する。
【0094】
まず、付着水滴等対策エリアDS1で検知有りの対象データが、300ピクセル以上であるか否かを判定する(ステップST18)。ステップST18でYESの場合には、最終的な検知結果を有りとして(ステップST22)、当該測定対象を支障物として判断する。
【0095】
次に、ステップ18にてNOの場合には、降雨等対策エリアDS2で検知有りの対象データが、200ピクセル以上であるか否かを判定する(ステップST19)。ステップST19でYESの場合には、最終的な検知結果を有りとして(ステップST22)、当該測定対象を支障物として判断する。
【0096】
次に、ステップ19にてNOの場合には、扉挟持物等検知エリアDS3で検知有りの対象データが、5ピクセル以上であるか否かを判定する(ステップST20)。ステップST20でYESの場合には、最終的な検知結果を有りとして(ステップST22)、当該測定対象を支障物として判断する。
【0097】
次に、ステップ20にてNOの場合には、扉挟持物等検知エリアDS4で検知有りの対象データが、1ピクセル以上であるか否かを判定する(ステップST21)。ステップST21でYESの場合には、最終的な検知結果を有りとして(ステップST22)、当該測定対象を支障物として判断する。
【0098】
一方、ステップ21にてNOの場合には、最終的な検知結果を無しとする(ステップST23)。
【0099】
なお、本実施の形態において、上記光量、距離、大きさ等の各閾値は、接続したパソコンなどから容易に設定変更することができる。
【0100】
また、上述したように、本発明に係る支障物検知装置10では、任意の検知空間をソフトウェア上で設定可能であるが、本実施の形態では、検知空間を設定する際の座標系と、三次元距離画像センサ10Sにより測定されるデータの座標系が異なるので、支障物検知装置10によりデータ測定を開始する前に以下のような座標変換処理(以下、キャリブレーション処理とも称する)を行うことが好ましい。
【0101】
上記キャリブレーション処理は、具体的には、三次元距離画像センサ10Sによるデータ測定の前に、ユーザーにより入力された直交座標系(x,y,z)の検知空間を三次元距離画像センサ10Sと同一の三次元極座標系(r,φx,φy)に変換するものである。このように、予め検知空間の座標系を三次元距離画像センサ10Sと同一の座標系(本例では、三次元直交座標系⇔三次元極座標系)に変換しておくことで、以降のデータ測定の際に、都度測定データの座標変換を行うことなく、検知空間内における対象物の位置を特定することが可能となり、データ処理の格段の高速化に寄与することできる。
【0102】
さらに、本実施の形態では、三次元走査型の距離画像センサ10Sを用いているので、走査軸に平行な成分をもつレーザー光を走査ミラー(MEMS共振ミラー)に入射させると特定の方向に走査歪み(走査線の湾曲)が発生することが判明した。
【0103】
具体的には、短軸方向(ミラーの走査振幅が小さい方向)をX軸、長軸方向(ミラーの走査振幅が大きい方向)をY軸とすると、走査振幅の小さいX軸方向に走査歪みが発生することが判明した。
【0104】
さらに、レーザー光の照射角度とX軸方向の走査歪みとの関係を調査したところ、かかる走査歪みを補正するための補正角Xcは、照射角度のX軸成分Xdと一次相関(直線:aXd+bに近似)すると共に、直線aXd+bの係数a,bは、照射角度のY軸成分Ydと二次相関(二次曲線:cYd2に近似)することが判明した。
【0105】
そこで、以下のような(式1)を満たすように、補正角Xcを設定することにより、走査歪みを良好に補正できることが本発明者らの研究により判明した。
【0106】
Xc=Yd2×(aXd+b)×c・・・・(式1)
【0107】
ここで、a,b,cは、角度データの測定値から求められる所定の定数。
【0108】
上記関係式に基づいて、検知空間DSを補正することにより、三次元距離画像センサ10Sの走査歪みと同様な形状に検知空間DSを変形させて、歪みの影響を相対的にキャンセルすることができるので、検知精度の向上に寄与することができる。
【0109】
なお、上記キャリブレーション処理及び補正処理は、パソコン上に所定のソフトウェアとして組み込んでおくことにより、容易に実現することができる。
【0110】
<実施の形態2>
次に、実施の形態2に係る支障物検知装置10Aについて、図9〜図12を参照して説明する。ここで、図9は、本実施の形態に係る支障物の検知処理の概要を説明するための模式図である。また、図10は、本実施の形態に係る近距離データへの書き換え処理を説明するための模式図であり、図11は、本実施の形態に係る遠距離データへの書き換え処理を説明するための模式図である。さらに、図12は、本実施の形態に係る支障物の検知処理の手順を説明するためのフローチャートである。
【0111】
なお、本実施の形態に係る支障物検知装置10Aでは、先の実施の形態に係る支障物検知装置10が、検知エリアDS0〜DS2における検知処理を、反射光量値によるフィルタリング処理としたのに対し、上記検知エリアDS0〜DS2における検知処理を、反射光量値を用いることなく、距離データのみで支障物の検知処理を行うものであり、先の実施の形態と同様な処理については省略し、主として異なる処理について説明する。
【0112】
本実施の形態に係る支障物検知装置10Aでは、センサ10Sとして、距離データのみが得られるもの(距離データと光量データが同時に得られないもの)を想定している。すなわち、より汎用的な距離センサを用いて、屋外環境における外乱を除去することができるシステム構成を企図している。
【0113】
本実施の形態に係る支障物検知装置10Aでは、図9に模式的に示すように、不検知エリアDS0及び検知エリアDS1においては、距離データを近距離データに書き換える処理(以下、書き換え処理Aとも称する)を行う一方、検知エリアDS2においては、距離データを遠距離データに書き換える処理(以下、書き換え処理Bとも称する)を行うものである。
【0114】
図10は、書き換え処理Aの具体的な内容を示す模式図であり、処理対象画素とその周囲の隣接画素(本例では、処理対象画素を中心とした3×3領域において、上下・左右・斜めに隣接する8つの画素)に対応する距離データに基づいて、当該領域における最小値を処理対象画素の距離データに書き換えるものである(図10では、連続する2つの処理対象画素の距離データ500mm,600mmが、書き換え処理Aによりそれぞれ200mm,300mmに書き換えられた状態を例示している)。このようなデータ処理Aを上記検知エリアDS0及びDS1に対応する全画素に対して行うことにより、対象物の距離データが周辺の数値の小さな距離データ(200mm以下のデータ)に書き換えられることとなるので、付着水滴等のデータを汚れ処理することにより、当該水滴等の乱反射データを支障物の検知から除外することができる。
【0115】
一方、図11は、書き換え処理Bの具体的な内容を示す模式図であり、処理対象画素とその周囲の隣接画素(本例では、処理対象画素を中心とした3×3領域において、上下・左右・斜めに隣接する8つの画素)に対応する距離データに基づいて、当該領域における最大値を処理対象画素の距離データに書き換えるものである(図12では、連続する2つの処理対象画素の距離データ500mm,600mmが、書き換え処理Bによりそれぞれ700mm,890mmに書き換えられた状態を例示している)。このようなデータ処理Bを上記検知エリアDS2に対応する全画素に対して行うことにより、対象物の距離データが周辺の数値の大きな距離データに書き換えられる(雨等のデータが周辺の背景データに溶け込む)こととなるので、雨等を支障物として検知することを回避することができる。
【0116】
なお、具体的な処理手順としては、図12のフローチャートに示すように、1フレーム分の照射座標に対応する距離データ、光量データについて座標ごとのループ処理(ステップLPs)を行う前に、距離データの並べ換え処理(書き換え処理)を行うための読み取り専用領域を形成する(ステップSTS10)。
【0117】
ステップST3にて、測定データが950mm以内である場合には、当該距離データが560mm以内であるか否かを判定する(ステップSTS11)。
【0118】
ステップSTS11にて、YESの場合には上記書き換え処理Aを行い(ステップSTS12)、NOの場合には上記書き換え処理Bを行う(ステップSTS13)。
【0119】
その後、前述したステップST6の汚れ処理ヘ進み、以降は実施の形態1と同様な処理を行う。
【0120】
このように環境変化に伴う外乱が問題となる所定のエリアに対して、測定データが属するエリアに基づいて、当該距離データに所定の処理(書き換え処理A又は処理B)を施すことにより、光量値データを取得できない場合でも、距離データのみで付着水滴や降雨等のデータを支障物の処理から簡易に除外することができる。
【0121】
なお、本発明の技術的範囲は上述した各実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨に逸脱しない範囲において多様な変更もしくは改良を加え得るものである。例えば、本発明に適用可能な三次元距離画像センサとしては、上述したレーザー光の投受光部と共振ミラーとが一体となった三次元距離画像センサ10Sに限定されるものではなく、例えば、三次元の検知空間にてレーザー光を走査可能とする走査手段を別途付加することにより、一般的な測距センサを適用することが可能である。また、赤外線を照射してCMOS/CCDセンサにより対象物までの距離を測定するカメラ型の三次元距離画像センサを用いて、所定の検知空間内における支障物の位置及び大きさを特定するように構成してもよい。
【0122】
さらに、本発明に係る支障物検知装置10は、プラットホームドアシステム1と切り離して単独で用いることもできる。例えば、プラットホームドアシステム1の据え付けが完了する前の状態(ドアパネル3等の取り付けや調整が完了していない状態)でも、上記支障物検知装置10を単独で用いて、その検知空間DSを縮退させて設定(プラットホームドアシステム1が完成した状態の検知空間DSよりも狭めて必要最小限の検知エリアに設定)することにより、未調整状態(位置が固定されていない状態)のドアパネル3等を誤検知することなく、緊急対応を要する検知エリア内の人等の支障物を確実に検知して、車両運行の際の安全性の向上に寄与することができる。
【符号の説明】
【0123】
1:プラットホームドアシステム、2:戸袋パネル、3:ドアパネル、5:防護支柱、6:非常解錠ボタン、10,10A:支障物検知装置、10S:三次元距離画像センサ、100:装置筺体、101:開口部、DC:検知制御部、DS:検知空間、DS0:不検知エリア、DS1:付着水滴等対策エリア、DS2:降雨等対策エリア、DS3,DS4:扉挟持物等検知エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物までの距離及び対象物からの反射光量を測定する三次元距離画像センサと、
前記三次元距離画像センサの測定結果に基づいて、検知空間における対象物の位置及び大きさを特定すると共に、当該対象物を位置及び大きさの閾値に基づいて支障物として検知するか否かを判断する検知制御部と
を備え、
前記検知制御部は、前記検知空間を、三次元距離画像センサからの距離に応じた複数の検知エリアに区分すると共に、当該検知エリアごとに支障物を検知する閾値を変更することを特徴とする支障物検知装置。
【請求項2】
前記検知制御部は、前記三次元距離画像センサによる複数サイクルの測定において、同一座標に連続して対象物が存在する場合に、当該対象物を支障物として検知することを特徴とする請求項1に記載の支障物検知装置。
【請求項3】
水滴等の乱反射データを検知し得るような三次元距離画像センサに近接した検知エリアにおいて、前記検知制御部は、さらに、反射光量に基づいて、屋外環境に伴う降雨等の外乱を除去することを特徴とする請求項1又は2に記載の支障物検知装置。
【請求項4】
水滴等の乱反射データを検知し得るような三次元距離画像センサに近接した検知エリアにおいて、前記検知制御部は、三次元距離画像センサから得られた距離データを書き換えることにより、屋外環境に伴う降雨等の外乱を除去することを特徴とする請求項1又は2に記載の支障物検知装置。
【請求項5】
前記検知制御部は、前記三次元距離画像センサに近い検知エリアほど、支障物として検知する対象物の大きさの閾値を増大させることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の支障物検知装置。
【請求項6】
前記検知制御部は、検知空間を前記三次元距離画像センサの座標系と同一の座標系に変換することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の支障物検知装置。
【請求項7】
車両の停止位置において、車両乗車口と対向するように、プラットホーム側に立設されたプラットホームドアシステムであって、
所定の間隔でプラットホームに立設された戸袋パネルと、
隣接する戸袋パネル間を開閉するように、水平方向に移動自在に形成されたドアパネルと、
前記戸袋パネルと車両との間に配設され、隣接する一対の戸袋パネルの一方に取り付けられた請求項1〜6のいずれかに記載の支障物検知装置と
を備え、
前記検知制御部は、車両が所定の位置に停止した状態を、基準状態として前記検知空間に反映させることを特徴とするプラットホームドアシステム。
【請求項8】
前記支障物検知装置は、前記一対の戸袋パネルのうち、車両進行方向上流側の戸袋パネルに取り付けられていることを特徴とする請求項7に記載のプラットホームドアシステム。
【請求項9】
三次元検知空間内に照射光を投受光して、検知空間内における支障物の位置及び大きさを特定する三次元距離画像センサを用い、
前記検知空間を、三次元距離画像センサからの距離に応じた複数の検知エリアに区分した後、当該検知エリアごとに位置及び大きさの閾値を変更して支障物を検知することを特徴とする支障物検知方法。
【請求項10】
水滴等の乱反射データを検知し得るような三次元距離画像センサに近接した検知エリアにおいて、前記三次元距離画像センサから得られる光量値データを用いて、環境変化に伴う外乱を除去した後に、前記三次元距離画像センサから得られる距離データ及び大きさに基づいて支障物の検知判定を行うことを特徴とする請求項9に記載の支障物検知方法。
【請求項11】
水滴等の乱反射データを検知し得るような三次元距離画像センサに近接した検知エリアにおいて、前記三次元距離画像センサから得られる距離データを用いて、対象画素に対応する距離データ及びその周囲の画素に対応する距離データのうち、最小値又は最大値を当該対象画素の距離データに書き換え、その後、書き換えられた距離データ及び大きさに基づいて支障物の検知判定を行うことを特徴とする請求項9に記載の支障物検知方法。
【請求項12】
前記対象物の大きさの判定を行う前に、三次元距離画像センサによる複数サイクルの測定において、当該対象物が同一座標に連続して存在するか否かを判定することを特徴とする請求項10又は11に記載の支障物検知方法。
【請求項13】
前記三次元検知空間の範囲を設定した後、前記三次元距離画像センサによる測定を開始する前に、前記三次元検知空間の座標系を前記三次元距離画像センサと同一の座標系に変換することを特徴とする請求項9ないし12のいずれかに記載の支障物検知方法。
【請求項14】
前記検知空間を座標変換した後、前記三次元距離画像センサによる測定を開始する前に、さらに、前記三次元距離画像センサの走査歪みに基づいて、前記検知空間を補正することを特徴とする請求項13に記載の支障物検知方法。
【請求項15】
前記レーザー光を走査する際の短軸方向をX軸、長軸方向をY軸とし、前記三次元距離画像センサの照射角度のX軸成分、Y軸成分をXd,Ydとし、X軸方向に発生する走査歪みを補正する補正角をXcとしたとき、
Xc=Yd2×(aXd+b)×c(ここで、a,b,cは、角度データの測定値から求められる所定の定数)
の関係を満たすように補正角Xcを設定することを特徴とする請求項14に記載の支障物検知方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−16421(P2011−16421A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161844(P2009−161844)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(391024951)東日本トランスポ−テック株式会社 (24)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(392016650)アイテック阪急阪神株式会社 (1)
【Fターム(参考)】