説明

波長可変干渉フィルター、光センサーおよび分析機器

【課題】分光精度を維持することができる波長可変干渉フィルター、光センサー及び分析機器を提供すること
【解決手段】
本発明の波長可変干渉フィルター5では、第二基板52は、第一反射膜51に対向する位置で、基板厚み方向に沿って形成され、当該第二基板52の第一面Aから反対側の第二面Bまでを貫通する光透過口521Aと、光透過口521A内に設けられる透光性部材58と、を備え、光透過口521Aは、内周面の径寸法が、第一面Aから第二面Bに向かうに従って増大するテーパー形状に形成され、透光性部材58は、第一反射膜56及び第二反射膜57に平行する光入射面58A、第一反射膜56及び第二反射膜57に平行する光射出面58B、及び第一面Aから第二面Bに向かうに従って径寸法が増大するテーパー側面58Cを有し、テーパー側面58Cが光透過口521Aの内周面に当接することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長可変干渉フィルター、光センサーおよび分析機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対のガラス基板の互いに対向する面に、それぞれミラーを対向配置する波長可変干渉フィルターが知られている。このような波長可変干渉フィルターでは、一対のミラー間で光を反射させ、特定波長の光のみを透過させて、その他の波長の光を干渉により打ち消し合わせることで、入射光から特定波長の光のみを透過させる。
また、波長可変干渉フィルターは、一対のミラー間の間隔(ギャップ)を調整することで、透過させる前記特定波長の光の波長を選択する。これには、一対のガラス基板のうち少なくとも一方をエッチングにより加工してダイアフラムを形成し、一対のガラス基板間に、例えば静電アクチュエーターなどの駆動手段を設ける。このような構成では、駆動手段を制御することで、ダイアフラムをガラス基板の積層方向に対して変位させることが可能となり、所望波長の光を選択的に透過させることが可能となる。
しかしながら、上記のように、ガラス基板をエッチングにより加工してダイアフラムを形成する場合、エッチングに要する時間が増大して製造工程が煩雑となる。また、ガラス基板のエッチングでは、エッチング精度もよくないため、ダイアフラムの膜均一性にばらつきが生じ、分光精度に影響を及ぼしてしまうおそれがある。
【0003】
これに対して、ガラス基板に代えて、製造時のエッチング時間を短縮し、かつ高精度なエッチング精度が可能なシリコン基板を用いた波長可変干渉フィルターが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載の波長可変干渉フィルターは、固定基板と可動基板とを接合した波長可変干渉フィルターである。固定基板には、可動基板に対向する面に2つの筒状の凹部が形成され、これらの凹部に、固定反射膜や導電層が形成されている。
また、可動基板は、導電性のシリコン基板により形成され、当該可動基板の略中央に設けられる可動部と、可動部の外周部に設けられて、可動部を変位可能に保持する支持部と、可動部に通電を行う通電部とを備えている。また、シリコン基板は、光透過性を有しないため、可動部の略中央には、内周面が円柱形状の光透過部が形成され、この光透過部にガラスが嵌挿されている。そして、可動部の第1の凹部に対向して固定基板に対向する面には、可動反射膜が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−23606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載のような波長可変干渉フィルターでは、支持部が撓むことで可動部が固定基板側に変位し、支持部および可動部が固定基板側に凸状に撓む。したがって、可動部の固定基板に対向する基板対向面側と、基板対向面と反対側の光が入射する入射面側とでは、基板の面方向に作用する応力が異なる。
具体的には、可動部の基板厚み方向の中心位置よりも入射面側では、面内方向に収縮する力が加わり、この収縮力は、前記中心位置から離れるに従って大きくなる。一方、前記中心位置よりも基板対向面側では、面外方向に引っ張る力が加わり、この引張力も同様に、前記中心位置から離れるに従って大きくなる。
このため、光透過部に嵌挿されるガラスは、入射面側において、前記中心位置から離れるに従って、大きな側圧を受ける。また、ガラスの基板対向面側においては、中心位置から離れるに従って、ガラスを保持する保持力が低下する。したがって、ガラスは全体として固定基板側に押し下げられる力を受け、固定基板側に突出するおそれがある。
そして、ガラスが固定基板側に突出してしまうと、可動反射膜および固定反射膜の間隔距離に変動が生じてしまう。この場合、波長可変干渉フィルターにより、所望の波長の光を取り出すべく、反射膜間の間隔距離を調整しても、目的とする波長以外の異なる波長が取り出されてしまい、波長可変干渉フィルターの分光精度が低下するという問題が生じる。
さらに、ガラスが突出する際に、固定基板に対向するガラス面が傾き、固定反射膜と可動反射膜を平行に維持できなくなるという問題もある。この場合、目的とする波長以外の光も取り出されてしまうため、透過波長の分解能が低下し、波長可変干渉フィルターの分光精度が低下するという問題がある。
以上のように、特許文献1に記載のような従来の波長可変干渉フィルターでは、可動部を変位させた際に、ガラスが突出し、良好な分光精度を維持できなくなるおそれがあるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、分光精度を維持することができる波長可変干渉フィルター、光センサーおよび分析機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、透光性を有する第一基板と、前記第一基板の一面側に対向して接合される第二基板と、前記第一基板の前記一面に設けられる第一反射膜と、前記第二基板の前記第一基板に対向する第一面に設けられ、ギャップを介して前記第一反射膜に対向する第二反射膜と、前記ギャップを可変する可変部と、を備えた波長可変干渉フィルターであって、前記第二基板は、前記第一反射膜に対向する位置で、基板厚み方向に沿って形成され、当該第二基板の前記第一面から反対側の第二面までを貫通する光透過口と、前記光透過口内に設けられる透光性部材と、を備え、前記光透過口は、内周面の径寸法が、前記第一面から前記第二面に向かうに従って増大するテーパー形状に形成され、前記透光性部材は、前記第一反射膜および前記第二反射膜に平行する光入射面、前記第一反射膜および前記第二反射膜に平行する光射出面、および前記第一面から前記第二面に向かうに従って径寸法が増大するテーパー側面を有し、前記テーパー側面が前記光透過口の内周面に当接することを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、可変部により第二基板を撓ませて第一基板へ近づけることにより、第一反射膜と第二反射膜との隙間寸法が変動する。この際、第二基板が撓むことにより、光透過口の形状に歪ませるように応力が発生することとなる。具体的には、光透過口は、第一面側が径大となる方向に伸長し、かつ第二面側が径小となる方向に収縮しようと応力が作用する。このため、光透過口に設けられた透光性部材は、上記のような応力により、第二面側で側圧を受けて、全体として第一基板側に押し下げようとする押下力を受ける。ここで、本発明では、光透過口が第一面側が径小となるテーパー形状に形成され、透光性部材のテーパー側面が、光透過口の内周面に当接しているため、透光性部材が第一基板側に押し出される力を受けた場合でも、透光性部材の移動を規制することができる。このため、可動部を変位させた場合でも、透光性部材の第一基板側への突出がなく、所望波長の光を、高分解能で取り出すことができ、良好な分光精度を維持できる。
また、本発明では、第二基板の光透過口に設けられる透光性部材により第一反射膜および第二反射膜間に光を導く構成であるため、第二基板が光透過性を有する必要がない。したがって、第二基板の材料選択の自由度が増し、例えばエッチング精度の向上やエッチング時間の短縮など、製造時の加工性を重視した材料を選択することもできる。
【0009】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記第二反射膜は、前記光射出面の面内に配置されることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、第二反射膜の撓みを防止し、第一反射膜および第二反射膜の平行を維持することができる。すなわち、第二基板が第一基板側に撓むと、透光性部材の光射出面と、第二基板の第一面との間に隙間や段差が生じるおそれがある。したがって、第二反射膜が、透光性部材の光射出面から第二基板の第一面に跨って形成されている場合、上記のような隙間や段差により、第二反射膜が歪み、第一反射膜との平行関係が維持できなくなるおそれがある。これに対して、本発明のように、第二反射膜を透光性部材の光射出面の面内に設けることで、上記のような隙間や段差が生じた場合でもその影響を受けることがなく、第二反射膜が撓むことがない。
また、第二基板が撓む際、第一面側は下に凸の二次曲面となるが、透光性部材として、例えばガラスなど、第二基板よりも硬度が大きい素材を用いることで、透光性部材の光射出面や光入射面の歪みを効果的に防止することも可能となる。この場合、透光性部材の光射出面内に第二反射膜が配置されることで、第二反射膜の歪みも防止することができ、分光精度の向上を図ることができる。
【0011】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記第一基板は、可動イオンを有するガラスに形成され、前記第二基板は、導電性を有し、前記第一基板および前記第二基板は、陽極接合により接合される構成が好ましい。
【0012】
ここで、第一基板としては、例えばシリコン基板などの導電性金属基板であってもよく、例えば第二基板に接合される面に導電性の膜(例えば金属薄膜)を成膜した基板であってもよい。
この発明によれば、第一基板と第二基板とを陽極結合により接合している。陽極接合では、ガラス中の可動イオン(例えばナトリウムイオン)が動き易い高温化で、ガラスに負電圧を印加させることで、ガラス表面から可動イオンを移動させて静電引力を発生させて第二基板と結合させる。このような陽極接合では、第一基板と第二基板とを強い接合強度で直接接合させることができる。
このため、接着剤などの接合層を介して第一基板および第二基板を接合する場合などに比べて、第一基板および第二基板を精度よく平行に接合させることができ、波長可変干渉フィルターにおける分光精度をより向上させることができる。
【0013】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記第二基板がシリコンにより形成される構成が好ましい。
【0014】
この発明によれば、第二基板の材料としてシリコンを選択する。シリコンは、結晶構造を有し、結晶異方性エッチングにより、結晶方位の違いを利用して容易、かつ迅速なエッチングが可能となる。したがって、第二基板としてシリコンを選択することで、第二基板をエッチング加工する際、例えば結晶構造を有しないガラスなどに比べて、エッチング精度の向上やエッチング時間の短縮を図ることができる。
よって、第二基板の加工が容易となり、波長可変干渉フィルターの生産性を向上させることができる。
【0015】
本発明の光センサーでは、上記の波長可変干渉フィルターと、前記波長可変干渉フィルターを透過した検査対象光を受光する受光手段と、を備えることを特徴とする。
【0016】
上述したように、波長可変干渉フィルターは、第二基板が第一基板側に撓んだ場合でも、透光性部材が第一基板側へと突出することなく、第一反射膜と第二反射膜との隙間寸法の変動がなく、平行状態を維持することができるため、分光精度を良好に維持することができる。
このような波長可変干渉フィルターから射出される射出光を受光手段により受光することで、光センサーは、検査対象光に含まれる所望波長の光成分の正確な光量を測定することができる。
【0017】
本発明の分析機器では、上記の光センサーを具備したことを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、波長可変干渉フィルターは、第二基板が撓むことにより、透光性部材が第一基板側へと突出してしまい、第一反射膜と第二反射膜との隙間寸法に変動をきたすおそれがなく、分光精度を維持することができ、光センサーの受光手段において、検査対象光に含まれる所望波長光の光量を正確に検出することができる。したがって、処理手段においても、検査対象光に含まれる所望波長の光の正確な光量に基づいて、検査対象光を精度よく分析できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る一実施形態の分析機器の概略構成を示す図である。
【図2】前記実施形態の波長可変干渉フィルターを構成するエタロンの概略構成を示す平面図である。
【図3】図2においてエタロンをIII-III線で断面した際の断面図である。
【図4】エタロンの第一基板の製造工程を示す図であり、(A)は、第一基板にミラー固定面形成用のレジストを形成するレジスト形成工程の概略図、(B)は、ミラー固定面を形成する第一溝形成工程の概略図、(C)は、電極固定面を形成する第二溝形成工程の概略図、(D)は、AgC層を形成するAgC形成工程の概略図である。
【図5】第二基板の製造工程の概略を示す図であり、(A)は、第二基板表面に酸化シリコン(SiO)を形成する第一SiO形成工程の概略図、(B)は、第二基板の光透過口に対応する位置のSiOを除去してSiエッチングのパターニングをするSiOパターニング工程の概略図、(C)は、Siエッチングにより光透過口を形成する光透過口形成工程の概略図、(D)は、第二基板表面のSiOを除去するSiO除去工程の概略図、(E)は、光透過口に低融点ガラスを充填する低融点ガラス充填工程の概略図、(F)は、充填した低融点ガラスを第二基板表面と面一になるよう研磨する低融点ガラス研磨工程の概略図である。
【図6】第二基板の製造工程の概略を示す図であり、図6(A)は、第二基板と低融点ガラスとに酸化シリコン膜を形成する第二SiO形成工程の概略図、(B)は、第二基板の連結保持部に対応する位置の酸化シリコン膜を除去して第二エッチングパターンを形成する第二SiOパターニング工程の概略図、(C)は、第二エッチングパターンをエッチングすることで、連結保持部を形成する連結保持部形成工程の概略図、(D)は、連結保持部が形成された第二基板表面の酸化シリコン膜をすべて除去するSiO除去工程の概略図、(E)は、第二変位用電極および可動ミラーを設ける電極・ミラー形成工程の概略図である。
【図7】変形例における波長可変干渉フィルターを構成するエタロンの概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る一実施形態の分析機器について、図面を参照して説明する。
〔1.分析機器の全体構成〕
図1は、本発明に係る第一実施形態の分析機器の概略構成を示す図である。
この分析機器1は、図1に示すように、被検査対象Sに光を射出する光源装置2と、本発明の光センサー3と、分析機器1の全体動作を制御する制御装置4とを備えている。そして、この分析機器1は、光源装置2から射出される光を被検査対象Sにて反射させ、反射された検査対象光を光センサー3にて受光し、光センサー3から出力される検出信号に基づいて、検査対象光を分析する分析機器である。
【0021】
〔2.光源装置の構成〕
光源装置2は、光源21、複数のレンズ22(図1には1つのみ記載)を備え、被検査対象Sに対して白色光を射出する。また、複数のレンズ22には、コリメーターレンズが含まれており、光源装置2は、光源21から射出された白色光をコリメーターレンズにより平行光とし、図示しない投射レンズから被検査対象Sに向かって射出する。
【0022】
〔3.光センサーの構成〕
光センサー3は、図1に示すように、本発明の波長可変干渉フィルターを構成するエタロン5と、エタロン5を透過する光を受光する受光手段としての受光素子31と、エタロン5で透過させる光の波長を可変する電圧制御手段6と、を備えている。また、光センサー3は、エタロン5に対向する位置に、被検査対象Sで反射された反射光(検査対象光)を、内部に導光する図示しない入射光学レンズを備えている。そして、この光センサー3は、エタロン5により、入射光学レンズから入射した検査対象光のうち、所定波長の光のみを分光し、分光した光を受光素子31にて受光する。
受光素子31は、複数の光電交換素子により構成されており、受光量に応じた電気信号を生成する。そして、受光素子31は、制御装置4に接続されており、生成した電気信号を受光信号として制御装置4に出力する。
【0023】
(3−1.エタロンの構成)
図2は、本発明の波長可変干渉フィルターを構成するエタロン5の概略構成を示す平面図であり、図3は、エタロン5の概略構成を示す断面図である。なお、図1では、エタロン5に検査対象光が図中下側から入射しているが、図3では、検査対象光が図中左側から入射するものとする。
エタロン5は、図2に示すように、平面正方形状の板状の光学部材であり、一辺が例えば10mmに形成されている。このエタロン5は、図3に示すように、第一基板である固定基板51、および第二基板である可動基板52を備えている。固定基板51は、例えばナトリウムイオンやカリウムイオンなどの可動イオンを含有したガラスが好ましく、このようなガラスにより固定基板51を形成することで、後述する固定ミラー56や、各電極の密着性を向上させることができる。また、可動基板52の構成材料としては、導電性材料を用い、例えば、シリコンを用いることが好ましい。シリコンにより可動基板52を構成することで、エッチング精度の向上やエッチング時間の短縮が可能となる。また、これらの2つの基板51,52は、外周部近傍に形成される接合面513,523が、陽極接合されることで、一体的に構成されている。
【0024】
また、固定基板51と、可動基板52との間には、本発明の第一反射膜としての固定ミラー56および第二反射膜としての可動ミラー57が設けられる。ここで、固定ミラー56は、固定基板51の可動基板52に対向する面に固定され、可動ミラー57は、可動基板52の固定基板51に対向する面に固定されている。また、これらの固定ミラー56および可動ミラー57は、隙間寸法としてのミラー間ギャップGを介して対向配置されている。
さらに、固定基板51と可動基板52との間には、固定ミラー56および可動ミラー57の間のミラー間ギャップGの寸法を調整するための可変部としての静電アクチュエーター54が設けられている。
【0025】
(3−1−1.固定基板の構成)
固定基板51は、厚みが例えば500μmに形成されるガラス基材をエッチングにより加工することで形成される。具体的には、図3に示すように、固定基板51には、エッチングにより電極形成溝511およびミラー固定部512が形成される。
電極形成溝511は、図2に示すようなエタロン5を厚み方向から見た平面視(以降、エタロン平面視と称す)において、平面中心点を中心とした円形に形成されている。ミラー固定部512は、前記平面視において、電極形成溝511の中心部から可動基板52側に突出して形成される。
【0026】
電極形成溝511は、ミラー固定部512の外周縁から、当該電極形成溝511の内周壁面までの間に、リング状の電極固定面511Aが形成され、この電極固定面511Aに第一変位用電極541が形成される。また、第一変位用電極541の外周縁の一部からは、図2に示すようなエタロン平面視において、エタロン5の一頂点(図2に示す例では、左下方向)に向かって、第一変位用電極引出部541Aがそれぞれ延出して形成されている。さらに、これらの第一変位用電極引出部541Aの先端には、第一変位用電極パッド541Bがそれぞれ形成され、これらの第一変位用電極パッド541Bが電圧制御手段6に接続される。
【0027】
ミラー固定部512は、上述したように、電極形成溝511と同軸上で、電極形成溝511よりも小さい径寸法となる円柱状に形成されている。なお、本実施形態では、図3に示すように、ミラー固定部512の可動基板52に対向するミラー固定面512Aが、電極固定面511Aよりも可動基板52に近接して形成される例を示すが、これに限らない。電極固定面511Aおよびミラー固定面512Aの高さ位置は、ミラー固定面512Aに固定される固定ミラー56、および可動基板52に形成される可動ミラー57の間のミラー間ギャップGの寸法、第一変位用電極541およびこの第一変位用電極541に対向する可動基板52の間の寸法、固定ミラー56や可動ミラー57の厚み寸法により適宜設定されるものであり、上記のような構成に限られない。例えばミラー56,57として、誘電体多層膜ミラーを用い、その厚み寸法が増大する場合、電極固定面511Aとミラー固定面512Aとが同一面に形成される構成や、電極固定面511Aの中心部に、円柱凹溝上のミラー固定溝が形成され、このミラー固定溝の底面にミラー固定面512Aが形成される構成などとしてもよい。
【0028】
また、ミラー固定部512のミラー固定面512Aは、エタロン5を透過させる波長域をも考慮して、溝深さが設計されることが好ましい。例えば、本実施形態では、固定ミラー56および可動ミラー57の間のミラー間ギャップGの初期値(第一変位用電極541および第二変位用電極542間に電圧が印加されていない状態のミラー間ギャップGの寸法)が450nmに設定され、第一変位用電極541および第二変位用電極542間に電圧を印加することにより、ミラー間ギャップGが例えば250nmになるまで可動ミラー57を変位させることが可能となっており、これにより、第一変位用電極541および第二変位用電極542間の電圧を可変することで、可視光全域の波長の光を選択的に分光させて透過させることが可能となる。この場合、固定ミラー56および可動ミラー57の膜厚およびミラー固定面512Aや電極固定面511Aの高さ寸法は、ミラー間ギャップGを250nm〜450nmの間で変位可能な値に設定されていればよい。
【0029】
そして、ミラー固定面512Aには、直径が約3mmの円形状に形成される固定ミラー56が固定されている。この固定ミラー56は、AgC単層により形成されるミラーであり、スパッタリングなどの手法によりミラー固定面512Aに形成される。
なお、本実施形態では、固定ミラー56として、エタロン5で分光可能な波長域として可視光全域をカバーできるAgC単層のミラーを用いる例を示すが、これに限定されず、例えば、エタロン5で分光可能な波長域が狭いが、AgC単層ミラーよりも、分光された光の透過率が大きく、透過率の半値幅も狭く分解能が良好な、例えばTiO−SiO系誘電体多層膜ミラーを用いる構成としてもよい。ただし、この場合、上述したように、固定基板51のミラー固定面512Aや電極固定面511Aの高さ位置を、固定ミラー56や可動ミラー57、分光させる光の波長選択域などにより、適宜設定する必要がある。
【0030】
さらに、固定基板51は、可動基板52に対向する上面とは反対側の下面において、固定ミラー56に対応する位置に図示略の反射防止膜(AR)が形成されている。この反射防止膜は、低屈折率膜および高屈折率膜を交互に積層することで形成され、固定基板51の表面での可視光の反射率を低下させ、透過率を増大させる。
【0031】
(3−1−2.可動基板の構成)
可動基板52は、厚みが例えば200μmに形成されるシリコン基材をエッチングにより加工することで形成される。
具体的には、可動基板52には、図2に示すような平面視において、基板中心点を中心とした円形の可動部521と、可動部521と同軸であり可動部521を保持する連結保持部522と、を備えている。
【0032】
図3に示すように、可動部521は、連結保持部522よりも厚み寸法が大きく形成され、例えば、本実施形態では、可動基板52の厚み寸法と同一寸法である200μmに形成されている。また、可動基板52としてシリコン基材を用いたが、これに限らず、導電性を有し、エッチングによる形成加工が容易な基材であればいずれでも構わない。
【0033】
また、可動部521には、図2に示すような平面視において、可動部521と同軸である光透過口521Aが形成されている。この光透過口521Aは、可動基板52の固定基板51に対向する第一面Aから検査対象光の入射側面である第二面Bまでを連通し、第一面Aから第二面Bに向かうに従って拡開するテーパー状に形成されている。そして、この光透過口521Aには、固定ミラー56と平行する光入射面58A、固定ミラーと平行する光射出面58B、および第一面Aから第二面Bに向かうに従って径寸法が増大するテーパー状のテーパー側面58Cを有し、テーパー側面58Cが光透過口521Aの内周側面に当接する低融点ガラス58が設けられている。
このような低融点ガラス58は、可動基板52の製造時において、溶融した当該低融点ガラス58を光透過口521A中に充填した後、冷却することで硬化させ、同時に光透過口521Aの内周面に密着接合させることで形成される。この時、可動基板52と低融点ガラス58との熱膨張率が大きく違うと、低融点ガラス58の冷却時にシリコンである可動基板52が破損するおそれがある。このため、低融点ガラス58としては、シリコンの熱膨張率に近い材質を選択する。このような低融点ガラス58の具体的な例としては、PbO−SiO−Bや、PbO−P−SnFなどが挙げられる。
なお、予め光透過口521Aの形状に対応した低融点ガラス58を形成し、例えば陽極接合や接着接合などにより、光透過口521Aの内周面に低融点ガラス58を接合する構成などとしてもよい。
さらに、本実施形態では、低融点ガラス58を透光性部材として用いる例を示したが、これに限定されず、例えば透明樹脂材等により構成される透光性部材を用いてもよく、透光性を有する部材であればよい。
【0034】
また、低融点ガラス58の光射出面58Bの面内に可動ミラー57が設けられ、上記した固定ミラー56と可動ミラー57とにより、平行した一対のミラー56,57が構成される。また、本実施形態では、可動ミラー57と固定ミラー56との間のミラー間ギャップGは、初期状態において、450nmに設定されている。
ここで、この可動ミラー57は、上述した固定ミラー56と同一の構成のミラーが用いられ、本実施形態では、AgC単層ミラーが用いられる。また、AgC単層ミラーの膜厚寸法は、例えば0.03μmに形成されている。
【0035】
さらに、可動部521は、ミラー可動面とは反対側の上面において、可動ミラー57に対応する位置に図示略の反射防止膜(AR)が形成されている。この反射防止膜は、固定基板51に形成される反射防止膜と同様の構成を有し、低屈折率膜および高屈折率膜を交互に積層することで形成される。
【0036】
連結保持部522は、可動部521の周囲を囲うダイアフラムであり、例えば厚み寸法が50μmに形成されている。また、第二変位用電極542は、可動基板52の第二面B側の一頂点(図2に示す例では、右上方向)に設けられている。
【0037】
(3−2.電圧制御手段の構成)
電圧制御手段6は、上記エタロン5とともに、本発明の波長可変干渉フィルターを構成する。この電圧制御手段6は、制御装置4から入力される制御信号に基づいて、静電アクチュエーター54の第一変位用電極541および第二変位用電極542に印加する電圧を制御する。
【0038】
〔4.制御装置の構成〕
制御装置4は、分析機器1の全体動作を制御する。
この制御装置4としては、例えば汎用パーソナルコンピューターや、携帯情報端末、その他、測色専用コンピューターなどを用いることができる。
そして、制御装置4は、図1に示すように、光源制御部41、光センサー制御部42、および光処理部43などを備えて構成されている。
光源制御部41は、光源装置2に接続されている。そして、光源制御部41は、例えば利用者の設定入力に基づいて、光源装置2に所定の制御信号を出力し、光源装置2から所定の明るさの白色光を射出させる。
光センサー制御部42は、光センサー3に接続されている。そして、光センサー制御部42は、例えば利用者の設定入力に基づいて、光センサー3にて受光させる光の波長を設定し、この波長の光の受光量を検出する旨の制御信号を光センサー3に出力する。これにより、光センサー3の電圧制御手段6は、制御信号に基づいて、利用者が所望する光の波長のみを透過させるよう、静電アクチュエーター54への印加電圧を設定する。
【0039】
ここで、光透過口521Aは、可動基板52が固定基板51側に撓む際、可動基板52が撓むことにより光透過口521Aの形状に歪みが生じることとなる。具体的には、光透過口521Aは第一面A側が径大となる方向へ歪み、第二面B側が径小となる方向へ歪む。
このとき、光透過口521Aは、固定ミラー56と可動ミラー57とに対応する位置に第一面A側が径小となるテーパー状に形成されているので、光透過口521Aに歪みが生じたとしても第一面A側が径小となるテーパー形状を維持することとなる。
【0040】
〔5.エタロンの製造方法〕
次に、上記エタロン5の製造方法について、図面に基づいて説明する。
(5−1.固定基板の製造)
図4は、エタロン5の第一基板の製造工程を示す図であり、(A)は、固定基板51にミラー固定面512A形成用のレジストを形成するレジスト形成工程の概略図、(B)は、ミラー固定面512Aを形成する第一溝形成工程の概略図、(C)は、電極固定面511Aを形成する第二溝形成工程の概略図、(D)は、AgC層を形成するAgC形成工程の概略図である。
【0041】
固定基板51を製造するためには、まず、図4(A)に示すように、固定基板51の製造素材であるガラス基板にレジスト61を形成し(レジスト形成工程)、図4(B)に示すように、ミラー固定面512Aを含む第一溝62を形成する(第一溝形成工程)。
具体的には、レジスト形成工程では、接合面513にレジスト61を形成する。そして、第一溝形成工程では、レジスト61が形成されない接合面513以外の部分を異方性エッチングし、ミラー固定面512Aを含む第一溝62を形成する。
【0042】
また、第一溝62の形成後、この第一溝62のミラー固定面512Aの形成位置にレジスト61を形成し、さらに異方性エッチングを実施する(第二溝形成工程)。これにより、図4(C)に示すように、電極形成溝511、およびミラー固定部512が形成される。
【0043】
この後、固定基板51のレジスト61を除去し、可動基板52に対向する面にAgC薄膜を例えば厚み寸法が30nmとなるように形成する(AgC形成工程)。また、AgC形成工程では、形成されたAgC薄膜上の、固定ミラー56の形成部分、および第一変位用電極541の形成部分にそれぞれレジスト61を形成する。
そして、レジスト61が設けられていない部分のAgC薄膜を除去することで、図4(D)に示すように、固定ミラー56、および第一変位用電極541が形成される(AgC除去工程)。
以上により、固定基板51が形成される。
【0044】
(5−2.可動基板の製造)
次に、可動基板52の製造方法について説明する。
図5は、第二基板の製造工程の概略を示す図であり、(A)は、可動基板52表面に酸化シリコン(SiO)を形成する第一SiO形成工程の概略図、(B)は、可動基板52の光透過口に対応する位置のSiOを除去してSiエッチングのパターニングをするSiOパターニング工程の概略図、(C)は、Siエッチングにより光透過口を形成する光透過口形成工程の概略図、(D)は、可動基板52表面のSiOを除去するSiO除去工程の概略図、(E)は、光透過口に低融点ガラスを充填する低融点ガラス充填工程の概略図、(F)は、充填した低融点ガラスを可動基板52表面と面一になるよう研磨する低融点ガラス研磨工程の概略図である。
図6は、第二基板の製造工程の概略を示す図であり、図6(A)は、可動基板52と低融点ガラス58とに酸化シリコン膜71を形成する第二SiO形成工程の概略図、(B)は、可動基板52の連結保持部522に対応する位置の酸化シリコン膜71を除去して第二エッチングパターン73を形成する第二SiOパターニング工程の概略図、(C)は、第二エッチングパターン73をエッチングすることで、連結保持部522を形成する連結保持部形成工程の概略図、(D)は、連結保持部522が形成された可動基板52表面の酸化シリコン膜71をすべて除去するSiO除去工程の概略図、(E)は、第二変位用電極542および可動ミラー57を設ける電極・ミラー形成工程の概略図である。
【0045】
可動基板52の製造では、まず、図5(A)に示すように、可動基板52の製造素材であるシリコン基板の表面を酸化処理し、酸化シリコン膜71を形成する(第一SiO形成工程)。シリコン基板は結晶方位(100)のシリコン基板を使用し、シリコン基板の厚みは、可動ミラー57の撓みを抑制するために、0.5mm以上であることが望ましい。
次に、図5(B)に示すように、可動基板52の光透過口521Aに対応する位置の酸化シリコン膜71を除去し、可動基板52を露出させる第一エッチングパターン72を形成する(第一SiOパターニング工程)。このパターニングは、緩衝フッ酸溶液等を用いたウェットエッチングで行うことができる。この後、図5(C)に示すように、第一エッチングパターン72をエッチングすることで、光透過口521Aを形成する(光透過口形成工程)。このエッチングは、水酸化カリウム水溶液等によりシリコン基板をエッチングすることができる。また、シリコン基板は結晶方位(100)であるため、エッチングされるシリコン基板は自ずとテーパー形状となる。
この光透過口形成工程の後、図5(D)に示すように、この光透過口521Aが形成された可動基板52表面の酸化シリコン膜71をすべて除去する(SiO除去工程)。そして、図5(E)に示すように、光透過口521Aに低融点ガラス58Iを充填し、光透過口521Aを低融点ガラス58Iで満たす(低融点ガラス充填工程)。
その後、図5(F)に示すように、可動基板52からはみ出た低融点ガラス58Iを研磨し、可動基板52の平面と低融点ガラス58の平面とを面一にし、光透過口521Aに透光性部材としての低融点ガラス58を設ける(低融点ガラス研磨工程)。また、低融点ガラス58の表面が荒れていると、乱反射を起こすなどの不具合が発生する。そのため、光射出面の面粗さはRaで1nm以下であることが望ましい。
【0046】
低融点ガラス研磨工程の後、図6(A)に示すように、可動基板52表面およびこの表面と面一となる低融点ガラス58の平面に酸化シリコン膜71を形成する(第二SiO形成工程)。その後、図6(B)に示すように、可動基板52の連結保持部522に対応する位置の酸化シリコン膜71を除去し、可動基板52を露出させる第二エッチングパターン73を形成する(第二SiOパターニング工程)。
この後、図6(C)に示すように、第二エッチングパターン73をエッチングすることで、連結保持部522を形成する(連結保持部形成工程)。
連結保持部522をダイアフラムとして作用させるためには、その厚みを0.1mm程度までエッチングする必要がある。例えば0.5mmの石英基板の一部を緩衝フッ酸溶液で0.1mmまでエッチングする場合、50時間以上必要である。これに対し、シリコン基板を水酸化カリウム水溶液でエッチングすると2.5時間程度で処理することが可能である。このことから可動基板52にシリコン基板を使用することは非常に有益である。
図6(D)に示すように、この連結保持部522が形成された可動基板52表面の酸化シリコン膜71をすべて除去する(SiO除去工程)。最後に、図6(E)に示すように、可動基板52の上面に第二変位用電極542を設け、ミラー可動面に可動ミラー57を設ける(電極、ミラー形成工程)。これにより、可動基板52が形成される。
【0047】
(5−3.エタロンの製造)
次に、上述のように製造された固定基板51および可動基板52を用いたエタロン5の製造について説明する。
エタロン5の製造では、固定基板51および可動基板52を接合する接合工程を実施する。この接合工程では、固定基板51の接合面513と可動基板52の接合面523とを対向させた状態で、固定基板51と可動基板52とを陽極接合等によって接合する。
【0048】
陽極接合によって接合する場合には、例えば、固定基板51を図示しない直流電源のマイナス端子、可動基板52を図示しない直流電源のプラス端子にそれぞれ接続する。その後、固定基板51を加熱しながら電圧を印加すると、この加熱によって、固定基板51中のナトリウムイオンが移動しやすくなる。このナトリウムイオンの移動により、固定基板51の接合面513はマイナスに帯電し、可動基板52の接合面523はプラスに帯電する。この結果、固定基板51と可動基板52とは強固に接合される。
【0049】
〔6.第一実施形態の作用効果〕
本実施形態では、静電アクチュエーター54により可動基板52を撓ませて固定基板51へ近づけることにより、固定ミラー56と可動ミラー57とのミラー間ギャップGが変動する。この際、可動基板52の可動部521は、連結保持部522に対して肉厚に形成され、撓みが規制されるが、実際には、僅かな撓みが生じる。このため、可動部521に形成される光透過口521A内に形成される低融点ガラス58は、可動基板52の基板厚み方向の中心位置より第二面B側において、可動部521の撓みによる側圧を受け、この側圧は、前記中心位置より離れるに従って増大する。
一方、光透過口521Aの前記中心位置より第一面A側では、面外方向に向かって引っ張られるため、光透過口521Aの内周面と低融点ガラス58との密着接合強度が弱くなる。したがって、低融点ガラス58には、当該低融点ガラス58を固定基板51へ移動させるような押下力が作用する。
ここで、光透過口521Aは、第一面Aから第二面Bに向かうに従って径大となるテーパー状に形成され、低融点ガラス58のテーパー側面58Cが、この光透過口521Aの内周面に当接している。このため、上記のような押下力が加わった場合でも、テーパー側面58Cが光透過口521Aの内周面により移動が規制され、固定基板51側に突出しない。
すなわち、本実施形態のエタロン5は、可動基板52が撓むことにより、低融点ガラス58が固定基板51側へと突出することがなく、固定ミラー56と可動ミラー57とのミラー間ギャップGを精度良く制御することができる。さらに、低融点ガラス58が突出すると、側圧の状態により光射出面58Bや光入射面58Aが、固定ミラー56に対して平行を維持できない場合があるが、上記のように、低融点ガラス58の突出がないため、固定ミラー56および可動ミラー57の平行を常に維持できる。したがって、本実施形態では、分光精度を維持することができるエタロン5を得ることができる。
なお、低融点ガラス58が可動基板52に設けられているので、可動基板52として透光性材料を選択する必要がない。このため、可動基板52の材料選択の自由度が増し、エッチング精度の向上やエッチング時間の短縮を実現できる材料の選択が可能となる。
【0050】
本実施形態では、可動ミラー57の撓みを防止し、固定ミラー56および可動ミラー57の平行を維持することができる。すなわち、可動基板52が固定基板51側に撓むと、低融点ガラス58の光射出面58Bと、可動基板52の第一面Aとの間に隙間や段差が生じるおそれがある。したがって、可動ミラー57が、低融点ガラス58の光射出面58Bから可動基板52の第一面Aに跨って形成されている場合、上記のような隙間や段差により、可動ミラー57が歪み、固定ミラー56との平行関係が維持できなくなるおそれがある。これに対して、本実施形態のように、可動ミラー57を低融点ガラス58の光射出面58Bの面内に設けることで、上記のような隙間や段差が生じた場合でもその影響を受けることがなく、可動ミラー57が撓むことがない。
また、可動基板52が撓む際、第一面A側は下に凸の二次曲面となるが、透光性部材として、例えば低融点ガラス58など、可動基板52よりも硬度が大きい素材を用いることで、透光性部材の光射出面58Bや光入射面58Aの歪みを効果的に防止することも可能となる。この場合、透光性部材の光射出面58B内に可動ミラー57が配置されることで、可動ミラー57の歪みも防止することができ、分光精度の向上を図ることができる。
【0051】
本実施形態では、固定基板51と可動基板52とを陽極接合により接合しているので、固定基板51と可動基板52とを直接接合することができる。このため、接着剤等により接合する場合のような接着層の厚みムラにより固定基板51と可動基板52とが平行でなくなり、このことにより、固定ミラー56と可動ミラー57との平行関係に歪みが生じるおそれがない。したがって、本実施形態では、分光精度をより一層精度よく維持することができる。
【0052】
本実施形態では、可動基板52の材料として、シリコンを選択するので、エッチング精度の向上やエッチング時間の短縮を実現できる。
よって、可動基板52の加工が容易となり、エタロン5の生産性を向上させることができる。
【0053】
本実施形態では、エタロン5は、可動基板52が撓むことにより、低融点ガラス58が固定基板51側へと突出してしまい、固定ミラー56と可動ミラー57とのミラー間ギャップGに変動をきたすおそれがなく、分光精度を維持することができる。
このようなエタロン5から射出される射出光を受光素子31により受光することで、光センサー3は、検査対象光に含まれる所望波長の光成分の正確な光量を測定することができる。
【0054】
本実施形態では、エタロン5は、可動基板52が撓むことにより、低融点ガラス58が固定基板51側へと突出してしまい、固定ミラー56と可動ミラー57とのミラー間ギャップGに変動をきたすおそれがなく、分光精度を維持することができ、光センサー3の受光素子31において、検査対象光に含まれる所望波長光の光量を正確に検出することができる。したがって、制御装置4においても、検査対象光に含まれる所望波長の光の正確な光量に基づいて、検査対象光を精度よく分析できる。
【0055】
〔変形例〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0056】
図7は、変形例における波長可変干渉フィルターを構成するエタロンの概略構成を示す断面図である。
図7に示すように、可動基板52には、可動部521と同軸である光透過口521Aが形成されている。この光透過口521Aは、可動基板52の固定基板51に対向する第一面Aから検査対象光の入射側面である第二面Bまでを連通し、第一面Aから第二面Bに向かうに従って拡開するテーパー状に形成されたテーパー部521Cと、このテーパー部521Cの上端から第二面Bまで鉛直方向へ円筒形状に形成された円筒部521Dとを有している。そして、このテーパー部521Cの上端は可動基板52の厚み方向中央Cより上側に形成されており、これより第二面B側は円筒部521Dとなっている。また、低融点ガラス58は、円筒部521Dには形成されない。
【0057】
このような構成では、テーパー部521Cは可動部521の厚み方向中央Cより第二面B側まで形成され、このテーパー部521Cに当接して低融点ガラス58が設けられている。このため、上記実施形態と同様に、可動基板52の撓みにより、低融点ガラス58が側圧を受け、固定基板51側に押し下げる押下力が作用した場合でも、テーパー部521Cにより移動が規制されるため、低融点ガラス58の第一面A側への突出が防止される。
さらに、円筒部521Dには、低融点ガラス58が設けられていないので、可動部521が固定基板51側に撓むと、円筒部521Dは、第二面Bから第一面Aに向かうに従って閉塞する略テーパー形状になる。このため、側圧により低融点ガラス58を固定基板51から離れる方向に移動させようとする押上力が作用した場合でも、テーパー形状に変形した円筒部521Dにより、低融点ガラス58の第二面B側への突出が規制される。
したがって、低融点ガラス58を所定位置に保持することができる。
【0058】
また、当該構成の可動基板52は、以下のようにして形成することが可能である。すなわち、上記実施形態の光透過口形成工程において、まず、ドライエッチングすることにより、円筒形状の円筒部521Dを形成し、その後、ウェットエッチングすることにより、テーパー形状のテーパー部521Cを形成する。そして、この光透過口形成工程の後、円筒部521Dに、例えば、合成樹脂の犠牲層を形成する。この犠牲層の形成では、例えば、光透過口521Aに犠牲層を充填した後、エッチングなどによりテーパー部521Cに当たる部分を除去することで形成してもよく、円筒部521Dの形状に対応して形成された犠牲層を光透過口521A内に埋め込むことで形成してもよく、いずれの形成方法により形成されてもよい。
また、この光透過口形成工程の後、低融点ガラス充填工程、低融点ガラス研磨工程を実施して、低融点ガラスを形成した後、犠牲層を除去する。さらに、第二SiOパターニング工程、SiO除去工程、および電極、ミラー形成工程を実施することで上記の構成の可動基板52が形成される。
【0059】
可動基板52は導電性を有するシリコン基板としたが、その他の基板にしてもよい。その際に、導電性を有しない基板を用いることもでき、その場合は、連結保持部522に固定基板51の電極に対向する電極を別途形成する。
【0060】
本実施形態では、第一変位用電極パッド541Bの数を1つとしたが、これに限らず、2つ以上設けてもよい。この場合、1つを印加電極として用い、その他を検出用電極としても用いることができる。また、第二変位用電極542についてもこれと同様である。
【0061】
分析機器として、検査対象光に含まれる各波長の光量を測定する装置を例としてあげたがその他の装置にも適用できる。例えば、通信手段に用いられる光機器など、各波長の光に光強度に応じたデータを持たせ、光によりデータを通信するシステムにおいて、エタロンにより所定波長の光を抽出し、この光に含まれるデータを読みとる装置、その他、ガスの光吸収波長を検出して、ガスの種別を判別する装置などにも適用することができる。
【0062】
また、固定基板51にもシリコン基板を用いて可動基板同様に光透過口521Aを形成し、低融点ガラス58を設ける構成としてもよい。これにより、固定基板51のエッチング工程が容易となる。固定基板51は固定で撓まないので、テーパー孔を形成する必要もない。
【0063】
さらに、固定基板51および可動基板52の双方に可動部を設け、双方にテーパー孔と透光性部材を設ける構成としてもよい。
【0064】
以上、本発明を実施するための最良の構成について具体的に説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、当業者が様々な変形および改良を加えることができるものである。
【符号の説明】
【0065】
1…分析機器、3…光センサー、5…エタロン(波長可変干渉フィルター)、31…受光素子(受光手段)、51…固定基板(第一基板)、52…可動基板(第二基板)、54…静電アクチュエーター(可変部)、56…固定ミラー(第一反射膜)、57…可動ミラー(第二反射膜)、58…低融点ガラス(透光性部材)、58A…光入射面、58B…光射出面、58C…テーパー側面、521A…光透過口、A…第一面、B…第二面、G…ミラー間ギャップ(ギャップ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する第一基板と、
前記第一基板の一面側に対向して接合される第二基板と、
前記第一基板の前記一面に設けられる第一反射膜と、
前記第二基板の前記第一基板に対向する第一面に設けられ、ギャップを介して前記第一反射膜に対向する第二反射膜と、
前記ギャップを可変する可変部と、
を備えた波長可変干渉フィルターであって、
前記第二基板は、
前記第一反射膜に対向する位置で、基板厚み方向に沿って形成され、当該第二基板の前記第一面から反対側の第二面までを貫通する光透過口と、
前記光透過口内に設けられる透光性部材と、を備え、
前記光透過口は、内周面の径寸法が、前記第一面から前記第二面に向かうに従って増大するテーパー形状に形成され、
前記透光性部材は、前記第一反射膜および前記第二反射膜に平行する光入射面、前記第一反射膜および前記第二反射膜に平行する光射出面、および前記第一面から前記第二面に向かうに従って径寸法が増大するテーパー側面を有し、前記テーパー側面が前記光透過口の内周面に当接する
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項2】
請求項1に記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記第二反射膜は、前記光射出面の面内に配置される
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記第一基板は、可動イオンを有するガラスに形成され、
前記第二基板は、導電性を有し、
前記第一基板および前記第二基板は、陽極接合により接合される
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記第二基板がシリコンにより形成される
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターと、
前記波長可変干渉フィルターを透過した検査対象光を受光する受光手段と、
を備えることを特徴とする光センサー。
【請求項6】
請求項5に記載の光センサーを具備したことを特徴とする分析機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−169943(P2011−169943A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30994(P2010−30994)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】