説明

溶着方法、溶着構造体および燃料遮断弁

【課題】本発明は、ポリアセタール樹脂からなる2つの部材のレーザー溶着を確実に行なうことができる燃料遮断弁を提供すること。
【解決手段】燃料遮断弁10は、ケーシング本体30と、ケーシング本体30の上部にレーザー光により溶着された蓋体40とを備えている。ケーシング本体30は、ポリアセタールから形成されている。蓋体40は、レーザー光吸収剤を添加したポリアセタールから形成されている。ケーシング本体30のフランジ35cの本体側溶着部35dは、蓋体40の蓋側溶着部43aでレーザー溶着されている。フランジ35cの周辺部に設けた遮蔽部35eは、レーザー光の照射範囲から誤差が見込まれる領域までレーザー光RLを透過させるように突設している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光により2つの樹脂部材を溶着する溶着方法、溶着構造体および燃料遮断弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の溶着構造体として、燃料タンクの上部に装着した燃料遮断弁が知られている。燃料遮断弁は、所定の燃料液位で開閉することで、燃料タンクの外部への通気を確保するとともに、液体燃料の外部への流出を防止している。こうした燃料遮断弁は、フロートを昇降可能に収納するとともに燃料タンクに固定するためのケーシングを備えている。ケーシングは、円筒のケーシング本体と、燃料タンクに取り付けるための蓋体とを備えている。ケーシング本体と蓋体とは、爪などにより機械的に連結する構成のほかに、レーザー溶着により一体化する構成が知られている(特許文献1)。この技術では、ケーシング本体は、ガラス繊維を添加したポリアミドから形成し、蓋体は、光吸収剤としてのカーボンブラックを添加したポリアミドから形成している。蓋体とケーシング本体は、それらの接触面にレーザーを照射することで接触面を溶着している。このとき、ケーシング本体にレーザーを透過させて、蓋体の接触面に当てることにより溶着を行なっている。
【0003】
ところで、ケーシングを形成するための材料として、ポリアミドの代わりに、ポリアセタールを用いることが検討されている。しかし、ポリアセタールを用いた蓋体およびケーシング本体は、レーザー照射をすると、蓋体側の熱的な損傷を招き、適切な強度で両者を溶着できない場合があった。
【0004】
【特許文献1】特開2004−324570号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の技術の問題点を解決することを踏まえ、ポリアセタール樹脂からなる2つの部材のレーザー溶着を確実に行なうことができる溶着方法、溶着構造体および燃料遮断弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
<適用例1>
適用例1は、ポリアセタールから形成された第1樹脂部材の第1接合部と、レーザー光吸収剤を添加したポリアセタールから形成された第2樹脂部材の第2接合部とを備え、第1および第2接合部を密着させ、レーザー光を、第1樹脂部材に透過させた後に上記密着した両接合部に照射することにより上記両接合部を溶着する溶着方法であって、
上記第1樹脂部材は、上記第1接合部の周辺領域でありかつレーザー光の照射範囲から誤差が見込まれる領域まで突出した遮蔽部を備えたこと、を特徴とする。ここで、レーザー光吸収剤は、レーザー光を吸収することで第2樹脂部材の第2接合部を溶融させるまで温度上昇に寄与する添加剤であり、例えば、カーボンブラックなどをいう。
【0008】
適用例1によれば、第1樹脂部材は、ポリアセタールから形成され、第2樹脂部材は、ポリアセタールにレーザー光吸収剤を添加したポリアセタールから形成されている。第1樹脂部材の第1接合部と第2樹脂部材の第2接合部とを密着させて、該密着した設供奉にレーザー光を照射することにより、両接合面を溶着する。このとき、第1樹脂部材の第1接合部の周辺領域に形成された遮蔽部は、レーザー光の照射範囲の誤差が見込まれ領域まで突設されているから、レーザー光は、遮蔽部を透過してから、第2樹脂部材に当たる。よって、第2樹脂部材の第2接合部の周辺部に損傷を招かず、レーザー光の照射範囲に誤差があっても、確実に溶着を行なうことができる。
【0009】
<適用例2>
適用例2は、ポリアセタールから形成された第1樹脂部材の第1接合部と、レーザー光吸収剤を添加したポリアセタールから形成された第2樹脂部材の第2接合部とを備え、第1および第2接合部を密着させ、レーザー光を、第1樹脂部材に透過させた後に上記密着した両接合部に照射することにより上記両接合部を溶着した溶着構造体において、上記第1樹脂部材は、上記第1接合部の周辺領域でありかつレーザー光の照射範囲から誤差が見込まれる領域まで突出した遮蔽部を備えたこと、を特徴とする。
【0010】
<適用例3>
適用例3は、フロート機構を収納する弁室を有するケーシング本体と、該ケーシング本体の上部にレーザー光により溶着された蓋体とを備え、燃料タンクと外部通路とを連通遮断する燃料遮断弁において、
上記ケーシング本体は、ポリアセタールから形成され、該ケーシング本体の外周部に形成されたフランジと、該フランジに形成された本体側溶着部と、上記フランジに形成された遮蔽部とを有し、
上記蓋体は、レーザー光吸収剤を添加したポリアセタールから形成され、該蓋体の下部に設けられかつ上記本体側溶着部とレーザー光により溶着される蓋側溶着部を有し、
上記遮蔽部は、レーザー光の照射範囲から誤差が見込まれる領域までレーザー光を透過させるように突設したこと、
を特徴とする。
【0011】
適用例3により、耐燃料膨潤性に優れたポリアセタールを用いた燃料遮断弁において、ケーシング本体(第1樹脂部材)と蓋体(第2樹脂部材)のレーザー溶着に好適に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以上説明した本発明の構成・作用を一層明らかにするために、以下本発明の好適な実施例について説明する。
【0013】
(1) 燃料遮断弁10の概略構成
図1は本発明の一実施例にかかる自動車の燃料タンクFTの上部に取り付けられる燃料遮断弁10を示す断面図である。燃料遮断弁10は、金属製の燃料タンクFTの上壁に装着される、いわゆるアウトタンク式であり、給油時、車両の傾斜や揺動時などに燃料タンクFT内の燃料が上昇したときに、外部への燃料の流出を規制するとともにタンク内圧を所定範囲内に維持するための弁である。燃料遮断弁10は、ケーシング20と、ケーシング20内の下弁室30Sおよび上弁室60Sにそれぞれ収納されたフロート機構50および圧力調整弁機構60とを備えている。燃料遮断弁10は、取付金具BkおよびパッキンPkを介して燃料タンクFTの上壁に取り付けられている。
【0014】
(2) 燃料遮断弁10の各部の構成
(2)−1 ケーシング20
図2は燃料遮断弁を分解して示す断面図である。図2において、ケーシング20は、ケーシング本体30と、ケーシング本体30の下部に装着された底板39と、ケーシング本体30の上部に装着された蓋体40とを備えている。ケーシング本体30は、上壁部31と、この上壁部31から下方へ円筒状に延設された側壁部35とを備え、上壁部31と側壁部35とに囲まれたカップ状の下弁室30Sを形成し、その下部を下開口30aとしている。上壁部31の中央部には、フロート用通路形成突部32が下方へ突設されている。フロート用通路形成突部32には、接続通路32aが貫通しており、接続通路32aの下弁室30S側がフロート用弁開口32bになっており、このフロート用弁開口32bの開口周縁部がフロート用シール部32cになっている。側壁部35の上部には、燃料タンクFT内と下弁室30Sとを接続する通気孔35aが形成され、またその下部には、係合凹所35bが形成されている。係合凹所35bは、底板39を取り付けるためのものである。図3は図1の3−3線に沿った断面図、図4はケーシング本体30に蓋体40を取り付ける前の状態を示す斜視図、図5はケーシング本体30の上部を示す平面図である。上壁部31には、上方に向けて突出した拡張室形成部材37が形成されている。拡張室形成部材37は、水平断面で、中心部を除いた円弧形状であり、下弁室30Sの上部を部分的に拡張した上部拡張室30Saになっている。上部拡張室30Saは、燃料タンクが揺動したときに燃料を導いて、接続通路32aを通じて外部へ燃料が流出するのを低減するためのスペースである。
【0015】
図2において、底板39は、ケーシング本体30の下開口30aを閉じる部材であり、その外周部に形成された係合爪39aをケーシング本体30の係合凹所35bに係合することにより、ケーシング本体30の下開口30aを閉じるように装着される。底板39には、連通孔39bが貫通形成されている。また、底板39の上面には、スプリング52の下端を支持するためのスプリング支持部39cが形成されている。
【0016】
蓋体40は、円板状の上壁41と、上壁41の外周部から円筒状に突設された側壁42と、側壁42の下端から外周方向へ延設されたフランジ部43とを備えている。上壁41、側壁42およびケーシング本体30の上壁部31に囲まれたスペースは、接続通路32aを介して下弁室30Sに接続された上弁室60Sになっている。また、蓋体40の側壁42には、側方へ突出した管体部44が形成されている。管体部44内には、管通路44aが形成されており、この管通路44aの一端は、上弁室60Sに接続され、他端はキャニスタ側に接続されている。
図4および図5に示すように、ケーシング本体30の上壁部31と蓋体40との間には、接続通路32aから洩れた燃料を管通路44a側へ流れないように一時的に溜める液トラップ室38Sが設けられている。液トラップ室38Sは、水平断面で扇形であり、上壁部31の一部の上面、蓋体40の側壁42、および蓋体40の上壁41から下方に突設された位置決め部材45,45によって囲まれている。すなわち、位置決め部材45は、拡張室形成部材37の側面に形成されたトラップ室形成部材38により位置決めされることで、液トラップ室38Sを形成し、さらにケーシング本体30に対して蓋体40を回り止めとしても機能している。
【0017】
図2において、ケーシング本体30の側壁部35には、フランジ35cが突設されており、その上部が本体側溶着部35dになっており、また、蓋体40のフランジ部43の内周側下面は、蓋側溶着部43aになっている。この本体側溶着部35dおよび蓋側溶着部43aは、後述するように、レーザー溶着によって固定されている。
【0018】
(2)−2 フロート機構50
図2において、フロート機構50は、下弁室30Sに収納されており、容器形状のフロート51と、スプリング52とを備えている。フロート51の内側スペースは、浮力を生じるためのフロート室51Sになっている。フロート51の上部には、ほぼ円錐形状の弁部51aが突設されている。弁部51aは、フロート機構50の昇降によりフロート用シール部32cに接離してフロート用弁開口32bを開閉するように構成されている。また、フロート機構50の外周部にガイド突条51bがケーシング本体30の内壁面に対する摺動性を高めるために複数箇所、上下方向に突設されている。スプリング52は、フロート室51S内に配置され、フロート51の一端と底板39のスプリング支持部39cとの間に介在することによりフロート51を上方へ付勢している。
【0019】
(2)−3 圧力調整弁機構60
図6は圧力調整弁機構60の付近を拡大した断面図である。圧力調整弁機構60は、燃料タンク内の燃料蒸気をキャニスタへ送る量を低減し、タンクのタンク内圧を所定範囲に維持する弁であり、第1調圧弁70(チェック弁)、第2調圧弁80(リリーフ弁)および負圧弁90を備えている。これらの弁は、ケーシング本体30の上壁部31と蓋体40とにより囲まれた上弁室60Sに収納されている。
【0020】
図7は圧力調整弁機構60を分解して示す断面図、図8はケーシング本体30の上部を説明する説明図である。第1調圧弁70は、燃料タンクのタンク内圧が第1圧力値を越えたときに開く弁である。第1調圧弁70は、上壁部31の中央上部から突出した円筒状の第1通路形成突部71を備えている。第1通路形成突部71は、内側スペースを接続通路32aに接続される第1調圧弁室70Sとしている。上壁部31の上部には、接続通路32aに臨んで設けられた第1調圧弁開口71bが形成され、また、第1調圧弁開口71bの外周側には、第1調圧弁シール部71cが形成されている。第1通路形成突部71の内周部には、上下方向に沿ってガイド突条71dが複数形成されている。
【0021】
第1調圧弁70は、スプリング76により閉じ方向に付勢される第1調圧弁体72を備えている。第1調圧弁体72は、円板状の弁部73と、弁部73の外周から突設された円筒状の側壁74とを備え、スペース72Sを形成する上向きのカップ形状に形成されている。弁部73には、シート部73aが形成されている。シート部73aは、第1調圧弁シール部71cに接離することにより第1調圧弁開口71bを開閉する。
【0022】
この第1調圧弁70の構成において、図9に示すように、接続通路32aを通じた圧力により弁部73に加わる上方への力がスプリング76の付勢力および第1調圧弁体72の自重を上回ると、第1調圧弁体72が上方に移動して第1調圧弁開口71bが開かれ、これにより、燃料タンク内の燃料蒸気が下弁室30S、接続通路32a、第1調圧弁室70S、上弁室60S、管通路44aを介してキャニスタに連通する。
【0023】
図7および図8において、第2調圧弁80は、タンク内圧が第1圧力値よりも高い第2圧力値を越えたときに開くことで、燃料タンク内を減圧する弁である。第2調圧弁80は、上壁部31であり第1通路形成突部71に隣接して配置した円筒状の第2通路形成突部81を備えている。第2通路形成突部81は、内側スペースをリリーフ通路81aを介して下弁室30Sに接続される第2調圧弁室80Sとしている。上壁部31の上部には、リリーフ通路81aに臨んで設けられた第2調圧弁開口81bが形成され、また、第2調圧弁開口81bの外周側には、第2調圧弁シール部81cが形成されている。
第2調圧弁80は、スプリング85により閉じ方向に付勢される第2調圧弁体82を備えている。第2調圧弁体82は、ボール弁体である。この第2調圧弁80の構成において、図9に示すように、リリーフ通路81aを通じた圧力により第2調圧弁体82に加わる上方への力がスプリング85の付勢力および第2調圧弁体82の自重を上回ると、第2調圧弁体82が上方へ移動して第2調圧弁開口81bが開かれ、これにより、燃料タンク内が下弁室30S、リリーフ通路81a、第2調圧弁室80S、上弁室60S、管通路44aを介してキャニスタに連通する。
【0024】
図7において、負圧弁90は、第1調圧弁体72の通路形成突部75を貫通している弁内流路75aを開くことで、タンク内圧の負圧を解消する弁である。通路形成突部75は、弁内流路75aに臨んで設けられた負圧弁開口75bと、負圧弁開口に臨みかつ第1調圧弁体72の弁部73の中央下面に設けたシール部75cとを備えている。負圧弁90は、傘状のゴム製の弁体で形成されており、傘状の弁部91と、弁部91の中心部から上方に向けて形成された支持部92と、支持部92の外周部に突設された抜止部93とを備えている。弁部91には、シート部91aが形成されている。負圧弁90は、支持部92が弁挿入孔75dに圧入されることにより第1調圧弁体72に支持されるとともに、支持部92と通路形成突部75との隙間で弁内流路75aを形成している。
【0025】
この負圧弁90の構成において、図10に示すように、燃料タンク内が負圧になって、弁部91の表面および裏面に加わる圧力のバランスによって弁部91を撓ませる弾性力を越えると、シート部91aがシール部75cから離れる。これにより、弁内流路75aを通じてキャニスタ側から管通路44a、上弁室60S、弁内流路75a、接続通路32aを通じて燃料タンクに接続されて、燃料タンク内の負圧が解消されるように作用する。
【0026】
(3) 燃料遮断弁10の組付作業
図11は蓋体40とケーシング本体30とをレーザー溶着により組み付ける作業を説明する説明図である。まず、圧力調整弁機構60をケーシング本体30の上部に組み付けた後に、蓋体40の位置決め部材45,45をトラップ室形成部材38に位置合わせして(図4参照)、蓋体40をケーシング本体30側へ挿入する。これにより、位置決め部材45,45がトラップ室形成部材38に嵌合して、蓋体40がケーシング本体30に仮組みされる。次に、仮組みされた組付体をレーザー溶着装置TDの支持台ST上に載置する。レーザー溶着装置TDは、回転可能な支持台STと、この支持台STの周囲に配置されたレーザー照射部RGとを備えている。レーザー照射部RGは、例えば、半導体レーザーを用いることができ、波長が850〜970nmに設定可能である。レーザー溶着装置TDを用いて、支持台STを回転しつつレーザー照射部RGから組付体に向けてレーザー光を照射する。このとき、図12に示すように、レーザー光RLの照射箇所は、ケーシング本体30のフランジ35cである。レーザー光RLは、フランジ35cを透過して蓋体40の蓋側溶着部43aに達する。蓋体40は、ポリアセタールにカーボンを0.5重量%添加されて、レーザー照射に対して熱吸収性を有しているから、蓋側溶着部43aの表面が溶けて、その熱量により本体側溶着部35dの表面が溶けることで、両者が溶着する。このような作業を、支持台STを回転することでフランジ35cの全周にわたって行うことで、ケーシング本体30が蓋体40に溶着固定される。
【0027】
(4) 燃料遮断弁10の動作
次に、燃料遮断弁10の動作について説明する。図1および図9に示すように、車両の揺動や傾斜、給油などにより、下弁室30Sおよび接続通路32aを通じて、第1調圧弁70の弁部73に加わるタンク内圧による上方への力がスプリング76の付勢力、第1調圧弁体72および負圧弁90の自重により下方への力を上回ると、第1調圧弁体72が上方に移動して第1調圧弁開口71bが開かれる。これにより、燃料タンク内の燃料蒸気が下弁室30S、接続通路32a、第1調圧弁室70S、上弁室60S、管通路44aを介してキャニスタに逃がされる。すなわち、タンク内圧が第1圧力値を越えたときに第1調圧弁70を通じて燃料蒸気がキャニスタに逃がされる。
【0028】
そして、図1に示すように、車両の傾斜や揺動等により、燃料タンクFT内の燃料液位が所定の液位に達すると、燃料は、底板39の連通孔39bを通じて下弁室30Sに流入する。これにより、フロート51(2点鎖線で示す)に浮力が生じて上昇し、フロート51の弁部51aがフロート用シール部32cに着座して接続通路32aを閉塞するから燃料がキャニスタ側へ流出しない。
【0029】
フロート51の弁部51aが接続通路32aを閉じている状態にて、タンク内圧が上昇して第2圧力値を越えると、図9に示すように、第2調圧弁80の第2調圧弁体82の受圧面に加わる上方への力が第2調圧弁体82の自重およびスプリング85の付勢力を上回ると、第2調圧弁体82が上方移動して、第2調圧弁シール部81cから離れ、リリーフ通路81aが開かれる。これにより、燃料タンク内がリリーフ通路81a、第2調圧弁室80S、上弁室60S、管通路44aを介してキャニスタに接続され、タンク内圧が第2圧力値以下に維持される。
【0030】
図10に示すように、タンク内圧が負圧になって、負圧弁90の弁部91の表面および裏面に加わる圧力のバランスによって弁部91を撓ませる弾性力を越えると、シート部91aがシール部75cから離れるように弾性変形する。これにより、キャニスタ側から管通路44a、上弁室60S、弁内流路75a、接続通路32a、下弁室30Sを通じて燃料タンクに接続されて、燃料タンク内の負圧が解消されるように作用する。
【0031】
(5) 燃料遮断弁の作用・効果
上記燃料遮断弁10の構成により、以下の作用・効果を奏する。
(5)−1 圧力調整弁機構60は、タンク内圧が所定値を越えたときだけに外部通路に対して通気を確保している。すなわち、図6に示すようにフロート機構50がフロート用弁開口32bを閉じていない状態にて、第1調圧弁体72は、接続通路32aを通じて受ける圧力が第1圧力値を越えないとき、つまりその圧力がスプリング76の付勢力を越えないときには、第1調圧弁開口71bを閉じた状態にあり、外部通路へ通気せず、燃料蒸気の排出量を抑制することができる。そして、第1調圧弁体72は、接続通路32aを通じて受ける圧力が第1圧力値を越えたときに第1調圧弁開口71bを開いて燃料タンクFT内の外部通路への通気を確保する。
【0032】
(5)−2 図9に示すように、圧力調整弁機構60は、フロート機構50がフロート用弁開口32bを閉じている状態にて、タンク内圧が第1圧力値より大きい第2圧力値を越えたときに第2調圧弁体82が第2調圧弁開口81bを開いてタンク内圧を外部通路へ逃がす。したがって、フロート機構50が接続通路32aを閉じているときであってもタンク内圧を第2圧力値以下とすることができ、燃料タンクの損傷を防止する。
【0033】
(5)−3 図1に示すように、上弁室60Sには液トラップ室38Sが設けられている。給油時や車両の左右に振れにより、燃料の波打ちやフロート機構50の作動遅れを生じ、燃料タンク内の燃料が下弁室30Sを満たしさらに接続通路32aから燃料が微小に洩れた場合に、洩れた燃料は第1調圧弁70の側壁で管通路44a側へ流出するのを規制され、第1調圧弁70の側壁を乗り越えたときに液トラップ室38Sに溜まる。したがって、接続通路32aから微小に洩れた燃料は、液トラップ室38Sに一時的に溜め、管通路44aを通じてキャニスタへ流出するのを防止することができる。
【0034】
(5)−4 ケーシング本体30と蓋体40とを溶着するのに、図11および図12に示すように、レーザー光RLは、ケーシング本体30の本体側溶着部35dを透過し、蓋体40の蓋側溶着部43aに達するように照射し、蓋側溶着部43aがレーザー光RLの吸収により溶融して、本体側溶着部35dと溶着する。レーザー光RLは、その方向がズレを生じて蓋側溶着部43aに直接当たった場合には蓋側溶着部43aに損傷を与えて、適切な強度で溶着ができない場合がある。しかし、フランジ35cの側部に形成された遮蔽部35eが本体側溶着部35dが直接、レーザー照射されないように遮蔽するから、蓋側溶着部43aの周辺部に損傷を招かない。よって、レーザーの照射範囲にズレがあっても、確実に溶着を行なうことができる。
【0035】
(5)−5 ケーシング本体30はポリアセタールから形成され、蓋体40はレーザー光吸収剤としてカーボン粒子0.5%を添加したポリアセタールから形成され、つまり両部材も約170℃の温度で溶着でき、ポリアミドのように溶着温度に必要な約230℃と比べて低温でよく、レーザー光の照射条件などの管理を容易にできる。
【0036】
(5)−6 図3において、上部拡張室30Saは、燃料タンクFTが揺動したときに燃料を導いて、接続通路32aを通じて外部へ燃料が流出するのを低減する。こうした上部拡張室30Saは、拡張室形成部材37によって形成されている。図4および図5に示すように、拡張室形成部材37は、第1通路形成突部71および第2通路形成突部81に対して水平方向にギャップGpを隔てて上壁部31の一部を上方へ突出して形成されているので、第1通路形成突部71や第2通路形成突部81の肉厚を部分的に大きくしない。よって、第1通路形成突部71および第2通路形成突部81に設けた第1調圧弁シール部71cおよび第2調圧弁シール部81cに部分的な樹脂ヒケを生じることがなく、優れたシール性を得ることができる。
【0037】
(5)−7 図8(A)の(B)の部分を拡大した図8(B)に示すように、第1通路形成突部71と第2通路形成突部81との間は、それらの第1調圧弁室70Sおよび第2調圧弁室80Sを隔てるとともに両者にとって共通の壁となる共通部71eになっており、また、共通部71eと第1通路形成突部71とを連結する部分が連結部71fになっている。ここで、第1通路形成突部71の一般部(円筒の部分)の肉厚をt1、第2通路形成突部81の肉厚をt2、共通部71eの肉厚をt3、連結部71fの肉厚をt4とすると、t1>t2、t2=t3、t1>t4に設定されている。すなわち、第2通路形成突部81の肉厚t2が第1通路形成突部71の一般部の肉厚t1より小さい場合において、第2通路形成突部81の肉厚t2を共通部71eの肉厚t3と同じにし、また、連結部71fの肉厚t4を第1通路形成突部71の肉厚t1より小さくしている。したがって、第2通路形成突部81は、第1通路形成突部71との共通部71eを有していても、全周にわたって同じ肉厚に形成され、しかも、第1通路形成突部71との連結部71fにおいても薄い肉厚t4で連結されているから、第2調圧弁シール部81cに部分的な樹脂ヒケを生じることがなく、優れたシール性を得ることができる。
第1通路形成突部71と第2通路形成突部81は、共通部71eを有することで、第1調圧弁70および第2調圧弁80の水平方向の面積を小さくでき、燃料遮断弁の小型化に寄与する。
【0038】
(5)−8 第1通路形成突部71の内壁から突設されたガイド突条71dは、共通部71eおよび連結部71fを除いた箇所に配置されているから、共通部71eおよび連結部71fに重なることによる部分的に肉厚が大きくなるのを避け、樹脂ヒケを防止することができる。
【0039】
(5)−9 図8(B)に示すように、ケーシング本体30の側壁部35の一般部(円筒部)の肉厚をt5、側壁部35の一般部と第2通路形成突部81とを連結する連結部35fの肉厚をt6とすると、t5>t6に設定されている。このように側壁部35の一般部を第2通路形成突部81に薄い肉厚t6の連結部35fで連結することにより、第2通路形成突部81が部分的に厚くならず、樹脂ヒケを防止することができる。
【0040】
(5)−10 図4に示すように、ケーシング本体30および蓋体40は、レーザー溶着などにより一体化される前に仮組みされる。すなわち、蓋体40の位置決め部材45がケーシング本体30の上部のトラップ室形成部材38に嵌合することにより、該蓋体40がケーシング本体30に位置決めされる。このとき、ケーシング本体30の外周部にフランジ35cが蓋体40の蓋側溶着部43aが密着して回り止めされ、位置ズレを生じない。よって、レーザー光による溶着作業を確実に行なうことができる。また、位置決め部材45は、蓋体40の上壁41から一体形成されているから、部品点数が増加することもない。
【0041】
(6) 他の実施例
この発明は上記実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0042】
(6)−1 図13ないし図15はケーシング本体と蓋体とを仮組みするための他の構成を示し、図13は燃料遮断弁10Bの上部の断面図、図14は蓋体40Bをケーシング本体30Bに組み付ける前の状態を示す斜視図、図15はケーシング本体30Bの上部の平面図である。本構成は、トラップ室形成部材38Bおよび位置決め部材45Bの構成に特徴を有する。ケーシング本体30Bの上部には、液トラップ室38BSを形成するトラップ室形成部材38Bが立設されている。また、蓋体40Bの上壁41Bには、位置決め部材45Bが突設されている。位置決め部材45Bは、管通路44Baへ流れる燃料を遮る方向、つまり管通路44Baの軸方向に対して直角方向に配置されている。また、位置決め部材45Bは、その下端がケーシング本体30Bの上壁部31Bとの間に間隙を有し、この間隙が流路45Ba(図13)となっている。蓋体40Bをケーシング本体30Bに組み付けるには、位置決め部材45Bをトラップ室形成部材38Bの側板38Ba,38Baに位置合わせして、蓋体40Bをケーシング本体30Bに対して押し入れる。これにより、位置決め部材45Bはトラップ室形成部材38Bに嵌合して、蓋体40Bがケーシング本体30Bに仮組みされる。この構成によると、図13に示すように、位置決め部材45Bが管通路44Baに対する燃料の流れに対して堰として作用するから、管通路44Baへの燃料の流出を一層、防止することができる。
また、位置決め部材45Bは、流路45Baが接続通路32Baおよび管通路44Baより大きい流路面積にすることにより、燃料蒸気の通気時における圧力損失を増大することもない。
【0043】
(6)−2 図16ないし図18は他の実施例にかかる蓋体40C,40D,40Eの位置決め部材45C,45D,45Eを説明する説明図である。これらの実施例は、位置決め部材45C,45D,45Eの流路の構成に特徴を有する。すなわち、図16の位置決め部材45Cの流路45Caは、円形の透孔であり、図17の位置決め部材45Dの流路45Daはスリットであり、図18の位置決め部材45Eの流路45Eaは、長円形の切欠きによる開口である。これらの流路45Ca,45Da,45Eaにおいて、管通路44Ca,44Da,44Eaに対して流路45Ca,45Da,45Eaを対向させないように設けることにより、燃料が管通路44Ca,44Da,44Eaに直接向かわないようすることができる。このように流路は、液トラップ室への燃料を溜める本来の機能を確保し、かつ圧力損失を著しく大きくしない範囲にて各種の形状をとることができる。
【0044】
(6)−3 図11および図12に示すように、レーザー光による溶着できる2つの部材として、上記実施例では、燃料遮断弁に適用したが、これに限らず、ポリアセタールおよびレーザー光吸収剤を添加したポリアセタールを用いた部材であれば、特に限定されず、例えば、燃料タンクに接続されるインレットパイプや、管継手などに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施例にかかる自動車の燃料タンクの上部に取り付けられる燃料遮断弁を示す断面図である。
【図2】燃料遮断弁を分解して示す断面図である。
【図3】図1の3−3線に沿った断面図である。
【図4】ケーシング本体に蓋体を取り付ける前の状態を示す斜視図である。
【図5】ケーシング本体の上部を示す平面図である。
【図6】圧力調整弁機構の付近を拡大した断面図である。
【図7】圧力調整弁機構を分解して示す断面図である。
【図8】ケーシング本体の上部を説明する説明図である。
【図9】圧力調整弁機構の動作を説明する説明図である。
【図10】圧力調整弁機構の動作を説明する説明図である。
【図11】蓋体とケーシング本体とをレーザー溶着により組み付ける作業を説明する説明図である。
【図12】図11の要部を拡大した説明図である。
【図13】他の実施例にかかる燃料遮断弁の上部の断面図である。
【図14】蓋体をケーシング本体に組み付ける前の状態を示す斜視図である。
【図15】ケーシング本体の上部の平面図である。
【図16】蓋体の位置決め部材にかかる他の構成を説明する説明図である。
【図17】蓋体の位置決め部材にかかるさらに他の構成を説明する説明図である。
【図18】蓋体の位置決め部材にかかる別の構成を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0046】
10…燃料遮断弁
10B…燃料遮断弁
20…ケーシング
30…ケーシング本体
30B…ケーシング本体
30S…下弁室
30a…下開口
30Sa…上部拡張室
31…上壁部
31B…上壁部
32…フロート用通路形成突部
32a…接続通路
32b…フロート用弁開口
32c…フロート用シール部
32Ba…接続通路
35…側壁部
35a…通気孔
35b…係合凹所
35c…フランジ
35d…本体側溶着部
35e…遮蔽部
35f…連結部
37…拡張室形成部材
38…トラップ室形成部材
38B…トラップ室形成部材
38S…液トラップ室
38BS…液トラップ室
38Ba…側板
39…底板
39a…係合爪
39b…連通孔
39c…スプリング支持部
40,40B,40C,40D,40E…蓋体
41…上壁
41B…上壁
42…側壁
43…フランジ部
43a…蓋側溶着部
44…管体部
44a,44Ba,44Ca,44Da,44Ea…管通路
45,45B,45C,45D,45E…位置決め部材
45Ba,45Ca,45Da,45Ea…流路
50…フロート機構
51…フロート
51S…フロート室
51a…弁部
51b…ガイド突条
52…スプリング
60…圧力調整弁機構
60S…上弁室
70…第1調圧弁
70S…第1調圧弁室
71…第1通路形成突部
71b…第1調圧弁開口
71c…第1調圧弁シール部
71d…ガイド突条
71e…共通部
71f…連結部
72…第1調圧弁体
72S…スペース
73…弁部
73a…シート部
74…側壁
75…通路形成突部
75a…弁内流路
75b…負圧弁開口
75c…シール部
75d…弁挿入孔
76…スプリング
80…第2調圧弁
80S…第2調圧弁室
81…第2通路形成突部
81a…リリーフ通路
81b…第2調圧弁開口
81c…第2調圧弁シール部
82…第2調圧弁体
85…スプリング
90…負圧弁
91…弁部
91a…シート部
92…支持部
93…抜止部
FT…燃料タンク
Bk…取付金具
Pk…パッキン
TD…レーザー溶着装置
RG…レーザー照射部
RL…レーザー光
ST…支持台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタールから形成された第1樹脂部材の第1接合部と、レーザー光吸収剤を添加したポリアセタールから形成された第2樹脂部材の第2接合部とを備え、第1および第2接合部を密着させ、レーザー光を、第1樹脂部材に透過させた後に上記密着した両接合部に照射することにより上記両接合部を溶着する溶着方法であって、
上記第1樹脂部材は、上記第1接合部の周辺領域でありかつレーザー光の照射範囲から誤差が見込まれる領域まで突出した遮蔽部を備えたこと、
を特徴とする溶着方法。
【請求項2】
ポリアセタールから形成された第1樹脂部材の第1接合部と、レーザー光吸収剤を添加したポリアセタールから形成された第2樹脂部材の第2接合部とを備え、第1および第2接合部を密着させ、レーザー光を、第1樹脂部材に透過させた後に上記密着した両接合部に照射することにより上記両接合部を溶着した溶着構造体において、
上記第1樹脂部材は、上記第1接合部の周辺領域でありかつレーザー光の照射範囲から誤差が見込まれる領域まで突出した遮蔽部を備えたこと、
を特徴とする溶着構造体。
【請求項3】
フロート機構(50)を収納する弁室を有するケーシング本体(30)と、該ケーシング本体(30)の上部にレーザー光により溶着された蓋体(40)とを備え、燃料タンク(FT)と外部通路とを連通遮断する燃料遮断弁において、
上記ケーシング本体(30)は、ポリアセタールから形成され、該ケーシング本体(30)の外周部に形成されたフランジ(35c)と、該フランジ(35c)に形成された本体側溶着部(35d)と、上記フランジ(35c)に形成された遮蔽部(35e)とを有し、
上記蓋体(40)は、レーザー光吸収剤を添加したポリアセタールから形成され、該蓋体(40)の下部に設けられかつ上記本体側溶着部(35d)とレーザー光により溶着される蓋側溶着部(43a)を有し、
上記遮蔽部(35e)は、レーザー光の照射範囲から誤差が見込まれる領域までレーザー光(RL)を透過させるように突設したこと、
を特徴とする燃料遮断弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−78526(P2009−78526A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−251444(P2007−251444)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】