説明

潤滑剤供給体

【課題】食品機械のオイルシール装置等で使用可能な安全性が高い潤滑剤供給体を提供する。
【解決手段】潤滑剤を含有した固形状合成樹脂からなる潤滑剤供給体11は、互いに潤滑を必要とするサイドシール10とレール1とに潤滑剤を供給する。潤滑剤供給体11はサイドシール10と補強板20との間に介装されてエンドキャップ2Bに固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑剤を供給するための部材に係わり、特に、互いに転動、あるいは摺接される関係にある複数の部材間に介在されて、これらの部材間へ潤滑を与えるために使用される潤滑剤供給体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の潤滑剤供給体は、予め潤滑剤を含有させた潤滑剤含有ポリマを備え、たとえば直動案内軸受,ボールねじ,オイルシール等の潤滑剤の供給を必要とする箇所に接触するように装着されて、その箇所に潤滑剤を自動的に供給するように構成されている。
【0003】
この種の潤滑剤供給体として、例えば実願平5−33341(実開平7−4952号)のマイクロフィルム(以下、第1従来例と称す。)に記載されたものや、特開平6−346919号公報(以下、第2従来例と称す。)に記載されたものがある。
【0004】
第1従来例のものは、ボールねじのナットの端部に、ねじ軸のねじ溝と摺接可能に、潤滑剤含有ポリマ部材がシール部材を兼ねて装着され、経時的に徐々に滲み出す含有潤滑油がねじ溝を経てからボールヘと自動的に供給されて長期間にわたり潤滑作用を行うようにした。
【0005】
第2従来例のものは、リニアガイド装置のスライダに装着されるサイドシール等のシール部材を潤滑剤含有のゴム又は合成樹脂により形成し、そのシールリップ部が接触する案内レールの側面の転動体転動溝面に、含有潤滑剤が経時的に徐々に滲み出して転動体へと自動的に供給され、長期間にわたり潤滑作用を行うようにしたものである。
【特許文献1】実願平5−33341(実開平7−4952号)のマイクロフィルム
【特許文献2】特開平6−346919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の潤滑剤供給剤には次のような問題があった。第1にこの潤滑剤供給体を食品を製造するため等の食品機械において使用すると、製造途中の食品に、潤滑剤供給体から滲み出して来る潤滑剤が混入する可能性がある。従来の潤滑剤供給体では、この潤滑剤として人体に無害なものを使用することの配慮はなく、よって、安全性の観点から従来の潤滑剤供給体を食品機械等の分野に使用することは困難である。
【0007】
第2に、互いに摺接する部材間に置かれた時の摩耗の影響によって、潤滑剤供給体を構成している合成樹脂(又はゴム)が食品中へ混入する可能性がある。この場合も従来の潤滑剤供給体を構成している合成樹脂又はゴムとして人体に無害なものを使用することの配慮はなかった。このことからも、従来の潤滑剤供給体を食品機械等に使用することは困難であった。
【0008】
そこで本発明は、このような問題を解決するために、食品機械等で使用可能な安全性が高い潤滑剤供給体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、潤滑剤を含有した合成樹脂から構成され、潤滑を必要とする複数の部材に適用されて、この部材に対して前記合成樹脂から徐々に滲出して来る潤滑剤を供給するように構成された潤滑剤供給体であって、前記潤滑剤が流動パラフィン、または流動パラフィンを基油とし増ちょう剤をアルミニウム石けんとしたグリースからなるとともに、前記合成樹脂がポリオレフィン系合成樹脂からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の潤滑剤供給体は、食品安全性基準に適合した流動パラフィンあるいは流動パラフィンを基油とし、アルミニウム石けんを増ちょう剤とするグリースからなる潤滑剤と、ポリオレフィン系合成樹脂から構成される潤滑剤含有ポリマからなる成形体であることから、安全性が高く、食品機械用をはじめ、医療器械用、化粧品機械用の直動案内軸受,ボールねじ,オイルシール等の潤滑剤の供給を必要とする箇所に装着されて、その箇所の潤滑を良好に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
潤滑剤供給体中の潤滑剤の含有量は10〜90重量%である。10重量%未満では潤滑剤の含有量少なく潤滑を必要とする部材間への潤滑剤の供給が十分でない。一方、90重量%を越えると相対的に合成樹脂量が少なくなり、成形製品の強度等の機械的特性が低下する。必要な潤滑性と機械的強度の関係から、さらに好ましくは、潤滑剤の含有量が50〜80重量%である。
【0012】
次に、本発明の潤滑剤供給体に使用される合成樹脂について説明する。本発明の潤滑剤供給体を構成する潤滑剤含有ポリマは、潤滑剤を含有した状態で固化していることが好ましく、ポリオレフィン系合成樹脂を主成分とする。この合成樹脂としては、FDA(米国食品医薬品局)が定める基準に適合したものが良く、具体的にはポリエチレン,ポリプロピレン,ポリメチルペンテン等を使用することができる。これらのポリオレフィン系合成樹脂には、通常劣化を防止するために安定剤、具体的には酸化防止剤や、必要に応じて、特に、耐候性を必要とするグレードの場合、紫外線吸収剤(光安定剤)が、材料自体に微量(0.001〜0.05重%程度)含有されているのが普通である。そのため、ポリオレフィン系合成樹脂自体は有害ではないので、これらの安定剤を、人体に対して安全性が高いものの中から選択する。
【0013】
これらのポリオレフィン系合成樹脂は、摺接、転動等互いに摩擦する状態で接触している複数の部材間におかれても、耐摩耗性に優れている。耐摩耗性の観点から、高密度あるいは超高分子量(超高密度)ポリオレフィンであることが好ましい。
【0014】
FDAが定める基準に適合し、しかもポリオレフィン系合成樹脂に有効な酸化防止剤としては、N,N'ジ−ナフチル−p−フェニレンジアミン,2,6・ジ−第三−ブチル−4−メチルフェノール,2(3)−第三−ブチル−4−ヒドロキシアニソール,2,2'−メチレン−ビス−(4−メチル−6−策三−ブチルフエノール),2,2'−メチレン−ビス−(4−エチル−6−第三−ブチルフェノール),4,4'−メチレン−ビス−(2,6−第三−ブチフエノール),2,2'−ジヒドロキシ−3,3'−ジ−(α−メチルシクロヘキシル)−5,5'−ジメチル−ジフェニルメタン,1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−第三−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン,4,4'−チオビス−(6−第三−ブチル−3−メチルフェノール),1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第三−ブチルフェニル)ブタン,4,4'−ブチリデンビス−(3−メチル−6−第三−ブチルフェノール),n−オクタデシル−3−(4'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−第三−ブチル−フェニル)プロピオネート,テトラキス−[メチレン−3−(3',5'ジ−第三−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト)メタン,トリス(ノニル−フェニル)ホスファイト,トリス(混合モノ−およびジ−ノニルフェニル)ホスファイト,ジラウリル−チオジプロピオネート,ジステアリル−チオジプロピオネート,ジミリスチル−3,3'−チオジプロピオネート等がある。
【0015】
この中でより安全性を考慮するとその物質自体が安全物質としてFDAの基準に適合している酸化防止剤が好適であり、具体的には、2,6−ジ−第三−ブチル−4−メチルフェノール,2(3)−第三−ブチル−4−ヒドロキシアニソール,ジラウリル・チオジプロピオネート等がある。
【0016】
FDAの基準に合格し、本発明のポリオレフィン系合成樹脂に有効な紫外線吸収剤(光安定剤)としては、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシ−ベンゾフェノン,2−(2'−ヒドロキシ−3'−第三−ブチル−5'−メチル−フェニル)−5−クロロ−ベンゾトリアゾール等がある。
【0017】
上記説明した安定剤を微量含有するポリオレフィン系合成樹脂は、基本的にはFDAの基準に適合しており、本発明の潤滑剤供給体として好適である。
【0018】
このポリオレフィン系合成樹脂に必ずしも、これらの添加剤を含有させなくても良い。
【0019】
本発明の潤滑剤供給体に使用できる潤滑剤としては、FDAの基準に合格した流動パラフィン(ホワイトオイル)、あるいは流動パラフィンを基油とし増ちょう剤をアルミニウム石けんとしたグリースが好適である。
【0020】
また、安全性を損なわない限り、例えば、潤滑性を向上させる目的で、添加剤としてエステル油である以下に示す化学式を持つ、FDAの基準に合格した、食品等に混入しても無害な中鎖脂肪酸トリグリセライド等の他のオイル成分を含有させても良い。
【0021】
【化1】

【0022】
その混合量は、極性の低いポリオレフィン系合成樹脂と極性の高いエステル油との相溶性の観点から、製品の保油性を維持するために、全体油量の中の30重量%以下であることが好ましい。30重量%を越えるエステル油を含有させると部材の保油性が低下して、多量の潤滑剤を部材に含有させる上で好適でなく,同時に部材から潤滑剤が滲み出す速度が早くなり潤滑の期間を早期に終了してしまう。
【0023】
潤滑剤には、ポリオレフィン系合成樹脂に添加したものと同様の安全性の高い酸化防止剤等の添加剤を加えることができる。本発明の潤滑剤供給体は、上記ポリマと潤滑剤とを混合して加熱溶融した後、所定の型に注入して加圧しながら冷却固化させて成形するコスト的に優れた射出成形によって製造される。
【0024】
しかしながら、それ以外にも適当な形状の素材を射出成形あるいは加熱成形で作ってから,それを機械加工で目的の形状にしてもよい。また、潤滑剤供給体自体を加熱成形してもよい。
【0025】
本発明の潤滑剤供給体は、FDAで定める基準に適合した、流動パラフィンあるいは流動パラフィンを基油とし、アルミニウム石けんを増ちょう剤とするグリ一スからなる潤滑剤と、ポリオレフィン系合成樹脂から構成される潤滑剤含有ポリマとから構成されるので、安全性が高く、食品機械用をはじめ、医療器械用、化粧品機械用等の軸受装置、ボールねじ、オイルシール等に好適に使用可能である。
【0026】
本発明の実施形態において、潤滑剤供給体は、リニアガイド装置のオイルシール部材、オイルシール装置のシールリップへの潤滑剤供給用、ボールねじ装置のシール兼潤滑剤供給体として使用できる。
【0027】
以下に、本発明の実施例を図面を用いて説明する。図1から図3は、本発明の第1の実施例を示すものであり、リニアガイド装置のサイドシールに潤滑剤供給体を組み込んだ例を示すものである。
【0028】
このリニアガイド装置は、全体斜視図である図1に示すように、外面に転動体転動溝3,3'を有した軸方向に延びる案内レール1と、その案内レール1を跨いで組み付けられたスライダ2とを備えている。
【0029】
スライダ2はスライダ本体2Aを備え、さらに、その幅方向の両袖部4のレール側内側面には案内レール1の転動体転動溝3,3'に対向する転動体転動溝が設けられているとともに、袖部の肉厚部分を軸方向に貫通する転動体戻し路が両袖部4の転動溝に対向しながら平行に設けられている。
【0030】
一方、エンドキャップ2Bは、スライダ本体2Aの転動体転動溝とこれに平行な転動体戻し路とを連通させるための湾曲路を有しており、それらの転動体転動溝と転動体戻し路と両端の湾曲路とによって転動体の循環経路が形成されている。その転動体の循環回路内には例えば鋼球からなる多数の転動体が装填されている。
【0031】
案内レール1に組み込んだスライダ2は、対向する両転動体転動溝内の転動体の転動を介して案内レール1に沿って滑らかに移動し、その移動中、転動体はスライダ内の転動体循環路を無限循環するようになっている。
【0032】
スライダ2のレール方向の両端の各エンドキャップ2Bの端面には、案内レール1との間の隙間の開口をシールするサイドシール10が取り付けられている。そして、このサイドシール10に重ねて、図2の分解斜視図に示すように、潤滑剤供給体としての潤滑剤含有ポリマ部材11が、補強板20とサイドシール10との間に挟んで組み付けられている。尚、7は必要に応じてスライダ2の内部の転動体にグリースを供給するためのグリースニップルである。
【0033】
前記サイドシール10は、エンドキャップ2Bの外形に合ったほぼコ字形状の鋼板と、この鋼板と類似の形状を有してその外面に一体的に固着して形成されたニトリルゴムとから構成されている。そして、案内レール1と接触するシールリップ部Lは、スライダ2と案内レール1との隙間をシールできるように、その案内レール1の断面形状に合せて案内レール1の上面1a及び外側面1bに摺接可能な形状、転動体転動溝3,3'にも摺接可能な形状に成形されている。
【0034】
また、このサイドシール10の両袖部に、取付ネジ貫通用の貫通孔10a,10bが形成されているとともに、両袖部を連結する連結部には、グリースニップル用の貫通孔10cが形成されている。
【0035】
前記潤滑剤含有ポリマの成形品からなる潤滑剤含有ポリマ部材11は、例えぱ高密度ポリエチレン(分子量1X104〜5X105)20重量%と超高分子量ポリエチレン(分子量1X106〜5X106)10重量%からなるFDAの基準に適合したポリエチレンに、FDAの基準に適合した潤滑剤として流動パラフィン70重量%を含有させたものを原料とし、これを射出成形機を用い一度可塑化(溶解)させた後、所定の金型に注入して加圧しつつ冷却固化させて成形されている。
【0036】
その形状は、図3の拡大斜視図に示すように、エンドキャップ2Bの外形に合せた略コ字形状で、必要な潤滑剤量を確保するため等所定の厚みを有している。その内面の形状は実内レ−ル1の横断面の外形形状に一致させてあり、案内レール1の上面1a及び側面1bに沿う形状に形成されているとともに、案内レール1の上の転動体転動溝3'に対応する突部12a,12b、そして、下の転動体転動溝3に対応する突部13a,13bがそれぞれ形成されて案内レール1の横断面外形形状に整合されている。
【0037】
また、潤滑剤含有ポリマ部材11の両袖部に、スライダのエンドキヤップ2Bヘの取付ネジの貫通用の貫通孔11a,11bが軸方向に切り開かれて形成されているとともに、それら両袖部を連結する連結部には、グリースニップル用で、一部が軸方向に切開された貫通孔11cが形成されている。
【0038】
そして、これらの貫通孔11a,11b及び11cのそれぞれには、図2に示されるように、リング状スリーブ部材11A,11B及び11Cが嵌め込まれるようになっている。このリング状スリーブ部材11A、11B及び11Cは、潤滑剤含有ポリマ部材11の厚みより若干長く形成された短い円筒形状の部材であり(L2はL1より長い。)、その外径は、貫通孔11a,11b及び11cに容易に嵌め込める程度の寸法となっており、潤滑剤含有ポリマ部材11をエンドキャップ2Bに装着する時にこれをねじで締め付ける際、部材11が必要以上に圧縮されるのを防ぎ潤滑剤が部材11から絞り出されることがないようにしている。
【0039】
また、リング状スリーブ部材11A、11B及び11Cの外径は、貫通孔11a、11b及び11cの外径よりも大きく形成されている。このようにスリーブ径を大きくすることにより、潤滑剤含有ポリマ部材11の内面を絶えず案内レール1の外面に押し付けて密着させることができ、滲み出してくる潤滑剤を安定的にレールに供給することができる。
【0040】
前記補強板20は、エンドキャップ2Bの外形に合せたほぼコ字形状の鋼板または合成樹脂板であり、その両袖部に取付ネジ21a,21bの貫通用の貫通孔22a、22bが形成されているとともに、それら両袖部を連結する連結部には、グリースニップル7用の貫通孔22cが形成されている。尚、この補強板20は、案内レール1とは接触していない。
【0041】
上記潤滑剤含有ポリマ部材11は、通常、サイドシール10及び補強板20に重ねて、両者の間に挟さまれて組み付けられている。しかし、潤滑剤含有ポリマ部材11は案内レールの外面に密着してサイドシール10と同様のシール機能をも果たし得るから、サイドシール10の代わりに補強板20を使用してもよく、又は補強板20を潤滑剤含有ポリマ部材11の表面のみに重ね、背面はエンドキャップ2Bの端面に直接当てるようにして装着しても良い。
【0042】
この実施形態では、これらサイドシール10、潤滑剤含有ポリマ部材11、補強板20の三者が、取付用ネジ21a、21bをサイドシール10の貫通孔10a、10bと潤滑剤含有ポリマ部材11のスリープ部材11A,11Bと補強板20の貫通孔20a、20b及びエンドキヤップ2Bのネジ貫通孔を通してスライダ本体2Aの取付用ネジ穴に螺合することにより、エンドキャップ2Bに一体に重ねて本休2Aに固定される。
【0043】
このリニアガイド装置において、スライダ2の内部にグリースが充填されていて良く、その場合はFDAの基準に適合した流動パラフィンを基油とし、増ちょう剤がアルミニウム石けんである食品機械用グリースが使用されることが良い。
【0044】
この実施例によれば、サイドシール10とレールとの間及びリニアガイド装置自体に必要な潤滑剤を供給するための潤滑剤供給体に、食品安全性基準に適合した材料を利用することにより、食品機械に適用可能な安全なリニアガイド装置用オイルシールを提供することができる。
【0045】
図4は第2の実施例を示すものであって、本発明の潤滑剤供給体をオイルシール装置のシールリップ部への潤滑剤供給用として組み込んだものの軸方向一部断面図である。すなわち、軸受30によって支持されている回転軸31の端部に、ハウジング32を介してオイルシール装置33が装着されている。このオイルシール装置33の内周面のゴム製のシールリップ33aが回転軸31の外周面に摺接してシール機能を発揮するが、そのシール性能及び寿命を維持するには回転軸31とシールリップ33aとの摺接部に潤滑剤を継続的に供給する必要がある。
【0046】
そのための潤滑剤供給体としての潤滑剤含有ポリマ部材41がオイルシール装置33に隣接してハウジング32の先端部に装着されており、ねじ34で固定されている。この場合の潤滑剤含有ポリマ部材41は、例えば高密度ポリエチレン(分子量1X104〜5X105)20重量%と超高分子量ポリエチレン(分子量1X106〜5X106)10重%からなるFDAの基準に適合したポリエチレンに、潤滑剤としてFDAの基準に適合した流動パラフィンを基油とし増ちょう剤をアルミニウム石けんとした食品機械用グリース70重量%を含有させたものを原料とし、これを射出成形機を用い一度可塑化(溶解)させた後、所定の金型に注入して加圧しつつ冷却固化させてなる肉厚の円環形状であり、その内周面が回転軸31との摺接面になったものである。
【0047】
回転軸31が回転すると、端部の潤滑剤含有ポリマ部材41が回転軸31に接触しつつ摺動(摺接)し、その摺動の摩擦熱の影響も加わって、潤滑剤含有ポリマ部材41の組織内に含有されている潤滑剤が経時的に徐々に滲み出してくる。滲み出した潤滑剤は回転軸31を経てオイルシール装置33へと供給され、そのシールリップ33aに均一に隈無く行き渡って長時間に渡り安定したシール性能を実現する。
【0048】
尚、潤滑剤含有ポリマ部材41は、転がり軸受30の端部を密封するシール部材としても機能し、ハウジング32の内部をオイルシール装置33と共にダブルシールして外部の雰囲気から遮蔽する。これにより、外部雰囲気が水や粉塵などの悪環境下にある場合でも、転がり軸受30の内部はそれらの水や粉塵等に対して保護され、長時間にわたり円滑な潤滑作用を維持することができる。
【0049】
図5,図6は、第3の実施例を示すもので、本発明の潤滑剤供給体50をシールタイプのボールねじ装置のシール兼潤滑剤供給体としてナット端面に装着したものである。図5は、そのシール部材の一部を切り欠いた側面図であり、図6は、この部材をボールねじ装置のナット端に装着した状態を示す、ボールねじの長手方向断面図である。
【0050】
前記潤滑剤供給体50は軸方向にやや長いリング状を呈しており、内周面にねじ軸51のねじ溝51aに嵌合する凸部50aを有すると共に、その側面にリングを切断する切割52が1箇所設けてある。潤滑剤供給体50の外周面には、ガータスプリング53がはめ込まれる環状の周溝54が形成されている。
【0051】
更に、周溝54と干渉しない位置に、円筒状の補強部材55が嵌着されている(1ケ所のみ図示)。この潤滑剤供給体50は、切割52を開いてリングを拡開させてねじ軸51にはめ合わせた後、ボールねじナット56の端面の凹部57に嵌入され、ナット側面からねじ込んだ取付けねじ58の先端を補強部材55に係合させることにより固定されている。
【0052】
切割52で拡開して取り付けた潤滑剤供給体50を、ガータスプリング53で弾性的に締め付けることにより、ねじ軸51のねじ溝51aと潤滑剤供給体50の内周の凸部50aとの嵌合隙間がゼロ以下に保たれる。そして、ねじ軸51の外周面に設けた螺旋状のねじ溝21aと、ボールねじナット56の内周面に設けた螺旋状のねじ溝56aと、その両溝間に装填された複数のボール58との接触面に、潤滑剤供給体50から徐々に滲み出る潤滑剤が自動的に供給されて、摩擦抵抗の増大を抑制するとともに、その潤滑剤がボールねじ自体の潤滑にも寄与する。
【0053】
このボールねじには、ボールねじナット56の内部にグリースが充填されてあっても良く、その場合はFDAの基準に適合した流動パラフィンを基油としFDAの基準に適合した増ちょう剤をアルミニウム石けんとする食品機械用グリースが使用される。
【0054】
また、補強部材55があることから、取付けねじ58から掛かる力が直接潤滑剤供給体50に加わらないので、多量の潤滑剤を含有させた軟らかいポリマから潤滑剤体50を構成することも可能である。
【0055】
前記潤滑剤含有ポリマの成形品からなる潤滑剤供給体50は、例えば、高密度ポリエチレン(分子量1X104〜5X105)25重量%と超高分子量ポリエチレン(分子量1X106〜5X106)10重量%からなるFDAの基準に適合したポリエチレンに、FDAの基準に適合した潤滑剤として流動パラフィン65重量%を含有させたものを原料とし、これを射出成形機を用い一度可塑化(溶解)させた後、所定の金型に注入して加圧しつつ冷却固化させて成形される。
【0056】
前記潤滑剤供給体50には、カバーとシールとを兼ねたポリアセタール製の外殻部材57がその周りを覆うように装着されており、ねじ軸51にあたる部分は僅かに隙間があるラビリンスシールになっている。
【0057】
図7は内外輪70、71の間に保持器74で支持された転動体72を転動自在に設けた玉軸の模式図を示すものである。潤滑剤含有ポリマが軸受の内輪と外輪の内部空間に充填されている。潤滑剤のポリマの組成は、FDAの基準に適合した高密度ポリエチレン15重量%、FDAの基準に適合した超高分子量ポリエチレン10重量%、FDAの基準に適合した流動パラフィン75重量%である。
【0058】
次に、この潤滑剤含有ポリマを次に示す条件により成形した。ここでは、以下に示す二種類の食品機械用潤滑油をベースとする潤滑剤含有ポリマの成形の可否を調べた。
【0059】
(1)流動パラフィン(ホワイトオイル)(日本石油(株):ハイホワイト350)
(2)中鎖脂肪酸トリグリセライド(日本石油(株):フードル)
(1)、(2)の潤滑油を各70重量%と高密度ポリエチレン粉末30重量%をそれぞれ混合しながら摂氏160度まで加熱し、加熱時の様子とそれを冷却固化させた時点での様子を観察した。その結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1より明らかなように、流動パラフィンをベースとすると均一な潤滑剤供給体が成形可能である。しかしながら、流動パラフィンに代えてエステルである中鎖脂肪酸トリグリセライドのみを用いるとすると、均一な性状を持った潤滑剤供給体を得るのが困難である。後者の潤滑剤含有ポリマでは、ポリマと潤滑油が不均一に混合しているため、均一に一体化することは難しく、ポリマの部分が少ない箇所では、転動体によって必要以上に摩耗を受け、潤滑油が素早く供給され過ぎてしまって、潤滑剤の供給を長期に渡って維持することが困難となる。
【0062】
このことから、従来潤滑剤として用いられていた鉱油等を食品機械用潤滑油に全てを置き換えるだけで容易に食品機械用に適した潤滑剤供給体が得られるわけではなく、潤滑剤とポリオレフィン系合成樹脂との相性(相溶性)を考慮することが好ましい。
【0063】
なお、潤滑剤や樹脂がFDAの基準に適合することばかりでなく、その他(国、或いは民間)の食品安全性基準、食品適合性基準等、食品製造機械、医薬品製造機械等に適用する上で必要な一つまたは複数の基準を満足するようなものであってもよい。
【0064】
さらに、本願において、ポリプロピレンが高密度とは、例えば、0.94乃至0.97(g/cm3)であることをいう。超高密度とは、例えば、これを超える密度をいう。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の潤滑剤供給体は、食品安全性基準に適合した流動パラフィンあるいは流動パラフィンを基油とし、アルミニウム石けんを増ちょう剤とするグリースからなる潤滑剤と、ポリオレフィン系合成樹脂から構成される潤滑剤含有ポリマからなる成形体であることから、安全性が高く、食品機械用をはじめ、医療器械用、化粧品機械用の直動案内軸受,ボールねじ,オイルシール等の潤滑剤の供給を必要とする箇所に装着されて、その箇所の潤滑を良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1の実施例を示すものであり、リニアガイド装置に潤滑剤供給体を組み込んだ例を示す全体斜視図である。
【図2】このリニアガイド装置のスライダのレール方向端部における分解斜視図である。
【図3】潤滑剤含有体の斜視図である。
【図4】本発明の第2の実施例を示すものであって、潤滑剤供給体をシールリップ部への潤滑剤供給用として組み込んだオイルシール装置の軸方向の断面図である。
【図5】本発明の第3の実施例を示すものであって、シールタイプのボールねじ装置に適用されたシール兼潤滑剤供給体の一部を切り欠き側面図である。
【図6】この部材をボールねじ装置のナット端に装着した状態を示す、ボールねじの長手方向の断面図である。
【図7】潤滑剤含有ポリマを軸受の内輪と外輪の内部空間に充墳した玉軸受の模式図である。
【符号の説明】
【0067】
1 案内レール
2 スライダ
2B エンドキャップ
3,3' 転動体転動溝
10 サイドシール
11,41,50 潤滑剤含有ポリマ部材
20 補強板
L シールリップ部
30 軸受
31 回転軸
32 ハウジング32
33 オイルシール装置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤を含有した合成樹脂から構成され、潤滑を必要とする複数の部材に適用されて、この部材に対して前記合成樹脂から徐々に滲出して来る潤滑剤を供給するように構成された潤滑剤供給体であって、前記潤滑剤が流動パラフィン、または流動パラフィンを基油とし増ちょう剤をアルミニウム石けんとしたグリースからなるとともに、前記合成樹脂がポリオレフィン系合成樹脂からなることを特徴とする潤滑剤供給体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−292176(P2006−292176A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119332(P2006−119332)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【分割の表示】特願平9−152452の分割
【原出願日】平成9年6月10日(1997.6.10)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】