説明

画像解析による有糸分裂活動の評価方法

【課題】 本発明は、乳癌の組織学及び細胞学で支援するために、頑強な、客観的かつ費用有効ツールで実施することができる画像解析の自動化方法を提供する。
【解決手段】 特に乳癌の徴候に対する組織学的スライドの画像から有糸分裂活動を評価することを目的とする、デジタル画像の自動解析用方法である。方法は、有糸分裂上皮細胞核と一致する強度及び大きさ特性を有する画像内の対象物の位置を識別する段階と、これらの対象物の最も暗い10%を取る段階と、それらの境界形状を示している輪郭を導き出す段階と、及び確率密度連結フィルタ(PDAF)を用いて前記境界の周囲の曲率を平滑にしかつ測定する段階とを具備する。PDAF出力は、有糸分裂の良好な指標である-境界の凹面の測定を計算するために用いられる。対象物は、既知の例で訓練されたフィッシャー分類器の使用によって、境界凹面及び平均強度の関数として、有糸分裂核を表しているか表していないかが最終的に分類される。方法に対するその他の使用は、一定の種類の種子またはその他の粒子を包含している土壌サンプルの画像の解析を含みうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル画像の自動解析に関する。特に、本発明は、特には乳房組織における癌の存在及び激しさを評価することを目的とする組織学及び細胞学標本のデジタル画像における有糸分裂活動の自動識別に関し、かつこれに関連して本発明をここに主に記述する。しかしながら、本発明は、また、大腸癌や子宮頚癌のような、その他の形式の癌の評価における応用、及び、例えば、一定の種類の種子またはその他の粒子を含んでいる土壌サンプルの解析において、同様な方法で識別が容易にできる画像構成要素を示している様々な他の種類の構造の解析における応用を見出しうる。
【背景技術】
【0002】
十分に早期に検出されたならば生存の高い確率が理論的に存在する癌である、乳癌により多数の女性が毎年不必要に亡くなっている。サンプルにおける癌性の組織の存在を見落としたならば、次回の検査が行なわれるまでに、癌が進行してしまいかつ生存の可能性がかなり低減されうる。従って、サンプルにおける癌性の組織を検出することの重要性は、過度の評価であり得ない。
【0003】
一般的な国民乳房検診プログラムは、極微の損傷の早期検出に対してマンモグラフィを用いる。一度乳癌を示す損傷が検出されたならば、診断及び予後を確立するために訓練を受けた組織病理学者によって組織サンプルが取られかつ検査される。特には、乳癌に対する主予後因子の一つは、有糸分裂活動の程度、即ち、起こっている上皮細胞分裂の程度である。組織病理学的スライドは、事実上、細胞分裂処理における非常に短い時間間隔を表している“スナップショット”であり、有糸分裂活動の特定のフェーズを示している特定のスライドの可能性は、非常に小さい;そのようなフェーズがスライドに事実存在するならば、それは潜在的腫瘍がどのくらい早く成長するかのよい指標である。
【0004】
有糸分裂活動を評価するための既存の手動式手順において、組織病理学者は、スライドを顕微鏡に置きかつ有糸分裂の適用に対して×40倍で(タイルと呼ぶ)その領域を検査する。組織サンプルから一般的に10の異なるタイルが検査されかつ細胞分裂の数の合計が計数され、組織病理学者の意見では10のタイルで起こっているように見える。次いで、これは、以下の表に従って一般的に癌の等級の表示に変換される:
【0005】
10タイル毎の有糸分裂細胞の数 癌の等級
0からN 等級1
(N+1)からM 等級2
>M 等級3
ここで等級1は最低位の重症であり、等級3は最上位の重症である。N及びMの値は、一般的に5及び10であるが、観察されているタイルの大きさに依存して異なる方式で変化する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これは、時間のかかる、労力集中かつ高価な処理である。そのような検査を実行するための資格は、取得することが容易ではなくかつ頻繁な見直しを必要とする。検査自体は、目によるカラー画像の解釈を必要とするし、インター、及びイントラ-観察者解析の両方における相当な変化、即ち、観察における変動によって特徴付けられる高度に主観的な処理は、異なる組織病理学者によって、かつ異なる時間において同じ組織病理学者によって同じサンプルに対して発生しうる。例えば、研究は、同じ10のサンプルを検査した二人の異なる組織病理学者がそれらの3つについて異なる意見、30%のエラーを与えうるということを示した。この問題は、あるサンプルの複雑性によって、特に明確な結論が存在しないぎりぎりの場合において、悪化される。十分に訓練されたスタッフが利用可能ではない場合には、これは、解析を完了するための圧力に強い衝撃を与えて、診断における誤評価及び遅延を潜在的に導く。
【0007】
これらの問題は、ある女性が病気を有しているとして正確に認識されないという結果を伴って乳癌に対するスクリーニングの程度及び有効性に実際的な限度が存在するということを意味し、かつある場合には、この失敗が時期尚早の死を結果としてもたらしうる。逆に言えば、その他が乳癌として不正確に診断され、従って不必要な外科的処理を潜在的に行なってしまう。
【0008】
そこで、本発明の目的は、本発明がその他の技術分野において応用を見出しうることを先に示したけれども、乳癌の組織学及び細胞学で支援するために、頑強な、客観的かつ費用有効ツールで実施することができる画像解析の自動化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様において、本発明は、従って、特定された強度及び大きさ特性を有する画像内の対象物の位置を識別する段階と、それぞれの前記対象物を包含する画像内の特定された大きさの領域を定義する段階と、それぞれの前記領域内のデータから、同じ強度の点を備えている一つ以上のそれぞれの閉じた輪郭を導き出す段階と、及び少なくともその凹面の測定を生成するためにそれぞれの前記領域内の少なくとも一つのそれぞれの前記輪郭の曲率を推定する段階とを具備する、画素のアレイを備えているデジタル画像の自動解析方法に存在する。
【0010】
好適な実施形態の後に続く詳細な説明から理解されるように、そのような方法は、組織病理学的スライドのデジタル画像における有糸分裂細胞核を識別することに用いられる。
【0011】
また、本発明は、上述した方法を実行するための手段を備えているデジタル画像の自動解析用装置、及びコンピュータに上述した方法を実行させるように構成されたコンピュータ・プログラム・コード手段を有しているコンピュータ読取り可能媒体を備えているコンピュータ・プログラム製品及びそのようにする命令を具備しているコンピュータ・プログラムにも存在する。
【0012】
本発明のこれら及びその他の形態を、例えば、添付した図面を参照してかつ乳房の潜在的癌の組織病理学的スライドのデジタル画像における有糸分裂上皮細胞核の数に基づき癌を等級分けする自動システムに関してここでより特定して説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、潜在的な乳房の悪性腫瘍(乳癌)の組織病理学的スライドの形式の組織サンプルの評価に対する処理を示す。処理は、患者の診断を評価するための基礎として病理学者による使用のためのパラメータを生成するために上皮細胞の有糸分裂活動を測定する。それは、組織学的スライドから取得したデジタル化された画像データを維持する、データベース1を採り入れる。セクションが乳房組織サンプルからカットされ、それぞれのスライドに置かれ、かつ組織及び細胞構造の輪郭を描くための一般的な染色である、染色剤ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)を用いて染色される。
【0014】
解析用のデジタル化された画像データを得るために、組織病理学者は、顕微鏡でスライドをスキャンしかつ40×倍率で有糸分裂活動を解析する点からみて最も見込みがあるように見えるスライドの領域を選択する。次いで、これらの領域のそれぞれは、顕微鏡及びデジタル・カメラを用いて写真に撮られる。一例では、Zeiss Axioskop顕微鏡がJenoptiks Progres 3012デジタル・カメラと共に用いられた。これは、各領域に対して3色、即ち、赤、緑及び青(R,G,及びB)でそれぞれのデジタル化された画像を生成する。R,G及びB画像面のそれぞれの強度値がアレイの各画素に対してそれゆえに得られる。好適な実施形態において、各カラーに対して8ビット範囲の画素強度(0から255までの値)があり、かつアレイは、220nm四方の画素サイズを有する、横方向1476画素、縦方向1160画素を備えている。画像データは、後の使用のために(図1の参照番号)1(データベース)に一時的に記憶(格納)される。10のデジタル化された画像(タイルの電子的等価物)は、(図1の参照番号)2において有糸分裂活動の検出及び測定に対して要求され、2は、3における診断報告書への入力を次いで供給する。原則として以下に詳述する処理段階は、単一のウェーブバンド(R,GまたはB)画像またはそれらの組合せで動作することができる。しかしながら、実際には、赤のウェーブバンドは、H&Eで染色したときに有糸分裂細胞とその他のセルとを見分けるための最も多くの情報を包含することが見出され、かつ以下の説明で用いられると仮定する。処理は、適当にプログラムされたパーソナル・コンピュータ(PC)または適当な処理能力のその他の汎用コンピュータまたは専用ハードウェアで実行することができる。
【0015】
図2は、図1のブロック2において構成された処理段階をより詳細に示す。処理段階は、上記した10のデジタル化された画像のそれぞれに対して実行されかつ一つの係る画像(タイル)に対してここで説明する。この説明の理解を助けるために、処理の目的は、各タイルにおける(もしあれば)有糸分裂上皮細胞核の数を識別しかつ計数することであるということを思い出す。上述したように取得した画像において、係る核は、一般に正常な上皮細胞核よりも暗く見えるし、かつまた異なる形状を有する。正常な核は、一般に平滑な境界を有する凸面であると同時に有糸分裂核は、形状がよりふぞろい(irregular)でかつでこぼこした境界(ragged boundaries)を有する。しかしながら、有糸分裂上皮細胞核が所与のタイルにおいて常に最も暗い対象物であるとは限らない;例えば、間質系細胞、リンパ球及び壊死性細胞がより暗いものでありうる。所与のタイルに存在しうるが重篤な病気を示しうる比較的少ない数の有糸分裂を仮定すると、可能な限り多くが正確に識別されると同時に、有糸分裂として不正確に識別された正常な細胞核またはその他の対象物の数を最小にすることは、重要である。
【0016】
候補細胞核の位置
ここで図2を参照すると、第1の処理段階21は、全ての可能な候補細胞核(の位置)を捜し出すことで構成されている。潜在的な有糸分裂核の位置を識別するために採用されたアプローチは、有糸分裂核の位置が一般的に平均的な核よりも暗いという事実に基づく。有糸分裂核は、ほとんどの場合固形の暗い対象物(即ち全体を通して暗い)として画像に現れるか、または代わりに時々それらは、小さな暗い塊の群を形成する。それゆえに目標は、暗い画素の集団を見出すことである;これらは、必ずしも暗い画素の連続群である必要はないが、しかし十分な数の群がった暗い画素を包含している領域である。
【0017】
これを行なう様々な方法がある。一つの例は、しきい値が選択されかつこのしきい値以下のグレーレベルを有している画素だけが選択される、簡単なグレーレベル・セグメンテーションである。このアプローチの欠点は、ある有糸分裂核が著しく暗くないが、しかしそれらの形状特性から識別可能なだけであるということである。係る核を検出するために十分に低いしきい値を選択することは、クラッタの超過をもたらすであろう。
【0018】
好適なアプローチは、以下に説明するマルチリゾリーション・ブロッブ・フィルタリングを使用することである。しかしながら、画像処理技術における当業者にとって明らかであるように、本発明は、この特定の技法を採用することなく実施されうる。代替は、同時係属中の英国特許出願第0226787.0号において有糸分裂キューイングとして記述された処理を含む。一般的な原理は、核のおおよその大きさが知られているものと仮定すると、その形状及び大きさがフィルタの形状及び大きさと概ね一致する局所輝度及び暗さの領域がある場合にその出力が大きさにおいて大きい放射相称フィルタを適用することである。このフィルタは、ゼロ平均を有する差分フィルタであるべきであり、それにより一定強度のエリアが抑制される。
【0019】
方法は、特定の実施、具体的には例えば、“Multiresolution analysis of remotely sensed imagery”, J. G. Jones, R. W. Thomas, P. G. Earwicker, Int J. Remote Sensing, 1991, Vol. 12, No. 1, pp. 107-124から知られたマルチスケール・ブロッブ・フィルタに関してここで説明される。処理は、これらが連続オクターブ(2の累乗)・スケール・サイズで定義される、特定の大きさのブロッブ・フィルタを用いて画像をフィルタすることに対して記述される。
【0020】
マルチスケール・ブロッブ・フィルタに対する再帰的構築処理は、二つのフィルタを含む;以下に定義するような3×3ラプラシアン・ブロッブ・フィルタ(L)及び3×3平滑フィルタ(s)。
【0021】
【数1】

これら二つのフィルタは、以下の処理による、一組のオクターブ・スケール・サイズにわたるフィルタリングに対する基礎を形成する:
【0022】
最初の解像度(オクターブ・スケール 1、画素サイズ 1)におけるブロッブ-形状型対象物を向上させるために、画像は3×3ラプラシアン・フィルタだけに相関される:
【0023】
【数2】

ここでlは最初の画像、そしてインデックス(索引)m及びnの範囲は上記総和におけるインデックスが常に最初の画像寸法内にあるような組である(そこでm及びnは2で開始する)。これらの範囲の外側の位置でフィルタされた画像の値はゼロに設定される。
【0024】
計算効率に対して、±1による乗算は、明示的に実行する必要がない。そこで、位置(i,j)に配置された画素に対するフィルタされた出力値は、
【0025】
【数3】

によって与えられる。
【0026】
最初よりも1オクターブ上の解像度(オクターブ・スケール 2、画素サイズ 3)でブロッブ-形状型対象物を向上させるために、画像は、3×3平滑フィルタ(s)とまず相関され、平滑された画像(S2)を形成する。次いで、3×3ラプラシアン・ブロッブ・フィルタ(L)は、5×5フィルタ[−10−10−1;00000;−1080−1;00000;−10−10−1]を形成するために、ゼロでそれをパディングすることによって、2の因数によって拡張される。次いでこれは、フィルタされた画像(F2)を形成するために平滑された画像(S2)と相関されるが、しかし計算効率に対して、非ゼロ・フィルタ係数だけが用いられ、それゆえに:
【0027】
【数4】



ここでlは最初の画像、そしてインデックスm及びnの範囲は上記総和におけるインデックスが常に最初の画像寸法内にあるような組である(そこでm及びnは4で開始する)。これらの範囲の外側の位置でフィルタされた画像の値はゼロに設定される。
【0028】
上記二つの相関は、拡張した5×5ラプラシアンを3×3平滑フィルタと相関することから形成された7×7フィルタを有する最初の画像の単一の相関に等しいが、しかし、このより大きなフィルタは決して明示的に形成されない。
【0029】
オリジナル(スケール 3、画素サイズ 7)の2オクターブ上の解像度でブロッブ−形状型対象物を向上させるために、平滑フィルタは、上記ラプラシアンと同じ方法で2倍に拡張され、次いで低解像度平滑画像(S3)を付与するために上記平滑された画像(S2)と相関される:
【0030】
【数5】

【0031】
これに続いて、5×5ラプラシアン・フィルタは、9×9フィルタを形成するためにゼロで埋めることによって2倍に拡張され、同じ計算的効率方法で平滑された画像(S3)に相関される、それゆえに:
【0032】
【数6】

【0033】
この処理は、連続オクターブ・スケールで結果を得るために繰り返される。具体的に、毎回、平滑フィルタ及びラプラシアン・ブロッブ・フィルタの両方を拡張する。
【0034】
上記処理は、要求されたオクターブ・スケールで“ブロッブ-フィルタされた”画像を生成するために用いられうる。考察の対象となる対象物(即ち、この場合には暗い画素の集合体は、フィルタ出力の大きさの最も大きな値を有する。局所的に最強のフィルタ出力は、考察の対象となる対象物の中心で発生する。個々の対象物(“ブロッブ”と呼ぶ)は、フィルタ出力の極小値を見出すことによってここに識別され、各ブロッブが位置及び強度を割り当てられ、強度が極小値におけるフィルタ出力の値である。
【0035】
このアプリケーションでは、背景に対して暗い対象物は、一つの選択されたスケール、この例ではオクターブ・スケール5(横方向31画素の核サイズ)におけるフィルタ出力の極小値を見出すことによって識別される。
【0036】
計算効率に対して、画像の空間解像度は、以下の間引き方法を用いて、ブロッブ・フィルタリングの前に縮小される。2の因子による解像度における各縮小(“間引き(thin)”は、まず画像を3×3平滑フィルタ(s)と相関し、次いで2の因子で副標本を取ることによって達成される。単一の間引きに対する式は次のようである:
【0037】
【数7】

ここにIは最初の画像、Tは間引かれた画像、そしてインデックスm及びnは1から間引かれた画像の寸法(ディメンション)の範囲にわたる。間引かれた画像の各寸法は、これがそれぞれ奇数か偶数かにより、最初の画像の対応する寸法から1または2を引き算し、次いで2で割り算することによって与えられる。
【0038】
この例では、画像は、その直線の寸法がオリジナルの大きさの四分の一(エリアが1/16)である、新たな画像を生成するために、上記処理を二度、まず最初の画像に、次いで結果として得られた、間引かれた画像に再び適用することによって、4の因子で解像度が縮小される。例えば、サイズ147×1160画素のタイルの最初の画像は、368×289画素になる。ブロッブは、オクターブ・スケール3(横方向7×7画像)の縮小された解像度画像から上述したようにここで抽出される。これは、最初の画像からスケール5ブロッグを抽出することに等しいが、計算的効率がよい。
【0039】
この処理は、必要な大きさの暗い集団を形成する全ての対象物を識別し、有糸分裂上皮細胞核だけでなく、考察の対象とならない背景クラスタ、間質系細胞、リンパ球及び/又は壊死性細胞、及びフェインター正常上皮核も含みうる。有糸分裂核が平均よりもかなり暗いものであるらしいということが知られているので、ブラッブの最も暗い10%が更なる解析のために選択される。これは、(例えば、Klette R. Zamperoniu P., “Handbook of Image Processing Operations”, John Wiley & Sons, 1996に記載されるような)QuickSortアルゴリズムを用いて、ブラッブをフィルタ出力の昇順に分類し(そこで最も暗い部分が最初に発生する)、分類された値の第10百分位数を見出し、かつこの百分位数よりも暗い全てのブロッグを選択することによって達成される。
【0040】
セグメンテーション及び最初のクラッタ除去
次の処理段階22は、画像の近似セグメンテーションを見出し、背景から、考察の対象となる細胞核に潜在的に関連付けられた(画素の連続組として定義された)領域を分離することを目的とする。標準サイズの最初の画像(赤の構成要素)がこの段階の開始で用いられる。
【0041】
まず第1に、グレーレベルしきい値が選択される。これは、段階21の終りで選択されたブラッブのそれぞれに中心が置かれた一組の15×15画素近隣を選択し、全てのこれら近隣内の全ての画素を単一のリストにコレートし、かつこれらの画素の平均グレーレベルを計算することによって達成される。
【0042】
新しいしきい値の2値画像がここで生成される。上記で計算されたグレーレベルがしきい値平均以下である(しきい値平均よりも暗い)最初の画像の赤の構成要素における画素は、1に設定される;残りの画素は、0に設定される。
【0043】
連続構成要素標識付けがここでこの2値画像に適用される。これは、その値が全て1である連続画素の群である、2値画像の連続領域に数値標識を付与する(A Rosenfeld and A C Kak, “Digital Picture Processing”, Vol. 1 & 2, Academic Press, New York, 1982に記述されるように)既知の画像処理技法である。8-連続規則が用いられて、画素は、画素が水平、垂直、または対角に隣接する場合に接続されるものとみなす。段階21からの選択されたブロッグに対応する各領域は、別個の標識が割当てられ、これらの領域に属する画素を識別できるようにする。以下の領域特性が次いで計算される:
エリア=領域内の画素の数
厚さ=次のように定義された、領域の最小厚さ:領域の各画素に対して、その画素
から領域の外側までの最小距離を見出す。次いで、厚さは、これら最小距離の最大
のものであるように定義される。厚さは、幅と同じではないということに注目する
;矩形に対して厚みは幅の半分であり、かつ円に対して厚さは半径である。
【0044】
そのエリアが190画素よりも少ないかまたはその厚さ4画素よりも少ない領域は、除外される。これらは、有糸分裂細胞核であるにはあまりにも小さい。
この段階で、また各領域内の画素の平均グレーレベルも最初の画像の赤の構成要素から計算される。次いで、これらの平均グレーレベルの総合平均及び標準偏差がグレーレベル正規化における後の使用に対して見出される(段階25)。
【0045】
輪郭選択
次の処理段階23は、低及び高解像度の両方における各残存対象物(remaining object)の境界の実際の形状のより良い表現を獲得するために二つのレベルの輪郭選択を取り入れる。まず第1に、低解像度(大規模)輪郭が計算され、近似形状を与え、そして第2に高解像度(小規模)輪郭が見出されてより正確な境界表現を与える。二つの輪郭の間の一貫性検査に続いて、境界の属性が小規模輪郭から次いで測定される。
【0046】
段階22の後に残っている対象物のそれぞれに対して、考察の対象となる局所領域(ROI)が選択される。このROIは、(段階21で見出されたような)対象物の公称中心に中心が置かれ、かつ各方向に50画素の大きさを有し、領域の大きさは、ROIが最初の画像の範囲内に存在することを確実にするために必要に応じて切り捨てられる。これは、さもなければ画像のエッジをオーバーラップするであろうROIsを含ませる。代替的に、ROIsは、段階22で識別された領域を取りかつ選択された数の画素の境界線を追加することによって定義することができる。いずれの場合においても、ROIsは、低解像度輪郭の生成を確実にするためにある程度それらの領域の大きさを超えることが望ましい。
【0047】
各対象物の境界に対する低解像度表現を見出すために、上記ROIによって定義された領域は、ブロッブ・フィルタの出力内の副画像を定義するために用いられる(段階21)。副画像は、正及び負のグレーレベルの両方で構成されている。この副画像内の二つのレベルにおける輪郭は、具体的には、経験的に最良であることが見出されたレベル0及び−10で、次いで捜し求められる。段階21におけるブロッブ・フィルタの動作によって、それぞれの副画像におけるゼロ・レベル輪郭は、最高エッジ強度を示すその輪郭である。輪郭は、ある所与の関数に対して等しい値の点で構成されている曲線である;この場合には、関数は、グレーレベル画素値によって定義される。この実施形態では、Matlab(登録商標)輪郭関数が採用されているが、輪郭の回りに順序付けて配置された一組の連続点と同じ形に輪郭を戻すあらゆる輪郭形成(contouring)アルゴリズムを用いることができる;(Matlab(登録商標)は、The MathWorks, Inc.からのよく知られた計算ツールである。)。Matlab(登録商標)は、輪郭の回りの位置の順番にある副画素解像度を有する一組の位置を戻す、即ち、一組の位置をトラバースすることは、輪郭の回りを歩くことに等しい。輪郭は、それらが全ての以下の4つの条件を満足する場合にだけ有効であるとして処理される:
- それらがROI内で閉じられたループを形成する、即ち、最後の輪郭点が第1の輪郭点と同じである;
- それらが対象物の位置(ロケーション)と一致する(対象物の名目上の中心からの距離が30画素以下であるような少なくとも一つの輪郭点が存在する);
- それらが段階22で計算されたグレーレベル・セグメンテーションから見出された“名目上のエリア”に対して十分に小さいエリアを有する(輪郭内のエリアの定義は、このセクションの後の方で与えられる)。輪郭エリアは、名目上のエリアの少なくとも50%でなけらばならない;
- それらは、正しいグレーレベル配向を有する、具体的には輪郭エリア内の画素は、輪郭の外側のものよりも暗い。
【0048】
対象物は、有効輪郭が二つの輪郭レベルの少なくとも一つ(0または−10)から見出された場合にのみ将来の解析に対して保持される(コンピュータのリストに維持される)。両方の輪郭レベルが有効な輪郭をもたらしたならば、後者のもの(−10)が将来の使用に対して選択される。
【0049】
高解像度表現を見出すために、上記ROIによって定義された領域は、副画像を形成するために最初の画像の赤の構成要素から取り除かれる。輪郭は、その最初の解像度で画像から抽出されない、なぜならばこれらがあまりにも粗いことが見出されているからである。代わりに、結果として得られた副画像は、更なる解像度を与えるために、Matlab(登録商標)双一次挿入関数(bilinear interpolation function)を用いて、大きさが2倍に拡大される。双一次挿入では、最初の画像グリッドの上ではない選択された点の値を見出すために、その4つの最も近いグリッド点が捜し出され、かつ選択された点からその4つの近隣者のそれぞれまでの相対距離が計算される。これらの距離は、選択された点におけるグレーレベル値に対する重み付けされた平均を供給するために用いられる。
【0050】
次いで、この挿入された画像は、以下のように定義された3×3平滑化フィルタ(s)と相関すること(段階21に関する先の説明を参照)によって、輪郭形成の前に平滑にされる:
【0051】
【数8】

【0052】
次いで、有効輪郭は、いくつかのしきい値レベルのそれぞれで捜し求められる。しきい値レベルの範囲は、副画像内の最小グレーレベルで開始し、かつ10グレーレベルのステップで最大グレーレベルまで増加して、実際の輪郭レベルは、適応的に設定される。有効輪郭は、上記した低解像度境界に対するものと同じ方法で定義される。
【0053】
各しきい値レベルにおいて一組の有効輪郭を見出すことにより、輪郭の各点におけるエッジ強度が推定される。各画像画素におけるエッジ強度は、画像Iの最初の赤の構成要素のベクトル勾配の係数(modulus)として定義され、ここでベクトル勾配は、



【0054】
【数9】

として定義され、ここで二つの偏導関数は、X及びY方向の画素グレーレベル値における差をそれぞれ取ることから得られる。画像画素間に存在する輪郭点におけるエッジ強度は、最も近い画素値から(上述したような)双一次挿入を用いて推定される。次いで、輪郭の回りの平均エッジ強度が計算される。最大エッジ強度を有している輪郭は、対象物の境界の最代表であるとして選択される。有効輪郭が見出されなかった場合には、対象物は除外される。
【0055】
次いで、低解像度輪郭と高解像度輪郭との間の一貫性検査が実行される。各輪郭内のエリアは、(例えば、“Vector Analysis and Cartesian Tensors”, D. E. Bourne and P. C. Kendal, 2nd ed., Nelson, 1977のChapter 6に記述されるような)グルーンの定理を用いて境界輪郭から計算される。これは、エリアに対して以下の式を与える:
【0056】
【数10】

ここで(xi,yi)は輪郭点である。
【0057】
次いで、これらのエリアに以下のテストを受けさせる:
高解像度エリア>0.6*低解像度エリア
高解像度エリア<1.4*低解像度エリア
これらのテストのいずれかに失敗したならば、対象物は除外される。
【0058】
最終的に、各対象物に対する低及び高解像度輪郭が十分にオーバーラップするという検査がある。各対象物に対して、二つの2値画像が形成される。第1の2値画像は、Matlab(登録商標)関数roipolyを用いて、低解像度輪郭内に存在する画素の値を1に設定し、かつ輪郭の外側にある画素を0に設定することによって形成される。第2の2値画像は、高解像度輪郭から同じ方法で形成される。これら二つの画像の絶対差が取られ、画素が輪郭の他の一つではない一つの内に存在する場合にのみ画素が1に設定され、それ以外は0に設定されるような別の2値画像を結果としてもたらす。連続構成要素標識付け(段階22の説明を参照)は、個別の領域を識別するためにこの新しい2値画像に適用される。これらの領域のそれぞれの厚さが計算される(段階22におけるように)。ある領域の厚さが5画素を超える場合には、対応する対象物が除外される。
【0059】
段階23処理の効果の簡略化したビジュアリゼーションを図3及び図4に示す。
図3(a)では、考察の対象となる局所領域30は、一連の輪郭によりこの図で表される対象物32の名目上の中心31の回りに定義される。また第2の対象物33も同じ副画像に表されている。図3(b)は、対象物32に対して計算された低解像度境界輪郭34を示し、図3(c)は、同じものに対して計算された高解像度境界輪郭35を示す。図3(d)は、陰影がつけられた差36の領域と共にこれら二つの解像度の間のオーバーラップを示す。この場合には輪郭34及び35内のエリアは、十分に類似しかつ領域36の厚さは、全ての上記一貫性検査をパスするために十分に小さくかつ対象物32が保持される。結果としてこれらの検査は、対象物が有糸分裂細胞核を潜在的に示すために十分に均一に暗いということを示している。対象物33は、その輪郭が中心31と一貫性がないので、ROI30に対して有効であるとは処理されない。しかしながら、それは、それ自体の名目上の中心の周りに定義された個別のROI(図示省略)内で個別に解析される。
【0060】
図4(a)には、対象物41の回りに定義された考察の対象となる局所領域40の別の例がある。図4(b)は、この対象物に対して計算された低解像度境界輪郭42を示しかつ図4(c)は、高解像度境界輪郭43を示す。この場合には輪郭43のエリアは、輪郭42のそれよりも実質的に小さい(概ね0.4)ので、上記一貫性検査の第1に失敗し、かつ対象物41は、それ以上には処理されない。これは、(低解像度境界として選択された)より暗い領域によって取り囲まれた(その高いエッジ強度により高解像度境界として選択された)比較的暗い核小体を有する正常上皮細胞核を示す。
【0061】
境界追跡
次の処理段階24は、追跡アルゴリズムを、曲率を推定するために先の段階23から保持された各対象物に対する対象物の境界を表している高解像度輪郭に適用する。目的は、境界を平滑にさせそして曲率を測定することである。なぜならば、輪郭セグメントから曲率を単に計算することは、あまりにも大雑把な測定を与えるからである。有糸分裂細胞核の識別に対して、境界の非凸面の程度は、考察の対象となり、後の計算の方法は、不適切である。
【0062】
好適な実施形態で用いられた特定のアルゴリズムは、Y. Bar-Shalom and T. E. Fortmann, “Tracking and Data Association”, Mathematics in Science and Engineering series, vol. 179, Orlando, Fl., Academic Press, 1988で記述されたような、確率密度連結フィルタ(Probability Density Association Filter;PDAF)に基づく。この種の追跡アルゴリズムは、問題の対象物に関係ないその他の測定(雑音及びクラッタ)が存在するところで選択された対象物(ターゲット)のパラメータを推定するために設計されている。この場合には“ターゲット”状態変数は、対象物の境界の位置、配向及び曲率であり、かつ測定は、輪郭点の位置及び輪郭点の各ペアを接続している線の配向である。
【0063】
PDAFフィルタは、境界状態のダイナミックスに対するモデルを必要とする。境界ダイナミックスは、一定の曲率(曲率半径が10画素に設定される)+(プラス)システム・ノイズとして知られた仮想ランダム摂動(assumed random perturbation)によって与えられる。このノイズは、曲率摂動の変動(variance of curvature perturbation)によって決定され、有糸分裂細胞核の境界がどのように不規則であるかが予測されることにより選択される。好適な実施形態では曲率変動は、位置に対して9かつ角度(ラジアン)に対して0.09である。
【0064】
開始点として、有糸分裂細胞核を潜在的に表している各対象物に対して連続組のエッジ特徴が画像から抽出されるものと仮定される。この場合には、各エッジ特徴は、輪郭抽出処理の一部として実行された以下の測定を有する:
エッジの中心のポジションxm,ym(水平及び垂直画像座標)
配向θm、即ち、エッジと水平の間の角度
【0065】
追跡装置の目的は、仮想ガウス分布を伴う測定エラーが存在すると仮定して、上記測定から各点における境界の最もそれらしい真の位置xs,ys,配向θs及び曲率κを推定することである。以下の情報ベクトルが定義される:
測定ベクトル z=(xm,ym,θm);
システム状態ベクトル x=(xs,ys,θs,κ)
【0066】
これを行なうようにPDAFフィルタを用いるために、真の境界及び測定処理に関する以下の情報が要求される:
境界上の近隣する点の位置、配向及び曲率間の関係(システム・モデル)。これは、近隣する状態xをリンクする遷移マトリックスΦと、余分のランダム摂動をxに加えるシステム・ノイズ・モデルとを組み込む。
測定ベクトルzとシステム状態xとの間の関係。これは、xをzにリンクする遷移マトリックスHと、余分のランダム摂動をzに加える測定ノイズ・モデルとを組み込む。
エッジ・フューチャの全てが核境界に関連付けられるとは限らないと仮定する;クラッタとして示されていないものである。
【0067】
その最も一般的な形においてPDAFは、xを推定することにおける各ステップでいくつかの測定zを処理する。この場合には一つのエッジ特徴だけが一度に処理されて、テストされるべき二つの仮説が存在するだけである;特徴がクラッタからかまたは実際の核境界からの、いずれかである。
【0068】
システム遷移マトリックスΦは、一定の曲率に基づくので、近隣するシステム状態を予測するために、曲率κ、点xs,ysを通って行く正接傾斜θsを有する単一の円または直線は、次の測定点に最も近い点に挿入される。
【0069】
システム・ノイズは、曲率、配向及び垂直オフセット(境界に垂直な方向Kにおける移動)における独立摂動に基づくゼロ平均及び共分散マトリックスを伴うガウス分布を有する。ブラウン・モデルが用いられ、曲率、配向及び垂直オフセットにおける摂動の標準偏差は、先の段落の挿入された円のアーク長の平方根に比例する。配向(オリエンテーション)及び垂直オフセットにおける曲率摂動の累積された効果もまたモデル化されて、以下の共分散マトリックスを結果としてもたらす:
【0070】
【数11】

システム曲率κ、システム傾斜θ及び垂直オフセットにそれぞれ関して、sは、アーク長(先の点と次の点の推定との間の環状距離)である。定数σκ、σ、σsyは、核境界の平均粗さを定義し、かつ解析される細胞の種類に依存する。
【0071】
測定遷移マトリックスHは、システム・パラメータを自然な方法で測定パラメータにマップする:
【0072】
【数12】

測定ノイズは、傾斜及び垂直オフセットの独立的なガウス分布型摂動に基づき、測定傾斜及び垂直オフセットに関してそれぞれ以下の共分散マトリックスを結果としてもたらす:


【0073】
【数13】

定数σ、σmyは、核境界の平均平滑さを定義しかつ解析される細胞の種類に依存する。
【0074】
以下の定数は、クラッタ・モデルを定義するために用いられる:
ρ=クラッタ密度=核境界に関連付けられない単位エリア毎のエッジの平均数。
D=エッジ・フューチャが真の核境界に関連付けられる確率。
これらの定数は、画像に存在するクラッタ、核境界に対するそのエッジ強度及びその平均空間密度の両方に依存する。
【0075】
平均半径rを有する核に対して、上記モデルの以下のパラメータが用いられる(全ての単位は画像画素である):
σκ=r3/2
σmy=3
σ=0.3ラジアン
σsy=0.9
σ=0.09ラジアン
ρ=0.01
D=0.8
【0076】
システム共分散マトリックスMに対する初期値は、
【0077】
【数14】

によって与えられる:
【0078】
PDAF推定装置をここで以下のように連続的に適用する。マトリックスHκ、Qκ及びRκは、(上に定義したように)このアプリケーションでは全て定数である。以下の式は、上に示したBar-Shalom and Fortmannの参考文献から知られるものである。
【0079】
更新:
新しく取り入れたもの
【0080】
【数15】

ここで

【0081】
カルマン利得マトリックス
【0082】
【数16】

ここで

【0083】
ベータ重み
【0084】
【数17】

ここで

i≠0に対して、及び

【0085】
状態推定更新
【0086】
【数18】

【0087】
エラー共分散更新
【0088】
【数19】

ここで

【0089】
予測:
状態推定挿入
【0090】
【数20】

【0091】
エラー共分散挿入


【0092】
【数21】

【0093】
この処理は、輪郭全体がトラバーズされる(即ち、開始点に戻る)まで継続する。次いで、これは、(第2のパスに対する開始条件として第1のパスからの最終状態を用いて)2回目に対して輪郭の回りで繰り返される;これは、平滑化された輪郭の最終推定が想定初期条件に独立であるということを確実にする。
【0094】
PDAF追跡装置から導き出された平滑化された輪郭の曲率は、対象物の境界の非凸面の大きさの測定を見出すためにここで用いられる。まず第1に、曲率の符号は、(境界の外側から見たときに)境界が局所的に凸面であるところで正でありかつ局所的に凹面であるところで負であるように設定される。次いで、曲率の全ての正の値は、ゼロに設定されて、境界が局所的に凹面である位置に非ゼロ値だけをそのまま残す。曲率(Y-軸)に対して外周アーク長、即ち境界に沿った距離(X-軸)のグラフがプロットされ、次いでアーク長に関する曲率の線積分が計算される。この積分の絶対値は、非負(ノン-ネガティブ)の結果を生成するために取られる。最終結果は、“負の曲率エリア”と呼ばれる、非凸面全体の指示を与える無次元量である。ほぼ完全に凸面である対象物、この場合には負の曲率エリアが0.2より小さい対象物は、次いで除外される。この処理からの出力は、各対象物に対する一組の境界測定、具体的には負の曲率エリアであり、より正確にはエリアの推定である。
【0095】
グレーレベル正規化
次に、異なるスライド間の輝度全体における差を考慮に入れるために正規化処理25が実行される。各残っている対象物に対して、段階23で見出された高解像度輪郭内(しかし輪郭上ではない)に閉じ込められた画素の平均グレーレベルが計算される。正規化に用いられた統計量は、段階22から得られた領域のグレーレベルの平均及び標準偏差全体である。次いで(この平均を引き算しかつこの標準偏差で割り算することによって)各対象物のグレーレベルが正規化される。出力は、各仮想核に対する統計量である。
【0096】
第2のクラッタ除外
次の処理26は、有糸分裂核を表している対象物と非有糸分裂核を表している対象物との間を識別するためにフィッシャー分類器に基づく分類及びクラッタ除外の第2の段階を含む。フィッシャー分類器は、例えば、“Statistical Pattern Recognition” by Andrew R. Webb, Arnold Press, 1999のセクション4.3に記述された既知の統計的分類方法であり、かつ過剰訓練に対するその頑強性により処理のこの段階に対して好適である。
【0097】
この場合にはフィッシャー分類器は、上述したように解析によって導き出された各対象物に関する一組の情報を用いる。各情報の組は、特徴ベクトル、即ち、それぞれが対象物のある形態を記述している実数の順序付けされたリストである;各構成要素番号は、対象物特徴を示す。分類アルゴリズムの目的は、それらの特徴ベクトルに包含された情報に基づき対象物の二つの分類の間を識別することである。アルゴリズムの出力は、それが表す核が二つの選択された分類(この場合には分類は有糸分裂及び非有糸分裂である)の一つのメンバーであるという可能性を示している、各対象物に対して一つの、一組の数(番号)である。
【0098】
所与の特徴ベクトルxに対して、フィッシャー分類器出力の標準実施は、以下のように定義される:
【0099】
【数22】

ここでx=[x1,...,xk]は、特徴ベクトルである。この実施形態では、この定義は、特徴ベクトルの非線形関数を用いるために拡張された。具体的には:
【0100】
【数23】

ここでakは、指定された実数であり、かつgkは、特徴ベクトルxの指定された関数である。これらの関数及び変数は、既知の分類を有する対象物に対して最少数の誤分類を与えるために選択される。
【0101】
特徴ベクトルxの構成要素は、(段階25で計算された)平均グレーレベル及び(段階24で計算された)負の曲率エリアである。より小さい有糸分裂細胞核は、大きな有糸分裂細胞核よりも暗くかつ小さい凹面になる傾向があるので、原則としてエリアを用いることもできる。この場合には基底関数(gk)の二次の組を用いて、フィッシャー分類器値が次のように与えられる:
【0102】
【数24】

ここでGは、正規化されたグレーレベル、Cは、負の曲率エリア、及びaiは、以下に示す訓練段階から導き出される。
【0103】
フィッシャー分類器に対する係数及び決定境界は、正確な評価用データ(ground truth)(有糸分裂及び非有糸分裂細胞の組)も利用可能であるような組織病理学者によって供給される多数の例示スライドで分類器を訓練することによって得られる。訓練段階は、誤分類の総数、即ち誤負(見落した有糸分裂細胞)及び誤正(誤って検出した非有糸分裂細胞)の両方を最小にする分類器境界を結果としてもたらす。好適な実施形態では、この訓練段階から導き出された結果として得られた(合成)係数aiは、[−0.87431,0.10205,0.84614,−0.18744,−0.04954,−5.56334]である。図5は、それ(分類器)が訓練されたデータと一緒に分類器を示し、(図5で)プラス(+)は有糸分裂細胞を示しかつクロス(×)は非有糸分裂細胞を示す。
【0104】
有糸分裂計数
段階27は、有糸分裂細胞の核を表すと思われる対象物の数、換言するとその値がフィッシャー分類器の出力における所与のしきい値を超える対象物だけを計数する。好適な基準は、見落した有糸分裂細胞と誤って検出した非有糸分裂細胞との間の最適トレードオフを与えるべく設定された、(図5において決定境界として示された)F>0である。分類器値がこのしきい値を超える対象物の数は、そのタイルに対する有糸分裂計数を定義する。解析された10個のタイルに対する計数は集計され、かつ既存の手動処理手順に関して先に説明したような表に従って癌等級の表示に変換することができる。
【0105】
本発明の好適な実施形態に対して上述した処理段階の全てを実施するためのコンピュータ・プログラムのコーディングは、通常の技法に従って熟練したプログラマによって達成することができる。従って、係るプログラム及びコードは、これ以上説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】図1は、患者診断に対する有糸分裂活動を測定するための本発明による自動処理のブロック図である。
【図2】図2は、図1の有糸分裂検出及び測定ブロックにおける主要段階のよる詳細なブロック図である。
【図3】図2の処理の輪郭選択段階の簡略化した可視化を示す図である。
【図4】図2の処理の輪郭選択段階の簡略化した可視化を示す図である。
【図5】図2の後の段階で用いられるフィッシャー分類器における決定境界を示す図である。
【符号の説明】
【0107】
21 候補細胞核の位置
22 セグメンテーション及び第1のクラッタ除外
23 輪郭選択
24 境界追跡
25 グレーレベル正規化
26 第2のクラッタ除外
27 有糸分裂計数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画素のアレイを備えているデジタル画像の自動解析用方法であって、
(a)特定された強度及び大きさ特性を有する画像内の対象物の位置を識別する段階と、
(b)それぞれの前記対象物を包含する画像内の特定された大きさの領域を定義する段階と、
(c)それぞれの前記領域内のデータから、同じ強度の点を備えている一つ以上のそれぞれの閉じた輪郭を導き出す段階と、及び
(d)少なくともその凹面の測定を生成するためにそれぞれの前記領域内の少なくとも一つのそれぞれの前記輪郭の曲率を推定する段階と
を具備する方法。
【請求項2】
前記段階(a)は、ゼロ平均を有する放射相称差分フィルタの応用を備えている請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記画像は、増加スケールの複数の解像度で濾波される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記位置は、前記フィルタの出力におけるそれぞれの極値の位置に従って識別される請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記フィルタの出力における極値を、強度の順に、分類し、かつそのような順に前記極値の特定された割合に対応する対象物だけを更なる解析のために選択する段階を具備する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記段階(a)に続いて:
前記位置の近隣における画像内の画素の平均強度に関する強度しきい値を選択し;
第1に示した画像における画素が前記しきい値以上かまたは以下かにより2値画像を生成し;
前記第1に示した画像における前記しきい値以下である連続画素で構成された2値画像における領域を識別し;かつ
特定された大きさまたは厚み以下になる2値画像におけるそのような領域に対応する対象物を更なる解析から除外する
段階を更に具備する請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記段階(c)は、それぞれの前記領域に対して、それぞれより低い及びより高い解像度を有しているそれぞれの第1及び第2の前記輪郭を導き出し、前記第1及び第2の輪郭の大きさ及び位置が特定された基準内で一貫しているかどうかを決定し、かつそのように一貫しているならば、段階(d)に対して前記第2の輪郭を選択する段階を具備する請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
それぞれの前記領域に対して、第1の前記輪郭は、
それぞれの特定された強度の一つ以上の輪郭を前記領域内で捜し求め;
各係る輪郭が閉じた輪郭であるかどうか及び特定された位置、大きさ及び/又は強度配向基準と一致するかどうかを決定し;かつ
一つ以上の係る輪郭が閉じた輪郭でありかつ係る基準と一致するならば、最も低い強度の輪郭を前記閉じた輪郭から選択する
ことによって導き出される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記特定された強度は、それぞれの領域内の最も高いエッジ強度の輪郭に対応する強度以下である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項2から5のいずれか一つに追加されたときに、前記第1の輪郭は、それぞれの領域に対して前記フィルタの出力において一つ以上の輪郭を捜し求めることによって導き出されかつ前記特定された強度は、係る出力におけるゼロ・レベル以下である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
それぞれの前記領域に対して、第2の前記輪郭は、
前記領域内の最も低い強度と最も高い強度との間の範囲にわたるそれぞれの特定された強度の複数の輪郭を前記領域内で捜し求め;
各係る輪郭が閉じた輪郭であるかどうか及び特定された位置、大きさ及び/又は強度配向基準と一致するかどうかを決定し;かつ
一つ以上の係る輪郭が閉じた輪郭でありかつ係る基準と一致するならば、最も高いエッジ強度を有している輪郭を前記閉じた輪郭から選択すること
によって導き出される請求項8〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記段階(d)は、それぞれの前記輪郭に対する確率密度連結フィルタのアプリケーションを含む請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記段階(d)は、それぞれの前記輪郭に対して:
凸面及び凹面が正反対の符号である、前記輪郭の周囲の複数の点における前記輪郭の曲率を測定し;
係る曲率の凸面値をゼロに設定し;
輪郭に沿ったそれぞれの点の距離の測定に対して前記点における曲率の結果として生じた値をプロットし;かつ
係るプロットの線積分を凹面の前記測定として計算すること
を具備する請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
(e)それぞれの対象物に対応している輪郭の凹面の前記測定の関数及びそれぞれの対象物の平均強度の測定に従って少なくとも二つの分類の一つに対象物を分類する段階を更に具備する請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記段階(e)は、フィッシャー分類器の使用によって実行される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
それぞれの対象物の強度は、前記段階(e)の前に正規化される請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
(f)前記種別の特定された一つに分類された対象物の数を計数する段階を更に具備する請求項14から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
組織学的または細胞学的標本のデジタル画像の自動解析に対する請求項1から17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記画像は、乳房組織のセクションである請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項17に追加されたときに、前記特定された種類は、有糸分裂上皮細胞核の種類として識別される請求項18または請求項19に記載の方法。
【請求項21】
土壌サンプルのデジタル画像の自動解析に対する請求項1から17のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
組織学的標本のデジタル画像からの有糸分裂活動の自動識別用方法であって、
(a)上皮細胞核に関連付けられた特定された強度及び大きさ特性を有する画像内の対象物の位置を識別する段階と;
(b)それぞれの前記対象物を包含する画像内の特定された大きさの領域を定義する段階と;
(c)同じ強度の点を備えている一つ以上のそれぞれの閉じた輪郭をそれぞれの前記領域内のデータから導き出す段階と;
(d)少なくともその凹面の測定を生成するためにそれぞれの前記領域内の少なくとも一つのそれぞれの前記輪郭の曲率を推定する段階と;及び
(e)それぞれの対象物に対応している輪郭の少なくとも凹面の前記測定の関数として有糸分裂細胞核を表しているとして対象物を分類する段階と
を具備する方法。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれかによる方法を実行するように構成された手段を備えているデジタル画像の自動解析用装置。
【請求項24】
コンピュータに請求項1から22のいずれか一項に記載の方法を実行させるように構成されたコンピュータ・プログラム・コード手段を有しているコンピュータ読取り可能媒体を備えているコンピュータ・プログラム製品。
【請求項25】
コンピュータに請求項1から22のいずれか一項に記載の方法を実行させる命令を備えているコンピュータ・プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−514356(P2006−514356A)
【公表日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−559891(P2004−559891)
【出願日】平成15年12月12日(2003.12.12)
【国際出願番号】PCT/GB2003/005445
【国際公開番号】WO2004/055733
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(501297550)キネティック リミテッド (57)
【Fターム(参考)】