説明

異方導電性接着剤、異方導電性フィルムおよび回路接続構造体の製造方法

【課題】対向配置された2つの回路部材の回路電極同士を電気的に接続するに際し、低温速硬化性と接続信頼性とを高水準で両立することが可能な異方導電性接着剤および異方導電性フィルム、ならびに、該異方導電性接着剤または該異方導電性フィルムを用いた回路接続構造体の製造方法を提供すること。
【解決手段】第一の基板21の主面上に第一の回路電極22が形成された第一の回路部材20と、第二の基板31の主面上に第二の回路電極32が形成された第二の回路部材30とを、含有成分のラジカル反応により色相が変化するラジカル硬化型の異方導電性接着剤または異方導電性フィルムを介して、第一の回路電極および第二の回路電極を対向配置させた状態で加圧・加熱し、第一の回路電極と第二の回路電極とを電気的に接続するための異方導電性接着剤であって、含有成分のラジカル反応により色相が変化するラジカル硬化型の異方導電性接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方導電性接着剤、異方導電性フィルムおよび回路接続構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイとTCP(Tape Carrier Package、テープキャリアーパッケージ)またはFPC(FlexiblePrinted Circuits、フレキシブル回路板)とTCPとの接続、FPCとプリント配線板との接続には接着剤中に導電性粒子を分散させた異方導電性接着剤が使用されている。このような異方導電性接着剤のうち、例えばエポキシ樹脂系接着剤は、作業性に優れるものの、通常、20秒程度の接続時間で140〜180℃程度の加熱、10秒では180〜210℃程度の加熱が必要である。
【0003】
近年、異方導電性接着剤の分野では、生産効率向上のために10秒以下への接続時間の短縮化が求められてきており、低温速硬化性に優れたラジカル硬化型の異方導電性接着剤が検討されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】国際公開第98/44067号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のラジカル硬化型の異方導電性接着剤の場合、従来のエポキシ硬化型接着剤と比較すると、接続温度のばらつきがあった場合にその判定が困難なため、十分な接続抵抗および接着力を安定的に得ることが必ずしも容易とはいえず、接続信頼性の点で未だ改善の余地がある。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、対向配置された2つの回路部材の回路電極同士を電気的に接続するに際し、低温速硬化性と接続信頼性とを高水準で両立することが可能な異方導電性接着剤および異方導電性フィルム、ならびに、該異方導電性接着剤または該異方導電性フィルムを用いた回路接続構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、従来のラジカル硬化型異方導電性接着剤の場合に接続信頼性が不十分となるのは、硬化反応の進行に伴う色相の変化がなく、硬化反応が十分に進行したか否かを目視判定することが極めて困難であることに起因しているとの知見を得た。そして、かかる知見に基づきさらに検討を重ねた結果、加熱または含有成分のラジカル反応により色相が変化する異方導電性接着剤を用いることによって上記課題が解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、第一の基板の主面上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の基板の主面上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とを、第一の回路電極および第二の回路電極を対向配置させた状態で加圧・加熱し、第一の回路電極と第二の回路電極とを電気的に接続するための異方導電性接着剤であって、含有成分のラジカル反応により色相が変化するラジカル硬化型の異方導電剤を提供する。
【0008】
上記本発明の異方導電性接着剤によれば、硬化反応が十分に進行したか否かを色相の変化により容易に判定することができるため、ラジカル硬化型異方導電性接着剤が本来的に有する低温速硬化性を有効に発揮させつつ、十分な接続抵抗および接着力を安定的に得ることが可能となる。
【0009】
上記本発明の異方導電性接着剤は、ラジカル重合性物質と、ラジカル重合開始剤と、ラジカル反応により色相が変化する添加剤と、を含有することが好ましい。
【0010】
また、本発明の異方導電性接着剤は、導電性粒子をさらに含有することが好ましい。
【0011】
また、本発明の異方導電性接着剤においては、ラジカル反応により色相が変化する添加剤が、芳香族ケトン系化合物(アントラキノン、アセトフェノン等を含む)、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル、アゾベンゼン、フルギド類、ジアリールエテン、スピロオキサジン系化合物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、ラジカル重合開始剤とラジカル重合性物質との反応が阻害されにくいという点から、ラジカル反応により色相が変化する添加剤の含有量は、異方導電性接着剤の全重量を基準として、0.05〜5重量%であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、上記本発明の異方導電性接着剤をフィルム状に形成してなる回路接続用接着フィルムを提供する。
【0013】
本発明の回路接続用接着フィルムは、上記本発明の異方導電性接着剤をフィルム状に形成してなるものであり、硬化反応が十分に進行したか否かを色相の変化により容易に判定することができるものである。したがって、本発明の回路接続用接着フィルムによれば、ラジカル硬化型異方導電性接着剤が本来的に有する低温速硬化性を有効に発揮させつつ、十分な接続抵抗および接着力を安定的に得ることが可能となる。
【0014】
また、本発明は、第一の基板の主面上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の基板の主面上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とを、上記本発明の異方導電性接着剤または上記本発明の異方導電性フィルムを介して、第一の回路電極および第二の回路電極を対向配置させた状態で加圧・加熱し、第一の回路電極と第二の回路電極とを電気的に接続する工程を備える回路接続構造体の製造方法を提供する。
【0015】
上記本発明の回路接続構造体の製造方法によれば、硬化反応が十分に進行したか否かを色相の変化により容易に判定することができるため、ラジカル硬化型異方導電性接着剤が本来的に有する低温速硬化性を有効に発揮させつつ、得られる回路接続構造体に十分な接続抵抗および接着力を安定的に付与することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上の通り、本発明によれば、対向配置された2つの回路部材の回路電極同士を電気的に接続するに際し、低温速硬化性と接続信頼性とを高水準で両立することが可能な異方導電性接着剤および異方導電性フィルム、ならびに、該異方導電性接着剤を用いた回路接続構造体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明において、「(メタ)アクリル樹脂」とは「アクリル樹脂」およびそれに対応する「メタクリル樹脂」を意味し、「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸」およびそれに対応する「メタクリル酸」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」およびそれに対応する「メタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリロイル」とは「アクリロイル」およびそれに対応する「メタクリロイル」を意味し、「(メタ)アクリロキシ」とは「アクリロキシ」およびそれに対応する「メタクリロキシ」を意味する。
【0018】
(異方導電性接着剤)
本発明の異方導電性接着剤は、含有成分のラジカル反応により色相が変化するラジカル硬化型の異方導電剤であり、好ましくは、ラジカル重合性物質と、ラジカル重合開始剤と、ラジカル反応により色相が変化する添加剤と、を含有するものである。
【0019】
ラジカル重合性物質(「ラジカル硬化性物質」または「ラジカル重合性化合物」ともいう。)としては、(メタ)アクリル樹脂、マレイミド樹脂、シトラコンイミド樹脂等を構成するモノマーが挙げられる。これらのラジカル重合性物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
(メタ)アクリル樹脂を構成するモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールテトラ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジアクリロキシプロパン、2,2−ビス[4−(アクリロキシメトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(アクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートトリシクロデカニル(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ウレタン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらのモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種顛以上を組み合わせて用いてもよい。また、必要によっては、ハイドロキノン、メチルエーテルハイドロキノン等のラジカル重合禁止剤を硬化性が損なわれない範囲で使用してもよい。
【0021】
さらに、リン酸エステル構造を有するラジカル重合性物質を使用した場合、金属等無機物に対する接着力を向上することができる。リン酸エステル構造を有するラジカル重合性物質は、無水リン酸と2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のモノマーとの反応生成物として得られる。具体的には、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、ジ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート等が挙げられる。リン酸エステル構造を有するラジカル重合性物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
マレイミド樹脂を構成するモノマーとしては、分子中にマレイミド基を少なくとも1個有しているもので、例えば、フェニルマレイミド、1−メチル−2,4−ビスマレイミドベンゼン、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−p−フェニレンビスマレイミド、N,N’−4,4−ビフェニレンビスマレイミド、N,N’−4,4−(3,3−ジメチルビフェニレン)ビスマレイミド、N,N’−4,4−(3,3−ジメチルジフェニルメタン)ビスマレイミド、N,N’−4,4−(3,3−ジエチルジフェニルメタン)ビスマレイミド、N,N’−4,4−ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’−4,4−ジフェニルプロパンビスマレイミド、N,N’−4,4−ジフェニルエーテルビスマレイミド、N,N’−4,4−ジフェニルスルホンビスマレイミド、2,2−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(3−s−ブチル−3,4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニルプロパン、1,1−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)デカン、4,4’−シクロヘキシリデン−ビス(1−(4−マレイミドフェノキシ)フェノキシ)−2−シクロヘキシルベンゼン、2,2−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)へキサフルオロプロパンなどが挙げられる。これらのモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
シトラコンイミド樹脂を構成するモノマーとしては、分子中にシトラコンイミド基を少なくとも1個有しているもので、例えば、フェニルシトラコンイミド、1−メチル−2,4−ビスシトラコンイミドベンゼン、N,N’−m−フェニレンビスシトラコンイミド、N,N’−p−フェニレンビスシトラコンイミド、N,N’−4,4−ビフェニレンビスシトラコンイミド、N,N’−4,4−(3,3−ジメチルビフェニレン)ビスシトラコンイミド、N,N’−4,4−(3,3−ジメチルジフェニルメタン)ビスシトラコンイミド、N,N’−4,4−(3,3−ジエチルジフェニルメタン)ビスシトラコンイミド、N,N’−4,4−ジフェニルメタンビスシトラコンイミド、N,N’−4,4−ジフェニルプロパンビスシトラコンイミド、N,N’−4,4−ジフェニルエーテルビスシトラコンイミド、N,N’−4,4−ジフェニルスルホンビスシトラコンイミド、2,2−ビス(4−(4−シトラコンイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(3−s−ブチル−3,4−(4−シトラコンイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、1,1−ビス(4−(4−シトラコンイミドフェノキシ)フェニル)デカン、4,4’−シクロヘキシリデン−ビス(1−(4−シトラコンイミドフェノキシ)フェノキシ)−2−シクロヘキシルベンゼン、2,2−ビス(4−(4−シトラコンイミドフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパンなどが挙げられる。これらのモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
ラジカル重合性物質の配合量は、硬化時の接続を保持する観点から、異方導電性接着剤の全重量を基準として、5〜70重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましい。
【0025】
また、ラジカル重合開始剤(「加熱により遊離ラジカルを発生する硬化剤」または「遊離ラジカル発生剤」ともいう。)としては、熱または光によってラジカルを発生する化合物であれば特に制限はなく、例えば過酸化物が挙げられる。ラジカル重合開始剤は、目的とする接続温度、接続時間、保存安定性等を考慮し適宜選択される。また、回路部材の接続端子の腐食を抑えるために、ラジカル重合開始剤中に含有される塩素イオンや有機酸は5000ppm以下であることが好ましく、更に、加熱分解後に発生する有機酸が少ないものがより好ましい。また、作製した異方導電性接着剤の安定性が向上することから、室温(25℃)常圧下で24時間の開放放置後に20重量%以上の重量保持率を有することが好ましい。
【0026】
ラジカル重合開始剤としての過酸化物の具体的な化合物としては、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、シリルパーオキサイドなどが挙げられるから選定できるが、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、シリルパーオキサイドは、開始剤中の塩素イオンや有機酸が5000ppm以下であり、加熱分解後に発生する有機酸が少なく、金属等でできた回路部材の接続端子の腐食を抑えることができるため特に好ましい。
【0027】
ジアシルパーオキサイド類としては、イソブチルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、スクシニックパーオキサイド、ベンゾイルパーオキシトルエン、ベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0028】
パーオキシジカーボネート類としては、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシメトキシパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシルパーオキシ)ジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等が挙げられる。
【0029】
パーオキシエステル類としては、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシノエデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノネート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノネート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノネート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート等を挙げることができる。
【0030】
パーオキシケタール類では、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)デカン等が挙げられる。
【0031】
ジアルキルパーオキサイド類では、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド等が挙げられる。
【0032】
ハイドロパーオキサイド類では、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0033】
シリルパーオキサイド類としては、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、ビス(t−ブチル)ジメチルシリルパーオキサイド、t−ブチルトリビニルシリルパーオキサイド、ビス(t−ブチル)ジビニルシリルパーオキサイド、トリス(t−ブチル)ビニルシリルパーオキサイド、t−ブチルトリアリルシリルパーオキサイド、ビス(t−ブチル)ジアリルシリルパーオキサイド、トリス(t−ブチル)アリルシリルパーオキサイド等が挙げられる。
【0034】
ラジカル重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、ラジカル重合開始剤に、分解促進剤または分解抑制剤を組み合せてもよい。また、ラジカル重合開始剤をポリウレタン系、ポリエステル系等の高分子物質で被覆し、マイクロカプセル化して使用することもできる。マイクロカプセル化したものは、可使時間が延長され好ましい。
【0035】
ラジカル重合開始剤の配合量は、硬化反応の反応率の観点から、異方導電性接着剤の全重量を基準として、1〜20重量%が好ましく、2〜15重量%がより好ましい。
【0036】
また、ラジカル反応により色相が変化する添加剤としては、アントラキノン、アセトフェノンなどの芳香族ケトン系化合物、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル、アゾベンゼン、フルギド類、ジアリールエテン、スピロオキサジン系化合物などが挙げられ、ラジカル重合開始剤とラジカル重合性物質との反応を阻害する悪影響が少ないアントラキノン系化合物が好ましい。
【0037】
ラジカル反応により色相が変化する添加剤の配合量は、色相の変化を容易に判定できることから、異方導電性接着剤の全重量を基準として、0.01〜10重量%が好ましく、さらに、ラジカル反応を阻害する悪影響を一層低減できることから、0.1〜1重量%が特に好ましい。
【0038】
ラジカル反応により色相が変化する添加剤としては、異方導電性接着剤を130℃から200℃で5秒程度加熱したときに色相の変化を生じさせることが可能なものが好ましく、ラジカル重合開始剤とラジカル重合性物質との反応を阻害する悪影響が少ない範囲で適用され、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジルが好ましい。
【0039】
本発明の異方導電性接着剤は、ラジカル重合性物質と、ラジカル重合開始剤と、ラジカル反応により色相が変化する添加剤とのみからなるものであってもよいが、フィルム形成性、接着性、硬化時の応力緩和性を付与するため、高分子成分をさらに含有することができる。高分子樹脂成分としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリルゴム等が挙げられる。高分子成分の重量平均分子量は10000〜10000000であることが好ましい。また、高分子成分は、ラジカル重合性の官能基で変成されていても良く、この場合耐熱性が向上する。高分子成分の配合量は、異方導電性接着剤の全重量を基準として、好ましく2〜80重量%であり、5〜70重量%がより好ましく、10〜60重量%が特に好ましい。2重量%未満では、応力緩和や接着力が十分でなく、80重量%を超えると流動性が低下する。
【0040】
また、本発明の異方導電性接着剤は、必要に応じて、充填剤、軟化剤、促進剤、老化防止剤、難燃剤、カップリング剤等の添加剤をさらに含有してもよい。
【0041】
本発明の異方導電性接着剤は、導電性粒子を含まなくても、接続時に相対向する電極が直接接触することにより電気的な接続が得られるが、導電性粒子を含んだ場合、より電極間の電気的な接続をより安定的に行うことができる。導電性粒子としては、Au、Ag、Ni、Cu、はんだ等の金属粒子やカーボン、またはガラス、セラミック、プラスチック等の非導電性粒子にAu、Ag、白金等の貴金属類を被覆した粒子が使用される。金属粒子の場合には表面の酸化を抑えるため、貴金属類で被覆したものが好ましい。上記導電性粒子のなかで、プラスチックを核体としてAu、Ag等で被覆した粒子や熱溶融金属粒子は、接続時の加熱加圧によって変形し接触面積が増加したり、接続電極の高さばらつきを吸収し信頼性が向上する。貴金属類の被覆層の厚さは、好ましくは100Å以上、より好ましくは300Å以上であれば、良好な接続が得られる。また、更には上記導電性粒子を、絶縁性樹脂で被覆したものも使用できる。導電性粒子は、接着剤成分100体積%に対して、好ましくは0.1〜30体積%、より好ましくは0.1〜10体積%の範囲で用途により適宜配合される。
【0042】
本発明の異方導電性接着剤は、常温で液状である場合にはペースト状で使用することができる。常温で固体の場合には、加熱によりペースト化する他、溶剤を用いてペースト化することができる。使用できる溶剤としては、異方導電性接着剤と反応せず、かつ十分な溶解性を示すものであれば特に制限されないが、常温での沸点が50〜150℃である溶媒が好ましい。溶剤の沸点が50℃未満であると、溶剤が室温で容易に揮発してしまい後述するフィルムを作製するときの作業性が悪化する傾向にある。また、溶剤の沸点が150℃を超えると、溶剤が揮発しにくくなり、残存する溶剤により接着後の接着強度が低下する傾向にある。
【0043】
本発明の異方導電性接着剤はフィルム状の形態(すなわち異方導電性フィルム)として用いることも可能である。このように異方導電性接着剤をフィルム状とすると、取扱性に優れ一層便利である。この異方導電性フィルムは、例えば異方導電性接着剤に溶剤等を加えた混合液を、フッ素樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、剥離紙等の剥離性基材上に塗布し、または不織布等の基材に上記混合液を含浸させて剥離性基材上に載置し、溶剤を除去することによって得ることができる。
【0044】
本発明の異方導電性接着剤および異方導電性フィルムによれば、基板上の対向する電極間に配置し、加熱・加圧して、両電極の接着および電気的接続を行うことができる。そして、本発明の異方導電性接着剤および異方導電性フィルムは、低温速硬化性と接続信頼性との両立を可能とするものであり、例えば加熱温度が130〜200℃である場合に接続時間を10秒以下に短縮することができる。ここで、低温速硬化性と接続信頼性との両立との両立の観点から、加熱温度は、150〜180℃がより好ましい。また、圧力は、被着体に損傷を与えない範囲であればよく、一般的には1〜10MPaが好ましい。また、必要に応じて、後硬化を行っても良い。さらに、接続時に、加熱・加圧に加えて、必要に応じて熱以外のエネルギー(光、超音波、電磁波等)を使用してもよい。
【0045】
本発明の異方導電性接着剤および異方導電性フィルムは、上記の優れた特性を有するものであることから、回路接続材料として好適に用いることができる。例えば、第1の回路部材の回路電極と第2の回路部材の電気的に接続する際に、本発明の異方導電性接着剤または異方導電性フィルムを介して2つの回路部材を対向配置した状態で加圧・加熱することによって、ラジカル重合による硬化反応が進行し、他方の回路電極と電気的に接続することができる。そして、異方導電性接着剤または異方導電性フィルムの色相の変化により硬化反応が十分に進行したか否かを容易に判定できるので、得られる回路接続構造体における接続信頼性と低温速硬化性との両立が可能となる。
【0046】
(回路部材の接続構造)
次に、本発明の異方導電性接着剤および異方導電性フィルムを用いて得られる回路部材の接続構造の好適な一例について説明する。図1は、当該回路部材の接続構造の一例を示す概略断面図である。図1に示すように、回路部材の接続構造1は、相互に対向する第1の回路部材20および第2の回路部材30を備えており、第1の回路部材20と第2の回路部材30との間には、これらを電気的に接続する回路接続部材10が設けられている。第1の回路部材20は、第1の回路基板21と、回路基板21の主面21a上に形成される第1の回路電極22とを備えている。なお、回路基板21の主面21a上には、場合により絶縁層(図示せず)が形成されていてもよい。
【0047】
一方、第2の回路部材30は、第2の回路基板31と、第2の回路基板31の主面31a上に形成される第2の回路電極32とを備えている。また、回路基板31の主面31a上にも、場合により絶縁層(図示せず)が形成されていてもよい。
【0048】
第1の回路部材20および第2の回路部材30としては、電気的接続を必要とする電極が形成されているものであれば特に制限されないが、少なくとも一方の電極高さは5〜14μmであることが好ましい。具体的には、液晶ディスプレイに用いられているITO等で電極が形成されているガラスまたはプラスチック基板、プリント配線板、セラミック配線板、フレキシブル配線板、半導体シリコンチップ、TCP、2層FPC等が挙げられ、これらは必要に応じて組み合わせて用いることができる。このように、本実施形態では、プリント配線板やポリイミド等の有機物からなる材質をはじめ、銅、アルミニウム等の金属やITO(indium tin oxide)、窒化ケイ素(Si)、二酸化ケイ素(SiO)等の無機材質のように多種多様な表面状態を有する回路部材を用いることができる。
【0049】
回路接続部材10は、本発明の異方導電性接着剤または異方導電性フィルムを用いて形成されたもので、絶縁性物質11および導電性粒子7を含有している。導電性粒子7は、対向する第1の回路電極22と第2の回路電極32との間のみならず、主面21aと31aとの間にも配置されている。本実施形態の回路部材の接続構造1においては、第1の回路電極22と第2の回路電極32とが、導電性粒子7を介して電気的に接続されている。このため、第1の回路電極22および第2の回路電極32の間の接続抵抗が十分に低減される。したがって、第1の回路電極22および第2の回路電極32の間の電流の流れを円滑にすることができ、回路の持つ機能を十分に発揮することができる。また、この導電性粒子7を上述した配合割合とすることによって電気的な接続の異方性を示すことも可能である。
【0050】
なお、回路接続部材10が導電性粒子7を含有していない場合には、第1の回路電極22および第2の回路電極32の間に所望の量の電流が流れるように、それらを直接接触させるか若しくは十分に近づけることで電気的に接続される。
【0051】
回路接続部材10は本発明の異方導電性接着剤または異方導電性フィルムを用いて形成されたものであるため、接続時間を短縮した場合であっても、第1の回路電極22および第2の回路電極32間の電気特性の長期信頼性を確保することができる。つまり、第1の回路部材20または第2の回路部材30に対する回路接続部材10の接着強度は十分に高く、かつ、接続抵抗が十分低く、しかもこの状態を長期間にわたって持続させることができる。
【0052】
(回路部材の接続構造の製造方法)
次に、上述した回路部材の接続構造の製造方法について、その工程図である図2を参照にしつつ、説明する。
【0053】
先ず、上述した第一の回路部材20と、フィルム状回路接続材料40を用意する(図2(a)参照)。本実施形態においては、フィルム状回路接続材料40として、本発明の異方導電性接着剤をフィルム状に成形してなるもの(すなわち本発明の異方導電性フィルム)が適用されている。回路接続材料は、接着剤成分5と、導電性粒子7とを含有する。ここで、接着剤成分5には上述した本発明に係る接着剤成分が用いられる。なお、回路接続材料が導電性粒子7を含有しない場合でも、その回路接続材料は絶縁性接着剤として異方導電性接着に使用でき、特にNCA(Non-Conductive Adhesive)と呼ばれることもある。また、回路接続材料が導電性粒子7を含有する場合には、その回路接続材料はACA(AnisotropicConductive Adhesive)と呼ばれることもある。
【0054】
フィルム状回路接続材料40の厚さは、10〜50μmであることが好ましい。フィルム状回路接続材料40の厚さが10μm未満では、回路電極22、32間に回路接続材料が充填不足となる傾向がある。他方、50μmを超えると、回路電極22、32間の異方導電性接着剤を十分に排除しきれなくなり、回路電極22、32間の導通の確保が困難となる傾向がある。
【0055】
次に、フィルム状回路接続材料40を第一の回路部材20の回路電極22が形成されている面上に載せる。なお、フィルム状回路接続材料40が支持体(図示せず)上に付着している場合には、フィルム状回路接続材料40側を第一の回路部材20に向けるようにして、第一の回路部材20上に載せる。このとき、フィルム状回路接続材料40はフィルム状であり、取り扱いが容易である。このため、第一の回路部材20と第二の回路部材30との間にフィルム状回路接続材料40を容易に介在させることができ、第一の回路部材20と第二の回路部材30との接続作業を容易に行うことができる。
【0056】
そして、フィルム状回路接続材料40を、図2(a)の矢印AおよびB方向に加圧し、フィルム状回路接続材料40を第一の回路部材20に仮接続する(図2(b)参照)。このとき、加熱しながら加圧してもよい。但し、加熱温度はフィルム状回路接続材料40を構成する異方導電性接着剤または異方導電性フィルムが硬化しない温度、すなわちラジカル重合開始剤が遊離ラジカルを発生する温度よりも低い温度とする。
【0057】
続いて、図2(c)に示すように、第二の回路部材30を、第二の回路電極を第一の回路部材20に向けるようにしてフィルム状回路接続材料40上に載せる。なお、フィルム状回路接続材料40が支持体(図示せず)上に付着している場合には、支持体を剥離してから第二の回路部材30をフィルム状回路接続材料40上に載せる。
【0058】
そして、フィルム状回路接続材料40を加熱しながら、図2(c)の矢印AおよびB方向に第一および第二の回路部材20、30を介して加圧する。このときの加熱温度は、フィルム状回路接続材料40に含まれるラジカル重合開始剤が遊離ラジカルを発生可能な温度とする。これにより、ラジカル重合開始剤において遊離ラジカルが発生し、ラジカル重合性物質の重合が開始される。こうして、フィルム状回路接続材料40が硬化処理され、本接続が行われ、図1に示すような回路部材の接続構造が得られる。
【0059】
加熱温度は、使用する用途、異方導電性接着剤、回路部材によって適宜選択されるが、低温速硬化性の観点からは、130〜200℃が好ましく、150〜170℃がより好ましい。なお、色相の変化により硬化反応が十分に進行したと判定した場合であっても、その後に、必要に応じて、後硬化を行ってもよい。
【0060】
上記のようにして、回路部材の接続構造を製造すると、得られる回路部材の接続構造において、導電性粒子7を対向する回路電極22、32の双方に接触させることが可能となり、回路電極22、32間の接続抵抗を十分に低減することができる。
【0061】
また、フィルム状回路接続材料40の加熱により、回路電極22と回路電極32との間の距離を十分に小さくした状態で接着剤成分5が硬化して絶縁性物質11となり、第一の回路部材20と第二の回路部材30とが回路接続部材10を介して強固に接続される。即ち、得られる回路部材の接続構造においては、回路接続部材10は、上記異方導電性接着剤を含む回路接続材料の硬化物により構成されていることから、回路部材20または30に対する回路接続部材10の接着強度が十分に高くなり、かつ、回路電極22、32間の接続抵抗を十分に低減することができる。また、この回路部材の接続構造は、そのような状態を長期間にわたって持続することができる。したがって、得られる回路部材の接続構造は、回路電極22、32間の電気特性の長期信頼性に優れる。
【0062】
なお、接着剤成分5は、少なくとも加熱によりラジカルを発生するラジカル重合開始剤を含むものでもよく、このラジカル重合開始剤に代えて、光照射のみでラジカルを発生するラジカル重合開始剤を用いてもよい。この場合、フィルム状回路接続材料40の硬化処理に際して、加熱に代えて光照射を行えばよい。この他にも、必要に応じて、超音波、電磁波等によりラジカルを発生するラジカル重合開始剤を用いてもよい。また、接着剤成分5における硬化性成分としてエポキシ樹脂および潜在性硬化剤を用いてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、フィルム状回路接続材料40を用いて回路部材の接続構造を製造しているが、フィルム状回路接続材料40に代えて、フィルム状に形成されていない回路接続材料を用いてもよい。この場合でも、回路接続材料を溶媒に溶解させ、その溶液を、第一の回路部材20または第二の回路部材30のいずれかに塗布し乾燥させれば、第一および第二の回路部材20、30間に回路接続材料を介在させることができる。
【0064】
また、導電性粒子7の代わりに、他の導電材料を用いてもよい。他の導電材料としては、粒子状、または短繊維状のカーボン、AuめっきNi線などの金属線条等が挙げられる。
【0065】
(半導体装置)
次に、本発明の半導体装置の実施形態について説明する。図3は、本発明の半導体装置の一実施形態を示す概略断面図である。図3に示すように、本実施形態の半導体装置2は、半導体素子50と、半導体の支持部材となる基板60とを備えており、半導体素子50および基板60の間には、これらを電気的に接続する半導体素子接続部材80が設けられている。また、半導体素子接続部材80は基板60の主面60a上に積層され、半導体素子50は更にその半導体素子接続部材80上に積層されている。
【0066】
基板60は回路パターン61を備えており、回路パターン61は、基板60の主面60a上で半導体接続部材80を介してまたは直接に半導体素子50と電気的に接続されている。そして、これらが封止材70により封止され、半導体装置2が形成される。
【0067】
半導体素子50の材料としては特に制限されないが、シリコン、ゲルマニウムの4族の半導体素子、GaAs、InP、GaP、InGaAs、InGaAsP、AlGaAs、InAs、GaInP、AlInP、AlGaInP、GaNAs、GaNP、GaInNAs、GaInNP、GaSb、InSb、GaN、AlN、InGaN、InNAsPなどのIII-V族化合物半導体素子、HgTe、HgCdTe、CdMnTe、CdS、CdSe、MgSe、MgS、ZnSe、ZeTeなどのII-VI族化合物半導体素子、そして、CuInSe(ClS)などの種々のものを用いることができる。
【0068】
半導体素子接続部材80は、絶縁性物質11および導電性粒子7を含有している。導電性粒子7は、半導体素子50と回路パターン61との間のみならず、半導体素子50と主面60aとの間にも配置されている。本実施形態の半導体装置2においては、半導体素子50と回路パターン61とが、導電性粒子7を介して電気的に接続されている。このため、半導体素子50および回路パターン61間の接続抵抗が十分に低減される。したがって、半導体素子50および回路パターン61間の電流の流れを円滑にすることができ、半導体の有する機能を十分に発揮することができる。また、この導電性粒子7を上述した配合割合とすることによって電気的な接続の異方性を示すことも可能である。
【0069】
なお、半導体素子接続部材80が導電性粒子7を含有していない場合には、半導体素子50と回路パターン61とを所望の量の電流が流れるように直接接触させるか若しくは十分に近づけることで電気的に接続される。
【0070】
半導体素子接続部材80は上記接着剤成分を含む異方導電性接着剤の硬化物により構成されている。このことから、半導体素子50および基板60に対する半導体素子接続部材40の接着強度が十分に高くなり、かつ、半導体素子50および回路パターン61間の接続抵抗を十分に低減することができる。そして、この状態を長期間にわたって持続させることができる。したがって、半導体素子50および基板60間の電気特性の長期信頼性を十分に高めることが可能となる。
【0071】
(半導体装置の製造方法)
次に、上述した半導体装置の製造方法について説明する。
【0072】
まず、回路パターン61を形成した基板60と、フィルム状半導体素子接続材料を用意する。フィルム状半導体素子接続材料は、半導体素子接続材料をフィルム状に成形してなるものである。半導体素子接続材料は、接着剤成分5と、導電性粒子7とを含有する。ここで、接着剤成分5には上述した本発明に係る接着剤成分が用いられる。
【0073】
フィルム状半導体素子接続材料の厚さは、10〜50μmであることが好ましい。フィルム状半導体素子接続材料の厚さが10μm未満では、回路パターン61と半導体素子50間に半導体素子接続材料が充填不足となる傾向がある。他方、50μmを超えると、回路パターン61と半導体素子50間の異方導電性接着剤を十分に排除しきれなくなり、回路パターン61と半導体素子50間の導通の確保が困難となる傾向がある。
【0074】
次に、フィルム状半導体素子接続材料を基板60の回路パターン61が形成されている面上に載せる。なお、フィルム状半導体素子接続材料が支持体(図示せず)上に付着している場合には、フィルム状半導体素子接続材料側を基板60に向けるようにして、基板60上に載せる。このとき、フィルム状半導体素子接続材料はフィルム状であり、取り扱いが容易である。このため、基板60と半導体素子50との間にフィルム状半導体素子接続材料を容易に介在させることができ、基板60と半導体素子50との接続作業を容易に行うことができる。
【0075】
そして、フィルム状半導体素子接続材料を加圧し、フィルム状半導体素子接続材料を基板60に仮接続する。このとき、加熱しながら加圧してもよい。但し、加熱温度はフィルム状半導体素子接続材料中の異方導電性接着剤が硬化しない温度、すなわちラジカル重合開始剤がラジカルを発生する温度よりも低い温度とする。
【0076】
続いて、半導体素子50をフィルム状半導体素子接続材料上に載せる。なお、フィルム状半導体素子接続材料が支持体(図示せず)上に付着している場合には、支持体を剥離してから半導体素子50をフィルム状半導体素子接続材料上に載せる。
【0077】
そして、フィルム状半導体素子接続材料を加熱しながら、基板60および半導体素子50を介して加圧する。このときの加熱温度は、ラジカル重合開始剤がラジカルを発生可能な温度とする。これにより、ラジカル重合開始剤においてラジカルが発生し、ラジカル重合性物質の重合が開始される。こうして、フィルム状半導体素子接続材料が硬化処理され、本接続が行われる。
【0078】
加熱温度は、例えば、90〜200℃とし、接続時間は例えば1秒〜10分とする。これらの条件は、使用する用途、異方導電性接着剤、基板によって適宜選択され、必要に応じて、後硬化を行ってもよい。
【0079】
次いで、必要に応じて半導体素子を樹脂封止する。このとき、樹脂封止材を基板の表面に形成するが、基板の表面とは反対側の面にも樹脂封止材を形成するとしてもよい。これにより図3に示すような半導体装置が得られる。
【0080】
上記のようにして、半導体装置を製造すると、得られる半導体装置において、導電性粒子7を対向する回路パターン61と半導体素子50の双方に接触させることが可能となり、回路パターン61と半導体素子50間の接続抵抗を十分に低減することができる。
【0081】
また、フィルム状半導体素子接続材料の加熱により、回路パターン61と半導体素子50との間の距離を十分に小さくした状態で接着剤成分5が硬化して絶縁性物質11となり、基板60と半導体素子50とが半導体素子接続部材80を介して強固に接続される。す
なわち、得られる半導体装置においては、半導体素子接続部材80は、上記異方導電性接着剤を含む半導体素子接続材料の硬化物により構成されていることから、基板50または半導体素子50に対する半導体素子接続部材80の接着強度が十分に高くなり、かつ、半導体素子50および回路パターン61間の接続抵抗が十分に低減される。また、この半導体装置ではそのような状態が長期間にわたって持続される。したがって、得られる半導体装置は、回路パターン61、半導体素子50間の距離の経時的変化が十分に防止され、回路パターン61、半導体素子50間の電気特性の長期信頼性に優れる。
【0082】
なお、上記実施形態では、接着剤成分5として、少なくとも加熱によりラジカルを発生するラジカル重合開始剤を含むものが用いられているが、このラジカル重合開始剤に代えて、光照射のみでラジカルを発生するラジカル重合開始剤を用いてもよい。この場合、フィルム状半導体素子接続材料の硬化処理に際して、加熱に代えて光照射を行えばよい。この他にも、必要に応じて、超音波、電磁波等によりラジカルを発生するラジカル重合開始剤を用いてもよい。また、接着剤成分5における硬化性成分としてエポキシ樹脂および潜在性硬化剤を用いてもよい。
【0083】
また、上記実施形態では、フィルム状半導体素子接続材料を用いて半導体装置を製造しているが、フィルム状半導体素子接続材料に代えて、フィルム状に形成されていない半導体素子接続材料を用いてもよい。この場合でも、半導体素子接続材料を溶媒に溶解させ、その溶液を、基板60または半導体素子50のいずれかに塗布し乾燥させれば、基板60または半導体素子50間に半導体素子接続材料を介在させることができる。
【0084】
また、導電性粒子7の代わりに、他の導電材料を用いてもよい。他の導電材料としては、粒子状、または短繊維状のカーボン、AuめっきNi線などの金属線条等が挙げられる。
【0085】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はこれに制限されるものではない。
【実施例】
【0086】
以下、実施例および比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0087】
[接着剤の作製]
(実施例1)
フェノキシ樹脂(ユニオンカーバイド株式会社製、商品名PKHC、平均分子量45,000)50gを、トルエン(沸点110.6℃、SP値8.90)/酢酸エチル(沸点77.1℃、SP値9.10)=50/50(重量比)の混合溶剤に溶解して、固形分40重量%の溶液とした。この溶液に、ラジカル重合性物質としてリン酸エステル型アクリレート(商品名:P2M、共栄社油脂株式会社製)およびトリヒドロキシエチルグリコールジメタクリレート(商品名:80MFA、共栄社油脂株式会社製)を、固形分の重量比がフェノキシ樹脂/トリヒドロキシエチルグリコールジメタクリレート/リン酸エステル型アクリレート=50/49/1となるように加えた。さらに、溶液中の樹脂成分100重量部に対し、ラジカル重合開始剤として2,5−ジメチル−2,5ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン(商品名:パーヘキサ25O、共栄社油脂株式会社製)を5重量部、ラジカル反応により色相が変化する添加剤として1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジルを0.05重量部、導電性粒子としてNi粉(平均粒子径5ミクロン)を5重量部、それぞれ配合して分散させ、塗布液を得た。
【0088】
次に、厚みが75μmであり、表面処理されているPET(ポリエチレンテレフテレート)フィルムを準備した。このPETフィルムに上記の塗布液を塗布し、70℃、5分の熱風乾燥を行い、厚み35μmの接着剤層を有する異方導電性フィルムを得た。
【0089】
厚み80μmの片面を表面処理したPETフィルムに塗工装置を用いて塗布し、70℃、10分の熱風乾燥により、接着剤層の厚みが35μmの異方導電性接着剤を得た。塗布液の塗布には簡易塗工機(テスター産業製)を用いた。
【0090】
[接続体の作製]
(接続体Aの作製)
得られた異方導電性フィルムを用いて、ライン幅100μm、ピッチ200μm、厚み18μmの銅回路に錫めっきしたフレキシブル回路板(FPC)と、ライン幅100μm、ピッチ200μm、厚み35μmの銅回路に金めっきし、一部の回路がスルーホールと連結した回路板(PCB)とを、160℃(スルーホール部は140℃)、3MPaで5秒間加熱・加圧して幅2mmにわたり接続した。このとき、予め一方のPCB上に、異方導電性フィルムの接着面を貼り付けた後、70℃、1MPaで2秒間加熱加圧して仮接続し、その後、PETフィルムを剥離してもう一方のFPCと接続することにより、回路を接続した。
【0091】
(接続体Bの作製)
180℃(スルーホール部は160℃)、3MPaで5秒間加熱・加圧したこと以外は接続体Aと同様にして、幅2mmにわたり接続して接続体Bを得た。
【0092】
(実施例2)
ラジカル反応により色相が変化する添加剤として、実施例1における1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジルに代えてアントラキノン系レッド(商品名SC−4014、日本ピグメント社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、異方導電性フィルムの作製および回路の接続を実施した。
【0093】
(比較例1)
ラジカル反応により色相が変化する添加剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、異方導電性フィルムの作製および回路の接続を実施した。
【0094】
[接続抵抗の測定]
実施例1、2および比較例3における回路の接続後、上記接続部を含むFPCの隣接回路間の抵抗値をマルチメータで測定した。抵抗値の測定は、初期(すなわち回路接続後であって後述する高温高湿槽中での保持前)と、85℃、85%RHの高温高湿槽中に500時間保持した後にマルチメータで測定した。抵抗値の測定時の温度は23℃とした。その結果、実施例1、2及び比較例1の接続体Aでは、スルーホール部以外の部分の接続抵抗値が初期で0.1Ωであり、高温高湿中での保持後も抵抗値が1Ω以下の良好な接続信頼性を示した。一方、スルーホール部では、接続抵抗値が初期で0.1Ωであったが、高温高湿中の保持後は5Ω以上に抵抗値が上昇した。スルーホール部以外の部分の加熱温度が160℃であったのに対して、スルーホール部の加熱温度は140℃程度であり、反応不足により接続信頼性が悪くなったと考えられる。
また、実施例1、2及び比較例1の接続体Bでは、全部分の接続抵抗値が初期で0.1Ωであり、高温高湿中での保持後も抵抗値が1Ω以下の良好な接続信頼性を示した。
【0095】
(接着力の測定)
回路の接続後、90度剥離、剥離速度50mm/分で接着力測定を行った。実施例1、2及び比較例1の接続体A及びBにおいて800gf/cm程度の良好な接着力が得られた。
【0096】
(硬化後の色相変化)
接続体Aでは、実施例1の異方導電性フィルムの接着剤層は、接続前はやや桃色の色相であったが、接続後はスルーホール部はやや桃色の色相を呈したがその他の部分は無色に色相が変化した。また、実施例2の異方導電性フィルムの接着剤層は、接続前はやや赤色の色相であったが、接続後はスルーホール部はやや赤色の色相を呈したがその他の部分は無色に色相が変化した。一方、比較例1の異方導電性接着剤は接続前後ともに無色で色相に変化がなかった。
また、接続体Bでは、実施例1、2の場合は全部分で無色に色相が変化したが、比較例1の異方導電性接着剤は接続前後ともに無色で色相に変化がなかった。
【0097】
(反応率の測定)
実施例1、2及び比較例1の接続体のスルーホール部とスルーホール部以外の部分の反応率を、FT−IRによるアクリレートの吸収波長域のピーク変化により測定した。接続体Aのスルーホール部以外の部分は、実施例1、2及び比較例1ともに70%以上の反応率であったが、スルーホール部は40〜50%であり、スルーホール部以外の部分よりも低かった。また、接続体Bのスルーホール部以外の部分は、実施例1、比較例1ともに70%以上の反応率であったが、スルーホール部は40〜50%であり、スルーホール部以外の部分よりも低かった。
【0098】
(再現性試験)
実施例1及び2において、加熱・加圧する時間を計測せず、異方導電性フィルムの接着剤層の色相の変化に基づき加熱・加圧の停止を目視にて判断し、接続体A、Bを作製した。この操作を10回繰り返したところ、得られた接続体A、Bは全て十分な接続抵抗及び接着力を有するものであることが確認された。
【0099】
一方、比較例1においては、加熱・加圧する時間を5秒に固定して、接続体A、Bの作製を10回繰り返した。その結果、得られた接続体Aの10個中7個、接続体Bの10個中0個は、接続抵抗又は接着力が不十分なものであった。
【0100】
以上の通り、本発明によれば、接続前後で色相が変化することにより、加熱が行われたことが容易に判別可能で、接続特性が良好な異方導電材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】回路部材の接続構造の一実施形態を示す部分断面図である。
【図2】(a)〜(c)はそれぞれ回路部材を接続する一連の工程図である。
【図3】半導体装置の一実施形態を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0102】
1…回路部材の接続構造、2…半導体装置、5…接着剤成分、7…導電性粒子、10…回路接続部材、11…絶縁性物質、20…第1の回路部材、21…第1の回路基板、22…第1の回路電極、30…第2の回路部材、31…第2の回路基板、32…第2の回路電極、40…フィルム状回路接続部材、50…半導体素子、60…基板、61…回路パターン、70…封止材、80…半導体素子接続部材。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の基板の主面上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の基板の主面上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とを、前記第一の回路電極および前記第二の回路電極を対向配置させた状態で加圧・加熱し、前記第一の回路電極と前記第二の回路電極とを電気的に接続するための異方導電性接着剤であって、
含有成分のラジカル反応により色相が変化するラジカル硬化型の異方導電性接着剤。
【請求項2】
ラジカル重合性物質と、ラジカル重合開始剤と、ラジカル反応により色相が変化する添加剤と、を含有する請求項1に記載の異方導電性接着剤。
【請求項3】
導電性粒子をさらに含有する請求項1または2に記載の異方導電性接着剤。
【請求項4】
前記ラジカル反応により色相が変化する添加剤が、芳香族ケトン系化合物、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル、アゾベンゼン、フルギド類、ジアリールエテン、スピロオキサジン系化合物から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の異方導電性接着剤。
【請求項5】
前記ラジカル反応により色相が変化する添加剤の含有量が、異方導電性接着剤の全重量を基準として、0.05〜5重量%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の異方導電性接着剤。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の異方導電性接着剤をフィルム状に形成してなる異方導電性フィルム。
【請求項7】
第一の基板の主面上に第一の回路電極が形成された第一の回路部材と、第二の基板の主面上に第二の回路電極が形成された第二の回路部材とを、請求項1〜5に記載の異方導電性接着剤または請求項6に記載の異方導電性フィルムを介して、前記第一の回路電極および前記第二の回路電極を対向配置させた状態で加圧・加熱し、前記第一の回路電極と前記第二の回路電極とを電気的に接続する工程を備える回路接続構造体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−88465(P2009−88465A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2485(P2008−2485)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】