説明

発振器制御装置

【課題】安定した位相雑音特性を高速に得ることができる発振器制御装置を提供する。
【解決手段】動作電流制御信号に基づく動作電流を供給する可変電流源14を含み、発振器調整ワードに応じた発振周波数の発振信号を出力するデジタル制御発振器1と、前記発振信号と基準信号との間の位相差を算出し、位相差信号を出力する位相差算出部(2,3,4)と、前記デジタル制御発振器の発振周波数を設定するための周波数命令ワードと前記位相差信号との差分を平滑化して、前記発振器調整ワードを出力するフィルタ6と、前記発振器調整ワードを測定し、前記動作電流制御信号を出力する制御部7と、を備え、前記制御部は、前記動作電流の値を変化させるように前記動作電流制御信号を出力し、前記発振器調整ワードが極大値となる前記動作電流の値を抽出し、前記可変電流源が供給する動作電流がこの抽出した値となるように前記動作電流制御信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振器制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、アナログ設計には、デジタルと同じプロセスの使用、及び低電圧での動作が要求されている。そのため、従来と同等の安定性を得ることが困難になってきている。RF(Radio Frequency:無線周波)通信装置の回路構成部品の1つであるVCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発振器)には、プロセス及び環境変動に対する特性の安定化が求められる。通信特性を保証する上で、安定した位相雑音特性を実現することが特に重要であると言える。
【0003】
電圧制御発振器は制御電圧を固定した状態において、動作電流の変化に伴い発振周波数が変化する。このとき、位相雑音特性を同時に観測すると、発振周波数が極大となった電流値において位相雑音が最小となる関係があることが知られている。
【0004】
このような関係を利用して、動作電流を変化させながら電圧制御発振器の発振周波数をカウンタ等で検出し、発振周波数が極大値となる動作電流の値を抽出し、実使用時にこの抽出した値を動作電流に設定する動作電流調整装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
しかし、必要とする検出器の周波数分解能を達成するためには長い検出時間が必要となる。そのため、安定した位相雑音特性を得ることに時間がかかるという問題を有していた。
【特許文献1】特開2007−251228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は安定した位相雑音特性を高速に得ることができる発振器制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による発振器制御装置は、動作電流制御信号に基づく動作電流を供給する可変電流源を含み、発振器調整ワードに応じた発振周波数の発振信号を出力するデジタル制御発振器と、前記発振信号と基準信号との間の位相差を算出し、位相差信号を出力する位相差算出部と、前記デジタル制御発振器の発振周波数を設定するための周波数命令ワードと前記位相差信号との差分を平滑化して、前記発振器調整ワードを出力するフィルタと、前記発振器調整ワードを測定し、前記動作電流制御信号を出力する制御部と、を備え、前記制御部は、前記動作電流の値を変化させるように前記動作電流制御信号を出力し、前記発振器調整ワードが極大値となる前記動作電流の値を抽出し、前記可変電流源が供給する動作電流がこの抽出した値となるように前記動作電流制御信号を出力するものである。
【0008】
また、本発明の一態様による発振器制御装置は、動作電流制御信号に基づく動作電流を供給する可変電流源を含み、発振器調整ワードに応じた発振周波数の発振信号を出力するデジタル制御発振器と、前記発振信号と基準信号との間の位相差を算出し、位相差信号を出力する位相差算出部と、前記デジタル制御発振器の発振周波数を設定するための周波数命令ワードと前記位相差信号との差分を平滑化して、前記発振器調整ワードを出力するフィルタと、前記発振器調整ワードを測定し、前記動作電流制御信号を出力する制御部と、を備え、前記制御部は、前記動作電流の値を変化させるように前記動作電流制御信号を出力し、前記発振器調整ワードが極小値となる前記動作電流の値を抽出し、前記可変電流源が供給する動作電流がこの抽出した値となるように前記動作電流制御信号を出力するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安定した位相雑音特性を高速に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態による発振器制御装置を図面に基づいて説明する。
【0011】
図1に本発明の実施形態に係る発振器制御装置の概略構成を示す。発振器制御装置はデジタル制御発振器(以下DCO)1、カウンタ2、TDC(Time to Digital Converter)3、加算器4、減算器5、デジタルフィルタ6、及び制御部7を備え、ADPLL(All Digital Phased Locked Loop)の構成になっている。DCO1は外部制御信号により離散的に発振周波数が制御可能な発振器である。
【0012】
カウンタ2はDCO1の出力(発振信号)と基準信号Refとの位相差を算出する。TDC3はDCO1の出力と基準信号Refとの位相差をカウンタ2より細かい精度で、デジタル表現できる時間計測デバイスである。加算器4はカウンタ2の出力とTDC3の出力とを加算して、加算値を減算器5へ出力する。カウンタ2、TDC3、及び加算器4によりDCO1から出力される発振信号と基準信号Refとの位相差が算出されることになる。
【0013】
減算器5は加算器4から出力される加算値と、周波数設定値FCW(Frequency Command Word:周波数命令ワード)との差分を算出し、差分値をデジタルフィルタ6へ出力する。周波数設定値FCWは基準周波数当たりの位相変化量である。
【0014】
デジタルフィルタ6は与えられた差分値を平滑化し、DCO1の発振周波数を制御する信号OTW(Oscillator Tuning Word:発振器調整ワード)を出力する。信号OTWはDCO1及び制御部7に与えられる。制御部7はDCO1に含まれる可変電流源14へ動作電流制御信号を出力する。可変電流源14は動作電流制御信号に応じた動作電流(バイアス電流)をDCO1に供給する。
【0015】
DCO1の発振周波数が周波数制御値FCWで設定される値から大きく(小さく)なった場合、減算器5で算出された差分値に基づき、デジタルフィルタ6からDCO1へ発振周波数を下げる(上げる)よう制御する信号OTWが出力される。このようにしてDCO1の発振周波数が一定となるような制御が行われる。
【0016】
各信号及び制御値の一例を図2に示す。例えば基準信号Refの周波数を40MHz、DCO1の発振周波数を2400MHzとすると、このADPLLは40MHzで動作していることになり、周波数制御値FCWが1変化することは、DCO1の出力周波数が40MHz変化することに相当する。
【0017】
フィードバックが正常に動作していれば、周波数制御値FCWが60のとき、DCO1の出力周波数は2400MHzであり、基準信号Refの1周期毎のカウンタ2の出力はほぼ60となる。このカウンタ2の出力にTDC3で算出した位相差Δを加えた位相60±Δは平均60となる。
【0018】
図3にDCO1の構成の一例を示す。DCO1はインダクタ10、11、n個(nは2以上の整数)のキャパシタC1〜Cn、nMOSトランジスタ12、13、及び可変電流源14を有する。可変電流源14は制御部7から出力される動作電流制御信号が与えられ、これに応じた動作電流(バイアス電流)を供給する。
【0019】
キャパシタC1〜Cnは並列に接続されたMOS型のキャパシタである。nビットの信号OTWの各ビットの値により、キャパシタC1〜Cnの各々のバックゲート電圧が制御される。
【0020】
例えば信号OTWの1つのビットが1のとき、対応するキャパシタのバックゲート電圧が増加し、容量値が増加する。また、信号OTWの1つのビットが0のとき、対応するキャパシタのバックゲート電圧が減少し、容量値が減少する。信号OTWの値によりキャパシタC1〜Cnの合成容量値が切り替えられ、DCO1の発振周波数を変化させることができる。
【0021】
信号OTWの値とDCO1の発振周波数Fdcoとは図4に示すような関係を有する。信号OTWの値が大きくなると、容量値が増加したキャパシタが増えるため、合成容量値が増加し、発振周波数が低下する。このようにDCO1は信号OTWにより制御可能な離散的な出力周波数を有する発振器である。
【0022】
次に、一般的なDCOのバイアス電流と発振周波数の関係、及びバイアス電流と位相雑音の関係について説明する。図5(a)にDCOのバイアス電流と発振周波数の関係、図5(b)にバイアス電流と位相雑音の関係を示す。
【0023】
図5に示すように、バイアス電流を変化させると発振周波数が変化する。このとき、位相雑音特性を同時に観測すると、発振周波数が極大となった電流値において、位相雑音が最小となることがわかる。すなわち、発振周波数が極大となった電流値において、最も位相雑音特性が良好になる。
【0024】
続いて、図1に示すようなADPLLにおけるDCO1のバイアス電流と信号OTWの値の関係、及びバイアス電流と位相雑音の関係について説明する。図6(a)にDCO1のバイアス電流とDCO1に与えられる信号OTWの値の関係、図6(b)にバイアス電流と位相雑音の関係を示す。
【0025】
上述のようにADPLLにおけるDCO1では発振周波数が一定となるような制御が行われる。そのため、バイアス電流の変化に伴う発振周波数の変化を抑制(補正)するように信号OTWの値が変化する。
【0026】
例えば、バイアス電流の変化に伴って発振周波数が大きくなる場合、信号OTWの値は発振周波数を小さくするように変化する。すなわち信号OTWの値が増加する。また、バイアス電流の変化に伴って発振周波数が小さくなる場合、信号OTWの値は発振周波数を大きくするように変化する。すなわち信号OTWの値が減少する。
【0027】
従って、図6(a)に示すように、DCOの発振周波数が極大値となるバイアス電流のときに、発振周波数を一定にするため信号OTWの値は極大値をとる。このとき、位相雑音特性を同時に観測すると、信号OTWの値が極大となった電流値において、位相雑音が最小となることがわかる。すなわち、信号OTWの値が極大となった電流値において、最も位相雑音特性が良好になる。信号OTWの値はバイアス電流の変化に対して十分な変化量を有するものである。
【0028】
本実施形態では、このバイアス電流と位相雑音の関係を利用し、バイアス電流による信号OTWの値の変化を制御部7が観測して、最適なバイアス電流を検出する。
【0029】
制御部7の動作について説明する。制御部7は電源投入時などの動作開始時にDCO1のバイアス電流を十分大きな値(例えば上限値)に設定する。そしてこの時の信号OTWの値を検出し、記憶する。信号OTWの値を複数回(所定時間)検出して、その平均値を記憶するようにしてもよい。信号OTWの値を格納する記憶領域は制御部7の内部に設けるようしてもよいし、制御部7の外部に設けるようにしてもよい。
【0030】
次に、制御部7はバイアス電流を所定値だけ減少させ、この時の信号OTWの値を検出して記憶する。これをバイアス電流が十分小さい値(例えば下限値)になるまで繰り返す。
【0031】
これにより、図6(a)に示すようなバイアス電流と信号OTWの値が得られる。上述のように、信号OTWの値が極大となるバイアス電流の時に位相雑音特性は最も良くなる。
【0032】
従って、制御部7は信号OTWの値が極大となるバイアス電流値を検出して記憶し、この発振器制御装置の実使用時に、記憶したバイアス電流値をDCO1の可変電流源14に設定する。信号OTWの値はkHz程度の解像度があり、信号OTWの極小値は短時間で得られるため、安定した位相雑音特性を高速に得ることができる。
【0033】
このように、本実施形態による発振器制御装置は、安定した位相雑音特性を高速に得ることができる。また、ADPLL内にもともと存在していた信号OTWの値を利用するものであるため、大きな面積増大を招くことなく実装することができる。
【0034】
上述した実施の形態は一例であって限定的なものではないと考えられるべきである。例えば、上記実施形態では制御部7はバイアス電流を十分大きい値から十分小さい値へ変化させていたが、検出した信号OTWの値が増加から減少に転じた時点でバイアス電流のスイープを終了するようにしてもよい。
【0035】
また、上記実施形態では、制御部7がバイアス電流を徐々に減少させながら信号OTWの値を検出していたが、徐々に増加させながら信号OTWの値を検出するようにしてもよい。このとき、バイアス電流の初期設定値がDCO1の発振可能な値となるようにする。
【0036】
また、上記実施形態ではDCO1のバイアス電流と信号OTWの値が図6(a)に示すような上に凸な関係を有する例を用いて説明したが、図7に示すような下に凸の関係を有する場合は、制御部7は信号OTWの値の極小値を検出し、その時のバイアス電流値を実使用時にDCO1の可変電流源14に設定する。
【0037】
例えばDCO1が、信号OTWの値が大きいほど発振周波数が高くなるときや、バイアス電流と発振周波数の関係が図5(a)とは反対の下に凸となるときなどが該当する。
【0038】
本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態による発振器制御装置の概略構成図である。
【図2】同実施形態による発振器制御装置における各信号の値及び制御値の一例を示す図である。
【図3】DCOの概略構成図である。
【図4】OTW値とDCOの発振周波数の関係を示すグラフである。
【図5】DCOのバイアス電流と発振周波数の関係及びバイアス電流と位相雑音の関係を示すグラフである。
【図6】ADPLLにおけるDCOのバイアス電流とOTW値の関係及びバイアス電流と位相雑音の関係を示すグラフである。
【図7】ADPLLにおけるDCOのバイアス電流とOTW値の関係の別の例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
1 DCO
2 カウンタ
3 TDC
4 加算器
5 減算器
6 デジタルフィルタ
7 制御部
14 可変電流源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作電流制御信号に基づく動作電流を供給する可変電流源を含み、発振器調整ワードに応じた発振周波数の発振信号を出力するデジタル制御発振器と、
前記発振信号と基準信号との間の位相差を算出し、位相差信号を出力する位相差算出部と、
前記デジタル制御発振器の発振周波数を設定するための周波数命令ワードと前記位相差信号との差分を平滑化して、前記発振器調整ワードを出力するフィルタと、
前記発振器調整ワードを測定し、前記動作電流制御信号を出力する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記動作電流の値を変化させるように前記動作電流制御信号を出力し、前記発振器調整ワードが極大値となる前記動作電流の値を抽出し、前記可変電流源が供給する動作電流がこの抽出した値となるように前記動作電流制御信号を出力する発振器制御装置。
【請求項2】
前記デジタル制御発振器は、前記発振器調整ワードの値が大きいほど前記発振周波数の低い発振信号を出力することを特徴とする請求項1に記載の発振器制御装置。
【請求項3】
動作電流制御信号に基づく動作電流を供給する可変電流源を含み、発振器調整ワードに応じた発振周波数の発振信号を出力するデジタル制御発振器と、
前記発振信号と基準信号との間の位相差を算出し、位相差信号を出力する位相差算出部と、
前記デジタル制御発振器の発振周波数を設定するための周波数命令ワードと前記位相差信号との差分を平滑化して、前記発振器調整ワードを出力するフィルタと、
前記発振器調整ワードを測定し、前記動作電流制御信号を出力する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記動作電流の値を変化させるように前記動作電流制御信号を出力し、前記発振器調整ワードが極小値となる前記動作電流の値を抽出し、前記可変電流源が供給する動作電流がこの抽出した値となるように前記動作電流制御信号を出力する発振器制御装置。
【請求項4】
前記デジタル制御発振器は、前記発振器調整ワードの値が大きいほど前記発振周波数の高い発振信号を出力することを特徴とする請求項3に記載の発振器制御装置。
【請求項5】
前記制御部は前記発振器調整ワードの所定時間の平均値を測定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の発振器制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−201016(P2009−201016A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42876(P2008−42876)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】