説明

移動体の駆動制御方法、露光方法、ロボット制御方法、駆動制御装置、露光装置、及び、ロボット装置

【課題】制御対象モデルに基づくフィードフォワード制御と外乱オブザーバとを利用して高精度な位置制御を行う。
【解決手段】駆動制御装置は、制御対象(301)の伝達特性の逆システムの一部を示す第1伝達関数(1021a)に第1の完全追従制御法を適用させることで第1のフィードフォワード信号(S1a)を求める第1フィードフォワード制御部(102a)と、制御対象(301)の伝達特性の逆システムの一部を示すとともに第1伝達関数(1021a)とは異なる第2伝達関数(1021b)に第2の完全追従制御法を適用させて第2のフィードフォワード信号(S1b)を求める第2フィードフォワード制御部(102b)と、第1のフィードフォワード信号(S1a)に対する第1の補償信号(d')を求める外乱オブザーバ(104)と、を備え、第2のフィードフォワード信号(S1b)と第1の補償信号(d')とから求めた第2の補償信号(S5)を用いて制御対象(301)を駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の駆動制御方法、露光方法、ロボット制御方法、駆動制御装置、露光装置、及び、ロボット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば液晶ディスプレイ(総称としてフラットパネルディスプレイ)を製造する工程においては、基板(ガラス基板)にトランジスタやダイオード等の素子を形成するために露光装置が多く使用されている。この露光装置は、レジストを塗布した基板をステージ装置のホルダに載置し、マスクに描かれた微細な回路パターンを投影レンズ等の光学系を介して基板に転写するものである。近年では、例えばステップ・アンド・スキャン方式の露光装置が用いられることが多くなっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ステップ・アンド・スキャン方式の露光装置は、スリット状の露光光をマスクに照射している状態で、マスクと基板とを投影光学系に対して互いに同期移動させつつマスクに形成されたパターンの一部を基板のショット領域に逐次転写し、1つのショット領域に対するパターンの転写が終了する度に基板をステップ移動させて他のショット領域へのパターン転写を行う露光装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−077313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
制御対象となるステージを高速且つ高精度に位置決めする制御方法として、ステージの動特性を表す精密な制御対象モデル(ノミナルモデル)を作り込んでおき、このモデルに基づいてフィードフォワード制御を行うという方法が考えられる。一方、ステージの動特性と制御対象モデルとの間にモデル化誤差がある場合やステージに外乱が与えられた場合等には制御の精度が低下してしまうが、これを解決するために、最適な制御状態からのずれを外乱として推定する外乱オブザーバを用い、推定した外乱に応じて当該ずれを補償する制御方法が知られている。しかしながら、制御対象モデルに考慮する特性によっては、フィードフォワード制御と外乱オブザーバの補償との間に干渉が生じ、高精度な制御を行うことができなくなるという問題がある。
【0006】
本発明の態様は、制御対象モデルに基づくフィードフォワード制御と外乱オブザーバとを利用してステージ等の移動体を制御する場合に、高精度な位置制御を行うことが可能な駆動制御方法、及び、駆動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、完全追従制御法を用いた、移動体の駆動制御方法であって、移動体の伝達特性の逆システムの一部を示す第1の伝達関数に第1の完全追従制御法を適用させることで第1のフィードフォワード信号を求めること、前記移動体の伝達特性の逆システムの一部を示すとともに前記第1の伝達関数とは異なる第2の伝達関数に第2の完全追従制御法を適用させて第2のフィードフォワード信号を求めること、外乱オブザーバによって前記第1のフィードフォワード信号に対する第1の補償信号を求めること、前記第2のフィードフォワード信号と前記第1の補償信号から第2の補償信号を求めること、前記第2の補償信号を用いて前記移動体を駆動する駆動装置を制御すること、を含む駆動制御方法である。
【0008】
上記の駆動制御方法において、前記第1の伝達関数は、前記外乱オブザーバで補償される前記移動体の応答特性の少なくとも一部に応じて設定されるようにしてもよい。
上記の駆動制御方法において、前記第1の伝達関数は、前記移動体の質量と、前記移動体に作用する粘性とを含むようにしてもよい。
上記の駆動制御方法において、前記第1のフィードフォワード信号と前記第2のフィードフォワード信号は、前記移動体に関する共通の軌道情報に応じて求められた信号であるようにしてもよい。
上記の駆動制御方法において、前記第2のフィードフォワード信号は、前記移動体を前記所定方向とは異なる方向に移動させる際に受ける影響を加味して求めた信号であるようにしてもよい。
【0009】
本発明の別の態様は、移動体に保持された基板上にパターンを形成する露光方法であって、前記移動体を駆動する駆動装置の制御に上記の駆動制御方法を用いる露光方法である。
本発明の別の態様は、第1移動体に保持されたマスクのパターンを第2移動体に保持された基板上に形成する露光方法であって、前記第1移動体と前記第2移動体の少なくとも一方を駆動する駆動装置の制御に上記の駆動制御方法を用いる露光方法である。
本発明の別の態様は、ロボットアームを所定の経路で移動させるロボット制御方法であって、前記ロボットアームを前記移動体として駆動する駆動装置の制御に上記の駆動制御方法を用いるロボット制御方法である。
【0010】
本発明の別の態様は、完全追従制御法を用いた、駆動制御装置であって、移動体の伝達特性の逆システムの一部を示す第1の伝達関数に第1の完全追従制御法を適用させることで第1のフィードフォワード信号を求める第1フィードフォワード制御手段と、前記移動体の伝達特性の逆システムの一部を示すとともに前記第1の伝達関数とは異なる第2の伝達関数に第2の完全追従制御法を適用させて第2のフィードフォワード信号を求める第2フィードフォワード制御手段と、前記第1のフィードフォワード信号に対する第1の補償信号を求める外乱オブザーバと、を備え、前記第2のフィードフォワード信号と前記第1の補償信号とから求めた第2の補償信号を用いて前記移動体を駆動する、駆動制御装置である。
【0011】
本発明の別の態様は、移動体に保持された基板上にパターンを形成する露光装置であって、前記移動体を駆動する駆動制御装置として、上記の駆動制御装置を備える露光装置である。
本発明の別の態様は、マスクのパターンを基板上に形成する露光装置であって、前記マスクを保持して移動可能な第1移動体と、前記基板を保持して移動可能な第2移動体と、前記第1移動体と前記第2移動体の少なくとも一方を駆動する、上記の駆動制御装置を備える露光装置である。
本発明の別の態様は、ロボットアームを所定の経路で移動させるロボット装置であって、前記ロボットアームを前記移動体として駆動する、上記の駆動制御装置を備えるロボット装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のいくつかの態様によれば、制御対象モデルに基づくフィードフォワード制御と外乱オブザーバとを利用して、ステージ等の移動体の高精度な位置制御を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る露光装置の構成を示す概略図である。
【図2】本実施形態に係る露光装置の一部の構成を示す断面図である。
【図3】本実施形態に係る露光装置の一部の構成を示す断面図である。
【図4】本実施形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本実施形態に係る露光装置を使用したマイクロデバイスの製造例のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。図1は、一実施形態の露光装置10の構成を示す概略図である。この露光装置10は、液晶表示素子パターンが形成されたマスクMと、プレートステージPSTに保持された基板としてのガラスプレート(以下「プレート」という)Pとを、投影光学系PLに対して所定の走査方向(ここでは、図1のX軸方向(紙面内左右方向)とする)に沿って同一速度で同一方向に相対走査することにより、マスクMに形成されたパターンをプレートP上に転写する等倍一括転写型の液晶用走査型露光装置である。
【0015】
この露光装置10は、露光用照明光ILによりマスクM上の所定のスリット状照明領域(図1のY軸方向(紙面直交方向)に細長く延びる長方形の領域または円弧状の領域)を照明する照明系IOP、パターンが形成されたマスクMを保持してX軸方向に移動するマスクステージMST、マスクMの上記照明領域部分を透過した露光用照明光ILをプレートPに投射する投影光学系PL、本体コラム12、前記本体コラムへの床からの振動を除去するための除振台(図示せず)、及び前記両ステージMST、PSTを制御する制御装置11等を備えている。
【0016】
前記照明系IOPは、例えば特開平9−320956号公報に開示されたように、光源ユニット、シャッタ、2次光一形成光学系、ビームスプリッタ、集光レンズ系、視野絞り(ブラインド)、及び結像レンズ系等(いずれも図示省略)から構成され、次に述べるマスクステージMST上に載置され保持されたマスクM上の上記スリット状照明領域を均一な照度で照明する。
【0017】
マスクステージMSTは、不図示のエアパッドによって、本体コラム12を構成する上部定盤12aの上面の上方に数μm程度のクリアランスを介して浮上支持されており、駆動機構14によってX軸方向に駆動される。
【0018】
マスクステージMSTを駆動する駆動機構14としては、ここではリニアモータを用い、以下、この駆動機構をリニアモータ14と呼ぶ。このリニアモータ14の固定子14aは、上部定盤12aの上部に固定され、X軸方向に沿って延設されている。また、リニアモータ14の可動子14bはマスクステージMSTに固定されている。また、マスクステージMSTのX軸方向の位置は、本体コラム12に固定されたマスクステージ位置計測用レーザ干渉計(以下「マスク用干渉計」という)18によって投影光学系PLを基準として所定の分解能、例えば数nm程度の分解能で常時計測されている。このマスク用干渉計18で計測されるマスクステージMSTのX軸位置情報は、制御装置11に供給されるようになっている。
【0019】
投影光学系PLは、本体コラム12の上部定盤12aの下方に配置され、本体コラム12を構成する保持部材12cによって保持されている。投影光学系PLとしては、ここでは等倍の正立正像を投影するものが用いられている。従って、照明系IOPからの露光用照明光ILによってマスクM上の上記スリット状照明領域が照明されると、その照明領域部分の回路パターンの等倍像(部分正立像)がプレートP上の前記照明領域に共役な露光領域に投影されるようになっている。なお、例えば、特開平7−57986号公報に開示されるように、投影光学系PLを、複数組の等倍正立の投影光学系ユニットで構成しても良い。
【0020】
さらに、プレートPのZ方向位置を計測する不図示の焦点位置検出系、例えばCCDなどから構成されるオートフォーカスセンサ(図示せず)が投影光学系PLを保持する保持部材12cに固定されている。この焦点位置検出系からのプレートPのZ位置情報が制御装置11に供給されており、制御装置11では、例えば、走査露光中にこのZ位置情報に基づいてプレートPのZ位置を投影光学系PLの結像面に一致させるオートフォーカス動作を実行するようになっている。
【0021】
プレートステージPSTは、投影光学系PLの下方に配置され、不図示のエアパッドによって、本体コラム12を構成する下部定盤12bの上面の上方に数μm程度のクリアランスを介して浮上支持されている。このプレートステージPSTは、駆動機構としてのリニアモータ16によってX軸方向に駆動される。
【0022】
このリニアモータ16の固定子16aは、下部定盤12bに固定され、X軸方向に沿って延設されている。また、リニアモータ16の可動部としての可動子16bはプレートステージPSTの底部に固定されている。プレートステージPSTは、前記リニアモータ16の可動子16bが固定された移動テーブル22と、この移動テーブル22上に搭載されたY駆動機構20と、このY駆動機構20の上部に設けられプレートPを保持するプレートテーブル19とを備えている。
【0023】
前記プレートテーブル19のX軸方向の位置は、本体コラム12に固定されたプレート用干渉計25によって投影光学系PLを基準として所定の分解能、例えば数nm程度の分解能で常時計測されている。このプレート用干渉計25としては、ここでは、X軸方向に直交するY軸方向(図1における紙面直交方向)に所定距離Lだけ離れた2本のX軸方向の測長ビームをプレートテーブル19に対して照射する2軸干渉計が用いられており、各測長軸の計測値が制御装置11に供給されている。
【0024】
このプレート用干渉計25の各測長軸の計測値をX1、X2とすると、X=(X1+X2)/2によりプレートテーブル19のX軸方向の位置を求め、θZ=(X1−X2)/Lによりプレートテーブル19のZ軸回りの回転量を求めることができるが、以下の説明においては、特に必要な場合以外は、プレート用干渉計25から上記のXがプレートテーブル19のX位置情報として出力されるものとする。
【0025】
図2は、プレートステージPSTの詳細な構成を示す断面図である。
同図に示すように、プレートテーブル19の下面(−Z方向側の面)19aとY可動子20aとの間には、レベリングユニット50が設けられている。レベリングユニット50は、複数、例えば3つが配置されており、3箇所でプレートテーブル19のZ方向の位置を微調整することにより、プレートテーブル19の姿勢(Z方向の位置、θX方向の位置、及びθY方向の位置)を制御するユニットである。つまり、これら3つのレベリングユニット50によってプレートテーブル19に所定の力を加えることでプレートテーブル19のZ方向の位置、θX方向の位置、及びθY方向の位置を調節できるようになっている。
【0026】
図3は、レベリングユニット50の構成を示す図である。各レベリングユニット50はそれぞれ同一の構成となっているので、そのうちの1つを例に挙げてその構成を説明する。
レベリングユニット50は、Y可動子20a上に設けられたカム部材51、ガイド部材52、カム移動機構53、及び支持部材54と、プレートテーブル19側に設けられたベアリング部材55とを含んで構成されている。
【0027】
カム部材51は、断面視台形に形成された部材であり、下面51aが水平方向に平坦な面になっている。カム部材51の当該下面51aは、ガイド部材52に支持されている。カム部材51の上面51bは、水平面に対して傾斜して設けられた平坦面である。カム部材51の一方の側面51cには、ネジ穴51dが形成されている。ガイド部材52は、支持部材54上にカム部材51に沿って設けられており、図中左右方向に延在している。
【0028】
カム移動機構53は、サーボモータ56と、ボールネジ57と、連結部材58とを含んで構成されている。サーボモータ56は、制御装置11からの信号に基づいて軸部材56aを回転させるようになっている。この軸部材56aは、ここでは例えば図中左右方向に延在している。ボールネジ57は、連結部材58を介してサーボモータ56の軸部材56aに連結されており、軸部材56aの回転が伝達されるようになっている。このボールネジ57は、図中左右方向(サーボモータ56の回転軸の軸方向と同一方向)にネジ部が設けられており、当該ネジ部がカム部材51の側面51cに形成されたネジ穴51dに螺合されている。軸部材56a及びボールネジ57は、支持部材54の突出部54a及び54bによってそれぞれ支持されている。
【0029】
このカム駆動機構53は、サーボモータ56の回転によってボールネジ57が回転し、ボールネジ57の回転によって当該ボールネジ57に螺合されたカム部材51がガイド部材52に沿って図中左右方向に移動するようになっている。
【0030】
ベアリング部材55は、図中下側に半球状に形成された部分55aを有し、当該半球状の部分55aの下面55bがカム部材51の上面51bに当接するように設けられている。カム部材51が移動することで、ベアリング部材55の下面55bとカム部材51の上面51bとの当接位置が変化するようになっており、当該上面51bとの当接位置が変化することによって下面55bのZ方向上の位置が変化するようになっている。この位置の変化によってプレートテーブル19のZ方向の位置が微調節されるようになっている。
【0031】
プレートテーブル19のZ方向の位置に関しては、検出装置59によって検出可能になっている。この検出装置59についても、プレートテーブル19に対して複数、例えば3つ設けられている。各検出装置59は、例えば光センサ59aと、被検出部材59bとを含んで構成されており、光センサ59aによって被検出部材59bの位置を検出することで、プレートテーブル19のZ方向の位置を検出するようになっている。また、光センサ59aは、Y可動子20a上に設けられた突出部20bに固定されている。したがって、当該検出装置59は、Y可動子20aの上面20cを基準としたときのプレートテーブル19のZ方向に関する位置や姿勢等を検出可能となっている。この検出装置59によって検出された位置情報は、制御装置11に送信されるようになっている。
【0032】
また、プレートテーブル19の一端は、弾性部材60によってY可動子20a上の突出部20dに接続されている。弾性部材60は、一端が固定部材60aによってプレートテーブル19の端部19bに固定されており、他端が固定部材60bによって突出部20dに固定されている。この弾性部材60によって、プレートテーブル19がX方向及びY方向へ移動するのを抑えつつ、Z方向に対しての移動を許容できるようになっている。
【0033】
以上のような構成により、プレートステージPSTは、プレートテーブル19に保持されているプレートPの所定の露光すべき領域が投影光学系PLによる露光領域に位置するように、移動テーブル22(リニアモータ16の可動子)をX方向に移動させ(X位置の位置決めを行い)、さらに移動テーブル22に対してY可動子20をY方向に移動させる(Y位置の位置決めを行う)ことができる。このとき、プレートPのθZ方向の位置を調整できるようにしてもよい。さらに、レベリングユニット50により、前記オートフォーカスセンサの検出結果や前記検出装置59の検出結果を基に、プレートPのZ位置がジャストフォーカスとなる(投影光学系PLの結像点と一致する)ように、プレートテーブル19をY可動子20aに対してZ方向、θX方向、およびθY方向に移動させる(Z位置、θX方向、およびθY方向の位置決めを行う)ことができる。
【0034】
次に、図4を参照して、制御装置11のうち、プレートステージPSTをX軸方向に駆動するリニアモータ16の駆動制御を行う部分の構成を説明する。図4は、制御装置11の当該部分及びその制御対象を示すブロック図である。なお、制御装置11のうち、マスクステージMSTをX軸方向に駆動するリニアモータ14の駆動制御を行う部分についても、その構成は図4と同様である。また、プレートステージPSTやマスクステージMSTをY軸方向に駆動する駆動機構の制御装置としても、図4の制御装置11を適用可能である。
【0035】
図4において、制御装置11は、軌道生成部101と、第1フィードフォワード制御部102aと、第2フィードフォワード制御部102bと、フィードバック制御部103と、外乱オブザーバ104と、加算部201〜205と、を含んで構成されている。外乱オブザーバ104は、遅延部107と、第1フィルタ108と、第2フィルタ109と、を含んで構成されている。
【0036】
軌道生成部101へは、プレートステージPST(制御対象301)の移動開始点のX座標XSと、移動終了点のX座標XEとが入力される。移動開始点XSは、プレートステージPSTのX軸上における現在の位置を表し、移動終了点XEは、プレートステージPSTを移動させる先であるX軸上の目標位置を表す。軌道生成部101は、入力された移動開始点XS及び移動終了点XEに基づいて、プレートステージPSTを移動開始点XSから移動終了点XEまで移動させるための目標軌道を生成する。目標軌道は、各時刻tに対応付けられたプレートステージPSTの位置X(t)と、そのn−1階微分までとからなる時系列のベクトルデータであり、その生成アルゴリズムは必要に応じて適宜のアルゴリズムを用いることができる。ここで、nは後述する式(1)の分母の次数である。
【0037】
第1フィードフォワード制御部102a及び第2フィードフォワード制御部102bは、軌道生成部101から出力される上記の1サンプル先の(つまり、1サンプル分進ませた時刻に対応する)目標軌道を入力として、プレートステージPSTのX座標位置を完全追従制御(例えば、特開2001−325005号公報や論文「マルチレートフィードフォワード制御を用いた完全追従法」(藤本博志他、計測自動制御学会論文集36巻、9号、pp766−772、2000年)を参照)に基づいてフィードフォワード制御する。
【0038】
具体的には、第1フィードフォワード制御部102aは、制御対象301の逆システム(制御対象の特性と逆の応答を示すモデル)のうちの一部分に対応した伝達関数である第1伝達関数1021aを保持(記憶)しており、この第1伝達関数1021aを用いることにより、リニアモータ16を駆動するための駆動信号を生成する。この駆動信号は、制御対象301に対する第1フィードフォワード制御部102aからの操作量u1aとなる。
また、第2フィードフォワード制御部102bは、制御対象301の逆システムのうちの他の一部分に対応した伝達関数である第2伝達関数1021bを保持しており、この第2伝達関数1021bを用いることにより、リニアモータ16を駆動するための駆動信号を生成する。この駆動信号は、制御対象301に対する第2フィードフォワード制御部102bからの操作量u1bとなる。
【0039】
第1伝達関数1021aは、制御対象301の剛体的特性に関する次式(1)で表される伝達関数P(s)の逆関数である次式(2)の伝達関数F(s)によって定式化することとする。但し、MはプレートステージPSTの質量、CはプレートステージPSTをリニアモータ16で駆動する際に発生する粘性力の粘性係数であり、添え字のnはノミナル値であることを表す。プレートステージPSTの駆動時に発生する粘性力までも考慮した精密な位置制御を可能とするため、第1伝達関数F(s)では粘性力の項を取り入れた形を採用した。
【0040】
【数1】

【0041】
【数2】

【0042】
また、第2伝達関数1021bは、伝達関数P(s)と制御対象301の遅れ特性に関する次式(3)で表される伝達関数P(s)との積の逆関数である次式(4)の伝達関数F(s)によって定式化することとする。但し、ζはダンピング係数、ωはカットオフ周波数である。
【0043】
【数3】

【0044】
【数4】

【0045】
第1フィードフォワード制御部102aからの操作量u1aと第2フィードフォワード制御部102bからの操作量u1bは加算部204へ入力され、加算部204によりその差分Δu=u1b−u1aが計算される。これにより、加算部204から出力されて加算部205へ入力される操作量は、制御対象301の剛体的特性と遅れ特性とに対応した操作量Δuとなる。一方、加算部201へ入力される操作量は、制御対象301の剛体的特性に対応した操作量u1aである。
【0046】
なお、第1フィードフォワード制御部102aは、入力を所定のサンプリング周期Tr(第1伝達関数F(s)の次数に応じた周期)で取り込み、生成した駆動信号を所定のサンプリング周期Tuで出力するものとする。また、第2フィードフォワード制御部102bは、入力をTrと異なる所定のサンプリング周期Tr’(第2伝達関数F(s)の次数に応じた周期)で取り込み、生成した駆動信号を第1フィードフォワード制御部102aと同じサンプリング周期Tuで出力するものとする。
【0047】
フィードバック制御部103には、加算部203の加算結果が入力される。加算部203の加算結果は、プレートステージPSTのX位置(プレート用干渉計25により得られるX位置情報、即ち、上述の式X=(X1+X2)/2で表されるX)と、軌道生成部101から出力される目標軌道そのもの、あるいは制御装置全体の遅延特性を加味した目標軌道との差分である。
【0048】
フィードバック制御部103は、加算部203の出力、即ち目標軌道を基準としたプレートステージPSTのX位置の誤差に基づいて、プレートステージPSTのX座標位置をフィードバック制御する。具体的には、フィードバック制御部103は、上記誤差がゼロとなるように、リニアモータ16を駆動するための駆動信号を生成する。この駆動信号は、制御対象301に対するフィードバック制御部103からの操作量uとなる。
なお、フィードバック制御部103も、第1フィードフォワード制御部102aと同様に、入力をサンプリング周期Tyで取り込み、生成した駆動信号をサンプリング周期Tuで出力するものとする。
【0049】
第1フィードフォワード制御部102aからの操作量u1aとフィードバック制御部103からの操作量uは加算部201により加算されて操作量u(=u1a+u)となる。
【0050】
外乱オブザーバ104は、制御対象301に加わる外乱、あるいは外乱と等価なモデル化誤差の影響を推定して推定外乱d’を生成し、生成した推定外乱d’を加算部202へ出力する。以下、外乱オブザーバ104の内部構成について説明する。
【0051】
外乱オブザーバ104は、制御対象301の動特性を近似再現した制御対象モデルと逆の応答を示す第2フィルタ109を有している。第2フィルタ109は、制御対象301の制御対象モデルと対応した逆システムと、第2フィルタ109への入力に含まれる高周波のノイズ成分を除去するためのローパスフィルタとからなる。このうち逆システムは、制御対象301の剛体的特性以外の特性を外乱として正確に推定できるようにするため、前述した第1フィードフォワード制御部102aが備える第1伝達関数F(s)と同一とする。また、ローパスフィルタは次式(5)とする。これにより、第2フィルタ109は、次式(6)の伝達関数F(s)を持つ。但し、次式において、a1,b1,b2,b3は任意の定数、ωはフィルタのカットオフ周波数(ω<ωとする)である。これらの伝達関数は、例えば、次の論文1や論文2の手法により求めることができる。
論文1:T. Umeno, T. Kaneko, and Y. Hori, “Robust Servosystem Design with Two Degree of Freedom and its Application to Novel Motion Control of Robot Manipulators”, IEEE Trans. Industrial Electronics, Vol.40, No.5, pp.473-485, 1993
論文2:H-S. Lee and M. Tomizuka, “Robust Motion Controller Design for High-Accuracy Positioning Systems”, IEEE Transactions on Industrial Electronics, Vol.43, No.1, pp48-55, February 1996
【0052】
【数5】

【0053】
【数6】

【0054】
上記の第2フィルタ109には、プレート用干渉計25により測定されたプレートステージPSTのX位置が入力される。第2フィルタ109は、入力されたプレートステージPSTのX位置に伝達関数F(s)を乗じ、その結果を加算部204へ出力する。第2フィルタ109の伝達関数F(s)は制御対象301の伝達関数P(s)の逆関数を含むものであるので、第2フィルタ109の出力は、制御対象301へ入力された後述の操作量uを計算した値となる。
【0055】
一方、遅延部107には、後述する加算部202の出力である操作量uが入力される。この遅延部107は、本制御装置11により制御対象301を制御する際に、制御対象301へ後述の操作量uを出力してから当該操作量uに対応した制御対象301の応答(プレートステージPSTのX位置)が得られるまでの時間遅れや、第2フィルタ109の逆システムにおいて演算処理に要する時間遅れが存在することを考慮して、これらの時間遅れを補償した上で加算部204における加算を行う目的で設けたものである。したがって、遅延部107は、入力された操作量uを、上記時間遅れの総量と等しい時間ΔTだけ遅延させてから第1フィルタ108へ出力する。なお、時間遅れの総量ΔTの値は、予め測定して求めておくものとする。
【0056】
第1フィルタ108は、上述した第2フィルタ109のローパスフィルタL(s)と同一の伝達関数F(s)を有するフィルタであり、遅延部107の出力に当該伝達関数F(s)を乗じ、その結果を加算部204へ出力する。
なお、第1フィルタ108は、第2フィルタ109のローパスフィルタと同じフィルタ関数を乗じることによって、加算部204において加算される2つの値の基準レベルを等しくする目的で用いられている。
【0057】
加算部204は、第2フィルタ109の出力と第1フィルタ108の出力との差分を計算する。この差分が推定外乱d’であり、外乱オブザーバ104の出力となる。
【0058】
加算部202は、外乱オブザーバ104から出力された推定外乱d’を上述した操作量uから減算し、減算後の操作量u(=u−d’)を加算部205へ出力する。
加算部205は、加算部202からの操作量uに上述した操作量Δuを加算し、加算結果の操作量u(=u+Δu)を出力する。この操作量uが、制御装置11から制御対象301へ与えられる操作量である。
【0059】
制御対象301へは、制御装置11からの操作量uに、更に加算部302において外乱dが加えられた操作量uが入力される。以上から、制御対象301へ入力される操作量uは次式で表される。
u=u+d
=u+Δu+d
=u−d’+Δu+d
=u1a+u−d’+u1b−u1a+d
=u1b+u−d’+d
【0060】
操作量uに含まれる上記の外乱dは、第1フィードフォワード制御部102aにおける第1伝達関数F(s)のモデル化誤差、及び、第2フィードフォワード制御部102bにおける第2伝達関数F(s)のモデル化誤差に起因して発生するものである。つまり、各伝達関数F(s),F(s)に含まれる質量のノミナル値Mや粘性係数のノミナル値Cが、制御対象301の実際の剛体的特性(実際の質量Mや粘性係数Cの値)からずれている場合に、外乱が生じる。この外乱をdとする。また、伝達関数F(s)に含まれる式(3)のP(s)が、制御対象301の実際の遅れ特性を考慮していない場合にも、外乱が生じる。この外乱をdとする。このように外乱dは、d=d+dと表すことができる。
【0061】
ここで、上述の式(6)から分かるように、外乱オブザーバ104は制御対象301の剛体的特性に基づく第2フィルタ109を用いて外乱の推定を行うので、その推定結果としては、外乱dが得られることになる。つまり、推定外乱d’は外乱dに等しい。
【0062】
したがって、外乱オブザーバ104を用いることにより、上記の操作量uが、
u==u1b+u+d
と表されるとともに、この操作量uを用いて、制御対象301の出力、即ちプレートステージPSTのX位置が、次式(7)のように表されることとなる。但し、X(s)はプレートステージPSTのX位置のラプラス変換であり、P(s)は外乱オブザーバ104によりノミナル化された制御対象301の伝達関数である。なお、式(7)においてフィードバック制御に関わる操作量uの項は省略した。
【0063】
【数7】

【0064】
一方、外乱dの式を求めるために、制御対象301の剛体的特性のみに基づく操作量uを制御対象301へ入力することを仮定すると、制御対象301の出力は次式(8)のようになる。但し、P(s)はノミナル化されていない制御対象301の伝達関数である。
【0065】
【数8】

【0066】
式(8)において、右辺第1項は制御対象301が剛体的特性のみを有するとしたときの理想的な応答成分であり、第2項は制御対象301の剛体的特性以外の特性、即ち伝達関数P(s)で表される遅れ特性に起因する外乱dに相当する応答成分である。よって、式(7)と式(8)から、外乱dは次式(9)で表されることが分かる。
【0067】
【数9】

【0068】
式(9)を用いると、式(7)は次式(10)のように表すことができる。
【0069】
【数10】

【0070】
ここで、第2フィードフォワード制御部102bからの操作量u1bは、目標軌道X(t)のラプラス変換r(s)と第2伝達関数F(s)の式(4)を用いて、次式(11)で表される。
【0071】
【数11】

【0072】
したがって、式(10)及び式(11)から、制御対象301の出力は、
X(s)=r(s)
となる。これは、プレートステージPSTのX位置が目標軌道と一致することを意味している。
このように、第1伝達関数F(s)を有する第1フィードフォワード制御部102aに加えて、外乱オブザーバ104と第2伝達関数F(s)を有する第2フィードフォワード制御部102bとを併用して制御を行うことにより、プレートステージPSTのX位置を目標軌道に一致させる制御を行うことができる。
【0073】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【0074】
例えば、図4で説明した制御装置11において、制御対象301の遅れ特性に関する伝達関数P(s)に代えて、制御対象301の振動モード特性に関する次式(12)で表される伝達関数P(s)(但し、k=1,2,…は振動の次数)を用いることにより、制御対象301の振動モード特性を考慮した制御を行うことが可能である。具体的には、第2フィードフォワード制御部102bの第2伝達関数1021bの中のP(s)をP(s)で置き換えればよい。また、第2伝達関数1021bの分母をP(s)とP(s)とP(s)の積にしてもよい。
【0075】
【数12】

【0076】
また、例えば、制御装置11は、図4の構成において、第2フィードフォワード制御部102bと加算部204の代わりに、前述の式(2),(4)の各伝達関数の差分F(s)−F(s)を伝達関数として持つ別のフィードフォワード制御部を備えるようにしてもよい。この場合にも、制御対象301へは上述の操作量uと等価の操作量が与えられるので、図4の構成と同等の制御性能を得ることができる。
【0077】
また、プレートステージPSTをX軸方向に駆動する図4の制御系において、他の軸方向(Y方向やZ方向)へのプレートステージPSTの駆動制御が図4の外乱dとして影響を及ぼす場合がある。そのような場合、当該他軸の制御に用いる指令値(操作量)に基づいて当該外乱を補償する軌道を生成する外乱軌道生成部(外乱モデル)を設け、生成した外乱軌道を上述の目標軌道に加算して第2フィードフォワード制御部102bへ入力する構成とすることで、他の軸の制御による影響を排除することが可能である。
【0078】
また、上述した例は、連続時間系で設計した外乱オブザーバを双一次変換して離散時間外乱オブザーバを得る方法(いわゆるデジタル再設計)に基づく実施例であるが、ノミナルモデルをゼロ次ホールド変換した離散時間状態方程式に基づき、ゴピナスの定理を用いて最小次元オブザーバを設計し、直接、離散時間外乱オブザーバを得る方法でもよい。後者の方法では、完全追従制御に用いる離散時間ノミナルモデルと完全に一致するため、より精度の高い制御系が実現できる。
【0079】
なお、上記各実施形態では、半導体デバイス製造用の半導体ウエハを露光する例を説明したが、このほかにディスプレイデバイス用のガラス基板や、薄膜磁気ヘッド用のセラミックウエハ、あるいは露光装置で用いられるマスクまたはレチクルの原版(合成石英、シリコンウエハ)等を露光する場合においても同様の説明が可能である。
【0080】
露光装置EXとしては、レチクルRとウエハWとを同期移動してレチクルRのパターンを走査露光するステップ・アンド・スキャン方式の走査型露光装置(スキャニングステッパ)の他に、レチクルRとウエハWとを静止した状態でレチクルRのパターンを一括露光し、ウエハWを順次ステップ移動させるステップ・アンド・リピート方式の投影露光装置(ステッパ)にも適用することができる。また、本発明はウエハW上で少なくとも2つのパターンを部分的に重ねて転写するステップ・アンド・スティッチ方式の露光装置にも適用できる。
【0081】
露光装置EXの種類としては、ウエハWに半導体素子パターンを露光する半導体素子製造用の露光装置に限られず、液晶表示素子製造用又はディスプレイ製造用の露光装置や、薄膜磁気ヘッド、撮像素子(CCD)あるいはレチクル又はマスクなどを製造するための露光装置などにも広く適用できる。
【0082】
また、本発明が適用される露光装置の光源には、KrFエキシマレーザ(248nm)、ArFエキシマレーザ(193nm)、F2レーザ(157nm)等のみならず、g線(436nm)及びi線(365nm)を用いることができる。さらに、投影光学系の倍率は縮小系のみならず等倍および拡大系のいずれでもよい。また、上記実施形態では、反射屈折型の投影光学系を例示したが、これに限定されるものではなく、投影光学系の光軸(レチクル中心)と投影領域の中心とが異なる位置に設定される屈折型の投影光学系にも適用可能である。
【0083】
また、本発明は、投影光学系と基板との間に局所的に液体を満たし、該液体を介して基板を露光する、所謂液浸露光装置にも適用可能である。液浸露光装置については、国際公開第99/49504号パンフレットに開示されている。さらに、本発明は、特開平6−124873号公報、特開平10−303114号公報、米国特許第5,825,043号などに開示されているような露光対象の基板の表面全体が液体中に浸かっている状態で露光を行う液浸露光装置にも適用可能である。
【0084】
また、本発明は、基板ステージ(ウエハステージ)が複数設けられるツインステージ型の露光装置にも適用できる。ツインステージ型の露光装置の構造及び露光動作は、例えば特開平10−163099号公報及び特開平10−214783号公報(対応米国特許6,341,007号、6,400,441号、6,549,269号及び6,590,634号)、特表2000−505958号(対応米国特許5,969,441号)或いは米国特許6,208,407号に開示されている。更に、本発明を本願出願人が先に出願した特願2004−168481号のウエハステージに適用してもよい。
【0085】
また、本発明が適用される露光装置は、各構成要素を含む各種サブシステムを、所定の機械的精度、電気的精度、光学的精度を保つように、組み立てることで製造される。これら各種精度を確保するために、この組み立ての前後には、各種光学系については光学的精度を達成するための調整、各種機械系については機械的精度を達成するための調整、各種電気系については電気的精度を達成するための調整が行われる。各種サブシステムから露光装置への組み立て工程は、各種サブシステム相互の、機械的接続、電気回路の配線接続、気圧回路の配管接続等が含まれる。この各種サブシステムから露光装置への組み立て工程の前に、各サブシステム個々の組み立て工程があることはいうまでもない。各種サブシステムの露光装置への組み立て工程が終了したら、総合調整が行われ、露光装置全体としての各種精度が確保される。なお、露光装置の製造は温度およびクリーン度等が管理されたクリーンルームで行うことが望ましい。
【0086】
次に、本発明の実施形態による露光装置及び露光方法をリソグラフィ工程で使用したマイクロデバイスの製造方法の実施形態について説明する。図5は、マイクロデバイス(ICやLSI等の半導体チップ、液晶パネル、CCD、薄膜磁気ヘッド、マイクロマシン等)の製造例のフローチャートを示す図である。
【0087】
まず、ステップ201(設計ステップ)において、マイクロデバイスの機能・性能設計(例えば、半導体デバイスの回路設計等)を行い、その機能を実現するためのパターン設計を行う。引き続き、ステップ202(マスク製作ステップ)において、設計した回路パターンを形成したマスク(レチクル)を製作する。一方、ステップ203(ウエハ製造ステップ)において、シリコン等の材料を用いてウエハを製造する。
【0088】
次に、ステップ204(ウエハ処理ステップ)において、ステップ201〜ステップ203で用意したマスクとウエハを使用して、後述するように、リソグラフィ技術等によってウエハ上に実際の回路等を形成する。次いで、ステップ205(デバイス組立ステップ)において、ステップ204で処理されたウエハを用いてデバイス組立を行う。このステップ205には、ダイシング工程、ボンティング工程、及びパッケージング工程(チップ封入)等の工程が必要に応じて含まれる。最後に、ステップ206(検査ステップ)において、ステップ205で作製されたマイクロデバイスの動作確認テスト、耐久性テスト等の検査を行う。こうした工程を経た後にマイクロデバイスが完成し、これが出荷される。
【0089】
また、半導体素子等のマイクロデバイスだけではなく、光露光装置、EUV露光装置、X線露光装置、及び電子線露光装置等で使用されるレチクル又はマスクを製造するために、マザーレチクルからガラス基板やシリコンウエハ等ヘ回路パターンを転写する露光装置にも本発明を適用できる。ここで、DUV(深紫外)やVUV(真空紫外)光等を用いる露光装置では、一般的に透過型レチクルが用いられ、レチクル基板としては石英ガラス、フッ素がドープされた石英ガラス、蛍石、フッ化マグネシウム、又は水晶等が用いられる。また、プロキシミティ方式のX線露光装置や電子線露光装置等では、透過型マスク(ステンシルマスク、メンブレンマスク)が用いられ、マスク基板としてはシリコンウエハ等が用いられる。なお、このような露光装置は、WO99/34255号、WO99/50712号、WO99/66370号、特開平11−194479号、特開2000−12453号、特開2000−29202号等に開示されている。
【0090】
ソフトウエアやプログラムの組み込みにより、露光装置を実質的に変更することなく、本発明にかかる駆動制御方法を適用できる。その結果、露光装置において、整定時間の短縮化が可能である。これは、露光装置の処理能力の向上、及びスループットの向上に有利である。
【0091】
また、一般に、加速度の向上を目的として、露光装置を実質的に変更した場合、整定時間が増大する可能性がある。本発明の適用により、こうした変更に伴う整定時間の増大を抑制できる。これは、露光装置の処理能力の向上、及びスループットの向上に有利である。
【0092】
また、本発明は露光装置に限らず、ロボット装置にも適用することが可能である。ロボット装置では、ワークに対してロボットアームが接近する経路、あるいは離間する経路を設定し、正確にロボットアームの動作を決める必要がある。しかし、ロボット装置に外乱があると十分な位置決め精度が得られなくなり、所望の経路に追従できなくなってしまう可能性がある。そこで、図4の構成において、制御対象301をロボットアームとし、軌道生成部101によりロボットアームの経路(軌道)を生成するようにし、更に、第1伝達関数F(s)や第2伝達関数F(s)、第2フィルタの伝達関数F(s)を適宜ロボットアームの制御特性に応じた式とすることで、上述した露光装置の実施形態と同様、高精度な制御が可能なロボット装置を実現することができる。
【0093】
ソフトウエアやプログラムの組み込みにより、ロボット装置を実質的に変更することなく、本発明にかかる駆動制御方法を適用できる。その結果、ロボット装置において、整定時間の短縮化が可能である。これは、ロボット装置の能力向上に有利である。
【0094】
また、ロボット装置の加速度の向上を図る場合において、本発明の適用により、整定時間の増大を抑制できる。これも、ロボット装置の能力向上に有利である。
【0095】
本発明にかかる駆動制御方法は、例えば、所定のコンピュータプログラムとして提供でき、メディア、デバイス、又はメモリ等に保持可能である。
【0096】
露光装置やロボット装置などの各種装置は内部に、コンピュータシステムを有することができる。上述した処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶され、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理を行うことができる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0097】
また、プログラムは、機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、プログラムは、機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0098】
11…制御装置 14,16…リニアモータ 101…軌道生成部 102a…第1フィードフォワード制御部 102b…第2フィードフォワード制御部 1021a…第1伝達関数 1021b…第2伝達関数 103…フィードバック制御部 104…外乱オブザーバ 107…遅延部 108…第1フィルタ 109…第2フィルタ 301…制御対象(プレートステージPST) 303…リニアモータドライバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
完全追従制御法を用いた、移動体の駆動制御方法であって、
移動体の伝達特性の逆システムの一部を示す第1の伝達関数に第1の完全追従制御法を適用させることで第1のフィードフォワード信号を求めること、
前記移動体の伝達特性の逆システムの一部を示すとともに前記第1の伝達関数とは異なる第2の伝達関数に第2の完全追従制御法を適用させて第2のフィードフォワード信号を求めること、
外乱オブザーバによって前記第1のフィードフォワード信号に対する第1の補償信号を求めること、
前記第2のフィードフォワード信号と前記第1の補償信号とから第2の補償信号を求めること、
前記第2の補償信号を用いて前記移動体を駆動する駆動装置を制御すること、
を含む駆動制御方法。
【請求項2】
前記第1の伝達関数は、前記外乱オブザーバで補償される前記移動体の応答特性の少なくとも一部に応じて設定される請求項1記載の駆動制御方法。
【請求項3】
前記第1の伝達関数は、前記移動体の質量と、前記移動体に作用する粘性とを含む請求項1または請求項2に記載の駆動制御方法。
【請求項4】
前記第1のフィードフォワード信号と前記第2のフィードフォワード信号は、前記移動体に関する共通の軌道情報に応じて求められた信号である請求項1から3のうちのいずれか一項に記載の駆動制御方法。
【請求項5】
前記第2のフィードフォワード信号は、前記移動体を前記所定方向とは異なる方向に移動させる際に受ける影響を加味して求めた信号である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の駆動制御方法。
【請求項6】
移動体に保持された基板上にパターンを形成する露光方法であって、
前記移動体を駆動する駆動装置の制御に請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された駆動制御方法を用いる露光方法。
【請求項7】
第1移動体に保持されたマスクのパターンを第2移動体に保持された基板上に形成する露光方法であって、
前記第1移動体と前記第2移動体の少なくとも一方を駆動する駆動装置の制御に請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された駆動制御方法を用いる露光方法。
【請求項8】
ロボットアームを所定の経路で移動させるロボット制御方法であって、
前記ロボットアームを前記移動体として駆動する駆動装置の制御に請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された駆動制御方法を用いるロボット制御方法。
【請求項9】
完全追従制御法を用いた、駆動制御装置であって、
移動体の伝達特性の逆システムの一部を示す第1の伝達関数に第1の完全追従制御法を適用させることで第1のフィードフォワード信号を求める第1フィードフォワード制御手段と、
前記移動体の伝達特性の逆システムの一部を示すとともに前記第1の伝達関数とは異なる第2の伝達関数に第2の完全追従制御法を適用させて第2のフィードフォワード信号を求める第2フィードフォワード制御手段と、
前記第1のフィードフォワード信号に対する第1の補償信号を求める外乱オブザーバと、
を備え、
前記第2のフィードフォワード信号と前記第1の補償信号とから求めた第2の補償信号を用いて前記移動体を駆動する、
駆動制御装置。
【請求項10】
移動体に保持された基板上にパターンを形成する露光装置であって、
前記移動体を駆動する駆動制御装置として、請求項9に記載された駆動制御装置を備える露光装置。
【請求項11】
マスクのパターンを基板上に形成する露光装置であって、
前記マスクを保持して移動可能な第1移動体と、
前記基板を保持して移動可能な第2移動体と、
前記第1移動体と前記第2移動体の少なくとも一方を駆動する、請求項9に記載された駆動制御装置を備える露光装置。
【請求項12】
ロボットアームを所定の経路で移動させるロボット装置であって、
前記ロボットアームを前記移動体として駆動する、請求項9に記載された駆動制御装置を備えるロボット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−123957(P2010−123957A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260391(P2009−260391)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】