説明

移動体位置測位装置

【課題】停車判定を適切に行い、停車状態に起因した移動体位置情報の変動を適切に防止すること。
【解決手段】本発明による移動体位置測位装置は、衛星航法と慣性航法とを併用して移動体位置情報を導出する移動体位置情報導出手段と、加速度センサ及び/又は角速度センサの出力値に基づいて移動体が停止しているか否かを判定する第1移動体停止判定手段と、車速を表すことができる車載センサの出力値等に基づいて移動体が停止しているか否かを判定する第2移動体停止判定手段と、前記第1移動体停止判定手段により移動体が停止していると判定されたとき、そのときの前記移動体位置情報を記憶する記憶手段と、前記第1移動体停止判定手段により移動体が停止していると判定された後に前記第2移動体停止判定手段により移動体が停止していると判定された場合に、前記記憶手段に記憶された移動体位置情報を、現在の移動体位置情報として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星航法と慣性航法とを併用したハイブリッド航法を用いて移動体位置を測位する移動体位置測位装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の人工衛星のそれぞれとの擬似距離を検出する擬似距離検出手段と、該擬似距離検出手段にて検出された擬似距離に基づき、予め設定された演算タイミング毎に測位位置を繰り返し求める測位演算手段と、当該装置と前記人工衛星のそれぞれとの相対速度を検出する相対速度検出手段と、該相対速度検出手段にて検出された相対速度に基づき、前記演算タイミング毎に当該装置の移動速度及び移動方向を示す速度ベクトルを繰り返し求める速度ベクトル演算手段と、該速度ベクトル演算手段にて求められた速度ベクトル、及び予め設定された当該装置の現在位置に基づいて、次回の演算タイミングでの当該装置の推定位置を求める位置推定手段と、前記測位演算手段にて求められた測位位置と、前回の演算タイミング時に前記位置推定手段にて求められた推定位置との加重平均値により、前記現在位置を更新する現在位置更新手段と、を備えた位置検出装置において、当該位置検出装置の停止状態を判定する停止判定手段と、前記停止判定手段により停止状態と判定された場合に、前記位置推定手段による前記推定位置の更新を禁止する禁止手段と、前記停止状態中に、前記測位位置と前記現在位置とが予め設定された上限距離以上離れている状態が、予め設定された上限時間以上継続した場合、前記測位位置に基づいて前記推定位置を初期化する推定位置初期化手段と、を備えることを特徴とする位置検出装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の発明では、停止判定手段は、速度ベクトル演算手段により速度ベクトルや、車輪速センサ等の車速を測定するために装置からの情報に基づいて、停止判定を行っている。
【0003】
特許文献1に記載の発明のような衛星航法を用いた車両位置測位装置とは異なり、衛星航法と慣性航法とを併用したハイブリッド航法を用いて車両位置を測位する車両位置測位装置も知られている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2には、慣性航法装置のドリフトの補正方法や衛星航法装置のオフセットの補正方法が開示されている。
【0004】
また、加速度センサ又は角速度センサの出力から停車判定を行い、停車中のセンサ出力を用いてセンサのオフセット値を補正する技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特許第3601354号公報
【特許文献2】特開平1−316607号公報
【特許文献3】特開平8−285621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、衛星航法と慣性航法とを併用したハイブリッド航法を用いて車両位置を測位する場合、停車状態であっても、車両位置や車両姿勢がノイズ等の影響を受けて変動する。この点、上述の特許文献1に記載の発明は、停車判定後に、速度ベクトルに基づいて導出される推定位置については更新を禁止するが、擬似距離に基づいて導出される測位位置については依然として更新している。かかる構成では、停車状態で推定位置と測位位置との加重平均値により車両位置を導出すると、停車状態における測位位置の変動の影響で、測位精度が低下する虞がある。
【0006】
これに対して、停車判定時に推定位置と測位位置の双方の更新を一時的に中止する対策も考えられるが、停車判定が遅れると測位精度が低下する虞がある。
【0007】
そこで、本発明は、移動体停止判定を適切に行い、移動体停止状態に起因した移動体位置情報の変動を適切に防止することができる移動体位置測位装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、第1の発明に係る移動体測位装置は、衛星航法と慣性航法とを併用したハイブリッド航法を用いて移動体位置情報を導出する移動体位置情報導出手段と、
加速度センサ及び/又は角速度センサの出力値に基づいて移動体が停止しているか否かを判定する第1移動体停止判定手段と、
車速を表すことができる車載センサの出力値、及び/又は、衛星航法及び/又は慣性航法に基づく移動体位置の出力値の時間変化に基づいて移動体が停止しているか否かを判定する第2移動体停止判定手段と、
前記第1移動体停止判定手段により移動体が停止していると判定されたとき、そのときに対応した周期で前記移動体位置情報導出手段により導出された前記移動体位置情報を、記憶する記憶手段と、
前記第1移動体停止判定手段により移動体が停止していると判定された後に前記第2移動体停止判定手段により移動体が停止していると判定された場合に、前記記憶手段に記憶された移動体位置情報を、現在の移動体位置情報として出力する停止時移動体位置情報出力手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、第1の発明に係る移動体測位装置において、
前記第1移動体停止判定手段が、加速度センサ及び/又は角速度センサの出力値の微分値に基づいて移動体が停止しているか否かを判定し、
前記第2移動体停止判定手段が、車輪速センサの出力値、及び衛星航法に基づいて算出された移動体位置情報の出力値の変化に基づいて移動体が停止しているか否かを判定することを特徴とする。
【0010】
第3の発明は、第1又は2の発明に係る移動体測位装置において、
前記第1移動体停止判定手段により移動体が停止していると判定された後に前記第2移動体停止判定手段により移動体が停止していると判定された場合であって、その後、移動体が移動し始めた場合には、前記移動体位置情報導出手段が、前記記憶手段に記憶された移動体位置情報を用いて、前記移動体位置情報の導出処理を開始することを特徴とする。
【0011】
第4の発明は、第1〜3のいずれかの発明に係る移動体測位装置において、
前記移動体位置情報が、移動体位置及び移動体姿勢の双方に関する情報を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、移動体停止判定を適切に行い、移動体停止状態に起因した移動体位置情報の変動を適切に防止することができる移動体位置測位装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0014】
図1は、本発明による移動体位置測位装置の一実施例を含む車両位置測位システム100を示すシステム構成図である。図2は、慣性航法測位装置200での測位処理の一例を示すブロック図である。図3は、状態推定器120での測位処理の一例を示すブロック図である。図4は、INS仮測位結果、GPS測位結果及び統合測位結果の関係を概念的に示す図である。図4には、車両が移動状態(運動状態)にある場合の各測位結果が時系列的に示されている。図5は、第1車両停止判定部302による車両停止判定態様を概念的に示す図である。図6は、第2車両停止判定部304Aによる車両停止判定態様を概念的に示す図である。図7は、第2車両停止判定部304Bによる車両停止判定態様を概念的に示す図である。図5〜図7には、横軸に時間、縦軸に各指標値が示されている。
【0015】
車両位置測位システム100は、衛星航法測位装置110と、慣性航法測位装置200と、状態推定器120と、制御装置300とを備える。制御装置300には、車輪速センサ400、衛星航法測位装置110、慣性航法測位装置200、及び状態推定器120が接続されている。尚、これらの接続態様は、有線であっても無線であってもよい。
【0016】
衛星航法測位装置110は、主たる構成要素としてGPS受信機及びGPSアンテナを備える。衛星航法測位装置110のGPS受信機は、GPSアンテナを介して入力される衛星信号に基づいて、車両位置や速度(車両位置の時間変化)等を算出し、これらをGPS測位結果として制御装置300に対して出力する。衛星航法による車両位置の測位方法は、多種多様でありえ、例えば単独測位や干渉測位を含む如何なる方法であってもよい。
【0017】
慣性航法測位装置200は、図2に示すように、INSセンサ(加速度センサ410及び角速度センサ420)の出力信号に基づいて、車両位置、速度や車両姿勢(方位角)を算出する。慣性航法による車両位置の測位方法は、多種多様でありえ、如何なる方法であってもよい。例えば図2に示すように、車両位置は、加速度センサの出力値に、姿勢変換、重力補正、コリオリ力補正を行って2回積分し、当該2回積分により得られる移動距離を、車両位置の前回値(車両位置測位システム100の測位結果の前回値のフィードバック)に積算することで導出されてよい。姿勢変換を行うための変換式は、例えば図2に示すように、角速度センサ420の出力値に、地球自転を加味する補正を行って積分し、その積分値(ヨー角)と姿勢の前回値とを積算した値を用いて作成されてよい。このようにして、得られる車両位置、速度や車両姿勢の算出結果を、ここでは「INS仮測位結果」という。INS仮測位結果は、GPS測位結果と同期して、制御装置300に入力される。
【0018】
制御装置300は、ハードウェア構成としては、適切なプロセッサないしマイクロコンピューターを中心に構成され、以下で説明する各種処理を行うCPUや、以下で説明する各種処理を行うために用いられるプログラム及びデータが格納されたROM、演算結果等を格納する読書き可能なRAM、タイマ、カウンタ、入力インターフェイス、及び出力インターフェイス等を有する。
【0019】
制御装置300は、主要な機能を実現する機能ブロックとして、第1車両停止判定部302と、第2車両停止判定部304A,304Bと、特定情報記憶部306と、測位制御部308と、差分値調整部310とを備える。
【0020】
第1車両停止判定部302は、加速度センサ410及び角速度センサ420の出力信号に基づいて、車両が停止しているか否かを判定する。加速度センサ410及び角速度センサ420は、図2に示すように慣性航法測位装置200の構成要素でもある。加速度センサ410及び角速度センサ420は、例えば車両の中央部に配置され、各種加速度及び角速度を検出する一体型のセンサユニットであってよい。
【0021】
第1車両停止判定部302は、好ましくは、加速度センサ410及び角速度センサ420のそれぞれの出力値を時間微分し、当該それぞれの微分値が、それぞれに対して設定された閾値を下回った場合に、車両が停止していると判定する。尚、加速度センサ410は、好ましくは、互いに直交する3軸に沿った加速度を検出し、角速度センサ420は、好ましくは、互いに直交する3軸まわりのヨー角速度、ロール角速度及びピッチ角速度を検出する。この場合、6種類の出力値の微分値(指標値)が、それぞれ別々に、図5に示すように、それぞれに対して設定された閾値と比較されることになる。この場合、第1車両停止判定部302は、6種類の出力値の微分値が全て、それぞれに対して設定された各閾値を下回った場合に、車両が停止していると判定する。各閾値は、車両停止時と移動時の各指標値(微分値)の特性の相違に応じて実験的に適合されてよい。
【0022】
第2車両停止判定部304Aは、車輪速センサ400の出力信号に基づいて、車両が停止しているか否かを判定する。具体的には、第2車両停止判定部304Aは、図6に示すように、車輪速センサ400の出力値(車速)に基づく指標値が所定閾値を下回った場合に、車両が停止していると判定する。指標値は、例えば、車速であってもよいし、車速を時間積分したものであってもよい。所定閾値は、車両停止時と移動時の指標値の特性に応じて実験的に適合されてよい。車輪速センサ400は、車両の各輪に搭載され、車輪の回転速度に応じた車速パルスを出力するものであってよい。この場合、第2車両停止判定部304Aは、四輪全ての車輪速センサ400の出力信号に基づいて判定してもよいし、何れかの車輪速センサ400の出力信号に基づいて判定してもよい。また、第2車両停止判定部304Aは、車輪速センサ400に代えて若しくはそれに加えて、トランスミッションの出力軸の回転数を測定するセンサ等のような、車速に関連する物理量を出力できる他の車載センサを用いて、車両が停止しているか否かを判定してもよい。
【0023】
第2車両停止判定部304Bは、衛星航法測位装置110からの衛星航法測位結果に基づいて、車両が停止しているか否かを判定する。具体的には、第2車両停止判定部304Bは、図7に示すように、衛星航法測位装置110から得られる車両の位置情報に基づく指標値が所定閾値を下回った場合に、車両が停止していると判定する。指標値は、例えば、GPS測位結果に基づく車両位置の時間変化(即ち車両の速度)であってもよいし、それを時間積分したものであってもよい。所定閾値は、車両停止時と移動時の指標値の特性に応じて実験的に適合されてよい。
【0024】
ここで、上述の3つの第1車両停止判定部302及び第2車両停止判定部304A、304Bによる車両停止判定の特長について説明する。
【0025】
第1車両停止判定部302による車両停止判定方法は、リアルタイム性に優れており、また、指標値として微分値を用いる場合には、INSセンサ特有のセンサオフセットに影響されなくなるという利点がある。一方、第1車両停止判定部302による車両停止判定方法は、振動が極めて小さい状況(例えばジャンピング中、氷上走行中)において、微分値が閾値を下回って誤判定が生ずる可能性がある。
【0026】
第2車両停止判定部304Aによる車両停止判定方法は、最小分解能以上の速度で特異環境(車輪ロック等)でなければ、数値的に正確である利点がある。一方、停止状態(速度ゼロ)は最小分解能以下の値であるため、停止状態を正確に判定するためには、ある程度の時間幅が必要とされ、それ故に、リアルタイム性に欠けるという欠点がある。即ち、図6に示すように、例えば最小分解能に対応する閾値以下の領域を、停止の可能性がある領域として判定せざるを得ない。また、車輪のロック・空転などの影響により誤検出が生ずる可能性がある。
【0027】
第2車両停止判定部304Bによる車両停止判定方法は、特異環境下においても絶対的な物理量の計測が可能である利点がある。一方、ノイズが比較的多く、また、周囲環境等により計測結果が遮断(例えば電波遮断によるサイクルスリップに起因して遮断)する場合があるという欠点がある。
【0028】
特定情報記憶部306は、ハードウェア構成としては、RAM、EEPROM等のような適切な書き込み可能なメモリにより構成されてよい。特定情報記憶部306は、後述する如く、測位制御部308からのストア指令に応答して、特定の測位周期で導出された車両位置情報を記憶する。
【0029】
測位制御部308は、第1車両停止判定部302や第2車両停止判定部304A,304Bからの判定結果に応じて、特定情報記憶部306の記憶動作を制御したり(制御態様については後述)、差分値調整部310を制御したり(制御態様については後述)、車両位置測位システム100の測位結果を例えばナビゲーション装置の表示制御部に出力したりする。
【0030】
差分値調整部310には、衛星航法測位装置110からのGPS測位結果及び慣性航法測位装置200からのINS仮測位結果が同期して入力される。差分値調整部310は、通常時、GPS測位結果及びINS仮測位結果を差分して、差分値zを状態推定器120に対して供給する。即ち、差分値調整部310は、GPS測位結果の位置情報とINS仮測位結果の位置情報との差分値、及び、GPS測位結果の速度情報とINS仮測位結果の速度情報との差分値を、状態推定器120に対して出力する。
【0031】
状態推定器120は、例えばカルマンフィルタを構成し、GPS測位結果及びINS仮測位結果の差を入力として、GPS測位結果及びINS仮測位結果のそれぞれの信頼性により確率的に最も正しい値になるように、INS補正値xを推定する。INS補正値xは、車両位置及び速度に関する補正値に加えて、車両姿勢、加速度センサ410及び角速度センサ420のバイアス、ドリフトに関する補正値を含んでよい。具体的には、例えば、図3に示すように、カルマンフィルタが構成されてもよい。図3に示す例では、以下の式によりINS補正値xが推定される。
(+)=x(−)−K・(z−H・x(−)
ここで、zは、観測量を表し、差分値調整部310からの差分値に基づいて導出される誤差の観測量に対応する。x(−)は、x(+)の前回値を行列I+FΔtにより変換して導出される。vは、観測雑音を表し、xは、INS補正値(状態変数)を表わす。また、上付き文字で示す(−)及び(+)は、更新前後を示す。Kは、ゲイン行列であり、行列I+FΔtや観測行列Hは、慣性航法測位装置200からの情報に基づいて更新・補正されてよい。
【0032】
慣性航法測位装置200は、状態推定器120にて導出されたINS補正値xに基づいて、各種補正を行って、車両位置及び速度を算出する。このように、GPS測位結果及びINS仮測位結果に基づいて算出されたINS測位結果を、「統合測位結果」という。統合測位結果は、INS仮測位結果をGPS測位結果に基づいて補正したものに相当する。統合測位結果は、演算周期毎に、測位制御部308に供給される。
【0033】
図4に示すように、統合測位結果は、同一のサンプリング点(同一の演算周期)のINS仮測位結果及びGPS測位結果を統合して導出される。このように、ハイブリッド航法を用いた測位方法では、それぞれの測位結果が、誤差の統計的な特性を加味して統合されるので、測位精度が向上する。
【0034】
測位制御部308は、通常時、上述の如くして得られる統合測位結果を、車両位置測位システム100の測位結果として、ナビゲーション装置の表示制御部に出力する。この結果、通常時、統合測位結果が、ナビゲーション装置の表示部の地図表示上に出力されることになる。尚、統合測位結果は、ナビゲーション装置の地図表示上に出力される前に、他の補正(例えば、マップマッチングによる補正)を受けてもよい。
【0035】
図8は、測位制御部308により実現される測位制御の一例を示すフローチャートである。図8に示す処理ルーチンは、例えばイグニッションスイッチがオンにされてからオフになるまで所定周期毎に実行されてよい。所定周期は、統合測位結果の出力周期と同期したものであってよい。
【0036】
ステップ100では、測位制御部308は、今回の周期での第1車両停止判定部302及び第2車両停止判定部304A,304Bからの判定結果を読み出す。
【0037】
ステップ110では、測位制御部308は、第1車両停止判定部302により車両が停止していると判定されたか否かを判定する。第1車両停止判定部302により車両が停止していると判定された場合、ステップ120に進み、それ以外の場合には、ステップ150に進む。
【0038】
ステップ120では、測位制御部308は、今回の周期で初めて、第1車両停止判定部302による車両停止判定が出力されたか否かを判定する。今回の周期で初めて、第1車両停止判定部302により車両が停止していると判定された場合には、ステップ130に進み、それ以外の場合、即ち、前回周期でも第1車両停止判定部302により車両停止判定がなされていた場合には、ステップ140に進む。
【0039】
ステップ130では、測位制御部308は、今回の周期に対応した周期で慣性航法測位装置200から出力された統合測位結果を、特定情報記憶部306に記憶する。即ち、測位制御部308は、第1車両停止判定部302により車両停止判定がなされたときの統合測位結果を、特定情報記憶部306に記憶する。以下、このようにして特定情報記憶部306に記憶された統合測位結果を、「ストア値」という。
【0040】
ステップ140では、測位制御部308は、第2車両停止判定部304A,304Bの双方により車両が停止していると判定されたか否かを判定する。第2車両停止判定部304A,304Bの双方により車両が停止していると判定された場合には、ステップ170に進み、それ以外の場合、即ち第2車両停止判定部304A,304Bの何れか若しくは双方により車両が停止していると判定されない場合には、ステップ150に進む。
【0041】
ステップ150では、測位制御部308は、車両の状態を示すフラグを、「移動状態」に設定若しくは維持する(例えばフラグを‘0’に設定する)。
【0042】
ステップ152では、測位制御部308は、今回周期で、車両の状態を示すフラグが「停車状態」から「移動状態」に変更された否かを判定する。今回周期で、フラグが「停車状態」から「移動状態」に変更された場合には、ステップ154に進み、それ以外の場合、即ち前回周期から既に車両の状態を示すフラグが「移動状態」であった場合には、ステップ160に進む。
【0043】
ステップ154では、測位制御部308は、測位結果の前回値としてストア値を用いて、通常時測位制御を開始する。通常時測位制御の開始時には(初回の演算周期には)、図2に示す「位置の前回値」及び「姿勢の前回値」は、特定情報記憶部306内のストア値(位置及び姿勢に係るストア値)が用いられる。通常時測位制御では、上述の如く、測位制御部308は、差分値調整部310をして、今回周期のGPS測位結果及びINS仮測位結果の差分値を状態推定器120に対して供給させる。
【0044】
ステップ160では、測位制御部308は、通常時測位制御を継続的に実行する。通常時測位制御では、測位制御部308は、慣性航法測位装置200から今回周期で得られた統合測位結果を、ナビゲーション装置の表示制御部に出力する。
【0045】
ステップ170では、測位制御部308は、車両停止状態が確定的に検出されたと判断して、車両の状態を示すフラグを、「停車状態」に設定若しくは維持する(例えばフラグを‘1’に設定する)。即ち、測位制御部308は、第1車両停止判定部302及び第2車両停止判定部304A、304Bの全てによる車両停止判定がなされた段階で、車両の状態を示すフラグを、「停車状態」に設定する。これは、上述の如く第1車両停止判定部302及び第2車両停止判定部304A、304Bの各停止判定方法には、それぞれ単独に用いた場合には短所があり、それらの短所を補うためである。即ち、3つの第1車両停止判定部302及び第2車両停止判定部304A、304Bによる車両停止判定を組み合わせることで、それぞれの弱点を補完し、車両の停止状態を高い確度で検出することができる。
【0046】
ステップ180では、測位制御部308は、停車時測位制御を実行する。停車時測位制御では、測位制御部308は、特定情報記憶部306に記憶された統合測位結果(ストア値)、即ち第1車両停止判定部302により車両停止判定がなされたときの統合測位結果を、車両位置測位システム100の測位結果としてナビゲーション装置の表示制御部に出力する。
【0047】
測位制御部308は、車両の状態を示すフラグが「停車状態」を表している間、ストア値を、ナビゲーション装置の表示制御部に出力し続ける。従って、この間、ナビゲーション装置の表示部で表示される車両位置は、同一位置を維持し続けることになる。即ち、停車時測位制御が開始されると、以後、通常時測位制御が再び開始されるまで、統合測位結果による車両位置測位システム100の測位結果の更新が停止され、ストア値が車両位置測位システム100の測位結果として連続的に出力されることになる。
【0048】
図9は、図8に示した本実施例の測位制御により実現される測位結果出力態様を模式的に示すタイミングチャートである。
【0049】
図9に示す例では、周期kにて、第1車両停止判定部302により車両が停止していると判定され、その際の統合測位結果が、ストア値として記憶されている。尚、周期kでは、第2車両停止判定部304A,304Bの何れか若しくは双方は、未だ車両が停止していると判定していない。これは、上述の如く第1車両停止判定部302による車両停止判定結果が、リアルタイム性に優れていることを表している。次の周期k+1では、第1車両停止判定部302に加えて、第2車両停止判定部304A,304Bの双方が、車両が停止していると判定している。即ち、周期k+1にて、車両の状態を示すフラグが、「停車状態」に変更される。この結果、周期k+1では、周期kと同様の統合測位結果、即ちストア値が、ナビゲーション装置の表示制御部に、車両位置測位システム100の測位結果として出力される。以後、周期nまで、ストア値が、ナビゲーション装置の表示制御部に、車両位置測位システム100の測位結果として出力され続ける。周期n+1では、車両の状態を示すフラグを、「停車状態」から「移動状態」に変更され、それに伴って、停車時測位制御が開始される。周期n+1では、ストア値が、測位結果の前回値として用いられて、今回周期の統合測位結果が導出される。そして、周期n+1では、かくして得られた統合測位結果が、ストア値に代えて、車両位置測位システム100の測位結果として出力されることになる。
【0050】
図10は、図8に示した本実施例の測位制御が実行された場合の統合測位結果の精度を概念的に示す図であり、図11は、本実施例の測位制御が実行されない場合の統合測位結果の精度を概念的に示す図である。即ち、図11は、車両が停止状態にある場合にも、車両が移動状態にある場合と同様に、上述の如く通常時測位制御を継続する場合の精度を示す図である。
【0051】
GPS測位結果及びINS仮測位結果は、図11に示すように、ノイズの影響で変動する。従って、車両が停止状態にある場合にも、上述の如く通常時測位制御を継続すると(即ち、GPS測位結果及びINS仮測位結果の差分に基づいて統合測位結果を導出すると)、GPS測位結果及びINS仮測位結果のそれぞれのノイズの差分値に基づいて、統合測位結果が推定されることになり、統合測位結果が、図11に示すように、車両が停止状態にあるにも拘らず変動する。この結果、統合測位結果は、車両が停止状態で変動すると共に、車両が停止状態に至る毎に、収束されてきた誤差が大きくなり、当該停止状態後の移動初期時の精度も悪くなってしまう。
【0052】
これに対して、本実施例では、上述の如く、車両が停止状態にある場合に、通常時測位制御を一時的に中断し、それに代えて停車時測位制御が実行される。これにより、車両が停止状態にある間は、ストア値が車両位置測位システム100の測位結果として出力され続ける。これにより、停止状態における車両位置測位システム100の測位結果は、停止状態におけるノイズの影響を受けることなく、高い精度を維持することができる。
【0053】
また、本実施例では、上述の如く、車両が停止状態を経てから移動状態に移行する際に、ストア値を用いて通常測位制御が開始される。ストア値は、停止状態におけるノイズの影響をほとんど受けずに導出されている。従って、図10に示すように、車両が停止状態を経てから移動状態に移行する際のシステム100の測位結果は、停止状態におけるGPS測位結果及びINS仮測位結果の変動の影響を受けず、実際の車両位置に高精度に追従することができる。即ち、停止状態に起因して発生しうる誤差が最小限に抑えられ、当該停止状態後の移動初期時から統合測位結果の高い精度を維持することができる。
【0054】
また、特に本実施例では、上述の如く、リアルタイム性に優れたINSセンサの出力値に基づく停止判定結果(即ち第1車両停止判定部302による車両停止判定結果)に基づいて、ストア値の記憶タイミングを決定するので、停止状態におけるノイズの影響を最小限に抑えることができる。即ち、ストア値の記憶タイミングを、例えば車両の状態を示すフラグが「停車状態」になるタイミングに合わせる場合には、ストア値の記憶タイミングが、実際に車両の停止状態となるタイミングに対して大きく遅れる可能性が高い。これは、フラグが「停車状態」になるタイミングは、上述の如く冗長性を持たせるべく、リアルタイム性に劣る第2車両停止判定部304Aの判定結果とのアンド条件が満たされたタイミングに対応させているからである。このように、ストア値の記憶タイミングが、実際に車両の停止状態となるタイミングに対して大きく遅れると、その分だけ、停止状態におけるノイズの影響を多く受けることになる。これに対して、本実施例では、ストア値の記憶タイミングと、フラグを「停車状態」にするタイミングを別個独立的に決定することで、ストア値の記憶タイミングを早めて(即ち実際に車両の停止状態となるタイミングに精度良く合わせて)、停止状態におけるノイズの影響を受け難くすることができる。
【0055】
また、本実施例では、上述の如く、第1車両停止判定部302による車両停止判定がなされた時点の統合測位結果をストア値として記憶する一方で、フラグが「停車状態」になるまで、ストア値を車両位置測位システム100の測位結果として連続的に出力していない。即ち、第1車両停止判定部302による車両停止判定がなされた周期から、フラグが「停車状態」になる周期までの間は、通常時測位制御の下で、統合測位結果が、車両位置測位システム100の測位結果として連続的に出力される。これは、上述の如く第1車両停止判定部302による車両停止判定単独では、振動が極めて小さい状況において誤判定の可能性があり、かかる可能性のある段階(即ち、車両停止状態が確定的に検出されていない段階)で、ストア値を車両位置測位システム100の測位結果として連続的に出力するのは妥当でないからである。即ち、本実施例では、リアルタイム性に優れた第1車両停止判定部302による車両停止判定を利用して、ストア値の記憶タイミングを決定しつつ、その後、事後的に第2車両停止判定部304A、304Bによる車両停止判定を利用して、記憶されたストア値の妥当性を確認する構成となっている。このように、本実施例では、ストア値の記憶タイミングと、ストア値を車両位置測位システム100の測位結果として連続的に出力するのが許容されるタイミング(フラグを「停車状態」にするタイミング)を別個独立的に決定することで、出力される車両位置測位システム100の測位結果の信頼性の高く維持しつつ、上述の如くストア値の記憶タイミングを早めて停止状態におけるノイズの影響を受け難くすることができる。
【0056】
尚、本実施例においては、添付の特許請求の範囲における「移動体位置情報導出手段」は、測位制御部308が通常時測位制御を実行することにより、衛星航法測位装置110、慣性航法測位装置200及び制御装置300により協働的に実現されている。また、同特許請求の範囲における「停止時移動体位置情報出力手段」は、測位制御部308が停車時測位制御を実行することにより、制御装置300により実現されている。
【0057】
以上説明した実施例においては、以下のような変形例がありうる。
【0058】
例えば、上述の実施例において、停車時測位制御は、衛星航法測位装置110及び慣性航法測位装置200におけるそれぞれの測位演算処理を停止させることを含んでよい。これは、停車時測位制御実行中は、上述の如くストア値が用いられるので、衛星航法測位装置110及び慣性航法測位装置200におけるそれぞれの測位結果は実質的に不要であるからである。これにより、衛星航法測位装置110及び慣性航法測位装置200におけるそれぞれの演算負荷を低減することができる。
【0059】
或いは、停車時測位制御は、図12に模式的に示すように、INS仮測位結果の速度情報を、差分値zのうちの速度成分の誤差量として状態推定器120に入力することを含んでよい。この場合、差分値調整部310は、GPS測位結果の位置情報とINS仮測位結果の位置情報との差分値(=ゼロ)と、GPS測位結果の速度情報とINS仮測位結果の速度情報との差分値(=INS仮測位結果の速度情報)とからなる差分値zを、状態推定器120に対して出力する。これにより、停車状態におけるINS仮測位結果の速度情報が誤差として状態推定器120に入力されるので、停車状態において加速度センサ410のバイアス、角速度センサ420のドリフトや姿勢変換行列を適切に補正することができる。即ち、INS仮測位結果は、加速度センサ410のバイアス、角速度センサ420のドリフトや姿勢変換行列に対する補正量に変換され、それらの補正に適切に利用されることになる。この結果、加速度センサ410のバイアス等が補正されるので、INS仮測位結果及びひいては統合測位結果の精度を高めることができる。
【0060】
また、上述の実施例では、好ましい実施例として、第1車両停止判定部302により車両停止判定処理に加えて、2つの第2車両停止判定部304A,304Bによって車両停止判定処理を行っているが、2つの第2車両停止判定部304A,304Bのうちの何れのみを用いてもよい。また、第2車両停止判定部304Bは、衛星航法測位装置110からのGPS測位結果に基づいて車両が停止しているか否かを判定しているが、それに代えて、慣性航法測位装置200からのINS仮測位結果又は統合測位結果に基づいて、車両が停止しているか否かを判定してもよい。
【0061】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0062】
例えば、上述の実施例では、GPSに本発明が適用された例を示したが、本発明は、GPS以外の衛星システム、例えばGNSS (Global Navigation Satellite System)やその類にも適用可能である。
【0063】
また、上述の説明では、移動体としての車両30の位置を適切に測位する車両位置測位システムを例示しているが、本発明は、車両30以外の如何なる移動体にも適用可能である。その他の移動体としては、自動二輪車、鉄道、船舶、航空機、ホークリフト、ロボットや、人の移動に伴い移動する携帯電話等の情報端末等がありうる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明による移動体位置測位装置の一実施例を含む車両位置測位システムを示すシステム構成図である。
【図2】慣性航法測位装置200での測位処理の一例を示すブロック図である。
【図3】図3は、状態推定器120での測位処理の一例を示すブロック図である。
【図4】INS仮測位結果、GPS測位結果及び統合測位結果の関係を概念的に示す図である。
【図5】第1車両停止判定部302による車両停止判定態様を概念的に示す図である。
【図6】第2車両停止判定部304Aによる車両停止判定態様を概念的に示す図である。
【図7】第2車両停止判定部304Bによる車両停止判定態様を概念的に示す図である。
【図8】測位制御部308により実現される測位制御の一例を示すフローチャートである。
【図9】図5に示した本実施例の測位制御により実現される測位結果出力態様を模式的に示すタイミングチャートである。
【図10】本実施例の測位制御が実行された場合の統合測位結果の精度を概念的に示す図である。
【図11】本実施例の測位制御が実行されない場合の統合測位結果の精度を概念的に示す図である。
【図12】停車時測位制御の代替例を概念的に示す図である。
【符号の説明】
【0065】
100 車両位置測位システム
110 衛星航法測位装置
120 状態推定器
200 慣性航法測位装置
300 制御装置
302 第1車両停止判定部
304A 第2車両停止判定部
304B 第2車両停止判定部
306 特定情報記憶部
308 測位制御部
310 差分値調整部
400 車輪速センサ
410 加速度センサ
420 角速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星航法と慣性航法とを併用したハイブリッド航法を用いて移動体位置情報を導出する移動体位置情報導出手段と、
加速度センサ及び/又は角速度センサの出力値に基づいて移動体が停止しているか否かを判定する第1移動体停止判定手段と、
車速を表すことができる車載センサの出力値、及び/又は、衛星航法及び/又は慣性航法に基づく移動体位置の出力値の時間変化に基づいて移動体が停止しているか否かを判定する第2移動体停止判定手段と、
前記第1移動体停止判定手段により移動体が停止していると判定されたとき、そのときに対応した周期で前記移動体位置情報導出手段により導出された前記移動体位置情報を、記憶する記憶手段と、
前記第1移動体停止判定手段により移動体が停止していると判定された後に前記第2移動体停止判定手段により移動体が停止していると判定された場合に、前記記憶手段に記憶された移動体位置情報を、現在の移動体位置情報として出力する停止時移動体位置情報出力手段と、を備えることを特徴とする、移動体位置測位装置。
【請求項2】
前記第1移動体停止判定手段が、加速度センサ及び/又は角速度センサの出力値の微分値に基づいて移動体が停止しているか否かを判定し、
前記第2移動体停止判定手段が、車輪速センサの出力値、及び衛星航法に基づいて算出された移動体位置情報の出力値の変化に基づいて移動体が停止しているか否かを判定する、請求項1に記載の移動体位置情報測位装置。
【請求項3】
前記第1移動体停止判定手段により移動体が停止していると判定された後に前記第2移動体停止判定手段により移動体が停止していると判定された場合であって、その後、移動体が移動し始めた場合には、前記移動体位置情報導出手段が、前記記憶手段に記憶された移動体位置情報を用いて、前記移動体位置情報の導出処理を開始する、請求項1又は2に記載の移動体位置測位装置。
【請求項4】
前記移動体位置情報が、移動体位置及び移動体姿勢の双方に関する情報を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の移動体位置測位装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−116370(P2008−116370A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300953(P2006−300953)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.INS
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】