説明

第13族窒化物結晶の製造方法

【課題】Si元素を含む原料が目的とする結晶に取り込まれることなく副生物となるのを抑え、結晶中のSi濃度を安定に制御することができる、第13族窒化物結晶の製造方法を提供すること。
【解決手段】第13族元素、窒素元素およびSi元素を含む原料を用いて、Si取込効率10%以上で結晶成長を行うことにより、Si元素を含有する第13族窒化物結晶を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第13族窒化物結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)結晶などの第13族窒化物結晶は、短波長発光デバイスやパワー電子デバイスなどの電子素子に適用される物質として有用である。この製造方法には、液相法と気相法が挙げられる。液相法には、高温高圧融液成長法、フラックス法、超臨界流体を用いた方法などがある。これらの液相法では高品質の結晶が期待できる半面、成長速度が遅いなどの課題がある。一方、気相法にはハイドライド気相成長(HVPE)法や有機金属化学気相成長(MOCVD)法等がある。例えば、サファイア等の下地基板を気相成長装置のリアクター内にセットし、リアクター内に、第13族元素含有ガスと窒素元素含有ガスなどを供給することにより、下地基板上に第13族窒化物結晶を数μm〜数cmの厚さにまで成長させる。そして、その後、下地基板などの部分を研磨やレーザーを照射する方法を用いて除去することにより、所望の第13族窒化物結晶基板を得ることができる。前記の気相成長法のうち、HVPE法は他の成長方法に比べて高い成長速度が実現できる特徴をもつことから、第13族窒化物結晶の厚膜成長が必要な場合や、十分な厚みを有する第13族窒化物結晶基板を得るための方法として有効である。
【0003】
一方、発光素子およびパワーデバイス用素子を製造するのに用いられるGaN基板などの第13族窒化物結晶基板としては、基板の裏面にも電極を付けた上下電極構造のデバイスを製造するために、不純物の添加により導電性を高めたものが通常使用されている。デバイス構造を設計する際、エピタキシャル構造の最表面がp型層となるように設計することが多いので、通常、GaN基板などの第13族窒化物結晶基板にn型の導電性を与える。
【0004】
n型の第13族窒化物結晶を、MOVPE法で成長させる際には、通常モノシランやジシランをドーピング原料ガスに用いて珪素(シリコン(Si))をドープする方法が採られている(例えば特許文献1)。しかしHVPE法では、モノシランやジシランをドーピングガスに用いることができない。HVPE法は高温に加熱されたリアクター壁に原料ガスが接触する、所謂ホットウォールタイプの結晶成長方式であるため、モノシランやジシランが成長している結晶に到達する前に分解してしまい、実効的に結晶中に取り込まれないためである。
【0005】
そこで特許文献2では、HVPE法による気相成長時に、SiHxCl4-x(x=1〜3)をドーピング原料ガスに用いてSiをドープしながらn型の第13族窒化物半導体層を形成する方法が提案されている。また、特許文献3には、不純物元素としてシリコン(Si)を含有する第13族窒化物半導体基板が開示されており、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、テトラクロロシラン(四塩化珪素(SiCl4))を用いて第13族窒化物半導体をエピタキシャル成長させることが記載されている。そして、非特許文献1には、ジクロロシランによるドーピングにおけるジクロロシラン流量と結晶中キャリア濃度の関係を示すグラフが掲載されている。さらに、特許文献4には、ジクロロシランとHClを同時に流してSi析出を防ぎ、Si利用効率を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−252175号公報
【特許文献2】特開2000−91234号公報
【特許文献3】特開2006−193348号公報
【特許文献4】特開2006−173148号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】E.Richter et al., phys.stat.sol.(a) 203, No.7, 1658-1662 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2、特許文献3および非特許文献1に記載される方法では、Si元素含有ガス用の導入管の吐出口近傍に白色の固形物が付着してしまって導入管が劣化してしまうという課題があった。また、付着した固形物が脱落して第13族窒化物結晶中に異物として混入する事により、結晶品質が低下し、クラック発生率が増加するという課題があった。ここで生成する付着物は、非常に反応性が高いことが知られており、生成反応を抑制することが非常に難しい。さらに、第13族窒化物結晶中へのSi取込効率が低くて、材料の利用効率が悪いという課題もあった。特許文献4に記載される方法によれば、第13族窒化物結晶中へのSi取込効率をいくらか改善することができるものの、依然として十分なレベルではなく、またSi元素含有ガス用の導入管の吐出口に固形物が付着するという課題は解決することができなかった。このため、これらの方法は、第13族窒化物結晶中のSi濃度のコントロール精度が低く、製造される結晶の品質が不安定になるという課題を共通して抱えていた。また、固形物が付着して表面が傷んだ導入管を頻繁に交換する等の手間とコストがかかるという課題も抱えていた。
【0009】
これらの従来技術の課題を解決するために、Si元素を含む原料が目的とする結晶に取り込まれることなく副生物となるのを抑え、製造される第13族窒化物結晶中のSi濃度を安定に制御することができる製造方法を提供することを目的として鋭意検討を進めた。また、気相法においてSi元素含有ガス用の導入管の吐出口近傍に固形物が付着するのを抑えることも目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討を進めた結果、以下に記載される本発明の製造方法によれば、上記の課題を解決できることを見出した。
[1] 第13族元素、窒素元素およびSi元素を含む原料を用いて結晶成長を行う工程を含む、Si元素を含有する第13族窒化物結晶の製造方法であって、
下記式(1)で規定されるSi取込効率が10%以上であることを特徴とする、第13族窒化物結晶の製造方法。
【数1】

(上式において、MSi(C)は製造される第13族窒化物結晶中のSi元素のモル量を表し、M13(C)は製造される第13族窒化物結晶中の第13族元素のモル量を表し、MSi(I)は原料中のSi元素のモル量を表し、M13(I)は原料中の第13族元素のモル量を表す。)
[2] 前記第13族元素、窒素元素およびSi元素を含む原料がガスであって、第13族元素含有ガス、窒素元素含有ガスおよびSi元素含有ガスをリアクター内に供給して結晶成長を行う工程を含む、[1]に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
[3] 周囲をシールドガスで囲まれた状態で前記Si元素含有ガスを導入管から前記リアクター内に導入することを特徴とする[2]に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
[4] 前記Si元素含有ガスの周囲3mm以上の範囲がシールドガスで囲まれた状態で前記Si含有ガスを導入管から前記リアクター内に導入することを特徴とする[3]に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
[5] 周囲をシールドガスで囲まれた状態で前記窒素元素含有ガスを導入管から前記リアクター内に導入することを特徴とする[2]〜[4]のいずれか一項に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
[6] 前記窒素元素含有ガスの周囲3mm以上の範囲がシールドガスで囲まれた状態で前記窒素元素含有ガスを導入管から前記リアクター内に導入することを特徴とする[5]に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
[7] 前記シールドガスの線速度と隔離距離の積が0.0003〜10m2/sであることを特徴とする[3]〜[6]のいずれか一項に記載の第13族窒化物結晶の製造方法(ここにおいて隔離距離とは、前記リアクターへの導入地点における前記Si元素含有ガスのガス流の外縁から窒素元素含有ガスのガス流の最近部までの距離を表す。)。
[8] 前記シールドガスの線速度が0.1〜20m/sであることを特徴とする[3]〜[7]のいずれか一項に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、Si元素を含む原料が目的とする結晶に取り込まれることなく副生物となるのを抑え、製造される第13族窒化物結晶中のSi濃度を安定に制御することができる。また、本発明の製造方法によれば、気相法においてSi元素含有ガス用の導入管の吐出口近傍に固形物が付着するのを抑え、Si元素含有ガス用の導入管の洗浄や交換にかかる手間やコストを大幅に抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の第13族窒化物結晶の製造方法について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
<本発明の製造方法の特徴>
本発明のSi元素を含有する第13族窒化物結晶の製造方法は、第13族元素、窒素元素およびSi元素を含む原料を用いて結晶成長を行う工程を含み、下記式(1)で規定されるSi取込効率が10%以上であることを特徴とする。
【数2】

(上式において、MSi(C)は製造される第13族窒化物結晶中のSi元素のモル量を表し、M13(C)は製造される第13族窒化物結晶中の第13族元素のモル量を表し、MSi(I)は原料中のSi元素のモル量を表し、M13(I)は原料中の第13族元素のモル量を表す。)
ここで原料とは、Si元素を含有する第13族窒化物結晶を構成し得るものであれば特に限定されず、固体、気体、液体などいずれの形態であってもよい。また、結晶成長開始前にリアクター内にあらかじめ充填しておいてもよく、連続的にリアクター内に供給してもよい。たとえば、原料が充填されていないリアクター内に原料を連続的に供給する場合には、MSi(I)はリアクター内に供給するSi元素のモル量であって、M13(I)はリアクター内に供給する第13族元素のモル量を表す。
結晶成長を行う工程には、公知のいずれの結晶成長方法を適用してもよく、例えば、HVPE法、MOCVD法、フラックス法、アモノサーマル法などが挙げられる。
本発明の製造方法においては、結晶の成長速度が速いことから前記第13族元素、窒素元素およびSi元素を含む原料がガスであることが好ましく、第13族元素含有ガス、窒素元素含有ガスおよびSi元素含有ガスとしてリアクター内に供給して結晶成長を行うことが好ましい。
以下、本発明の好ましい形態である気相法における実施形態について詳述する。
【0014】
<本発明におけるガスの導入>
本発明の第13族窒化物結晶の製造方法は、第13族元素含有ガス、窒素元素含有ガスおよびSi元素含有ガスをリアクター内に供給して結晶成長を行う工程を含むものである。
本発明で用いる第13族元素含有ガスは、製造しようとしている第13族窒化物結晶を構成する第13族元素と同じ元素を含むガスである。例えば、GaN結晶を製造しようとする場合は、Ga元素を含むガスである。Ga元素を含むガスは、リアクター外で発生させてリアクター内に導入してもよいし、リアクター内で反応させることにより発生させてもよい。リアクター内で発生させる場合は、例えば、GaとHClを反応させることによりGaClガスを発生させる態様などを例示することができる。
本発明で用いる窒素元素含有ガスとしては、通常NH3を用いる。
【0015】
本発明で用いるSi元素含有ガスの種類は、リアクター内でn型不純物として機能するSiのドーピングガスとなるものであれば特に制限されない。例えば、Si固体;モノシラン;SiH3Cl、SiH2Cl2、SiHCl3、SiCl4などのクロロシラン系化合物;SiH3Br、SiH2Br2、SiHBr3、SiBr4などのブロモシラン系化合物;SiH3F、SiH22、SiHF3、SiF4などのフルオロシラン系化合物;SiH3I、SiH22、SiHI3、SiI4などのヨウ化シラン系化合物等が挙げられる。中でも、ドーピングガスとしての安定性からSiH3Cl、SiH2Cl2、SiHCl3、SiCl4などのクロロシラン系化合物が好ましく、より好ましくはジクロロシラン(SiH2Cl2)である。
【0016】
Si元素含有ガスには、ハロゲン元素含有物質を好ましく含ませることができる。Si元素含有ガスにハロゲン元素含有物質を含ませることによって、得られる第13族窒化物結晶内に均一で高濃度にSiをドープすることができる。本発明で用いることができるハロゲン元素含有物質の種類は特に限定されず、例えばHCl、HBr、HFなどのハロゲン化水素;Cl2、Br2、F2などのハロゲンガス;ハロゲン元素を放出するガスなどが挙げられる。なかでも、珪素含有物質を気体として安定させやすいことからHCl、HBr、HFなどのハロゲン化水素が好ましく、より好ましくはHClである。また、別の視点では、ドーピングガスとして用いるSi元素含有物質がハロゲン元素を含む場合には、該ハロゲン元素と同一のハロゲン元素を含むものであることが好ましい。
【0017】
本発明では、いわゆるキャリアガスを用いることもできる。キャリアガスは、上記各種のガスや後述するシールドガスに混合して濃度を調整したり流速を付与したりするために用いられるものである。キャリアガスとしては、H2、N2、He、Ne、Arなどを挙げることができ、H2、N2を好ましく用いることができる。本発明では、1種のキャリアガスを単独で用いてもよいし、複数のキャリアガスを個別または混合して用いてもよい。
【0018】
本発明では、上記のガス以外にシールドガスを好ましく用いることができる。シールドガスとは、本発明の製造方法における反応に関与しないガスから構成されるものであり、上記のガス同士が互いに混合するのを妨げるために用いられるものである。本発明の製造方法では、Si元素含有ガスと窒素元素含有ガスとが互いに混合するのを妨げるために好ましく用いられるため、以下の説明ではこれらのガスの混合を妨げる場合を代表例として、その態様を具体的に説明する。
【0019】
例えば、リアクター内に導入管を用いてSi元素含有ガスを導入する場合、その導入管の吐出口から吐出されるSi元素含有ガスの周囲がシールドガスで囲まれた状態にする態様が挙げられる。このとき、Si元素含有ガスの周囲3mm以上の範囲をシールドガスで囲まれた状態にすることが好ましく、周囲4mm以上の範囲をシールドガスで囲まれた状態にすることがより好ましく、周囲5mm以上の範囲をシールドガスで囲まれた状態にすることがさらに好ましい。シールドガスは、吐出口から吐出されるSi元素含有ガス流と同じ方向に流れるように制御されていることが好ましい。その線速度は、Si元素含有ガスが吐出する吐出口において、流路に乱れが生じる、もしくは拡散してくることによって、Si元素含有ガスやシールドガス以外のガスが吐出口に到達することがないような線速度であることが好ましい。
【0020】
リアクター内にシールドガスを導入するための導入管は、Si元素含有ガスを導入するための導入管の周囲に1つだけ設置してもよいし、複数個設置してもよい。シールドガス用の導入管の吐出口の形状は、Si元素含有ガス用の導入管の吐出口に対応した形状とすることが好ましい。例えば、Si元素含有ガス用の導入管の吐出口が円形の断面を有する場合は、その円形の吐出口を内包するドーナツ状の吐出口を有するシールドガス用の導入管を好ましく採用することができる。別の例として、Si元素含有ガス用の導入管の吐出口が楕円形の断面を有する場合は、その楕円形の吐出口を内包する相似楕円のドーナツ状の吐出口を有するシールドガス用の導入管を好ましく採用することができる。Si元素含有ガス用の導入管の吐出口が矩形の場合も、同様に考えることができる。また、さらに別の例として、Si元素含有ガス用の導入管の吐出口がスリット状(短辺が極めて短い長方形)である場合は、そのスリット状吐出口を挟み込むようにスリット状の吐出口を有するシールドガス用の導入管2本を並列に設置することができる。シールドガス用の導入管の吐出口の長辺は、Si元素含有ガス用の導入管の吐出口の長辺と同じかやや長くしておくことが好ましく、やや長くしておくことがより好ましい。やや長くしておく場合は、シールドガス用の導入管の吐出口の長辺は、Si元素含有ガス用の導入管の吐出口の長辺より3mm以上長くすることが好ましく、5mm以上長くすることがより好ましく、また、1000mm以下で長くすることが好ましく、200mm以下で長くすることがより好ましい。なお、上記の2本のシールドガス用の導入管は、リアクター内またはリアクター外において1本のシールドガス用導管から分岐したものであっても構わない。
【0021】
これらの例において、シールドガス用導入管の吐出口は、Si元素含有ガス用の導入管の吐出口よりも上流に設置されているか、同レベルに並設されていることが好ましい。このような位置に吐出口を設置することによって、シールドガスやSi元素含有ガス以外のガスを、Si元素含有ガス用の導入管の吐出口付近に巻き込む危険性を一段と低くすることができる。
【0022】
Si元素含有ガス用の導入管には、Si元素含有ガスだけでなく、Si元素含有ガスと混合しても支障がないガスを混合して導入してもよい。例えば、Si元素含有ガスと第13族元素含有ガスを混合して導入してもよい。あるいは、第13族元素含有ガス流(コア)の周囲を囲むように流れるSi元素含有ガス流(クラッド)を導入してもよい。このようなガス流は、Si元素含有ガス用の導入管内に吐出口を有する径の小さな第13族元素含有ガス用の導入管を内包させることにより形成することができる。
また、シールドガス用の導入管には、シールドガスだけでなく、シールドガスと混合しても支障がないガスを混合して導入してもよい。例えば、シールドガスと第13族元素含有ガスを混合して導入してもよい。
【0023】
本発明の製造方法において、窒素元素含有ガスは、Si元素含有ガス用の導入管やシールドガス用の導入管とは別にリアクター内に導入する。通常は、窒素元素含有ガス用の導入管を通してリアクター内に導入する。窒素元素含有ガス用の導入管は、その導入管から吐出される窒素元素含有ガスが、シールドガスがあるためにSi元素含有ガス用の導入管の吐出口近傍に到達しにくい位置に設置する。例えば、Si元素含有ガス用の導入管の吐出口の周囲を囲むようにシールドガス導入管の吐出口が設置されているとき、そのシールドガス導入管の吐出口のさらに外側に窒素元素含有ガス用の導入管を設置することが好ましい。このとき、窒素元素含有ガス用の導入管の吐出口は、シールドガス導入管の吐出口の周囲を囲むように設置してもよいし、しなくてもよい。また、Si元素含有ガスやシールドガスの導入管から離れた位置に、窒素元素含有ガス用の導入管の吐出口を設置してもよい。離れた位置に設置する場合は、窒素元素含有ガス用の導入管の吐出口の周囲を囲むように、シールドガス導入管の吐出口を設けることも好ましい。また、離れた位置に設置する場合は、Si元素含有ガス導入管と窒素元素含有ガス用の導入管の間にシールドガス導入管の吐出し口を設けてもよいし、Si元素含有ガス導入管および窒素元素含有ガス用の導入管よりもガス流れの上流部分から、これらの導入管の間にシールドガスを流してもよい。
【0024】
Si元素含有ガスと窒素元素含有ガスとの間にシールドガスを流すことによって両者を隔離する場合、シールドガスの線速度と隔離距離を好ましい範囲内に制御することによって、本発明の効果がより効果的に得られるようになる。ここでいうシールドガスの線速度とは、結晶成長中のリアクター内温度及びリアクター内圧力における、Si元素含有ガス用導入管の吐出口の周囲を流れるシールドガスの線速度を意味する。シールドガスの線速度は、Si元素含有ガス用導入管の吐出口の周囲を流れるシールドガスの線速度を直接測定することにより求めてもよいし、Si元素含有ガス用導入管の吐出口の周囲に吐出するように設置したシールドガス用導入管内を流れるシールドガスの流速をもって線速度としてもよい。通常は後者の方法を採用する。一方、上記の隔離距離は、Si元素含有ガス用導入管の吐出口の内縁(すなわち吐出口から吐出されるSi元素含有ガス流の外縁)から窒素元素含有ガス流の最近部までの距離を意味する。通常は、Si元素含有ガスの吐出方向と窒素元素含有ガス流の方向は一致しているため、隔離距離はこれらのガス流の方向に垂直な方向の最短距離となる。
【0025】
隔離距離は3mm(0.003m)以上であることが好ましく、4mm(0.004m)以上であることがより好ましく、5mm(0.005m)以上であることがさらに好ましい。また、隔離距離は500mm(0.5m)以下であることが好ましく、100mm(0.1m)以下であることがより好ましく、50mm(0.05m)以下であることがさらに好ましい。線速度は、0.1m/s以上であることが好ましく、0.15m/s以上であることがより好ましく、0.2m/s以上であることがさらに好ましい。また、線速度は20m/s以下であることが好ましく、5m/s以下であることがより好ましく、1m/s以下であることがさらに好ましい。隔離距離と線速度の積は、0.3m2/s以上であることが好ましく、0.6m2/s以上であることがより好ましく、1m2/s以上であることがさらに好ましい。また、隔離距離と線速度の積は、10000m2/s以下であることが好ましく、5000m2/s以下であることがより好ましく、1000m2/s以下であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明の製造方法を実施することによって、上記の式(1)で規定されるSi取込効率を高めることができる。本発明のSi取込効率は10%以上であり、好ましくは14%以上であり、より好ましくは25%以上であり、さらに好ましくは100%以上である。本発明によれば、250%以上や350%以上のSi取込効率を達成することも可能である。Si取込効率の具体的な測定法については、後述する実施例の記載を参照することができる。
本発明の製造方法を実施することによって得られる第13族窒化物結晶のキャリア濃度は1×1017cm-3以上であることが好ましく、3×1017cm-3以上であることがより好ましく、5×1017cm-3以上であることがさらに好ましい。また、5×1019cm-3以下であることが好ましく、3×1019cm-3以下であることがより好ましく、1×1019cm-3以下であることがさらに好ましい。本発明におけるキャリア濃度は、van der Pauw法によるホール測定を行うことにより決定される値であり、測定手順の詳細については後述の実施例を参照することができる。
【0027】
本発明の製造方法によれば、Si元素含有ガス用の導入管の吐出口に窒素元素含有ガスとの反応生成物などの固形物が付着形成されにくい。このため、Si元素を効率良く第13族窒化物結晶中にドープすることができる。また、製造工程実施中にSi元素のドープ効率が低下して第13族窒化物結晶中のSiドープ量が低下ないし変動するおそれを大幅に低減することができる。それによって、Siドープ量が一定で信頼性の高い第13族窒化物結晶を安定に製造することができる。さらに、本発明によれば、Si元素含有ガス用の導入管を特段の洗浄操作を行うことなく再利用することが可能である。このため、本発明によれば製造コストを下げることができるうえ、時間の節約もできる。
【0028】
<典型的な製造方法の詳細な説明>
以下において、本発明の第13族窒化物結晶の典型的な製造方法の詳細を説明する。ただし、本発明の製造方法の範囲は、特許請求の範囲に記載されていない事項を必須の構成要素とするものではなく、また、以下の典型的な製造方法の説明により限定的に解釈されるべきものではない。
【0029】
(下地基板の準備)
本発明の製造方法は、気相成長装置のリアクター内に下地基板を準備する工程を有することが好ましい。
本発明で用いる下地基板は、第13族窒化物結晶を成長することができる成長面を有するものであれば、特に種類は限定されないが、得られる第13族窒化物結晶の結晶性が良好であることから六方晶系の結晶であることが好ましく、成長させる第13族窒化物結晶と格子定数の近い六方晶系の結晶であることがより好ましく、例えばサファイア、酸化亜鉛結晶、窒化物結晶などが挙げられる。中でも窒化物結晶であることが好ましく、より好ましくは成長面に成長させる第13族窒化物結晶と同一種の窒化物結晶を用いる場合である。例えばGaNなどが挙げられる。特に、下地基板の成長面に第13族窒化物結晶を含むことが好ましい。
サファイアの格子定数はa軸で4.758Å、c軸で12.983Åである。窒化ガリウムの格子定数はa軸で3.189Å、c軸で5.185Åである。
下地基板の面方位は、第13族窒化物結晶を成長することができる成長面であれば特に方位は限定されず、例えば{0001}面、{10−10}面、{11−20}面、{11−22}面、{20−21}面などを好ましく用いることができ、中でも(0001)面を用いることがより好ましい。
【0030】
この明細書において、「C面」とは、六方晶構造(ウルツ鋼型結晶構造)における(0001)面である。第13族窒化物結晶では、「C面」は、第13族面であり、窒化ガリウムでは、Ga面に相当する。また、この明細書において「C面」は、±0.01°以内の精度で計測されるC軸から25°傾斜した方向の範囲内に成長面がある下地基板の成長面のことを指し、より好ましくは10°傾斜した方向の範囲内の成長面であり、さらに好ましくは5°傾斜した方向の範囲内の成長面である。
【0031】
この明細書において、{10−10}面とは「M面」のことであり、六方晶構造(ウルツ鋼型結晶構造)における{1−100}面と等価な面であり、これは、非極性面であり、通常は劈開面である。{1−100}面と等価な面は、(1−100)面、(−1100)面、(01−10)面、(0−110)面、(10−10)面、(−1010)面である。また、この明細書において「M面」は、±0.01°以内の精度で計測されるM軸からA軸方向へ15°傾斜した方向の範囲内に成長面がある下地基板の成長面のことを指し、より好ましくは10°傾斜した方向の範囲内の成長面であり、さらに好ましくは5°傾斜した方向の範囲内の成長面である。さらに、「M面」は±0.01°以内の精度で計測されるM軸からC軸方向へ25°傾斜した方向の範囲内に成長面がある下地基板の成長面のことを指し、より好ましくは10°傾斜した方向の範囲内の成長面であり、さらに好ましくは5°傾斜した方向の範囲内の成長面である。
【0032】
この明細書において、{11−20}面とは「A面」のことであり、六方晶構造(ウルツ鋼型結晶構造)における{11−20}面と等価な面であり、これは、非極性面である。{11−20}面と等価な面は、(11−20)面、(−1−120)面、(1−210)面、(−12−10)面、(−2110)面、(2−1−10)面である。また、この明細書において「A面」は、±0.01°以内の精度で計測されるA軸からM軸方向へ15°傾斜した方向の範囲内に成長面がある下地基板の成長面のことを指し、より好ましくは10°傾斜した方向の範囲内の成長面であり、さらに好ましくは5°傾斜した方向の範囲内の成長面である。さらに、「A面」は±0.01°以内の精度で計測されるA軸からC軸方向へ25°傾斜した方向の範囲内に成長面がある下地基板の成長面のことを指し、より好ましくは10°傾斜した方向の範囲内の成長面であり、さらに好ましくは5°傾斜した方向の範囲内の成長面である。
【0033】
この明細書において、{11−22}面とは、六方晶構造(ウルツ鋼型結晶構造)における{11−22}面と等価な面であり、これは、半極性面である。{11−22}面と等価な面は、(11−22)面、(−1−122)面、(1−212)面、(−12−12)面、(−2112)面、(2−1−12)面である。また、この明細書において{11−22}面は、±0.01°以内の精度で計測される<11−22>軸からM軸方向へ15°傾斜した方向の範囲内に成長面がある下地基板の成長面のことを指し、より好ましくは10°傾斜した方向の範囲内の成長面であり、さらに好ましくは5°傾斜した方向の範囲内の成長面である。さらに、{11−22}面は±0.01°以内の精度で計測される<11−22>軸からC軸方向へ25°傾斜した方向の範囲内に成長面がある下地基板の成長面のことを指し、より好ましくは10°傾斜した方向の範囲内の成長面であり、さらに好ましくは5°傾斜した方向の範囲内の成長面である。
この明細書において、{20−21}面とは、六方晶構造(ウルツ鋼型結晶構造)における{20−21}面と等価な面であり、これは、半極性面である。{20−21}面と等価な面は、(20−21)面、(2−201)面、(02−21)面、(0−221)面、(−2201)面、(−2021)面である。また、この明細書において{20−21}面は、±0.01°以内の精度で計測される<20−21>軸からA軸方向へ15°傾斜した方向の範囲内に成長面がある下地基板の成長面のことを指し、より好ましくは10°傾斜した方向の範囲内の成長面であり、さらに好ましくは5°傾斜した方向の範囲内の成長面である。さらに、{20−21}面は±0.01°以内の精度で計測される<20−21>軸からC軸方向へ25°傾斜した方向の範囲内に成長面がある下地基板の成長面のことを指し、より好ましくは10°傾斜した方向の範囲内の成長面であり、さらに好ましくは5°傾斜した方向の範囲内の成長面である。
【0034】
本発明で用いられる下地基板の製造方法は特に限定されず、一般的に知られる方法で製造することができる。
例えば下地基板の結晶成長方法としては、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法、MOCVD(Meral-organic Chemical Vapor Deposition)法、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法等を挙げることができる。
【0035】
気相成長装置のリアクター内に下地基板を準備する方法としては、特に限定されず、例えばHVPE装置を用いた場合には、基板ホルダー上に載置することができる。
【0036】
(第13族窒化物結晶の成長)
本発明の製造方法は、第13族元素含有ガスと窒素元素含有ガスを反応させて下地基板上に第13族窒化物結晶を成長させる成長工程を有する。このとき、本発明にしたがって、上記のようにSi元素含有ガスとシールドガスもリアクター内に供給する。
【0037】
結晶成長させる第13族窒化物結晶の種類は特に制限されない。例えばGaN、InN、AlN、InGaN、AlGaN、AlInGaNなどを挙げることができる。好ましいのはGaN、AlN、AlGaNであり、より好ましいのはGaNである。
【0038】
本発明の第13族窒化物結晶の製造方法において用いることができる気相法の結晶成長方法としては、HVPE法、MOCVD法、MBE法、昇華法等の気相法を挙げることができる。高純度結晶が得られるという理由から、好ましいのはHVPE法、MOCVD法であり、最も好ましいのはHVPE法である。
【0039】
結晶成長に用いる装置の詳細は特に制限されない。例えば、リアクター内に、下地基板を載置するための基板ホルダー(サセプター)と、成長させる第13族窒化物結晶の原料を入れるリザーバーとを備えている。また、リアクター内にガスを導入するための複数の導入管と、排気するための排気管が設置されている。さらに、リアクターを側面から加熱するためのヒーターが設置されている。
リアクターの材質としては、石英、多結晶ボロンナイトライド(BN)ステンレス等が用いられる。好ましい材質は石英であり、なかでも得られる結晶のキャリア濃度が安定することから合成石英がより好ましい。リアクター内には、反応開始前にあらかじめ雰囲気ガスを充填しておく。雰囲気ガスとしては、例えばH2ガス、N2ガス、He、Ne、Arのような不活性ガス等を挙げることができる。これらのガスは混合して用いてもよい。
【0040】
基板ホルダーの材質としてはカーボンが好ましく、SiCで表面をコーティングしているものがより好ましい。基板ホルダーの形状は、下地基板を設置することができる形状であれば特に制限されないが、結晶成長する際に成長している結晶の上流側に構造物が存在しないものであることが好ましい。上流側に結晶が成長する可能性のある構造物が存在すると、そこに多結晶体が付着し、その生成物としてHClガスが発生して結晶成長させようとしている結晶に悪影響が及んでしまう。基板ホルダーの下地基板載置面の大きさは、載置する下地基板よりも小さいことが好ましい。すなわち、ガス上流側から見たときに、下地基板の大きさで基板ホルダーが隠れるくらいの大きさであることがさらに好ましい。
【0041】
下地基板を基板ホルダーに載置するとき、下地基板の成長面はガス流れの上流側を向くように載置することが好ましい。すなわち、ガスが下地基板の結晶成長面に向かって流れるように載置することが好ましく、ガスが下地基板の結晶成長面に垂直な方向から流れるようにすることがより好ましい。このように下地基板を載置することによって、より均一で結晶性に優れた第13族窒化物結晶を得ることができる。
【0042】
リザーバーには、第13族源となる原料を入れる。そのような第13族源となる原料として、Ga、Al、Inなどを挙げることができる。
リザーバーにガスを導入するための導入管からは、リザーバーに入れた原料と反応するガスを供給する。例えば、リザーバーに第13族源となる原料を入れた場合は、導入管からHClガスなどのハロゲン化水素を供給することができる。ここで、リザーバーの第13族源となる原料と導入管から供給されたガスが反応し、第13族元素含有ガスとして第13族元素のハロゲン化物がリアクター内に供給される。このとき、HClガスなどのハロゲン化水素とともに、導入管からキャリアガスを供給してもよい。キャリアガスとしては、例えばH2ガス、N2ガス、He、Ne、Arのような不活性ガス等を挙げることができる。これらのガスは混合して用いてもよい。キャリアガスは雰囲気ガスと同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0043】
Si元素含有ガス、シールドガスおよび窒素元素含有ガスについても、導入管からリザーバー内に導入することができる。これらのガスを導入する際の導入管の形態や態様については、上記の説明にしたがう。これらのガスの導入管には、第13族元素含有ガスの場合と同様にキャリアガスを供給してもよい。
【0044】
ガス排出管は、ガス導入のための導入管が設置されている側とは反対側のリアクター内壁から排出することができるように設置するのが一般的である。例えば、ガス導入のための導入管がリアクター上面に設置されているときは、反対側に位置するリアクター底面にガス排出管を設置することが好ましい。ガス導入のための導入管がリアクター右側面に設置されている場合は、ガス排出管はリアクター左側面に設置されていることが好ましい。このような態様を採用することによって、一定方向に向けて安定にガスの流れを形成することができる。
【0045】
HVPE法による結晶成長は、通常は800℃〜1200℃で行い、900℃〜1100℃で行うことが好ましく、925℃〜1070℃で行うことがより好ましく、950℃から1050℃で行うことがさらに好ましい。リアクター内の圧力は10kPa〜200kPaであるのが好ましく、30kPa〜150kPaであるのがより好ましく、50kPa〜120kPaであるのがさらに好ましい。
【0046】
結晶成長を行った後に得られる第13族窒化物結晶は、結晶面の境界に多結晶体を有することがある。ここでいう多結晶体とは、例えば六方晶系の結晶格子を形成することができず、しかるべき位置に原子がいない状態の結晶を意味する。すなわち結晶方位が無秩序な微小な結晶の集合体をいい、非常に小さな単結晶粒の集まりを意味する。このような多結晶体を有する場合は、多結晶体を除去する工程を行った後に、さらに多結晶体を除去した結晶の表面に第13族窒化物結晶を成長する工程を行う。そのようにして得られた第13族窒化物結晶が、なお結晶面の境界に多結晶体を有するときは、再び多結晶体を除去する工程を行い、さらに表面に第13族窒化物結晶を成長する工程を行う。このような操作を繰り返すことによって、多結晶体を有さない第13族窒化物結晶を得ることができる。
【0047】
本発明の製造方法によって得られる第13族窒化物結晶の結晶系は、六方晶系であることが好ましい。また、得られる第13族窒化物結晶は、単結晶であることが好ましい。下地基板の上に成長させる第13族窒化物結晶の厚さは1mm〜10cmが好ましい。結晶成長後に研削、研磨、レーザー照射等を行う場合は、ある程度の大きさの結晶が必要になるため、下地基板の上に成長させる第13族窒化物結晶の厚さは5mm〜10cmが好ましく、1cm〜10cmがより好ましい。
【0048】
本発明の製造方法によって得られた第13族窒化物結晶は、そのまま用いてもよいし、研削やスライス加工などの処理を行ってから用いてもよい。ここでスライス加工とは、(1)成長した結晶を下地基板として使用できるように表面の品質を均一にする加工や、(2)成長初期部分には内在する転位から発生するストレスがあることを考慮してその部分を切り捨てるために行う加工をいう。スライス加工は、具体的には内周刃スライサー、ワイヤーソースライサー等を用いて行うことができる。本発明では、スライス加工を行うことによって、形状がほぼ同じで、転位密度がより低く、かつ、表面欠陥が少ない結晶を製造することが好ましい。
【0049】
上記のような研削やスライス加工、および一般的な研磨や洗浄などの工程を行って、本発明の第13族窒化物結晶からなる第13族窒化物結晶基板とすることもできる。
【0050】
<第13族窒化物結晶>
本発明の製造方法により製造した第13族窒化物結晶は、さまざまな用途に用いることができる。特に、紫外、青色又は緑色等の発光ダイオード、半導体レーザー等の比較的短波長側の発光素子や、電子デバイス等の半導体デバイスの基板として有用である。また、本発明の製造方法により製造した第13族窒化物結晶を下地基板として用いて、さらに大きな第13族窒化物結晶を得ることも可能である。
【実施例】
【0051】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0052】
<実施例1>
下地基板として、サファイア基板上にMOCVDでGaNを15μm程度成長したテンプレート基板を準備した。
前記下地基板を、直径70mm、厚さ20mmのSiCコーティングしたカーボン製の基板ホルダー上に置き、HVPE装置のリアクター内に設置した。
リアクター内を1020℃まで昇温した後、原料ガス、キャリアガス、ドーピングガスおよびシールドガスを流し、基板上にGaN層を20時間成長させた。このGaN層成長工程において、成長圧力は1.01×105Paとした。原料ガスは、GaとHClの反応生成物であるGaClガスと、NH3ガスであり、その分圧はそれぞれ7.00×102Paと8.13×103Paとした。キャリアガスはH2ガスであり、分圧は7.24×104Paとした。ドーピングガスは珪素をドーピングするためのジクロロシランガス(SiH2Cl2)をHClガスと混合して導入し、分圧はそれぞれ6.29×10-3Paと3.48×101Paとした。シールドガスはH2ガスとN2ガスの混合気体とし、分圧はそれぞれH2ガスを7.97×103PaとN2ガスを1.17×104Paとした。
ドーピングガスとキャリアガスは混合気体(第1ガス)として導入管からリアクター内に導入した。この導入管の先端部周辺では、第1ガスの流路を囲むように、シールドガス(第2ガス)が同じ方向に向かって流れており、さらにその第2ガスの流路の外側にNH3ガスとキャリアガスの混合気体(第3ガス)が同じ方向に向かって流れるようにした。導入管のガス吐出口の内縁から第3ガス流までの隔離距離(ここでいう隔離距離は、ガス導入方向に垂直な方向の最短距離である)は、10mmであった。
GaN層成長工程終了後、リアクター内を室温まで降温し、GaN結晶を得た。
【0053】
<実施例2>
原料ガス、キャリアガス、ドーピングガスおよびシールドガスの分圧を表1に示す通りに設定した。成長時間は24時間とした。それ以外の点については、実施例1と同様にしてGaN層を成長させて、GaN結晶を得た。
【0054】
<実施例3>
導入管のガス吐出口の内縁から第3ガス流までの隔離距離(ここでいう隔離距離は、ガス導入方向に垂直な方向の最短距離である)を、5mmに変更した。原料ガス、キャリアガス、ドーピングガスおよびシールドガスの分圧を表1に示す通りに設定した。成長時間は58時間とした。それ以外の点については、実施例1と同様にしてGaN層を成長させて、GaN結晶を得た。
【0055】
<実施例4>
原料ガス、キャリアガス、ドーピングガスおよびシールドガスの分圧を表1に示す通りに設定した。成長時間は30時間とした。それ以外の点については、実施例3と同様にしてGaN層を成長させて、GaN結晶を得た。
【0056】
<比較例1>
ガス導入態様について、ドーピングガスとキャリアガスの混合気体(第1ガス)を導入管より流し、その外側を同じ方向にNH3ガスとキャリアガスの混合気体(第2ガス)が流れるようにした。ここでは、シールドガスは使用していない。原料ガス、キャリアガス、ドーピングガスおよびシールドガスの分圧を表1に示す通りに設定した。成長時間は28時間とした。それ以外の点については、実施例1と同様にしてGaN層を成長させて、GaN結晶を得た。
【0057】
<比較例2>
原料ガス、キャリアガス、ドーピングガスおよびシールドガスの分圧を表1に示す通りに設定した。成長時間を27時間とした。それ以外の点については、比較例1と同様にしてGaN層を成長させて、GaN結晶を得た。
【0058】
<リアクター内と導入管の確認>
実施例1〜4および比較例1〜2のそれぞれにおいてGaN結晶を製造した後のリアクター内と導入管の状態を確認した。その結果、いずれの場合もリアクター内にはSiの析出がほとんど見られなかった。また、実施例1〜4では導入管のガス吐出口にはまったく結晶の析出などは見られず、そのまま再利用可能であることが確認された。それに対して、比較例1〜2では、導入管のガス吐出口に白色の結晶が多数析出しており、再利用に支障があることが確認された。
【0059】
<GaN結晶の分析>
実施例1〜4および比較例1〜2で得られた各GaN結晶は、いずれも成長面表面状態が鏡面となった。各GaN結晶中のSi元素濃度を、van der Pauw法によるホール測定を行うことにより決定した。測定は、GaN結晶を5mm×5mmの正方形に切り出した試料を用意して、正方形の頂点に近い試料表面上に電極をインジウム含有はんだで形成することにより行った。測定により得たGaN結晶中のキャリア濃度を表1に示す。測定したキャリア濃度より、GaN結晶中のSi元素のモル量MSi(C)とGa元素のモル量M13(C)の比であるMSi(C)/ M13(C)を得た。一方、実施例1〜4および比較例1〜2でそれぞれリアクター内に供給したSi元素のモル量MSi(I)と第13族元素のモル量M13(I)の比であるMSi(I)/ M13(I)を、各ガスの分圧から計算することにより求めた。これらの比の値を用いて、上記式(1)にしたがってSi取込効率を求めた。結果は以下の表1に示すとおりであった。
なお、実施例1〜4では、製造工程を繰り返し行ってもSi取込効率はほぼ同じであり、得られるGaN結晶中のSi濃度を安定に制御できることが確認された。
【0060】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0061】
従来法では10%以上のSi取込効率を実現することはできなかったが、本発明の製造方法によれば10%をはるかに超える高いSi取込効率を実現することが可能である。また、本発明の製造方法によれば、リアクター内へのガス導入管の吐出口に結晶が析出することを防ぐことができるため、ガスを効率良く製造に利用することができるうえ、導入管を多数回にわたって再利用することができるという利点もある。このため本発明は、Siを含有する第13族窒化物結晶が必要とされる多種多様な応用分野の製品製造に有用であり、産業上の利用可能性が極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第13族元素、窒素元素およびSi元素を含む原料を用いて結晶成長を行う工程を含む、Si元素を含有する第13族窒化物結晶の製造方法であって、
下記式(1)で規定されるSi取込効率が10%以上であることを特徴とする、第13族窒化物結晶の製造方法。
【数1】

(上式において、MSi(C)は製造される第13族窒化物結晶中のSi元素のモル量を表し、M13(C)は製造される第13族窒化物結晶中の第13族元素のモル量を表し、MSi(I)は原料中のSi元素のモル量を表し、M13(I)は原料中の第13族元素のモル量を表す。)
【請求項2】
前記第13族元素、窒素元素およびSi元素を含む原料がガスであって、第13族元素含有ガス、窒素元素含有ガスおよびSi元素含有ガスをリアクター内に供給して結晶成長を行う工程を含む、請求項1に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項3】
周囲をシールドガスで囲まれた状態で前記Si元素含有ガスを導入管から前記リアクター内に導入することを特徴とする請求項2に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項4】
前記Si元素含有ガスの周囲3mm以上の範囲がシールドガスで囲まれた状態で前記Si含有ガスを導入管から前記リアクター内に導入することを特徴とする請求項3に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項5】
周囲をシールドガスで囲まれた状態で前記窒素元素含有ガスを導入管から前記リアクター内に導入することを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項6】
前記窒素元素含有ガスの周囲3mm以上の範囲がシールドガスで囲まれた状態で前記窒素元素含有ガスを導入管から前記リアクター内に導入することを特徴とする請求項5に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項7】
前記シールドガスの線速度と隔離距離の積が0.0003〜10m2/sであることを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載の第13族窒化物結晶の製造方法(ここにおいて隔離距離とは、前記リアクターへの導入地点における前記Si元素含有ガスのガス流の外縁から窒素元素含有ガスのガス流の最近部までの距離を表す。)。
【請求項8】
前記シールドガスの線速度が0.1〜20m/sであることを特徴とする請求項3〜7のいずれか一項に記載の第13族窒化物結晶の製造方法。

【公開番号】特開2012−224486(P2012−224486A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91587(P2011−91587)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】