説明

組成物、Bステージシート、プリプレグ、組成物の硬化物、積層板、金属基板、配線板、及び組成物の製造方法

【課題】熱伝導率に優れた組成物、Bステージシート、プリプレグ、組成物の硬化物、積層板、金属基板、配線板、及び組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】表面の酸素原子濃度が1.5at%以上の窒化ホウ素粒子と、エポキシモノマーと、硬化剤と、を含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、Bステージシート、プリプレグ、組成物の硬化物、積層板、金属基板、配線板、及び組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化によるエネルギー密度の増加に伴い、単位体積当たりの発熱量が増加傾向にあり、電子機器を構成する絶縁材料には高い放熱性が求められている。また、絶縁材料には、絶縁耐圧の高さや成型の容易さから広くエポキシ樹脂が用いられている。一般にエポキシ樹脂の高熱伝導化には、熱伝導率が高く、絶縁性のフィラーを樹脂に添加する方法が用いられている。熱伝導率が高く、絶縁性のフィラーとしては、窒化ホウ素粒子や窒化アルミニウム粒子などの無機窒化物粒子がある。しかし、無機窒化物粒子はエポキシ樹脂への濡れ性が悪い。そのため、エポキシ樹脂中で均一に分散せずに、エポキシ樹脂内部に空隙が発生し、熱伝導率が下がる可能性がある。
【0003】
エポキシ樹脂中に無機窒化物粒子を均一に分散させるために、脂肪族炭化水素でフィラーの表面処理をする方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
またエポキシ樹脂中に無機窒化物粒子を均一に分散させるその他の方法として、無機窒化物粒子とともに分散剤を用いる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−115369号公報
【特許文献2】特開2008−266406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載の脂肪族炭化水素でフィラーの表面処理をする方法は、表面の化学反応性が高い特定の無機窒化物粒子にしか適用できない。また、無機窒化物粒子を脂肪族炭化水素で被膜をしてしまうと、脂肪族炭化水素で構成された被膜層は熱伝導率が低いため、放熱性が下がってしまう場合がある。
また、前記特許文献2に記載の方法では、分散剤の熱伝導率が低いことから、放熱性が下がってしまう場合がある。
そこで本発明の課題は、熱伝導率に優れた組成物、Bステージシート、プリプレグ、組成物の硬化物、積層板、金属基板、配線板、及び組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の通りである。
<1> 表面の酸素原子濃度が1.5at%以上の窒化ホウ素粒子と、エポキシモノマーと、硬化剤と、を含む組成物。
【0007】
<2> 前記窒化ホウ素粒子の体積平均粒子径が、0.01μm〜1mmである前記<1>に記載の組成物。
【0008】
<3> 前記窒化ホウ素粒子が、波長150nm〜400nmの紫外線を含む光を100mJ/cm以上照射する工程を経て得られた窒化ホウ素粒子である前記<1>又は<2>に記載の組成物。
【0009】
<4> 前記窒化ホウ素粒子が、60℃〜400℃で1分以上熱処理する工程と、波長150nm〜400nmの紫外線を含む光を100mJ/cm以上照射する工程と、を経て得られた窒化ホウ素粒子である前記<1>又は<2>に記載の組成物。
【0010】
<5> 前記<1>〜<4>のいずれか一項に記載の組成物の半硬化物であるBステージシート。
【0011】
<6> 繊維基材と、前記繊維基材に含浸された前記<1>〜<4>のいずれか一項に記載の組成物の半硬化物と、を有するプリプレグ。
【0012】
<7> 前記<1>〜<4>のいずれか一項に記載の組成物の硬化物。
【0013】
<8> 被着材と、
前記<1>〜<4>のいずれか一項に記載の組成物から構成される樹脂層、前記<5>に記載のBステージシート、及び前記<6>に記載のプリプレグから選択される少なくとも1つの樹脂含有層の硬化層と、
を有する積層板。
【0014】
<9> 金属箔と、
金属板と、
前記金属箔と前記金属板との間に挟持される、前記<1>〜<4>のいずれか一項に記載の組成物から構成される樹脂層、前記<5>に記載のBステージシート、及び前記<6>に記載のプリプレグから選択される少なくとも1つの樹脂含有層の硬化層と、
を有する金属基板。
【0015】
<10> 配線層と、
金属板と、
前記配線層と前記金属板との間に挟持される、前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の組成物から構成される樹脂層、前記<5>に記載のBステージシート、及び請求項前記<6>に記載のプリプレグから選択される少なくとも1つの樹脂含有層の硬化物と、
を有する配線板。
【0016】
<11> 窒化ホウ素粒子に、波長150nm〜400nmの紫外線を含む光を100mJ/cm以上照射し、表面の酸素原子濃度が1.5at%以上の窒化ホウ素粒子を作製する工程と、
前記表面の酸素原子濃度が1.5at%以上の窒化ホウ素粒子と、エポキシモノマーと、硬化剤と、を混合する工程と、
を有する組成物の製造方法。
【0017】
<12> 前記窒化ホウ素粒子を作製する工程が、窒化ホウ素粒子を60℃〜400℃で1分以上熱処理する工程をさらに有する前記<11>に記載の組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱伝導率に優れた組成物、Bステージシート、プリプレグ、組成物の硬化物、積層板、金属基板、配線板、及び組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例5と比較例1で得られた窒化ホウ素粉末についての、酸素原子のXPSピークを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
さらに本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0021】
<組成物>
本発明の組成物は、表面の酸素原子濃度が1.5at%以上の窒化ホウ素粒子と、エポキシモノマーと、硬化剤と、を含有する。
窒化ホウ素粒子の表面を酸素原子濃度が1.5at%以上となるように改質することにより、エポキシモノマーに対する分散性を向上させ、窒化ホウ素粒子を含有する組成物の熱伝導率を向上させる。以下、組成物の構成成分について詳細に説明する。
【0022】
(窒化ホウ素粒子)
本発明における窒化ホウ素粒子は、表面の酸素原子濃度が1.5at%以上である。
窒化ホウ素粒子の表面の酸素原子濃度を1.5at%以上とすることで、親水性が高まり、エポキシモノマーに対する分散性が向上する。上記窒化ホウ素粒子を組成物に添加した場合、エポキシモノマーに対する分散性が向上し、窒化ホウ素粒子を含有する組成物の熱伝導率が向上する。より親水性を高める観点から、窒化ホウ素粒子の表面の酸素原子濃度は2at%以上であることがより好ましい。
【0023】
また、本発明における窒化ホウ素粒子は、両親媒性の観点から、表面の酸素原子濃度が1.5at%〜10at%であることが好ましく、2at%〜5at%であることがより好ましく、2.3at%〜3at%であることがさらに好ましい。
【0024】
一般的に窒化ホウ素粒子の表面エネルギーは小さく、窒化ホウ素粒子はエポキシモノマーに対する分散性に優れない傾向にある。そこで本発明者らは、窒化ホウ素粒子のエポキシモノマーに対する分散性を向上させるために、窒化ホウ素粒子の表面エネルギーを高めることを検討した。その鋭意検討の過程で、窒化ホウ素粒子の表面の酸素原子濃度を1.5at%以上にすると、窒化ホウ素粒子の表面エネルギーを向上させることができ、エポキシモノマーに対する窒化ホウ素粒子の分散性が向上することを導き出した。これは、以下のように考えることができる。
【0025】
元来窒化ホウ素粒子はn−ヘキサデカン、n−テトラデカン、n−ドデカン、n−ウンデカン、n−デカン、n−ノナン、n−オクタンなどの非極性化合物に対する親和性が高く疎水性を示すが、水、ジヨードメタン、テトラブロムエタン、テトラクロロエタン、グリセリン、ホルムアミドなどの極性化合物に対する親和性は低く親水性に乏しい。ここで、エポキシモノマーのエポキシ基は親水性基であることから、エポキシモノマーへの分散性を高めるためには、窒化ホウ素粒子を適度に親水性化することが有効であると考えられる。エポキシモノマーへの分散性の向上に効果的な、窒化ホウ素粒子の適度な親水性化の状態が、窒化ホウ素粒子の表面の酸素原子濃度が1.5at%以上であるものと考えられる。
【0026】
さらに、エポキシモノマーの骨格は疎水性であることから、窒化ホウ素粒子は親水性と疎水性のバランスを図ることがより好ましいと考えられる。このような親水性と疎水性のバランスを図る観点で、窒化ホウ素粒子の表面の酸素原子濃度を1.5at%〜10at%とすることが、エポキシモノマーへの分散性の向上により効果的であるものと推測される。窒化ホウ素粒子の表面の酸素原子濃度を上記範囲とすることにより、表面を両親媒性とすることができる。
【0027】
本発明における窒化ホウ素粒子の酸素原子濃度は以下のように測定される。すなわち、窒化ホウ素粒子をX線光電子分光装置(XPS)(島津/KRATOS社製:AXIS−HS)により、走査速度20eV/min(0.1eVステップ)で測定する。詳細な測定条件としては、X線源として、モノクロAl(管電圧;15kV、管電流;15mA)を使い、レンズ条件は、HYBRID(分析面積;600μm×1000μm)とし、分解能は、Pass Energy 40とする。測定により得られた、酸素、窒素、ホウ素、炭素のピーク面積値にそれぞれの元素の感度係数で補正した値の比を求めることにより、窒化ホウ素粒子表面の酸素原子濃度を測定することができる。
【0028】
測定により得られた、酸素、窒素、ホウ素、炭素のピーク面積値にそれぞれの元素の感度係数で補正した値とは、具体的には、酸素に対しては、528eVから537eVのピーク面積値に、酸素に対する感度係数0.780で除した値であり、窒素に対しては、395eVから402eVのピーク面積値に、窒素に対する感度係数0.477で除した値であり、ホウ素に対しては、188eVから194eVのピーク面積値に、ホウ素に対する感度係数0.159で除した値であり、炭素に対しては、282eVから289eVのピーク面積値に、炭素に対する感度係数0.278で除した値である。
【0029】
前記窒化ホウ素粒子は、直接窒化法、還元窒化法、気相反応法等のいずれの製造法により形成されていてもよい。
また、前記窒化ホウ素粒子は、単結晶粒子、単結晶の凝集粒子、多結晶体粒子、多結晶体の凝集粒等のいずれであってもよい。
【0030】
前記窒化ホウ素粒子の体積平均粒子径は、放熱材のフィラーとして使用する観点からは0.01μm〜1mmであることが好ましく、粒子を高充填する観点から、0.1μm〜100μmであることがより好ましい。
本発明における窒化ホウ素粒子の体積平均粒子径は次のように測定される。例えば、マイクロトラック粒度分析計(日機装社製:Microtrac FRA)により、粒子に照射したレーザー光の散乱光を検出し、解析することによって求められる。
【0031】
前記窒化ホウ素粒子は、表面の酸素原子濃度が1.5at%以上であれば、その製造方法は特に制限されない。また、表面の酸素原子濃度が1.5at%〜10at%の窒化ホウ素粒子は、極性液体にも非極性液体にも親和性を有する両親媒性の窒化ホウ素粒子となっている。このような両親媒性の窒化ホウ素粒子では、表面に疎水部位と親水部位の両方が分布している。そこで、疎水性である窒化ホウ素粒子の表面を部分的に親水性化することにより粒子表面を両親媒性とすることが好ましい。
【0032】
なお、本発明における表面とは極表面から深さ5nm以下の領域のこととする。特に、本発明において表面とは、前述のXPSの測定条件で検出される深さ限界以内の範囲とする。
【0033】
一般に、窒化ホウ素粒子の表面の酸素原子濃度は1.5at%未満である。そこで、窒化ホウ素粒子の表面の酸素原子濃度を1.5at%以上にする方法としては、窒化ホウ素粒子に紫外線を照射する方法、オゾン処理する方法、Oプラズマ処理する方法、大気圧プラズマ処理する方法、クロム酸処理する方法などが挙げられる。中でも、紫外線照射する方法により、効率よく窒化ホウ素粒子の表面に親水性部分を形成することができ、エポキシモノマーの極性基に対する親和性を向上させることができる。さらに、窒化ホウ素粒子の表面に部分的に親水性部分を形成することにより、エポキシモノマーの極性基に対する親和性と疎水基に対する親和性を両立することができる。
上述の通り無機窒化物粒子に紫外線を照射することで、疎水性の表面の一部が親水性化して、効果的に表面の酸素原子濃度を1.5at%以上とすることができる。
【0034】
なお、窒化ホウ素に紫外線を照射した場合には両親媒化されるのに対して、SiO、Al等の無機酸化物では、紫外線を照射しても両親媒化されにくい。これは、無機酸化物に紫外線を照射した場合には、無機酸化物の表面の水酸基量が上昇し親水性化するが、非極性液体との親和性は低下してしまうことに起因するものと考えられる。このように、紫外線照射による両親媒化の効果は、無機酸化物では得られ難いものと考えられる。一方、窒化ホウ素に紫外線を照射した場合には、窒化ホウ素粒子表面の一部が親水性化し、残りの部分は疎水性を維持するため、両親媒化されると考えられる。
【0035】
窒化ホウ素粒子に紫外線を照射する方法としては、例えば、次のような方法が挙げられる。窒化ホウ素粒子に紫外線を照射する際には、各種化学製品の製造技術で利用されている紫外線照射処理技術、及び紫外線照射装置を利用することができる。紫外線照射装置としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、重水素ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ等が挙げられる。
【0036】
紫外線照射処理条件としては、波長150nm〜400nmの紫外領域を含む光を含んでいることが好ましく、その他の波長の光を含んでいてもよい。窒化ホウ素粒子の表面の有機不純物の分解の観点から、波長150nm〜400nmの光を含んでいることが好ましく、窒化ホウ素粒子の表面の活性化の観点から、波長150nm〜300nmの光を含んでいることがより好ましい。
【0037】
紫外線照射条件として、照射強度は特には制限されないが、0.5mW/cm以上であることが好ましい。この照射強度であれば、目的とする効果が十分に発揮される。また100mW/cm以下であることが好ましい。この照射強度であれば、紫外線照射による窒化ホウ素粒子の損傷を抑えることができる。照射強度の好適な範囲は0.5mW/cm〜100mW/cmであり、より好適には、1mW/cm〜20mW/cmである。
【0038】
目的とする効果を十分に発揮させるために、照射時間は10秒以上であることが好ましい。また、紫外線照射による窒化ホウ素粒子の損傷を抑える観点から30分以下とすることが好ましい。照射時間の好適な範囲は10秒〜30分間である。
【0039】
照射紫外線量は、照射強度(mW/cm)×照射時間(秒)で規定され、目的とする効果を十分に発揮させるため、好ましくは、100mJ/cm以上であることが好ましく、極性液体及び非極性液体との親和性向上の観点から1000mJ/cm以上であることがより好ましく、5000mJ/cm以上であることが更に好ましく、10000mJ/cm以上であることが更に好ましい。また、紫外線照射による窒化ホウ素粒子の損傷を抑える観点から50000mJ/cm以下であることが好ましい。照射紫外線量の好適な範囲は100mJ/cm〜50000mJ/cmであり、より好適には1000mJ/cm〜50000mJ/cmであり、更に好適には5000mJ/cm〜50000mJ/cmであり、更に好適には10000mJ/cm〜50000mJ/cmである。
なお、紫外線照射強度は、後述する実施例に記載されている方法で規定される。
【0040】
上記紫外線照射処理は、例えば、以下のように行われることが好ましい。窒化ホウ素粒子に波長150nm〜400nmの紫外線を含む光を100mJ/cm以上照射することが好ましい。
【0041】
窒化ホウ素粒子に紫外線を照射する際には、窒化ホウ素粒子全体に対して紫外線をなるべく均一に照射することが好ましい。照射を均一化する方法としては、窒化ホウ素粒子を攪拌しながら紫外線を照射する方法などが挙げられる。紫外線照射の際の窒化ホウ素粒子の攪拌には、攪拌棒、スパチュラ、薬さじ等で攪拌する方法や窒化ホウ素粒子を入れた容器を振動させて攪拌する方法などの攪拌装置を用いない方法と、紫外線照射の際に、振動型混合機、リボン型混合機、パドル型混合機等の攪拌装置を用いる方法のいずれも適用することができる。均一な混合の観点から、攪拌装置を用いることが好ましく、具体的にはパドル型混合機などの攪拌装置が好適である。
また、紫外線照射雰囲気には制限はないが、窒化ホウ素粒子の表面の酸素原子濃度の向上の観点から、特に酸素存在下又はオゾン存在下であることが好ましい。
【0042】
また、窒化ホウ素粒子への紫外線照射効果の向上の観点から、窒化ホウ素粒子は加熱処理されることが好ましい。前記加熱処理において、窒化ホウ素粒子を60℃〜400℃に加熱することが好ましく、水分を除去する観点から100℃〜400℃がより好ましい。そして、窒化ホウ素粒子の表面の有機付着物の除去を効果的に行う観点から、200℃〜400℃がさらに好ましい。上記のように窒化ホウ素粒子の表面の水分や有機付着物などの余分な付着物を除去することによって、紫外線照射による窒化ホウ素粒子への効果の向上を期待することができる。
【0043】
加熱処理の時間は、窒化ホウ素粒子への紫外線照射効果の向上の観点から1分以上であることが好ましく、水分除去の観点から5分以上120分以下であることがより好ましく、有機付着物の除去の観点から10分以上120分以下であることがさらに好ましい。
【0044】
窒化ホウ素粒子の加熱処理は、一般的な方法で行うことができる。加熱処理は、ホットプレート、恒温槽、電気炉、焼成炉等の各種化学製品の製造技術で利用されている一般的な加熱装置を利用することができる。
【0045】
窒化ホウ素粒子に加熱処理と紫外線照射を施すことにより窒化ホウ素粒子の濡れ性を向上できる理由については、次のように考えることができる。一般に窒化ホウ素粒子はその表面に有機付着物がついている場合が多いと考えられる。この理由としては、窒化ホウ素粒子の凝集を防ぐためにその表面が有機物で修飾されている場合、窒化ホウ素粒子の作製工程で利用される有機物が残存している場合、空気中に浮遊している有機不純物が付着している場合などが考えられる。しかし、この有機付着物は疎水性であるため、窒化ホウ素粒子表面に付着することで窒化ホウ素粒子の親水性を低下させる恐れがある。
【0046】
一方で、本発明においては、加熱処理と紫外線照射処理を窒化ホウ素粒子に施すことにより、まず、加熱処理により窒化ホウ素粒子の表面に付着した有機付着物が分解・除去される。これにより、疎水性の有機物が表面に付着したものに比べて、親水性の官能基を僅かに有する窒化ホウ素粒子の元来の表面が露出して、窒化ホウ素粒子の表面の親水性が向上すると考えられる。更に、紫外線照射処理により窒化ホウ素粒子の表面自体の酸素原子濃度が増加し、B−O結合が生成されると考えられる。B−O結合が生成された末端部には、B−O結合の生成と併せて、B−OH(水酸基)が生成される。以上のことから、窒化ホウ素粒子に対する加熱処理と紫外線照射処理によって、表面の有機付着物の除去、及び表面自体の水酸基数の増加、の二つの作用が発現して濡れ性が向上すると考えられる。
【0047】
上記加熱処理は紫外線照射処理と同時に行っても、順次に行ってもよい。前記処理を順次に行う際には、窒化ホウ素粒子の表面の酸素原子濃度を高める観点から、加熱処理後に紫外線を照射することが好ましい。例えば、以下のように行われることが好ましい。窒化ホウ素粒子を60℃〜400℃で1分以上熱処理し、その後、前記窒化ホウ素粒子に波長150nm〜400nmの紫外線を含む光を100mJ/cm以上照射する。これにより、表面の酸素原子濃度が1.5at%〜10at%である窒化ホウ素粒子を得ることができる。
【0048】
なお、紫外線照射処理では、処理装置内部の温度が上昇することがある。例えば、常温で処理を開始したときに、最高温度が60℃近くになることがある。しかしながら、窒化ホウ素粒子の混合物を単に60℃まで加熱したとしても、濡れ性向上の効果は現れない。従って紫外線照射の効果は温度上昇によるものではないものと考えられる。
【0049】
本発明の組成物に含有される、表面の酸素原子濃度が1.5at%以上である窒化ホウ素粒子は、エポキシモノマーとの親和性が向上し、結果、エポキシモノマー中での分散性に優れる。
【0050】
本発明の組成物における窒化ホウ素粒子の含有率としては特に制限はないが、粘度調整の観点から、組成物を構成する全固形分中、10体積%〜80体積%であることが好ましく、熱伝導率の観点から、30体積%〜80体積%であることがより好ましく、50体積%〜80体積%であることがより好ましい。
【0051】
(エポキシモノマー)
本発明におけるエポキシモノマーとしては、通常用いられる一般的なエポキシモノマーを特に制限なく用いることができる。一般的なエポキシモノマーの具体例としては、ビスフェノールA型、F型、S型、及びAD型等のグリシジルエーテル、水素添加したビスフェノールA型のグリシジルエーテル、フェノールノボラック型のグリシジルエーテル、クレゾールノボラック型のグリシジルエーテル、ビスフェノールA型のノボラック型のグリシジルエーテル、ナフタレン型のグリシジルエーテル、ビフェノール型のグリシジルエーテル、ジヒドロキシペンタジエン型のグリシジルエーテルなどが挙げられる。なお、エポキシモノマーとは、一般にエポキシ樹脂のプレポリマーを意味し、オリゴマーをも包含する概念である。
【0052】
本発明におけるエポキシモノマーとしては、分子骨格として、1分子内に2官能以上のエポキシ基を含むことが好ましく、樹脂硬化物を構成した場合に、耐熱性や接着性に加えて高い熱伝導率を有するものであることが好ましい。中でも、熱伝導率が高い樹脂という観点から、メソゲン基を有するエポキシモノマーが好ましい。
【0053】
ここでいうメソゲン基は、エポキシモノマーが硬化剤とともに樹脂硬化物を形成した場合に、樹脂硬化物中にメソゲン基に由来する高次構造を形成することができるものであれば、特に制限はない。
尚、ここでいう高次構造とは、組成物の硬化後に分子が配向配列している状態を意味し、例えば、樹脂硬化物中に結晶構造や液晶構造が存在することである。このような結晶構造や液晶構造は、例えば、直交ニコル下での偏光顕微鏡による観察やX線散乱により、その存在を直接確認することができる。また貯蔵弾性率の温度に対する変化が小さくなることでも、間接的に存在を確認できる。
【0054】
前記メソゲン基として具体的には、ビフェニル基、ターフェニル基、ターフェニル類縁体、アントラセン基、及び、これらがアゾメチン基やエステル基で接続された基などが挙げられる。
【0055】
本発明においては、エポキシモノマーとしてメソゲン基を有するエポキシモノマーを用い、硬化剤とともに樹脂硬化物を構成することで、高い熱伝導率を達成することができる。これは例えば、以下のように考えることができる。すなわち、分子中にメソゲン基を有するエポキシモノマーが、硬化剤とともに樹脂硬化物を形成することで、樹脂硬化物中にメソゲン基に由来する規則性の高い高次構造を形成することができる。このため、樹脂硬化物における熱伝導の媒体であるフォノンの散乱を抑制することができ、これにより高い熱伝導率を達成することができると考えられる。
【0056】
上述の通り、メソゲン基を有するエポキシモノマーでは規則性の高い高次構造を形成することから、一般的にはフィラーの分散性が低下する傾向にある。しかしながら、表面の酸素原子濃度が1.5at%以上である窒化ホウ素粒子をフィラーとして用いれば、エポキシモノマー中で優れた分散性を示す。その結果、フィラーを分散させるための分散剤を用いなくとも、分散させることができ、高い熱伝導率を維持することができる。
【0057】
前記メソゲン基を有するエポキシモノマーとして、具体的には、4,4’−ビフェノールグリシジルエーテル、1−[(3−メチル−4−オキシラニルメトキシ)フェニル]−4−(4−オキシラニルメトキシフェニル)−1−シクロヘキセン、4−(オキシラニルメトキシ)安息香酸−1,8−オクタンジイルビス(オキシ−1,4−フェニレン)エステル、2,6−ビス(4−{4−[2−(オキシラニルメトキシ)エトキシ]フェニル}フェノキシ)ピリジン等を挙げることができる。
【0058】
前記組成物中におけるエポキシモノマーの含有率としては特に制限はない。熱伝導率と接着性の観点から、組成物を構成する全固形分中、3質量%〜30質量%であることが好ましく、熱伝導率の観点から、5質量%〜25質量%であることがより好ましく、5質量%〜15質量%であることがさらに好ましい。
【0059】
(硬化剤)
本発明における硬化剤としては、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤、ポリアミノアミド系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、ブロックイソシアネート系硬化剤等が挙げられる。
【0060】
前記硬化剤の含有量は、配合する硬化剤の種類や前記エポキシモノマーの物性を考慮して適宜設定することができる。具体的に硬化剤の含有量は、前記エポキシモノマーにおけるエポキシ基1モルに対して硬化剤の化学当量が0.005当量〜5当量であることが好ましく、0.01当量〜3当量であることがより好ましく、0.5当量〜1.5当量であることがさらに好ましい。硬化剤の含有量がエポキシ基1モルに対して0.005当量以上であると、エポキシモノマーの硬化速度に優れる。また5当量以下の場合、硬化反応を適切に抑えることができる。
なお、ここでの化学当量は、例えば硬化剤としてアミン系硬化剤を使用した際は、エポキシ基1モルに対するアミンの活性水素のモル数を表わす。
【0061】
(その他の成分)
本発明の組成物は、エポキシモノマー、又は硬化剤が固体の場合は溶解させるため、また、液体の場合は粘度を低減するために、溶媒を含有してもよい。
前記溶媒としては、アセトン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソペンチルアルコール、エチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル、酢酸エチル、酢酸メチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、1,4−ジオキサン、ジクロルメタン、スチレン、テトラクロルエチレン、テトラヒドロフラン、トルエン、n−ヘキサン、1−ブタノール、2−ブタノール、メタノール、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロルエタン、塩化メチレン等の一般的に各種化学製品の製造技術で利用されている有機溶剤を使用することができる。
【0062】
本発明の組成物では、窒化ホウ素粒子表面が改質されているためエポキシモノマーに対する分散性が向上し、結果、熱伝導率に優れる。したがって、本発明の組成物は、各種の電気及び電子機器の発熱性電子部品(例えば、ICチップや配線基板)の放熱材料に好適に用いることができる。
【0063】
放熱材料として、具体的には、前記組成物から構成される樹脂シート;前記組成物の半硬化物であるBステージシート;繊維基材と、繊維基材に含浸された前記組成物の半硬化物と有するプリプレグ;前記組成物の硬化物;前記組成物から構成される樹脂層、前記Bステージシート又はプリプレグの硬化物を有する積層板、金属基板、及び配線板;などが挙げられる。
【0064】
<Bステージシート>
本発明のBステージシートは、前記組成物をシート状に成形し、これを半硬化することで得られる。前記Bステージシートが前記組成物を含んで構成されることで、硬化前の保存安定性と硬化後の熱伝導性に優れる。ここで半硬化とは、一般にBステージ状態と称される状態をいい、常温(25℃)における粘度が10Pa・s〜10Pa・sであるのに対して、100℃における粘度が10Pa・s〜10Pa・sに粘度が低下する状態を意味する。なお、粘度は、ねじり型動的粘弾性測定装置などにより測定が可能である。
本発明のBステージシートは、例えば、支持体上に前記組成物を塗布、乾燥して組成物シートを作製し、これを半硬化することで製造することができる。組成物の塗布方法及び乾燥方法については特に制限なく通常用いられる方法を適宜選択することができる。例えば、塗工方法はコンマコータやダイコータ、ディップ塗工等が挙げられる。
【0065】
前記乾燥方法としては、バッチ処理の場合には箱型温風乾燥機、塗工機との連続処理の場合には多段式温風乾燥機等が使用できる。また乾燥のための加熱条件についても特に制限はないが、温風乾燥機を用いる場合は、組成物の塗工物の膨れを防ぐ観点から、乾燥機の温風は溶剤の沸点より低い温度範囲で加熱処理を行う工程を含むことが好ましい。
【0066】
前記半硬化する方法としては、特に制限はなく通常用いられる方法を適宜選択することができ、例えば、加熱処理することで前記組成物が半硬化される。半硬化のための加熱処理方法は特に制限はない。
前記半硬化のための温度範囲は、組成物を構成するエポキシモノマーに応じて適宜選択することができる。Bステージシートの強度の観点から、熱処理により硬化反応を若干進めた方が好ましく、熱処理の温度範囲は80℃〜180℃であることが好ましく、100℃〜160℃であることがより好ましい。また、半硬化のための加熱処理の時間としては、特に制限はないが、Bステージシートのエポキシモノマーの硬化速度とエポキシモノマーの流動性や接着性の観点で適宜選択することができ、1分以上30分以内で加熱することが好ましく、1分以上10分以内がより好ましい。
【0067】
前記Bステージシートの厚みは、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、50μm〜500μmとすることができ、熱伝導性、電気絶縁性、及び可とう性の観点から、80μm〜300μmであることが好ましい。また、2層以上の組成物シートを積層しながら、熱プレスすることにより作製することもできる。
【0068】
<組成物の硬化物>
本発明の組成物の硬化物は、前記組成物を硬化させることで得られる。これにより熱伝導性に優れる硬化物を構成することができる。組成物を硬化する方法としては、特に制限はなく通常用いられる方法を適宜選択することができ、例えば、加熱処理することで前記組成物が硬化される。
【0069】
前記組成物を加熱処理する方法としては特に制限はなく、また加熱条件についても特に制限はない。加熱処理の温度範囲は、組成物を構成するエポキシモノマーに応じて適宜選択することができる。また、加熱処理の時間としては、特に制限はないが、30秒以上15分以内で加熱することが好ましい。
【0070】
<プリプレグ>
本発明のプリプレグは、繊維基材と、前記繊維基材に含浸された前記組成物の半硬化物と、を有して構成される。
【0071】
プリプレグを構成する繊維基材としては、積層板や配線板を製造する際に通常用いられるものであれば特に制限されず、通常織布や不織布等の繊維基材が用いられる。
【0072】
繊維基材の材質は特に制限されない。具体的には、ガラス、アルミナ、ボロン、シリカアルミナガラス、シリカガラス、チラノ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア等の無機繊維、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、カーボン、セルロース等の有機繊維、及びこれらの混抄系を挙げることができる。中でも、ガラス繊維の織布が好ましく用いられる。これにより例えば、プリプレグを用いて配線板を構成する場合、屈曲性があり任意に折り曲げ可能な配線板を得ることができる。さらに、製造プロセスでの温度変化や吸湿等に伴う配線板の寸法変化を小さくすることも可能となる。
【0073】
前記繊維基材の厚さは特に限定されない。より良好な可とう性を付与する観点から、30μm以下であることがより好ましく、含浸性の観点から15μm以下であることが好ましい。繊維基材の厚みの下限は特に制限されないが、通常5μm程度である。
【0074】
前記プリプレグにおける前記組成物の含浸量(含有率)は、繊維基材及び組成物の総質量に対して50質量%〜99.9質量%であることが好ましい。
【0075】
前記プリプレグは、上記と同様にしてワニス状に調製された前記組成物を繊維基材に含浸し、80℃〜150℃の加熱処理により有機溶剤の少なくとも一部を除去し、さらに組成物を半硬化して製造することができる。
【0076】
また、組成物を繊維基材に含浸する方法に特に制限はない。例えば、塗工機により塗布する方法を挙げることができる。詳細には、繊維基材を組成物にくぐらせて引き上げる縦型塗工法、及び支持フィルム上に組成物を塗工してから繊維基材を押し付けて含浸させる横型塗工法などを挙げることができる。繊維基材内でのアルミナフィラーの偏在を抑える観点からは横型塗工法が好適である。
【0077】
本発明におけるプリプレグは、積層又は貼付する前に、プレスやロールラミネータなどによる熱間加圧処理により、あらかじめ表面を平滑化してから使用してもよい。
【0078】
前記プリプレグにおける溶剤残存率は、2.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
溶剤残存率は、プリプレグを40mm角に切り出し、190℃に予熱した恒温槽中で2時間乾燥させたときの、乾燥前後の質量変化から求める。
【0079】
<積層板>
本発明における積層板は、被着材と、前記被着材上に配置された硬化組成物層と、を有する。前記硬化組成物層は、前記組成物から構成される樹脂層、前記Bステージシート及び前記プリプレグから選択される少なくとも1つの硬化層である。前記組成物から形成される硬化組成物層を有することで、熱伝導性に優れた積層板となる。
【0080】
前記被着材としては、金属箔や金属板などを挙げることができる。前記被着材は、前記硬化組成物層の片面のみに付設しても、両面に付設してもよい。
【0081】
前記積層板においては、硬化組成物層として、前記樹脂層、前記Bステージシート、及び前記プリプレグのいずれか1つの硬化層を有する形態であってもよく、2層以上を積層して有する形態であってもよい。2層以上の硬化組成物層を有する場合、前記樹脂層を2層以上有する形態、前記Bステージシートを2枚以上有する形態、及び前記プリプレグを2枚以上有する形態のいずれであってもよい。さらには、前記樹脂層、前記Bステージシート、及び前記プリプレグのいずれか2つ以上を組み合わせて有してもよい。
【0082】
本発明における積層板は、例えば、被着材上に前記組成物を塗工して組成物層を形成し、これを加熱及び加圧処理して前記組成物層を硬化させるとともに被着材に密着させることで得られる。又は、前記被着材に前記樹脂シート、前記Bステージシート又は前記プリプレグを積層したものを準備し、これを加熱及び加圧して前記樹脂シート、Bステージシート又は前記プリプレグを硬化させるとともに被着材に密着させことで得られる。
【0083】
前記組成物層(樹脂シート)、Bステージシート、及びプリプレグを硬化する硬化方法は特に制限されない。例えば、加熱及び加圧処理であることが好ましい。加熱及び加圧処理における加熱温度は特に限定されない。通常100℃〜250℃の範囲であり、好ましくは130℃〜230℃の範囲である。また、加熱及び加圧処理における加圧条件は特に限定されない。通常1MPa〜10MPaの範囲であり、好ましくは1MPa〜5MPaの範囲である。また、加熱及び加圧処理には、真空プレスが好適に用いられる。
【0084】
積層板の厚さは500μm以下であることが好ましく、100μm〜300μmであることがより好ましい。厚さが500μm以下であると可とう性に優れ曲げ加工時にクラックが発生するのが抑えられ、厚さが300μm以下の場合はその傾向がより見られる。また、厚さが100μm以上の場合には作業性に優れる。
【0085】
<金属基板>
前記積層板の一例として、後述の配線板を作製するのに用いることができる金属基板を挙げることができる。
【0086】
前記金属基板は、前記積層板における被着材として金属箔と金属板とを用いて構成される。具体的に、前記金属基板は、前記金属箔と、前記硬化組成物層と、前記金属板とがこの順に積層されて構成される。
【0087】
前記金属箔としては特に制限されず、通常用いられる金属箔から適宜選択することができる。具体的には金箔、銅箔、アルミニウム箔等を挙げることができ、一般的には銅箔が用いられる。前記金属箔の厚みとしては、1μm〜200μmであれば特に制限されず、使用する電力等に応じて好適な厚みを選択することができる。
【0088】
また、前記金属箔として、ニッケル、ニッケル−リン、ニッケル−スズ合金、ニッケル−鉄合金、鉛、鉛−スズ合金等を中間層とし、この両表面に0.5μm〜15μmの銅層と10μm〜150μmの銅層を設けた3層構造の複合箔、又はアルミニウムと銅箔とを複合した2層構造複合箔を用いることもできる。
【0089】
前記金属板は熱伝導率が高く、熱容量が大きい金属材料からなることが好ましい。具体的には、銅、アルミニウム、鉄、リードフレームに使われる合金等が例示できる。
【0090】
前記金属板の板厚は用途に応じて適宜選択することができる。例えば、前記金属板は、軽量化や加工性を優先する場合はアルミニウムを、放熱性を優先する場合は銅を、というように目的を応じて材質を選定することができる。
【0091】
金属板の厚みは特に制限されない。加工性の観点から、厚みは0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。
【0092】
また、前記金属板は、生産性を高める観点から、必要分より大きなサイズで作製されて電子部品を実装した後に、使用するサイズに切断されることが好ましい。そのため、金属基板に用いる金属板は切断加工性に優れることが望ましい。
【0093】
前記金属板としてアルミニウムを用いる場合、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とする合金を材質として選定できる。アルミニウム又はアルミニウムを主成分とする合金は、その化学組成と熱処理条件により多種類のものが入手可能である。中でも、切削し易い等の加工性が高く、かつ強度に優れた種類を選定することが好ましい。
【0094】
<配線板>
本発明の配線板は、金属板と、前記硬化組成物層と、配線層とがこの順に積層されてなる。前記組成物から形成される硬化組成物層を有することで、熱伝導性に優れた配線板となる。
【0095】
前記配線板は、既述の金属基板における金属箔を回路加工することにより製造することができる。前記金属箔の回路加工には、通常のフォトリソによる方法が適用できる。
【0096】
前記配線板の好ましい態様としては、例えば、特開2009−214525号公報の段落番号0064や、特開2009−275086号公報の段落番号0056〜0059に記載のプリント配線板と同様のものを挙げることができる。
【0097】
なお、本発明の組成物を硬化して硬化物とした場合には、その中に含まれる窒化ホウ素粒子の表面の酸素原子濃度は、以下のようにして測定することができる。
前記硬化物を600℃、30分間、大気下で加熱してエポキシ樹脂などの樹脂分を分解して窒化ホウ素粒子を取り出す。得られた窒化ホウ素粒子について上述の方法で表面の酸素原子濃度を測定することができる。
【0098】
上記では硬化物の樹脂分を分解させ、窒化ホウ素粒子表面の酸素原子濃度を測定しているが、「組成物に添加する前;組成物中;又は組成物の硬化物中の窒化ホウ素粒子表面の酸素原子濃度」と「硬化物の樹脂分を分解させた後の窒化ホウ素粒子表面の酸素原子濃度」とでは窒化ホウ素粒子表面の酸素原子濃度にほとんど差がないことが考えられる。この理由としては、窒化ホウ素が酸化される温度が900℃以上であり、600℃では差がでないと考えられるためである。
【実施例】
【0099】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0100】
(実施例1)
体積平均粒子径40μmの窒化ホウ素粉末(水島合金鉄(株)商品名:HP−40)に卓上型光表面処理装置(セン特殊光源(株)装置名:Photo Surface Processor PL21−200)を用いて、200Wの低圧水銀灯により、攪拌しながら10分間紫外線照射した。なお、窒化ホウ素粉末の体積平均粒子径は、マイクロトラック粒度分析計(日機装社製:Microtrac FRA)を用いて、粒度分布の体積累積50%粒径(D50%)を体積平均粒子径とした。
【0101】
紫外線の照射強度は、紫外線積算光量計(USHIO UIT−150)により254nm光の光量を測定し、254nm光の平均照射強度を求めた。より具体的には、表面処理装置に紫外線積算光量計を入れて照射強度を測定し、光量計に表示された値を10秒毎に記録した。その後に記録した値の総和を紫外線照射時間で除して平均照射強度を求めた。
【0102】
紫外線照射した窒化ホウ素粒子をX線光電子分光装置(XPS)(島津/KRATOS社製:AXIS−HS)により、走査速度20eV/min(0.1eVステップ)で測定した。詳細な測定条件としては、X線源として、モノクロAl(管電圧;15kV、管電流;15mA)を使い、レンズ条件は、HYBRID(分析面積;600μm×1000μm)とし、分解能は、Pass Energy 40として測定した。測定により得られた、酸素、窒素、ホウ素、炭素のピーク面積値にそれぞれの元素の感度係数で補正した値の比を求めることにより、窒化ホウ素粒子表面の酸素原子濃度を測定した。表面の酸素原子濃度は、2.5at%であった。
測定により得られた、酸素、窒素、ホウ素、炭素のピーク面積値にそれぞれの元素の感度係数で補正した値とは、具体的には、酸素に対しては、528eVから537eVのピーク面積値に、酸素に対する感度係数0.780で除した値であり、窒素に対しては、395eVから402eVのピーク面積値に、窒素に対する感度係数0.477で除した値であり、ホウ素に対しては、188eVから194eVのピーク面積値に、ホウ素に対する感度係数0.159で除した値であり、炭素に対しては、282eVから289eVのピーク面積値に、炭素に対する感度係数0.278で除した値である。
【0103】
紫外線照射した窒化ホウ素粉末にエポキシモノマー(三菱化学製:jER828)、硬化剤(日本化薬製:カヤハードAA(アミン系硬化剤))を加え、組成物を調製した。エポキシモノマーと硬化剤は、エポキシモノマーのエポキシ基に対する硬化剤のアミンの活性水素のモル比が、1対1となるように調整した。また硬化後の組成物における窒化ホウ素含有量が60体積%となるように組成物を調製した。このときのエポキシ樹脂の含有率は、19質量%であった。
【0104】
調製した組成物を、厚さ75μmのPETフィルム上に、300μmの厚さに塗工した後、組成物をPETフィルムで挟み、140℃、1MPa、2分間で真空プレスすることによりBステージシートを得た。
【0105】
得られたBステージシートの両面のペットフィルムを剥がし、代わりに表面が粗化された銅箔(古河電工社製、商品名:GTS)で挟み160℃で真空プレスを行い、銅箔に圧着させた。これを更に、温度140℃で2時間、190℃で2時間加熱することにより完全硬化させ、シート状の銅圧着硬化物を得た。
【0106】
得られた銅圧着硬化物の両面の銅箔を200g/Lの過硫酸アンモニウム及び5ml/Lの硫酸の混合溶液を用いた酸エッチングにより除去し、シート状のエポキシ樹脂硬化物を得た。
【0107】
得られたシート状のエポキシ樹脂硬化物を1cm角に切出し、熱拡散率を測定するための試験片とした。フラッシュ法装置(Bruker製NETZSCH,nanoflash LFA447)を用いて、切出した試験片の熱拡散率を測定し、これにアルキメデス法により測定した密度とDSC法により測定した比熱とを乗じて、厚さ方向の熱伝導率を求めた。
【0108】
エポキシ樹脂硬化物に含まれる窒化ホウ素粉末の表面の酸素原子濃度を測定するため、大気下において600℃で30分間加熱することにより樹脂分を分解させた。その後に残存した窒化ホウ素粉末の表面の酸素原子濃度をX線光電子分光装置(島津/KRATOS社製:AXIS−HS)により、走査速度20eV/min(0.1eVステップ)で測定した。得られた結果を表1に示す。
【0109】
詳細な測定条件としては、X線源として、モノクロAl(管電圧;15kV、管電流;15mA)を使い、レンズ条件は、HYBRID(分析面積;600μm×1000μm)とし、分解能は、Pass Energy 40とした。
【0110】
(実施例2)
実施例1において、紫外線照射時間を20分としたこと以外は同様の方法で窒化ホウ素粉末の処理を行った。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様に熱伝導率を求めた。
【0111】
(実施例3)
実施例1において、紫外線照射時間を30分としたこと以外は同様の方法で窒化ホウ素粉末の処理を行った。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様に熱伝導率を求めた。
【0112】
(実施例4)
実施例3において、紫外線照射処理の前処理として、150℃の恒温槽で10分間熱処理をしたこと以外は同様の方法で窒化ホウ素粉末の処理を行った。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様に熱伝導率を求めた。
【0113】
(実施例5)
実施例4において、熱処理の温度を250℃としたこと以外は同様の方法で窒化ホウ素粉末の処理を行った。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様に熱伝導率を求めた。
【0114】
(実施例6)
実施例5において、熱処理の時間を30分としたこと以外は同様の方法で窒化ホウ素粉末の処理を行った。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様に熱伝導率を求めた。
【0115】
(実施例7)
実施例1で用いた液体のjER828に代えて、固体の4,4’−ビフェノールグリシジルエーテルをメチルエチルケトンに溶解させて用いたこと以外は実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂硬化物を作製し、熱伝導率を求めた。
【0116】
(実施例8)
実施例2で用いた液体のjER828に代えて、固体の4,4’−ビフェノールグリシジルエーテルをメチルエチルケトンに溶解させて用いたこと以外は実施例2と同様の方法でエポキシ樹脂硬化物を作製し、熱伝導率を求めた。
【0117】
(実施例9)
実施例3で用いた液体のjER828に代えて、固体の4,4’−ビフェノールグリシジルエーテルをメチルエチルケトンに溶解させて用いたこと以外は実施例3と同様の方法でエポキシ樹脂硬化物を作製し、熱伝導率を求めた。
【0118】
(実施例10)
実施例4で用いた液体のjER828に代えて、固体の4,4’−ビフェノールグリシジルエーテルをメチルエチルケトンに溶解させて用いたこと以外は実施例4と同様の方法でエポキシ樹脂硬化物を作製し、熱伝導率を求めた。
【0119】
(実施例11)
実施例5で用いた液体のjER828に代えて、固体の4,4’−ビフェノールグリシジルエーテルをメチルエチルケトンに溶解させて用いたこと以外は実施例5と同様の方法でエポキシ樹脂硬化物を作製し、熱伝導率を求めた。
【0120】
(実施例12)
実施例6で用いた液体のjER828に代えて、固体の4,4’−ビフェノールグリシジルエーテルをメチルエチルケトンに溶解させて用いたこと以外は実施例6と同様の方法でエポキシ樹脂硬化物を作製し、熱伝導率を求めた。
【0121】
(比較例1)
窒化ホウ素粉末を処理せずに、実施例1と同様にエポキシ樹脂硬化物を作製し、熱伝導率を求めた。
【0122】
(比較例2)
実施例1において、紫外線照射時間を6秒としたこと以外は同様の方法で窒化ホウ素粉末の処理を行った。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様に熱伝導率を求めた。
【0123】
(比較例3)
窒化ホウ素粉末に150℃の恒温槽で10分間熱処理をした。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様に熱伝導率を求めた。
【0124】
(比較例4)
比較例1において、液体のjER828に代えて、固体の4,4’−ビフェノールグリシジルエーテルをメチルエチルケトンに溶解させて用いたこと以外は比較例1と同様の方法でエポキシ樹脂硬化物を作製し、熱伝導率を求めた。
【0125】
(比較例5)
比較例2において、液体のjER828に代えて、固体の4,4’−ビフェノールグリシジルエーテルをメチルエチルケトンに溶解させて用いたこと以外は比較例2と同様の方法でエポキシ樹脂硬化物を作製し、熱伝導率を求めた。
【0126】
(比較例6)
比較例3において、液体のjER828に代えて、固体の4,4’−ビフェノールグリシジルエーテルをメチルエチルケトンに溶解させて用いたこと以外は比較例3と同様の方法でエポキシ樹脂硬化物を作製し、熱伝導率を求めた。
【0127】
【表1】

【0128】
図1は、比較例1と実施例5で得られた窒化ホウ素粉末について、XPS測定により得られた酸素のピーク(533eV)を示している。加熱処理と紫外線照射処理によって、酸素のピークが上昇していることがわかる。
【0129】
表1より、実施例1〜3及び実施例7〜9と比較例1を比べると、いずれの実施例も比較例1より窒化ホウ素粉末の表面の酸素原子濃度が高く、1.5at%以上となっている。また、実施例1〜3及び実施例7〜9は比較例1よりも、エポキシ樹脂硬化物の熱伝導率が高い。よって、十分な紫外線照射により、窒化ホウ素粉末の表面の酸素原子濃度は1.5at%以上となり、熱伝導率向上に効果がある。なお、熱伝導率が向上していることから、エポキシモノマー中での窒化ホウ素粉末の分散性が向上していることが分かる。
【0130】
実施例1〜3と比較例2、及び実施例7〜9と比較例4をそれぞれ比べると、実施例1〜3のいずれの実施例も比較例2より熱伝導率が高く、実施例7〜9のいずれの実施例も比較例4より熱伝導率が高い。よって、紫外線照射時間が短すぎると、窒化ホウ素粉末の表面の酸素原子濃度は1.5at%未満となり、熱伝導率の向上にあまり効果が無い。
【0131】
実施例4〜6と比較例3、及び実施例10〜12と比較例6をそれぞれ比べると、実施例4〜6のいずれの実施例も比較例3より熱伝導率が高く、実施例10〜12のいずれの実施例も比較例6より熱伝導率が高い。よって、窒化ホウ素粉末を熱処理だけでは熱伝導率の向上にあまり効果が無い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の酸素原子濃度が1.5at%以上の窒化ホウ素粒子と、エポキシモノマーと、硬化剤と、を含む組成物。
【請求項2】
前記窒化ホウ素粒子の体積平均粒子径が、0.01μm〜1mmである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記窒化ホウ素粒子が、波長150nm〜400nmの紫外線を含む光を100mJ/cm以上照射する工程を経て得られた窒化ホウ素粒子である請求項1又は請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記窒化ホウ素粒子が、60℃〜400℃で1分以上熱処理する工程と、波長150nm〜400nmの紫外線を含む光を100mJ/cm以上照射する工程と、を経て得られた窒化ホウ素粒子である請求項1又は請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の組成物の半硬化物であるBステージシート。
【請求項6】
繊維基材と、前記繊維基材に含浸された請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の組成物の半硬化物と、を有するプリプレグ。
【請求項7】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の組成物の硬化物。
【請求項8】
被着材と、
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の組成物から構成される樹脂層、請求項5に記載のBステージシート、及び請求項6に記載のプリプレグから選択される少なくとも1つの樹脂含有層の硬化層と、
を有する積層板。
【請求項9】
金属箔と、
金属板と、
前記金属箔と前記金属板との間に挟持される、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の組成物から構成される樹脂層、請求項5に記載のBステージシート、及び請求項6に記載のプリプレグから選択される少なくとも1つの樹脂含有層の硬化層と、
を有する金属基板。
【請求項10】
配線層と、
金属板と、
前記配線層と前記金属板との間に挟持される、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の組成物から構成される樹脂層、請求項5に記載のBステージシート、及び請求項6に記載のプリプレグから選択される少なくとも1つの樹脂含有層の硬化物と、
を有する配線板。
【請求項11】
窒化ホウ素粒子に、波長150nm〜400nmの紫外線を含む光を100mJ/cm以上照射し、表面の酸素原子濃度が1.5at%以上の窒化ホウ素粒子を作製する工程と、
前記表面の酸素原子濃度が1.5at%以上の窒化ホウ素粒子と、エポキシモノマーと、硬化剤と、を混合する工程と、
を有する組成物の製造方法。
【請求項12】
前記窒化ホウ素粒子を作製する工程が、窒化ホウ素粒子を60℃〜400℃で1分以上熱処理する工程をさらに有する請求項11に記載の組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−82883(P2013−82883A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−132091(P2012−132091)
【出願日】平成24年6月11日(2012.6.11)
【出願人】(000004455)日立化成株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】