説明

結晶シリコン素子、およびその製造方法

【課題】 ナノSiの結晶性を格段に向上させることにより、所望の可視光を高効率で引き出せる結晶シリコン素子を提供し、また、その製造方法を提供する。
【解決手段】 n型単結晶のシリコン基板10と、このシリコン基板10の一表面側に、シリコン基板10から分離して設けられ、このシリコン基板10と同一の結晶軸を持つナノSi(p型結晶シリコン)12と、シリコン基板10のナノSi(p型結晶シリコン)12が設けられた一表面側に形成される透明電極15と、このシリコン基板10の他表面側に形成される金属電極16とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶シリコン素子およびその製造方法に係り、より詳しくは、ナノ結晶シリコンから構成された発光素子などの結晶シリコン素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電流制御素子が真空管から固体半導体に置き換わったように、近年、照明素子も蛍光管からIII-V属化合物半導体などの固体発光素子に急速に置き換わりつつある。今後も発光素子の固体化の進展は疑う余地が無い。しかし、現在主流であるGa系化合物半導体では、高価なサファイヤ基板への低欠陥エピタキシャル成長が必要であり、また、pn接合や量子井戸構造を形成することが必要となる。そのために、Al、P、In、Nなどを含む複雑な多層膜構造にしなければならないなどの点で、安価な素子の提供が難しい。
【0003】
かかる課題に対し、地球上に最も豊富に存在する材料であるシリコン(Si)を用いて、安価な発光素子を得る試みがなされている。Siは、間接遷移型であり発光効率が低く、さらにバンドギャップが近赤外領域にあるため、可視光の発光材料としては不向きであると考えられてきた。しかし、例えば、非特許文献1などにて、陽極酸化によって形成したポーラスSiから可視発光が得られることが報告されてから、ナノサイズの結晶Si(以下、ナノSiと略す)が可視発光素子の有力候補として注目されるようになった。ナノSiによる発光現象は、Si結晶をナノサイズに縮小して起こる量子閉じ込め効果(バンドギャップの拡大)と考えられている。ナノSi発光素子の具現化には、発光効率を実用レベルに高めることが不可欠であり、表面状態を含む結晶性の向上が最大の課題となる。また望みの発光色を引き出すためには波長制御が必要であり、ナノSiの結晶サイズも高精度に制御しなければならない。
【0004】
前述のような陽極酸化法を用いたポーラスSiは、特異な酸化作用によってSi表面をポーラス状に侵食するものである。そのため、結晶自体の品質は比較的よいが、表面積が非常に大きく発光特性の不安定性が指摘されている。さらに形状が殆ど制御できないので、発光波長も制御できない問題があった。これら問題点を解決する手段として、これまでいくつかの方法が提案されている。例えば、イオン注入法、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などを用いて、基板上に粒状Si結晶を形成し、加えてシリコン酸化物(SiO)などの安定な材料中に埋め込む工夫がなされてきた(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0005】
【非特許文献1】L.T.Canham, Appl. Phys. Lett. Vol.57, p.1046, 1990
【特許文献1】特開平8−17577号公報
【特許文献2】特開2004−296781号公報
【特許文献3】特開平8−307011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の方法は、何れもSiあるいはSi化合物を注入または堆積させて形成するものであることから、結晶の均一性に課題があった。そのために、従来技術の発光素子では、可視光を高効率で出射することは困難であった。
【0007】
本発明は、以上のような技術的課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、ナノSiの結晶性を格段に向上させることにより、例えば所望の可視光を高効率で引き出せる結晶シリコン素子を提供し、また、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的のもと、本発明者等は、発光効率を高めるにはナノSiの結晶性を向上させるとともに結晶軸の制御が重要であることを見出した。即ち、従来技術のようにランダムな結晶軸を持たせるのではなく、基板上に設けた複数個のナノSiの結晶軸を同一方向に揃えることで、発光効率を格段に高めている。メカニズムは定かでないが、ナノSiに流れ込むキャリアの流線方向と直交する面の面方位を(100)に揃えた場合に最大の発光効率が得られ、次いで(110)、(111)にて良好な発光効率が得られた。Si表面のダングリングボンド密度は、(100)、(110)、(111)の順に小さいことから、ダングリングボンド密度に起因した非発光再結合中心の存在が発光効率を左右する一因であると考えられる。従って、高効率発光を得るには、ナノSiの結晶軸を同一方向に揃えることに加え、(100)に制御することが望ましい。
【0009】
即ち、本発明が適用される結晶シリコン素子は、一表面および他表面を有するn型単結晶のシリコン基板と、このシリコン基板の一表面側に設けられ、シリコン基板と同一の結晶軸を持つナノサイズのp型結晶シリコン(ナノSi)と、金属電極と、この金属電極とともに一対の電極を形成してp型結晶シリコンおよびシリコン基板を挟み込む透明電極とを含む。ここで、この金属電極は、シリコン基板の他表面側に、シリコン基板とオーミック接合されてなり、この透明電極は、p型結晶シリコン上に設けられてなることを特徴とすることができる。そして、これらの構成によれば、電極からp型結晶シリコン(ナノSi)に注入されたキャリア(電子/正孔)が発光中心に効率よく再結合(量子効率向上)するので、発光効率を格段に向上させることができる点で好ましい。また、これらの構成によれば、発光層のナノSiがシリコン基板と同一部材で構成されているため、熱膨張等による歪の影響を受け難く発光の安定化が図れる点からも優れている。
【0010】
また、この透明電極は、キャリアのトンネル注入が行なわれる薄い絶縁膜を介してp型結晶シリコン(ナノSi)に接合されてなることを特徴とすれば、ナノSi表面が安定な絶縁膜で保護されるので、例えば発光に寄与しない表面再結合電流が低減され、発光効率の向上と安定化を図ることができる。
更に、この透明電極は、p型結晶シリコンと直に接することを特徴とすれば、pn接合面が正孔障壁として機能するので発光効率の向上が図れる点で好ましい。また、ナノSiと透明電極は直に接することにより、正孔に対してオーミック接合を形成する構成とすれば、絶縁膜で構成した場合に比べ、キャリア注入が低電圧化(注入効率向上)できるので、発光素子の低消費電力化が可能となる。
また更に、このp型結晶シリコンは、注入されるキャリアの流線方向と略直交する面の面方位が(100)の結晶構造を備えてなることを特徴とすれば、ダングリングボンドに起因した非発光再結合が低減できるので発光効率の向上を図ることができる点で優れている。
【0011】
更に、このシリコン基板の抵抗率が10mΩ以下であることを特徴とすれば、ナノ結晶シリコンへの電子の注入効率が増加するとともに通電時のシリコン基板での抵抗損失が低減できるので、高効率化が図れる点で好ましい。
また更に、このp型結晶シリコンは、アルミニウムがドープされてなることを特徴とすれば、一般的なp型ドーパントであるボロンに比べて深いアクセプタ準位を作るので、発光特性の熱的安定性を図ることが可能となる。
【0012】
他の観点から把えると、本発明が適用される結晶シリコン素子は、一表面および他表面を有するn型単結晶のシリコン基板と、このシリコン基板の一表面側に、シリコン基板から分離して設けられ、このシリコン基板と同一の結晶軸を持つナノサイズのp型結晶シリコンと、シリコン基板のp型結晶シリコンが設けられた一表面側に形成される透明電極と、このシリコン基板の他表面側に形成される金属電極とを含む。
【0013】
更に、この結晶シリコン素子おいて、p型結晶シリコンと透明電極とは、絶縁膜を介して接続されてなり、透明電極を陽極、金属電極を陰極とした2極間に電圧を印加してキャリア注入させるときの電流経路が、透明電極−絶縁膜−p型結晶シリコン−シリコン基板−金属電極であることを特徴とすることができる。
また、このp型結晶シリコンと透明電極とは、直に接合されてなり、この透明電極を陽極、金属電極を陰極とした2極間に電圧を印加してキャリア注入させるときの電流経路が、透明電極−p型結晶シリコン−シリコン基板−金属電極であることを特徴とすることができる。
【0014】
一方、本発明は、シリコンの微結晶を用いた結晶シリコン素子の製造方法であって、n型単結晶のシリコン基板の一表面側に、シリコン基板と同一結晶軸を有する複数個のナノサイズからなるp型結晶シリコンを固相成長させて設ける工程と、このp型結晶シリコンが形成される一表面側に透明電極を設ける工程と、シリコン基板の他表面側に金属電極を設ける工程とを含む。固相エピタキシャル成長によってシリコン基板と同一結晶軸をもつナノ結晶シリコンを低温形成可能なので、p型、n型ドーパントの再分布が無い。このため、ナノサイズのpn接合を容易に再現性よく形成できるので、高効率の発光素子を安価に提供できる。
【0015】
ここで、このp型結晶シリコンを固相成長させて設ける工程は、シリコン基板上にアルミニウム・シリコン(AlSi)からなる薄膜を形成する工程と、アルミニウム・シリコン(AlSi)の融点を超えない温度で熱処理することにより、シリコン基板上にp型結晶シリコンを固相エピタキシャル成長させる工程と、アルミニウム・シリコン(AlSi)からなる薄膜を除去する工程とを含むことを特徴とすることができる。
【0016】
更に他の観点から把えると、本発明が適用される結晶シリコン素子の製造方法は、単結晶からなるシリコン基板の一表面側にアルミニウム・シリコン(AlSi)からなる薄膜を形成する工程と、アルミニウム・シリコン(AlSi)の融点を超えない温度であって固相エピタキシャル成長が起こり得る所定の温度範囲内で熱処理を施すことにより、シリコン基板上にp型結晶シリコンを固相エピタキシャル成長させる工程と、アルミニウム・シリコン(AlSi)からなる薄膜を除去する工程とを含む。
ここで、固相エピタキシャル成長が起こり得る所定の温度範囲は、下限を350℃程度、上限は、融点570℃を超えない550℃程度とすることが好ましい。また、Al・Siを固相成長のSi供給源にすることで、Alがオートドーピングされたp型ナノSiを容易に再現性よく形成できる。よって高効率の発光素子を安価に提供できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非発光再結合中心の少ない結晶性に優れたナノSi発光素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本実施の形態に係るナノSi発光素子の部分断面図である。
この図1に示すように、結晶シリコン素子としてのナノSi発光素子は、一対の主表面を持つ単結晶からなるn型のシリコン基板10と、このシリコン基板10の一方の主表面(一表面側)に設けられ部分的に開口部を持つシリコン酸化膜13と、このシリコン酸化膜13の開口部上に設けられシリコン基板10と同一の結晶軸を持つ複数個のナノSi(p型結晶シリコン)12とを備えている。また、このナノSi12の上面および側面を覆うように設けられたシリコン酸化膜14と、少なくともナノSi12の上面を覆うように設けられた透明電極(例えばITO)15とを備えている。更には、シリコン基板10の他方の主表面(他表面側)にこれとオーミック接合されるように設けられた金属電極(例えばアルミニウム)16を備えている。
【0019】
このように構成されるナノSi発光素子は、透明電極15を陽極、金属電極16を陰極として電圧印加することで、可視の発光素子として動作する。そして、透明電極15を陽極、金属電極16を陰極とした2極間に電圧を印加してキャリア注入させるときの電流経路は、透明電極15−絶縁膜(シリコン酸化膜14)−p型結晶シリコン(ナノSi12)−シリコン基板10−金属電極16となる。
【0020】
図2は、図1の動作原理を説明するためのバンド構造とキャリアの流れを示す説明図である。この図2に示すように、透明電極15からシリコン酸化膜14をトンネル注入した正孔と、金属電極16から単結晶のシリコン基板10を経由してpn接合を通って注入された電子とが、ナノSi12中の再結合中心にトラップされて発光する。近赤外のバンドギャップを有するシリコンが可視発光する理由は、結晶サイズの縮小による量子閉じ込め効果(バンドギャップの拡大)による。ナノSi12とシリコン基板10の間のpn接合が正孔障壁として機能するので、量子閉じ込め効果を損なうことがない。即ち、従来のようにナノSi12をシリコン酸化膜で覆う必要がなく、発光効率の向上が図れる。
【0021】
このように構成されるナノSi発光素子は、ナノSi12のサイズ制御によって、様々な波長成分を取り出すことができる点にも特徴がある。本実施の形態における検討結果では、ナノSi12を球体換算した時の直径で表すと、約2nmで青色、約2.5nmで緑色、約3.3nmで赤色であった。従って、無駄な赤外光を排除して高効率な可視発光素子を実現するには、ナノSi12の直径(球体換算)を4nm以下にすることが必要で、特に2〜4nmに制御することが望ましい。
【0022】
一方、発光効率とナノSi12の結晶軸の関係を詳細に調べた結果、ランダム結晶軸を持つ従来技術よりも、結晶方位を同一軸に揃えた本実施の形態におけるナノSi12の方が、格段に発光効率を向上できることが分かった。また、ナノSi12の上面(キャリアの流線方向と略直交する面)の面方位との関係では、結晶構造(100)が最も高効率で、次いで(110)、(111)の順であった。これはダングリングボンドの密度と逆の関係にあることから、ナノSi12表面のダングリングボンドが非発光の再結合中心として働くためと考えられる。従って、ナノSi12の上面は、(100)の面方位に制御することが望ましい。
【0023】
図3は、図1に示すナノSi発光素子の変形例を示す部分断面図である。ここでは、説明の重複を避けるため、図1に示す例とは異なる部分を説明する。図3に示す変形例では、ナノSi12の少なくとも上面の薄いシリコン酸化膜14を省くことにより、ナノSi12と透明電極15をダイレクト接触させてオーミック接合を形成するようにした。即ち、透明電極15からナノSi12への電子注入が、絶縁膜障壁を介したトンネル注入からショットキー障壁を介したトンネル注入(オーミック接合)に替わった以外は、図1に示す例と同様である。
このように、図3に示す例では、p型結晶シリコンであるナノSi12と透明電極15とは、直に接合されてなり、この透明電極15を陽極、金属電極16を陰極とした2極間に電圧を印加してキャリア注入させるときの電流経路は、透明電極15−p型結晶シリコン(ナノSi12)−シリコン基板10−金属電極16となる。
【0024】
図4は、図3に示す変形例の動作原理を説明するためのバンド構造とキャリアの流れを示す図である。オーミック接合にした利点は、図2の例のごとくシリコン酸化膜14を設けた場合に比べて、障壁高さが低くかつ安定することにある。即ち、膜厚によらず障壁高さを一定に保つことができる。この結果、正孔注入の効率を向上させたことによる動作電圧の低減、即ち、ナノSi発光素子の消費電力の低減を図ることができる。
【0025】
次に、本実施の形態が適用されるナノSi発光素子の製造方法について説明する。
図5−1および図5−2は、本実施の形態に係るナノSi発光素子の製造方法を示す部分断面図であり、製造工程順に製造方法が示されている。ここでは、まず(100)面から成る一対の主表面に高濃度のリン(P)を含むn型単結晶のシリコン基板10を用意する。そして、一方の主表面上(一表面側)に、Siの含有量が1wt%のAl・Si合金膜11をスパッタ法により形成する(図5−1(a))。次に、水素雰囲気中にて、約450℃で熱処理することにより、単結晶のシリコン基板10上に、それと同一結晶軸を持つナノSi12を固相エピタキシャル成長させる(図5−1(b))。アルミニウム・シリコン(AlSi)の融点が約570℃であることから、ここでは、この融点を超えない所定の温度として約450℃を選定した。発明者等による現状の研究では、固相エピタキシャル成長が起こり得る所定の温度の下限としては350℃程度が好ましく、この所定の温度の上限としては550℃程度が好ましい。このとき、アニール温度と時間を制御することで、成長の度合いを調整することが可能となる。その後、熱したリン酸でエッチング処理を施すことにより、不要なAl・Si合金膜11を除去する(図5−1(c))。
【0026】
次に、水蒸気を含む酸化性雰囲気中で熱処理することにより、単結晶のシリコン基板10上に厚いシリコン酸化膜13を形成し、ナノSi12上には薄いシリコン酸化膜14を形成する(図5−1(d))。これは、高濃度のPを含んだシリコンの増速酸化現象を利用したものである。次にナノSi12が設けられた主表面上(一表面側)に酸化インジウム系化合物からなる透明電極(ITO)15を形成し、反対表面側(他表面側)にアルミニウムからなる金属電極16を形成する(図5−1(e))。
【0027】
かかる一連の工程で作製したナノSi発光素子は、透明電極15を陽極、金属電極16を陰極としたEL素子として機能し、高効率の可視発光を確認した。このナノSi発光素子は、以下の理由により発光効率を飛躍的に改善できた。まず、ナノSi12は、単結晶のシリコン基板10と同一の結晶方位であって、結晶面方位が(100)に揃ったものであるため、ナノSi12表面のダングリングボンドによる非発光の再結合中心を最小に抑制できる。また、ナノSi12はAl・Si合金膜11の過剰Siをエピタキシャル成長させたものであることから、ナノSi12はAl原子がオートドーピングされたp型結晶となる。これによって、n型単結晶のシリコン基板10との間にナノサイズの接触面を持つpn接合が形成できる。このpn接合面が正孔障壁として機能するので、ナノSi発光素子における発光効率の向上が図れる。
【0028】
このように、図5−1および図5−2に示す製造方法によれば、Al・Si合金の含有Siの比率と固相成長時のアニール温度および時間を制御することによって、ナノSi12の大きさを自由に変えることができる。すなわち同一の製造工程によって発光波長の異なる素子を容易に製造できる。よって、望みの波長を持つナノSi発光素子を高い歩留で安価に提供することが可能となる。
【0029】
尚、図5−1および図5−2に示す製造方法にて製造される結晶シリコン素子の完成形態は、図1と同じもので例示したが、種々の変更が可能である。例えば、図5−1(d)の後、RIE(Reactive Ion Etching)法でエッチング処理することによりナノSi12の上面のシリコン酸化膜14を除去すれば、図3に示す変形例に展開できる。透明電極15はITO(Indium Tin Oxide)を例示したが、可視光に対して透明性を維持し電気導電性を有するものであれば、特に制限はない。金属電極16はアルミニウムを例示したが、電気導電性に優れシリコン基板10とオーミック接合できる材料であれば制限はない。更に、n型単結晶のシリコン基板10のドーパントにリン(P)を例示したが、砒素(As)、アンチモン(Sb)などであってもよい。また、n型単結晶のシリコン基板10は電流通電時の抵抗損失低減の観点から、可能な限り薄く、かつ低抵抗率であることが必要で、実用的には10mΩcm以下が望ましい。
【0030】
図6−1および図6−2は、本実施の形態に係るナノSi発光素子の他の製造方法を工程順に示す部分断面図である。まず、(100)面から成る一対の主表面を持つ高濃度のAsを含むn型単結晶シリコン基板10を用意し、一方の主表面上にCVD(Chemical Vapor Deposition)法によりシリコン窒化膜20を形成する(図6−1(a))。例えば、直径5nmのマグネタイト(Fe)微粒子21aと、その周囲に有機保護基21bを有するナノ粒子21を、シリコン窒化膜20上に塗布して分散配置する(図6−1(b))。そして、このナノ粒子21をマスクとして、シリコン窒化膜20をRIE法でエッチングし、パターニングされたシリコン窒化膜20aを形成する(図6−1(c))。その後、有機溶媒でウェット処理してナノ粒子21を除去した後、シリコン窒化膜20aを酸化保護マスクとして酸化性雰囲気で熱処理することにより、厚いシリコン酸化膜13を形成し、さらに直径約4nm以下の開口部22を形成する(図6−1(d))。
【0031】
次に、スパッタ法によりSiの含有量が1.5wt%のAl・Si合金膜11を形成する(図6−2(e))。そして、水素雰囲気中、約480℃で熱処理することにより、単結晶のシリコン基板10上におけるシリコン酸化膜13の開口部22に、シリコン基板10と同一結晶軸を持つナノSi12を選択的に固相エピタキシャル成長させる(図6−2(f))。その後、熱したリン酸でエッチング処理することにより、不要なAl・Si合金膜11を除去する(図6−2(g))。最後に、ナノSi12が設けられた主表面上(一表面側)に酸化インジウム系化合物からなる透明電極(ITO)15を形成し、反対表面側(他表面側)にアルミニウムからなる金属電極16を形成して、ナノSi発光素子を作製した(図6−2(h))。
【0032】
このようにして作製したナノSi発光素子は、直径約2.5nmの柱状のナノSi12を有し、透明電極15を陽極、金属電極16を陰極として電圧印加することで、ピーク波長が約550nmの緑色発光を確認した。本実施の形態では、シリコン酸化膜13の開口部22のサイズがナノ粒子21のサイズによって高精度に制御できるので、開口部22に選択成長するナノSi12の粒径サイズの均一性が格段に向上する。更に、ナノ粒子21の大きさ、およびシリコン酸化膜13の酸化条件を制御することによってナノSi12の直径制御が可能であり、同一工程手順で赤、緑、青の3原色を作り分けることができる。よって、発光波長の制御性に優れた高効率の発光素子が、安価に提供できる効果がある。
【0033】
尚、ナノ粒子はマグネタイト(Fe)を例示したが、他のフェライト系粒子、またはAu、Pt、Pd、Coなどの金属粒子を用いてもよく、シリコン窒化膜のエッチングマスクとして機能する材質であれば制限はない。また、ナノ粒子の分散配置として有機保護基付ナノ粒子の塗布法を例示したが、金属粒子を直にスパッタリングする方法などであってもよい。また、LB(Langmuir Blodgett)膜などを用いる方法であってもよく、ブロック共重合ポリマーの相分離などを用いる方法であってもよい。
【0034】
以上、詳述したように、本実施の形態によれば、n型導電性のシリコン基板上にこれと同一の結晶軸を持つp型導電性のナノサイズ結晶シリコンを設けたことにより、非発光再結合中心の少ない結晶性に優れたナノSi発光素子が実現できる。これにより、長寿命かつ高効率のナノSi発光素子を安価に提供することが可能となる。
【0035】
尚、本実施の形態では、ナノSiを用いた発光素子を例示したが、同一の構成で発電素子(光起電力素子)に応用することもできる。即ち、透明電極側からナノSiに光を照射するとキャリア(電子・正孔対)が生成し、一対の電極から電力を取り出すことができる。特に可視〜紫外光に対して高感度な発電素子が実現できる。
また、本実施の形態が適用されるナノSi素子は、通常のIC製造に幾つかの製造工程を付加するだけで、容易かつ任意形状にて形成することができる。そこで、制御回路、増幅回路、メモリ回路、保護回路などと組み合わせて1チップ化してもよい。即ち、各種回路とナノSi素子を同一基板状でIC化することにより、様々な機能付加および機能向上、あるいは低コスト化を図ることができる。その応用は、発光素子や発電素子に留まらず、通信、メモリ、センサあるいはディスプレイなどが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施の形態に係るナノSi発光素子の部分断面を示した図である。
【図2】図1の動作原理を説明するためのバンド構造とキャリアの流れを示す説明図である。
【図3】図1に示すナノSi発光素子の変形例を示す部分断面図である。
【図4】図3に示す変形例の動作原理を説明するためのバンド構造とキャリアの流れを示す図である。
【図5−1】本実施の形態に係るナノSi発光素子の製造方法を示す部分断面図である。
【図5−2】本実施の形態に係るナノSi発光素子の製造方法を示す部分断面図である。
【図6−1】本実施の形態に係るナノSi発光素子の他の製造方法を工程順に示す部分断面図である。
【図6−2】本実施の形態に係るナノSi発光素子の他の製造方法を工程順に示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0037】
10…シリコン基板、11…Al・Si合金膜、12…ナノSi(p型結晶シリコン)、13…シリコン酸化膜、14…シリコン酸化膜、15…透明電極(例えばITO)、16…金属電極(例えばアルミニウム)、20…シリコン窒化膜、21…ナノ粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一表面および他表面を有するn型単結晶のシリコン基板と、
前記シリコン基板の前記一表面側に設けられ、当該シリコン基板と同一の結晶軸を持つナノサイズのp型結晶シリコンと
を含む結晶シリコン素子。
【請求項2】
請求項1記載の結晶シリコン素子において、更に、
金属電極と、
前記金属電極とともに一対の電極を形成して前記p型結晶シリコンおよび前記シリコン基板を挟み込む透明電極と
を含む結晶シリコン素子。
【請求項3】
請求項2記載の結晶シリコン素子において、
前記金属電極は、前記シリコン基板の前記他表面側に、当該シリコン基板とオーミック接合されてなり、
前記透明電極は、前記p型結晶シリコン上に設けられてなることを特徴とする結晶シリコン素子。
【請求項4】
請求項3記載の結晶シリコン素子において、
前記透明電極は、キャリアのトンネル注入が行なわれる薄い絶縁膜を介して前記p型結晶シリコンに接合されてなることを特徴とする結晶シリコン素子。
【請求項5】
請求項3記載の結晶シリコン素子において、
前記透明電極は、前記p型結晶シリコンと直に接することによりオーミック接合を形成されてなることを特徴とする結晶シリコン素子。
【請求項6】
請求項1記載の結晶シリコン素子において、
前記p型結晶シリコンは、注入されるキャリアの流線方向と略直交する面の面方位が(100)の結晶構造を備えてなることを特徴とする結晶シリコン素子。
【請求項7】
請求項1記載の結晶シリコン素子において、
前記シリコン基板の抵抗率が10mΩ以下であることを特徴とする結晶シリコン素子。
【請求項8】
請求項1記載の結晶シリコン素子おいて、
前記p型結晶シリコンは、アルミニウムがドープされてなることを特徴とする結晶シリコン素子。
【請求項9】
一表面および他表面を有するn型単結晶のシリコン基板と、
前記シリコン基板の前記一表面側に、当該シリコン基板から分離して設けられ、当該シリコン基板と同一の結晶軸を持つナノサイズのp型結晶シリコンと、
前記シリコン基板の前記p型結晶シリコンが設けられた前記一表面側に形成される透明電極と、
前記シリコン基板の前記他表面側に形成される金属電極と
を含む結晶シリコン素子。
【請求項10】
請求項9記載の結晶シリコン素子おいて、
前記p型結晶シリコンと前記透明電極とは、絶縁膜を介して接続されてなり、
前記透明電極を陽極、前記金属電極を陰極とした2極間に電圧を印加してキャリア注入させるときの電流経路が、当該透明電極−前記絶縁膜−前記p型結晶シリコン−前記シリコン基板−当該金属電極であることを特徴とする結晶シリコン素子。
【請求項11】
請求項9記載の結晶シリコン素子おいて、
前記p型結晶シリコンと前記透明電極とは、直に接合されてなり、
前記透明電極を陽極、前記金属電極を陰極とした2極間に電圧を印加してキャリア注入させるときの電流経路が、当該透明電極−前記p型結晶シリコン−前記シリコン基板−当該金属電極であることを特徴とする結晶シリコン素子。
【請求項12】
シリコンの微結晶を用いた結晶シリコン素子の製造方法であって、
n型単結晶のシリコン基板の一表面側に、当該シリコン基板と同一結晶軸を有する複数個のナノサイズからなるp型結晶シリコンを固相成長させて設ける工程と、
前記p型結晶シリコンが形成される前記一表面側に透明電極を設ける工程と、
前記シリコン基板の他表面側に金属電極を設ける工程と
を含む結晶シリコン素子の製造方法。
【請求項13】
請求項12記載の結晶シリコン素子の製造方法において、
前記p型結晶シリコンを固相成長させて設ける工程は、
前記シリコン基板上にアルミニウム・シリコン(AlSi)からなる薄膜を形成する工程と、
アルミニウム・シリコン(AlSi)の融点を超えない温度で熱処理することにより、前記シリコン基板上に前記p型結晶シリコンを固相エピタキシャル成長させる工程と、
アルミニウム・シリコン(AlSi)からなる前記薄膜を除去する工程と
を含むことを特徴とする結晶シリコン素子の製造方法。
【請求項14】
シリコンの微結晶を用いた結晶シリコン素子の製造方法であって、
単結晶からなるシリコン基板の一表面側にアルミニウム・シリコン(AlSi)からなる薄膜を形成する工程と、
アルミニウム・シリコン(AlSi)の融点を超えない温度であって固相エピタキシャル成長が起こり得る所定の温度範囲内で熱処理を施すことにより、前記シリコン基板上にp型結晶シリコンを固相エピタキシャル成長させる工程と、
アルミニウム・シリコン(AlSi)からなる前記薄膜を除去する工程と
を含む結晶シリコン素子の製造方法。
【請求項15】
請求項14記載の結晶シリコン素子の製造方法において、更に、
前記シリコン基板の前記一表面側に透明電極を設ける工程と、
前記シリコン基板の他表面側に金属電極を設ける工程と
を含む結晶シリコン素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【公開番号】特開2007−43016(P2007−43016A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−228242(P2005−228242)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】