説明

脚式移動ロボットの脚体関節アシスト装置

【課題】小型且つ簡単な構成でロボットのエネルギー消費を低減しつつ、脚体の関節アクチュエータの負担を軽減することができる脚体関節アシスト装置を提供する。
【解決手段】アシスト装置11はばね手段21(気体ばね)を備えており、シリンダ23内のピストン24がロボットの脚体3の膝関節8における大腿部4および下腿部5の相対的変位運動(屈伸運動)に応じて上下動する。ピストン24の上下の気室25,26に気体が充填されている。膝関節8での曲げ度合いが所定値以下であるときには、気室25,26がシリンダ23内の溝28を介して連通して、ばね手段21は弾性力を発生せず、曲げ度合いが所定値を超えると、気室25,26が互いに密封状態となってばね手段21が弾性力を発生し、その弾性力が膝関節8に補助駆動力として作用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2足移動ロボットのなどの脚式移動ロボットの脚体の関節に、該関節を駆動するための関節アクチュエータを補助する補助駆動力を発生する脚体関節アシスト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のアシスト装置としては、特開2001−198864号公報の図9に見られるもの(特許文献1)や、本願出願人が先に提案した特開2003−145477号公報(特許文献2)、特開2003−103480号公報(特許文献3)に見られるものが知られている。
【0003】
特許文献1のものは、2足移動ロボットの各脚体の膝関節により連結された2つのリンク部材(大腿部および下腿部)の間にばねを設け、各脚体の膝関節での屈伸運動をばねの弾性エネルギーに変換し、ロボットをジャンプさせたりするときに、その弾性エネルギーにより膝関節に補助駆動力(弾性力)を作用させるようにしたものである。この場合、各脚体の膝関節での曲げ角がある所定角度であるときに、ばねが自然長状態(弾性エネルギーを放出した状態)になり、その所定角度以外の曲げ角では、ばねに弾性エネルギーが蓄積されて、補助駆動力が発生するようになっている。
【0004】
また、特許文献2のものは、各脚体の膝関節での屈伸運動を、気体を充填したシリンダにより構成された気体ばねの弾性エネルギーに変換し、その弾性エネルギーにより膝関節に補助駆動力(弾性力)を作用させるようにしたものである。この場合、支持脚期に、支持脚の膝関節での曲げ角(大腿部の軸心に対する下腿部の軸心の傾斜角)の増加に伴い、気体ばねが発生する補助駆動力が脚体の伸ばし方向に増加し、支持脚の膝関節での曲げ角がほぼ最大(極大)となるときに、気体ばねが発生する補助駆動力(伸ばし方向の補助駆動力)がほぼ最大になるように気体ばねの動作特性(各脚体の屈伸運動に対する気体ばねのピストンの運動特性)が設定されている。これにより、膝関節に発生させるべき駆動力が最も大きなものとなる支持脚期に気体ばねによって適切な補助駆動力を発生させ、膝関節の関節アクチュエータの負担を軽減するようにしている。
【0005】
また、特許文献3のものは、各脚体の膝関節での屈伸運動を弾性エネルギーに変換するばね手段(気体ばねなど)を備えると共に、そのばね手段に対する各脚体の屈伸運動の伝達を適宜遮断する機構(以下、ここではロック機構という)を備えたものである。この場合、特許文献3のものでは、そのロック機構を電磁ソレノイドや電磁弁を介して所定のタイミングで動作させることで、膝関節に補助駆動力を作用させるべき期間において、ばね手段に脚体の屈伸運動が伝達される状態として、該ばね手段に補助駆動力(弾性力)を発生させる一方、これ以外の期間では、ばね手段に脚体の屈伸運動が伝達されない状態とし、膝関節にばね手段から補助駆動力(弾性力)が作用しないようにしている。
【特許文献1】特開2001−198864号公報の図9
【特許文献2】特開2003−145477号公報
【特許文献3】特開2003−103480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1のものでは、膝関節における脚体の曲げ角が所定角度であるときにのみばねの補助駆動力が発生しないものとなっているため、それ以外の曲げ角では、常にばねの弾性力が発生する。このため、各脚体の膝関節に発生させるべき必要駆動力が小さなときでも、ばねの弾性力を打ち消すような駆動力を膝関節の関節アクチュエータに発生させなければならない場合があり、関節アクチュエータのエネルギー消費が却って増大することがあった。特に、特許文献1のものでは、膝関節における脚体の曲げ角が大きいほど、ばねの弾性力が大きくなるため、膝関節に発生させるべき必要駆動力が小さなもので済む脚体の遊脚期における関節アクチュエータの発生駆動力が却って大きくなって、関節アクチュエータの発生駆動力、ひいてはエネルギー消費を抑えることが困難であった。
【0007】
また、前記特許文献2のものでは、ロボットの移動時の全期間にわたる関節アクチュエータの発生駆動力の最大値を小さく抑えて、該関節アクチュエータの負担を軽減できるものの、気体ばねの弾性力が0となる膝関節の曲げ角は、ある特定の角度に限られ、該曲げ角が小さい状態(脚体がほぼ伸びている状態)で脚体の曲げ方向に気体ばねの弾性力が発生するようになっていた。このため、ロボットを直立させている状態のように膝関節に発生させるべき駆動力が脚体の伸ばし方向の駆動力となる状況や、ロボットの移動時の支持脚の離床直前のように、膝関節に発生させるべき駆動力がほぼ0となるような状況においては、膝関節の関節アクチュエータに気体ばねの弾性力を打ち消す駆動力を発生させなければならない。従って、特許文献2のものは、膝関節の関節アクチュエータのエネルギー消費をさらに低減する上では不十分なものとなっていた。
【0008】
また、前記特許文献3のものは、必要時にのみ、ばね手段の弾性力(補助駆動力)を膝関節に作用させることができるものの、前記ロック機構やこれを動作させるための電磁ソレノイドや電磁弁が必要となり、構成が大型化、あるいは複雑化するという不都合があった。さらに、電磁ソレノイドや電磁弁を動作させるためのエネルギーが必要となり、これがロボットのエネルギー消費をより一層を低減する上での妨げとなっていた。
【0009】
本発明はかかる背景に鑑みてなされたものであり、小型且つ簡単な構成でロボットのエネルギー消費を低減しつつ、脚体の関節アクチュエータの負担を軽減することができる脚体関節アシスト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の脚式移動ロボットの脚体関節アシスト装置は、かかる目的を達成するために、
上体から複数のリンク部材を複数の関節を介して連接してなる脚体を複数備えた脚式移動ロボットにおいて、各脚体の複数の関節のうちの少なくとも1つの関節を特定関節としし、該特定関節を駆動する関節アクチュエータの駆動力と併せて該特定関節に作用する補助駆動力を、該特定関節により連結された一対のリンク部材間の相対的変位運動に応じて蓄積する弾性エネルギーにより発生するばね手段を備えると共に、該ばね手段が、シリンダと、前記一対のリンク部材間の相対的変位運動に応じて該シリンダ内を摺動自在に設けられたピストンと、該シリンダ内でピストンの両側に形成され、該ピストンの摺動に伴い体積が変化する一対の気室と、該一対の気室のうちの少なくとも一方の気室をばね用気体充填室とし、該ばね用気体充填室に充填された気体とを備えて、前記ピストンの摺動に伴う該ばね用気体充填室の気体の圧縮又は膨張により前記補助駆動力を弾性的に発生する手段である脚体関節アシスト装置であって、
前記一対のリンク部材間の相対的変位量があらかじめ定めた所定範囲にあるときに、前記ばね用気体充填室に連通すると共に、該相対的変位量が前記所定範囲から逸脱しているときには前記ピストンにより前記ばね用気体充填室から遮断されるように前記ばね手段に設けられた気体流通路を備え、前記一対のリンク部材間の相対的変位量が前記所定範囲にあるときに、該一対のリンク部材間の相対的変位運動に伴う前記ピストンの摺動に応じて該ばね用気体充填室と外部との間で前記気体流通路を介して流通させることにより該ばね用気体充填室の気体の圧縮又は膨張を阻止するようにしたことを特徴とする。
【0011】
かかる本発明によれば、前記一対のリンク部材間の相対的変位量が前記所定範囲にあるときに、該一対のリンク部材間の相対的変位運動に伴う前記ピストンの摺動に応じて該ばね用気体充填室と外部との間で前記気体流通路を介して流通させることにより該ばね用気体充填室の気体の圧縮又は膨張を阻止する。これにより、前記相対的変位量が所定範囲にあるときには、ばね手段は補助駆動力を発生しないものとなる。そして、前記相対的変位量が所定範囲から逸脱しているときには、前記ピストンによって気体流通路が前記ばね用気体充填室から遮断されるので、該ばね用気体充填室の気体が前記一対のリンク部材間の相対的変位運動に伴うピストンの摺動に応じて圧縮又は膨張する。これにより、ばね手段は、補助駆動力を発生する。
【0012】
このように本発明によれば、前記気体流通路をばね手段に設けることで、電磁弁などの電子機器を使用することなく、前記相対的変位量が所定範囲を逸脱しているときだけ、ばね手段に補助駆動力を発生させ、該相対的変位量が所定範囲にあるときには、ばね手段に補助駆動力を発生させないようにすることができる。従って、本発明の脚体関節アシスト装置によれば、小型且つ簡単な構成でロボットのエネルギー消費を低減しつつ、脚体の関節アクチュエータの負担を軽減することができる。
【0013】
なお、本発明では、ばね用気体充填室は、前記シリンダ内の一対の気室のうちの両者またはいずれか一つのいずれでもよい。該ばね用気体充填室をいずれか一つの気室としたときには、他方の気室は、例えば大気に開放しておけばよい。
【0014】
かかる本発明では、前記気体流通路は、前記シリンダの内周面に形成された1つ以上の溝から構成され、各溝は、前記一対のリンク部材間の相対的変位量が前記所定範囲にあるときに、該溝の一端が前記一対の気室のうちの一方に連通し、且つ、該溝の他端が前記一対の気室のうちの他方に連通すると共に、前記一対のリンク部材間の相対的変位量が前記所定範囲にあるときには、各溝の両端が前記一対の気室のうちの少なくともいずれか一方の気室から前記ピストンにより遮断されるように設けられていることが好適である。
【0015】
これによれば、前記相対的変位量が所定範囲にあるときには、前記シリンダ内の一対の気室が前記気体流通路を構成する溝を介して連通することとなるため、両気室間で気体が流通することとなる。従って、前記ピストンが前記一対のリンク部材間の相対的変位運動に伴い摺動しても、両気室の気体は圧縮または膨張することがなく、その結果、ばね手段が補助駆動力を発生しない状態となる。そして、前記相対的変位量が所定範囲を逸脱しているときには、両気室間での気体の流通ができない状態となるため、少なくとも一方の気室(ばね用気体充填室)の気体が圧縮または膨張し、その結果、ばね手段が補助駆動力を発生する状態となる。この場合、気体流通路を構成する溝はシリンダの内周面に形成されているので、ばね手段の構成を効果的に小型に構成することができる。
【0016】
また、本発明では、前記脚式移動ロボットが、前記リンク部材としての大腿部、下腿部および足平部を前記上体側から股関節、膝関節および足首関節を介して順番に連接してなる脚体を2本備えた2足移動ロボットであると共に、前記特定関節が、前記一対のリンク部材としての大腿部および下腿部を屈伸自在に連結する膝関節であるときには、前記一対のリンク部材間の相対的変位量の所定範囲は、前記膝関節における大腿部および下腿部の間の前記相対的変位量としての曲げ度合いが所定量以下となる範囲であることが好ましい。
【0017】
すなわち、2足移動ロボットでは、その直立停止時の両脚体や、該ロボットの移動時に離床しようとする直前の脚体のように、膝関節における曲げ度合いが小さなものとなる状態(脚体がほぼ伸びた状態)では、一般に各脚体の膝関節に発生させるべき駆動力(トルク)は、比較的小さいか、もしくは0に近いものとなる。従って、ばね手段の補助駆動力が発生しないようにする前記所定範囲を、膝関節における曲げ度合いが所定量以下となる範囲(脚体がほぼ伸びた状態となる膝関節の曲げ度合いの範囲)とすることで、該所定量以下の曲げ度合いにおいて、膝関節の関節アクチュエータにばね手段の補助駆動力を打ち消すような駆動力を発生させなければならないような事態を回避できる。その結果、ロボットの余分なエネルギー消費を抑えることができる。
【0018】
なお、上記2足移動ロボットでは、ばね手段の補助駆動力は、膝関節における曲げ度合いが前記所定量と、該所定量よりも高い、ある第2の所定量との間の範囲にあるときには、該曲げ度合いの増加に伴いばね手段の補助駆動力が増加し、該第2の所定量を超える曲げ度合いの範囲では、該第2の所定量の曲げ度合いにおける補助駆動力よりも小さいか、もしくは、その補助駆動力とほぼ同等の補助駆動力になるように設定されていることが望ましい。そして、この場合、上記第2の所定量は、2足移動ロボットを略平坦な床上を一定の歩容形態で移動させる際の各脚体の着床状態での最大の曲げ度合い(膝関節における曲げ度合い)の近傍の曲げ度合いであることが好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の第1実施形態を図1〜図7を参照して説明する。図1は本実施形態における脚式移動ロボットとしての2足移動ロボットの構成を模式化して示した図である。同図示のように、ロボット1はその基体である上体2から下方に延設された2本の脚体3,3を備えている。なお、これらの脚体3,3は後述のアシスト装置を含めて同一構造であるため、一方の脚体3(図ではロボット1の前方に向かって右側の脚体3)については、その一部のみを図示している。
【0020】
各脚体3は、人間の脚と同様、大腿部4、下腿部5および足平部6を上体2から股関節7、膝関節8、足首関節9を介して順次連接して構成されている。より詳しく言えば、各脚体3の大腿部4は、上体2から股関節7を介して延設され、下腿部5は膝関節8を介して大腿部4に連接され、足平部6は足首関節9を介して下腿部5に連接されている。なお、大腿部4、下腿部5および足平部6はそれぞれ本発明におけるリンク部材に相当するものである。
【0021】
この場合、股関節7は、ロボット1の前後、左右、上下方向の3軸回りの回転動作が可能とされ、膝関節8は、左右方向の1軸回りの回転動作が可能とされ、足首関節9は、前後、左右方向の2軸回りの回転動作が可能とされている。これらの各関節7,8,9の回転動作により、各脚体3は人間の脚とほぼ同様の運動が可能となっている。そして、膝関節8の左右方向の1軸回りの回転動作を行なうための関節アクチュエータとしての電動モータ10(以下、膝関節電動モータ10という)が各脚体3に設けられていると共に、膝関節8に補助駆動力(膝関節電動モータ10の回転駆動力と並列に膝関節8に作用する補助的な回転力)を付与するためのアシスト装置11が各脚体3に設けられている。また、図示は省略するが、股関節7には、その3軸回りの回転動作を行なうための3個の電動モータが設けられ、足首関節9には、その2軸回りの回転動作を行なうための2個の電動モータが設けられている。
【0022】
なお、本実施形態では、各足平部6に作用する床反力(ロボット1の前後、左右、上下の3軸方向の並進力および3軸回りのモーメントを検出するために、各足平部6は6軸力センサ12を介して足首関節9に連接されている。また、各関節7,8,9には、その回転位置(あるいは各関節7〜9を駆動する電動モータの回転角)を検出するためのエンコーダ(図示しない)が備えられている。
【0023】
本実施形態では、前記膝関節8は本発明における特定関節に相当するものであり、前記アシスト装置11を含めて膝関節8の駆動機構を図2を参照してさらに説明する。図2は、膝関節8の駆動機構の構成を示す図である。
【0024】
同図示のように、下腿部5は、その上端部が大腿部4の下端部に、ロボット1の左右方向(図2の紙面に垂直な方向)の軸心を有する支軸13を介して回転自在に支持されている。前記膝関節電動モータ10は、その軸心をロボット1の左右方向(支軸13の軸心方向)に向けて大腿部4の上部に取り付けられており、そのロータ(図示せず)と一体に回転自在に設けられた回転片14が、大腿部4の前面沿いにほぼ上下方向に延在して設けられた連結ロッド15を介して下腿部5の上端部前部(支軸13よりも前側の部分)に連結されている。連結ロッド15は、その上端部が回転片14に回転自在に軸支されると共に、下端部が下腿部5の上端部前部に回転自在に軸支されている。
【0025】
図2に示す状態は、脚体3を伸ばした状態であり、この状態から膝関節電動モータ10により図中の矢印Y1の方向に回転片14を回転させると、その回転力が連結ロッド15を介して下腿部5に伝達され、下腿部5が支軸13の回りに矢印Y2の向きに回転する。これにより、膝関節8における脚体3の屈曲運動(曲げ動作)が行なわれるようになっている。また、脚体3の屈曲状態から、膝関節電動モータ10により回転片14を矢印Y1と逆方向に回転させれば、下腿部5が支軸13の回りに矢印Y2と逆向きに回転し、これにより膝関節8における脚体3の伸長運動(伸ばし動作)が行なわれることとなる。このように膝関節電動モータ10のロータの回転が回転片14および連結ロッド15を介して下腿部5に伝達され、それにより、大腿部4と下腿部5との間の膝関節8における相対的変位運動としての屈伸運動(以下、膝屈伸運動という)が行なわれる。
【0026】
前記アシスト装置11は、シリンダ構造の気体ばねであるばね手段21と、このばね手段21に膝屈伸運動を伝達する運動伝達手段22とを備えるものである。ばね手段21は、大腿部4の背面部に斜め上下方向に延在して装着されたシリンダ(外筒)23と、該シリンダ23内にその軸心方向に摺動自在に収容されたピストン24と、このピストン24の両側(上下)でシリンダ23内に形成された一対の気室25,26とを備えている。そして、本実施形態では、両気室25,26をばね用気体充填室とし、これらの両気室25,26に加圧された空気などの気体が充填されている。
【0027】
シリンダ23は、下端が開口した有底筒状のものであり、その下端(開口端)に装着されたキャップ部材27により閉蓋されている。このシリンダ23の内周面の下部には、その周方向に間隔を存して、シリンダ23の軸心方向に延在する複数の溝28が形成されている。これらの溝28は、本発明における気体流通路に相当し、ピストン24が図2の実線で示す如く、各溝28の両端の間の位置に在るときには、各溝28の上端および下端がそれぞれ気室25,26に連通し、ひいては、それらの溝28を介して両気室25,26が互いに連通するようになっている(以下、この状態を気室連通状態という)。そして、ピストン24が図2の仮想線で示す如く、各溝28の上端よりも上方に移動した状態では、各溝28の両端が上側の気室25からピストン24により遮断されるようになっている。この状態では、気室25,26はピストン24により互いに隔離され、それぞれの気室25,26が密封される(以下、この状態を気室密封状態という)。なお、シリンダ23には、気室25,26に加圧気体を導入するための気体導入孔29が設けられており、この気体導入孔29は、常時は閉蓋部材30により閉じられている。また、シリンダ23は、その軸心が膝関節8の回転軸(支軸13の軸心)と交差するような位置に設けられている。
【0028】
このように構成されたばね手段21では、ピストン24の摺動に応じて気室25,26の体積が変化する。そして、このとき、前記気室連通状態では、両気室25,26間で複数の溝28を介して気体が相互に流通することで、両気室25,26内の気体の圧力は、互いにほぼ等しい一定圧に維持される。このため、この気室連通状態では、両気室25,26内の気体の圧縮または膨張が阻止され、該気体は弾性力を発生しない。
【0029】
一方、前記気室密封状態では、ピストン24の摺動に伴う気室25,26の体積変化によって、各気室25,26の気体の圧縮または膨張が生じ、それによって、該気体が弾性エネルギーを蓄積して弾性力を発生する。この場合、両気室25,26の一方の気体が圧縮されると、他方の気体が膨張するので、各気室25,26の気体の弾性力がピストン24に作用することとなる。補足すると、本実施形態のばね手段21では、気室25に対しては、気室26が外部となり、気室26に対しては、気室25が外部となる。
【0030】
前記運動伝達手段22は、膝屈伸運動を直動運動に変換してばね手段21のピストン24に伝達するものであり、ピストン24から下側の気室26およびキャップ部材27を貫通して膝関節8に向かって延設されたピストンロッド31と、このピストンロッド31の先端部(下端部)を下腿部5の上端部後部(支軸13よりも後方側の部分)に連結するリンクアーム32とを備えている。リンクアーム32は、その一端部がピストンロッド31の先端部に回転自在に軸支され、他端部が下腿部5の上端部後部に回転自在に軸支されている。
【0031】
このように構成された運動伝達手段22によれば、膝屈伸運動(支軸13の回りの下腿部5の回転運動)に応じてピストン24がピストンロッド31と共にシリンダ23の軸心方向で移動することとなる。この場合、脚体3を図2の如く伸ばした状態から、該脚体3を膝関節8で屈曲させていくと(下腿部5を支軸13の回りに矢印Y2の向きに回転させると)、ピストン24はシリンダ23内を上動する。そして、ピストン24が前記複数の溝28の上端を通過するまでは、前記した如く、ばね手段21は弾性力を発生しないが、ピストン24が複数の溝28の上端を通過すると、上側の気室25の気体が圧縮されていくと共に、下側の気室26の気体が膨張していき、ばね手段21が弾性力を発生するようになる。その弾性力は、ピストン24を下方に押し下げる方向に作用し、それが、ピストンロッド31およびリンクアーム32を介して下腿部5に、支軸13の回りの補助駆動力(補助的な回転力。以下、膝回転補助力という)として作用する。
【0032】
ここで、脚体3の膝屈伸運動に伴うピストン24の運動と、前記膝回転補助力の変化の特性とについて説明する。本実施形態のアシスト装置11では、膝屈伸運動の際にピストン24の移動位置が図3(a),(b),(c)に示すように変化する。また、このとき、ばね手段21による膝回転補助力は、各脚体3の大腿部4および下腿部5間の屈曲角度である膝曲げ角θに対して図4に示すように変化する。図3(a)〜(c)は、脚体3の膝関節8における曲げ動作とピストン24の移動位置との関係を示す図であり、図4は膝曲げ角θに対するばね手段21の膝回転補助力の変化特性を示すグラフである。
【0033】
なお、図3(a)〜(c)では、ばね手段21や下腿部5を簡略化して示すと共に、大腿部4を簡略的に仮想線で示している。また、膝曲げ角θは、図1に示すように、大腿部4の軸心に対して下腿部5の軸心がなす角度として定義されたものである。従って、大腿部4および下腿部5のそれぞれの軸心が同方向に延在するように脚体3を伸ばした状態(図3(a)の状態)がθ=0の状態であり、膝関節8における脚体3の曲げ度合いが大きくなるに伴い、膝曲げ角θは増加する。また、図4では、膝回転補助力は、膝関節8における脚体3の曲げ方向の回転力を正の値とし、脚体3の伸ばし方向の回転力を負の値としている。
【0034】
ここで、ピストン24の運動と、ばね手段21の膝回転補助力の特性とについてさらに説明する前に、本実施形態でロボット1に行わせる移動形態に関して図5(a),(b)を参照して説明しておく。本実施形態では、平地(平坦な床)における人間の通常的な走行の場合と同じような足運びの形態(以下、人間の通常走行歩容形態という)で、ロボット1の走行動作を行わせるようにしている。そして、この走行動作を行わせる場合、各脚体3の膝曲げ角θの目標値(これはロボット1の後述する目標歩容により定まる。以下、目標膝曲げ角という)と、この目標膝曲げ角に対応して該脚体3の膝関節8の支軸13の回り発生させる必要のある回転力(以下、必要膝回転力という)とは、それぞれ例えば図5(a)、図5(b)のグラフで示すような経時的変化を呈する。なお、図5(c),(d)のグラフについては後述する。
【0035】
すなわち、人間の通常走行歩容形態と同様の歩容形態でロボット1を平坦な床上で走行させる場合、図5(a)に示すように、脚体3の足平部6が着床状態となる支持脚期の前半では目標膝曲げ角は増加する(膝関節8における脚体3の曲げ度合いが大きくなる)。そして、支持脚期の後半では、該支持脚期の終了直前まで目標膝曲げ角は減少する(膝関節8における脚体3の曲げ度合いが小さくなる)。さらに、支持脚期の終了直前から、遊脚期(脚体3の足平部6が離床状態となる期間)の前半にかけて、目標膝曲げ角は増加していき、その後、遊脚期の後半では、遊脚期の終了直前まで、目標膝曲げ角は減少していく。また、遊脚期の終了直前では、目標膝曲げ角は若干増加する。従って、ロボット1の走行動作時の目標膝曲げ角は、支持脚期の中間時点と、遊脚期の中間時点とにおいてそれぞれ極大値θsupmax,θswgmaxを採り、また、支持脚期の終了直前、及び遊脚期の終了直前において極小値を採る。
【0036】
尚、以下の説明においては、各脚体3の支持脚期及び遊脚期における目標膝曲げ角の極大値θsupmax,θswgmaxをそれぞれ支持脚期最大膝曲げ角θsupmax、遊脚期最大膝曲げ角θswgmaxと称する。人間の通常走行歩容形態と同様の歩容形態でのロボット1の走行動作では、一般に、前記支持脚期最大膝曲げ角θsupmaxは、概ね40〜60度の範囲内の角度が好適である。また、前記遊脚期最大膝曲げ角θswgmaxは、支持脚期最大膝曲げ角θsupmaxよりも大きく、例えば該支持脚期最大膝曲げ角θsupmaxの概ね2倍程度の角度である。
【0037】
前記必要膝回転力(脚体3の曲げ方向の回転力を正の値、伸ばし方向の回転力を負の値とする)は、図5(b)に示すように、支持脚期の前半(概ね目標膝曲げ角が増加する期間)では、正の回転力から負の回転力に大きく減少する(脚体3の伸ばし方向に必要膝回転力が大きく増加する)。そして、支持脚期の後半では、該支持脚期の終了直前まで(概ね目標膝曲げ角が減少する期間)、必要膝回転力の絶対値が減少し(脚体3の伸ばし方向の必要膝回転力が減少する)、該支持脚期の終了直前でほぼ「0」の回転力になる。さらに、支持脚期の終了直前から遊脚期の前半にかけては、必要膝回転力は、若干負の値に緩やかに減少し、その後、遊脚期の後半では、必要膝回転力は、負の値から正の値に緩やかに増加していく。従って、ロボット1の走行動作時の必要膝回転力は、特に、支持脚期において、脚体3の伸ばし方向に大きくなる。そして、この支持脚期における伸ばし方向の必要膝回転力は、概ね、目標膝曲げ角の増加に伴って増加すると共に、目標膝曲げ角の減少に伴って減少し、目標膝曲げ角が前記支持脚期最大膝曲げ角θsupmaxに達する時点とほぼ同時に最大(極大)となる。また、走行動作時の全期間にわたって、目標膝曲げ角が比較的小さい時期、例えば目標膝曲げ角が図5(a)のθoff以下となる時期では、必要膝回転補助力は、脚体3の曲げ方向に比較的小さな値となるか、もしくは、0に近い値になる。
【0038】
本実施形態では、ロボット1の走行動作時のこのような目標膝回転角及び必要膝回転力の経時的変化の特性を考慮し、前記アシスト装置11のピストン24の運動特性とばね手段21の膝回転補助力の特性とが次のように設定されている。すなわち、前記アシスト装置11では、脚体3を図3(a)に示すように伸ばした状態(θ=0の状態)から膝関節8における脚体3の曲げ動作(屈曲運動)を行ったとき、膝曲げ角θがあらかじめ定めた所定値θoff(図5(a)参照)まで増加したときに、図3(b)に示す如く、ばね手段21のピストン24が溝28の上端の位置に達するようになっている。別の言い方をすれば、膝曲げ角θが所定値θoff以下であるときには、気室25,26が互いに連通する前記気室連通状態となるように溝28が形成されている。このため、膝曲げ角θが所定値θoff以下であるときは気室連通状態であり、この気室連通状態では、前記した如く、ばね手段21は弾性力を発生しないようになっている。従って、図4に示す如く、膝曲げ角θが所定値θoff以下であるときには、ばね手段21による膝回転補助力は0である。
【0039】
そして、膝曲げ角θが所定値θoff(以下、補助力解除膝曲げ角θoffという)を超えて増加すると、図3(c)に示す如く、ピストン24が溝28の上側に移動して前記気室密封状態となる。そして、この気室密封状態では、膝曲げ角θの増加に伴いピストン24はシリンダ23内を上動し、上側の気室25の気体が圧縮されると共に、下側の気室26の気体が膨張し、それらの気体の圧力差によって、ピストン24に、それを下方に押し下げる方向の弾性力が付与される。この場合、その弾性力自体は膝曲げ角θの増加(ピストン24の上動)に伴い増加していくものの、運動伝達手段22のリンクアーム32が揺動することで、膝関節8の支軸13の回りに下腿部5に作用する膝回転補助力は、図4に示す如く、膝曲げ角θがある角度θa(>θoff)に達するまでは、膝曲げ角θの増加に伴い脚体3の伸ばし方向に増加し、膝曲げ角θが角度θaを超えると、膝曲げ角θの増加に伴い脚体3の伸ばし方向で減少していくようになっている。この場合、θaは、前記支持脚期最大膝曲げ角θsupmaxよりも若干大きい角度である。別の言い方をすれば、θoffを超える膝曲げ角θでは、膝曲げ角θの変化に対する膝回転補助力が脚体3の伸ばし方向に凸の特性を持ち、その伸ばし方向の膝回転補助力が支持脚期最大膝曲げ角θsupmaxよりも若干大きい角度θa(以下、補助力最大膝曲げ角θaという)で極大値を採るように、前記ピストンロッド31およびリンクアーム32の長さや位置関係が設定されている。
【0040】
図1の説明に戻って、ロボット1の上体2には、各脚体3の各関節7,8,9の動作制御などを行なう制御ユニット40と、各関節7,8,9の電動モータなどの電源としての蓄電装置41と、上体2の姿勢(鉛直方向に対する傾斜角や鉛直方向の軸回りの回転角)を検出する姿勢センサ42と、各電動モータの通電を制御するためのモータドライバ回路43とが搭載されている。姿勢センサ42は、ジャイロセンサ、加速度センサ等から構成されたものである。また、蓄電装置41は、バッテリ(二次電池)やコンデンサなどから構成されたものである。
【0041】
制御ユニット40は、マイクロコンピュータなどを含む電子回路により構成されたものであり、図6のブロック図に示すように、その主な機能的構成として、歩容生成器51およびモータ制御器52を備えている。
【0042】
歩容生成器51は、ロボット1の目標歩容を規定する歩容パラメータ(歩幅、歩容周期、運動モードなど)を外部からの指令、あるいはあらかじめ設定されたティーチングデータ(移動計画データ)などに応じてロボット1の移動時の1歩毎(支持脚が切り替る毎)に決定し、さらにこれを基に所定の制御サイクル毎の目標歩容(瞬時目標歩容)を逐次生成するものである。ここで、本実施形態で歩容生成器30が生成する歩容パラメータは、ロボット1に通常的な歩行動作を行なわせるための目標歩容や、人間の通常走行歩容形態と同様の歩容形態でロボット1の走行動作を行わせるための目標歩容などを規定するパラメータである。そして、該目標歩容は、例えばロボット1の上体2の位置及び姿勢の目標値(以下、目標上体位置姿勢という)と、ロボット1の各足平部6の位置及び姿勢の目標値(以下、目標足平位置姿勢という)と、両足平部6,6にそれぞれ作用する床反力(並進力及びモーメント)の合力(全床反力)の目標値(以下、目標全床反力という)と、該全床反力の作用点としてのZMP(Zero Moment Point)の目標位置(以下、目標ZMPという)とから構成されるものである。なお、上記目標歩容の構成要素のより具体的な内容については、例えば本願出願人が特開平11−300660号公報にて詳細に説明している通りであるので、ここでは詳細な説明を省略する。また、目標歩容の内容は、必ずしも上記公報に開示されているものに限られるものではなく、基本的には、ロボット1の目標とする運動形態を表現できるものであればよい。
【0043】
モータ制御器52は、前記膝関節電動モータ10を含めて、各関節7,8,9の電動モータを逐次制御する(詳しくは該電動モータの回転角を逐次制御する)ものである。このモータ制御器52は、歩容生成器51により生成された目標歩容や、前記姿勢センサ42により検出される上体2の実傾斜角(鉛直方向に対する実際の傾斜角)、図示しないエンコーダを用いて検出される脚体3の各関節7,8,9の実回転角、前記6軸力センサ11により検出される各足平部6の実床反力のデータ等に基づいて、後述するように、各電動モータに発生させるべきトルクを規定するトルク指令(具体的には電動モータの通電電流の指令値)を逐次生成する。そして、該モータ制御器52は、生成したトルク指令をモータドライバ回路43に出力し、該モータドライバ回路43を介してトルク指令に応じたトルクを各電動モータに発生させる。
【0044】
次に、本実施形態のシステムの作動を図7のフローチャートを参照して説明する。前記制御ユニット40は、時刻計時を行なうタイマの初期化等の所定の初期化処理を行った後、あらかじめ定められた所定の制御サイクル(例えば50ms)毎に、図7のフローチャートの処理を実行する。すなわち、制御ユニット40は、まず、ロボット1の歩容の切替わりタイミングであるか否かを判断する(STEP1)。ここで、歩容の切替わりタイミングは、詳しくは、ロボット1の移動時の支持脚が一方の脚体3から他方の脚体3に切替わるタイミングである。そして、STEP1で歩容の切替わりタイミングでない場合には、制御ユニット40の処理は後述のSTEP3の処理に進む。
【0045】
また、STEP1で歩容の切替わりタイミングである場合には、制御ユニット40は、外部から与えられるロボット1の動作指令や、あらかじめ設定された移動計画データに基づいて、ロボット1の目標歩容を規定する歩容パラメータを前記歩容生成器51により生成(更新)する(STEP2)。ここで、該歩容生成器51が生成する歩容パラメータにより規定される目標歩容は、例えば次回の歩容の切替わりタイミング、もしくは、それよりも若干先のタイミングまでの目標歩容である。また、この場合、例えばロボット1の走行動作を行うべき旨の動作指令が外部から与えられている場合や、ロボット1の移動計画データによってロボット1の走行動作を行うべき状況である場合には、歩容生成器51が生成する歩容パラメータにより規定される目標歩容は、ロボット1の走行動作の目標歩容(前記通常走行歩容形態と同様の形態でロボット1の走行動作を行なうための目標歩容)である。この場合の目標歩容に応じて定まる目標膝曲げ角が前記図5(a)に示したような経時的変化を呈するものとなる。
【0046】
次いで、制御ユニット40は、STEP3〜5の処理をモータ制御器52により実行する。このSTEP3〜5の処理は、ばね手段21の膝回転補助力が膝関節8に作用しないとした場合に、前記目標歩容にロボット1の運動を追従させるために要する各関節7〜9の電動モータのトルク指令(以下、基本トルク指令という)を求めるための処理である。尚、このSTEP3〜5の処理は、既に本願出願人が特開平11−300660号公報にて詳細に説明しているので、以下にSTEP3〜5の処理の概要を説明する。
【0047】
STEP3では、制御ユニット40は、歩容生成器51により現在生成されている歩容パラメータに基づいて瞬時目標歩容を求める。この瞬時目標歩容は、制御ユニット40の処理の制御サイクル毎の目標歩容である。該瞬時目標歩容は、先にも述べたように、制御サイクル毎の、目標上体位置姿勢、目標足平位置姿勢、目標全床反力、目標ZMPとから成る。尚、STEP3の処理では、さらに、上記目標足平位置姿勢、目標全床反力、目標ZMP等に基づいて、制御サイクル毎の各脚体3の目標床反力及びその目標床反力の作用点も求められる。
【0048】
STEP4では、制御ユニット40は、複合コンプライアンス動作処理により、上記瞬時目標歩容のうちの目標足平位置姿勢を修正する。この複合コンプライアンス動作処理では、より詳しくは、ロボット1の上体2の実傾斜角(これは前記姿勢センサ42により検出される)を、前記目標上体位置姿勢により定まる目標傾斜角に復元させる(上体2の実傾斜角と目標傾斜角との偏差を「0」に収束させる)ためにロボット1に作用させるべき床反力(モーメント)が求められる。そして、この床反力(モーメント)と上記目標全床反力との合力を、ロボット1に実際に作用させるべきトータルの床反力の目標値とし、この目標値に、各足平部6の6軸力センサ12により検出される各足平部6の実床反力の合力を追従させるように、制御サイクル毎の目標足平位置姿勢が修正される。このような複合コンプライアンス動作処理は、ロボット1の姿勢の自律的な安定性を確保するためのものである。
【0049】
そして、STEP5では、制御ユニット40は、ロボット1の各脚体3の関節7〜9の各電動モータに対する基本トルク指令を求める。この処理では、より具体的には、瞬時目標歩容における目標上体位置姿勢、上述のようにSTEP4で修正された目標足平位置姿勢等から、ロボット1のモデル(剛体リンクモデル)に基づく逆キネマティクス演算処理によって、ロボット1の各脚体3の各関節7〜9の目標回転角が求められる。そして、この目標回転角に、各関節7〜9の実回転角(これは、各関節7〜9に備えた図示しないエンコーダにより検出される)を追従させるように、各関節7〜9の電動モータの基本トルク指令が求められる。
【0050】
この場合、例えば各脚体3の膝関節電動モータ10の基本トルク指令(これは前記必要膝回転力に対応する)は、膝関節8の目標膝曲げ角と該膝関節8の実際の膝曲げ角θ(膝曲げ角θの検出値)との偏差Δθと、該脚体3に対する前記目標床反力を発生させるために必要な膝関節電動モータ10のトルクTff(以下、基準トルクTffという)とから、次式(1)により求められる。
【0051】

基本トルク指令=Kp・Δθ+Kv・(dΔθ/dt)+Tff ……(1)

尚、式(1)の演算に用いる基準トルクTffは、目標上体位置姿勢、目標足平位置姿勢、脚体3に対する目標床反力や、各関節7,8,9の目標回転角加速度等から、ロボット1のモデルに基づく逆動力学演算処理によって求められる。また、式(1)中のKp、Kvは、あらかじめ定められたゲイン係数であり、dΔθ/dtは、偏差Δθの時間微分値である。
【0052】
ここで、式(1)の右辺第1項及び第2項は、上記偏差Δθに応じたフィードバック制御項であり、右辺第3項は、脚体3に作用する床反力の影響を補償するためのフィードフォワード制御項である。そして、特に、右辺第2項は、膝曲げ角θの目標値に対する振動を速やかに減衰させる緩衝機能(ダンピング機能)を有する項である。
【0053】
膝関節8以外の他の関節7,9の各電動モータについても上記と同様に基本トルク指令が求められる。このようにして求められる基本トルク指令は、先にも説明したように、アシスト装置11のばね手段21による膝回転補助力が膝関節8に作用しないとした場合に、前記目標歩容にロボット1の運動を追従させるために要する各関節7〜9の電動モータのトルク指令である。
【0054】
制御ユニット40は、次に、アシスト装置11のばね手段21による膝回転補助力(詳しくは制御サイクル毎の膝回転補助力)を推定する(STEP6)。この膝回転補助力の推定値は、モータ制御器52が、膝関節電動モータ10に対する最終的なトルク指令を決定するために用いるものであり、本実施形態では、例えば該モータ制御器52により次のように求められる。すなわち、前記図4に示したばね手段21の膝回転補助力の膝曲げ角θに対する特性を表すデータがあらかじめデータテーブルあるいはその特性の近似式として図示しないメモリに記憶保持されている。そして、モータ制御器52は、現在の膝曲げ角θの検出値(あるいは目標値)から上記データテーブルあるいは近似式に基づいて膝回転補助力を推定する。尚、膝回転補助力は、力センサ等を用いて直接的に検出するようにすることも可能である。
【0055】
次いで、制御ユニット40は、モータ制御器52により、脚体3の各関節7〜9の電動モータの制御サイクル毎の最終的なトルク指令としての最終トルク指令を決定する(STEP7)。この場合、膝関節電動モータ10に対する最終トルク指令は、前記STEP5で式(1)により求めた基本トルク指令(膝回転補助力が「0」であると仮定した場合に目標歩容に応じて膝関節8に発生させるべきトルクの指令値)から、前記STEP6で求めた膝回転補助力を減算することで、膝関節電動モータ10に対する最終トルク指令を決定する。すなわち、膝関節電動モータ10に対する最終トルク指令(膝関節電動モータ10に実際に発生させるべきトルクの指令値)と膝回転補助力との和が基本トルク指令となるように膝関節電動モータ10に対する最終トルク指令を生成する。尚、膝関節8以外の関節7,9の電動モータに対する最終トルク指令は、前記基本トルク指令がそのまま用いられる。
【0056】
次いで、制御ユニット40は、上述のように決定した最終トルク指令をモータドライバ回路43に出力し(STEP8)、これにより制御サイクル毎の処理を終了する。この最終トルク指令の出力に応じて、各関節7〜9の電動モータに通電され、該電動モータの回転角、すなわち、各関節7〜9の回転角が前記目標上体位置姿勢や目標足平位置姿勢(前記複合コンプライアンス動作処理による修正を施したもの)により定まる所要の回転角に追従するように制御される。従って、歩容パラメータにより規定される目標歩容に従って、ロボット1の移動が行われる。
【0057】
かかる本実施形態のシステムでは、ロボット1の走行動作時の各脚体3の支持脚期において、膝曲げ角θが補助力解除膝曲げ角θoffを超えて増加する期間(図5の時刻T1から膝曲げ角θが支持脚期最大膝曲げ角θsupmaxに達する時刻までの期間)では、ばね手段21の膝回転補助力が図5(c)に示す如く、脚体3の伸ばし方向に増加する。なお、図5(c)は図5(a)の膝曲げ角の変化に対応して、ばね手段21により膝関節8に作用する膝回転補助力の経時変化を示すグラフである。そして、これに続いて膝曲げ角θが補助力解除膝曲げ角θoffまで減少する期間(膝曲げ角θが支持脚期最大膝曲げ角θsupmaxに達した時刻から図5の時刻T2までの期間)では、ばね手段21の膝回転補助力(脚体3の伸ばし方向の膝回転補助力)は図5(c)に示す如く減少する。従って、基本的には、必要膝回転力が脚体3の伸ばし方向に大きく増加する期間では、それに合わせてばね手段21の膝回転補助力が増加し、続いて、この脚体3の伸ばし方向の必要膝回転力が減少する期間では、それに合わせてばね手段21の膝回転補助力が減少する。つまり、各脚体3の支持脚期のうち、膝曲げ角θが補助力解除膝曲げ角θoffを超える期間では、脚体3の伸ばし方向の必要膝回転力の増減に追従するようにして、ばね手段21の膝回転補助力が増減することとなる。また、この場合、脚体3の伸ばし方向の必要膝回転力がほぼ最大となるタイミングにおいて、ばね手段21の膝回転補助力が極大となる。さらに、支持脚期のうち、膝曲げ角θが補助力解除膝曲げ角θoff以下となる期間では、ばね手段21が前記気室連通状態となって、膝回転補助力が自動的にほぼ0になるが、この期間では、必要膝回転補助力は、曲げ方向に比較的小さい値となるか、もしくは0に近い値になる。
【0058】
従って、各脚体3の支持脚期において、膝関節電動モータ10が発生する駆動力(トルク)は図5(d)に示す如く、比較的小さなもので済む(必要膝回転力よりも十分小さいトルクで済む)。なお、図5(d)は、図5(a)の膝曲げ角の変化に対応して、膝関節電動モータ10に発生させるトルクの経時変化を実線で示すと共に、必要膝回転力の経時変化(図5(b)のグラフと同じもの)を破線で併記したものである。
【0059】
また、各脚体3の遊脚期では、膝曲げ角θが補助力解除膝曲げ角θoffを超えて前記遊脚期最大膝曲げ角θswgmaxまで増加していく期間では、該膝曲げ角θが前記補助力最大膝曲げ角θa(図4参照)に達するまでは、図5(c)に示す如く、該膝曲げ角θの増加に伴いばね手段21の膝回転補助力が脚体3の伸ばし方向に増加するものの、上記補助力最大膝曲げ角θaを超えた膝曲げ角θでは、膝曲げ角θが前記遊脚期最大膝曲げ角θswgmaxまで増加していくに伴い、ばね手段21の膝回転補助力の大きさ(絶対値)は、図5(c)に示す如く補助力最大膝曲げ角θaにおける膝回転補助力から減少していく。続いて、膝曲げ角θが遊脚期最大膝曲げ角θswgmaxから補助力解除膝曲げ角θoffまで減少する期間では、膝曲げ角θが補助力最大膝曲げ角θaに達するまでは、図5(c)に示す如く、該膝曲げ角θの減少に伴いばね手段21の膝回転補助力の大きさ(絶対値)が増加するものの、補助力最大膝曲げ角θa以下の膝曲げ角θでは、膝曲げ角θが補助力解除膝曲げ角θoffまで減少していくに伴い、ばね手段21の膝回転補助力の大きさ(絶対値)は、図5(c)に示す如く補助力最大膝曲げ角θaにおける膝回転補助力から減少していく。従って、各脚体3の遊脚期において、ばね手段21の膝回転補助力の大きさ(絶対値)は、補助力最大膝曲げ角θaにおける膝回転補助力よりも大きくなることはない。つまり、遊脚期における膝回転補助力は、最大でも、支持脚期における膝回転補助力と同程度に収まる。なお、遊脚期の終了直前で膝曲げ角θが補助力解除膝曲げ角θoff以下となる期間では、ばね手段21の膝回転補助力が自動的にほぼ0になるが、この期間では、必要膝回転補助力は、曲げ方向に比較的小さい値となる。
【0060】
このため、遊脚期においても膝関節電動モータ10に発生させる駆動力(トルク)が過剰に大きなものとなることはなく、該駆動力は比較的小さなもので済む。
【0061】
従って、ロボット1の走行動作時の各脚体3の支持脚期及び遊脚期を合わせた全期間において膝関節電動モータ10に発生させる駆動力は比較的小さなもので済む。このため、膝関節電動モータ10に大電流を通電しなければならないような状況がなく、ジュール熱等によるエネルギー損失が少ないものとなる。また、膝関節電動モータ10に発生させる駆動力の最大値が比較的小さくて済むため、該電動モータ10を小型に構成することができる。
【0062】
さらに、本実施形態では、補助力最大膝曲げ角θaを支持脚期最大膝曲げ角θsupmaxよりも若干大きくしているので、脚体3の支持脚期における膝曲げ角θの増減に対して、ばね手段21の膝回転補助力が単調的に(リニア状に)増減するため、前述の複合コンプライアンス動作処理によるロボット1の安定性を円滑に確保することができる。
【0063】
また、特に、膝曲げ角θが補助力解除膝曲げ角θoff以下で、必要膝回転補助力が0に近い状態(例えば図5の時刻T2〜T3の期間)において、自動的にばね手段21の膝回転補助力が0になるので、この膝回転補助力を打ち消すような駆動力を膝関節電動モータ10に発生させずに済み、膝関節電動モータ10の余分な電力消費を抑えることができる。
【0064】
また、ロボット1の走行動作以外においても、ロボット1を直立姿勢状態に維持する場合など、膝曲げ角θがさほど大きくならず(θが概ねθoff以下に維持される)、且つ、必要膝回転力がさほど大きくならないようなロボット1の歩容(運動形態)では、電力消費を伴うようなばね手段21の特別な制御を必要とすることなく、自動的にばね手段21の膝回転補助力をほぼ0にすることができるので、ロボット1の電力消費を抑制することができる。
【0065】
また、ロボット1の走行動作時において、膝曲げ角θが補助力解除膝曲げ角θoff以下に低下する毎に、溝28を介して機構的に気室25,26が連通して、互いにほぼ等しい圧力になるので、気室密封状態におけるピストン24とシリンダ23との間の隙間などから両気室25,26間の気体漏れが生じても、ばね手段21の膝回転補助力の、膝曲げ角θに対する特性変化(例えば膝回転補助力がある値となるときの膝曲げ角θの値が経時的に徐々にずれていくような変化)を抑えることができる。
【0066】
なお、以上説明した実施形態では、膝曲げ角θが小さいとき(θ≦θoffであるとき)にばね手段21の気室25,26を溝28を介して連通させるようにしたが、例えばシリンダ23の外部に配管した連通管などを介して連通させるようにしてもよい。但し、本実施形態の如く、溝28を形成することで、ばね手段21の小型化の点で有利である。
【0067】
また、前記実施形態では、両気室25,26をばね用気体充填室としたが、例えば上側の気室25のみをばね用気体充填室とし、下側の気室26を常時、大気側に開放しておくようにしてもよい。この場合には、膝曲げ角θが補助力解除膝曲げ角θoffを超えたときに、気室25の気体のみにより、ばね手段21が弾性力を発生することとなる。この場合、シリンダ23の内周面に溝28を形成せずに、溝28の上端に対応する箇所で、シリンダ23に大気側と連通する孔を穿設しておくだけでもよい。但し、ばね手段21の構成を小型化しつつ、ばね手段21で発生可能な膝回転補助力をできるだけ大きくする上では、前記実施形態の如く、両気室25,26をばね用気体充填室として使用することが好ましい。
【0068】
また、前記実施形態では、ばね手段21を大腿部4側に装着したが、下腿部5側に装着するようにしてもよい。
【0069】
また、前記実施形態では、運動伝達手段22をリンクアーム32を用いて構成したが、例えば前記特開2003−145477号公報の図10に見られる如く、下腿部と共に膝関節の支軸の回りに回転するように設けたカムを用いて膝屈伸運動をばね手段21のピストン24に伝達するようにしてもよい。
【0070】
また、前記実施形態では、本発明を2足移動ロボットに適用した場合を例に採って説明したが、本発明は、2本以上の脚体を備えるロボットについても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施形態のアシスト装置を含む脚式移動ロボット(2足移動ロボット)の概略構成を模式化して示す図。
【図2】図1のロボットの膝関節の駆動機構に係わる構成を示す図。
【図3】図3(a)〜(c)は図1のロボットに備えたアシスト装置のばね手段のピストンの運動と膝関節における脚体の屈伸運動との関係を説明するための図。
【図4】図1のロボットに備えたアシスト装置のばね手段が発生する補助力と膝関節の曲げ角との関係を示すグラフ。
【図5】図5(a)は、図1のロボットの走行動作時における脚体の膝関節の曲げ角の経時的変化を例示するグラフ、図5(b)は、膝関節の必要回転力の経時的変化を例示するグラフ、図5(c)は実施形態のアシスト装置で発生する膝関節の補助駆動力の経時的変化を例示するグラフ、図5(d)は、実施形態で膝関節の電動モータに発生させるトルクの経時的変化を実線で例示するグラフ。
【図6】図1のロボットに備えた制御ユニットの機能的構成を示すブロック図。
【図7】図6の制御ユニットの処理を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0072】
1…脚式移動ロボット(2足移動ロボット)、2…上体、3…脚体、4…大腿部(リンク部材)、5…下腿部(リンク部材)、6…足平部(リンク部材)、7…股関節、8…膝関節(特定関節)、9…足首関節、10…電動モータ(関節アクチュエータ)、11…アシスト装置、21…ばね手段、23…シリンダ、24…ピストン、25,26…気室(ばね用気体充填室)、28…溝(気体流通路)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上体から複数のリンク部材を複数の関節を介して連接してなる脚体を複数備えた脚式移動ロボットにおいて、各脚体の複数の関節のうちの少なくとも1つの関節を特定関節としし、該特定関節を駆動する関節アクチュエータの駆動力と併せて該特定関節に作用する補助駆動力を、該特定関節により連結された一対のリンク部材間の相対的変位運動に応じて蓄積する弾性エネルギーにより発生するばね手段を備えると共に、該ばね手段が、シリンダと、前記一対のリンク部材間の相対的変位運動に応じて該シリンダ内を摺動自在に設けられたピストンと、該シリンダ内でピストンの両側に形成され、該ピストンの摺動に伴い体積が変化する一対の気室と、該一対の気室のうちの少なくとも一方の気室をばね用気体充填室とし、該ばね用気体充填室に充填された気体とを備えて、前記ピストンの摺動に伴う該ばね用気体充填室の気体の圧縮又は膨張により前記補助駆動力を弾性的に発生する手段である脚体関節アシスト装置であって、
前記一対のリンク部材間の相対的変位量があらかじめ定めた所定範囲にあるときに、前記ばね用気体充填室に連通すると共に、該相対的変位量が前記所定範囲から逸脱しているときには前記ピストンにより前記ばね用気体充填室から遮断されるように前記ばね手段に設けられた気体流通路を備え、前記一対のリンク部材間の相対的変位量が前記所定範囲にあるときに、該一対のリンク部材間の相対的変位運動に伴う前記ピストンの摺動に応じて該ばね用気体充填室と外部との間で前記気体流通路を介して流通させることにより該ばね用気体充填室の気体の圧縮又は膨張を阻止するようにしたことを特徴とする脚式移動ロボットの脚体関節アシススト装置。
【請求項2】
前記気体流通路は、前記シリンダの内周面に形成された1つ以上の溝から構成され、各溝は、前記一対のリンク部材間の相対的変位量が前記所定範囲にあるときに、該溝の一端が前記一対の気室のうちの一方に連通し、且つ、該溝の他端が前記一対の気室のうちの他方に連通すると共に、前記一対のリンク部材間の相対的変位量が前記所定範囲から逸脱しているときには、各溝の両端が前記一対の気室のうちの少なくともいずれか一方の気室から前記ピストンにより遮断されるように設けられていることを特徴とする請求項1記載の脚式移動ロボットの脚体関節アシスト装置。
【請求項3】
前記脚式移動ロボットは、前記リンク部材としての大腿部、下腿部および足平部を前記上体側から股関節、膝関節および足首関節を介して順番に連接してなる脚体を2本備えた2足移動ロボットであると共に、前記特定関節は、前記一対のリンク部材としての大腿部および下腿部を屈伸自在に連結する膝関節であり、前記一対のリンク部材間の相対的変位量の所定範囲は、前記膝関節における大腿部および下腿部の間の前記相対的変位量としての曲げ度合いが所定量以下となる範囲であることを特徴とする請求項1または2記載の脚式移動ロボットの脚体関節アシスト装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−88258(P2006−88258A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−275385(P2004−275385)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】