説明

自動車の制動力制御システム

【課題】前輪及び後輪それぞれにおいて効果的に制動を行うことができる自動車の制動力制御システムを提供する。
【解決手段】自動車1は、前輪2Ftを駆動する前輪電動機3Ftと後輪2Rrを駆動する後輪電動機3Rrとを互いに独立に制御可能な制御装置10を備える。制御装置10は、制動に伴う荷重移動量を考慮して目標制動力Fcar(目標制動トルクτ*)を前輪2Ft及び後輪2Rrに分配し(ステップS16、S6)、かつ、前輪2Ft及び後輪2Rrのスリップ率が所定の閾値以下に維持されるように前輪2Ft及び後輪2Rrに分配した目標制動トルクτBf*、τBr*を補正し(ステップS24、S7)、補正した目標制動トルクτBf*、τBr*が得られるように前輪電動機3Ft、後輪電動機3Rrをそれぞれ独立に制御して制動力を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の制動力制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
前輪を駆動する電動機と後輪を駆動する電動機とを互いに独立に制御可能な電気自動車が知られている(特許文献1)。特許文献1の電気自動車では、走行状態に応じて前輪用の電動機及び後輪用の電動機が分担する推進力が調整される。
【0003】
制動時には、車体の荷重が後輪側から前輪側へ移動し、後輪の最大摩擦力あるいは運動摩擦力が小さくなり、後輪がロックしやすくなることから、後輪荷重の減少に応じて後輪の制動力を規制する自動車が知られている(特許文献2)。すなわち、いわゆるEBD(Electronic Brakeforce Distribution)制御を行う自動車が知られている。特許文献2のEBD制御では、検出した車体速度及び車輪速度から実際の後輪のスリップ率を算出し、そのスリップ率が所定の閾値よりも大きい場合には、後輪ブレーキの液圧を保圧して制動力の増大を防止する。
【0004】
また、特許文献2の自動車では、車輪のロックを防止するためのいわゆるABS(Antilock Brake System)制御も行っている。特許文献2のABS制御では、検出した車体速度及び車輪速度から実際のスリップ率を算出し、実際のスリップ率に基づいて路面摩擦係数を算出し、路面摩擦係数に基づいて目標スリップ率及び制御開始閾値を算出する。そして、実際のスリップ率が制御開始閾値よりも大きくなったときに、実際のスリップ率が目標スリップ率に収束するようにブレーキの液圧調整を開始する。
【0005】
特許文献2では、ABS制御によるブレーキの液圧の調整を行うとともに、車体減速度が所定以上になったときに、ABS制御によるブレーキの液圧の調整と、EBD制御によるブレーキの液圧の保圧とを交互に行うことにより、ABS制御とEBD制御とを併用している。
【0006】
この他、駆動源としてのモータによる回生ブレーキ(電気ブレーキ)と、機械ブレーキとを協調させる自動車(特許文献3)、スリップ率が閾値に達したときに駆動トルクを低減させることにより、発進時などにおけるスリップを低減する電気自動車(特許文献4)が知られている。
【特許文献1】特開平7−15804号公報
【特許文献2】特開2001−39282号公報
【特許文献3】特開2002−152904号公報
【特許文献4】特開2005−124287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車の車輪にかかる接地荷重や摩擦力は、左右の車輪間の相違が比較的小さいのに対し、前後の車輪間の相違が大きい。従って、前輪と後輪とで駆動系を別系統とすれば、前後の車輪間の接地荷重等の相違に応じて適切に自動車を駆動あるいは制動することができる。しかし、特許文献1では前後の2つの電動機により制動力を分担することについては開示されていない。
【0008】
前後輪それぞれにおいて効果的に制動が行われるためには、制動に伴う後輪側から前輪側への荷重移動を考慮した制動力の分配と、車輪のロックを防止するためのスリップ率の制御との双方が行われることが望ましい。特許文献2の技術は、ABS制御とEBD制御とを併用してはいるものの、通常のABS制御によるスリップ率の目標値への維持に加え、後輪のスリップ率が所定の閾値を超えないように後輪の制動力増大を規制するものであり、結局のところ、スリップ率の制御をABS制御とEBD制御とで重複的に行っているに過ぎず、EBD制御により前後輪への制動力を適切に分配しているわけではない。
【0009】
本発明は、前輪及び後輪それぞれにおいて効果的に制動を行うことができる自動車の制動力制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点の自動車の制動力制御システムは、前輪を駆動する前輪トルク発生源と後輪を駆動する後輪トルク発生源とが、互いに独立に制御可能な自動車の制動力制御システムであって、制動時に、発生する後輪から前輪への荷重移動量を推定し、推定された荷重移動量を基に前輪と後輪の制動手段で発生する制動力を決定する。
【0011】
本発明の第2の観点の自動車の制動力制御システムは、前輪を駆動する前輪トルク発生源と後輪を駆動する後輪トルク発生源とが、互いに独立に制御可能な自動車の制動力制御システムであって、車体速度と、前輪及び後輪速度とから、前輪及び後輪のスリップ率を推定し、推定された前輪及び後輪の各スリップ率を基に前輪と後輪の制動手段で発生する制動力を決定する。
【0012】
本発明の第3の観点の自動車の制動力制御システムは、前輪を駆動する前輪トルク発生源と後輪を駆動する後輪トルク発生源とが、互いに独立に制御可能な自動車の制動力制御システムであって、制動時に、発生する後輪から前輪への荷重移動量と、車体速度と前輪及び後輪速度とから推定される前輪及び後輪のスリップ率との双方を考慮して、前輪と後輪の制動手段で発生する制動力を決定する。
【0013】
好適には、前記制動手段は、前記前輪と後輪を駆動するための駆動トルク発生用の電動機を使用して制動力を得る電気ブレーキである。
【0014】
好適には、前記電気ブレーキにおける前記電動機は、「前輪の左右輪」「後輪の左右輪」のそれぞれを1台の電動機で駆動する構成の電動機、又は、前記前輪及び後輪の各左右輪を個別に駆動する構成のインホイール型電動機から制動力を得るようにする。
【0015】
好適には、前記制動手段は、摩擦制動を行う機械ブレーキである。
【0016】
好適には、トルク発生源は、電動機そのもの、電動機とエンジンとの組合せ、または、ガソリンエンジンである。
【0017】
本発明の第4の観点の自動車の制動力制御システムは、自動車の制動力制御システムであって、前記自動車の前輪の回転を制動する前輪制動手段と、前記自動車の後輪の回転を制動する後輪制動手段と、制動に伴う前記自動車の車体の前記後輪側から前記前輪側への荷重移動量が大きくなるほど前記後輪による制動力に対する前記前輪による制動力の比が大きくなるように、前記自動車の全体目標制動力を前記前輪及び前記後輪に分配して前輪目標制動力及び後輪目標制動力を算出する分配手段と、前記車体の検出速度並びに前記前輪及び前記後輪の検出回転速度に基づいて前記前輪及び前記後輪のスリップ率をそれぞれ算出するスリップ率算出手段と、前記スリップ率算出手段により算出される前記前輪のスリップ率が所定の前輪スリップ率閾値以下に維持されるように前記前輪目標制動力を補正し、前記スリップ率算出手段により算出される前記後輪のスリップ率が所定の後輪スリップ率閾値以下に維持されるように前記後輪目標制動力を補正する補正手段と、補正された前記前輪目標制動力に基づく制御指令を前記前輪制動手段に出力し、補正された前記後輪目標制動力に基づく制御指令を前記後輪制動手段に出力する制御手段と、を備える。
【0018】
好適には、前記制御手段は、前記自動車の駆動時において、前記スリップ率算出手段の算出する前記前輪のスリップ率が所定の前輪スリップ率閾値以下に維持されるように前記前輪を駆動する前輪駆動手段に制御指令を出力し、前記スリップ率算出手段の算出する前記後輪のスリップ率が所定の後輪スリップ率閾値以下に維持されるように前記後輪を駆動する後輪駆動手段に制御指令を出力する。
【0019】
好適には、操作部材に対するブレーキ操作の操作量に応じた信号を出力する操作量検出センサと、前記操作量検出センサからの信号に基づいて前記自動車の前記全体目標制動力を算出する全体目標制動力算出手段と、を備え、前記補正手段は、前記操作量検出センサにより検出される操作量の大小に関らず、前記補正動作を行う。
【0020】
好適には、前記分配手段は、前記全体目標制動力に応じた前記荷重移動量を算出し、その算出した前記荷重移動量を加味した前輪荷重及び後輪荷重の比率を分配比率として算出し、前記全体目標制動力を前記分配比率により前記前輪及び前記後輪に分配して前記前輪目標制動力及び前記後輪目標制動力を算出する。
【0021】
好適には、前記分配手段は、前記全体目標制動力と前記車体の重心高さとの積を、前記前輪と前記後輪との距離により除して前記荷重移動量を算出する。
【0022】
好適には、前記自動車が加速状態にあるときの前記前輪を駆動する前輪駆動手段及び前記後輪を駆動する後輪駆動手段の目標トルクを、前記自動車が前記加速状態にあるときの検出加速度と、前記前輪駆動手段及び前記後輪駆動手段をトルクフリーにして前記自動車が減速走行している状態における検出加速度との差により除して、前記車体質量を算出する車体質量算出手段と、前記車体質量算出手段の算出した前記車体の質量に所定の目標減速加速度を乗じて前記自動車の前記全体目標制動力を算出する全体目標制動力算出手段と、を備える。
【0023】
好適には、操作部材に対するブレーキ操作の操作量に応じた信号を出力する操作量検出センサと、前記操作量検出センサからの信号に基づいて前記全体目標制動力を算出する全体目標制動力算出手段と、を備え、前記全体目標制動力算出手段は、前記操作量が所定の操作閾値よりも大きいか否か判定し、前記操作量が前記操作閾値よりも大きいと判定した場合は、所定の最大目標制動力を前記全体目標制動力とし、前記操作量が前記操作閾値よりも大きくないと判定した場合は、前記車体の検出減速加速度が、前記最大目標制動力に対応する減速加速度よりも絶対値の小さい所定の加速度閾値よりも絶対値において小さく、且つ、前記車体の検出加加速度が所定の加加速度閾値よりも絶対値において小さいという条件が満たされるか否か判定し、前記条件が満たされると判定した場合は、前記車体の検出減速加速度が維持されるように前記全体目標制動力を算出し、前記条件が満たされないと判定した場合は、前記車体の減速加速度が前記加速度閾値になるように前記全体目標制動力を算出する。
【0024】
好適には、前記前輪制動手段は、前記前輪を電気的に制動する前輪電気ブレーキと、前記前輪を機械的に制動する前輪機械ブレーキと、を備え、前記後輪制動手段は、前記後輪を電気的に制動する後輪電気ブレーキと、前記後輪を機械的に制動する後輪機械ブレーキと、を備え、前記前輪目標制動力の少なくとも一部が前記前輪電気ブレーキにおいて生じるように前記前輪目標制動力を前記前輪電気ブレーキと前記前輪機械ブレーキとに分配して前輪電気ブレーキ目標制動力及び前輪機械ブレーキ目標制動力を算出し、前記後輪目標制動力の少なくとも一部が前記後輪電気ブレーキにおいて生じるように前記後輪目標制動力を前記後輪電気ブレーキにと前記後輪機械ブレーキとに分配して後輪電気ブレーキ目標制動力及び後輪機械ブレーキ目標制動力を算出する協調手段と、を備え、前記制御手段は、前記前輪電気ブレーキ目標制動力に基づく制御指令、前記後輪電気ブレーキ目標制動力に基づく制御指令、前記前輪機械ブレーキ目標制動力に基づく制御指令及び前記後輪機械ブレーキ目標制動力に基づく制御指令をそれぞれ前記前輪電気ブレーキ、前記後輪電気ブレーキ、前記前輪機械ブレーキ及び前記後輪機械ブレーキに出力する。
【0025】
好適には、前記車体に設けられた撮像手段と、前記撮像手段の撮像した画像に基づいて前記車体から前記車体の進行方向に配置された被撮像物までの距離を算出する距離算出手段と、前記距離算出手段の算出した距離が所定の第1距離閾値よりも短いか否かを判定し、短いと判定した場合に、前記自動車が前記被撮像物に到達するまでに前記自動車が停止するように前記全体目標制動力を算出する全体目標制動力算出手段と、を備える。
【0026】
好適には、前記距離算出手段の算出した距離が、前記第1距離閾値よりも長い所定の第2距離閾値よりも短いか否かを判定し、短いと判定した場合に前記自動車の運転者に警告する警告手段を備える。
【0027】
好適には、前記撮像手段は、撮像領域が互いに重複するように複数設けられ、前記距離算出手段は、前記被撮像物に対する前記複数の撮像手段間における視差に基づいて、前記車体から前記被撮像物までの距離を算出する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、前輪を駆動する前輪電動機と、後輪を駆動する後輪電動機とが、互いに独立に制御可能な状態に制御した自動車の制動力制御システムに、さらに、上記のような手段を講じることにより、雪路、氷路、雨路等の道路面の状況に関係なく、かつ、安全に走行車を制御できる制動力制御システムであって、自動車の車種、駆動エネルギー源に関係なく、適用できるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1は、本発明の実施形態に係る自動車1の構成を概念的に示すブロック図である。自動車1は、前輪2FtRt、2FtLtを駆動する前輪電動機3Ftと、後輪2RrRt、2RrLtを駆動する後輪電動機3Rrとを、制御装置10により互いに独立に制御可能な電気自動車である。
【0030】
なお、図1では、前輪側の構成要素に付加記号Ftを、後輪側の構成要素に付加記号Rrを、右側の構成要素に付加記号Rtを、左側の構成要素に付加記号Ltを付している。以下の説明では、いずれの位置の構成要素であるかを特に区別する必要がない場合には、例えば単に「電動機3」というなど、付加記号Ft、Rr、Rt、Ltや「前輪」、「後輪」の語を省略することがある。
【0031】
前輪電動機3Ftは、例えば同期電動機(Synchronous Motor:SM)により構成されている。また、後輪電動機3Rrは、例えば誘導電動機(Induction Motor:IM)により構成されている。前輪側及び後輪側それぞれにおいて、電動機3の回転は、ディッファレンシャルギア4を介して車軸5に伝達される。車軸5は車輪2と一体的に回転する。すなわち、自動車1は、前輪2Ftと、後輪2Rrとを互いに独立に制御可能に前輪2Ft及び後輪2Rrに対応して2つのトルク発生源を有しているが、右輪2Rtと、左輪2Ltとを互いに独立に制御できるようには構成されていない。
【0032】
自動車1は、アクセルペダル12の踏み込み量を検出し、検出した踏み込み量に応じた信号xaを出力するアクセルセンサ22、ブレーキペダル13の踏み込み量を検出し、検出した踏み込み量に応じた信号xbを出力するブレーキセンサ23、前進や後進を指定するためのシフトレバー14の位置を検出し、検出した位置に応じた信号Sを出力するシフトセンサ24を備えている。各センサ22、23、24の検出信号xa、xb、Sは制御装置10に出力される。
【0033】
制御装置10は、例えばコンピュータにより構成され、CPU、ROM、RAM、外部記憶装置等を有している。制御装置10は、各センサ22、23、24からの信号等に応じて前輪電動機3Ftの目標トルク及び後輪電動機3Rrの目標トルクをそれぞれ算出し、前輪駆動装置9Ft、後輪駆動装置9Rrに出力する。前輪側及び後輪側それぞれにおいて、駆動装置9は、制御装置10から指令された目標トルクに応じた信号をインバータ8に出力する。インバータ8は、自動車1の駆動エネルギー源としての直流電圧源7からの電力を交流電力に変換し、駆動装置9からの信号に応じた電力を電動機3に出力して電動機3を駆動する。直流電圧源7は、例えば、各種蓄電池や燃料電池である。
【0034】
前輪側及び後輪側のそれぞれにおいて、電動機3の回転はエンコーダ16により検出され、回転数(回転速度ω)に応じた信号が制御装置10に出力される。また、車体25には、加速度を検出し、検出した加速度に応じた信号を制御装置10に出力する加速度センサ26が設けられている。制御装置10は、検出された電動機3の回転速度や車体25の加速度等に基づいて、後述するスリップ率の算出等の種々の演算を行う。
【0035】
自動車1では、電気ブレーキと機械ブレーキとが併用される。すなわち、自動車1では、駆動源としての電動機3により制動力を発生可能であり、また、車軸5の回転を制動する機械ブレーキ18を備えている。電気ブレーキは、例えば、制動エネルギーを熱エネルギーに変換する発電ブレーキ、制動により発生する電気を回生する回生ブレーキである。機械ブレーキ18は、例えばドラムブレーキやディスクブレーキであり、液圧回路や電動機等のアクチュエータによりブレーキシューを被制動部材に押し付けて摩擦制動を得るものである。機械ブレーキ18の動作は、制御装置10により前輪側と後輪側とで互いに独立に制御される。
【0036】
図2は、自動車1における制動力の前輪2Ft及び後輪2Rrへの分配方法を説明する図である。
【0037】
図2(a)に示すように、自動車1が加速度αcarで減速するときの制動力Fcarは、
car=Mcar×αcar …(1)
となる。ここで、Mcarは、自動車1全体の質量(車体質量)である。
【0038】
そのときの荷重移動量zは、制動力Fcarによって生じる自動車1の重心G回りのモーメントを前輪2Ft及び後輪2Rrの接地点における垂直荷重に換算して得られるから、自動車1の重心Gの接地面からの高さをHcar、自動車1のホイールベースをLcarとすると、
z=Fcar×Hcar/Lcar …(2)
となる。
【0039】
また、自動車1が停止しているときの前輪荷重をW、後輪荷重をW、路面の摩擦係数をμとすると、摩擦力と釣り合う前輪及び後輪の制動力、すなわち、前輪2Ftの最大制動力Ffmax及び後輪2Rrの最大制動力Frmaxは、
fmax=μ(W+z) …(3)
rmax=μ(W−z) …(4)
となる。
【0040】
従って、前輪2Ft側及び後輪2Rr側のそれぞれにおける電動機3及び機械ブレーキ18による制動力が、最大制動力Ffmax及び最大制動力Frmaxとなるように、電動機3及び機械ブレーキ18の動作を制御すれば、自動車1全体として最も制動力が大きくなり、また、最大制動力Ffmaxと最大制動力Frmaxとの比率により、自動車1全体としての制動力Fcarを前輪2Ft及び後輪2Rrに分配すれば、後輪2Rrのロック時は、前輪2Ftのロック時に最も近くなるから、より効果的に自動車1を制動することができることになる。図2(b)は、上記(3)式及び(4)式により計算される制動力理想分配特性を実線L1で示している。
【0041】
しかし、路面の摩擦係数μは、乾燥路面、濡れた路面、雪路、氷上路等によって異なり、また、走行時に摩擦係数μを検出することは困難である。すなわち、上記(3)式及び(4)式では、路面の状況に応じて適切な分配比率を算出することができない。
【0042】
そこで、自動車1では、制動力の前輪2Ft及び後輪2Rrへの分配比率R、R(R+R=1)を下記の式により算出する。
=(μ(W+z))/(μ(W+z)+μ(W−z))
=(W+z)/(W+W
=(W+z)/Wcar
=(M×g+z)/(Mcar×g) …(5)
=1−R …(6)
なお、Mは自動車1の停止時の前輪荷重Wを質量に換算したものであり、Wcarは車体質量Mcarを荷重(車体重量)に換算したものである。
【0043】
従って、自動車1では、(5)式及び(6)式に基づいて算出した分配比率R、Rにより、自動車1全体の制動力Fcarを前輪2Ft及び後輪2Rrに分配することにより、図2(b)の実線L1で示す理想曲線上において前輪2Ftの制動力及び後輪2Rrの制動力を得ることができる。
【0044】
図2(c)は、自動車1が斜面を走行している場合においても分配比率を算出可能であることを示している。この図に示すように、傾斜角θの斜面を走行している自動車1が斜面に平行な方向の加速度αcarで減速する場合の制動力Fcarは、
car=Mcar×αcar+Mcar×g×sinθ …(7)
となる。すなわち、Mcar×g×sinθを加味すれば、加速度αcarで減速する場合のFcarを算出することができる。そして、(2)式、(5)式及び(6)式により分配比率を算出できる。
【0045】
自動車1では、自動車1の走行中に検出される加速度等の状態量に基づいて、Mcarを推定する。そして、推定したMcarを用いて(1)式等の演算をすることにより、自動車1の乗車人数、乗車位置、積載貨物の重さやその配置等に起因する荷重変化に対応して適切に荷重移動量zを算出し、ひいては、適切に分配比率を算出することができる。具体的には以下のとおりである。
【0046】
自動車1が加速トルクτ*で加速しているときの加速度をαacc、自動車1が電動機3をトルクフリーにして減速している状態(フリーランの状態)の加速度をαdecとすると、
τ*−T=Mcar×αacc …(8)
−T=Mcar×αdec …(9)
が成り立つ。Tは車軸5の摩擦抵抗など、フリーランの状態においても生じる制動トルクである。
【0047】
そして、上記(8)式及び(9)式より、
car=τ*/(αacc−αdec) …(10)
となる。すなわち、加速状態においてτ*及びαaccを、フリーラン状態においてαdecを取得すれば、Mcarを推定できる。
【0048】
図3及び図4は、自動車1におけるスリップ率制御を説明する図である。
【0049】
ここで、スリップ率sは、車体速度をV、車輪2の回転速度をω、車輪2の半径をrとすると、下記の式により計算される。
駆動時
s=(rω−V)/rω …(11)
制動時
s=(V−rω)/V …(12)
なお、以下では、rωを車輪速度ということがある。
【0050】
式(11)及び式(12)から理解されるように、駆動時においてスリップ率sが1.0になる場合は、ホイルスピンが生じている状態であり、制動時においてスリップ率sが1.0になる場合は、ホイルロックが生じている状態であり、いずれも路面に駆動力を伝えられない状態である。
【0051】
図3の実線L5〜L8は、横軸に示すスリップ率が発生しているときの駆動力や制動力を車体荷重により除して摩擦係数に換算したものを示しており、実線L5は乾路面のような摩擦係数が高い路面における駆動時又は制動時のものを、実線L6は濡れた路面のような摩擦係数が低い路面におけるものを示している。なお、摩擦係数μは、乾路面が0.75〜0.85、濡れた路面が0.4〜0.7、雪路が0.2〜0.4、氷上路が0.1〜0.2程度である。また、図3では、参考までに摩擦係数が高い路面及び低い路面におけるコーナリング特性を実線L7及びL8で示している。
【0052】
図3において理解されるように、摩擦係数が高い路面及び低い路面のいずれにおいても、スリップ率が0.1〜0.3(図3の矢印A1で示す範囲)のときに最大駆動力及び最大制動力を発生していることがわかる。
【0053】
図4は、自動車を一定のトルクで駆動して(図4の上段参照)、一定の加速度で増速した場合(図4の中段参照)のスリップ率の時間変化(図4の下段参照)の実験結果を示しており、図4(a)は乾燥路を走行しているときのものを、図4(b)は雪路を走行しているときのものである。
【0054】
図4(a)及び図4(b)の双方において、発進時においてはスリップ率が上昇している。特に、図4(b)では、ホイルスピンが生じて前輪が回転を始めてから車体が前進を開始するまでに時間差が生じている。一方、発進から所定時間が経過して、駆動力を安定して路面に伝達するようになると、図4(a)及び図4(b)の双方において、スリップ率は0.1〜0.3の間に収束してゆく。すなわち、乾燥路においても雪路においても、通常の走行時においては、最大駆動力の発揮できる0.1〜0.3の間にスリップ率があることがわかる。
【0055】
そこで、自動車1では、図2において説明した制動に伴う荷重移動を考慮した制動力の分配に加え、スリップ率を所定の閾値(例えば0.2〜0.3)以下に保持する制御を行う。このスリップ率の制御は、駆動時においても行うとともに、制動時においても行い、また、制動時においては、ブレーキペダル13への踏み込み量の大小に関らず行う。具体的には以下のとおりである。
【0056】
図5は、自動車1における制動力制御の手順を示すフローチャートである。ただし、図2では、各種信号に付したτやF等の記号は、信号の含む情報等の理解を容易にするために付したものであり、各要素から入出力される信号を正確に示していない場合がある。また、図5に示した処理手順や利用される変数は一例であり、適宜に変更可能である。
【0057】
まず、ブレーキペダル13が踏み込まれてから制動力が発生するまでの基本的な流れの概略を説明する。
【0058】
ユーザによりブレーキペダル13が踏み込まれると(ステップS1)、ブレーキセンサ23によりブレーキペダル13の踏み込み量τに応じた信号が制御装置10に出力される(ステップS2)。制御装置10は、踏み込み量τが所定の最大制動トルクτ*maxに対応する踏み込み量τBmaxよりも大きいか否か判定する(ステップS3)。
【0059】
制御装置10は、ステップS3の判定結果に応じた演算を行い、自動車1全体の制動力Fcarを算出し(ステップS15)、また、上述の(5)式及び(6)式において示したように分配比率R、Rを算出する(ステップS16)。そして、制御装置10は、ステップS15において算出した制動力FcarをステップS16において算出した分配比率R、Rにより前輪及び後輪に分配して前輪の目標制動トルクτBf*と、後輪の目標制動トルクτBr*とをそれぞれ算出する(ステップS6)。
【0060】
その後、制御装置10は、前輪側及び後輪側のそれぞれにおいて、ステップS6において算出された目標トルクを電動機3及び機械ブレーキ18に分配して電動機3による目標制動トルクと、機械ブレーキ18による目標制動トルクとを算出し、これら算出した目標制動トルクに応じた制御信号を、電動機3(駆動装置9)、機械ブレーキ18にそれぞれ出力する(ステップS7)。すなわち、電気ブレーキ及び機械ブレーキの協調制御による制動を実行する。これにより、自動車1の減速が行われる。
【0061】
なお、ステップS7における協調制御では、例えば、基本的に電動機3により制動力を得ることとし、電動機3だけではステップS6において算出された制動力を得ることができないときに機械ブレーキ18を利用する。換言すれば、目標制動力のうち少なくとも一部は電動機3に分配される。
【0062】
次に、図5に示す処理手順のうち、主として図2において説明した制動力分配制御に関連する部分について説明する。
【0063】
ステップS10〜S14では、上述した(1)式等において必要なMcarを推定する。具体的には以下のとおりである。
【0064】
ユーザによりアクセルペダル12が踏み込まれると(ステップS9)、アクセルセンサ22によりアクセルペダル12の踏み込み量τに応じた信号が制御装置10に出力される(ステップS10)。制御装置10は、ブレーキペダル13の踏み込み量τと、アクセルペダル12の踏み込み量τとに基づいて、自動車1の走行状態を判定する(ステップS11)。すなわち、アクセルペダル12の踏み込み量τに応じて算出した加速トルクτ*、又は、現在実際に電動機3に出力している制御指令の加速トルクτ*が0より大きく、且つ、ブレーキペダル13の踏み込み量τが0であれば、加速状態と判定してステップS12に進み、加速トルクτ*及びブレーキペダル13の踏み込み量τが0であれば、フリーラン状態と判定してステップS13に進む。
【0065】
ステップS12では、加速トルクτ*を取得、保持するとともに、ステップS19において加速度センサ26により検出された加速度αaccを取得、保持する。なお、ステップS12において、加速トルクτ*が最大加速トルクτ*maxよりも小さい場合に加速トルクτ*や加速度αaccを取得、保持するようにし、最大加速トルクτ*maxで加速しているような特異な状態での車体質量Mcarの推定を避けてもよい。ステップS13では、ステップS19において加速度センサ26により検出された加速度αdecを取得、保持する。
【0066】
ステップS14では、ステップS12において取得された加速トルクτ*、加速度αacc及びステップS13において取得された加速度αdecを用いて、式(10)により車体質量Mcarを算出し、これまで保持していた車体質量Mcarを更新する。
【0067】
ステップS15における全体の制動力Fcarの算出は、以下のように行われる。
【0068】
制御装置10は、ステップS3において、踏み込み量τが踏み込み量τBmaxよりも大きくないと判定した場合は通常ブレーキモードの制動力を算出し、踏み込み量τが踏み込み量τBmaxよりも大きいと判定した場合は緊急ブレーキモードの制動力を算出する。通常ブレーキモードでは、乗車している者の感じる快適性に配慮した制動力が算出され、緊急ブレーキモードでは、大きな制動力を得ることに配慮した制動力が算出される。具体的には以下のとおりである。
【0069】
制御装置10は、加速度センサ26の出力信号から車体の加速度αcarを取得するとともに(ステップS19)、その加速度αcarを時間微分することによりジャーク(Jerk、加加速度)Jcarを取得する(ステップS20)。
【0070】
そして、制御装置10は、通常ブレーキモードでは、以下の制御式によりFcarを演算する。
|αcar|<|α| 且つ |Jcar|<|J| を満たすならば、
car=Mcar×αcar …(13)
上記の判定式を満たさないならば、
car=Mcar×α …(14)
【0071】
なお、上記の制御式におけるFcarの算出式では、図2のように後輪側を正としてαcar、αを定義している。α、Jは、乗車している者が感じる不快感と、制動時の加速度及びジャークとの相関関係に基づいて設定される加速度、ジャークである。
【0072】
図6は、加速度及びジャークと、乗車している者が感じる不快感との相関を示す図である。この図に示すように、加速度及びジャークが大きくなると、不快感は大きくなる。そこで、不快感が一定以下に抑えられるように、図6に基づいてα、Jを設定する。例えば、α=2m/s、J=1.5m/sである。
【0073】
上述の制御式によれば、検出された加速度αcar及びジャークJcarの絶対値が大きい場合には、(14)式により制動力Fcarが設定されるから、制動後の加速度はαに抑えられ、不快感が抑えられる。また、検出された加速度αcar及びジャークJcarの絶対値が小さい場合には、(13)式により制動力Fcarが設定されるから、制動後においても現状の加速度αcarが維持され、ジャークJcarの増加が防止される。
【0074】
一方、制御装置10は、緊急ブレーキモードにおいては、Fcarを最大制動トルクτ*maxに相当する制動力に設定する。なお、スリップが生じないとした場合に最大制動トルクτ*maxにより得られる減速加速度、すなわち、最大制動トルクτ*maxに対応する減速加速度は、αよりも大きい。すなわち、最大制動トルクτ*maxは快適性を犠牲にする一方で大きな制動力を得ることができる大きさである。
【0075】
図5のステップS16では、上述の(5)式及び(6)式において示したように分配比率R、Rを算出する。
【0076】
なお、(5)式において必要な車体質量Mcarには、ステップS14において推定した値や、予め制御装置10が記憶しているデフォルトの値を用いる。Mには予め制御装置10が記憶しているデフォルトの値や、推定したMcarとデフォルトのMcarとの差に基づいてデフォルトのMを修正した値を用いる。荷重移動量zは、ステップS15において算出したFcarと、予め制御装置10が記憶しているHcar及びLcarを用いて(2)式により計算する。gは予め制御装置10が記憶しているものを用いる。
【0077】
図5に示す処理手順のうち、主として図3及び図4において説明したスリップ率制御に関連する部分について説明する。
【0078】
制御装置10は、加速度センサ26の検出する加速度αcarを積分して、車体速度Vを算出する(ステップS21)。また、エンコーダ16Ft、16Rrからの検出信号から、前輪2Ft及び後輪2Rrの回転速度ω、ωをそれぞれ取得する(ステップS17、S18)。そして、制御装置10は、前輪2Ftのスリップ率S及び後輪2Rrのスリップ率Sを、駆動時においては(11)式により、制動時においては(12)式により、それぞれ算出する(ステップS22)。
【0079】
制御装置10は、スリップ率S及びSが双方とも所定の閾値(図5では0.2を例示)よりも大きい場合には、自動車1の全体の制動トルクτ*を0とする(ステップS23)。また、スリップ率Sが所定の閾値よりも大きい場合には、前輪の制動トルクτBf*を0とし、スリップ率Sが所定の閾値よりも大きい場合には、後輪の制動トルクτBr*を0とする(ステップS24)。
【0080】
制御装置10は、ステップS6において、ステップS23の処理結果に応じて前後への制動力の決定を行う。すなわち、ステップS23において、自動車1の全体の制動トルクτ*が0とされなかった場合には、上述のように、ステップS15において算出した制動力Fcarに基づいて自動車1の全体の制動トルクτ*を算出し、その制動トルクτ*をステップS16において算出した分配比率で前輪2Ft及び後輪2Rrに分配して前輪の制動トルクτBf*、後輪の制動トルクτBr*をそれぞれ算出する。一方、ステップS23において、自動車1の全体の制動トルクτ*が0とされた場合には、前輪の制動トルクτBf*、後輪の制動トルクτBr*を0とする。
【0081】
制御装置10は、ステップS7において、ステップS24の処理結果に応じて、ステップS6において算出された前輪の制動トルクτBf*、後輪の制動トルクτBr*を補正する。すなわち、ステップS24の処理がなされた場合、ステップS23の処理がなされなかったことになるから、ステップS6では、ステップS15及びS16の算出結果に基づく前輪の制動トルクτBf*、後輪の制動トルクτBr*がそれぞれ算出されるが、制動トルクτBf*、τBr*のうち一方(スリップ率が所定の閾値よりも大きい車輪のトルク)は、ステップS7にて0に補正される。そして、補正後のトルクτBf*、τBr*が電動機3及び機械ブレーキ18に分配される。一方、ステップS24の処理がなされなかった場合には、ステップS6において算出された前輪の制動トルクτBf*、後輪の制動トルクτBr*は補正されない。
【0082】
自動車1では、確実に制動が行われるように、あるいは、ユーザが好みに応じて制動制御方法を選択できるように、ブレーキペダル13の踏み込み(ステップS1)から制動の実行(ステップS7)までに、上述した経路以外に複数の経路を有している。
【0083】
例えば、ステップS3の判定が行われると、ステップS15への処理の進行と平行してステップS4又はS5に処理が進行する。制御装置10は、ステップS3において踏み込み量τが踏み込み量τBmaxよりも大きくないと判定した場合は、通常モードのブレーキ指令を出力する。例えば、自動車1全体の目標制動トルクτ*に踏み込み量τに応じた大きさの値を設定する。一方、制御装置10は、ステップS3において踏み込み量τが踏み込み量τBmaxよりも大きいと判定した場合は、目標制動トルクとして最大制動トルクτ*maxを設定する。
【0084】
ステップS6では、制御装置10は、基本的には、ステップS15で算出されたFcarに基づく目標制動トルクτ*を前輪2Ft及び後輪2Rrに分配するが、所定の異常検出処理によりステップS15に関る処理について異常が検出されているような場合、あるいは、ユーザが所定の選択操作により快適性を考慮した制動力算出法(ステップS15)を選択しなかった場合には、ステップS4又はS5において設定された目標制動トルクτ*を前輪2Ft及び後輪2Rrに分配する。
【0085】
また、例えば、ブレーキペダル13が踏み込まれる(ステップS1)と、機械ブレーキ指令が生成される(ステップS8)。そして、ステップS7では、制御装置10は、基本的には、ステップS6で算出された制動トルクτBf*、τBr*を電動機3及び機械ブレーキ18に分配し、それぞれに制御指令を出力するが、所定の異常検出処理によりステップS2〜S6に至る経路や電動機3について異常が検出されているような場合には、機械ブレーキ指令により生成された制動力を生じるように機械ブレーキ18に制御指令を出力する。
【0086】
ステップS22のスリップ率の演算は、自動車1の駆動時、すなわち、増速加速時においても行われる。そして、制御装置10は、制動時のステップS23、S24、S6、S7と同様の制御を駆動時においても行う。すなわち、ステップS23及びステップS6と同様に、スリップ率S及びSが双方とも所定の閾値よりも大きい場合には、自動車1全体の目標加速トルクを0とする。また、ステップS24及びステップS7と同様に、スリップ率Sが所定の閾値よりも大きい場合には、前輪2Ftの目標加速トルクを0に、スリップ率Sが所定の閾値よりも大きい場合には、後輪2Rrの目標加速トルクを0に補正する。これにより、発進時等におけるホイルスピンが防止される。なお、スリップ率の閾値は、制動時のものと同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0087】
また、自動車1が後進する場合も、図5と同様の処理を実行してもよい。この場合、前輪2Ftを後輪として捉え、後輪2Rrを前輪として捉えて図5と同様の処理を実行すればよい。換言すれば、荷重移動を考慮した制動において、前輪か後輪かは自動車の進行方向によって定義されるものであり、本発明は、一般的にいう後進において本発明の制御方法が行われる技術も含む。
【0088】
図7〜図10は、従来の自動車と、本実施形態の自動車1との性能を比較する実験結果を示している。
【0089】
図7〜図10それぞれの(a)は、従来の自動車の性能を示しており、図7〜図10それぞれの(b)は本実施形態の自動車1の性能を示している。図7〜図10それぞれにおいて、上段は、駆動トルク又は電動機3の制動トルクの時間変化を示しており、中段は車輪速度及び車体速度の時間変化を示しており、下段はスリップ率の時間変化を示している。トルクは、駆動トルクを正、制動トルクを負としている。なお、各図において、測定値が縦軸の範囲外と範囲内との間で変化する時刻に縦線が描かれていることがある。
【0090】
図7は、雪路における発進時のホイルスピンの発生状況を示している。図7(a)に示されるように、従来の自動車では、アクセルペダルを所定量踏み込むとともに、その踏み込み量を維持すると、急激な前輪トルクの上昇により前輪のスリップ率が略1.0に上昇するとともに、その上昇したスリップ率が維持され、車体速度は上昇しない。すなわち、発進できない。
【0091】
一方、図7(b)に示すように、本実施形態の自動車1では、アクセルペダル12を所定量踏み込むとともに、その踏み込み量を維持すると、当初は前輪トルクの上昇により前輪のスリップ率が急激に上昇するが、スリップ率が閾値(図7では0.3を例示)を越える場合にトルクを0とする制御により、前輪トルクが抑えられて前輪のスリップ率は低下する。そして、自動車1の車体速度は上昇する。なお、図7(b)では、駆動トルクが抑えられているが、ブレーキペダル13は踏み込まれていないのでブレーキランプは点灯しない。
【0092】
図8は、乾燥路面における制動時の様子を示している。図8(a)に示されるように、従来の自動車では、ブレーキペダルを所定量踏み込むとともに、その踏み込み量を維持すると、制動トルクは一定量に維持される。そして、場合によってはスリップ率が上昇し、ホイルロックを生じる。
【0093】
一方、図8(b)に示すように、本実施形態の自動車1では、ブレーキペダル13を所定量踏み込むとともに、その踏み込み量を維持すると、当初、スリップ率が上昇しても、スリップ率が閾値(図8では0.2を例示)を越える場合に制動トルクを0とする制御により、スリップ率は閾値以下に抑えられる。すなわち、ホイルロックが防止される。
【0094】
図9及び図10は、それぞれ雪路及び氷上路における制動時の様子を示している。図9及び図10では、図8において示した従来の自動車と本実施形態の自動車1との性能の差が顕著に現われており、従来の自動車がホイルロックを生じている状況下においても本実施形態の自動車1ではホイルロックが防止されている。
【0095】
図1に示すように、自動車1は、車体25の前方側に2つのカメラ20Rt、20Ltを備えている。カメラ20Rt、20Ltは、自動車1の前方を撮像し、その撮像領域は互いに少なくとも一部が重複している。カメラ20の撮像した画像は、制御装置10に出力され、制御装置10は取得した画像に基づいて障害物等との距離を認識して、制動に関る処理を実行する。
【0096】
図11は、自動車1における距離認識のための画像処理方法を説明する概念図である。
【0097】
自動車1では、例えば、いわゆるステレオ視による計測方法を用いて計測地点Pまでの距離を測定する。すなわち、複数のカメラから得られた情報を三角測量の原理に基づいて処理することにより距離を測定する。具体的には以下のとおりである。
【0098】
カメラ20Lt、20Rtは、光軸LN22(Z軸)、LN22が互いに平行に配置されるとともに、光軸中心O、Oを結ぶ線(X軸)が光軸LN22、LN22に直交する。また、カメラ20Lt、20Rtの画像41L、41Rは光軸と直交する同一面上にある。
【0099】
図11の座標系XYZでは、左側のカメラ20Ltのレンズ中心を原点Oとし、計測地点Pの各画像41における画素位置P、Pを各画像41において定義された座標系により示している。
【0100】
距離D(X軸から計測地点Pまでの距離。計測地点のZ軸方向の座標と同一)は、下記の式により算出される。
D=(f・S)/((X−X)×p) …(15)
なお、fは焦点距離であり、Sは基線長さ(OからOまでの長さ)である。X−Xは計測地点Pに対応する画素位置PとPとの距離であり、いわゆる視差である。(15)式から理解されるように、視差が大きいほど計測地点Pは手前側にあることになる。pは画素ピッチである。すなわち、(15)式では、視差X−Xの単位は画素数(ピクセル数)であり、画素ピッチp(m/ピクセル)を乗じて視差X−Xをmに換算している。なお、厳密には、カメラ20と、車体25のバンパーの位置との差分を距離Dから減算する必要がある。
【0101】
図12は、制御装置10が実行する画像処理及び画像処理に基づく制動処理の手順を示すフローチャートである。当該処理は、自動車1の走行中などにおいて図5の処理と平行して行われる。
【0102】
制御装置10は、ステップS51では、カメラ20からの信号により画像を取得する。ステップS52では、カメラ20Ltの画像41L及びカメラ20Rtの画像41Rに基づく相関関係の演算を行い、画像41Lのいずれの画素と、画像41Rのいずれの画像とが互いに対応するか、すなわち、同一計測点を撮像しているかを特定する。ステップS53では、ステップS52で特定した対応関係に基づいて視差を演算し、ステップS54では、(15)式に基づいて現時点(時点n)における自動車1から障害物等までの距離D(n)を算出する。ステップS55では、算出した距離D(n)を操作パネルに表示させる。
【0103】
ステップS56では、現時点の車体速度等に基づいて、制動を開始すべき自動車1から障害物までの距離D(n)を算出する。ステップS57では、実際の距離D(n)と、制動を開始すべき距離D(n)とを比較し、実際の距離D(n)が制動を開始すべき距離D(n)よりも長いと判定した場合には、ステップS51へ戻る。実際の距離D(n)が制動を開始すべき距離D(n)よりも短いと判定した場合は、制動力F(n)の算出(ステップS58)、前輪及び後輪への制動力の分配比率R、Rの算出(ステップS59)を行い、制動力F及び分配比率R、Rに基づいて前輪及び後輪の目標制動トルクτBf*、τBr*を算出する。そして、算出した目標制動トルクτBf*、τBr*に基づく制動を行い、制動の実行後、ステップS51に戻る。
【0104】
このように、自動車1では、カメラ20の撮像した画像に基づく距離が所定の閾値よりも短いときは、制御装置10は運転者のブレーキペダル13に対する踏み込みに関らず、自動的に制動を行う。
【0105】
なお、ステップS59及びS60は、それぞれ図5のステップS16及びS6と同一のものである。すなわち、図12の処理は、図5の処理に組み込み可能である。
【0106】
ステップS56において算出する制動制御を開始すべき距離D(n)は、自動車1が完全に停止するまでに必要な最小限の距離としたり、ある程度安全に無理なく停止できる距離とするなど、適宜に設定してよいが、例えば、以下の式により算出する。
(n)=V(n)×T+Mcar×V(n)/(2×Fmax) …(16)
V(n)は、時点nにおける車体速度であり、Tは制御システムの反応時間であり、Mcarは車体質量であり、Fmaxは最大制動力である。なお、Fmaxは、電気ブレーキの最大制動力としてもよいし、電気ブレーキ及び機械ブレーキの最大制動力としてもよい。(16)式では、車体の運動エネルギーと最大の制動力Fmaxにより車体に対してなされる仕事量とが等しくなる距離を、システムの制御遅れTを考慮して算出している。
【0107】
ステップS57において算出する制動力F(n)は、最大制動力にしたり、運転者等がショックを受けない程度の制動力にするなど、適宜に設定してよいが、例えば、以下の式により算出する。
(n)=Mcar×V(n)/(2×(D(n)−V(n)×T)) …(17)
(17)式では、車体の運動エネルギーと距離D(n)に亘って制動が行われるときに車体に対してなされる仕事量とが等しくなる制動力を、システムの制御遅れTを考慮して算出している。(16)式によりD(n)を算出した場合、ステップS57において実際の距離D(n)が制動を開始すべき距離D(n)よりも短いと判定された直後に(17)式により算出されるF(n)は、最大制動力Fmaxと同程度となる。
【0108】
なお、図12において、ステップS57にて実際の距離D(n)が制動を開始すべき距離D(n)よりも短いと判定された場合、その後、自動車1の停止が検出されるなどの所定の条件が満たされるまで、ステップ51に戻らずに、ステップS58〜S60を繰り返し実行してもよい。この場合に、例えばD(n)を(16)式により、制動力F(n)を(17)式により算出すると、ステップS57において実際の距離D(n)が制動を開始すべき距離D(n)よりも短いと判定された直後は制動力F(n)は最大制動力Fmaxと同程度となり、その後、時点nの経過に伴って逐次計算される制動力F(n)は最適な制動力となる。
【0109】
図13は、図12の処理を図5の処理に組み込んで示すフローチャートである。ただし、図5の処理のうち、図12の処理との関連性が相対的に低い手順については図示を省略している。
【0110】
ステップS31は、図12のステップS51〜S54に対応する。すなわち、制御装置10は、カメラ20からの情報に基づいて、前方の障害物までの距離D(n)を算出する。
【0111】
ステップS56〜S59は、上述のとおりである。なお、ステップS56において、(16)式の演算に必要なV(n)は、ステップS21により得られる。ただし、ステップS17やS18の車輪速度を用いてV(n)の演算や補正が行われてもよい。(16)式の演算に必要な制御システムの反応時間T、最大制動力Fmaxは、制御装置10により予め記憶されている値が利用される。(16)式の演算に必要な車体質量Mcarは、記憶装置10により予め記憶されているデフォルトの値が利用されてもよいし、ステップS14(図5参照)により推定された値が利用されてもよい。
【0112】
なお、運転者によりブレーキペダル13が踏み込まれていれば、図5において説明したように、制御装置10は、ステップS15等において制動力を算出し、ステップS16やステップS6に進む。制御装置10は、ステップS57にて実際の距離D(n)が制動を開始すべき距離D(n)よりも長いと判定した場合には、ステップS6では、ステップS15において算出された制動力Fcarに基づいて前輪及び後輪の制動力を決定し、ステップS57にて実際の距離D(n)が制動を開始すべき距離D(n)よりも短いと判定した場合には、ステップS15において算出した制動力FcarとステップS58において算出した制動力F(n)とを比較して、制動力を決定する。例えば、制御装置10は、制動力Fcar及び制動力F(n)のうち、大きいほうを採用する。
【0113】
なお、D(n)=D(n)+Δを算出し、距離D(n)とD(n)とを比較し、距離D(n)がD(n)よりも小さくなったときに、ブレーキ操作をすべきであることを運転者に警告するようにしてもよい。警告は、スピーカから警報を鳴らすなど音響によって行ってもよいし、ランプを点灯させるなど視覚的に行ってもよい。
【0114】
図1に示すように、自動車1は、車体25の後方側にカメラ21を備えている。カメラ21は、自動車1の後方側の路面を撮像する。カメラ21の撮像した画像は、制御装置10に出力され、制御装置10は取得した画像に基づいて路面の変化(例えば白線)を検出して、制動に関る処理を実行する。
【0115】
図14は、自動車1における白線までの距離の認識のための画像処理方法を説明する概念図である。図14(a)〜図14(b)の各図において、下段は、自動車1と白線WLとの位置関係を模式的に示しており、上段は、下段の位置関係におけるカメラ21の撮像した画像を示している。
【0116】
図14(a)に示すように、カメラ21の撮像領域のうち、自動車1から離れた位置に白線WLがある場合には、白線WLは、画像の一方寄り(図14の紙面上方)に位置する。逆に、図14(c)に示すように、カメラ21の撮像領域のうち、自動車1に近い位置に白線WLがある場合には、白線WLは、画像の他方寄り(図14の紙面下方)に位置する。その間では、図14(b)に示すように、自動車1と白線WLとの距離に応じて、白線WLは画像中における位置が変化する。従って、白線WLの画像中の位置と、実際の白線WLと自動車1との距離との対応関係を予め計測しておき、制御装置10に保持させておけば、カメラ21により撮像した画像に基づいて、白線WLまでの距離を計測することができる。
【0117】
図15は、画像処理により白線WLを検出する方法を説明する図である。白線は、アスファルト等の一般的な路面に対して輝度が高い。従って、撮像画像の各画素Pixについて、輝度が所定の閾値よりも高いか否かを判定することにより、白線WLを検出することができる。なお、白線WLの検出においては、雑音の除去等を適宜に行ってよい。
【0118】
制御装置10は、白線WLと自動車1との距離に応じて、制動力に関る処理を実行する。例えば、図12及び図13において説明したカメラ20から得られた距離に基づく処理と同様の処理を実行する。すなわち、白線WLと自動車1との距離が所定の閾値よりも小さい場合には運転者に警告、あるいは、強制的に制動力を生じさせる。
【0119】
以上の実施形態の自動車1によれば、制動に伴う荷重移動量を考慮して目標制動力Fcar(目標制動トルクτ*)を前輪2Ft及び後輪2Rrに分配し(ステップS16、S6)、かつ、前輪2Ft及び後輪2Rrのスリップ率が所定の閾値以下に維持されるように前輪2Ft及び後輪2Rrに分配した目標制動トルクτBf*、τBr*を補正し(ステップS24、S7)、補正した目標制動トルクτBf*、τBr*が得られるように前輪電動機3Ft、後輪電動機3Rrをそれぞれ独立に制御して制動力を得ることから、荷重移動に応じて適切に制動力を分配することができるとともにホイルロック等の原因となるスリップが抑制され、前輪2Ft、後輪2Rrのそれぞれにおいて効果的に制動力を発揮することができる。
【0120】
制御装置10は、自動車1の駆動時においても、スリップ率が所定の閾値以下に維持されるように、前輪電動機3Ft、後輪電動機3Rrをそれぞれ独立に制御することから、自動車1の発進から停止に至る走行全体に亘ってスリップを防止することができる。
【0121】
従来、ABS制御は、ブレーキペダルを一定量踏み込まないと作動しないことから、雪路などの低摩擦係数の路面で少量のブレーキペダルの踏み込みをした場合に、ABS制御が作動することなくホイルロックが生じていたところ、制御装置10は、ブレーキペダル13の踏み込み量の大小に関らず、スリップ率が閾値以下に保持されるように制動力を補正することから、低摩擦係数の路面でもホイルロックを生じることがない。
【0122】
制御装置10は、荷重移動量を加味した前輪荷重W+z及び後輪荷重W−zの比率を分配比率R、Rとして算出し(ステップS16、(5)式、(6)式)、目標制動力Fcar(目標制動トルクτ*)を分配比率R、Rにより分配して目標制動トルクτBf*、τBr*を算出することから、路面の摩擦係数μを算出することなく、適切に制動力を分配することができる。
【0123】
制御装置10は、目標制動力Fcar等に用いられる車体質量Mcarを走行時の加速度αacc等により算出するから、乗車人数等の変動による荷重変動にも適切に対応して荷重移動量z等を算出することができ、ひいては、適切な制動力の前後への分配ができる。
【0124】
制御装置10は、ステップS15に示したように、ブレーキペダル13の踏み込み量に応じて、快適性を考慮した制動力又は快適性を考慮しない制動力のいずれかを算出することから、制動力の分配やスリップ率制御により制動性能が向上して急ブレーキが可能となったとしても、通常の制動時において乗車している者に不快感を与えることがない。
【0125】
制御装置10は、目標制動力の少なくとも一部が電動機3において生じるように、電動機3による電気ブレーキと、機械ブレーキ18とを協調させることから、応答性のよい電動機3により、目標制動力の小さい変動に対して実際の制動力を追従させることができるとともに、大きな制動力が必要な場合には機械ブレーキ18により当該大きな制動力を得ることができる。
【0126】
自動車1では、カメラ20やカメラ21等の撮像画像に基づいて制動制御を実行することから、運転者が障害物等に気付いていないような場合や死角に障害物等がある場合においても安全に制動することができる。
【0127】
なお、上述の実施形態において、制御装置10、電動機3等の制動に関る各種の構成要素の組合せは本発明の制動力制御システムの一例であり、前輪電動機3Ftはトルク発生源、前輪駆動手段及び前輪電気ブレーキの一例であり、後輪電動機3Rrはトルク発生源、後輪駆動手段及び後輪電気ブレーキの一例であり、ステップS16及びS6を実行している制御装置10は本発明の分配手段の一例であり、ステップS22を実行している制御装置10は本発明のスリップ率算出手段の一例であり、ステップS24及びS7を実行している制御装置10は本発明の補正手段の一例であり、ステップS7を実行している制御装置10は本発明の制御手段の一例であり、ブレーキペダル13は本発明の操作部材の一例であり、ブレーキセンサ23は本発明の操作量検出センサの一例であり、ステップS15、ステップS4、ステップS5のいずれかを実行している制御装置10は本発明の全体目標制動力算出手段の一例であり、ステップS14を実行している制御装置10は本発明の車体質量算出手段の一例であり、ステップS7を実行している制御装置10は本発明の協調手段の一例であり、カメラ20、21は撮像手段の一例であり、カメラ20、21の撮像画像に基づいて距離を算出する制御装置10は距離算出手段の一例である。
【0128】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施してよい。
【0129】
本発明の自動車は電気自動車に限定されない。例えば、内燃機関(一般にいうガソリンエンジン)により駆動されるものであってもよいし、内燃機関及び電動機により駆動されるハイブリッドカーでもよい。前輪のトルク発生源は、電動機のみ、電動機と内燃機関との組合せ、内燃機関のみでもよいし、後輪のトルク発生源は、電動機のみ、電動機と内燃機関との組合せ、内燃機関のみでもよい。ここで、電動機とは、同期電動機、誘導電動機等の電気エネルギーによってトルクを発生する電動機一般を指す。電動機を駆動する電気エネルギーは、車載バッテリから供給されてもよいし、車載燃料電池から供給されてもよい。駆動手段は、前輪と後輪とを互いに独立に駆動できなくてもよい。制動手段は、電気ブレーキのみでもよいし、機械ブレーキのみでもよい。前輪には電気ブレーキ、後輪には機械ブレーキのように、前輪制動手段と、後輪制動手段とで種類が異なっていてもよい。
【0130】
分配比率の算出では、結果として荷重移動量を加味した前輪荷重及び後輪荷重の比率を算出できればよく、具体的にどの変数により計算するかは適宜に選択してよい。例えば、(5)式のうち(W+z)/(W+W)により算出しても(W+z)/Wcarにより算出してもよいし、(W+z)及び(W−z)から比率を算出してもよい。いずれにせよ、荷重移動量を加味した前輪荷重及び後輪荷重の比率を用いて制動力を分配することにより、路面の摩擦係数μを計測することなく、制動力を適切に分配することが可能となる。
【0131】
実施形態では、視差に基づいて前方の被撮像物(障害物)までの距離を演算するものを例示したが、カメラ21による白線検知のように、他の画像処理方法によって前方の被撮像物までの距離を計測してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明の実施形態に係る自動車の構成を概念的に示すブロック図。
【図2】図1の自動車における制動力の前輪及び後輪への分配方法を説明する図。
【図3】図1の自動車におけるスリップ率制御を説明する図。
【図4】図1の自動車におけるスリップ率制御を説明する図。
【図5】図1の自動車における制動力制御の手順を示すフローチャート。
【図6】加速度及びジャークと乗車している者が感じる不快感との相関を示す図。
【図7】従来の自動車と図1の自動車との性能を比較する実験結果を示す図。
【図8】従来の自動車と図1の自動車との性能を比較する実験結果を示す図。
【図9】従来の自動車と図1の自動車との性能を比較する実験結果を示す図。
【図10】従来の自動車と図1の自動車との性能を比較する実験結果を示す図。
【図11】図1の自動車における距離認識のための画像処理方法を説明する概念図。
【図12】図1の自動車における画像処理及び画像処理に基づく制動処理の手順を示すフローチャート。
【図13】図12の処理を図5の処理に組み込んで示すフローチャート。
【図14】図1の自動車における白線までの距離認識のための画像処理方法を説明する概念図。
【図15】図1の自動車における白線を検出する画像処理方法を説明する概念図。
【符号の説明】
【0133】
1…自動車(電気自動車)、2Ft…前輪、2Rr…後輪、3Ft…前輪電動機、3Rr…後輪電動機、10…制御装置(分配手段、スリップ率算出手段、補正手段、制御手段)、25…車体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪を駆動する前輪トルク発生源と後輪を駆動する後輪トルク発生源とが、互いに独立に制御可能な自動車の制動力制御システムであって、
制動時に、発生する後輪から前輪への荷重移動量を推定し、推定された荷重移動量を基に前輪と後輪の制動手段で発生する制動力を決定する
自動車の制動力制御システム。
【請求項2】
前輪を駆動する前輪トルク発生源と後輪を駆動する後輪トルク発生源とが、互いに独立に制御可能な自動車の制動力制御システムであって、
車体速度と、前輪及び後輪速度とから、前輪及び後輪のスリップ率を推定し、推定された前輪及び後輪の各スリップ率を基に前輪と後輪の制動手段で発生する制動力を決定する
自動車の制動力制御システム。
【請求項3】
前輪を駆動する前輪トルク発生源と後輪を駆動する後輪トルク発生源とが、互いに独立に制御可能な自動車の制動力制御システムであって、
制動時に、発生する後輪から前輪への荷重移動量と、車体速度と前輪及び後輪速度とから推定される前輪及び後輪のスリップ率との双方を考慮して、前輪と後輪の制動手段で発生する制動力を決定する
自動車の制動力制御システム。
【請求項4】
前記制動手段は、前記前輪と後輪を駆動するための駆動トルク発生用の電動機を使用して制動力を得る電気ブレーキである
請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動車の制動力制御システム。
【請求項5】
前記電気ブレーキにおける前記電動機は、「前輪の左右輪」「後輪の左右輪」のそれぞれを1台の電動機で駆動する構成の電動機、又は、前記前輪及び後輪の各左右輪を個別に駆動する構成のインホイール型電動機から制動力を得るようにした
請求項4に記載の自動車の制動力制御システム。
【請求項6】
前記制動手段は、摩擦制動を行う機械ブレーキである
請求項4又は5に記載の自動車の制動力制御システム。
【請求項7】
トルク発生源は、電動機そのもの、電動機とエンジンとの組合せ、または、ガソリンエンジンである
請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動車の制動力制御システム。
【請求項8】
自動車の制動力制御システムであって、
前記自動車の前輪の回転を制動する前輪制動手段と、
前記自動車の後輪の回転を制動する後輪制動手段と、
制動に伴う前記自動車の車体の前記後輪側から前記前輪側への荷重移動量が大きくなるほど前記後輪による制動力に対する前記前輪による制動力の比が大きくなるように、前記自動車の全体目標制動力を前記前輪及び前記後輪に分配して前輪目標制動力及び後輪目標制動力を算出する分配手段と、
前記車体の検出速度並びに前記前輪及び前記後輪の検出回転速度に基づいて前記前輪及び前記後輪のスリップ率をそれぞれ算出するスリップ率算出手段と、
前記スリップ率算出手段により算出される前記前輪のスリップ率が所定の前輪スリップ率閾値以下に維持されるように前記前輪目標制動力を補正し、前記スリップ率算出手段により算出される前記後輪のスリップ率が所定の後輪スリップ率閾値以下に維持されるように前記後輪目標制動力を補正する補正手段と、
補正された前記前輪目標制動力に基づく制御指令を前記前輪制動手段に出力し、補正された前記後輪目標制動力に基づく制御指令を前記後輪制動手段に出力する制御手段と、
を備えた自動車の制動力制御システム。
【請求項9】
前記制御手段は、前記自動車の駆動時において、前記スリップ率算出手段の算出する前記前輪のスリップ率が所定の前輪スリップ率閾値以下に維持されるように前記前輪を駆動する前輪駆動手段に制御指令を出力し、前記スリップ率算出手段の算出する前記後輪のスリップ率が所定の後輪スリップ率閾値以下に維持されるように前記後輪を駆動する後輪駆動手段に制御指令を出力する
請求項8に記載の自動車の制動力制御システム。
【請求項10】
操作部材に対するブレーキ操作の操作量に応じた信号を出力する操作量検出センサと、
前記操作量検出センサからの信号に基づいて前記自動車の前記全体目標制動力を算出する全体目標制動力算出手段と、
を備え、
前記補正手段は、前記操作量検出センサにより検出される操作量の大小に関らず、前記補正動作を行う
請求項8に記載の自動車の制動力制御システム。
【請求項11】
前記分配手段は、前記全体目標制動力に応じた前記荷重移動量を算出し、その算出した前記荷重移動量を加味した前輪荷重及び後輪荷重の比率を分配比率として算出し、前記全体目標制動力を前記分配比率により前記前輪及び前記後輪に分配して前記前輪目標制動力及び前記後輪目標制動力を算出する
請求項8に記載の自動車の制動力制御システム。
【請求項12】
前記分配手段は、前記全体目標制動力と前記車体の重心高さとの積を、前記前輪と前記後輪との距離により除して前記荷重移動量を算出する
請求項11に記載の自動車の制動力制御システム。
【請求項13】
前記自動車が加速状態にあるときの前記前輪を駆動する前輪駆動手段及び前記後輪を駆動する後輪駆動手段の目標トルクを、前記自動車が前記加速状態にあるときの検出加速度と、前記前輪駆動手段及び前記後輪駆動手段をトルクフリーにして前記自動車が減速走行している状態における検出加速度との差により除して、前記車体質量を算出する車体質量算出手段と、
前記車体質量算出手段の算出した前記車体の質量に所定の目標減速加速度を乗じて前記自動車の前記全体目標制動力を算出する全体目標制動力算出手段と、
を備えた請求項11に記載の自動車の制動力制御システム。
【請求項14】
操作部材に対するブレーキ操作の操作量に応じた信号を出力する操作量検出センサと、
前記操作量検出センサからの信号に基づいて前記全体目標制動力を算出する全体目標制動力算出手段と、
を備え、
前記全体目標制動力算出手段は、
前記操作量が所定の操作閾値よりも大きいか否か判定し、
前記操作量が前記操作閾値よりも大きいと判定した場合は、
所定の最大目標制動力を前記全体目標制動力とし、
前記操作量が前記操作閾値よりも大きくないと判定した場合は、
前記車体の検出減速加速度が、前記最大目標制動力に対応する減速加速度よりも絶対値の小さい所定の加速度閾値よりも絶対値において小さく、且つ、前記車体の検出加加速度が所定の加加速度閾値よりも絶対値において小さいという条件が満たされるか否か判定し、
前記条件が満たされると判定した場合は、
前記車体の検出減速加速度が維持されるように前記全体目標制動力を算出し、
前記条件が満たされないと判定した場合は、
前記車体の減速加速度が前記加速度閾値になるように前記全体目標制動力を算出する
請求項8に記載の自動車の制動力制御システム。
【請求項15】
前記前輪制動手段は、
前記前輪を電気的に制動する前輪電気ブレーキと、
前記前輪を機械的に制動する前輪機械ブレーキと、
を備え、
前記後輪制動手段は、
前記後輪を電気的に制動する後輪電気ブレーキと、
前記後輪を機械的に制動する後輪機械ブレーキと、
を備え、
前記前輪目標制動力の少なくとも一部が前記前輪電気ブレーキにおいて生じるように前記前輪目標制動力を前記前輪電気ブレーキと前記前輪機械ブレーキとに分配して前輪電気ブレーキ目標制動力及び前輪機械ブレーキ目標制動力を算出し、前記後輪目標制動力の少なくとも一部が前記後輪電気ブレーキにおいて生じるように前記後輪目標制動力を前記後輪電気ブレーキにと前記後輪機械ブレーキとに分配して後輪電気ブレーキ目標制動力及び後輪機械ブレーキ目標制動力を算出する協調手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記前輪電気ブレーキ目標制動力に基づく制御指令、前記後輪電気ブレーキ目標制動力に基づく制御指令、前記前輪機械ブレーキ目標制動力に基づく制御指令及び前記後輪機械ブレーキ目標制動力に基づく制御指令をそれぞれ前記前輪電気ブレーキ、前記後輪電気ブレーキ、前記前輪機械ブレーキ及び前記後輪機械ブレーキに出力する
請求項8に記載の自動車の制動力制御システム。
【請求項16】
前記車体に設けられた撮像手段と、
前記撮像手段の撮像した画像に基づいて前記車体から前記車体の進行方向に配置された被撮像物までの距離を算出する距離算出手段と、
前記距離算出手段の算出した距離が所定の第1距離閾値よりも短いか否かを判定し、短いと判定した場合に、前記自動車が前記被撮像物に到達するまでに前記自動車が停止するように前記全体目標制動力を算出する全体目標制動力算出手段と、
を備えた請求項8に記載の自動車の制動力制御システム。
【請求項17】
前記距離算出手段の算出した距離が、前記第1距離閾値よりも長い所定の第2距離閾値よりも短いか否かを判定し、短いと判定した場合に前記自動車の運転者に警告する警告手段を備えた
請求項16に記載の自動車の制動力制御システム。
【請求項18】
前記撮像手段は、撮像領域が互いに重複するように複数設けられ、
前記距離算出手段は、前記被撮像物に対する前記複数の撮像手段間における視差に基づいて、前記車体から前記被撮像物までの距離を算出する
請求項16に記載の自動車の制動力制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−282406(P2007−282406A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106809(P2006−106809)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】