説明

自動車の走行機能を制御するための方法

本発明は、所定の走行状態を示すセンサ信号を利用してそこから走行指示あるいはそれに類する物を生成するという制御装置を用いて、自動車の走行機能を制御するための方法、に関する。この走行指示は、車両の運転者に向けられてもよいし、制御指令として関連するユニットに直接送られてもよい。道路に勾配があって車両に傾斜が生じると、運転に有意な影響が生じる。本発明では、水平に対する車両の傾きが少なくとも1つの傾斜センサを用いて検知され、当該傾斜センサの信号が前記制御装置に入力され、傾斜が関わる走行状況における走行指示あるいはそれに類する物を生成するために使用される。縦方向の傾斜と横方向の傾斜との二つが検知されて評価されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求の範囲の請求項1の上位概念に従う、自動車の走行機能を制御するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の走行状態、特には危険な走行状態、を車両内に配置されたセンサを用いて感知し、当該センサから発信されるセンサ信号を制御装置の中で活用し、そこから、例えば危険な走行状態に有効に対応するために走行指示を生成することは、現在の自動車技術では一般に知られている。公知の例は、いわゆるABSシステムである。これによって、制動力(ブレーキ力)は、複数の車輪の各々に、それらをロックしないように、配分される。
【0003】
危険な走行状態は、とりわけ、商用車、オフロード車両または軍事用車両の場合において、車両の傾斜が危険値を超える時に生じ得る。縦方向の傾きが危険値を超えている場合には、車両の走行を制御するための駆動力または制動力が不足する、あるいは、車両が横軸周りに(前後方向に)転倒する、という事態になる。同様に、横方向の傾きが危険値を超えると、車両が縦軸周りに転倒する(横転する)という危険が生じる。
【0004】
この場で述べておくが、「走行状態」ないし「走行指示」という用語は、車両がまだ走行していない乃至もう走行しない、または、例えばクレーン車あるいはそれと類似の車両の場合のように停止状態で作動される、といった特殊な場合にも当てはまる。
【0005】
特に、上述したグループの車両では、下げ振り式の針で構成される傾斜計が、すでに知られている。この傾斜計は、縦方向または横方向のその時々の傾斜を単純な目盛りで示す。この傾斜計は、単に、実際の傾斜、場合によっては目盛りに記された危険な傾斜、を示すだけのことができる。そのために、運転者は、傾斜計から目を離せない。これはしかし、特に困難な走行状況では、しばしば不可能である。その結果、場合によっては危険な走行状況に気づかない、あるいは、遅れて過ぎて気づく、という危険が存在している。
【発明の開示】
【0006】
こうした背景に基いて、本発明は、車両の傾斜が自動的に感知され、制御装置によって走行指示に変換され、それを用いて危険な走行状況が回避される、というような、特許請求の範囲の請求項1の上位概念部分に挙げられた種類の方法を創出すること、を課題とする。さらに、本発明には、実際の車両の傾斜を知ることが多数の他の走行状態の最適化に有益であり得る、という認識が根底にある。従って、本発明のもう一つの課題は、本発明に従う方法を、車両の傾斜によって影響される他の走行状況も最適化され得るように発展させること、である。
【0007】
上述の課題の解決は、主たる請求項の特徴から生じる。一方、本発明の有利な形態や更なる形態は、下位請求項から読み取ることができる。
【0008】
本発明は、所定の予め与えられる走行状態を感知するセンサ信号を利用してそこから走行指示またはそれに類する物を生成するという制御装置を用いて、車両の走行機能を制御するための方法を前提にしている。この場で述べておくが、この「走行指示」は、運転者に対して行われてもよい。その場合、運転者は、操作装置を介してこれを反映する。あるいは、エンジン、トランスミッション、ブレーキ及びそれに類する装置などの車両の制御ユニットに、あるいは、それに関するアクチュエータに、直接行われてもよい。
【0009】
提示された課題を解決するために、水平に対する車両の傾斜が少なくとも一つの傾斜センサを用いて感知されること、その傾斜センサ信号が制御装置に入力され、傾斜に関連する走行状況の場合に走行指示またはそれに類する物を生成する際に使用されること、が考慮されている。
【0010】
本発明は、縦方向の傾斜または横方向の傾斜が感知されることを考慮している。しかし、両方の傾斜が感知されることが望ましい。何故なら、二つとも危険な走行状態につながる可能性があるからである。
【0011】
本発明の非常に単純な形態によれば、車両が危険な限界傾斜に達すると、警告信号が発せられる。この警告信号は、視覚的または聴覚的であってよい。この態様では、運転者は、困難な運転状況下で常に傾斜計に注目するという必要がなく、むしろ分かり易い視覚的あるいは聴覚的信号によって警告されるので、いずれの場合でも負担が軽減される。
【0012】
本発明の別の形態によれば、車両が転倒するような積荷配分に達すると、警告信号が発せられる。これは、例えばベルトローダーまたはこれと同様の装置を介して重量貨物を搭降載しようとする際に、生じ得る。この場合、本発明のさらなる形態により、その車両に付属されその車両と制御技術的に結合されている搭降載機の運転(動作)が、例えばその搭降載プロセスが自動的に中断されるというように、制御され得る。
【0013】
本発明のもう一つの形態によれば、特に車載クレーンまたはこれと類似の装置の運転(動作)を制御するために、感知された車両の傾斜から安全な限界積荷が求められる。車載クレーンが傾斜しているとき、そのことは、限界負荷ないしクレーンマストの最大許容張出し幅に影響を与える。センサの傾斜情報は、限界負荷あるいはマストの最大可能張出し幅を算出するための入力値を引き渡すことができる。
【0014】
多くの走行機能にとって、例えばスピン(横滑り)特性や危険な限界傾斜などにとって、車両の重心の位置は重要である。従って、本発明のもう一つの形態によると、感知された車両の傾斜から、場合によっては同様に感知される車輪への重量配分との関連で、車両の重心の位置が求められる。車両の重心の位置が分かれば、縦方向および横方向の車両の危険な限界傾斜がより正確に決定され得る。さらに、カーブでの車両のスピン及び/または転倒を防止することを目的としたABSシステム、EBSシステム(電子ブレーキシステム)およびこれらと同類のシステムの機能にとって重要なパラメーターが、より正確に決定され得る。これらシステムは、現在、車両の重心の実際の位置を識別しないので、これらシステムは、通常、最も可能性の高い重心位置に対してパラメーター化されている。このことは、危険な走行状態に達するかなり前において、これらシステムがエンジン制御やブレーキシステムへ介入してしまう、ということにしばしばつながっている。
【0015】
車両の走行指示のために制御装置内で処理されるもう一つの重要なパラメーターは、エンジン制御から報じられる駆動トルクまたは制動トルクから明らか生じる、正ないし負の走行抵抗である。この走行抵抗は、例えば、実際の限界ギヤ、実際の状況にとって適切な発進ギヤ、などの算出にとって基準である。走行抵抗の算出は、その時々の車両の傾斜を考慮することにより、以下に例に基いて説明されるように、かなり改善され得る、ことが実証され得る。
【0016】
<限界ギヤの算出>
その時々の車両の縦方向の傾斜を知ることにより、実際の限界ギヤ(上り勾配を速度を落とすことなく走行できるギヤ、ないしは、下り勾配を増速なく走行できるギヤ)を、駆動トルクないし制動トルクだけからよりも、より正確に算出することができる。
【0017】
<発進ギヤの算出>
適切な発進ギヤの選択は、本質的に、実際の走行抵抗の計算に基づいている。車両が最後に平坦路を走り、丁度始まった勾配(上りまたは下り)のところで停止する場合、走行抵抗の計算は、最後に測定された駆動トルクまたは制動トルクに基づくだけで丁度始まった勾配を算入しないと、不正確である。同様のことは、車両が最後に下り勾配を走って上り勾配が始まったところで停止する場合、あるいは、車両が上り勾配を走行して下り勾配が始まったところで停止する場合、あるいは、車両が上りまたは下り勾配からきて平坦路が始まったたところで停止する場合、にも当てはまる。傾斜センサは、これらの状況を認識し、好適な発進ギヤを算出するために、追加情報として制御装置の中で使用することができる。
【0018】
<発進補助機能の改善>
車両の縦方向の傾斜を算入して実際の走行抵抗を知ることは、発進補助機能の事前パラメーター化(Vorparametrisierung)にも利用できる。車両が上り勾配で停止している場合、車両の後ずさりを防ぐために、ブレーキが相対的に長く掛けられていなければならない。一方、車両が下り勾配で停止している場合、ブレーキは長く掛け過ぎられてはいけない。なぜなら、そうしないと、パワートレーンがねじれ状態に置かれて、ブレーキを解除する瞬間に車両が勢いよく飛び出すからである。車両が平坦路で停止している場合、ブレーキをかけて車両を停止させておく必要はない。ブレーキの介入は、むしろ障害であるかもしれない。この場合でも、車両がブレーキに対抗して発進しようとしたり、ブレーキを解除すると飛び出す、という恐れがある。実際の車両の縦方向の傾斜を考慮すると、発進補助機能を最適化することができる。
【0019】
<算出された走行抵抗の妥当性>
実際の車両の縦方向の傾斜を知ることで、制御装置によって算出された走行抵抗の妥当性を審査することができる。例えば走行抵抗の計算から上り勾配が明らかになったものの、センサが下り勾配を感知している場合、計算間違い及び制御装置の機能異常を推定することができる。
【0020】
<補助駆動装置の認識>
算出された走行抵抗から、走行路面の傾斜を算出することができる。算出された走行路面の傾斜と傾斜センサによって示された走行路面の傾斜とが異なる場合、それは、エンジンで発生したトルクの一部を負荷運転で吸収するというパワーテイクオフのためであり得る。
【0021】
<制動中、半クラッチ中、あるいは、特殊な使用中の、走行抵抗の算出>
制動中、半クラッチ中、または、クラッチ解除中、実際の走行抵抗は、従来の制御装置では実際の走行路面の傾斜を知ることなしに計算することはできない。傾斜センサによって測定される走行路面の傾斜を活用することは、これらの走行状態でも走行抵抗を正しく計算することを可能にする。これによって、以下の機能が実現ないし改善され得る。
【0022】
<パーマネントブレーキの制御性能>
パーマネントブレーキが、その時々において変化し得る実際の走行抵抗の考慮の下で使用されると、パーマネントブレーキの制御性能、すなわち、それぞれの走行抵抗に対するブレーキ等の適用、が改善され得る。
【0023】
<ふさわしいブレーキの選択>
その時々において変化し得る実際の走行抵抗を用いて、どのブレーキが運転者の実際の制動意思を最も効果的に反映できるか、を評価することができる。さらに、異なるブレーキシステムのどの組合せが運転者の実際の制動意思を最も良く反映できるかを選択することができる。これらのブレーキシステムは、無磨耗式に、あるいは、ブレーキライニング磨耗式に形成され得る。
【0024】
<制動力の配分>
路面の傾斜を考慮しながら、その時々において変化し得る実際の走行抵抗を知ることで、ブレーキの余裕負荷計算(Freilastberechnung)を行うことができる。こうして、どの車軸のどのホイールがどれほど強くブレーキされ得るのかを、滑り摩擦が発生する恐れなしに、突き止めることができる。このようなブレーキの余裕負荷計算を用いれば、タイヤの磨耗も各ホイールに有利に配分できる。
【0025】
<特殊な利用>
従来の制御装置による走行抵抗の計算は、車両が若干の距離をほぼ一定の影響パラメーターで走行すること、が前提となっている。この前提がない場合(例えば、ゴミ収集車のような「ゴー・ストップ」運転を繰り返すような特殊車両の場合)、走行抵抗は限られた形でしか計算できない。実際の路面傾斜を算入すれば、これらの車両の場合でも、走行抵抗が算出され得る。
【0026】
<勾配変化の認識>
特にオフロードを走行する車両の場合、勾配の変化を素早く認識することは重要である。例えば車両が平坦路を走行していて、運転者が突然の上り勾配の前で勢いを得るために加速すると、制御装置内に保存されている走行ストラテジーがギヤをシフトアップする、という条件が満たされる(車両の比較的小さい走行抵抗、出力余剰(Leistungsueberschuss)、及び、加速)。車両が上りに入っても、走行抵抗の計算が勾配を認識するまで、一定の時間がかかる。走行抵抗の計算が時間的に非常に遅れると、その時に必要なシフトダウンの代わりに、当該上りにおいて、別のシフトアップに至ってしまう。車両はそのことにより停止さえするかもしれない。傾斜センサによって測定される走行路面の傾斜が走行抵抗計算の中に算入されると、制御装置はすぐに突然の上り勾配に反応し、必要なシフトダウンを指示する。
【0027】
<シフト可能なギヤの計算>
走行抵抗の計算に基づいて、上り勾配走行中や下り勾配走行中でのシフト操作中の失速または増速を算出することができる。傾斜センサから送られる路面の傾斜を考慮することで、当該計算を正確にすることができる。
【0028】
<波状区間の認識>
波状区間では、走行抵抗は絶えずその兆候(Vorzeichen)を変える。シフトストラテジーは、従来の制御装置の場合、その制御装置が走行抵抗の変化に素早く反応して当該走行状況にとって都合の良いギヤを選択する、というようにプログラミングされている。波状区間では、これは、常に新しいギヤを要求することになる。これによって、オフロードの状況次第では、従来の制御方式では車両の停止さえもあり得る。傾斜センサから送られる実際の路面傾斜を考慮すれば、そのような波状区間を認識することができる。このとき、シフトストラテジーは、実際の状況に適合することができる。
【0029】
<アイドリングでの走行(惰力走行)>
従来の車両では、車両が対応する惰力で走行する場合、燃料を節約するために、制御装置はパワートレーンを解放する。下り勾配が増して車両が大きく加速する場合には、パワートレーンは直ちに締結されなければならないので、勾配の角度を知ることが重要である。傾斜センサがその情報を発信して、その信号は制御装置の中で利用される。その結果、この駆動力無しの前進段階は、適切に安全が図られる。
【0030】
本発明のもう一つの形態では、感知された車両の傾斜が、車両の流体充填式ユニットにおける流体の片寄り(分布)のために評価される、ということが考慮される。車両が長時間に亘って傾斜する路面を走行する、あるいは、傾斜する路面で停止した状態で動作される場合、流体が満たされたすべてのユニット(例、エンジン、トランスミッション、ブレーキなど)において、流体が一箇所に片寄ってしまうと、潤滑あるいは当該ユニットによって果たされるべき機能に問題が生じる可能性がある。例えば、噴射オイル用に設計されたシールが、片寄りによって生じた静圧に持ちこたえられない、という可能性も生じる。また、この場合、オイルがもはや吸引パイプを覆わないため、オイルの吸引がもはや機能しなくなるという更なる問題が生じる可能性がある。傾斜センサは、例えばタイマーと接続されて、このようなオイルの片寄りに至る条件を検知し、車両の状態が危険になる前あるいは停止運転が損傷に至る前に、警告を発することができる。このような警告は、所定の車両の傾斜が予め規定された時間より長く継続したときに発せられることが望ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の走行状態を感知するセンサ信号を使用してそこから走行指示またはそれに類する物を生成する制御装置を用いて、車両の走行機能を制御するための方法であって、
水平に対する車両の傾斜が、少なくとも一つの傾斜センサを用いて感知され、
当該傾斜センサの信号が、前記制御装置に入力され、傾斜に関連する走行状況の場合に走行指示またはそれに類する物を生成する際に、使用される
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
車両の縦方向の傾斜、及び/または、横方向の傾斜が感知される
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
車両が危険な限界傾斜に達すると、警告が発せられる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
車両が傾くような積荷配分に達すると、警告が発せられる
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
場合によって、車両に付属され当該車両と制御技術的に結合された搭降載機の動作が、車両の傾斜が防止されるように、制御される
ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
感知された車両の傾斜から、安全な限界積荷が求められる
ことを特徴とする、車載クレーンまたはそれに類似する装置の動作を制御するための、請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
感知された車両の傾斜から、及び、同様に感知された車輪への重量配分から、車両の重心の位置が求められる
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
車両の重心の位置は、車両の安全な限界傾斜を決定するために評価される
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
車両の重心の位置は、ABSシステム、EBSシステム、または、これらと類似の装置、のパラメーター化のために評価される
ことを特徴とする請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
感知された車両の傾斜は、その時々の正ないし負の走行抵抗を求めるために評価される
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
感知された車両の傾斜は、車両の流体充填式ユニットの流体の片寄り(分布)を求めるために評価される
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
所定の車両の傾斜が予め規定された時間より長く継続したときに、警告信号が生成される
ことを特徴とする請求項11に記載の方法。

【公表番号】特表2008−540225(P2008−540225A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510429(P2008−510429)
【出願日】平成18年4月15日(2006.4.15)
【国際出願番号】PCT/EP2006/003491
【国際公開番号】WO2006/119838
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(500045121)ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト (312)
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
【Fターム(参考)】