説明

薄膜製造装置

【課題】シワが発生していない状態の可撓性基板の表面に薄膜を良好な品質で成膜することができる薄膜製造装置を提供する。
【解決手段】薄膜製造装置100は、可撓性基板20に圧接される第二電極部材120の前面121は、長手方向と直交する断面形状が、中央ほど突出した円弧状の凸曲面に形成されている。このため、所定の張力が作用した状態で第二電極部材120に圧接される可撓性基板20に長手方向と直交する方向にも張力が作用することになり、この方向にシワが発生することが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺形状の可撓性基板の一面に成膜室で薄膜を成膜する薄膜製造装置に関し、特に、可撓性基板の成膜と搬送とを交互に繰り返すステッピングロール方式の薄膜製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、薄膜光電変換素子の製造において、例えば、アモルファスシリコン(a−Si)を主原料とする光電変換層を、長尺の高分子材料あるいはステンレス鋼などの金属からなる可撓性基板上に形成することは生産性の点で優れている。
【0003】
このような光電変換層をはじめとして、薄膜光電変換素子には複数の層が形成される。長尺の可撓性基板上に複数層を形成するための薄膜製造装置には、主にロールツーロール方式のものとステッピングロール方式のものとがある。
【0004】
ロールツーロール方式は、成膜室を連続的に移動していく可撓性基板上に連続的に成膜していく方式であり、ステッピングロール方式は、成膜室内で可撓性基板を一旦停止させて成膜した後、成膜の終わった可撓性基板部分をその成膜室から次の成膜室へと送り出す方式である。
【0005】
成膜にはプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法が広く用いられている。プラズマCVD法を用いたステッピングロール方式の場合、成膜室開放−基板の1フレーム移動−成膜室封止−原料ガス導入−圧力制御−放電開始−放電終了−原料ガス停止−ガス引き−成膜室開放、の一連の操作が繰り返される。
【0006】
ステッピングロール方式の成膜は、ロールツーロール方式の成膜に比べ、隣接する成膜室とのガス相互拡散がない、装置がコンパクトになる、といった点で優れている。
【0007】
ここで、従来のステッピングロール方式の薄膜製造装置の構造および機能を図5ないし図7を参照して以下に簡単に説明する。図5および図6に示すように、薄膜製造装置1は、可撓性基板20にa−Siなどの薄膜を形成するための成膜室として、複数のプラズマCVD室2を有している。
【0008】
薄膜製造装置1は、可撓性基板20の給送ロール3および巻取りロール4を有している。複数のプラズマCVD室2、給送ロール3および巻取りロール4を有する各部屋は真空容器となっており、各部屋毎は仕切弁5にて仕切られている。
【0009】
可撓性基板20には搬送方向に常に一定張力が掛かっている。可撓性基板20は、給送ロール3から送り出されて各プラズマCVD室2を通って所定の成膜処理が施され、巻取りロール4に巻き取られていくようになっている。
【0010】
プラズマCVD室2には、電圧印加機構である高電圧電源7に接続された高電圧電極8とヒータ9を内蔵した接地電極10が配置されている。成膜時には、接地電極10が可撓性基板20を可撓性基板面に対して垂直方向から押え、可撓性基板20は、接地電極10に接触する。なお、図7は可撓性基板20に表面形状が平面の接地電極(以降、平面接地電極10と呼ぶ)を押圧する前の状態を示す三面図である。
【0011】
上述のような構成において、従来の薄膜製造装置1では、高電圧電極8への高周波電圧の印加により、平面接地電極10と成膜空間にはプラズマが発生し、図示しない導入管から導入された原料ガスが分解され、可撓性基板20にa−Siなどの薄膜が形成されるようになっている。
【0012】
ここで、上述のような薄膜製造装置1の要部構造を、図8ないし図10に基づいて、さらに詳細に説明する。図8は成膜室開放時の断面図、図9は成膜室封止時の断面図である。
【0013】
まず、図8に示すように、成膜室であるプラズマCVD室2は、断続的に搬送されてくる可撓性基板20の後面側および前面側に函状の上部成膜室壁体21と下部成膜室壁体22が対向配置されている。下部成膜室には高電圧電源7に接続された高電圧電極8が、上部成膜室にはヒータ9を内蔵した平面接地電極10が設けられている。
【0014】
成膜時には、図9に示すように、上部成膜室壁体21が下部成膜室壁体22側へ前進し、可撓性基板20が平面接地電極10に押えられて下部成膜室壁体22の開口側の端面に取り付けられたシール材22aに接触する。
【0015】
これにより、下部成膜室壁体22と可撓性基板20によって排気管23に連通する気密に密閉された成膜空間が形成される。高電圧電極8に高周波電圧が印加されると、成膜空間にプラズマが発生し、図示しない導入管から導入された原料ガスが分解され、可撓性基板20にa−Si膜などが形成される。
【0016】
なお、薄膜太陽電池の分野では、例えば、基板の一面上に形成された薄膜光電変換素子の透明電極層と他面上に形成された金属電極層とを、基板に開けられた貫通孔を通る導体を介して接続する構造が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0017】
これにより、電流がシート抵抗の高い透明電極層を流れる距離が短くなるようにしている。このような薄膜光電変換素子の形成をプラズマCVD室2内で行う場合は、可撓性基板20に形成された貫通孔を介して、上部成膜室壁体21と可撓性基板20によって囲まれた非成膜空間が成膜空間に連通することになる。
【0018】
そのため、成膜空間と共に非成膜空間も真空気密に保つ必要がでてくる。このような場合には、プラズマCVD室2に次の図10に示すようなシール構造を設けることにより、非成膜空間をも真空に保つことができるようになる。
【0019】
図10は成膜室のシール構造の要部断面図である。ただし、図10では、図8および図9に示した要素と同一の要素については同一の符号を付し、その説明の詳細は省略する。
【0020】
上部成膜室壁体21の端面には二つの帯状端板21b,21cが、下部成膜室壁体22の端面には二つの帯状端板22b,22cが、それぞれネジ止めされ、その間に形成されるアリ溝にシール材21a,22aを脱落しないように保持している。
【0021】
成膜時には、可撓性基板20を上部成膜室側の帯状端板21b,21c表面およびその間のシール材21aと、可撓性基板20を下部成膜室側の帯状端板22b,22c表面およびその間のシール材22aとで挟む。それにより、図10に示した上部成膜室および下部成膜室の成膜空間および非成膜空間が真空に保たれる。
【0022】
ここで、前述した薄膜製造装置1において、可撓性基板20に平面接地電極10を押圧した状態を図11および図12に示す。この時、可撓性基板20は搬送方向両側に搬送張力がかかった状態、かつ、可撓性基板20の両端が仕切弁5によって固定されている。
【0023】
加熱した平面接地電極10を可撓性基板20に接触させると、可撓性基板20は熱膨張し、平面接地電極10との接触部において平面接地電極10の搬送方向両端部付近を起点として搬送方向に沿ったシワが発生する。
【0024】
例えば、可撓性基板20に耐熱性のある1m幅のポリイミドフィルムを用い、その幅方向に直交する搬送方向に200N程度の張力を加え、ヒータ9を温度250℃に加熱して平面接地電極10を可撓性基板20に接触させると、その張力と熱により、可撓性基板20の搬送方向に1m当たり4mm程度の伸びが生じ、幅方向は2mm程度収縮する。
【0025】
この幅方向の収縮により、可撓性基板20にはその搬送方向にウェーブ状のシワ(ウェーブ高さ約2mm〜3mm)が発生するようになる。シワが発生したままの可撓性基板20を上部成膜室と下部成膜室の間に挟み、真空保持して成膜すると、可撓性基板20の位置に依って高電圧電極8との距離が異なってくる。
【0026】
このため、形成されるa−Si膜などの薄膜の膜厚分布が不均一になる。その結果、薄膜特性が著しく低下したり、色むらが生じて外観上の商品価値が低下したりするといった問題が生じる。
【0027】
従来、このような問題を解決するため、例えば、可撓性基板縁部に、弾性のある唇状体の先端を押し当て、可撓性基板を接地電極で成膜室内に押し込む際に、唇状体の先端を可撓性基板外方に向けて滑らせることによって、唇状体の摩擦力で可撓性基板を外方へ放射状に伸ばし、可撓性基板にできたシワを伸ばした状態で薄膜を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0028】
同じく、このような問題を解決するため、例えば、薄膜製造装置を、プラズマCVD室の可撓性基板の搬送方向両側で、第一保持機構部によって可撓性基板の幅方向における一端部を挟持し、第二保持機構部によって可撓性基板の幅方向における他端部を挟持し、第二保持機構部で挟持された他端部を引張機構部によって可撓性基板の幅方向へ引っ張るように構成する。
【0029】
これにより、可撓性基板のシワが伸ばされ、その平坦性が向上し、膜厚分布の良好な薄膜を安定して形成する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】特開平06−342924号公報
【特許文献2】特開平08−250431号公報(段落番号0009〜0010)
【特許文献3】特開2005−72408公報(段落番号0019〜0049)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
上述した特許文献2の技術では、可撓性基板に生じたシワを唇状体で伸ばしたうえで薄膜を形成する方法の場合、唇状体の先端を摩擦力によって滑らせる。このため、唇状体が磨耗し、その際発生する塵が可撓性基板上に堆積して、薄膜特性の低下や不安定化を招くことがある。
【0032】
さらに、繰り返し動作による磨耗や加熱によって唇状体が劣化し、プロセス途中からそのシワ伸ばし効果が小さくなったり、または、なくなったりする恐れもある。また、このような唇状体の交換には手間がかかりメンテナンス性が悪い。
【0033】
一方、特許文献3の技術では、シワ伸ばし効果が小さい。第一保持機構部と第二保持機構部の間の可撓性基板は接地電極と接触していないため、シワの発生量は、可撓性基板の成膜範囲(接地電極との接触部)のシワ発生量より少ない。
【0034】
このとき、第一保持機構部と第二保持機構部間のシワを伸ばす動作を行うと、第一保持機構部と第二保持機構部の間のシワが伸びきり、第一保持機構部と第二保持機構部間の距離は一定に保たれる。
【0035】
可撓性基板の成膜範囲(接地電極との接触部)のシワ量が第一保持機構部と第二保持機構部間のシワ量より多いため、可撓性基板の成膜範囲(接地電極との接触部)のシワは伸ばしきれずに残る。その結果、薄膜特性が特許文献2の技術より劣る。
【0036】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、シワが発生していない状態の可撓性基板の表面に薄膜を良好な品質で成膜することができる薄膜製造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明の薄膜製造装置は、長尺形状の可撓性基板の一面に成膜室で薄膜を成膜する薄膜製造装置であって、可撓性基板を長手方向に搬送して所定の張力が作用した状態で成膜室に位置させる基板搬送機構と、成膜室で可撓性基板の薄膜が成膜される一面に離間して対向される第一電極部材と、成膜室で可撓性基板の他面に圧接される第二電極部材と、可撓性基板に対向した第一電極部材と第二電極部材とに所定の電位差を発生させる電圧印加機構と、第二電極部材を所定温度に発熱させる電極加熱機構と、を有し、第二電極部材は、可撓性基板が圧接される表面の長手方向と直交する断面形状が、中央ほど突出した円弧状の凸曲面に形成されている。
【0038】
従って、本発明の薄膜製造装置では、基板搬送機構が可撓性基板を長手方向に搬送して所定の張力が作用した状態で成膜室に位置させる。その成膜室では可撓性基板の薄膜が成膜される一面に第一電極部材が離間して対向され、可撓性基板の他面に第二電極部材が圧接される。このように可撓性基板に対向した第一電極部材と第二電極部材とに電圧印加機構が所定の電位差を発生させ、第二電極部材を電極加熱機構が所定温度に発熱させる。このため、この加熱されて通電される可撓性基板の一面に薄膜が成膜される。ただし、この可撓性基板に圧接される第二電極部材の表面は、長手方向と直交する断面形状が、中央ほど突出した円弧状の凸曲面に形成されている。このため、所定の張力が作用した状態で第二電極部材に圧接される可撓性基板に長手方向と直交する方向にも張力が作用することになり、この方向にシワが発生することが防止される。
【0039】
また、上述のような薄膜製造装置において、第一電極部材は、可撓性基板が対向する表面の長手方向と直交する断面形状が、第二電極部材の凸曲面に対応した円弧状の凹曲面に形成されていてもよい。
【0040】
また、上述のような薄膜製造装置において、第二電極部材は、可撓性基板が圧接されて発熱される所定範囲の表面から長手方向の両側に、端部まで温度が徐々に低下する加熱緩和部材が形成されていてもよい。
【0041】
また、上述のような薄膜製造装置において、第二電極部材は、加熱緩和部材が長手方向で電極加熱機構の両端より外側に突出していてもよい。
【0042】
また、上述のような薄膜製造装置において、第二電極部材は、加熱緩和部材が長手方向で第一電極部材の両端より外側に突出していてもよい。
【0043】
また、上述のような薄膜製造装置において、第二電極部材は、加熱緩和部材が長手方向で外側ほど板厚が減少する形状に形成されていてもよい。
【0044】
また、上述のような薄膜製造装置において、第二電極部材は、加熱緩和部材の可撓性基板が圧接される表面の長手方向と平行な断面形状が円弧状の凸曲面に形成されていてもよい。
【0045】
また、上述のような薄膜製造装置において、第二電極部材は、加熱緩和部材の可撓性基板が圧接される表面の長手方向と直交する断面形状も、中央ほど突出した円弧状の凸曲面に形成されていてもよい。
【0046】
なお、本発明の各種の構成要素は、必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等でもよい。
【0047】
また、本発明で云う薄膜とは、可撓性基板に比較して充分に薄い膜を意味しており、半導体技術で一般的に厚膜と呼称される薄膜も許容する。また、本発明で云う円弧状とは、円滑に湾曲して突出した形状を意味しており、幾何学的に正確な正円の一部である必要はない。
【発明の効果】
【0048】
本発明の薄膜製造装置では、可撓性基板に圧接される第二電極部材の表面は、長手方向と直交する断面形状が、中央ほど突出した円弧状の凸曲面に形成されている。このため、所定の張力が作用した状態で第二電極部材に圧接される可撓性基板に長手方向と直交する方向にも張力が作用することになり、この方向にシワが発生することが防止される。従って、シワが発生していない状態の可撓性基板の表面に薄膜を良好な品質で成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態の薄膜製造装置であるプラズマCVD装置の第二電極部材である曲面接地電極の構造を示す三面図である。
【図2】プラズマCVD装置で曲面接地電極が可撓性基板に圧接されていない状態を示す模式的な横断平面図である。
【図3】プラズマCVD装置で曲面接地電極が可撓性基板に圧接されている状態を示す模式的な横断平面図である。
【図4】一変形例の第二電極部材である曲面接地電極が可撓性基板に圧接される状態を示す三面図である。
【図5】一従来例の薄膜製造装置であるプラズマCVD装置の内部構造を示す模式的な縦断側面図である。
【図6】一従来例のプラズマCVD装置の内部構造を示す模式的な横断平面図である。
【図7】第二電極部材である平面接地電極と可撓性基板との関係を示す三面図である。
【図8】他の従来例のプラズマCVD装置の成膜室であるプラズマCVD室で平面接地電極が可撓性基板に圧接されていない状態を示す模式的な縦断側面図である。
【図9】平面接地電極が可撓性基板に圧接されている状態を示す模式的な縦断側面図である。
【図10】プラズマCVD室の要部を示す縦断側面図である。
【図11】平面接地電極が圧接されることで可撓性基板にシワが発生する状態を説明する模式図である。
【図12】平面接地電極が圧接されることで可撓性基板にシワが発生する状態を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明の実施の一形態を図1ないし図3を参照して以下に説明する。ただし、本実施の形態に関して前述した一従来例と同一の部分は、同一の名称および符号を使用して詳細な説明は省略する。
【0051】
本実施の形態の薄膜製造装置であるプラズマCVD装置100も、図2および図3に示すように、従来と同様に、長尺形状の可撓性基板20の一面に成膜室であるプラズマCVD室2で薄膜を成膜する。
【0052】
このため、本実施の形態のプラズマCVD装置100は、可撓性基板20を長手方向に搬送して所定の張力が作用した状態でプラズマCVD室2に位置させる基板搬送機構が、給送ロール3および巻取りロール4で形成されている。
【0053】
また、プラズマCVD室2で可撓性基板20の薄膜が成膜される一面に離間して対向される第一電極部材である高電圧電極110と、プラズマCVD室2で可撓性基板20の他面に圧接される第二電極部材である曲面接地電極120と、可撓性基板20に対向した高電圧電極110と曲面接地電極120とに所定の電位差を発生させる電圧印加機構である高電圧電源7と、曲面接地電極120を所定温度に発熱させる電極加熱機構であるヒータ9と、を有する。
【0054】
ただし、本実施の形態のプラズマCVD装置100では、従来とは相違して、図1ないし図3に示すように、曲面接地電極120は、可撓性基板20が圧接される表面である前面121の長手方向と直交する断面形状が、中央ほど突出した円弧状の凸曲面で形成されている。
【0055】
このため、本実施の形態のプラズマCVD装置100では、接地電極の前面121が、いわゆる蒲鉾形に形成されている。そこで、この接地電極を本実施の形態では曲面接地電極120と呼称している。
【0056】
なお、高電圧電極110は、可撓性基板20が対向する表面である後面111の長手方向と直交する断面形状が、曲面接地電極120の凸曲面に対応した円弧状の凹曲面に形成されている。
【0057】
さらに、曲面接地電極120は、可撓性基板20が圧接されて発熱される所定範囲の表面から長手方向の両側に、端部まで温度が徐々に低下する加熱緩和部材122が形成されている。
【0058】
この曲面接地電極120は、加熱緩和部材122が長手方向でヒータ9の両端より外側に突出しているとともに、高電圧電極110の両端より外側に突出している。
【0059】
この曲面接地電極120は、加熱緩和部材122の可撓性基板20が圧接される前面123の長手方向と平行な断面形状が円弧状の凸曲面に形成されている。このため、曲面接地電極120は、加熱緩和部材122が長手方向で外側ほど板厚が減少している。
【0060】
なお、曲面接地電極120は、加熱緩和部材122の可撓性基板20が圧接される前面123の長手方向と直交する断面形状も、中央ほど突出した円弧状の凸曲面に形成されている。
【0061】
上述のような構成において、本実施の形態のプラズマCVD装置100では、図2に示すように、従来と同様に、基板搬送機構が可撓性基板20を長手方向に搬送して所定の張力が作用した状態でプラズマCVD室2に位置させる。
【0062】
そのプラズマCVD室2では可撓性基板20の薄膜が成膜される一面に高電圧電極110が離間して対向され、図1および図3に示すように、可撓性基板20の他面に曲面接地電極120が圧接される。この時、可撓性基板20は搬送方向両側に搬送張力が作用したまま、かつ、可撓性基板20の両端が仕切弁5によって固定された状態となる。
【0063】
このように可撓性基板20に対向した高電圧電極110と曲面接地電極120とに高電圧電源7が所定の電位差を発生させ、曲面接地電極120をヒータ9が所定温度に発熱させる。このため、この加熱されて通電される可撓性基板20の一面にプラズマCVDにより薄膜が成膜される。
【0064】
ただし、本実施の形態のプラズマCVD装置100では、可撓性基板20に圧接される曲面接地電極120の前面121の長手方向と直交する断面形状が、中央ほど突出した円弧状の凸曲面に形成されている。
【0065】
このため、所定の張力が作用した状態で曲面接地電極120に圧接される可撓性基板20に長手方向と直交する方向にも張力が作用することになり、この方向にシワが発生することが防止される。
【0066】
より詳細には、本実施の形態のプラズマCVD装置100でも、曲面接地電極120を可撓性基板20に接触させた瞬間に可撓性基板20は熱膨張し、曲面接地電極120との接触部から可撓性基板20の搬送方向に沿ってシワが発生する。
【0067】
さらに曲面接地電極120を前進させて可撓性基板20を垂直方向に押圧すると、可撓性基板20は搬送方向の張力により現状位置を保持しようしているために曲面接地電極120に密着する。
【0068】
ここで、曲面接地電極120の前面からなる曲面の半径は、例えば、曲面の弧長が可撓性基板20の横幅+熱膨張分以上となる寸法となっている。このため、上述のように曲面接地電極120に圧接された可撓性基板20のシワを解消することができる。
【0069】
しかも、本実施の形態のプラズマCVD装置100では、前述のように高電圧電極110は、可撓性基板20が対向する表面である後面111の長手方向と直交する断面形状が、曲面接地電極120の凸曲面に対応した円弧状の凹曲面に形成されている。
【0070】
このため、曲面接地電極120の凸曲面からなる前面121に圧接されて湾曲した可撓性基板20に、高電圧電極110の後面111が平行に対向する。従って、凸曲面として湾曲した可撓性基板20の前面に良質な薄膜を形成することができる。
【0071】
なお、曲面接地電極120を可撓性基板20に押圧した際、曲面接地電極120の搬送方向両端部付近(シワの発生起点付近)は熱膨張部と非膨張部の境界(以降、熱膨張境界線と呼ぶ)となり、シワが残りやすいことになる。
【0072】
しかし、本実施の形態のプラズマCVD装置100では、曲面接地電極120は、可撓性基板20が圧接されて発熱される所定範囲の表面から長手方向の両側に、端部まで温度が徐々に低下する加熱緩和部材122が形成されている。
【0073】
このため、両端部ほど温度が低くなり、熱膨張境界線が成膜範囲から遠ざかるので、熱膨張境界線におけるシワの量が減少する。つまり、熱膨張境界線の一部のシワも製膜範囲から遠ざかり、薄膜の膜厚分布の均一性が向上し、特性の良い薄膜を形成することができる。
【0074】
特に、加熱緩和部材122が長手方向で外側ほど板厚が減少している。従って、上述のように端部まで温度が徐々に低下する加熱緩和部材122が簡単な構造で実現されている。
【0075】
しかも、曲面接地電極120は、加熱緩和部材122が長手方向でヒータ9の両端より外側に突出しているとともに、高電圧電極110の両端より外側に突出している。このため、可撓性基板20のシワを成膜範囲より外側に位置させることができる。
【0076】
さらに、曲面接地電極120は、加熱緩和部材122の可撓性基板20が圧接される前面123の長手方向と平行な断面形状が円弧状の凸曲面に形成されている。
【0077】
従って、仕切弁5で両側が保持された可撓性基板20に曲面接地電極120が圧接されても、可撓性基板20が加熱緩和部材122の端部で曲折されてシワが発生することも良好に防止される。
【0078】
さらに、曲面接地電極120は、加熱緩和部材122の可撓性基板20が圧接される前面123の長手方向と直交する断面形状も、中央ほど突出した円弧状の凸曲面に形成されている。
【0079】
このため、可撓性基板20は加熱緩和部材122に圧接された部分にもシワが発生しにくく、より良好にシワの発生を抑制して良質な薄膜を形成することができる。
【0080】
なお、本発明は本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で各種の変形を許容する。例えば、上記形態では曲面接地電極120の可撓性基板20が圧接される前面121が凸曲面からなるとともに、その長手方向の両側に加熱緩和部材122が形成されていることを例示した。
【0081】
しかし、図4に示すように、曲面接地電極120の可撓性基板20が圧接される前面121が凸曲面からなり、その長手方向の両側に加熱緩和部材122が形成されていなくともよい。
【0082】
この場合、シワを防止する機能は低下するが、曲面接地電極120の構造を簡単にして生産性を向上させることができ、薄膜の成膜範囲も拡大することができる。つまり、加熱緩和部材122の有無には一長一短があるため、要求される仕様などを配慮して形成の有無が判断される。
【符号の説明】
【0083】
1 薄膜製造装置
2 プラズマCVD室
3 給送ロール
4 巻取ロール
5 仕切弁
7 高電圧電源
8 高電圧電極
9 ヒータ
10 平面接地電極
20 可撓性基板
21 上部成膜室壁体
21a シール材
21b,21c 帯状端板
22 下部成膜室壁体
22a シール材
22b,22c 帯状端板
23 排気管
100 プラズマCVD装置
110 高電圧電極
111 後面
120 曲面接地電極
121 前面
122 加熱緩和部材
123 前面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺形状の可撓性基板の一面に成膜室で薄膜を成膜する薄膜製造装置であって、
前記可撓性基板を長手方向に搬送して所定の張力が作用した状態で前記成膜室に位置させる基板搬送機構と、
前記成膜室で前記可撓性基板の前記薄膜が成膜される一面に離間して対向される第一電極部材と、
前記成膜室で前記可撓性基板の他面に圧接される第二電極部材と、
前記可撓性基板に対向した前記第一電極部材と前記第二電極部材とに所定の電位差を発生させる電圧印加機構と、
前記第二電極部材を所定温度に発熱させる電極加熱機構と、を有し、
前記第二電極部材は、前記可撓性基板が圧接される表面の前記長手方向と直交する断面形状が、中央ほど突出した円弧状の凸曲面に形成されている薄膜製造装置。
【請求項2】
前記第一電極部材は、前記可撓性基板が対向する表面の前記長手方向と直交する断面形状が、前記第二電極部材の前記凸曲面に対応した円弧状の凹曲面に形成されている請求項1に記載の薄膜製造装置。
【請求項3】
前記第二電極部材は、前記可撓性基板が圧接されて発熱される所定範囲の表面から前記長手方向の両側に、端部まで温度が徐々に低下する加熱緩和部材が形成されている請求項1または2に記載の薄膜製造装置。
【請求項4】
前記第二電極部材は、前記加熱緩和部材が前記長手方向で前記電極加熱機構の両端より外側に突出している請求項3に記載の薄膜製造装置。
【請求項5】
前記第二電極部材は、前記加熱緩和部材が前記長手方向で前記第一電極部材の両端より外側に突出している請求項4に記載の薄膜製造装置。
【請求項6】
前記第二電極部材は、前記加熱緩和部材が前記長手方向で外側ほど板厚が減少している請求項3ないし5の何れか一項に記載の薄膜製造装置。
【請求項7】
前記第二電極部材は、前記加熱緩和部材の前記可撓性基板が圧接される表面の前記長手方向と平行な断面形状が円弧状の凸曲面に形成されている請求項3ないし6の何れか一項に記載の薄膜製造装置。
【請求項8】
前記第二電極部材は、前記加熱緩和部材の前記可撓性基板が圧接される表面の前記長手方向と直交する断面形状も、中央ほど突出した円弧状の凸曲面に形成されている請求項3ないし7の何れか一項に記載の薄膜製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−174288(P2010−174288A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16582(P2009−16582)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】