説明

表示装置用配線構造

【課題】450〜600℃程度の高温下に曝されてもヒロックが発生せず高温耐熱性に優れており、配線構造全体の電気抵抗(配線抵抗)も低く抑えられており、更にフッ酸耐性にも優れた表示装置用配線構造を提供する。
【解決手段】本発明の表示装置用配線構造は、基板側から順に、Ta、Nb、Re、Zr、W、Mo、V、Hf、Ti、CrおよびPtよりなる群(X群)から選択される少なくとも一種の元素と、希土類元素の少なくとも一種とを含むAl合金の第1層と;Ti、Mo、Al、Ta、Nb、Re、Zr、W、V、Hf、およびCrよりなる群(Y群)から選択される少なくとも一種の元素の窒化物、またはAl合金の窒化物の第2層と、が積層された表層構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイなどの表示装置に使用され、電極および配線材料として有用な、Al合金膜を有する表示装置用配線構造、上記配線構造の製造方法、および上記配線構造を備えた表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Al合金膜は主に電極および配線材料として用いられており、電極および配線材料としては、液晶ディスプレイ(LDC)における薄膜トランジスタ用のゲート、ソースおよびドレイン電極並びに配線材料、有機EL(OELD)における薄膜トランジスタ用のゲート、ソースおよびドレイン電極並びに配線材料、フィールドエミッションディスプレイ(FED)におけるカソードおよびゲート電極並びに配線材料、蛍光真空管(VFD)におけるアノード電極および配線材料、プラズマディスプレイ(PDP)におけるアドレス電極および配線材料、無機ELにおける背面電極などが挙げられる。
【0003】
以下では、液晶表示装置として液晶ディスプレイを代表的に取り上げ、説明するがこれに限定する趣旨ではない。
【0004】
液晶ディスプレイは、最近では100インチを超える大型のものが商品化され、低消費電力技術も進んでおり、主要な表示デバイスとして汎用されている。液晶ディスプレイには動作原理の異なるものがあるが、このうち、画素のスイッチングに薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下、TFTと呼ぶ。)を用いるアクティブ・マトリックス型液晶ディスプレイは、高精度画質を有し、高速動画にも対応できるため、主力となっている。そのなかで、更に低消費電力で画素の高速スイッチングが求められる液晶ディスプレイでは、アモルファス・シリコンではなく、多結晶シリコンや連続粒界結晶シリコンを半導体層に用いたTFTが用いられている。
【0005】
例えば、アモルファス・シリコンを用いたアクティブマトリクス型の液晶ディスプレイは、スイッチング素子であるTFT、導電性酸化膜から構成される画素電極、および走査線や信号線を含む配線を有するTFT基板を備えており、走査線や信号線は、画素電極に電気的に接続されている。走査線や信号線を構成する配線材料には、Al−Ni合金などのAl基合金薄膜が用いられている(例えば特許文献1〜5)。一方、多結晶シリコンでは、走査線を構成する配線材料にはMoなどの高融点金属、信号線を構成する配線材料には、Al−Ni合金などのAl基合金薄膜が用いられている。
【0006】
図1を参照しながら、半導体層として多結晶シリコンを用いたTFT基板の中核部の構成を説明する。図1は、各種配線を成膜後、パターニングした後の構成を示している。
【0007】
図1に示すように、ガラス基板1上には、走査線4と、半導体層である多結晶シリコン層2が形成されている。走査線4の一部は、TFTのオン・オフを制御するゲート電極5として機能しており、チャネル層である多結晶シリコン層2上に、ゲート絶縁膜(窒化シリコン膜など)6を介してゲート電極5が形成され、さらに保護膜(窒化シリコン膜など)7が形成される。多結晶シリコン層2は、低抵抗な多結晶シリコン層3を介して、信号線10の一部であるソース電極8およびドレイン電極9に接合され、電気的な導通性をもつ。ドレイン電極9は、ITO(Indium Tin Oxide)などの透明電極12と接続されている。低抵抗な多結晶シリコン層3は、走査線4を形成した後、リンやホウ素などの元素をイオン注入するなどした上で、約450〜600℃程度の高温にて活性化熱処理することで形成される。
【0008】
このように走査線4は、約450〜600℃程度の高温に曝されることがあるが、上記特許文献1〜5に開示されたTFT配線用Al基合金は、このような高温加熱時における耐熱性については考慮されておらず、実質的にせいぜい350℃程度の温度に耐えられるAl基合金膜が開示されているに過ぎない。そのため、高温での耐熱性が低い従来のAl基合金の代わりに、耐熱性に優れたMoやMo合金などの高融点金属が用いられているが、高融点金属は電気抵抗が高いため、高融点金属からなる走査線4は、一般的に走査線4と信号線10とのビアホール11を介してパネル外部に引き回す等の対策が取られているが、実際には、多少とも高抵抗の配線を通さざるを得ないのが実情である。
【0009】
一方、信号線10の一部であるソース電極8およびドレイン電極9を低抵抗な多結晶シリコン層3に接合する際、多結晶シリコン層3やビアホール11の表面に形成された自然酸化被膜を除去する工程が行なわれることがある。これは、自然酸化被膜の形成により、ソース電極8やドレイン電極9と低抵抗な多結晶シリコン層3とのコンタクト抵抗の増大によりTFT特性が悪化するなどの問題が生じるためであり、通常、約1%程度のフッ酸(希フッ酸)水溶液による洗浄が行なわれている。図1に示す構造では、フッ酸水溶液による洗浄は、低抵抗な多結晶シリコン層3やビアホール11に対して行なわれるが、従来のAl基合金薄膜はフッ酸耐性が悪いため、当該Al基合金膜が消失するといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−157917号公報
【特許文献2】特開2007−81385号公報
【特許文献3】特開2006−210477号公報
【特許文献4】特開2007−317934号公報
【特許文献5】特開平7−90552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
最近では、高温加熱処理を行なっても耐熱性に優れたAl合金膜の提供が望まれている。これは、TFTの性能を大きく左右する半導体シリコン層のキャリア移動度を出来るだけ高めて、結果的に液晶ディスプレイの省エネと高性能化(高速動画対応など)を進めるというニーズが強まっているからである。そのためには、半導体シリコン層の構成材料である水素化アモルファス・シリコンを結晶化させて多結晶シリコン層とすることが必要である。シリコンは電子の移動度が正孔の移動度より約3倍程度高いが、電子の移動度は連続粒界結晶シリコンでは約300cm2/V・s、多結晶シリコンでは約100cm2/V・s、水素化アモルファス・シリコンでは約1cm2/V・s以下である。水素化アモルファス・シリコンを蒸着した後に熱処理を行えば、水素化アモルファス・シリコンが微結晶化してキャリア移動度が向上する。この熱処理について、加熱温度が高く、加熱時間が長い方が、水素化アモルファス・シリコンの微結晶化は進み、キャリアの移動度は向上する。
【0012】
更に低抵抗な多結晶シリコン層を形成するためには、リンやホウ素などの元素をイオン注入するなどした上で450〜600℃程度の活性化熱処理を行なうことが必要となる。この活性化熱処理は、加熱温度が高く、加熱時間が長い方が、活性化が進みTFTの性能は向上する反面、加熱温度を高くすると、熱応力によりAl合金配線薄膜に突起状の形状異常(ヒロック)が発生するなどの問題が生じるため、従来は、Al合金薄膜を用いた場合の熱処理温度の上限を、せいぜい350℃程度にしていた。そのため、これよりも高温で熱処理するときは、Moなどの高融点金属薄膜が一般に用いられているが、配線抵抗が高く表示ディスプレイの大型化や高精細化、高速駆動などに対応できないという問題があった。
【0013】
上述した高温耐熱性のほか、Al合金膜には、様々な特性が要求される。まず、Al合金膜に含まれる合金元素の添加量が多くなると、配線自体の電気抵抗が増加してしまうため、450〜600℃程度の高い熱処理温度を適用した場合でも、電気抵抗を十分に低減できることが求められている。
【0014】
更には、優れた耐食性の兼備も求められている。特に、TFT基板の製造工程では複数のウェットプロセスを通り、様々な薬液に曝されるが、例えばAl合金膜がむき出しとなった場合、薬液によるダメージを受けやすくなる。特に、多結晶シリコン層やビアホールなどの表面に形成される酸化被膜の除去に用いられる希フッ酸によるダメージの低減が求められている。フッ酸耐性向上のみを考慮するならば、従来のように高融点金属からなるバリアメタル層を使用することが考えられるが、従来のAl基合金膜に上記バリアメタル層を積層させた配線構造に対して、450〜600℃程度の高温加熱処理を行なうと高融点金属と下地のAl基合金との間に拡散が生じ、電気抵抗が増大する恐れがあることが分かった。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、450〜600℃程度の高温下に曝されてもヒロックが発生せず高温耐熱性に優れており、配線構造全体の電気抵抗(配線抵抗)も低く抑えられており、更にフッ酸耐性(フッ酸による洗浄後の配線構造のエッチングレートが低く抑えられていること)にも優れた表示装置用配線構造、このような配線構造を製造する方法、および当該配線構造を備えた表示装置などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決し得た本発明に係る、450〜600℃の加熱処理をしたときの耐熱性、およびフッ酸耐性に優れた表示装置用配線構造は、表示装置に用いられる配線構造であって、前記配線構造は、基板側から順に、Ta、Nb、Re、Zr、W、Mo、V、Hf、Ti、CrおよびPtよりなる群(X群)から選択される少なくとも一種の元素と、希土類元素の少なくとも一種とを含むAl合金の第1層と;Ti、Mo、Al、Ta、Nb、Re、Zr、W、V、Hf、およびCrよりなる群(Y群)から選択される少なくとも一種の元素の窒化物、またはAl合金の窒化物の第2層と、が積層された構造を含み、前記第1層を構成するAl合金と、前記第2層を構成するAl合金とは、同一または異なっていても良いところに要旨を有するものである。
【0017】
本発明の好ましい実施形態において、上記第1層のAl合金は、更にCuおよび/またはGeを含むものである。
【0018】
本発明の好ましい実施形態において、上記第1層のAl合金は、更にNiおよび/またはCoを含むものである。
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、前記配線構造は、前記第2層の上に、Ti、Mo、Ta、Nb、Re、Zr、W、V、Hf、およびCrよりなる群(Z群)から選択される少なくとも一種の元素を含む第3層が積層された構造を含むものである。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、前記配線構造に対して450〜600℃の加熱処理を行なったとき、下記(1)〜(3)の要件を満足するものである。
(1)電気抵抗率が15μΩcm以下、
(2)ヒロック密度が1×109個/m2以下、
(3)0.5重量%のフッ酸溶液に1分間浸漬した際のエッチングレートが200nm/min以下。
【0021】
上記配線構造を構成している第2層の電気抵抗率は、第2層を構成する窒化物の種類によっても相違する。後記する実施例に記載の方法によれば、Moの窒化物の場合は、第2層の電気抵抗率は75μΩcm以上であり、Tiの窒化物の場合は、第2層の電気抵抗率は90μΩcm以上であり、Al合金の窒化物の場合は、第2層の電気抵抗率は27μΩcm以上である。
【0022】
本発明の好ましい実施形態において、前記配線構造に対して450〜600℃の加熱処理を行なったとき、前記第1層を構成するAl合金中に混入する窒素濃度は1原子%以下に抑制されたものである。
【0023】
本発明の好ましい実施形態において、前記第2層の膜厚は10nm以上100nm以下である。
【0024】
また、上記課題を解決した本発明に係る配線構造の製造方法は、上記のいずれかに記載の表示装置用配線構造を製造する方法であって、前記第2層を構成する窒化物は、窒素ガスと不活性ガスの混合ガスを用いた反応性スパッタリング法で形成され、且つ、前記混合ガス中に含まれる窒素ガスの比率(流量比)は2%以上であるところに要旨を有するものである。
【0025】
本発明には、上記の表示装置用Al合金膜を備えた表示装置も包含される。
【0026】
本発明には、上記の表示装置用Al合金膜を備えた液晶ディスプレイも包含される。
【0027】
本発明には、上記の表示装置用Al合金膜を備えた有機ELディスプレイも包含される。
【0028】
本発明には、上記の表示装置用Al合金膜を備えたフィールドエミッションディスプレイも包含される。
【0029】
本発明には、上記の表示装置用Al合金膜を備えた蛍光真空管も包含される。
【0030】
本発明には、上記の表示装置用Al合金膜を備えたプラズマディスプレイも包含される。
【0031】
本発明には、上記の表示装置用Al合金膜を備えた無機ELディスプレイも包含される。
【発明の効果】
【0032】
本発明の配線構造は上記のように構成されているため、約450〜600℃程度の高温下に曝されたときの耐熱性に優れており、高温加熱処理後の配線構造自体の電気抵抗(配線抵抗)も低く抑えることができ、且つ、フッ酸耐性も高めることができた。
【0033】
本発明によれば、特に、多結晶シリコンや連続粒界結晶シリコンを半導体層に用いる薄膜トランジスタ基板を製造するプロセスにおいて、450〜600℃程度の高温環境下に曝された場合でも、半導体シリコン層のキャリア移動度が高められるため、TFTの応答速度が向上し、省エネや高速動画などに対応可能な高性能の表示装置を提供できる。
【0034】
本発明の配線構造は、例えば走査線や信号線などの配線;ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極などの配線材料や電極材料などとして好適に用いられる。特に、高温熱履歴の影響を受け易い薄膜トランジスタ基板のゲート電極および関連の配線膜材料として、より好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、パターニング後の薄膜トランジスタの中核部の断面構造を示す図である。
【図2】図2は、液晶ディスプレイの一例を示す概略断面図である。
【図3】図3は、有機ELディスプレイの一例を示す概略断面図である。
【図4】図4は、フィールドエミッションディスプレイの一例を示す概略断面図である。
【図5】図5は、蛍光真空管の一例を示す概略断面図である。
【図6】図6は、プラズマディスプレイの一例を示す概略断面図である。
【図7】図7は、無機ELディスプレイの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明者らは、約450〜600℃の高温下に曝されても、ヒロックが生じず高温耐熱性に優れ、且つ、配線膜(厳密には、積層膜からなる配線構造)自体の電気抵抗(配線抵抗)も低く抑えられており、また、フッ酸耐性(フッ酸による洗浄後の配線構造のエッチングレートが低く抑えられていること)にも優れた表示装置用配線構造を提供するため、検討を重ねてきた。
【0037】
その結果、基板の上に
(I)高温下の耐熱性(高温耐熱性)の向上、並びに膜自体の電気抵抗(配線抵抗)の低減に寄与する層として、Ta、Nb、Re、Zr、W、Mo、V、Hf、Ti、CrおよびPtよりなる群(X群)から選択される少なくとも一種の元素と、希土類元素の少なくとも一種とを含むAl合金の第1層(Al−X群元素−REM合金)と;
(II)当該Al合金(第1層)の上に、高温耐熱性作用、配線抵抗低減作用に加え、フッ酸耐性の向上に寄与する層として、Ti、Mo、Al、Ta、Nb、Re、Zr、W、V、Hf、およびCrよりなる群(Y群)から選択される少なくとも一種の元素(Y群元素)の窒化物、またはAl合金の窒化物の第2層(ここで、前記第1層を構成するAl合金と、前記第2層を構成するAl合金とは、同一または異なっていても良い。)と、
が積層された配線構造とすれば、所望とする作用効果(高温処理時の高い耐熱性および低い電気抵抗、更には優れたフッ酸耐性)が発揮されることを見出した。前述したように、本発明に用いられる第1層のAl−X群元素−REM合金は、高温処理時の高い耐熱性および低い電気抵抗を発揮させるのに有用であるが、当該Al合金(第1層)だけでは、更に優れたフッ酸耐性をも備えることはできないことが、本発明者らの実験により判明した(後記する実施例の表1BのNo.42、46を参照)。
【0038】
上記配線構造は、要するに基板の上に、Al−X群元素−REM合金(第1層)と、Y群元素の窒化物またはAl合金の窒化物(第2層)が順次積層された2層からなる積層構造を有するものである。本明細書では、上記の2層構造からなる配線構造を、特に第1の配線構造と呼ぶ場合がある。
【0039】
更に上記第2層の上に、Ti、Mo、Ta、Nb、Re、Zr、W、V、Hf、およびCrよりなる群(Z群)から選択される少なくとも一種の元素(Z群元素)を含む第3層が積層された配線構造としても良く、このような配線構造も、本発明による作用効果(高温処理時の高い耐熱性および低い電気抵抗、更には優れたフッ酸耐性)が有効に発揮されることを見出した。上記第3層の形成により、その上に積層される配線膜とのコンタクト抵抗を低く抑えることができるなどの効果が発揮されるようになる。
【0040】
上記配線構造は、要するに基板の上に、Al−X群元素−REM合金(第1層)と、Y群元素の窒化物またはAl合金の窒化物(第2層)と、Y群元素のうちAlを除いたY群元素を含む層(第3層)が順次積層された3層からなる積層構造を有するものである。本明細書では、上記の3層構造からなる配線構造を、特に第2の配線構造と呼ぶ場合がある。
【0041】
本発明の配線構造(具体的には、上記第1および第2の配線構造)は、当該配線構造に対して450〜600℃の加熱処理を行なったとき、下記(1)〜(3)の要件を満足するものである。
(1)電気抵抗率が15μΩcm以下、
(2)ヒロック密度が1×109個/m2以下、
(3)0.5重量%のフッ酸溶液に1分間浸漬した際のエッチングレートが200nm/min以下。
【0042】
以下、各配線構造について詳細に説明する。
【0043】
(1)第1の配線構造について
まず、本発明に係る第1の配線構造について説明する。
【0044】
前述したように上記第1の配線構造は、基板側から順に、Al−X群元素−REM合金の第1層と;Ti、Mo、Al、Ta、Nb、Re、Zr、W、V、Hf、およびCrよりなる群(Y群)から選択される少なくとも一種の元素(Y群元素)の窒化物、またはAl合金の窒化物の第2層と、が積層されたものである。ここで、上記第1層を構成するAl合金と、上記第2層を構成するAl合金とは、同一または異なっていても良い。
【0045】
(1−1)基板
本発明に用いられる基板は、表示装置に通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、無アルカリガラス、ソーダライムガラス、シリコン、シリコンカーバイドなどが例示される。これらのうち好ましいのは、無アルカリガラスである。
【0046】
(1−2)Al合金(第1層)
上記基板の上に、Al−X群元素−REM合金(第1層)が形成される。ここで「基板の上」とは、基板の直上、および酸化シリコンや窒化シリコンなどの層間絶縁膜を介してその上の両方を含む趣旨である。
【0047】
(第1のAl合金膜)
上記第1のAl合金膜は、Ta、Nb、Re、Zr、W、Mo、V、Hf、Ti、CrおよびPtよりなる群(X群)から選択される少なくとも一種の元素と、希土類元素(REM)の少なくとも一種とを含有するAl−X群元素−REM合金膜である。
【0048】
ここで、上記X群の元素(X群元素)は、融点が概ね1600℃以上の高融点金属から構成されており、単独で高温下の耐熱性向上に寄与する元素である。これらの元素は、単独で添加しても良いし、2種以上を併用しても良い。上記X群元素のうち好ましいのは、Ta、Tiであり、より好ましくはTaである。
【0049】
上記X群元素の含有量(単独で含有する場合は単独の量であり、2種以上を併用するときは合計量である。)は、0.1〜5原子%であることが好ましい。X群元素の含有量が0.1原子%未満では、上記作用が有効に発揮されない。一方、X群元素の含有量が5原子%を超えると、Al合金膜の電気抵抗が高くなり過ぎるほか、配線加工時に残渣が発生し易くなるなどの問題が生じる。X群元素のより好ましい含有量は、0.1原子%以上3.0原子%以下であり、更に好ましい含有量は、0.3原子%以上2.0原子%以下である。
【0050】
また、上記希土類元素(REM)は、上記X群元素と複合添加することによって高温耐熱性向上に寄与する元素である。更に上記希土類元素は単独で、アルカリ環境下での耐食性作用という上記X群元素にはない作用も有している。具体的には、上記希土類元素は、例えば、フォトリソグラフィー工程で用いられるアルカリ性の現像液によるダメージを低減し、耐アルカリ腐食性を向上させる作用も有している。
【0051】
ここで、希土類元素とは、ランタノイド元素(周期表において、原子番号57のLaから原子番号71のLuまでの合計15元素)に、Sc(スカンジウム)とY(イットリウム)とを加えた元素群を意味する。本発明では、上記希土類元素を単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。希土類元素のうち好ましいのは、Nd、La、Gdであり、より好ましいのは、Nd、Laである。
【0052】
希土類元素による上記作用を有効に発揮させるためには、希土類元素の含有量(単独で含有する場合は単独の量であり、2種以上を併用するときは合計量である。)は0.1〜4原子%であることが好ましい。希土類元素の含有量が0.1原子%未満であると、耐アルカリ腐食性が有効に発揮されず、一方、4原子%を超えると、Al合金膜自体の電気抵抗が高くなり過ぎ、配線加工時に残渣が発生し易くなるなどの問題がある。希土類元素のより好ましい含有量は、0.3原子%以上3.0原子%以下であり、更に好ましい含有量は、0.5原子%以上2.5原子%以下である。
【0053】
上記第1のAl合金膜は、上記元素を含有し、残部:Alおよび不可避的不純物である。
【0054】
ここで上記不可避的不純物としては、例えばFe、Si、Bなどが例示される。不可避的不純物の合計量は特に限定されないが、概ね0.5原子%以下程度含有してもよく、各不可避的不純物元素は、Bは0.012原子%以下、Fe、Siはそれぞれ0.12原子%以下含有していてもよい。
【0055】
更に上記第1層のAl合金膜は、以下の元素を含有しても良い。
【0056】
(Cuおよび/またはGe)
Cuおよび/またはGeは、高温耐熱性向上に寄与し、高温プロセス下でのヒロックの発生を防止する作用を有している。Cuおよび/またはGeは単独で添加しても良いし、両方を添加しても良い。
【0057】
このような作用を有効に発揮させるためには、Cuおよび/またはGeの含有量(単独の場合は単独の含有量であり、両方を含有する場合は合計量である)を0.1〜2原子%とすることが好ましい。Cuおよび/またはGeの含有量が0.1原子%未満の場合、所望の効果が得られず、更なる耐熱性向上に寄与する第2の析出物の密度を確保できない。一方、Cuおよび/またはGeの含有量が2原子%を超えると、電気抵抗率が上昇するようになる。上記元素のより好ましい含有量は、0.1原子%以上1.0原子%以下であり、更に好ましくは、0.1原子%以上0.6原子%以下である。
【0058】
(Niおよび/またはCo)
NiおよびCoは、透明導電膜との直接接続(ダイレクト・コンタクト)を可能にする元素である。これは、TFTの製造過程における熱履歴により形成される導電性の高いNiおよび/またはCo含有Al系析出物を介して、透明導電膜との電気的な導通が可能となるためである。これらは単独で添加しても良いし、両方を添加しても良い。
【0059】
このような作用を有効に発揮させるためには、Niおよび/またはCoの含有量(単独の場合は単独の含有量であり、両方を含有する場合は合計量である)を0.1〜3原子%とすることが好ましい。Niおよび/またはCoの含有量が0.1原子%未満の場合、所望の効果が得られず、透明導電膜との接触抵抗低減に寄与する第3の析出物の密度を確保できない。すなわち、第3の析出物のサイズが小さく、密度も減少するため、透明導電膜との低い接触抵抗を安定して維持することが困難になる。一方、Niおよび/またはCoの含有量が3原子%を超えると、アルカリ環境下での耐食性が低下するようになる。Niおよび/またはCoのより好ましい含有量は、0.1原子%以上1.0原子%以下であり、更に好ましくは、0.1原子%以上0.6原子%以下である。
【0060】
以上、第1層のAl合金を構成する元素について説明した。
【0061】
なお、後述するように上記Al合金(第1層)の上には所定の窒化物(第2層)が形成されるが、当該窒化物の形成に当たって導入された窒素ガスの影響や熱処理時の拡散などにより、Al合金(第1層)中に窒素が混入する場合があり得るが、その場合、第1層を構成するAl合金中に混入する窒素濃度は1原子%以下に抑制されていることが好ましい。Al合金中に多くの窒素が導入されると、電気抵抗の上昇などの問題が生じるからである。Al合金(第1層)中に含まれる窒素濃度は極力少ない方が良く、より好ましくは、おおむね、0.1原子%以下であり、更に好ましくは、おおむね、0.01原子%以下である。
【0062】
上記Al合金(第1層)の好ましい膜厚は、おおむね、50〜800nmである。上記膜厚が50nmを下回ると配線抵抗の増大などの問題があり、一方、800nmを超えると配線端面の形状異常やそれに伴う上層膜の断線などの問題がある。上記Al合金のより好ましい膜厚は、おおむね、100〜500nmである。
【0063】
(1−3)Y群元素の窒化物、またはAl合金の窒化物(第2層)
上記第1の配線構造では、上記Al合金(第1層)の上に、Ti、Mo、Al、Ta、Nb、Re、Zr、W、V、Hf、およびCrよりなる群(Y群)から選択される少なくとも一種の元素(Y群元素)の窒化物、またはAl合金の窒化物(第2層)が形成される。Y群元素およびAl合金の窒化物は、それぞれ単独で、高温下の耐熱性向上作用および電気抵抗低減作用、更にはフッ酸耐性向に寄与するものであり、単独で添加しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0064】
上記第2層は、所望とする作用効果を発揮させるために多くの基礎実験から選択されたものであり、所定金属(Y群元素)の窒化物またはAl合金の窒化物を第2層として用いることにより所望の作用効果が発揮されることが判明した(後記する実施例を参照)。ここで「Al合金(第1層)の上」とは、Al合金(第1層)の直上を意味し、第1層と第2層との間に介在する層(中間層)は含まない趣旨である。
【0065】
ここで「Y群元素の窒化物」とは、Y群元素を1種または2種以上含む窒化物を意味する。上記Y群元素が窒化された窒化物を「−N」で表すと、例えば「Ti−N」(Y群元素としてTiのみを含む窒化物)であっても良いし、「Ti−Mo−N」(Y群元素としてTiおよびMoを含む窒化物)であっても良い。
【0066】
また、「Al合金の窒化物」とは、前述した第1層を構成するAl合金と同じであっても良いし、異なっていても良い。前者の場合、第1層と第2層とは、同じAl合金から構成されていても良いし、異なるAl合金で構成されていても良い。なお、生産性などの観点からすれば、第1層と第2層は、同じAl合金から構成されていることが好ましい。
【0067】
本発明に用いられる「Al合金の窒化物」を構成するAl合金について、更に詳細に説明する。上述したように第2層を構成する「Al合金の窒化物」には、少なくも所望とするフッ酸耐性向上作用を有していることが求められる。というのも、第1層を構成するAl合金は、繰り返し延べるように、高温下の耐熱性向上作用および電気抵抗低減作用を有しているため、第2層は、これらの「高温下の耐熱性向上作用および電気抵抗低減作用」を、必ずしも具備している必要はないからである。このような第2層に用いられるAl合金として、前述した第1層と同じAl合金(Al−X群元素−REM合金、Al−X群元素−REM−Cu/Ge合金、Al−X群元素−REM−Ni/Co合金、Al−X群元素−REM−Cu/Ge−Ni/Co合金)が挙げられる。各元素の詳細は、前述したAl合金(第1層)の説明を参照すれば良い。具体的には、例えば、Al−Nd−Ti合金、Al−Ta−Nd−Ni−Ge合金、Al−Ta−Nd−Ni−Ge−Zr合金などが挙げられる。
【0068】
上記のほかに、第2層に用いられるAl合金として、Al−X群元素合金(例えば、Al−Zr合金など)、Al−REM合金(例えば、Al−Nd合金、Al−Y合金、Al−Ce合金など)、Al−Cu合金、Al−Si合金、Al−Fe−Si合金などが挙げられる。但し、Alのエッチング液(例えば、リン酸、硝酸、酢酸の混合液など)に溶解し難い元素であるAuやPtなどを、おおむね、1.0原子%以上含むAl合金は、エッチング残渣が発生するため、第2層を構成するAl合金として用いることは好ましくない。
【0069】
上記窒化物のうち、当該窒化物を製造するためのスパッタリングターゲットの生産コスト低減などの観点から好ましいのは、Y群元素としてAl、Ti、Moの少なくとも一種を含む窒化物や、Al合金の窒化物が挙げられる。ここで「Ti、Moの少なくとも一種を含む窒化物」には、Tiのみを含む(残部:不可避的不純物)窒化物、Moのみを含む(残部:不可避的不純物)窒化物のほか、Tiと、Ti以外の上記Y群元素の少なくとも一種を含むTi合金の窒化物や、Moと、Mo以外の上記Y群元素の少なくとも一種を含むMo合金の窒化物などが含まれる。より好ましくは、Alの窒化物、Tiの窒化物、Moの窒化物、Al合金の窒化物である。
【0070】
ここで「窒化物」は、Y群元素またはAl合金の全てが窒化されている必要は必ずしもないが、当該窒化物による作用効果を有効に発揮させるためには、窒化の割合はできるだけ多い方が良く、全てが窒化されていることが最も好ましい。例えば2種以上のY群元素を含む窒化物や、2種以上の合金元素を含むAl合金の窒化物の場合、当該窒化物を構成する全ての元素が、できるだけ窒化されていることが好ましく、全ての元素が窒化されていることが最も好ましい。具体的には、後述するように窒化物成膜時における混合ガス中の窒素ガスの比率(流量比、%)を2%以上(第2層の窒化物を構成する元素の種類によっては3%以上)に制御して形成された窒化物であれば、本発明の窒化物に含まれる。但し、窒化物は本来、絶縁物であり、窒化物の割合が多くなると、第2層の電気抵抗率が高くなり、配線構造全体の電気抵抗率が高くなる傾向にある。また、窒化物を構成する元素の種類によっては、ウエットエッチングによる配線加工性など、表示装置用配線構造に要求される一般的特性が低下する恐れがあるため、窒化の程度を適切に制御することが推奨される。
【0071】
上記窒化物(第2層)の好ましい膜厚は、おおむね、10〜100nmである。上記膜厚が10nmを下回るとピンホールが生成するなどの問題があり、一方、100nmを超えると、配線膜全体の抵抗増大や成膜時間の長時間化などの問題がある。上記窒化物(第2層)のより好ましい膜厚は、おおむね、15〜70nmである。
【0072】
上記配線構造は、当該配線構造に対して450〜600℃の加熱処理を行なったとき、下記(1)〜(3)の要件を満足するものである。
(1)電気抵抗率が15μΩcm以下、
(2)ヒロック密度が1×109個/m2以下、
(3)0.5重量%のフッ酸溶液に1分間浸漬した際のエッチングレートが200nm/min以下。
【0073】
ここで上記(1)の要件は、「高温加熱処理後の低い電気抵抗」の指標となる値であり、上記(2)の要件は、「高温加熱処理後の高い高温耐熱性」の指標となる値であり、上記(3)の要件は、「高温加熱処理後の優れたフッ酸耐性」の指標となる値である。詳細は、表10の合格基準を参照すれば良い。また、フッ酸耐性の詳細な測定方法は、後記する実施例の欄に記載したとおりである。
【0074】
ここで、「450〜600℃の加熱処理を行なったとき」とは、TFTの製造工程で負荷される高温加熱処理を想定したものであり、このような高温加熱処理に対応するTFT製造プロセスとしては、例えば、アモルファス・シリコンの結晶化のため(結晶化シリコンとするため)のレーザーなどによるアニール、低抵抗な多結晶シリコン層を形成するための活性化熱処理などが挙げられる。特に活性化のための熱処理で、上記のような高温下に曝されることが多い。この加熱処理は、真空、窒素ガス、不活性ガスの雰囲気中で行われることが好ましく、処理時間は、1分以上60分以下であることが好ましい。
【0075】
更に第2層を構成する窒化物の種類に応じて、第2層の電気抵抗率は、適切な範囲を有し得る。上述したように第2層を構成する窒化物は、フッ酸耐性の向上に有用であるが、窒化物は本来、絶縁物であり、窒化物の種類に応じて、第2層の電気抵抗率は様々な範囲を有し得る。
【0076】
例えば、第2層がMoの窒化物の場合は、後に詳述するように、混合ガス中に含まれる窒素ガスの比率(流量比)を3%以上とすることによってフッ酸耐性に有用な窒化物が得られるが、そのときの第2層の電気抵抗率は、後記する実施例に記載の方法によれば、75μΩcm以上である。また、後に詳述するように、混合ガス中に含まれる窒素ガスの比率(流量比)の好ましい上限は50%であるが、そのときの第2層の電気抵抗率は400μΩcm以下である。
【0077】
また、第2層がTiの窒化物の場合は、後に詳述するように、混合ガス中に含まれる窒素ガスの比率(流量比)を2%以上とすることによってフッ酸耐性に有用な窒化物が得られるが、そのときの第2層の電気抵抗率は、後記する実施例に記載の方法によれば、90μΩcm以上である。また、後に詳述するように、混合ガス中に含まれる窒素ガスの比率(流量比)の好ましい上限は50%であるが、そのときの第2層の電気抵抗率は600μΩcm以下である。
【0078】
また、第2層が、表9に示すAl合金の窒化物の場合は、後に詳述するように、混合ガス中に含まれる窒素ガスの比率(流量比)を3%以上とすることによってフッ酸耐性に有用な窒化物が得られるが、そのときの第2層の電気抵抗率は、後記する実施例に記載の方法によれば、27μΩcm以上である。また、後に詳述するように、混合ガス中に含まれる窒素ガスの比率(流量比)の好ましい上限は15%であるが、そのときの第2層の電気抵抗率は1300μΩcm以下である。
【0079】
以上、本発明に係る第1の配線構造について説明した。
【0080】
(2)第2の配線構造
次に、本発明に係る第2の配線構造について説明する。
【0081】
前述したように上記第2の配線構造は、上記第1の配線構造の上[すなわち、上記窒化物(第2層)の上]に、Ti、Mo、Ta、Nb、Re、Zr、W、V、Hf、およびCrよりなる群(Z群)から選択される少なくとも一種の元素を含む第3層が積層されたものである。第2の配線構造も、前述した(1)および(2)の要件、すなわち、(1)電気抵抗率が15μΩcm以下、および(2)ヒロック密度が1×109個/m2以下の要件を満足しており、且つ、フッ酸耐性にも優れたものである。
【0082】
上記第2の配線構造において、第1の配線構造と重複する部分[基板、Al合金(第1層)、およびAl合金(第2層)]については、前述した(1−1)および(1−2)を参照すれば良い。以下では、上記第3層について説明する。
【0083】
(2−1)第3層
上記第3層は、当該第3層の上に形成され得る、他の配線膜とのコンタクト抵抗の低減化などの目的で、上記窒化物(第2層)の上に形成されるものである。ここで「上記窒化物(第2層)の上」とは、上記窒化物(第2層)の直上を意味し、第2層と第3層との間に介在する層(中間層)は含まない趣旨である。
【0084】
具体的には上記第3層は、上述したZ群元素を含む層で構成されている。上記Z群元素は、前述したY群元素から、Alを除いた群から選択される少なくとも一種の元素である。ここで「Z群元素を含む層」とは、上記Z群元素を1種または2種以上含み、残部は、製造上不可避的に含まれる不純物元素を意味する。Z群元素は、単独で含有しても良いし、2種以上を含有しても良い。上記第3層を製造するためのスパッタリングターゲットの生産コスト低減などの観点から好ましいのは、Z群元素としてTi、Moの少なくとも一種を含むものである。ここで「Ti、Moの少なくとも一種を含むもの」には、Tiのみを含むもの(残部:不可避的不純物)、Moのみを含むもの(残部:不可避的不純物)のほかに、Tiと、Ti以外の上記Z群元素の少なくとも一種を含むTi合金、Moと、Mo以外の上記Z群元素の少なくとも一種を含むMo合金などが含まれる。より好ましくは、Tiのみを含むもの、Moのみを含むものである。
【0085】
上記第3層の好ましい膜厚は、おおむね、10〜100nmである。上記膜厚が10nmを下回るとピンホールが生成するなどの問題があり、一方、100nmを超えると配線抵抗が増大するなどの問題がある。より好ましい上記第3層の膜厚は、おおむね、15〜70nmである。
【0086】
以上、本発明に係る第2の配線構造について説明した。
【0087】
本発明には、上記配線構造の製造方法も包含される。本発明の製造方法は、上記窒化物(第2層)の製造工程に特徴部分があり、それ以外の工程(第1層および第3層の形成工程)は、通常用いられる成膜工程を適宜採用することができる。
【0088】
すなわち、本発明の製造方法において、上記第2層を構成する窒化物は、窒素ガスと不活性ガス(代表的にはアルゴンガス)の混合ガスを用いた反応性スパッタリング法によりスパッタリングターゲット(以下「ターゲット」ということがある)を用いて形成され、且つ、前記混合ガス中に含まれる窒素ガスの比率(流量比)は2%以上(第2層の窒化物を構成する元素の種類によっては3%以上)であるところに特徴がある。
【0089】
上記不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ネオンガスなどが挙げられるが、これらのうち好ましいのはアルゴンガスである。
【0090】
また、上記混合ガス中に含まれる窒素ガスの比率(流量比)を2%以上(第2層の窒化物を構成する元素の種類によっては3%以上)とすることにより、所望とする作用効果を発揮し得る所定の窒化物が形成される。
【0091】
上記第2層として、例えば、Tiの窒化物を形成する場合には、前記混合ガス中に含まれる窒素ガスの比率(流量比)を2%以上とすればよい。窒素ガスの好ましい比率は3%以上であり、より好ましくは5%以上、更に好ましくは10%以上である。
【0092】
上記第2層として、例えば、Mo、Al、Ta、Nb、Re、Zr、W、V、Hf、およびCrよりなる群から選択される少なくとも一種の元素の窒化物、またはAl合金の窒化物を形成する場合には、前記混合ガス中に含まれる窒素ガスの比率(流量比)を3%以上とすればよい。窒素ガスの好ましい比率は5%以上、より好ましくは10%以上である。
【0093】
但し、混合ガス中の窒素ガスの比率が多くなり過ぎると、成膜速度が低下するなどの問題が生じるため、上限は、50%以下であることが好ましく、より好ましくは40%以下であり、更に好ましくは30%以下である。
【0094】
特に、上記第2層として、Al合金の窒化物を形成する場合には、前記混合ガス中に含まれる窒素ガスの比率(流量比)は15%以下とすることが推奨される。窒素ガスの比率を高め過ぎると、第2層中に生成する窒化物量が多くなり、第2層の電気抵抗率が高くなり過ぎて絶縁体(具体的には、電気抵抗率が108Ωcm以上)となり、配線構造全体の電気抵抗率が高くなる恐れがある。また、第2層の電気抵抗率が高くなり過ぎると、エッチング(特に、ウェットエッチング)による配線加工性が劣化することがある。
【0095】
以上、本発明を特徴付ける窒化物の製造方法について説明した。
【0096】
本発明において、第1層(Al合金)および第3層(Z群元素を含む層)は、スパッタリング法にてスパッタリングターゲットを用いて形成することが望ましい。イオンプレーティング法や電子ビーム蒸着法、真空蒸着法で形成された薄膜よりも、成分や膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成できるからである。
【0097】
また、上記スパッタリング法で上記第1層または第3層を形成するには、上記ターゲットとして、前述した元素を含むものであって、所望とする層と同一組成のスパッタリングターゲットを用いれば、組成ズレの恐れがなく、所望の成分組成の層を形成することができるのでよい。
【0098】
上記ターゲットの形状は、スパッタリング装置の形状や構造に応じて任意の形状(角型プレート状、円形プレート状、ドーナツプレート状、円筒状など)に加工したものが含まれる。
【0099】
上記ターゲットの製造方法としては、溶解鋳造法や粉末焼結法、スプレイフォーミング法で、例えばAl合金からなるインゴットを製造して得る方法や、Al合金からなるプリフォーム(最終的な緻密体を得る前の中間体)を製造した後、該プリフォームを緻密化手段により緻密化して得られる方法が挙げられる。
【0100】
本発明は、上記配線構造が、薄膜トランジスタに用いられる表示装置も含むものである。その態様として、上記配線構造が、例えば、走査線や信号線などの配線;ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極などの配線材料や電極材料などとして用いられるものが挙げられるが、特に、上記配線構造が、高温熱履歴の影響を受け易いゲート電極および走査線に用いられるものなどが、好適に挙げられる。
【0101】
また前記ゲート電極および走査線と、前記ソース電極および/またはドレイン電極ならびに信号線が、同一組成の配線構造であるものが態様として含まれる。
【0102】
本発明に用いられる透明画素電極は特に限定されず、例えば、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)などが挙げられる。
【0103】
また、本発明に用いられる半導体層も特に限定されず、アモルファス・シリコン、多結晶シリコン、連続粒界結晶シリコンなどが挙げられる。
【0104】
本発明の配線構造を備えた表示装置を製造するにあたっては、表示装置の一般的な工程を採用することができ、例えば、前述した特許文献1〜5に記載の製造方法を参照すれば良い。
【0105】
以上、液晶表示装置として液晶ディスプレイを代表的に取り上げ、説明したが、上記説明した本発明の表示装置用配線構造は、主に電極および配線材料として各種液晶表示装置に用いることができる。例えば図2に例示される液晶ディスプレイ(LDC)における薄膜トランジスタ用のゲート、ソースおよびドレイン電極並びに配線材料、例えば図3に例示される有機ELディスプレイ(OELD)における薄膜トランジスタ用のゲート、ソースおよびドレイン電極並びに配線材料、例えば図4に例示されるフィールドエミッションディスプレイ(FED)におけるカソードおよびゲート電極並びに配線材料、例えば図5に例示される蛍光真空管(VFD)におけるアノード電極および配線材料、例えば図6に例示されるプラズマディスプレイ(PDP)におけるアドレス電極および配線材料、例えば図7に例示される無機ELディスプレイにおける背面電極などが挙げられる。これらに本発明の表示装置用配線構造を用いた場合に、上記所定の効果が得られることは実験により確認済である。
【実施例】
【0106】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0107】
(実施例1)
ここでは、第1の配線構造として、表1に示す種々のAl合金(第1層)の上に、表1に示す種々の組成の第2層を積層させたときの、450〜600℃に加熱した後の配線抵抗および耐熱性(ヒロック密度)、更にはフッ酸耐性を調べた。本実施例で用いた第1層のAl合金は、いずれも、本発明の要件を満足するAl−X群元素−REM合金である(表では、原子%をat%と記載)。
【0108】
まず、ガラス基板(コーニング社製のEagle−XGガラス基板、厚さ0.7mm)上に、上記のAl−0.5原子%Ta−2.0原子%Nd−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge合金膜、Al−0.5原子%Ta−2.0原子%Nd−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.35原子%Zr合金膜、またはAl−0.5原子%Ta−2.0原子%La−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge合金膜(第1層、膜厚=300nm)を、DCマグネトロン・スパッタ法[雰囲気ガス=アルゴン(流量:30sccm)、圧力=2mTorr、基板温度=25℃(室温)]によって成膜した。
【0109】
次いで、真空雰囲気を保持したまま、表1に記載のNo.1〜38の各窒化膜(第2層、膜厚=50nm)を、DCマグネトロン・スパッタ法[雰囲気ガス=アルゴン(流量:26sccm)および窒素(流量:4sccm)の混合ガス(流量比≒13%)、圧力=2mTorr、基板温度=25℃(室温)]によって成膜し、2層からなる第1の配線構造を作製した。比較のため、No.39〜41、43〜45に記載の各金属膜(膜厚=50nm)を、上記と同様にして成膜した。更に窒化膜による作用効果を確認するため、No.42およびNo.46として、第1層のAl合金のみを成膜したもの(第2層なし)を、比較のため、用いた。
【0110】
なお、上記種々の窒化膜の形成には、真空溶解法で作製した種々の組成の金属または合金ターゲットをスパッタリングターゲットとして用いた。
【0111】
また、上記窒化膜のうち、Al合金窒化膜中における各合金元素の含有量は、ICP発光分析(誘導結合プラズマ発光分析)法によって求めた。
【0112】
上記のようにして形成した第1の積層構造に対し、450〜600℃の高温加熱処理を1回行い、高温加熱処理後の配線構造について、耐熱性、当該配線構造自体の電気抵抗(配線抵抗)、および0.5%フッ酸耐性の各特性を、それぞれ下記に示す方法で測定した。
【0113】
(1)加熱処理後の耐熱性
上記のようにして作製した種々の配線構造に対し、不活性雰囲気ガス(N2)雰囲気下にて、600℃にて10分間の加熱処理を1回行ない、その表面性状を光学顕微鏡(倍率:500倍)を用いて観察し、ヒロックの密度(個/m2)を測定した。表10に記載の判断基準により耐熱性を評価し、本実施例では◎〜△を合格とした。
【0114】
(2)加熱処理後の配線構造自体の配線抵抗
上記のようにして作製した種々の配線構造に対し、10μm幅のラインアンドスペースパターンを形成したものに、不活性雰囲気ガス(N2)雰囲気下にて、450℃、550℃または600℃の各温度にて10分間の加熱処理を1回行ない、4端子法で電気抵抗率を測定した。表10に記載の判断基準により各温度の配線抵抗を評価し、本実施例では◎または○を合格とした。
【0115】
(3)フッ酸耐性
上記のようにして作製した種々の配線構造に対し、不活性雰囲気ガス(N2)雰囲気下にて、600℃の温度に10分間の加熱処理を1回行ない、マスクを施した後、0.5%のフッ酸溶液中に25℃で30秒および1分間浸漬し、そのエッチング量を触診式段差計を用いて測定し、30秒浸漬後のエッチング量と1分間浸漬後のエッチング量との差からエッチングレートを算出した。表10に記載の判断基準によりフッ酸耐性を評価し、本実施例では◎〜△を合格とした。
【0116】
更に、上記のようにして作製した種々の配線構造に対し、不活性雰囲気ガス(N2)雰囲気下にて、600℃の温度にて10分間の加熱処理を1回行なった後の、上記第1層(Al−0.5原子%Ta−2.0原子%Nd−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge合金膜、Al−0.5原子%Ta−2.0原子%Nd−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.35原子%Zr合金膜、またはAl−0.5原子%Ta−2.0原子%La−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge合金膜)中に混入する窒素濃度(原子%)を、二次イオン質量分析法によって求めた。
【0117】
これらの結果を表1に併記する。
【0118】
【表1A】

【0119】
【表1B】

【0120】
これらの表より、本発明の要件を満足するNo.1〜38は、いずれの高温加熱処理を行なった後も、低い配線抵抗と高い耐熱性とを兼ね備えており、しかもフッ酸耐性も良好であった。なお、表1のNo.はすべて、第1層中に混入する窒素濃度(原子%)は1原子%未満に抑制されていた(表には示さず)。
【0121】
これに対し、No.39〜41、43〜45(表1Bを参照)のように、第2層として窒化物ではなくTi、Mo、Alの各金属を積層したものは、第1層のAl合金の種類に関わらず、以下の不具合が生じた。まず、No.39、43のように第2層としてTiを積層したものは、耐熱性およびフッ酸耐性は良好であったが、450℃、550℃および600℃の加熱処理後の配線抵抗が大きく上昇した。これは、Tiと下地のAl合金とが拡散したためと推察される。同様の傾向は、Tiの代わりにMoを積層させたNo.40、44においても見られ、Moと下地のAl合金とが拡散したために450℃以上の高温加熱処理を行なうと配線抵抗が上昇した。これらの結果から、第2層として高融点金属の層を積層させたのでは、所望とする特性が得られないことが確認された。
【0122】
また、No.41、45のように第2層としてAlを積層したものは、高温での配線抵抗は低く抑えられたものの、フッ酸耐性が大きく低下した。この結果は、Alは耐熱性が低く、フッ酸耐性にも劣るという従来の知見を裏付けるものであった。
【0123】
また、No.42、46のように、第2層(窒化物)を成膜せず、第1層のみからなるものは、高温加熱処理後の低い配線抵抗と高い耐熱性とを兼ね備えているが、フッ酸耐性が低下した。
【0124】
(実施例2)
前述した実施例1において、第1層のAl合金および第2層の窒化物の種類を、表2〜表5に示すように種々変化させたこと以外は、実施例1と同様にして配線構造を作製し、450〜600℃に加熱した後の配線抵抗および耐熱性(ヒロック密度)、更にはフッ酸耐性を調べた。
【0125】
これらの結果を表2〜5に示す。
【0126】
【表2A】

【0127】
【表2B】

【0128】
【表2C】

【0129】
【表2D】

【0130】
【表2E】

【0131】
【表2F】

【0132】
【表3A】

【0133】
【表3B】

【0134】
【表3C】

【0135】
【表3D】

【0136】
【表3E】

【0137】
【表3F】

【0138】
【表4A】

【0139】
【表4B】

【0140】
【表4C】

【0141】
【表4D】

【0142】
【表4E】

【0143】
【表4F】

【0144】
【表5A】

【0145】
【表5B】

【0146】
【表5C】

【0147】
【表5D】

【0148】
【表5E】

【0149】
【表5F】

【0150】
本実施例では、第1層および第2層に、本発明で規定する要件を満足するものを用いているため、上記表に示すように、全ての特性に優れている。
【0151】
詳細には、表2は、第2層として、Al合金の窒化物を含む例であり;表3は、第2層として、本発明で規定するY群元素(Ti)の窒化物を含む例であり;表4は、第2層として、本発明で規定するY群元素(Mo)の窒化物を含む例であり;表5は、第2層として、本発明で規定するY群元素(Al)の窒化物を含む例であるが、いずれの場合であっても、第1層のAl合金の種類に関わらず、いずれの高温加熱処理を行なった後も、低い配線抵抗と高い耐熱性とを兼ね備えており、しかもフッ酸耐性も良好であった。なお、表2〜5のNo.はすべて、第1層中に混入する窒素濃度(原子%)は1原子%未満に抑制されていた(表には示さず)。
【0152】
(実施例3)
ここでは、第2の配線構造として、表6に示すAl合金(第1層)の上に、表6に示す種々の組成の第2層および第3層を順次積層させたときの、450〜600℃に加熱した後の配線抵抗および耐熱性(ヒロック密度)、更にはフッ酸耐性を、前述した実施例1と同様にして調べた。本実施例で用いた第1層のAl合金は、いずれも、本発明の要件を満足するAl−X群元素−REM合金である。
【0153】
具体的には、まず、前述した実施例1と同様にしてガラス基板上に、表6のAl合金膜(第1層、膜厚=300nm)を成膜した。
【0154】
次いで、前述した実施例1と同様にして、表6に記載のNo.1〜50の各窒化膜(第2層、膜厚=50nm)を成膜した。
【0155】
次いで、真空雰囲気を保持したまま、表6に記載のNo.1〜50の各金属膜(第3層、膜厚=20nm)を、DCマグネトロン・スパッタ法[雰囲気ガス=アルゴン(流量:30sccm)、圧力=2mTorr、基板温度=25℃(室温)]によって成膜し、3層からなる第2の配線構造を作製した。
【0156】
これらの結果を表6に併記する。
【0157】
【表6A】

【0158】
【表6B】

【0159】
これらの表より、No.1〜50はいずれも、本発明の要件を満足しているため、高温加熱処理を行なった後も、低い配線抵抗と高い耐熱性とを兼ね備えており、しかもフッ酸耐性も良好であった。また、表6のNo.はすべて、第1層中に混入する窒素濃度(原子%)は1原子%未満に抑制されていた(表には示さず)。
【0160】
(実施例4)
ここでは、表7に示す種々のAl合金(第1層)の上に、表7に示す種々の組成の第2層を積層させると共に、当該第2層の膜厚を、表7に示すように10〜50nmの範囲で種々変化させたときの、450〜600℃に加熱した後の配線抵抗および耐熱性(ヒロック密度)、更にはフッ酸耐性を、前述した実施例1と同様にして調べた。本実施例で用いた第1層のAl合金は、いずれも、本発明の要件を満足するAl−X群元素−REM合金である。
【0161】
これらの結果を表7に併記する。
【0162】
【表7A】

【0163】
【表7B】

【0164】
【表7C】

【0165】
これらの表より、第2層として本発明の要件を満足するY群元素の窒化物を用いたNo.1〜60では、当該第2層の膜厚を10〜50nmの範囲で変化させとしても、所望とする特性をすべて確保することができた。なお、表7のNo.はすべて、第1層中に混入する窒素濃度(原子%)は1原子%未満(<0.1%)に抑制されていた(表には示さず)。
【0166】
これに対し、第2層としてTiおよびMoの各金属を積層したNo.61〜68(表7Cを参照)では、第1層のAl合金の種類に関わらず、膜厚を50nmから10nmに減少させても、所望とする特性をすべて確保することはできなかった。
【0167】
詳細には、No.61、62、65、66のように第2層としてTiを積層したものは、膜厚を50nm(No.62、66)から10nm(No.61、65)に減少させることによってTiと下地のAl合金との拡散が抑制されるため、450〜600℃に加熱した後の配線抵抗および耐熱性(ヒロック密度)をすべて合格基準にまで高めることができたが、逆に、フッ酸耐性は大きく低下した。
【0168】
同様の傾向は第2層としてTiの代わりにMoを積層させた場合でもみられた。すなわち、No.63、64、67、68のように第2層としてMoを積層したものは、膜厚を50nm(No.64、68)から10nm(No.63、67)に減少させることによってMoと下地のAl合金との拡散が抑制されるため、450〜600℃に加熱した後の配線抵抗および耐熱性(ヒロック密度)をすべて合格基準にまで高めることができたが、逆に、フッ酸耐性は大きく低下した。
【0169】
これらの結果から、第2層として高融点金属の層を積層させた場合、当該第2層の膜厚を変化させたとしても、所望とする特性をすべて確保することはできないことが確認された。
【0170】
(実施例5)
ここでは、表8に示すAl合金(第1層)の上に、表8に示す種々の組成の第2層を積層させると共に、当該第2層の窒化膜成膜時における混合ガス中の窒素ガスの比率(流量比、%)を、表8に示すように1〜50%となるように種々変化させたときの、450〜600℃に加熱した後の配線抵抗および耐熱性(ヒロック密度)、更にはフッ酸耐性を、前述した実施例1と同様にして調べた。本実施例で用いた第1層のAl合金は、いずれも、本発明の要件を満足するAl−X群元素−REM合金である。
【0171】
これらの結果を表8に併記する。
【0172】
【表8A】

【0173】
【表8B】

【0174】
【表8C】

【0175】
これらの表より、第2層として、混合ガス中の窒素ガスの比率が本発明の要件を満足する(窒素ガスの比率≧2%)ようにしてY群元素の窒化物を成膜したNo.2〜8、10〜16、18〜23、25〜30、32〜35、37〜40、42〜45、47〜50、52〜55、57〜60、62〜65、67〜70では、所望とする特性をすべて確保することができた。なお、表8のNo.1〜70はすべて、第1層中に混入する窒素濃度(原子%)は1原子%未満に抑制されていた(表には示さず)。
【0176】
これに対し、第2層として、混合ガス中の窒素ガスの比率が本発明の要件を下回る条件で成膜したNo.1、9、17、24(以上、表8Aを参照)、No.31、36、41、46(以上、表8Bを参照)、No.51、56、61、66(以上、表8Cを参照)は、窒化が不充分であり、所望とする作用効果を発揮する程度の、Y群元素の窒化物が形成できていないため、いずれも、フッ酸耐性が低下した。
【0177】
これらの結果から、第2層を構成するY群元素の窒化物またはAl合金の窒化物による作用効果を有効に発揮させるためには、当該窒化物の成膜条件を適切に制御することが重要であることが確認された。
【0178】
(実施例6)
上記実施例5における表8Aに示したNo.1〜30について、上記配線構造の電気抵抗率を測定したときと同じ条件で、4端子法で、第2層単膜の電気抵抗率を測定した。測定結果を下記表9に示す。なお、表9において、「絶縁体」とは、電気抵抗率が108Ωcm以上であることを意味している。また、下記表9には、表8Aに示したフッ酸耐性の結果も併せて示す。
【0179】
下記表9から次のように考察できる。表9のNo.2〜8は、混合ガス中の窒素ガスの比率を2%以上に制御して、フッ酸耐性に有用なTiの窒化物を形成した例であり、第2層単膜の電気抵抗率は90μΩm以上であった。
【0180】
また、No.10〜16は、混合ガス中の窒素ガスの比率を3%以上に制御して、フッ酸耐性に有用なMoの窒化物を形成した例であり、第2層単膜の電気抵抗率は75μΩm以上であった。
【0181】
また、No.18〜22、25〜29は、混合ガス中の窒素ガスの比率を3%以上に制御して、フッ酸耐性に有用なAl合金の窒化物を形成した例であり、第2層単膜の電気抵抗率は27μΩm以上であった。
【0182】
但し、表9のNo.23、30に示すように、Al合金の窒化物を形成した場合には、第2層を形成するときの混合ガス中に含まれる窒素ガスの比率を高め過ぎると、第2層単膜の電気抵抗率が高くなり過ぎて、高抵抗の絶縁体になり、エッチング(特に、ウェットエッチング)による配線加工性が劣化する恐れがある。従って第2層としてAl合金の窒化物を形成する場合には、混合ガス中に含まれる窒素ガスの比率を15%以下とすることが好ましい。
【表9】

【0183】
【表10】

【符号の説明】
【0184】
1 ガラス基板
2 多結晶シリコン層
3 低抵抗な多結晶シリコン層
4 走査線
5 ゲート電極
6 ゲート絶縁膜
7 保護膜
8 ソース電極
9 ドレイン電極
10 信号線
11 ビアホール
12 透明電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示装置に用いられる配線構造であって、
前記配線構造は、基板側から順に、
Ta、Nb、Re、Zr、W、Mo、V、Hf、Ti、CrおよびPtよりなる群(X群)から選択される少なくとも一種の元素と、希土類元素の少なくとも一種とを含むAl合金の第1層と;
Ti、Mo、Al、Ta、Nb、Re、Zr、W、V、Hf、およびCrよりなる群(Y群)から選択される少なくとも一種の元素の窒化物、またはAl合金の窒化物の第2層と、が積層された構造を含み、
前記第1層を構成するAl合金と、前記第2層を構成するAl合金とは、同一または異なっていても良いことを特徴とする表示装置用配線構造。
【請求項2】
前記第1層のAl合金は、更にCuおよび/またはGeを含むものである請求項1に記載の配線構造。
【請求項3】
前記第1層のAl合金は、更にNiおよび/またはCoを含むものである請求項1または2に記載の配線構造。
【請求項4】
前記配線構造は、前記第2層の上に、
Ti、Mo、Ta、Nb、Re、Zr、W、V、Hf、およびCrよりなる群(Z群)から選択される少なくとも一種の元素を含む第3層が積層された構造を含むものである請求項1〜3のいずれかに記載の配線構造。
【請求項5】
前記配線構造に対して450〜600℃の加熱処理をしたときに下記(1)〜(3)の要件を満足するものである請求項1〜4のいずれかに記載の配線構造。
(1)電気抵抗率が15μΩcm以下、
(2)ヒロック密度が1×109個/m2以下、
(3)0.5重量%のフッ酸溶液に1分間浸漬した際のエッチングレートが200nm/min以下
【請求項6】
前記第2層がMoの窒化物であり、該第2層の電気抵抗率が75μΩcm以上である請求項5に記載の配線構造。
【請求項7】
前記第2層がTiの窒化物であり、該第2層の電気抵抗率が90μΩcm以上である請求項5に記載の配線構造。
【請求項8】
前記第2層がAl合金の窒化物であり、該第2層の電気抵抗率が27μΩcm以上である請求項5に記載の配線構造。
【請求項9】
前記配線構造に対して450〜600℃の加熱処理を行なったとき、前記第1層を構成するAl合金中に混入する窒素濃度は1原子%以下に抑制されたものである請求項1〜8のいずれかに記載の配線構造。
【請求項10】
前記第2層の膜厚は10nm以上100nm以下である請求項1〜9のいずれかに記載の配線構造。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の配線構造を製造する方法であって、
前記第2層を構成する窒化物は、窒素ガスと不活性ガスの混合ガスを用いた反応性スパッタリング法で形成され、且つ、
前記混合ガス中に含まれる窒素ガスの比率(流量比)は2%以上であることを特徴とする配線構造の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の配線構造を備えた表示装置。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれかに記載の配線構造を備えた液晶ディスプレイ。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれかに記載の配線構造を備えた有機ELディスプレイ。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれかに記載の配線構造を備えたフィールドエミッションディスプレイ。
【請求項16】
請求項1〜10のいずれかに記載の配線構造を備えた蛍光真空管。
【請求項17】
請求項1〜10のいずれかに記載の配線構造を備えたプラズマディスプレイ。
【請求項18】
請求項1〜10のいずれかに記載の配線構造を備えた無機ELディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−84907(P2013−84907A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−166391(P2012−166391)
【出願日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】