説明

表面処理方法及び装置

【課題】フッ化水素(HF)を用いた表面処理における安全性を向上させる。
【解決手段】貯留容器10に無水または含水の液体フッ化水素11を貯留する。吸込加圧手段20によって、容器10内を大気圧以下または前記被処理物の配置環境の圧力以下にし、気化したHFガスを吸い込んで加圧し、被処理物Wへ供給して表面処理を行なう。氷を蓄熱剤32とする温調手段30によって、貯留容器10内をHFの大気圧下での沸点(約20℃)より低温に保つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化水素(HF)を主成分として含有する反応ガスにて被処理物を表面処理する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載の表面処理装置では、液体のHFの貯留容器にNガスを導入して、HFを気化させ、HFとNの混合ガスをウェハに供給し、絶縁膜のエッチングを行なっている。
【特許文献1】特開2003−174009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記貯留容器内の液体HFは、エッチング対象の配置された大気圧環境より高圧になっている。この圧力差によってHF含有ガスが貯留容器からエッチング対象の配置環境へ送られる。
しかし、高圧の液体HFは、系外へ漏れやすく、管理が容易でない。また、HF源として無水HFを用いた場合、貯留容器をHFの沸点(約20℃)より高温に保つ必要があり、貯留容器内の圧力が低下した場合、突沸のおそれがある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、HF含有ガスを用いた表面処理において、安全性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記問題点を解決するために提案されたものであり、被処理物をHFと反応させて表面処理する装置であって、
無水または含水の液体フッ化水素を、大気圧以下または前記被処理物の配置環境の圧力以下で貯留する容器と、
前記貯留容器内をフッ化水素の大気圧下での沸点(約20℃)より低温に保つ温調手段と、
前記液体フッ化水素から気化したガスを吸い込んで加圧し、前記被処理物の配置環境へ供給する吸込加圧手段と、
を備えたことを特徴とする。
この装置によれば、貯留容器内のHFの蒸気圧を大気圧より低くでき、沸騰を防止することができる。これによって、安全性を確保することができる。
【0005】
前記温調手段が、前記沸点より低温で相転移を起こす蓄熱剤を低温側の相の状態で有していることが好ましい。
これによって、たとえ温調手段の駆動停止などのシステム異常が起きた場合であっても、貯留容器内の液体HFを長時間にわたって大気圧下での沸点より低温に維持して蒸気圧を大気圧より低く維持することができる。これによって、一層の安全性確保を図ることができる。
【0006】
前記蓄熱剤が、氷(固相のHO)であることが好ましい。これによって、大きな蓄熱容量を得ることができ、安全性を一層確保できるとともに、コストダウンを図ることができる。
【0007】
前記貯留容器内の温度は、好ましくは−1〜19℃であり、より好ましくは0〜4℃である。
これによって、HFの蒸気圧を大気圧より十分に低くでき、沸騰を確実に防止でき、安全性を確実に確保することができる。温度範囲0〜4℃は、氷を蓄熱剤として用いることにより容易に得ることができる。
【0008】
前記吸込加圧手段によって前記貯留容器内が大気圧(または前記被処理物の配置環境の圧力)より低圧になることが好ましい。
これによって、貯留容器内の液体HFの気化を促進させることができ、処理ガス中のHF濃度を高めることができる。また、たとえ貯留容器や吸込管に亀裂等が生じたとしてもHFガスが系外へ漏れ出るのを防止することができ、安全性を一層高めることができる。
【0009】
前記吸込加圧手段として、たとえばダイアフラム真空ポンプを用いることができる。
前記吸込加圧手段が、駆動流体の噴射により前記気化ガスを吸い込んで前記被処理物の配置環境へ導出するエジェクタであってもよい。
【0010】
前記貯留容器と前記吸込加圧手段とを、全体または一部がコイル状になった吸込管で接続してもよい。
これによって、吸込管を長くでき、或いは容積を大きくでき、運転停止時に貯留容器から気化したHFガスが吸込管内を拡散し吸込加圧手段まで到達する時間を稼ぐことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、HFを用いた表面処理における安全性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態を示したものである。被処理物Wは、例えば半導体ウェハやフラットパネルディスプレイ用のガラス基板などである。この基板上に酸化シリコン等の膜fが形成されている。ここで、被処理物Wの配置環境は、大気圧になっている。
【0013】
膜fをエッチングする表面処理装置1は、貯留容器10と、ダイアフラム真空ポンプ20(吸込加圧手段)とを備えている。貯留容器10の内圧は、大気圧以下になっている。貯留容器10の内部には、液体の無水フッ化水素(HF)が蓄えられている。
【0014】
貯留容器10には温調手段30が付設されている。温調手段30は、冷却器31と、蓄熱剤32を有している。ここで、蓄熱剤32として氷(固相のHO)が用いられている。周知の通り、HOは、HFの大気圧下での沸点(約20℃)より低温の0℃で相転移を起こす。その低温側の相の状態が、氷32である。この氷32が貯留容器10の周囲を厚く囲んでいる。冷却器31によって氷32の温度が維持され、ひいては、貯留容器10の内部、さらには無水HF液11が、大気圧下での沸点より低温の例えば0℃に保たれている。したがって、無水HF液11の蒸気圧は、大気圧より十分に低く、約0.4barである。
【0015】
貯留容器10から吸込管40が延びている。吸込管40には開閉弁41が設けられている。吸込管40の下流端は、真空ポンプ20の入口ポート21に接続されている。
真空ポンプ20のダイアフラム22は、フッ素系樹脂等の耐HF性の高い弾性材料で構成するとよい。
真空ポンプ20の出口ポート23から供給管50が被処理物W上へ延びている。
【0016】
表面処理装置1による被処理物1の処理方法を説明する。
開閉弁14を開けて真空ポンプ20を駆動する。この真空ポンプ20の駆動により、吸込管40を介して貯留容器10内が大気圧より低くなる。これにより、無水HF液11の気化が促進される。この気化した無水HFガスが、吸込管40に導かれて真空ポンプ20へ送られる。真空ポンプ20は、この無水HFガスを大気圧以上に加圧し、供給管50へ導出する。これによって、無水HFガスが、供給管50を経て被処理物Wへ噴き付けられ、被処理物Wの酸化シリコン等の被エッチング膜fと反応する。この結果、被エッチング膜fがエッチングされる。
【0017】
真空ポンプ20の駆動時には貯留容器10及び吸込管40の内圧が大気圧未満になるため、たとえ貯留容器10や吸込管40に亀裂等が生じたとしてもHFガスが系外へ漏れ出るのを防止することができる。
真空ポンプ20の駆動、停止に拘わらず、温調手段30によって貯留容器10内のHF液11を0℃に維持することにより、その蒸気圧を大気圧より低い約0.4barに維持できる。したがって、HF液11が沸騰し系外へ暴出することはない。これによって、安全性を確保することができる。
【0018】
氷からなる蓄熱剤32は、蓄熱容量が大きく、相転移に相当な時間を要する。したがって、たとえ冷却器31が停電等で停止したとしても、貯留容器10内のHF液11を長時間にわたって0℃付近に維持でき、少なくともHFの大気圧下での沸点(約20℃)より低温に維持することができる。したがって、HF液11の沸騰を確実に防止でき、一層の安全性確保を図ることができる。
さらに、蓄熱剤32として安価な氷32を使用することにより、コストダウンを図ることができる。
【0019】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を簡略化する。
図2に示すように、本発明の第2実施形態では、吸込加圧手段として、ダイアフラム真空ポンプ20に代えて、エジェクタ60が用いられている。
【0020】
エジェクタ60は、噴射ノズル61と、吸い込みノズル62と、導出ノズル63とを有している。噴射ノズル61の基端部に駆動流体管71を介して駆動流体源70が連なっている。駆動流体源70には、駆動流体として例えばNの圧縮ガスが蓄えられている。駆動流体として例えばNに代えて、CO、Ar、空気等の他の圧縮ガスを用いてもよい。
【0021】
エジェクタ60の吸い込みノズル62に吸込管40の下流端が接続されている。
導出ノズル63から供給管50が被処理物Wへ延びている。
【0022】
駆動流体源70からの駆動流体(Nガス)が駆動流体管71を経て噴射ノズル61から噴射される。噴射流量は、例えば10slmとし、噴射圧は、例えば5.5barとする。これにより、噴射ノズル61のノズル孔周辺が低圧になり、吸込管40内のガス(無水HF)が、吸い込みノズル61からエジェクタ60内に吸込まれる。無水HFガスの吸い込み流量は、例えば0.7slmである。この無水HFガスが駆動流体のNと混合され、約7%のHFを含むエッチングガス(HF+N)が生成される。このエッチングガスが、導出ノズル63から供給管50へ導出されて、被処理物Wに噴き付けられる。これによって、被エッチング膜fのエッチングを行なうことができる。
【0023】
第2実施形態の吸込管40は、開閉弁41より上流側(貯留容器10の側)の部分43がコイル状になっている。これによって、吸込管40が長くなっている。コイル状部分43は、氷32の内部に埋まっている。
【0024】
エジェクタ60の停止時には、外気が吸込管40を介して貯留容器10内に侵入し、この侵入ガスにHFガスが拡散することも考えられる。外気侵入が無くても、気化したHFが吸込管40内に満たされていく。一方、コイル状部分43の分だけ吸込管30が長くなり、容積が大きくなっているため、HFガスがエジェクタ60まで達するのに時間を要す。これによって、安全性を確保することができる。
【0025】
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の改変をなすことができる。
例えば、被処理物Wの配置環境は、大気圧より低圧でもよく高圧でもよい。
貯留容器10内の温度は、約0℃に限られず、大気圧下でのHFの沸点より低温であればよく、好ましくは−1〜19℃、より好ましくは0〜4℃であればよい。
吸込加圧手段50,60の駆動時における貯留容器10の内圧は、必ずしも大気圧未満ないしは被処理物Wの配置環境の圧力未満でなくてもよく、大気圧でもよく、被処理物Wの配置環境と同圧でもよい。
無水HFに代えて含水HF(フッ酸)を用いてもよい。
各実施形態の独自構成を互いに組み合わせてもよい。例えば、第1実施形態の吸込管40にもコイル状部分43を設けることにしてもよい。
吸込管40の一部分だけでなく全体をコイル状にしてもよい。
本発明は、エッチングに限られず、アッシング、成膜、洗浄、表面改質等の種々のプラズマ表面処理に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、例えば半導体基板の製造やフラットパネルディスプレイ(FPD)の製造に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態に係る表面処理装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る表面処理装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0028】
1 表面処理装置
W 被処理物
10 貯留容器
11 液体フッ化水素
20 ダイアフラム真空ポンプ(吸込加圧手段)
30 温調手段
32 氷(蓄熱剤)
40 吸込管
43 コイル状部分
50 エジェクタ(吸込加圧手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物をフッ化水素と反応させて表面処理する装置であって、
無水または含水の液体フッ化水素を、大気圧以下または前記被処理物の配置環境の圧力以下で貯留する容器と、
前記貯留容器内をフッ化水素の大気圧下での沸点より低温に保つ温調手段と、
前記液体フッ化水素から気化したガスを吸い込んで加圧し、前記被処理物の配置環境へ供給する吸込加圧手段と、
を備えたことを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記温調手段が、前記沸点より低温で相転移を起こす蓄熱剤を低温側の相の状態で有していることを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記蓄熱剤が、氷であることを特徴とする請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項4】
前記貯留容器内の温度が、−1〜19℃であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記吸込加圧手段によって前記貯留容器内が大気圧より低圧になることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の表面処理装置。
【請求項6】
前記吸込加圧手段が、ダイアフラム真空ポンプであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の表面処理装置。
【請求項7】
前記吸込加圧手段が、駆動流体の噴射により前記気化ガスを吸い込んで前記被処理物の配置環境へ導出するエジェクタであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の表面処理装置。
【請求項8】
前記貯留容器と前記吸込加圧手段とを、全体または一部がコイル状になった吸込管で接続したことを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−70958(P2009−70958A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236406(P2007−236406)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】