説明

表面処理装置

【課題】 300MHz〜1GHzの低UHF帯のマイクロ波を使用することにより、広い領域に均一なプラズマを生成して、大面積の基板に均一な表面処理を行なう。
【解決手段】 ガス供給系5からガスを供給しながら、排気系6で排気して、処理容器3内を所定の圧力に保つ。マイクロ波発生器1で低UHF帯のマイクロ波を発生させ、空洞共振器2内でTM010モードで共振させる。隔壁板20に形成された長孔25を通してマイクロ波を放電室4内に放射し、プラズマを形成する。このプラズマを利用して基板30の表面に、エッチングやCVDなどの処理を行なう。隔壁板20の底面は上に凸状に窪んでいて、隔壁板20と基板載置台31との間のギャップは、基板30の中心から半径方向に離れるほど狭くなっている。これにより、プラズマが均一になり、処理も均一になる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、ドライエッチングや化学的気相蒸着(CVD)などのようにプラズマを利用して被処理体の表面に所定の処理を施す表面処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】プラズマを用いて被処理体の表面に処理を施すことは、LSI(大規模集積回路)のような半導体素子や、LCD(液晶ディスプレイ)のような表示装置を製作する際に頻繁に使用されている。プラズマは、大まかには、非平衡プラズマと平衡プラズマに分類される。平衡プラズマは、プラズマを構成している電子、イオン及び中性粒子(分子または原子)の温度がほぼ等しく、熱平衡状態にあるプラズマである。一方、非平衡プラズマは、電子の平均エネルギーがイオンや中性粒子の平均エネルギーよりも大きな状態にあるプラズマである。非平衡プラズマは荷電粒子(電子及びイオン)の熱運動がクーロン力による運動に比べて無視できる程度に小さいため、「低温プラズマ」と呼ばれることもある。非平衡プラズマないしは低温プラズマは、高いエネルギーの電子によって原料ガスを分解して必要なラジカルやイオンを生成することができる。このため、このようなラジカルやイオンを利用した微細加工や薄膜作成等の表面処理に盛んに応用されている。
【0003】このような非平衡プラズマないしは低温プラズマを形成する方式として、高周波を利用する方式が従来より採用されている。高周波を用いてプラズマを形成する表面処理装置のひとつの例として、マイクロ波を利用するものが従来より開発されている。この場合、電子にエネルギーを注入する方法として、電子が磁場の作用によりサイクロトロン運動をするときの周波数を、マイクロ波の周波数と合致させて、共鳴状態にする方法と、マイクロ波を空洞共振器に導入してその振幅を大きくする方法とがある。以下、本願発明に関係する後者の方式の従来装置について述べる。
【0004】空洞共振器を使用する表面処理装置の従来例としては、まず、特開昭56-96841号公報に示されたものがある。図6は、この公報に記載された従来の表面処理装置の正面断面図である。この表面処理装置では、マイクロ波発生器1で発生した周波数2.45GHzのマイクロ波が空洞共振器2に導入されて共振する。これによって形成されたプラズマにより、処理容器3内の基板載置台31に載置された基板30の表面処理が行われる。処理容器3には、ガス供給口32及び排気口33が設けられている。処理容器3内にガスが導入され、このガスにマイクロ波のエネルギーが与えられて上記プラズマが形成される。
【0005】この図6に示す従来の表面処理装置では、空洞共振器2の内部でプラズマが形成されるため、プラズマの影響により空洞共振器2の共振条件が変化してしまう。その結果、プラズマが不安定であるという欠点があった。この欠点を解決するために次に登場したのが、特開平8-246146号公報あるいは特開平8-31444号公報に示された装置である。図7は、一例として、特開平8-31444号公報に示された従来の表面処理装置を示す正面断面図である。
【0006】この図7に示す従来の表面処理装置では、空洞共振器2と処理容器3の間に誘電体板41が設けられていて、両者を区画している。処理容器3の上端開口の縁には、容器フランジ34が設けられている。ガス供給口32は、この容器フランジ34に形成されている。空洞共振器2の下端開口の縁は、この容器フランジ34に接続されている。両者の接続部分はOリングのようなシール部材9で真空シールされている。
【0007】誘電体板41は、その周囲が金属製フランジ42で保持されている。金属製フランジ42と誘電体板41はろう付けにより気密に接合されている。容器フランジ34と金属製フランジ42との間には環状の隙間43が形成されている。この隙間43は、ガス供給口32から供給されるガスのガス溜めである。ガス供給口32から供給されるガスは上記隙間43を満たすことになる。
【0008】誘電体板41の下側には、ガス拡散板50が設けられている。ガス拡散板50の内部にはガスの通路が形成されていて、ガス拡散板50の下面にはガスの噴き出し孔が多数開口している。上記隙間43に入ったガスは、このガス拡散板50を経由して処理容器3内に噴き出す。
【0009】誘電体板41の処理容器3側の表面には、図8に示すように、金属メッキ膜21が形成されている。この金属メッキ膜21には2.45GHzのマイクロ波の波長の半分以上の長さのスリット21cが形成されている。空洞共振器2内で共振するマイクロ波は、金属メッキ膜21のスリット21cを通して処理容器3内に放射される。そして、処理容器3内のガス雰囲気中でプラズマが形成される。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】最近の表面処理装置への要請のひとつに、処理領域の大面積化が挙げられる。この要請は、半導体素子の製作の場合には、一枚の大きな半導体ウェハから作られる半導体回路素子の数をできるだけ多くする必要性から生じる。LCDのような表示装置の場合には、大画面の表示装置を作るのに大型の基板を必要とするので、大きな処理領域が必要になってくる。
【0011】マイクロ波を利用してプラズマを生成する上述のような表面処理装置においては、処理領域を大きくしようとした場合、マイクロ波の周波数を従来の2.45GHzより低くした方が好ましいと考えられる。これは、以下のような理由による。
【0012】空洞共振器の大きさは、処理領域の面積に合うように決定される。すなわち、処理領域が大きくなるに従って、空洞共振器の直径も大きくなる。この場合、高い周波数のマイクロ波を使うと、空洞共振器の大きさで定まる基本モードの共振周波数と比較して、マイクロ波の波長が相対的に短くなる。つまり、空洞共振器内では、高次モード(電界の山谷がたくさん形成された状態)でマイクロ波が共振することになる。このような高次モードで共振するマイクロ波を用いてプラズマを生成すると、空洞共振器の動作が不安定になり易くなる。したがって、処理領域が大きくなるに従い、より低い周波数のマイクロ波を用いることで、基本モードであるところのTM010モードで共振させるようにしたほうが、安定性が高まることになる。
【0013】このような理由から、本願の発明者は、上述した従来の2.45GHzのマイクロ波よりも波長が長い低UHF帯(300MHz〜1GHz)の方が有利であると考えて、このような帯域のマイクロ波を使用する表面処理装置を試作した。図9は、低UHF帯のマイクロ波を使用するものとして発明者が試作した表面処理装置の構造を示す正面断面図である。
【0014】図9に示す表面処理装置は、低UHF帯のマイクロ波を発生させるためのマイクロ波発生器1を有する。マイクロ波発生器1で発生したマイクロ波は、同軸線路11及びループ12を介して空洞共振器2に導入される。空洞共振器2には、誘電体板41を介在させて処理容器3が接続されている。処理容器3にはガス供給口32があり、ガス供給系5から処理容器3内にガスを供給できる。さらに、処理容器3には排気口33があり、排気系6によって処理容器3内を排気できる。処理容器3内には基板載置台31が設けられている。
【0015】空洞共振器2は、マイクロ波がTM010モード(TM:Transverse Magnetic)で共振する円筒形の共振器である。円筒の軸は紙面の上下方向であり、基板30と同軸すなわち基板30の中心を垂直に貫く軸と一致している。TM010モードでは電磁界の分布がほぼ完全な軸対称になるので、中心軸に対して垂直な面内に軸対称性の良いプラズマが生成される。この「中心軸に対して垂直な面」に平行に基板30を載置することにより、基板30の表面に軸対称性の良い処理を行なうことができる。
【0016】図9に示す装置では、空洞共振器2から処理容器3にマイクロ波を放射する構造が図7に示す装置とは異なっている。誘電体板41の空洞共振器2側には、空洞共振器2の下壁部を構成する放射板22が設けられている。放射板22は金属製の板であり、軸対称状に複数の円形の孔23が形成されている。空洞共振器2内で共振するマイクロ波は、この円形の孔23(以下、放射孔と呼ぶ)を通過すると共に誘電体板41を透過して、処理容器3内に放射される。そして、放射されたマイクロ波は、処理容器3内でプラズマを発生させる。
【0017】図9に示したような試作した表面処理装置では、発明者の検討の結果、以下のような二つの問題点があることが判明した。第1の問題点は、表面処理の面内分布(例えばエッチングレートの分布)が中央凸状の分布になり、基板の面内の表面処理の均一性が悪いことである。第2の問題点は、プラズマの点火性が悪いことである。
【0018】本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、低UHF帯のマイクロ波を使用することにより、広い領域に均一なプラズマを生成して、大面積の被処理体に均一な表面処理を行なうことができる実用的な表面処理装置を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】発明者の考察によれば、上述の二つの問題点の原因として以下の点を指摘できる。第1の問題点である中央凸状のエッチングレート分布に対しては、第1の原因として放電室内の電界分布を指摘できる。被処理体が円形の基板であると仮定すると、放電室内のマイクロ波の電界分布は、次の(1)式のようになり、本質的に、基板の中央で強く周辺部で弱くなる。そして、この傾向は、基板の半径が大きいほど、また、マイクロ波の周波数fが高いほど、顕著になる。
【数1】E=E00(kr) …(1)ここで、E0=定数J0はベッセル関数k=ω/c=2πf/c (fは周波数、cは光速)
rは基板の中心からの半径方向の位置
【0020】例えば、周波数が60MHz、300MHz、500MHzの三つの場合について、半径150mm以内の電界分布を計算した例を図10のグラフに示す。このグラフから分かるように、周波数500MHzの場合には中央凸状の傾向が顕著である。
【0021】さらに、図9において、空洞共振器2から処理容器3内に放射されたマイクロ波は、基板30の上方の空間のみならず、基板載置台31の側方及び下方にまで侵入するため、プラズマ領域が広がってしまい、特に基板30の外周付近でのプラズマ密度が低下することが考えられる。
【0022】第1の問題点の第2の原因としては、放射孔の形状を指摘できる。放射孔23が円孔であるため、放電空間に放射されるマイクロ波の電力分布が、基板の外周付近で弱い傾向になっているためと考えられる。
【0023】また、第2の問題点であるプラズマの点火性が悪いことについては、プラズマが無いときの放電室の電界が弱いことが原因として考えられる。
【0024】これらの原因への対策として、発明者は次のように考えた。第1の問題点については、基板30と放射板22とで形成される平行平板形のギャップを、基板中心から離れるにつれて狭くすることにより、外周付近での電界強度の低下を防止できる。また、放射孔を円弧状の長孔にして、その形成位置を基板30の外形寸法よりも大きい位置に移すことにより、マイクロ波が処理容器3の外周付近から放射されることになり、これによってエッチングレートが基板の外周付近で落ち込むことを防ぐことができる。
【0025】第2の問題点については、円筒形の放電室の寸法をTM010モードで共振するような寸法にして、プラズマが点火する前の放電室の電界を強くする。これによりプラズマの点火性が改善する。放電室の内径をD(mm)、マイクロ波の周波数をf(MHz)とすれば、TM010モードの共振条件は、次の(2)式で与えられる。
【数2】D=(2.3×105)/f …(2)
【0026】ただし、実際には、放電室には基板を搬送するための出し入れ口があけられるため共振周波数は上述の理論値よりも若干低下する。したがって、この低下分を見込んで、Dを次の(3)式の範囲内に設定するのがよい。
【数3】D=[(2.0〜2.3)×105]/f …(3)
【0027】上述の第1の問題点を解決するために、請求項1の発明に係る表面処理装置は、300MHzから1GHzの範囲の低UHF帯のマイクロ波を発生させるマイクロ波発生手段と、このマイクロ波発生手段で発生したマイクロ波がTM010モードで共振するように形成された円筒形の空洞共振器と、マイクロ波発生手段から空洞共振器にマイクロ波を導入するマイクロ波導入手段と、空洞共振器からマイクロ波が放射されるように空洞共振器に接続された気密な処理容器と、処理容器内にガスを供給するガス供給系と、処理容器を排気する排気系と、処理容器内に配置されて被処理体を保持する保持手段とを備え、処理容器の内部の放電室が実質的に円筒形状であり、この円筒形状の放電室の、被処理体に対向する端面の中央部分が、外周付近よりも、被処理体から離れる方向に窪んでいることを特徴としている。これにより、放電室内の半径方向の電界分布が一様になる。なお、この明細書において、円筒形の空洞共振器とは、完全な円筒形の空洞共振器のほかに、その他の軸対称の空洞共振器も含むものとする。したがって、本発明における円筒形の空洞共振器には、リエントラント形の空洞共振器(くぼみ形空洞共振器)も含まれる。
【0028】放電室のギャップについて、より具体的には、放電室の前記端面と被処理体との距離が、被処理体の中心からの半径方向の位置rに応じて、J0(kr)にほぼ比例して変化するようにする。ここで、J0はベッセル関数、kは半径方向の伝搬定数でk=ω/c、ωはマイクロ波の角周波数、cは光速である。
【0029】放電室の前記端面は、空洞共振器と処理容器とを隔てる隔壁板の処理容器側の面で構成することができ、その場合に、この隔壁板の空洞共振器側の面を、中央部分が外周付近よりも被処理体から離れる方向に突き出すようにすることで、隔壁板の厚さを実質的に均一にできる。
【0030】さらに、空洞共振器と処理容器とを隔てる隔壁板にはマイクロ波放射用の複数の円弧状の長孔を形成する。これらの長孔は被処理体の外形よりも外側の位置に形成し、これらの長孔は誘電体の板で気密に覆うようにしている。
【0031】そして、上述の第2の問題点を解決するために、放電室の内径D(mm)は、マイクロ波の周波数f(MHz)に応じて、D=[(2.0〜2.3)×105]/f の関係を満足するように設定している。
【0032】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、この発明の第1の実施形態の正面断面図である。図1において、この表面処理装置は、低UHF帯のマイクロ波を発生させるマイクロ波発生器1を有する。マイクロ波発生器1で発生したマイクロ波はマイクロ波導入手段10により空洞共振器2に導入される。空洞共振器2は、気密な処理容器3に接続されている。処理容器3にはガス供給系5が接続され、ガス供給口32から処理容器3内にガスを供給できる。処理容器3には排気系6が接続され、排気口33から処理容器3内を排気できる。処理容器3には搬送口35が形成され、基板30を処理容器3から出し入れできる。処理容器3の内部には、基板30を載置する基板載置台31がある。
【0033】マイクロ波発生器1としては、固体素子が通常採用され、その周波数は低UHF帯、例えば500MHzである。具体的には、電界効果トランジスタ(FET)を使用した素子を使用できる。このような固体素子としては、例えばモトローラ社製のMRF−393等が市販されている。この実施形態では、マイクロ波発生器1の出力は2kWである。
【0034】マイクロ波導入手段10は、マイクロ波発生器1と空洞共振器2とをつなぐ同軸線路11と、同軸線路11の空洞共振器2への接続部分に設けられたループ12とから主に構成されている。同軸線路11は、マイクロ波を伝送する二線回路であり、内導体とこれを取り囲む同軸状の外導体とからなる。内導体と外導体との間には、必要に応じて誘電体が設けられる。
【0035】同軸線路11によって伝送されたマイクロ波は、ループ12を介して磁界結合方式により空洞共振器2内に導入される。ループ12により生じた磁界を基にして、空洞共振器2内には周状に磁界が発生し、マイクロ波の電磁界が空洞共振器2内で共振する。
【0036】空洞共振器2は、アルミニウムまたはステンレスのような金属でできた円筒形またはリエントラント形(例えば、くぼみ形空洞共振器)の容器である。この空洞共振器2は、マイクロ波発生器1が発生させるマイクロ波が最低次のTM010モードで共振するような共振器である。この基本モードの共振周波数f0は、aを空洞半径として、およそ次の(4)式で計算できる。ここで、λ0はマイクロ波の波長、cは真空中の光速である。
【数4】λ0=2.61a=c/f0 …(4)
【0037】この(4)式から、例えばa=200mmのとき、f0=575MHzとなる。なお、空洞共振器2の軸方向の長さは半径aと同程度でよく、例えば175mmである。
【0038】図1に示した空洞共振器2はリエントラント形である。すなわち、純粋な円筒形空洞共振器の上部と下部に、円柱状の上部中心導体45と下部中心導体46とを設けたものである。中心導体45、46の軸方向の長さは100mm程度で、直径は70mmである。中心導体45、46の軸方向の長さを調節することで、空洞共振器2の共振周波数を調整することができる。中心導体45、46の材質は空洞共振器2と同様の金属である。
【0039】次に、空洞共振器2と処理容器3とを隔てる隔壁板20の構造を説明する。図2(A)は隔壁板20の断面図(図2(B)のA−A線断面図)であり、図2R>2(B)は隔壁板20を下から見た底面図である。この隔壁板20はアルミニウム製であり、円弧状の6個の長孔25が同一円周上に等間隔に形成されている。長孔25の幅は10mm程度、長さは100mm程度である。長孔25の形成位置は、空洞共振器の中心軸から160mm程度離れた半径方向位置にあり、基板の半径(150mm)よりも外側に位置している。長孔25は隔壁板20を貫通していて、この長孔25は空洞共振器から処理容器へとマイクロ波を放射する役割を果たしている。隔壁板20の下面(基板に対向する面)は上に凸状に窪んでいる。この窪み26の形状は、断面が三角形でも台形でもその他の多角形でもよい。図面に示す実施形態では窪み26の断面形状は台形になっている。一番厚い部分の厚さは約20mmであり、一番薄い部分の厚さは約5mmである。隔壁板20の上面には、大径の誘電体リング24が、長孔25を覆うように、Oリングを挟んで気密に取り付けられている。誘電体リング24は石英またはアルミナセラミック等で形成されている。この誘電体リング24により、空洞共振器と処理容器は気密に隔てられている。空洞共振器内で共振するマイクロ波は、誘電体リング24を透過し、さらに長孔25を通過して、処理容器内に放射される。放射されたマイクロ波は、処理容器内でプラズマを発生させる。
【0040】図1に戻って、処理容器3の上端開口の縁には容器フランジ34が設けられており、この容器フランジ34に隔壁板20がOリングを挟んで気密に取り付けられている。図2に示すように、ガス供給口32は隔壁板20の外周面に接続されている。ガス供給口32から供給されるガスは、隔壁板20の内部に形成された通路27を通って環状空間28に入り、多数のガス噴き出し孔29から処理容器内に噴き出す。
【0041】図1に戻って、ガス供給系5は、ガスボンベ53と流量調整器54とバルブ52とそれらをつなぐ配管51とを備えている。排気系6は、処理容器3の底面の排気口33に接続されていて、ターボ分子ポンプのような真空ポンプを備えている。この排気系6は、ガス供給系5から処理容器3にガスを供給している状態で、処理容器3内を1Torr〜10-3Torr程度の圧力に排気できる。
【0042】処理容器3内のほぼ中央には、プラズマによって処理される位置に基板載置台31が設けられている。この基板載置台31は、被処理体である基板30を保持する保持手段である。基板載置台31は、ステンレスのような金属製であり、支柱311によって支えられている。支柱311は処理容器3の底面を気密に貫通している。
【0043】この基板載置台31は、基板30に一定のバイアス電位を印加する電極の役割を兼ねている。基板載置台31には、処理容器3の外部に設けられた高周波電源7が接続されている。高周波電源7が印加する高周波電圧とプラズマとの相互作用によって、基板載置台31上の基板30にはプラズマに対して負のバイアス電位が発生する。基板載置台31及び支柱311の周囲を覆うようにして絶縁体312が設けられており、この絶縁体31は処理容器3(接地されている)から基板載置台31を電気的に絶縁している。
【0044】絶縁体312の周囲には金属製のシールド部品313が装着されている。シールド部品313の上端部と処理容器3の間にはバッフル板314があり、シールド部品31の上端はバッフル板314と処理容器3を介して接地されている。バッフル板314は金属製であり、多数の小孔が上下方向に貫通するように形成されている。このバッフル板314は放電室4の形状を円筒形状に限定している。放電室4の上方の境界は隔壁板20であり、下方の境界はバッフル板314とシールド部品313の上端と絶縁体312の上端と基板載置台31であり、側面の境界は処理容器3の内壁である。この円筒状の放電室4の内径D(mm)は、マイクロ波の周波数f(MHz)に対応して、D=[(2.0〜2.3)×105]/f の関係を満足するように設定されている。例えば、周波数が500MHzの場合には、放電室4の内径Dは440mmとなる。これにより、プラズマが発生する前において、放電室がTM010モードの共振条件を満足するようになり、電界強度が大きくなって、プラズマの点火性が改善する。
【0045】次に、図1の装置の動作を説明する。基板30を搬送口35を通して処理容器3内に搬入し、基板載置台31上に載置する。基板載置台31内には必要に応じて静電吸着機構が設けられ、基板30を静電吸着する。ガス供給系5によってガス供給口32を通して処理容器3内に所定のガスを供給しながら、排気系6によって処理容器3内を排気し、処理容器3内を所定の圧力に保つ。この状態で、マイクロ波発生器1で低UHF帯のマイクロ波を発生させる。マイクロ波は同軸線路11によって伝送されて、ループ12を介して空洞共振器2に導入される。
【0046】マイクロ波は空洞共振器2内でTM010モードで共振しながら、隔壁板20に形成された長孔25を通して放電室4内に放射される。放射されたマイクロ波は、放電室4内に供給されたガスにそのエネルギーを注入して、プラズマを形成する。そして、このプラズマを利用して基板30の表面に所望の処理が施される。例えば、プラズマ反応イオンエッチングを行なう場合には、プラズマ中で活性種例えばフッ素系活性種を生成するガスを供給し、活性種で基板30をエッチングする。また、プラズマCVDを行なう場合は、プラズマ中で分解反応する原料ガスを供給し、基板30上に所望の薄膜を堆積させる。
【0047】本実施形態で使用しているような低温プラズマでは、プラズマの電子温度は低く、基板30に入射するイオンの加速電圧となるプラズマ電位も通常20〜30V程度である。この場合、高周波電源7によって基板30に負のセルフバイアス電圧を発生させると、プラズマ中からイオンが引き出されて基板30へ衝突するのが促進される。このような構成は、比較的大きなエネルギーを必要とするリアクティブイオンエッチングの場合に好適である。
【0048】上述した動作において、図1に示すように、隔壁板20の底面は上に凸状に窪んでいる。したがって、隔壁板20と基板載置台31との間の距離(ギャップ)は、基板30の中心から半径方向に離れるほど狭くなっている。これによる効果を以下に説明する。図3(A)は隔壁板20の底面が平坦になっている場合における、隔壁板20と基板30との間のギャップと、そこでの電界分布を示したものである。電界は矢印で模式的に示してあり、矢印の密度が電界の強度を表わしている。隔壁板20と基板30の間の距離はどこでも同じであり、電界分布は基板の中心付近で強く、外周付近で弱くなっている。この電界分布は、上述の(1)式のE=E00(kr)で与えられるような中央凸状分布である。
【0049】これに対して、図3(B)は本実施形態のように隔壁板20の底面に窪みを設けた場合の電界分布である。隔壁板20と基板30との距離は、基板の中心付近で大きく、外周付近で小さくなっている。これにより、上述の中央凸状の電界分布が補正されて、基板の半径方向においてほぼ均一な電界分布が得られる(図面に示すように、電界を示す矢印の密度がほぼ一様である)。ところで、プラズマ中のイオンは基板30に垂直に入射する。本実施形態では、プラズマが径方向に均一になることとあいまって、基板への電界が垂直になることから、基板30へのイオン入射量も径方向に均一になる。このような点は、例えば基板30の表面に形成された溝や穴の底部にイオンを多く到達させる必要がある場合に特に有利である。
【0050】なお、図3に示した電界分布はプラズマが発生する前の状態であり、プラズマが発生すると電界分布は次のように変化すると考えられる。プラズマは導電性であるから、電界はプラズマの内部には入っていけず、基板とプラズマとの間にできるシース領域と、プラズマと隔壁板との間にできるシース領域とにおいて、電界分布が生じることになる。この場合、これらの二つのシース領域を新たな平行平板ギャップとみなすことができる。そして、図3(A)に示す従来技術では、二つのシース領域における電界分布もまた、上述の(1)式のE=E00(kr)で与えられるような中央凸状分布になると考えられる。一方、図3(B)に示す本実施形態の場合には、二つのシース領域における電界分布もまた、基板の半径方向においてほぼ均一な電界分布になると考えられる。
【0051】次に、本発明の第2の実施形態を説明する。図4は第2の実施形態の表面処理装置を示す正面断面図である。この図4に示す装置は、図1の装置と比較して、隔壁板20aの構造が異なっている。この隔壁板20aは、底面に窪みが形成されているのは図1と同じであるが、隔壁板20の上面が図1では平坦であるのに対して、図4では隔壁板20aの厚さが一様になるように上面の中央部分が外周付近よりも基板30から離れる方向に突き出している。こうすると、隔壁板20の中央付近の厚さをあまり薄くせずにすみ、機械的強度を保つことができる。さらに、隔壁板20aの厚さが均一になるので、図2に示した環状空間28を形成し易くなる。
【0052】次に、本発明の第3の実施形態を説明する。図5は第3の実施形態の表面処理装置を示す正面断面図である。この5に示す装置も、図1の装置と比較して、隔壁板20bの構造が異なっている。この隔壁板20bは、その断面において、曲面状に上に凸に湾曲している。こうすることにより、上述の理論式のE=E00(kr)によって与えられる電界分布を理想的な形で補正できる。
【0053】冒頭に述べたように、本発明は非平衡プラズマいわゆる低温プラズマを用いて表面反応を進行させる場合に利用されるが、これに限られるものではなく、その他のプラズマを用いたり、その他の表面処理を行なう場合にも有効である。
【0054】また、被処理体であるところの基板は、円形の場合に限らず、液晶基板のように矩形であってもよい。矩形の基板の場合には、矩形の対角線の長さと同等かそれ以上の直径を有する空洞共振器を使用して、基板の中心と空洞共振器の中心軸とを一致させる。なお、円形や矩形以外の基板を被処理体としてもよいことはもちろんである。
【0055】
【発明の効果】本発明によれば、円筒状の放電室のギャップが被処理体の中心から離れるにつれて狭くなっているので、ギャップが一様である場合に生じるような中央凸状の電界分布が補正されて、電界の面内分布が一様になる。これにより、均一なプラズマによる均一な表面処理が可能になる。また、空洞共振器と処理容器とを隔てる隔壁板の底面の中央に窪みを設けることで上述のようなギャップを形成する場合に、隔壁板の上面も同様に変化させることで隔壁板の厚さをほぼ一定にすれば、隔壁板の機械的強度を保つことができる。さらに、マイクロ波放射用の長孔を被処理体の外形よりも外側の位置に形成することにより、マイクロ波を処理容器の外周部付近から放射することができ、これにより例えばエッチングレートの被処理体端部での落ち込みを防止できる。さらに、放電室の内径をマイクロ波の周波数に応じて基本モードで共振するように定めることにより、放電室内の電界強度を高めて、プラズマの点火性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1の実施形態の正面断面図である。
【図2】隔壁板の断面図と底面図である。
【図3】隔壁板と基板との間のギャップにおける電界分布を説明する説明図である。
【図4】第2の実施形態の表面処理装置を示す正面断面図である。
【図5】第3の実施形態の表面処理装置を示す正面断面図である。
【図6】従来の表面処理装置の正面断面図である。
【図7】従来の表面処理装置の別の例の正面断面図である。
【図8】従来の表面処理装置で使われている誘電体板の平面図である。
【図9】発明者が試作した表面処理装置の正面断面図である。
【図10】平行平板ギャップの電界分布を示すグラフである。
【符号の説明】
1 マイクロ波発生器
2 空洞共振器
3 処理容器
4 放電室
5 ガス供給系
6 排気系
10 マイクロ波導入手段
20 隔壁板
24 誘電体リング
25 長孔
26 窪み
30 基板
31 基板載置台

【特許請求の範囲】
【請求項1】 300MHzから1GHzの範囲の低UHF帯のマイクロ波を発生させるマイクロ波発生手段と、このマイクロ波発生手段で発生したマイクロ波がTM010モードで共振するように形成された円筒形の空洞共振器と、マイクロ波発生手段から空洞共振器にマイクロ波を導入するマイクロ波導入手段と、空洞共振器からマイクロ波が放射されるように空洞共振器に接続された気密な処理容器と、処理容器内にガスを供給するガス供給系と、処理容器を排気する排気系と、処理容器内に配置されて被処理体を保持する保持手段とを備え、処理容器の内部の放電室が実質的に円筒形状であり、この円筒形状の放電室の、被処理体に対向する端面の中央部分が、外周付近よりも、被処理体から離れる方向に窪んでいることを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】 放電室の前記端面と被処理体との距離が、被処理体の中心からの半径方向の位置rに応じて、J0(kr)にほぼ比例して変化することを特徴とする請求項1記載の表面処理装置。ここで、J0はベッセル関数、kは半径方向の伝搬定数でk=ω/c、ωはマイクロ波の角周波数、cは光速である。
【請求項3】 空洞共振器と処理容器は隔壁板で隔てられており、この隔壁板の処理容器側の面が、放電室の前記端面を構成しており、この隔壁板の空洞共振器側の面は、その中央部分が外周付近よりも被処理体から離れる方向に突き出しており、これにより隔壁板の厚さが実質的に均一になっていることを特徴とする請求項1または2に記載の表面処理装置。
【請求項4】 空洞共振器と処理容器とは隔壁板で隔てられており、この隔壁板にはマイクロ波放射用の複数の円弧状の長孔が形成されていて、これらの長孔は被処理体の外形よりも外側の位置に形成され、かつ、これらの長孔は誘電体の板で気密に覆われていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面処理装置。
【請求項5】 放電室の内径D(mm)は、マイクロ波の周波数f(MHz)に応じて、D=[(2.0〜2.3)×105]/f の関係を満足するように設定されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図9】
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【公開番号】特開2000−73175(P2000−73175A)
【公開日】平成12年3月7日(2000.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−257644
【出願日】平成10年8月28日(1998.8.28)
【出願人】(000227294)アネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】