説明

表面評価装置

【課題】ワーク表面の凹凸状態をパワースペクトルの全座標点データを用いて定量的に評価することができる表面評価装置を提供する。
【解決手段】ワーク表面の凹凸データに基づいてワーク表面を評価する表面評価装置10において、前記ワーク表面の凹凸データをフーリエ変換してパワースペクトルを求める手段と、当該パワースペクトルを相互相関関数を用いて数値化する手段と、当該数値化された値の最大値を用いて前記ワーク表面の評価を行う手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク表面の凹凸状態を定量的に評価する表面評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関のシリンダボアにおけるホーニング加工後の表面状態はエンジンの焼付きやピストンとのフリクションと密接に関係しているため、エンジンにとって重要な品質評価項目となっている。具体的には、シリンダボアをホーニング加工した時に形成される螺旋条痕はエンジンオイルを保持する機能を有しており、当該螺旋条痕の形成状態がピストン部の潤滑状態(オイル消費、フリクション)に寄与することから、シリンダブロックの加工工程ではその品質評価が行われている。
【0003】
シリンダボアの表面状態を評価する手段としてはSUMP等による転写画像を用いた目視による品質評価やRz(十点平均粗さ)、Ra(中心線平均粗さ)等の2次元粗さ計測結果が用いられているが、前者は評価結果の再現性が乏しく、後者は得られる情報が線情報であり、前述のエンジン性能を評価する指標としては精度が不十分であるという課題がある。
【0004】
また、近年、面レベルで加工面の粗さを計測することが可能な3次元粗さ(形状)計測機等の普及もみられるが、コストが高い、計測所要時間が長い、センサヘッドをボア内に挿入できない等の課題を有しており、ボア表面の品質評価への本格的な適用については見通しがついていない状況にある。つまり、ボア表面の品質を多次元で捉え、迅速に評価できる技術が必要とされている。
【0005】
また、ホーニング加工後におけるシリンダボア表面の状態の検査においては、近年では検査効率の向上のために、画像診断が利用されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、パワースペクトルが一定値以上であるパワー値を有する座標点を選択し、ワーク表面の評価を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−340805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の表面解析装置においては、一定値以上のパワー値を有する座標点を選択して行う表面評価であるため、精度が悪い。そのため、パワースペクトルの特定の座標点だけを選択するのではなく、パワースペクトルの全座標点データを用いて表面評価を行うことで精度向上を図りたい。
【0009】
そこで、本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、ワーク表面の凹凸状態をパワースペクトルの全座標点データを用いて定量的に評価することができる表面評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、請求項1においては、
ワーク表面の凹凸データに基づいてワーク表面を評価する表面評価装置において、
前記ワーク表面の凹凸データをフーリエ変換してパワースペクトルを求める手段と、
当該パワースペクトルを相互相関関数を用いて数値化する手段と、
当該数値化された値の最大値を用いて前記ワーク表面の評価を行う手段と、
を有する表面評価装置である。
【0012】
請求項2においては、
前記ワーク表面は、内燃機関のシリンダボア表面である表面評価装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の如く、ワーク表面を評価するに際し、相互相関関数を用いることにより、全座標点データを含む表面評価が可能となり、評価精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る表面評価装置の概略構成を示す模式図。
【図2】実施形態に係る表面評価装置に適用する表面評価方法を説明する説明図であり、(a)は撮像データを示す図、(b)は3D形状データを示す図、(c)はパワースペクトルを示す図。
【図3】図2(c)のパワースペクトルに対して相互相関関数を適用して数値化することを説明するための説明図。
【図4】ボア表面の良否判定のフローを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0016】
以下に、本発明の表面評価装置の一実施形態として、ワーク表面の表面加工品質の評価を行う表面評価装置について、図を用いて説明する。本実施形態においては、評価対象のワーク表面として、内燃機関のシリンダブロック1におけるシリンダボア2表面を例として挙げて説明する。
【0017】
表面評価装置10は、シリンダボア2内周表面の凹凸状態に係る凹凸データに基づいてシリンダボア2内周表面を評価する装置であり、図1に示すように、シリンダボア2の内周表面を撮像する撮像手段3と、当該撮像手段3から出力される撮像信号に基づき、シリンダボア2内周表面の凹凸状態の評価を行うコンピュータ5とを備える。具体的には、表面評価装置10は、シリンダボア2内周表面における凹凸成分のうち螺旋条痕の形成状態について良否判定を行う装置である。
【0018】
撮像手段3は、シリンダボア2内に挿通し、シリンダボア2の内周表面を撮像するCCDカメラと、当該CCDカメラをシリンダボア2の高さ方向に往復駆動させるとともに、CCDカメラをシリンダボア2の中心軸回りに回転駆動させる駆動手段とから構成される。撮像手段3が有するCCDカメラ及び駆動手段は、コンピュータ5からの指令に応じて動作が制御される。撮像手段3は、駆動手段によりCCDカメラを所定のパターンで回転駆動及びシリンダボア2の高さ方向に往復駆動させることによりシリンダボア2の内周面の所定の検査範囲の画像信号を取得することができる。CCDカメラで得られた画像信号は、コンピュータ5により、前記所定のパターンに従って合成されることにより、シリンダボア2内周面の検査範囲全体を表す1枚の解析画像として作成される。撮像手段3は、データ転送部4を介してコンピュータ5に接続されている。
【0019】
コンピュータ5は、表面評価に係る処理、データ解析に係る各種処理を実行するCPU、各種表面評価・解析処理用のプログラムが記憶され、且つ上記撮像信号等の解析処理に必要な情報を記憶する記憶手段、撮像手段3により撮像したシリンダボア2内周表面の画像(例えば、図1にて矢印で示すボア表面凹凸データ)や解析結果、評価結果等を出力するモニター等の出力手段6を備えている。また、コンピュータ5には、撮像手段3から出力された撮像信号を前記データ転送部4を介して入力する入力ポート、及び撮像手段3のCCDカメラや駆動装置を制御するために指令信号を出力する出力ポートが設けられている。
【0020】
データ解析部は、解析画像である凹凸データに対して所定の解析処理を実行するためにコンピュータ5が有する解析手段であり、コンピュータ5にプログラムを実行させることによりシリンダボア2内周表面の品質評価を行うための各解析処理を行うことができる。
【0021】
具体的には、データ解析部は、シリンダボア2内周表面の凹凸データをフーリエ変換して、パワースペクトル(周波数スペクトルともいう)を求める手段であるパワースペクトル演算部、当該パワースペクトル演算部にて得られるパワースペクトルの相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)を求める手段である相互相関関数演算部、当該相互相関関数演算部にて得られた相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の最大値を求める手段である最大値演算部、前記相互相関関数演算部にて得られた相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)が最大値となる時のkx、kyの各変数の値を求める手段である最大時変数演算部、前記最大値演算部にて求められた相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の最大値と、前記最大時変数演算部にて求められた相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)が最大値となる時のkx、kyの各変数の値に基づきシリンダボア2内周表面の品質評価の判定を行う手段である評価演算部、当該評価演算部の演算結果を表示する表示部、により構成されるとともに、各演算部の演算機能をプログラムにより実行可能とするものである。
なお、上記相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の詳細については、後述する。
【0022】
また、前記相互相関関数演算部、前記最大値演算部、及び前記最大時変数演算部は、パワースペクトル演算部にて求められたパワースペクトルを相互相関関数を用いて相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の最大値および、その時のkx、kyの各変数の値として数値化する手段を構成するものである。
また、前記評価演算部は、当該数値化された値である相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の最大値と、その時のkx、kyの各変数の値とを用いてシリンダボア2内周表面の評価を行う手段である。
なお、本実施形態において、前記評価演算部は、数値化された値として相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の最大値と、その時のkx、kyの各変数の値を用いてシリンダボア2内周表面の評価を行うが、特に限定するものではなく、数値化された値として相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の最大値もしくは、その時のkx、kyの各変数の値における何れか一方の値を用いてシリンダボア2内周表面の評価を行うことも可能である。
【0023】
上記パワースペクトル演算部では、解析画像である凹凸データに対して離散的な2次元フーリエ変換を実行し、この結果に基づき2次元もしくは3次元のパワースペクトル画像を生成する(図2(c)に示す画像は2次元画像)。すなわち、パワースペクトル演算部では、シリンダボア2内周面の画像である凹凸データを周波数空間でのスペクトル画像に変換する。図2(c)に示す2次元パワースペクトル画像は、横軸及び縦軸をそれぞれx軸、y軸方向の空間周波数とした画像である。そして、そうしたパワースペクトルのx−y座標上の各座標点には、シリンダボア2内周表面の周方向及び高さ方向における輝度レベルの各周波数成分のパワー値(畳み込み積分値)がプロットされている。このパワースペクトル画像の計算法自体は公知であり、例えば従来の手法(例えば、特許文献1に示した手法)を利用することができる。
【0024】
次に、上記表面評価装置10を用いたシリンダボア2内周の凹凸状態の表面評価方法について具体的に説明する。ここでは、具体例として、ホーニング加工時に形成されるシリンダボア2内周表面における螺旋条痕の形成状態を定量的に評価する方法について図2を用いて説明する。
【0025】
シリンダボア2表面における螺旋条痕の形成状態の評価では、先ず撮像手段3をシリンダブロック1が有するシリンダボア2に挿通し、シリンダボア2の内周表面の撮像が行われる。撮像は、CCDカメラをシリンダボア2の中心軸回りに回転させつつ、シリンダボア2の高さ方向に移動させて、シリンダボア2の内周表面の全体を周方向及び高さ方向に順次走査しながら行われる。そして、撮像手段3から出力される撮像信号は、データ転送部4、入力ポートを通じてコンピュータ5に入力される。
【0026】
コンピュータ5は、当該コンピュータ5が有するデータ解析部に撮像信号が入力されると、その信号を処理して、シリンダボア2内周表面の凹凸データを生成して記憶手段に記憶する。
【0027】
図2(a)に示す撮像データは、シリンダボア2内周表面の凹凸データの一例を示したものであり、当該撮像データにおいては、x軸はシリンダボア2における周方向を示し、y軸はシリンダボア2における上下高さ方向を示している。また、図2(a)に示す撮像データでは、異なる2つの斜め方向、すなわち右上がり方向と右下がり方向の、複数の周期的な螺旋条痕があることが確認できる。つまり、図2(a)に示す撮像データによると、シリンダボア2の内周表面にはいわゆるクロスハッチパターンの螺旋条痕が形成されていることがわかる。
【0028】
また、図2(b)に示す3D形状データも、シリンダボア2内周表面の凹凸データの一例を示したものであり、当該3D形状データにおいては、x軸はシリンダボア2における上下高さ方向を示し、y軸はシリンダボア2における周方向を示し、図2(b)においてz軸は凹凸レベル(凹凸の高低レベル)を示している。また、図2(b)に示す3D形状データでは、異なる2つの方向(基本的に斜め方向)の、複数の周期的な螺旋条痕があることが確認できる。つまり、図2(b)に示す3D形状データによると、シリンダボア2の内周表面には、ほぼ一定間隔で規則的に表れる複数のホーニング加工溝、いわゆるクロスハッチパターンの螺旋条痕が立体的に形成されているがわかる。
なお、凹凸データとしては、シリンダボア2表面の凹凸状態を示すデータ(RGBデータ、3D形状計測データ等)であれば適用可能であり、本実施形態の如く、CCDカメラ等の撮像手段によって取得される凹凸データ(図2(a)に示す撮像データ)のみに限定するものではなく、例えば、3次元粗さ測定器やその他の表面形状測定器等を用いて取得されるワーク表面に係る凹凸データ(図2(b)に示した3D形状データ等)でもかまわない。
【0029】
そして、記憶手段に記憶されたシリンダボア2内周表面凹凸データに対して2次元フーリエ変換処理を実行することにより、シリンダボア2内周表面の凹凸データである撮像データによるパワースペクトル(図2(c)参照)が取得され、記憶手段に記憶される。
【0030】
図2(c)は、上記シリンダボア2内周表面の凹凸データである撮像データを2次元フーリエ変換して得られたパワースペクトルを示したものである。図2(c)のx軸及びy軸は、撮像データにおけるx軸方向及びy軸方向の2次元フーリエ変換後の周波数成分をそれぞれ示している。そして、そうしたパワースペクトルのx−y座標上の各座標点には、シリンダボア2内周表面の上記周方向及び高さ方向における輝度レベルの各周波数成分のパワー値(畳み込み積分値)がプロットされている。こうしたパワースペクトルでは、その第1象限及び第3象限、第2象限及び第4象限が、上記x−y座標の原点(パワースペクトル原点)に対して点対称となっている。
【0031】
以上のようにしてシリンダボア2内周表面の撮像データのパワースペクトルを求めた後、コンピュータ5は、求めたパワースペクトルにおける周波数成分に対して相互相関関数(数1参照)を適用して処理を行う。ここで、相互相関関数とは、例えば、2つの関数f(i,j)とg(i,j)の相関を求めるものである。つまり、2つの座標点がどの程度類似しているか、あるいは2つの座標点が位置的にどのくらいずれているかを調べるために適用される手段である。本実施形態に係る関数(数1)においては、f(i,j)の座標をそのままにしてg(i,j)の座標をkx、kyだけずらし所定の区間で両者の内積をとったものである。この内積の相関値は座標のずれkx、kyを変数に持つ関数となる。この関数が本実施形態において適用する相互相関関数である。つまり、本実施形態においては、2つの座標上にプロットされたデータ間の相関をみるために相互相関関数を適用している。以下に、パワースペクトルに対して相互相関関数を適用した例について具体的に図3を用いて説明する。
【0032】
【数1】

【0033】
図3(a)に示すパワースペクトル(図2(c)で示したパワースペクトルと同じ)においては、第I象限、第III象限は撮像データにおける螺旋条痕の右下がり成分を示すものである。一方、第II象限、第IV象限は撮像データにおける螺旋条痕の右上がり成分を示すものである。このように第I象限と第III象限、及び第II象限と第IV象限とはそれぞれ原点に対して対称関係となるものである。
【0034】
シリンダボア2内周表面に形成された螺旋条痕の形成状態を定量的に評価するために、図3(a)に示すパワースペクトルが有する対称関係とならない象限について、相互相関関数を用いて対称関係とならない象限同士の相関を調べる。すなわち、螺旋条痕の形成状態を定量的に評価するために、対称関係とならない2つの象限の相関性を調べて、螺旋条痕の右下がり成分と右上がり成分とのシリンダボア2内周表面における形成バランスを判定する。本実施形態では、螺旋条痕の右下がり成分と右上がり成分の形成バランスを評価するに際し、例として、右下がり成分を有する第I象限と右上がり成分を有する第II象限に対して相互相関関数を適用して形成バランスを評価するための数値化を行う。
【0035】
図3(b)は図3(a)のパワースペクトルが有する、第I象限と第II象限に対して相互相関関数を適用した場合を理解に供するためにイメージ化した説明図である。図3(b)に示すように、第I象限と第II象限に対して相互相関関数を適用した場合は、第I象限(関数f(i,j))と第II象限(関数g(i,j)、図3(b)に示す第II象限のデータは周波数の縦軸を反転したもの)とをkx、kyを変数として重ね合せていき、変数kx、kyに対応する相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の大きさの変化をみていることになる。図3(c)は相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の値と、kx、kyの各変数の値との関係を三次元的に表したものである。これらの図からもわかるように、右下がり成分を有する第I象限と右上がり成分を有する第II象限に対して相互相関関数を適用した場合、kx=m、ky=nにてRxy(i,j,kx,ky)が最大となり、その時のRxy(i,j,kx,ky)の値が大きいほど右下がりの螺旋条痕と右上がりの螺旋条痕の形成状態がよく似ていることになる。また、Rxy(i,j,kx,ky)が最大となるときのkx=m、ky=nは、右下がりの螺旋条痕と右上がりの螺旋条痕の位置的なズレ量を表しており、m、nは小さい値であるほど右下がりの螺旋条痕と右上がりの螺旋条痕の形成状態がよく似ていることになる。つまり、Rxy(i,j,kx,ky)の最大値がより大きく、及び、その時のkx、kyがより小さければ、螺旋条痕の形成状態がよく似ることになり、右下がりの螺旋条痕と右上がりの螺旋条痕とがバランスの取れた良好な形成状態であると言える。本実施形態に係る表面評価装置10は、これらRxy(i,j,kx,ky)の最大値と、そのときのkx、kyの各値を求め、当該各数値に基づいて螺旋条痕の形成状態について定量的に評価を行うものである。
【0036】
前述したように右下がり成分を有する第I象限と右上がり成分を有する第II象限に対して相互相関関数を適用した場合、kx=m、ky=nにてRxy(i,j,kx,ky)が最大となり、その時のRxy(i,j,kx,ky)の値が大きいほど、及び、その時のkx、kyの各値が小さいほど右下がりの螺旋条痕と右上がりの螺旋条痕の形成状態がよく似ていることを示している。また、シリンダボア2内周表面のホーニング加工品質としては、螺旋条痕はエンジンオイルを保持する機能を有しており、螺旋条痕の形成状態がピストン部の潤滑状態(オイル消費、フリクション)に寄与することから、きれいでバランスの取れた螺旋条痕の形成状態、すなわち、シリンダボア2内周表面における右下がりの螺旋条痕と右上がりの螺旋条痕の形成状態がよく似ているクロスハッチパターンが形成されていることが要求される。そこで、螺旋条痕の形成状態の評価法としては、シリンダボア2内周表面における螺旋条痕の形成状態を上記相互相関関数を用いた手法により数値化することにより、当該数値をシリンダボア2内周表面の良否を判定するための新たな判定規格値として利用することが好適である。具体的には、内燃機関の製造ラインにおいてシリンダボア2内周表面の良否判定を行うに際し、相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の最大値と相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)が最大値となる時のkx、kyの各変数の値について予め品質の良否判定に用いるための規格値を設け、当該規格値によりシリンダボア2内周表面の良否判定を行う。そして、当該シリンダボア2内周表面の良否判定の結果は、モニター等の出力手段6を介して出力される。
【0037】
このようにして、コンピュータ5のデータ解析部は、相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の最大値及び、相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)が最大値となる時のkx、ky、に基づいてホーニング加工品質を評価する。
【0038】
すなわち、コンピュータ5は、凹凸データをフーリエ変換して作成された図2(c)に示すパワースペクトルにて、螺旋条痕の右上がり成分と右下がり成分を有する象限同士に対して相互相関関数による処理を行うことで相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の最大値、及び、相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)が最大となる時のkx、kyを算出し、当該相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の最大値、その時のkx、kyを、予めコンピュータ5に設定されている相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の最大値と、その時のkx、kyの各値と比較して、良否を判定することで、シリンダボア2内周表面における螺旋条痕の形成状態の良否を評価することができる。
【0039】
次に、図4は、以上説明した本実施形態の表面評価装置10により実行される表面評価処理工程のフローチャートを示している。この処理は、コンピュータ5のデータ解析部によって実行される。各処理工程を図4のフローチャートを用いて説明する。
【0040】
表面評価処理工程においては、予め品質判定規格値を決定するための規格値決定工程と、内燃機関の製造ラインにおいてシリンダボア2の良否判定を行うための本測定を行う本測定工程と、を有する。以下、各工程について説明する。
【0041】
規格値決定工程は、表面評価装置10を用いて予め所定のワークに対して事前の評価を行ってシリンダボア2内周表面における螺旋条痕の形成状態の良否判定を行うための所定の規格値を決定する工程である。
【0042】
規格値決定工程では、先ず規格値決定の基準となるマスタワークを選定し(S100)、撮像手段3により検査対象のシリンダボア2内周表面を撮影してシリンダボア2内周表面の凹凸データを取得する(S110)。次に、データ解析部は、当該シリンダボア2表面の凹凸データに対して2次元フーリエ変換を実行し、この変換結果からパワースペクトルを求める(S120)。次にパワースペクトルの右下がり成分(I象限orIII象限)と右上がり成分(II象限orIV象限)の相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)を求める(S130)。次に相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の最大値および、その時のkx、kyを求める(S140)。そして、求めた相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の最大値および、その時のkx、kyの各値から所定の品質評価判定規格値を決定する(S150)。決定された品質評価判定規格値は、本測定工程で用いられ、ホーニング加工後のシリンダボア2内周表面における螺旋条痕の形成状態の良否判定の際の判定規格値となる。
【0043】
本測定工程は、内燃機関の製造ラインにおけるワークの検査、すなわちホーニング加工後のシリンダボア2内周表面の良否判定を行うために適用される工程である。
【0044】
本測定工程では、先ず評価対象となるワークを選定し(S200)、撮像手段3により検査対象のシリンダボア2内周表面を撮影してシリンダボア2内周表面の凹凸データを取得する(S210)。次に、データ解析部は、当該シリンダボア2表面の凹凸データに対して2次元フーリエ変換を実行し、この変換結果からパワースペクトルを求める(S220)。次にパワースペクトルの右下がり成分(I象限orIII象限)と右上がり成分(II象限orIV象限)の相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)を求める(S230)。続いて相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の最大値および、その時のkx、kyを求め(S240)、求めた相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の最大値および、その時のkx、kyが規格値内か否かを判定する(S250)。すなわち、コンピュータ5のデータ解析部は、前述したようにして決定された品質評価判定にて決定された品質評価判定規格値を用いて、相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の最大値および、その時のkx、kyの値が品質評価判定規格値内であれば(Yes)、シリンダボア2内周表面の螺旋条痕の形成状態が良好であると判定し(OK判定)、相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の最大値および、その時のkx、kyの値が品質評価判定規格値内でなければ(No)、シリンダボア2内周表面の螺旋条痕の形成状態が不良(No)であると判定する(NG判定)。
なお、上記規格値としては、例えば、相互相関関数Rxy(i,j,kx,ky)の最大値は、規格値決定工程にて決定された最大値の規格値以上とし、最大値となる時のkx、kyの値は規格値決定工程にて決定されたkx、kyの値の規格値以下として、本測定工程で用いる規格値の範囲を決定するとよい。
【0045】
以上により、本実施形態によれば、ホーニング加工時に形成される内燃機関のシリンダボア2内周表面の螺旋条痕状態を凹凸データの周波数情報に基づき評価することができる。例えば、ボア表面の撮像データ、又は3D凹凸データをフーリエ変換することで得られるパワースペクトルにおいて、対称関係にない象限同士の周波数成分の対称性(相関性)を相互相関関数により求め、ホーニング加工品質を評価することができる。
【0046】
本発明は、ホーニング加工時に形成される螺旋条痕が規則性を持って形成される点に注目し、エンジンボア表面の凹凸の状態を周波数解析することで、螺旋条痕の形成状態を簡易的、且つ、定量的に評価することができる。
【0047】
本発明によれば、ワーク表面を評価するに際し、相互相関関数を用いることにより、パワースペクトルの全座標点を用いた評価、すなわち全座標点データを含む表面評価が可能となり、パワースペクトルの特定の座標点を用いる従来の表面評価等に比べて、評価精度が向上する。
【符号の説明】
【0048】
1 シリンダブロック
2 シリンダボア
3 撮像手段
5 コンピュータ
10 表面評価装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワーク表面の凹凸データに基づいてワーク表面を評価する表面評価装置において、
前記ワーク表面の凹凸データをフーリエ変換してパワースペクトルを求める手段と、
当該パワースペクトルを相互相関関数を用いて数値化する手段と、
当該数値化された値の最大値を用いて前記ワーク表面の評価を行う手段と、
を有することを特徴とする表面評価装置。
【請求項2】
前記ワーク表面は、内燃機関のシリンダボア表面であることを特徴とする請求項1に記載の表面評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−93316(P2012−93316A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242819(P2010−242819)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】