説明

車両の制御装置

【課題】操舵輪から伝達される操舵反力を迅速且つ正確に推定する。
【解決手段】
前輪及び後輪のうち少なくとも一方の舵角を変化させることが可能な舵角可変手段(200)と、前輪及び後輪のうち少なくとも一方における左右輪の制駆動力差を変化させることが可能な制駆動力可変手段(600)とを備えた車両(10)を制御する装置(100)は、車両の目標運動状態に対応する複数の目標状態量を設定する設定手段と、車両の運動状態が目標運動状態となるように、設定される複数の目標状態量に応じて舵角可変手段及び制駆動力可変手段を制御する運動制御手段と、設定される複数の目標状態量の各々、設定された複数の目標状態量に応じた上記少なくとも一方の舵角及び設定された複数の目標状態量に応じた上記少なくとも一方における左右輪の制駆動力差のうち複数の要素に基づいて、操舵反力を推定する推定手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばEPS(Electronic controlled Power Steering:電子制御式パワーステアリング装置)、VGRS(Variable Gear Ratio Steering:ステアリングギア比可変装置)、ARS(Active Rear Steering:後輪操舵装置)、4WS(4 Wheels Steering:4輪操舵装置)又はSBW(Steering By Wire:電子制御舵角可変装置)等を備えた車両を制御するための車両の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、舵角を制御するモータ1とステアリングトルクを制御するモータ2とを備えた自動操舵装置を制御する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された自動操舵装置の制御方法によれば、自動操舵によって生じる操舵反力を上記モータ2のトルクによって打ち消すことが可能であるとされている。
【0003】
尚、車両のヨーレートが目標ヨーレートとなるように各輪の制駆動力を制御するものも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−336169号公報
【特許文献2】特開平3−292221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法によると、操舵反力を相殺するためのアシストトルクが、操舵反力に応じて検出される操舵トルクに基づいて演算される。即ち、操舵反力は、検出可能な程度の操舵トルクとして顕在化した後に推定されることになる。
【0006】
即ち、特許文献1の方法では、操舵反力を実現象としてしか検出できないことに起因して、ドライバが知覚し得る程度の有意な期間にわたって操舵反力は相殺されずに残存してしまうという技術的問題点がある。
【0007】
このような技術的問題点は、操舵反力についての記述も示唆もない特許文献2に開示される技術を適用したところで同様に生じ得る。
【0008】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、各種自動操舵がなされるにあたって操舵輪から伝達される操舵反力を、迅速且つ正確に推定可能な車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明に係る車両の制御装置は、前輪及び後輪のうち少なくとも一方の舵角を、該少なくとも一方の舵角の変化を促すドライバ操作から独立して変化させることが可能な舵角可変手段と、前輪及び後輪のうち少なくとも一方における左右輪の制駆動力差を変化させることが可能な制駆動力可変手段とを備えた車両を制御する装置であって、前記車両の目標運動状態に対応する複数の目標状態量を設定する設定手段と、前記車両の運動状態が前記目標運動状態となるように、前記設定される複数の目標状態量に応じて前記舵角可変手段及び前記制駆動力可変手段を制御する運動制御手段と、前記設定される複数の目標状態量の各々、前記設定された複数の目標状態量に応じた前記少なくとも一方の舵角及び前記設定された複数の目標状態量に応じた前記少なくとも一方における左右輪の制駆動力差のうち複数の要素に基づいて、前記車両の運動状態が前記目標運動状態へ収束する過程において操舵輪から操舵装置に伝達される操舵反力を推定する推定手段とを具備することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る車両は、舵角可変手段と制駆動力可変手段とを備える。
【0011】
舵角可変手段とは、前輪若しくは後輪又はその両方の舵角を、これらの変化を促すドライバ操作から独立して変化させることが可能な手段である。このドライバ操作とは、好適には、ステアリングホイル等の各種操舵入力手段の操作を意味する。従って、舵角可変手段によれば、ドライバがステアリングホイルから手を放していても、或いはステアリングを保舵しているのみであっても、上記舵角を所望の値に変化させることが可能である。
【0012】
即ち、舵角可変手段とは、上記操舵入力手段から操舵輪(好適には、前輪)へ至る操舵入力の機械的伝達経路を担う通常の操舵機構とは本質的意味合いにおいて異なるものである。但し、物理構成上の観点から見れば、舵角可変手段の少なくとも一部は、当然ながらこの種の操舵機構と共用或いは共有されていてもよい。舵角可変手段は、好適な一形態としては、VGRS、SBW、ARS、或いは4WS等の各種実践的態様を採り得る。
【0013】
舵角可変手段によれば、舵角の制御対象となる車輪(上記操舵入力手段と機械的に連結された操舵輪を含み得る)について、舵角が少なくとも一定の範囲で可変であるから、理論的には車両の進行方向をドライバの操舵入力とは無関係に変化させることが可能となる。
【0014】
制駆動力可変手段とは、前輪若しくは後輪又はその両方における、左右輪の制駆動力差を変化させることが可能な手段である。制駆動力可変手段は、好適な一形態として、例えば、駆動力分配デファレンシャル機構等の各種駆動力分配手段、ABS(Antilock Braking System)等を含む各種ECB(Electronic Controlled Braking system:電子制御制動装置)等の実践的態様を採り得る。
【0015】
前者は、内燃機関等の各種動力源から供給されるトルク(尚、トルクと駆動力とは一義的な関係を有し得る)を、その物理的、機械的又は電気的作用により所望の配分比率に従って左右輪に配分するものであり、左右輪の駆動力の絶対値を増減制御し得るものである。従って、この種の態様を採る制駆動力可変手段の制御対象は、車両の駆動輪である。
【0016】
一方、後者は、左右輪に付与される、好適には摩擦制動力としての制動力を変化させることにより、付与される制動力の小さい側の車輪の駆動力を相対的に高くすることと同等の効果を得るものである。即ち、制動力は、言わば負側の駆動力である。従って、この種の態様を採る制駆動力可変手段の制御対象は、必ずしも駆動輪でなくてよい。
【0017】
左右輪で制駆動力差が生じると、車両は、駆動力の相対的に小さい車輪(制動力の相対的に大きい車輪である)の側(即ち、右側車輪の駆動力(制動力)が小さければ(大きければ)、右側である)へ旋回する。
【0018】
従って、制駆動力可変手段によれば、理論的には車両の進行方向をドライバの操舵入力とは無関係に変化させることが可能となる。
【0019】
本発明に係る車両の制御装置は、このような車両を制御する装置であって、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ、或いは更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等を適宜に含み得る、単体の或いは複数のECU(Electronic Controlled Unit)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る。
【0020】
本発明に係る車両の制御装置によれば、その動作時には、設定手段により、車両の目標運動状態に対応する複数の目標状態量が設定される。
【0021】
本発明に係る「目標運動状態」とは、車両の採るべき運動状態であって、且つ少なくとも舵角可変手段及び制駆動力可変手段の各々により制御される上述の舵角及び制駆動力差の変化により導かれ得る運動状態を意味する。
【0022】
上述したように、舵角可変手段及び制駆動力可変手段は、共に車両の旋回挙動を制御し得る手段である。従って、本発明に係る車両の目標運動状態とは、好適な一形態として、目標車線を維持した走行や目標経路にトレースした走行等を意味する。
【0023】
本発明に係る「目標状態量」とは、このような目標運動状態に対応する車両の状態量であって、車両の旋回挙動を規定する状態量である。目標状態量は、好適な一形態として、例えば車体スリップ角(車両の旋回接線方向に対する角度であり、車体の向きと車体の瞬間的な進行方向とのなす角度である)、ヨーレート或いは横加速度等の目標値を意味する。
【0024】
尚、設定手段は、例えば、目標走行路に沿って車両を走行させるための参照値となり得る物理量としての位置状態偏差(即ち、維持すべき目標走行路と車両との相対的位置関係を規定する偏差であり、好適な一形態として、目標走行路に対する車両の横位置の偏差やヨー角偏差等を含み得る)や、その時点の車速等に基づいて、目標状態量を設定する。目標状態量は、予め然るべき記憶手段にパラメータ値と対応付けられる形でマップ化されて格納されていてもよいし、その都度然るべき演算アルゴリズムや演算式等に従って導かれてもよい。
【0025】
このようにして目標状態量が設定されると、運動制御手段により、車両の運動状態が当該目標運動状態となるように、この設定された複数の目標状態量に応じて上述の舵角可変手段及び制駆動力可変手段が制御される。
【0026】
その結果、舵角可変手段により促される舵角の変化により、又は制駆動力可変手段により促される左右輪の制駆動力差により、或いはその両方により、例えば、車両の走行路が目標走行路に維持、収束又は漸近し、車両の運動状態が目標運動状態に維持、収束又は漸近する。
【0027】
ここで、車両の運動状態を目標運動状態に維持、収束又は漸近させるにあたっての車両の状態量は複数必要となるが、車両挙動の安定化、ドライバビリティの維持及び挙動制御上の自由度等を考えると、これら複数の状態量は、夫々独立して制御可能であるのが望ましい。
【0028】
目標状態量と舵角可変手段及び制駆動力可変手段の各制御量との相関は、公知の運動方程式から導出することができる。この際、車両の状態量を独立制御する観点に立てば、前輪舵角、後輪舵角、前輪制駆動力差及び後輪制駆動力差を含むパラメータは、必然的に独立性を維持しようとする状態量と同数必要となる。従って、車両の運動状態を二自由度で規定しようとすれば、パラメータもまた二個必要となる。
【0029】
ところで、この種のヨー方向の挙動変化を伴う運動制御においては、操舵輪から、操舵輪に対する操舵入力の物理的な伝達を行う各種操舵装置(ステアリングホイル等の操舵入力手段を含む)に対して、例えば、操舵輪のセルフアライニングトルクに起因するものを含む操舵反力(トルクとして規定すれば、即ち、操舵反力トルクである)が加わる。
【0030】
この操舵反力は、ドライバが操舵入力手段を保舵していれば、言わばステアリングの「手応え」ともなり得るが、運動制御手段による車両の運動制御は、ドライバの操舵意思とは無関係に遂行される性質のものであるから(無論、制御自体はドライバの意思で開始される性質のものである)、このような操舵反力は、ドライバに違和感を与え易い。
【0031】
また、この操舵反力は、操舵入力手段を本来の旋回方向とは逆方向に回転させようとする反力であるから、ドライバがステアリングを保舵していない、所謂手放し走行時においては、操舵入力手段が逆旋回方向に切られることによって、運動制御手段による挙動制御の進捗に影響が及んでしまう。
【0032】
この際、例えば、ドライバ操舵トルクとは別の操舵トルクの付与等を介して、操舵反力と拮抗する操舵力を別途付与すればよいのであるが、肝心の操舵反力が不明なままでは、この操舵反力と真に拮抗する力を与えることは困難である。また、この種の拮抗する力が操舵反力に対し大きければ、車両はこの拮抗する力の方向への旋回が促され、反対に小さければ、車両はこの操舵反力の方向への旋回が促されてしまうから、車両の円滑な挙動制御の観点からは、操舵反力の高精度な推定が望まれる状況にある。
【0033】
即ち、車両における複数の状態量を独立制御することによる、高品質な自動操舵、特に手放し走行を実現するにあたっては、当該操舵反力を少なくとも迅速且つ高精度に推定することが必須要件となる。本発明に係る車両の制御装置は、このような問題点に想到し、上述した運動方程式に基づいて、操舵反力を迅速且つ高精度に推定することが可能であることを新規に見出したものである。
【0034】
即ち、本発明に係る車両の制御装置によれば、推定手段は、設定される複数の目標状態量の各々、設定された複数の目標状態量に応じた舵角及び設定された複数の目標状態量に応じた制駆動力差のうち複数の要素に基づいて操舵反力を推定する。
【0035】
ここで、上述した複数の目標状態量に独立した自由度を与えるだけでよい場合、運動制御手段の制御対象となるパラメータは、目標状態量の同数でよい。ところが、操舵反力を一種の状態量として扱うと、操舵反力を推定するためには、最低でも3種類のパラメータが必要となる。
【0036】
ここで特に、この3種類のパラメータは、操舵反力と上記複数の要素との相対関係を特定するために必要となるのであり、このような相対関係が参照値として参照可能に記憶される場合、推定手段は、この最低3種類のパラメータから適宜選択された、或いは運動制御手段の制御対象に相当するものとして予め定められた、最低2種類のパラメータとこの相対関係とに基づいて、操舵反力を推定することができる。
【0037】
このように、推定手段によれば、上述した従来技術のように、操舵反力が実現象として無視し得ない有限の期間にわたって顕在化した後に検出される場合と異なり、複数の目標状態量や、当該複数の目標状態量に応じて適宜制御される複数のパラメータ(例えば、前輪舵角、後輪舵角、前輪制駆動力差及び後輪制駆動力差の中から、事前に又はその都度適宜選択された複数のパラメータ)等といった、操舵反力を生じさせる要素に基づいて、操舵反力が実際に操舵装置に伝達される前段階(好適には、操舵入力手段に伝達される前段階)で操舵反力の推定を完了することができる。
【0038】
従って、然るべき操舵反力抑制措置が請じられるにあたって、予測的な抑制(即ち、フィードフォワード的な抑制)が可能であり、事後対応的な抑制(即ち、フィードバック的な抑制)がなされる場合と較べて実践上の利益は明らかに大である。
【0039】
補足すると、本発明は、(1)舵角可変手段及び制駆動力可変手段を協調させつつ車両の望ましいヨー挙動制御(例えば、車線維持走行や目標経路維持走行)を実現するにあたって、操舵反力を推定する必要を見出し、(2)公知の運動方程式から、上記ヨー挙動制御に対応する要素値(目標状態量或いは舵角又は制駆動力差の実制御量)と操舵反力との関係性を導き出し得る点に着眼することによって、迅速且つ高精度な操舵反力の推定を可能としたものである。従って、操舵反力導出の根拠が公知の運動方程式にあるか否かは、本発明の進歩性にいささかも影響を与えないことは明白である。
【0040】
本発明に係る車両の制御装置の一の態様では、前記目標状態量は、前記車両のヨーレート及び車体スリップ角であり、前記推定手段は、前記複数の要素として、前記ヨーレート及び車体スリップ角に基づいて前記操舵反力を推定する。
【0041】
この態様によれば、目標状態量としてのヨーレート及び車体スリップ角が設定された段階で操舵反力を推定することが可能となる。従って、操舵反力の推定がより迅速に行われ、例えば、操舵反力を抑制或いは解消するための各種の措置を講じるための時間的猶予を獲得することが可能となる。
【0042】
本発明に係る車両の制御装置の他の態様では、前記推定手段は、前記複数の要素として、前記少なくとも一方の舵角及び前記少なくとも一方における左右輪の制駆動力差とに基づいて前記操舵反力を推定する。
【0043】
運動制御手段が舵角可変手段及び制駆動力可変手段を制御するにあたっては、設定される目標状態量に応じて、適宜これら各手段の制御量の目標値が設定される。ここで、この設定される目標値は、あくまで目標値であるから、目標状態量に基づいた操舵反力の推定がなされた場合、各手段の実応答の時間的遅延により車両の運動状態が目標運動状態から乖離する過渡的な期間については、推定された操舵反力が実現象として生じる操舵反力とずれる可能性がある。
【0044】
この態様によれば、操舵反力は、いずれも車両の実挙動である、少なくとも一方の舵角と少なくとも一方における左右輪の制駆動力差とに基づいて推定される。従って、推定される操舵反力は、車両の実挙動に即した値となり、高い推定精度が担保される。
【0045】
本発明に係る車両の制御装置の他の態様では、前記車両は、前記操舵反力を抑制可能な操舵反力抑制手段を備え、前記車両の制御装置は、前記推定された操舵反力が抑制されるように前記操舵反力抑制手段を制御する操舵反力制御手段を具備する。
【0046】
この態様によれば、車両には、操舵反力を抑制可能な操舵反力抑制手段が備わり、操舵反力制御手段が、この操舵反力抑制手段の制御を介してこの操舵反力を抑制するため、車両の運動状態を目標運動状態に維持、収束又は漸近させるに際して、所謂手放し走行が可能となり、高い利便性が提供される。また、手放し走行がなされない場合であっても、ドライバが自身の操舵意思とは無関係な操舵反力に抗する保舵力を付与する必要はないため、ドライバビリティの低下も抑制され得る。
【0047】
尚、本発明に係る「操舵反力抑制手段」とは、操舵入力手段を介して与えられる操舵入力の一形態としてのドライバ操舵トルクとは独立した操舵トルクを付与可能な、EPS等の各種パワーステアリング装置であってもよい。
【0048】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】図1の車両においてなされるLKA制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、適宜図面を参照して本発明の車両の制御装置に係る実施形態について説明する。
<実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る車両10の構成について説明する。ここに、図1は、車両10の基本的な構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0051】
図1において、車両10は、操舵輪として左右一対の前輪FL及びFRを備えた、本発明に係る「車両」の一例である。車両10は、ECU100、VGRSアクチュエータ200、VGRS駆動装置300、EPSアクチュエータ400、EPS駆動装置500、及び制動装置600を備える。
【0052】
ECU100は、夫々不図示のCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備え、車両10の動作全体を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「車両の制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述するLKA制御を実行可能に構成されている。
【0053】
尚、ECU100は、本発明に係る「設定手段」、「運動制御手段」、「推定手段」及び「操舵反力制御手段」の夫々一例として機能するように構成された一体の電子制御ユニットであり、これら各手段に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0054】
車両10では、本発明に係る操舵入力手段としてのステアリングホイル11を介してドライバより与えられる操舵入力が、ステアリングホイル11と同軸回転可能に連結され且つステアリングホイル11と同一方向に回転可能な軸体たるアッパーステアリングシャフト12に伝達される。アッパーステアリングシャフト12は、その下流側の端部においてVGRSアクチュエータ200に連結されている。
【0055】
VGRSアクチュエータ200は、ハウジング201、VGRSモータ202及び減速機構203を備えた、本発明に係る「操舵力付与手段」の一例である。
【0056】
ハウジング201は、VGRSモータ202及び減速機構203を収容してなるVGRSアクチュエータ200の筐体である。ハウジング201には、前述したアッパーステアリングシャフト12の下流側の端部が固定されており、ハウジング201は、アッパーステアリングシャフト12と一体に回転可能となっている。
【0057】
VGRSモータ202は、回転子たるロータ202a、固定子たるステータ202b及び駆動力の出力軸たる回転軸202cを有するDCブラシレスモータである。ステータ202bは、ハウジング201内部に固定されており、ロータ202aは、ハウジング201内部で回転可能に保持されている。回転軸202cは、ロータ202aと同軸回転可能に固定されており、その下流側の端部が減速機構203に連結されている。
【0058】
減速機構203は、差動回転可能な複数の回転要素(サンギア、キャリア及びリングギア)を有する遊星歯車機構である。この複数の回転要素のうち、第1の回転要素たるサンギアは、VGRSモータ202の回転軸202cに連結されており、また、第2の回転要素たるキャリアは、ハウジング201に連結されている。そして第3の回転要素たるリングギアが、ロアステアリングシャフト13に連結されている。
【0059】
このような構成を有する減速機構203によれば、ステアリングホイル11の操作量に応じたアッパーステアリングシャフト12の回転速度(即ち、キャリアに連結されたハウジング201の回転速度)と、VGRSモータ202の回転速度(即ち、サンギアに連結された回転軸202cの回転速度)とにより、残余の一回転要素たるリングギアに連結されたロアステアリングシャフト13の回転速度が一義的に決定される。この際、回転要素相互間の差動作用により、VGRSモータ202の回転速度を増減制御することによって、ロアステアリングシャフト13の回転速度を増減制御することが可能となる。即ち、VGRSモータ202及び減速機構203の作用により、アッパーステアリングシャフト12とロアステアリングシャフト13とは相対回転可能である。また、減速機構203における各回転要素の構成上、VGRSモータ202の回転速度は、各回転要素相互間のギア比に応じて定まる所定の減速比に従って減速された状態でロアステアリングシャフト13に伝達される。
【0060】
このように、車両10では、アッパーステアリングシャフト12とロアステアリングシャフト13とが相対回転可能であることによって、アッパーステアリングシャフト12の回転量たる操舵角MAと、ロアステアリングシャフト13の回転量に応じて一義的に定まる(後述するラックアンドピニオン機構のギア比も関係する)操舵輪たる前輪の舵角δfとの比たる操舵伝達比Kが、予め定められた範囲で連続的に可変となる。
【0061】
即ち、VGRSアクチュエータ200は、ステアリングホイル11を介した操舵入力から独立して操舵輪の舵角を変化させることが可能な、本発明に係る「舵角可変手段」の一例である。
【0062】
尚、減速機構203は、ここに例示した遊星歯車機構のみならず、他の態様(例えば、アッパーステアリングシャフト12及びロアステアリングシャフト13に夫々歯数の異なるギアを連結し、各ギアと一部分で接する可撓性のギアを設置すると共に、係る可撓性ギアを、波動発生器を介して伝達されるモータトルクにより回転させることによって、アッパーステアリングシャフト12とロアステアリングシャフト13とを相対回転させる態様等)を有していてもよいし、遊星歯車機構であれ上記と異なる物理的、機械的、又は機構的態様を有していてよい。
【0063】
VGRS駆動装置300は、VGRSモータ202のステータ202bに対し通電可能に構成された、PWM回路、トランジスタ回路及びインバータ等を含む電気駆動回路である。VGRS駆動装置300は、図示せぬバッテリと電気的に接続されており、当該バッテリから供給される電力によりVGRSモータ202に駆動電圧を供給することが可能に構成されている。また、VGRS駆動装置300は、ECU100と電気的に接続されており、その動作はECU100により制御される構成となっている。尚、VGRS駆動装置300は、VGRSアクチュエータ200と共に、本発明に係る「舵角可変手段」の一例を構成している。
【0064】
ロアステアリングシャフト13の回転は、操舵機構19に伝達される。
【0065】
操舵機構19は、所謂ラックアンドピニオン機構であり、ロアステアリングシャフト13の下流側端部に接続されたピニオンギア14及び当該ピニオンギアのギア歯と噛合するギア歯が形成されたラックバー15を含む機構である。操舵機構19は、ピニオンギア14の回転がラックバー15の図中左右方向の運動に変換されることにより、ラックバー15の両端部に連結されたタイロッド及びナックル(符号省略)を介して操舵力が各操舵輪に伝達される構成となっている。
【0066】
EPSアクチュエータ400は、永久磁石が付設されてなる回転子たる不図示のロータと、当該ロータを取り囲む固定子であるステータとを含むDCブラシレスモータとしてのEPSモータを備えた、本発明に係る「操舵反力抑制手段」の一例である。
【0067】
このEPSモータは、EPS駆動装置500を介した当該ステータへの通電によりEPSモータ内に形成される回転磁界の作用によってロータが回転することにより、その回転方向にEPSトルクTepsを発生可能に構成されている。
【0068】
一方、EPSモータの回転軸たるモータ軸には、不図示の減速ギアが固定されており、この減速ギアはまた、ピニオンギア14と噛合している。このため、EPSモータから発せられるEPSトルクTepsは、操舵トルクの一種としてピニオンギア14の回転をアシストするアシストトルクとして機能する。
【0069】
ピニオンギア14は、先に述べたようにロアステアリングシャフト13に連結されており、ロアステアリングシャフト13は、VGRSアクチュエータ200を介してアッパーステアリングシャフト12に連結されている。従って、アッパーステアリングシャフト12に加えられるドライバ操舵トルクMTは、EPSトルクTepsにより適宜アシストされた形でラックバー15に伝達され、ドライバの操舵負担が軽減される構成となっている。
【0070】
EPS駆動装置500は、EPSモータのステータに対し通電可能に構成された、PWM回路、トランジスタ回路及びインバータ等を含む電気駆動回路である。EPS駆動装置500は、図示せぬバッテリと電気的に接続されており、当該バッテリから供給される電力によりEPSモータに駆動電圧を供給することが可能に構成されている。また、EPS駆動装置500は、ECU100と電気的に接続されており、その動作はECU100により制御される構成となっている。尚、EPS駆動装置500は、EPSアクチュエータ400と共に、本発明に係る「操舵反力抑制手段」の一例を構成している。
【0071】
尚、本発明に係る「操舵反力抑制手段」の態様は、ここに例示するものに限定されず、例えば、EPSモータから出力されるEPSトルクTepsは、不図示の減速ギアによる回転速度の減速を伴って、直接ロアステアリングシャフト13に伝達されてもよいし、ラックバー15の往復運動をアシストする力として付与されてもよい。
【0072】
一方、車両10には、操舵トルクセンサ16、操舵角センサ17及び回転角センサ18を含む各種センサが備わっている。
【0073】
操舵トルクセンサ16は、ドライバからステアリングホイル11を介して与えられるドライバ操舵トルクMTを検出可能に構成されたセンサである。より具体的に説明すると、アッパーステアリングシャフト12は、上流部と下流部とに分割されており、図示せぬトーションバーにより相互に連結された構成を有している。係るトーションバーの上流側及び下流側の両端部には、回転位相差検出用のリングが固定されている。このトーションバーは、車両10のドライバがステアリングホイル11を操作した際にアッパーステアリングシャフト12の上流部を介して伝達される操舵トルク(即ち、ドライバ操舵トルクMT)に応じてその回転方向に捩れる構成となっており、係る捩れを生じさせつつ下流部に操舵トルクを伝達可能に構成されている。従って、操舵トルクの伝達に際して、先に述べた回転位相差検出用のリング相互間には回転位相差が発生する。操舵トルクセンサ16は、係る回転位相差を検出すると共に、係る回転位相差を操舵トルクに換算して操舵トルクMTに対応する電気信号として出力可能に構成されている。また、操舵トルクセンサ16は、ECU100と電気的に接続されており、検出された操舵トルクMTは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0074】
操舵角センサ17は、アッパーステアリングシャフト12の回転量を表す操舵角MAを検出可能に構成された角度センサである。操舵角センサ17は、ECU100と電気的に接続されており、検出された操舵角MAは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0075】
回転センサ18は、VGRSアクチュエータ200におけるハウジング201(即ち、回転角で言うならばアッパーステアリングシャフト12と同等である)とロアステアリングシャフト13との回転位相差たるVGRS回転角θvgを検出可能に構成されたロータリーエンコーダである。回転角センサ18は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたVGRS回転角θvgは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0076】
尚、ECU100は、この検出されたVGRS回転角θvgに基づいて、前輪舵角δfを算出可能である。但し、車両10は、操舵輪たる前輪近傍に、前輪舵角δfを検出可能な舵角センサを備えていてもよい。
【0077】
車両10は、車載カメラ20及び車速センサ21を備える。
【0078】
車載カメラ20は、車両10のフロントノーズに設置され、車両10の前方における所定領域を撮像可能に構成された撮像装置である。車載カメラ20は、ECU100と電気的に接続されており、撮像された前方領域は、画像データとしてECU100に一定又は不定の周期で送出される構成となっている。ECU100は、この画像データを解析し、後述するLKA制御に必要な各種データを取得可能である。
【0079】
車速センサ21は、車両10の速度たる車速Vを検出可能に構成されたセンサである。車速センサ21は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0080】
制動装置600は、操舵輪たる前輪FL及びFRと、非操舵輪である後輪RL及びRRに対し、個別に制動力を供給可能に構成されたECBであり、本発明に係る「制駆動力可変手段」の一例である。制動装置600は、ブレーキアクチュエータ(図示ブレーキACT)610と、各輪に対応する制動部材620FL、620FR、620RL及び620RRを備える。
【0081】
ブレーキアクチュエータ610は、各輪に備わる制動部材の各々に対し作動油を供給するための油路と、当該油路に設置された複数のソレノイドバルブと、当該油路への作動油の供給圧を制御する電動オイルポンプとを備えた、制動力制御装置である。
【0082】
当該油路に供給される油圧は、各ソレノイドバルブの開閉状態と、電動オイルポンプの駆動状態とに応じて可変に制御される。ブレーキアクチュエータ610は、ECU100と電気的に接続されており、その動作状態がECU100により制御される構成となっている。
【0083】
各制動部材は、各車輪に付設され、各車輪に制動力としての摩擦力を付与する油圧制動装置である。各制動部材には、先述したように、ブレーキアクチュエータ610を介して適切な油圧が供給されており、各制動部材は、供給される油圧に応じた摩擦力を車輪に付与することによって、各車輪に制動力を付与することが可能である。
【0084】
ここで、制動力の大小は、相対的に駆動力の小大に対応する。このため、前輪に与えられる制動力が相互に異なる場合、前輪には前輪制駆動力差Ffが発生し、後輪に与えられる制動力が相互に異なる場合、後輪には後輪制駆動力差Frが発生する。
【0085】
<実施形態の動作>
以下、図2を参照し、本実施形態の動作として、ECU100により実行されるLKA制御の詳細について説明する。ここに、図2は、LKA制御のフローチャートである。尚、LKA(Lane Keeping Assist)制御は、車両10を目標走行路(本実施形態では、即ち車線(レーン)である)に追従させる制御であり、車両10において実行される走行支援制御の一である。
【0086】
図2において、ECU100は、車両10に備わる各種スイッチ類の操作信号、各種フラグ及び上記各種センサに係るセンサ信号等を含む各種信号を読み込む(ステップS101)と共に、予め車両10の車室内に設置されたLKA制御発動用の操作ボタンがドライバにより操作される等した結果としてLKAモードが選択されているか否かを判別する(ステップS102)。LKAモードが選択されていない場合(ステップS102:NO)、ECU100は、処理をステップS101に戻す。
【0087】
LKAモードが選択されている場合(ステップS102:YES)、ECU100は、車載カメラ20から送出される画像データに基づいて、LKAの目標走行路を規定する白線(白色である必要はない)が検出されているか否かを判別する(ステップS103)。
【0088】
白線が検出されていない場合(ステップS103:NO)、仮想の目標走行路を設定することができないため、ECU100は、処理をステップS101に戻す。一方、白線が検出されている場合(ステップS103:YES)、ECU100は、車両10を目標走行路に追従させるに際して必要となる各種路面情報を算出する(ステップS104)。
【0089】
ステップS104においては、公知の手法に基づいて、目標走行路の半径R(即ち、曲率の逆数である)、白線と車両10との横方向の偏差たる横方向偏差Y及び白線と車両10とのヨー角偏差φが算出される。
【0090】
これら各種路面情報が算出されると、ECU100は、車両10を目標走行路へ追従させるために必要となる目標車両状態量として、目標車体スリップ角βtg及び目標ヨーレートγtgを算出する(ステップS105)。ステップS105は、本発明に係る「設定手段」の動作の一例である。
【0091】
これら目標車両状態量は、予めROM等の然るべき記憶手段に、上記走行路半径R、横方向偏差Y及びヨー角偏差φに対応付けられる形でマップ化されて格納されており、ECU100は、ステップS104において算出された各路面情報に応じて適宜該当する値を選択する。
【0092】
但し、目標車体スリップ角βtg及び目標ヨーレートγtgの設定態様は、公知非公知を問わず各種態様が適用され得る。
【0093】
目標車両状態量が算出されると、処理は二系統に分岐する。即ち、ステップS106乃至ステップS109に規定されるLKA処理と、ステップS110乃至ステップS114に規定されるトルクアシスト処理である。
【0094】
始めに、LKA処理について説明する。
【0095】
ECU100は、ステップS105で算出された目標状態量に基づいて、前輪舵角δfの目標値である前輪目標舵角δftgを設定する(ステップS106)。前輪目標舵角δfを設定すると、ECU100は、この設定された前輪目標舵角δftgが得られるように、VGRSアクチュエータ200を駆動制御する(ステップS107)。ステップS107は、本発明に係る「運動制御手段」の動作の一例である。
【0096】
また、ECU100は、ステップS105で算出された目標状態量に基づいて、前輪制駆動力差Ffの目標値である前輪目標制駆動力差Fftgを設定する(ステップS108)。前輪目標制駆動力差Fftgを設定すると、ECU100は、この設定された前輪目標制駆動力差Fftgが得られるように、ブレーキアクチュエータ610を駆動制御する(ステップS109)。ステップS109は、本発明に係る「運動制御手段」の動作の他の一例である。
【0097】
尚、前輪目標舵角δftgに対するVGRSアクチュエータ200の制御目標値の設定及び前輪目標制駆動力差Fftgに対するブレーキアクチュエータ610の制御目標値の設定は、夫々ROMに格納された制御マップを参照する形で行われる。
【0098】
ステップS109が実行されると、処理はステップS101に戻される。LKA処理はこのようにして行われる。
【0099】
尚、ステップS106における前輪目標舵角δftgの設定、及びステップS108における前輪目標制駆動力差Fftgの設定については、後述する。
【0100】
一方、トルクアシスト処理では、先ず、EPSアクチュエータ400から供給すべきEPSトルクTepsの基準値である、EPS基本目標トルクTepsbsが算出される(ステップS110)。
【0101】
このEPS基本目標トルクTepsbsはVGRSモータ202の体格に起因するトルク不足を補うトルクである。より具体的には、VGRSモータ202は、EPSアクチュエータ400により相応のトルク補償がなされることを前提に、その体格が決定されている。従って、EPSアクチュエータ400から何らのトルクアシストも得られない場合、ロアステアリングシャフト14から操舵輪に至る機械的操舵伝達経路の慣性に負けて、VGRSモータ202は、前輪を転舵させることができない。従って、VGRSアクチュエータ200によるLKA処理が実行される期間においては、常時EPSアクチュエータ400からのトルクアシストが実行されるのである。
【0102】
次に、ECU100は、操舵反力トルクT(即ち、本発明に係る「操舵反力」の一例)を推定する(ステップS111)。即ち、ステップS111は、本発明に係る「推定手段」の動作の一例である。尚、操舵反力トルクTの推定に関しては、先述した前輪目標舵角δftg及び前輪目標制駆動力差Fftgの各々の設定態様と共に後述することとする。
【0103】
操舵反力トルクが推定されると、ECU100は、この推定された操舵反力トルクTを抑制するための操舵反力抑制トルクTrctを算出する(ステップS112)。操舵反力抑制トルクTrctは、操舵反力トルクTと正負の符号が反転したトルクである。
【0104】
操舵反力抑制トルクTrctが算出されると、ECU100は、ステップS110で算出されたEPS基本目標トルクTepsbsに、この操舵反力抑制トルクTrctを加算することによって、EPSアクチュエータ400から出力すべき最終的なトルクであるEPS目標トルクTepstgを算出する(ステップS113)。
【0105】
EPS目標トルクTepstgが算出されると、ECU100は、この算出されたEPS目標トルクTepstgが得られるように、EPSアクチュエータ400を駆動制御する(ステップS114)。即ち、ステップS114は、本発明に係る「操舵反力制御手段」の動作の一例である。ステップS114が実行されると、処理はステップS101に戻される。トルクアシスト処理はこのようにして実行される。
【0106】
このように、本実施形態によれば、舵角可変手段たるVGRSアクチュエータ200及び制駆動力可変手段たる制動装置600を相互に協調制御し、前輪舵角δf及び前輪制駆動力差Ffをパラメータとすることによって、車両10の状態量たる車体スリップ角βとヨーレートγとを相互に独立して制御することが可能である。その結果、車両10の状態量を目標状態量に維持し、好適な車線維持走行を実現することが可能である。
【0107】
ここで特に、ステップS111において操舵反力トルクTが推定され、最終的なEPSアクチュエータ600の出力トルクたるEPSトルクTepsに、この推定された操舵反力トルクが反映されるため、ステアリングホイル11に操舵反力が作用することがなく、ステアリングホイル11がLKA処理における本来の旋回方向と逆方向に逆操舵される事態が防止される。このため、ドライバは、ステアリングホイル11を保舵する必要はなく、手放し運転による目標車線維持が可能となるのである。
【0108】
別言すれば、ステップS111において操舵反力トルクT(操舵反力に相関する値)の推定がなされなければ、ドライバがステアリングホイル11を保舵し、操舵反力に拮抗する保舵トルクを与えない限り、車両10の状態量を目標状態量に維持することができない。
【0109】
何故なら、EPSアクチュエータ600から上述の基本目標トルクTepsbsが供給されるとは言え、保舵されないステアリングホイル11の方が、操舵輪及び操舵機構19を含む操舵系に較べて操舵負荷が軽いことは歴然としており、ステアリングホイル11が保舵されない場合、アッパーステアリングシャフト12とロアステアリングシャフト13とを相対回転させるに過ぎないVGRSモータ202から供給されるトルクは、ステアリングホイル11を逆操舵するために消費されてしまうのである。
<操舵反力推定の詳細>
上述したように、本実施形態に係るECU100は、LKA制御におけるステップS111において、LKA処理によって生じる操舵反力トルクTが推定される。操舵反力トルクTの推定は、予め構築された車両10の状態量に関する運動方程式(以下、単に「車両の運動方程式」と称する)に基づいて実行される。車両10の運動方程式は、例えば、下記(1)式の如くに規定される。
【0110】
【数1】

ここで、(1)式における係数A11、A12、A13、A21、A22、A23、A31、A32及びA33は、夫々、下記(2)乃至(10)式の如くに規定される。
【0111】
【数2】

【0112】
【数3】

【0113】
【数4】

【0114】
【数5】

【0115】
【数6】

【0116】
【数7】

【0117】
【数8】

【0118】
【数9】

【0119】
【数10】

ここで、上記各式における各参照記号の表す意味は以下の通りである。
【0120】
β・・・車体スリップ角
γ・・・ヨーレート
T・・・操舵輪に発生するトルク(即ち、操舵反力に対応するトルクである)
St・・・スタビリティファクタ
M・・・車両重量
V・・・車速
lf・・・車両重心-フロント車軸距離
lr・・・車両重心-リア車軸距離
l・・・lf+lr(=ホイールベース)
df・・・フロントトレッド幅
dr・・・リアトレッド幅
Kf・・・前輪コーナリングパワー
Kr・・・後輪コーナリングパワー
K・・・操舵輪キングピンオフセット
t・・・車輪トレール量
δf・・・前輪操舵角
Ff・・・前輪制駆動力差(左右輪の前後力差)
Fr・・・後輪制駆動力差(左右輪の前後力差)
ここで、既に説明したように、本実施形態に係るLKA処理では、前輪舵角δf及び前輪制駆動力差Ffによって、車両10の状態量としての車体スリップ角β及びヨーレートγを独立に制御することが可能となっている。このような独立制御が可能な理由は、上記運動方程式を見れば明らかであろう。即ち、制御目標が車体スリップ角βとヨーレートγの二種類であれば、二種類の制御パラメータによって、これらを独立制御できるのである。
【0121】
上述したLKA制御のステップS106において、前輪目標舵角δftgは、上記運動方程式のβ及びγを夫々ステップS105で算出されたβtg及びγtgとすることによって得られる。但し、本実施形態では、上記運動方程式から導かれる両者の相対関係が、予めマップ化されており、ECU100は、目標β及びγに対して一意に前輪目標舵角δftgを設定することができる。
【0122】
同様に、上述したLKA制御のステップS108において、前輪目標制駆動力差Fftgは、上記運動方程式のβ及びγを夫々ステップS105で算出されたβtg及びγtgとすることによって得られる。但し、本実施形態では、上記運動方程式から導かれる両者の相対関係が、予めマップ化されており、ECU100は、目標β及びγに対して一意に前輪目標制駆動力差Fftgを設定することができる。
【0123】
一方、制御目標として操舵反力トルクTが加わると、制御パラメータがもう一つ必要となる。上記運動方程式では、後輪制駆動力差Frがそれに該当する。制御パラメータを追加することによって、操舵反力トルクTは、下記(11)式又は(12)式の如くに表されることが分かる。
【0124】
【数11】

【0125】
【数12】

式(11)は、操舵反力トルクTを算出するためのパラメータとして前輪舵角δf及び前輪制駆動力差Ffが採用された場合であり、式(12)は、同パラメータとして前輪舵角δf及び後輪制駆動力差Frが採用された場合に対応する。いずれにせよ、操舵反力トルクTは、車両10の状態量制御に使用されるパラメータ(前輪舵角δf及び前輪制駆動力差Ff又は後輪制駆動力差Ff)を、本発明に係る「複数要素」の一例とすることによって正確に推定される。
【0126】
ここで、上記運動方程式は、パラメータとして前輪舵角δf、前輪制駆動力差Ff及び後輪制駆動力差Frを使用した場合の式であるが、パラメータはこれらに限定されるものではなく、例えば、上記パラメータのいずれか一つを、後輪舵角δrに置換してもよい(無論、その場合、上記係数は変化するが、概念上の変化はない)。この場合、車両10は、好適には、後輪の舵角制御を可能とする、例えばARS等の後輪舵角可変装置を備える。
【0127】
他方、操舵反力トルクTは、本発明に係る「複数の要素」の他の例として、上述のパラメータに代えて目標状態量(即ち、車体スリップ角β及びヨーレートγ)を使用することによっても推定可能である。即ち、上記運動方程式を変形すると、操舵反力トルクTは、β及びγの関数として、下記(13)式の如くに表される。
【0128】
【数13】

ここで、(13)式における係数C1及び係数C2は、夫々下記(14)式及び(15)式の如くに表される。尚、Mrは、リア車軸重量(Mr=lfM/I)である。
【0129】
【数14】

【0130】
【数15】

このように、車体スリップ角β及びヨーレートγに基づいて操舵反力トルクTを推定する場合、操舵反力トルクTは、上述のLKA制御で言えばステップS105の段階で推定準備が整うことになる。従って、このような目標状態量に応じた操舵反力トルクTの推定は、即時性に優れる。
【0131】
反面、このような目標状態量に基づいた推定は、車両10の実応答を必ずしも正確に反映しない。例えば、VGRSアクチュエータ200及びブレーキアクチュエータ610には、各部の応答遅延が存在するから、推定される操舵反力トルクTは、収束値としては正しくても、過渡的に実際の操舵反力トルクと一致しない場合がある。
【0132】
そのような観点からは、上述した制御パラメータに基づいた推定が効果的である。制御パラメータに基づいた推定は、常時その時点の制御パラメータ(即ち、前輪舵角δf、前輪制駆動力差Ff或いは後輪制駆動力差Fr)が反映されるため、正確性においては、目標状態量に基づいた推定よりも優れる。
【0133】
但し、いずれにせよ、本実施形態によれば、操舵反力トルクTが、実際にステアリングホイル11の逆操舵を招来しない早い段階で推定される。従って、フィードフォワード的に操舵反力トルクTを打ち消し、良好な状態量制御が可能となる。
【0134】
尚、本実施形態に係る車両10は、本発明に係る「制駆動力可変手段」の一例として制動装置600を備えるが、制動装置600は、減速側の車両挙動を制御範囲とするから、より制御範囲を拡大する見地から言えば、車両10は、駆動力分配デファレンシャル(即ち、一種のLSD(Limited Slip Differential:差動制限機能付差動機構)である)等の駆動力分配手段を備えていてもよい。この場合、駆動力と制動力との両方を個別に制御することができるため、車両挙動を、加速側でも減速側でも制御することが可能となる。或いは、制動力を各輪独立して制御する代わりに、この種の駆動力分配手段により駆動力のみが各輪独立して制御可能な構成であってもよい。
【0135】
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は、例えば、車両を目標走行路に追従させる機能を有する車両に利用可能である。
【符号の説明】
【0137】
FL、FR、RL、RR…車輪、10…車両、11…ステアリングホイル、12…アッパーステアリングシャフト、13…ロアステアリングシャフト、14…ピニオンギア、16…操舵角センサ、17…操舵トルクセンサ、18…回転角センサ、100…ECU、200…VGRSアクチュエータ、300…VGRS駆動装置、400…EPSアクチュエータ、500…EPS駆動装置、600…制動装置、610…ブレーキアクチュエータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪及び後輪のうち少なくとも一方の舵角を、該少なくとも一方の舵角の変化を促すドライバ操作から独立して変化させることが可能な舵角可変手段と、
前輪及び後輪のうち少なくとも一方における左右輪の制駆動力差を変化させることが可能な制駆動力可変手段と
を備えた車両を制御する装置であって、
前記車両の目標運動状態に対応する複数の目標状態量を設定する設定手段と、
前記車両の運動状態が前記目標運動状態となるように、前記設定される複数の目標状態量に応じて前記舵角可変手段及び前記制駆動力可変手段を制御する運動制御手段と、
前記設定される複数の目標状態量の各々、前記設定された複数の目標状態量に応じた前記少なくとも一方の舵角及び前記設定された複数の目標状態量に応じた前記少なくとも一方における左右輪の制駆動力差のうち複数の要素に基づいて、前記車両の運動状態が前記目標運動状態へ収束する過程において操舵輪から操舵装置に伝達される操舵反力を推定する推定手段と
を具備することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記目標状態量は、前記車両のヨーレート及び車体スリップ角であり、
前記推定手段は、前記複数の要素として、前記ヨーレート及び車体スリップ角に基づいて前記操舵反力を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記推定手段は、前記複数の要素として、前記少なくとも一方の舵角及び前記少なくとも一方における左右輪の制駆動力差とに基づいて前記操舵反力を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記車両は、前記操舵反力を抑制可能な操舵反力抑制手段を備え、
前記車両の制御装置は、
前記推定された操舵反力が抑制されるように前記操舵反力抑制手段を制御する操舵反力抑制手段を更に具備する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−201366(P2011−201366A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68824(P2010−68824)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】