説明

車両の制御装置

【課題】回生制動中にショックの発生を抑制する車両の制御装置を提供する。
【解決手段】制動時に、モータジェネレータによって発生する回生制動力とホイールブレーキによって発生する摩擦制動力との少なくとも一つによって車両を制動させる車両の制御装置である。統合コントローラは、回生制動中に回生トルクおよび摩擦制動トルクを算出し、回生制動中に変速機で変速を行っている場合に、回生トルクに基づいて変速機出力トルクを算出し、摩擦制動トルクがゼロではない場合に、トルクフェーズ中の前記変速機出力トルクの変動を相殺する摩擦制動トルク補正値を算出し、摩擦制動トルク補正値に基づいて、ホイールブレーキで摩擦制動力を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有段式自動変速機を備えたハイブリッド車両において、回生制動中に変速を行う場合に、変速開始と同時にモータジェネレータの回生トルクを減少するものが、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−74886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の発明では、回生制動時の協調回生制御については考慮されておらず、協調回生制御中に回生トルクが減少し、モータジェネレータにおけるバッテリの充電量が減少する、といった問題点がある。
【0005】
本発明はこのような問題点を解決するために発明されたもので、回生制動中に変速を行う場合に、変速時のショックの発生を抑制し、かつモータジェネレータにおける回生トルクの減少を抑制して、バッテリの充電量を増加することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様に係る車両の制御装置は、制動時に、モータジェネレータによって発生する回生制動力とホイールブレーキによって発生する摩擦制動力との少なくとも一つによって車両を制動させ、モータジェネレータによって発電した電力を蓄電装置に充電する車両の制御装置である。車両の制動装置は、回生制動中に回生トルクおよび摩擦制動トルクを算出するトルク算出手段と、回生制動中に変速機で変速を行っている場合に、回生トルクに基づいて変速機出力トルクを算出する出力トルク算出手段と、摩擦制動トルクがゼロではない場合に、トルクフェーズ中の変速機出力トルクの変動を相殺する摩擦制動トルク補正値を算出する摩擦制動トルク補正手段と、摩擦制動トルク補正値に基づいて、ホイールブレーキで摩擦制動力を発生させる摩擦制動力発生手段とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、回生制動中に、変速を行う場合に、トルクフェーズ中の変速機出力トルクの変動を相殺する摩擦制動トルク補正値を算出し、摩擦制動トルク補正値に基づいて摩擦制動力を発生させるので、変速時のショックを抑制し、回生トルクの減少を抑制し、バッテリの充電量を増やすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態のハイブリッド車両のパワートレーンを示す概略図である。
【図2】本実施形態を適用可能な他のハイブリッド車両のパワートレーンを示す概略図である。
【図3】本実施形態を適用可能な更に他のハイブリッド車両のパワートレーンを示す概略図である。
【図4】本実施形態の制御システムを示すブロック線図である。
【図5】本実施形態の回生制動時の制御を説明するフローチャートである。
【図6】本実施形態の回生制動時の制御を説明するタイムチャートである。
【図7】本実施形態の回生制動時の制御を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
【0010】
図1は、本実施形態の制御装置を適用可能なハイブリッド駆動装置を具えたフロントエンジン・リヤホイールドライブ式ハイブリッド車両の一部を示す。駆動車輪2にはホイールブレーキ25が設けられている。
【0011】
図1に示すハイブリッド車両においては、通常の後輪駆動車と同様にエンジン1の車両前後方向後方に自動変速機3をタンデムに配置し、エンジン1(クランクシャフト1a)からの回転を自動変速機3の入力軸3aへ伝達する軸4に結合してモータジェネレータ5を設ける。
【0012】
モータジェネレータ5は、モータとして作用したり、ジェネレータ(発電機)として作用したりするもので、エンジン1および自動変速機3間に配置する。
【0013】
このモータジェネレータ5およびエンジン1間に、より詳しくは、軸4とエンジンクランクシャフト1aとの間に第1クラッチ6を介挿し、この第1クラッチ6によりエンジン1およびモータジェネレータ5間を切り離し可能に結合する。
【0014】
ここで第1クラッチ6は、伝達トルク容量を連続的または段階的に変更可能なものとし、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチで構成する。
【0015】
モータジェネレータ5および自動変速機3間に、より詳しくは、軸4と変速機入力軸3aとの間に第2クラッチ7を介挿し、この第2クラッチ7によりモータジェネレータ5および自動変速機3間を切り離し可能に結合する。
【0016】
第2クラッチ7も第1クラッチ6と同様、伝達トルク容量を連続的または段階的に変更可能なものとし、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチで構成する。
【0017】
自動変速機3は、2003年1月、日産自動車(株)発行「スカイライン新型車(CV35型車)解説書」第C−9頁〜第C−22頁に記載されたと同じものとし、複数の摩擦要素(クラッチやブレーキ等)を選択的に締結したり解放したりすることで、これら摩擦要素の締結・解放組み合わせにより伝動系路(変速段)を決定するものとする。
【0018】
従って自動変速機3は、入力軸3aからの回転を選択変速段に応じたギヤ比で変速して出力軸3bに出力する。
【0019】
この出力回転は、ディファレンシャルギヤ装置8により左右後輪2へ分配して伝達され、車両の走行に供される。
【0020】
但し自動変速機3は、上記したような有段式のものに限られず、無段変速機であってもよいのは言うまでもない。
【0021】
上記した図1のパワートレーンにおいては、停車状態からの発進時などを含む低負荷・低車速時に用いられる電気走行(EV)モードが要求される場合、エンジン1からの動力が不要であるからこれを停止させておくと共に第1クラッチ6を解放し、他方で第2クラッチ7を締結させておくと共に自動変速機3を動力伝達状態にする。
【0022】
この状態でモータジェネレータ5を駆動すると、当該モータジェネレータ5からの出力回転のみが変速機入力軸3aに達することとなり、自動変速機3が当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変速して変速機出力軸3bより出力する。
【0023】
変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て駆動車輪2に至り、車両をモータジェネレータ5のみによって電気走行(EVモード走行)させることができる。
【0024】
高速走行時や大負荷走行時などで用いられるハイブリッド走行(HEV)モードが要求される場合、第1クラッチ6および第2クラッチ7をともに締結し、自動変速機3を動力伝達状態にする。
【0025】
この状態では、エンジン1からの出力回転、または、エンジン1からの出力回転およびモータジェネレータ5からの出力回転の双方が変速機入力軸3aに達することとなり、自動変速機3が当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変速して、変速機出力軸3bより出力する。
【0026】
変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て駆動車輪2に至り、車両をエンジン1およびモータジェネレータ5の双方によってハイブリッド走行(HEVモード走行)させることができる。
【0027】
かかるHEV走行中において、エンジン1を最適燃費で運転させるとエネルギーが余剰となる場合、この余剰エネルギーによりモータジェネレータ5を発電機として作動させることで余剰エネルギーを電力に変換し、この発電電力をモータジェネレータ5のモータ駆動に用いるよう蓄電しておくことでエンジン1の燃費を向上させることができる。
【0028】
なお図1では、モータジェネレータ5および駆動車輪2を切り離し可能に結合する第2クラッチ7を、モータジェネレータ5および自動変速機3間に介在させたが、図2に示すように、第2クラッチ7を自動変速機3およびディファレンシャルギヤ装置8間に介在させても、同様に機能させることができる。
【0029】
また、図1および図2では第2クラッチ7として専用のものを自動変速機3の前、若しくは、後に追加することとしたが、この代わりに第2クラッチ7として、図3に示すごとく自動変速機3内に既存する前進変速段選択用の摩擦要素または後退変速段選択用の摩擦要素を流用するようにしてもよい。
【0030】
この場合、第2クラッチ7が前記したモード選択機能を果たすのに加えて、この機能を果たすよう締結される時に自動変速機を動力伝達状態にすることとなり、専用の第2クラッチが不要でコスト上大いに有利である。
【0031】
図1〜3に示すハイブリッド車両のパワートレーンを成すエンジン1、モータジェネレータ5、第1クラッチ6、および第2クラッチ7は、図4に示すようなシステムにより制御する。
【0032】
図4の制御システムは、パワートレーンの動作点を統合制御する統合コントローラ20を具え、パワートレーンの動作点を、目標エンジントルクtTeと、目標モータジェネレータトルクtTm(目標モータジェネレータ回転数tNmでもよい)と、第1クラッチ6の目標伝達トルク容量tTc1と、第2クラッチ7の目標伝達トルク容量tTc2とで規定する。
【0033】
統合コントローラ20には、上記パワートレーンの動作点を決定するために、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ11からの信号と、モータジェネレータ回転数Nmを検出するモータジェネレータ回転センサ12からの信号と、変速機入力回転数Niを検出する入力回転センサ13からの信号と、変速機出力回転数Noを検出する出力回転センサ14からの信号と、エンジン1の要求負荷状態を表すアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度APO)を検出するアクセル開度センサ15からの信号と、モータジェネレータ5用の電力を蓄電しておくバッテリ9の蓄電状態SOC(持ち出し可能電力)を検出する蓄電状態センサ16からの信号と、ブレーキペダルの踏み込み時にONとなるブレーキスイッチ17からの信号とを入力する。
【0034】
なお、上記したセンサのうち、エンジン回転センサ11、モータジェネレータ回転センサ12、入力回転センサ13、および出力回転センサ14はそれぞれ、図1〜3に示すように配置することができる。
【0035】
統合コントローラ20は、上記入力情報のうちアクセル開度APO、バッテリ蓄電状態SOC、および変速機出力回転数No(車速VSP)から、運転者が希望している車両の駆動力を実現可能な運転モード(EVモード、HEVモード)を選択すると共に、目標エンジントルクtTe、目標モータジェネレータトルクtTm(目標モータジェネレータ回転数tNmでもよい)、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1、および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2をそれぞれ演算する。
【0036】
目標エンジントルクtTeはエンジンコントローラ21に供給され、目標モータジェネレータトルクtTm(目標モータジェネレータ回転数tNmでもよい)はモータジェネレータコントローラ22に供給される。
【0037】
エンジンコントローラ21は、エンジントルクTeが目標エンジントルクtTeとなるようエンジン1を制御し、モータジェネレータコントローラ22はモータジェネレータ5のトルクTm(または回転数Nm)が目標モータジェネレータトルクtTm(または目標モータジェネレータ回転数tNm)となるよう、バッテリ9およびインバータ10を介してモータジェネレータ5を制御する。
【0038】
統合コントローラ20は、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2に対応したソレノイド電流を第1クラッチ6および第2クラッチ7の締結制御ソレノイド(図示せず)に供給し、第1クラッチ6の伝達トルク容量Tc1が目標伝達トルク容量tTc1に一致するよう、また、第2クラッチ7の伝達トルク容量Tc2が目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2に一致するよう、第1クラッチ6および第2クラッチ7を個々に締結力制御する。
【0039】
統合コントローラ20は、アクセル開度APO、変速機出力回転数Noなどに基づいて自動変速機3の変速段を設定し、その情報をATコントローラに出力する。
【0040】
ATコントローラは、統合コントローラ20からの情報に基づいて自動変速機3の摩擦締結要素の油圧を制御し、自動変速機3で変速制御を実行する。
【0041】
次に本実施形態の回生制動時の制御について図5のフローチャートを用いて説明する。ここでは、運転者によってブレーキペダルが踏み込まれ、回生制動を行っている間に自動変速機3においてダウンシフトを行うと判断されたものとする。以下で説明する制御は、統合コントローラ20によって行われるが、これに限られることはない。また、以下で説明する制御の全部または一部をATコントローラ23で行っても良い。
【0042】
ステップS100では、運転者のブレーキペダル操作(踏み込み量、減速意図)に基づいて車両が達成すべき減速度を算出し、算出した減速度を達成する制動力を算出する。
【0043】
ステップS101では、算出した制動力から、モータジェネレータ5による回生トルクと、ホイールブレーキ25によるメカブレーキトルク(摩擦制動トルク)とを算出する。本ステップでは、回生トルクとメカブレーキトルクとの割合が最適になるような協調制御が行われる。この回生トルクは、自動変速機3の変速段(変速比)に応じて算出される。つまり、この回生トルクに変速比をかけたトルクで達成される制動力(回生制動力)と、ホイールブレーキ25によるメカブレーキトルクで達成される制動力(摩擦制動力)とを加算したものが、ステップS100の制動力となるように回生トルクとメカブレーキトルクとは算出される。
【0044】
ステップS102では、ステップS101によって算出した回生トルクをモータジェネレータ5によって発生させた場合に、実際に自動変速機3の変速機出力軸3bに出力される出力トルク(変速機出力トルク)を算出する。出力トルクは式(1)によって算出される。
【0045】
出力トルク=回生トルク×(CURGR+(SFTGR−CURGR)×締結クラッチ進行度)・・・式(1)
【0046】
CURGRは変速前のギヤ比であり、SFTGRは変速後のギヤ比である。また締結クラッチ進行度は、トルクフェーズ中のトルク伝達特性を示すものであり、式(2)によって算出される。
【0047】
締結クラッチ進行度=時間T1/所定時間T2+オフセット値・・・式(2)
【0048】
時間T1はトルクフェーズ開始からの時間であり、所定時間T2は実際に締結側クラッチトルク容量が、目標締結側クラッチトルク容量に到達するまでの時間であり、予め実験などによって設定される。またオフセット値は締結側の摩擦要素における油圧応答遅れを考慮した値であり、変速段毎、ATF油温に基づいたテーブルによって設定される。
【0049】
ステップS103では、ホイールブレーキ25による制動力の割り当てがあるかどうか判定する。つまり、ステップS101によって算出されたメカブレーキトルクがゼロであるかどうか判定する。そして、メカブレーキトルクがゼロではない場合にはステップS104へ進み、メカブレーキトルクがゼロである場合にはステップS106へ進む。
【0050】
ステップS104では、ステップS102によって算出した出力トルクによる制動力に対して、ステップS100によって算出した制動力を達成するメカブレーキトルク補正値(摩擦制動トルク補正値)を算出する。つまり、自動変速機3における変速の進行によって変動する出力トルクを打ち消すようなメカブレーキトルク補正値を算出する。具体的には、ステップS102によって算出した出力トルクによる制動力と、ステップS101によって算出したモータジェネレータ5による回生トルクに対応する制動力との偏差を算出する。この偏差がメカブレーキトルク補正値となる。
【0051】
ステップS105では、メカブレーキトルク補正値とステップS101によって算出したメカブレーキトルクとを加算したトルクをホイールブレーキ25によって発生させる。また、ステップS101によって算出した回生トルクをモータジェネレータ5によって発生させる。これによって、運転者のブレーキペダル操作に応じた制動力が発生する。
【0052】
ステップS106では、自動変速機3の変速機出力軸3bの出力トルクがステップS101によって算出した回生トルクに対応するトルク、つまりトルクフェーズによる出力トルク変動を考慮したトルクとなるように補正回生トルクを算出する。補正回生トルクは式(3)によって算出される。
【0053】
補正回生トルク=回生トルク/((CURGR+(SFTGR−CURGR)×締結クラッチ進行度))・・・式(3)
【0054】
式(3)の回生トルクはステップS101によって算出した回生トルクである。補正回生トルクは、トルクフェーズ中のトルク伝達特性に基づいて算出される。
【0055】
ステップS107では、モータジェネレータ5のトルクを、ステップS106によって算出した補正回生トルクとする。モータジェネレータ5のトルクを補正回生トルクとすることで、自動変速機3の変速状態にかかわらず、自動変速機3の変速機出力軸3bの出力トルクは一定となり、運転者のブレーキペダル操作に応じた制動力が発生する。
【0056】
ステップS108では、自動変速機3の変速が終了したかどうか判定する。変速機入力回転数Niと変速機出力回転数Noとの比が設定された値となると自走変速機3の変速が終了したと判定する。そして、自動変速機3の変速が終了した場合には本制御を終了する。また、自動変速機3の変速が終了していない場合にはステップS102に戻り上記制御を繰り返す。
【0057】
また、上記制御のステップS106において補正回生トルクが算出された場合には、補正回生トルクに対応する補正締結側クラッチトルク容量を算出する。モータジェネレータ5の回生トルクが減少した場合には、変速に必要な締結側クラッチトルク容量も減少する。補正締結側クラッチトルク容量は式(4)によって算出される。
【0058】
補正締結側クラッチトルク容量=締結側クラッチトルク容量/((CURGR+(SFTGR−CURGR)×締結クラッチ進行度))・・・式(4)
【0059】
式(4)の締結側クラッチトルク容量は、ステップS101によって算出された回生トルクに対応するものであり、予め設定される。
【0060】
そして、算出した補正締結側クラッチトルク容量に基づいて締結側の摩擦要素に供給する油圧を制御する。
【0061】
この制御は、上記した制御とは別の制御によって実行されてもよく、上記した制御で実行されてもよい。
【0062】
次に本実施形態の回生制動時の制御について図6、7のタイムチャートを用いて説明する。図6はメカブレーキトルクがゼロではない場合のタイムチャートであり、図7はメカブレーキトルクがゼロである場合のタイムチャートである。なお、図6、7においては変速段の指示値を示すものとする。まず、メカブレーキトルクがゼロではない場合について図6を用いて説明する。
【0063】
時間t0において、自動変速機3で変速が開始される。変速が開始されると、締結側の摩擦要素の油圧を一時的に大きくして、締結側の摩擦要素のピストンストロークを進行させるプリチャージフェーズを開始する。その後、締結側の摩擦要素の油圧は、一時的に大きくした油圧よりも小さい所定の油圧に維持される。解放側の摩擦要素の油圧は、変速開始後から減少し、所定の油圧に維持される。
【0064】
時間t1において、締結側の摩擦要素の油圧を大きくし、締結側クラッチトルク容量を増加させてトルクフェーズを開始する。モータジェネレータ5の回生トルクを一定にしても、締結側クラッチトルク容量が増加すると、モータジェネレータ5から変速機3の変速機出力軸3bに伝達されるトルクが大きくなり、モータジェネレータ5による制動力が大きくなる。ここでは、増加するトルクを算出し、このトルク分の制動力を打ち消すようにホイールブレーキ25の制動力を減少させる。これによって、トルクフェーズ中の制動力の変動を抑制することができる。
【0065】
時間t2において、自動変速機3におけるギヤ比の変化が実際に始まると、トルクフェーズを終了し、イナーシャフェーズを開始する。
【0066】
次にメカブレーキトルクがゼロの場合について図7を用いて説明する。ここではメカブレーキトルクがゼロなので、ホイールブレーキ25の制動力はゼロである。
【0067】
時間t0において、自動変速機3で変速が開始される。変速が開始されると、締結側の摩擦要素の油圧を一時的に大きくして、締結側の摩擦要素のピストンストロークを進行させるプリチャージフェーズを開始する。その後、締結側の摩擦要素の油圧は、一時的に大きくした油圧よりも小さい所定の油圧に維持される。解放側の摩擦要素の油圧は、変速開始後から減少し、所定の油圧に維持される。
【0068】
時間t1において、締結側の摩擦要素の油圧を大きくし、締結側クラッチトルク容量を増加させてトルクフェーズを開始する。ここでは、モータジェネレータ5のトルクを補正回生トルクとすることで、モータジェネレータ5のトルクを減少させて、トルクフェーズ中の変速機出力軸3bの出力トルクの変動を抑制し、トルクフェーズ中の制動力の変動を抑制することができる。
【0069】
時間t2において、自動変速機3におけるギヤ比の変化が実際に始まると、トルクフェーズを終了し、イナーシャフェーズを開始する。
【0070】
本発明の実施形態の効果について説明する。
【0071】
回生制動中に回生トルクとメカブレーキトルクとを算出し、回生トルクに対する自動変速機3の変速機出力軸3bの出力トルクを算出する。そして、メカブレーキトルクがゼロではない場合には、トルクフェーズによる出力トルクの変動を打ち消すメカブレーキトルク補正値を算出し、算出したメカブレーキトルク補正値に基づいてホイールブレーキで制動力を発生させる。これによって、モータジェネレータ5における回生トルクを低減させることなく、運転者のブレーキペダル操作に基づいた制動力を発生させることができ、変速中に発生するショックを低減することができる。そのため、回生制御におけるバッテリ9の回生量、つまり充電量を増やすことができ、燃費を向上することができる。
【0072】
また、メカブレーキトルクがゼロの場合には、自動変速機3の変速機出力軸3bの出力トルクが、運転者のブレーキペダル操作に基づいて算出される回生トルクと等しくなるように、モータジェネレータ5の回生トルクを補正する補正回生トルクを算出し、モータジェネレータ5のトルクを補正回生トルクとする。これによって、運転者のブレーキペダル操作に基づいた制動力を発生させることができ、かつ変速中に発生するショックを低減することができる。
【0073】
変速中は、運転者のブレーキペダル操作に基づいた制動力、自動変速機3の変速機出力軸3bの出力トルクなどを繰り返し算出し、算出した結果に基づいてメカブレーキ補正値または補正回生トルクを繰り返し算出し、回生制動時の制御を実行する。これによって、運転者のブレーキペダル操作および自動変速機3の変速状態などに応じて、メカブレーキトルクがゼロの場合、またはメカブレーキトルクがゼロではない場合に分けて回生制動時の制御を実行することができる。そのため、変速中に、例えばメカブレーキトルクがゼロではない場合から、ゼロとなる場合に切り換わっても、これによるショックの発生を抑制することができる。
【0074】
メカブレーキトルクがゼロの場合に、補正回生トルクに応じて締結側クラッチトルク容量を補正することで、変速中のショックをさらに低減することができる。また、変速で必要な油圧を低減することができる。
【0075】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0076】
3 自動変速機(変速機)
5 モータジェネレータ
9 バッテリ(蓄電装置)
20 統合コントローラ(トルク算出手段、出力トルク算出手段、摩擦制動トルク補正手段、摩擦制動力発生手段、補正回生トルク算出手段、回生制動力発生手段、変速終了判定手段、クラッチトルク容量補正手段)
25 ホイールブレーキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動時に、モータジェネレータによって発生する回生制動力とホイールブレーキによって発生する摩擦制動力との少なくとも一つによって車両を制動させ、前記モータジェネレータによって発電した電力を蓄電装置に充電する車両の制御装置であって、
回生制動中に回生トルクおよび摩擦制動トルクを算出するトルク算出手段と、
前記回生制動中に変速機で変速を行っている場合に、前記回生トルクに基づいて変速機出力トルクを算出する出力トルク算出手段と、
前記摩擦制動トルクがゼロではない場合に、トルクフェーズ中の前記変速機出力トルクの変動を相殺する摩擦制動トルク補正値を算出する摩擦制動トルク補正手段と、
前記摩擦制動トルク補正値に基づいて、前記ホイールブレーキで前記摩擦制動力を発生させる摩擦制動力発生手段とを備えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記摩擦制動トルクがゼロである場合に、前記トルクフェーズ中のトルク伝達特性に基づいて補正回生トルクを算出する補正回生トルク算出手段と、
前記補正回生トルクに基づいて、前記モータジェネレータで前記回生制動力を発生させる回生制動力発生手段とを備えることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記変速が終了したかどうか判定する変速終了判定手段を備え、
前記変速が終了していない場合には、前記トルク算出手段は、前記回生トルクおよび前記摩擦制動トルクを再度算出し、
前記変速が終了していない場合には、前記出力トルク算出手段は、前記変速機出力トルクを再度算出し、
前記摩擦制動トルク補正手段、または前記補正回生トルク算出手段は、再度算出された前記回生トルク、前記摩擦制動トルクおよび前記変速機出力トルクに基づいて、前記摩擦制動トルク補正値、または前記補正回生トルクを再度算出することを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記摩擦制動トルクがゼロの場合に、前記補正回生トルクに対応して前記変速機の締結側クラッチトルク容量を補正するクラッチトルク容量補正手段を備えることを特徴とする請求項2または3に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−86810(P2012−86810A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237706(P2010−237706)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】