説明

車両の操舵制御装置

【課題】操舵操作部材の操作量の増大を抑制するための抑制トルクが小さくても、車両のアンダステアを効果的に抑制することができる車両の操舵制御装置を提供すること。
【解決手段】この装置では、アンダステア抑制制御として、操舵トルク制御(「抑制トルクTusの付与」)が実行される。操舵トルク制御では、運転者による操舵トルクTswに基づいて操舵トルクを軽減するためのEPSトルクTepsが演算され、アンダステアの程度を表すアンダステア状態量Jrusに基づいてステアリングホイールの「切増し」を抑制するための抑制トルクTusが演算される。運転者による操舵トルクを軽減するためのトルクが、「Teps−Tus」に調整される。ステアリングホイール操作角を維持するため、運転者は、Tusに相当する操舵トルクを余分に必要とし、アンダステアが抑制される。ここで、Jrusに対するTusの増大特性が下に凸の特性に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の旋回状態においてアンダステアが発生した場合、操舵操作部材の中立位置からの操作量の増大(ステアリングホイールの中立位置からの操作角の増大、所謂「切増し」)を抑制する必要がある。このため、アンダステアが発生した場合、操舵操作部材の操作量の増大を抑制するための抑制力(抑制トルク)を、操舵操作部材に対して、前記操作量を減少させる方向(ステアリングホイールの切戻し方向)に付与する装置が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開平11−20728号公報
【0003】
具体的には、上記文献に記載された装置では、(操舵操作部材の前記操作量を増大させる方向の)運転者による操舵操作部材の操作力(操舵トルク)が取得され、この操作力に基づいて運転者による前記操作力を助勢するための助勢力(助勢トルク)が演算される。他方、アンダステアの程度を表すアンダステア状態量が演算され、アンダステア状態量に基づいて前記抑制力が演算される。そして、助勢力から抑制力を減じた力が、操舵操作部材に対して前記操作量を増大させる方向に付与される。
【0004】
即ち、アンダステアが発生した場合、抑制力を操舵操作部材に対して前記操作量を減少させる方向に付与するために、運転者の操作力を助勢する助勢力(即ち、前記操作量を増大させる方向の力)が抑制力分だけ減少させられる。
【発明の開示】
【0005】
ところで、図9に示すように、ステアリングホイール操作角に対する操舵トルクの特性について、直線的な比例特性(特性Cha)と、下に凸の特性(特性Chb)とを比較する。特性Chaと特性Chbとは、原点(0,0)と、点A(θs1,Ts1)とにおいて交差する。
【0006】
ステアリングホイール操作角を「0」から点Aに対応するθs1まで増大させる場合について考える。この場合、運転者は、ステアリングホイール操作角がθs1に達した時点において、操舵トルクの大きさが同じ(Ts1)であるにもかかわらず、特性Chaの場合よりも特性Chbの場合の方が、操舵トルクが大きいと感じる傾向にある。換言すれば、運転者は、ステアリングホイール操作角の増加に対する操舵トルクの増加勾配が一定の場合よりも、前記増加勾配がステアリングホイール操作角の増大に伴って増大する場合の方が、ステアリングホイール操作角の増大過程において操舵トルクが大きいと感じる傾向にある。以下、この傾向を、「下に凸の特性に起因して操舵トルクが大きいと感じる傾向」とも称呼する。
【0007】
このことは、この傾向を利用することで、小さい操舵トルクをもって運転者により大きい操舵トルクを感じさせることができることを意味する。
【0008】
本発明は、係る傾向を応用して上述した操舵操作部材の操作量の増大を抑制するための抑制力を調整することで、小さい抑制力をもって車両のアンダステアを効果的に抑制することができる車両の操舵制御装置を提供することにある。
【0009】
本発明に係る車両の操舵制御装置は、車両のヨーイング運動に相当する値を取得し前記ヨーイング運動に相当する値に基づいて前記車両のアンダステアの程度を表すアンダステア状態量を演算する状態量演算手段と、前記アンダステア状態量に基づいて前記車両の運転者により操向車輪の転舵のために操作される操舵操作部材の中立位置からの操作量の増大を抑制するための抑制力(前記操作量を減少させる方向の力)を演算する抑制力演算手段と、前記抑制力を前記操舵操作部材に対して前記操作量を減少させる方向に付与する力付与手段と、を備える。
【0010】
本発明に係る操舵制御装置の特徴は、前記抑制力演算手段が、前記アンダステア状態量の増加に対する前記抑制力の増加勾配が前記アンダステア状態量の増加に伴って増大するように前記抑制力を演算するよう構成されたことにある。換言すれば、アンダステア状態量に対する抑制力の特性が下に凸の特性に設定される。
【0011】
即ち、上述した「下に凸の特性に起因して操舵トルクが大きいと感じる傾向」が、アンダステア状態量に対する抑制力の特性に応用されている。従って、アンダステア状態量に対する抑制力の特性が直線的な比例特性の場合に比して、小さい抑制力をもって運転者に大きい操舵操作部材の操作力を感じさせることができる。この結果、小さい抑制力をもって、操舵操作部材の中立位置からの操作量の増大(例えば、ステアリングホイールの「切増し」等)を効果的に抑制することができ、アンダステアを効果的に抑制することができる。
【0012】
なお、抑制力が過度に大きいと、運転者により操舵操作部材の操作量が増大されるべき状況(例えば、ステアリングホイールの「切増し」がなされるべき状況)において、運転者が前記操作量を増大し難くなる。従って、フェールセーフの観点から、抑制力は小さい方が好ましい。
【0013】
上記本発明に係る操舵制御装置において、(前記操舵操作部材の前記操作量を増大させる方向の)前記運転者による前記操舵操作部材の操作力を取得する取得手段と、前記操作力に基づいて前記運転者による前記操作力を助勢するための助勢力を演算する助勢力演算手段とが備えられ、前記力付与手段が、前記助勢力を前記抑制力に基づいて減少させて得られる力を前記操舵操作部材に対して前記操作量を増大させる方向に付与するように構成されてもよい。
【0014】
これによれば、上述した特許文献1に記載の装置のように、抑制力を操舵操作部材に対して前記操作量を減少させる方向に付与するための手法として、運転者の操作力を助勢する助勢力(前記操作量を増大させる方向の力)を抑制力分だけ減少させる手法が採用される。
【0015】
次に、上記本発明に係る操舵制御装置において、アンダステアを抑制するために、前記アンダステア状態量に基づいて前記車両の旋回内側の後輪に付与すべき制動力の目標値を演算する制動力演算手段と、前記制動力の目標値に基づいて前記旋回内側の後輪に制動力を付与する制動力制御手段とが備えられる場合を考える。
【0016】
この場合、前記抑制力演算手段が、前記アンダステア状態量が第1閾値以下のときに前記抑制力をゼロに演算し、前記アンダステア状態量が前記第1閾値よりも大きいときに前記アンダステア状態量の前記第1閾値からの増大に伴って前記抑制力がゼロから増大するように前記抑制力を演算するよう構成され、前記制動力演算手段が、前記アンダステア状態量が前記第1閾値以下のときに前記制動力の目標値をゼロに演算し、前記アンダステア状態量が前記第1閾値よりも大きいときに前記アンダステア状態量の前記第1閾値からの増大に伴って前記制動力の目標値がゼロから増大するように前記制動力の目標値を演算するよう構成されることが好適である。
【0017】
アンダステアを抑制するために旋回内側後輪に制動力を付与すると、車輪のスリップ角の増大に起因してセルフアライニングトルクが減少することで、運転者による操舵操作部材の前記操作力(前記操作量を増大させる方向の力)が減少する(詳細は後述する)。一方、上述のように、前記抑制力を操舵操作部材に対して付与すると、操舵操作部材の前記操作力が増大する。従って、アンダステア状態におけるアンダステア状態量の増大過程において、「旋回内側後輪への制動力の付与」と「操舵操作部材への前記抑制力の付与」の何れか一方が他方より先に開始されると、「旋回内側後輪への制動力の付与」に起因する前記操作力の減少を運転者が感じ取り、運転者に違和感を与えることに繋がる。
【0018】
これに対し、上記構成では、「旋回内側後輪への制動力の付与」と「操舵操作部材への前記抑制力の付与」の開始条件(アンダステア状態量が第1閾値を超えること)が同じとされる。従って、アンダステア状態におけるアンダステア状態量の増大過程において、「旋回内側後輪への制動力の付与」と「操舵操作部材への前記抑制力の付与」とが同時に開始される。この結果、「旋回内側後輪への制動力の付与」に起因する前記操作力の減少を運転者が感じ難くなり、運転者に違和感を与えることなく、操舵操作部材に対して前記抑制力を付与することができる。
【0019】
上記のように、「旋回内側後輪への制動力の付与」が実行される場合、前記抑制力演算手段は、前記アンダステア状態量が前記第1閾値よりも大きい範囲に亘って、前記アンダステア状態量に対する前記抑制力が、前記制動力の前記旋回内側の後輪への付与に起因する前記運転者による前記操舵操作部材の操作力(前記操舵操作部材の前記操作量を増大させる方向の力)についての前記アンダステア状態量に対する減少量よりも大きくなるように、前記抑制力を演算するよう構成されることが好適である。
【0020】
上述した「旋回内側後輪への制動力の付与」に起因する前記操作力の減少量は、アンダステア状態量の増大に伴って付与される制動力が増大することに起因して、アンダステア状態量の増大に伴って増大する。上記構成によれば、「旋回内側後輪への制動力の付与」と「操舵操作部材への前記抑制力の付与」とが共に実行されている状態において、「操舵操作部材への前記抑制力の付与」による前記操作力の増大により、「旋回内側後輪への制動力の付与」による前記操作力の減少が常に完全に吸収され得る。即ち、「操舵操作部材への前記抑制力の付与」により、「旋回内側後輪への制動力の付与」による前記操作力の減少を確実に補償することができる。この結果、操舵操作部材の前記操作量の増大(従って、アンダステアの程度の増大)をより確実に抑制することができる。
【0021】
次に、上記本発明に係る操舵制御装置において、アンダステアを抑制するために、前記アンダステア状態量に基づいて前記操向車輪の転舵角に対する前記操舵操作部材の前記操作量の割合である操舵比の目標値を演算する操舵比演算手段と、前記操舵比の実際値が前記操舵比の目標値となるように前記操舵比を調整する操舵比調整手段とが備えられる場合を考える。
【0022】
この場合、前記抑制力演算手段が、前記アンダステア状態量が第2閾値以下のときに前記抑制力をゼロに演算し、前記アンダステア状態量が前記第2閾値よりも大きいときに前記アンダステア状態量の前記第2閾値からの増大に伴って前記抑制力がゼロから増大するように前記抑制力を演算するよう構成され、前記操舵比演算手段が、前記アンダステア状態量が前記第2閾値以下のときに前記操舵比の目標値を第1所定値に演算(固定)し、前記アンダステア状態量が前記第2閾値よりも大きいときに前記アンダステア状態量の前記第2閾値からの増大に伴って前記操舵比の目標値が前記第1所定値から増大するように前記操舵比の目標値を演算するよう構成されることが好適である。前記第1閾値と前記第2閾値とは、同じであっても異なっていてもよい。
【0023】
運転者が操舵操作部材の前記操作量を一定に維持している状態にて、アンダステアを抑制するために操舵比が増大されると、操向車輪の転舵角が減少する。このことに起因して、運転者による操舵操作部材の前記操作力がステアリング系のヒステリシス分(摩擦分)だけ減少する。一方、上述のように、前記抑制力を操舵操作部材に対して付与すると、操舵操作部材の前記操作力が増大する。従って、アンダステア状態におけるアンダステア状態量の増大過程において、「操舵比の増大」と「操舵操作部材への前記抑制力の付与」の何れか一方が他方より先に開始されると、「操舵比の増大」に起因する前記操作力の減少を運転者が感じ取り、運転者に違和感を与えることに繋がる。
【0024】
これに対し、上記構成では、「操舵比の増大」と「操舵操作部材への前記抑制力の付与」の開始条件(アンダステア状態量が第2閾値を超えること)が同じとされる。従って、アンダステア状態におけるアンダステア状態量の増大過程において、「操舵比の増大」と「操舵操作部材への前記抑制力の付与」とが同時に開始される。この結果、「操舵比の増大」に起因する前記操作力の減少を運転者が感じ難くなり、運転者に違和感を与えることなく、操舵操作部材に対して前記抑制力を付与することができる。
【0025】
上記のように、「操舵比の増大」が実行される場合、前記抑制力演算手段は、前記アンダステア状態量が前記第2閾値よりも大きい範囲に亘って、前記アンダステア状態量に対する前記抑制力が、前記操舵比の増大に起因する、前記運転者による前記操舵操作部材の操作力(前記操舵操作部材の前記操作量を増大させる方向の力)についての前記アンダステア状態量に対する減少量よりも大きくなるように、前記抑制力を演算するよう構成されることが好適である。
【0026】
上述した「操舵比の増大」に起因する前記操作力の減少量は、アンダステア状態量の増大に伴って操舵比が増大されることに起因して、アンダステア状態量の増大に伴って増大する。上記構成によれば、「操舵比の増大」と「操舵操作部材への前記抑制力の付与」とが共に実行されている状態において、「操舵操作部材への前記抑制力の付与」による前記操作力の増大により、「操舵比の増大」による前記操作力の減少が常に完全に吸収され得る。即ち、「操舵操作部材への前記抑制力の付与」により、「操舵比の増大」による前記操作力の減少を確実に補償することができる。この結果、操舵操作部材の前記操作量の増大(従って、アンダステアの程度の増大)をより確実に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明による車両の操舵制御装置の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0028】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る操舵制御装置を搭載した車両の概略構成を示している。
【0029】
第1実施形態では、ステアリングホイールSW(前記「操舵操作部材」に対応)が操作されると、その回転運動がステアリングシャフトSHを介して、ピニオンギアPNに回転運動として伝達される。ピニオンギアPNと螺合するラックRKによって、ピニオンギアPNの回転運動がラックRKの往復運動(車体左右方向の移動)に変換される。このラックRKの移動に応じてラックRKと一体のタイロッドTRが車体左右方向に移動することで、操向車輪(本例では、前輪)WHfl及びWHfrが転舵される。これにより、ステアリングホイールSWの中立位置からの操作角(前記「操作量」に対応)と、操向車輪WHfl及びWHfrの中立位置(直進状態)からの転舵角と、が一対一に決定される。
【0030】
タイロッドTRには、減速機Geを介して電気モータMe(第1のモータ)が接続されている。この電気モータMeの駆動力によって運転者のステリングホイール操作力(操舵トルク)が軽減され、所謂パワーステアリング制御(EPS制御)の機能が達成される。
【0031】
ブレーキアクチュエータBRKは、複数の電磁弁、液圧ポンプ、電気モータ等を備えた周知の構成を有している。非制御時では、運転者によるブレーキペダルBPの操作に応じたブレーキ液圧が各車輪のホイールシリンダWC**にそれぞれ供給され、各車輪にブレーキペダル操作に応じた制動トルクが与える。アンチスキッド制御(ABS制御)、トラクション制御(TCS制御)、或いは、車両のアンダステア・オーバステアを抑制する車両安定性制御(ESC制御)などの制動制御時では、ブレーキペダル操作とは独立してホイールシリンダWC**内のブレーキ液圧が車輪毎に制御され、車輪毎に制動トルクが調整され得るようになっている。なお、制動トルクの調整は、ブレーキ液圧を利用することなく、電気ブレーキ装置を利用してなされてもよい。
【0032】
なお、各種記号等の末尾に付された「**」は、各種記号等が何れの車輪に関するものであるかを示すために各種記号等の末尾に付される「fl」,「fr」等の包括表記である。「fl」は左前輪、「fr」は右前輪、「rl」は左後輪、「rr」は右後輪を示している。例えば、ホイールシリンダWC**は、左前輪ホイールシリンダWCfl, 右前輪ホイールシリンダWCfr, 左後輪ホイールシリンダWCrl, 右後輪ホイールシリンダWCrrを包括的に示している。
【0033】
第1実施形態では、車輪速度Vw**を検出する車輪速度センサWS**と、ステアリングホイールSWの(中立位置からの)回転角度(ステアリングホイール操作角θsw)を検出するステアリングホイール回転角度センサSAと、運転者によるステアリングホイールSWの操舵トルクTswを検出する操舵トルクセンサSTと、車体のヨーレイトYrを検出するヨーレイトセンサYRと、車体前後方向における前後加速度Gxを検出する前後加速度センサGXと、車体横方向における横加速度Gyを検出する横加速度センサGYと、前輪(操向車輪)の中立位置からの転舵角δfaを検出する操舵角センサFSと、ホイールシリンダ圧力Pw**を検出するホイールシリンダ圧力センサPS**と、電子制御装置(ECU)とを備えている。
【0034】
ECUは、互いに通信バスCBで接続されたECUb、ECUe、ECUsから構成されたマイクロコンピュータである。ECUは、ブレーキアクチュエータBRK等の各種アクチュエータ、及び前記各種センサと電気的に接続されている。
【0035】
ECUbは、車輪速度センサWS**、前後加速度センサGX、横加速度センサGY等からの信号に基づいてABS制御、TCS制御、ESC制御等の制動制御を実行するようになっている。ECUeは、図示しないエンジンの制御を実行するようになっている。ECUsは、操舵トルクセンサST等からの信号に基づいてEPS制御を実行するようになっている。
【0036】
(アンダステア抑制制御)
次に、図2を参照しながら、第1実施形態が実行するアンダステア抑制制御について説明する。第1実施形態では、アンダステア抑制制御として、操舵トルク制御と制動力制御とが実行される。先ず、操舵トルク制御について説明する。
【0037】
操舵トルク取得手段A1では、操舵トルクセンサSTにより、運転者によるステアリングホイールSWの操舵トルクTsw(前記「操作力」に対応)が取得される。EPSトルク演算手段A2では、取得された操舵トルクTswに基づいて、運転者の操舵トルクを軽減するためのパワーステアリングトルク(EPSトルク)の目標値Tepsが演算される。Tepsは、Tswが大きいほどより大きい値に演算される。Tepsは、θswを増大させる方向の値である。
【0038】
実ヨーイング挙動取得手段A3では、実際のヨーイング挙動VMa(例えば、ヨーレイトYr)が取得される。目標ヨーイング挙動演算手段A4では、目標とする車両挙動(目標ヨーイング挙動)VMtが演算される。VMtは、例えば、ステアリングホイール操作角θsw、車輪速度Vw**から得られる車体速度等に基づいて演算される。
【0039】
アンダステア状態量演算手段A5では、VMaとVMtとの比較結果(例えば、VMaとVMtとの偏差)に基づいて、アンダステアの程度を表すアンダステア状態量Jrusが演算される。また、Jrusは、VMtを用いずにVMaに基づいて演算され得る。Jrusは、例えば、スタビリティファクターKhや、アンダステア係数Kusであり、ヨーレイトYrに基づいて演算される値である。
【0040】
切増抑制トルク演算手段A6では、Jrusに基づいて、切増し抑制トルク(抑制トルク)Tusが、図3の実線に示した特性(Ch1、又はCh2)に従って演算される。この特性については後に詳述する。そして、モータ駆動手段A7では、TepsからTusを減算して得られる、電気モータMeの駆動制御用の目標値Tmtr(=Teps−Tus)に基づいて、電気モータMeが駆動される。
【0041】
これにより、Tmtrに相当する駆動力がタイロッドTRに付与されて、運転者による操舵トルクが軽減される。即ち、運転者による操舵トルクを軽減するためのトルクが、EPSトルクTepsから抑制トルクTusを減じた値に設定される。換言すれば、ステアリングホイール操作角を維持するため、運転者は、Tusに相当する操舵トルクを余分に必要とする。
【0042】
以上のように、TswとJrusとに基づいて、操舵トルク制御が実行される。この結果、アンダステア状態において、ステアリングホイールSWの「切増し」が抑制されて、アンダステアの程度の増大が抑制され得る。
【0043】
加えて、車両のアンダステアを抑制する制動力制御(ESC制御)が、Jrusに基づいて行われる。即ち、各輪制動力演算手段A8では、Jrusに基づいて、図4に示した特性に従って、各車輪の制動力の目標値Fxt**が演算される。これにより、Fxt**は、Jrusが閾値Jr1(前記「第1閾値」に対応)以下のときにゼロに演算され、JrusがJr1よりも大きいときにJrusのJr1からの増大に伴ってゼロから増大するように(ただし、値Fx1以下に制限される)演算される。
【0044】
制動力制御手段A9では、Fxt**に基づいてブレーキアクチュエータBRKが駆動される。これにより、各車輪の制動力がFxt**と一致するように調整される。この結果、運転者によるブレーキペダルBPの操作とは独立して、後輪の制動力(特に、旋回内側の後輪の制動力)が増加させられる。以上のように、「Jrus>Jr1」を開始条件として、Jrusに基づいて、制動力制御が実行される。上述の操舵トルク制御におけるTusの付与に加えて、この制動力制御によっても、アンダステアが抑制される。
【0045】
(抑制トルクTusの設定)
次に、図3に示した抑制トルクTusの特性について説明する。図3の実線に示すように、Tusは、アンダステア状態量Jrusが閾値Jr1(前記「第1閾値」に対応、図4のJr1と同じ値)以下のときにゼロに演算され、JrusがJr1よりも大きいときにJrusのJr1からの増大に伴ってゼロから増大するように(ただし、値Tu1以下に制限される)演算される。即ち、「Jrus>Jr1」を開始条件として、操舵トルク制御におけるTusの付与が開始される。
【0046】
加えて、Jrus>Jr1の場合において、Jrusの増加に対するTusの増加勾配がJrusの増加に伴って増大するようにTusが演算される。即ち、Jrusに対するTusの特性が下に凸の特性に設定される。この特性は、滑らかな曲線で構成される特性Ch1、或いは、複数の直線を組み合わせて得られる特性Ch2等により実現され得る。
【0047】
この結果、運転者は、Jrusの増大過程においてTusの変化を敏感に感じ取ることができ、運転者は、上述した「下に凸の特性に起因して操舵トルクが大きいと感じる傾向」と同様の傾向を得ることができる。即ち、Jrusに対するTusの特性が直線的な比例特性の場合に比して、小さいTusをもって運転者に大きい操舵トルクを感じさせることができる。この結果、小さいTusをもって、ステアリングホイールSWの「切増し」が効果的に抑制されて、アンダステアの程度の増大が効果的に抑制され得る。
【0048】
ところで、上述の制動力制御により、アンダステアを抑制するために旋回内側後輪に制動力が付与されると、アンダステアの程度の減少により車体のスリップ角βが増大し、この結果、操向車輪(前輪)のスリップ角αも増大する。ここで、スリップ角αと、コーナリングフォースCF及びセルフアライニングトルクSATとは、図5に示す関係にある。
【0049】
図5に示すように、アンダステアの状態では、前輪のコーナリングフォースCFは既に飽和している状態にある。従って、アンダステアの状態においてスリップ角αが増大すると、セルフアライニングトルクSATが減少し、運転者による操舵トルクが減少する。一方、上述の操舵トルク制御において抑制トルクTusが付与されると、運転者による操舵トルクが増大する。
【0050】
よって、アンダステアの状態におけるアンダステア状態量Jrusの増大過程において、「旋回内側後輪への制動力の付与」と「抑制トルクTusの付与」の何れか一方が他方より先に開始されると(両者が同時に開始されないと)、「旋回内側後輪への制動力の付与」に起因する操舵トルクの減少を運転者が感じ取り、運転者に違和感を与えることに繋がる。
【0051】
これに対し、第1実施形態では、上述のように、「旋回内側後輪への制動力の付与」と「抑制トルクTusの付与」の開始条件(「Jrus>Jr1」)が同じである。従って、アンダステア状態におけるJrusの増大過程において、「旋回内側後輪への制動力の付与」と「抑制トルクTusの付与」とが同時に開始される。この結果、「旋回内側後輪への制動力の付与」に起因する操舵トルクの減少を運転者が感じ難くなり、運転者に違和感を与えることなく、抑制力Tusの付与が実行され得る。
【0052】
また、アンダステア状態量Jrusの増大に伴って付与される制動力が増大することに起因して、上述した「旋回内側後輪への制動力の付与」に起因する操舵トルクの減少量は、Jrusの増大に伴って増大する。図3に破線で示した特性Chbrは、Jrusに対する操舵トルクの減少量の特性を示している。なお、この特性Chbrは、実験等を通じて予め得ることができる。
【0053】
ここで、図3から理解できるように、JrusがJr1よりも大きい範囲に亘って、Jrusに対するTus(特性Ch1、又はCh2)が、Jrusに対する前記「操舵トルクの減少量」(特性Chbr)よりも大きい。従って、「旋回内側後輪への制動力の付与」と「抑制トルクTusの付与」とが共に実行されている状態(Jrus>Jr1の場合)において、「抑制トルクTusの付与」による操舵トルクの増大により、「旋回内側後輪への制動力の付与」による操舵トルクの減少が完全に吸収され得る。
【0054】
この結果、「旋回内側後輪への制動力の付与」に起因する操舵トルクの減少を運転者がより一層感じ難くなる。加えて、「旋回内側後輪への制動力の付与」に起因する操舵トルクの減少が「抑制トルクTusの付与」に起因する操舵トルクの増大を上回ることに伴うステアリングホイールSWの「切増し」の発生が確実に抑制され得るから、これによっても、アンダステアの程度の増大が確実に抑制され得る。
【0055】
以上、本発明の第1実施形態に係る操舵制御装置によれば、アンダステア抑制制御として、操舵トルク制御(「抑制トルクTusの付与」)と制動力制御(「旋回内側後輪への制動力の付与」)とが実行される。操舵トルク制御では、運転者による操舵トルクTswに基づいて操舵トルクを軽減するためのEPSトルクTepsが演算され、アンダステアの程度を表すアンダステア状態量Jrusに基づいてステアリングホイールの「切増し」を抑制するための抑制トルクTusが演算される。運転者による操舵トルクを軽減するためのトルクが、(Teps−Tus)に調整される。これにより、ステアリングホイール操作角を維持するため、運転者は、Tusに相当する操舵トルクを余分に必要とする。ここで、Jrusに対するTusの特性が下に凸の特性に設定される。
【0056】
この結果、Jrusの増大過程においてTusの変化を敏感に感じ取ることができ、Jrusに対するTusの特性が直線的な比例特性の場合に比して、小さいTusをもって運転者に大きい操舵トルクを感じさせることができる。この結果、小さいTusをもって、ステアリングホイールSWの「切増し」が効果的に抑制されて、アンダステアの程度の増大が効果的に抑制され得る。
【0057】
制動力制御では、Jrusに基づいて決定される制動力が旋回内側後輪に付与される。ここで、「旋回内側後輪への制動力の付与」と「抑制トルクTusの付与」との開始条件(「Jrus>Jr1」)が同じであり、且つ、Jrusに対するTusの特性(Ch1、又はCh2)が、Jrusに対する、「旋回内側後輪への制動力の付与」に起因する「操舵トルクの減少量」の特性(Chbr)よりも大きい。従って、「旋回内側後輪への制動力の付与」に起因する操舵トルクの減少を運転者が感じ難くなり、運転者に違和感を与えることなく、抑制力Tusの付与が実行され得る。
【0058】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る操舵制御装置について説明する。この第2実施形態は、アンダステア抑制制御として、上記第1実施形態における操舵トルク制御(「抑制トルクTusの付与」)と制動力制御(「旋回内側後輪への制動力の付与」)とに加えて、操舵比制御(「操舵比の増大」)が実行される点が上記第1実施形態と異なる。以下、係る相違点についてのみ説明する。
【0059】
図6は、第2実施形態に係る操舵制御装置を搭載した車両の概略構成を示している。この第2実施形態では、図1に示した上記第1実施形態に係る装置に対して、ステアリングシャフトSHが、アッパステアリングシャフトSHuとロアステアリングシャフトSHlとに分割され、これらの間にアクチュエータVGが介装され、且つ、ECUb等と互いに通信バスCBで接続されたECUvによってVGが制御される点が異なる。
【0060】
アクチュエータVGは、電気モータMv(第2のモータ)と、ギア機構Gvとから構成されていて、モータMvの回転角度を制御することで、SHuに対するSHlの相対的な回転角度(相対角)を調整可能に構成されている。この相対角を制御することで、前輪WHfr,WHflの(中立位置からの)舵角に対する、ステアリングホイールSWの(中立位置からの)操作角の割合(操舵比、ステアリングギア比、操舵ギア比などと呼ばれる)が変更可能に構成されている。
【0061】
このことに関連して、図2に対応する図7に示すように、第2実施形態では、操舵比演算手段A10、ステアリングホイール操作角取得手段A11、及び相対角演算手段A12が追加され、モータ駆動手段A7において、第1のモータMeの制御部に加えて第2のモータMvの制御部が設けられている。
【0062】
操舵比演算手段A10では、アンダステア状態量Jrusに基づいて、図8に示した特性に従って、操舵比の目標値SGが演算される。これにより、SGは、Jrusが閾値Jr1(前記「第2閾値」に対応)以下のときに値SG1(前記「第1所定値」に対応)に演算され、JrusがJr1よりも大きいときにJrusのJr1からの増大に伴ってSG1から増大するように(ただし、値SG2以下に制限される)演算される。
【0063】
ステアリングホイール操作角取得手段A11では、ステアリングホイール回転角度センサSAにより、ステアリングホイール操作角θswが取得される。このθswにSGの逆数(1/SG)が乗算されて前輪舵角の目標値δftが決定される。相対角演算手段A12では、このδftを達成するための相対角の目標値θrelが演算される。
【0064】
モータ駆動手段A7の第2のモータMvの制御部では、θrelに基づいて電気モータMvが駆動される。これにより、相対角がθrelと一致するように調整される。この結果、「Jrus>Jr1」を開始条件として、操舵比がSG1から増大させられる。
【0065】
操舵比が大きい値となると、ステアリングホイール操作角に対する前輪舵角(従って、前輪のスリップ角α)が小さくなり、且つ、ステアリングホイール操作角の増加に対する前輪舵角(従って、前輪のスリップ角α)の増加量が小さくなる。これにより、アンダステアが抑制される。このように、第2実施形態では、上述した操舵トルク制御(「抑制トルクTusの付与」)、制動力制御(「旋回内側後輪への制動力の付与」)に加えて、この操舵比制御(「操舵比の増大」)によっても、アンダステアが抑制される。
【0066】
ところで、操舵比が変更される場合、電気モータMvの駆動力により車輪のセルフアライニングトルクに対抗して前輪が操舵される。このときの反力は、運転者によるステアリングホイールSWの保舵力(操舵トルク)(及び、電気モータMeの駆動力)によって支えられる。ここで、例えば、アンダステア状態において運転者によりステアリングホイール操作角が一定に保持されている場合において操舵比が増大すると、前輪舵角は中立位置(δfa=0)の方向へ切り戻される。このことに起因して、ステアリング系のヒステリシス分(摩擦分)だけ運転者による操舵トルクが減少する。一方、上述の操舵トルク制御において抑制トルクTusが付与されると、運転者による操舵トルクが増大する。
【0067】
よって、アンダステアの状態におけるアンダステア状態量Jrusの増大過程において、「操舵比の増大」と「抑制トルクTusの付与」の何れか一方が他方より先に開始されると(両者が同時に開始されないと)、「操舵比の増大」に起因する操舵トルクの減少を運転者が感じ取り、運転者に違和感を与えることに繋がる。
【0068】
これに対し、第2実施形態では、上述のように、「操舵比の増大」と「抑制トルクTusの付与」の開始条件(「Jrus>Jr1」)が同じである。従って、アンダステア状態におけるJrusの増大過程において、「操舵比の増大」と「抑制トルクTusの付与」とが同時に開始される。この結果、「操舵比の増大」に起因する操舵トルクの減少を運転者が感じ難くなり、運転者に違和感を与えることなく、抑制力Tusの付与が実行され得る。
【0069】
また、アンダステア状態量Jrusの増大に伴って操舵比が増大することに起因して、上述した「操舵比の増大」に起因する操舵トルクの減少量は、Jrusの増大に伴って増大する。図3に破線で示した特性Chvgは、Jrusに対する操舵トルクの減少量の特性を示している。なお、この特性Chvgは、実験等を通じて予め得ることができる。
【0070】
ここで、図3から理解できるように、JrusがJr1よりも大きい範囲に亘って、Jrusに対するTus(特性Ch1、又はCh2)が、Jrusに対する前記「操舵トルクの減少量」(特性Chvg)よりも大きい。従って、「操舵比の増大」と「抑制トルクTusの付与」とが共に実行されている状態(Jrus>Jr1の場合)において、「抑制トルクTusの付与」による操舵トルクの増大により、「操舵比の増大」による操舵トルクの減少が完全に吸収され得る。
【0071】
この結果、「操舵比の増大」に起因する操舵トルクの減少を運転者がより一層感じ難くなる。加えて、「操舵比の増大」に起因する操舵トルクの減少が「抑制トルクTusの付与」に起因する操舵トルクの増大を上回ることに伴うステアリングホイールSWの「切増し」の発生が確実に抑制され得るから、これによっても、アンダステアの程度の増大が確実に抑制され得る。
【0072】
本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記各実施形態においては、ステアリングホイールSWと操向車輪WHfl及びWHfrとが機械的に接続されているが、ステアリングホイールSWと操向車輪WHfl及びWHfrとが機械的に接続されていない所謂ステア・バイ・ワイヤ方式(即ち、ステアリングホイールSWの操作角θswを示す電気信号に基づいて前輪舵角の制御を行う機構)が採用されてもよい。この場合、前記「操舵操作部材」として、ステアリングホイールSWに代えて棒状部材(所謂、ジョイスティック)が使用されてもよい。
【0073】
また、上記第2実施形態においては、JrusがJr1よりも大きい範囲に亘って、Jrusに対するTus(特性Ch1、又はCh2)が、Jrusに対する、「操舵比の増大」に起因する前記「操舵トルクの減少量」(特性Chvg)よりも大きいように設定されているが、JrusがJr1よりも大きい範囲に亘って、Jrusに対するTus(特性Ch1、又はCh2)が、Jrusに対する「操舵比の増大」に起因する「操舵トルクの減少量」(特性Chvg)とJrusに対する「旋回内側後輪への制動力の付与」に起因する「操舵トルクの減少量」(特性Chbr)の和(Chbr+Chvg)よりも大きいように設定されてもよい。
【0074】
また、上記第2実施形態においては、アンダステア抑制制御として、操舵トルク制御(「抑制トルクTusの付与」)、制動力制御(「旋回内側後輪への制動力の付与」)、及び、操舵比制御(「操舵比の増大」)が実行されているが、操舵トルク制御(「抑制トルクTusの付与」)、及び操舵比制御(「操舵比の増大」)のみが実行されてもよい。
【0075】
加えて、上記各実施形態においては、電気モータMeの駆動制御用の目標値Tmtr(=Teps−Tus)に基づいて電気モータMeが駆動され、運転者による操舵トルクを軽減するためのトルク(ステアリングホイール操作角を増大させる方向のトルク)が、EPSトルクTepsから抑制トルクTusを減じた値に設定されているが、電気モータMeの駆動制御用の目標値Tmtr(=Tus)に基づいて電気モータMeが駆動され、運転者による操舵トルクを増大するためのトルク(ステアリングホイール操作角を減少させる方向のトルク)が、抑制トルクTusと等しい値に設定されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の第1実施形態に係る操舵制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】図1に示した操舵制御装置によりアンダステア抑制制御を行う際の機能ブロック図である。
【図3】アンダステア状態量に対する抑制トルクの特性を示したグラフである。
【図4】アンダステア状態量に対する制動力の特性を示したグラフである。
【図5】前輪のスリップ角に対する、コーナリングフォース及びセルフアライニングトルクの特性を示したグラフである。
【図6】本発明の第2実施形態に係る操舵制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図7】図6に示した操舵制御装置によりアンダステア抑制制御を行う際の機能ブロック図である。
【図8】アンダステア状態量に対する操舵比の特性を示したグラフである。
【図9】ステアリングホイール操作角に対する操舵トルクの特性について、直線的な比例特性と、下に凸の特性と、を比較して示したグラフである。
【符号の説明】
【0077】
BRK…ブレーキアクチュエータ、ECU…電子制御装置、Me…電気モータ、Mv…電気モータ、SW…ステアリングホイール、SA…ステアリングホイール回転角度センサ、ST…操舵トルクセンサ、YR…ヨーレイトセンサ、WS**…車輪速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のヨーイング運動に相当する値(VMa)を取得し、前記ヨーイング運動に相当する値に基づいて、前記車両のアンダステアの程度を表すアンダステア状態量(Jrus)を演算する状態量演算手段(A3,A4,A5)と、
前記アンダステア状態量に基づいて、前記車両の運転者により操向車輪(WHf*)の転舵のために操作される操舵操作部材(SW)の中立位置からの操作量(θsw)の増大を抑制するための抑制力(Tus)を演算する抑制力演算手段(A6)と、
前記抑制力を、前記操舵操作部材に対して前記操作量を減少させる方向に付与する力付与手段(A7)と、
を備えた車両の操舵制御装置において、
前記抑制力演算手段は、
前記アンダステア状態量の増加に対する前記抑制力の増加勾配が前記アンダステア状態量の増加に伴って増大するように前記抑制力を演算するよう構成された車両の操舵制御装置。
【請求項2】
車両の運転者により操向車輪(WHf*)の転舵のために操作される操舵操作部材(SW)の前記運転者による操作力(Tsw)を取得する取得手段(A1)と、
前記操作力に基づいて、前記運転者による前記操作力を助勢するための助勢力(Teps)を演算する助勢力演算手段(A2)と、
前記車両のヨーイング運動に相当する値(VMa)を取得し、前記ヨーイング運動に相当する値に基づいて、前記車両のアンダステアの程度を表すアンダステア状態量(Jrus)を演算する状態量演算手段(A3,A4,A5)と、
前記アンダステア状態量に基づいて、前記操舵操作部材の中立位置からの操作量(θsw)の増大を抑制するための抑制力(Tus)を演算する抑制力演算手段(A6)と、
前記助勢力を前記抑制力に基づいて減少させて得られる力(Tmtr)を、前記操舵操作部材に対して前記操作量を増大させる方向に付与する力付与手段(A7)と、
を備えた車両の操舵制御装置において、
前記抑制力演算手段は、
前記アンダステア状態量の増加に対する前記抑制力の増加勾配が前記アンダステア状態量の増加に伴って増大するように前記抑制力を演算するよう構成された車両の操舵制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両の操舵制御装置であって、
前記アンダステア状態量に基づいて、前記車両の旋回内側の後輪に付与すべき制動力の目標値(Fxt**)を演算する制動力演算手段(A8)と、
前記制動力の目標値に基づいて前記旋回内側の後輪に制動力を付与する制動力制御手段(A9)と、
を備え、
前記抑制力演算手段は、
前記アンダステア状態量が第1閾値(Jr1)以下のときに前記抑制力をゼロに演算し、前記アンダステア状態量が前記第1閾値よりも大きいときに前記アンダステア状態量の前記第1閾値からの増大に伴って前記抑制力がゼロから増大するように前記抑制力を演算するよう構成され、
前記制動力演算手段は、
前記アンダステア状態量が前記第1閾値(Jr1)以下のときに前記制動力の目標値をゼロに演算し、前記アンダステア状態量が前記第1閾値よりも大きいときに前記アンダステア状態量の前記第1閾値からの増大に伴って前記制動力の目標値がゼロから増大するように前記制動力の目標値を演算するよう構成された車両の操舵制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両の操舵制御装置において、
前記抑制力演算手段は、
前記アンダステア状態量が前記第1閾値よりも大きい範囲に亘って、
前記アンダステア状態量に対する前記抑制力(Ch1,Ch2)が、
前記制動力の前記旋回内側の後輪への付与に起因する、前記運転者による前記操舵操作部材の操作力についての前記アンダステア状態量に対する減少量(Chbr)よりも大きくなるように、前記抑制力を演算するよう構成された車両の操舵制御装置。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の車両の操舵制御装置であって、
前記アンダステア状態量に基づいて、前記操向車輪の転舵角(δfa)に対する前記操舵操作部材の前記操作量(θsw)の割合である操舵比の目標値(SG)を演算する操舵比演算手段(A10)と、
前記操舵比の実際値が前記操舵比の目標値となるように前記操舵比を調整する操舵比調整手段(A11,A12)と、
を備え、
前記抑制力演算手段は、
前記アンダステア状態量が第2閾値(Jr1)以下のときに前記抑制力をゼロに演算し、前記アンダステア状態量が前記第2閾値よりも大きいときに前記アンダステア状態量の前記第2閾値からの増大に伴って前記抑制力がゼロから増大するように前記抑制力を演算するよう構成され、
前記操舵比演算手段は、
前記アンダステア状態量が前記第2閾値(Jr1)以下のときに前記操舵比の目標値を第1所定値(SG1)に演算し、前記アンダステア状態量が前記第2閾値よりも大きいときに前記アンダステア状態量の前記第2閾値からの増大に伴って前記操舵比の目標値が前記第1所定値から増大するように前記操舵比の目標値を演算するよう構成された車両の操舵制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両の操舵制御装置において、
前記抑制力演算手段は、
前記アンダステア状態量が前記第2閾値よりも大きい範囲に亘って、
前記アンダステア状態量に対する前記抑制力(Ch1,Ch2)が、
前記操舵比の増大に起因する、前記運転者による前記操舵操作部材の操作力についての前記アンダステア状態量に対する減少量(Chvg)よりも大きくなるように、前記抑制力を演算するよう構成された車両の操舵制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−227135(P2009−227135A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75936(P2008−75936)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】