説明

車両の運動制御装置、及び車両の運動制御方法

【課題】車両の進行方向に複数の障害物が存在する場合において、車両が各障害物のうち少なくとも1つの障害物と接触し得る緊急状態であるときには、該障害物との接触によって車両が被る損傷を小さくできる車両の運動制御装置、及び車両の運動制御方法を提供する。
【解決手段】各ECUは、車両の進行方向に存在する各障害物のうち少なくとも1つの障害物に車両が接触する可能性がある場合(ステップS12が肯定判定)において、回避制御によって車両と各障害物との接触を回避可能であるとき(ステップS15が肯定判定)には、回避制御を実行する。一方、各ECUは、回避制御を実行しても車両が少なくとも1つの障害物に接触する可能性があるとき(ステップS15が否定判定)には、損傷低減走行軌跡55を設定し(ステップS19)、該損傷低減走行軌跡55に車両の実際の走行軌跡が接近するように損傷低減姿勢制御を実行する(ステップS20,S21)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の進行方向に障害物が存在する場合の車両の運動を制御する車両の運動制御装置、及び車両の運動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両と該車両の進行方向に存在する障害物との接触を回避させるための運動制御装置として、例えば特許文献1に記載の運動制御装置が提案されている。この特許文献1に記載の運動制御装置は、車両と該車両の進行方向に存在する障害物(駐車車両やガードレールなど)との接触が発生し得る緊急状態である場合において、車体速度を減速させる減速制御の実行によって障害物との接触が回避可能であるときには、減速制御を実行して車両と障害物との接触を回避させるようになっている。
【0003】
ところが、減速制御を実行しても車両と障害物との接触を回避不能な場合がある。こうした場合、上記運動制御装置は、車両の転舵輪の転舵角を調整すると共に、車両の各車輪に対する制動力を調整し、操舵方向と同一方向のヨーレートを発生させる回避制御を実行する。すると、車両は、運転手による少しの操舵で旋回し易くなる。これにより、運転手は、車両と障害物との接触を回避させていた。
【特許文献1】特開2000−177616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の進行方向には、図11に示すように、複数(図11では2つ)の障害物100A,100Bが存在する場合がある。この場合、上記運動制御装置を搭載した車両101は、上記減速制御を実行しても第1障害物100Aとの接触が回避不能であるときには、上記回避制御の実行によって旋回し、第1障害物100Aとの接触を回避しようとする。ところが、このように回避制御の実行によって車両101と第1障害物100Aとの接触を回避させても、接触回避後の車両101の直前に第2障害物100Bが存在することがあり、車両101と第2障害物100Bとの接触が回避不能な可能性がある。こうして第1障害物100Aとの接触を回避した車両101が第2障害物100Bと接触した場合(例えば、車両101が第2障害物100Bに正面衝突した場合)、該第2障害物100Bに接触した車両101の位置によっては、車両の損傷、即ちダメージが第1障害物100Aに接触する際よりも大きくなってしまうおそれがあった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両の進行方向に複数の障害物が存在する場合において、車両が各障害物のうち少なくとも1つの障害物と接触し得る緊急状態であるときには、該障害物との接触によって車両が被る損傷を小さくできる車両の運動制御装置、及び車両の運動制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、車両の運動制御装置にかかる請求項1に記載の発明は、進行方向に存在する障害物(50A,50B)を検出するための障害物検出手段(14、15)を有する車両(51)の運動を制御する車両の運動制御装置(20,24)であって、前記障害物検出手段(14、15)によって車両(51)の進行方向に複数の障害物(50A,50B)が存在することが検出された場合に、車両(51)と前記各障害物(50A,50B)のうち少なくとも1つの障害物(50A)との接触が発生し得る緊急状態であるか否かを判定する緊急判定手段(24、S12)と、該緊急判定手段(24、S12)によって前記緊急状態であると判定された場合に、前記各障害物(50A,50B)が位置する領域を通過する際に車両(51)が被り得る損傷を小さくするように、車両(51)の損傷低減走行軌跡を設定する設定手段(24、S19)と、該設定手段(24、S19)によって設定された損傷低減走行軌跡(55、55A)に車両(51)の実際の走行軌跡が接近するように該車両(51)の姿勢が調整される損傷低減姿勢制御を実行する低減制御手段(20,24、S20,S21)とを備えたことを要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、車両の進行方向に存在する複数の障害物のうち少なくとも1つの障害物に接触する可能性がある場合には、各障害物が位置する領域を通過する際に車両が被り得る損傷が小さくなるように、損傷低減走行軌跡が設定される。そして、車両の実際の走行軌跡が損傷低減走行軌跡に接近するように、車両の姿勢を調整する損傷低減姿勢制御が実行される。そのため、各障害物が位置する領域を通過した車両の損傷度合は、損傷低減姿勢制御が実行されない場合に比して小さくなる。したがって、車両の進行方向に複数の障害物が存在する場合において、車両が各障害物のうち少なくとも1つの障害物と接触し得る緊急状態であるときには、該障害物との接触によって車両が被る損傷を小さくできる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両の運動制御装置において、車両(51)と前記各障害物(50A,50B)との接触を回避するための回避制御を実行する回避制御手段(20,24、S16,S21)と、前記緊急判定手段(24、S12)によって前記緊急状態であると判定された場合に、前記回避制御手段(20,24、S16,S21)による前記回避制御の実行によって車両(51)と前記各障害物(50A,50B)との接触が回避可能であるか否かを判定する回避判定手段(24、S15)とをさらに備え、前記回避制御手段(20,24、S16,S21)は、前記回避判定手段(24、S15)によって前記回避制御の実行に基づき車両(51)と前記各障害物(50A,50B)との接触が回避可能であると判定された場合に、前記回避制御を実行することを要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、車両の進行方向に存在する複数の障害物のうち少なくとも1つの障害物に接触する可能性がある場合において、回避制御の実行によって車両と各障害物との接触が回避可能であるときには、損傷低減姿勢制御ではなく、回避制御が実行される。その結果、各障害物との接触に起因した損傷を被ることなく、車両を各障害物が位置する領域を通過させることが可能になる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の車両の運動制御装置において、前記設定手段(24、S19)は、前記回避判定手段によって前記回避制御が実行されても車両(51)と前記各障害物(50A,50B)のうち少なくとも1つの障害物(50A)との接触が回避できない可能性があると判定された場合に、前記損傷低減走行軌跡を設定し、前記低減制御手段(20,24、S20,S21)は、前記設定手段(24、S19)によって設定された前記損傷低減走行軌跡(55、55A)に車両(51)の実際の走行軌跡が接近するように前記損傷低減姿勢制御を実行することを要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、車両の進行方向に存在する複数の障害物のうち少なくとも1つの障害物に接触する可能性がある場合において、回避制御の実行によって車両と各障害物との接触が回避できない可能性があるときには、損傷低減姿勢制御が実行される。その結果、各障害物が位置する領域を通過した際の車両の損傷を低減させることが可能になる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の車両の運動制御装置において、前記設定手段(24、S19)は、前記少なくとも1つの障害物(50A)に接触した車両(51)と該車両(51)が接触した前記少なくとも1つの障害物(50A)以外の他の障害物(50B)との接触が回避されるように損傷低減走行軌跡(55、55A)を設定することを要旨とする。
【0013】
上記構成によれば、少なくとも1つの障害物に接触した車両が他の障害物に接触する可能性を低減させることが可能である。そのため、障害物との接触に起因した車両の損傷の低減に貢献できる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載の車両の運動制御装置において、前記低減制御手段(20,24、S20,S21)は、前記少なくとも1つの障害物(50A)に接触する車両(51)における接触位置(P0)が調整されるように前記損傷低減姿勢制御を実行することを要旨とする。
【0015】
上記構成によれば、損傷低減姿勢制御の実行によって、接触後の車両の実際の走行軌跡が損傷低減走行軌跡に接近するように、障害物に接触する車両における接触位置が調整される。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のうち何れか一項に記載の車両の運動制御装置において、前記低減制御手段(20,24、S20,S21)は、前記車両(51)の進行方向を調整することにより、車両(51)が接触する前記少なくとも1つの障害物(50A)における接触位置(P1,P2)が変更されるように前記損傷低減姿勢制御を実行することを要旨とする。
【0017】
上記構成によれば、損傷低減姿勢制御の実行によって、接触後の車両の実際の走行軌跡が損傷低減走行軌跡に接近するように、車両が接触する障害物における接触位置が調整される。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6のうち何れか一項に記載の車両の運動制御装置において、車両(51)の車体内部の情報である車体内部情報を取得する取得手段(24)をさらに備え、前記低減制御手段(20,24、S20,S21)は、前記取得手段(24)によって取得された車体内部情報に応じて前記損傷低減姿勢制御を実行することを要旨とする。
【0019】
上記構成によれば、損傷低減姿勢制御では、車体内部情報を用いて車両の姿勢が適切に調整される。そのため、障害物に接触した車両が実際に走行し得る走行軌跡を、損傷低減走行軌跡に接近させることが可能になる。
【0020】
一方、車両の運動制御方法にかかる請求項8に記載の発明は、車両(51)の進行方向に複数の障害物(50A,50B)が存在する場合に、車両の運動を制御する車両の運動制御方法であって、車両(51)と前記各障害物(50A,50B)のうち少なくとも1つの障害物(50A)との接触が発生し得る緊急状態であるか否かを判定させる緊急判定ステップ(S12)と、該緊急判定ステップ(S12)にて前記緊急状態であると判定した場合に、前記各障害物(50A,50B)が位置する領域を通過する際に車両(51)が被り得る損傷を小さくするように、車両(51)の損傷低減走行軌跡(55、55A)を設定させる設定ステップ(S19)と、該設定ステップ(S19)にて設定した損傷低減走行軌跡(55、55A)に車両(51)の実際の走行軌跡が接近するように該車両(51)の姿勢が調整される損傷低減姿勢制御を実行させる低減制御ステップ(S20,S21)とを有することを要旨とする。
【0021】
上記構成によれば、請求項1に記載の発明と同等の作用効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1の実施形態)
以下、本発明の車両の運動制御装置、及び車両の運動制御方法を具体化した第1の実施形態を図1〜図8に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。また、特に説明がない限り、以下の記載における左右方向は、車両進行方向における左右方向と一致するものとする。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の車両は、複数(本実施形態では4つ)ある車輪(右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR及び左後輪RL)のうち前輪FR,FLが転舵輪(「操舵輪」ともいう。)として機能する車両である。そして、車両は、運転手によって図示しないアクセルペダルが踏込み操作された場合に、その操作量に応じた駆動力が図示しないエンジンから図示しない駆動力伝達機構を介して各車輪FR,FL,RR,RLに伝達されることにより走行する。こうした車両には、前輪FR,FLを転舵させる前輪転舵装置11と、運転手によるブレーキペダル12の踏込み操作量に応じた制動力を各車輪FR,FL,RR,RLに付与可能な制動装置13とが設けられている。また、車両には、該車両前方、即ち進行方向に存在する障害物(例えば、駐車車両やガードレール)を検出可能な障害物検出手段としての障害物検出装置14と、GPS(Global Positioning System)衛星60から送信された各種情報(例えば車両位置情報)を受信可能なナビゲーション装置15とが設けられている。
【0024】
前輪転舵装置11は、運転手によって操舵されるステアリングホイール16と、該ステアリングホイール16が固定されるステアリングシャフト17と、該ステアリングシャフト17に連結される転舵アクチュエータ18とを備えている。また、前輪転舵装置11には、転舵アクチュエータ18により車両の左右方向に移動自在なタイロッドと、該タイロッドの移動により前輪FL,FRを転舵させるリンクとを含んだリンク機構部19が設けられている。さらに、前輪転舵装置11には、図示しないCPU、ROM及びRAMなどを有する操舵ECU20(「操舵用電子制御装置」ともいう。)が設けられており、該操舵ECU20には、ステアリングホイール16の操舵角を検出するための操舵角センサSE1が電気的に接続されている。そして、操舵ECU20は、前輪FR,FLの転舵角をステアリングホイール16の操舵角に応じた角度に調整すべく転舵アクチュエータ18を制御する。
【0025】
制動装置13は、図示しない液圧回路、及び該液圧回路上に配置されるポンプや各種電磁弁を有する制動アクチュエータ21を備えている。この制動アクチュエータ21には、車輪FR,FL,RR,RL毎に設けられた各ホイールシリンダ22a,22b,22c,22dに個別に連結される複数の液体流路23a,23b,23c,23dが接続されている。すなわち、制動アクチュエータ21は、そのポンプや各種電磁弁の作動によって、各液体流路23a〜23dを介してホイールシリンダ22a〜22d内に個別にブレーキ液を供給可能である。そして、各車輪FR,FL,RR,RLには、各ホイールシリンダ22a〜22d内に発生したブレーキ液圧に応じた制動力がそれぞれ付与される。
【0026】
また、制動装置13には、図示しないCPU、ROM及びRAMなどを有する制動ECU24(「制動用電子制御装置」ともいう。)が設けられている。この制動ECU24には、ブレーキスイッチSW1と、操舵角センサSE1と、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度を検出するための車輪速度センサSE2,SE3,SE4,SE5と、車両のヨーレート(Yaw Rate)を検出するためのヨーレートセンサSE6とが電気的に接続されている。そして、制動ECU24は、ブレーキスイッチSW1及び各種センサSE1〜SE6からの各種検出信号に基づき制動アクチュエータ21を制御する。
【0027】
障害物検出装置14は、車両の前方を撮像可能なカメラ25(例えば「CCD(電荷結合素子)」)と、車両の図示しないフロントグリル近傍に配置されるレーダセンサ26と、カメラ25及びレーダセンサ26から入力した各種情報を解析する情報解析部27とを備えている。カメラ25は、撮像した撮像情報を情報解析部27に出力する。なお、カメラ25の近傍には、図示しない赤外線投光器が配置されているため、カメラ25は、車両が暗所を走行する場合であっても車両前方を撮像可能である。
【0028】
レーダセンサ26には、車両前方に向けてビームを出力する図示しない出力部と、該ビームのうち車両前方に位置する障害物50A,50B(図2参照)にて反射したビーム(以下、「戻りビーム」という。)を受光する図示しない受光部とが設けられている。そして、レーダセンサ26の受光部は、戻りビームを受光した場合に、該受光量に応じた電気信号を情報解析部27に出力する。
【0029】
情報解析部27は、カメラ25からの撮像情報が入力された場合、該撮像情報の解析を行い、車両前方に障害物50A,50Bが存在するか否かを判定すると共に、車両前方に障害物50A,50Bが存在する場合には公知の画像処理技術によって該障害物50A,50Bの形状を特定する。また、情報解析部27は、図1及び図2に示すように、レーダセンサ26の出力部から障害物50A,50Bの位置する方向に向けてビームを出力させ、受光部からの電気信号に基づき車両51から障害物(例えば第1障害物50A)までの相対距離Lrと、第1障害物50Aを基準とした車両51の相対速度Vrとを演算する。具体的には、情報解析部27は、受光部が受光した戻りビームの受光量の大きさに基づき相対距離Lrを推定すると共に、該相対距離Lr及び出力部によるビームの出力から受光部による戻りビームの受光までの経過時間などに基づき相対速度Vrを推定する。そして、情報解析部27は、相対距離Lr及び相対速度Vrに関する障害物情報を制動ECU24に出力する。なお、この障害物情報には、車両の前方に存在する全ての障害物に関する情報(形状や位置に関する情報)も含まれている。
【0030】
ナビゲーション装置15には、図1に示すように、車両が走行する地域の地図情報が予め記憶される地図情報記憶部28と、GPS衛星60からの各種情報、即ち車両の位置に関する車両位置情報を受信するGPS受信部29とが設けられている。そして、ナビゲーション装置15は、受信した車両位置情報及び車両51が現在走行する地域の地図情報を制動ECU24に向けて出力する。また、ナビゲーション装置15は、車室内に設けられる図示しないディスプレイに地図情報及び車両位置情報を表示させる。
【0031】
なお、前輪転舵装置11及び制動装置13に搭載される各ECU20,24同士は、各種情報及び各種制御指令を送受信できるようにバス30を介してそれぞれ接続されている。そのため、前輪転舵装置11及び制動装置13は、車両の姿勢を調整するために互いに連動して作動可能である。すなわち、制動ECU24は、各種センサSE1〜SE6からの各種検出信号と、障害物検出装置14及びナビゲーション装置15からの各種情報とに基づき、転舵アクチュエータ18の作動を促す旨の制御指令を操舵ECU20に送信すると共に、制動アクチュエータ21を作動させる。そして、制動ECU24からの制御指令を受信した操舵ECU20は、該制御指令に基づき前輪転舵装置11を作動させる。したがって、本実施形態では、各ECU20,24により、車両の運動を制御する運動制御装置が構成される。
【0032】
次に、各ECU20,24のうちメインのECUとして機能する制動ECU24について詳述する。
制動ECU24の図示しないROMには、各種制御処理(後述する障害物対策処理処理)及び各種マップ(図3に示すマップ)などが予め記憶されている。また、制動ECU24の図示しないRAMには、車両の図示しないイグニッションスイッチが「オン」である間、適宜書き換えられる各種の情報(後述する転舵角、実ヨーレート、車体速度、相対距離、相対速度、車体位置情報など)などがそれぞれ記憶される。
【0033】
次に、制動ECU24のROMに予め記憶されるマップについて図3に基づき説明する。
図3に示すマップは、障害物50A,50Bと車両51との相対距離Lrと、障害物50A,50Bを基準とした車両51の相対速度Vrとの関係を示すものである。すなわち、図3に示される境界線31は、障害物50A,50Bに車両51が接触する可能性があるか否かの判断基準、即ち境界になる線であって、相対速度Vrの速さに比例して相対距離Lrが長くなるように設定されている。例えば、相対距離Lrが第1相対距離Lr1である場合において、相対速度Vrが第1相対速度Vr1であるときには、車両51と障害物(図2の場合では第1障害物50A)との接触の可能性がないと判断される。すなわち、運転手による余裕を持ったステアリングホイール16の操舵及びブレーキペダル12の踏込み操作によって、車両51と障害物との接触が回避可能と判断される。一方、相対速度Vrが第1相対速度Vr1よりも速い第2相対速度Vr2であるときには、車両51と障害物50A,50Bとの接触の可能性があると判断される。
【0034】
次に、本実施形態の制動ECU24が実行する各種制御処理のうち、車両前方に障害物50A,50Bが存在する場合に実行される障害物対策処理ルーチンについて図4に示すフローチャートと図2、図7及び図8に示す作用図に基づき説明する。
【0035】
さて、制動ECU24は、予め設定された所定周期毎(本実施形態では10msec.(ミリ秒)毎)に障害物対策処理ルーチンを実行する。この障害物対策処理ルーチンにおいて、制動ECU24は、図5にて詳述する情報取得処理を実行する(ステップS10)。この情報取得処理では、前輪FR,FLの転舵角σ、車両51の車体速度VS及び実ヨーレートYなどが演算される(図5参照)。また、情報取得処理では、上記障害物情報、車両位置情報及び地図情報が受信される。続いて、制動ECU24は、図6にて詳述する接触傾向判断処理を実行する(ステップS11)。この接触傾向判断処理では、車両51と該車両51の前方に存在する障害物50A,50Bとの接触が発生する可能性があるか否かが判断され、接触の可能性がある場合には接触可能性フラグFLG1が「1」にセットされる一方、現時点では接触の可能性がない場合には接触可能性フラグFLG1が「0(零)」にセットされる。
【0036】
そして、制動ECU24は、接触可能性フラグFLG1が「1」にセットされているか否かを判定する(ステップS12)。すなわち、ステップS12では、車両51と障害物50A,50Bとの接触が発生し得る緊急状態であるか否かが判定される。したがって、本実施形態では、制動ECU24が、緊急判定手段としても機能する。また、ステップS11,S12により、緊急判定ステップが構成される。ステップS12の判定結果が否定判定(FLG1=「0」)である場合、制動ECU24は、障害物対策処理ルーチンを一旦終了する。一方、ステップS12の判定結果が肯定判定である場合、制動ECU24は、各車輪FR,FL,RR,RLに制動力を付与して車両51の車体速度VSを減速させる減速制御の実行によって車両51と第1障害物50Aとの接触が回避可能であるか否かを判定する(ステップS13)。ステップS13の判定結果が肯定判定である場合、制動ECU24は、上記減速制御の実行によって車両51と第1障害物50Aとの接触を回避可能であると判断し、車両51を第1障害物50Aの手前で停止させるために必要な制動量BP、即ち制動力の大きさを車輪FR,FL,RR,RL毎に設定する(ステップS14)。そして、制動ECU24は、その処理を後述するステップS21に移行する。
【0037】
一方、ステップS13の判定結果が否定判定である場合、制動ECU24は、上記減速制御を行ったとしても車両51と第1障害物50Aとが接触する可能性ありと判断し、車両51を旋回させて各障害物50A,50Bとの回避の回避を図る回避制御の実行によって車両51と障害物50A,50Bとの接触を回避可能であるか否かを判定する(ステップS15)。この回避制御とは、車両51が各障害物50A,50Bの存在しない方向に旋回させるように、転舵輪である前輪FR,FLの転舵角σと車輪FR,FL,RR,RL毎の制動量BPとを調整する制御である。したがって、本実施形態では、制動ECU24が、回避判定手段としても機能する。ステップS15の判定結果が肯定判定である場合、制動ECU24は、車両51と各障害物50A,50Bとの接触を回避するために必要な前輪FR,FLの転舵角σと車輪FR,FL,RR,RL毎の制動量BPとを設定する(ステップS16)。そして、制動ECU24は、その処理を後述するステップS21に移行する。
【0038】
一方、ステップS15の判定結果が否定判定である場合、制動ECU24は、図7の作用図に示すように、上記回避制御を行ったとしても車両51と障害物50A,50Bとの接触を回避できない可能性があると判断し、車両51の前方に存在する障害物50A,50Bが複数個あるか否かを判定する(ステップS17)。この判定結果が否定判定である場合、制動ECU24は、車両51の前方には1つの障害物50Aしか存在しないと判断し、第1姿勢制御量設定処理を実行する(ステップS18)。この第1姿勢制御量設定処理では、第1障害物50Aに車両51が接触した際に該車両51が被る損傷が小さくなるように、前輪FR,FLの転舵角σ及び車輪FR,FL,RR,RL毎の制動量BPが設定される。例えば、前輪FR,FLの転舵角σ及び車輪FR,FL,RR,RL毎の制動量BPは、車両51の後側部分、即ちトランクに該当する部分が第1障害物50Aに接触するようにそれぞれ設定される。その後、制動ECU24は、その処理を後述するステップS21に移行する。
【0039】
一方、ステップS17の判定結果が肯定判定である場合、制動ECU24は、第1障害物50Aに車両51が接触した後に、該車両51が第1障害物50A以外の他の障害物である第2障害物50Bに接触しないように、車両51の損傷低減走行軌跡55を設定する(ステップS19)。すなわち、図8の作用図に示すように、損傷低減走行軌跡55(図8にて二点鎖線で示す。)は、第1障害物50Aに接触した車両51が第2障害物50Bに向けて進行(走行)しないように設定される。したがって、本実施形態では、制動ECU24が、設定手段としても機能する。また、ステップS19が、設定ステップに相当する。
【0040】
図4に示すフローチャートに戻り、制動ECU24は、車両51の実際の走行軌跡をステップS19にて設定した損傷低減走行軌跡55に近似、即ち接近させるために、前輪FR,FLの転舵角σ及び車輪FR,FL,RR,RL毎の制動量BPを設定する第2姿勢制御量設定処理を実行する(ステップS20)。この第2姿勢制御量設定処理では、第2障害物50Bの位置も考慮して前輪FR,FLの転舵角σと車輪FR,FL,RR,RL毎の制動量BPが設定される。
【0041】
具体的には、制動ECU24は、第1障害物50Aに接触した車両51が損傷低減走行軌跡55上を走行できるような車両51の姿勢を所定姿勢と設定する。そして、制動ECU24は、現時点の車両51の姿勢を所定姿勢に近づけるために必要な目標ヨーレートを推定する。続いて、制動ECU24は、車両51の実ヨーレートYが目標ヨーレートと等しくなるように前輪FR,FLの転舵角σ及び車輪FR,FL,RR,RL毎の制動量BPを設定する。その後、制動ECU24は、その処理を次のステップS21に移行する。
【0042】
ステップS21において、制動ECU24は、ステップS14,S16,S18,S20にて設定した前輪FR,FLの転舵角σに関する転舵角情報を操舵ECU20に送信する。また、制動ECU24は、ステップS14,S16,S18,S20にて設定した車輪FR,FL,RR,RL毎の制動量BPに応じて制動アクチュエータ21を作動させる。そして、転舵角情報を受信した操舵ECU20は、受信した転舵角情報に応じて転舵アクチュエータ18を作動させる。
【0043】
すなわち、ステップS14が実行された場合、制動ECU24は、ステップS14にて設定した制動量BPが車輪FR,FL,RR,RL毎に個別に付与されるように制動アクチュエータ21を作動させる減速制御を実行する。この際、運転手によってブレーキペダル12が踏込み操作されている場合、制動ECU24は、ブレーキペダル12の踏込み量に対応した制動量と、制動アクチュエータ21の作動に基づく制動量との合計がステップS14にて設定した制動量BPとなるように制動アクチュエータ21を制御する。その結果、車両51は、第1障害物50Aの手前で停車する。その後、制動ECU24は、減速制御を終了し、障害物対策処理ルーチンを一旦終了する。
【0044】
また、ステップS16が実行された場合、制動ECU24は、ステップS16にて設定した制動量BPが車輪FR,FL,RR,RL毎に個別に付与されるように制動アクチュエータ21を作動させる。また、操舵ECU20は、前輪FR,FLの転舵角σがステップS16にて設定した転舵角となるように、転舵アクチュエータ18を作動させる。すなわち、各ECU20,24は、各アクチュエータ18,21が連動して車両51を旋回させる回避制御を実行する。このように回避制御が実行されると、車両51は、図2に示すように、各障害物50A,50Bに接触することなく、該各障害物50A,50Bが位置する領域を通過することになる。したがって、本実施形態では、各ECU20,24により、回避制御手段が構成される。その後、制動ECU24は、回避制御を終了し、障害物対策処理ルーチンを一旦終了する。
【0045】
また、ステップS18が実行された場合、制動ECU24は、ステップS18にて設定した制動量BPが車輪FR,FL,RR,RL毎に個別に付与されるように制動アクチュエータ21を作動させる。また、操舵ECU20は、前輪FR,FLの転舵角σがステップS18にて設定した転舵角となるように、転舵アクチュエータ18を作動させる。この場合、各ECU20,24は、第1障害物50Aに接触する車両51における接触位置を調整して車両51の損傷の低減を図るために必要な制動量BPを車輪FR,FL,RR,RL毎に付与させると共に、前輪FR,FLの転舵角σを調整させる。その結果、車両51は、スピン挙動を示して略反転した状態で第1障害物50Aに接触する。すなわち、上記接触位置(P0)として車両51の後部におけるトランク部分が、第1障害物50Aに接触する。これにより、第1障害物50Aに接触した車両51の損傷が低減される(乗員の保護も含む。)。その後、制動ECU24は、上記転舵角σ及び制動量BPの調整制御を終了し、障害物対策処理ルーチンを一旦終了する。
【0046】
ステップS20が実行された場合、制動ECU24は、ステップS20にて設定した制動量BPが車輪FR,FL,RR,RL毎に個別に付与されるように制動アクチュエータ21を作動させる。また、操舵ECU20は、前輪FR,FLの転舵角σがステップS20にて設定した転舵角となるように、転舵アクチュエータ18を作動させる。すなわち、各ECU20,24は、図8に示すように、第1障害物50Aに接触した車両51がステップS19にて設定した損傷低減走行軌跡55上を走行できるように、第1障害物50Aに接触する前までに車両51の姿勢(本実施形態では向き)を調整する損傷低減姿勢制御を実行する。この損傷低減姿勢制御が実行されると、第1障害物50Aに接触するまでの間、車両51がスピン挙動を示し、損傷低減走行軌跡55上を自然に走行できる姿勢となるように車両51の姿勢が変化する。そのため、第1障害物50Aに接触する車両51における接触位置P0は、エンジンなどが搭載される車両前側及び車両51の後部(トランク部分)ではなく、車両51の後側面になる。そのため、車両51が第1障害物50Aに接触した時点では、車両51は、損傷低減走行軌跡55上を走行しやすい姿勢になっている。すなわち、車両51を立て直しやすい状態になっている。その後、車両51は、損傷低減走行軌跡55上を走行することにより、第1障害物50A以外の他の障害物である第2障害物50Bに接触することなく、各障害物50A,50Bが位置する領域を通過することになる。したがって、本実施形態では、各ECU20,24により、低減制御手段が構成される。また、ステップS20,S21により、低減制御ステップが構成される。その後、制動ECU24は、車両51が損傷低減走行軌跡55上を走行し始めると損傷低減姿勢制御を終了し、障害物対策処理ルーチンを一旦終了する。
【0047】
次に、上記ステップS10の情報取得処理(情報取得処理ルーチン)について図5のフローチャートに基づき説明する。
さて、情報取得処理ルーチンにおいて、制動ECU24は、操舵角センサSE1からの検出信号に基づきステアリングホイール16の操舵角を演算し、該操舵角に基づき前輪FR,FLの転舵角σを演算する(ステップS30)。ステアリングホイール16の操舵角が演算されると、前輪FR,FLの転舵角σが操舵ECU20によって該操舵角に応じた角度となるように転舵アクチュエータ18が作動する。すなわち、操舵角と転舵角σとの間には比例関係がある。そこで、制動ECU24は、演算した操舵角に予め設定されたゲインを乗算することにより転舵角σを設定する。
【0048】
そして、制動ECU24は、各車輪速度センサSE2〜SE5からの各検出信号に基づき、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度を演算し、該各車輪速度のうち少なくとも1つの車輪速度を用いて車両の車体速度VS(即ち、推定車体速度)を演算する(ステップS31)。続いて、制動ECU24は、ヨーレートセンサSE6からの検出信号に基づき車両の実ヨーレートYを演算する(ステップS32)。
【0049】
そして、制動ECU24は、障害物検出装置14から障害物情報を受信する(ステップS33)。この障害物情報には、車両51の前方に障害物50A,50Bが存在する場合、該障害物50A,50Bの形状に関する情報、及び相対距離Lrや相対速度Vrに関する情報などが含まれている。続いて、制動ECU24は、ナビゲーション装置15から車両位置情報及び地図情報を受信し(ステップS34)、受信した各情報に基づき車両51と障害物50A,50Bとの位置関係を特定する。その後、制動ECU24は、情報取得処理ルーチンを終了する。
【0050】
次に、ステップS11の接触傾向判断処理(接触傾向判断処理ルーチン)について図6のフローチャートに基づき説明する。
さて、接触傾向判断処理ルーチンにおいて、制動ECU24は、上記ステップS33にて受信した障害物情報に基づき車両51の前方に障害物50A,50Bが存在するか否かを判定する(ステップS40)。この判定結果が否定判定である場合、制動ECU24は、接触可能性フラグFLG1を「0(零)」にセットし(ステップS41)、接触傾向判断処理ルーチンを終了する。
【0051】
一方、ステップS40の判定結果が肯定判定である場合、制動ECU24は、障害物情報に含まれる相対距離Lr及び相対速度Vrの関係から図3に示すマップを用いて、車両51と障害物50A,50Bとの接触の可能性があるか否かを判定する(ステップS42)。この判定結果が否定判定である場合、制動ECU24は、その処理を前述したステップS41に移行する。一方、ステップS42の判定結果が肯定判定である場合、制動ECU24は、接触可能性フラグFLG1を「1」にセットし(ステップS43)、接触傾向判断処理ルーチンを終了する。
【0052】
したがって、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)車両51の前方に存在する各障害物50A,50Bのうち第1障害物50Aに接触する可能性がある場合には、各障害物50A,50Bが位置する領域を通過する際に車両51が被り得る損傷が小さくなるように、損傷低減走行軌跡55が設定される。そして、車両51の実際の走行軌跡が損傷低減走行軌跡55に接近するように、車両51の姿勢を調整する損傷低減姿勢制御が実行される。そのため、各障害物50A,50Bが位置する領域を通過した車両51の損傷度合は、損傷低減姿勢制御が実行されない場合に比して小さくなる。したがって、車両51の前方に複数の障害物50A,50Bが存在する場合において、各障害物50A,50Bのうち少なくとも1つの障害物との接触が回避不能であるときに、該障害物との接触によって車両51が被る損傷を小さくできる。
【0053】
(2)車両51の前方に存在する複数の障害物50A,50Bのうち少なくとも1つの障害物に接触する可能性がある場合において、減速制御の実行によって車両51と各障害物50A,50Bとの接触が回避可能であるときには、損傷低減姿勢制御ではなく、減速制御が実行される。そのため、車両51の進行方向が変更されないことから、車両51と各障害物50A,50Bとの接触を回避できると共に、車両51の近傍を走行する他の車両との接触も回避できる。
【0054】
(3)また、減速制御を実行しても車両51と第1障害物50Aとの接触が回避できない可能性がある場合において、回避制御の実行によって車両51と各障害物50A,50Bとの接触が回避可能であるときには、損傷低減姿勢制御ではなく、回避制御が実行される。その結果、各障害物50A,50Bとの接触に起因した損傷を被ることなく、車両51を各障害物50A,50Bが位置する領域を通過させることができる。
【0055】
(4)さらに、回避制御を実行しても車両51と第1障害物50Aとの接触が回避できない可能性がある場合には、損傷低減姿勢制御が実行される。すなわち、本実施形態では、減速制御や回避制御を実行しても車両51と各障害物50A,50Bとの接触を回避できない可能性がある場合にのみ、損傷低減姿勢制御が実行される。そのため、各障害物50A,50Bが位置する領域を車両51が通過する際に、減速制御、回避制御及び損傷低減姿勢制御の中から車両51が被る損傷を最も小さくなる制御を選択することができる。
【0056】
(5)損傷低減姿勢制御が実行されると、第1障害物50Aに接触後の車両51の進行方向が適切に設定されるため、第1障害物50Aに接触した車両51が第2障害物50Bに接触する可能性を低減させることができる。したがって、複数の障害物50A,50Bに接触することが回避される結果、障害物50A,50Bとの接触に起因した車両51の損傷の低減に貢献できる。
【0057】
(6)本実施形態では、損傷低減姿勢制御が実行されると、第1障害物50Aに接触する車両51における接触位置P0が調整されることにより、第1障害物50Aに接触後の車両51の進行方向が調整される。そのため、第1障害物50Aに接触した後の車両51の実際の走行軌跡を、容易に損傷低減走行軌跡55に接近させることができる。
【0058】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を図9に従って説明する。なお、第2の実施形態は、損傷低減姿勢制御を実行するために必要な転舵角σと車輪FR,FL,RR,RL毎の制動量BPを設定する方法が第1の実施形態と多少異なっている。したがって、以下の説明においては、第1の実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1の実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0059】
本実施形態では、減速制御及び回避制御を実行しても車両51と各障害物50A,50Bのうち少なくとも一方との接触を回避することができない(例えば、第1障害物50Aとの接触を開始しても第2障害物50Bとの接触を回避することができない)可能性があると判断した場合、制動ECU24は、図9に示すように、車両51が接触する第1障害物50Aにおける接触位置を変更させ、第2障害物50Bとは接触させないような損傷低減走行軌跡55Aを設定する。そして、制動ECU24は、車両51の実際の走行軌跡を、設定した損傷低減走行軌跡55Aに近似、即ち接近させるために、前輪FR,FLの転舵角σと車輪FR,FL,RR,RL毎の制動量BPを設定する第2姿勢制御量設定処理を実行する。続いて、制動ECU24は、設定した転舵角σに関する情報を操舵ECU20に送信する。そして、各ECU20,24は、各アクチュエータ18,21を連動させる損傷低減姿勢制御を実行する。
【0060】
すなわち、制動ECU24は、設定した制動量BPが車輪FR,FL,RR,RL毎に個別に付与されるように制動アクチュエータ21を作動させる。また、操舵ECU20は、前輪FR,FLの転舵角σが制動ECU24から受信した転舵角となるように、転舵アクチュエータ18を作動させる。すると、損傷低減姿勢制御の開始前には第1障害物50Aの第1ポイント(接触位置)P1に向けて走行していた車両51は、損傷低減姿勢制御の実行によって、第1障害物50Aにおいて第1ポイントP1よりも手前に位置する第2ポイント(接触位置)P2が車両51との接触点となるように、その姿勢を変化させつつ第2ポイントP2に向けて走行する。その結果、車両51は、第1障害物50Aの第2ポイントP2近傍に接触した後、該接触の反動を利用して損傷低減走行軌跡55A上を移動する。この損傷低減走行軌跡55A上には、第2障害物50Bが存在しないため、車両51と第2障害物50Bとの接触が回避される。その後、車両51は、第2障害物50Bを回避するように走行することができ、各障害物50A,50Bが位置する領域を通過する。
【0061】
したがって、本実施形態では、上記第1の実施形態の効果(1)〜(6)に加えて以下に示す効果を得ることができる。
(7)本実施形態では、損傷低減姿勢制御が実行されると、車両51が接触する第1障害物50Aにおける接触位置が第1ポイントP1から第2ポイントP2に変更されるように車両51の姿勢が調整される。その結果、第1障害物50Aの第2ポイントP2近傍に接触した車両51は、第2障害物50Bに接触しないように設定された損傷低減走行軌跡55Aを移動又は走行することになる。したがって、第1障害物50Aのうち車両51が接触する位置を調整することにより、障害物50A,50Bとの接触に起因した車両51の損傷の低減に貢献できる。
【0062】
なお、各実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・各実施形態において、車両51は、図10に示すように、該車両51に搭乗している乗員の位置を特定するための重量センサSE7を備えた構成であってもよい。この場合、制動ECU24は、重量センサSE7からの検出信号に基づき、車体内部情報として、乗員の人数、乗員の搭乗位置及び乗員を含めた車両の総重量などを取得できる。その結果、ステップS20では、前輪FR,FLの転舵角σと車輪FR,FL,RR,RL毎の制動量BPは、取得した車体内部情報も考慮した値に設定される。この点で、制動ECU24が、取得手段としても機能する。そのため、損傷低減姿勢制御の実行によって、車両51の姿勢を、より適切な姿勢にすることができる。したがって、第1障害物50Aに接触した車両51が第2障害物50Bにも接触することを好適に抑制できる。
【0063】
なお、取得手段は、乗員の人数や位置を確認できるものであれば、カメラなどの撮像手段であってもよい。
また、取得手段を搭載したことによって乗員の搭乗位置を特定できる場合には、車両51のうち第1障害物50Aに接触させる位置を、乗員のいない位置に設定してもよい。
【0064】
さらに、第1障害物50Aに接触させる車両の接触位置P0を、エンジンや燃料タンクから離間した位置に設定してもよい。
・各実施形態において、ステップS13,S14を省略してもよい。この場合、ステップS12の判定結果が肯定判定である場合、ステップS15の判定処理が実行される制御構成であってもよい。
【0065】
・各実施形態において、パーキングブレーキとして、電動パーキングブレーキを搭載する車両51に具体化してもよい。このような車両51において回避制御を実行する場合には、電動パーキングブレーキを用いて後輪RR,RLに制動力を付与させてもよい。また、損傷低減姿勢制御を実行する場合も、図示しない電動パーキングブレーキを用いて後輪RR,RLに制動力を付与させてもよい。
【0066】
・各実施形態において、回避制御及び損傷低減姿勢制御を実行する場合において、車輪FR,FL,RR,RLに制動力を付与しなくても車両51の姿勢を適切に調整可能であるときには、前輪FR,FLの転舵角σのみを調整する制御構成であってもよい。
【0067】
・第2の実施形態において、損傷低減姿勢制御は、第1障害物50Aに接触する車両51の位置も調整されるように実行されてもよい。
・各実施形態において、損傷低減姿勢制御や回避制御を実行する場合、各車輪FR,FL,RR,RLに付与される駆動力の大きさを調整してもよい。
【0068】
・各実施形態において、障害物検出手段は、GPS衛星60からの受信情報やVICS(道路交通情報通信システム)からの各種道路情報に基づき障害物50A,50Bの存在を確認可能なナビゲーション装置15であってもよい。
【0069】
・各実施形態において、車両51の前方を走行する他の車両を、障害物と特定してもよい。この場合、他の車両の走行状態を推定しつつ損傷低減姿勢制御を実行することが望ましい。
【0070】
・各実施形態において、障害物対策処理ルーチンを、制動ECU24以外の操舵ECU20にて実行させてもよい。また、各ECU20,24を統括的に制御するECUを別途設け、該ECUに障害物対策処理ルーチンを実行させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第1の実施形態における車両の概略構成を示すブロック図。
【図2】回避制御によって車両が各障害物を回避しつつ旋回する様子を示す作用図。
【図3】相対距離と相対速度との関係を示すマップ。
【図4】障害物対策処理ルーチンを示すフローチャート。
【図5】情報取得処理ルーチンを示すフローチャート。
【図6】接触傾向判断処理ルーチンを示すフローチャート。
【図7】車両が第2障害物に接触する場合を示す作用図。
【図8】第1実施形態の損傷低減姿勢制御が実行された状態を示す作用図。
【図9】第2実施形態の損傷低減姿勢制御が実行された状態を示す作用図。
【図10】別の実施形態の電気的構成の一部を示すブロック図。
【図11】従来において回避制御が実行されても車両が第2障害物に接触する場合を示す作用図。
【符号の説明】
【0072】
14…障害物検出手段としての障害物検出装置、15…障害物検出手段としてのナビゲーション装置、20…運動制御装置、低減制御手段、回避制御手段としての操舵ECU、24…運動制御装置、緊急判定手段、設定手段、低減制御手段、回避制御手段、回避判定手段、取得手段としての制動ECU、50A,50B…障害物、51…車両、55,55A…損傷低減走行軌跡、P0…接触位置、P1…接触位置としての第1ポイント、P2…接触位置としての第2ポイント。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行方向に存在する障害物(50A,50B)を検出するための障害物検出手段(14、15)を有する車両(51)の運動を制御する車両の運動制御装置(20,24)であって、
前記障害物検出手段(14、15)によって車両(51)の進行方向に複数の障害物(50A,50B)が存在することが検出された場合に、車両(51)と前記各障害物(50A,50B)のうち少なくとも1つの障害物(50A)との接触が発生し得る緊急状態であるか否かを判定する緊急判定手段(24、S12)と、
該緊急判定手段(24、S12)によって前記緊急状態であると判定された場合に、前記各障害物(50A,50B)が位置する領域を通過する際に車両(51)が被り得る損傷を小さくするように、車両(51)の損傷低減走行軌跡(55、55A)を設定する設定手段(24、S19)と、
該設定手段(24、S19)によって設定された損傷低減走行軌跡(55、55A)に車両(51)の実際の走行軌跡が接近するように該車両(51)の姿勢が調整される損傷低減姿勢制御を実行する低減制御手段(20,24、S20,S21)と
を備えた車両の運動制御装置。
【請求項2】
車両(51)と前記各障害物(50A,50B)との接触を回避するための回避制御を実行する回避制御手段(20,24、S16,S21)と、
前記緊急判定手段(24、S12)によって前記緊急状態であると判定された場合に、前記回避制御手段(20,24、S16,S21)による前記回避制御の実行によって車両(51)と前記各障害物(50A,50B)との接触が回避可能であるか否かを判定する回避判定手段(24、S15)とをさらに備え、
前記回避制御手段(20,24、S16,S21)は、前記回避判定手段(24、S15)によって前記回避制御の実行に基づき車両(51)と前記各障害物(50A,50B)との接触が回避可能であると判定された場合に、前記回避制御を実行する請求項1に記載の車両の運動制御装置。
【請求項3】
前記設定手段(24、S19)は、前記回避判定手段によって前記回避制御が実行されても車両(51)と前記各障害物(50A,50B)のうち少なくとも1つの障害物(50A)との接触が回避できない可能性があると判定された場合に、前記損傷低減走行軌跡(55、55A)を設定し、
前記低減制御手段(20,24、S20,S21)は、前記設定手段(24、S19)によって設定された前記損傷低減走行軌跡(55、55A)に車両(51)の実際の走行軌跡が接近するように前記損傷低減姿勢制御を実行する請求項2に記載の車両の運動制御装置。
【請求項4】
前記設定手段(24、S19)は、車両(51)と該車両(51)が接触する前記少なくとも1つの障害物(50A)以外の他の障害物(50B)との接触が回避されるように損傷低減走行軌跡(55、55A)を設定する請求項1に記載の車両の運動制御装置。
【請求項5】
前記低減制御手段(20,24、S20,S21)は、前記少なくとも1つの障害物(50A)に接触する車両(51)における接触位置(P0)が調整されるように前記損傷低減姿勢制御を実行する請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載の車両の運動制御装置。
【請求項6】
前記低減制御手段(20,24、S20,S21)は、前記車両(51)の進行方向を調整することにより、車両(51)が接触する前記少なくとも1つの障害物(50A)における接触位置(P1,P2)が変更されるように前記損傷低減姿勢制御を実行する請求項1〜請求項5のうち何れか一項に記載の車両の運動制御装置。
【請求項7】
車両(51)の車体内部の情報である車体内部情報を取得する取得手段(24)をさらに備え、
前記低減制御手段(20,24、S20,S21)は、前記取得手段(24)によって取得された車体内部情報に応じて前記損傷低減姿勢制御を実行する請求項1〜請求項6のうち何れか一項に記載の車両の運動制御装置。
【請求項8】
車両(51)の進行方向に複数の障害物(50A,50B)が存在する場合に、車両の運動を制御する車両の運動制御方法であって、
車両(51)と前記各障害物(50A,50B)のうち少なくとも1つの障害物(50A)との接触が発生し得る緊急状態であるか否かを判定させる緊急判定ステップ(S12)と、
該緊急判定ステップ(S12)にて前記緊急状態であると判定した場合に、前記各障害物(50A,50B)が位置する領域を通過する際に車両(51)が被り得る損傷を小さくするように、車両(51)の損傷低減走行軌跡(55、55A)を設定させる設定ステップ(S19)と、
該設定ステップ(S19)にて設定した損傷低減走行軌跡(55、55A)に車両(51)の実際の走行軌跡が接近するように該車両(51)の姿勢が調整される損傷低減姿勢制御を実行させる低減制御ステップ(S20,S21)と
を有する車両の運動制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−274700(P2009−274700A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130742(P2008−130742)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】