説明

車両の駆動制御装置

【課題】電動機等の過熱を抑制すると共に、登坂走行性能を向上させることが可能な車両の駆動制御装置を提供することである。
【解決手段】駆動制御装置10は、第1負荷率制限マップ17に基いて負荷率を制限する制限手段21と、ナビゲーションシステム16に基いて、現在地点から目的地点までの残存距離と道路勾配とを取得する取得手段22と、電動モータ11の温度が所定温度に達した場合に、残存距離と道路勾配、及び閾値マップ19に基いて、目的地点に到達する前に電動モータ11の温度が短期保証温度に達するか否かを推定する推定手段23と、短期保証温度に達しないと推定されたときには、制限手段21による負荷率制限を解除して、第2負荷率制限マップ18に基いて負荷率を制限する制限解除手段24と、を有する。さらに、駆動制御装置10は、温度上昇率算出手段25と、閾値変更手段26と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動制御装置に係り、特に車両駆動用の電動モータを備えたハイブリッド車両や電気自動車等の駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両等には、車両を駆動する電動モータが搭載されている。電動モータは、銅損や鉄損等により駆動時に発熱し、モータの出力が大きくなると、その発熱量も大きくなり、例えば、車両が急勾配の坂道を走行している場合など、モータの温度が大幅に上昇することがある。モータの過熱状態が継続されると、モータに不具合が生じるおそれがあるため、部品保護の観点からモータトルクの負荷率を制限することが考えられる。ここで、負荷率とは、モータトルクの制限率であり、最大トルクに負荷率を乗じたトルクが出力トルクとなる。電動車両には、例えば、モータ温度に応じたモータトルクの最大負荷率を規定する負荷率制限マップを含み、負荷率制限マップに基いてモータトルクを制限する駆動制御装置が搭載されている。なお、負荷率制限マップには、通常、負荷率制限が開始される所定温度と、所定温度以上における負荷率制限値とが規定される。
【0003】
電動モータの温度が上昇して上記負荷率制限マップに規定された所定温度に達した場合、部品保護のために電動モータの負荷率が制限されるが、こうした制限を常時行なうことが好ましくない場合がある。電動モータの負荷率制限が開始される上記所定温度は、ある程度の累積時間を考慮して決定されるものであるため、電動モータの温度がその所定温度を超えた場合であっても直ちに部品の耐久性に悪影響を与えるというものではない。特に、登坂走行時において、あと少しで登坂走行を終了する場合などに、負荷率を一律に制限することは好ましくはなく、従って、車両の走行状態によってはモータトルクを制限するよりも車両の走行性能を優先した方が好ましい場合がある。一方、モータの温度上昇に対してモータトルクの制限を全く実行しなければ、過熱状態が続いてモータに不具合が生じる可能性がある。このような走行性能の向上と電動モータの保護との両立は、特に、登坂走行時において強く要求される。
【0004】
このような状況に鑑みて、幾つか制御装置等が提案されている。例えば、特許文献1には、ナビゲーション情報に基いて電動モータの温度を推定し、事前に負荷率制限を実行する装置、具体的には、道路の標高情報を含む道路情報に基いて、車両が目的地に至るまでに走行する走行経路を演算し、この走行経路に含まれる標高情報に基いて、走行経路を走行した際の電動モータの温度を所定の区間毎に予測すると共に、電動モータの温度が所定温度を超過すると予測された区間より前の区間を走行する際に、電動モータの出力制限又は電動モータの冷却を実行する装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、車両が所定の走行状態(例えば、急勾配路面の走行状態、スリップ状態など)に至ったとき、駆動力制限手段による電動モータの駆動力制限を解除又は緩和する制限解除緩和制御を実行する電動車両が開示されている。また、制限緩和条件について、例えば、モータのトルクの制限を緩和する処理の実行を開始するたびに値を1ずつカウントする累積実行回数が所定数未満である条件としたり、前回モータのトルクの制限を緩和してから今回モータのトルクの制限を緩和するまでの時間間隔が所定時間以上である条件としたり、前回モータのトルクの制限を緩和してから今回モータのトルクの制限を緩和するまでの車両の走行距離が所定距離以上である条件としたりすることができる、と述べられている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−324613号公報
【特許文献2】特開2005−312187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の装置は、モータ温度を全経路で推定する必要があるため、計算負荷が大きく、モータ温度が上昇するよりも前に電動モータの出力制限や冷却を実行するので、経路が変更になった場合や車両速度など演算条件が変化した場合には、不要なトルク制限となる可能性が高く、登坂走行性能の向上と電動モータの保護との両立の観点から改良の余地がある。
【0008】
また、特許文献2の電動車両によっても、場合によっては、登坂走行性能を十分に満足することができないと考えられる。上記のように、緩和の実行回数や実行間隔等に基いて緩和条件を判定する方法では、例えば、登坂走行時において、あと少しで登坂走行を終了する場合など、登坂走行時において望ましい駆動制御を実行することができない可能性がある。
【0009】
本発明の目的は、電動機を含む電気駆動系の過熱を抑制すると共に、登坂走行性能を向上させることが可能な車両の駆動制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る車両の駆動制御装置は、車両を駆動する電動機と、電動機を含む電気駆動系の温度を検出する温度検出手段と、車両の位置情報を取得するナビゲーション装置と、を備えた車両に搭載される駆動制御装置であって、電気駆動系の温度が所定温度以上のときに電動機の負荷率を制限する制限手段と、ナビゲーション装置の情報に基いて、少なくとも現在地点から目的地点までの残存距離と道路勾配とを取得する取得手段と、電気駆動系の温度が所定温度に達した場合に、取得された残存距離と道路勾配、及び予め定められた所定の解除基準に基いて、目的地点に到達する前に電気駆動系の温度が所定温度よりも高温の短期保証温度に達するか否かを推定する推定手段と、電気駆動系の温度が短期保証温度に達しないと推定されたときには、制限手段による負荷率制限を解除する制限解除手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、登坂走行時において、電動機を含む電気駆動系の温度が負荷率制限の開始される所定温度に到達した場合でも一律に負荷率制限を実行することなく、ナビゲーション情報から取得した残りの登坂走行距離や道路勾配に基いて、目的地点に到達する前に電動機等の温度が所定温度よりも高温の短期保証温度に達するか否かを推定することにより、電動機等の保護と登坂走行性能の向上とを両立することができる。即ち、推定手段により電動機等の温度が短期保証温度に達すると推定されたときには、通常通りの負荷率制限を実行して電動機等の過熱を抑制することが可能である一方、電動機等の温度が短期保証温度に達しないと推定され、電動機等の耐久性の観点から問題が生じない短時間のみの温度上昇である場合には、負荷率限を解除して登坂走行性能を優先させることができる。
【0012】
また、推定手段は、車両の走行が想定される各道路勾配について、電気駆動系の所定温度から短期保証温度に至る温度上昇を引き起こす残存距離の各閾値を規定した閾値マップを含み、閾値マップから得られる取得手段により取得された道路勾配における残存距離の閾値を所定の解除基準として推定を実行することが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、道路勾配及び残存距離を考慮した精度の高い回転電機温度の推定を実行でき、電動機等の保護と登坂走行性能の向上とをさらに高度なレベルで両立することが可能となる。
【0014】
また、電気駆動系の温度が所定温度に達したときに、電気駆動系の温度の上昇率を算出する温度上昇率算出手段と、算出された温度上昇率に基いて、閾値マップの閾値を変動させる変動手段と、を有することが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、推定手段の推定精度がさらに向上する。即ち、電動機等の温度上昇率は、現在地点に至るまでの道路状況や運転状況によって異なり、残存走行における温度上昇にも影響を与える。従って、温度上昇率に基いて閾値を変動させれば、推定の判断基準がより的確なものとなる。
【0016】
また、制限手段は、電機駆動系の温度に関して、所定温度以上で短期保証温度未満における負荷率制限値を規定した第1制限マップと、短期保証温度以上における負荷率制限値を規定する第2制限マップと、を含み、制限解除手段は、電気駆動系の温度が短期保証温度に達しないと推定されたときには、制限手段による負荷率制限を解除すると共に、第2制限マップに基いて負荷率制限を実行することが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、制限手段による第1制限マップに基いた負荷率制限が解除された場合であっても、車速の上昇等により運転状態の変化が起こり、電動機等の温度が短期保証温度に達する場合には、第2制限マップに基いて負荷率制限を実行することが可能になる。従って、想定する運転状態が大幅に変化する等不測の事態が生じた場合にも、より有効に電動機等の保護を実行することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る車両の駆動制御装置によれば、電動機等の過熱を抑制すると共に、登坂走行性能を向上させることが可能である。即ち、電動機等の温度が上昇して負荷率制限が開始される温度に達したときであっても、車両があと少しで登坂走行を終了する状況など、電動機等の耐久性の観点から問題が生じない短時間のみの温度上昇であると推定される場合には、負荷率制限を解除して登坂走行性能を優先させることができる。一方、短時間のみの温度上昇であると推定されない場合には、通常通りの負荷率制限を実行して電動機等の過熱を確実に抑制することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、以下詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る駆動制御装置の構成を示すブロック図である。図2は、第1及び第2負荷率制限マップ、図3は、閾値マップを示す図である。
【0020】
図1に示すように、駆動力制御装置10が搭載される車両は、図示しない駆動軸に動力を出力して車両を駆動させる電動モータ11と、電動モータ11に電力を供給するバッテリ12と、バッテリ12からの直流電力を三相交流電力に変換して電動モータ11に供給するインバータ13と、を備える。駆動制御装置10が搭載される車両としては、電動モータ11のみで駆動する電気自動車や電動モータ11及び図示しないエンジンの少なくとも一方を駆動源として駆動するハイブリッド車両などが挙げられる。
【0021】
駆動力制御装置10は、入力されるトルク指令等に応じて電動モータ11のトルクを制御する機能を有する。電動モータ11のトルク制御は、インバータ13のスイッチング素子をON/OFFして電動モータ11への供給電力を調整することにより行われている。なお、駆動制御装置10は、電動モータ11が通常の状態、即ち過熱状態でないときには、運転者のアクセル操作等に従って要求されたトルクを出力するが、過熱状態では、詳しくは後述するように、負荷率制限によって出力トルクを制限する。一般的に、電動モータ11が通常の状態であれば、負荷率は100%に設定され、モータ温度が過熱状態となれば、負荷率が制限される。なお、負荷率とは、モータトルクの制限率であり、電動モータ11の定格トルクに負荷率を乗じたトルクが出力トルクとなる。
【0022】
また、駆動制御装置10が適用される車両は、電動モータ11の温度を検出するモータ温度センサ14、車両の速度を検出する車速センサ15、また、車両の位置情報を取得するナビゲーションシステム16を備える。その他にも、図示しない電流センサや回転速度センサ、温度センサなど、各種センサを搭載することができる。これらのセンサとしては、公知のセンサを使用することができる。
【0023】
駆動制御装置10には、上記各種センサが接続されており、それらのセンサからの情報が入力される。また、駆動制御装置10は、ナビゲーションシステム16とも接続され、後述する取得手段22によって、現在地点から目的地点までの残存距離、道路勾配等の車両情報が取得される。具体的には、これらの情報が図示しない入力ポートを介して入力され、駆動制御装置10からは、インバータ13に対する制御指令信号などが図示しない出力ポートを介して出力されている。
【0024】
図1に示すように、駆動制御装置10は、所定温度以上で短期保証温度未満における制限負荷率を規定した第1負荷率制限マップ17、短期保証温度以上における制限負荷率を規定する第2負荷率制限マップ18、及び閾値マップ19を記憶する記憶手段20を備える。さらに、記憶手段20は、制御パラメータ、制御プログラム、各センサからの情報などを一時的又は恒久的に記憶する。記憶手段20は、例えば、メモリ等であり、後述する各手段と接続され、駆動制御装置10は、記憶されたマップ等の情報に基いて負荷率制御を実行する。
【0025】
また、駆動制御装置10は、電動モータ11の温度が所定温度以上のときに電動モータ11の負荷率を制限する制限手段21を備える。制限手段21は、図2に示す第1負荷率制限マップ17に基いて負荷率制限を実行する。第1負荷率制限マップ17は、各モータ温度における最大負荷率を規定したマップであり、モータ温度が所定温度(Tlim1)に達するまでは最大負荷率が一定の値(以下、100%として説明する)であり、所定温度(Tlim1)以上において、最大負荷率がモータ温度の上昇と共に減少している。ここで、所定温度(Tlim1)とは、負荷率制限が開始される温度であって、電動モータ11の保護の観点から決定され、ある程度の時間その温度で維持された場合に電動モータ11の耐久性に影響を及ぼす温度(以下、長期保証温度とする)である。従って、電動モータ11の温度が短時間だけ長期保証温度(Tlim1)を超過したとしても、電動モータ11の耐久性に影響を与えることはない。
【0026】
一方、第2負荷率制限マップ18は、短期保証温度(Tlim2)を負荷率制限開始温度として、短期保証温度以上における負荷率制限値を規定するマップである。ここで、短期保証温度(Tlim2)とは、短時間であれば電動モータ11の使用を継続できる温度を意味し、長期保証温度(Tlim1)や後述する閾値と同様に、電動モータ11のサイズや放熱特性によって異なるため、電動モータ11毎に種々のシミュレーションや実験等を実施して求められる。この第2負荷率制限マップは、後述する制限解除手段24によって使用される。従って、制限手段21による第1負荷率制限マップ17に基いた負荷率制限が解除された場合であっても、車速の上昇等により運転状態の変化が起こり、電動モータ11の温度が短期保証温度(Tlim2)に達する場合には、第2制限マップ18に基いて負荷率制限を実行することが可能になる。
【0027】
さらに、駆動制御装置10は、取得手段22と、推定手段23と、制限解除手段24と、を備える。これらの手段によって、登坂走行時において、電動モータ11の温度が負荷率制限の開始される長期保証温度(Tlim1)に到達した場合でも一律に負荷率制限を実行することなく、ナビゲーションシステム16から取得した残りの登坂走行距離や道路勾配に基いて電動モータ11の温度上昇を推定し、車両の走行状態によっては登坂走行性能を優先させることができる。なお、電動モータ11の温度が長期保証温度(Tlim1)に達したときには、負荷率制限の制御手順として、まず推定手段23(或いは取得手段22)による処理がなされた後に、制限手段21による負荷率制限が実行され、推定手段23による推定結果によっては、その負荷率制限が解除される。
【0028】
取得手段22は、ナビゲーションシステム16の情報に基いて、現在地点から目的地点までの残存距離と道路勾配とを取得する機能を有する。残存距離及び道路勾配は、後述する推定手段23によるモータ温度の推定の判断材料であり、ナビゲーションシステム16から取得される距離は、通常、走行ルートに沿った距離である。道路勾配は、現在地点から目的地点までの平均勾配であることが好ましく、ナビゲーションシステム16から両地点の標高を取得して標高と残存距離から平均勾配を求めることができる。また、残存距離、道路勾配の他にも、車速センサ15から車両速度を取得して、車両速度及び残存距離に基いて現在地点から目的地点までの所要時間を取得することもできる。なお、取得手段22がこれらの情報を取得するタイミングは、電動モータ11の温度が長期保証温度(Tlim1)に達した時点とすることもできるが、常時これらの情報を取得する設定とすることもできる。
【0029】
上記目的地点とは、例えば、ナビゲーションシステム16のルート設定がなされている場合には、そのルートに沿った最高到達地点を意味する。ナビゲーションシステム16のルート設定がなされていない場合は、例えば、走行中の道路に沿った最高到達地点とすることができ、後述する推定後に想定した走行ルートが変更された場合には、再度推定を実行するために目的地点が特定される。目的地点とは、最高到達地点であるから、上り坂、下り坂が連続する道路を走行している場合、取得手段22は、原則、各上り坂において、その最高到達地点を目的地点として標高情報を取得して、後述する推定が実行される。但し、上り坂において多少のアップダウンが存在する場合には、その都度推定を実行することは好ましくはなく、そのアップダウンが推定を実行する上り坂か否かを判断するための道路勾配の閾値を設定することが好ましい。そして、その閾値を超えた場合、推定を実行するべき上り坂であると認定し、その最高到達地点を目的地点として平均勾配等の取得及び後述の推定を実行する。なお、道路勾配は、加速度センサからも求めることも可能であり、また、推定の判断要素として、平均勾配の代わりに、現在地点から目的地点までの最大勾配を用いることもできる。
【0030】
推定手段23は、電動モータ11の温度が長期保証温度(Tlim1)に達したときに、取得された残存距離と道路勾配及び予め定められた所定の解除基準に基いて、目的地点に到達する前に電動モータ11の温度が短期保証温度(Tlim2)に達するか否かを推定する機能を有する。具体的には、推定手段23は、所定の解除基準として、図3に示す閾値マップ19を用いる。図3に示す閾値マップ19は、車両走行が想定される各道路勾配について、電動モータ11の温度が長期保証温度(Tlim1)から短期保証温度(Tlim2)に至る上昇を引き起こす残存距離の各閾値(閾値線)を規定したマップである。
【0031】
推定手段23は、取得手段22により取得された残存距離と、取得された道路勾配における閾値マップ19の閾値である残存距離とを比較して、取得された残存距離の方が小さければ、即ち閾値線を超えない原点側のB領域に取得されたデータに基く残存距離の点が存在する場合には、電動モータ11の温度は短期保証温度(Tlim2)に達しないと推定する。一方、取得された残存距離の方が大きければ、即ち閾値線を超えたA領域に取得されたデータに基く残存距離の点が存在する場合には、電動モータ11の温度は短期保証温度(Tlim2)に達すると推定する。このような推定がなされた場合には、通常通り、制限手段21による第1負荷率制限マップ17に基いた負荷率制限が実行される。なお、閾値線は、電動モータ11のサイズや放熱特性によって異なるため、電動モータ11毎に種々のシミュレーションや実験等を実施して求められる。なお、閾値線は、モータトルクの出力条件を定格トルクとして求めることができるが、各モータトルクに応じた複数の閾値線(例えば、定格トルクの70%、80%、90%など)を規定して、推定手段23による推定が開始されるときのモータトルクによって適用する閾値線を変更することもできる。また、推定手段23を利用者が任意のタイミングで起動でき、OFFの設定を設けることもできる。
【0032】
制限解除手段24は、電動モータ11の温度が短期保証温度(Tlim2)に達しないと推定されたときには、制限手段21による負荷率制限を解除する機能を有する。従って、推定手段23が設定される場合には、電動モータ11の温度が長期保証温度(Tlim1)に達したときに制限手段21による負荷率制限に先立って、推定手段23による推定が実行される。制限解除手段24は、制限手段21による負荷率制限を解除して、負荷率制限を実行しない設定とすることもできるが、電動モータ11の保護の観点から、第1負荷率制限マップ17に代えて第2制限マップ18に基いて負荷率制限を実行することが好ましい。一方、上記のように、電動モータ11の温度が短期保証温度(Tlim2)を超過するとの推定がなされた場合には、通常通り、制限手段21による第1負荷率制限マップ17に基いた負荷率制限が実行される。
【0033】
駆動制御装置10は、温度上昇率算出手段25と、閾値変更手段26と、を備えることが好ましい。温度上昇率算出手段25は、電動モータ11の温度が長期保証温度(Tlim1)に達したときに、電動モータ11の温度上昇率を算出する機能を有する。また、閾値変更手段26は、算出された温度上昇率に基いて、閾値マップ19の閾値を変更する機能を有する。電動モータ11の温度上昇率は、現在地点に至るまでの道路状況や運転状況によって異なり、残存走行における温度上昇にも影響を与えるので、これらの手段を備えることにより、推定手段23による推定精度がさらに向上する。
【0034】
なお、温度上昇率を算出するためには、現時点よりも前の時点からモータ温度を取得しておくことが必要であり、取得手段22によりモータ温度を経時的に取得して、後述する図4(b)に示すような温度データを記憶手段20に保存しておく。温度上昇率算出手段25は、電動モータ11の温度が長期保証温度(Tlim1)に達したときに、記憶手段20から温度データを読み出し、温度上昇率を算出する。温度上昇率は、経時的な温度上昇の傾きの平均値とすることができ、例えば、現時点から所定時間前の温度データに基いて算出される。ここで、所定時間としては、推定手段23による推定精度向上を実現するために適切な時間とされ、具体的には、現時点より数分(1〜10分)程度前である。
【0035】
上記のように、閾値変更手段26は、温度上昇率に基いて閾値マップ19の閾値を変更する。例えば、温度上昇率が高い場合には、走行を継続して長期保証温度(Tlim1)から短期保証温度(Tlim2)に至る温度上昇率も高いことが予想されるので、図3に示すように、閾値線を原点側であるB領域側にシフトさせることができる。一方、温度上昇率が低い場合には、温度が上昇し難いので、閾値線を逆に原点から遠ざかるA領域側にシフトさせることができる。
【0036】
駆動制御装置10は、CPUと、上記記憶手段20と、入出力ポートなどを備える装置であって、マイクロプロセッサ等によって構成されている。各手段21〜26の機能は、ソフトウェアを実行することで実現でき、具体的には、記憶手段20に記憶された制御プログラムを実行することにより実現できる。従って、上述の各手段21〜26は、CPUが記憶手段20にアクセスすることにより実現することができる。なお、駆動制御装置10を構成するマイクロプロセッサ等は、電動モータ11の制御を行うパワーコントロールユニットや車両の制御を統括する車両制御ユニットの一部に組み込むことができる。
【0037】
上記構成の駆動制御装置10の作用について、図4、図5を加えて以下詳細に説明する。図4は、最高到達地点である目的地点に近い位置を登坂走行している状態(a)において、時間軸に対するモータ温度(b)、モータトルク(c)を示す図であり、図5は、図4における駆動制御装置10の制御手順を示すフローチャートである。
【0038】
まず初めに、現在地点(P)を走行中の車両(図4(a))について、電動モータ11の温度(T)が長期保証温度(Tlim1)以上であるか否かが判定される(S10)。図4(b)に示すように、電動モータ11の温度(T)が長期保証温度(Tlim1)に達したときには、図4(c)に点線で示すように、制限手段21による負荷率制限が開始されモータトルクが制限されるが、登坂走行性能を向上させるべく、その制限に先立って以下の推定手段23による推定処理等が実行される。この手順は、例えば、推定手段23の機能によって実行することができ、推定手段23が判定した情報を他の手段に送信して共有することができる。
【0039】
電動モータ11の温度(T)が長期保証温度(Tlim1)以上であると判定された場合には、ナビゲーションシステム16から現在地点(P)及び目的地点(f)の標高(Hp、Hf)、及び現在地点(P)から目的地点(f)までの残存距離(D)を取得して(S11)、取得した標高情報から平均勾配(θ)を算出する(S12)。
【0040】
さらに、電動モータ11の温度上昇率を算出して(S13)、算出した温度上昇率に基いて閾値マップ19の閾値を変更する(S14)。温度上昇率は、記憶手段20に保存された図4(b)に示す温度データに基いて、モータ温度の上昇が開始した時点から現時点までの傾きの平均値として算出される。上記のように、閾値マップ19の閾値の変更は、閾値変更手段26によって実行され、温度上昇率が高い場合には、閾値を減少させ、温度上昇率が低い場合には、閾値を上昇させる。S11〜S14の手順は、取得手段22、温度上昇率算出手段25、閾値変更手段26の機能によって実行され、取得された情報等は、推定手段23によるモータ温度推定の判断要素となる。
【0041】
S11、S12で取得された残存距離(D)、平均勾配(θ)、及びS14で変更された閾値マップ19に基いて、車両走行を継続した場合に、電動モータ11の温度(T)が短期保証温度(Tlim2)に達するか否かが推定手段23により推定される(S15)。具体的には、上記のように、閾値マップ19に取得された残存距離(D)及び平均勾配(θ)を入力した点が、閾値線を超えるか否かを判定し、閾値線を超える(A領域)と判定した場合には、電動モータ11の温度(T)が短期保証温度(Tlim2)に達すると推定し、閾値線を超えない(B領域)と判定した場合には、電動モータ11の温度(T)が短期保証温度(Tlim2)に達しないと推定する。
【0042】
S15において、電動モータ11の温度(T)が短期保証温度(Tlim2)に達しないと推定された場合には、制限手段21による負荷率制限を実行せず、第2負荷率制限マップ18に基く負荷率制限を実行する(S16)。一方、短期保証温度(Tlim2)に達すると推定された場合には、第1負荷率制限マップ17に基く負荷率制限を実行する(S17)。S16の手順は、制限解除手段24の機能により実行され、S17の手順は、制限手段21の機能により実行される。
【0043】
以上のように、登坂走行時において、図4(b)に示すように、電動モータ11の温度(T)が負荷率制限の開始される長期保証温度(Tlim1)に到達した場合でも、同図に太線で示すように、短期保証温度(Tlim2)に達しないレベルの短時間の温度上昇である場合には、図4(c)に点線で示すように、一律に負荷率制限を実行してモータトルクを制限することなく、同図に実線で示すように、登坂走行性能を優先させることにより、電動モータ11の保護と登坂走行性能の向上とを両立することができる。
【0044】
モータ温度が短期保証温度(Tlim2)に達しないと推定されて、第1負荷率制限マップ17による負荷率制限を解除した場合であっても、走行条件が大幅に変化する等して、モータ温度が短期保証温度(Tlim2)に達したときには、第2負荷率制限マップ18に基く負荷率制限が実行される。また、走行条件が大幅に変化した場合には、再度の推定を実行することもでき、推定手段23には、実行された推定を無効化して再度推定を実行するための閾値を設定しておくことができ、例えば、車両速度の上昇率やモータトルクの上昇率などのある値をその閾値として規定することもできる。例えば、各モータトルクに応じた複数の閾値線を含む閾値マップ19を推定の判断基準として使用する場合には、モータトルクが上記閾値を超えて変動したときに、別の閾値線により再度推定を実行することもできる。
【0045】
なお、閾値マップ19の残存距離に代えて、所要時間(現在地点から目的地点までの)を適用することもできる。所要時間を閾値とする閾値マップ19を使用する場合には、取得手段22によって、ナビゲーションシステム16から残存距離と車速センサ15から車両速度とを取得して、所要時間が算出される。
【0046】
なお、駆動制御装置10は、電動モータ11の温度に基いて電動モータ11の負荷率を制限するものとして説明したが、電動モータ11の温度に代えて、或いは電動モータ11の温度に加えて、インバータ13の温度に基いて電動モータ11の負荷率を制限することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態に係る駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1及び第2負荷率制限マップを示す図である。
【図3】車両走行が想定される各道路勾配について残存距離の各閾値を規定する閾値マップを示す図である。
【図4】車両が最高到達地点に近い位置を登坂走行している状態において、モータ温度及びモータトルクの時間変化を示す図である。
【図5】図4に示す状況において、本発明の実施形態に係る駆動制御装置の制御手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0048】
10 駆動制御装置、11 電動モータ、12 バッテリ、13 インバータ、14 温度センサ、15 車速センサ、16 ナビゲーションシステム、17 第1負荷率制限マップ、18 第2負荷率制限マップ、19 閾値マップ、20 記憶手段、21 制限手段、22 取得手段、23 推定手段、24 制限解除手段、25 温度上昇率算出手段、26 閾値変更手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を駆動する電動機と、
電動機を含む電気駆動系の温度を検出する温度検出手段と、
車両の位置情報を取得するナビゲーション装置と、
を備えた車両に搭載される駆動制御装置であって、
電気駆動系の温度が所定温度以上のときに電動機の負荷率を制限する制限手段と、
ナビゲーション装置の情報に基いて、少なくとも現在地点から目的地点までの残存距離と道路勾配とを取得する取得手段と、
電気駆動系の温度が所定温度に達した場合に、取得された残存距離と道路勾配、及び予め定められた所定の解除基準に基いて、目的地点に到達する前に電気駆動系の温度が所定温度よりも高温の短期保証温度に達するか否かを推定する推定手段と、
電気駆動系の温度が短期保証温度に達しないと推定されたときには、制限手段による負荷率制限を解除する制限解除手段と、
を有することを特徴とする車両の駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の駆動制御装置において、
推定手段は、
車両の走行が想定される各道路勾配について、電気駆動系の所定温度から短期保証温度に至る温度上昇を引き起こす残存距離の各閾値を規定した閾値マップを含み、
閾値マップから得られる取得手段により取得された道路勾配における残存距離の閾値を所定の解除基準として推定を実行することを特徴とする車両の駆動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の駆動制御装置において、
電気駆動系の温度が所定温度に達したときに、電気駆動系の温度の上昇率を算出する温度上昇率算出手段と、
算出された温度上昇率に基いて、閾値マップの閾値を変動させる変動手段と、
を有することを特徴とする車両の駆動制御装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の車両の駆動制御装置において、
制限手段は、
電機駆動系の温度に関して、所定温度以上で短期保証温度未満における負荷率制限値を規定した第1制限マップと、短期保証温度以上における負荷率制限値を規定する第2制限マップと、を含み、
制限解除手段は、
電気駆動系の温度が短期保証温度に達しないと推定されたときには、制限手段による負荷率制限を解除すると共に、第2制限マップに基いて負荷率制限を実行することを特徴とする車両の駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−115053(P2010−115053A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286747(P2008−286747)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】