説明

車両の駆動系におけるベルト式無段変速機および摩擦クラッチの制御方法

本発明はエンジントルク(Te)を発生させることが可能なエンジン(1)と、無段変速機(2)と、駆動輪(5)と、2つの摩擦クラッチ(3,33)とを備える車両の駆動系であって、第1のクラッチ(3)は駆動系においてエンジン(1)と変速機(2)との間に配置され、第2のクラッチ(33)は変速機(2)と駆動輪(5)との間に配置され、第1のクラッチ(3)により伝達可能なトルク(Tc−max)と第2のクラッチ(33)により伝達可能なトルク(Tc−max)とが共に変速機(2)により伝達可能なトルク(Tt−max)より小さく、同時に両者とも基本的にエンジントルク(Te)に等しいかまたは僅かに大きいことを特徴とする、車両の駆動系を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動系におけるベルト式無段変速機および摩擦クラッチの制御方法に関する。このような制御方法は良く知られており、またたとえば2つの可変プーリとその周りに巻かれて、それらと摩擦接触しているベルトとを有する変速機に関して特許文献1に説明されている。本発明もまたこのような変速機を設計する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式変速機で一般的に見られる問題はその摩擦部品つまりそのベルトとプーリ部品間のスリップであり、過剰なスリップはこれらの部品の過剰な摩耗と損傷を引き起こすので、これを避けるあるいは少なくとも限られた程度にだけ起こってもよいようにする必要がある。このようなスリップを防ぐためにプーリとベルトとの間に充分な法線力が適用されることが必要で、この法線力はしばしば変速機によって伝達されるエンジントルクに依存し、安全マージンにより大きく決定される。エンジントルクがいつも正確に判っているわけではなく、またさらに突然のトルクレベルの変化、つまりトルク変動、がエンジン自身とたとえば道路にできた穴を通過するときに駆動輪経由との両方により駆動系に導入されるかもしれないので、この安全マージンが導入される。
【0003】
前記安全マージンの低減は、これにより変速機の効率および耐久性が大幅に改善される可能性があるので、長年にわたる開発の目的であった。1つの解決法は摩擦クラッチを、それによって伝達されるまたは伝達可能なトルク、以下クラッチスリップトルクと称する、が変速機によりつまりそのベルトと各プーリとの間で伝達可能なトルクよりも小さいように制御することであった。後者のトルクレベルを以下トランスミッションスリップトルクと称する。特許文献1に従って、このクラッチはその際に車両のエンジンから駆動輪への動力の流れに対して変速機の上流または下流に配置することができる。
【0004】
このようなシステムにおいてトルク変動が起こるときにはいつも、トランスミッションスリップトルクよりも前にクラッチスリップトルクを超過し、それによりクラッチのスリップが増加し、トルク変動で代表される機械的エネルギーの少なくも一部が熱となって失われる。実際には、トルク変動の間クラッチスリップトルクはクラッチのスリップが増加するためにいくらか増加するが、このような増加は比較的小さく、また初期クラッチスリップトルクよりも大きいスリップトルクを有するように制御されている変速機により通常は対応され得る。
【0005】
しかし上記のシステムと制御方法では問題が起こる、というのは変速機に対するクラッチの位置が上流か下流かによって、エンジンによりあるいは駆動輪により導入されるトルク変動のいずれかがクラッチに到達する前に変速機を通って移動する。それによりトルク変動は少なくとも部分的に変速機の中で消費され、これは本質的に好ましくない。このような問題は比較的高い安全マージンを適用することにより防止できるが、これはもちろん当初の開発目的を完全に無にするであろう。
【0006】
実際にはクラッチの下流位置だけが既知の制御方法と組み合わせて適用されている、というのは駆動輪を経由して駆動系に導入されるトルク変動はエンジンから発生するものに比べてより予測が難しくまたより激しいと考えられるからである。しかし変速機設計、つまりハードウエアのレイアウトからすると、上流のクラッチの方が容易にまた効率的に変速機に組み込める。また動作の間、それによって伝達される最大トルクと最大回転速度の両方に関して、変速機に対して上流に配置されたクラッチは下流のクラッチに比べると機械的な負荷がずっと少ない。さらにエンジン、特にディーゼルエンジンから発生するトルク変動もまた変速機効率を害する大きさであり得る、つまり特に比較的小さい公称エンジントルクレベルにおいてかなりの安全マージンが法線力に適用されることが必要である、というのが出願人の経験である。
【特許文献1】US−A−4,606,446
【発明の開示】
【0007】
本発明は、特にエンジンからまたは道路から発生するのであれ、トルク変動に対して変速機の保護を向上させることによる、既知の設計の改善を目的としている。本発明に従ってこの目的は請求項1の駆動系により実現される。特に本発明はクラッチを上流つまりエンジンと変速機との間に置くという上記技術的優位性をトルク変動に対する変速機の保護と調和させることを目的とする。このような目的は本発明による独立クレーム2、4および6のいずれか1つの制御方法を適用することにより既知の設計の駆動系においても実現できる。
【0008】
請求項1の駆動系において2つのクラッチが備えられ、第1のクラッチは変速機の上流に配置され、また第2のクラッチは変速機の下流に配置される。これらのクラッチは、それぞれのクラッチスリップトルクレベルが共にトランスミッションスリップトルクよりも小さく、同時に基本的にエンジントルクレベルに等しいかまたはおそらくいくぶん大きいように駆動系に構成される。このような駆動系において変速機は、トルク変動がエンジンから発生するのか駆動輪から発生するのかに関わりなく、あらゆるトルク変動に対して実効的に保護される。その結果、前記安全マージンは好ましいことに小さくできる。現存の駆動系設計の中にはすでにトルクコンバータのロックアップクラッチまたはブリッジングクラッチ、あるいはドライブオフクラッチおよびプラネタリーまたはDNRギヤのクラッチのような2つのクラッチを含むものがあるが、これらはそれぞれに応じてクラッチスリップトルク制御のために配置され、可能な限り適合させるようにすれば良い。
【0009】
しかし本発明によれば、駆動系がクラッチスリップトルク制御のために配置される、適切なクラッチを1つだけしか備えていない場合でさえ、請求項2の制御方法を適用することによりトルク変動に対して変速機の保護を向上させることが可能である。
【0010】
このようなクラッチがトルク変動の源に対して変速機の「反対の」側に配置されているとき、回転方向でのプーリに対するベルトのスリップは前記安全マージンを越えるトルク変動のため不可避的に発生することが判る。さらに出願人はこのベルトが、全く損傷を受けることなく、トランスミッションプーリに対する相当な量のスリップに対応できることを発見している。実験は伝達動作の間このような限界スリップ値までのベルトのスリップに対応する能力が少なくとも前記法線力、ベルトの回転速度および幾何学的変速比により変化することを示している。それぞれの変速比およびベルト回転速度に対するこのような限界スリップ値と法線力レベルとの関係は実線により描かれ、以下、限界損傷曲線と称される。所定レベルの法線力における最小許容スリップ値に関して、最も減速する変速比、いわゆる低速比、が最も小さいベルト回転速度と組み合わせると最も危険な状態を示すことが判った。これとは対照的に、最も加速する比、いわゆるオーバードライブ比において、大きなベルト回転速度と組み合わせると大きな量のベルトスリップが変速機により対応できる。
【0011】
変速機のいわゆるスリップ特性マップにいくつかの変速比の限界損傷曲線が含まれるが、それによって現在の限界スリップ値を得るためにこのような所定の限界損傷曲線の上でまたはその間で内挿が行われる、つまりそれは変速機の一般的な動作条件に対して有効である。このスリップ特性マップの存在は変速機がトルク変動ならびにその際に生じるベルトのスリップを上記の実験で測定された程度まで被っても安全であることを証している。本発明に従ってクラッチ制御を適用することにより、変速機の効率が最適化され、一方トルク変動に対応したベルトのスリップの増加は、図を参照して以下に詳しく説明するように、限界スリップ値を越えない間は充分に制限される。
【0012】
(図面の簡単な説明)
図1は、エンジン、摩擦クラッチ、無段変速機、ファイナルドライブ装置および駆動輪を備えた車両駆動系、ならびに制御手段の概略図である。
図2は、ベルトとプーリ部品との間の速度差に対応する変速機の能力をその間に適用される法線力のレベルと幾何学的変速比とに対して表したグラフである。
図3はトルク変動の発生の影響を示す図1の駆動系の機能的な図示である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は順番に、つまり駆動力の下流方向に、エンジン1,摩擦クラッチ3,ベルト式無段変速機2、差動伝動装置を含むファイナルドライブ装置4および2つの駆動輪5を備える車両の駆動系を示す。ドライブシャフト13,32,24および45が上記駆動系部品1乃至5のそれぞれの間にあり、駆動するように締結している。変速機2は、概略図で示す2つのプーリ21と22を備え、またプーリ21,22の周りに巻かれ、摩擦接触しているドライブベルト23を備える。それぞれのプーリ21,22は、動作中お互いの方に押し付けられる2つの円錐形のディスクを備え、法線力Fnが各プーリ21,22とベルト23との間に作用する。
【0014】
さらに制御手段を図1に示すが、この手段は電子制御ユニットまたは「ECU」6,クラッチ入力側(つまりシャフト13)の回転速度Ci、クラッチ出力側(つまりシャフト32)の回転速度Coおよびトランスミッション出力側(つまりシャフト24)の回転速度Cvを測定するための3個の回転速度センサ7,8および9,および、たとえば駆動系の1つまたは複数の動作パラメータに応答してクラッチ係合力Fcならびにプーリの法線力Fn−21およびFn−22を調節することによる、それぞれクラッチ3および変速機2の制御された作動のための2個のアクチュエーター9および10を備える。
【0015】
これによってクラッチ3により伝達されるまたは伝達可能なトルクが変速機2により伝達可能なトルク、つまりトランスミッションスリップトルクよりも低いレベルに維持されるようにECU6を構成し、動作させることが知られている。この構成により駆動輪を5経由してトルク変動が駆動系に導入されるとき、クラッチ3はこのような増加したトルクレベルを単に伝達するのではなく、クラッチ入力側速度Ciとクラッチ出力側速度Coの比Ci/Coで定義されるクラッチのスリップCsの増加(または減少)により関連する機械的エネルギーを消散させることによってトルク変動を大幅に鈍らせようとする。したがって、駆動系と特に変速機2はそのベルトとプーリ部品23,21および22の激しいスリップから保護される。しかしながら、クラッチ3は変速機2の上流に配置されているので、後者はいずれにせよ追加のトルクを経験する。この追加のトルクはトルク変動に反応して起こる、というのはベルト23、トランスミッション入力プーリ21、クラッチ3を変速機2に締結するシャフト32およびクラッチのどんな出力側部品(クラッチ板、クラッチ流体など)でも、クラッチスリップCsに影響する(つまり増加または減少させる)ことができるように加速(または減速)しなければならないからである。しかしこの追加のトルクは、それによって生じるベルトスリップBsが限界スリップ値CBsを超えない程度に限定される場合には、重大な損傷を引き起こさないであろう。
【0016】
本発明に従ってベルトスリップBsのこのような制限は、変速機2の下流に配置され、伝達されるまたは伝達可能なトルクをトランスミッションスリップトルクよりも低いレベルに維持するように同様に配置され制御されるクラッチ33を駆動系にさらに備えることにより実現される。その代わりに、このような制限は本発明に従って変速機2およびクラッチ3を以下に説明する本発明による制御方法に従って実現することもできる。
【0017】
まずベルト式変速機の典型的な特性を、図2を参照して説明する。このタイプの変速機2は、少なくともある程度、プーリ21、22のいずれかとベルト23との間のスリップ(以下ベルトスリップBsと称する)、つまり相対的運動に耐えられることが知られている。図2は実験データに基づく特定のタイプのベルト23に対する特性を示す。この図において、規定の条件下で変速機2が重大な損傷を受ける、つまり通常のまたは公称の動作に不都合になる程度に影響されるかどうかが前記法線力FnとベルトスリップBsの大きさの関数として定義されている。これによって図2のいわゆる限界損傷曲線A、BおよびCがベルトスリップBsに対する最大許容または限界値CBsを示すが、その下方では、矢印Iにより示されるが、重大な損傷が起こらない、またその上方では、矢印IIにより示されるが、そのような損傷が実際に起こることを示す。したがって変速機2は少なくともある程度ベルトスリップBsに耐えることができる。
【0018】
図2はまた限界ベルトスリップCBsが、曲線Aが示すような変速機の最も減速するまたは低ギヤ比において、曲線Cが示すような最も加速するまたはオーバードライブギヤ比よりもずっと小さいことを、つまり同じ程度のベルトスリップBsに対してドライブベルト23またはプーリ21,22に対する損傷が、たとえばオーバードライブギヤ比に比べて低ギヤ比においては既により低い法線力Fnにおいて、発生していることを示す。さらに同じく低ギヤ比を表す限界損傷曲線Bは曲線Aと比較して大きい回転速度で測定しているが、限界ベルトスリップCBsがベルトの回転速度とともに増加することを示す。最後に限界ベルトスリップCBsは一般的に法線力Fnのレベルの増加とともに大幅に減少することが判る。このように上記の実験の結果、トルク変動が変速機2を通って移動するとき、増加したトルクレベルにより発生した実際のベルトスリップBsが該当の、つまり現在の限界ベルトスリップ値CBsを超えない場合、それは安全に伝達される。
【0019】
図3は、非常に簡略化された駆動系に負荷、すなわち駆動輪5に固定して締結されているトランスミッション出力側シャフト24、を経由して導入される、この場合は正の、トルク変動Tjの物理過程を示す。便宜上、図3の駆動系はいかなるギヤ比および/または補助ドライブも含んでいない。またいかなる機械的損失も考慮していない。
【0020】
図3の左側では、駆動系の通常の定常状態動作を示しており、そこでエンジンがエンジントルクTeを発生させ、それが摩擦クラッチ3および摩擦トランスミッション2を経由してトランスミッション出力側シャフト24に伝達される。このような定常状態では充分な係合力FcおよびFnがそれぞれクラッチ3および変速機2に加えられ、それによってエンジントルクTe、クラッチ3により伝達されるトルクTc、変速機2により伝達されるトルクTtおよび負荷24により取り上げられるトルクTlはすべて同じである。
【0021】
図3の右側では、前記トルク変動Tjが駆動系に導入され、トランスミッション出力側24に作用する。このようなトルク変動Tjにより、エンジントルクTeと変速機安全マージンによって定義される、すなわち次式に従って安全係数Sftにより表される変速機による最大伝達可能トルクTt−max
【0022】
【数1】

を超える場合、すなわち
【0023】
【数2】

の場合、トランスミッション出力側シャフト24はトランスミッション入力側シャフトつまりクラッチ出力側シャフト32よりも速く加速するであろう。このトランスミッション出力側シャフト24のクラッチ出力側シャフト32に対する加速により、トランスミッション摩擦部品のスリップ、前記ベルトスリップBs、は増加する。このようにベルトスリップの増加ΔBsは、トルク変動Tjの継続時間tの間にクラッチ出力側シャフト32の加速度α32が負荷24の瞬時加速度α24にどれくらい密に追従できるかによって決定され、その係数は加速される駆動系部品およびそのような加速に対して利用できるトルクTiの大きさとを組合せた慣性lpにより決定されて、
【0024】
【数3】

ここに
【0025】
【数4】

ただしSfc<Sft
Sfcは次式で定義されるクラッチ安全係数である。
【0026】
【数5】

ここにTc−maxはクラッチ3により伝達可能な最大トルクである。
【0027】
このように図3の簡略化した駆動系において組合せた慣性lpは事実上クラッチ出力側シャフト32によってのみ決定されることに注意が必要である。しかし実際の駆動系設計において組合せ慣性lpはクラッチ出力側シャフト32によってだけでなく、つまり少なくともベルト23のスリップがトランスミッション入力プーリ21に対して起こるときには、トランスミッション入力プーリ21およびクラッチ出力側のすべての部品(クラッチ板、クラッチ流体など)によっても決定される。ベルト23のスリップがトランスミッション出力プーリ22に対して起こるような状態では、前記組合せ慣性lpはさらにベルト23の慣性ならびにクラッチ出力側速度Co(つまりトランスミッション入力側速度)とトランスミッション出力側速度Cvとの間の比Co/Cvとして定義される変速比を表し、かつ対応する係数を含む。これによって前記ベルト23のスリップはトランスミッション出力プーリ22に対して起こると仮定することが通常適切であると言える。
【0028】
このようにして上記のシステムおよび制御方法によってトルク変動Tjに対応するベルトスリップ増加ΔBsは好ましく低減され、さらにベルトスリップBsが限界ベルトスリップ値CBsをまったく超えないか、あるいは少なくともベルトスリップBsがこのような限界ベルトスリップ値CBsに到達するのにより多くの時間がかかる結果となる。この追加の時間はベルトスリップBsを防止または制限するためにトルク変動Tjの発生に対応して対策を取る、たとえば、
−エンジントルクTeを能動的に減じる、または法線力Fnのレベルを上げる、またはこのような対策を同時に適用することによりトランスミッション安全係数Sftを大きくする、あるいは
−トランスミッション出力プーリ22における前記トルク変動Tjを減じるために変速比Co/Cvを能動的に変更する、
ために好ましく使用することができる。
【0029】
これによってトルク変動Tjの発生はそれ自身負荷24の前記加速度α24に関連づけられる、および/またはそれにより検出される。
【0030】
本発明に従って上記の解析から変速機の効率はエンジントルクレベルTeに対応して適用される法線力Fnを、信頼できる方法で、つまりトランスミッションプーリ21、22に対するベルト23の激しいスリップにより重大な損傷が発生するのを防ぎながら、以下に述べるような1つまたは複数の手段を用いて減らすことにより向上できると結論づけられる。すなわち、
−前記組合せ慣性lpが比較的小さくなるように駆動系を設計すること
−小さいクラッチ安全係数Sfc、好ましくはゼロ係数を適用すること
−好ましくは少なくとも以下の1つまたは複数に関連して、しかし好ましくは比例して、増加および/または減少させることにより、前記トランスミッション安全係数Sftを前記スリップ特性マップに基づいて動作の際に適用すること、すなわち、
−変速比Co/Cv
−ベルト回転速度の逆数、または
−たとえば変速機のスリップ特性マップにより提供されるような、現在の限界ベルトスリップ値CBsの逆数。
−最大発生トルク変動Tjに対応するベルトスリップの増加ΔBsが最小発生限界ベルトスリップ値CBsを超えないことを確実にするために充分に大きな安全係数により増加したエンジントルクTeと変速機の最大伝達可能トルクTt−maxを等しくするために必要な前記法線力Fnを計算すること。
【0031】
さらに変速機のスリップ特性マップに基づいて適切な、つまり充分なトランスミッション安全マージンを決定するこの後者の手段に関して、エンジントルクTeを伝達するのに最低必要な法線力Fn−min(つまりFn−min @ Tt−max=Te)に加えられる固定した、つまり2kNから7kN、好ましくは約4kN、の安全マージンが一般的に適用可能であることが見出されたことに言及しておくが、これは上に定義したトランスミッション安全係数Sftが実際にエンジントルクTeが減少するにつれて、つまりそれに反比例して増加することを意味する。好ましくはこの後者の特性が、ECU6により決定されるエンジントルクTeと法線力Fnとが一般に絶対誤差を含むことを考慮する。このように比較的低いエンジントルクTeにおいてそれに対応して適用される法線力Fnは比較的大きな不確定性に左右される、このことは比較的大きなトランスミッション安全係数Sftを要求する。このような不確定性が比較的小さいときには事実上一定のトランスミッション安全係数Sftで充分である。
【0032】
一定あるいはエンジントルクTeに関連して増加するトランスミッション安全係数Sftを含むこのような制御戦略のさらなる利点は、クラッチ出力側シャフト32の加速に利用できる前記トルクTi、このトルクTiはトランスミッション安全係数Sftマイナス1掛けるエンジントルクTeに比例する、の大きさが前記の比較的低いエンジントルクTeにおいても受容可能なレベルに維持できることである。
【0033】
このように本発明に従って、1つまたは複数の上記の手段を適用するとき、変速機2は、たとえクラッチ3が変速機2の上流に置かれているとしても、駆動系を通って上流に移動するトルク変動Tjにより引き起こされる重大な損傷に対して好ましくまた効果的に保護される。
【0034】
最後に上記の解析は、クラッチ3が変速機2の上流に配置された状態で、負荷5を経由して駆動系に導入される正のトルク変動Tjに焦点を当てたが、原則として(必要な変更を施して)クラッチ3が駆動系において変速機2の下流に配置されている場合にエンジンから発生する負のトルク変動またはどのようなトルク変動に対しても有効であることに言及しておく。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】エンジン、摩擦クラッチ、無段変速機、ファイナルドライブ装置および駆動輪を備えた車両駆動系、ならびに制御手段の概略図である。
【図2】ベルトとプーリ部品との間の速度差に対応する変速機の能力をその間に適用される法線力のレベルと幾何学的変速比とに対して表したグラフである。
【図3】トルク変動の発生の影響を示す図1の駆動系の機能的な図示である。
【符号の説明】
【0036】
1 エンジン
2 変速機
3 クラッチ
4 ファイナルドライブ装置
5 駆動輪
6 エンジン制御ユニット
21,22 プーリ
23 ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジントルク(Te)を発生させることが可能なエンジン(1)と、無段変速機(2)と、駆動輪(5)と、2つの摩擦クラッチ(3,33)とを備える車両の駆動系であって、第1のクラッチ(3)は駆動系においてエンジン(1)と変速機(2)との間に配置され、第2のクラッチ(33)は変速機(2)と駆動輪(5)との間に配置され、第1のクラッチ(3)により伝達可能なトルク(Tc−max)と第2のクラッチ(33)により伝達可能なトルク(Tc−max)とが共に変速機(2)により伝達可能なトルク(Tt−max)より小さく、同時に両者とも基本的にエンジントルク(Te)に等しいかまたは僅かに大きいことを特徴とする、前記車両の駆動系。
【請求項2】
車両の駆動系において、摩擦クラッチ(3)と、2つの可変プーリ(21,22)の周りに巻かれ、摩擦接触している駆動ベルト(23)を備える無段変速機(2)とを制御する方法であって、前記方法が駆動系のエンジン(1)により発生するトルク(Te)に関連してクラッチ(3)と変速機(2)とを作動させ、少なくとも、クラッチ(3)により伝達可能なトルクレベル(Tc−max)が変速機(2)により伝達可能なトルクレベル(Tt−max)より小さくなるように、また伝達可能なトランスミッショントルク(Tt−max)とエンジントルク(Te)との間に安全マージンを実現するように作用するステップを含み、前記安全マージンは、プーリ(21,22)に対して回転方向へのベルト(23)のスリップ(Bs)であって、駆動輪(5)により駆動系に導入されるトルク変動(Tj)により引き起こされる前記ベルトスリップ(Bs)が、重大な、つまり動作に対して悪影響を及ぼす程の損傷が変速機(2)に生じる限界スリップ値(CBs)を超過するのを防止するために必要とされる安全マージンに等しいかまたはそれより大きいことを特徴とする、前記方法。
【請求項3】
車両の駆動系において、摩擦クラッチ(3)と、2つの可変プーリ(21,22)の周りに巻かれて、摩擦接触している駆動ベルト(23)を備える無段変速機(2)とを制御する方法であって、特に請求項2に従って、前記方法が駆動系のエンジン(1)により発生するトルク(Te)に関連してクラッチ(3)と変速機(2)とを作動させ、少なくとも、クラッチ(3)により伝達可能なトルクレベル(Tc−max)が変速機(2)により伝達可能なトルクレベル(Tt−max)より小さくなるように、また伝達可能なトランスミッショントルク(Tt−max)とエンジントルク(Te)との間に安全マージンを実現するように作用するステップを含み、
前記安全マージンが、
−変速機(2)の変速比(Co/Cv)の値
−ベルト(23)の回転速度の逆数
−動作に対して悪影響を及ぼす程の損傷が変速機(2)に生じる現在の限界ベルトスリップ値(CBs)の逆数
の1つまたは複数に少なくとも関連して、また好ましくは比例して、それを増加および/または減少することにより、動作の際に適用されることを特徴とする、前記方法。
【請求項4】
前記限界ベルトスリップ値(CBs)が、少なくともベルト(23)と関連のプーリ(21、22)の間に適用される法線力(Fn)および変速機(2)の変速比(Co/Cv)に関連して、限界スリップ値(CBs)を提供する限界損傷曲線から成る所定の特性マップから得られることを特徴とする、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
前記限界損傷曲線が、さらに、ベルト(23)の回転速度に関連して、限界スリップ値(CBs)を提供することを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
車両の駆動系において、摩擦クラッチ(3)と、2つの可変プーリ(21,22)の周りに巻かれて、摩擦接触している駆動ベルト(23)を備える無段変速機(2)とを制御する方法であって、特に請求項2乃至7のいずれかに従い、前記方法が駆動系のエンジン(1)により発生するトルク(Te)に関連してクラッチ(3)と変速機(2)とを作動させるステップを含み、少なくとも、クラッチ(3)により伝達可能なトルクレベル(Tc−max)がベルト(23)とプーリ(21,22)との間の摩擦接触において法線力(Fn)を適用することにより制御される変速機(2)により伝達されるトルクレベル(Tt−max)より小さくなるように作用し、前記法線力(Fn)が安全マージンを変速機(2)の伝達可能なトルク(Tt−max)とエンジントルク(Te)を等しくするのために必要な公称法線力(Fn−min)に加算することにより決定され、変速機(2)の動作の際に前記安全マージンが1kNから7kNの範囲に、好ましくは約4kNに維持されることを特徴とする、前記方法。
【請求項7】
車両の駆動系において、摩擦クラッチ(3)と、2つの可変プーリ(21,22)の周りに巻かれて、摩擦接触している駆動ベルト(23)を備える無段変速機(2)とを制御する方法であって、特に請求項2乃至6のいずれかに従い、前記方法がエンジン(Te)により発生するトルクに関連してクラッチ(3)と変速機(2)を作動させるステップを含み、少なくとも、クラッチ(3)により伝達可能なトルクレベル(Tc−max)が変速機(2)により伝達可能なトルクレベル(Tt−max)より小さくなるように、また安全マージンが伝達可能なトランスミッショントルク(Tt−max)とエンジントルク(Te)との間に実現されるように作用し、動作の際に駆動系に導入されるトルク変動(Tj)の発生に対応して、
−能動的にエンジントルク(Te)を減じるかまたはベルト(23)とプーリ(21,22)との間の摩擦接触に適用される法線力(Fn)を増加するかまたはその両方により安全マージン係数を増加すること、
−トランスミッション出力プーリ(22)に現れるトルク変動(Tj)に対処するため変速機(2)の変速比(Co/Cv)を能動的に変更すること、
の1つまたは複数の手段が取られることを特徴とする、前記方法。
【請求項8】
トルク変動(Tj)の発生が駆動系部品(24)の検出された加速度(α24)に関係付けられることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
伝達可能なクラッチトルク(Tc−max)とエンジントルク(Te)との間の安全マージンができるだけ少ない、好ましくはゼロに等しいことを特徴とする、請求項2乃至8のいずれかによる方法。
【請求項10】
伝達可能なトランスミッショントルク(Tt−max)とエンジントルク(Te)との間の安全マージンが伝達可能なクラッチトルク(Tc−max)とエンジントルク(Te)との間の安全マージン、これは好ましくはゼロに等しいが、よりも僅かに大きいだけであることを特徴とする、請求項2乃至8のいずれかによる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−522514(P2009−522514A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−548445(P2008−548445)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【国際出願番号】PCT/NL2005/000898
【国際公開番号】WO2007/075080
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(504226423)ロベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミト ベシュレンクテル ハフツング (40)
【Fターム(参考)】