説明

車両用シートベルト配設構造

【課題】ルーフ格納空間にルーフ部を格納するタイプの車両において、ルーフ格納空間の確保と、シートベルトのショルダアンカの配設とを両立し、かつ、ショルダアンカの強度確保を図る車両用シートベルト配設構造を提供する。
【解決手段】乗員用シート19と、車室1の後端を仕切るリヤバルクヘッド13と、車室1側部を形成するリヤサイドパネルの間に、ルーフ部ROが開放した時、ルーフ部ROを格納するルーフ格納空間14を設け、リヤバルクヘッド13から上方に延びるリヤサイドガセット90を設け、リヤサイドガセット90に、乗員用シート19に着座する乗員用シートベルトのショルダアンカを固定したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両用シートベルト配設構造に関し、詳しくは、車室内に配設された乗員用シートの前方において車幅方向に延び、車室前部のフロントウインドウの上辺を支持する強度部材であるフロントヘッダと、このフロントヘッダの後方に連なって車室上部を形成するルーフ部とが設けられ、該ルーフ部が開閉可能に支持されたようなオープンカーの車両用シートベルト配設構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ルーフ部が開閉可能に支持されたオープンカーにおいては、ルーフ部を開放してオープン状態と成した時、車両転倒時に乗員の頭部を保護する目的で、ロールバーが設けられている。
上述のロールバーを備えた従来のオープンカーとしては、特許文献1および特許文献2に開示されたものがある。
【0003】
すなわち、特許文献1、2に開示されたものは、フロアパネル後部から斜め上方に立上がるキックアップ部を設け、このキックアップ部上端から後方に延びるリヤフロアを設ける一方、キックアップ部背面とリヤフロア前端部下面とに跨って車幅方向に延びるクロスメンバを設けている。
また、車両の両側面を構成する左右一対のサイドパネル間には、リンクブラケットをそれぞれ介して車幅方向に延びる閉断面構造のクロスバーを設けている。
【0004】
さらに、運転席シートのシートバック直後および助手席シートのシートバック直後において、上述のクロスメンバに対応するリヤフロア前端部上面から上方に立上がる左右一対のロールバーを設け、これら左右一対のロールバーの上下方向中間部を上述のクロスバーを貫通して上方へ延ばし、この上方延設部を逆U字状に折曲げると共に、折曲げ端部をクロスバーに連結固定している。
加えて、上述のロールバーとサイドパネルとの間を連結部材で車幅方向に連結して、該ロールバーの支持剛性向上を図っている。
【0005】
上述のロールバーは剛性丸パイプから構成されており、車両転倒時に左右一対のロールバーで車両を支持する関係上、ロールバーそれ自体の剛性およびロールバー支持剛性を備えるように構成されている。
ここで、上述の車幅方向に延びる閉断面構造のクロスバーは、左右一対のロールバーを支持するために充分な剛性が要求され、このクロスバーがシートバック直後において車幅方向に延びている関係上、オープンカーのルーフ格納空間が車両前後方向に狭小となり、また、乗員用シートに着座する乗員用シートベルトのショルダアンカは該クロスバーに固定されていて、ショルダアンカの強度が確保されている。
【0006】
上述のルーフ格納空間を拡大するためには、クロスバーを廃止すればよいが、単に、クロスバーを廃止するのみでは、乗員用シートベルトのショルダアンカの配設ができなくなる問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−21607号公報
【特許文献2】特開2005−186688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明は、乗員用シートと、車室の後端を仕切るリヤバルクヘッドと、車室側部を形成するリヤサイドパネルの間に、ルーフ部が開放した時、該ルーフ部を格納するルーフ格納空間を設け、上記リヤバルクヘッドから上方に延びるリヤサイドガセットを設け、このリヤサイドガセットに、乗員用シートに着座する乗員用シートベルトのショルダアンカを固定することで、ルーフ格納空間にルーフ部を格納するタイプのオープンカーにおいて、ルーフ格納空間の確保と、シートベルトのショルダアンカの配設とを両立することができ、しかも、該ショルダアンカの強度確保を図ることができる車両用シートベルト配設構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による車両用シートベルト配設構造は、車室内に配設された乗員用シートの前方において車幅方向に延び、車室前部のフロントウインドウの上辺を支持する強度部材であるフロントヘッダと、該フロントヘッダの後方に連なって車室上部を形成するルーフ部とが設けられ、上記ルーフ部が開閉可能に支持されたオープンカーの車両用シートベルト配設構造であって、上記乗員用シートと、上記車室の後端を仕切るリヤバルクヘッドと、車室側部を形成するリヤサイドパネルの間には、上記ルーフ部が開放した時、該ルーフ部を格納するルーフ格納空間が設けられると共に、上記リヤバルクヘッドから上方に延びるリヤサイドガセットを設け、該リヤサイドガセットに、上記乗員用シートに着座する乗員用シートベルトのショルダアンカを固定したものである。
【0010】
上記構成によれば、従前のクロスバーを廃止して、上記シートとリヤバルクヘッドとリヤサイドパネルとの間にルーフ格納空間を設けたので、ルーフ格納空間にルーフ部を格納するタイプの車両(オープンカー)において、ルーフ格納空間を確保することができる。
また、リヤバルクヘッドから上方に延びるリヤサイドガセットに対して上記ショルダアンカを固定したので、シートベルトのショルダアンカの配設が可能となり、ルーフ格納空間の確保と、ショルダアンカの配設とを両立することができる。さらに、上記リヤサイドガセットにより車体剛性の向上を図ることができる。
しかも、上記ショルダアンカは補強部材としてのリヤサイドガセットに固定したものであるから、該ショルダアンカの強度確保を図ることができる。
【0011】
この発明の一実施態様においては、上記リヤサイドガセットは、上記リヤバルクヘッドの側部と上記リヤサイドパネルとの両者に接続されて閉断面を形成し上方に延びる形状に形成されたものである。
上記構成によれば、リヤサイドガセットの閉断面構造により、車体剛性のさらなる向上を図ることができると共に、該リヤサイドガセットの強度向上により、上記ショルダアンカの支持強度の向上を図ることができる。
【0012】
この発明の一実施態様においては、上記リヤサイドガセットには、該リヤサイドガセットに前部が接続されて後方に延びるショルダアンカブラケットが設けられ、該ショルダアンカブラケットに上記ショルダアンカが設けられたものである。
上記構成によれば、上記リヤサイドガセットに接続されて後方に延びるショルダアンカブラケットに対してショルダアンカを設けたので、乗員に対する適切な位置でのシートベルト装着角度の確保とショルダアンカの支持剛性確保との両立を図ることができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記リヤバルクヘッドには車幅方向に延びるリヤクロスメンバが設けられ、上記リヤサイドガセットは該リヤクロスメンバの車幅方向側端部に対応した位置に設けられたものである。
上記構成によれば、リヤクロスメンバとリヤサイドガセットとの相乗効果により、車体剛性のさらなる向上を図ることができると共に、車両の側面衝突時には、その側突荷重がリヤサイドガセットからリヤクロスメンバに伝達されるので、側突耐力に向上を図ることができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記乗員用シートベルトを非使用時に巻取るリトラクタ装置が、フロアパネルから立上るキックアップ部に取付けられたものである。
上記構成によれば、スペース的に適切な位置にリトラクタ装置を配置することができると共に、該リトラクタ装置の支持剛性確保を図ることができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、上記リヤバルクヘッドの後方の車体リヤデッキ部の上方にはロール保護部材が配設され、該ロール保護部材の上端と、上記フロントヘッダの上端とを結んだ線が車室内の乗員を保護可能になるよう上記ロール保護部材の高さが設定されているものである。
上記構成によれば、ロール保護部材をリヤバルクヘッド後方の車体リヤデッキ部の上方に設け、かつ、該ロール保護部材上端とフロントヘッダ上端とを結ぶ線が、車室内の乗員を保護するように、該ロール保護部材の高さを設定したので、このロール保護部材の上下方向の寸法を小さくし、その小型化を図って、該ロール保護部材の軽量化を図ることができる。
【0016】
また、ルーフ部をオープン状態に開放し、かつ車両が転倒した場合には、フロントヘッダとロール保護部材とで車両を支持することができて、乗員の安全性を確保することができる。
しかも、上記ロール保護部材を車体リヤデッキ部の上方に設けたので、車室内空間の拡大と、ロール保護部材の配設とが両立できる。この結果、上記車室内空間の拡大により、車室を広く活用することができると共に、ロール保護部材の配設により、乗員の保護を図ることができる。
加えて、上記ロール保護部材の上下方向の寸法が小さくなるので、デザイン的な見映えの向上を図ることができると共に、後方視界の拡大を図ることもできる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、乗員用シートと、車室の後端を仕切るリヤバルクヘッドと、車室側部を形成するリヤサイドパネルの間に、ルーフ部が開放した時、該ルーフ部を格納するルーフ格納空間を設け、上記リヤバルクヘッドから上方に延びるリヤサイドガセットを設け、このリヤサイドガセットに、乗員用シートに着座する乗員用シートベルトのショルダアンカを固定したので、ルーフ格納空間にルーフ部を格納するタイプのオープンカーにおいて、ルーフ格納空間の確保と、シートベルトのショルダアンカの配設とを両立することができ、さらに、リヤサイドガセットにより車体剛性の向上を図ることができ、しかも、該ショルダアンカの強度確保を図ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の車両用シートベルト配設構造を備えた車両の後部車体構造を示す側面図
【図2】図1の要部の平面図
【図3】ロール保護部材の配設構造を示す正面図
【図4】図1の要部の斜視図
【図5】各ガセットの分解斜視図
【図6】図3の部分拡大断面図
【図7】ルーフ・クローズ時の側面図
【図8】ルーフ部開閉中途時の側面図
【図9】ルーフ・オープン時の側面図
【図10】図7の部分拡大図
【図11】ルーフ部の斜視図
【図12】リヤサイドガセットの配設構造を示す正面図
【図13】リヤサイドガセットおよびショルダアンカブラケットの分解斜視図
【図14】リヤサイドガセットに対するショルダアンカブラケットの取付け構造の一例を示す部分拡大正面図
【図15】リヤサイドガセットの他の実施例を示す斜視図
【図16】他の実施例を示すルーフ・クローズ時の側面図
【図17】ルーフ部開閉中途時の側面図
【図18】ルーフ・オープン時の側面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
ルーフ格納空間にルーフ部を格納するタイプのオープンカーにおいて、ルーフ格納空間の確保と、シートベルトショルダアンカの配設とを両立し、さらに車体剛性の向上を図ると共に、ショルダアンカの強度確保を図るという目的を、車室内に配設された乗員用シートの前方において車幅方向に延び、車室前部のフロントウインドウの上辺を支持する強度部材であるフロントヘッダと、該フロントヘッダの後方に連なって車室上部を形成するルーフ部とが設けられ、上記ルーフ部が開閉可能に支持されたオープンカーの車両用シートベルト配設構造において、上記乗員用シートと、上記車室の後端を仕切るリヤバルクヘッドと、車室側部を形成するリヤサイドパネルの間には、上記ルーフ部が開放した時、該ルーフ部を格納するルーフ格納空間が設けられると共に、上記リヤバルクヘッドから上方に延びるリヤサイドガセットを設け、該リヤサイドガセットに、上記乗員用シートに着座する乗員用シートベルトのショルダアンカを固定するという構成にて実現した。
【実施例】
【0020】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面はオープンカーにおける車両用シートベルト配設構造を示すが、まず図1〜図6を参照して該シートベルト配設構造を備えたオープンカーの車体構造について説明する。
【0021】
側面図で示す図1において、このオープンカーは、車幅方向に延びて車室1前部のフロントウインドウ2の上辺を支持する強度部材であるフロントヘッダ3と、このフロントヘッダ3の後方に連なって車室1上部を形成するルーフ部ROとが設けられており、ルーフ部ROは、前部ルーフ4と後部ルーフ5とに前後方向に2分割されている。
これら前後の各ルーフ4,5は開閉可能に支持されている。なお、図1においては、前後の各ルーフ4,5を閉成(クローズ)した状態を実線で示し、これら各ルーフ4,5の開閉中途状態を仮想線αで示し、各ルーフ4,5を開放(オープン)し、後述するルーフ格納空間14に後部ルーフ5を格納した状態を仮想線βで図示している。
【0022】
ここで、上述のフロントヘッダ3は、フロントヘッダアウタ3aとフロントヘッダインナ3bとを接合固定して、車幅方向に延びるヘッダ閉断面3cを備えた強度部材であって、このフロントヘッダ3の左右両端部は、車両前後斜め方向に延びる閉断面構造のフロントピラー(図示せず)を介して車両の上下方向に延びる閉断面構造のヒンジピラー(図示せず)に連結されている。これらフロントピラーおよびヒンジピラーは何れも車体剛性部材である。
【0023】
一方、車室1の底面を構成し、ほぼ水平に配設されたフロアパネル6を設け、このフロアパネル6の後部には、斜め後方かつ上方に立上がるキックアップ部7を介して、リヤバルクヘッド13の水平部13Hを略水平に連設している。この水平部13Hはリヤフロア部を兼ねるものである。このリヤバルクヘッド13は該水平部13Hと、後述する垂直部13Vとから構成されるものである。
また、リヤバルクヘッド13の水平部13Hに連続してリヤフロア8を設け、このリヤフロア8の車幅方向中間部には、図2にも示すように下方に凹設されたスペアタイヤパン9を一体形成し、このスペアタイヤパン9には図示しないスペアタイヤを格納するように構成している。
さらに、上述のリヤフロア8の後端部には、上下方向に延びるリヤエンドパネル10を一体的に立設固定し、このリヤエンドパネル10の上部車外側つまり後部側には、車幅方向に延びるリヤエンドメンバ11を接合固定し、該リヤエンドメンバ11とリヤエンドパネル10との間には、車幅方向に延びるリヤエンド閉断面12を形成し、この閉断面構造により後部車体剛性の向上を図っている。
【0024】
また、上述のリヤバルクヘッド13の水平部13H後端には、リヤバルクヘッド13の垂直部13Vを立設固定し、該垂直部13Vと上記水平部13Hとで、車室1の後端を仕切るリヤバルクヘッド13を構成している。このリヤバルクヘッド13の垂直部13V(いわゆる、縦壁部)は上下方向に延びるように設けられており、該垂直部13Vの前方側をルーフ格納空間14に設定している。詳しくは、次に述べる乗員用シート19と、リヤバルクヘッド13と、後述するリヤサイドパネルとの間に、ルーフ部ROが開放した時、該ルーフ部ROを格納するルーフ格納空間14が設けられたものである。
一方、リヤバルクヘッド13における垂直部13Vの後方側を荷室、つまりトランクルーム15に設定している。
このトランクルーム15の上部は、トランクリッド16により開閉可能に覆われている。
【0025】
また、上述のルーフ格納空間14は、車室1の後方に設けられており、図1に仮想線βで示すように、開放時の後部ルーフ5を収納する収納部である。
ここで、上述のリヤバルクヘッド13の垂直部13Vは、その下端に前方に折曲げ形成された接合片13aを一体形成すると共に、その上端にも前方に屈曲形成された屈曲部13bを形成し、該垂直部13Vの上部は屈曲部13bを含む、コ字状部13cに形成されており、リヤバルクヘッド13の垂直部13Vそれ自体の剛性向上を図るように構成している。
【0026】
ところで、上述のフロアパネル6には、前後方向に離間配置された複数のシートブラケット17,18(または、クロスメンバ)を介して、乗員が着座するシート19(乗員用シート)を設けている。この乗員用シート19は、シートクッション19Cと、ヘッドレスト部19Hが一体に形成されたシートバック19Bとを備えている。なお、この車両はドライバーズシートとパッセンジャーズシートとを備えた2人乗り用(いわゆる2シーター)に構成されている。なお、乗員用シート19としては、ヘッドレスト部がシートバックに対して別体で形成されたものでもよい。
ここで、上述のフロントヘッダ3は、車室1内に配設された乗員用シート19の前方にて車幅方向に延び、車室1前部のフロントウインドウ2の上辺を支持する閉断面構造の強度部材である。
【0027】
一方、上述のキックアップ部7の背面と、リヤバルクヘッド13における水平部13Hの前部下面との間には、車幅方向の略全幅にわたって延びるリヤクロスメンバ20を取付け、これらキックアップ部7、水平部13H、リヤクロスメンバ20間には、車幅方向に延びる閉断面21を形成し、この閉断面構造により下部車体剛性の向上を図っている。
【0028】
さらに、リヤバルクヘッド13の水平部13Hの後方部下面には、車幅方向に延びる別のリヤクロスメンバ22を取付け、水平部13Hと該リヤクロスメンバ22との間には、車幅方向に延びる閉断面23を形成し、この閉断面構造により下部車体剛性の向上を図り、また、該リヤクロスメンバ22の下部に、図示しないサブフレームを取付けるように構成している。
【0029】
上述のリヤバルクヘッド13における垂直部13V上部のコ字状部13cには、該コ字状部13cを後方から覆うように強度部材としてのリヤデッキメンバ24を接合固定して、リヤバルクヘッド13のコ字状部13cとリヤデッキメンバ24との間には、車幅方向に延びるリヤデッキ閉断面25を形成し、この閉断面構造により車体リヤデッキ部26の剛性向上を図るように構成している。ここで、上述のリヤデッキメンバ24は前方が開放した横向きU字状、または、横向きV字状断面を有するように形成されている。
つまり、車体のリヤデッキ部26には、強度部材で車幅方向に延びる閉断面構造のリヤデッキメンバ24が設けられたものである。
【0030】
図2は図1の要部平面図であって、上述のリヤデッキメンバ24は、図2に示すように、車幅方向にその略全幅にわたって延びると共に、その車幅方向両端部には車両の前方側に回り込む左右の回込み部24R,24Rが一体形成されており、これら左右の各回込み部24R,24Rの上部には、ロール保護部材27,27が取付けられている。該ロール保護部材27は、図6にも示すように、内部中空の剛性部材にて構成されており、前部ルーフ4および後部ルーフ5をオープン状態に開放し、かつ車両が転倒した際には、複数のロール保護部材27,27とフロントヘッダ3とで車両を支持して、乗員の安全性を確保するように構成している。
このため、図1に示すように、ロール保護部材27の上端と、フロントヘッダ3の上端とを結んだ線Lが、車室1内の乗員Xを保護可能になるよう、これら左右のロール保護部材27,27の高さが設定されている。
【0031】
具体的には、図1に示すように、後側に位置するロール保護部材27の上端と、前側に位置するフロントヘッダ3の上端とを車両の前後方向に結んだ線Lが、車室1内の乗員用シート19におけるシートバック19Bの最上端(ヘッドレスト部19Hの上端)よりも高くなるように、これら各ロール保護部材27,27の上下方向の寸法が設定されている。
しかも、該ロール保護部材27は、上述のルーフ格納空間14の後方において車幅方向に離間して複数(図2の実施例では2個)配設されると共に、これらの各ロール保護部材27,27はリヤデッキメンバ24に対応して、その回込み部24R,24Rにそれぞれ取付けられている。ここで、上記左右のロール保護部材27,27は左右両位置に加えて、リヤデッキメンバ24の中央位置にさらに追加形成して合計3個のロール保護部材を用いるように構成してもよいことは勿論である。
【0032】
図2において、フロアパネル6の車幅方向中央部には、車室1内に突出して、車両の前後方向に延びるトンネル部28が一体に形成されている。このトンネル部28は車体剛性の中心となるものである。また、フロアパネル6の左右両サイドには閉断面構造のサイドシル29,29(強度部材)が一体的に接合固定されている。
これら左右の各サイドシル29,29は、図12に示すように、サイドシルインナ29aとサイドシルアウタ29bとを接合固定して、車両の前後方向に延びる車体剛性部材であって、サイドシルインナ29aと、サイドシルアウタ29bとの間には、車両の前後方向に延びるサイドシル閉断面29cが形成されている。
【0033】
また、この実施例では、図12に示すように、サイドシルインナ29aとサイドシルアウタ29bとの間に、サイドシルレインフォースメント29dを介設して、該サイドシル29の強度向上および車体剛性の向上を図るように構成している。
【0034】
さらに、リヤバルクヘッド13の水平部13Hおよびリヤフロア8の左右両サイド下部には、図2に点線で、また図3に実線で示すように、車両の前後方向に延びる強度部材としてのリヤサイドフレーム30,30が接合固定されており、水平部13Hおよびリヤフロア8と、リヤサイドフレーム30との間には、車両の前後方向に延びるリヤサイド閉断面31(図3参照)が形成されており、これら左右一対の閉断面構造のリヤサイドフレーム30,30により、下部車体剛性の向上を図っている。
【0035】
図2に示すように、上述の各リヤサイドフレーム30,30の車幅方向外側には、左右の後輪ホイールハウス32,32(いわゆる、リヤホイールハウス)がそれぞれ設けられている。これら左右の各後輪ホイールハウス32,32は、ホイールハウスアウタ33とホイールハウスインナ34とを接合固定して構成されている。
【0036】
図1、図2に示すように、上述の各ロール保護部材27,27は、車室1後方の左右の後輪ホイールハウス32,32上方の車体リヤデッキ部26に配置されており、これら各ロール保護部材27,27は上述の後輪ホイールハウス32に対応した位置に配設されている。
また、左右の各後輪ホイールハウス32,32には、これら後輪ホイールハウス32,32を補強するホイールハウスレインフォースメント35,35がそれぞれ設けられており、これらの各ホイールハウスレインフォースメント35,35と対応した位置に上述のロール保護部材27,27がそれぞれ配設されているので、次に、図3、図4を参照して、ホイールハウスレインフォースメント35およびその周辺の構造について詳述する。
【0037】
図3に示すように、後輪36を囲む後輪ホイールハウス32(但し、図面では図示の便宜上、車両右側の後輪ホイールハウス32のみを示す)は、ホイールハウスインナ34とホイールハウスアウタ33とを接合固定して構成されており、後輪ホイールハウス32の外側部分は、リヤサイドパネルしてのリヤクオータパネルインナ37とホイールハウスアウタ33との間に延びるリヤフェンダレインフォースメント38と、その外側に位置するリヤフェンダパネル39とで構成されている。
【0038】
また、図3に示すように、車体剛性部材としてのリヤサイドフレーム30の車両外方には、リヤサスペンション機構のダンパSDを支持するリヤサスペンションハウジング40が形成されている。
このリヤサスペンションハウジング40は、そのスカート部に、該スカート部の外周を取り囲むように平面視略円弧状のサスペンションハウジングガセット41が接合固定され、該サスペンションハウジングガセット41は上方に延びており、ホイールハウスインナ34に接合固定されている。
【0039】
上述のサスペンションハウジングガセット41は、また、図4に示すように、前後方向に離間した一対のパッケージジャンクション42,43に接合固定され、さらに、これら前後のパッケージジャンクション42,43間には、上下方向に延びるサスペンションハウジングレインフォースメント44が配置されて、このサスペンションハウジングレインフォースメント44は、前後のパッケージジャンクション42,43に接合固定されている。
【0040】
これらの要素は、サスペンション支持構造体を構成するものであり、前後のパッケージジャンクション42,43は、その下端縁に沿って接合フランジ42aを有し、これら接合フランジ42aを介して、前後のパッケージジャンクション42,43は、ホイールハウスインナ34および車体側壁(リヤサイドパネル)としてのリヤクオータパネルインナ37の車内側面に接合固定されている。また、前後のパッケージジャンクション42,43間に配置された上記サスペンションハウジングレインフォースメント44は、これら前後のパッケージジャンクション42,43に接合固定されている。
【0041】
また、図3、図4に示すように、前後のパッケージジャンクション42,43間には、その上下方向中間部に、ジャンクションロアメンバ45が配置され、このジャンクションロアメンバ45はリヤバルクヘッド13における垂直部13V上方のコ字状部13cに接合固定されている。
【0042】
図3に示すように、サスペンションハウジングレインフォースメント44の上端縁には、前後のパッケージジャンクション42,43間に位置するジャンクションアッパメンバ46が配置され、このジャンクションアッパメンバ46は、サスペンションハウジングレインフォースメント44、前後のパッケージジャンクション42,43、リヤクオータパネルインナ37に、それぞれ接合固定されている。
【0043】
さらに、車体側壁を構成するホイールハウスインナ34およびリヤクオータパネルインナ37の車体内方側に位置するサスペンションハウジングレインフォースメント44は、その下端がホイールハウスインナ34に接合固定されており、また、その上端が、水平方向に延びるジャンクションアッパメンバ46の車体内方部に接合固定されており、そして、このジャンクションアッパメンバ46の車幅方向外側の端部は、リヤクオータパネルインナ37の対応部に接合固定されて、これらの各要素46,37,34,44間に閉断面47が形成され、この閉断面構造によりホイールハウスレインフォースメント35の剛性向上を図っている。
【0044】
そして、前後のパッケージジャンクション42,43、サスペンションハウジングレインフォースメント44、ジャンクションロアメンバ45およびジャンクションアッパメンバ46の各要素により、後輪ホイールハウス32を補強する上述のホイールハウスレインフォースメント35を構成したものである。
【0045】
図3に示すように、リヤバルクヘッド13における垂直部13V上部の屈曲部13bは、ホイールハウスレインフォースメント35を構成するジャンクションアッパメンバ46に接合固定されている。また、該垂直部13Vのコ字状部13cには、正面視略Z字形状の補強部材48が上下方向に向けて取付けられており、この補強部材48によりロール保護部材27の支持強度のさらなる向上を図るように構成している。
【0046】
一方、後輪36に連結されたダンパSDは、リヤサスペンション機構を構成するもので、このダンパSDを含むリヤサスペンション機構としては、図示しないアッパアーム、ロアアーム、ナックルなどを含む、マルチリンク式のリヤサスペンション構造を採用してもよい。
【0047】
上述のダンパSDは、図3に示すように、円筒状のダンパサポート49と、このダンパサポート49の下端に接合固定されたアッパスプリングシート50と、その下方に位置するロアスプリングシート51とを備え、上下のスプリングシート50と51との間にはコイルスプリング52が張架されている。
【0048】
また、サスペンションハウジングレインフォースメント44には、リヤサスペンションハウジング40から上方に突出するダンパサポート49を支持するガセット部材として、第1ガセット61、第2ガセット62、第3ガセット63(図5参照)を設けている。
【0049】
図5を参照して、これらの各ガセット61,62,63の構成について説明する。
同図に示すように、第1ガセット61は、上下に水平板状部61a,61bを有する断面略コ字状の部材であって、これら上下の水平板状部61a,61bの中間にはダンパサポート49の逃し部61c,61dがそれぞれ形成されると共に、各水平板状部61a,61bにはサスペンションハウジングレインフォースメント44に接合固定される複数のフランジ部61e,61e・・・が一体形成されている。
【0050】
また、第1ガセット61のルーフ格納空間14と対向する部分(つまり、車幅方向の内側部分)には、その車体前後方向に取付け面61f,61fが一体的に形成され、これら前後の取付け面61f,61f間に凹部61gが凹設形成されると共に、取付け面61f,61fの背面側(車幅方向の外側)にはナット64,64が予め溶接固定されている。そして、この第1ガセット61は図3に示すように、サスペンションハウジングレインフォースメント44に取付けられている。
【0051】
第2ガセット62は、図5、図3に示すように、第1ガセット61から上方に延びて、ジャンクションロアメンバ45を介して、リヤバルクヘッド13の垂直部13Vおよびリヤデッキメンバ24に結合されるもので、この上下方向に延びる第2ガセット62は、図5に示すように、ガセット主板62aと、このガセット主板62aのダンパサポート49と対応する部分に形成されてルーフ格納空間14側に膨出する膨出部62bと、この膨出部62bの下部に設けられた凹部62cと、上述のガセット主板62aの上端部から上方に向けて一体的に折曲げ形成されたフランジ部62d…を備え、上述の凹部62cの車体前後方向に離間する取付け面62e,62eには、ボルト挿通孔65,65が形成されている。
【0052】
上述の第3ガセット63は、第2ガセット62のルーフ格納空間14側(車幅方向の内側)に配設されるもので、この第3ガセット63は、図5に示すように、車体前後方向中間部63aに対して前部63bおよび後部63cが若干上方かつ車幅方向外方に位置する略V字状に形成されている。また、第3ガセット63の中間部63aには、2つのボルト挿通孔66,66が開口形成されると共に、前部63bおよび後部63cには、それぞれ1つのボルト挿通孔67,67が開口形成されている。
【0053】
図3に示すように、上述の第1ガセット61および第2ガセット62は、予め車体に溶接固定され、第3ガセット63はダンパSDを取り付けた後に、図5に示すボルト68,68をナット64,64に締結することで、各ガセット61,62に固定され、またボルト69,69を用いてダンパサポート49のブラケット70に固定される。
そして、図3に示すように、後輪ホイールハウス32の上部には、後輪36に連結されたダンパSDの上端が支持され、第1〜第3の各ガセット61,62,63およびサスペンションハウジングレインフォースメント44から成るダンパ支持部71に対応した位置に上述のロール保護部材27を配設したものである。なお、図3においては車両右側の構成についてのみ図示したが、車両左側は図3の構成と左右略対称に構成されるものである。
【0054】
図6は、図3の部分拡大断面図であって、ロール保護部材27は、頂部を有するテーパコーン部27bと、該テーパコーン部27bの下部に一体形成されたフランジ部27aとを備え、軽量化を目的としてその内部が中空状に形成されている。また、ジャンクションアッパメンバ46の下面、およびリヤバルクヘッド13における垂直部13V上部の屈曲部13b下面に予め複数のナット53,53を溶接固定し、これら複数のナット53,53に対して上方からボルト54,54を締付けることで、ロール保護部材27をリヤデッキ部26に取付けたものである。
【0055】
ここで、上述のボルト54、ナット53の上下の関係は、逆に成してもよい。すなわち、ジャンクションアッパメンバ46および垂直部13Vから上方に向けてウエルドボルトを固定し、このウエルドボルトに対して上方から締付ける袋ナットなどのナット部材により、ロール保護部材27をリヤデッキ部26に取付けるように構成してもよい。
【0056】
次に、図7〜図11を参照して、ルーフ4,5の開閉構造について詳述する。
図7は、ルーフ閉成(クローズ)時の側面図、図8はルーフ部RO開閉中途時の側面図、図9はルーフ開成(オープン)時つまりルーフ格納時の側面図、図10は図7の部分拡大図、図11はルーフ構造を示す概略斜視図である。
【0057】
図7〜図11、特に図9に示すように、ルーフ部ROが開放され、このルーフ部ROがルーフ格納空間14に格納された時、該ルーフ部ROの分割された一つ、すなわち、前部ルーフ4で該ルーフ格納空間14の上方において乗員用シート19とリヤバルクヘッド13の垂直部13Vとの間を略水平に覆うように上記ルーフ部ROを車体に支持する支持機構73を備えている。
【0058】
この実施例では、図7、図8、図9に示すように、上述のルーフ部ROは、前部ルーフ4と後部ルーフ5とに前後2分割されており、図9に示すように、ルーフ部ROの開放時に、後部ルーフ5がルーフ格納空間14内に格納され、前部ルーフ4が後部ルーフ5の上方に位置して上述のルーフ格納空間14をその上方から略水平に覆うように構成している。
【0059】
このため、上述の支持機構73は、側面視路L字状のロアリンク73Aと、アッパリンク73Bとを備えており、図11に示すように、ロアリンク73Aの基部は支軸74およびブラケット75を介して車体側のリヤクオータパネルインナ37(図4参照)に回動可能に支持されており、このロアリンク73Aの遊端部は、後部ルーフ5下面のブラケット76に対してピン77連結(枢支)されている。
【0060】
また、アッパリンク73Bは、後部ルーフ5の前側下面に固定されており、図7に示すように、該アッパリンク73Bは、後部ルーフ5から前部ルーフ4側に延びる延長部73aを備え、この延長部73aの端部が、前部ルーフ4の後部下面のブラケット78に対してピン79連結(枢支)されている。
【0061】
図11に示すように、ロアリンク73Aと、アッパリンク73Bから成る支持機構73は、ルーフ部ROの車室内側の左右両サイド部に一対設けられるが、図面では車両右側の支持機構73のみを図示している。
【0062】
さらに、図10に示すように、アッパリンク73B端部のピン79と、前部ルーフ4側のブラケット78との間には、該前部ルーフ4が所定角度前傾姿勢を保ちながら後方に移動するように、スプリング80を取付けている。前部ルーフ4を前傾姿勢に保持して後方への移動を可能とすることで、車両の微速前進時に、走行風をはらむことなく、ルーフROを手動にて開放することができる。
ここで、図7に示すルーフ閉成時(ルーフクローズ時)のピン79よりも前側の前部ルーフ4の長さは、ピン79よりも後側の前部ルーフ4の長さよりも充分長く、ピン79を支点とする前後の重量比において、前部ルーフ4は前傾する傾向にあるため、上記スプリング80のバネ力は小さいものでよい。
【0063】
この実施例においては、上記ルーフ部ROは手動操作にて開閉されるように構成しており、図7の全閉状態から図8の中途状態を経て図9に示すように、ルーフ部ROを開放する時、支軸74を中心として回動するロアリンク73Aにより、後部ルーフ5は反転してルーフ格納空間14内に格納され、前部ルーフ4はその前傾姿勢を維持して後方に移動し、図9に示すように、後部ルーフ5の上方に位置して、ルーフ格納空間14の上方を略水平に覆うように構成されている。
【0064】
図9において、ルーフ格納空間14上方を略水平に覆う前部ルーフ4が、スプリング80(図10参照)の付勢力により過度に前傾するのを防止する目的で、アッパリンク73Bの延長部73aには、前部ルーフ4を下側から支えて、該前部ルーフ4の過度な前傾を防止する規制片73bを一体に折曲げ形成している。このため、前部ルーフ4は図8に示すように、走行風をはらまないように、所定角度前傾姿勢を保ちつつ後方に移動した後、図9に示すように、該前部ルーフ4で格納空間14の上方を略水平に覆うことができる。
【0065】
なお、図7〜図9において、81,82はロアリンク73Aの上限位置、下限位置を規制するためのストッパであり、特に、下側のストッパ82により格納位置の前部ルーフ4、後部ルーフ5および各リンク73A,73Bが不必要に下方移動するのを確実に防止することができる。また、図11において、83はルーフ部ROをフロントヘッダ3に着脱可能に取付けるためのトップロック、84はバックウインドである。
【0066】
図7に示すクローズ状態のルーフ部ROを図9に示すように開放(オープン)する場合、まず、トップロック83(図11参照)によるルーフ部ROのロックを解除した後に、乗員が手動にて前部ルーフ4を後方に移動させると、この後方移動力がアッパリンク73B、後部ルーフ5を介してロアリンク73Aに伝達されるので、このロアリンク73Aは支軸74を支点として、後方かつ下方つまり図示の時計方向に回動し、後部ルーフ5は図7の前高後低状態から図8に示すように、略起立状態となり、この後部ルーフ5にアッパリンク73Bを介して枢支された前部ルーフ4はスプリング80の付勢力と、ピン79を隔てた前後の重量比とにより走行風をはらまないように前傾姿勢を保って、図8に示すように後方に移動する。
【0067】
図8に示す開閉中途状態から前部ルーフ4をさらに後方へ移動させると、この後方移動力がアッパリンク73B、後部ルーフ5を介してロアリンク73Aに伝達されるので、このロアリンク73Aは支軸74を支点として、下方つまり図示の時計方向にさらに回動し、後部ルーフ5は図8の略起立状態から図9に示すように反転状態(クローズ時におけるルーフ下面が上方に向き、クローズ時におけるルーフ上面が下方に向いた状態)となり、前部ルーフ4は、この反転した後部ルーフ5の上方に後方移動して、該前部ルーフ4でルーフ格納空間14を略水平に覆うものである。
【0068】
一方、図9に示すように、ルーフ部ROを開放した状態下において、車両が転倒すると、この転倒した車両を、フロントヘッダ3と複数のロール保護部材27,27とで支持するものであって、ロール保護部材27の上端とフロントヘッダ3の上端を結ぶ線Lが、ヘッドレスト部19Hを有するシートバック19Bの上端よりも高くなるように該ロール保護部材27の高さが設定されているので、車両の転倒時において該ロール保護部材27にて乗員X(図1参照)を確実に保護することができる。
【0069】
しかも、上述のロール保護部材27は、リヤデッキメンバ24および後輪ホイールハウス32に対応した位置に配設されているので、該ロール保護部材27の剛性を確保することができ、特に、ロール保護部材27の強度確保が既存の車体構造にて達成することができ、これにより、乗員保護構造の簡略化と軽量化とを両立することができる。
【0070】
ところで、図1、図12に示すように、車室1の側方には乗員乗降用のドア55が開閉可能に設けられている。このドア55は、図12に示すように、ドアインナパネル56とドアアウタパネル57とをヘミング接合したもので、該ドア55の内部には図1、図12に示すように車両の前後方向に延びるドアインパクトバー58,59が取付けられている。これらの各ドアインパクトバー58,59は側突時にドア55が車室側へ侵入するのを防止して、乗員を保護するための剛性部材である。
【0071】
次に、車両用シートベルト配設構造について詳述する。
図1、図2、図4、図12に示すように、上述のリヤバルクヘッド13の水平部13Hの車幅方向の側部と、リヤサイドパネルとしてのリヤクオータパネルインナ37との間を上下方向に延びて両者13H,37を接続するリヤサイドガセット90を配設している。このリヤサイドガセット90の全高は図1に示すようにベルトライン部まで上方に延びる高さに設定されている。
【0072】
また、リヤサイドガセット90は、図13に示すように、前片90aと、後片90bと、前後両片90a,90bを一体連設する側片90cと、上片90dとを有すると共に、前片90aの車外側には上下方向に延びる接合フランジ部90eを一体形成し、前片90aの下端には車幅方向に延びる接合フランジ部90fを一体形成し、また後片90bの車外側には上下方向に延びる接合フランジ部90gを一体形成し、後片90bの下端には車幅方向に延びる接合フランジ部90hを一体形成し、さらに、側片90cの車幅方向内側の下部には前後方向に延びる接合フランジ部90iを一体形成し、さらに、上片90dの車幅方向外側の上部にも前後方向に延びる接合フランジ部90jを一体形成している。
【0073】
そして、図4、図12に示すように、各接合フランジ部90e,90g,90jをリヤサイドパネルとしてのリヤクオータパネルインナ37に接合固定し、接合フランジ部90fをキックアップ部7に接合固定し、各接合フランジ部90h,90iをリヤバルクヘッド13の水平部13Hに接合固定して、リヤサイドガセット90が、リヤバルクヘッド13の水平部13Hとリヤクオータパネルインナ37との間で閉断面91(図12参照)を形成するように配設されたものである。
このリヤサイドガセット90の閉断面91構造により、車体剛性の向上および側突耐力の向上、さらには車体ねじり剛性の向上を図るものである。
【0074】
また、図4、図12に示すように、上述のリヤバルクヘッド13の水平部13Hには、車幅方向に延びる車体剛性部材としてのリヤクロスメンバ20が設けられており、上記リヤサイドガセット90は、このリヤクロスメンバ20の車幅方向の側端部に対応した位置に設けられている。
このように、リヤクロスメンバ20の車幅方向側端部に対応した位置に上記リヤサイドガセット90を設けることで、車体剛性が向上し、特に、リヤサイドガセット90に入力された側突荷重をリヤクロスメンバ20に伝達することができるため、側突耐力の向上を図り、また、リヤクロスメンバ20とリヤサイドガセット90との相乗効果により、車体剛性のさらなる向上を図るものである。
【0075】
さらに、図4、図13に示すように、上述のリヤサイドガセット90は、その車外側がリヤクオータパネルインナ37に沿って上下方向に延びると共に、その下部にはリヤクロスメンバ20に沿って車幅方向内方に延びる延長部90EXを有する形状に形成されており、延長部90EXによる車幅方向の長いスパンで側突荷重に対抗して、側突耐力のさらなる向上と、車体ねじり剛性のさらなる向上とを図るものである。
【0076】
図13に示すように、リヤサイドガセット90の車室内側部には、上述のルーフ格納空間14にルーフ部RO(特に、後部ルーフ5)が格納された時に、該ルーフ部ROとの干渉を防止する退避部90SHが形成されている。
【0077】
すなわち、図13に示すように、リヤサイドガセット90の側片90cの上下両端を直線状に結ぶ線をYとする時、この側片90cは該線Yに対して車幅方向外方かつ下方に窪むように曲率形状(いわゆる、アール形状)に構成されており、この曲率構造にて上記退避部90SHを形成したものである。
このように、リヤサイドガセット90に退避部90SHを形成することで、車体剛性の向上を図りつつ、ルーフ格納空間14に格納されるルーフ部RO(特に、その後部ルーフ5)とリヤサイドガセット90との干渉を防止するものである。
【0078】
また、図13に示すように、リヤサイドガセット90の上片90dにおける車幅方向内側には凹状の取付け座90kが形成されており、この取付け座90kには、図14に示す、ボルト92V、ナット92Nによる締結手段または溶接手段にて強度部材としてのショルダアンカブラケット92が取付けられている。このショルダアンカブラケット92は角パイプを加工して構成することができる。
【0079】
このショルダアンカブラケット92は、乗員用シート19に着座する乗員用のシートベルト93のショルダアンカ94を固定するためのブラケットで、このショルダアンカブラケット92はその前部がリヤサイドガセット90上部の取付け座90kに接続されると共に、中間部および後部が後方に延びたもので、このショルダアンカブラケット92の後部上面には、取付け部材95を用いて、上述のショルダアンカ94が設けられている。
【0080】
この実施例では、上述のショルダアンカブラケット92は、平面視L字状に形成されており、このショルダアンカブラケット92の後部において車幅方向内方に折曲がった部位の上面に上述のショルダアンカ94が取付けられている。
【0081】
また、上述の乗員用シートベルト93をその非使用時において巻取るリトラクタ装置96を設けている。図4、図12に示すように、該リトラクタ装置96は、フロアパネル6から斜め上方に立上るキックアップ部7において上述のリヤクロスメンバ20と対応する車体剛性の高い部位に取付けられている。
【0082】
一方、図4に示すように、フロアパネル6に近接するボディ側(車体内側壁)にはラップアンカ97を取付け、このラップアンカ97に固定保持されたシートベルト93(いわゆる、ウエビング)を、一旦ショルダアンカ94のベルトガイド孔に導びいた後に、このベルトガイド孔から下方に延びるシートベルト93を上述のリトラクタ装置96に接続したものである。
また、シートベルト93の中途部には中間タング部材98を設け、この中間タング部材98をシートクッション19C側のバックル(図示せず)に係合させた時、3点式シートベルト構造にて乗員を拘束するように構成したものである。
【0083】
ところで、図1に側面図で示すように、ドア55内部を前後方向に延びる上下の各ドアインパクトバー58,59のうち、上側のドアインパクトバー58の後端部が、側面視で上述のリヤサイドガセット90とオーバラップするように配設されており、車両の側突時には、側突荷重がドアインパクトバー58からリヤサイドガセット90およびリヤクロスメンバ20に伝達され、荷重分散により、側突耐力の大幅な向上を図るように構成している。
【0084】
このように、図1〜図14で示した実施例の車両用シートベルト配設構造は、車室1内に配設された乗員用シート19の前方において車幅方向に延び、車室1前部のフロントウインドウ2の上辺を支持する強度部材であるフロントヘッダ3と、該フロントヘッダ3の後方に連なって車室1上部を形成するルーフ部ROとが設けられ、上記ルーフ部ROが開閉可能に支持されたオープンカーの車両用シートベルト配設構造であって、上記乗員用シート19と、上記車室1の後端を仕切るリヤバルクヘッド13と、車室1側部を形成するリヤサイドパネル(リヤクオータパネルインナ37参照)の間には、上記ルーフ部ROが開放した時、該ルーフ部ROを格納するルーフ格納空間14が設けられると共に、上記リヤバルクヘッド13から上方に延びるリヤサイドガセット90を設け、該リヤサイドガセット90に、上記乗員用シート19に着座する乗員用シートベルト93のショルダアンカ94を固定したものである(図1、図4参照)。
【0085】
この構成によれば、従前のクロスバーを廃止して、乗員用シート19とリヤバルクヘッド13とリヤサイドパネル(リヤクオータパネルインナ37参照)との間にルーフ格納空間14を設けたので、ルーフ格納空間14にルーフ部ROを格納するタイプの車両(オープンカー)において、ルーフ格納空間14を確保することができる。
また、リヤバルクヘッド13から上方に延びるリヤサイドガセット90に対して上記ショルダアンカ94を固定したので、シートベルト93のショルダアンカ94の配設が可能となり、ルーフ格納空間14の確保と、ショルダアンカ94の配設とを両立することができる。さらに、上記リヤサイドガセット90により車体剛性の向上を図ることができる。
しかも、上記ショルダアンカ94は補強部材としてのリヤサイドガセット90に固定したものであるから、該ショルダアンカ94の強度確保を図ることができる。
【0086】
さらに、上記リヤサイドガセット90は、上記リヤバルクヘッド13の側部と上記リヤサイドパネル(リヤクオータパネルインナ37参照)との両者に接続されて閉断面91を形成し上方に延びる形状に形成されたものである(図12参照)。
この構成によれば、リヤサイドガセット90の閉断面構造により、車体剛性のさらなる向上を図ることができると共に、該リヤサイドガセット90の強度向上により、上記ショルダアンカ94の支持強度の向上を図ることができる。
【0087】
また、上記リヤサイドガセット90には、該リヤサイドガセット90に前部が接続されて後方に延びるショルダアンカブラケット92が設けられ、該ショルダアンカブラケット92に上記ショルダアンカ94が設けられたものである(図4参照)。
この構成によれば、上記リヤサイドガセット90に接続されて後方に延びるショルダアンカブラケット92に対してショルダアンカ94を設けたので、乗員に対する適切な位置でのシートベルト93装着角度の確保と、ショルダアンカ94の支持剛性確保との両立を図ることができる。
【0088】
加えて、上記リヤバルクヘッド13には車幅方向に延びるリヤクロスメンバ20が設けられ、上記リヤサイドガセット90は該リヤクロスメンバ20の車幅方向側端部に対応した位置に設けられたものである(図4参照)。
この構成によれば、リヤクロスメンバ20とリヤサイドガセット90との相乗効果により、車体剛性のさらなる向上を図ることができると共に、車両の側面衝突時には、その側突荷重がリヤサイドガセット90からリヤクロスメンバ20に伝達されるので、側突耐力に向上を図ることができる。
【0089】
また、上記乗員用シートベルト93を非使用時に巻取るリトラクタ装置96が、フロアパネル6から立上るキックアップ部7に取付けられたものである(図4参照)。
この構成によれば、スペース的に適切な位置にリトラクタ装置96を配置することができると共に、該リトラクタ装置96の支持剛性確保を図ることができる。
ここで、実施例で開示したように、上記リトラクタ装置96を、キックアップ部7におけるリヤクロスメンバ20の車幅方向に延びる閉断面21と対応した位置に配置すると、該リトラクタ装置96は閉断面21により剛性が高められた箇所に設けられるので、リトラクタ装置96の支持剛性をさらに向上させることができる。
【0090】
さらに、上記リヤバルクヘッド13の後方の車体リヤデッキ部26の上方にはロール保護部材27が配設され、該ロール保護部材27の上端と、上記フロントヘッダ3の上端とを結んだ線Lが車室1内の乗員Xを保護可能になるよう上記ロール保護部材27の高さが設定されているものである(図1参照)。
この構成によれば、ロール保護部材27をリヤバルクヘッド13後方の車体リヤデッキ部26の上方に設け、かつ、該ロール保護部材27上端とフロントヘッダ3上端とを結ぶ線Lが、車室1内の乗員Xを保護するように、該ロール保護部材27の高さを設定したので、このロール保護部材27の上下方向の寸法を小さくし、その小型化を図って、該ロール保護部材27の軽量化を図ることができる。
【0091】
また、ルーフ部ROをオープン状態に開放し、かつ車両が転倒した場合には、フロントヘッダ3とロール保護部材27とで車両を支持することができて、乗員Xの安全性を確保することができる。
しかも、上記ロール保護部材27を車体リヤデッキ部26の上方に設けたので、ロールバーがシートバック背面に設けられた従来構造と比較して、車室1内空間の拡大を図ることができ、この車室内空間の拡大と、ロール保護部材27の配設とが両立できる。この結果、上記車室1内空間の拡大により、車室1を広く活用することができると共に、ロール保護部材27の配設により、確実に乗員保護を図ることができる。
加えて、上記ロール保護部材27の上下方向の寸法が小さくなるので、デザイン的な見映えの向上を図ることができると共に、後方視界の拡大を図ることもできる。
【0092】
図15はリヤサイドガセット90の他の実施例を示し、図15に示すこの実施例では図13の構造に加えて、該リヤサイドガセット90に車幅方向に延びる複数のビード90m・・・を一体形成したものである。
このように、複数のビード90mを一体形成すると、部品点数の増加を招くことなく、リヤサイドガセット90の強度向上を図ることができ、特に、側突耐力のさらなる向上を図ることができる。
【0093】
図15に示すリヤサイドガセット90を用いても、その他の構成、作用、効果については図1〜図14で示した先の実施例と同様であるから、図15において前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0094】
図16〜図18は車両用ルーフ開閉構造の他の実施例を示し、図16はルーフ閉成(クローズ)時の側面図、図17はルーフ部ROの開閉中途状態を示す側面図、図18はルーフ開成(オープン)時の側面図である。
【0095】
図1〜図14で示した先の実施例においては、ロアリンク73Aとして側面視L字状のものを用いたが、図16〜図18に示すこの実施例では、ロアリンク73Aとして側面視直線状のものを用いている。
【0096】
このように構成するとロアリンク73Aの構造の簡略化、軽量化およびコストダウンを図ることができる。なお、図16〜図18で示すこの実施例においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、図16〜図18において前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0097】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のリヤサイドパネルは、実施例のリヤクオータパネルインナ37に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0098】
1…車室
2…フロントウインドウ
3…フロントヘッダ
6…フロアパネル
7…キックアップ部
13…リヤバルクヘッド
14…ルーフ格納空間
19…乗員用シート
20…リヤクロスメンバ
26…リヤデッキ部(車体リヤデッキ部)
27…ロール保護部材
37…リヤクオータパネルインナ(リヤサイドパネル)
90…リヤサイドガセット
91…閉断面
92…ショルダアンカブラケット
93…シートベルト(乗員用シートベルト)
94…ショルダアンカ
96…リトラクタ装置
RO…ルーフ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内に配設された乗員用シートの前方において車幅方向に延び、車室前部のフロントウインドウの上辺を支持する強度部材であるフロントヘッダと、
該フロントヘッダの後方に連なって車室上部を形成するルーフ部とが設けられ、
上記ルーフ部が開閉可能に支持された
オープンカーの車両用シートベルト配設構造であって、
上記乗員用シートと、上記車室の後端を仕切るリヤバルクヘッドと、車室側部を形成するリヤサイドパネルの間には、上記ルーフ部が開放した時、該ルーフ部を格納するルーフ格納空間が設けられると共に、
上記リヤバルクヘッドから上方に延びるリヤサイドガセットを設け、
該リヤサイドガセットに、上記乗員用シートに着座する乗員用シートベルトのショルダアンカを固定した
車両用シートベルト配設構造。
【請求項2】
上記リヤサイドガセットは、上記リヤバルクヘッドの側部と上記リヤサイドパネルとの両者に接続されて閉断面を形成し上方に延びる形状に形成された
請求項1記載の車両用シートベルト配設構造。
【請求項3】
上記リヤサイドガセットには、該リヤサイドガセットに前部が接続されて後方に延びるショルダアンカブラケットが設けられ、
該ショルダアンカブラケットに上記ショルダアンカが設けられた
請求項1または2記載の車両用シートベルト配設構造。
【請求項4】
上記リヤバルクヘッドには車幅方向に延びるリヤクロスメンバが設けられ、
上記リヤサイドガセットは該リヤクロスメンバの車幅方向側端部に対応した位置に設けられた
請求項1〜3の何れか1に記載の車両用シートベルト配設構造。
【請求項5】
上記乗員用シートベルトを非使用時に巻取るリトラクタ装置が、フロアパネルから立上るキックアップ部に取付けられた
請求項1〜4の何れか1に記載の車両用シートベルト配設構造。
【請求項6】
上記リヤバルクヘッドの後方の車体リヤデッキ部の上方にはロール保護部材が配設され、
該ロール保護部材の上端と、上記フロントヘッダの上端とを結んだ線が車室内の乗員を保護可能になるよう上記ロール保護部材の高さが設定されている
請求項1〜5の何れか1に記載の車両用シートベルト配設構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−167872(P2010−167872A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11506(P2009−11506)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】