説明

転動装置、及びこれを用いた空気圧縮機、ターボチャージャ

【課題】良好な潤滑性を維持しつつ、軸受等におけるはく離の発生を抑えて耐久性が向上した転動装置、及びこれを用いた空気圧縮機、ターボチャージャを提供する。
【解決手段】外面に軌道面1を有する内方部材2と、該内方部材2の軌道面1に対向する軌道面3を有し前記内方部材2の外方に配置された外方部材4と、前記両軌道面の間に転動自在に配設された複数の転動体5と、を備え、基油としてイオン性流体を含むグリース組成物が封入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑性に優れた転動装置(例えば、コンプレッサーなどの電装品などに使用する高温、高速回転を伴うニードル状軸受、及び直動装置、特に転動部位に潤滑が施された直動装置)、空気を吸入圧縮し送り出す空気圧縮機、特に潤滑寿命の延長された空気圧縮機、前記転動装置が組み込まれたターボチャージャ、及び基油としてイオン性流体を含むグリースをあたり面に塗布したオイルフィルムダンパが組み込まれたターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の軸受潤滑剤には、潤滑油またはグリースを使用している。その潤滑剤の主成分となる基油には、鉱物油やポリαオレフィン油、エステル油、シリコーン油、フッ素油などの合成油を挙げることができる。しかし、省エネルギーから低摩擦、低粘化の要求と、電装品等は小型化高性能化により耐高温化の要求が高まっている。特にニードル状コロ軸受は、玉軸受と比べ接触面が大きいため、耐摩耗性に優れた物、また潤滑剤としても低トルクの物が好ましい。
【0003】
一方、軸受の潤滑剤に、常温溶融塩であるイオン性液体も、使用、応用されている(非特許文献1〜6および特許文献1、2)。この常温溶融塩であるイオン性液体は、様々な有機イオンの組合せによって低粘度で、優れた熱安定性が得られることが分かってきている。
【0004】
また、化学プラント、産業機械等では、圧縮性流体の圧縮や送風に多様の圧縮機や送風機が用いられており、その回転軸は深溝玉軸受の転がり軸受により支持されることが多い。転がり軸受としては、組立性やメンテナンス性等に優れることから、密封玉軸受が一般的に用いられている。ここで使用される電動モータを駆動源としてプーリベルト、プーリを介して偏心させたクランクシャフトから往復直線運動へ変えるピストンコンロッド部の軸受は、低速回転でグリース膜形成状態が悪く、偏心しているシャフトとコンロッドを支持する。この為、変動荷重がかかり、尚且つ、環境によっては空気を圧縮する際に空気に含まれる水分が結露しやすい条件下になることがある。このような環境に曝された場合、凝集結露を起こし、軸受に付着したり、潤滑剤中に混入したりすることも考えられる。特開平11−72120号公報では、浸入水分により発生した水素が軸受鋼中に侵入して水素脆性による白色組織変化を伴ったはく離を引き起こすことを述べている(特許文献3)。このようなはく離を引き起こすことなく潤滑寿命の長い空気圧縮機が望まれていた。
【0005】
また、リニアガイド、リニアベアリング、及び、ボールねじ装置などの直動装置は、例えば半導体製造装置内部に配設される搬送系装置に用いられることがある。これらは、真空環境下あるいはクリーンルーム等の清浄雰囲気中で使用され、動作円滑性、高耐久性などに加え、低発塵性が要求される。
【0006】
従来においては、直動装置の転動部位に潤滑剤を塗布・封入することにより、転動体及び転動体と接触する部位の摩耗を防ぎ、動作の円滑性を保っている。また、発塵等による汚染がほとんど許容されない前述の真空環境下等で用いられる直動装置においては、極めて揮発性が低いフッ素系潤滑油を基油としたフッ素系グリースを用いることにより、直動装置外部に飛散あるいは蒸発する潤滑剤の量を抑制している。
【0007】
特許文献4には、基油としてフッ素系潤滑油と、増ちょう剤としてポリテトラフルオロエチレンと、を含有するフッ素系グリースが、示されている。さらに、特許文献5及び6には、フッ素系グリースを封入して用いる転動装置の例が示されている。
一方、特許文献1には、常温溶融塩であるイオン性液体は、様々な有機イオンの組合わせによって低粘度であるため、優れた熱安定性が得られることが示されている。
【0008】
しかしながら、上記フッ素系グリースを使用した場合には、外部への飛散を抑制するためフッ素系グリースの使用量を少量にする必要があるが、この場合潤滑作用の不足や耐久性の低下が起きる場合がある。
また、従来技術においては、イオン性液体を用いることに配慮されているが、直動装置からの発塵を防止することには配慮されていない。
【0009】
また、エンジンの出力を排気量を変えずに増大させる為、エンジンに送り込む空気を排気のエネルギにより圧縮するターボチャージャが、広く使用されている。このターボチャージャは、排気のエネルギを排気通路の途中に設けたタービンにより回収することで、このタービンに嵌合した回転軸が回転し、これによりこの軸の多端に取付けられたコンプレッサのインペラを回転させる。このインペラは、エンジンの運転に伴って数万乃至は十数万min-1 (r.p.m.)の速度で回転し、上記給気通路を通じてエンジンに送り込まれる空気を圧縮する。
【0010】
図6は、特開2003−83342号公報に示されたターボチャージャの1例を示している(特許文献7)。このターボチャージャは、排気流路1を流通する排気により、回転軸2の一端(図6の左端)に固定したタービン3を回転させる。この回転軸2の回転は、この回転軸2の他端(図6の右端)に固定したインペラ4に伝わり、このインペラ4が給気流路5内で回転する。この結果、この給気流路5の上流端開口から吸引された空気が圧縮されて、ガソリン、軽油等の燃料と共にエンジンのシリンダ室内に送り込まれる。この様なターボチャージャの回転軸2は、数万〜十数万min-1 もの高速で回転し、しかも、エンジンの運転状況に応じてその回転速度が頻繁に変化する。従って、上記回転軸2は、請求項に記載した軸受ハウジング部に相当する軸受ハウジング6に対し、小さな回転抵抗で支持する必要がある。
【0011】
この為に従来から、上記軸受ハウジング6の内側に上記回転軸2を、請求項に記載した転がり軸受に相当する第一、第二の玉軸受7,8により、回転自在に支持している。これら第一、第二の玉軸受7,8は、図7に示す様なアンギュラ型玉軸受であって、これら第一、第二の玉軸受7,8の構成は、基本的には同じである。この様な第一、第二の玉軸受7,8は、内周面に外輪軌道9を有する外輪10と、外周面に内輪軌道11を有する内輪12と、これら外輪軌道9と内輪軌道11との間に転動自在に設けられた複数個の玉13とを備える。又、これら各玉13は、円環状の保持器14に設けた複数のポケット15内に、それぞれ1個ずつ転動自在に保持している。又、図示の例の場合には、上記内輪12を、片側の肩部をなくした、所謂カウンタボアとしている。又、上記保持器14の外周面を、上記外輪10の内周面に近接対向させる事により、この保持器14の直径方向位置をこの外輪10により規制する、外輪案内としている。
【0012】
更に、上記軸受ハウジング6を納めたケーシング18内に給油通路19を設け、この軸受ハウジング6並びに上記第一、第二の玉軸受7、8を冷却及び潤滑自在としている。即ち、ターボチャージャを装着したエンジンの運転時に潤滑油は、上記給油通路19の上流端に設けたフィルタ20により異物を除去されて、上記ケーシング18の内周面と上記軸受ハウジング6の外周面との間に設けた、円環状の隙間空間21に送り込まれる。尚、この隙間空間21は、上記軸受ハウジング6とケーシング18との嵌合を隙間嵌にする事により設けている。そして、この隙間空間21を上記潤滑油で満たす事により、上記軸受ハウジング6の外周面と上記ケーシング18の内周面との間に全周に亙って油膜(オイルフィルム)を形成し、これらケーシング18及び軸受ハウジング6を冷却すると共に、上記回転軸2の回転に基づく振動を減衰する、オイルフィルムダンパを構成している。更に、上記隙間空間21に送り込まれた潤滑油の一部は、上記外輪10に隣接する押圧環17に設けたノズル孔22から、上記第一の玉軸受7を構成する内輪12の外周面に向け、径方向外方から斜めに噴出し、この第一の玉軸受7を冷却及び潤滑(オイルジェット潤滑)する。この様にして第一の玉軸受7に送り込まれた潤滑油は、この第一の玉軸受7の他、上記第二の玉軸受8も冷却及び潤滑してから、排油口23より排出される。
【0013】
このような仕組みとなっているため、運転時はエンジンオイルの循環が常にされていることから潤滑不良に陥ることは無いが、運転に至るまでの初期段階では潤滑油が不足しやすくなる。そのため軸受内及びダンパ部での油膜の介在が十分で無く、金属接触による摩耗等の潤滑不良が起きてしまうことがある。
【0014】
さらにターボチャージャはエンジンオイルにより軸受の潤滑を行うため、その構造によってはエンジンの急停止によって軸受に潤滑油が供給されなくなる事がある。このヒートソークバックに伴い、軸受部が高温になることがあり、これに耐えられるような基油が必要となっている。
【0015】
このため、エンジン油により潤滑が行われる前の軸受内における潤滑剤不足の解消と、運転初期における潤滑の補助、及びエンジン油によるダンパ機能が発揮される前の、ダンパの当たり部の直接接触を避けるための対策が要望されている。さらにヒートソークバック時にも蒸発や酸化を抑えることができるグリース基油が要望されている。
【非特許文献1】社団法人 日本トライボロジー学会 予稿集 東京2004-5 p163-p164
【非特許文献2】社団法人 日本トライボロジー学会 予稿集 東京2004-5 p165-p167
【非特許文献3】機能材料 シーエムシー出版 2004年11月号 p63-68
【非特許文献4】社団法人 日本トライボロジー学会 予稿集 鳥取2004-11 p569-p570
【非特許文献5】社団法人 日本トライボロジー学会 予稿集 鳥取2004-11 p571-p572
【非特許文献6】トライボロジスト Vol.50 No.3 2005 p208
【特許文献1】特開2004−183868号公報
【特許文献2】特開2005−154755号公報
【特許文献3】特開平11−72120号公報
【特許文献4】特開平1−284542号公報
【特許文献5】特開2003−13974号公報
【特許文献6】特開2002−357225号公報
【特許文献7】特開2003−83342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、良好な潤滑性を維持しつつ、軸受等におけるはく離の発生を抑えて耐久性を向上させた転動装置を提供することを第1の目的とする。
【0017】
また、本発明の第2の目的は、潤滑寿命の延長された空気圧縮機を提供することにある。
【0018】
さらに、本発明の第3の目的は、耐熱性および耐摩耗性に優れたニードル状ころ軸受を提供することにある。
【0019】
さらに、本発明の第4の目的は、低発塵でかつ長寿命の直動装置を提供することにある。
【0020】
さらに、本発明の第5の目的は、初期においては潤滑に寄与するエンジンオイルの循環が不十分であるということから生じる軸受内への異物の侵入や、それに伴う軸受の摩耗や圧痕、またダンパ部の当たり部の摩耗の抑制されたターボチャージャを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、下記発明を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【0022】
1.外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配置された外方部材と、前記両軌道面の間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備え、基油としてイオン性流体を含むグリース組成物が封入された転動装置。
【0023】
2.前記イオン性流体が、脂肪族アミン系、脂環式アミン系、イミダゾリウム系、及びピリジン系からなる群より選択されるカチオンを含むイオン性液体である、前記1記載の転動装置。
【0024】
3.前記グリース組成物が、更に、増ちょう剤を含む、前記1又は2記載の転動装置。
【0025】
4.前記グリース組成物が、更に、酸化防止剤及び防錆剤としてカルボン酸及びカルボン酸塩、エステル系化合物及びアミン系化合物から選択される2種以上を含有する、前記1〜3の何れかに記載の転動装置。
【0026】
5.前記転動装置が、空気圧縮機用転がり軸受である、前記1〜4の何れかに記載の転動装置。
【0027】
6.前記転動装置が、ニードル状ころ軸受である、前記1〜4の何れかに記載の転動装置。
【0028】
7.前記転動装置が、直動装置である、前記1〜4の何れかに記載の転動装置。
【0029】
8.回転軸心を通るようにシリンダ室が形成され上記回転軸心を中心として回転する回転シリンダと、コンロッドを有し且つ上記シリンダ室内を面接触して往復直線運動するピストンと、上記ピストンを保持し且つ上記回転シリンダ部材の回転軸心から偏心した回転中心を中心として回転するピストン保持部材と、が収容されると共に流体の入口と流体の出口を備え、前記ピストンのコンロッドを回転支承する転がり軸受として、前記5記載の転動装置としての転がり軸受を設けた空気圧縮機。
【0030】
9.前記1〜4記載の転動装置が取付けられたターボチャージャ。
【0031】
10.基油としてイオン性流体を含むグリース組成物を当たり部に塗布したターボチャージャ。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、良好な潤滑性を有し、軸受等におけるはく離の発生を抑えて耐久性が向上した転動装置を提供することができる。
【0033】
また、本発明によれば、潤滑寿命の延長された空気圧縮機を提供することができる。
【0034】
また、本発明によれば、耐熱性と耐摩耗性に優れたニードル状ころ軸受の実現が可能となる。特に、コンプレッサーなどの電装品等、高温、高速回転を伴う用途に有用なニードル状ころ軸受を提供することができる。
【0035】
また、本発明によれば、潤滑剤の基油にイオン性流体を用いると、その低蒸発性によって、従来のグリースを用いた場合よりも発塵量を少なくすることができる。この結果、従来のグリースよりも使用量を増やすことができるため、潤滑性を確保して長寿命を達成した直動装置を提供することができる。
【0036】
また、本発明によれば、グリース組成物を封入した軸受を組み込んだターボチャージャ又は、グリース組成物を塗布したダンパを組み込んだターボチャージャを使用することにより、エンジンオイルで通常に潤滑するまで軸受部における摩耗や圧痕等、またダンパの当たり部における油膜切れによる直接接触を防ぐことができる。さらにヒートソークバック時の高温時にも蒸発が少なく、潤滑性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明について、その好ましい実施形態に基づき説明する。
【0038】
〔転動装置〕
本発明の転動装置は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配置された外方部材と、前記両軌道面の間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備え、基油としてイオン性流体を含むグリース組成物が封入されたものである。
【0039】
本発明の転動装置は、かかる構成からなるため、潤滑性を有し、はく離の発生が抑えられ、耐久性を有するものである。
【0040】
本発明の転動装置としては、例えば、空気圧縮機用転がり軸受、ニードル状ころ軸受、 直動装置等が好適態様として挙げられる。
【0041】
本発明に用いられるグリース組成物中のイオン性流体は、その種類に制限されるものではないが、例えば、脂肪族アミン系、脂環式アミン系、イミダゾリウム系、ピリジン系等のカチオン(下記式に示す)を含む各イオン性液体を挙げることができる。
【0042】
【化1】

【0043】
上記各式中、Rはアルキル基またはアルコキシ基を示す。同一分子中に含まれる複数のRは同一でも異なっていてもよい。カチオンの対イオンであるアニオン(X-)としては、例えば、BF4-,PF6-,[(CF3SO22N]-,Cl-,Br- 等を挙げることができる。
【0044】
特に、イミダゾリウム系カチオンを用いたイオン液体が好ましく、さらにはイミダゾリウム系カチオンに含まれるR(炭素鎖長)を長くすることが好ましい。炭素数としてはC2以上の組合せが好ましい。特に側鎖炭素鎖長を伸ばすことで、イオン間の静電気相互作用が弱まり流動点が下がる。一方、炭素鎖の分子間相互作用が働き、動粘度を増加させることができることから、幅広い温度領域での使用が可能となる。
【0045】
また、イオン性液体は、イオンのみからなる液体であり、高イオン伝導性を有している。このため、潤滑剤としてのグリース組成物に通電することが出来る事で、水の電気分解による水素イオンの発生を抑え、水素イオンが原因の白色はく離を抑えることが可能となる。
【0046】
上記Rが示すアルキル基またはアルコキシ基におけるアルキル基部分の炭素数が多く分子量が大きい程、動粘度が大きくなる。40℃動粘度は、およそ12mm2/s〜260mm2/s程度のものが知られる。このため、上記のイオン性液体を単独又は組合せることによって、適切な粘度の基油を得ることができる。
【0047】
また、融点が−45℃以下のイオン性液体も実在し、潤滑油としてのグリース組成物の使用範囲を十分満たしている。
【0048】
本発明に係るグリース組成物には、前述のイオン性液体のほかに、軸受用のグリース組成物として一般に用いられる各種の成分を含むことができる。本発明のグリース組成物には、増ちょう剤を含むことができる。
【0049】
本発明では、増ちょう剤として、基油中にコロイド状に分散して、基油を半固体または固体状にする物質を使用することができる。このような増ちょう剤としては、例えば、リチウム石鹸系、カルシウム石鹸系、ナトリウム石鹸系、アルミニウム石鹸系、リチウムコンプレックス石鹸系、カルシウムコンプレックス石鹸系、ナトリウムコンプレックス石鹸系、バリウムコンプレックス石鹸系、アルミニウムコンプレックス石鹸系の金属石鹸、ベントナイト系、クレイ系の無機化合物、モノウレア系、ジウレア系、トリウレア系、テトラウレア系、ウレタン系、ナトリウムテレフタラメート系の有機化合物などが挙げられる。これらの中でも、リチウム石けん系が好適に用いることができる。これらの増ちょう剤を1種以上配合することができる。
【0050】
本発明に係るグリース組成物における増ちょう剤の含有量は、好ましくは3〜40重量%であり、更に好ましくは5〜25重量%である。増ちょう剤は、かかる割合で基油中に分散される。3重量%より少ないとグリース状態を維持することは困難となり、また、40重量%より多くなると硬くなりすぎて十分な潤滑状態を発揮することができない。
【0051】
また、ちょう度は混和ちょう度で好ましくは220〜395の範囲であり、更に好ましくは265〜350の範囲である。220より小さいと硬くなりすぎて十分な潤滑効果が期待できず、395より大きいと軸受内部より漏洩する恐れがある。
【0052】
本発明のグリース組成物は、酸化防止剤及び防錆剤としてカルボン酸及びカルボン酸塩、エステル系化合物、アミン系化合物から選択される2種以上を含有することが好ましい。
【0053】
アミン系化合物としては、潤滑油や樹脂の酸化防止剤として用いられる任意の芳香族アミン系化合物が使用可能であり、特に限定されるものではないが、α-ナフチルアミン類及びジフェニルアミン類が好ましく、具体的には下記一般式(II)で表されるα-ナフチルアミン類及び下記一般式(IV)で表されるジフェニルアミン類から選ばれる1種または2種以上の芳香族アミンが好ましいものとして挙げられる。
【0054】
【化2】

(式中、R17は水素原子または下記一般式(III)で表される基を示す。)
【0055】
【化3】

(式中、R18は水素原子または炭素数16以下のアルキル基を示す。)で表される基を示す。
【0056】
【化4】

(式中、R19,R20は同一でも異なっても良く、各々水素原子または炭素数1〜16のアルキル基を示す。)
【0057】
まず、一般式(II)で表されるα-ナフチルアミン類について説明する。
一般式(II)においてR17は水素原子または一般式(III)に表される基であり、好ましくは一般式(III)で表される基である。
【0058】
一般式(III)で表される基においてR18は水素原子または炭素数1〜16の直鎖若しくは分岐状のアルキル基を示す。R18で示されるアルキル基としては例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、及びヘキサデシル基等(これらのアルキル基は直鎖状でも分岐状でも良い.)が挙げられるが、中でも炭素数8〜16の分岐アルキル基が好ましい。
【0059】
次に、一般式(IV)で表されるジフェニルアミンについて説明する.
一般式(IV)中のR19およびR20はそれぞれ独立に水素原子または炭素
数1〜16のアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜16のアルキル基である。R19,R20の一方または双方が水素原子の場合にはそれ自身の酸化によりスラッジとして沈降する恐れがある。
【0060】
R19,R20で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、及びヘキサデシル基等(これらのアルキル基は直鎖状でも分岐状でも良い。)が挙げられるが、中でも炭素数3〜16の分岐アルキル基が好ましい。
【0061】
また、上記一般式(II)、(IV)で表されるアミン系化合物の他、N−n−ブチル−p−アミノフェノール、4,4−テトラメチル-ジ-アミノジフェニルメタン、N,N−ジサリチルデン−1,2−プロピレンジアミン等のアミン系酸化防止剤を使用することが出来る。
【0062】
カルボン酸及びカルボン酸塩として、モノカルボン酸ではステアリン酸など、ジカルボン酸ではアルキルまたはアルケニルコハク酸及びその誘導体、ナフテン酸、アビエチン酸、ラノリン脂肪酸、アルケニルコハク酸のカルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉛などの金属塩が使用でき、特に、アルケニルコハク酸、ナフテン酸亜鉛が好適に使用される。エステル系として多価アルコールのカルボン酸部分エステルではソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ペンタエリスリットモノオレエートやコハク酸ハーフエステルなどが挙げられ、特にソルビタンモノオレエート、コハク酸ハーフエステルが好適に使用される。アミン系としてアミン誘導体ではアルコキシフェニルアミン、二塩基性カルボン酸の部分アミド等が好ましく使用される。
【0063】
また、本発明に係るグリース組成物には、さらに極圧に対する作用と耐はく離の両方を兼ねた添加剤として金属ジチオカーバメイト、または耐はく離性に優れる導電性物質としてカーボンブラックを含むことが好ましい。金属ジチオカーバメイトの含有量は好ましくは1〜10重量%であり、カーボンブラックの含有量は好ましくは2〜10重量%である。
【0064】
またこれらに加え、はく離防止のためのZnDTC等の金属ジチオカーバメイト(好ましい添加量は1〜10重量%)、他にリン系やジチオリン酸亜鉛、有機モリブデンなどの極圧剤、脂肪酸や動植物油などの油性向上剤、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性化剤などを、本発明の目的を損なわない程度であれば適宜添加することができる。
【0065】
〔空気圧縮機用転がり軸受〕
本発明の空気圧縮機用転がり軸受は、その一実施形態として、図1に示す転がり軸受を挙げることができる。
【0066】
この実施形態の転がり軸受は、図1に示すように、外面に内輪軌道面1を有する内輪2と、該内輪2の内輪軌道面1に対向する外輪軌道面3を有し前記内輪2の外方に配置された外輪4と、前記両軌道面1,3の間に転動自在に配設された複数の玉5と、シール部材6と、保持器7と、を備え、基油にイオン性液体を含んでなるグリース組成物が封入されたものである。本転がり軸受におけるグリース組成物は、前述した転動装置における実施形態のグリース組成物が用いられる。
かかる転がり軸受によれば、空気圧縮機に用いることにより、その潤滑寿命を延長させることができる。
【0067】
〔空気圧縮機〕
本発明に係る空気圧縮機は、その一実施形態として、図2に示す空気圧縮機を挙げることができる。
【0068】
この実施形態の空気圧縮機は、図2に示すように、シリンダ室11がシリンダ13とコンロッド9を有し且つ上記シリンダ室内を面接触して往復直線運動するピストン10と、上記ピストン10を保持し且つ上記回転シリンダ部材の回転軸心から偏心した回転中心を中心として回転するピストン保持部材14と、が収容されると共に流体の入口aと流体の出口bを備え、前記ピストン10のコンロッド9を回転支承する転がり軸受8として、前述した、転動装置における実施形態のグリース組成物が封入された転がり軸受を設けたものである。
かかる空気圧縮機は、潤滑寿命が延長されたものである。
【0069】
〔ニードル状ころ軸受〕
本発明においては、転動装置の好ましい態様として、ニードル状ころ軸受を提供することができる。
【0070】
本発明に係るニードル状ころ軸受の使用例としては、図3に示すコンプレッサ(特開2004−301225号公報に開示の図4)等が挙げられる。
【0071】
図3に示すコンプレッサは、燃料電池のカソード側へ圧縮空気を供給するスクロール式コンプレッサである。
【0072】
このスクロール式コンプレッサは、圧縮機構部10とクランク機構部20と駆動モータ部30とからなる。圧縮機構部10は、固定スクロール11と旋回スクロール12とからなり、両スクロール11,12で形成される空間が圧縮室として機能する。固定スクロール11の基盤111の中央には、燃料電池のカソード(酸素極)に向かう吐出口111aが設けてある。旋回スクロール12の中央部には有底円筒状の凹部121が設けてある。
【0073】
クランク機構部20は、旋回スクロール12に旋回(公転)運動を行わせる駆動クランク機構21と、旋回スクロール12の自転を防止する従動クランク機構22とからなる。駆動クランク機構21は、旋回スクロール12の凹部121と、モータ主軸40に対して偏心させて設けたクランクピン211と、クランクピン211を凹部121に対して回転自在に支持するニードル状ころ軸受212とからなる。ニードル状ころ軸受212は、外輪212aところ212bと保持器212cとからなる。従動クランク機構22はボールカップリングからなる。
【0074】
駆動モータ部30は、センターハウジング31と、リアハウジング32と、それらの間に収納されたモータ33とで構成されている。モータ33のロータ33aがモータ主軸40に固定され、ステータ33bがセンターハウジング31に固定されている。
そして、モータ33に電力が供給されるとモータ主軸40が回転し、駆動クランク機構21を介して旋回スクロール12が固定スクロール11とかみ合いながら旋回する。これと同時に、両スクロール11,12で形成される空間に空気が吸入され、旋回スクロール12の旋回によって前記空間の容積が小さくなることで、吸入空気が圧縮されて吐出口111aから吐出される。この吐出口111aから吐出された圧縮空気が、燃料電池のカソードに供給される。
【0075】
このコンプレッサにおいては、ニードル状ころ軸受212は高温、高速回転を伴うものである。このため、軸受の良好な潤滑性および耐久性の向上が要求され、基油としてイオン性流体を含むグリース組成物が用いられる。
これにより、ニードル状ころ軸受212は、耐熱性および耐摩耗性に優れたものとなる。
【0076】
本発明に係るニードル状ころ軸受に用いられるグリース組成物については、特に詳述しない限り、前述した転動装置における実施形態のグリース組成物と同様である。従って、本ニードル状コロ軸受においても、前記グリース組成物中のイオン性液体等の成分が適宜適用される。
【0077】
また、ニードル状ころ軸受に用いられるグリース組成物においては、増ちょう剤は、基油を保持する能力があれば特に制約はない。高温下でのグリースの性状変化を抑えるために耐熱性の良好な増ちょう剤が好ましい。増ちょう剤としては、金属石けん、ウレア化合物等が挙げられる。
【0078】
金属石けんは、具体的にはステアリン酸リチウムや12−ヒドロキシステアリン酸リチウム等が挙げられる。また、複合化剤との共晶によって形成された金属複合石けんは、耐熱性に優れている。複合化剤としては、二塩基酸またはそのエステルの他にリン酸またはホウ酸、サルチル酸のような芳香族酸のリチウム塩があるが、グリースには二塩基酸を用いることが一般的である。二塩基酸としては、アジピン酸、スペリン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。
【0079】
また、ウレア化合物では、イソシアネートの末端基として芳香族系炭化水素、脂肪族系炭化水素、脂環式炭化水素主体のジウレア化合物が、好適である。
【0080】
用途によっては導電性カーボンブラック、グラファイト、ベントナイト、マイカ、ポリテトラフルオロエチレン等の固体微粒子の使用も可能である。ただ、固体微粒子の平均粒子径が2μmを超える場合、転がり軸受等に封入した際、軸受の振動に影響し、音響が過大になる恐れがあり好ましくない。
【0081】
増ちょう剤は50mass%を超えると、トルク過大や、油分の割合が少なくなり潤滑寿命を損ねる恐れがある。主に軸受用途であるため、グリースのちょう度(硬さ)は、200〜350程度が好ましい。200未満であるとグリースの流動が悪く、軸受トルクが安定しない恐れがある。また、350を超えると軸受などに封入した際、グリース漏洩を引き起こす恐れがある。
【0082】
また、ニードル状ころ軸受に用いられるグリース組成物には、適宜、従来から使用されている防錆剤や酸化防止剤、摩耗防止剤等の添加剤を混合することができる。このグリース組成物に用いられるイオン性液体は、アルコール等には溶解するが、ヘキサンには不溶である。グリース自体半固体性物質であるため、ニーダやミーリングによって均一混合することも可能であるが、添加剤は、イオン性液体に可溶であるものが好ましい。具体的には亜鉛ジチオホスフェート(Zn−DTP)やリン酸トリクレジル(TCP)、ジベンジルサルファイドが挙げられる。
【0083】
〔直動装置〕
本発明においては、転動装置の別の好ましい態様として、グリース組成物が封入された直動装置を提供することができる。
【0084】
本発明に係る直動装置に封入するグリース組成物については、特に詳述しない限り、前述した転動装置における実施形態のグリース組成物と同様である。従って、本直動装置においても、前記グリース組成物中のイオン性液体等の成分が適宜適用される。このため、該直動装置は、低発塵でかつ長寿命である。
【0085】
本発明に係る直動装置に封入するグリース組成物中の増ちょう剤は、前記ニードル状ころ軸受に用いた増ちょう剤と同様である。また、防錆剤や酸化防止剤、摩耗防止剤等の添加剤についても、ニードル状ころ軸受に用いたものと同様である。
【0086】
本発明に係る直動装置としては、具体的には、リニアガイド、リニアベアリング、及び、ボールねじ装置などが挙げられる。
【0087】
〔ターボチャージャ〕
本発明のターボチャージャは、その一実施形態として、前述した転動装置が取付けられたものが提供される。
【0088】
本発明のターボチャージャは、その別の実施形態として、前述した基油としてイオン性流体を含むグリース組成物を当たり部に塗布したものが提供される。
【0089】
本発明は、エンジン油により潤滑が行われる前の軸受内の循環を補助し、また同様にエンジン油によるダンパ機能が発揮される前の、ダンパの当たり部の直接接触を避けるための対策を提供するものである。さらに、本発明は、200℃を超えるような高温下においても蒸発が少なく、潤滑性を維持することができるグリース組成物を用いたターボチャージャを提供するものである。
【0090】
本発明のターボチャージャは、前述した転動装置が取付けられているか、または前述したグリース組成物を当たり部に塗布しているものである限り、特に制限されるものではない。
【0091】
本発明のターボチャージャのそれ以外の構造としては、図6に示される構造のもの等が一例として挙げられる。
【0092】
本発明は、例えば、一端部にタービンを、多端部にインペラをそれぞれ固定し、この回転軸の中間部をケーシング内に設けた軸受ハウジング部の内径側に、軸方向に隔離した2箇所に設置した1対の転がり軸受により回転自在に支持したターボチャージャ用回転支持装置を備えたものを好適に提供できる。
【0093】
そして、本発明においては、(1) 運転前の潤滑油不足の解消や、ならしの目的で初期の潤滑を補助するとともに、異物の侵入も防ぐために、エンジン油と親和性のあるグリースを軸受に封入する。
【0094】
(2)また、ケーシングとハウジング間もエンジンオイルによりダンパ機能をしているが、これの初期のダンパ機能を補助するために、この部位にもグリースを塗布する。
【0095】
(3)また、好ましくは上記(1)と(2)のグリースを同一とすることにより、グリース混合によるグリース性能の変化を防止し、かつ作業コストや油脂の管理コストを低減することができる。
【0096】
本発明に係るターボチャージャに封入するグリース組成物については、特に詳述しない限り、前述した転動装置における実施形態のグリース組成物と同様である。従って、本ターボチャージャにおいても、前記グリース組成物中のイオン性液体等の成分が適宜適用される。
【0097】
このグリース組成物に用いられる増ちょう剤としては、脂環族炭化水素基、脂肪族炭化水素基、または芳香族炭化水素を含むアミンと、各種のイソシアネートとの反応により生成されるウレア化合物が好適に用いられる。
【0098】
具体的に、増ちょう剤としては下記に一般式(I)で表されるジウレア化合物が使用できる。耐熱性に優れた増ちょう剤としてはジウレア化合物の他にトリウレア化合物、テトラウレア化合物、フッ素樹脂、粘土鉱物等が知られているが、トリウレア、テトラウレア化合物は高温(180℃位)でちょう度変化が大きく、せん断安定性も悪い。更に高温で放置されると重合物が発生しやすく、硬化しやすい性質を持っている。フッ素樹脂は高価であり、経時的な基油保持能力に劣る。また、粘土鉱物では音響性能に劣る等の各々欠点があり、本発明で提案される増ちょう剤のジウレア化合物は耐熱性があり、油保持性に優れ、安価で、音響特性が良く、自動車電装補機で使用される環境下で好適に使用出来る増ちょう剤である。
【0099】
1−NHCONH−R2−HNOCHN−R3 ・・・(I)
【0100】
式中、R2は炭素数6〜15の芳香族系炭化水素基を表し、R1,R3は炭化水素基または縮合炭化水素基を表し、同一でも異なっていてもよい。また、R1,R3において炭化水素基は脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基の何れでもよく、縮合炭化水素基の炭素数は好ましくは9〜19である。
【0101】
この一般式(I)で表されるジウレアは、基油中で、R2を骨格中に含むジイソシアネート1モルに対して、R1またはR3を骨格中に含むモノアミンを合計で2モルの割合で反応させることにより得られる。
【0102】
2を骨格中に含むジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビフェニレンジイソシアネート、ジメチルジフェニレンジイソシアネート、あるいはこれらのアルキル置換体等を好適に使用できる。
【0103】
1またはR3として炭化水素基を骨格中に含むモノアミンとしては、アニリン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、トルイジン、ドデシルアニリン、オクタデシルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ノニルアミン、エチルエキシルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ノナデシルアミン、エイコデシルアミン、オレイルアミン、リノレイルアミン、リノレニルアミン、メチルシクロヘキシルアミン、エチルシクロヘキシルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジエチルシクロヘキシルアミン、ブチルシクロヘキシルアミン、プロピルシクロヘキシルアミン、アミルシクロヘキシルアミン、シクロオクチルアミン、ベンジルアミン、ベンズヒドリルアミン、フェネチルアミン、メチルベンジルアミン、ビフェニルアミン、フェニルイソプロピルアミン、フェニルヘキシルアミン等を好適に使用できる。
【0104】
また、R1またはR3として縮合環炭化水素基を骨格中に含むモノアミンとしては、例えばアミノインデン、アミノインダン、アミノ−1−メチレンインデン、などのインデン系アミン化合物、アミノナフタレン(ナフチルアミン)、アミノメチルナフタレン、アミノエチルナフタレン、アミノジメチルナフタレン、アミノカダレン、アミノビニルナフタレン、アミノフェニルナフタレン、アミノベンジルナフタレン、アミノジナフチルアミン、アミノビナフチル、アミノ−1,2−ジヒドロナフタレン、アミノ−1,4−ジヒドロナフタレン、アミノテトラヒドロナフタレン、アミノオクタリンなどのナフタレン系アミノ化合物、アミノペンタレン、アミノアズレン、アミノヘプタレンなどの縮合二環系アミン化合物、アミノフルオレン、アミノ−9−フェニルフルオレンなどのアミノフルオレン系アミン化合物、アミノアントラレン、アミノメチルアントラセン、アミノジメチルアントラセン、アミノフェニルアントラセン、アミノ−9,10−ジヒドロアントラセンなどのアントラセン系アミン化合物、アミノフェナントレン、アミノ−1,7−ジメチルフェナントレン、アミノレテンなどのフェナントレンアミン化合物、アミノビフェニレン、アミノ−s−インダセン、アミノ−as−インダセン、アミノアセナフチレン、アミノアセナナフテン、アミノフェナレンなどの縮合三環系アミン化合物、アミノナフタセン、アミノクリセン、アミノピレン、アミノトリフェニレン、アミノベンゾアントラセン、アミノアセアントリレン、アミノアセアントレン、アミノアセフェナントリレン、アミノアセフェナントレン、アミノフルオランテン、アミノプレイアデンなどの縮合四環系アミン化合物、アミノペンタセン、アミノペンタフェン、アミノピセン、アミノペリレン、アミノジベンゾアントラセン、アミノベンゾピレン、アミノコラントレンなどの縮合五環系アミン化合物、アミノコロネン、アミノピラントレン、アミノビオラントレン、アミノイソビオラントレン、アミノオバレンなどの縮合多環系(六環以上)アミン化合物等が好適に用いられる。
【0105】
上記のような、脂肪族炭化水素基或いは脂環族炭化水素基、族炭化水素基の少なくとも1種類又は両方からなるジウレア化合物は本発明に係わるターボチャージャで使用される高温環境下で流動特性に優れ、初期の軸受での耐摩耗性や焼付き寿命の向上に有効である。エンジン油の泡立ちを考慮すると、脂環族ウレアが最も泡立ちが少なく、次に脂環族で、最も悪いものは芳香族であり、ウレアもジウレアのほうがポリウレアよりも泡立ちが少ないことから、増ちょう剤としては脂肪族系ジウレアが好ましい。
増調剤には少なくとも1種類又は両方からなるジウレア化合物が用いられる。
【0106】
また基油であるが、耐熱性に優れたイオン性液体を使用する。該イオン性液体としては、前述した実施形態のグリース組成物中のイオン性液体と同様の例が挙げられ、これらは、低粘度にも関わらず蒸発量が少なく、耐熱性にすぐれているため、好適に使用できる。
【0107】
更に、本発明のターボチャージャに用いられるグリース組成物においては、その各種性能をさらに向上させるため、所望により種々の添加剤を混合してもよい。特に本願発明の主用途に挙げられる自動車電装補機用軸受では良好な防錆性が要求されている。本願発明で使用される防錆剤としては、亜硝酸ナトリウム等の環境負荷物質は使用せず、カルボン酸及びカルボン酸塩、エステル系、アミン系が好適に使用される。具体的に、カルボン酸及びカルボン酸塩として、モノカルボン酸ではステアリン酸など、ジカルボン酸ではアルキルまたはアルケニルコハク酸及びその誘導体、ナフテン酸、アビエチン酸、ラノリン脂肪酸、アルケニルコハク酸のカルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉛などの金属塩が使用でき、特に、アルケニルコハク酸、ナフテン酸亜鉛が好適に使用される。エステル系として多価アルコールのカルボン酸部分エステルではソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ペンタエリスリットモノオレエートやコハク酸ハーフエステルなどが挙げられ、特にソルビタンモノオレエート、コハク酸ハーフエステルが好適に使用される。アミン系としてアミン誘導体ではアルコキシフェニルアミン、二塩基性カルボン酸の部分アミド等が好ましく使用される。
【0108】
その他の添加剤としては、アミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛などの酸化防止剤、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデンなどの極圧剤、脂肪酸、動植物油などの油性向上剤、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性化剤など、グリースで使用される添加剤を単独又は2種以上混合して用いることができる。なお、これら添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。
【0109】
この添加剤についても、基油に用いられているものと同一の配合とすれば、グリースと油が混合した際も、親和性が上がり好適であるといえる。
【0110】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜他の変更形態とすることができることは言うまでもない。
【0111】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれによって何ら制限されるものではない。
【0112】
〔実施例A〕
以下のイオン性液体を含むグリース組成物について評価を行い、その効果の確認を行った。
【0113】
【化5】

【0114】
○はく離試験
単列深溝玉軸受(内径φ35mm,外径72mm,幅17mm)に、試験グリースとして表1及び表2に示す基油および増ちょう剤を配合するとともに純水を4重量%混入させた実施例及び比較例の各グリース組成物4.0gを封入し、実機の圧縮機を想定した試験機にて、ラジアル方向の変動荷重を与えながら、室温雰囲気下、回転数700r/min連続回転させて試験を行った。規定の振動値より大きくなった場合、或いは規定時間に達した場合に試験を終了とした。試験後、軸受鋼材のはく離の有無について確認した。試験数はn=6で行った。
【0115】
はく離発生確率を下記式で算出した。
はく離発生確率=(はく離発生数/試験数)×100
【0116】
各例のグリース組成物を用いた場合のはく離発生率の結果を、動粘度、流動点とともに表1及び表2に示す。
【0117】
【表1】

【0118】
【表2】

【0119】
なお、表1及び表2に示す各例のグリース組成物には、アミン系酸化防止剤、エステル系防錆剤を各1重量%ずつ添加している。
【0120】
〔実施例B〕
表3に示す基油および増ちょう剤を含むグリースを調製し、以下の各試験により評価した。なお、本実施例では、基油として、下記IL−A〜Eのイオン性液体を用いた。
【0121】
・耐熱性を蒸発量試験により評価した。鋼板上に30mm×30mm、厚さ2mmのグリースを塗布し、180℃×300h放置させた。減少量が15質量%未満を○、15質量%以上を×とした。
【0122】
・耐摩耗試験は、直径10mmの軸受鋼球を鏡面に仕上げた平板に荷重59N、振幅と振動数は、0.7mm、10Hzで、80℃雰囲気で10分間行った。3回試験後の平均摩耗径を算出し、比較例1の値を1としその比で示す。
【0123】
・軸受トルクを呼び番号NA6903相当の軸受を使用しグリースを塗布し軸受単体のトルクを室温、荷重98N、内輪回転速度1800min-1で行った。比較例1の値を1としその比で示す。
【0124】
・軸受試験は、呼び番号 RNA6903相当の軸受にグリースを塗布し組み込み、雰囲気温度170℃、荷重600N、回転速度6000min-1で行った。途中、温度上昇とモータ電流値(トルク)上昇を起こした場合その時点を焼付き時間とした500h以上を○、それに満たさない場合×とした。
【0125】
【化6】

【0126】
【表3】

【0127】
軸受の材料としてはSUS440Cなどステンレス素材の使用は、錆などの耐腐食性能も兼ね備えることができるため、好ましい。
【0128】
また、軸受周辺部にリップ付きシールで高度な密閉構造を維持した場合、グリース状でなくても(増ちょう剤を含まない)本願実施例の基油を潤滑油に使用して構わない。
【0129】
〔実施例C〕
直動装置として、図4に示す構造のボールねじを用いた。外周面にらせん状のボールねじ溝12が形成されたボールねじ軸10と、内周面22に上記ボールねじ溝12に対抗するらせん状のボールねじ溝24が形成されたボールナット20と、対向する両ボールねじ溝間に転動自在に介装された多数のボール30と、それらのボール30を循環させるチューブ式循環路40とを備えている。
【0130】
チューブ式循環路40は、外形略コ字状のチューブからなり、その両端部42をそれぞれボールナット20を両ボールねじ溝12、24の接線方向に貫通するチューブ取付け孔29からボールナット20内のボール転動空間に差込み、止め金46でボールナット20の外面に固定されている。
【0131】
らせん状のボール転動空間を転動するボール30は、ボールねじ溝12,24を複数回回って移動してから、チューブ式循環路40の一方の端部42ですくい上げられてチューブ式循環路40の中を通り、他方の端部(図示せず)からボールナット20内のボール転動空間に戻る循環を繰り返すようになっている。
【0132】
ボールナット20の両端の開口部には円形の凹部26が形成されており、これに嵌着した円板状のシール部材28の内周面がボールねじ軸10の外周面およびボールねじ溝12の面に摺接してボール転動空間に封入されたグリースをシールする。
【0133】
この直動装置によれば、ボールねじ軸12とボールナット20とはボール30の転がりを介して接触することになるので、ボールナット20をボールねじ軸12に対して、小さい駆動力で相対的にらせん運動させることができる。
【0134】
発塵量測定装置の概略を図5に示す。軸径15mm、リード10mmのボールねじを用い、封入するグリースの種類を表4および表5に示す各実施例、比較例毎に変え、ボールねじからの発塵量を測定した。
【0135】
ボールねじにグリースを2.0ml封入し、1000min-1で回転させた。ボールねじは、その両端を支持軸受により軸支されており、その一端をカップリングを介して駆動モータに接続されている。
【0136】
この装置全体は密封された容器内に設置されており、ボールねじの支持軸受および駆動モータの軸には磁性流体シールを使用してこれからの発塵を防止している。そして、装置内に清浄空気を流して、試験開始から50時間後の1cfの体積中に含まれる粒径0.5μm以上の発塵粒子数をパーティクルカウンターで測定した。試験の判定は、次の基準で行った。
【0137】
発塵量500個以下 :〇 合格
発塵量501〜1000個 :△ 不合格
発塵量1001個以上 :× 不合格
【0138】
【表4】

【0139】
【表5】

【0140】
表4および表5中の基油(実施例)は、以下のイオン性液体を示す。
【0141】
【化7】

【0142】
以上、本発明に係る直動装置の一実施例として、ボールねじを挙げて説明したが、これに限らず、リニアガイド、リニアベアリング等の種々の直動装置に制限無く適用することができる。
【0143】
〔実施例D〕
表6及び7に示す供試試料を用いて以下の試験を行なった。その結果を同表に示す。
【0144】
1.四球試験
ASTMに起点された試験装置を用いて四球試験法によって行った。即ち、3つの試験球(玉軸受用鋼球、SUJ2 1/2”)を互いに接するように正三角形状に配置して固定し、その中心に形成された窪みの上にもう1つの試験球を載置し、これを回転させることで摩擦試験を行う。荷重は100kgfで、温度は100℃にて行った。
潤滑方法は本発明の通り、試験前にグリースを球に塗布し、さらに油も併用して行った試験と、油のみの試験をそれぞれ行った。
【0145】
試験に用いた潤滑油は40℃での動粘度が30cSt程度のものを用い、グリースの場合は増ちょう剤量が15%で、ちょう度を250前後に調製した。
試験はモータに過負荷がかかった時を焼付きとし、この焼付き時間を測定した。焼付き時間は比較例1の焼付き時間を1とし、他はこれに対する比の形(焼付き寿命比)で表した。
【0146】
2.摩耗試験
試験1と同様に4球試験機を用い、本発明の効果である初期の油不足での潤滑性改善の効果を確かめるため、4球試験機の初期潤滑油量を1/10にして試験を行った。荷重200kgf、温度100℃で20時間試験を行い、試験後の摩耗痕径を測定した。表6及び7の摩耗痕径は比較例1の摩耗痕径を1として、これに対する比の形(摩耗痕径比)で表した。
【0147】
3.基油蒸発試験
シャーレにグリース基油及びエンジン油を30g秤量し(グリースが無い場合はエンジン油のみ、グリースが有る場合は等量ずつ秤量)、そのまま200℃の恒温槽で放置し、300h後の減量を測定した。
【0148】
【表6】

【0149】
【表7】

【0150】
表6及び7中のイオン性液体及びジウレアの詳細は、次の通りである。
・イオン性液体 P14:広栄化学(株)製 ピリジニウム系イオン性液体
・イオン性液体 C3:広栄化学(株)製 脂環族系イオン性液体
ジウレアに結合する炭化水素基
・ジウレアA:C8(50%)+C18(50%)
・ジウレアB:C18(80%)+シクロヘキシル(20%)
・ジウレアC:シクロヘキシル(100%)
・ジウレアD:フェニル(100%)
なお、各表中の増ちょう剤の%は、グリース全量に対する%を示す。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明によれば、良好な潤滑性を有し、軸受等におけるはく離の発生を抑えて耐久性が向上した転動装置を提供することができる。
また、本発明によれば、潤滑寿命の延長された空気圧縮機を提供することができる。
また、本発明によれば、耐熱性と耐摩耗性に優れたニードル状ころ軸受の実現が可能となる。かかるニードル状ころ軸受は、コンプレッサーなどの電装品等、高温、高速回転を伴う用途に有用である。
また、本発明によれば、低発塵でかつ長寿命の直動装置を提供することができる。
また、本発明によれば、軸受内への異物の侵入や、それに伴う軸受の摩耗や圧痕、またダンパ部の当たり部の摩耗の抑制されたターボチャージャを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】本発明に係る空気圧縮機に使用される転がり軸受の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係る空気圧縮機の一例を示す断面図である。
【図3】本発明に係る転動装置の一実施形態であるニードル状ころ軸受を使用したスクロール式コンプレッサの一例を示す断面図である。
【図4】本発明に係る転動装置の一実施形態である直動装置としてのボールねじの一例を示す断面図である。
【図5】グリースを封入した図4のボールねじを評価するための発塵量測定装置を示す概略図である。
【図6】従来のターボチャージャの一例を示す断面図である。
【図7】図6に示すターボチャージャにおける第一、第二の玉軸受としてのアンギュラ型玉軸受を示す断面図である。
【符号の説明】
【0153】
(図1)1:内輪軌道面,2:内輪,3:外輪軌道面,4:外輪,5:玉,6:シール部材,7:保持器,
(図2)8:コンロッド支承転がり軸受,9:コンロッド,10:ピストン ,11:シリンダ室,13:回転シリンダ、14:ピストン保持部材,
(図3)10:圧縮機構部,11:固定スクロール,12:旋回スクロール,111:基盤,111a:燃料電池のカソード(酸素極)に向かう吐出口,20:クランク機構部,21:駆動クランク機構,211:クランクピン,212:ニードル状ころ軸受,212a:外輪,212b:ころ,212c:保持器,22:従動クランク機構,30:駆動モータ部,32:リアハウジング,31:センターハウジング,33:モータ,33a:ロータ,33b:ステータ,40 モータ主軸,
(図4)10:ボールねじ軸,12:ボールねじ溝,20:ボールナット,22:内周面,24:ボールねじ溝,26:凹部,28:シール部材,29:チューブ取付け孔,30:ボール,40:循環チューブ,42:端部,46:止め金
(図5)1:ボールねじ,2:支持軸受,3:磁性流体シール,4:駆動モータ,5:カップリング,
(図6,図7)2:回転軸,3:タービン,4:インペラ,5:給気流路,6:軸受ハウジング,7,8:第一、第二の玉軸受,9:外輪軌道,10:外輪,11:内輪軌道,12:内輪,13:玉,14:保持器,15:ポケット,17:押圧環,18:ケーシング,19:給油通,20:フィルタ,21:隙間空間,22:ノズル孔,23:排油口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配置された外方部材と、前記両軌道面の間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備え、基油としてイオン性流体を含むグリース組成物が封入された転動装置。
【請求項2】
前記イオン性流体が、脂肪族アミン系、脂環式アミン系、イミダゾリウム系、及びピリジン系からなる群より選択されるカチオンを含むイオン性液体である、請求項1記載の転動装置。
【請求項3】
前記グリース組成物が、更に、増ちょう剤を含む、請求項1又は2記載の転動装置。
【請求項4】
前記グリース組成物が、更に、酸化防止剤及び防錆剤としてカルボン酸及びカルボン酸塩、エステル系化合物及びアミン系化合物から選択される2種以上を含有する、請求項1〜3の何れかに記載の転動装置。
【請求項5】
前記転動装置が、空気圧縮機用転がり軸受である、請求項1〜4の何れかに記載の転動装置。
【請求項6】
前記転動装置が、ニードル状ころ軸受である、請求項1〜4の何れかに記載の転動装置。
【請求項7】
前記転動装置が、直動装置である、請求項1〜4の何れかに記載の転動装置。
【請求項8】
シリンダ室が回転シリンダとコンロッドを有し且つ上記シリンダ室内を面接触して往復直線運動するピストンと、上記ピストンを保持し且つ上記回転シリンダ部材の回転軸心から偏心した回転中心を中心として回転するピストン保持部材と、が収容されると共に流体の入口と流体の出口を備え、前記ピストンのコンロッドを回転支承する転がり軸受として、請求項5記載の転動装置としての転がり軸受を設けた空気圧縮機。
【請求項9】
請求項1〜4の何れかに記載の転動装置が取付けられたターボチャージャ。
【請求項10】
基油としてイオン性流体を含むグリース組成物を当たり部に塗布したターボチャージャ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−231987(P2007−231987A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51187(P2006−51187)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】