説明

酸化物半導体装置およびその製造方法

【課題】酸化亜鉛系酸化物半導体層とゲート絶縁膜層界面に存在する酸素欠損を原因とした通電によるしきい電位シフトやリーク電流の存在によりディスプレイデバイス向けの薄膜トランジスタとしての信頼性が得られなかった。
【解決手段】酸化亜鉛系酸化物半導体とゲート絶縁膜の界面に発生する酸素欠陥を物性値変化のほとんど起こらない酸素族元素である硫黄やセレンおよびこれらの化合物を用いた表面処理により終端する。製造プロセスに大きな変更を伴わず、酸化物半導体上もしくはゲート絶縁膜上を気相または液相処理を行うだけで、酸素欠損を硫黄やセレン原子が効果的に置換し、電子補足サイトの発生を防止する。その結果、薄膜トランジスタ特性におけるしきい電位シフトやリーク電流の抑制が実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物半導体装置とその製造技術に関し、特に、液晶テレビや有機ELテレビのスイッチング素子、ドライバ素子やRFIDタグの基本素子として利用される薄膜トランジスタの高信頼化技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年表示デバイスはブラウン管を用いた表示から液晶パネルやプラズマディスプレイといったフラットパネルディスプレイ(FPD)と呼ばれる平面型表示デバイスへと急速な進化を遂げた。液晶パネルでは、液晶による表示切り替えに関わる装置として、a-Siやポリシリコンの薄膜トランジスタをスイッチング素子として利用している。最近では、更なる大面積化やフレキシブル化を目的として有機ELを用いたFPDが期待されている。
【0003】
しかし、この有機ELディスプレイは有機半導体層を駆動して直接発光を得る自発光デバイスであるため、従来の液晶ディスプレイとは異なり、薄膜トランジスタには電流駆動デバイスとしての特性が要求されている。一方、今後のFPDには更なる大面積化やフレキシブル化といった新機能の付与も求められており、画像表示デバイスとして高性能であることはもちろん、大面積プロセスへの対応やフレキシブル基板への対応も要求されている。この様な背景から、近年表示デバイス向け薄膜トランジスタとして、バンドギャップが3eV前後と大きく、透明な酸化物半導体の適用が検討されており、表示デバイスの他にRFID等への適用も期待されている。
【0004】
例えば、酸化物半導体として酸化亜鉛を用い、酸化亜鉛の欠点であるしきい電位のシフトやリーク電流、結晶粒界の存在による特性劣化を抑制するため、酸化亜鉛酸化物半導体成膜時、および成膜後に酸素分圧を増加させたり、酸素中アニール、酸素プラズマ処理を行う方法が特開2007−073563号公報、特開2007−073558号広報、特表2006−502597(特許文献1〜3参照)等に開示されている。しかし、酸化亜鉛は化学量論制御が非常に難しい材料であり、これらの方法を用いた直後には良好な特性が得られても、経時的に特性劣化が進行することが多い。
【0005】
また、酸化亜鉛の欠点であるしきい電位のシフトが抑制できる材料として、a-IGZO(アモルファス−インジウムガリウム亜鉛酸化物)を用いる薄膜トランジスタが特開2006−186319号公報に(特許文献4参照)に記述されている。しかし、貴金属資源である近年価格の高騰が進むインジウムとガリウムを用いていることと、インジウムが間質性肺炎等の健康被害の原因元素であることが将来的な実用化に大きな障害となる可能性がある。
【0006】
【特許文献1】特開2007−073563号公報
【特許文献2】特開2007−073558号公報
【特許文献3】特表2006−502597号公報
【特許文献4】特開2006−186319号公報
【非特許文献1】ジャパニーズジャーナルオブアプライドフィジックス(1988年、27巻、12冊、L2367ページ−L2369ページ)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの有機ELディスプレイの表示制御には、液晶ディスプレイ同様薄膜トランジスタが応用されるが、従来の液晶がスイッチングのみの機能だったのに対し、有機ELではスイッチング動作に加えて電流を駆動するドライバとしての機能が要求される。電流駆動デバイスには大きな負荷がかかるため、しきい電位のシフトや耐久性の面で大きな信頼性が要求される。例えば、従来液晶ディスプレイのスイッチングに主に用いられていたa-Siでは、しきい電位のシフトが補正回路による制御が容易な2V前後を大きく超えるため、有機EL向けの薄膜トランジスタとしては適用困難と言われている。また、中小型ディスプレイへ応用されているポリシリコンは、特性的には有機EL駆動に十分であるが、プロセススループットの問題から将来的な大型FPDへの適用は困難である。
【0008】
そこで、スパッタ法やCVD法による大面積プロセスが可能、且つ1〜50cm/Vs程度の高移動度が得られ、しきい電位のシフトや環境安定性に有利な酸化物半導体の検討が進められている。特に、酸化亜鉛系酸化物半導体の検討が多いが、酸化亜鉛は成膜時に回転ドメインの存在による粒界や化学量論の制御が困難で酸素欠陥が存在することが知られている。酸素欠陥は電子を補足するサイトとして移動度の低下やしきい電位のシフト、リーク電流等を引き起こし、ワイドギャップ酸化物半導体本来の特性が活かせない問題があった。そこで、しきい電位シフトを小さく抑制できるa-IGZO等アモルファス系酸化物半導体材料も提案されているが、希少金属であり近年価格が高騰しているインジウムやガリウムを用いているため、資源的観点で課題が大きく、更にインジウムに関しては間質性肺炎の原因元素として健康被害の問題も存在することから、今後の適用化には問題が残る。
【0009】
本発明の目的は、次世代有機ELディスプレイや液晶ディスプレイのスイッチング、駆動用薄膜トランジスタとして有望、且つ資源的環境的にも有望な酸化亜鉛系酸化物半導体において、酸化物半導体とゲート絶縁膜との界面に存在する酸素欠陥により生ずるしきい電位のシフトやリーク電流の発生、水分やガス吸着により生ずるデバイス特性のふらつきを効果的に抑制する表面処理技術とそれを用いたデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0011】
本発明の酸化物半導体装置および酸化物半導体表面処理方法は、酸化物半導体とゲート絶縁膜間の界面を架橋結合性の硫黄、またはセレン等の酸素族元素やそれらを含有する化合物により表面処理を行い、従来酸素欠陥の生じていたサイトのパッシベーションを行う。同様な表面処理はガリウム砒素系化合物半導体表面の安定化のために酸化物を除去して表面パッシベーションを行うものとして応用されていたが(非特許文献1参照)、本発明では硫黄やセレンを酸化物半導体とゲート絶縁膜間に存在する酸素欠陥の置換元素として用いる。硫黄やセレンは酸素族元素のため、これらの導入による物性変化も少なく、良好な終端処理が実現され、酸素欠陥による電子補足のサイトを減少させることができる。特に、硫黄については、図1に掲げる通りZnOとZnSの結晶形態が同じウルツ鉱結晶であり、バンドギャップもそれぞれ3.24eV、3.68eVと近いことから、ZnO系酸化物半導体の特性にほとんど影響を与えず、課題である酸素欠陥を抑制することができる。酸化亜鉛系酸化物半導体の場合、酸素欠陥密度1018〜1021cm−3程度で導電体に近い特性を示すため、半導体としての特性、特にオフ電流抑制のために酸素欠陥を補償する元素の導入密度としては1016〜1020cm−3程度が必要である。
【発明の効果】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0013】
酸化物半導体とゲート絶縁膜界面に存在する酸素欠陥に起因するしきい電位のシフトやリーク電流の発生、環境による特性劣化等を抑制し、ディスプレイデバイスやRFIDタグ、フレキシブルデバイス、その他酸化物半導体を応用するデバイスの動作における信頼性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1によるディスプレイ用薄膜トランジスタの構造と製造方法を図2〜図5を用いて説明する。図2と図3はボトムゲート型薄膜トランジスタの断面図とその製造工程の一例を示すフロー図、図4と5トップゲート型薄膜トランジスタの断面図とその製造工程の一例を示すフロー図、図6と図8はそれぞれの効果を示すためのしきい電位シフトの経時変化を説明するグラフ図、図7と図9はそれぞれをデバイス適用するための回路の簡単な模式図である。
【0016】
まず、図2に示すようなボトムゲート型薄膜トランジスタの場合、例えばガラス基板等の支持基板1を用意する。次に、このガラス基板1上に蒸着法やスパッタ法等によりゲート電極2となる金属薄膜、例えばAl(250nm)とMo(50nm)積層膜等を形成する。その後、その上層にスパッタ法やCVD法により、例えば厚さ100nm程度の窒化膜や酸化膜から形成されるゲート絶縁膜3を堆積する。この後、蒸着法やスパッタ法によりゲート電極2が挟まれるような配置で酸化物半導体層とオーミック接触が可能な酸化インジウム錫やGaやAlをドープした酸化亜鉛膜等の透明導電膜(200nm)をソース・ドレイン電極4として形成する。通常はホトレジスト9等をマスクとして有機酸系ウエットエッチングやハロゲン系ガスを用いたドライエッチング技術により透明導電膜4の加工を行うが、この工程に続いて本発明の酸化物半導体表面処理方法5を用いて、ゲート絶縁膜3表面を硫黄、または、セレン等の酸素族元素およびそれら化合物により表面処理を行う。
【0017】
具体的な処理方法は、以下の通りである。
a)気相法の場合:例えば硫化水素ガスを真空槽中で約50Paの圧力で10分程度保持し、一旦真空排気する。この時、硫化水素ガスの代わりにその他の硫黄を含む材料ガスやセレンを含む材料ガスを用いても構わない。十分な効果を得るために材料ガスによっては80℃から200℃程度の熱処理が必要な場合もある。また、真空保持の代わりに、0.1〜10Pa程度の圧力でプラズマ処理(ラジカルシャワーやECRプラズマ、イオンビーム、硫黄を含有するターゲットを用いたスパッタリング等でも良い)を行うことでも原理的にほぼ同様の効果が期待できる。さらに、スループットは落ちるが、超高真空装置を用いて硫黄やセレンの分子ビームをゲート絶縁膜4表面に照射しても、良質な表面パッシベーションが達成される。
b)液相法の場合:例えば、硫化アンモニウム溶液によりゲート絶縁膜4の表面を浸漬による処理を行った後、流水洗浄、乾燥を行う。硫化アンモニウムの他にもその他の硫黄を含む溶液やセレンを含む溶液を用いることによりほぼ同様な表面パッシベーションを行うことが可能である。処理溶液によっては有効な処理を行うために50℃から90℃程度の高温条件が必要な場合もある。また、ウエット処理を嫌うプロセスの場合には溶媒をアルコールやアセトンに変更し、ミスト処理を用いることにより上記の硫黄及びセレンを含む溶液の霧を処理表面に噴霧、乾燥させることでも同様の効果が得られる。
【0018】
これらの表面処理によりゲート絶縁膜3の表面は硫黄やセレン等の酸素族元素に処理された状態6となる。ここではソース・ドレイン電極4の加工後の開口部のみを表面処理する方法を記述したが、ソース・ドレイン電極4となる透明導電膜を被着する前に同様の表面処理を行っても特に問題ない。さらにスパッタ法やCVD法、反応性蒸着法等により厚さ50nm程度の酸化亜鉛や酸化亜鉛錫、酸化インジウム亜鉛等の酸化亜鉛系酸化物半導体膜7を形成するが、ゲート絶縁膜3との界面に存在する硫黄やセレン等の酸素族元素により、酸化物半導体層界面近傍に形成される酸素欠陥を抑制することが可能となる。最後に、ホトレジスト10等をマスクとしてウエットエッチングやドライエッチングを用いてチャネルとなる酸化亜鉛系酸化物半導体層7の加工を行い酸化物半導体薄膜トランジスタが完成するが、さらに表面を窒化シリコン膜や窒化アルミニウム膜等のパッシベーション膜8により被覆することで、環境に存在する水分等の影響が抑制され、信頼性の高い薄膜トランジスタデバイスとなる。
【0019】
次に図4に示すようなトップゲート型薄膜トランジスタの場合、例えばガラス基板11を用意し、その上に蒸着法やスパッタ法等を用いて酸化物半導体とオーミック接触が可能な酸化インジウム錫やGaやAlをドープした酸化亜鉛等の透明導電膜(250nm)にてソース・ドレイン電極12を形成する。その後、ソース・ドレイン電極12の上層にスパッタ法やCVD法、反応性蒸着法等によりチャネルとなる厚さ100nm程度の酸化亜鉛や酸化亜鉛錫、酸化インジウム亜鉛等の酸化亜鉛系酸化物半導体膜13を形成し、更に本発明の表面処理方法を用いて酸化物半導体層表面の処理14を行う。処理の方法としては前記a)、b)と基本的に同じであるが、酸化物半導体材料は両性酸化物であるため処理方法によりエッチングが進行しないよう処理温度、溶液濃度、処理時間等の処理条件の設定には十分な注意が必要である。その後、CVD法やスパッタ法等により厚さ80nm程度の窒化膜や酸化膜のゲート絶縁膜15を形成し、さらにその上層に蒸着法やスパッタ法等によりAl等の金属薄膜(300nm)から成るゲート電極16を形成し、薄膜トランジスタが完成する。トップゲート型薄膜トランジスタの場合、酸化物半導体層13が露出する構造ではないため、環境に対する影響はボトムゲート構造に比較すると小さいが、さらに表面を窒化シリコン膜や窒化アルミニウム等のパッシベーション膜17により被覆することで、より信頼性の高い薄膜トランジスタデバイスとなる。
【0020】
図6には、ボトムゲート型薄膜トランジスタを本発明の方法を用いて形成した時の電流-電圧特性から測定したしきい電位の動作時間に対するシフト量を示す。デバイスの構造は、ゲート電極2に電子ビーム蒸着により形成したAlとMoの積層膜、ゲート絶縁膜3にはプラズマCVD法により形成した窒化シリコン膜、酸化物半導体チャネル層7としては有機金属CVD法により形成した酸化亜鉛酸化物半導体膜、ソース・ドレイン電極4にはDCスパッタ法置により形成した酸化インジウム錫透明導電膜を、さらにパッシベーション膜8としてプラズマCVD法により成膜した窒化シリコン膜を全体に被覆してある。表面処理方法5としては、硫化アンモニウムの5wt%溶液とセレン酸の2wt%溶液のそれぞれを用いて前記処理方法a)の手順により行い、表面処理条件は50℃で30秒間浸漬処理とした。これらの表面処理を行った薄膜トランジスタと表面処理なしの場合を200時間の連続動作試験から予測した500時間後のVthシフト量として比較した。表面処理なしのVthシフト量が15Vであったのに対し、硫化アンモニウムで表面処理を行ったものは0.2V、セレン酸溶液で表面処理を行ったものは0.5Vといずれも良好な結果を示した。また、電流オンオフ比としては10以上の十分な値が得られており、本発明による酸化亜鉛薄膜トランジスタが液晶ディスプレイのスイッチング用途や有機ELディスプレイの電流駆動デバイスとして有効に動作することが確認できた。図7には液晶ディスプレイ(a)と有機ELディスプレイ(b)に利用される場合の簡単な回路構成を記載した。
【0021】
図8には、トップゲート型薄膜トランジスタを本発明の方法を用いて形成した時の電流-電圧特性から測定したしきい電位の動作時間に対するシフト量を示す。デバイス構造は、ソース・ドレイン電極12にはDCスパッタ法により形成したAlドープ酸化亜鉛透明導電膜を、酸化物半導体チャネル層13には高周波スパッタ法により形成した酸化亜鉛錫酸化物半導体膜を、ゲート絶縁膜16には常圧CVD法により形成した酸化シリコン膜を、ゲート電極17にはDCスパッタリング法により成長したAl膜とし、全体を窒化アルミニウム膜によりパッシベーション膜18により保護してある。本デバイスについて、電流オンオフ比は109以上の良好な値が得られているが、本発明の表面処理を利用することで、さらに信頼性の向上が可能である。実際に用いた表面処理の方法としては、気相法を用い硫化水素ガスを常温の真空槽内にて3×10Pa程度の圧力で30分保持する方法で行った。また、さらに超高真空槽内で硫黄、セレンの分子ビーム処理についても行った。結果を100時間の連続動作試験から予測される500時間後のVthシフト量として記載すると、表面処理なしが3.2Vであったのに対し、硫化水素気相処理が0.1V、硫黄の分子ビーム処理が0.05V、セレンの分子ビーム処理が0.3Vといずれも良好な値を示した。電流オンオフ比としても10以上の良好な値が得られた他、酸化物半導体結晶の制御が比較的容易なトップゲート構造では移動度としても50−100cm/Vsと良好な性能が得られており、本発明による酸化亜鉛錫薄膜トランジスタの安定動作とも相まって液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ向けデバイスのみならず、13.56MHz動作可能なパッシブRFID等への用途が可能であることを示すことができた。
【0022】
図9にその簡単な構成を示すが、アンテナと電源回路、高周波回路、メモリ等から成り、高移動度の酸化亜鉛系酸化物半導体を用いてアンテナ以外の回路を形成し、さらにアンテナもGaやAlをドープした酸化亜鉛透明導電膜を利用すれば、ほぼ透明かつ13.56MHz動作可能なRFIDタグが実現可能である。
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2によるHEMT(High Electron Mobility Transistor)構造と製造方法について図10を用いて説明する。
【0023】
まず、サファイア基板や酸化亜鉛基板等の半導体基板21の上に、二次元電子ガス層22を形成するようなバンド構造の組み合わせを選択し、例えば、酸化亜鉛マグネシウム/酸化亜鉛/酸化亜鉛マグネシウムから構成される多層膜23をMBE法やMO(Metal Organic)CVD法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法等により結晶成長する。基板材料による影響や極性面の制御を行う場合には半導体基板表面上に200℃以下の低温条件にて成長した酸化亜鉛層や酸化亜鉛マグネシウム層等のバッファ層を上記の多層構造23と基板21の中間に設ける場合もある。この多層構造結晶23上にCVD法やスパッタ法、反応性蒸着法等によりゲート絶縁膜24を成膜し、更にゲート電極25を蒸着法やスパッタ法等により形成し、ホトレジスト等をマスク26としてドライエッチング法またはミリング法27によりゲート電極25からゲート絶縁膜24までを加工する。その後、ホトレジストマスク28を形成した後、ソース・ドレイン電極層29を蒸着法やスパッタ法等により成膜し、リフトオフ法30によりソース・ドレイン電極加工を行い(または、ホト工程を後に行い、エッチングによりソース・ドレイン電極加工を行ってもよい)、HEMT素子が完成するが、上記ゲート絶縁膜24を形成する直前に、本発明の酸化物半導体表面処理方法31を適用する。処理の方法は、(実施の形態1)のa)、b)に記載されている処理方法と基本的に同一であるが、MBE法やMOCVD法、PLD法による多層構造結晶22成長後に同一の超高真空槽内または異なる超高真空槽内で連続して本発明の気相処理法、特に分子ビーム法を用いて処理すると処理工程も少なくより効果的である。
【0024】
実際に酸化亜鉛単結晶基板上に酸化亜鉛マグネシウム障壁層(300nm)、酸化亜鉛チャネル層(20nm)、酸化亜鉛マグネシウムキャップ層(5nm)の順にMBE成長した多層構造結晶を用い、ゲート絶縁膜としてスパッタ法により形成したAl層(50nm)、ゲート電極として電子ビーム蒸着法により形成したAu(250nm)/Ti(10nm)多層膜、ソース・ドレイン電極として電子ビーム蒸着法により形成したAu(250nm)/Mo(10nm)を作製した際、多層構造結晶表面を本発明の硫化水素ガスを用いた気層処理法を用い、50℃、20×10Paにて10分間処理した後、ゲート絶縁膜の酸化アルミニウム層を形成した場合の未処理の場合のVthのヒステリシス特性を比較した結果が図11である。
【0025】
これによると未処理の場合のVthヒステリシスが約2〜3Vであるのに対し、本発明の表面処理を行ったものでは0〜0.5V以内に抑制されていることが確認できる。このVthヒステリシスはゲート絶縁膜または酸化物半導体中の何らかの可動イオンが酸化物半導体中の酸素欠陥を介して移動すること起因する現象と考えられ、当然ながら素子の特性ばらつき抑制や安定動作のためにはVthヒステリシス特性が小さいことが望ましく、従来は酸化ハフニウム等の界面の制御はしやすいが加工の困難な絶縁膜を利用することもあった。
【0026】
しかしながら、本発明の表面処理方法によりゲート絶縁膜/酸化物半導体間の酸素欠陥が抑制され、通常の半導体プロセスで用いる酸化アルミニウムや酸化シリコン膜で十分実用化できることが確認された。これにより酸化物半導体のワイドギャップや高励起子結合エネルギー特性を利用したパワーデバイス、センサデバイス等の実用化が期待できる。なお、ゲート長1μmの上記HEMT素子の特性としては、gm(相互コンダクタンス)として80mS/mm、移動度としては135cm/Vsが得られている。なお、本実施例では横型の電界効果型トランジスタについて記述したが、例えば、LEDやLD、バイポーラトランジスタの様な縦型構造のトランジスタで酸化物半導体と絶縁膜の界面が存在するデバイスでも本発明の表面処理により酸素欠陥が低減でき、リーク電流低減等の付随的効果が期待できる。
【0027】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の半導体装置の製造方法は、多結晶シリコン膜を有する半導体製品の品質管理に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明で用いる酸素族亜鉛化合物の物性値と酸化亜鉛物性値を比較する図。
【図2】本発明の実施の形態1によるボトムゲート型酸化物半導体薄膜トランジスタの構造を示す断面図。
【図3】(a)−(g)は、本発明の実施の形態1によるボトムゲート型酸化物半導体薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図。
【図4】本発明の実施の形態1によるトップゲート型酸化物半導体薄膜トランジスタの構造を示す断面図。
【図5】(a)−(g)は、本発明の実施の形態1によるトップゲート型酸化物半導体薄膜トランジスタの製造工程を示す断面図。
【図6】本発明の実施の形態1によるボトムゲート型酸化物半導体薄膜トランジスタの電流−電圧特性から測定した連続動作時間としきい電位シフトの関係を示すグラフ図。
【図7】本発明の実施の形態1を適用する液晶ディスプレイ(a)と有機ELディスプレイ(b)の簡単な回路の模式図。
【図8】本発明の実施の形態1によるトップゲート型酸化物半導体薄膜トランジスタの電流−電圧特性から測定した連続動作時間としきい電位シフトの関係を示すグラフ図。
【図9】本発明の実施の形態1を適用するRFIDタグの簡単な回路の模式図。
【図10】(a)−(f)は、本発明の実施の形態2による酸化物半導体HEMTの製造工程を示す断面図。
【図11】本発明の実施の形態2による酸化物半導体HEMTの電流−電圧特性から測定したしきい電位ヒステリシスとゲート長の関係を示すグラフ図。
【符号の説明】
【0030】
1…支持基板、
2…ゲート電極、
3…ゲート絶縁膜、
4…ソース・ドレイン電極層、
5…本発明の表面処理、
6…本発明の表面処理層、
7…酸化物半導体層、
8…パッシベーション層、
9…ソース・ドレイン電極レジストパターン、
10…ゲート電極レジストパターン、
11…支持基板、
12…ソース・ドレイン電極層、
13…酸化物半導体層、
14…本発明の表面処理、
15…本発明の表面処理層、
16…ゲート絶縁膜、
17…ゲート電極層、
18…パッシベーション層、
19…ゲート電極レジストパターン、
21…半導体基板、
22…二次元電子ガス層、
23…酸化物半導体活性層、
24…ゲート絶縁膜、
25…ゲート電極層、
26…ゲート電極レジストパターン、
27…ゲート加工処理、
28…リフトオフ用レジストパターン、
29…ソース・ドレイン電極層、
30…リフトオフプロセス、
31…本発明の表面処理、
32…本発明の表面処理層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられ亜鉛を含む酸化物半導体から構成されたチャネル層と、
前記チャネル層を挟むように該チャネル層の両端部に接して設けられたソース・ドレイン電極層と、
前記チャネル層の一表面に接して設けられたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に設けられ、前記チャネル層に前記ゲート絶縁膜を介して電界を与えるゲート電極と、を有し、
前記ゲート絶縁膜と前記チャネル層とが接触する界面に、硫黄、またはセレンの少なくとも一つを含む表面処理層を有することを特徴とする酸化物半導体装置。
【請求項2】
前記表面処理層に含有する硫黄、またはセレンの原子濃度が、1016cm−3以上で1020cm−3以下の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の酸化物半導体装置。
【請求項3】
前記チャネル層が、少なくとも亜鉛を含有する酸化物半導体、またはこれらの酸化亜鉛系酸化物半導体の数種類を組み合わせた積層膜であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物半導体装置。
【請求項4】
前記ゲート電極が前記基板表面上に設けられ、前記ソース・ドレイン電極層が前記基板に対して前記ゲート電極より遠い側に設けられたボトムゲート型構造であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物半導体装置。
【請求項5】
前記ソース・ドレイン電極層が前記基板表面上に設けられ、前記ゲート電極が前記基板に対して前記ソース・ドレイン電極層より遠い側に設けられたトップゲート型構造であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物半導体装置。
【請求項6】
基板上に所望の形状を有するゲート電極を形成する工程と、
前記ゲート電極および前記基板の表面を覆うようにゲート絶縁膜を堆積する工程と、
前記ゲート絶縁膜上に導電体からなるソース・ドレイン電極層を堆積する工程と、
前記堆積したソース・ドレイン電極層をパターニングし前記ゲート電極上に開口部を形成する工程と、
前記開口部を通して前記ゲート絶縁膜の表面に、硫黄またはセレンの少なくとも一つを導入し表面処理層を形成する工程と、
前記表面処理層の表面を少なくとも覆うように亜鉛を含む酸化物半導体を堆積しチャネル層を形成する工程とを有することを特徴とする酸化物半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記ゲート絶縁膜表面上へ硫黄またはセレンの少なくとも一つを導入する手段が、それらの化合物による分子ビーム照射、プラズマ照射、イオンビーム照射、ラジカル照射、気相処理、ミスト処理、液相処理のいずれかであり、
前記亜鉛を含む酸化物半導体からなるチャネル層を形成する手段が、スパッタ法、化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法、分子ビーム成長(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、反応性蒸着法のいずれかであることを特徴とする請求項6に記載の酸化物半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記表面処理層の形成に用いる硫黄、またはセレンの化合物が、硫化水素、硫化アンモニウム、エタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、エチルメチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、プロピレンスルフィド、硫化セレン、セレン酸、亜セレン酸のいずれか一つであることを特徴とする請求項6に記載の酸化物半導体装置の製造方法。
【請求項9】
基板上に所望の形状を有するソース・ドレイン電極層を形成する工程と、
前記ソース・ドレイン電極層および前記基板の表面を覆うように亜鉛を含む酸化物半導体を堆積する工程と、
前記酸化物半導体の表面に、硫黄またはセレンの少なくとも一つを導入し表面処理層を形成する工程と、
前記表面処理層を有する酸化物半導体上に、ゲート絶縁膜を堆積する工程と、
前記ゲート絶縁膜上にさらにゲート電極膜を堆積し該ゲート電極膜をパターニングしてゲート電極を形成する工程とを有することを特徴とする酸化物半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記ゲート絶縁膜表面上へ硫黄またはセレンの少なくとも一つを導入する手段が、それらの化合物による分子ビーム照射、プラズマ照射、イオンビーム照射、ラジカル照射、気相処理、ミスト処理、液相処理のいずれかであり、
前記亜鉛を含む酸化物半導体からなるチャネル層を形成する手段が、スパッタ法、化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法、分子ビーム成長(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、反応性蒸着法のいずれかであることを特徴とする請求項9に記載の酸化物半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記表面処理層の形成に用いる硫黄、またはセレンの化合物が、硫化水素、硫化アンモニウム、エタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、エチルメチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、プロピレンスルフィド、硫化セレン、セレン酸、亜セレン酸のいずれか一つであることを特徴とする請求項9に記載の酸化物半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−158663(P2009−158663A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−333865(P2007−333865)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】